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  • 特許-人工筋アクチュエータ及びその作動方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】人工筋アクチュエータ及びその作動方法
(51)【国際特許分類】
   F15B 15/19 20060101AFI20240926BHJP
   F15B 15/10 20060101ALI20240926BHJP
   B25J 19/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F15B15/19
F15B15/10 H
B25J19/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021042622
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142448
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥井 学
(72)【発明者】
【氏名】圓城 竜斗
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-071740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0208731(US,A1)
【文献】特開2019-202247(JP,A)
【文献】特開昭60-249711(JP,A)
【文献】特開昭59-126103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 19/00
F03G 7/00
F15B 15/19
F15B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に面する、弾性筒部と、
前記燃焼室内で燃料と空気の混合気に点火する、点火装置と、
前記燃焼室内の燃焼ガスの膨張によって前記弾性筒部が軸方向に収縮変形するように前記弾性筒部を拘束する、拘束部材と、
を有し、
前記拘束部材が、複数の長尺体を編み込んで形成される、編み込み筒部を有し、前記弾性筒部よりも径方向外側に設けられる、人工筋アクチュエータ。
【請求項2】
前記燃料の飽和蒸気圧が1MPa以下である、請求項に記載の人工筋アクチュエータ。
【請求項3】
前記燃料がジメチルエーテルを含む、請求項1又は2に記載の人工筋アクチュエータ。
【請求項4】
弾性筒部に面する燃焼室内で燃料と空気の混合気に点火する、点火ステップと、
前記燃焼室内の燃焼ガスの膨張によって前記弾性筒部が軸方向に収縮変形するように拘束部材によって前記弾性筒部を拘束する、拘束ステップと、
を有し、
前記拘束部材が、複数の長尺体を編み込んで形成される、編み込み筒部を有し、前記弾性筒部よりも径方向外側に設けられる、人工筋アクチュエータ作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工筋アクチュエータ及びその作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体装着式の歩行支援装置又はパワーアシスト装置を駆動するためなどの目的で、人工筋アクチュエータ(例えば特許文献1参照)が用いられている。人工筋アクチュエータは、圧力室に面する、弾性筒部と、圧力室内の流体によって弾性筒部が軸方向に変形するように弾性筒部を拘束する、拘束部材と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2008/140032号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の人工筋アクチュエータは、軽量、高出力、高柔軟性などの点で優れるが、応答性の点で改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、応答性に優れる人工筋アクチュエータ及びその作動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の人工筋アクチュエータは、燃焼室に面する、弾性筒部と、前記燃焼室内で燃料と空気の混合気に点火する、点火装置と、前記燃焼室内の燃焼ガスの膨張によって前記弾性筒部が軸方向に変形するように前記弾性筒部を拘束する、拘束部材と、を有する、人工筋アクチュエータである。
【0007】
本発明の人工筋アクチュエータは、上記構成において、前記拘束部材が、前記燃焼室内の燃焼ガスの膨張によって前記弾性筒部が前記軸方向に収縮変形するように前記弾性筒部を拘束する、人工筋アクチュエータであることが好ましい。
【0008】
本発明の人工筋アクチュエータは、上記構成において、前記拘束部材が、複数の長尺体を編み込んで形成される、編み込み筒部を有する、人工筋アクチュエータであることが好ましい。
【0009】
本発明の人工筋アクチュエータは、上記構成において、前記拘束部材が、前記軸方向にそれぞれ延びるとともに周方向に並ぶ複数の長尺体で形成される、長尺体群を有する、人工筋アクチュエータであることが好ましい。
【0010】
本発明の人工筋アクチュエータは、上記構成において、前記拘束部材が前記弾性筒部よりも径方向外側に設けられる、人工筋アクチュエータであることが好ましい。
【0011】
本発明の人工筋アクチュエータは、上記構成において、前記拘束部材が前記弾性筒部に埋設される、人工筋アクチュエータであることが好ましい。
【0012】
本発明の人工筋アクチュエータは、上記構成において、前記燃料の飽和蒸気圧が1MPa以下である、人工筋アクチュエータであることが好ましい。
【0013】
本発明の人工筋アクチュエータは、上記構成において、前記燃料がジメチルエーテルを含む、人工筋アクチュエータであることが好ましい。
【0014】
本発明の人工筋アクチュエータ作動方法は、弾性筒部に面する燃焼室内で燃料と空気の混合気に点火する、点火ステップと、前記燃焼室内の燃焼ガスの膨張によって前記弾性筒部が軸方向に変形するように拘束部材によって前記弾性筒部を拘束する、拘束ステップと、を有する、人工筋アクチュエータ作動方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、応答性に優れる人工筋アクチュエータ及びその作動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る人工筋アクチュエータを示す概念図である。
図2】実施例における変位応答実験の結果を示すグラフである。
図3】実施例における収縮力応答実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を例示説明する。
【0018】
図1に示す本発明の一実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、燃焼室2に面する、弾性筒部3と、燃焼室2内で燃料と空気の混合気に点火する、点火装置4と、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に変形するように弾性筒部3を拘束する、拘束部材5と、を有する。
【0019】
より具体的に、拘束部材5は、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に収縮変形するように弾性筒部3を拘束する。なお、図1において、二点鎖線は、作動前の状態の人工筋アクチュエータ1を示し、実線は、作動後の状態の人工筋アクチュエータ1を示す。
【0020】
なお、本実施形態では、弾性筒部3の中心軸線Oに沿う方向を軸方向といい、中心軸線Oに直交する直線に沿う方向を径方向といい、中心軸線Oを周回する方向を周方向という。
【0021】
弾性筒部3は、中心軸線Oを中心とする円筒状をなしてもよいし、円筒状以外の筒状(例えば楕円筒状、角筒状など)をなしてもよい。弾性筒部3の内周面は、燃焼室2に面する。弾性筒部3はゴム又はエラストマー製である。
【0022】
本実施形態では、人工筋アクチュエータ1は、弾性筒部3の軸方向の両端部3aにそれぞれ固着される、2つの蓋部材6を有する。弾性筒部3の一方の端部3aは、一方の蓋部材6に固着され、弾性筒部3の他方の端部3aは、他方の蓋部材6に固着される。したがって、両端部3aは、それぞれ、対応する蓋部材6によって径方向の変形が拘束される。各々の蓋部材6は、燃焼室2に面する。
【0023】
本実施形態では、一方の蓋部材6に点火装置4が設けられている。点火装置4は、例えばスパークプラグで構成することができる。点火装置4は、燃焼室2内に設けられる。
【0024】
本実施形態では、拘束部材5は、複数の長尺体を編み込んで形成される、編み込み筒部を有する。また、本実施形態では、拘束部材5が弾性筒部3よりも径方向外側に設けられる。したがって、人工筋アクチュエータ1は、マッキベン(Mckibben)型である。このような構成によれば、拘束部材5の拘束により、弾性筒部3の軸方向中間部が径方向外側に膨張変形(図1中の白抜き矢印参照)するのに伴って弾性筒部3を軸方向に収縮変形(図1中の太線矢印参照)させることができる。
【0025】
しかし、人工筋アクチュエータ1は、マッキベン型に限らず、例えば、軸方向繊維強化型であってもよい。すなわち、人工筋アクチュエータ1は、拘束部材5が、軸方向にそれぞれ延びるとともに周方向に並ぶ複数の長尺体で形成される、長尺体群を有し、長尺体群が弾性筒部3に埋設される、軸方向繊維強化型人工筋アクチュエータ1であってもよい。このような構成によっても、拘束部材5の拘束により、弾性筒部3の軸方向中間部が径方向外側に膨張変形するのに伴って弾性筒部3を軸方向に収縮変形させることができる。すなわち、拘束部材5により、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に収縮変形するように弾性筒部3を拘束することができる。
【0026】
なお、燃焼室2内を混合気を含む状態にするための構成は特に限定されない。混合気を燃焼室2内に導入する構成としてもよいし、燃焼室2内に燃料と空気を別々に導入する構成としてもよい。燃焼室2内に燃料と空気を別々に導入する構成とする場合には、燃料は液体状態で導入してもよいし、気体状態で導入してもよい。
【0027】
燃料の飽和蒸気圧は、1MPa以下であることが好ましい。このような構成によれば、燃料を収容するための容器の大きさと重量を抑制し易くすることができる。
【0028】
また、燃料は、ジメチルエーテルを含むことが好ましい。このような構成によれば、優れた環境適合性を確保することができる。また、ジメチルエーテルの飽和蒸気圧は、0.62MPaであり、上記の1MPa以下の条件も満たすことができる。
【0029】
人工筋アクチュエータ1は、燃焼室2内と人工筋アクチュエータ1の外部の空間である外部空間とを連通させる、1つ以上の通気口を有してもよい。1つ以上の通気口を設ける位置は特に限定されず、例えば、弾性筒部3に設けてもよいし、蓋部材6に設けてもよい。また、1つ以上の通気口は、燃焼室2内と外部空間とを常時連通させる構成であってもよいし、燃焼室2内の圧力が所定値以上となった時に開いて燃焼室2内と外部空間とを連通させる構成であってもよい。このような構成によれば、燃焼ガスによって人口筋アクチュエータを作動させた後に、燃焼ガスをその圧力によって1つ以上の通気口を介して外部空間に受動的に排出させることができるので、燃焼室2内から燃焼ガスを能動的に排出するための構成や制御を不要にすることができる。
【0030】
本実施形態に係る人工筋アクチュエータ1によれば、燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3を軸方向に変形させることで、人工筋アクチュエータ1を作動させることができるので、優れた応答性を得ることができる。すなわち、作動開始のための入力(点火装置4による点火)から作動開始までにかかる時間の短縮を図ることができる。
【0031】
また、本発明の一実施形態に係る人工筋アクチュエータ作動方法は、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1が作動する方法である。
【0032】
本実施形態に係る人工筋アクチュエータ作動方法は、弾性筒部3に面する燃焼室2内で燃料と空気の混合気に点火する、点火ステップと、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に変形するように拘束部材5によって弾性筒部3を拘束する、拘束ステップと、を有する。
【0033】
より具体的に、拘束ステップは、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に収縮変形するように拘束部材5によって弾性筒部3を拘束する、拘束ステップである。
【0034】
本実施形態に係る人工筋アクチュエータ作動方法によれば、燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3を軸方向に変形させることで、人工筋アクチュエータ1を作動させることができるので、優れた応答性を得ることができる。
【0035】
本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0036】
したがって、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1及びその作動方法は、例えば以下に述べるような種々の変更が可能である。
【0037】
前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、燃焼室2に面する、弾性筒部3と、燃焼室2内で燃料と空気の混合気に点火する、点火装置4と、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に変形するように弾性筒部3を拘束する、拘束部材5と、を有する、人工筋アクチュエータ1である限り、種々変更可能である。
【0038】
例えば、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、拘束部材5が、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に伸長変形するように弾性筒部3を拘束する、人工筋アクチュエータ1であってもよい。この場合、拘束部材5は、例えば、中心軸線Oを中心とする、環状体を有してもよいし、中心軸線Oを中心とする環状をそれぞれなすとともに軸方向に並ぶ複数の環状体で形成される、環状体群を有してもよい。燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が径方向に変形することを拘束部材5によって拘束することにより、弾性筒部3の軸方向の伸長変形を促進することができる。
【0039】
なお、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、上記構成において、拘束部材5が、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に収縮変形するように弾性筒部3を拘束する、人工筋アクチュエータ1であることが好ましい。
【0040】
また、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、上記構成において、拘束部材5が、複数の長尺体を編み込んで形成される、編み込み筒部を有する、人工筋アクチュエータ1であることが好ましい。
【0041】
また、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、上記構成において、拘束部材5が、軸方向にそれぞれ延びるとともに周方向に並ぶ複数の長尺体で形成される、長尺体群を有する、人工筋アクチュエータ1であることが好ましい。
【0042】
また、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、上記構成において、拘束部材5が弾性筒部3よりも径方向外側に設けられる、人工筋アクチュエータ1であることが好ましい。
【0043】
また、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、上記構成において、拘束部材5が弾性筒部3に埋設される、人工筋アクチュエータ1であることが好ましい。
【0044】
また、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、上記構成において、燃料の飽和蒸気圧が1MPa以下である、人工筋アクチュエータ1であることが好ましい。
【0045】
また、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1は、上記構成において、燃料がジメチルエーテルを含む、人工筋アクチュエータ1であることが好ましい。
【0046】
前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ作動方法は、弾性筒部3に面する燃焼室2内で燃料と空気の混合気に点火する、点火ステップと、燃焼室2内の燃焼ガスの膨張によって弾性筒部3が軸方向に変形するように拘束部材5によって弾性筒部3を拘束する、拘束ステップと、を有する、人工筋アクチュエータ作動方法である限り、種々変更可能である。
【0047】
例えば、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ作動方法は、前述した実施形態に係る人工筋アクチュエータ1以外の人工筋アクチュエータ1が作動する方法であってもよい。
【実施例
【0048】
図1に示す人工筋アクチュエータを製作し、変位応答実験と収縮力応答実験を実施した。いずれの実験においても、燃料としてジメチルエーテルを用い、所定の空燃比の混合気を燃焼室に導入してから点火装置によって点火した。
【0049】
変位応答実験では、一方の蓋部材のみを固定して点火し、点火時点から他方の蓋部材の軸方向の変位(つまり弾性筒壁の軸方向の収縮)が始まるまでにかかる時間である、変位応答時間を測定した。その結果を図2に示す。図2に示す「変位」の曲線は、他方の蓋部材の変位の測定値を示す。図2に示す「圧力」の曲線は、燃焼室内の圧力の測定値を示す。図2に示されるように、変位応答時間は0.029秒であった。なお、図2に示す0秒の時点が点火時点である。
【0050】
収縮力応答実験では、両方の蓋部材を固定して点火し、点火時点から弾性筒壁の軸方向の収縮力が生じるまでにかかる時間である、収縮力応答時間を測定した。その結果を図3に示す。図3に示す「収縮力」の曲線は、収縮力の測定値を示す。図3に示す「圧力」の曲線は、燃焼室内の圧力の測定値を示す。図3に示されるように、収縮力応答時間は0.015秒であった。なお、図3に示す0秒の時点が点火時点である。
【0051】
比較のため、バルブを開いて圧縮空気を圧力室内に導入して作動させる従来の人工筋アクチュエータを用いて収縮力応答実験を実施したところ、バルブ開放時点から弾性筒壁の軸方向の収縮力が生じるまでにかかった時間は、0.354秒であった。
【符号の説明】
【0052】
1 人工筋アクチュエータ
2 燃焼室
3 弾性筒部
3a 端部
4 点火装置
5 拘束部材
6 蓋部材
O 中心軸線
図1
図2
図3