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特許7560913油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/24 20060101AFI20240926BHJP
   D21B 1/08 20060101ALI20240926BHJP
   D21H 11/14 20060101ALI20240926BHJP
   D21C 5/02 20060101ALI20240926BHJP
   C02F 1/40 20230101ALI20240926BHJP
【FI】
B01J20/24 C
D21B1/08
D21H11/14
D21C5/02
C02F1/40 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024065110
(22)【出願日】2024-04-15
【審査請求日】2024-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523341783
【氏名又は名称】株式会社セルマップ
(74)【代理人】
【識別番号】100151688
【弁理士】
【氏名又は名称】今 智司
(72)【発明者】
【氏名】青木 憲治
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-158391(JP,A)
【文献】特開2016-198723(JP,A)
【文献】特開2022-074353(JP,A)
【文献】特開昭60-150832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に浮く油吸着用の吸着体であって、
セルロース系材料と、
前記セルロース系材料に含ませられている撥水剤であって、ワックス系撥水剤及びシリコーン系撥水剤を除く前記撥水剤
を有し、
前記セルロース系材料が、95wt%以上であり、
前記撥水剤が、外割で0.2wt%以上5.0wt%以下である油吸着用の吸着体。
【請求項2】
前記油吸着用の吸着体を水に投入した場合、投入時から少なくとも24時間以上、水に浮く請求項1に記載の油吸着用の吸着体。
【請求項3】
前記撥水剤の添加量に対する前記油吸着用の吸着体の吸油量の比が100以上である請求項1に記載の油吸着用の吸着体。
【請求項4】
前記撥水剤の25℃における粘度が、300mPa・s以下である請求項1に記載の油吸着用の吸着体。
【請求項5】
前記セルロース系材料の原料が、紙、古紙、再生紙、コート紙、クラフト紙、段ボール、古紙段ボール、茶殻、及び麻袋からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載の油吸着用の吸着体。
【請求項6】
前記セルロース系材料が、解繊処理してなるセルロース含有材料である請求項1に記載の油吸着用の吸着体。
【請求項7】
水に浮く油吸着用の吸着体の製造方法であって、
セルロース系材料を解繊する解繊工程と、
ワックス系撥水剤及びシリコーン系撥水剤を除く撥水剤を水で希釈した撥水剤水溶液を調製する調製工程と、
解繊した前記セルロース系材料に前記撥水剤水溶液を含浸させる含浸工程と
を備え、
前記セルロース系材料が、95wt%以上であり、
前記撥水剤が、外割で0.2wt%以上5.0wt%以下である油吸着用の吸着体の製造方法。
【請求項8】
水に浮く油吸着用の吸着体の製造方法であって、
セルロース系材料を解繊する解繊工程と、
解繊した前記セルロース系材料とワックス系撥水剤及びシリコーン系撥水剤を除く撥水剤を含む撥水剤溶液とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を抄紙してシートを得る抄紙工程と、
前記シートを解繊する再解繊工程と
を備え、
前記セルロース系材料が、95wt%以上であり、
前記撥水剤が、外割で0.2wt%以上5.0wt%以下である油吸着用の吸着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法に関する。特に、本発明は、水に浮く油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食店や商業施設、食品加工施設等から出される廃油の回収を目的とし、油吸着体の原料として天然繊維を含む古紙等を利用する様々な技術開発がなされている。例えば、外表面の略全体に亘ってワックスでコーティングされた段ボールを繊維状に粉砕して油吸着体を製造する油吸着体の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の油吸着体によれば、油を大量に吸着できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-165914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている油吸着体においては、段ボールをワックスでコーティングするに際し、段ボールの20重量%以上もの大量のワックスを用いることを要するため製造コストの低減が困難である。また、特許文献1に記載の油吸着体は、段ボール表面にワックスをコーティングしているだけであるので、ワックスが段ボール表面から剥離しやく、油を吸着する効果が低下する場合や、油吸着体を水面に浮かべて時間が経過すると水中に没する場合がある。油吸着体が水中に没してしまうと、油を吸着した油吸着体の回収が困難になる。
【0005】
したがって、本発明の目的は、比較的少量の所定の化合物を用いることで、水に浮くと共に油を十分に吸着可能な油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、水に浮く油吸着用の吸着体であって、セルロース系材料と、セルロース系材料に含ませられている撥水剤であって、ワックス系撥水剤及びシリコーン系撥水剤を除く撥水剤とを有し、セルロース系材料が、95wt%以上であり、撥水剤が、外割で0.2wt%以上5.0wt%以下である油吸着用の吸着体が提供される。
【0007】
また、本発明は上記目的を達成するため、水に浮く油吸着用の吸着体の製造方法であって、セルロース系材料を解繊する解繊工程と、ワックス系撥水剤及びシリコーン系撥水剤を除く撥水剤を水で希釈した撥水剤水溶液を調製する調製工程と、解繊したセルロース系材料に撥水剤水溶液を含浸させる含浸工程とを備え、セルロース系材料が、95wt%以上であり、撥水剤が、外割で0.2wt%以上5.0wt%以下である油吸着用の吸着体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法によれば、比較的少量の所定の化合物を用いることで、水に浮くと共に油を十分に吸着可能な油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
<油吸着用の吸着体の概要>
本発明の実施の形態に係る水に浮く油吸着用の吸着体は、セルロース系材料と、セルロース系材料に含ませられている撥水剤とを有して構成される。すなわち、水に浮く油吸着用の吸着体(以下、単に「油吸着用の吸着体」若しくは「吸着体」と称する場合がある。)は、セルロース系材料と撥水剤とを有し、撥水剤はセルロース系材料の表面からセルロース系材料の内部に含侵若しくは吸い込ませて構成される。また、油吸着用の吸着体は、セルロース系材料に対し、少量(数wt%程度)の撥水剤を添加して製造される。
【0010】
このようにセルロース系材料に撥水剤を含ませた油吸着用の吸着体は、撥水剤を少量添加しただけであるにもかかわらず、油が混入している水に投入した場合、水に沈まずに大量の油を吸着することができる。そのため、本実施形態に係る油吸着用の吸着体によれば、廃油を含む排水に投入するだけで大量の油を吸着すると共に、油を吸着した後も水に沈まないので(排水の流れによる水圧を受けても水に沈まないので)、油吸着後の油吸着用の吸着体を極めて容易に回収できる。
【0011】
<油吸着用の吸着体の詳細>
本実施形態に係る油吸着用の吸着体は、水に浮く油吸着用の吸着体である。そして、油吸着用の吸着体は、セルロース系材料と、セルロース系材料に含ませられている撥水剤とを有し、セルロース系材料が95wt%以上であり、撥水剤が0.2wt%以上5.0wt%以下である。なお、本実施形態における撥水剤の添加割合は、外割により算出される。例えば、外割の比率は、セルロース系材料の質量を100wt%としたとき、当該セルロース系材料に対する撥水剤の存在量をwt%で表した値を意味する。
【0012】
(セルロース系材料)
セルロース系材料は、吸水性を有するセルロース系材料である。具体的にセルロース系材料としては、植物由来のセルロース繊維、動物由来のセルロース繊維(例えば、ホヤ、海草等から単離されるセルロース繊維)、微生物由来のセルロース繊維(例えば、酢酸菌が産出するセルロース繊維等)等の中から1種以上のセルロース繊維を選択して用いることができる。なお、セルロース系材料として、パラフィン等を予め含浸させた材料であって、所定の用途に用いられた後に廃棄された材料をセルロース系材料として用いてもよい。
【0013】
植物由来のセルロース繊維の原料としては、例えば、木材、竹、麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布等の天然植物原料から得られるパルプ等の植物繊維が挙げられる。また、セルロース繊維の原料としては、紙(クラフト紙、コピー用紙等)、古紙(新聞古紙、段ボール古紙、雑誌古紙、コピー用紙古紙等)、再生紙、コート紙、クラフト紙、段ボール、古紙段ボール、茶殻、コーヒー殻、コットンリンター、及び/又は麻袋等が挙げられる。なお、木材としては、一例として、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等が挙げられる。また、セルロース繊維の原料は、1種単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0014】
また、セルロース系材料は、原料に解繊処理を施して得られる繊維状のセルロース系材料、つまり、セルロース繊維を含むセルロース含有材料を用いることが好ましい。セルロース系材料に適切に撥水剤を含ませる観点から、原料に解繊処理を施して得られるセルロース繊維の繊維長は、例えば、0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることも好ましく、10.0mm以下であることが好ましく、5.0mm以下であることも好ましく、2.5mm以下であることも好ましい。また、同様に、原料に解繊処理を施して得られるセルロース繊維の繊維幅は、例えば、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることも好ましく、20μm以上であることも好ましく、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることも好ましく、50μm以下であることも好ましく、30μm以下であることも好ましい。
【0015】
(セルロース系材料の配合量)
本実施形態に係る油吸着用の吸着体においてセルロース系材料の配合量は、90wt%以上であり、95wt%以上であることが好ましく、98wt%以上であることも好ましいく、99wt%以上であってもよい。
【0016】
(撥水剤)
撥水剤としては、紙等に耐水性を付与する化合物を用いることができる。具体的に撥水剤は、カチオン性若しくはアニオン性のサイズ剤を用いることが好ましい。サイズ剤としては、ロジンを主成分とするロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマーを主成分とするアルキルケテン(AKD)系サイズ剤、アルケニルコハク酸無水物を主成分とするアルケニルコハク酸無水物系サイズ剤、合成樹脂を主成分とするスチレンアクリレート系サイズ剤等を用いることができる。これらサイズ剤の25℃における粘度は、セルロース系材料へ吹き付けやすくする観点から、300mPa・s以下であり、200mPa・s以下であってよく、150mPa・s以下であってよく、100mPa・s以下であってよく、50mPa・s以下であってもよい。なお、本実施形態において撥水剤としては、ワックス(ワックス系撥水剤)、シリコーン系撥水剤、及び/又はジルコニウム系撥水剤は除かれる。
【0017】
(撥水剤の配合量)
本実施形態に係る油吸着用の吸着体において撥水剤の配合量は外割で、0.1wt%以上であり、0.2wt%以上であってもよく、0.4wt%以上であってもよく、5.0wt%以下であり、1.0wt%以下であってもよく、2.0wt%以下であってもよい。なお、セルロース系材料100質量部に対し、撥水剤の配合量は0.2質量部以上であってよく、0.4質量部以上であってもよく、5.0質量部以下であってよく、2.0質量部以下であってよい。
【0018】
(その他の添加剤)
本実施形態に係る油吸着用の吸着体に、油吸着用の吸着体の物性等を損なわない範囲で必要に応じ、物性調整剤、補強剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、紫外線分散剤、溶剤、香料、消臭剤、顔料、染料、フィラー、タルク等の各種添加剤を加えてもよい。
【0019】
(油吸着用の吸着体の吸水性)
本実施形態に係る油吸着用の吸着体は、水に浮く吸着体である。具体的に、油吸着用の吸着体を水に投入した場合、投入時から少なくとも24時間以上、水に浮く。また、吸着体が油を吸着した後も水に浮く。
【0020】
(油吸着用の吸着体における撥水剤の添加量に対する吸油量の割合)
本実施形態に係る油吸着用の吸着体は、油吸着用の吸着体の製造時の撥水剤の添加量に対する油吸着用の吸着体の吸油量の割合が所定値以上であるように製造される。例えば、油吸着用の吸着体x(g)を油が混入した水に投入し、油吸着用の吸着体がy(g)の油を吸着したとする。また、この油吸着用の吸着体の製造における撥水剤の添加量がa(wt%)であるとする。この場合、油の吸着に用いた油吸着用の吸着体中の撥水剤の量はA=(a×x)/100(g)である。したがって、撥水剤の添加量に対する吸油量の割合(以下、この割合を「B」と表すことがある。)は、y/A(g/g)で表される。
【0021】
そして、本実施形態においては、Bは100以上であり、200以上であってもよく、1,000以上であってもよく、3,000以上であってもよく、5,000以上であってもよい。
【0022】
<他の用途>
本実施形態に係る吸着体は水をほとんど吸収しない(つまり、吸湿しない)ため、以下の用途にも利用することができる。
【0023】
((a)防カビ用の部材)
防カビ用の部材であって、
セルロース系材料と、
前記セルロース系材料に含ませられている撥水剤と
を有し、
前記セルロース系材料が、95wt%以上であり、
前記撥水剤が、外割で0.2wt%以上5.0wt%以下である防カビ用の部材。
【0024】
セルロース系材料は、その表面に撥水剤を含ませられていることから、空気中の水分がセルロース系材料内に吸湿されることが妨げられる。これにより、防カビ用の部材にカビが発生することを防止できる。
【0025】
((b)断熱用の部材)
断熱用の部材であって、
セルロース系材料と、
前記セルロース系材料に含ませられている撥水剤と
を有し、
前記セルロース系材料が、95wt%以上であり、
前記撥水剤が、外割で0.2wt%以上5.0wt%以下である断熱用の部材。
【0026】
セルロース系材料は、解繊して得られるセルロース系材料を用いることができる。これにより、セルロース系材料は、空隙を含んで構成され、この空隙に空気が含まれることにより断熱性能が発揮される。また、セルロース系材料の表面に撥水剤が含ませられていることから、断熱用の部材にカビが発生することも防止できる。
【0027】
なお、防カビ用の部材、及び/又は断熱用の部材それぞれの構成要素は、本実施形態に係る油吸着用の吸着体の構成要素の一部若しくは全部と同一であってもよい。
【0028】
<油吸着用の吸着体の製造方法1(サイズ剤処理法)>
本実施形態に係る水に浮く油吸着用の吸着体は以下のようにして製造できる。まず、セルロース系材料の原料を機械解繊等により解繊する(解繊工程)。これにより、所定繊維長であって所定繊維幅であるセルロース系材料が得られる。一方、所定量の所定の撥水剤(サイズ剤)を水(例えば、蒸留水)で希釈した撥水剤水溶液を調製する(調製工程)。そして、解繊工程により得られた解繊したセルロース系材料に調製工程で調製した撥水剤水溶液を含浸させる(含浸工程)。この場合において、セルロース系材料が95wt%以上であり、撥水剤が外割で0.2wt%以上5.0wt%以下になるように各材料の配合量を調整する。また、含浸工程は、例えば、霧状にした撥水剤水溶液を解繊したセルロース系材料に1回以上、吹き付けることで撥水剤をセルロース系材料に含ませることができる。これにより、撥水剤は、セルロース系材料の表面の少なくとも一部からセルロース系材料の内部に含侵する。
【0029】
そして、撥水剤水溶液が含浸したセルロース系材料を所定容器内において所定時間、エージングする(エージング工程)。エージング工程後、撥水剤水溶液が含浸したセルロース系材料を、所定温度で所定時間、加熱若しくは加温することで乾燥させる(乾燥工程)。これにより、本実施形態に係る水に浮く油吸着用の吸着体が製造される。
【0030】
<油吸着用の吸着体の製造方法2(内部添加法[内添法])>
また、本実施形態に係る水に浮く油吸着用の吸着体は以下の方法を用いて製造することもできる。まず、セルロース系材料の原料を機械解繊等により解繊する(解繊工程)。これにより、所定繊維長であって所定繊維幅であるセルロース系材料が得られる。この解繊処理をしたセルロース系材料と所定量の所定の撥水剤を含有する撥水剤溶液とをタンク等の容器内で混合して混合物を調製する(混合工程)。続いて、湿式抄紙装置を用いた所定の調成工程、所定の抄造工程、所定のシート化、及び/又は乾燥巻取り等の乾燥工程等の各工程により、混合後の混合物を抄紙してシートを製造する。当該シートはロールとして巻き取ることもできる。そして、当該シートを機械解繊等により解繊することで(再解繊工程)、本実施形態に係る水に浮く油吸着用の吸着体が製造される。なお、混合工程においては、湿式抄紙装置を用いた各工程後に得られるシートに所望の濃度の撥水剤を含有させる観点(つまり、脱水後の解繊セルロース質量に対して外割で目的とする濃度の撥水剤を残存させる観点。具体的には当該シートのセルロース系材料が95wt%以上であり、撥水剤が外割で0.2wt%以上5.0wt%以下にさせる観点)から、セルロース系材料と混合する撥水剤の濃度は当該シートに含ませる所望の濃度よりも高い濃度に設定する。
【0031】
<実施の形態の効果>
本実施形態に係る水に浮く油吸着用の吸着体は、ごく少量の撥水剤をセルロース系材料に含ませるだけで、多量の油を水に浮いたまま吸着することができる。これにより、本実施形態に係る吸着体を用いれば、例えば、ホテル・旅館、レストラン・食堂、及び/又はサービスエリア等の厨房、並びに食品加工設備等からの排水に含まれる油分を効率的に吸着できる。なお、厨房等に設置されているグリストラップに本実施形態に係る油吸着用の吸着体を投入すると、吸着体が浮いた状態を維持したまま大量の油を吸着体に吸着させることができる。したがって、本実施形態に係る油吸着用の吸着体は、大量の油を吸着した状態でも水に浮かんでいるので、吸着体の回収が容易であり、油回収の作業効率を向上させることができる。
【0032】
[実験例]
以下に実験例を挙げて更に具体的に説明する。なお、これらの実験例は例示であり、限定的に解釈されるべきではない。
【0033】
<油吸着用の吸着体の製造>
(セルロース系材料の調製)
セルロース系材料の原料として以下の原料を用いた。
・段ボール
・麻袋
・コットンリンター
【0034】
機械解繊装置(株式会社石川総研製「ATOMZ」)を用いて各原料に解繊処理を施し、スクリーン径φ10(繊維長:1~2.5mm、繊維幅:20~30μm)のパス品(φ10のスクリーンを通して得られるサンプルであるパス品)を得た。すなわち、以下の各パス品を得た。
【0035】
(パス品一覧)
・段ボール解繊品(φ10)
・麻袋解繊品(φ10)
・コットンリンター解繊品(φ10)
【0036】
(サイズ剤)
一方、撥水剤としては以下のサイズ剤を用いた。以下のサイズ剤はいずれも荒川化学工業株式会社製である。また「サイズパイン」は登録商標である。
・サイズパインK903-20(固形分20wt%)
カチオン性を示すアルキルケテンダイマー(AKD)エマルジョンサイズ剤。
・サイズパイン924(固形分30wt%)
アニオン性を示すAKDエマルジョンサイズ剤。
・サイズパインN―775(固形分50wt%)
アニオン性を示すロジンエマルジョンサイズ剤。
・サイズパインE(固形分30wt%)
アニオン性を示すロジン溶液(中和塩)サイズ剤。
【0037】
(油吸着用の吸着体の製造-実験例1~18)
原料である段ボール解繊品(φ10)の質量に対し、サイズ剤(サイズパインK903-20)の固形分量が外割で0.20wt%(サイズ剤添加量が0.20wt%)になるようにして実験例1に係る吸着体を製造した。まず、サイズ剤を蒸留水で所定濃度(サイズ剤1g、蒸留水199g、濃度0.1wt%)に希釈したサイズ剤水溶液200gを調製した。次に、ポリ袋に原料100gを投入し、調製して得たサイズ剤水溶液を原料に霧吹きで吹きかけた。そして、ポリ袋内においてサイズ剤水溶液が吹きかけられた原料を24時間、室温でエージングし、原料にサイズ剤を浸み込ませた。エージング後、サイズ剤が浸み込んだ原料を棚段式加熱真空乾燥機に入れ、真空減圧下、120℃で1時間、乾燥させた。これにより、実験例1に係る吸着体を得た。
【0038】
上記と同様にして、実験例2に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインK903-20、サイズ剤添加量:0.40wt%)、実験例3に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインK903-20、サイズ剤添加量:0.80wt%)、実験例4に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインK903-20、サイズ剤添加量:2.00wt%)、実験例5に係る吸着体(サイズ剤:サイズパイン924、サイズ剤添加量:0.20wt%)、実験例6に係る吸着体(サイズ剤:サイズパイン924、サイズ剤添加量:0.40wt%)、実験例7に係る吸着体(サイズ剤:サイズパイン924、サイズ剤添加量:0.80wt%)、実験例8に係る吸着体(サイズ剤:サイズパイン924、サイズ剤添加量:1.00wt%)、実験例9に係る吸着体(サイズ剤:サイズパイン924、サイズ剤添加量:2.00wt%)、実験例10に係る吸着体(サイズ剤:サイズパイン924、サイズ剤添加量:4.00wt%)、実験例11に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインN-775、サイズ剤添加量:0.40wt%)、実験例12に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインN-775、サイズ剤添加量:1.00wt%)、実験例13に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインN-775、サイズ剤添加量:2.00wt%)、実験例14に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインN-775、サイズ剤添加量:3.00wt%)、実験例15に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインN-775、サイズ剤添加量:4.00wt%)、実験例16に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインE、サイズ剤添加量:0.40wt%)、実験例17に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインE、サイズ剤添加量:1.00wt%)、実験例18に係る吸着体(サイズ剤:サイズパインE、サイズ剤添加量:2.00wt%)をそれぞれ製造した。また、原料にサイズ剤の代わりに水道水200gを用いて同様に処理したサイズ剤を含まないブランクサンプルを製造した。
【0039】
更に、上記と同様にして各原料それぞれに各サイズ剤それぞれを適用した実験例に係る吸着体を製造すると共に、各原料それぞれのブランクサンプルを製造した。すなわち、原料を麻袋にした点を除き、実験例1~10と同様にして実験例19~実験例21に係る吸着体及びブランクサンプルを製造し、原料をコットンリンターにした点を除き実験例5~実験例10と同様にして実験例22~実験例23に係る吸着体及びブランクサンプルを製造した。各実験例におけるセルロース系材料及びサイズ剤の配合量は表1~表3に示すとおりである。具体的に、表1は段ボール解繊品を用いた吸着剤の製造の結果であり、表2は麻袋解繊品を用いた吸着剤の製造の結果であり、表3はコットンリンター解繊品を用いた吸着剤の製造結果である。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
<吸油試験>
各実験例及びブランクサンプルに係る吸着体について、以下のようにして吸油試験を実施した。まず、吸油試験に用いた油は以下の通りである。
【0044】
(吸油試験に用いた油類)
・サラダ油(日清オイリオグループ(株)社製、日清キャノーラ油、密度:0.91g/ml)
・フタル酸ジオクチル(関東化学(株)社製、Di-2-ethylhexyl Phthalate(鹿1級)、密度:0.95g/ml)
【0045】
(吸油試験手順)
吸油試験は以下の手順に則って実施した。
1)1000ccのフラスコに、400ccの水道水と110ccの油を入れる。
2)上記1)で準備したフラスコに10gの実験例1に係る吸着体を投入する。
3)吸着体を投入後、回転数200rpmで20分間、撹拌する。
4)撹拌後、浮かんでいる実験例1に係る吸着体を網ですくい、フラスコ上部で3分間静置する(これにより、吸着体に付着している水及び吸着体が吸着していない油をフラスコ内に戻す。)。
5)フラスコ内に残存している水及び油を500ccのメスシリンダーに移し、相分離させる。
6)相分離後、油層部分の体積(cc)を測定し、油類の密度を用い吸油量(g)を算出する。
【0046】
上記手順に基づいて吸油試験を実施した結果を表4~表6に示す。具体的に、表4は段ボール解繊品の吸油試験結果であり、表5は麻袋解繊品の吸油試験結果であり、表6はコットンリンター解繊品の吸油試験結果である。なお、ブランクサンプルを除く各実験例に係る吸着体は、吸油試験手順の上記2)から上記4)の網ですくうまでの間、常に水に浮いていた。また、実験例1~実験例23に係る吸着体を水が入ったビーカーに投入して24時間経過観察した結果、24時間経過した後、いずれの吸着体も水に浮くことを確認した。
【0047】
なお、表4~表6において、サラダ油の吸油量の割合(撥水剤の添加量に対する吸油量の割合(g/g))は、以下の式で算出した。
【0048】
サラダ油の吸油量の割合=(100×サラダ油吸油量(g))/(サイズ剤添加量(wt%)×投入した吸着体の質量(g))
【0049】
また、表4~表6において、ジオクチルフタレートの吸油量の割合(撥水剤の添加量に対する吸油量の割合(g/g))は、以下の式で算出した。
【0050】
ジオクチルフタレートの吸油量の割合=(100×ジオクチルフタレート吸油量(g))/(サイズ剤添加量(wt%)×投入した吸着体の質量(g))
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
吸油試験の結果を参照すると分かるように、実験例1~実験例23に係る吸着体においてはいずれも、撥水剤の添加量に対する吸油量の割合が100以上であり、ごく少量の撥水剤を添加するだけで非常に多量の油を吸着できることが示された。また、実験例1~実験例23に係る吸着体はいずれも水に浮いた状態で油を吸着できることも示された。
【0055】
以上、本発明の実施の形態及び実験例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実験例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実験例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0056】
なお、本実施形態に係る油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法は、特許請求の範囲と混同されるべきでない以下の付記項でも言及できる。
(付記項1)
油吸着後も水に浮く油吸着用の吸着体であって、
繊維状のセルロース系材料と、
前記セルロース系材料の表面から内部に含浸された(若しくは吸い込ませた)撥水剤と
を有し、
前記セルロース系材料が、95wt%以上であり、
前記撥水剤が、固形分量において外割で0.1wt%以上5.0wt%以下である水に浮く油吸着用の吸着体。
(付記項2)
前記撥水剤が、サイズ剤であり、ワックス、シリコーン系撥水剤、及び/又はジルコニウム系撥水剤を除く付記項1に記載の油吸着用の吸着体。
(付記項3)
前記撥水剤が、前記セルロース系材料の表面の少なくとも一部から内部に含浸している付記項1に記載の油吸着用の吸着体。
(付記項4)
水に浮く油吸着用の吸着体の製造方法であって、
セルロース系材料を解繊する解繊工程と、
撥水剤を水で希釈した撥水剤水溶液を調製する調製工程と、
解繊した前記セルロース系材料に前記撥水剤水溶液を含浸させる含浸工程と、
前記撥水剤水溶液が含浸した前記セルロース系材料をエージングするエージング工程と、
前記エージング工程後、前記撥水剤水溶液が含浸した前記セルロース系材料を乾燥する乾燥工程と
を備え、
前記セルロース系材料が、95wt%以上であり、
前記撥水剤が、0.2wt%以上5.0wt%以下である水に浮く油吸着用の吸着体の製造方法。
【要約】
【課題】比較的少量の所定の化合物を用いることで、水に浮くと共に油を十分に吸着可能な油吸着用の吸着体、及び油吸着用の吸着体の製造方法を提供する。
【解決手段】水に浮く油吸着用の吸着体は、セルロース系材料と、セルロース系材料に含ませられている撥水剤とを有し、セルロース系材料が、95wt%以上であり、撥水剤が、外割で0.2wt%以上5.0wt%以下である。
【選択図】なし