(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】チェックバルブおよびブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
F16K 15/06 20060101AFI20240926BHJP
B60T 8/34 20060101ALI20240926BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F16K15/06
B60T8/34
B60T13/138 A
(21)【出願番号】P 2020080664
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堀 哲生
(72)【発明者】
【氏名】中村 元泰
【審査官】武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】実開平6-35749(JP,U)
【文献】実開昭59-79672(JP,U)
【文献】特開2001-304060(JP,A)
【文献】実開平6-35750(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 15/00-15/20
B60T 8/34
B60T 13/138
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液が通流する流路に配置されるチェックバルブであって、
前記流路に固定されるキャップと、
前記流路に設けられた着座面に着座するプラグと、
前記キャップに設けられ、前記キャップから前記プラグに向けて延出する円柱状の第一延出部と、
前記プラグに設けられ、前記プラグから前記キャップに向けて延出し、前記第一延出部の外面に摺動自在に装着される円筒状の第二延出部と、
前記キャップと前記プラグとの間に介設され、前記プラグを前記着座面に向けて付勢するスプリングと、
前記キャップに取り付けられ、前記キャップから前記プラグに向けて延出し、前記第二延出部の径方向外側に配置される
とともに前記第二延出部に係止される円筒壁部を有するリテーナと、を備え、
前記スプリングは、前記リテーナと前記プラグとの間に縮設されており、
前記第一延出部の外面と前記第二延出部の内面とのクリアランスをCL1とし、
前記第二延出部の外面と前記円筒壁部の内面とのクリアランスをCL2とした場合に、
CL1<CL2の関係を有することを特徴とするチェックバルブ。
【請求項2】
前記第二延出部および前記円筒壁部には、作動液の通流を可能とする貫通部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェックバルブ。
【請求項3】
前記第一延出部と前記第二延出部とは、軸方向に延在する摺動代を備えて摺接していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェックバルブ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のチェックバルブを備えたブレーキシステムであって、
作動液を貯溜するリザーバタンクと、
車輪ブレーキに作用させる作動液圧を発生させる液圧発生装置と、を備え、
前記リザーバタンクから前記液圧発生装置の構成装置に至る液路に前記チェックバルブが配置されていることを特徴とするブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチェックバルブおよびブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チェックバルブを備えたブレーキシステムとして、特許文献1に開示されたものが知られている。
特許文献1のブレーキシステムでは、リザーバタンクから補給路を介してスレーブシリンダ内にブレーキ液を吸液する機能を備えている。チェックバルブは、前記補給路に設けられており、スレーブシリンダで発生したブレーキ液圧がリザーバタンク側に伝達するのを防止している。
【0003】
チェックバルブは、スレーブシリンダの基体に固定されるキャップと、液路を開閉するプラグと、キャップとプラグとの間に介設されたスプリングとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のチェックバルブは、キャップとプラグとスプリングとを基体に対して別々に挿入し基体内で組み付けられる。このため、組み付け工程の増加によるコストアップや組み付け過程で塵埃が混入するおそれがあった。
また、プラグによる流路開閉レスポンスの向上を図りたいという要望があった。
【0006】
本発明は、コストの低減を図ることができるとともに塵埃混入の事象が生じるのを好適に防止でき、かつ流路開閉レスポンスの向上を図ることができるチェックバルブおよびブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために創案された本発明のチェックバルブは、作動液が通流する流路に配置されるチェックバルブである。チェックバルブは、前記流路に固定されるキャップと、前記流路に設けられた着座面に着座するプラグと、を備える。前記キャップは、前記プラグに向けて延出する円柱状の第一延出部を備える。前記プラグは、前記キャップに向けて延出し、前記第一延出部にガイドされる第二延出部を備える。前記キャップと前記プラグとの間には、前記プラグを前記着座面に向けて付勢するスプリングが介設されている。前記キャップには、前記キャップから前記プラグに向けて延出し、前記第二延出部の径方向外側に配置されるとともに前記第二延出部に係止される円筒壁部を有するリテーナが取り付けられている。前記スプリングは、前記リテーナと前記プラグとの間に縮設されている。前記第一延出部の外面と前記第二延出部の内面とのクリアランスをCL1とし、前記第二延出部の外面と前記円筒壁部の内面とのクリアランスをCL2とした場合に、CL1<CL2の関係を有する。
【0008】
このチェックバルブによると、リテーナを介して、キャップとプラグとスプリングとを組合せ品として構成できる。したがって、従来のようにキャップとプラグとスプリングとを基体内で組み付ける必要がなくなる。これにより、コスト低減を図ることができるとともに塵埃混入の事象が生じるのを好適に防止できる。
【0009】
また、チェックバルブは、組合せ品として組み付けできるので、プラグの倒れやスプリングの倒れを好適に阻止でき、これらの事象が生じたまま製品が組み立てられる不都合も生じ難い。
また、組合せ品とすることができるので、チェックバルブの部品交換が容易である。
【0010】
また、CL1<CL2の関係によって、キャップの第一延出部に対してプラグの第二延出部が摺動する際に、第二延出部の外面に円筒壁部の内面が接触しないクリアランスを確保できる。したがって、摺動抵抗の低減を図ることができ、プラグによる流路開閉レスポンスの向上を図ることができる。
【0011】
また、前記第二延出部および前記円筒壁部には、作動液の通流を可能とする貫通部が形成されていることが好ましい。この構成では、貫通部を介して作動液の通流が可能となり、液密による摺動ロックを防止できる。
【0012】
また、前記第一延出部と前記第二延出部とが、軸方向に延在する摺動代を備えて摺接していることが好ましい。この構成では、第一延出部と第二延出部とのスムーズな摺動を実現できる。また、摺動量が増えることで摺動代も増加するので、キャップに対するプラグの安定したストロークを達成できる。
【0013】
また、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のチェックバルブを備えたブレーキシステムでは、作動液を貯溜するリザーバタンクと、車輪ブレーキに作用させる作動液圧を発生させる液圧発生装置と、を備え、前記リザーバタンクから前記液圧発生装置の構成装置に至る液路に前記チェックバルブが配置されていることが好ましい。このブレーキシステムでは、リザーバタンクから液圧発生装置に液路を介して作動液を吸液して確保できる。また、液圧発生装置で発生した作動液圧がリザーバタンク側に伝達するのを好適に防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、コストの低減を図ることができるとともに塵埃混入の事象が生じるのを好適に防止でき、かつ流路開閉レスポンスの向上を図ることができるチェックバルブおよびブレーキシステムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のチェックバルブが適用されるブレーキシステムを示した全体構成図である。
【
図2】本実施形態のブレーキシステムに備わる液圧発生装置の要部を示した断面図である。
【
図3】本実施形態のチェックバルブを基体に組み付ける際の様子を示した斜視図である。
【
図4】本実施形態のチェックバルブの分解斜視図である。
【
図5】本実施形態のチェックバルブの斜視図である。
【
図6】本実施形態のチェックバルブのリテーナを断面で表した側面図である。
【
図7】本実施形態のチェックバルブの拡大縦断面図である。
【
図8】本実施形態のチェックバルブのプラグに装着されるシール部材とスプリングの端部との関係を示す断面図である。
【
図9】本実施形態のチェックバルブにおいて組付け時のシール部材の様子を示した拡大断面図である。
【
図10】本実施形態のチェックバルブにおいて低圧時のシール部材の様子を示した拡大断面図である。
【
図11】本実施形態のチェックバルブにおいて高圧時のシール部材の様子を示した拡大断面図である。
【
図12】本実施形態のチェックバルブに組み付けられる弾性部材を示す拡大斜視図である。
【
図13】本実施形態のチェックバルブに組み付けられる弾性部材を示す拡大図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は
図13(a)におけるXIII-XIV線断面図である。
【
図14】本実施形態のチェックバルブを示す図であり、(a)は基体に組み付けられた状態を示す説明図であり、(b)はプラグが開いた状態を示す説明図である。
【
図15】本実施形態のチェックバルブのリテーナの他の形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。
初めに、本実施形態のチェックバルブが備わるブレーキシステムについて説明する。
図1に示すように、ブレーキシステムAは、原動機(エンジンや電動モータなど)の起動時に作動するバイ・ワイヤ式のブレーキシステムと、原動機の停止時などに作動する油圧式のブレーキシステムの双方を備えるものである。
【0017】
ブレーキシステムAは、モータを併用するハイブリッド自動車やモータのみを動力源とする電気自動車・燃料電池自動車、さらに、エンジン(内燃機関)のみを動力源とする自動車に搭載することができる。
【0018】
ブレーキシステムAは、ブレーキペダルP(ブレーキ操作子)のストローク量(作動量)に応じてブレーキ液圧を発生させるとともに、車両挙動の安定化を支援する液圧発生装置1を備えている。
【0019】
液圧発生装置1は、基体100と、ブレーキペダルPのストローク量に応じて作動液としてのブレーキ液の液圧を発生させるマスタシリンダ10と、を備えている。また、液圧発生装置1は、構成装置としてブレーキペダルPに擬似的な操作反力を付与するストロークシミュレータ40と、モータ24を駆動源としてブレーキ液圧を発生させるスレーブシリンダ20と、を備えている。さらに、液圧発生装置1は、構成装置として車輪ブレーキBRの各ホイールシリンダWに作用するブレーキ液の液圧を制御し、車両挙動の安定化を支援する液圧制御装置30と、リザーバタンク80と、電子制御装置90と、を備えている。
【0020】
基体100は、車両に搭載される金属製のブロックである(
図2参照)。基体100の 基体100は、車両に搭載される金属製のブロックである。基体100の内部には三つのシリンダ穴11,21,41および複数の液圧路(液路)2a,2b,3,4,5a,5b,73,74などが形成されている。また、基体100には、リザーバタンク80およびモータ24などの各種部品が取り付けられている。
【0021】
第一シリンダ穴11、第二シリンダ穴21、および第三シリンダ穴41は、有底円筒状を呈している。各シリンダ穴11,21,41の図示しない軸線は平行かつ並列に配置されている。また、各シリンダ穴11,21,41の端部は、基体100の一部の面101b,102bに開口している。
【0022】
マスタシリンダ10は、2つの第一ピストン12a,12bを有するタンデムピストン型である。第一シリンダ穴11内には、2つのコイルばね17a,17bが収容されている。
【0023】
コイルばね17aは、第一シリンダ穴11の底面11aと底側の第一ピストン12aとの間に形成された底側圧力室16aに配置されている。コイルばね17aは、底面11a側に移動した第一ピストン12aを開口部11b側に押し戻す。
コイルばね17bは、第一ピストン12aと開口側の第一ピストン12bとの間に形成された開口側圧力室16bに配置されている。コイルばね17bは、底面11a側に移動した第一ピストン12bを開口部11b側に押し戻すものである。
【0024】
ブレーキペダルPのロッドP1は、第一シリンダ穴11内に挿入され、第一ピストン12bに連結されている。両第一ピストン12a,12bは、ブレーキペダルPの踏力を受けて第一シリンダ穴11内を摺動し、底側圧力室16a内および開口側圧力室16b内のブレーキ液を加圧する。
【0025】
リザーバタンク80は、ブレーキ液を貯溜する容器であり、基体100の一面101eに取り付けられている。リザーバタンク80に突設された二つの給液部は、基体100の面101eに形成された二つのリザーバユニオンポート81,82に挿入されている。これにより、底側圧力室16a内および開口側圧力室16b内にブレーキ液が補給される。
【0026】
ストロークシミュレータ40は、第三シリンダ穴41に挿入された第三ピストン42と、第三シリンダ穴41の開口部41bを閉塞する蓋部材44と、第三ピストン42と蓋部材44との間に収容された二つのコイルばね43a,43bと、を備えている。
【0027】
第三シリンダ穴41の底面41aと第三ピストン42との間には圧力室45が形成されている。圧力室45は、後記する分岐液圧路3および第二メイン液圧路2bを介して、第一シリンダ穴11の開口側圧力室16bに通じている。
ストロークシミュレータ40では、マスタシリンダ10の開口側圧力室16bで発生したブレーキ液圧によって、第三ピストン42がコイルばね43a,43bの付勢力に抗して移動する。これにより、ブレーキペダルPに擬似的な操作反力が付与される。
【0028】
スレーブシリンダ20は、シングルピストン型であり、第二シリンダ穴21に挿入された第二ピストン22と、第二シリンダ穴21内に収容されたコイルばね23と、モータ24と、駆動伝達部25と、を備えている。
【0029】
第二シリンダ穴21の底面21aと、第二ピストン22との間には圧力室(液圧室)26が形成されている。また、圧力室26にはコイルばね23が収容されている。コイルばね23は、底面21a側に移動した第二ピストン22を開口部21b側に押し戻す。
【0030】
モータ24は、電子制御装置90によって駆動制御される電動サーボモータである。モータ24は、基体100のフランジ部103に取り付けられている。モータ24の出力軸24aは、フランジ部103に形成された挿通穴103cを通じてフランジ部103の他方に突出している。出力軸24aには、駆動側プーリー24bが取り付けられている。
【0031】
駆動伝達部25は、モータ24の出力軸24aの回転駆動力を直線方向の軸力に変換する機構である。
駆動伝達部25は、ロッド25aと、ロッド25aを取り囲んでいる筒状のナット部材25bと、ナット部材25bの全周に設けられた従動側プーリー25cと、従動側プーリー25cと駆動側プーリー24bとに掛けられた無端状のベルト25dと、カバー部材25eと、を備えている。
【0032】
ロッド25aは、第二シリンダ穴21の開口部21bから第二シリンダ穴21内に挿入されており、ロッド25aの端部が第二ピストン22に当接している。ロッド25aの外周面と、ナット部材25bの内周面との間には、ボールねじ機構が設けられている。
【0033】
出力軸24aが回転すると、その回転駆動力が駆動側プーリー24b、ベルト25dおよび従動側プーリー25cを介してナット部材25bに入力される。そして、ナット部材25bとロッド25aとの間に設けられたボールねじ機構によって、ロッド25aに直線方向の軸力が付与され、ロッド25aが軸方向に進退移動する。
ロッド25aが底部21a側に移動したときには、第二ピストン22がロッド25aからの入力を受けて第二シリンダ穴21内を摺動し、圧力室26内のブレーキ液を加圧する。
【0034】
次に、基体100内に形成された各液圧路について説明する。
図1に示すように、二つのメイン液圧路2a,2bは、マスタシリンダ10の第一シリンダ穴11を起点とする液圧路である。
第一メイン液圧路2aは、マスタシリンダ10の底側圧力室16aから液圧制御装置30を介して二つの車輪ブレーキBR,BRに通じている。
第二メイン液圧路2bは、マスタシリンダ10の開口側圧力室16bから液圧制御装置30を介して他の二つの車輪ブレーキBR,BRに通じている。
【0035】
分岐液圧路3は、ストロークシミュレータ40の圧力室45から第二メイン液圧路2bに至る液圧路である。分岐液圧路3には常閉型電磁弁8が設けられている。常閉型電磁弁8は分岐液圧路3を開閉するものである。
【0036】
二つの連通路5a,5bは、スレーブシリンダ20の第二シリンダ穴21を起点とする液圧路である。両連通路5a,5bは、共通液圧路4および吐出口側液路4aに合流して、第二シリンダ穴21に通じている。
第一連通路5aは、第二シリンダ穴21内の圧力室26から第一メイン液圧路2aに至る流路であり、第二連通路5bは、圧力室26から第二メイン液圧路2bに至る流路である。
【0037】
第一メイン液圧路2aと第一連通路5aとの連結部位には、三方向弁である第一切替弁63が設けられている。第一切替弁63は、2ポジション3ポートの電磁弁である。
第一切替弁63が
図1に示す第一ポジションの状態では、第一メイン液圧路2aの上流側(マスタシリンダ10側)と下流側(車輪ブレーキBR側)とが連通し、第一メイン液圧路2aと第一連通路5aとが遮断される。
第一切替弁63が第二ポジションの状態では、第一メイン液圧路2aの上流側と下流側とが遮断され、第一連通路5aと第一メイン液圧路2aの下流側とが連通する。
【0038】
第二メイン液圧路2bと第二連通路5bとの連結部位には、三方向弁である第二切替弁64が設けられている。第二切替弁64は、2ポジション3ポートの電磁弁である。
第二切替弁64が
図1に示す第一ポジションの状態では、第二メイン液圧路2bの上流側(マスタシリンダ10側)と下流側(車輪ブレーキBR側)とが連通し、第二メイン液圧路2bと第二連通路5bとが遮断される。
第二切替弁64が第二ポジションの状態では、第二メイン液圧路2bの上流側と下流側とが遮断され、第二連通路5bと第二メイン液圧路2bの下流側とが連通する。
【0039】
第一連通路5aには、第一遮断弁61が設けられている。第一遮断弁61は常開型電磁弁である。第一遮断弁61が通電時に閉弁すると、第一遮断弁61において第一連通路5aが遮断される。
第二連通路5bには、第二遮断弁62が設けられている。第二遮断弁62は常開型電磁弁である。第二遮断弁62が通電時に閉弁すると、第二遮断弁62において第二連通路5bが遮断される。
【0040】
二つの圧力センサ6,7は、ブレーキ液圧の大きさを検知するものであり、両圧力センサ6,7で取得された情報は電子制御装置90に出力される。
第一圧力センサ6は、第一切替弁63よりも上流側に配置されており、マスタシリンダ10で発生したブレーキ液圧を検知する。
第二圧力センサ7は、第二切替弁64よりも下流側に配置されており、両連通路5a,5bと両メイン液圧路2a,2bの下流側とが連通しているときには、スレーブシリンダ20で発生したブレーキ液圧を検知する。
【0041】
スレーブシリンダ補給路73は、リザーバタンク80からスレーブシリンダ20に至る液路である。また、スレーブシリンダ補給路73は、分岐補給路73aを介して共通液圧路4に接続されている。
分岐補給路73aには、リザーバタンク80側から共通液圧路4側(スレーブシリンダ20側)へのブレーキ液の流入のみを許容するチェックバルブ50が設けられている。分岐補給路73aにチェックバルブ50が設けられているので、スレーブシリンダ20で発生した液圧がリザーバタンク80側へ伝達するのをチェックバルブ50によって好適に防止することができる。
【0042】
通常時は、スレーブシリンダ補給路73を通じてリザーバタンク80からスレーブシリンダ20にブレーキ液が補給される。
また、後記する吸液制御時には、スレーブシリンダ補給路73、分岐補給路73a、チェックバルブ50、吐出口側液路4aおよび吐出口27を備えて構成されている補給路を通じて、リザーバタンク80からスレーブシリンダ20にブレーキ液が吸液される。
【0043】
戻り液路74は、液圧制御装置30からリザーバタンク80に至る液路である。戻り液路74には、液圧制御装置30を介して各ホイールシリンダWから逃がされたブレーキ液が流入する。戻り液路74に逃がされたブレーキ液は、戻り液路74を通じてリザーバタンク80に戻される。
【0044】
液圧制御装置30は、各車輪ブレーキBRの各ホイールシリンダWに作用するブレーキ液の液圧を適宜制御するものである。液圧制御装置30は、アンチロックブレーキ制御を実行し得る構成を備えている。各ホイールシリンダWは、それぞれ配管を介して基体100の出口ポート301に接続されている。
【0045】
液圧制御装置30は、ホイールシリンダWに作用する液圧(以下、「ホイールシリンダ圧」という)を増圧、保持または減圧させることができる。液圧制御装置30は、入口弁31、出口弁32、チェック弁33を備えている。
【0046】
入口弁31は、第一メイン液圧路2aから二つの車輪ブレーキBR,BRへ至る二つの液圧路と、第二メイン液圧路2bから二つの車輪ブレーキBR,BRへ至る二つの液圧路とに一つずつ配置されている。
入口弁31は、常開型の比例電磁弁(リニアソレノイド弁)であり、入口弁31のコイルに流す電流値に応じて、入口弁31の開弁圧を調整可能となっている。
入口弁31は、通常時に開弁していることで、スレーブシリンダ20から各ホイールシリンダWへ液圧が付与されるのを許容している。また、入口弁31は、車輪がロックしそうになったときに電子制御装置90の制御により閉弁し、各ホイールシリンダWに付与されるブレーキ液圧を遮断する。
【0047】
出口弁32は、各ホイールシリンダWと戻り液路74との間に配置された常閉型の電磁弁である。
出口弁32は、通常時に閉弁されているが、車輪がロックしそうになったときに電子制御装置90の制御により開弁される。
【0048】
チェック弁33は、各入口弁31に並列に接続されている。チェック弁33は、ホイールシリンダW側からスレーブシリンダ20側(マスタシリンダ10側)へのブレーキ液の流入のみを許容する弁である。したがって、入口弁31が閉弁しているときでも、チェック弁33は、各ホイールシリンダW側からスレーブシリンダ20側へのブレーキ液の流れを許容する。
【0049】
電子制御装置90は、樹脂製の箱体であるハウジング91と、ハウジング91内に収容された制御基板(図示せず)と、を備えている。基体100には、電子制御装置90の取付面が形成されている。
電子制御装置90は、両圧力センサ6,7やストロークセンサ(図示せず)などの各種センサから得られた情報や予め記憶させておいたプログラム等に基づいて、モータ24の作動や各弁の開閉を制御する。
【0050】
また、電子制御装置90は、吸液制御を行う機能を備えている。吸液制御は、リザーバタンク80からスレーブシリンダ補給路73(チェックバルブ50)を経てスレーブシリンダ20内にブレーキ液を積極的に吸液する制御である。これにより、スレーブシリンダ20内のブレーキ液量が確保される。吸液制御は、例えば、高液圧領域までスレーブシリンダ20で加圧するためにブレーキ液を確保したい場合に実行される。また、吸液制御は、スレーブシリンダ20の発生液圧が運転者の要求液圧となった状態(定常の状態)で、それ以降の加圧に備えてブレーキ液を予め確保しておく場合などに実行される。
【0051】
次にブレーキシステムAの動作について概略説明する。
図1に示すブレーキシステムAでは、システムが起動されると、両切替弁63,64が励磁されて、前記した第一ポジションから第二ポジションに切り替わる。
これにより、第一メイン液圧路2aの下流側と第一連通路5aとが通じるとともに、第二メイン液圧路2bの下流側と第二連通路5bとが通じる。そして、マスタシリンダ10と各ホイールシリンダWとが遮断されるとともに、スレーブシリンダ20とホイールシリンダWとが連通する。
【0052】
また、システムが起動されると、分岐液圧路3の常閉型電磁弁8は開弁される。これにより、ブレーキペダルPの操作によってマスタシリンダ10で発生した液圧は、ホイールシリンダWには伝達されずに、ストロークシミュレータ40に伝達される。
そして、ストロークシミュレータ40の圧力室45の液圧が大きくなると、第三ピストン42がコイルばね43a,43bの付勢力に抗して蓋部材44側に移動する。これにより、ブレーキペダルPのストロークが許容され、擬似的な操作反力がブレーキペダルPに付与される。
【0053】
また、ストロークセンサ(図示せず)によって、ブレーキペダルPの踏み込みが検知されると、電子制御装置90によりスレーブシリンダ20のモータ24が駆動され、スレーブシリンダ20の第二ピストン22が底面21a側に移動する。これにより、圧力室26内のブレーキ液が加圧される。
電子制御装置90は、スレーブシリンダ20の発生液圧(第二圧力センサ7で検出された液圧)と、ブレーキペダルPの操作量に対応した要求液圧とを対比し、その対比結果に基づいてモータ24の回転速度等を制御する。
このようにして、ブレーキシステムAではブレーキペダルPの操作量に応じて液圧を昇圧させる。そして、スレーブシリンダ20の発生液圧は液圧制御装置30に入力される。
【0054】
ブレーキペダルPの踏み込みが解除されると、電子制御装置90によりスレーブシリンダ20のモータ24が逆転駆動され、第二ピストン22がコイルばね23によってモータ24側に戻される。これにより、圧力室26内が降圧される。
【0055】
液圧制御装置30では、電子制御装置90により入口弁31および出口弁32の開閉状態を制御することで、各ホイールシリンダWのホイールシリンダ圧が調整される。
例えば、入口弁31が開弁し、出口弁32が閉弁した通常状態では、ブレーキペダルPを踏み込めば、スレーブシリンダ20で発生した液圧がそのままホイールシリンダWへ伝達してホイールシリンダ圧が増圧する。
また、入口弁31が閉弁し、出口弁32が開弁した状態では、ホイールシリンダWから戻り液路74側へブレーキ液が流出し、ホイールシリンダ圧が減少して減圧する。
さらに、入口弁31と出口弁32がともに閉となる状態では、ホイールシリンダ圧が保持される。
【0056】
なお、スレーブシリンダ20が作動しない状態(例えば、イグニッションOFFや、電力が得られない場合など)においては、第一切替弁63、第二切替弁64、常閉型電磁弁8が初期状態に戻る。これにより、両メイン液圧路2a,2bの上流側と下流側とが連通する。この状態では、マスタシリンダ10で発生した液圧が液圧制御装置30を介して、各ホイールシリンダWに伝達される。
【0057】
次に、チェックバルブ50(
図1参照)について説明する。チェックバルブ50は、
図2に示すように、スレーブシリンダ20の吐出口27の近傍に配置されている。具体的に、チェックバルブ50は、第二シリンダ穴21が形成される基体100の端部に配置されている。
【0058】
チェックバルブ50は、分岐補給路73aに連通する段付き円形断面の収容室111に設置されている。収容室111は、基体100の端面に開口している。収容室111は、大径に形成された第一収容室としての大径部112と、大径部112よりも小径に形成された第二収容室としての小径部113とを備えている。小径部113は、さらに段差部113aを境にして大きい径に形成されている。小径部113には、平らな着座面114が形成されている。着座面114の中央には、分岐補給路73aが開口している。分岐補給路73aは、スレーブシリンダ補給路73に連通している。
【0059】
チェックバルブ50は、キャップ51と、プラグ52と、スプリング53と、リテーナ54とを備えている。チェックバルブ50は、
図3に示すように、全体をユニット(部分組合せ品)として構成できる。したがって、チェックバルブ50は、部分組合せ品として基体110の収容室111に組み付けることができる。
【0060】
キャップ51は、
図2に示すように、収容室111の大径部112に収容され、開口部側の内面に取り付けられるCリング115で収容室111からの抜け出しが阻止されている。キャップ51は、
図4に示すように、円板状のキャップ基部51aと、キャップ基部51aからプラグ52側に向けて延出する円柱状の第一延出部51bとを備えている。
【0061】
キャップ基部51aの外側面には、周溝51a1が形成されている。周溝51a1には、シール部材として機能するOリング55が装着される。Oリング55は、収容室111の内周面に密着し、収容室111内を液密にシールする。
【0062】
第一延出部51bは、キャップ基部51aに一体に設けられている。第一延出部51bは、キャップ基部51aに接続される基端部51b1がその他の部位よりも大径に形成されている。基端部51b1の外側面には、溝部としての周溝51b2が形成されている。
第一延出部51bは、
図7に示すように、大部分がリテーナ54の内側に配置されている。
【0063】
プラグ52は、
図2に示すように、収容室111の小径部113に収容され、着座面114に対して着座あるいは離座する部材である(
図14(a)(b)参照)。プラグ52は、
図4から
図7に示すように、円板状のプラグ基部52aと、プラグ基部52aからキャップ51側に向けて延出する円筒状の第二延出部52bとを備えている。
【0064】
プラグ基部52aは、収容室111の着座面114に対向する座面52zが平らに形成されている。座面52aには、プラグ基部52aと同心円状の環状溝52a1が形成されている。環状溝52a1には、プラグ基部52aの座面52zと収容室111(
図8)の着座面114との間をシールする環状のシール部材52dが装着されている。シール部材52dは、液路におけるブレーキ液の液圧が作用する側である収容室111側とブレーキ液の液圧が作用しない側である分岐補給路(大気圧側)73aとをシールするものである。プラグ基部52aの座面52zと収容室111の着座面114とは、密着可能に平らに形成されている。シール部材52dは、ゴム製であり加硫接着等によって環状溝52a1に固着されている。
【0065】
図9に示すように、シール部材52dは、基部52kと、環状の突条部52d1と、環状の径方向外側部52d2と、環状の径方向内側部52d3と、を備えている。基部52kは、環状溝52a1に固着される部分である。突条部52d1は、基部52kから収容室111の着座面114に向けて断面湾曲状の山形に突出している。突条部52d1は、プラグ基部52aの座面52eよりも突出しており、着座面114に当接して分岐補給路73aを閉塞するシールポイントとして機能する。
【0066】
また、突条部52d1は、シール部材52dの着座面114に対向する面のうち、液圧路におけるブレーキ液の液圧が作用しない側よりもブレーキ液の液圧が作用する側に設けられている。つまり、突条部52d1は、シール部材52dの径方向において、径方向外側部52d2寄りに設けられている。これにより、径方向内側部52d3の広い面積が確保されている。
【0067】
図9に示すように、収容室111にチェックバルブ50をセット(組付け)した初期状態では、チェックバルブ50のスプリング53の付勢力をもって突条部52d1の先端部が収容室111の着座面114に当接している。これにより、基部52aの座面52eと収容室111の着座面114とが密着せず、これらの間には、クリアランスC1が形成されている。なお、初期状態で突条部52d1には、大気圧や極低圧のブレーキ液圧をシール可能な一定の面圧が発生している。
【0068】
径方向外側部52d2は、断面略U字状を呈しており、プラグ基部52aの座面52zよりも収容室111の着座面114から離れる側(環状溝52a1の底部側)に向けて凹んでいる。径方向外側部52d2は、突条部52d1の径方向の外方に隣接しており、その内側部分が、突状部52d1の外側部分に連続している。また、径方向外側部52d2の外側部分は、環状溝52a1の外側開口縁部52eに接続されている。径方向外側部52d2は、後記するように、径方向内側部52d3がブレーキ液圧を受けて径方向の内方に向けて変形する際に、径方向の内方に向けて柔軟に延びる。
【0069】
径方向内側部52d3は、断面略逆台形状を呈しており、プラグ基部52aの座面52eよりも収容室111の着座面114から離れる側(環状溝52a1の底部側)に向けて凹んでいる。径方向外側部52d2は、突条部52d1の径方向の内方に隣接しており、その外側部分は、突条部52d1の内側部分に連続している。また、径方向内側部52d2の内側部分は、環状溝52a1の内側開口縁部52fに接続されている。
【0070】
径方向内側部52d3は、ブレーキ液圧を受けて変形する変形部に相当する部分である。径方向内側部52d3は、上昇したブレーキ液圧を受けて突条部52d1とともに径方向の内方に向けて変形するとともに、着座面114に向けて膨出してこれに当接する(
図11参照)。
【0071】
次に、シール部材52dの断面形状の変化について、
図10,
図11を参照して説明する。
図10は低圧時のシール部材52dの様子を示している。低圧時とは、比較的低いブレーキ液圧が収容室111を通じてプラグ基部52aに作用している状態を言うものであり、例えば、ブレーキペダルPを比較的軽く踏んだ状態あるいはブレーキペダルPの初期操作時の状態がこれに該当する。
【0072】
低圧時には、突条部52d1の先端部が潰れながら収容室111の着座面114に当接しており、プラグ基部52aの座面52zと収容室111の着座面114との間に、前記した初期状態のクリアランスC1よりも小さいクリアランスC2が形成されている。なお、突条部52d1には、低圧時のブレーキ液圧をシール可能な所定の面圧が発生している。
【0073】
図11は高圧時のシール部材52dの様子を示している。高圧時とは、低圧時のブレーキ液圧よりも高いブレーキ液圧が収容室111を通じてプラグ基部52aに作用している状態を言うものであり、例えば、ブレーキペダルPの高踏み状態がこれに該当する。
【0074】
高圧時には、プラグ基部52aの座面52zが収容室111の着座面114に当接して密着している。そして、高圧時には、低圧時よりも大きいブレーキ液圧を受けて径方向内側部52d3が大気圧側(分岐補給路73a側)となる径方向の内方に向けて変形する。これにより、径方向内側部52d3は、着座面114に向けて膨出し、対向する面の全体が着座面114に対して密着する。このとき、径方向内側部52d3には、高圧時のブレーキ液圧をシール可能な所定の面圧が発生している。
なお、高圧時には、径方向外側部52a2が径方向の内方に向けて柔軟に延びるので、径方向内側部52d3のスムーズな変形が実現される。
【0075】
プラグ基部52aの縁部には、
図4,
図6,
図7に示すように、周方向に連続する段部52a2が形成されている。段部52a2には、スプリング53の端部が係止される。段部52a2は、スプリング53の付勢力が入力される受け部として機能する。
【0076】
図8に示すように、段部52a2に対してスプリング53が係止される係止径M1は、着座面114に当接する突条部52d1の当接径M2よりも大きくなっている。すなわり、平らな着座面114に対するシール部材52dのシールポイントは、スプリング53がプラグ基部52aに当接する当接ポイントよりも径方向内側に位置している。
【0077】
第二延出部52bは、プラグ基部52aに一体に設けられている。第二延出部52bは、
図7に示すように、キャップ51の第一延出部51bの外面に軸方向摺動自在に装着される。第二延出部52bの先端部の外周面には、径方向に膨出するフランジ部52cが形成されている。フランジ部52cの外側面は、フランジ部52cの先端部に向けてテーパ状に窄まっている。また、フランジ部52cは、プラグ基部52aに対向する環状面52c1を備えている。
【0078】
第二延出部52bには、貫通部としての円形の貫通孔52b1が形成されている。貫通孔52b1は、第二延出部52bの周方向に所定間隔を空けて計4つ(
図7では3つ図示)備わる。貫通孔52b1は、プラグ52の摺動時にキャップ51の第一延出部51bによって閉じられることのない位置に配置されている。
【0079】
スプリング53は、キャップ51とプラグ52との間に付勢力をもって介設されている。スプリング53は、キャップ51に取り付けられたリテーナ54のリテーナ基部54aと、プラグ基部52aの段部52a2との間に縮設されている。スプリング53の外径は、プラグ基部52aの外径と略同じ大きさである。
【0080】
リテーナ54は、略円筒状を呈している。リテーナ54は、薄板略円形状のリテーナ基部54aと、リテーナ基部54aからプラグ52に向けて延出する円筒壁部54bとを備えている。
【0081】
リテーナ基部54aは、スプリング53の端部を受ける受け部として機能する。リテーナ基部54aには、プラグ52に向けて突出する突起部54a1が一体的に形成されている。突起部54a1は、リテーナ基部54aに切り込みを入れ、これをプラグ52側に向けて立ち上げることによって形成されている。突起部54a1は、リテーナ基部54aの周方向に所定の間隔を空けて計4つ設けられている。各突起部54a1は、スプリング53の径方向内側に若干の間隙を有して対向配置され、スプリング53が径方向に移動するのを防止する役割をなす。
なお、各突起部54a1は、スプリング53の径方向内側からスプリング53に対して当接するように構成してもよい。
【0082】
円筒壁部54bは、プラグ52に向けて延出しており、
図6,
図7に示すように、その先端部側が第二延出部52bのフランジ部52cの径方向外側に位置する(オーバーラップする)大きさに形成されている。
ここで、
図7に示すように、キャップ51の第一延出部51bの外面とプラグ52の第二延出部52bの内面とのクリアランスをCL1とし、第二延出部52bの外面と円筒壁部54bの内面とのクリアランスをCL2とした場合に、CL1<CL2の関係に設定されている。この関係は、各部の公差を考慮したときに、その最大値(最大許容寸法)と最小値(最小許容寸法)との関係においても成立している。
つまり、第一延出部51bの外面が最小許容寸法で、かつ第二延出部52bの内面が最大許容寸法であるときをクリアランスCL1とし、第二延出部52bの外面が最大許容寸法で、かつ円筒壁部54bの内面が最小許容寸法であるときをクリアランスCL2とした場合にも、CL1<CL2の関係が成立している。
【0083】
クリアランスCL1によって、第一延出部51bと第二延出部52bとは、軸方向に延在する摺動代N1を備えて摺接している。摺動代N1は、プラグ52がスプリング53の付勢力に抗してキャップ51側に移動することで増加する。
【0084】
円筒壁部54bの先端部側には、第一突部54b1が形成されている。第一突部54b1は、円筒壁部54bの径方向内側に突出する突起であり、円筒壁部54bの周方向に90度の間隔を空けて計4つ形成されている。各第一突部54b1は、第二延出部52bのフランジ部52cの環状面52c1に対して軸方向に干渉する位置関係(軸方向に対向する位置関係)に配置されている。これにより、各第一突部54b1は、
図7に示すように、前記クリアランスCL2を有する状態で、第二延出部52bのフランジ部52cの環状面52c1に係止している。
【0085】
一方、円筒壁部54bの突起部54a1側には、第二突部54b4が形成されている。第二突部54b4は、円筒壁部54bの径方向内側に突出する突起であり、円筒壁部54bの周方向に90度の間隔を空けて計4つ形成されている。各第二突部54b4は、第一延出部51bの基端部51b1の周溝51b2に対して、軸方向に所定の移動を許容した状態で係合している。
【0086】
また、円筒壁部54bには、軸方向に延在するスリット54b2が形成されている。スリット54b2は、円筒壁部54bからリテーナ基部54aに延在しており、円筒壁部54bおよびリテーナ基部54aの全体に亘って設けられている。リテーナ54は、このスリット54b2によって径方向に伸縮可能となっている。
キャップ51にリテーナ54を組み付ける際には、スリット54b2による伸縮を利用して、各第二突部54b4を第一延出部51bの基端部51b1の周溝51b2に係合させる。
【0087】
また、円筒壁部54bには、貫通部としての円形の貫通孔54b3が形成されている。本実施形態では、スリット54b2が形成される部位を避けて、円筒壁部54bの径方向に対向する部位に計2つ設けられている。各貫通孔54b3を通じてブレーキ液が通流可能である。
【0088】
キャップ51とリテーナ基部54aとの間には、弾性部材としてのウエーブワッシャ56が介設されている。ウエーブワッシャ56は、
図12,
図13各図に示すように、各面に複数の湾曲した当接ポイントを有しており、所定のばね定数を備えている。ウエーブワッシャ56は、キャップ51とリテーナ基部54aとの間に介設された状態で、バネ力によりリテーナ基部54aをプラグ52側(スプリング53側)に向けて付勢している。ウエーブワッシャ56のばね定数は、スプリング53のばね定数よりも大きく設定されている。
【0089】
ウエーブワッシャ56の付勢力によって、リテーナ基部54aは、
図14(a)に示すように、収容室111の大径部112と小径部113との境界部に形成された平らな段差部116に対して常時当接している。これにより、スプリング53のセット長を、段差部116を基準として設定することができる。つまり、キャップ51の寸法公差やCリング115の寸法公差、更にはCリング115を固定するための固定溝115aの寸法公差を考慮することなく、スプリング53のセット長を一定長に設定することができる。
なお、前記のようにウエーブワッシャ56のばね定数は、スプリング53のばね定数よりも大きい。これにより、
図14(b)に示すように、プラグ52が着座面114から離座した際にスプリング53の反力がリテーナ基部54aに作用しても、段差部116に対するリテーナ基部54aの当接状態が好適に維持される。
【0090】
次に、吸液制御時のチェックバルブ50の作用について説明する。
なお、スレーブシリンダ20の圧力室26には、急ブレーキ等の特殊なブレーキ時を除いて、通常(常用)のブレーキ制御時に必要な量のブレーキ液が確保されている。
【0091】
吸液制御では、第一遮断弁61および第二遮断弁62が閉弁され、第二ピストン22が、減圧方向(戻し方向)に減圧駆動される。そうすると、ホイールシリンダWの液圧が保持状態とされたまま、圧力室26が減圧して負圧状態となる。これによって、スレーブシリンダ補給路73、分岐補給路73a、チェックバルブ50、吐出口側液路4aおよび吐出口27を備えて構成されている補給路を通じて、リザーバタンク80から圧力室26にブレーキ液が吸液される。このとき、チェックバルブ50は、
図14(b)に示すように、圧力室26の負圧を受けてプラグ基部52aがスプリング53の付勢力に抗して着座面114から離座する。これにより、チェックバルブ50を通じてブレーキ液がスレーブシリンダ20の圧力室26へ流入する。
【0092】
また、吸液制御が終了すると、第一遮断弁61および第二遮断弁62が開弁され、第二ピストン22が増圧方向(底面21aに近づく方向)に駆動される。これによって、圧力室26内に吸液されたブレーキ液が加圧される。吸液制御の終了に伴い、チェックバルブ50は、スプリング53の付勢力によってプラグ基部52aが着座面114に着座する。また、圧力室26内に吸液されたブレーキ液が加圧されることで、プラグ基部52aが着座面114に押圧される。これによって、分岐補給路73aがプラグ52で閉塞され、スレーブシリンダ20からリザーバタンク80側へのブレーキ液の流出が阻止される。
【0093】
以上説明した本実施形態のチェックバルブ50は、リテーナ54を介して、キャップ51とプラグ52とスプリング53とを組合せ品として構成できる。したがって、従来のようにキャップとプラグとスプリングとを基体100内で組み付ける必要がなくなる。これにより、コスト低減を図ることができるとともに塵埃混入の事象が生じるのを好適に防止できる。
【0094】
また、チェックバルブ50は、組合せ品として組み付けできるので、プラグ52の倒れやスプリング53の倒れを確実に阻止でき、これらの事象が生じたまま製品が組み立てられる不都合もない。
また、組合せ品とすることができるので、チェックバルブ50の部品交換が容易である。
【0095】
また、CL1<CL2の関係によって、キャップの第一延出部に対してプラグの第二延出部が摺動する際に、第二延出部の外面に円筒壁部の内面が接触しないクリアランスを確保できる。したがって、摺動抵抗の低減を図ることができ、プラグによる流路開閉レスポンスの向上を図ることができる。
【0096】
また、第二延出部52bおよび円筒壁部54bには、ブレーキ液の通流を可能とする貫通孔52b1,54b3が形成されているので、これらの貫通孔52b1,54b3を介してブレーキ液の通流が可能となり、液密による摺動ロックを防止できる。
【0097】
また、第一延出部51bと第二延出部52bとが、軸方向に延在する摺動代N1を備えて摺接しているので、第一延出部51bと第二延出部52bとのスムーズな摺動を実現できる。また、摺動量が増えることで摺動代も増加するので、キャップ51に対するプラグ52の安定したストロークを達成できる。
【0098】
また、本実施形態のブレーキシステムAでは、リザーバタンク80から液圧発生装置1のスレーブシリンダ20に至る補給路にチェックバルブ50が配置されており、補給路を通じてブレーキ液を吸液して確保できる。また、ブレーキシステムAでは、スレーブシリンダ20で発生したブレーキ液圧がリザーバタンク80側に伝達するのを好適に防止できる。
【0099】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0100】
前記実施形態では、リテーナ54の円筒壁部54bの第一突部54b1が、第二延出部52bの径方向外側から第二延出部52bに突出して後面52c1に係止される構成としたが、これに限られることはない。例えば、第一突部54b1が、第二延出部52bの径方向内側から第二延出部52bの内面に突出して、第二延出部52bに係止されるように構成してもよい。
【0101】
また、シール部材52dの突起部52d1は、一条で構成したが、これに限られることはなく、径方向に所定間隔を空けて形成された複数条の突起で構成してもよい。
【0102】
また、リテーナ54の円筒壁部54bには、スリット54b2と貫通孔54b3とを設けたが、これに限られることはなく、
図15に示すように、スリット54b2だけを設けてもよい。また、スリット54b2は、必須の構成ではなく、設けなくてもよい。
【0103】
また、ブレーキシステムAでは、補給路にチェックバルブ50を設けたが、これに限られることはなく、リザーバタンク80から液圧制御装置30にブレーキ液を供給する液路を別途設けて、この液路にチェックバルブ50を設けるように構成してもよい。
また、液圧制御装置30のチェック弁33をチェックバルブ50で構成してもよい。また、その他の液圧回路中に備わるチェック弁をチェックバルブ50で構成してもよい。
【符号の説明】
【0104】
1 液圧発生装置
20 スレーブシリンダ(構成装置)
50 チェックバルブ
51 キャップ
51b 第一延出部
52 プラグ
52b 第二延出部
52b1 貫通孔(貫通部)
53 スプリング
54 リテーナ
54b 円筒壁部
54b3 貫通孔(貫通部)
114 着座面
CL1 クリアランス
CL2 クリアランス