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特許7560897EVOH抽出剤及びそれを用いたEVOH抽出方法、EVOH回収方法、EVOH抽出剤再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】EVOH抽出剤及びそれを用いたEVOH抽出方法、EVOH回収方法、EVOH抽出剤再生方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022576591
(86)(22)【出願日】2022-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2022000107
(87)【国際公開番号】W WO2022158287
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/002239
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】石川 真
(72)【発明者】
【氏名】勝西 純久
(72)【発明者】
【氏名】衣川 雅之
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/111118(WO,A1)
【文献】特公昭63-56256(JP,B2)
【文献】米国特許第4547329(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J11/00-11/28
C08J 3/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SP値が9~13である極性溶媒と第4級アンモニウム塩とを含有するEVOH抽出剤。
【請求項2】
上記極性溶媒が、エチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びフェニルグリコールからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載のEVOH抽出剤。
【請求項3】
上記第4級アンモニウム塩は、1質量%水溶液時のpHが11.5以上である請求項1又は2記載のEVOH抽出剤。
【請求項4】
請求項1~3いずれかのEVOH抽出剤を、EVOH層を有する複層樹脂成形体に付与し、EVOHを抽出するEVOH抽出方法。
【請求項5】
請求項1~3いずれかのEVOH抽出剤溶液に、EVOH層を有する複層樹脂成形体を浸漬し、EVOHを抽出する工程を有する請求項4記載のEVOH抽出方法。
【請求項6】
請求項4又は5のEVOH抽出方法により抽出したEVOHを含む溶液と、水及び/又は低級アルコールとを混合してEVOHを析出させ、濾過又は遠心分離する工程を有するEVOH回収方法。
【請求項7】
請求項6のEVOH回収方法によりEVOHを回収した後の残液から、水及び/又は低級アルコールを蒸留して除去する工程を有するEVOH抽出剤再生方法。
【請求項8】
更に、請求項7の工程で得られた残留物に、極性溶媒及び/又は水を添加する工程を有する請求項7記載のEVOH抽出剤再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EVOH抽出剤及びそれを用いたEVOH抽出方法、EVOH回収方法、EVOH抽出剤再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包装材料に代表されるガスバリア素材として性能を満たすために、異種材料を組み合わせた複層フィルムが多数上市されている。しかしながら、性質の異なるフィルムを積層しているため、これらの材料は分離が困難であり、それに伴って、地球環境保護等のためのマテリアルリサイクルを難しくしている。このような複層フィルムには、ガスバリアフィルムとして、造膜性、透明性、柔軟性等に優れるEVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)が多く用いられているが、各フィルムの層間に挟まれる形で存在していることが殆どであり、EVOHの回収をより一層困難にしている。
【0003】
これまで、水/エタノール混合物に溶解したEVOHをゲルに変換し、当該ゲルを破砕して、液体中に懸濁したポリマー粒子を形成させる方法が、ビニルアルコールポリマーを回収する方法として提案されている(特許文献1)。しかしながら、水/エタノール混合物では、複層フィルム層間に存在するEVOHを十分に溶解させることは難しい。
【0004】
また、無機フィラーを含有するポリビニルアルコール系樹脂成形体からリサイクル原料を製造する方法として、無機フィラーを含有するポリビニルアルコール系樹脂を水に溶解した後、炭素数3~6のアルコールを用いて、無機フィラーを含有するポリビニルアルコール系樹脂を析出させる方法が提案させている(特許文献2)。しかしながら、EVOHは水に溶解しないため、この方法を利用することはできない。
【0005】
また、ポリオレフィン再生可能材料を生成させる方法において、水性アルカリ金属水酸化物溶液を用いてアルカリ処理することにより、EVOHに基づくポリマーコーティングを除去し得ることが提案されている(特許文献3)。しかしながら、EVOHは、無機系アルカリ水溶液には溶解せず、また、EVOHを単離して回収することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2006-520415号公報
【文献】特開2014―218642号公報
【文献】特表2019-529191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、EVOH層を含む複層樹脂成形体から、EVOHを効率的に抽出することができる、EVOH抽出剤を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、EVOH層を含む複層樹脂成形体から、EVOHを効率的に抽出する方法及び回収する方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、EVOHを抽出した後に、本発明のEVOH抽出剤を再生する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、SP値が9~13である極性溶媒と第4級アンモニウム塩とを含有するEVOH抽出剤である。
【0009】
上記極性溶媒が、エチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びフェニルグリコールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記4級アンモニウム塩は、1質量%水溶液時のpHが11.5以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記EVOH抽出剤を、EVOH層を有する複層樹脂成形体に付与し、EVOHを抽出するEVOH抽出方法でもある。
上記EVOH抽出方法として、EVOH抽出剤溶液に、EVOH層を有する複層樹脂成形体を浸漬し、EVOHを抽出する工程を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記EVOH抽出方法により抽出したEVOHを含む溶液と、水及び/又は低級アルコールとを混合してEVOHを析出させ、濾過又は遠心分離する工程を有するEVOH回収方法でもある。
【0012】
更に、本発明は、上記EVOH回収方法によりEVOHを回収した後の残液から、水及び/又は低級アルコールを蒸留して除去する工程を有するEVOH抽出剤再生方法でもある。
上記工程で得られた残留物に、極性溶媒及び/又は水を添加する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のEVOH抽出剤により、EVOH層を含む複層樹脂成形体から、特異的にEVOHを溶解することで、複層樹脂成形体からのEVOHの抽出が可能となるものである。
また、本発明は、EVOHを効率的に回収することができるものである。
また、本発明は、EVOHを抽出した後に、EVOH抽出剤を効率的に再生し得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のEVOH抽出剤は、SP値が9~13である極性溶媒と第4級アンモニウム塩とを含有するものである。
本発明において、特定のSP値を持つ極性溶媒と有機系アルカリ化合物である第4級アンモニウム塩とを組み合わせて、EVOH抽出剤とすることで、複層樹脂成形体の層間に存在するEVOHを十分に抽出することができ、また、その後簡易な方法でEVOHを回収することができるものである。
【0015】
特定のSP値を持つ極性溶媒を用いることで、EVOHを溶解することができ、更に、複層樹脂成形体の層間に存在するEVOHの溶解を促進する。また、第4級アンモニウム塩を用いることで、EVOHの溶解を促進させることができ、特に、複層樹脂成形体に他の物質が含まれている場合には、それを除去することができることから、EVOHの抽出を効率的に行うことができる。また、これらを併用することによって、EVOH抽出剤の複層樹脂成形体の層間への浸透性が良好となり、層間に存在するEVOHの溶解を十分に行うことができるものである。
【0016】
本発明において使用する極性溶媒は、SP値が9~13であることが必要である。
SP値(溶解パラメーター(δ))は、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義された値であり、1cmの液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根(cal/cm1/2から計算されるものである。
本発明において、SP値がこの範囲である極性溶媒を使用することで、EVOH抽出剤中の有機系アルカリ化合物が複層樹脂成形体の層間に存在するEVOHに作用することを助け、EVOHを十分に溶解させることができる。
本発明において用いる極性溶媒のSP値は、10以上であることが好ましい。一方、SP値は、12以下であることが好ましい。
【0017】
上記SP値を有する極性溶媒として、具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:9.0)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(SP値:11.2)、イソプロパノール(SP値:11.5)、ジメチルホルムアミド(DMF)(SP値:11.9)、ジメチルスルホキシド((DMSO)SP値:12.0)、ベンジルアルコール(SP値:10.8)、フェニルグリコール(SP値:12.4)等が挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を併用してもよい。中でも、NMPが好ましい。
【0018】
本発明において使用する第四級アンモニウム塩は、1質量%水溶液時のpHが11.5以上であることが好適である。pHがこの範囲であれば、EVOH層を含む複層樹脂成形体に接着剤が使用されている場合、接着剤を溶解することが可能になるため、抽出液がよりEVOHに接触しやすくなり、EVOHの溶解が早まるという利点がある。
【0019】
本発明において使用する第四級アンモニウム塩として、具体的には、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(上記pH12.3)、モノメチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(上記pH12.1)、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド(上記pH12.5)、1質量%水溶液時のpHが11.5以上であるテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド(一例としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(上記pH12.9))等が挙げられる。
中でも、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が好ましい。
【0020】
本発明のEVOH抽出剤は、水溶液として用いることが好ましい。
EVOH抽出剤水溶液中の水の含有量は、5質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以上である。
一方、上限は、好ましくは40質量%であり、より好ましくは、30質量%である。
水含有量が、上記範囲内であれば、溶液として混合した際に均一な状態を保つことができ、かつ良好なEVOH溶解性を発現することが出来る。
【0021】
EVOH抽出剤水溶液中、上記極性溶媒は、50~90質量%含まれていることが好ましい。含有量の下限は、より好ましくは、60質量%であり、更に好ましくは、65質量%である。一方、含有量の上限は、より好ましくは80質量%であり、更に好ましくは75質量%である。
【0022】
EVOH抽出剤水溶液中、上記第四級アンモニウム塩は、1~20質量%含まれていることが好ましい。含有量の下限は、より好ましくは、3質量%であり、更に好ましくは、5質量%である。一方、含有量の上限は、より好ましくは18質量%であり、更に好ましくは15質量%である。
【0023】
また、上記極性溶媒と第四級アンモニウム塩との比は、20:1~5:1(質量比)であることが好ましい。
【0024】
更に、本発明のEVOH抽出剤は、界面活性剤を含有していることが好ましい。界面活性剤を含有することで、他の汚染物等が含まれている場合、フィルム等の複層樹脂成形体に残留している汚染物を乳化し、抽出剤が浸透する界面から汚染物を除去できるという点で有利に働く。
【0025】
上記界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤が好ましい。特に、HLB8~18の非イオン系界面活性剤が好ましい。
なお、本発明において、HLBは、グリフィン法により、次の算出式で定義される値である。
HLB値=20×[親水部の化学式量の総和]/分子量
【0026】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型;
グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のエステル型;
ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリーコール等のエステルエーテル型等が挙げられる。
中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等が好ましい。
【0027】
また、上記界面活性剤は1種でも、2種以上を併用してもよい。
また、界面活性剤の含有量は、EVOH抽出剤の水溶液中、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0028】
本発明において対象となる複層樹脂成形体は、特に限定されるものではなく、ガスバリア機能を有する層としてEVOH層をその層間に使用した複層樹脂成形体である。例えば、包装用フィルムやシート、包装容器等の包装材料、ガソリン等の燃料タンク、冷媒輸送用ホース、光学材料等、一般的に使用されているものが挙げられる。
【0029】
これら複層樹脂成形体は、2種以上の樹脂層を組み合わせて積層体としたものである。
EVOHは、通常、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂層、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂層、ポリアミド系樹脂層と共に、三層構造等の積層体の層間に存在する。
【0030】
複層樹脂成形体が複層フィルムの場合、未延伸ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、未延伸ポリプロピレン(CPP)樹脂フィルム、環状ポリオレフィン(COPあるいはCOC)樹脂フィルム、未延伸ポリエチレンと未延伸ポリプロピレンの共押し出しフィルム(PE/CPP)からなるオレフィン系フィルム群、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム、ポリアミド(PA)樹脂フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂フィルム、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリイミド(PI)樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂フィルム等が使用されている。本発明においては、いずれが使用されていても良い。
【0031】
また、上記複層樹脂成形体は各層を、接着剤を用いて接着してなるものであってもよい。接着剤としては、一般的に使用されているポリウレタン接着剤組成物等が挙げられる。これらの接着剤は、本発明のEVOH抽出剤中の第四級アンモニウム塩によって溶解するので、複層樹脂成形体の層間に存在するEVOHの抽出は、より問題なく行うことができる。
【0032】
EVOHは、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、一般的には酢酸ビニルが用いられる。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられている。得られたエチレン-ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。このようなEVOHは、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位とを主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0033】
本発明においては、特に、EVOHのエチレン単位含有率が、好ましくは3~70モル%、より好ましくは25~50モル%であるようなEVOHに対して好適に作用し得る。
かかるエチレン単位含有率は、例えば、H-NMR測定から求めることができる。
【0034】
EVOHにおけるビニルエステル成分のケン化度は、EVOHの特性としてガスバリア性に影響を及ぼさない限り、特には限定されない。
【0035】
なお、EVOHには、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれているものであってもよい。前記コモノマーは、プロピレン、イソブテン、酢酸ビニル、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1、2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などのヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体、不飽和カルボン酸又はその塩・部分アルキルエステル・完全アルキルエステル・ニトリル・アミド・無水物、不飽和スルホン酸又はその塩、ビニルシラン化合物、塩化ビニル、スチレン等のコモノマーが挙げられる。更に、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂であってもよい。
【0036】
本発明のEVOH抽出方法は、本発明のEVOH抽出剤を、EVOH層を有する複層樹脂成形体に付与し、EVOHを抽出する方法である。例えば、上記EVOH抽出剤溶液に、EVOH層を有する複層樹脂成形体を浸漬し、EVOHを抽出する方法が好適である。
【0037】
浸漬するEVOH層を有する複層樹脂成形体の形態は、任意に設定すればよく、成形体のままでも、適宜破砕、粉砕等することにより、小片状、粒状等にしてから浸漬してもよい。
【0038】
また、EVOH抽出時の溶液の温度は、常温でも良いが、60~100℃とすることが好ましい。また、オートクレーブ等を使用して抽出を行っても良い。
また、EVOH抽出時には、EVOH層を有する複層樹脂成形体を浸漬した溶液を撹拌したり、振動を与えたり等することが好適である。
【0039】
本発明のEVOH抽出剤を用いることにより、複層樹脂成形体中のEVOHのみを選択的に溶解させ、EVOHを抽出することができる。
【0040】
次に、本発明のEVOH回収方法は、上記EVOH抽出方法により抽出したEVOHを含む溶液に、水及び/又は低級アルコールを添加し、EVOHを析出させ、濾過又は遠心分離する工程を有するEVOH回収方法である。
水及び/又は低級アルコールを添加した後、撹拌したり、振動を与えたり等、することが好適である。
【0041】
具体的には、例えば、上記のようにしてEVOHを抽出した後、当該水溶液を濾過等により、溶解していない樹脂等を除去し、抽出したEVOHを含む溶液を得る。次いで、抽出したEVOHを含む溶液に、貧溶媒として、水及び/又は低級アルコールを添加した後、溶液を静置し、必要に応じて、冷却等して、EVOHを析出させる。
【0042】
その後、濾過または遠心分離等により、EVOHを溶液から分離し、EVOHを回収する。
上記濾過または遠心分離等は、一般的な装置を用い、一般的な方法に従って行えばよく、その条件も適宜設定すればよい。
更に、回収したEVOHを、乾燥機等を用いて乾燥してもよい。
【0043】
上記水及び/又は低級アルコールは、溶解したEVOHを析出させる際に貧溶媒として作用するものである。
上記低級アルコールとしては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。
水及び/又は低級アルコールの割合が、抽出したEVOHを含む溶液中、50~95質量%となるように、水及び/又は低級アルコールを添加することが好ましい。
このような範囲とすることで、溶解していたEVOHの析出を良好に行うことができる。
【0044】
上記のようにして回収したEVOHは、純度が高く、再生樹脂として、再度複層樹脂成形体の原料に使用され得るものである。
【0045】
更に、本発明のEVOH抽出剤の再生方法は、EVOHを回収した後の残液から、水及び/又は低級アルコールを蒸留して除去する工程を有する、EVOH抽出剤再生方法である。
上記蒸留は、一般的な装置を用い、一般的な方法に従って行えばよく、その条件も適宜設定すればよい。
【0046】
上記蒸留工程において、EVOH抽出剤中の極性溶媒の沸点が、水の沸点と同等又は低いものである場合であっても、第4級アンモニウム塩が存在することにより、除去されにくいことがある。よって、蒸留工程において、このような極性溶媒は、ある程度残留し、水は除去される。
【0047】
また、上記蒸留工程で得られた残留物に、極性溶媒及び/又は水を添加する工程を有するようにしてもよい。すなわち、蒸留により得られた残留物に、極性溶媒及び/又は水を添加し、それぞれの混合割合を調整することにより、EVOH抽出剤としてEVOHの抽出に使用することができる。
【0048】
このように、本発明により、EVOHやEVOH抽出剤を再生し、再び活用し得ることで、地球環境保護等に役立つことができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中、「部」「%」とある場合は、特に限定のない限りは、「質量部」「質量%」をあらわす。
【0050】
〔実施例1〕
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)70質量%、第4級アンモニア塩として、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(四日市合成株式会社製、AH212-CS(製品名)、1質量%水溶液時のpHが12.3)7.5質量%、水22.5質量%のEVOH抽出剤水溶液を調製し、下記方法により、EVOHフィルムの溶解性試験と、EVOHを中間層に含んだ積層フィルムからのEVOH抽出試験を行った。
【0051】
(EVOHフィルムの溶解性試験)
(1)EVOH抽出剤水溶液10gに、1cm角に切断したEVOHフィルム(エチレン含有率32mol%)を投入した。
(2)(1)のEVOH抽出剤水溶液を80℃に加温した後、5~10分間その状態を維持し、EVOHフィルムが溶解するか確認した。
(3)下記基準により判定した。
<判定基準>
◎:EVOHを5分以内に溶解可能
〇:EVOHを10分以内に溶解可能
△:EVOHが一部溶解するものの溶け残りあり
×:EVOH不溶
【0052】
(積層フィルムからの抽出試験)
(1)EVOH抽出剤水溶液10gに、1cm角に切断した積層フィルム(PP/EVOH/PP)を投入した。
(2)(1)のEVOH抽出剤水溶液を80℃に加温した後、1~3時間その状態を維持し、中間層のEVOHが溶解するか確認した。
(3)下記基準により判定した。
<判定基準>
◎:EVOHを1時間以内に溶解可能
〇:EVOHを3時間以内に溶解可能
△:EVOHが一部溶解するものの溶け残りあり
×:EVOH不溶
判定の結果を表1に示す。
【0053】
〔実施例2~4〕
EVOH抽出剤の水溶液の組成を、表1に示すようにした他は、実施例1と同様にして、各試験を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0054】
〔実施例5~8〕
EVOH抽出剤の水溶液の組成を、表2に示すようにした他は、実施例1と同様にして、各試験を行った。
なお、非イオン系界面活性剤として、ノイゲンXL-80(第一工業製薬社製、HLB13.8)(エーテル型)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(第一工業製薬社製、ソルゲンTW-60、HLB14.9)(エステル型)を使用した。
結果を表2に併せて示す。
【0055】
〔実施例9~11〕
EVOH抽出剤の水溶液の組成を、表3に示すようにした他は、実施例1と同様にして、各試験を行った。
結果を表3に併せて示す。
【0056】
〔比較例1~8〕
EVOH抽出剤の水溶液の組成を、表4、表5に示すようにした他は、実施例1と同様にして、各試験を行った。
結果を表4、表5に併せて示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
表1~5の結果から、実施例のEVOH抽出剤の水溶液は、EVOHフィルムの溶解性も、積層フィルム間のEVOHの溶解性にも優れたものであった。一方、比較例の溶液は、いずれも満足のいくEVOHの溶解性は得られなかった。特に、比較例7の水溶液は、均一に混合することができず、また、EVOHも不溶であった。
【0063】
〔実施例12〕
(EVOHの回収)
実施例1のEVOHフィルムの溶解性試験において得られた、EVOHフィルムが溶解した溶液を用い、この溶液5gに、貧溶媒として、水を45g添加して混合した後、混合溶液を90分間静置し、EVOHを析出・沈殿させた。
次に、EVOHが沈殿した溶液を濾過することにより、溶液を除去した。得られたEVOHを吸引ろ過により回収し乾燥した。EVOHの回収率は、99%であった。
【0064】
〔実施例13〕
(EVOH抽出剤の再生)
実施例12の濾過後の残液を用い、この残液から貧溶媒を蒸留により除去し、残留物3.5gを得た。
得られた残留物が、NMPと第4級アンモニウム塩とを含むものであることを確認するために、得られた残留物に、水1.1gを添加してEVOH抽出剤溶液とし、1cm角の複層フィルム(ONY/EVOH/ONY)(ONY:延伸ナイロンフィルム)を用いて、実施例1の方法に準じてEVOH抽出試験を行ったところ、複層フィルム中のEVOHが溶解して、ONYフィルムがそれぞれ剥離したことが確認された。上記で得られた残留物を用いた溶液がEVOHを抽出したことから、EVOH抽出剤が再生されていたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、EVOHやEVOH抽出剤を再生し、再び活用し得ることで、地球環境保護等に役立つものができる。