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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】車椅子固定装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 3/08 20060101AFI20240926BHJP
   A61G 3/06 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A61G3/08
A61G3/06 711
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021018505
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2022121249
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川脇 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 仁
(72)【発明者】
【氏名】平川 智也
(72)【発明者】
【氏名】大石 和史
(72)【発明者】
【氏名】古本 博一
(72)【発明者】
【氏名】永縄 拓也
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊介
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-159721(JP,A)
【文献】特開2003-265535(JP,A)
【文献】特開2009-165616(JP,A)
【文献】特開2005-27782(JP,A)
【文献】特開2013-60271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 3/00-08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子を固定するための固定スペースを有する車両に適用され、
長尺状をなし、且つ、一端に前記車椅子に係止される係止部が設けられ、且つ、前記固定スペースへの前記車椅子の固定に利用されるベルト部と、
前記ベルト部の他端が接続されて同ベルト部の巻き取りおよび送り出しを行う構造のドラム部と、
復元力によって前記ベルト部を巻き取る方向に前記ドラム部を付勢するばね部材と、
前記ドラム部に駆動連結されて前記ベルト部を巻き取る方向に前記ドラム部を回転駆動するモータと、
前記車椅子が前記固定スペースに到着したことを検出する到着検出部と、
前記モータの駆動による前記ドラム部の回転が停止したことを判定する停止判定部と、
前記到着検出部によって前記車椅子の前記固定スペースへの到着が検出されてから前記停止判定部によって前記ドラム部の回転停止が判定されるまでの実行期間にわたり、前記モータの回転駆動を実行する制御部と、を有する車椅子固定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記実行期間として、前記車椅子が停止する直前の期間を定めるものである
請求項1に記載の車椅子固定装置。
【請求項3】
前記到着検出部は、前記ドラム部の回転位相が予め定められた所定位相範囲になるとともに前記車椅子の移動速度が予め定められた所定速度以下になったことをもって、前記車椅子の前記固定スペースへの到着を検出するものである
請求項1または2に記載の車椅子固定装置。
【請求項4】
前記停止判定部は、前記モータの駆動電流が予め定められた所定値以上になったことをもって、前記ドラム部の回転停止を判定するものである
請求項1~3のいずれか一項に記載の車椅子固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に車椅子を固定する車椅子固定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車椅子を搭載可能なスペースが設けられた車両、いわゆる福祉車両が実用されている。こうした車両の上記スペースには、車椅子を固定するための車椅子固定装置が設けられている。車椅子固定装置によって車椅子を固定する作業は、次のように実行される。
【0003】
先ず、ドラム部に巻き取られた状態のベルトが引き出されるとともに、同ベルトの先端のフックが車椅子に引っ掛けられる。その後、引き出したベルトをドラム部に巻き取らせつつ車椅子を車両内部に進めて上記スペースに進入させる。そして、車椅子が上記スペースに到着すると、ベルトを利用して同車椅子が車両に固定される。
【0004】
車椅子固定装置では、ベルトをドラム部に巻き取らせるための動力源として、ばね部材を設けることが多用されている。こうした第1の装置では、車椅子を進める際に、ばね部材の付勢力によってドラム部が強制回転されて、同ドラム部にベルトが巻き取られる。
【0005】
その他、上記動力源として、電動モータを設けることも提案されている(特許文献1参照)。この第2の装置では、車椅子を車両内部に固定する際には、電動モータの作動制御を通じてドラム部が回転駆動されて、同ドラム部にベルトが巻き取られる。これにより、車椅子がその乗員とともに車両内部の固定スペースまで案内される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】登録実用新案第3032294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、前記動力源としてばね部材が設けられた第1の装置では、車椅子の進行に合わせてドラム部にベルトを巻き取らせる際に、同ベルトに弛みが生じるおそれがある。そして、弛みが生じた状態のベルトを車椅子の固定に利用すると、車椅子を固定する力の低下を招くおそれがある。ベルトの弛みを解消するためには、車椅子の進行途中において同車椅子を一時的に後退させる作業を定期的に行うようにすればよい。とはいえ、こうした作業は煩雑であり好ましくない。
【0008】
これに対して、前記動力源として電動モータが設けられた第2の装置では、車椅子を引っ張ることによって張力が作用した状態のベルトがドラム部に巻き取られる構成であるため、その巻き取りに際してベルトに弛みは生じ難い。しかしながら、第2の装置では、車椅子を着座した乗員とともにベルトによって引っ張って車両内部に進入させるためには、出力トルクの大きい電動モータが必要になる。そのため、電動モータの大型化、ひいては車椅子固定装置の大型化を招くおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための車椅子固定装置は、車椅子を固定するための固定スペースを有する車両に適用され、長尺状をなし、且つ、一端に前記車椅子に係止される係止部が設けられ、且つ、前記固定スペースへの前記車椅子の固定に利用されるベルト部と、前記ベルト部の他端が接続されて同ベルト部の巻き取りおよび送り出しを行う構造のドラム部と、弾性復元力によって前記ベルト部を巻き取る方向に前記ドラム部を付勢するばね部材と、前記ドラム部に駆動連結されて前記ベルト部を巻き取る方向に前記ドラム部を回転駆動するモータと、前記車椅子が前記固定スペースに到着したことを検出する到着検出部と、前記モータの駆動による前記ドラム部の回転が停止したことを判定する停止判定部と、前記到着検出部によって前記車椅子の前記固定スペースへの到着が検出されてから前記停止判定部によって前記ドラム部の回転停止が判定されるまでの実行期間にわたり、前記モータの回転駆動を実行する制御部と、を有する。
【0010】
上記構成では、車椅子を固定スペースに固定する際に、車椅子が固定スペースに到着するまでの期間においては、モータが駆動されないために車椅子を手動で進める必要がある。このとき、ばね部材の弾性復元力によってベルト部がドラム部に巻き取られる。とはいえ、上記構成によれば、この後においてモータ駆動によるベルト部の巻き取りが行われるため、ベルト部の弛みを許容した状態で車椅子を進めることができる。
【0011】
上記構成では、車椅子が固定スペースに到着すると、モータの回転駆動が実行される。このときベルト部に弛みが生じている場合には、モータ駆動によってドラム部が強制回転されて、ベルト部の弛みが解消されるようになる。このように上記構成によれば、車椅子の固定スペースへの到着時においてベルト部に弛みが生じている場合には、同ベルト部の弛みをモータ駆動によって解消することができる。
【0012】
そして上記構成では、モータの回転駆動の実行中においてドラム部の回転が停止した旨が判定されると、ベルト部に弛みが生じていないためにモータの回転が停止した状態になっているとして、同モータの回転駆動が停止される。上記構成によれば、このようにして弛みが解消された状態のベルト部を利用して車椅子を固定スペースに固定することができる。そのため、車椅子を安定した状態で固定スペースに固定することができる。
【0013】
しかも上記構成では、モータは、ベルト部の弛み解消のために用いられるものであり、車椅子の移動のために用いられるものではない。そのため、ベルト部の巻き取りに用いるモータが設けられるとはいえ、モータを車椅子の移動のために用いる装置と比較して、小型のモータを採用することができる。
【0014】
上記車椅子固定装置において、前記制御部は、前記実行期間として、前記車椅子が停止する直前の期間を定めるものであることが好ましい。
固定スペースにおいて車椅子が一旦停止した後に、モータの回転駆動によって車椅子が移動する状況になると、車椅子の乗員に違和感を生じさせるおそれがある。また、車椅子が停止する前の早いタイミングでモータを回転駆動してベルト部の弛みを解消するようにすると、その後の車椅子の移動に際してベルト部に再度弛みが生じるおそれがある。
【0015】
上記構成によれば、ベルト部の弛み解消のためのモータの回転駆動を、車椅子が停止する直前の適切なタイミングで、同車椅子が固定スペースに到着して停止するまでの一連の動作に含まれる動作になるように実行することができる。
【0016】
上記車椅子固定装置において、前記到着検出部は、前記ドラム部の回転位相が予め定められた所定位相範囲になるとともに前記車椅子の移動速度が予め定められた所定速度以下になったことをもって、前記車椅子の前記固定スペースへの到着を検出するものである。
【0017】
上記構成によれば、前記実行期間として、固定スペースにおいて車椅子が停止する直前の期間や、固定スペースにおいて車椅子が停止しているときの期間を定めることができる。
【0018】
上記車椅子固定装置において、前記停止判定部は、前記モータの駆動電流が予め定められた所定値以上になったことをもって、前記ドラム部の回転停止を判定するものである。
上記構成によれば、モータの回転駆動の実行中において同モータが動かなくなったときの駆動電流(いわゆるロック電流)を捉えて、同モータの回転駆動によるドラム部の回転が停止したことを判定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車椅子固定装置によれば、小型のモータで、ベルト部の弛みを防止しつつ、車椅子を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態の車椅子固定装置の概略構成を示す略図。
図2】車椅子が固定された状態の同車椅子固定装置の概略構成を示す略図。
図3】固定スペースにおける車椅子の固定態様を示す略図。
図4】車椅子固定装置の電気回路構造を示すブロック図。
図5】弛み解消処理の実行手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、車椅子固定装置の一実施形態について説明する。
図1および図2に示すように、車両10の後部には、伸縮式のスロープ部材11が設けられている。スロープ部材11は、その使用に際して、車両10の後方に倒されるとともに後方に伸ばされる。これにより、スロープ部材11は、車室12の後部から地面まで延びるスロープ状(図1に示す状態)になる。スロープ部材11は、車室12に対する車椅子18の乗降に用いられる。スロープ部材11を車室12内に収容する際には、後方部分を前方部分の内部に収容することによって車両10の前方に縮められるとともに、後端を持ち上げることによって前方に立てられる。これにより、スロープ部材11は、車室12の後部に立てられた状態(図2に示す状態)で収容される。
【0022】
車室12内の後部には、車椅子18を固定するためのスペース(以下、固定スペースSP)が区画設定されている。固定スペースSPとしては、車椅子18の大小にかかわらず同車椅子18を固定可能な大きさのスペースが設定されている。
【0023】
車両10における固定スペースSPの下方には、同固定スペースSPで車椅子18を固定するための第1固定装置20および第2固定装置30が設けられている。これら第1固定装置20および第2固定装置30は、車両10のフロア13と車体との間に設けられている。
【0024】
第1固定装置20は、車椅子18の前部を固定するためのものであり、固定スペースSPの下方における前側の部分に設けられている。
第1固定装置20は、車椅子18の前部に引っ掛けるための一対の第1ベルト部21を有している。第1ベルト部21は長尺の帯状をなしている。図3に示すように、第1ベルト部21は、フロア13に設けられたベルト孔14を介して、車室12内に引き出された状態になっている。第1ベルト部21の車室12内側の端部には鉤状をなすフック22が設けられている。固定スペースSPにおいて車椅子18を固定する際には、第1ベルト部21の係止部としてのフック22が車椅子18の前部に引っ掛けられる。このときには、2本の第1ベルト部21は車両10のフロア13の上方において車幅方向に間隔を置いた状態になるとともに上記ベルト孔14から後方に向けて延びた状態になる。図1に示すように、第1ベルト部21としては、その先端部分を車両10の外部にまで引き出すことの可能な長さのものが採用されている。
【0025】
図1および図2に示すように、第1固定装置20は、一対の第1ドラム部23を有している。第1ドラム部23にはそれぞれ、第1ベルト部21の端部が係止された状態で同第1ベルト部21が巻き付けられている。各第1ドラム部23は、一方向への回転によって第1ベルト部21の巻き取りを行うとともに、他方向への回転によって第1ベルト部21の送り出しを行う構造をなしている。
【0026】
第1固定装置20は、第1ドラム部23を回転駆動するための第1ギア機構24および第1モータ25を有している。
第1ギア機構24の出力部は各第1ドラム部23の入力軸に連結されている。第1ギア機構24の入力部は第1モータ25の出力軸に連結されている。第1ギア機構24は、第1ラチェット機構26を有している。第1ラチェット機構26は、第1ドラム部23の巻き取り方向の回転を許容するとともに、同第1ドラム部23の送り出し方向の回転を規制する構造をなしている。また第1ギア機構24は、第1ラチェット機構26の作動状態を切り替えるための第1電磁クラッチ27を有している。本実施形態では、第1電磁クラッチ27がオン操作されると第1ラチェット機構26が作動する作動状態になり、同第1電磁クラッチ27がオフ操作されると第1ラチェット機構26が作動しない自由状態になる。
【0027】
第1モータ25は、回転式の電動機であり、第1固定装置20の動力源として機能する。この第1モータ25を作動させることにより、第1ドラム部23が巻き取り方向に回転駆動される。
【0028】
第1固定装置20は、第1ドラム部23を巻き取り方向に付勢するためのばね部材28を有している。ばね部材28は渦巻きばねによって構成されている。ばね部材28の一端は第1ドラム部23の可動部分(例えば、回転軸)に連結されており、同ばね部材28の他端は第1ドラム部23の不動部分(例えば、ケース)に固定されている。このばね部材28の弾性復元力により、第1ドラム部23は巻き取り方向に回転する態様で常時付勢されている。
【0029】
第2固定装置30は、車椅子18の後部を固定するためのものであり、固定スペースSPの下方における前記第1固定装置20の後方に配置されている。
第2固定装置30は、車椅子18の後部に引っ掛けるための一対の第2ベルト部31を有している。第2ベルト部31は長尺の帯状をなしている。図3に示すように、第2ベルト部31は、フロア13に設けられたベルト孔14を介して、車室12内に引き出された状態になっている。各第2ベルト部31の車室12内側の端部には鉤状をなすフック32が設けられている。固定スペースSPにおいて車椅子18を固定する際には、第2ベルト部31のフック32が車椅子18の後部に引っ掛けられる。このときには、2本の第2ベルト部31は、車両10のフロア13の上方において車幅方向に間隔を置いた状態になるとともに上記ベルト孔14から前方に向けて延びた状態になる。
【0030】
図1および図2に示すように、第2固定装置30は一対の第2ドラム部33を有している。第2ドラム部33にはそれぞれ、第2ベルト部31の端部が係止された状態で同第2ベルト部31が巻き付けられている。各第2ドラム部33は、一方向への回転によって第2ベルト部31の巻き取りを行うとともに、他方向への回転によって第2ベルト部31の送り出しを行う構造をなしている。
【0031】
第2固定装置30は、第2ドラム部33を回転駆動するための第2ギア機構34および第2モータ35を有している。
第2ギア機構34の出力部は各第2ドラム部33の入力軸に連結されている。第2ギア機構34の入力部は第2モータ35の出力軸に連結されている。第2ギア機構34は、第2ラチェット機構36を有している。第2ラチェット機構36は、第2ドラム部33の巻き取り方向の回転を許容するとともに、同第2ドラム部33の送り出し方向の回転を規制する構造をなしている。第2ギア機構34は、第2ラチェット機構36の作動状態を切り替えるための第2電磁クラッチ37を有している。本実施形態では、第2電磁クラッチ37がオン操作されると第2ラチェット機構36が作動する作動状態になり、同第2電磁クラッチ37がオフ操作されると第2ラチェット機構36が作動しない自由状態になる。
【0032】
第2モータ35は、回転式の電動機であり、第2固定装置30の動力源として機能する。第2モータ35を作動させることにより、第2ドラム部33が巻き取り方向に回転駆動される。
【0033】
車両10には、固定スペースSPにおいて車椅子18を固定する際に操作されるロックスイッチ15と、車椅子18の固定を解除する際に操作される解除スイッチ16とが設けられている。これらスイッチ15,16は、車室12内における固定スペースSPに設けられている。
【0034】
図4に示すように、車両10には、第1モータ25の回転位相を検出するための回転位相センサ29や、同第1モータ25の駆動電流DIを検出するための検出部41が設けられている。
【0035】
車両10は、例えばマイクロコンピュータを中心に構成される電子制御装置40を有している。電子制御装置40には、第1モータ25や第1電磁クラッチ27、第2モータ35、第2電磁クラッチ37などの各種作動機器が接続されている。電子制御装置40は第1モータ25を駆動する駆動回路を有しており、前記検出部41は、この駆動回路の一部を構成している。電子制御装置40には、ロックスイッチ15や解除スイッチ16、回転位相センサ29などの各種センサ類が接続されている。電子制御装置40は、上記センサ類の出力信号に基づいて各種の演算を行うとともに、その演算結果をもとに第1モータ25や第1電磁クラッチ27、第2モータ35、第2電磁クラッチ37などの各種作動機器の作動制御を実行する。本実施形態では、電子制御装置40が制御部に相当する。
【0036】
以下、車室12内の固定スペースSPに車椅子18を固定する作業の実行態様について説明する。
図1に示すように、この作業では先ず、車両10のバックドア17が開かれるとともに、スロープ部材11が車両10の後方に展開される。そして、第1固定装置20の第1ベルト部21が車室12内から車両外部まで引き出されるとともに、この第1ベルト部21のフック22が車椅子18の前部に引っ掛けられる。このとき各固定装置20,30の電磁クラッチ27,37がオフ操作されているため、各固定装置20,30のドラム部23,33は自由回転状態になっている。そのため、第1ベルト部21を車両10の外部まで引き出す際には、ばね部材28の付勢力に抗して、第1ドラム部23が送り出し方向に回転されるようになる。
【0037】
その後、介助者によって車椅子18が押し進められる。これにより、車椅子18はスロープ部材11を登って車室12内に進入した後、固定スペースSPにおいて停止するようになる。この車椅子18の移動に際しては、ばね部材28の付勢力によって第1ドラム部23が巻き取り方向に強制回転されることで、同第1ドラム部23に第1ベルト部21が巻き取られるようになる。
【0038】
そして、図2および図3に示すように、固定スペースSPにおいて車椅子18が停止されると、車椅子18の後部に第2固定装置30の第2ベルト部31のフック32が引っ掛けられる。これにより、図2および図3に示すように、第1固定装置20の第1ベルト部21が車椅子18の前部に引っ掛けられた状態になるとともに、第2固定装置30の第2ベルト部31が車椅子18の後部に引っ掛けられた状態になる。
【0039】
その後、その状態で車椅子18を固定するべく、ロックスイッチ15が操作される。電子制御装置40は、ロックスイッチ15の操作に基づいて、各固定装置20,30の電磁クラッチ27,37をオン操作する。これにより、各固定装置20,30のラチェット機構26,36が作動状態になる。また、このとき電子制御装置40は、各固定装置20,30のモータ25,35を作動させてドラム部23,33を巻き取り方向に回転駆動する。これにより、第1固定装置20の第1ドラム部23によって第1ベルト部21が巻き取られるとともに、第2固定装置30の第2ドラム部33によって第2ベルト部31が巻き取られる。その結果、4本のベルト部21,31に所定の張力が作用した状態になる。
【0040】
これにより、固定スペースSPの車椅子18は、第1固定装置20の第1ベルト部21によって前方に引っ張られた状態になるとともに、第2固定装置30の第2ベルト部31によって後方に引っ張られた状態になる。その結果、車椅子18は固定スペースSPで固定されるようになる。なお、このとき各固定装置20,30のラチェット機構26,36が作動状態になっているため、各固定装置20,30のドラム部23,33は巻き取り方向に回転するものの、送り出し方向には回転しない状態になっている。そのため、各固定装置20,30のベルト部21,31が弛むことが回避されて、同ベルト部21,31に張力が作用した状態が保持される。
【0041】
その後、スロープ部材11が車室12の後部に収容されるとともにバックドア17が閉じられる。
次に、車室12内の固定スペースSPから車椅子18を車両10の外部に降ろす作業の実行態様について説明する。
【0042】
図1に示すように、この作業では先ず、車両10のバックドア17が開かれるとともに、スロープ部材11が車両10の後方に展開される。また、固定スペースSPでの車椅子18の固定を解除するべく、解除スイッチ16が操作される。電子制御装置40は、解除スイッチ16の操作に基づいて、各固定装置20,30の電磁クラッチ27,37をオフ操作する。これにより、各固定装置20,30のラチェット機構26,36が作動しない自由状態になるため、各固定装置20,30のドラム部23,33が引き出し方向に回転可能な自由回転状態になる。そして、この状態で、各固定装置20,30のベルト部21,31が引き出されて弛められるとともに、それらベルト部21,31の先端のフック22,32が車椅子18から外される。本実施形態では、このようにして固定スペースSPにおける車椅子18の固定が解除される。
【0043】
その後、介助者によって車椅子18が後方に進められる。これにより、車椅子18はスロープ部材11を下って車両10の外部に脱出する。その後においてスロープ部材11が車室12の後部に収容されるとともにバックドア17が閉じられる。
【0044】
ここで本実施形態では、車両10への車椅子18の乗り込みに際して、ばね部材28の付勢力によって第1固定装置20の第1ドラム部23を回転させることで、第1ベルト部21の巻き取りが行われる。そのため、車椅子18の進行に合わせて第1ドラム部23に第1ベルト部21を巻き取らせる際に、同第1ベルト部21に弛みが生じるおそれがある。そして、弛みが生じた状態の第1ベルト部21を固定スペースSPでの車椅子18の固定に利用すると、同車椅子18を固定する力の低下を招くおそれがある。
【0045】
本実施形態では、そうした第1ベルト部21の弛みを解消するために、車椅子18が固定スペースSPで停止する直前の期間において、第1固定装置20の第1モータ25を一時的に回転駆動するようにしている。
【0046】
以下、第1ベルト部21の弛みを解消するための処理(弛み解消処理)について、図5を参照しつつ説明する。図5は弛み解消処理の実行手順を示している。同図5のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の処理として、電子制御装置40により実行される。なお、弛み解消処理は、第1固定装置20の第1ベルト部21が車両10の外部まで引き出されたことを実行開始条件とする処理であり、且つ、ロックスイッチ15が操作されたことを実行停止条件とする処理である。
【0047】
図5に示すように、本処理の実行開始後において第1モータ25の回転駆動の実行が開始されていないと判断される場合には(ステップS11:YES)、車椅子18が固定スペースSP内に入っているか否かが判断される(ステップS12)。
【0048】
本実施形態では、車椅子18の移動位置は第1ベルト部21の巻き取り量と相関があり、同巻き取り量、言い換えれば第1ドラム部23の回転位相は第1モータ25の回転位相と相関がある。そのため、車椅子18の移動位置の指標値として、第1モータ25の回転位相を用いることができる。この点をふまえて、ステップS12の処理では、第1モータ25の回転位相が予め定められた所定位相範囲に入っていることをもって、車椅子18が固定スペースSP内に入っていると判断される。なお、上記所定位相範囲としては、車椅子18が固定スペースSP内に入っていることを、想定される全てのサイズの車椅子18について的確に判断することの可能な値(位相範囲)が予め求められて、電子制御装置40に記憶されている。
【0049】
そして、車椅子18が固定スペースSP内に入っていると判断される場合には(ステップS12:YES)、車椅子18の移動速度が所定速度V以下になっているか否かが判断される(ステップS13)。
【0050】
本実施形態では、車椅子18の移動速度は第1ベルト部21の巻き取り速度と相関があり、同巻き取り速度、言い換えれば第1ドラム部23の回転速度は第1モータ25の回転速度と相関がある。そのため本実施形態では、車椅子18の移動速度の指標値として、第1モータ25の回転速度を用いることができる。この点をふまえて、ステップS13の処理では、第1モータ25の回転速度が所定速度以下になっていることをもって、車椅子18の移動速度が所定速度Vになっていると判断される。なお、上記所定速度Vとしては、「0」ではない速度であって、ごく低い速度(例えば、第1ドラム部23の回転速度が1回転/秒になるときの車椅子18の移動速度)が設定される。本実施形態では、車椅子18の移動速度が所定速度V以下になったことをもって、車椅子18が停止する直前の期間になったことが判断される。
【0051】
そして、車椅子18の移動速度が所定速度V以下になったと判断される場合には(ステップS13:YES)、第1モータ25の回転駆動の実行が開始される(ステップS14)。第1モータ25の回転駆動は、車椅子18を前方に移動させない程度のトルクを出力する態様であって、且つ第1ドラム部23を巻き取り方向に回転させることの可能なトルクを出力する態様で実行される。本実施形態では、回転位相センサ29および電子制御装置40が到着検出部に相当する。
【0052】
なお、車椅子18が固定スペースSP内に入っていないと判断される場合には(ステップS11:YES、且つステップS12:NO)、第1モータ25の回転駆動は実行されない(ステップS14の処理がジャンプされる)。また、車椅子18の移動速度が所定速度Vよりも高いと判断される場合においても(ステップS11:YES、且つステップS12:YES、且つステップS13:NO)、第1モータ25の回転駆動は実行されない。
【0053】
このようにして第1モータ25の回転駆動の実行が開始されると(ステップS14)、その後においてはステップS11の処理において否定判定されるようになる(ステップS11:NO)。そして、この場合には、第1モータ25の駆動電流DIが所定値JI以上になっているか否かが判断される(ステップS15)。
【0054】
ここで、第1モータ25の回転駆動の実行時において第1ベルト部21に弛みが生じている場合には、その弛みが解消する分だけ、同第1ベルト部21を巻き取る余地、ひいては第1ドラム部23を巻き取り方向に回転させる余地がある。そのため、このときには第1ドラム部23および第1モータ25は回転状態になる。一方、第1モータ25の回転駆動の実行時において第1ベルト部21に弛みが生じていない状態になると、同第1ベルト部21を巻き取る余地が無くなる(若しくは、ほぼ無くなる)。そのため、第1ドラム部23および第1モータ25の回転が停止(あるいは、ほぼ停止)した状態になる。そして、このときには第1モータ25の駆動電流(いわゆるロック電流)が、同第1モータ25が回転状態であるときの電流値と比較して大きくなる。ステップS15の処理では、こうしたロック電流を捉えて、第1ベルト部21の弛みが解消されたことに起因して、第1モータ25の回転駆動による第1ドラム部23の回転が停止したことを判定することができる。なお本実施形態では、電子制御装置40が停止判定部に相当する。
【0055】
本処理においては、第1モータ25の駆動電流DIが所定値JI未満である場合には(ステップS11:NO、且つステップS15:NO)、ステップS16の処理がジャンプされる。この場合には、第1固定装置20の第1ベルト部21の弛みが解消されていないとして、第1モータ25の回転駆動が継続される。
【0056】
一方、第1モータ25の駆動電流DIが所定値JI以上になると(ステップS11:NO、且つステップS15:YES)、第1ベルト部21の弛みが解消された状態になっているとして、第1モータ25の回転駆動が停止される(ステップS16)。
【0057】
以下、本実施形態の車椅子固定装置による作用効果について説明する。
本実施形態では、第1固定装置20の第1ベルト部21が車両10の外部まで引き出されると、固定スペースSPに車椅子18を固定する作業が開始されたとして、第1ベルト部21の弛みを解消するための弛み解消処理(図5)の実行が開始される。この弛み解消処理では、実行開始から車椅子18が固定スペースSPに到着するまでの期間(以下、実行前期間TA)においては第1モータ25の回転駆動が実行されない。したがって、実行前期間TAにおいては、第1モータ25の回転力は利用されず、ばね部材28の付勢力のみが利用されて、第1ドラム部23による第1ベルト部21の巻き取りが行われる。
【0058】
この実行前期間TAにおいては、第1ドラム部23を巻き取り方向に回転させる回転力(具体的には、ばね部材28の付勢力)が不足して、第1ドラム部23に巻き取られる第1ベルト部21に弛みが生じるおそれがある。とはいえ、本実施形態の車椅子固定装置では、車椅子18が固定スペースSPで停止する直前の期間(以下、実行期間TB)において、第1ベルト部21の弛みを解消するための第1モータ25の回転駆動が実行される。そのため、車椅子18が固定スペースSPに到着するまでの実行前期間TAにおいては、第1ベルト部21の弛みを気にすることなく、車椅子18を押し進めて車両10の内部への乗り込みを行うことができる。
【0059】
その後において、車椅子18が固定スペースSPに到着して前記実行期間TBになると、第1固定装置20の第1モータ25の回転駆動が実行される。
この実行期間TBでは、第1ドラム部23に対して上記ばね部材28の付勢力が付与されることに加えて第1モータ25の回転力が付与されて、同第1ドラム部23が巻き取り方向に強制回転されるようになる。これにより、ばね部材28および第1モータ25によって十分な大きさの回転力を第1ドラム部23に付与することができる。そのため、実行前期間TAにおいて第1ドラム部23を回転させる回転力の不足に起因して第1ベルト部21に弛みが生じた場合であっても、その後の実行期間TBにおいて、そうした回転力の不足を補った状態で第1ドラム部23を強制回転させることができる。そして、この第1ドラム部23の強制回転によって、同第1ドラム部23に巻き取られている第1ベルト部21の弛みを解消することができる。
【0060】
本実施形態の車椅子固定装置では、第1モータ25の回転駆動の実行中において、その回転駆動による第1ドラム部23の回転が停止した状態になると、第1ベルト部21の弛みが解消された状態になったとして、第1モータ25の回転駆動が停止される。そして、その後においてロックスイッチ15が操作されることにより、4本のベルト部21,31に張力が作用した状態になって、車椅子18が固定スペースSPで固定されるようになる。
【0061】
このように本実施形態によれば、車椅子18の固定スペースSPへの到着時において第1ベルト部21に弛みが生じている場合には、同第1ベルト部21の弛みを第1モータ25の回転駆動によって解消することができる。そのため、その後におけるロックスイッチ15の操作による車椅子18の固定に際して、第1ドラム部23を巻き取り方向に強制回転させるための第1モータ25の回転駆動を、安定した状態で適正に実行することができる。したがって、第1ドラム部23に巻き取られている第1ベルト部21に弛みが生じることを好適に抑えることができ、固定スペースSPでの車椅子18の固定を適正に行うことができる。
【0062】
本実施形態では、第1モータ25は、第1ベルト部21への張力付与や同第1ベルト部21の弛み解消のための動力源として用いられるものであり、車椅子18を移動させるための動力源として用いられるものではない。そのため本実施形態では、第1ベルト部21の巻き取り用の第1モータ25が設けられるとはいえ、同第1モータ25を車椅子18の移動のための動力源として用いる装置と比較して、小型のモータを第1モータ25として採用することができる。したがって、省スペース、且つ安価に、車椅子固定装置を実現することができる。
【0063】
ここで、第1ベルト部21の弛みを解消するためとはいえ、固定スペースSPにおいて車椅子18が一旦停止した後に、第1モータ25の回転駆動によって車椅子が前方に移動する状況になると、車椅子18の乗員に違和感を生じさせるおそれがある。また、固定スペースSPにおいて車椅子18が停止する前の早いタイミングで第1モータ25を回転駆動して第1ベルト部21の弛みを解消するようにすると、その後の車椅子18の移動に際して第1ベルト部21に再度弛みが生じるおそれがある。
【0064】
この点をふまえて、本実施形態では、第1モータ25の回転駆動を実行する実行期間TBとして、固定スペースSPにおいて車椅子18が停止する直前の期間が定められている。そのため、第1ベルト部21の弛みの解消のための第1モータ25の回転駆動を、車椅子18が停止する直前の適切なタイミングで、同車椅子18が固定スペースSPに到着して停止するまでの一連の動作に含まれる動作になるように実行することができる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)ロックスイッチ15の操作による固定スペースSPでの車椅子18の固定に先立ち、第1固定装置20の第1ベルト部21が弛んだ状態を予め解消させておくことができる。これにより、第1ドラム部23に巻き取られている第1ベルト部21に弛みが生じることが抑えられるため、固定スペースSPでの車椅子18の固定を適正に行うことができる。しかも、第1ベルト部21の巻き取り用の第1モータ25が設けられるとはいえ、同第1モータ25を車椅子18の移動のための動力源として用いる装置と比較して、小型のモータを第1モータ25として採用することができる。
【0066】
(2)第1ベルト部21の弛み解消のための第1モータ25の回転駆動を実行する実行期間TBとして、固定スペースSPにおいて車椅子18が停止する直前の期間を設定した。そのため、第1ベルト部21の弛みの解消のための第1モータ25の回転駆動を、車椅子18が停止する直前の適切なタイミングで、同車椅子18が固定スペースSPに到着して停止するまでの一連の動作に含まれる動作になるように実行することができる。
【0067】
(3)第1ドラム部23の回転位相が所定位相範囲になるとともに、車椅子18の移動速度が所定速度V以下になったことをもって、車椅子18が固定スペースSPに到着したことを検出することができる。これにより、実行期間TBとして、固定スペースSPにおいて車椅子18が停止する直前の期間を定めることができる。
【0068】
(4)第1モータ25の駆動電流DIが所定値JI以上になったことをもって、第1モータ25の回転駆動による第1ドラム部23の回転が停止したことを判定するようにした。これにより、第1モータ25の回転駆動の実行中において同第1モータ25が動かなくなったときの駆動電流(いわゆるロック電流)を捉えて、第1モータ25の回転駆動による第1ドラム部23の回転が停止したことを判定することができる。
【0069】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0070】
・ベルト部21,31として、長尺の帯状をなすものを設けることに代えて、ワイヤーなどの紐状のものを設けてもよい。
・各ベルト部21,31の端部に設けられて車椅子18に係止される係止部としては、鉤状をなすフック22,32を採用することに限らず、任意の構造のものを採用することができる。
【0071】
・第1ベルト部21の弛み解消のために第1モータ25の回転駆動を実行する実行期間TBを、固定スペースSPにおいて車椅子18が停止している期間としてもよい。この場合には、図5のステップS12の処理において用いられる所定速度Vを「0」に設定すればよい。
【0072】
・第1ドラム部23の回転位相を検出する位相センサを設けるようにしてもよい。こうした構成によれば、第1ドラム部23の回転位相が所定位相範囲になったことをもって、車椅子18が固定スペースSP内に入っていることを検出することができる。また、第1ドラム部23の回転速度が所定速度以下になったこともって、車椅子18の移動速度が所定速度V以下になっていることを検出することができる。
【符号の説明】
【0073】
10…車両
12…車室
13…フロア
15…ロックスイッチ
18…車椅子
20…第1固定装置
21…第1ベルト部
22…フック
23…第1ドラム部
25…第1モータ
28…ばね部材
29…回転位相センサ
30…第2固定装置
40…電子制御装置
41…検出部
図1
図2
図3
図4
図5