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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】フィルタ素子及びそれを含む撮像素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240926BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L27/146 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021556051
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041324
(87)【国際公開番号】W WO2021095625
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2019205302
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】小野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】宮道 篤孝
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-239217(JP,A)
【文献】特開2018-004694(JP,A)
【文献】特開2017-040905(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026211(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0071532(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102798918(CN,A)
【文献】特開2020-034899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基板と、前記基板の主面に沿って形成される金属製の膜状部材とを備え、
前記膜状部材は、
一方の面及び一方の面の反対側の他方の面と外部との間で光を透過可能なように前記基板によって支持され、前記基板の前記主面に沿った一方向に沿って等間隔で、前記一方向に略垂直な方向に折れ曲がるように形成されており、
前記一方向に沿って交互に特定の周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む前記一方の面上の第1の面構造と、
前記一方向に沿って交互に前記特定の周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む前記他方の面上の第2の面構造と、
を有し、
前記膜状部材の膜厚は、10nm~50nmの範囲である、
フィルタ素子。
【請求項2】
前記基板は、誘電体材料を含む、
請求項1記載のフィルタ素子。
【請求項3】
前記膜状部材は、
前記第1の面構造の凹面及び凸面の少なくとも一方の面上において、前記第2の面構造まで貫通するように前記特定の周期で周期的に形成された直線状のスリットをさらに有する、
請求項1又は2に記載のフィルタ素子。
【請求項4】
前記スリットは、前記第1の面構造の凹面及び凸面の両方の面上において前記特定の周期で周期的に形成されている、
請求項3記載のフィルタ素子。
【請求項5】
前記第1の面構造の前記凹面及び前記凸面は直線状に延びるように形成されており、
前記スリットは、前記凹面あるいは凸面の延在方向に沿って形成されている、
請求項3又は4に記載のフィルタ素子。
【請求項6】
前記膜状部材は、膜厚が均一に形成されている、
請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルタ素子。
【請求項7】
前記特定の周期は、220nm~680nmの範囲である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のフィルタ素子。
【請求項8】
前記スリットの幅は、0nm~30nmの範囲である、
請求項3~5のいずれか1項に記載のフィルタ素子。
【請求項9】
前記第1の面構造における凹面と凸面との間の段差は、20nm~70nmの範囲である、
請求項1~8のいずれか1項に記載のフィルタ素子。
【請求項10】
受光素子が二次元的に配列された半導体基板と、
前記半導体基板上で前記受光素子に対向するように配置された請求項1~9のいずれか1項に記載のフィルタ素子と、
を備える撮像素子。
【請求項11】
光透過性を有する基板と、前記基板の主面に沿って形成される金属製の膜状部材とを備え、
前記膜状部材は、
一方の面及び一方の面の反対側の他方の面と外部との間で光を透過可能なように前記基板によって支持され、
前記基板の前記主面に沿った互いに直交する二つの方向の各々の方向に沿って等間隔で、前記互いに直交する二つの方向の各々の方向に略垂直な方向に折れ曲がるように面が形成されており、
前記互いに直交する二つの方向の各々の方向に沿って交互に特定の周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む前記一方の面上の第1の面構造と、
前記互いに直交する二つの方向の各々の方向に沿って交互に前記特定の周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む前記他方の面上の第2の面構造と、を有し、
前記膜状部材の膜厚は、10nm~50nmの範囲である、
フィルタ素子。
【請求項13】
光透過性を有する基板と、前記基板の主面に沿って形成される金属製の膜状部材とを備え、
前記膜状部材は、
一方の面及び一方の面の反対側の他方の面と外部との間で光を透過可能なように前記基板によって支持され、
前記基板の前記主面に沿った互いに60度の角度をなす三つの方向の各々の方向に略垂直な方向に折れ曲がるように面が形成されており、
前期略垂直な方向に折れ曲がるように形成される面によって囲まれる正三角形の凹面あるいは凸面を形成する前記一方の面上の第1の面構造と、
前期略垂直な方向に折れ曲がるように形成される面によって囲まれる正三角形の凸面あるいは凹面を形成する前記一方の面上の第2の面構造と、
を有し、
前記膜状部材の膜厚は、10nm~50nmの範囲である、
フィルタ素子。
【請求項14】
光透過性を有する基板と、前記基板の主面に沿って形成される金属製の膜状部材とを備え、
前記膜状部材は、
一方の面及び一方の面の反対側の他方の面と外部との間で光を透過可能なように前記基板によって支持され、
前記基板の前記主面に沿った互いに120度の角度をなす六つの方向の各々の方向に略垂直な方向に折れ曲がるように面が形成されており、
前期略垂直な方向に折れ曲がるように形成される面によって囲まれる正六角形の凹面あるいは凸面を形成する前記一方の面上の第1の面構造と、
前期略垂直な方向に折れ曲がるように形成される面によって囲まれる正六角形の凸面あるいは凹面を形成する前記一方の面上の第2の面構造と、
を有し、
前記膜状部材の膜厚は、10nm~50nmの範囲である、
フィルタ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一形態は、フィルタ素子及びそれを含む撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から表面プラズモン共鳴を利用したフィルタ素子が開発されている。例えば、金属薄膜にナノスケールの微細な貫通孔を配列して形成した構造を有するフィルタが知られている(下記非特許文献1参照)。上記構造のフィルタでは、貫通孔の直径及び配列周期を制御することにより特定の波長域の光に対する透過波長の選択性を示す。
【0003】
その他の構造のフィルタとして、金属膜の片面に周期的に形成された同心円状の凹凸構造と、その凹凸構造の中心に設けられた微小孔とを有するものが考案されている(下記特許文献1)。さらに、光の透過効率を上げるための構成として、金属膜の両面に同一周期で周期的に形成された同心円状の凹凸構造とその凹凸構造の中心に設けられた微小孔とを有する光学素子も知られている(下記特許文献2)。このような構造のフィルタも、凹凸構造の周期が制御されることで透過波長の選択性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-171763号公報
【文献】特開2018-4694号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Yokogawa et al., “Plasmonic Color Filters for CMOS Image Sensor Applications”, Nano Lett., 2012, 12 (8), pp 4349-4354, 2012年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のフィルタにおいては、透過波長のさらなる狭帯域化と光透過率のさらなる向上が望まれている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、透過波長の狭帯域化、及び光透過率の向上を実現可能なフィルタ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一形態にかかるフィルタ素子は、光透過性を有する基板と、基板の主面に沿って形成される金属製の膜状部材とを備え、膜状部材は、一方の面及び一方の面の反対側の他方の面と外部との間で光を透過可能なように基板によって支持され、基板の主面に沿った一方向に沿って等間隔で、一方向に略垂直な方向に折れ曲がるように形成されており、一方向に沿って交互に特定の周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む一方の面上の第1の面構造と、一方向に沿って交互に特定の周期で周期的に形成された凹面及び凸面を含む他方の面上の第2の面構造と、を有し、膜状部材の膜厚は、10nm~50nmの範囲である。
【0009】
或いは、本発明の他の形態にかかる撮像素子は、受光素子が二次元的に配列された半導体基板と、半導体基板上で受光素子に対向するように配置された上述のフィルタ素子と、を備える。
【0010】
上記形態のフィルタ素子によれば、外部から膜状部材の一方の面に向けて光が入射すると、一方の面上において周期的な凹凸構造により分極が生じて表面プラズモン共鳴が励起される(カップリング)と同時に、これにより他方の面上においては一方の面上とは逆極性の分極が生じて表面プラズモン共鳴が誘起され、誘起された表面プラズモン共鳴が伝搬光に変換されて(デカップリング)他方の面側から外部に出射される。このように、膜状部材の両面に表面プラズモン共鳴を励起可能な構成を有することで、入射光の光透過率を向上させることができる。加えて、一方の面と他方の面との両面に凹面及び凸面とが同一周期で交互に並んだ構造を有しているので、特定の波長帯域の入射光に対して膜状部材の両面で発生する表面プラズモンの共鳴性を高めることができる結果、入射光の透過波長の狭帯域化も実現することができる。あるいは、上記他の形態の撮像素子によれば、受光素子において高い光透過率で狭帯域の光を受光することができるので、波長選択性が高く、かつ、高感度の撮像素子を実現することができる。
【0011】
ここで、上記形態のフィルタ素子においては、基板は誘電体材料を含むことが好適である。この場合、表面プラズモンが効率的に励起され、入射光の光透過率をより向上させることができる。
【0012】
また、膜状部材は、第1の面構造の凹面及び凸面の少なくとも一方の面上において、第2の面構造まで貫通するように特定の周期で周期的に形成された直線状のスリットをさらに有する、ことが好適である。この場合、スリットにおいて入射光の振動電界が集中することになり効率的に分極を生じさせることができるとともに、スリットによって膜状部材に区切りを設けることになる結果、入射光によって生じる分極のモードも安定させることができる。これにより、光透過率の一層の向上と一層の狭帯域化を実現できる。
【0013】
また、スリットは、第1の面構造の凹面及び凸面の両方の面上において特定の周期で周期的に形成されている、ことも好適である。この場合、さらなる光透過率の向上とさらなる狭帯域化が実現できる。
【0014】
また、第1の面構造の凹面及び凸面は直線状に延びるように形成されており、スリットは、凹面あるいは凸面の延在方向に沿って形成されている、ことも好適である。この場合、特定の偏光方向を有する入射光に関して、光透過率の向上と狭帯域化を実現できる。
【0015】
さらに、膜状部材は、膜厚が均一に形成されている、ことも好適である。かかる構成によれば、膜状部材の両面に表面プラズモン共鳴を安定して励起することができ、入射光の光透過率をより向上させることができる。
【0016】
ここで、特定の周期は、220nm~680nmの範囲である、ことが好適であり、膜状部材の膜厚は、10nm~50nmの範囲である、ことが好適であり、スリットの幅は、0nm~30nmの範囲である、ことが好適であり、第1の面構造における凹面と凸面との間の段差は、20nm~70nmの範囲である、ことが好適である。このような構造により、可視から近赤外までの波長範囲の入射光に関して光透過率の向上と狭帯域化を実現できる。好適な周期範囲よりも周期をさらに大きくすれば赤外領域に対してフィルタ素子として機能し、周期をさらに小さくすれば紫外領域に対してフィルタ素子として機能する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透過波長の狭帯域化、及び光透過率の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るフィルタ素子1の構造を示す斜視図である。
図2図1の金属薄膜5を誘電体基板3の側面側から見た側面図である。
図3】フィルタ素子1の各製造工程における加工状態を示す側面図である。
図4】フィルタ素子1の透過スペクトルの偏光依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図5】フィルタ素子1の透過スペクトルの周期依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図6】フィルタ素子1の透過スペクトルの金属膜厚依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図7】フィルタ素子1の透過スペクトルの金属膜厚依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図8】フィルタ素子1の透過スペクトルのスリット幅依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図9】フィルタ素子1のスリット幅50nmのときの透過スペクトルをシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図10】フィルタ素子1の透過スペクトルの凹面と凸面の段差依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図11】フィルタ素子1の透過スペクトルの凹面と凸面の段差依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図12】実施形態に係る撮像素子100の一部を示す斜視図である。
図13】変形例にかかるフィルタ素子1Aを誘電体基板3の側面側から見た側面図である。
図14】フィルタ素子1Aの透過スペクトルの周期依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図15】変形例にかかるフィルタ素子1Bを誘電体基板3の側面側から見た側面図である。
図16】変形例にかかるフィルタ素子1Cを誘電体基板3の側面側から見た側面図である。
図17】フィルタ素子1Bの透過スペクトルをシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図18】変形例にかかるフィルタ素子1Dを誘電体基板3の側面側から見た側面図である。
図19】フィルタ素子1Dの透過スペクトルの周期依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図20】変形例にかかるフィルタ素子1Eを誘電体基板3の側面側から見た側面図である。
図21】フィルタ素子1Eの透過スペクトルの周期依存性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
図22】変形例に係る金属薄膜5A,5B,5C,5Dの平面図である。
図23】凹凸面およびスリットが直線状に延びて形成されている平面図と、その偏光強度分布を示すグラフである。
図24】凹凸面およびスリットが互いに直交する二つの方向に直線状に延びて形成されている平面図と、その偏光強度分布を示すグラフである。
図25】凹凸面がそれぞれ60度の角度を持つ正三角形で形成されている平面図、及びスリットが60度の角度を持って形成されている平面図と、その偏光強度分布を示すグラフである。
図26】凹凸面が120度の角度を持つ正六画形で形成されている平面図、及びスリットが60度の角度を持って形成されている平面図と、その偏光強度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るフィルタ素子及びそれを含む撮像素子の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面は説明用のために作成されたものであり、説明の対象部位を特に強調するように描かれている。そのため、図面における各部材の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
【0020】
まず、図1及び図2を参照しながら、実施形態に係るフィルタ素子1の構成を説明する。図1は、フィルタ素子1の構造を示す斜視図、図2は、フィルタ素子1を構成する金属薄膜5の構造を示す側面図である。
【0021】
フィルタ素子1は、外部からの入射光を受けてその入射光のうちの規定の波長帯域の成分を透過させる光学素子であり、誘電体基板3と金属薄膜(膜状部材)5とを含んで構成されている。
【0022】
なお、以下の説明においては、フィルタ素子1を構成する誘電体基板3の主面3aに沿った一方向にX軸を規定し、主面3aに沿ったX軸に垂直な方向にY軸を規定し、X軸及びY軸に垂直な方向に右手系座標軸を構成するようにZ軸を規定する。
【0023】
誘電体基板3は、少なくとも紫外から赤外までの波長帯域の光に対して光透過性を有する誘電体材料によって構成される矩形平板状の部材である。誘電体基板3を構成する誘電体材料としては、二酸化ケイ素(SiO)、窒化シリコン(SiN)、二酸化チタン(TiO)、硫化亜鉛(ZnS)、フッ化マグネシウム(MgF)、低誘電率(low-k)材料等が例示される。
【0024】
金属薄膜5は、アルミニウム、銀、金、銅、白金、インジウム、マグネシウム、ガリウム等の金属材料、窒化チタン等の遷移金属窒化物材料からなる金属製の均一の膜厚を有する薄膜であり、誘電体基板3の中に主面3aに沿って埋設されている。具体的には、金属薄膜5は、誘電体基板3の主面3a側の一方の面5aが誘電体基板3を構成する誘電体材料によって完全に覆われており、誘電体基板3の主面3aの反対側の主面3b側の他方の面5bも誘電体基板3を構成する誘電体材料によって完全に覆われている。言い換えれば、金属薄膜5は、一方の面5aと外部との間、及び他方の面5bと外部との間を光が透過可能なように誘電体基板3によって支持されている。
【0025】
金属薄膜5の形状について詳述すると、金属薄膜5は、X軸方向に沿って等間隔でZ軸に略平行な方向に折れ曲がるように形成されることにより、一方の面5aにおける第1の面構造と、他方の面5bにおける第1の面構造と表裏一体の第2の面構造とを有する。この第1の面構造は、X軸方向に沿って交互に特定の周期Tで周期的に形成され、Y軸方向に直線状に延びる凹面7a及び凸面7bを含む。また、第2の面構造は、X軸方向に沿って交互に特定の周期Tで周期的に形成され、Y軸方向に直線状に延びる凸面9b及び凹面9aを含む。これらの凹面7a及び凸面9bは、表裏一体の構造によりX軸方向に沿った幅Wが等しく形成されており、凸面7b及び凹面9aも、表裏一体の構造によりX軸方向に沿った幅Wが等しく形成されている。また、第1の面構造は、凹面7aと凸面7bとの間のZ軸方向の段差の距離がDとなるように形成され、第2の面構造は、凸面9bと凹面9aとの間のZ軸方向の段差の距離が第1の面構造と等しい値Dになるように形成される。幅Wと幅Wとは等しく設定されていても異なって設定されていてもよいが、本実施形態では等しく設定されている。
【0026】
上記でいう「周期」とは、凹面及び凸面のそれぞれの中心位置のX軸に沿って隣接する凹面及び凸面の中心位置とのX軸方向の距離のことであり、「幅」とは、凹凸面の両側の金属薄膜5の屈曲部分の中心の間のX軸方向の距離のことである。
【0027】
加えて、金属薄膜5には、第1の面構造の凹面7a及び凸面7bの中央の両方に、凹面7a及び凸面7bの延在方向(Y軸方向)に沿って直線状に延びる所定のスリット幅Wのスリット11が形成されている。このスリット11は、凹面7a及び凸面7bのそれぞれのX軸方向の中央から第2の面構造の凸面9b及び凹面9aの中央までZ軸方向に貫通している。このような構成により、凹面7aに形成されたスリット11はX軸方向に沿って周期Tで並ぶように配置され、凸面7bに形成されたスリット11もX軸方向に沿って周期Tで並ぶように配置されることとなる。
【0028】
次に、図3を参照して、フィルタ素子1の製造方法を示す手順を説明する。図3は、フィルタ素子1の各製造工程における加工状態を示す側面図である。
【0029】
なお、同図においてはフィルタ素子1の第1の面構造及び第2の面構造の加工状態を部分的に示している。
【0030】
まず、誘電体基板3の一部を形成することになる誘電体基板13を用意し、その誘電体基板13を洗浄する(図3の(a)部)。次に、その誘電体基板13の表面に電子線用レジスト15をスピンコートにより形成する(図3の(b)部)。
【0031】
その後、電子線用レジスト15に対して電子線描画装置により描画する(図3の(c)部)。詳細には、電子線用レジスト15としてポジ型レジストを用いる場合、第1の面構造の凹面7a及び第2の面構造の凸面9bに該当する箇所を描画する。この際、誘電体基板13の表面に沿って周期Tで1次元的に周期的に直線状のパターンを描画する。この工程により、誘電体基板13上に、一次元的に周期Tで周期的に繰り返される凹面7aに対応する露出面が形成されるとともに、一次元的に周期Tで周期的に繰り返される凸面7bに対応するパターンで電子線用レジスト15が残される。なお、パターンを描画する際にはナノインプリントによって行われてもよい。この周期Tは、凹凸面の周期を決定し、透過波長に対応するプラズモン共鳴波長を決める上で重要である。この工程で描画するパターンによって、第1の面構造及び第2の面構造における周期T及び幅W,Wが種々の値になるように制御される。
【0032】
さらに、パターンが描画された誘電体基板13をドライエッチングすることにより、第1の面構造の凹面7aに対応する部分を所定の深さで除去する(図3の(d)部)。このドライエッチングによって除去される深さにより、第1の面構造及び第2の面構造における段差の距離Dの値が制御される。
【0033】
そして、ドライエッチングで加工された誘電体基板13上から電子線用レジスト15を溶剤を用いて除去してから、誘電体基板13の表面上に、アルミニウム等の金属材料を真空蒸着あるいはスパッタにより成膜することにより、金属薄膜5が形成される(図3の(e)部)。この工程によって成膜する金属材料の膜厚により、金属薄膜5の膜厚が制御される。これによって、金属薄膜5において、一方の面上の凹面7a及び凸面7bを有する第1の面構造と、他方の面上の凸面9b及び凹面9aを有する第2の面構造とが、表裏一体の構造として形成される。
【0034】
その後、誘電体基板13上の金属薄膜5に対して第1の面構造から第2の面構造に貫通するスリット11が、集束イオンビーム加工装置を用いて金属薄膜5をエッチングすることにより形成される(図3の(f)部)。集束イオンビーム加工装置によってエッチングの幅を制御することにより、スリット11の幅Wの値が設定される。最後に、誘電体基板13上の金属薄膜5を覆うようにキャッピングにより誘電体材料を成膜することにより、金属薄膜5が埋設された誘電体基板3が形成される(図3の(g)部)。
【0035】
なお、上記の図3の(f)部及び(g)部に示した工程は、次のような工程に変更されてもよい。すなわち、金属薄膜5が形成された誘電体基板13上に電子線用レジスト17をスピンコートにより形成する(図3の(h)部)。その後、電子線用レジスト17に対して電子線描画装置により描画する(図3の(i)部)。詳細には、電子線用レジスト17としてポジ型レジストを用いる場合、第1の面構造上のスリット11に該当する箇所を描画する。この際、誘電体基板13の表面に沿って周期的に直線状のパターンを描画する。この工程により、誘電体基板13上に、一次元的に周期Tで周期的に繰り返される凹面7aの中央のスリット11に対応する露出面が形成されるとともに、一次元的に周期Tで周期的に繰り返される凸面7bの中央のスリット11に対応するパターンで露出面が形成される。この工程で描画するパターンによって、スリット11の幅Wが種々の値になるように制御される。さらに、パターンが描画された誘電体基板13をドライエッチングすることにより、金属薄膜5のスリット11に対応する部分を除去してスリット11を形成する(図3の(j)部)。そして、ドライエッチングで加工された誘電体基板13上から電子線用レジスト17を溶剤を用いてを除去してから、誘電体基板13上の金属薄膜5を覆うようにキャッピングにより誘電体材料を成膜することにより、金属薄膜5が埋設された誘電体基板3が形成される(図3の(k)部)。
【0036】
次に、図4図11を参照して、上述した製造方法によって製造されたフィルタ素子1の透過スペクトルをシミュレーションにより算出した結果を示すとともに、フィルタ素子1の構造パラメータの設定範囲について述べる。ここでは、フィルタ素子1に対して、主面3aに垂直に入射光を入射させた場合の主面3bから外部に透過する光の光透過率を計算した。
【0037】
図4には、凹面7a及び凸面7bの形成方向であるY軸方向に偏光方向を有するTE偏光の入射光とY軸方向に垂直な偏光方向(X軸方向)を有するTM偏光の入射光とを波長範囲400~1000nmで入射させた場合の光透過スペクトルを示している。ここでは、フィルタ素子1の構造パラメータとして、周期T=400nm、金属薄膜5の膜厚20nm、スリット幅W=20nm、段差D=30nm、幅W=幅W=T/2=200nmを想定した。この計算結果により、TM偏光の光を入射させた際には、フィルタ素子1は、600nm付近の特定の波長を中心とした狭帯域の透過特性を有し、透過率のピークが0.6まで上昇し、TE偏光の光を入射させた場合には、広い波長帯域において入射光を遮断する特性を有することが分かる。
【0038】
図5には、上記の構造パラメータのうちの周期Tのみを220nm~680nmの範囲で20nm間隔で変化させた場合のTM偏光に関する光透過スペクトルを示している。この計算結果より、周期Tを変化させることにより、400nm~1000nmまでの紫外から近赤外までの範囲で透過波長帯域が周期Tに対応して変化し、透過率のピークは0.5~0.6の範囲に維持されることが分かる。このような性質を踏まえ、本実施形態のフィルタ素子1においては、周期Tが220nm~680nmの範囲で設計されている。
【0039】
図6及び図7には、上記の構造パラメータのうちの金属薄膜5の膜厚のみを5~100nmの範囲で変化させた場合のTM偏光に関する光透過スペクトルを示している。この計算結果より、膜厚のパラメータが透過率及び透過波長帯域幅に影響を与えることが判明した。具体的には、膜厚を10nm、20nm、50nmと変化させた場合には、600nm付近に狭帯域の透過波長帯域を有し、透過率は0.4~0.6程度の値が確保される。一方で、膜厚を5mと薄くすると、金属薄膜5が広い波長帯域の光を透過することになることから、透過波長帯域幅が広がってしまう。また、膜厚を100nmと厚くした場合も透過波長帯域幅が広がってしまう。この計算結果より、透過波長の狭帯域化の観点からは膜厚は10nm~50nmの範囲が好適であり、透過波長の狭帯域化及び光透過率の向上のためには膜厚20nm付近が最適であると予想される。このような性質を踏まえ、本実施形態のフィルタ素子1においては、金属薄膜5の膜厚が10nm~50nmの範囲で設計されている。
【0040】
図8及び図9には、上記の構造パラメータのうちのスリット幅Wのみを0~50nmの範囲で変化させた場合のTM偏光に関する光透過スペクトルを示している。この計算結果より、スリット幅Wのパラメータも透過率及び透過波長帯域幅に影響を与えることが判明した。具体的には、スリット幅Wを0nm(スリットなし)、20nm、30nmと変化させた場合には、600nm付近に狭帯域の透過波長帯域を有し、透過率は0.4~0.7程度の値が確保される。一方で、スリット幅Wを50nmと大きくすると、スリットを広い波長帯域の光が透過することになることから、透過波長帯域幅が広がってしまう。この計算結果より、透過波長の狭帯域化の観点からはスリット幅Wは0nm~30nmの範囲が好適であり、透過波長の狭帯域化及び光透過率の向上のためにはスリット幅W=20nm付近が最適であると予想される。このような性質を踏まえ、本実施形態のフィルタ素子1においては、スリット幅Wが0nm~30nmの範囲で設計されている。
【0041】
図10及び図11には、上記の構造パラメータのうちの段差Dのみを10~100nmの範囲で変化させた場合のTM偏光に関する光透過スペクトルを示している。この計算結果より、段差Dのパラメータも透過率及び透過波長帯域幅に影響を与え、特に透過波長帯域幅に大きな影響を与えることが判明した。具体的には、段差Dを20nm、40nm、70nmと変化させた場合には、600~700nm付近に透過波長帯域を有し、透過率は0.4~0.6程度の値が確保される。一方で、段差Dを100nmと大きくすると、透過波長帯域のピークが消失し、長波長側に透過特性が生じてしまう。また、段差Dを10nmと小さくすると、透過波長のピークにおける光透過率が著しく低下してしまう。この計算結果より、光透過率の向上の観点からは段差Dは20nm~70nmの範囲が好適であり、透過波長の狭帯域化及び光透過率の向上のためには段差D=20~40nm付近が最適であると予想される。このような性質を踏まえ、本実施形態のフィルタ素子1においては、段差Dが20nm~70nmの範囲で設計されている。
【0042】
次に、図12を参照しながら、実施形態に係る撮像素子100の構成を説明する。図12は撮像素子100の一部を示す斜視図である。撮像素子100は外部からの入射光を基にカラー画像を取得するための素子であり、複数の画素が二次元的に配列されて構成されている。図12には、撮像素子100の一部の画素の構造が示されている。同図に示すように、撮像素子100は、受光素子が2次元的に配列された半導体基板103と半導体基板103の主面105に対向するようにそれぞれの受光素子に対応して設けられた複数のフィルタ素子1とを備える。半導体基板103は、主面105に沿って矩形状に分割された複数の画素部103a,103b,103c,103dを有している。それぞれの画素部103a,103b,103c,103dは、内部に受光素子が形成されており、主面105側から入射した光を検出して画素信号を生成する。複数のフィルタ素子1は、半導体基板103の主面105上の複数の画素部103a~103dを覆うように設けられている。これらの複数のフィルタ素子1は、透過波長帯域が互いに異なるように設計されている。撮像素子100は、図12に示すフィルタ素子1及び画素部103a,103b,103c,103dが主面105に沿って2次元的に複数連結されて構成されている。なお、撮像素子100においては、2次元的に連結されたフィルタ素子1が、互いに一体化されたものであってもよいし、それぞれが分離された部材であってもよい。2次元的に連結された画素部103a,103b,103c,103dが、半導体基板103として互いに一体化されたものであってもよいし、それぞれが分離された半導体基板103であってもよい。ただし、画素が微細化された際の製造効率を高めるためには、2次元的に配列されたフィルタ素子1、及び2次元的に配列された画素部103a,103b,103c,103dが、それぞれ、一体化されていることが好ましい。
【0043】
以上説明した本実施形態の作用効果について説明する。
【0044】
本実施形態のフィルタ素子1によれば、外部から金属薄膜5の一方の面5aに向けて光が入射すると、一方の面5a上において周期的な凹凸構造により分極が生じて表面プラズモン共鳴が励起される(カップリング)と同時に、これにより他方の面5b上においては一方の面5aとの間で干渉が生じることにより逆極性の分極が生じて表面プラズモン共鳴が誘起され、誘起された表面プラズモン共鳴が伝搬光に変換されて(デカップリング)他方の面5b側から外部に出射される。このように、金属薄膜5の両面に表面プラズモン共鳴を励起可能な構成を有することで、入射光の光透過率を向上させることができる。加えて、一方の面5aと他方の面5bとの両面に凹面及び凸面とが同一周期で交互に並んだ構造を有しているので、特定の波長帯域の入射光に対して金属薄膜5の両面で発生する表面プラズモンの共鳴性を高めることができる結果、入射光の透過波長の狭帯域化も実現することができる。あるいは、本実施形態の撮像素子100によれば、受光素子において高い光透過率で狭帯域化された所定の波長帯域の光を受光することができるので、波長選択性が高く、かつ、高感度の撮像素子を実現することができる。
【0045】
ここで、上記形態のフィルタ素子1においては、金属薄膜5は、第1の面構造の凹面7a及び凸面7bの両方の面上において、第2の面構造まで貫通するように特定の周期で周期的に形成された直線状のスリット11をさらに有している。このような構成により、スリット11において入射光の振動電界が集中することになり効率的に分極を生じさせることができるとともに、スリット11によって金属薄膜5に区切りを設けることになる結果、入射光によって生じる分極のモードも安定させることができる。これにより、フィルタ素子1によって光透過率の一層の向上と一層の透過波長の狭帯域化を実現できる。
【0046】
加えて、金属薄膜5の第1の面構造においては、凹面7a及び凸面7bは直線状に延びるように形成されており、スリット11は、凹面7aあるいは凸面7bの延在方向に沿って形成されている。このような構造により、特定の偏光方向を有する直線偏光の入射光を対象にして、光透過率の向上と透過波長の狭帯域化を実現できる。
【0047】
さらに、フィルタ素子1においては、金属薄膜5は膜厚が均一に形成されているので、金属薄膜5の両面に表面プラズモン共鳴を安定して励起することができ、入射光の光透過率をより向上させることができる。
【0048】
ここで、フィルタ素子1の構造パラメータのうち、周期Tは220nm~680nmの範囲に設定されており、金属薄膜5の膜厚は10nm~50nmの範囲に設定されており、スリット幅Wは0nm~30nmの範囲に設定されており、段差Dは20nm~70nmの範囲に設定されている。このような構造パラメータに設定されることにより、紫外から近赤外までの波長範囲の入射光に関して光透過率の向上と透過波長の狭帯域化を実現できる。特に、金属薄膜5の膜厚は10nm~50nmと比較的薄くすることで、金属薄膜5の両界面がお互いに干渉できる厚さとなり、狭帯域及び高光透過率を実現できる。また、スリット幅Wを0nm~30nmの範囲の微小な幅に設定することで、所望の波長領域以外の波長領域の光透過を防ぎつつ、表面プラズモン共鳴を金属薄膜5の両面で励起でき、狭帯域及び高光透過率を実現できる。
【0049】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上記実施形態においては下記の構成に変更されてもよい。
【0050】
例えば、金属薄膜5においてはスリット11を設けなくてもよい。図13は、変形例にかかるフィルタ素子1Aの一部を示す側面図である。この変形例では、凹面7a及び凸面7bに設けられるスリット11が省略されている。このような構造によっても、金属薄膜5の両面に表面プラズモン共鳴を励起可能とされ、入射光の光透過率を向上させることができ、入射光の透過波長の狭帯域化も実現することができる。
【0051】
図14には、フィルタ素子1Aにおいて、図4の特性の計算時に用いた構造パラメータのうちの周期Tを220nm~680nmの範囲で20nm間隔で変化させ、スリット幅W=0nm(スリットなし)に設定した場合のTM偏光に関する光透過スペクトルを示している。この計算結果より、周期Tを変化させることにより、400nm~1000nmまでの可視から近赤外までの範囲で透過波長帯域が周期Tに対応して変化し、透過率のピークは0.3~0.4の範囲に維持されることが分かる。特に、この変形例では短波長に透過波長領域を設定した際の長波長側の透過率が抑えられている。このような性質を踏まえ、本変形例のフィルタ素子1Aにおいても、周期Tが220nm~680nmの範囲で設計されている。
【0052】
また、金属薄膜5においては、第1の面構造の凹面7a及び凸面7bの面上の両方にスリット11が設けられている必要はなく、どちらか片方に設けられていてもよい。図15及び図16は、変形例にかかるフィルタ素子1B,1Cの一部を示す側面図である。フィルタ素子1Bでは凹面7aのみにスリット11が設けられ、フィルタ素子1Cでは凸面7bのみにスリットが設けられている。このような構造によっても、入射光の光透過率を向上させることができ、入射光の透過波長の狭帯域化も実現することができる。
【0053】
図17には、フィルタ素子1Bにおいて、図4の特性の計算時に用いた構造パラメータのうちの周期Tを140nmに設定した場合のTM偏光に関する光透過スペクトルを示している。この計算結果より、周期Tを設定することにより、400nmの紫外領域に透過波長帯域を設定でき、加えて長波長側の透過率を低く抑えられることが分かる。
【0054】
また、金属薄膜5は、両面が誘電体基板3の誘電体材料に覆われている必要はなく、どちらか片面は外部に露出されていてもよい。図18は、変形例にかかるフィルタ素子1Dの一部を示す側面図である。フィルタ素子1Dは、フィルタ素子1との相違点として、金属薄膜5において、一方の面5aが外部に露出され、他方の面5bが誘電体材料に覆われている構成を有する。このような構成によれば、一方の面5aと外部との間で空気中を入射光が透過可能とされる。
【0055】
図19には、フィルタ素子1Dにおいて、図4の特性の計算時に用いた構造パラメータのうちの周期Tを400~680nmの範囲で40nm間隔で変更した場合のTM偏光に関する光透過スペクトルを示している。この計算結果より、周期Tを設定することにより、400nm~700nmの波長範囲に透過波長帯域を設定でき、透過率も0.2~0.3の範囲に維持されることが分かる。
【0056】
図20は、変形例にかかるフィルタ素子1Eの一部を示す側面図である。フィルタ素子1Eは、フィルタ素子1Aとの相違点として、金属薄膜5において、一方の面5aが外部に露出され、他方の面5bが誘電体材料に覆われている構成を有する。このような構成によれば、一方の面5aと外部との間で空気中を入射光が透過可能とされる。
【0057】
図21には、フィルタ素子1Eにおいて、図4の特性の計算時に用いた構造パラメータのうちの周期Tを400~680nmの範囲で40nm間隔で変更し、スリット幅W=0nm(スリットなし)に設定した場合のTM偏光に関する光透過スペクトルを示している。この計算結果より、周期Tを設定することにより、400nm~700nmの波長範囲に透過波長帯域を設定でき、透過率も0.2程度に維持されることが分かる。
【0058】
また、金属薄膜5の第1及び第2の面構造は、必ずしも凹凸面及びスリットが全体に亘り同一方向に直線状に延びて形成されている必要はなく、複数の方向(例えば、互いに直交する二つの方向)に沿って直線状に延びるように屈折あるいは交わって形成されていてもよい。図22の(a)部、(b)部、(c)部、及び(d)部には、変形例に係る金属薄膜5A,5B,5C,5Dの平面図を示す。このような金属薄膜5A,5B,5C,5Dの構成おいては、直交する2つの方向に沿って周期的に直線状の凹凸面及び直線状のスリットが並ぶように配置される。
【0059】
図23の(a)部は金属薄膜の第1及び第2の面構造の凹凸面が、同一方向に直線状に延びて形成されている形態を表している。(b)部は前記(a)部の凹凸面のそれぞれにスリットが形成されている形態を表している。(c)部は前記(a)部または(b)部の金属薄膜を透過する透過光(プラズモン)の偏光の強度分布を表している。透過光の強度分布は、凹凸面と直行する方向に強い強度を持つ偏光特性を示し、この偏光特性により、入射光に対して透過光の透過率がかなり減少することがわかる。
【0060】
図24の(a)部は金属薄膜の第1及び第2の面構造の凹凸面が、互いに直交する二つの方向に直線状に延びて形成されている形態を表している。(b)部は前記(a)部の凹凸面のそれぞれにスリットが形成されている形態を表している。(c)部は前記(a)部または(b)部の金属薄膜を透過する透過光(プラズモン)の偏光の強度分布を表している。透過光の強度分布は、直交する二つの方向に偏光強度を持ち、ランダム偏光の入射光に対して透過光の透過率は図23よりも増加していることがわかる。
【0061】
図25の(a)部は金属薄膜の第1及び第2の面構造の凹凸面が、それぞれ60度の角度を持つ正三角形で形成されている形態を表している。(b)部は前記(a)部の凹凸面のそれぞれに60度の角度を持って、スリットが形成されている形態を表している。(c)部は前記(a)部または(b)部の金属薄膜を透過する透過光(プラズモン)の偏光の強度分布を表している。透過光の強度分布は60度の角度を持つ三つの方向に偏光強度を持ち、ランダム偏光の入射光に対して透過光の透過率が図24よりもさらに増加していることがわかる。
【0062】
図26の(a)部は金属薄膜の第1及び第2の面構造の凹面または凸面が、120度の角度を持つ正六画形で形成されている形態を表している。(b)部は前記(a)部の凹凸面のそれぞれに60度の角度を持って、スリットが形成されている形態を表している。(c)部は前記(a)部または(b)部の金属薄膜を透過する透過光(プラズモン)の偏光の強度分布を表している。透過光の強度分布は60度の角度を持つ三つの方向に偏光強度を持ち、ランダム偏光の入射光に対して透過光の透過率が図24よりもさらに増加していることがわかる。
【符号の説明】
【0063】
1,1A,1B,1C,1D,1E…フィルタ素子、3…誘電体基板、3a,3b…主面、5…金属薄膜(膜状部材)、5a,5b…面、7a,9a…凹面、7b,9b…凸面、11…スリット、100…撮像素子、103a,103b,103c,103d…画素部(受光素子)、D1…段差、T1…周期、W3…スリット幅。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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