(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】空調制御システム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/64 20180101AFI20240926BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20240926BHJP
【FI】
F24F11/64
F24F11/46
(21)【出願番号】P 2021062470
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-12-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼発行日 令和2年4月5日 刊行物 クリーンテクノロジー 2020年4月号 27~30頁 日本工業出版株式会社 ▲2▼発行日 令和2年4月21日 刊行物 空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会予稿集 第45~48頁 C-3 公益社団法人日本空気清浄協会出版
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090985
【氏名又は名称】村田 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093388
【氏名又は名称】鈴木 喜三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100093506
【氏名又は名称】小野寺 洋二
(74)【代理人】
【識別番号】100206302
【氏名又は名称】落志 雅美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 賢知
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 守顕
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-078312(JP,A)
【文献】特開2011-027301(JP,A)
【文献】特開2019-002650(JP,A)
【文献】特開2020-183820(JP,A)
【文献】特開2021-032478(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0244046(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00 - 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井サプライチャンバーと、前記天井サプライチャンバーからの空調空気が流入する生産装置が配置されるクリーンルーム室内と、前記天井サプライチャンバーに設置されて空調空気をクリーンルーム室内に給気するファンフィルタユニットと、クリーンルーム室内から前記クリーンルーム側部に設けられて、作業領域に給気された空調空気が生産装置の間を通過した後熱を帯びて上昇気流となって上昇する空調空気を前記天井サプライチャンバーへ還流させるレタンシャフトと、
前記レタンシャフトを還流する空調空気の通過する位置に設けられて前記天井サプライチャンバーに還流される空気を冷却する空気冷却手段を備えた空調制御システムであって、
前記天井サプライチャンバーを流れる空調空気の温度を計測し前記空気冷却手段の制御に関する給気温度センサーと、
前記クリーンルーム室内を平面で複数に分割したエリアごとの作業領域として通過する空気の温度を計測し前記ファンフィルタの給気量及び前記空気冷却手段の制御に関する無線子機である複数の室内温度センサーと、
プログラマブルコントローラー、ファンフィルターユニットコントローラー、前記複数の室内温度センサーから計測信号を無線で受け取る室内温度センサー親機、AI用PCを有するシステム制御部と、
前記システム制御部の制御信号で前記ファンフィルタユニットの給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器と、
前記システム制御部の制御信号で前記空気冷却手段への冷水の供給量を操作するための二方弁と、を備え、
前記AI用PCには機械学習ソフトウエアをインストールしてなり、前記AI用PCは、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値、現在のファンモータ回転数操作量、現在の二方弁開度、及び給気温度設定値に基づいた、最適な複数の作業領域を通過する空気温度設定値と最適な給気温度設定値とのセットである最適設定目標値セットとして前記プログラマブルコントローラーへ所定時間ごとに出力し、
前記プログラマブルコントローラーは、前記AI用PCから受け取った最適設定目標値セットを、複数の作業領域を通過する空気温度の設定値、及び給気温度の設定値として再設定したうえで、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値とを受け取り、前記ファンフィルタユニットの給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器の操作量と二方弁開度とをPID制御することを特徴とする空調制御システム。
【請求項2】
天井サプライチャンバーと、前記天井サプライチャンバーからの空調空気が流入する生産装置が配置されるクリーンルーム室内と、前記天井サプライチャンバーに設置されて空調空気をクリーンルーム室内に給気するファンフィルタユニットと、クリーンルーム室内から、前記クリーンルームの側部に設けられて、作業領域に給気された空調空気が生産装置の間を通過した後熱を帯びて上昇気流となって上昇する空調空気を前記天井サプライチャンバーへ還流させるレタンシャフトと、
前記レタンシャフトを還流する空調空気の通過する位置に設けられて前記天井サプライチャンバーに還流される空気を冷却する空気冷却手段を備えた空調制御システムであって、
前記天井サプライチャンバーを流れる空調空気の温度を計測し前記空気冷却手段の制御に関する給気温度センサーと、
前記クリーンルーム室内を平面で複数に分割したエリアごとに作業領域の空気温度を計測し前記ファンフィルタの給気量及び前記空気冷却手段の制御に関する無線子機である複数の室内温度センサーと、
プログラマブルコントローラー、ファンフィルターユニットコントローラー、前記複数の室内温度センサーから計測信号を無線で受け取る室内温度センサー親機、AI用PCを有するシステム制御部と、
前記システム制御部の制御信号で前記ファンフィルタユニットの給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器と、
前記システム制御部の制御信号で前記空気冷却手段への冷水の供給量を操作するための二方弁と、を備え、
前記AI用PCには機械学習ソフトウエアをインストールしてなり、前記AI用PCは、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値、現在のファンモータ回転数操作量、現在の二方弁開度、および給気温度設定値に基づいた、最適な複数の作業領域を通過する空気温度の設定値及び比例帯に関するゲイン及び積分動作に関する
設定値と計測値との偏差と最適な給気温度の設定値及び比例帯に関するゲイン及び積分動作に関する
設定値と計測値との偏差とのセットである最適設定目標値セットとして前記プログラマブルコントローラーへ所定時間ごとに出力し、
前記プログラマブルコントローラーは、前記AI用PCから受け取った最適設定目標値セットを、複数の作業領域を通過する空気温度の設定値及び比例帯に関するゲイン及び積分動作に関する
設定値と計測値との偏差、及び給気温度の設定値及び比例帯に関するゲイン及び積分動作に関する
設定値と計測値との偏差として再設定したうえで、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値とを受け取り、前記ファンフィルタユニットの給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器の操作量と二方弁開度とをPID制御することを特徴とする空調制御システム。
【請求項3】
前記AI用PCは、回帰予測部と最適設定部及び好適解選択部を備え、
前記最適設定部は、室内温度の一定性を保ちつつ省エネルギー性が良好となるという複数の目的が予め設定されていて、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値、現在のファンモータ回転数操作量、現在の二方弁開度、および給気温度設定値を受領し、最適設定目標値セットを所定の範囲の中での前記複数の目的を達する組み合わせとして提示し、
前記回帰予測部は、前記最適設定部からの当初の最適設定目標値セットを受け取ったのち、前記給気温度センサーと前記複数の室内温度センサーとの計測値および給気温度設定値を入力して前記回帰予測部に備える応答曲面により前記最適設定目標値の候補値を複数算出し、算出した複数の前記最適設定目標値の候補値から回帰手法により制御実行結果を予測して制御実行結果の予測値である前記給気温度センサーの計測予測値と前記室内温度センサーの計測予測値、現在のファンモータ回転数操作量予測値、現在の二方弁開度予測値、給気温度設定値及び室内温度設定値として再度前記最適設定部へ渡し、
前記最適設定部は、予測値である前記給気温度センサーの計測予測値と前記室内温度センサーの計測予測値、現在のファンモータ回転数操作量予測値、現在の二方弁開度予測値、給気温度設定値及び室内温度設定値に基づく最適設定目標値セットを所定の範囲の中での前記複数の目的を達する組み合わせとして、再度回帰予測部へ提示し、
前記最適設定部と前記回帰予測部によ
り生成された複数候補値を、前記好適解選択部にて、単目的化した選択ルールに基づいて、複数候補値から最も好適な結果の一つを選択して、選択した結果を前記最適設定目標値セットとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の空調制御システム。
【請求項4】
前記AI用PCはさらに、データベース部、回帰予測作成部及びデジタル通信部を備え、
前記データベース部には、システム運用に先立ってシミュレーションで作成した多数の設定値の組み合わせを仮想的に実行した仮想空調制御結果が予め格納されていて、前記最適設定部と前記回帰予測部によ
り生成された複数候補値を、前記好適解選択部にて、単目的化した選択ルールに基づいて、複数候補値から選定した最も好適な結果である前回までの実運用結果とが随時追加で格納されており、
前記回帰予測作成部は、前記仮想結果と実運用結果とを用いて新しい応答曲面である新回帰予測を作成し、作成した新回帰予測を用いて前記回帰予測部の応答曲面を更新すること特徴とする請求項3に記載の空調制御システム。
【請求項5】
前記プログラマブルコントローラーは、PID制御部を備え、前記AI用PCから得られた最適設定目標値セットと、前記給気温度センサー及び前記室内温度センサーの現在計測値に基づいて各々PID演算を実行してファンフィルターユニットコントローラーおよび二方弁に前記ファンフィルタユニットのファンモータ回転数操作量と二方弁の操作値として出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の空調制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御の最適化と省エネルギー化を共に実現する空調制御システムに係り、特に半導体工場、フラットパネルディスプレイに使うフィルムや液晶、有機ELなどを製造する工場、あるいは精密機械工場などに用いられる工業用クリーンルームの空調制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工業用クリーンルームの空調では、僅かでも浮遊微粒子があると、製造中の製品に付着して製品不良を起こすために、作業室を必要に応じて清浄な状態とし、製品の品質と信頼性を高め、歩留りの向上に努めている。
【0003】
最近では、半製品や製品を製造したり工程間を搬送したりする領域だけを局所的に清浄化するミニエンバイロメントやマイクロエンバイロメントといわれる考え方が浸透している。実際は、半製品や製品が暴露される空間を小空間として他から隔離し、該小空間内を局所的に高清浄に保つという技術思想であり、生産装置や工程間搬送等に導入されている。
【0004】
この方式では、クリーンルーム内でも特に高い清浄度を確保する領域は局所に限定され、その他の領域には昔ほど高清浄度は要求されないため、室全体としてはある程度の清浄度を保てばよいことになる。こうして、大空間(ボールルーム)が工業用クリーンルームの主流となっている。
【0005】
このような大空間(ボールルーム)式のクリーンルームでも、昔の電力のかさむ全域ダウンフローとは異なるが、空気の流れは概ね上から下へ流れるよう天井の一部にHEPAフィルタを最終とする天井吹出部と、床には小さい穴を開けた有孔パネルと無孔パネルで形成した上げ床の開孔から、スラブ床と上げ床との間の空間(床下チャンバー)に空気を吸い込み、その空気を温調して再び天井から除塵して吹出す空気流れを形成している。こうして、室内で発生した塵埃をいち早く排除するようになっている。
【0006】
図4は従来のクリーンルームの一例を説明する概略構成図である。従来のクリーンルームは、
図4に示すように、半導体工場等のある程度気密性の高いクリーンルーム建屋20内に設けられ、建物20の天井21とTバーやチャンネル材で格子が形成される作業領域(クリーンルーム)11の天井15との間で構成される天井サプライチャンバー14と、クリーンルーム(以下、作業領域とも称する場合もある)11の床面16とクリーンルーム建屋20の床スラブ23との間で構成される床下チャンバー17と、クリーンルーム建屋20の気密を確保した側壁22とボードやパネルで形成される作業領域11の隔壁12との間で構成されるレタンシャフト13Aと、前記作業領域11の天井15に設けられたファンフィルタユニット(FFU)2と、帰還空気を冷却する空気冷却手段(ドライコイル)3から構成されている。
【0007】
そして、天井サプライチャンバー14内の空気は、ファンフィルタユニット2で気中の塵埃を除去し所定の清浄度を確保し、清浄されて、作業領域11内へ吹出される。作業領域11内へ吹出された空気は、作業領域の床面16のパンチングパネルの開孔などから排出され、空気冷却手段3で冷却された後にレタンシャフト13Aを通り、天井サプライチャンバー14に戻る。天井サプライチャンバー14に戻った空気はファンフィルタユニット(FFU)2の搬送力で再び作業領域11内へ吹出される。
【0008】
図4では解り難いが、大空間(ボールルーム)クリーンルームの容積は大きく、図では抽象的に記載したファンフィルタユニット2は1個のユニットではなく群であり、図では空気冷却手段3一つについて片側に位置するファンフィルタユニット2の3台が受け持つ送風流域は、3台分で25~30mの長さのイメージとなっている。そして、
図4の奥行側にも複数台のファンフィルタユニット2が並ぶイメージである。つまり、ドライコイルである空気冷却手段3ごとに作業領域11内を横方向に複数のエリアに分割し、その大きなエリアには一つの空気冷却手段3にて冷却された空気が循環することとなる。
【0009】
作業領域11の室内温度変化は、ボールルーム方式が採用されたことでそれ以前の方式と比較すると少し緩和された。それでも、例えば23℃設定値に対し許容誤差は±1℃程度と厳しい場合がある。この室内温度は生産装置などが稼働して熱負荷として室内に発熱物があったとしても、室のどこでも23℃設定値が保てるように、最大負荷が発生した熱に対して冷却した後、つまり還気として床の排出口から出る際に23℃が保てるように設備側の能力を備えるのである。よって、天井吹き出しの空気温度は室内熱負荷が大きければ23℃よりもずっと低温になり、負荷が小さいと23℃に近くづく低温となる。
【0010】
このように、従来のクリーンルームの空調制御システムでは、実際は25~30mの奥行である横方向分割の大きな作業領域にひとつの空気冷却手段3が受け持ち、その空気冷却手段3一つの比例制御弁にて流量制御されるので、大きな作業領域に1点の検出温度センサーの計測値と温度設定値(例えば23℃設定値)との偏差に基づく演算信号により比例制御弁の熱媒の流量制御を行うこととなる。
【0011】
従来のクリーンルームの空調制御では、レタンシャフト13Aの側壁22の近傍に温度センサーを設置し、この温度センサーの測定値が目標温度となるように空気冷却手段(ドライコイル)3の給気温度を温度コントローラーにより調整してファンフィルタユニット2の風速(ファン回転数)を一定としている。
作業量領域11内の温度ムラの調整は、ファンフィルタユニット2の風速設定(ファン回転数)を運転員(オペレーター)が手動で調整するのが一般的であった。
【0012】
このように、従来の空調制御システムにおける温度制御方式では、作業領域内に設置された生産装置の熱負荷の差で生じる温度ムラを調整するためには、エリアに分割されているファンフィルタユニット2の風速をオペレーターが手動で調整する必要があり、生産装置のレイアウトを変更した場合にも、ファンフィルタユニット2の風速をオペレーターが手動で再調整する必要があった。
【0013】
さらに、省エネルギーを実現するためには、ファンフィルタユニット2の風速の微調整を、オペレーターが現在時点での状況を見ながら経験的に行うのが一般的であった。
【0014】
空調制御システムにおける温度制御に回帰制御法などの予測手段を用いるものも知られている。この種の先行技術に関するものとして、例えば、特許文献1、特許文献2を挙げることができる。
【0015】
特許文献1は、コンピュータシミュレーションを行うことなく、計測された外気温から建物内の部屋の室温を推定することを可能にする室温推定装置を開示する。この室温推定装置は、記憶部、予測式生成部、予測推移取得部、室温推定部を備え、予測式生成部は、記憶部に格納された所定の抽出期間における複数日についてそれぞれ複数の時刻における時刻ごとの室温および外気温のデータを用いて、時刻ごとの室温のデータと外気温のデータとの関係を表す複数の回帰予測式をそれぞれ予測式として求める。
室温推定部は予測推移取得部が取得した外気温の推移から着目する日時の外気温を求め、当該日時に対応する時刻の予測式に外気温を当て嵌めることにより室温を推定するようにしたものである。
【0016】
特許文献2は、熱源機器や循環ポンプの特性の変化や外的な環境の変化に対応し、長期間にわたって常に最適な送水温度の決定を行う送水温度制御装置を開示する。この送水温度制御装置は、熱源機器の運転中に、現在の負荷状況に関連する関連パラメータとして、熱源機器1の使用エネルギー量PW1と、冷温水ポンプの使用エネルギー量PW2と、熱源機器からの冷温水の送水温度TSと、外気温度toutの実績値を定期的に収集・蓄積する。
【0017】
そして、これらの関連パラメータを収集する毎に、その収集した関連パラメータの実績値を多次元空間にプロットし、RSM-Sの技術により応答曲面モデルを作成し、その作成した応答曲面モデルより現在の最適送水温度TSspを決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特許第6160945号公報
【文献】特許第5320128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献1は複数日の特定の時刻における室温および外気温のデータを用いて室温を表す回帰式を得ることを基本としているもので、外気の温度の外乱だけではなく室内の生産装置の発熱外乱に影響されるクリーンルームの温度制御を行うことまで示唆しない。特許文献2は冷却水の送水温度を、熱源機器の使用エネルギー量、循環ポンプの使用エネルギー量の合計を第1軸に、送水温度を第2軸に、外気温度を第3軸とした3次元空間に過去の実績値をプロットし、多次元スプラインによる補間技術を用いて作成した応答曲面モデルの断面を現在の外気温度で切り出す。この断面における合計エネルギーが最小値となる送水温度を求めるものであり、特許文献1に開示の発明と同様に、外気の温度の外乱だけではなく室内の生産装置の発熱外乱に影響されるクリーンルームの温度制御を行うことまで示唆しない。
【0020】
本発明の目的は、上記に鑑みて、室内の生産装置の発熱外乱に影響されるクリーンルーム(作業領域を含む)内の温度の最適化と省エネルギー化を実現し、かつオペレーターの介在無しに自動化した空調制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願の発明者等は、エネルギー集約的であるクリーンルームの空調を、高い清浄度と温度制御性、省エネルギーを同時に満足する所謂、多目的最適化を実現する手段として、過去の状況から結果を予測しつつ行う判断に機械学習AIを用いる実験を試みた。本発明に係る空調制御システムはこの試みに基づいて具体化したものである。
【0022】
本発明は以下に記載する代表的な構成とした。なお、ここ(
図1)では、本発明の理解を容易にするため、後述する実施例の図面に用いた参照符号を付すが、本発明はこの参照符号で示される構成によって限定されるものではない。
【0023】
本発明は、(1)天井サプライチャンバー(14)と、前記天井サプライチャンバー(14)からの空調空気が流入する生産装置(1)が配置されるクリーンルーム室内(11)と、前記天井サプライチャンバー(14)に設置されて空調空気をクリーンルーム室内(11)に給気するファンフィルタユニット(2)と、クリーンルーム室内(11)から、前記クリーンルーム(11)側部に設けられて、作業領域に給気された空調空気が生産装置の間を通過した後熱を帯びて上昇気流となり、熱を帯びて上昇する空調空気を前記天井サプライチャンバー(14)へ還流させるレタンシャフト(13A)と、
前記レタンシャフト(13A)を還流する空調空気の通過する位置に設けられて前記天井サプライチャンバー(14)に還流される空気を冷却する空気冷却手段(3)を備えた空調制御システムであって、
前記天井サプライチャンバー(14)を流れる空調空気の温度を計測し前記空気冷却手段の制御に関する給気温度センサーと、
前記クリーンルーム室内(11)を平面で複数に分割したエリアごとに通過する空気の温度を計測し前記ファンフィルタの給気量及び前記空気冷却手段の制御に関する無線子機である複数の室内温度センサーと、
プログラマブルコントローラー、ファンフィルターユニットコントローラー、前記複数の室内温度センサーから計測信号を無線で受け取る室内温度センサー親機、AI用PCを有するシステム制御部と、
前記システム制御部の制御信号で前記ファンフィルタユニットの給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器と、
前記システム制御部の制御信号で前記空気冷却手段への冷水の供給量を操作するための二方弁と、を備え、
前記AI用PCには機械学習ソフトウエアをインストールしてなり、前記AI用PCは、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値、現在のファンモータ回転数操作量、現在の二方弁開度、および給気温度設定値に基づいた、最適な複数の作業領域を通過する空気温度設定値と最適な給気温度設定値とのセットである最適設定目標値セットとして前記プログラマブルコントローラーへ所定時間ごとに出力し、
前記プログラマブルコントローラーは、前記AI用PCから受け取った最適設定目標値セットを、複数の作業領域を通過する空気温度の設定値、及び給気温度の設定値として再設定したうえで、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値とを受け取り、前記ファンフィルタユニットの給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器の操作量と二方弁開度とをPID制御することを特徴とする。
【0024】
(2)天井サプライチャンバー(14)と、前記天井サプライチャンバー(14)からの空調空気が流入する生産装置(1)が配置されるクリーンルーム室内(11)と、前記天井サプライチャンバー(14)に設置されて空調空気をクリーンルーム室内(11)に給気するファンフィルタユニット(2)と、前記クリーンルーム室内(11)から、前記クリーンルーム(11)側部に設けられて、作業領域に給気された空調空気が生産装置の間を通過した後熱を帯びて上昇気流となり、熱を帯びて上昇する空調空気を前記天井サプライチャンバー(14)へ還流させるレタンシャフト(13A)と、
前記レタンシャフト(13A)を還流する空調空気の通過する位置に設けられて前記天井サプライチャンバー(14)に還流される空気を冷却する空気冷却手段(3)を備えた空調制御システムであって、
前記天井サプライチャンバー(14)を流れる空調空気の温度を計測し前記空気冷却手段の制御に関する給気温度センサーと、
前記クリーンルーム室内(11)を平面で複数に分割したエリアごとに通過する空気の温度を計測し前記ファンフィルタの給気量及び前記空気冷却手段の制御に関する無線子機である複数の室内温度センサーと、
プログラマブルコントローラー、ファンフィルターユニットコントローラー、前記複数の室内温度センサーから計測信号を無線で受け取る室内温度センサー親機、AI用PCを有するシステム制御部と、
前記システム制御部の制御信号で前記ファンフィルタユニットの給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器と、
前記システム制御部の制御信号で前記空気冷却手段への冷水の供給量を操作するための二方弁と、を備え、
前記AI用PCには機械学習ソフトウエアをインストールしてなり、前記AI用PCは、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値、現在のファンモータ回転数操作量、現在の二方弁開度、および給気温度設定値に基づいた、最適な複数の作業領域を通過する空気温度の設定値及び比例帯に関するゲイン及び積分動作に関する設定値と計測値との偏差と最適な給気温度の設定値及び比例帯に関するゲイン及び積分動作に関する設定値と計測値との偏差である最適設定目標値セットとして前記プログラマブルコントローラーへ所定時間ごとに出力し、
前記プログラマブルコントローラーは、前記AI用PCから受け取った最適設定目標値セットを、複数の作業領域を通過する空気温度の設定値及び比例帯に関するゲイン及び積分動作に関する設定値と計測値との偏差、及び給気温度の設定値及び比例帯に関するゲイン及び積分動作に関する設定値と計測値との偏差として再設定したうえで、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値とを受け取り、前記ファンフィルタユニットの給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器の操作量と二方弁開度とをPID制御することを特徴とする 。
【0025】
(3)前記AI用PCは、回帰予測部と最適設定部及び好適解選択部を備え、
前記最適設定部は、給気温度の一定性を保ちつつ省エネルギー性が良好となるという複数の目的が予め設定されていて、前記給気温度センサーの計測値と前記室内温度センサーの計測値、現在のファンモータ回転数操作量、現在の二方弁開度、および給気温度設定値を受領し、最適設定目標値セットを所定の範囲の中での前記複数の目的を達する組み合わせとして提示し、
前記回帰予測部は、先記最適設定部からの当初の最適設定目標値セットを受け取ったのち、前記給気温度センサーと前記複数の室内温度センサーとの計測値および給気温度設定値を入力して前記回帰予測部に備える応答曲面により前記最適設定目標値の候補値を複数算出し、算出した複数の前記最適設定目標値の候補値から回帰手法により制御実行結果を予測して制御実行結果の予測値である前記給気温度センサーの計測予測値と前記室内温度センサーの計測予測値、現在のファンモータ回転数操作量予測値、現在の二方弁開度予測値、給気温度設定値及び室内温度設定値として再度前記最適設定部へ渡し、
前記最適設定部は、予測値である前記給気温度センサーの計測予測値と前記室内温度センサーの計測予測値、現在のファンモータ回転数操作量予測値、現在の二方弁開度予測値、給気温度設定値及び室内温度設定値に基づく最適設定目標値セットを所定の範囲の中での前記複数の目的を達する組み合わせとして、再度回帰予測部へ提示し、
前記最適設定部と前記回帰予測部により生成された複数候補値を、前記好適解選択部にて、単目的化した選択ルールに基づいて、複数候補値から最も好適な結果の一つを選択して、選択した結果を前記最適設定目標値セットとする(1)または(2)であることを特徴とする。
【0026】
(4)前記AI用PCはさらに、データベース部、回帰予測作成部及びデジタル通信部を備え、
前記データベース部には、システム運用に先立ってシミュレーションで作成した多数の設定値の組み合わせを仮想的に実行した仮想空調制御結果が予め格納されていて、前記最適設定部と前記回帰予測部により生成された複数候補値を、前記好適解選択部にて、単目的化した選択ルールに基づいて、複数候補値から選定した最も好適な結果である前回までの実運用結果とが随時追加で格納されており、
前記回帰予測作成部は、前記仮想結果と実運用結果とを用いて新しい応答曲面である新回帰予測を作成し、作成した新回帰予測を用いて前記回帰予測部の応答曲面を更新する(3)であること特徴とする。
【0027】
(5)前記プログラマブルコントローラーは、PID制御部を備え、前記AI用PCから得られた最適設定目標値セットと、前記給気温度センサー及び前記室内温度センサーの現在計測値に基づいて各々PID演算を実行してファンフィルターユニットコントローラーおよび二方弁に前記ファンフィルタユニットのファンモータ回転数操作量と二方弁の操作値として出力する(1)または(2)であることを特徴とする。
【0028】
なお、本発明は、上記の構成および後述する実施の形態に記載された構成に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることは言うまでも無い。
【発明の効果】
【0029】
本発明の構成とした空調制御システムによれば、空調管理者(オペレーター)が手動で行っていたエリアごとの熱負荷の差により生じる温度むらを均一化するためのエリアごとのファンフィルタユニットの風量設定値の調整が不要となる。
【0030】
クリーンルーム(作業領域)の温度状況をPCに導入したAIが常時監視し、温度制御性と省エネルギー性を同時に実現することが可能となる。
【0031】
AIを用い、回帰的手法により数多くの組み合わせ最適化設定候補を制御実行した結果を予測することで制御結果の安定性が向上する。また、回帰予測部を実運用データにより定期的に更新することでクリーンルームに設置されている生産装置の稼働状況による室内空調負荷変動にも対処可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る空調制御システムの基本構成を説明する模式図
【
図2】本発明に係る空調制御システムの制御系を説明する機能構成図
【
図3】本発明に係る空調制御システムを複数の作業領域を持つクリーンルーム建屋に実施した作業領域配置例を説明する平面図
【
図4】従来のクリーンルームの構成例を説明する概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る空調制御システムの実施の形態を実施例の図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る空調制御システムの基本構成を説明する模式図であり、クリーンルーム建屋20の天井21,側壁22、スラブ床面23で囲われた内部に、二重上げ床16上に位置して生産装置1が配置され、ボールルームのクリーンルーム室内11として製品が往来する作業領域と生産装置1の本体部をメンテナンスするメンテナンス域とが入り混じって位置している。天井サプライチャンバー14の下部にあるファンフィルタユニット2の送風搬送力により、クリーンルーム室内11から、後述するように、二重上げ床16の下部の床下17を通って、後述するレタンシャフト13Aを介してレタンシャフト13A内に設置される空気冷却手段3を通って前記天井サプライチャンバー14を通ってファンフィルタユニット2によりクリーンルーム内を空調空気が循環する。
循環する空調空気を冷却する媒体(ここでは
図1に「冷水」として示してある)は、外部から冷水供給路40に冷水を通して後述する電磁駆動あるいはモータ駆動される二方向弁4を介して空気冷却手段(ドライコイル)3のチューブ内へ供給される。参照符号30はシステム制御部を示す。
【0034】
クリーンルーム建屋20の内部で、生産装置1が配置されるクリーン雰囲気対象スペースであるクリーンルーム11の二重天井15の天井裏には天井サプライチャンバー14が設けられている。この天井サプライチャンバー14に設置されてクリーン処理した空調空気を当該クリーンルーム室内11に再給気するファンフィルタユニット2を前記二重天井15吹出し面を密閉して具備する。
【0035】
空調空気は、クリーンルーム室内11から吹出されて、二重上げ床16上部に設置された複数の生産装置1の間を通過し生産装置の熱を奪いながら昇温して、穴あきパンチングパネル16Aを通して二重上げ床16の下部の床下空間17を通り、レタンシャフト13Aを通って天井サプライチャンバー14に還流する。このレタンシャフト13Aは、クリーンルーム室内11の天井から垂下して設置された隔壁12とクリーンルーム建屋20の側壁22との間に形成されている。
図1では、レタンシャフト13Aはクリーンルーム室内11の両サイドに設けられている。
【0036】
レタンシャフト13Aを還流する昇温して上昇し、天井サプライチャンバー14に向かう空調空気は、レタンシャフト13A内に設置されて空調空気を冷却する空気冷却手段(ドライコイル)3を通ってから天井サプライチャンバー14へ流れることとなり、前記冷水供給路40の途中に設置した二方向弁4を介してチューブ内に供給される「冷水」でチューブに嵌合された多数のフィンの間とチューブ外面とに接触するように空調空気を流して熱交換させて空調空気を冷却する温調がなされるようになっている。
【0037】
レタンシャフト13Aには、当該空気冷却手段3の空調空気が流れた後流側位置に、冷却された空調空気の給気温度を計測する給気温度センサー5が設けられ、この計測される給気温度は空気冷却手段3の二方向弁4の開度に関係する値である。空気冷却手段3の空調空気が流れた後流側位置は、空調空気の温度としては天井サプライチャンバー14を流れる空気の温度と同じとなっている。本実施例では、この給気温度センサー5は測定値を有線でシステム制御部30に転送するようにしてある。また、空気冷却手段3の一つが受け持つ細長く設定されたクリーンルーム室内11のエリアの長手方向に分割された複数の空調空気の作業領域11Aには、通過する昇温した空調空気の温度を計測する室内温度センサー6がそれぞれ設けられ、この計測される還気温度は、分割された作業領域11A毎にグループ化されたファンフィルタユニット2の給気量に関係する値である。本実施例では、この室内温度センサー6は無線により測定値をシステム制御部30に転送するようにしてある。
【0038】
なお、室内温度センサー6は無線により測定値をシステム制御部30に転送するようにしたのは、後述する実施例で示されるように、作業領域11Aが細長くなり、分割された作業領域11Aが多数(面積が広く管理部位との距離が大)の場合などでは、有線の施工よりも設置が容易で施工費も低減できるという理由が主である。しかし、室内温度センサー6を有線伝送とすることを否定するものでない。また、給気温度センサー5を無線でシステム制御部30接続することを排除するものもでない。
【0039】
システム制御部30は、プログラマブルコントローラー7とファンフィルターユニットコントローラー8と室内温度センサー親機9、及びAI用PC10を有する。そして、システム制御部30からの制御信号で空気冷却手段3への冷水の供給量を調整操作するための二方弁4を備える。なお、参照符号31は、計測データと制御データを転送するための信号線を示す。
【0040】
図2は本発明に係る空調制御システムの制御系を説明する機能構成図である。AI用PC10には本システムの制御手順と機械学習ソフトウエアがインストールされており、給気温度センサー5と室内温度センサー6との計測値および給気温度設定値に基づいた最適予測値を目標値としてファンフィルタユニット2を構成するファンモータの回転数を、ファンフィルターユニットコントローラー8を介してPID制御する。
もしくは、AI用PC10は、給気温度センサー5の計測値と前記室内温度センサー6の計測値、現在のファンモータ回転数操作量、現在の二方向弁4の開度、および給気温度設定値に基づいた、最適な複数の作業領域11Aを通過する空気温度設定値と最適な給気温度設定値とのセットである最適設定目標値セットとして後述するプログラマブルコントローラー7へ所定時間ごとに出力し、プログラマブルコントローラー7は、AI用PC10から受け取った最適設定目標値セットを、複数の作業領域11Aを通過する空気温度の設定値、及び給気温度の設定値として再設定したうえで、給気温度センサー5の計測値と前記室内温度センサー6の計測値とを受け取り、前記ファンフィルタユニット2の給気量を増減するためのファンモータ回転数操作器の操作量と二方弁開度とをPID制御する。
【0041】
AI用PC(以下、AI用PC)10は、回帰予測部103と最適設定部102及び好適解選択部101を備える。最適設定部102は、デジタル通信部106から得る室内温度センサー6からの室温現在値、給気温度センサー5からの給気温度現在値および室内温度設定値、二方弁4開度現在値、FFU回転数現在値を受領し、予め入力されている最適な複数の作業領域11Aを通過する空気温度設定値と最適な給気温度設定値とのセット設定値が取り得る範囲の中から最適値を提案する。この最適設定部102では、複数目的(例えば、室温を一定温度とすること、同時に省エネルギー性を高める等)を空調管理者が設定し前記複数目的を満足するような最適設定値を出す。
【0042】
この最適設定部102が提案した設定値(温度設定値)は、回帰予測部103にて、この設定を制御実行した場合を予測し、予測値を得る。この予測値を再度最適設定部10で評価する。
【0043】
これを詳細に説明すると、
〈1〉最適設定部102は、前記室内温度現在値、給気温度現在値、室内温度設定値、二方弁4開度現在値、FFU回転数現在値を受領し、良いと思われる温度設定値を回帰予測部103へ提案し、回帰予測部103は受け取った設定値を実行した予測結果を出力する。
【0044】
〈2〉最適設定部102は、前記回帰予測部103から出力された予測結果を受け、新たな最適値を回帰予測部103へ提案する。そして回帰予測部103は受け取った新たな設定値を実行した予測結果を出力する。
【0045】
このように最適設定部102が最適設定値を一つ回帰予測部103へ提案し、回帰予測部103は受け取った設定値を実行した予測実効値を出力する。
この予測実効値を再度最適設定部102で評価しさらに最適設定値を一つ回帰予測部103へ提案し、回帰予測部103は受け取った設定値を実行した予測結果を出力する。
【0046】
このように設定値提案と制御実行結果の予測値を数百パターン繰り返し、設定値と予測値の組み合わせを繰り返し回数分(数百パターンの設定値提案と制御実行結果の予測値のセット)得る(
図2の「A・B」)。
【0047】
上記の数百パターン分の設定値と予測値の組み合わせを、好適解選択部101へ送り「C」、ここで単目的化した選択ルールを適用して設定値のセットを1つ選択する。この設定値のセットを、デジタル通信部106を介してPLC7へ送信し、クリーンルームの空調制御に定時的に反映する。
【0048】
好適解選択部101は、複数候補値から最も好適な結果の一つを最適予測値として選択し、選択した結果を目標値とてデジタル通信部106からプログラマブルコントローラー7に与える。
回帰予測部103は、最適設定部102からの当初の最適設定目標値セットを受け取ったのち、給気温度センサー5と複数の室内温度センサー6との計測値および給気温度設定値を入力して回帰予測部103に備える応答曲面により最適設定目標値の候補値を複数算出し、算出した複数の最適設定目標値の候補値から回帰手法により制御実行結果を予測して制御実行結果の予測値である給気温度センサー5の計測予測値と複数の室内温度センサー6の計測予測値、現在の複数のファンモータ回転数操作量予測値、現在の二方弁開度予測値、給気温度設定値及び室内温度設定値として再度最適設定部102へ渡し、最適設定部102は、予測値である給気温度センサー5の計測予測値と室内温度センサー6の計測予測値、現在のファンモータ回転数操作量予測値、現在の二方弁開度予測値、給気温度設定値及び室内温度設定値に基づく最適設定目標値セットを所定の範囲の中での前記複数の目的を達する組み合わせとして、再度回帰予測部103へ提示し、
最適設定部102と回帰予測部103により評価を行って生成された複数候補値を、好適解選択部101にて、単目的化した選択ルールに基づいて、複数候補値から最も好適な結果の一つを選択して、選択した結果を最適設定目標値セットとする。
【0049】
なお、AI用PC10には、データベース104を備えている。さらに、過去のデータから回帰予測部103を定期的に更新する回帰予測作成部105を備えている。データベース部104には、システム運用に先立って熱流体シミュレーションで作成した多数の設定値の組み合わせを仮想的に実行した仮想結果と実運用結果とが予め格納されている。このデータを用いて設定値の事前作成と予測を行うことができる。
具体的には、データベース部104には、システム運用に先立ってシミュレーションで作成した多数の設定値の組み合わせを仮想的に実行した仮想空調制御結果が予め格納されていて、最適設定部102と回帰予測部103により評価を行って生成された複数候補値を、好適解選択部101にて、単目的化した選択ルールに基づいて、複数候補値から選定した最も好適な結果である前回までの実運用結果とが随時追加で格納されており、回帰予測作成部105は、前記仮想結果と実運用結果とを用いて新しい応答曲面である新回帰予測を作成し、作成した新回帰予測を用いて前記回帰予測部103の応答曲面を更新する。
【0050】
この構成としたことで、通常の運用では採用することがないため、実運用では得られない設定値を実行した結果の予測値を回帰的に得ることができる。
また、実運用結果を追加することにより、シミュレーション結果と実運用結果の両面から現状状況を監視し、妥当な回帰予測部103を定時的(例えば、1日に一回)に更新するように構成されている。このように、実運用の状況に合わせて回帰予測部を運用に合わせて変えている。AIPCで出力する設定値は、温度設定値だけでなく、ゲイン・オフセット(本願においては、「オフセット」は「設定値を計測値との偏差」を意味し、単に「偏差」と称することもある。」まで出力することも可能とする。
【0051】
プログラマブルコントローラー7はPID制御部71を備え、AI用PC10から得られた目標値と、給気温度センサー5及び室内温度センサー6の現在計測値に基づいてPID演算を実行してファンフィルターユニットコントローラー8にファンフィルタユニット2の操作値として出力する。ファンフィルターユニットコントローラー8は単位作業領域11に設置されている複数のファンフィルタユニット2のグループに制御信号を与える。
【0052】
プログラマブルコントローラー7では、室内温度センサー親機9からの温度データ、給気温度センサー5からの温度データを受信し、併せてAI用PC10からの目標値を受信する。AI用PC10から得る目標値には温度設定値のみでなく、ゲイン・オフセットまで含めて設定値を得て、PID制御部に指示することも可能とする。
【0053】
またプログラマブルコントローラー7は、内部にPID制御部を備え、AI用PC10から得た目標値と、各温度センサー(給気温度センサー5、室内温度センサー6)からの現在値を得てPID演算により、操作値を出力する。別途ファンフィルターユニットコントローラー8を備える場合には、ファンフィルターユニットコントローラー8に対して各ファンフィルタユニット2グループの回転数を出力し、間接的に制御する。
【0054】
ドライコイル二方弁4に対しては、別途コントローラーを介さずに直接的に操作値を出力する。
さらに、またプログラマブルコントローラー7には、室内温度センサー親機9からの室温等(室内温度センサー6)の現在値、給気温度センサー5からの温度現在値、空調管理者が設定する給気温度設定値、送信するファンフィルタユニット2グループの回転数指示値、ドライコイル二方弁4への操作指示値を定時的にAI用PC10へ送信する。
【0055】
PID制御部71のアナログデータは、有線伝送される給気温度センサー5の測定値の取り込みと二方弁4の開度制御信号であり、アナログ通信部72を介して行われる。AI用PC10のデジタル通信部106からの目標値出力はプログラマブルコントローラー7のデジタル通信部73でPID制御部71に転送される。PID制御部71とファンフィルターユニットコントローラーローラー8と複数の室内温度センサー6の親機9との間の通信もデジタル通信部73で行われる。
【0056】
このように、プログラマブルコントローラー7では、室内温度センサー親機9からの温度計測値、給気温度センサー5からの温度計測値を受信し、AI用PC10からの目標値を受信する。AI用PC10から得る目標値には、温度設定値のみでなく、ゲイン・オフセットまで含めて設定値を得てPID制御部71に指示することも可能である。
【0057】
また、プログラマブルコントローラー7に備えるPID制御部71は、AI用PC10から得た目標値と、各温度センサー5,6から得た現在計測値を用いてPID演算により操作値を出力する。ドライコイル3に冷水を供給する二方弁4に対しては、プログラマブルコントローラー7から直接的に操作値を出力する。
【0058】
プログラマブルコントローラー7は、室内温度センサー親機9からの現在温度計測値、給気温度センサー5からの現在温度計測値、送信するファンフィルタユニット2のグループの回転数指示値、二方弁4への操作指示値を定時的にAI用PC10に送信する。
【0059】
図3は本発明に係る空調制御システムを複数の作業領域を持つ大空間クリーンルーム建屋に実施した作業領域配置例を説明する平面図である。クリーンルーム建屋20には、作業領域11Aが平面視で平面二方向に隣接して複数配置されている。作業領域11Aのそれぞれに前記天井サプライチャンバー14及びレタンチャンバ―13Aを有し、空気冷却手段3及び二方弁4は、複数の作業領域11Aに共通に設置される。
【0060】
給気温度センサー5は、レタンチャンバ―13Aの空気冷却手段3の出口、或いは天井サプライチャンバー14内に設置されると共に、複数の作業領域11Aのそれぞれに室内温度センサー6が設置されている。
【0061】
二方弁4の開度は、前記した給気温度センサー5の計測値と目標値に基づくPID制御より制御される。
【0062】
既に説明したが、給気温度センサー5には有線を介して温度計測値をシステム制御部30に伝送するセンサーを用い、室内温度センサー6には無線により温度計測値をシステム制御部30に伝送するセンサーを用いる。室内温度センサー6に無線センサーを用いるのは、通信線の施工が不要で、かつ設置場所の変更に容易に対処できることにある。
【0063】
作業領域に設置される生産装置の種類、配置位置は、
図3に示したような一律なものに限らない。その種類や個数、配置レイアウトに応じて室内温度センサー6が配置される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、上記した工業用のクリーンルームに限らず、一定の温度制御を必要とする農産物、海産物、飲料のウエアハウスなどにも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1・・・生産装置
2・・・ファンフィルタユニット(FFU)
3・・・空気冷却手段(ドライコイル)
4・・・二方弁
5・・・給気温度センサー
6・・・室内温度センサー
7・・・プログラマブルコントローラー(PLC)
8・・・ファンフィルタユニットコトローラー(FFUコントローラー)
9・・・室内温度センサー親機
10・・・AI用PC(機械学習ソフトウエアをインストールしたパソコン)
11・・・作業領域(クリーン雰囲気を維持する区画)
11A・・作業領域(室内温度センサ設置周囲)
12・・・隔壁
13A・・レタンシャフト
14・・・天井裏に設けたサプライチャンバー
15・・・二重天井
16・・・二重上げ床
17・・・床下チャンバー
20・・・クリーンルーム建屋
21・・・クリーンルーム建屋の天井
22・・・クリーンルーム建屋の側壁
23・・・クリーンルーム建屋の床面
30・・・システム制御部
31・・・信号路
40・・・冷水供給路