(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】火災検知システム
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
G08B17/00 C
(21)【出願番号】P 2020051869
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 和之
(72)【発明者】
【氏名】狩山 則之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 建弥
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-269471(JP,A)
【文献】特開2000-137877(JP,A)
【文献】特開2019-139657(JP,A)
【文献】国際公開第01/057819(WO,A1)
【文献】特開2020-017102(JP,A)
【文献】特開2001-067566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災を検知する対象領域を区分して得られる複数の第1の領域の各々における炎を検知する炎検知手段と、
前記対象領域を区分して得られる複数の第2の領域の各々に関し、当該第2の領域を撮影した画像に基づき煙を検知する煙検知手段と、
前記複数の第
2の領域
のいずれかにおいて前記
煙検知手段が
煙を検知し、かつ、
前記複数の第1の領域のうち、前記煙検知手段が煙を検知した第2の領域と対応付けられた
、火元が存在する可能性のある1以上の第
1の領域
のいずれかにおいて前記
炎検知手段が
炎を検知した場合に、火災と判定する火災判定手段と
を備え、
前記火災判定手段は、前記煙検知手段が検知した煙の拡散状態に基づき、
前記煙検知手段が煙を検知した第2の領域と対応付けられた、前記火元が存在する可能性のある1以上の第1の領域を変更する
火災検知システム。
【請求項2】
前記複数の第1の領域のうち隣り合う2つの第1の領域の境界位置と、前記複数の第2の領域のうち隣り合う2つの第2の領域の境界位置とは全て一致しており、前記複数の第1の領
域の位置関係と、
前記複数の
第1の領域のうち火災と判定された領域と、
前記複数の
第1の領域のうち火災と判定されず炎が検知された領域と、
前記複数の
第1の領域のうち火災と判定されず煙が検知された領域とを表す画像を表示する表示手段を備える
請求項1に記載の火災検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災検知の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の故障、事故等に起因する火災を速やかに検知するために、トンネル等の設備には、火災検知器が設置されている。火災検知器が火災を検知する方法としては、例えば、火災時に火元が発する光において支配的な周波数帯の光に感応する光センサの出力に基づき火災を検知するものなど、様々な方法が提案されている。
【0003】
火災報知器が誤報、すなわち、火災が発生していないときに誤って火災が発生したと判定し、火災の発生を報知してしまうと、無駄に救急車両が現場に向かったり、一時的に車両の通行が禁止されたりするため、極力誤報を無くしたい、というニーズがある。
【0004】
火災報知器の誤報を低減するための技術が記載されている文献として、例えば特許文献1がある。特許文献1には、無法無線装置等からのノイズに起因する誤報を低減するために、炎が発生する輻射光を検出する受光素子に加え、電磁ノイズを検出する電磁ノイズ検出素子を備え、電磁ノイズ検出素子の出力信号のレベルが所定の値以上である場合、受光素子の出力信号に基づき炎が検知されても、その検知を誤報と扱う炎検知器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の炎検知器によれば、電磁ノイズに起因する火災の誤検知は低減される。ただし、火災検知器の誤報の原因は電磁ノイズによるものばかりではない。例えば、日光などの炎以外の光源や、オートバイのマフラー等の炎以外の熱源が発する光に火災検知器のセンサが感応し、火災が発生していないときに火災発生と誤報してしまう場合など、誤報の原因は様々である。
【0007】
このような事情に鑑みて、本発明は、誤報が少なく高い信頼性で火災を検知する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、第1の領域における炎を検知する炎検知手段と、前記第1の領域に対応付けられた第2の領域を撮影した画像に基づき煙を検知する煙検知手段と、前記炎検知手段が炎を検知し、かつ、前記煙検知手段が煙を検知した場合に、火災と判定する火災判定手段とを備える火災検知システムを第1の態様として提供する。
【0009】
第1の態様に係る火災検知システムによれば、炎が検知されても煙が検知されていない場合、直ちには火災と判定されないため、例えば炎以外の光源や熱源に起因する炎の誤検知等による火災の誤報が低減される。
【0010】
第1の態様に係る火災検知システムにおいて、前記炎検知手段は、前記第1の領域を撮影した画像に基づき炎を検知する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0011】
第2の態様に係る火災検知システムによれば、炎検知のための特別な受光センサ等を用いることなく、汎用のカメラにより炎を検知することができる。また、煙と同様に炎も画像に基づき検知されるため、炎を画像以外の情報に基づき検知する場合と比較し、煙の検知と炎の検知で共通する処理(例えば、画像認識処理等)が増え、構成を簡素化できる。
【0012】
第1又は第2の態様に係る火災検知システムにおいて、前記火災判定手段は、前記炎検知手段が炎を検知しないが前記煙検知手段が検知した煙の発生状態が所定の条件を満たす場合、もしくは、前記煙検知手段が煙を検知しないが前記炎検知手段が検知した炎の発生状態が所定の条件を満たす場合、火災と判定する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0013】
第3の態様に係る火災検知システムによれば、炎と煙のいずれか一方が検知されなくても、他方が持続して発生している場合に、ユーザに火災が報知される。
【0014】
第1乃至第3のいずれかの態様に係る火災検知システムにおいて、前記炎検知手段は、複数の前記第1の領域の各々における炎を検知し、前記煙検知手段は、複数の前記第2の領域の各々における煙を検知し、前記第1の領域に対応付けられた第2の領域とは、複数の前記第2の領域から選択された1以上の第2の領域を意味し、前記火災判定手段は、前記煙検知手段が検知した煙の拡散状態に基づき、前記第1の領域に対応付けられた第2の領域を変更する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0015】
第4の態様に係る火災検知システムによれば、煙の拡散状態に基づき火災発生の判定のために炎を監視する領域が変更されるため、高い精度で火災の検知が行われる。
【0016】
第1乃至第4のいずれかの態様に係る火災検知システムにおいて、前記火災判定手段が火災と判定している場合に火災発生を報知し、前記火災判定手段が火災と判定しておらず前記炎検知手段が炎を検知している場合に炎発生を報知し、前記火災判定手段が火災と判定しておらず前記煙検知手段が煙を検知している場合に煙発生を報知する報知手段を備える、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0017】
第5の態様に係る火災検知システムによれば、火災発生と断じることができないが、炎又は煙が発生していることがユーザに報知される。その結果、ユーザはその後に火災発生が報知される可能性に備え、速やかに対応することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、誤報が少なく高い信頼性で火災の検知が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態に係る火災検知システムの全体構成を例示した図。
【
図2】一実施形態に係る防災受信盤の機能構成を示した図。
【
図3】一実施形態に係る検知ログテーブルの構成を例示した図。
【
図4】一実施形態に係る領域対応付けテーブルの構成を例示した図。
【
図5】一実施形態に係る火災判定手段が領域対応付けテーブルのデータを変更する目的を説明するための図。
【
図6】一実施形態に係る防災受信盤が火災、煙及び炎の発生を報知するために行う処理のフローを示した図。
【
図7】一実施形態に係る防災受信盤及び上位システムのディスプレイに表示される報知画面を例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施形態]
以下、本発明の一実施形態に係る火災検知システム1を説明する。
図1は、火災検知システム1の全体構成を例示した図である。なお、
図1は、トンネルTにおける火災を検知するために火災検知システム1を用いる場合を示している。なお、
図1はトンネルTを上から見た場合の図であり、左右方向に車両が走行する。
【0021】
火災検知システム1は、防災受信盤10と、トンネルTの壁面に概ね等間隔で整列配置された複数の炎検知器と、トンネルTの壁面に概ね等間隔で整列配置された複数のカメラを備える。複数の炎検知器の各々と、複数のカメラの各々は、防災受信盤10に通信接続されている。なお、それらの通信接続は有線接続であっても無線接続であってもよい。
【0022】
防災受信盤10は、複数の炎検知器の各々が炎を検知した場合に出力する炎検知信号を受信する。また、防災受信盤10は、複数のカメラが撮影し出力する画像を表す画像データを受信する。防災受信盤10は、炎検知器から受信した炎検知信号と、カメラから受信した画像データとに基づき、トンネルTのいずれかの領域に火災が発生しているか否かを判定し、火災が発生していると判定した場合には、火災発生を、表示及び警告音の発音によりトンネルT内の人々に報知するとともに、ネットワークを介して上位のシステム(
図1において図示略)に通知する。防災受信盤10が火災発生を判定するために行う処理については後述する。
【0023】
トンネルTはn個の領域、すなわち、領域A(1)、領域A(2)、・・・、領域A(n)に区分される。以下、これらの領域を区別しない場合、「領域A」と総称する。
【0024】
火災検知システム1が備える複数の炎検知器は、車両の走行方向における、複数の領域Aのうち隣り合う2つの領域の境界位置、すなわち、領域A(1)と領域A(2)の境界位置、領域A(2)と領域A(3)の境界位置、等に順次配置されている。より具体的には、
図1に示すように、領域A(1)の出入口側に炎検知器11(1)、領域A(1)と領域A(2)の境界位置に炎検知器11(2)、・・・、領域A(n-1)と領域A(n)の境界位置に炎検知器11(n)、そして、領域A(n)の出入口側に炎検知器11(n+1)が配置されている。以下、炎検知器11(1)、炎検知器11(2)、・・・、炎検知器11(n+1)を区別しない場合、これらの炎検知器を「炎検知器11」と総称する。
【0025】
炎検知器11の各々は、自装置から見て右側約90度の領域を監視可能な右側炎検知器と、自装置から見て左側約90度の領域を監視可能な左側炎検知器(右側炎検知器とともに、炎検知手段の一例)が統合された装置である。同じ炎検知器11が備える右側炎検知器と左側炎検知器は、電源、制御ユニット、通信ユニット等を共用しているが、各々の監視領域における炎の検知は個別に独立して行われる。なお、本願において炎検知器が対象の領域を監視するとは、炎検知器が対象の領域内の炎を検知することを意味する。
【0026】
図1に示すように、炎検知器11(i)(ただし、iは1≦i≦(n+1)のいずれかの自然数、以下同様)が備える右側炎検知器を右側炎検知器111(i)と呼び、炎検知器11(i)が備える左側炎検知器を左側炎検知器112(i)と呼ぶ。また、右側炎検知器111(1)、右側炎検知器111(2)、・・・、右側炎検知器111(n+1)を区別しない場合、これらの右側炎検知器を「右側炎検知器111」と総称する。同様に、左側炎検知器112(1)、左側炎検知器112(2)、・・・、左側炎検知器112(n+1)を区別しない場合、これらの左側炎検知器を「左側炎検知器112」と総称する。
【0027】
互いに隣り合う右側炎検知器111と左側炎検知器112は同じ領域を監視する。例えば、領域A(1)は、左側炎検知器112(1)と右側炎検知器111(2)により監視される。このように、1つの領域を左側炎検知器112と右側炎検知器111の2つで監視する理由は、それらの一方が故障した場合でも炎を検知可能とするためである。すなわち、火災検知システム1においては、同じ領域を監視する左側炎検知器112と右側炎検知器111の少なくとも一方が炎を検知した場合、その領域に炎が発生していると判定する。
【0028】
なお、炎検知器11(1)の右側炎検知器111(1)はトンネルTの内側を監視できないため、例えば遮光板で覆う等の処置により機能が無効化されている。同様に、炎検知器11(n+1)の左側炎検知器112もトンネルTの内側を監視できないため、機能が無効化されている。
【0029】
右側炎検知器111及び左側炎検知器112は、例えば赤外線3波長式炎検知器であり、感応する光の周波数特性が異なる3種の赤外線センサの出力信号に基づき炎を検知する。ただし、右側炎検知器111及び左側炎検知器112が炎を検知する方式は赤外線3波長式に限られず、他の方式が採用されてもよい。右側炎検知器111及び左側炎検知器112は、炎を検知した場合、防災受信盤10に対し炎検知信号を出力する。
【0030】
火災検知システム1が備える複数のカメラは、複数の領域Aの各々に1つずつ配置される。具体的には、領域A(1)を撮影するカメラ12(1)、領域A(2)を撮影するカメラ12(2)、・・・、領域A(n)を撮影するカメラ12(n)が、各々が監視する領域Aの車両の走行方向における概ね中間位置に配置されている。以下、カメラ12(1)、カメラ12(2)、・・・、カメラ12(n)を区別しない場合、これらのカメラを「カメラ12」と総称する。
【0031】
カメラ12は可視光に感応するイメージセンサ群により画像を生成する光学カメラであり、毎秒数回~数十回の頻度で撮影を行い、生成した画像を表す画像データを防災受信盤10に出力する。なお、カメラ12の画角は、対応する領域Aの全域をカバーするように広角である。
【0032】
防災受信盤10はプロセッサ及びメモリを備え、メモリが記憶するプログラムに従いプロセッサがデータ処理を行うことで、各種の機能を備える装置の役割と果たす。火災検知システム1が備える防災受信盤10は、プロセッサが本実施形態に係るプログラムに従うデータ処理を実行することによって、
図2に示す構成部を備える装置として機能する。以下に
図2に示す構成部(機能構成部)を説明する。
【0033】
計時手段101は、基準時刻からの経過時間を継続的に測定し、現在時刻を示す時刻データを生成する。記憶手段102は、各種データを記憶する。
【0034】
図3は、記憶手段102が記憶する、炎検知と煙検知の記録を行うためのテーブル(以下、「検知ログテーブル」という)の構成を例示した図である。検知ログテーブルは、複数の領域Aの各々に応じたデータレコードの集まりであり、各データレコードは、対応する領域Aにおいて、過去の所定時間(例えば、直近の過去10秒間)に炎が検知された時刻を示す時刻データを格納する「炎検知ログ」フィールドと、過去の所定時間(例えば、直近の過去10秒間)に煙が検知された時刻を示す時刻データとその煙が画像に占めている範囲を示す範囲データを格納する「煙検知ログ」フィールドと、検知された煙の拡散方向を示す拡散方向データを格納する「拡散方向」フィールドと、現在火災が発生しているか否かを示すフラグを格納する「火災発生」フィールドを有する。
【0035】
炎検知信号取得手段103(
図2)は、右側炎検知器111又は左側炎検知器112から出力される炎検知信号を取得する。炎検知信号取得手段103は、炎検知信号を取得すると、計時手段101から時刻データを取得し、炎検知信号の出力元の右側炎検知器111又は左側炎検知器112が監視する領域Aに応じた検知ログテーブル(
図3)のデータレコードの「炎検知ログ」フィールドに、計時手段101から取得した時刻データを格納する。
【0036】
画像データ取得手段104は、カメラ12から出力される画像データを取得する。画像データ取得手段104は、画像データを取得すると、計時手段101から時刻データを取得し、画像データの出力元のカメラ12が撮影を行った領域Aを識別する領域名と、計時手段101から取得した時刻データとを画像データに対応付けて、記憶手段102に記憶させる。
【0037】
煙検知手段105は、記憶手段102に新たな画像データが記憶されると、その画像データが表す画像に基づき、その画像が撮影された領域A内における煙を検知する。煙検知手段105は、特徴量抽出手段1051と、煙判定手段1052と、拡散状態特定手段1053を備える。
【0038】
特徴量抽出手段1051は、画像データが表す画像から特徴量を抽出する。煙判定手段1052は、特徴量抽出手段1051が抽出した特徴量と、予め記憶手段102に記憶されている煙の画像から抽出された参照用特徴量とを比較し、それらの類似度に基づき画像に煙が写っているか否かを判定する。
【0039】
煙検知手段105は、画像に煙が写っていると煙判定手段1052が判定した場合、その画像を表す画像データに対応付けられている時刻データと、その画像における煙が占める範囲を示す範囲データを、検知ログテーブル(
図3)の、その画像データに対応付けられている領域名が示す領域Aに応じたデータレコードの「煙検知ログ」フィールドに格納する。
【0040】
拡散状態特定手段1053は、画像に煙が写っていると煙判定手段1052が判定した場合、その煙の拡散状態を示す情報として、煙の拡散方向を特定し、特定した拡散方向を示す拡散方向データを検知ログテーブルの「拡散方向」フィールドに格納する。
【0041】
火災判定手段106(
図2)は、検知ログテーブル(
図3)の各データレコードに関し、そのデータレコードの「炎検知ログ」に所定数以上の時刻データが格納されており、かつ、そのデータレコードの領域Aに対応付けられた領域Aの「煙検知ログ」に所定数以上の時刻データが格納されていれば、そのデータレコードに応じた領域Aにおいて火災が発生している、と判定する。
【0042】
火災判定手段106が上記の判定を行うために、記憶手段102には炎の監視に関する領域Aと煙の監視に関する領域Aの対応付けを示すテーブル(以下、「領域対応付けテーブル」という)が格納されている。
図4は、領域対応付けテーブルの構成を例示した図である。領域対応付けテーブルは、煙の監視に関する領域Aの領域名が格納されている「煙監視領域」フィールドと、炎の監視に関する領域Aの領域名が格納されている「炎監視領域」フィールドを有する複数のデータレコードの集まりである。
【0043】
図4(a)は、いずれの領域Aにおいても煙が検知されていない状態における領域対応付けテーブルのデータ例を示している。すなわち、「煙監視領域」フィールドと「炎監視領域」フィールドには、領域A(1)~領域A(n)が1つずつ、順番に格納されている。
【0044】
火災判定手段106は、いずれかの領域Aにおいて煙が検知された場合、煙が検知された領域Aに応じた検知ログテーブル(
図3)のデータレコードの「拡散方向」フィールドに格納されている拡散方向データが示す方向と反対側に隣接する領域Aの領域名を「炎監視領域」フィールドに追加する。
【0045】
例えば、領域A(3)において煙が検知され、その煙が領域A(4)に向けて拡散している場合、火災判定手段106は領域対応付けテーブルの「煙監視領域」フィールドに「領域A(3)」が格納されているデータレコードの「炎監視領域」フィールドに、既に格納されている「領域A(3)」に加え、領域A(3)から見て領域A(4)と反対方向に隣接している領域Aの領域名「領域A(2)」を追加する。
図4(b)は、そのように更新された後の領域対応付けテーブルのデータ例を示している。
【0046】
図5は、火災判定手段106が、上記のように「炎監視領域」フィールドのデータを変更する目的を説明するための図である。
図5(a)は、領域A(2)内の火元Fにおいて炎と煙Sが発生し、煙Sが空気の流れにより速やかに領域A(2)から領域A(3)に移動した状態を示している。この場合、火元Fにおいて発生している炎は領域A(2)において検知され、煙Sは領域A(3)において検知される。従って、この時点では炎と煙が火災により発生したものであるか否かに疑いがある。
【0047】
図5(b)は
図5(a)から数秒が経過した後の煙Sの状態を示している。この場合、煙Sが右方向に拡散していることから、煙Sが仮に火災によるものであれば、その火元は領域A(3)にある可能性が高いが、その次に、煙Sの拡散方向と逆側に位置する領域A(2)内にある可能性が高い。そこで、火災判定手段106は、煙が検知された領域A(3)に対し、火元が存在する可能性の高い領域A(3)と領域A(2)を炎の監視領域として対応付ける。その結果、拡張された炎の監視領域において炎が検知された場合に、速やかに火災と判定されることになる。
【0048】
この場合、火災判定手段106は、検知ログテーブル(
図3)の領域A(3)のデータレコードの「煙検知ログ」に所定数以上のデータが格納され、領域A(3)又は領域A(2)のデータレコードの「炎検知ログ」に所定数以上のデータが格納された場合に、「炎検知ログ」に所定数以上のデータが格納されているデータレコードの領域A(この場合、領域A(2))において火災が発生している、と判定する。
【0049】
火災判定手段106は、ある領域Aにおいて火災が発生していると判定した場合、検知ログテーブル(
図3)の、その領域Aに応じたデータレコードの「火災発生」フィールドに「Yes」を格納し、火災が発生していないと判定した場合、「火災発生」フィールドに「No」を格納する。
【0050】
報知手段107(
図2)は、火災判定手段106が火災と判定している領域Aに関し、火災発生を報知する。具体的には、報知手段107は、検知ログテーブル(
図3)の「火災発生」フィールドに「Yes」が格納されているデータレコードに応じた領域Aに関し、火災が発生していることを、表示及び警報音の発音によりトンネルT内の人々に報知すると共に、ネットワークを介して上位システムに通知する。
【0051】
また、報知手段107は、火災判定手段106により火災と判定はされていないが、炎が検知されている領域Aに関し、炎発生を報知する。具体的には、報知手段107は、検知ログテーブルの「火災発生」フィールドに「No」が格納されており、かつ、「炎検知ログ」フィールドに所定数以上の時刻データが格納されているデータレコードに応じた領域Aに関し、炎が発生していることを、表示及び警報音の発音によりトンネルT内の人々に報知すると共に、ネットワークを介して上位システムに通知する。
【0052】
また、報知手段107は、火災判定手段106により火災と判定はされていないが、煙が検知されている領域Aに関し、煙発生を報知する。具体的には、報知手段107は、検知ログテーブルの「火災発生」フィールドに「No」が格納されており、かつ、「煙検知ログ」フィールドに所定数以上の時刻データが格納されているデータレコードに応じた領域Aに関し、煙が発生していることを、表示及び警報音の発音によりトンネルT内の人々に報知すると共に、ネットワークを介して上位システムに通知する。
【0053】
図6は、防災受信盤10が火災、煙及び炎の発生を報知するために行う処理のフローを示した図である。防災受信盤10は領域A(1)~領域A(n)の各々に関し、例えば所定時間の経過毎(例えば、1秒毎)に、
図6のフローに従う処理を実行する。以下、
図6のフローに従い領域A(i)に関し防災受信盤10が行う処理を説明する。
【0054】
防災受信盤10の火災判定手段106は、まず、領域A(i)に関し煙が検知されているか否かを判定する(ステップS101)。具体的には、火災判定手段106は、検知ログテーブルの領域A(i)に関するデータレコードの「煙検知ログ」フィールドに所定数以上のデータが格納されているか否かを判定する。
【0055】
ステップS101において、領域A(i)に関し煙が検知されていない、と判定した場合(ステップS101;No)、火災判定手段106は領域A(i)に関し炎が検知されているか否かを判定する(ステップS102)。具体的には、火災判定手段106は、検知ログテーブルの領域A(i)に関するデータレコードの「炎検知ログ」フィールドに所定数以上のデータが格納されているか否かを判定する。
【0056】
ステップS102において、領域A(i)に関し炎が検知されていない、と判定した場合(ステップS102;No)、報知手段107は何も報知しない。その後、一連の処理が終了する。
【0057】
ステップS102において、領域A(i)に関し炎が検知されている、と判定した場合(ステップS102;Yes)、火災判定手段106は炎検知時間tfが所定の閾値Tf以上であるか否かを判定する(ステップS103)。具体的には、火災判定手段106は、検知ログテーブルの領域A(i)に関するデータレコードの「炎検知ログ」フィールドに格納されている時刻データが示す最も古い時刻から最も新しい時刻までの時間を炎検知時間tfとして算出し、その炎検知時間tfが閾値Tf以上であるか否かを判定する。
【0058】
ステップS103において、炎検知時間tfが閾値Tf以上である、と判定した場合(ステップS103;Yes)、報知手段107は領域A(i)に関し火災の発生を報知する(ステップS104)。その後、一連の処理が終了する。すなわち、防災受信盤10は、煙が検知されなくても、炎が所定時間以上、継続して検知されていれば、火災発生の可能性が極めて高いと判断し、火災発生を報知する。
【0059】
ステップS103において、炎検知時間tfが閾値Tf以上でない、と判定した場合(ステップS103;No)、報知手段107は領域A(i)に関し炎の発生を報知する(ステップS105)。すなわち、防災受信盤10は、煙が検知されなくても、炎が検知されていれば、火災発生の予報として炎発生を報知する。その後、一連の処理が終了する。
【0060】
ステップS101において、領域A(i)に関し煙が検知されている、と判定した場合(ステップS101;Yes)、火災判定手段106は煙検知時間tsが所定の閾値Ts以上であるか否かを判定する(ステップS106)。具体的には、火災判定手段106は、検知ログテーブルの領域A(i)に関するデータレコードの「煙検知ログ」フィールドに格納されている時刻データが示す最も古い時刻から最も新しい時刻までの時間を煙検知時間tsとして算出し、その煙検知時間tsが閾値Ts以上であるか否かを判定する。
【0061】
ステップS106において、煙検知時間tsが閾値Ts以上である、と判定した場合(ステップS106;Yes)、報知手段107は領域A(i)に関し火災の発生を報知する(ステップS104)。その後、一連の処理が終了する。すなわち、防災受信盤10は、炎が検知されなくても、煙が所定時間以上、継続して検知されていれば、火災発生の可能性が極めて高いと判断し、火災発生を報知する。
【0062】
ステップS106において、煙検知時間tsが閾値Ts以上でない、と判定した場合(ステップS106;No)、火災判定手段106は領域A(i)における煙の拡散状態に基づき、領域A(i)に対応付けられている炎監視領域を変更する(ステップS107)。具体的には、火災判定手段106は検知ログテーブルの領域A(i)に関するデータレコードの「煙検知ログ」フィールドに格納されている範囲データが示す範囲が、時間の経過に伴い所定の速度以上に拡がっていれば、その方向を示す拡散方向データを「拡散方向」フィールドに格納する。「拡散方向」フィールドに拡散方向データを格納した場合、火災判定手段106は、領域対応付けテーブル(
図4)の「煙監視領域」フィールドに領域A(i)の領域名が格納されているデータレコードの「炎監視領域」フィールドに、領域A(i)から見て煙の拡散方向と反対側に隣接している領域Aの領域名を追加する。
【0063】
ステップS107に続いて、火災判定手段106は、煙が検知されている領域A(i)に対応付けられた炎監視領域において、炎が検知されているか否かを判定する(ステップS108)。例えば、領域A(i)と領域A(i+1)が炎監視領域となっている場合、火災判定手段106は、検知ログテーブルの領域A(i)に関するデータレコードの「炎検知ログ」フィールドと、領域A(i+1)に関するデータレコードの「炎検知ログ」フィールドの各々に関し、所定数以上のデータが格納されているか否かを判定する。
【0064】
ステップS108において、いずれかの炎監視領域において炎が検知されている、と火災判定手段106が判定した場合(ステップS108;Yes)、報知手段107は炎が検知されている領域Aに関し、火災発生を報知する(ステップS104)。
【0065】
ステップS108において、いずれの炎監視領域においても炎が検知されていない、と火災判定手段106が判定した場合(ステップS108;No)、報知手段107は領域A(i)に関し、煙発生を報知する(ステップS109)。すなわち、防災受信盤10は、炎が検知されなくても、煙が検知されていれば、火災発生の予報として煙発生を報知する。
その後、一連の処理が終了する。
【0066】
図7は、防災受信盤10及び上位システムのディスプレイに表示される報知画面を例示した図である。
【0067】
上述した火災検知システム1によれば、炎の検知結果のみでなく、煙の検知結果に基づいて、火災の判定が行われるため、炎の検知結果のみに基づき火災の判定を行う場合と比較し、誤報が少なく高い信頼性で火災の検知が行われる。
【0068】
また、火災検知システム1によれば、炎が検知されなくても、煙が所定時間以上、継続して検知されれば、火災が報知される。そのため、例えば、火元の可燃物が炎検知器11により検知しにくい周波数特性の光を発するものであるような場合や、炎が車両内等で発生し、炎検知器11から隠れた位置にあるような場合であっても、火災が見逃されずに報知される。
【0069】
また、火災検知システム1によれば、煙が検知されなくても、炎が所定時間以上、継続して検知されれば、火災が報知される。そのため、例えば、火元の可燃物が不純物を含まず煙をあまり出さない場合や、強い風により発生した煙が速やかに拡散されて見えなくなる場合であっても、火災が見逃されずに報知される。
【0070】
[変形例]
上述の実施形態は本発明の一具体例であって、本発明の技術的思想の範囲内において様々に変形可能である。以下にそれらの変形の例を示す。なお、以下に示す2以上の変形例が適宜組み合わされてもよい。
【0071】
(1)上述した火災検知システム1においては、炎検知器11(炎検知手段)の監視領域とカメラ12の撮影領域、すなわち、煙検知手段105の監視領域が一致している。これらの監視領域は必ずしも一致しなくてよい。
【0072】
(2)上述した火災検知システム1においては、炎は赤外線3波長式炎検知器である炎検知器11により検知される。炎の検知方法は赤外線等の光を感知するセンサを用いる方法に限られない。例えば、カメラ12が撮影した画像から、画像認識技術を用いて、炎を検知する構成が採用されてもよい。この場合、防災受信盤10は、機能構成部として、例えば、カメラ12が撮影した画像から特徴量抽出手段1051が抽出された特徴量と、炎の参照用特徴量とを比較し、それらの類似度に基づき、カメラ12が撮影した領域Aに炎が発生しているか否かを判定する炎判定手段を備えるように構成される。この変形例によれば、カメラ12の他に別途、炎検知器11を設ける必要がない。また、画像から特徴量を抽出する処理は炎検知と煙検知で共用されるため、防災受信盤10の処理の負荷が少ない。
【0073】
(3)上述した火災検知システム1においては、炎の発生は炎検知器11において判定され、煙の発生及び火災の発生は防災受信盤10において判定される。炎、煙及び火災の発生の判定の処理が行われる場所はこれらに限られない。例えば、炎検知器11が炎検知信号に代えて、赤外線センサ等のセンサによる測定結果を示す測定結果信号を防災受信盤10に出力し、防災受信盤10が測定結果信号に基づき、炎の発生の有無を判定してもよい。また、例えば、防災受信盤10が火災の判定は行わず、炎の検知結果と煙の検知結果を示すデータを上位システムに送信し、上位システムがそれらのデータに基づき、火災の発生の有無を判定してもよい。
【0074】
(4)上述した火災検知システム1において、火災判定手段106は、領域対応付けテーブルの煙監視領域は変更せず、炎監視領域を変更することによって、炎監視領域(第1の領域の一例)と煙監視領域(第2の領域の一例)の対応付けを変更する。領域対応付けテーブルの構成及び使用方法はこれに限られず、例えば、火災判定手段106が、領域対応付けテーブルの炎監視領域を変更せず、煙監視領域を変更することによって、炎監視領域と煙監視領域の対応付けを変更してもよい。
【0075】
(5)上述した火災検知システム1において、
図6に示した処理のフローはあくまで一例であり、同様の結果が得られる限り、
図6に示した処理の一部の順序が変更等されてもよい。
【0076】
(6)上述した火災検知システム1においては、炎検知器11とカメラ12は異なる位置に設置されるものとしたが、これらが同じ位置に設置されてもよい。さらに、炎検知器11とカメラ12が一体型の装置として構成されてもよい。すなわち、炎検知器11がカメラ12の機能を備える、又は、カメラ12が炎検知器11の機能を備えてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…火災検知システム、10…防災受信盤、11…炎検知器、12…カメラ、101…計時手段、102…記憶手段、103…炎検知信号取得手段、104…画像データ取得手段、105…煙検知手段、106…火災判定手段、107…報知手段、111…右側炎検知器、112…左側炎検知器、1051…特徴量抽出手段、1052…煙判定手段、1053…拡散状態特定手段。