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特許7560883高温耐性、高収量性および単為結果性を示す果実類植物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】高温耐性、高収量性および単為結果性を示す果実類植物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/29 20060101AFI20240926BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20240926BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20240926BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20240926BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20240926BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
C12Q1/6895 Z
A01H5/00 A
A01H1/00 A
A01H6/82
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021543076
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032724
(87)【国際公開番号】W WO2021040011
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2019158950
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有泉 亨
(72)【発明者】
【氏名】江面 浩
(72)【発明者】
【氏名】原田 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 良仁
(72)【発明者】
【氏名】矢野 亮一
(72)【発明者】
【氏名】陸 宇
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047778(WO,A1)
【文献】特開2019-013177(JP,A)
【文献】園芸学研究,2018年,Vol.17, No. suppl.2,p.264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H1/00-17/00
C12N15/00-15/90
C12Q1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログによってコードされるタンパク質の発現が低下するかもしくは欠損するような前記遺伝子もしくはそのオーソログの変異を有することを特徴とする、単為結果性を有する果実類植物またはその部分であって、
前記遺伝子もしくはそのオーソログが、配列番号2のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、且つ、
前記果実類植物が、ナス科植物である、
前記果実類植物またはその部分
【請求項2】
前記遺伝子もしくはそのオーソログの変異が、前記タンパク質のアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換、付加もしくは挿入を含むアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の果実類植物またはその部分。
【請求項3】
前記少なくとも1つのアミノ酸の置換が、配列番号2のアミノ酸配列において37番目のアルギニン又は配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において該37番目に相当する位置のアルギニンの他のアミノ酸への置換を含む、請求項2に記載の果実類植物またはその植物部分。
【請求項4】
前記配列番号2のアミノ酸配列において49番目のアラニン又は配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において該49番目に相当する位置のアラニンの他のアミノ酸への置換をさらに含む、請求項3に記載の果実類植物またはその部分。
【請求項5】
95%以上、96%以上、97%以上、98%以上もしくは99%以上の単為結果率を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の果実類植物またはその部分。
【請求項6】
30℃以上の環境温度に耐性である、請求項1~5のいずれか1項に記載の果実類植物またはその部分。
【請求項7】
前記変異についてホモ接合型である、請求項1~6のいずれか1項に記載の果実類植物またはその部分。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の果実類植物の作出方法であって、
前記植物の野生型の細胞、カルスもしくは組織においてSolyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの発現を低下するかもしくは欠損するような前記遺伝子もしくはそのオーソログの変異を導入する第1工程、
前記第1工程の植物の細胞、カルスもしくは組織を培養し植物体集団を作製する第2工程、ならびに
前記第2工程の植物体集団から単為結果性を有する植物を選抜する第3工程
を含み、
前記遺伝子もしくはそのオーソログが、配列番号2のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、且つ、
前記果実類植物が、ナス科植物である、
前記方法。
【請求項9】
前記変異が、前記遺伝子またはそのオーソログの破壊もしくは欠損である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記変異を、前記Solyc10g038170遺伝子の配列番号1のヌクレオチド配列または該遺伝子のオーソログのヌクレオチド配列において、前記配列番号1のヌクレオチド配列の109番目、146番目もしくはその両方の位置、または該位置に相当する前記オーソログのヌクレオチド配列内の位置、の一塩基置換による変異を含むポリヌクレオチドを導入することによって行う、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリヌクレオチドが配列番号3のヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第3工程で選抜された植物が、前記変異についてホモ接合型である、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
配列番号3のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項14】
果実類植物から単為結果性植物を選抜する方法であって、
果実類植物の細胞もしくは組織においてSolyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの発現の低下もしくは欠損、あるいは、該遺伝子またはそのオーソログの破壊もしくは欠損を検出すること
を含み、
前記遺伝子もしくはそのオーソログが、配列番号2のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、且つ、
前記果実類植物が、ナス科植物である、
前記方法。
【請求項15】
前記検出を、PCRもしくはハイブリダイゼーションによって行う、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温耐性、高収量性および単為結果性を示す果実類植物に関する。
【0002】
本発明はまた、上記単為結果性果実類植物の作出方法に関する。
【0003】
本発明はさらに、果実類植物から単為結果性植物を選抜する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
トマトは自家受粉植物であるが、施設栽培では、受粉を補助する風や虫が排除されてしまうため、受粉率が低下し着果率が下がることが知られている。そのため花房の植物ホルモン処理により単為結果及び果実肥大を促進する方法が広く使用されている。またマルハナバチやバイブレーターを使用した受粉促進法もよく用いられている。しかし植物ホルモン処理やバイブレーターによる受粉促進処理は膨大な労力が必要であり、作業性が著しく低下する。マルハナバチを用いる方法について、作業性はよいが、マルハナバチの活動温度域が限定されるため、夏季及び冬季は施設内の温度管理のコストや労力が増大するという問題がある。また受粉・受精に基づく着果では、夏季や冬季の花粉稔性の低下により年間を通した安定な生産量の確保が難しいという問題もある。そこで、季節等の環境要因の影響を少なくしてより少ない労力及びコストで安定的な栽培を可能とするために、トマト植物においてより高い作業効率で単為結果を誘導する技術の開発が求められている。
【0005】
トマトの単為結果性を誘導する変異として、Pat(例えばpat2など)変異、Sldel1a変異などが知られている(特許文献1~3)。これらの技術では、単為結果遺伝子と連鎖したDNAマーカーを使用して他のトマト系統に単為結果変異を導入し、種無し果実を生産するトマトを得る技術である。
【0006】
また、トマトの単為結果性を誘導するさらに別の変異に関し、サイクリンF-box遺伝子の変異による単為結果性トマトなどの植物が知られている(特許文献4)。
【0007】
さらに、ナス科植物の単為結果制御遺伝子の機能を抑制することによる単為結果性植物の作出は、特許文献5および6に記載されている。
【0008】
さらに、トマトなどの果実類植物において、耐暑性を付与する遺伝子変異に関しては、特許文献7および8に記載されている。
【0009】
さらに単為結果性と変異に関し、エチレン受容体タンパク質ETR1の膜貫通領域に変異をもつSletr1-1やSletr1-2が日持ち性や単為結果性の付与に有効であることが記載されている(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO 1999/021411 A1
【文献】WO 2017/022859 A1
【文献】特表2010-532164号公報
【文献】再表2017/022859号公報
【文献】再表2014/021398号公報
【文献】再表2015/108185号公報
【文献】特開2015-089368号公報
【文献】再表2016/047778号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Okabe Y et al.,Plant & Cell Physiology,2011;52(11):1994-2005
【文献】Okabe Y et al.,Breeding Science,2012;62(2):202-208
【文献】Shinozaki Y et al.、The Plant Journal、2015;83(2);237-251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1~3に記載される変異は、単為結果の効率を上昇させることができるが、生殖器官、栄養器官などにも悪影響を及ぼすことや、果実の品質を低下させることなどが知られている。
【0013】
本発明の目的は、果樹や果菜類を含む果実類の植物において、少なくとも栄養器官に悪影響を及ぼすことなく、かつ高効率で単為結果性を誘導することができる遺伝子変異を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究した結果、トマトなどの果実性植物において高効率の単為結果性及び高温での高収量性を付与することができる特定遺伝子の変異を見出し、本発明を完成した。
【0015】
従って、本発明は、以下の特徴を包含する。
[1]Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログによってコードされるタンパク質の発現が低下するかもしくは欠損するような前記遺伝子もしくはそのオーソログの変異を有することを特徴とする、単為結果性を有する果実類植物またはその部分。
[2]前記遺伝子もしくはそのオーソログが、配列番号2のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、前記[1]に記載の果実類植物またはその部分。
[3]前記遺伝子もしくはそのオーソログの変異が、前記タンパク質のアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換、付加もしくは挿入を含むアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、前記[1]または[2]に記載の果実類植物またはその部分。
[4]前記少なくとも1つのアミノ酸の置換が、配列番号2のアミノ酸配列において37番目のアルギニンの他のアミノ酸への置換を含む、前記[3]に記載の果実類植物またはその植物部分。
[5]前記配列番号2のアミノ酸配列において49番目のアラニンの他のアミノ酸への置換をさらに含む、前記[4]に記載の果実類植物またはその部分。
[6]前記果実類植物が、ナス科植物、ウリ科植物、バラ科植物、およびブドウ科植物からなる群から選択される、前記[1]~[5]のいずれかに記載の果実類植物またはその部分。
[7]95%以上、96%以上、97%以上、98%以上もしくは99%以上の単為結果率を有する、前記[1]~[6]のいずれかに記載の果実類植物またはその部分。
[8]30℃以上の環境温度に耐性である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の果実類植物またはその部分。
[9]前記変異についてホモ接合型である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の果実類植物またはその部分。
[10]前記[1]~[9]のいずれか1項に記載の果実類植物の作出方法であって、前記植物の野生型の細胞、カルスもしくは組織においてSolyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの発現を低下するかもしくは欠損するような前記遺伝子もしくはそのオーソログの変異を導入する第1工程、前記第1工程の植物の細胞、カルスもしくは組織を培養し植物体集団を作製する第2工程、ならびに前記第2工程の植物体集団から単為結果性を有する植物を選抜する第3工程を含むことを特徴とする前記方法。
[11]前記変異が、前記遺伝子またはそのオーソログの破壊もしくは欠損である、前記[10]に記載の方法。
[12]前記変異を、前記Solyc10g038170遺伝子の配列番号1のヌクレオチド配列または該遺伝子のオーソログのヌクレオチド配列において、前記配列番号1のヌクレオチド配列の109番目、146番目もしくはその両方の位置、または該位置に相当する前記オーソログのヌクレオチド配列内の位置、の一塩基置換による変異を含むポリヌクレオチドを導入することによって行う、前記[10]に記載の方法。
[13]前記ポリヌクレオチドが配列番号3のヌクレオチド配列を含む、[12]に記載の方法。
[14]前記第3工程で選抜された植物が、前記変異についてホモ接合型である、前記[10]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]配列番号3のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
[16]果実類植物から単為結果性植物を選抜する方法であって、果実類植物の細胞もしくは組織においてSolyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの発現の低下もしくは欠損、あるいは、該遺伝子またはそのオーソログの破壊もしくは欠損を検出することを含むことを特徴とする、前記方法。
[17]前記検出を、PCRもしくはハイブリダイゼーションによって行う、前記[16]に記載の方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-158950号(2019年8月30日出願)の開示内容を包含する。
【0016】
本発明によるSolyc10g038170遺伝子もしくはそのオーソログの変異を用いることによって、果実類植物であるトマトで99%以上の高い単為結果率を付与することが可能であるし、また、高温で着果不良が発生する地域でも、単為結果誘導により高収量性を維持することができる。さらにまた、上記遺伝子もしくはそのオーソログに例えばゲノム編集、相同組換えなどの遺伝子改変技術を用いて同様の変異を誘導することによって、あらゆる果実類植物において高効率で単為結果性及び高温耐性の強化を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この図は、トマトMicro-Tom戻し交配系統の単為結果率を示す。上図は、高温ストレス条件下(夏季)で栽培した系統の単為結果率である。「P」は単為結果性(Parthenocarpy)系統を示す。野生株(WT)は4個体、単為結果性系統は5個体供試し、1個体あたり11~20花除雄した。下図は、生育適温条件下(24℃)で栽培した系統の単為結果率である。「NP」は非単為結果性(Non-parthenocarpy)系統、「P」は単為結果性(Parthenocarpy)系統を示す。野生株は3個体、BC3S2系統は4個体供試し、1個体あたり10~15花除雄した。Genotypeは、後述する、同定した遺伝子変異の遺伝子型を示す。「No.emasc.」は除雄した花の合計数を示す。
図2】この図は、トマトW2939 BC2S2単為結果性系統における果実収量を示す。BC2S2系統およびMicro-Tom野生株の播種を5月に行った。上図は、8月下旬から9月初旬の間に赤熟した果実の収量を示す(左:Micro-Tom野生株(WT)4個体、右:W2939 BC2S2単為結果性系統6個体)。バーは、5cmを表す。下図の縦棒グラフは、8月中旬から10月初旬にかけて収穫した、1個体あたりの赤熟果合計収量を示す(n=6)。エラーバーは標準誤差を表し、**は野生株との有意差を表す(Student’s t-test;1%水準)。
図3】この図は、トマト有種子果の割合および種子数を示す。AおよびBは、Micro-Tom野生株(A)およびW2939 BC2S2単為結果性系統(B)から得た赤熟果に含まれる種子数(各n=6)を示す。栽培は温室にて高温ストレス条件下(観測された日平均気温は約25~33℃)で行った。C、DおよびEは、Micro-Tom野生株(C)、BC3S2非単為結果性系統(D)、およびW2939 BC3S2単為結果性系統(E)から得た赤熟果に含まれる種子数(C,E:n=8;D:n=5)を示す。栽培は閉鎖系栽培室にて24℃一定で行った。円グラフ内の数字は、果実数を示す。
図4】この図は、果実重(重量)および糖度(Brix値)を示す。AおよびBは、Micro-Tom野生株(WT)、W2939 BC2S2単為結果性系統における果実重および糖度の測定結果(果実重:WT,n=48;単為結果性系統,n=218,Brix:WT,n=37;単為結果性系統,n=98)を示す。**は野生株との有意差ありを示す(Welch’s t-test,1%水準)。エラーバーは標準誤差を示す。CおよびDは、Micro-Tom野生株(WT)、W2939 BC3S2非単為結果性系統(NP)、および単為結果性系統(SP)における果実重および糖度の測定結果(果実重:WT,n=49;NP,n=38;SP,n=44、Brix:WT,n=48;NP,n=39;SP,n=37)を示す。果実重は系統間で有意差なし(Tukey-Kramer,5%水準)を示す。異なるアルファベットは系統間で有意差ありを示す(Tukey-Kramer,1%水準)。
図5】この図は、ラフマッピングで使用したSNPマーカーの一覧とプライマー配列を示す。マーカー名は、Tomato marker database(http://marker.kazusa.or.jp/tomato/)内の表記に従っている。Sは染色体短腕、Lは染色体長腕を示す。染色体はトマト染色体番号を表す。
図6】この図は、SNPマーカーを用いたW2939系統のマップベースクローニングを示す。MT:Micro-Tom野生株、RE:レジナ(Regina)野生株、M:Micro-Tom型ホモ、H:ヘテロ、R:レジナ型ホモ、S:染色体短腕、L:染色体長腕をそれぞれ表す。W2939系統とレジナを交配して作出したF2雑種系統のうち、単為結果性を示す12個体を用いた。
図7】この図は、W2939単為結果性系統の候補原因遺伝子Solyc10g038170の遺伝子構造を示す。2120_1008(S)はマップベースクローニングで用いた短腕のマーカー、および13536_438(L)は長腕のマーカーをそれぞれ示す。Solyc10g038170は、1つのエクソンのみからなる全長1131bpの遺伝子であり、クラス3リパーゼ(トリグリセリドリパーゼ)で保存されているドメインをもつ。W2939単為結果性系統では5’末端から109番目と146番目の塩基に一塩基置換(いずれもC→T)が入っており、その結果、2箇所のアミノ酸ミスセンス変異(R37CおよびA49V)を引き起こしている。
図8】この図は、W2939系統のSolyc10g038170遺伝子内変異を示す。Aは、配列番号1(野生型(WT))および配列番号3(W2939(変異体))の1~150番目のヌクレオチド配列(それぞれ配列番号5、6)中の、WTと対比させたW2939の変異箇所、Bは、配列番号2(野生型(WT))および配列番号4(W2939(変異体))のそれぞれ1~100番目のアミノ酸配列(配列番号7、8)中の変異箇所を示し、黒枠で囲んだ配列は変異が生じた箇所を示す。37番目のアルギニン(R)がシステイン(C)に、49番目のアラニン(A)がバリン(V)に変化するミスセンス変異である。
図9】この図は、Solyc10g038170(野生型)のアミノ酸配列(配列番号1の1~80番目;配列番号9)と、それと最も相同性が高いシロイヌナズナオーソログであるAt2G44810の対応するアミノ酸配列(配列番号10)との比較を示す。黒枠で囲んだ配列は、W2939系統(変異型)でミスセンス変異が生じていた箇所を示す。
図10】この図は、ゲノム編集のためのベクターのコンストラクトおよびCas9ベクターの作出モデルを示す。図中、Cas9;化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)に由来するCas9タンパク質をコードする配列、pUbi;パセリ(Petroselinum crispum)ユビキチンプロモーター、tPea3A;大豆3Aターミネーター、pU6;シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)U6プロモーター、sgRNA;単鎖ガイドRNA、pNOS;Nopaline Synthase遺伝子由来プロモーター、NPTII;カナマイシン耐性遺伝子、tNOS;Nopaline Synthase遺伝子由来ターミネーター、RB;アグロバクテリウムに由来するT-DNA境界配列(Right-border)、LB;アグロバクテリウムに由来するT-DNA境界配列(Left-border)を表す。
図11】この図は、CRISPR/Cas9システムによる変異導入モデルを示す。標的配列が1箇所の場合,非相同末端結合(NHEJ:Non-Homologous end joining)修復による挿入(Insertion)・置換(Substitution)・欠失(Deletion)変異が生じる。また、標的配列が2箇所の場合,より大規模な欠失、逆位(Inversion)、重複(Duplication)変異が生じうる。
図12】この図は、標的配列と原因変異周辺の塩基配列(すなわち、Solyc10g038170の配列番号1の翻訳開始点から300塩基対までの塩基配列;配列番号11(正鎖)および配列番号12(相補鎖))およびアミノ酸配列(配列番号13)を示す。後述の実施例で選択された2つの標的配列を一重線で、それぞれのPAM配列を二重線で、さらにW2939系統で一塩基置換が生じていた配列を黒枠でそれぞれ示す。
図13】この図は、野生株(WT)およびT0変異導入系統(#3-1,#9-1,#10-1,#25-1,#37-1,#42-1)のTarget1周辺配列における編集パターン、ならびに各系統の塩基配列を示す。太字の配列は5’側に設計した標的配列(Target1)を、「TGG」配列はPAM配列を、23番目の「T」配列はCRISPR/Cas9システムによる変異箇所を指している。Chimera(#9-3,#9-4)は、サンガーシーケンスの波形から、異なる変異パターンの形質転換細胞が混在すると考えられることを示す。
図14】この図は、T0変異導入系統のアミノ酸配列変化を示す。野生株(WT)、W2939系統、および変異がホモに導入された系統における、標的配列(Target1)周辺のアミノ酸配列を示す。Mutationは変異の種類を表し、Polypeptide lengthは,翻訳によって生じるポリペプチド鎖の全長を表す(ここで、a.a.:アミノ酸を表す)。黒枠で囲んだアミノ酸残基は変異が生じた箇所を示す。また、*はストップコドンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
1.単為結果性の原因遺伝子およびその変異
本発明において、果実類植物の特性である単為結果性の形質を発現する原因遺伝子は、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログである。
【0019】
上記遺伝子は、トマト植物(「作物」と称してもよい。)の10番染色体上に存在し、dad1遺伝子ファミリーの一つであると推測される。DAD1タンパク質は、ジャスモン酸生合成の初期ステップを触媒するクロロプラストホスホリパーゼA1である。Solyc10g038170遺伝子は、Sldad1遺伝子と称してもよく、クラス3リパーゼ(トリグリセリドリパーゼ)活性をコードするドメインを含む(図7)。
【0020】
Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログは、例えば配列番号1のヌクレオチド配列、あるいは該ヌクレオチド配列と例えば約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、または約99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでもよいポリヌクレオチドである。あるいは、上記オーソログは、配列番号1のヌクレオチド配列と50%未満の配列同一性を有していてもよい。
【0021】
さらに、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、例えば配列番号2のアミノ酸配列、あるいは該アミノ酸配列と例えば約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、または約99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでもよい。あるいは、上記オーソログは、配列番号2のアミノ酸配列と50%未満の配列同一性を有していてもよい。
【0022】
あるいは、Solyc10g038170遺伝子およびそのオーソログのヌクレオチド配列またはそれによってコードされるアミノ酸配列を整列比較(アライメント)した時、最も相同性の高い領域(もしくは範囲)について、例えば約50%以上、約60%以上、もしくは約70%以上の配列同一性を有していてもよい。そのような領域は、例えば、配列番号1のヌクレオチド配列の52番目~240番目までの領域、ならびに配列番号2のアミノ酸配列の18番目~80番目の領域である(図9)。
【0023】
本明細書中で使用する「オーソログ」は、果実類植物における、種分岐によって共通の祖先遺伝子から生じた相同な遺伝子群であって、トマト植物と異なる生物種において互いに相同な機能をもつ遺伝子群をいう。
【0024】
また、本明細書中で使用する「配列同一性(%)」は、公知のアルゴリズムBLASTやFASTAによるタンパク質又は遺伝子の検索システムを用いて、2つの配列間にギャップを導入して、又はギャップを導入しないで、好ましくはギャップを導入して、決定することができる(Zheng Zhang et al.,J. Comput. Biol.,2000;7:203-214;Altschul,S.F. et al.,Journal of Molecular Biology,1990;215:403-410;Pearson,W.R. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,1988;85:2444-2448)。
【0025】
本明細書中で使用する「単為結果」(parthenocarpy)とは、植物において、受粉及び受精が起こらない場合に、種子形成を伴わずに子房や花托等が肥大し、無種子の果実を生じることをいう。本発明における「単為結果性」は、植物ホルモン処理や特定の物理的刺激などの人為的な単為結果誘導処理を必要とせずに、植物が単為結果を生じる性質をいう。
【0026】
後述の実施例で検証されるように、本発明に関わる単為結果性は、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの変異が、該遺伝子もしくはそのオーソログによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換、付加もしくは挿入を含むアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含ものであり、そのような変異によって、該タンパク質の発現(もしくは機能)が低下(もしくは抑制)されているか、もしくは欠損することによって生じる。言い換えれば、上記変異は、上記遺伝子またはそのオーソログのヌクレオチド配列の部分的もしくは全体的なヌクレオチド欠失、置換、付加もしくは挿入を含み、それによって単為結果性が生じる程度の上記タンパク質の発現(もしくは機能)の低下もしくは欠損であり、好ましくは遺伝子機能の破壊である。
【0027】
これに関連して、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログによってコードされるタンパク質の発現(もしくは機能)の低下もしくは欠損は、該タンパク質のアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換、付加もしくは挿入によって引き起こすことができる。後述の実施例に記載されるように、一塩基多型(SNP)にみられるような少なくとも1つの一塩基置換による上記タンパク質のアミノ酸配列中の少なくとも1つのアミノ酸の置換によって、単為結果性が発現されうる。そのような一塩基置換の例は、以下のものに限定されないが、配列番号2のアミノ酸配列において、37番目のアルギニンの他のアミノ酸への置換、49番目のアラニンの他のアミノ酸への置換、およびそれらの両方の置換を含むことができる。
【0028】
上記の他のアミノ酸は、37番目のアルギニンの場合、アルギニン以外のアミノ酸、例えば親水性アミノ酸(アルギニンを除く)または疎水性アミノ酸、例えばシステインであり、49番目のアラニンの場合、アラニン以外のアミノ酸、例えば親水性アミノ酸または疎水性アミノ酸(アラニンを除く)、例えばバリンである。
【0029】
また核酸変異体の例として、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログにおいて単為結果性遺伝子変異を含むポリヌクレオチドの例は、配列番号3のヌクレオチド配列を含み、この配列は、配列番号1のヌクレオチド配列中に109番目にC109Tおよび146番目にC146T(ここで、Cはシトシンであり、Tはチミンである。)の一塩基多型を含む配列と同じである。
【0030】
しかし必ずしも上記の特定の変異に限らず、遺伝子機能が低下または破壊される変異であれば単為結果が達成されうる。
【0031】
あるいは、ゲノム編集、相同組換えなどの遺伝子改変技術を利用して、上記遺伝子またはそのオーソログを部分的もしくは全体的にノックアウトし破壊することによって上記遺伝子またはそのオーソログの発現を有意にもしくは顕著に減少(もしくは低下)または欠損させてもよいし、あるいは、遺伝子改変技術を利用して、上記遺伝子またはそのオーソログのヌクレオチド配列内に異種塩基配列を挿入もしくは付加することによって記遺伝子またはそのオーソログの発現を有意にもしくは顕著に減少(もしくは低下)させてもよい。
【0032】
上記変異の構造的形態は、上記例示のものに制限されないものとし、果実類植物において単為結果性を発現させることが可能なものであればいずれの構造的形態であってもよい。
【0033】
Solyc10g038170遺伝子のオーソログの例として、以下の表1に記載のものを挙げることができるが、これらに限定されないものとする。
【0034】
【表1】
【0035】
2.単為結果性植物
本発明の単為結果性を有する果実類植物は、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログによってコードされるタンパク質の発現が低下するかもしくは欠損するような前記遺伝子もしくはそのオーソログの変異を有することを特徴とする。
【0036】
単為結果性の原因遺伝子である上記Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログ、原因遺伝子変異、ならびに上記タンパク質については、上記1.に記載されたとおりであり、ここでもそのまま引用しうる。
【0037】
本明細書中で単為結果性を付与するための遺伝子改変もしくは形質転換に使用される植物は、果実類植物(例えば果菜類、果樹を含む植物)であり、例えば果実を食用とする栽培植物である。そのような植物としては、以下に限定されないが、例えば、ナス科[トマト(Solanum lycopersicum)、ナス(Solanum melongena)、ピーマン(Capsicum annuum var. grossum)、パプリカ(Capsicum annuum)、シシトウ(Capsicum annuum var. grossum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)等]、ウリ科[キュウリ(Cucumis sativus L.)、メロン(Cucumis melo L.)、スイカ(Citrullus lanatus)、カボチャ(Cucurbita)、ズッキーニ(Cucurbita pepo)、マクワウリ(Cucumis melo var. makuwa)等]、バラ科[イチゴ(Fragaria ananassa)、リンゴ(Malus pumila)等]、ブドウ科[ブドウ(Vitis spp.)等]、アヒ・アマリージョ(キイロトウガラシ;Capsicum baccatum)、トウゴマ(ヒマ;Ricinus communis)、ロブスタコーヒーノキ(Coffea canephora)などの植物が挙げられる。
【0038】
上記植物は、自然環境下では単為結果性ではないか又は単為結果性がかなり低い植物であり、好ましい植物は、トマト(トマト植物)である。
【0039】
トマトの例としては、ソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum)、ソラナム・セラシフォルメ(Solanum cerasiforme; Lycopersicon cerasiformeとも称される)、ソラナム・ピムピネリフォリウム(Solanum pimpinellifolium; Lycopersicon pimpinellifoliumとも称される)、ソラナム・チーズマニイ(Solanum cheesmanii; Lycopersicon cheesmaniiとも称される)、ソラナム・パルビフロルム(Solanum parviflorum; Lycopersicon parviflorumとも称される)、ソラナム・クミエレウスキィ(Solanum chmielewskii; Lycopersicon chmielewskiiとも称される)、ソラナム・ヒルストゥム(Solanum hirsutum; Lycopersicon hirsutumとも称される)、ソラナム・ペンネリィ(Solanum Lycopersicon pennelliiとも称される)、ソラナム・ペルビアヌム(Solanum pennellii; Lycopersicon peruvianumとも称される)、ソラナム・チレンセ(Solanum chilense; Lycopersicon chilenseとも称される)、ソラナム・リコペルシコイデス(Solanum lycopersicoides)及びソラナム・ハブロカイネス(Solanum habrochaites)等に属するトマト系統・品種又はそれらの派生株が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
トマトの一例である野生型トマト品種マイクロトム(Solanum lycopersicum cv. Micro-Tom)(Scott JW、 Harbaugh BK(1989)Micro-Tom A miniature dwarf tomato.Florida Agr.Expt.Sta.Circ.370,p.1-6)は、市販されており、またTomato Genetics Resource Center(TGRC)(米国)からアクセッション番号LA3911の下で入手することもできる。野生型トマト品種マイクロトムは、矮性(約10~20cm)であり、葉や果実が小さく、従来トマト品種との交雑も可能である。野生型トマト品種マイクロトムについては全ゲノム配列が決定されている(Kobayashi M、 et al.,Plant Cell Physiol.2014;55(2):445-454)。
【0041】
なお本明細書中で使用される「派生株」とは、元の植物と他の植物系統・品種との1回以上の交配を経て又は変異誘発若しくは変異導入を経て得られた子孫植物を指す。
【0042】
本発明の果実類植物は、上記例示のような野生型植物に対し目的の遺伝子改変操作を行うことによって、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログによってコードされるタンパク質の発現(もしくは機能)の低下もしくは欠損、好ましくは遺伝子機能の破壊をもたらすことによって得ることができる植物である。
【0043】
遺伝子変異は、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログのヌクレオチド配列の部分的もしくは全体的なヌクレオチドの欠失、置換、付加もしくは挿入を含み、それによって単為結果性が生じる程度の上記タンパク質の発現(もしくは機能)の低下もしくは欠損であり、好ましくは遺伝子機能の破壊である。改変例として、上記遺伝子またはそのオーソログを部分的もしくは全体的にノックアウトし破壊するか、あるいは、上記遺伝子をコードするタンパク質の例えば配列番号2のアミノ酸配列において37番目のアルギニンがシステイン(R37C)に、および場合により49番目のアラニンがバリン(A49V)に、それぞれ置換されるような変異を導入することが挙げられる。これらの変異は、単為結果を誘導する。しかし必ずしも上記の特定の変異に限らず、遺伝子機能が低下または破壊される変異であれば単為結果が達成されうる。
【0044】
本発明の果実類植物は、野生型(上記遺伝子変異を含まない。)と比較して、高温(例えば30℃以上の環境温度)下でも高単為結果率、高着果率および高収量性を付与することができるという特性を有する。
【0045】
この関連で、本発明の植物における単為結果率は、非限定的に、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上もしくは99%以上である。後述の実施例では、野生株で57.1%の単為結果率であったのに対し、本発明の植物、例えばトマト植物では99.4%と高い単為結果率を示した。さらに、収量について、稔った赤熟果実の重量を合計として両者を比較したところ、野生株では26.3±2.7gであったのに対し、本発明の植物、例えばトマト植物では63.1±2.5gであり約2.4倍高い収量であった。
【0046】
本発明の果実類植物は、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの上記変異についてホモ接合型(単に「ホモ」とも称する。)であることが好ましい。ホモであるので、2つの対立遺伝子が同一の上記変異を有している。これに対し、ヘテロ接合型(単に「ヘテロ」とも称する。)では、2つの対立遺伝子の一方が正常であり、他方が変異を有することになる。
【0047】
本発明の植物は、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの上記変異のために、子房の早期肥大、花柱の突出、葯筒先端の変色、子房肥大後の花弁や花柱の残存などの表現型を有することがある(後述の実施例参照)。
【0048】
本発明はさらに、上記果実類植物の植物体の他に、該植物の部分を提供する。
【0049】
上記植物部分は、非限定的に、例えば茎、葉、根、花、蕾、果実、種子、組織、細胞、及びカルス等を含む。ここで、カルスは、植物体の一部を植物ホルモン(例えばオーキシン、サイトカイニン等)を含む培地上で培養したとき生じる人工的な細胞塊である。上記のような植物部分は、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログによってコードされるタンパク質の発現が低下するかもしくは欠損するような該遺伝子もしくはそのオーソログの変異を有している。
【0050】
3.単為結果性果実類植物の作出方法
本発明はさらに、上記2.に記載の果実類植物の作出方法であって、
該植物の野生型の細胞、カルスもしくは組織(植物部分を含む。)においてSolyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの発現を低下するかもしくは欠損するような上記遺伝子もしくはそのオーソログの変異を導入する第1工程、
上記第1工程の植物(形質転換体)の細胞、カルスもしくは組織を培養し植物体集団を作製する第2工程、ならびに
上記第2工程の植物体集団から単為結果性を有する植物を選抜する第3工程、
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0051】
以下に、上記第1工程から第3工程について説明する。
<3.1>第1工程
この工程では、野生型植物の細胞、カルスもしくは組織(植物部分を含む。)において上記Solyc10g038170遺伝子もしくはそのオーソログの変異を導入する。
【0052】
この遺伝子変異は、上記遺伝子またはそのオーソログの発現の低下または欠損であり、そのために、例えばゲノム編集技術や相同組換え技術などの遺伝子改変技術を用いて上記遺伝子をノックアウトすることによって、上記遺伝子の破壊もしくは欠損を行うことができる。
【0053】
上記変異の例は、上記Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの破壊もしくは欠損である。
【0054】
上記変異の別の例は、上記Solyc10g038170遺伝子の配列番号1のヌクレオチド配列またはそのオーソログのヌクレオチド配列において、前記配列番号1のヌクレオチド配列の少なくとも1つのヌクレオチド、例えば109番目、146番目もしくはその両方の位置、または該位置に相当する前記オーソログのヌクレオチド配列内の位置、の一塩基置換による変異を含むポリヌクレオチドを導入することである。該ポリヌクレオチドの例は、配列番号3のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。
【0055】
ゲノム編集は、例えばTALEN(TALEヌクレアーゼ)などの人工切断酵素、CRISPR-Casシステムなどを使用してゲノムDNAの編集や遺伝子改変を行う技術である。本発明の方法では、ゲノム編集の任意の技術を使用することができるが、好ましくはCRISPR-Casシステムの使用である。
【0056】
特にCRISPR/Cas9システムは、細菌および古細菌のウイルスやプラスミドに対する適応免疫機構から発見されたが、ベクターの構築が比較的簡便であり、複数の遺伝子を同時に改変することが可能である(Jinek et al.,Science,17,337(6096):816-821,2012;Sander et al.,Nature biotechnology,32(4):347-355,2014)。このシステムは、Cas9タンパク質と約20塩基対標的配列をもつ単鎖ガイドRNA(single guide RNA;sgRNA)を含む。植物体内でこれらを共発現させることにより、sgRNAが標的配列近傍のPAM配列を認識して標的ゲノムDNAと特異的に結合し、Cas9タンパク質がPAM配列の5’側上流でDSB(二本鎖切断)を誘導する。現在最も使用されているCas9タンパク質はSpCas9型であり、PAM配列がNGGであることから変異導入位置の制約が少ない。CRISPR/Cas9システムは既に植物の突然変異誘発技術として利用されており、トマトにおいては2014年に初めて適用可能であることが確認されている(Brooks et al.,Plant physiology,166(3):1292-1297,2014)。
【0057】
本発明における標的遺伝子は、Solyc10g038170遺伝子もしくはそのオーソログである。Solyc10g038170遺伝子もしくはそのオーソログの配列は、例えば配列番号1のポリヌクレオチド配列、もしくは該ポリヌクレオチド配列と例えば約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、または約99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列である。
【0058】
上記遺伝子もしくはそのオーソログのヌクレオチド配列中、例えばCas9によって認識可能なように、PAM配列を有する領域を標的配列として選択することができる。この場合、PAM配列は、例えばNGG(Nは任意の塩基である。)などである。例えば配列番号1のヌクレオチド配列中の標的配列の例は、以下の配列である。これらの配列の3'末端の3塩基(下線)は、NGGである。
【0059】
【0060】
Cas9の例として、例えばS.pyogenes由来のSpCas9、S.aureusに由来するSaCas9、S.thermophilus由来のStCas9などが挙げられる。Cas9の由来によりPAM配列も異なる。例えばSpCas9はNGG(Nは任意の塩基である。)を認識する。
【0061】
sgRNAは、標的遺伝子内のPAM配列の1塩基上流から、好ましくは18~26塩基、例えば20~24塩基のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである。
【0062】
プロモーターの例として、ユビキチンプロモーター、U6プロモーター、CaMV35Sプロモーター、その他、植物組織特異的プロモーターなどが挙げられる。
【0063】
発現ベクターの例として、上記のCas9をコードするヌクレオチド配列、sgRNA配列、プロモーター配列、薬剤耐性遺伝子もしくはレポーター遺伝子、ターミネーターなどを含むベクター、さらに上記エレメントの他に、アグロバクテリウムに由来するT-DNA境界配列(Right-border)、アグロバクテリウムに由来するT-DNA境界配列(Left-border)などを含むバイナリーベクターを挙げることができる。ベクターの例として、例えばpUC系、pBluescript系、pBI系、pPZP系ベクターなどを挙げることができる。バイナリーベクターの一例を、図10(2つの標的を有する場合の例)に示す。
【0064】
上記ベクターを、例えばアグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、プロトプラスト法などによって植物体、細胞、カルス、組織(葉、根、茎などの植物部分含む。)などに導入することができる。
【0065】
ゲノム編集を利用することによって、本発明の標的遺伝子を、例えば切断、欠失または(部分的もしくは完全に)破壊(ノックアウト)する、外来遺伝子を挿入(ノックイン)する、あるいは置換、重複もしくは逆位する、などの変異の導入を可能にする(図11)。外来遺伝子の挿入や特定塩基の置換などの場合には、上記ベクターに外来遺伝子配列、置換すべき特定塩基を含む配列を発現可能に挿入しておくことによって可能となる。外来遺伝子配列の例は、配列番号3のヌクレオチド配列である。上記変異によって、植物に対し、少なくとも単為結果性の表現型、さらには高着果率、高温耐性、高収量性などが付与される。
【0066】
<3.2>第2工程
この工程では、上記第1工程の植物(形質転換体)の細胞(培養細胞(細胞の塊)を含む。)、カルスもしくは組織(植物部分を含む。)を培養し植物体集団を作製する。
【0067】
培養は、固体培地または液体培地を用いる組織培養(通常20~30℃)によって行うことができる。培地は、植物組織培養で使用されるような培地であって、例えば酵母エキス、ココナッツミルク、アミノ酸類、糖類(例、ショ糖)、成長調節物質(例、2,4-D(2,4-dichlorophenoxy acetic acid)、NAA(α-naphtalenacetic acid)、IAA(indole-3-acetic acid))、ビタミン類(例、チアミン、パントテン酸カルシウム、ビオチン、葉酸、ニコチン酸)、無機塩類などを含む培地(通常、pH5.5~6)を例示することができる。
【0068】
<3.3>第3工程
この工程では、上記第2工程の植物体集団から単為結果性を有する植物を選抜する。
【0069】
上記選抜は、作製された植物体集団から単離した細胞もしくは組織においてSolyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの発現の低下もしくは欠損、あるいは、該遺伝子またはそのオーソログの破壊もしくは欠損を検出することを含む。検出法は、後述の3.4に記載するようにPCR法、ハイブリダイゼーション法などを含むことができる。
【0070】
さらに、例えばFISH法を使用することによって、2つの対立遺伝子の両方に、Solyc10g038170遺伝子もしくはそのオーソログの上記変異が存在することを確認し、選抜された植物が上記変異についてホモ接合型であることを確定することができる。
【0071】
選抜された単為結果性植物は、植物に適した栽培法を用いて栽培することができる。栽培は、水耕栽培、施設栽培(例、温室栽培、植物工場栽培等)、露地栽培、プランター栽培などの任意の栽培法で行うことができる。
【0072】
4.単為結果性植物の選抜方法
本発明はさらに、果実類植物から単為結果性植物を選抜する方法であって、果実類植物の細胞もしくは組織においてSolyc10g038170遺伝子またはそのオーソログの発現の抑制、あるいは、該遺伝子またはそのオーソログの破壊もしくは欠損を検出することを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0073】
上記方法は、植物の細胞もしくは組織からゲノムDNA(染色体)またはトータルRNAを単離し、必要に応じてRNAからcDNAを合成したのち、予め作製された、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログに特異的なプライマーまたはプローブ(これらには、必要に応じて蛍光色素等のラベルが含まれる。)を上記DNAまたはRNAもしくはcDNAと接触させて、ハイブリダイゼーション(FISH法、SNP解析法含む。)またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR;定量RT-PCRを含む。)を行うことを含む。
【0074】
さらに、必要に応じて、上記細胞内の、Solyc10g038170遺伝子またはそのオーソログによってコードされるタンパク質の有無を、該タンパク質に対する特異抗体を用いる例えばイムノアッセイによって調べてもよいし、あるいは該タンパク質内の変異の有無をシークエンシングによって調べてもよい。
【実施例
【0075】
以下の実施例を参照しながら、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【0076】
[実施例1]
<単為結果性トマトW2939系統の取得及び特性>
1.供試植物および栽培
トマト(Solanum lycopersicum L.)の矮性モデル品種であるマイクロトム「Micro-Tomにメタンスルホン酸エチル(EMS)処理を行ったトマト大規模変異体集団から、単為結果性を示すW2939(TOMJPW2939)系統を選抜した。この系統に「Micro-Tom」野生株を戻し交配したBC、BC系統、およびミニトマト品種である「Ueleie106WP」と交配したF雑種系統を以下の実験に用いた。
【0077】
栽培は、つくば機能植物イノベーション研究センター(つくば市、茨城、日本)内のG4温室、および筑波大学2D棟内閉鎖系栽培室で行った。BC系統およびF雑種系統の栽培は、G4温室で夏季(5~10月)に行った。シャーレ内で発芽させた種子を、ジフィーミックス(サカタのタネ)を詰めたジフィーポッド(サカタのタネ)に移植した。温室での給水には、薄膜水耕(Nutrient film technique:NFT)システムを用いた。OATハウスA処方(OATハウス1号1.5g/L、OATハウス2号1g/L、OATアグリオ)で電気伝導率(Electric conductivity:EC)を1.2~1.3dS/mに調整した養液を、6時~18時の間、3時間おきに15分間循環させた。また高温期である7月以降は、養分不足を防ぐため、ECを1.8程度に高めた。栽培期間中は温室内でファンを稼働させ、また天窓と側窓を開放し、遮光カーテンで直射日光を遮ることで植物体が生育可能な温度を維持した。栽培期間中の明期は12~13.5時間であった。
【0078】
また、BC系統の栽培は、閉鎖系栽培室にて夏季(5~9月)に行った。シャーレ内で発芽させた種子を、ロックウールキューブ(Grodan)に移植し、温室と同様にNFTシステムを用いて栽培した。養液はOATハウスA処方(OATアグリオ)を用い、ECを1.5に調整した。潅水は毎朝8時に15分間行われるよう設定した。室温は24℃に一定に保ち、明期は16時間に設定した。いずれの系統も移植後2日間は植物体をラップで覆い、徐々に隙間を空けて順化を行った。
【0079】
2.単為結果率調査
W2939系統と「Micro-Tom」野生株を戻し交配したBC系統の、高温条件下における単為結果性を除雄法で評価した。BC単為結果性系統は5個体、野生株は4個体供試し、1個体あたり10~20花を開花2日前に除雄した。環境条件を変えた場合の比較として、閉鎖系栽培室で栽培したW2939系統と「Micro-Tom」野生株の戻し交配BC系統も併せて評価した。BC単為結果性系統、BC非単為結果性系統を4個体ずつ、野生株3個体を供試し、1個体あたり10~15花を開花2日前に除雄した。なお、第一花房に対しては振動受粉を行い、第一花房の受精不成立による着果率への悪影響が無いようにした。開花から約10日後に判定を行い、直径が5mm以上になった果実を単為結果果実と判断した。
【0080】
W2939系統と「Ueleie106WP」野生株を交配したF雑種系統を用いて、除雄法による単為結果性判定を行った。除雄は開花2日前の第三花房以降の蕾に対して行い、受精による着果が起こらないようにした。また、第一花房に対しては振動受粉を行い、第一花房の受精不成立による着果率への悪影響が無いようにした。開花から約10日後に判定を行い、直径が1cm以上になった果実を単為結果果実と判断した。
【0081】
3.収量調査
BC系統を用いて、高温ストレス条件下における野生株との果実収量の差を検証した。播種は5月に行い、発芽後温室に移し、8月から10月初旬の間に収穫された赤熟果の合計重量を、系統間で比較した。収量調査には、単為結果性調査で用いなかった個体を供試した。
【0082】
また、F雑種系統を用いて、収量調査を行った。5月に播種したF雑種単為結果性系統、F雑種非単為結果性系統および「Ueleie106WP」野生株の代表的な1個体について、9月初めに赤熟果および緑熟果を採取した。緑熟果は、直径が1cm以上の果実のみを採取した。収量調査には、単為結果率調査と重複する個体を供試したため、定量的な調査は行わなかった。
【0083】
4.結果
4.1 W2939系統の単為結果性
W2939系統に生じた遺伝子変異による単為結果性の強度を調べるため、W2939系統と「Micro-Tom」野生株を交配したBCおよびBC系統を用いて、除雄法による単為結果性の評価試験を行った。はじめに高温条件下における評価を、夏季(8~10月)にかけて実施した。植物体は、BC単為結果性系統5個体、「Micro-Tom」野生株4個体を供試し、単為結果性系統では1個体あたり11~14花、野生株では1個体あたり18~20花を除雄した。第一花房の開花が始まった6月下旬から除雄を開始した8月上旬における平均気温は30℃以上の日が多く、最高気温は40℃を超える日もあった。このような受精による着果が厳しい環境条件で、除雄後の子房肥大の有無を判定したところ、単為結果性系統では19%(63花のうち12花)、野生株では4%(77花のうち3花)が着果した(図1)。また追加実験として、W2939系統(変異体)を生育適温である24℃で栽培した場合の単為結果率を調査した。植物体はBC単為結果性系統、非単為結果性系統を4個体ずつ、「Micro-Tom」野生株を3個体供試し、1個体あたり3~15花を除雄した。その結果、野生株は全て着果しなかったが、BC非単為結果性系統では9.8%(41花のうち4花)、BC単為結果性系統では8.5%(59花のうち5花)が着果した。
【0084】
また、他品種と交配した場合の単為結果性を評価するため、W2939系統と「Ueleie106WP」野生株を交配したF系統を用いて、同様の評価試験を行った。高温ストレス下における単為結果性の強度を評価するため、栽培は夏季(5~9月)に行った。この期間における平均気温は通じて25℃以上であり、生育期間後半は30℃以上になる日がほとんどであった。また最高気温は生育期間前半からしばしば35℃に達し、6月下旬以降は40℃以上に達するなど、昨年と同様に着果には厳しい高温条件となった。「Ueleie106WP」野生株とF系統をこの栽培環境で生育させ、6~7月に、開花2日前に除雄を行い、単為結果性を調査した。F雑種集団において、着果率が高かった系統を耐暑性あり、着果率が低く耐暑性を示さなかった系統を耐暑性無いと判定し、それぞれの次世代を調査に用いた。これらのF雑種系統と「Ueleie106WP」野生株を4個体ずつ供試し、1個体あたり20花を除雄した。除雄後の子房肥大の有無を判定した結果、「Ueleie106WP」野生株では単為結果率が0%、F雑種系統の耐暑性を示さない系統では、13.8%であった。しかしながら、耐暑性を示す系統では、57.5%の単為結果率を示した。この結果から、非芯止まり品種である「Ueleie106WP」と交配した場合には、遺伝背景が「Micro-Tom」である場合よりも単為結果率が向上する可能性が示唆された。
【0085】
4.2 W2939系統の高温耐性
「Micro-Tom」野生株と戻し交配をした単為結果性を示すBC系統を6個体ずつ用いて、赤熟果の収量調査を行った。8~9月における「Micro-Tom」野生株の収量(平均)は、26.3±2.7gであった。一方、単為結果性BC系統の収量(平均)は、63.1±2.5gであり約2.4倍増加した(図2)。この結果から、単為結果性は高温耐性(高温ストレス下における収量維持)と連鎖している可能性が高いことが示された。今回の除雄では花弁は残して実施したため、これらの植物ホルモンが花弁で産生され、子房に作用していた可能性は十分にある。「Micro-Tom」バックグラウンドの系統に加えて、「Ueleie106WP」野生株とW2939系統(変異体)を交配して得られたF雑種系統についても、播種から123日後に各系統1個体の赤熟果および緑熟果を採取し、収量比較を行った。この結果から野生株およびFで耐暑性を示さなかった後代では、着果率が低かったが、高温耐性を示した後代では、着果率の向上による収量性維持が確認された。よって、単為結果性の付与によって高温ストレス下における収量性が維持されることが示唆された。
【0086】
4.3 果実形質の特性
果実重や有種子率、糖度(Brix値)といった果実形質は、トマトの食味を左右する重要な形質である。これらの形質について、屋外温室で栽培した「Micro-Tom」野生株およびBC単為結果性系統、閉鎖系栽培室で栽培した「Micro-Tom」野生株およびBC系統を用いて、系統間の比較を行った。
【0087】
温室で栽培した「Micro-Tom」野生株における平均果実重は3.28±0.23gであったが、BC系統では1.74±0.06g(p<0.01)であった。有種子率は、野生株で42.9%(49個のうち21個)、BC系統では0.6%(363個のうち2個)であった。また、閉鎖系栽培室で栽培した「Micro-Tom」野生株における平均果実重は3.33±0.26gであったが、BC非単為結果性系統では2.83±0.23gであり、BC単為結果性系統では2.73±0.19gであった。Tukey-Kramer検定を実施したところ、系統間で有意差は確認されなかった。また有種子率は、野生株で87.5%(48個のうち42個)、BC非単為結果性系統では92%(39個のうち36個)、BC単為結果性系統では75%(44個のうち33個)であった(図3)。これらの結果より、W2939変異体単為結果性系統は、花粉不稔の起こらない環境条件であれば、自殖によって種子を産生することが可能な条件的単為結果性を示すことが明らかとなった。また、BC変異体において種子数の減少傾向が見られた。果実重に関しては、単為結果性系統の種なし果実では果実重が小さくなったが、種子を有する場合は果実重の減少は抑えられた(図3)。種なし果実での果実重の減少は、procera変異体においても確認されており、著者らは、種子が形成されないために本来供給されるはずのオーキシンが欠損し、特に果肉部位の細胞分裂が抑制される可能性を指摘している(Carrera et al.,Plant physiology,2012;160(3):1581-96)。またもう一つの原因として、単為結果に伴う着果数の増加が考えられる。上記の収量調査で計測した一定期間における平均赤熟果数は、「Micro-Tom」野生株で8.0±0.9個であったが、W2939系統から作製されたBC単為結果性系統では36.3±3.1個と4倍以上に増加した。
【0088】
この実施例では、糖度を示す指標としてBrix値を用いた。測定の結果、温室で栽培した「Micro-Tom」野生株における平均Brix値は8.59±0.12%、BC系統では7.70±0.06%であったが、Student’s t-testにおいて有意差は見られなかった。一方で、閉鎖系栽培室で栽培した「Micro-Tom」野生株における平均Brix値は5.57±0.15%であったが、BC非単為結果性系統では5.02±0.15%であり、BC単為結果性系統では7.90±0.37%であった。Tukey-Kramer検定を実施したところ、単為結果性系統と非単為結果性系統間、および単為結果性系統と野生株間において1%水準で有意差が見られた(図4)。以上の結果から、W2939系統の単為結果性系統では果実のBrix値が増加することが明らかとなった。
【0089】
[実施例2]
<単為結果性原因遺伝子および変異の同定>
1.マップベースクローニング法による遺伝子領域の絞り込み
1.1 供試植物および栽培条件
W2939(TOMJPW2939)系統とミニトマト品種「レジナ」(サカタのタネ)野生株を交配したF種子を得た。このF雑種集団を4月に播種し、G4ガラス温室内のインキュベーターで5日間保温した。その後、温室内の薄膜水耕装置に移植して栽培を行い、全314個体から、明らかに単為結果性を示す個体のみを供試した。栽培期間中の気温条件は、昼間25~40℃、夜間15~25℃であり、明期は13~14.5時間であった。給水は、OATハウスA処方(大塚1号1.5g/L;大塚2号1g/L、OATアグリオ)で1.2~1.3dS/mに調整した養液を、9時から16時の間、1時間おきに5分間循環させて行った。
【0090】
1.2 花の表現型による単為結果性判定
単為結果性の判定は、開花期の花の表現型に基づいて行った.花器官において、子房の早期肥大による花柱の突出や葯筒の裂開、花弁および花柱の脱離不全が見られる個体を、単為結果性個体と判定した。
【0091】
1.3 ゲノムDNA抽出
若い葉を1.5mlチューブにサンプリングし、DNA抽出バッファーを400μl加えた。DNA抽出バッファーは、200mM Tris4ml、250mM NaCl10ml、25mM EDTA1mlおよび0.5%SDS1mlに蒸留水を加えて20mlにすることによって作製した。
【0092】
ペッスルで葉をすり潰した溶液を、13、200rpmで2分間遠心し、上清300μlを新しい1.5mlチューブに加えた。さらに等量のイソプロピルアルコールを300μl加え、DNAを析出させた。2分間の振盪を行った後に遠心を13、200rpmで5分間行った。遠心後、チューブを慎重に傾けて溶液を捨て、70%エタノールを1ml加えた後に再び13、200rpmで5分間遠心した。溶液を捨て、約30分間風乾して十分に乾燥した後、100μlの1×TE溶液を加え、5分間の振盪を行い、4℃で保存した。抽出が完了した各サンプルについて、Nanodrop2000(Thermo fisher Scientific)を用いて濃度測定を行った。
【0093】
1.4 ラフマッピング用SNPマーカーの選抜
かずさDNA研究所(木更津、千葉、日本)では「Micro-Tom」と「Regina」の間で多型を示すSNPマーカーを559箇所開発しており、Kazusa Tomato Genomics Database上で公開している(http://marker.kazusa.or.jp/tomato/)。それらの中から、1から12番染色体の短腕、長腕に位置するマーカーを選抜し、SNPマーカー情報およびSNPの前後50塩基対の配列を入手した。
【0094】
1.5 プライマーの設計
上記1.4で取得した配列情報を、Sol Genomics DatabaseのBLAST検索(https://solgenomics.net/tools/blast/)に入力して、SNPの前後約300塩基対の周辺配列を取得した。プライマーの設計ツールには、Primer3(https://primer3plus.com/)を用い、SNPの前後約150塩基対を増幅できるよう設計した。
【0095】
1.6 PCR反応
上記のDNA粗抽出液およびプライマーを用いて、PCR反応を行った。PCR用酵素として、KOD FX Neo(東洋紡、大阪、日本)を使用した。これらの反応液組成は、KOD FX Neoo(1.0U/μl)0.3μl、2×Buffer7.5μl、2mM dNTPs3.0μl、Fw Primer(10μl)0.3μl、Rv Primer(10μl)0.3μl、蒸留水3.3μl、鋳型DNA0.3μl、合計15μlからなる。
【0096】
PCR条件は、94℃2分で処理したのち、さらに98℃10秒、59℃30秒、および68℃30秒を1サイクルとして35サイクル繰り返したのち、68℃7分処理した。
【0097】
1.7 電気泳動
PCR産物の電気泳動には、1%Starアガロースゲル(理科研)を用いた。PCR反応溶液5μlに0.6μlの10×loading dye(タカラバイオ、京都、日本)を混和させ、1×TAEバッファーで満たした泳動槽にアガロースゲルをセットし、混合液をアプライした。100Vで15分間電気泳動を行い、SNP部位周辺が特異的に増幅されているかを確認した。DNAマーカーはGene Ladder Wide1(Wako)を用いた。泳動後、UV照射ゲル撮影装置E-BOX-Vx2/20M(Vilber Lourmat)でバンドの有無を確認した。
【0098】
1.8 Exostar処理
未反応のプライマーやdNTPsを除去するため、Exonuclease I(New England Biolabs)およびShrimp Alkaline Phosphatase(rSAP、New England Biolabs)を用いて、PCR産物に対してExo Star処理を行った。溶液組成は、Exonuclease I1μl、rSAP1μl、蒸留水(DW)1μl、PCR産物5μl、合計8μlからなる。また、反応は、37℃60分、80℃15分で行った。
【0099】
1.9 ダイレクトシーケンシング
Exo Star処理を行った反応液を、DWで30倍に希釈した。希釈液を用いて、ダイレクトシークエンス用のプレミックス溶液を作製した。プレミックス溶液の組成は、希釈液(×30)1μl、Fw Primer(3.2pmol/μl)3μl、DW17μl、合計21μlからなる。ダイレクトシーケンシングには、Value Readシーケンスサービス(ユーロフィンジェノミクス)を利用した。解析結果から、各単為結果性個体が「Micro-Tom」ホモ、ヘテロ、「レジナ」ホモのいずれの遺伝子型であるか判定した。
【0100】
2.NGSマッピングによる遺伝子変異の検出
2.1 供試植物および栽培条件
W2939(TOMJPW2939)系統と「Micro-Tom」野生株を交配して得たBC、BC、BC分離集団を供試した。供試個体数は、BC単為結果性系統2個体、BC単為結果性系統13個体、BC単為結果性系統4個体、BC非単為結果性系統23個体とした。栽培は正確に表現型判定を行うため、筑波大学2D棟内の閉鎖系栽培室にて、ロックウールキューブ(Grodan)を用いた薄膜水耕で行った。潅水は毎日午前8時に、約10分間行った。気温は24℃一定、湿度は60~70%前後に維持した。水耕栽培溶液として、OATハウスA処方(OATハウス1号1.5g/L;OATハウス2号1g/L、OATアグリオ)を用い、電気伝導度(EC)を1.5dS/mに設定した培養液を使用した。
【0101】
2.2 花の表現型による単為結果性判定
単為結果性の判定は、開花期の花の表現型に基づいて行った。花器官において、子房の早期肥大による花柱の突出や葯筒の裂開、花弁および花柱の脱離不全が見られる個体を、単為結果性個体と判定した。
【0102】
2.3 ゲノムDNAの抽出
NGS mapping用のゲノムDNA抽出には、純度を高めるためMaxwell16DNA purification Kits(Promega)を用いた。約200mgの新鮮な葉サンプルを1.5mlエッペンドルフチューブに採集し、液体窒素で凍結後、ホモジナイゼーション用ペッスルを用いて葉サンプルを破砕した。KitsにおけるカートリッジのLysis Bufferが入っているセルに、破砕した葉サンプルを凍結状態で加えた。Kits付属のプランジャーを装着したのち、Maxwell16(Promega)にセットし、Elution Bufferを400μlアプライした。抽出完了後、6、000rpmで3分間遠心し、沈殿物を除いた溶液を別の1.5mlチューブに移すことで、精製を行った。抽出したゲノムDNAは、NanoDrop(Thermofisher scientific)を用いて濃度測定した。
【0103】
2.4 ゲノムDNAの精製
BC単為結果性系統で供試できた個体数は、4個体のみであった。そこでゲノムDNAの品質をより向上させ、全ゲノムシーケンシングの精度を高めるため、これらの個体について、Maxwell精製後にGenome-tipカラム(QIAGEN)を用いたゲノムDNA精製を行った.トータルDNA量が30μg以内となるように、各個体のDNA溶液250μlを、1.5mlチューブに分注した。このDNA溶液に1mlのQBTバッファー(QIAGEN)を加えて混合した。Genome-tipカラムを15mlコニカルチューブ(Falcon)に立て、QBTバッファーを3ml加えて平衡化した。カラムの通過画分は捨てた。続いて、DNAとQBTの混合液をGenome-tipカラムにアプライし、その後、QCバッファー(QIAGEN)を3mlアプライした。精製DNAが十分に得られなかった場合に備え、これらの手順の通過画分は捨てずに保管した。次に、Genome-tipカラムを受けるチューブを、新しい15mlコニカルチューブ(Falcon)に交換した。予めインキュベーターで50℃に加温したQFバッファー(QIAGEN)2mlを、3回に分けてGenome-tipカラムにアプライした。カラムを通過した溶液に、2mlの2-イソプロパノールを加えて混合し、室温で5分静置した。その後、コニカルチューブに入った溶液を2mlチューブ3本に分注し、13、200rpmで15分間、4℃設定で遠心した。遠心後、慎重にチューブを傾けて上清を捨て、その後、70%エタノールを約1ml加え、13、200rpmで15分間、4℃設定で遠心した。遠心後、チューブを逆さに立てて15分間風乾し、チューブが十分に乾いたら、30μlのTEバッファーをアプライし、この溶液を全ゲノムシーケンスに用いた。
【0104】
2.5 NGSによる全ゲノム配列の決定
W2939系統に特異的なSNPを抽出するため、NGSを用いた全ゲノムシークエンシングを実施した.単為結果性を示すBC系統2個体、BC系統13個体、BC系統4個体、単為結果性を示さないBC系統23個体のゲノムDNAを総量が5μgになるようそれぞれバルクにして、各サンプルについてショートリードアセンブリによるゲノムリシークエンシングを行った。NGSプラットフォームには、Hi Seq X Ten(Illumina)を用いた。ただし、BC系統についてはHi Seq2000(Illumina)を使用した。W2939系統に存在する変異はPulungun(Plant cell physiology,2018;59(6):1170-1186)に記載の通り、Bowtie2-Samtools-GATKのパイプラインに従って同定した。リシークエンスのリファレンス配列には、「Heinz 1706」のトマトゲノムSL3.0を使用した。BC系統については、トマトゲノムSL2.50を用いた。単為結果性BC、BC系統については、リシークエンスによって解析された配列を、非単為結果性BC系統の配列および当研究室で解析された「Micro-Tom」野生型の全ゲノム情報と比較して、変異体の単為結果性系統に特異的なSNPを検出した。また、「Micro-Tom」野生型系統内の遺伝子多型については、野生型10系統の配列比較により除外した。単為結果性BC系統については、「Micro-Tom」野生株3系統および他の「Micro-Tom」変異体6系統と配列を比較し、この単為結果性系統にのみ確認される変異を検出した。
【0105】
2.6 全ゲノムシーケンス結果に基づいた候補遺伝子変異の選抜
上記2.5で検出された単為結果性系統に特異的なSNPから、さらに条件を設定して原因遺伝子変異を選抜した。選抜は、アミノ酸の非同義置換を引き起こしており、SNP-indexが1(アレル頻度100%)、リードデプス(リード数)が5以上、ジェノタイピングの確からしさを示すGQ値20以上のSNPに限定して行った。また、上記マップベースクローニングの結果から、候補遺伝子変異は第10番染色体のみから探索した。単為結果性BC、BC、BC系統の特異的変異それぞれに、同様の条件を適用して選抜した。また、選抜した候補遺伝子について、各系統の結果を比較し、共通して表れた遺伝子変異を調査した。
【0106】
3.連鎖解析による原因遺伝子変異の同定
3.1 供試植物および対象遺伝子
連鎖解析には、W2939(TOMJPW2939)系統と「Micro-Tom」野生株を交配して得たBC分離集団を供試した。供試個体数は、単為結果性系統で21個体、非単為結果性系統で32個体であった。連鎖解析を行う対象の遺伝子変異は、上記2.4のBC単為結果性系統において選抜された候補遺伝子変異とした。
【0107】
3.2 ゲノムDNAの抽出
BC集団のゲノム抽出には、Maxwell16DNA purification Kits(Promega)を用いた。抽出方法は、上記2.3と同様である。
【0108】
3.3 プライマーの設計
リシークエングの結果判明した候補遺伝子変異の物理的位置から、SNP周辺の塩基配列情報を取得し、Sol Genomics DatabaseのBLAST検索(https://solgenomics.net/tools/blast/)に入力して、SNPの前後約300塩基対の周辺配列を取得した。プライマーの設計ツールには、Primer3(https://primer3plus.com/)を用い、SNPの前後約150塩基対を増幅できるよう設計した。設計したプライマーは、表2に示した通りである。
【0109】
【表2】
【0110】
3.4 PCR反応
上記のDNA抽出液およびプライマーを用いて、PCR反応を行った。PCR酵素として、KOD FX Neo(東洋紡)を使用した。これらの反応液組成は、KOD FX Neoo(1.0U/μl)0.24μl、2×バッファー6μl、2mM dNTPs2.4μl、Fwプライマー(10μl)0.24μl、Rvプライマー(10μl)0.24μl、蒸留水2.58μl、鋳型DNA0.3μl、合計12μlからなる。また、PCR条件は、94℃2分で処理したのち、さらに98℃10秒、59℃30秒、および68℃30秒を1サイクルとして35サイクル繰り返したのち、68℃7分処理した。
【0111】
4.結果
4.1 ラフマッピングによる原因遺伝子領域の絞り込み
W2939系統の原因遺伝子領域を絞り込むため、マップベースクローニングの一手法として、1染色体あたり2個の品種間多型マーカーを配置するラフマッピングを行った。このとき、図5に示した正方向プライマーと逆方向プライマーを使用するPCRによる増幅を行った。「Micro-Tom」と「レジナ」間で多型を示すSNPマーカーを各染色体の短腕と長腕に配置し、W2939系統と「レジナ」野生株を交配したF単為結果性集団12個体を供試した(図5)。その結果、10番染色体の短腕に位置しているマーカー(2120_1008)で12個体中10個体が「Micro-Tom」型ホモの遺伝子型を示した。その他23個のマーカーでは、「Micro-Tom」型の遺伝子型を示したのは8個体以下であった(図6)。これらのF個体が持つ単為結果性は、「Micro-Tom」に変異を導入したW2939系統に由来すると考えられるため、10番染色体短腕のマーカー近傍に、原因遺伝子変異が座上していると考えられた。この領域に対し、多型マーカーをさらに配置するファインマッピングを行うことで原因遺伝子領域の絞り込みが可能と思われたが、その領域を絞り込める位置に多型マーカーが存在していなかったため、これ以上の絞り込みを行うことができなかった。また、2120_1008マーカーにおいて12個体中2個体でヘテロの遺伝子型となった理由として、遺伝的距離が原因遺伝子から離れていたことが考えられた。
【0112】
4.2 全ゲノムシーケンシング結果に基づいた候補遺伝子変異の選抜
NGSを用いて、W2939単為結果性BC、BC、BC集団の全ゲノムシーケンシングを実施し、リファレンス配列SL2.50、またSL3.0に対してリシーケンスを行った。決定された塩基配列に対し、「Micro-Tom」野生株や他の変異体、およびBC非単為結果性系統の全ゲノム解析結果と比較し、アミノ酸の非同義置換を引き起こし、SNP-indexが1であり、GQ値が信頼できる遺伝子変異を検出した。BC集団と「Micro-Tom」野生株および変異体計9個体を比較したところ、10番染色体上に特異的な変異は3箇所発見された。また、BC、BC単為結果性系統と「Micro-Tom」野生株、変異体およびBC非単為結果性系統計32個体を比較したところ、10番染色体に特異的な変異はそれぞれ3、5箇所発見された。これらの変異体特異的な遺伝子変異のうち、BC、BC、BC単為結果性系統で共通していたものを調べたところ、Solyc10g038170に座上する2箇所のSNPが抽出された。SL2.50とSL3.0では、Solyc10g038170に対応する物理的位置が異なっているが、変異が導入された箇所は各系統比較間で共通していた。また、10番染色体上のSolyc10g038170の他に全ての系統で共通して検出された遺伝子変異が無いか確かめるため、その他の染色体も対象に探索を行った。しかしながら、共通して検出された変異は他に存在しなかった。全ゲノムシーケンシングの結果から明らかとなった2箇所の変異が、実際に単為結果性と連鎖していることを確かめるため、「Micro-Tom」野生株との戻し交配BC系統を用いて、サンガーシーケンシングによる連鎖解析を実施した。その結果、BC単為結果性系統では21個体全てで変異箇所の遺伝子型が変異体型であり、一方BC非単為結果性系統では、32個体全てでヘテロもしくは野生株の遺伝子型であった。単為結果性に関わっていない変異が最も除外されているはずのBC系統では、Solyc10g038170の他にSolyc10g009590、Solyc10g009640、Solyc10g019033上の変異が候補として検出されていた。Solyc10g009590は、シロイヌナズナで二次細胞壁におけるセルロース合成や沈着に関与するTRICHOME BIREFRINGENCE-LIKEファミリー遺伝子のトマトホモログと推定された。またSolyc10g009640は、シロイヌナズナでジャスモニルイソロイシン(JA-Ile)の合成を触媒し、ジャスモン酸(Jasmonic acid:JA)応答を誘導するJasmonate resistant 1(JAR1)遺伝子のトマトホモログと推定された(Westfall et al.,Science,2012;336:1708-1711)。Solyc10g019033は、機能を示唆する報告が過去にされていない未知遺伝子であった。これらの3遺伝子変異についても、同様の個体を用いてサンガーシーケンシングによる連鎖解析を行った。BC単為結果性系統では、Solyc10g009590で21個体中6個体が野生株型ホモの遺伝子型であった。また、BC非単為結果性系統では、Solyc10g009590とSolyc10g009640で32個体中2個体が変異体型ホモの遺伝子型であった。Solyc10g019033は、Solyc10g038170と同様に、全ての個体で表現型と遺伝子型が連鎖していた。この結果からはSolyc10g019033が単為結果に関与している可能性を排除できなかったため、次項の通り、RNA-seqによる網羅的トランスクリプトーム解析データから、各組織における発現量を調査した。
【0113】
4.3 トランスクリプトーム解析結果に基づいた候補遺伝子変異の選抜
上記3.1で記述した連鎖解析結果からは、Solyc10g019033とSolyc10g038170のうち、いずれの遺伝子が単為結果に関わるのか、もしくは両遺伝子が関与するのか判断することができなかった。単為結果性に関わる遺伝子であれば子房組織で発現していると考え、「Micro-Tom」戻し交配により得られた、BC単為結果性系統、BC非単為結果性系統の開花2日後の子房を用いてRNA-seqを実施し、両系統の遺伝子発現量を判断材料に用いた。その結果、子房ではSolyc10g019033は全く発現していなかったが、Solyc10g038170ではわずかながら発現していた。またこの結果からは、単為結果性系統、非単為結果性系統の間でSolyc10g038170の発現量(それぞれ0.03、0.02)に差があるか確認することはできなかった。両遺伝子の発現レベル差がわずかであったため、公共データを併用して判断することにした。Solyc10g019033はトマトゲノムのアノテーション情報であるITAG3.0で初めて発見された遺伝子であった。そこで、この遺伝子が解析されているTomato functional genomics database内の比較的新しい解析データ(http://ted.bti.cornell.edu/cgi-bin/TFGD/digital/experiment.cgi?ID=D019、2019年1月12日閲覧)を参照した。その結果、解析対象であるSolanum lycopersicum「VF36」およびSolanum lycopersicoides同質遺伝子系統の赤熟果ではほとんど発現しておらず、最も発現していた系統(LA4250A)においても、発現量を示唆するRPKM(Reads Per Kilobase of exon per Million mapped reads)が0.09であった。このことから、Solyc10g019033上の変異が単為結果に関与している可能性は非常に低いと考えられた。Solyc10g019033の遺伝子機能は未知であったが、Solyc10g038170は、アノテーション情報によるとJA生合成の初期段階に関をコードしていると予想された。そこで、RNA-seqで解析した遺伝子のうち、単為結果性系統で特異的発現パターンが見られるDEGsリストから、JA機能に関連する遺伝子を探索した。単為結果性系統で発現増加した遺伝子群のうち2番目にq-valueが低かった遺伝子はJasmonic acid 2(JA2)タンパク質をコードしており、238番目の遺伝子はNACドメインタンパク質IPR003441(JA2-like;JA2L)をコードしていた。これらの遺伝子は、単為結果性系統でそれぞれ非単為結果性系統の4.5倍、3.8倍に増加していた。JA2はアブシジン酸(Abscisic acid:ABA)処理によって発現上昇することから、ABA生合成を調節する役割を持つことが報告されている。また、JA2Lは、JAによって発現が促進される遺伝子であり、JA2Lのアンチセンス個体は、JA伝達に欠損を持つjai1変異体と共通して、気孔閉鎖の持続による病害耐性の強化が起こったと報告されている。Solyc10g038170の機能欠損は、JA生合成を引き起こすと考えられ、報告から考えられる結果とは異なるが、RNA-seqの結果でこれらの遺伝子の発現パターンが変化したことは、変異体でJA生合成、伝達経路に変化が生じていることを示唆していた。また、単為結果性系統での発現量が、非単為結果性系統の0.5倍以下に減少していた遺伝子群についても調査した。その結果、JAと直接的に関連した遺伝子は発見できなかったが、特筆すべき遺伝子として、87番目にq-valueが小さいGibberellin 2-oxidase 2(GA2ox2)が挙げられた。この遺伝子は、GA生合成経路において活性型GAの不活化に関与している(Xiao et al.,DNA sequence,2007;18(6):474-479)。単為結果性系統におけるGA2ox2の発現量は、非単為結果性系統の約16%に低下していた。この結果は、単為結果性系統において、活性型GAが増加し、GA応答および着果が促進されている可能性を示唆している。以上の結果から、単為結果性原因遺伝子の変異によってJAやGAの発現パターンに変化が生じている可能性が示されたとともに、JA生合成に関与するSolyc10g038170が最も有力な候補原因遺伝子であると考えられた。
【0114】
4.4 最も有力な候補遺伝子の配列解析
Solyc10g038170の詳細情報をSol Genomics Network(https://solgenomics.net/、2018年11月21日閲覧)で検索したところ、この遺伝子は、1、131塩基対のエクソンのみから構成されると推定されていた(図7)。Solyc10g038170は、1つのエクソンのみからなる全長1.131kbpの遺伝子であり,クラス3リパーゼ(トリグリセリドリパーゼ)で保存されているドメインを持つ。W2939単為結果性系統では5’末端から109番目と146番目の塩基に一塩基置換が入っており、その結果、2箇所のアミノ酸ミスセンス変異を引き起こしている。すなわち、W2939単為結果性系統では、2箇所で「C→T」の一塩基置換変異が確認され、37番目の「アルギニン」(R)が「システイン」(C)、49番目の「アラニン」(A)が「バリン」(V)に変化するアミノ酸のミスセンス変異が確認された(図8)。これら2箇所のSNP近傍に別の変異が無いか確認したところ、Solyc10g38170上に他の変異は存在せず、最も近い変異の存在位置は、エクソン開始配列の約13、300塩基対上流の遺伝子間領域であった。また、タンパク質のドメイン検索を、検索ツールであるPfam(https://pfam.xfam.org/、2018年11月21日閲覧)を用いて行った。その結果、137番目から283番目のタンパク質にかけて、クラス3リパーゼ(トリグリセリドリパーゼ)で保存されているドメインが確認された(図7)。しかしながら、変異の生じた箇所はドメイン内には存在しなかった。また、この遺伝子のオーソログを、NCBIのタンパク質BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&LINK_LOC=blasthome、2018年12月1日閲覧)で探索したところ、Total Scoreが200以上で相同性の比較的高いオーソログが8遺伝子発見された。その中でも2番染色体のAt2G44810は、約63%のアミノ酸配列相同性があり、2番目に相同性が高かったAt4G16820(約45%)と比較すると突出して類似していた。このオーソログとSolyc10g038170のアミノ酸配列を比較した。その結果、2箇所のミスセンス変異箇所のうち37番目のアルギニンは両者の配列で共通していた(図9)。よって、この遺伝子がSolyc10g038170のホモログと仮定するならば、遺伝子機能の維持には37番目のアルギニンの方が49番目のアミノ酸よりも重要であり、37番目のアミノ酸残基の変異が遺伝子発現、翻訳後のタンパク質の機能に影響を与えていると考えられた。
【0115】
[実施例3]
<Solyc10g038170遺伝子変異導入系統の作出および特性>
1.標的配列の決定
Solyc10g038170遺伝子に突然変異を誘導させるsgRNAは、CRISPR/Cas9システム用標的配列検索サイトであるCRISPR-P2.0(http://cbi.hzau.edu.cn/CRISPR2/、2019年1月10日閲覧、Lei et al.,Molecular plant,2014;7(9):1494-1496)、およびCRISPRdirect(https://crispr.dbcls.jp/、2019年1月10日閲覧、Naito et al.,Bioinformatics,2015:31(7):1120-1123)を用いて設計した。Cas9ベクターの例を図10に示す。また、Solyc10g038170に大規模な変異を起こすために、標的配列は2つ設定した。さらにまた、W2939系統で生じた変異が単為結果性と関連することを示すため、変異箇所の近傍に存在する標的配列を選択し、変異箇所近傍で様々な変異パターンを持つ個体が得ることを期待した。5’側の標的配列(Target1)として選択したCCACTAGATGATAATTTACG(配列番号77)は、CRISPR-Pにおいてオフターゲット効果の低さを示すOn-scoreが0.5071と比較的高く、配列中に変異体で一塩基置換が生じた部位を含んでいた。また、3’側の標的配列(Target2)として選択したTATTTGCACATTGCGTATGA(配列番号78)は、On-scoreが0.0405と比較的低かった。しかしながら、この配列は一塩基置換が生じた部位に近接しており、CRISPRdirectの結果から、PAM配列上流20塩基対に相同配列は存在せず、PAM配列上流12塩基対に限定しても特異性が比較的高かったことから、CCACTAGATGATAATTTACG(配列番号77)を標的配列に決定した。
【0116】
2.Solyc10g038170遺伝子変異導入系統の作出
上記1.で選択した2つの標的配列(配列番号77および78)を発現カセットに含むベクターを構築し、Solyc10g038170遺伝子の機能をノックアウトした系統の作出を試みた(図11図12)。トマトの形質転換には、「Micro-Tom」に最適化したアグロバクテリウム法を利用して、「Micro-Tom」野生株の種子約200粒を供試した(Sun et al.,Plant cell physiology,2006;47(3):426-431)。カナマイシンを含む一連の選抜培地から再分化した植物体を形質転換体の候補として、フローサイトメーターを用いて二倍体の個体を選抜した。これらの個体について、Cas9ベクターによって挿入されるNPTII領域を含むか調査した。その結果、11系統14個体で、NPTII領域の挿入が確認された。さらに、Cas9タンパク質によるDNAの二本鎖切断と修復エラーが生じているかを確認するため、標的配列周辺を増幅させるプライマーを用いて変異導入の有無を調査した。その結果、6系統8個体でSolyc10g038170遺伝子のPAM配列近傍に変異が導入されていることが確認された。得られた計8個体のうち、Target1配列によってホモに変異が入ったと考えられる個体が3個体見つかった。それらのうち#3-1個体では、W2939系統において一塩基置換が生じた部位から2塩基上流で、1塩基の挿入変異が見られた。また、#25-1、#42-1個体では、前述の1塩基挿入と、その近傍の2塩基欠失によるバイアレリックな変異が生じていた(図13)。
【0117】
その結果、以降のアミノ酸配列でフレームシフトが生じ、本来より手前で終止コドンが現れた。野生株およびW2939系統では376アミノ酸残基からなるポリペプチドが、#3-1個体では47アミノ酸、#25-1、#42-1では47アミノ酸もしくは42アミノ酸になったと推定された(図14)。残りの個体のうち、#9-1、#10-1、#37-1個体では、#3-1と同様の位置の1塩基挿入がヘテロに入っており、もう片方の鎖は野生株型であった(図13)。また#9-3と#9-4では、サンガーシーケンシングの結果から三重の波形が確認されたことから、形質転換細胞と非形質転換細胞の混在、もしくは異なる変異が生じた形質転換細胞の混在が示唆された。
【0118】
また、Target2標的配列による変異導入を調べたところ、8個体中7個体では変異導入が確認されなかったが、#42-1では二本鎖のうち片方に7塩基欠失変異が生じていた。しかしながら、2箇所で同時に変異導入したことによる大規模な欠失などの変異は確認されなかった。Target1に比べTarget2で変異導入効率が低かった理由としては、Target2配列を組み入れたsgRNAの配列有効性が低かったことが考えられる。
【0119】
3.Solyc10g038170遺伝子変異導入系統の表現型
変異導入系統では、アミノ酸配列の変化により、タンパク質の機能欠損が起こっていると考えられた。W2939系統では、Solyc10g038170上の一塩基置換によってタンパク質の機能が失われ、単為結果が誘導されていると考えられたため、変異導入系統でも単為結果が生じているか調べた。開花期における表現型を調べたところ、ホモに変異が導入された全ての変異導入個体において、子房の早期肥大、花柱の突出、葯筒先端の変色、子房肥大後の花弁や花柱の残存といった表現型が確認された。これらの表現型は、W2939単為結果性系統と共通していた。また変異導入個体では、種子の無い赤熟果がしばしば確認された。比較を行うため、導入遺伝子が入っているが変異は生じていない形質転換体の表現型も調査した。その結果、変異導入個体とは対照的に、花の表現型は野生株と同様であり、全ての赤熟果で11粒以上の種子が入っていた。これらの結果から、変異導入系統で確認されたSolyc10g038170遺伝子の変異によって、単為結果が誘導されることが示唆された。よって、この遺伝子は新規の単為結果性関連遺伝子であると推察された。
【0120】
4.SlDAD1遺伝子の発現量解析
過去に実施されたトランスクリプトーム解析の結果から、SlDAD1(別称、Solyc10g038170)遺伝子は開花前の蕾で特異的に発現することが示唆されている。そこで、W2939単為結果性系統の蕾においてSlDAD1遺伝子の発現量が抑制されていることを確認し、JA生合成に影響を及ぼしている可能性を示唆するために、「Micro-Tom」野生株、W2939非単為結果性系統、単為結果性系統を用いた組織別の発現量解析を行った。qRT-PCR法によって発現量を測定した結果、野生株における各組織の発現量は、4mm蕾の時期と開花当日では非常に低かったが、開花2日前の花弁サンプルでは発現量が大きく増加していた。また、本実施例のサンプリング方法では、トマトの花糸(Filaments)は花弁と組織が部分的に結合しているために花弁サンプルに含まれていた。この事実を踏まえると、シロイヌナズナのオーソログAt2G44810で示されているように(図9)、SlDAD1遺伝子はこの発達ステージの花糸で一時的に発現している可能性が考えられる(Ishiguro et al.,The plant cell,2001;13(10):2191-2209; Klepikova et al.,The plant journal,2016;88(6):1058-1070)。一方で、W2939単為結果性系統では開花2日前の花弁サンプルの発現量が野生株と比較して約1%と有意に減少していた。また、W2939非単為結果性系統においても発現量が約38%に減少していたが、有意差は見られなかった。SlDAD1遺伝子にEMSによって導入された一塩基置換変異は、上記の2箇所以外に存在しなかったことを考慮すると、これら2箇所のSNPによってSlDAD1遺伝子の発現が抑制されたと考えられる。
【0121】
上記実験の結果を要約すると、次のようになる。
【0122】
トマトW2939系統の単為結果性の原因遺伝子は、10番染色体上のSolyc10g038170(別称、Sldad1)遺伝子であり、これは、1つのエクソンのみからなる全長1131bpの遺伝子であり、クラス3リパーゼ(トリグリセリドリパーゼ)で保存されているドメインをもつ。W2939単為結果性系統の原因遺伝子変異は、5’末端から109番目と146番目の2箇所の塩基の「C→T」であり、すなわち37番目の「アルギニン」(R)が「システイン」(C)、49番目の「アラニン」(A)が「バリン」(V)に変化するアミノ酸のミスセンス変異であることが今回明らかになった。
【0123】
トマトの野生株と、CRISPR/Cas9システムによりSldad1変異が導入された植物体の表現型とを、夏季(高温ストレス条件下)での単為結果率と収量性について比較し、また、単為結果率を、開花前の花より除雄を行い、その後種内果実が発達した雄蕊の割合を調査した結果、野生株では57.1%の単為結果率であったのに対し、Sldad1変異をもつ植物では99.4%と高い単為結果率を示した。さらに、収量について、稔った赤熟果実の重量を合計として両者を比較したところ、野生株では26.3±2.7gであったのに対し、Sldad1変異をもつ植物では63.1±2.5gであり、かつ高着果率および高温耐性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0124】
従来のトマト栽培では、着果を安定させるために。開花した花に振動刺激や植物ホルモン剤の処理、或いは媒介昆虫の利用が必要であるが、単為結果を誘導する本発明の変異を利用することによって労力を軽減できるし、また、高温でも栽培が可能になるため、栽培期間や栽培区域の拡大に寄与することができる。その結果、本発明による植物変異体を育種素材とした省労力の栽培が可能な品種開発が可能となり、生食用及び加工用を目的としたトマトの安定的周年生産が可能となる。さらに、この遺伝子変異情報を利用してとも後だけでなく他の果菜類等でも単為結果性や高温耐性が付与された品種の開発が可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0125】
配列番号3:Solyc10g038170遺伝子変異体のヌクレオチド配列
配列番号4:Solyc10g038170タンパク質変異体のアミノ酸配列
配列番号6:Solyc10g038170遺伝子変異体の一部ヌクレオチド配列(ヌクレオチド番号1~150)
配列番号8:Solyc10g038170タンパク質変異体の一部アミノ酸配列(アミノ酸番号1~80)
配列番号15~16:T0変異導入系統の標的1領域のヌクレオチド配列(図13
配列番号18~20:T0変異導入系統の標的1領域のアミノ酸配列(図14
配列番号21~76:プライマー
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
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図10
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図13
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【配列表】
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