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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】水力発電施設の動作制御装置
(51)【国際特許分類】
   F03B 15/04 20060101AFI20240926BHJP
   F03B 15/18 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F03B15/04 Z
F03B15/18 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020094791
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021188566
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594087001
【氏名又は名称】イームル工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】益永 喜則
(72)【発明者】
【氏名】和田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】外田 脩
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-197703(JP,A)
【文献】特開平06-066241(JP,A)
【文献】実開平06-080865(JP,U)
【文献】特開平07-243553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 15/04- 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水力発電施設の水車に設けられる複数のセンサを含む検出部と、
前記検出部の出力に基づいて前記水車のガイドベーンのガブリ制御の実施に関する判定を行う情報処理部とを備え、
前記情報処理部は、
前記水車が前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示す前記複数のセンサからの出力に対応する教師データが記憶された記憶部と、
前記教師データに基づいて、前記複数のセンサからの新たな出力に対応するデータが前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであるかの判定に関するニューラルネットワークを生成する演算部とを備え、所定条件が成立するデータを以て前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータとし、
前記水車は、水の供給に応じて回転するランナと、前記ランナに水を導くケーシングと、前記ケーシング内の水が前記ランナに供給される流路に設けられる前記ガイドベーンと、前記ランナに供給されて排出された水を導くドラフトとを含み、
前記複数のセンサは、
前記ガイドベーンの開度を検出する第1センサと、
前記ケーシングに水を供給する管内の水圧を検出する第2センサと、
前記管に供給される水を貯留する水槽の水位を検出する第3センサと、を含み、さらに、
前記ドラフト内の水圧を検出する第4センサ及び前記ランナの回転に応じて発電する発電機の出力を検出する第5センサの少なくとも1つを含み、
前記所定条件は、前記第1センサ、前記第2センサ及び前記第3センサの各出力が前記水車内にゴミ掛かりが生じていない正常時の出力の範囲内であって、前記第4センサ及び前記第5センサの少なくとも1つの出力が前記正常時の出力の範囲を超えた異常時の出力であることである
水力発電施設の動作制御装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記新たな出力に対応するデータが前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであると判定された場合に当該新たな出力に対応するデータを前記教師データに加える
請求項1に記載の水力発電施設の動作制御装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記ガブリ制御の実施直後に得られた前記新たな出力に対応するデータが前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであると判定された場合に前記ガブリ制御の実施直前に得られた前記新たな出力に対応するデータを前記教師データに加えない
請求項2に記載の水力発電施設の動作制御装置。
【請求項4】
前記複数のセンサは、前記管と前記ケーシングとの間の水の流路を開閉する入口弁の開度を検出する第6センサを備え、
前記情報処理部は、前記複数のセンサのうち前記第1センサ、前記第2センサ、前記第3センサ及び前記第6センサを除くセンサが前記異常時の出力を生じているセンシングデータを前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータとする
請求項1から3のいずれか一項に記載の水力発電施設の動作制御装置。
【請求項5】
所定期間に実施される前記ガブリ制御の回数が予め定められている
請求項1からのいずれか一項に記載の水力発電施設の動作制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電施設の動作制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電施設では、水車で生じたゴミ掛かりを解消する目的でガイドベーンを開閉するガブリ制御が行われる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平01-087876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ガブリ制御はタイマー制御等により定期的に実施されていた。このため、ゴミ掛かりが生じていないにもかかわらず不要なガブリ制御が行われてしまい、係る不要なガブリ制御のために発電効率が下がるという可能性があった。
【0005】
本発明では、より的確にガブリ制御を実施可能な水力発電施設の動作制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の水力発電施設の動作制御装置は、水力発電施設の水車に設けられる複数のセンサを含む検出部と、前記検出部の出力に基づいて前記水車のガイドベーンのガブリ制御の実施に関する判定を行う情報処理部とを備え、前記情報処理部は、前記水車が前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示す前記複数のセンサからの出力に対応する教師データが記憶された記憶部と、前記教師データに基づいて、前記複数のセンサからの新たな出力に対応するデータが前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであるかの判定に関するニューラルネットワークを生成する演算部とを備える。
【0007】
本発明の望ましい態様として、前記演算部は、前記新たな出力に対応するデータが前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであると判定された場合に当該新たな出力に対応するデータを前記教師データに加える。
【0008】
本発明の望ましい態様として、前記演算部は、前記ガブリ制御の実施直後に得られた前記新たな出力に対応するデータが前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであると判定された場合に前記ガブリ制御の実施直前に得られた前記新たな出力に対応するデータを前記教師データに加えない。
【0009】
本発明の望ましい態様として、前記水車は、水の供給に応じて回転するランナと、前記ランナに水を導くケーシングと、前記ケーシング内の水が前記ランナに供給される流路に設けられる前記ガイドベーンと、前記ランナに供給されて排出された水を導くドラフトとを含み、前記複数のセンサは、少なくとも、前記ガイドベーンの開度を検出する第1センサと、前記ケーシングに水を供給する管内の水圧を検出する第2センサと、前記管に供給される水を貯留する水槽の水位を検出する第3センサと、前記ドラフト内の水圧を検出する第4センサ及び前記ランナの回転に応じて発電する発電機の出力を検出する第5センサの少なくとも1つとを含み、前記情報処理部は、所定条件が成立するデータを前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータとし、前記所定条件は、前記第1センサ、前記第2センサ及び前記第3センサの各出力が前記水車内にゴミ掛かりが生じていない正常時の出力の範囲内であって、前記第4センサ及び前記第5センサの少なくとも1つの出力が前記正常時の出力の範囲を超えた異常時の出力であることである。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記複数のセンサは、前記管と前記ケーシングとの間の水の流路を開閉する入口弁の開度を検出する第6センサを備え、前記情報処理部は、前記複数のセンサのうち前記第1センサ、前記第2センサ、前記第3センサ及び前記第6センサを除くセンサが前記異常時の出力を生じているセンシングデータを前記ガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータとする。
【0011】
本発明の望ましい態様として、所定期間に実施される前記ガブリ制御の回数が予め定められている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より的確にガブリ制御を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、水力発電施設の具体的構成例を示す模式図である。
図2図2は、水力発電施設の具体的構成例を示す模式図である。
図3図3は、ガイドベーンの模式図である。
図4図4は、ガイドベーンの模式図である。
図5図5は、ガイドベーンのガブリ制御に関する機能構成を示すブロック図である。
図6図6は、ガブリ制御を行う必要がある可能性のある異常が生じた場合のセンサ出力の変化及び相関の例を示す図である。
図7図7は、水車内にゴミ掛かりが生じていない正常時と水車内にゴミ掛かりが生じている異常時のセンサの出力の比較例を示す図である。
図8図8は、所定期間毎のガブリ制御に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1及び図2は、水力発電施設100の具体的構成例を示す模式図である。なお、図1は、水力発電施設100のランナ74に水Wを導く鉄管71、入口弁80、ケーシング72及びガイドベーン73の構成例を示す。図2は、ケーシング72からランナ74に供給された水Wが流れ出るドラフト75と、ランナ74と発電機79との連結に係る各種構成を示す。
【0016】
水力発電施設100においてランナ74に供給される水Wを導くようランナ74を囲うケーシング72は、入口弁80を介して鉄管71と接続される。鉄管71は、水Wを導通可能に設けられた管状の部材である。入口弁80は、例えば回動軸81、弁82、筐体83等を含む。回動軸81は、弁82を回動可能に軸支する。弁82は、回動軸81を回動中心軸として鉄管71とケーシング72との間に連続する水路における水流方向に対する回動角度を変更可能に設けられ、当該水路を開閉する。筐体83は、当該水路を形成する管状の筐体である。
【0017】
ケーシング72は、例えばフランシス水車であるランナ74の回転中心軸を取り巻くように渦巻く環状の水路を形成する筐体を有する。ケーシング72内でランナ74の外周側からランナ74に向かって流れ込む水Wの流路には、ガイドベーン73が設けられる。
【0018】
図3及び図4は、ガイドベーン73の模式図である。ガイドベーン73は、ランナ74を取り巻くよう配置された複数の羽根73aを有する。複数の羽根73aの各々は、回動可能に設けられる。ガイドベーン73は、複数の羽根73aの回動によって隣接する羽根73a同士の間の隙間の開閉及び開き具合を調節可能に設けられている。図3に示すようにガイドベーン73が開いている場合、羽根73a同士の間の隙間に、ランナ74に供給される水Wが流れる。図1では、ランナ74に供給される水Wを矢印で模式的に図示している。また、図4に示すようにガイドベーン73が閉じている場合、羽根73a同士の間は閉じられて隙間がなく、水Wが流れない。なお、図1では、羽根73aの図示を簡略化しているが、実際には図4で例示するように、円周方向に隣接する羽根73a同士を当接させて水Wの流路を閉鎖可能になっている。
【0019】
また、ガイドベーン73の開度を変更する動作を行うことで、水Wに対する圧力に変化を生じさせることができる。係る圧力の変化を意図的に生じさせることで、後述する水車内に流れ込んで留まり続けているゴミを流出させるよう仕向けることができる。係るゴミの流出を目的としたガイドベーン73の開閉動作制御をガブリ制御という。
【0020】
ランナ74に供給された水W等は、ランナ74を回転させる力を与えてドラフト75に流出する。ドラフト75は、ランナ74を経て流出した水Wの流路として機能する。図2に示すドラフト75は、ランナ74側からその反対側に向かって末広がりのノズル形状を有し、水Wを当該反対側に向かって加速させる圧力差を生じさせる。
【0021】
ランナ74は、水Wを受けて回転するための羽根を支持する支持部74aを介して、軸76と連結されている。軸76は、軸受77,78のような複数の軸受によってランナ74の上方で回転可能に支持され、ランナ74の回転軸として機能する。図2に示す軸76は、下端側がランナ74と連結され、上端側が発電機79と連結されている。発電機79は、軸76を介して伝達されるランナ74の回転動作に応じて発電を行う。
【0022】
図5は、ガイドベーン73のガブリ制御に関する機能構成を示すブロック図である。水力発電施設100は、ガイドベーン動作制御部10、ガイドベーン駆動部21、検出部50等を備える。
【0023】
水力発電施設100の動作制御装置として機能するガイドベーン動作制御部10は、例えば演算部11、記憶部12、ガイドベーン制御部13等を備え、ガブリ制御に関する情報処理を行う情報処理部として機能する。演算部11は、CPU(Central Processing Unit)等の演算回路を有し、記憶部12に記憶されているソフトウェア・プログラム及びデータ(以下、プログラム等と記載)を読み出して各種の処理を行う。
【0024】
記憶部12は、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、フラッシュメモリーその他の記憶装置のいずれかを有し、プログラム等を記憶する。図5に示す記憶部12は、ガブリ制御部管理プログラム121、センシングログデータ122の他、ガイドベーン動作制御部10が情報処理装置として機能するための図示しないオペレーティングシステム等を記憶する。ガブリ制御部管理プログラム121は、ガブリ制御に関する処理を行うためのプログラム等であり、その詳細については後述する。センシングログデータ122は、検出部50からの出力に基づいて生成されてガブリ制御部管理プログラム121の処理に利用されるデータであり、その詳細については後述する。また、記憶部12は、演算部11が読み出したプログラム等及びプログラム等の実行処理に伴い生じたデータ、パラメータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)として機能する半導体メモリ等の記憶装置を有する。
【0025】
なお、ガイドベーン動作制御部10のうち情報処理部として機能する構成の具体的態様はこれに限られるものでない。例えば、演算部11及びガブリ制御部管理プログラム121を記憶する記憶部12に代えて、ガブリ制御部管理プログラム121に対応する機能が予め実装されたFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路をガイドベーン動作制御部10に設けてもよい。なお、この場合であっても、センシングログデータ122を記憶するための記憶部12のような記憶装置であって、当該集積回路から参照可能な記憶装置は別途設けられることが望ましい。
【0026】
ガイドベーン制御部13は、ガイドベーン駆動部21の動作を制御するドライバ回路等を含み、演算部11が行う処理による制御下でガイドベーン駆動部21の動作を制御する。ガイドベーン駆動部21は、ガイドベーン73の開度を変更可能に設けられた電動駆動系(電動機等)を含む。ガイドベーン駆動部21の動作に応じてガイドベーン73の開度が変更される。
【0027】
なお、図5では、入口弁動作制御部30及び入口弁駆動部31も図示している。入口弁動作制御部30は、制御の対象がガイドベーン73ではなく入口弁80である点を除いてガイドベーン動作制御部10と同様であるが、ガブリ制御部管理プログラム121及びセンシングログデータ122に対応する構成は含まない。入口弁駆動部31は、制御の対象がガイドベーン73ではなく入口弁80である点を除いてガイドベーン駆動部21と同様である。
【0028】
検出部50は、水力発電施設100の各部に設けられるセンサを含む。具体的には、検出部50は、例えば、鉄管水圧センサ51、ケーシング水圧センサ52、ランナ側圧センサ53、ランナ背圧センサ54、ドラフト水圧センサ55、軸振動センサ56、軸受振動センサ57、入口弁開度センサ58、ガイドベーン開度センサ59、入口弁駆動電流センサ60、ガイドベーン駆動電流センサ61、水槽水位センサ62、発電機出力センサ63等を含む。
【0029】
第2センサとして機能する鉄管水圧センサ51は、鉄管71内を流れる水Wの水圧を検出する。鉄管水圧センサ51は、例えば鉄管71内に設けられるが、図1に示す配置及び大きさはあくまで模式的なものであってこれに限られるものでない。鉄管水圧センサ51に限らず、検出部50に含まれる各種のセンサのうち図1図2に図示されているものの具体的な態様については、その機能を奏することができる範囲内で適宜変更可能である。
【0030】
鉄管水圧センサ51その他の水圧センサは、所謂圧力センサであり、例えばニッケル、クロム等を含む合金を利用した抵抗線式のもの、ケイ素を利用した半導体によるもの(拡散式、成膜式、静電容量式等)、セラミックを利用した静電容量式のもの、摺動抵抗等を利用した機械式のものが挙げられるが、これに限られるものでない。係る圧力センサは、水力発電施設の各部の構造、状況等の利用条件に応じて適切なものが選択利用される。
【0031】
ケーシング水圧センサ52は、ケーシング72内を流れる水Wの水圧を検出する。ランナ側圧センサ53は、ランナ74の羽根と、ランナ74を側方から覆って水Wの流路を形成するケーシング72との隙間SP1における圧力(ランナ側圧)を検出する。ランナ背圧センサ54は、支持部74aと、支持部74aを上側から覆うように設けられたケーシング72の蓋部72aとの隙間SP2における圧力(ランナ背圧)を検出する。第4センサとして機能するドラフト水圧センサ55は、ドラフト75内を流れる水Wの水圧を検出する。
【0032】
軸振動センサ56は、軸76の振動の有無及び振動の大きさを検出する。軸受振動センサ57は、軸受77,78のような軸受の振動の有無及び振動の大きさを検出する。図2に示す軸受振動センサ57は、軸受77に設けられているが、軸受78に設けられてもよいし軸受77及び軸受78に設けられてもよいし、軸76を回転可能に軸支する軸受が3つ以上設けられる場合、係る3つ以上の軸受のうち1つ以上の軸受の振動の有無及び振動の大きさを検出可能に設けられていればよい。
【0033】
軸振動センサ56その他の振動センサは、例えば振動による対象の変位を感知するひずみゲージを利用したセンサであるが、これに限られるものでなく、機械的な振動子を利用するもの、加速度センサを利用するもの等であってもよく、水力発電施設の各部の構造、状況等の利用条件に応じて適切なものが選択利用される。
【0034】
第6センサとして機能する入口弁開度センサ58は、入口弁80の開度を検出する。図1に破線で示す入口弁開度センサ58は、弁82の回動角度を検出する構成として例示されているがこれに限られるものでなく、入口弁80の開度を検出可能であればよい。後述するガイドベーン開度センサ59の具体的態様についても同様である。第1センサとして機能するガイドベーン開度センサ59は、ガイドベーン73の開度を検出する。
【0035】
より具体的には、ガイドベーン73は、例えば複数の羽根73aの各々とクランクを介して連結された図示しないガイドリンクがガイドベーン駆動部21と連結されることで、複数の羽根73aの回動角度を一括で制御可能に設けられている。ガイドベーン開度センサ59は、係るガイドリンクの回動角度、ガイドリンクの可動部の動作位置又はガイドリンクを動作させるガイドベーン駆動部21の可動部の動作位置を検出することでガイドベーン73の開度、すなわち、羽根73aの回動角度を検出可能である。ガイドベーン開度センサ59は、例えばガイドベーン駆動部21として機能する直動サーボモータの動作位置を検出するポテンショメータとして設けられる。
【0036】
入口弁駆動電流センサ60は、入口弁80の動作に伴う入口弁駆動部31の駆動電流を検出する。ガイドベーン駆動電流センサ61は、ガイドベーン73の動作に伴うガイドベーン駆動部21の駆動電流を検出する。第3センサとして機能する水槽水位センサ62は、鉄管71の上流側に設けられる図示しない水槽の推移を検出する。鉄管71は、当該水槽から連続する水Wの流路を形成し、当該水槽から供給される水Wを流す。第5センサとして機能する発電機出力センサ63は、発電機79の出力(発電量)を検出する。
【0037】
入口弁駆動電流センサ60その他の電流センサは、例えばホール素子方式によるもの、AC/DCゼロフラックス方式によるもの、集積回路によるもの等が挙げられるが、これに限られるものでなく、測定する電流の大きさその他の設置条件等に応じて適切なものが選択利用される。また、水槽水位センサ62は、浮き等を利用するフロート式、ディスプレーサー式、電気的な作用を利用する電極式、静電容量式、水槽内の水圧を利用する差圧式その他の各種方式が挙げられるが、これに限られるものでなく、設置条件等に応じて適切なものが選択利用される。また、発電機出力センサ63は、発電機79に予め設けられているボルトアンペア(VA)計測器又は係る計測機能を有する施設を利用するものであってもよいし、専用のVAセンサを設けてもよい。
【0038】
次に、ガブリ制御に係る各部の動作について説明する。演算部11は、ガブリ制御部管理プログラム121を読み出して実行処理し、ガブリ制御に関する各種の処理を行う。具体的には、演算部11は、検出部50に含まれる各種のセンサの出力に応じた信号を取得し、係る出力によって把握可能な水力発電施設100の状態に異常が生じていないか判定する。
【0039】
図6は、ガブリ制御を行う必要がある可能性のある異常が生じた場合のセンサ出力の変化及び相関の例を示す図である。なお、図6の構成(大)における水車とは、水力発電施設100においてランナ74に水Wを供給する水Wの流路のうちケーシング72からドラフト75までの範囲内に含まれる各種構成を含む。以下、水車内のゴミ掛かりに関する言及があった場合、水Wの流路のうちケーシング72からドラフト75までの範囲内におけるゴミ掛かりをさす。
【0040】
水車内にゴミ掛かりが生じた場合、ゴミ掛かりが生じていない正常時に比して、水車に設けられた各種のセンサの出力が変化する。具体的には、例えば、ケーシング水圧センサ52が検出するケーシング72内の水圧値の上下の振幅が増大する。ケーシング72内等、水Wの流路では水の流れによって水圧等の各種センサの出力値が一定ではなくある程度の振幅を示すが、ゴミ掛かりが生じた場合、ゴミ掛かりが生じていない正常時に比して水Wの流れに乱れが生じることで係る出力値の振幅が増大する。図6では係るケーシング72内の水圧値の振幅の増大を示す異常時のセンサ出力を「ケーシング」の「水圧」の「振幅増大」として示している。以下、水車内にゴミ掛かりが生じた場合の説明は、ゴミ掛かりが生じていない正常時に比して生じた出力の変化に係る説明である。
【0041】
水車内にゴミ掛かりが生じた場合、図6における「ランナ」の「側圧」及び「背圧」ならびに「ドラフト」の「水圧」の「振幅増大」が示すように、ランナ側圧センサ53が検出するランナ側圧及びランナ背圧センサ54が検出するランナ背圧の値ならびにドラフト水圧センサ55が検出するドラフト75内の水圧値の上下の振幅が増大する。また、水車内にゴミ掛かりが生じた場合、図6における「軸」及び「軸受」の「振動」の「振幅増大」が示すように、軸振動センサ56が検出する軸76の振動及び軸受振動センサ57が検出する軸受(例えば、軸受77)の振動の大きさ(出力値の振れ幅)が増大する。
【0042】
図7は、水車内にゴミ掛かりが生じていない正常時と水車内にゴミ掛かりが生じている異常時のセンサの出力の比較例を示す図である。例えば、図7の「ドラフト水圧」欄が示すように、「正常時」のドラフト75内の水圧値の高低の変化を示すグラフの上下振幅に比して、「異常時」には係る振幅が増大している。図7では、増大後のドラフト75内の水圧の振幅を模式的に両方向矢印R1で示している。また、図7の「軸(又は軸受)振動」が示すように、「正常時」の軸76(又は、軸受77等の軸受)の振動の度合いの変化を示すグラフの上下振幅に比して、「異常時」には係る振幅が増大している。また、「異常時」には「正常時」に比して振動の上振れ値が上昇している。図7では、係る振動の上振れ値の上昇を矢印Raで示している。また、図7では、増大後の振幅を模式的に両方向矢印Rbで示している。
【0043】
また、水車内にゴミ掛かりが生じた場合、図6における「入口弁」及び「ガイドベーン」の「電流」の「電流増加」が示すように、入口弁駆動電流センサ60が検出する入口弁80動作時及びガイドベーン駆動電流センサ61が検出するガイドベーン73動作時の駆動電流が増加する。一方、水車内にゴミ掛かりが生じたからといって、入口弁80及びガイドベーン73の開度に直接変更されるわけではなく、この点では正常時と比して変化しない。このことを、図6では、「入口弁」及び「ガイドベーン」の「開度」の「全開・全閉リミットなし」と示している。ただし、図7の「ガイドベーン開度」の「正常時」の閉鎖開度変化P1に比して進行が遅い「異常時」の閉鎖開度変化P2の例が示すように、羽根73aにゴミが直接当接するようなゴミ掛かりが生じれば、係るゴミによるガイドベーン73の開度変更速度への影響は生じる。また、このような開度変更に影響を与えるゴミ掛かりが生じた場合、係るゴミが生じさせる負荷によってガイドベーン73の駆動電流は増加する。しかし、係る開度制御への影響は、あくまでガイドベーン73を動作させた場合の影響であり、水車内のゴミ掛かりがガイドベーン73の開度を能動的に変更するものではない。
【0044】
また、水車内にゴミ掛かりが生じた場合、図6における「発電機」の「出力」の「出力低下」が示すように、発電機出力センサ63が検出する発電機79の出力が低下する。図7の「発電機出力」では、「正常時」に比した場合の「異常時」のグラフにおける係る発電機79の出力の低下を矢印R2で例示している。
【0045】
なお、図6における「鉄管」の「水圧」及び「水槽」の「水位」の「ハイフン(-)」が示すように、水車内にゴミ掛かりが生じた場合であっても、鉄管水圧センサ51が検出する鉄管71内の水圧及び水槽水位センサ62が検出する水槽の水位については、正常時と比しても特段の変化を生じない。
【0046】
なお、万が一を考慮すると、水力発電施設100に生じ得る異常は水車内のゴミ掛かりに限られない。従って、図6を参照して説明したような水車内の各部の水圧、ランナ側圧、ランナ背圧、軸及び軸受の振動の振幅増大、入口弁及びガイドベーンの駆動電流増加、発電機の出力低下が生じたとしても、その原因が全て水車内のゴミ掛かりによるものとは限らない。一方、水車内のゴミ掛かりが生じた場合、検出部50に含まれる各種のセンサの出力のうち特定の出力の組み合わせが示す相関の観点で、水車内のゴミ掛かりに特有の傾向が生じる。
【0047】
係る水車内のゴミ掛かりに特有の傾向の一例として、水車内のゴミ掛かりが生じたとしても、鉄管71内の水圧、ガイドベーン73の開度及び水槽の水位については正常時に比して特段の差異が確認可能となるほどの変化を生じないにも関わらず発電機79の出力が低下する傾向が挙げられる。図7では、係る一例を「様式1」として示している。「様式1」では、「鉄管」の「水圧」、「ガイドベーン」の「開度」及び「水槽」の「水位」が「正常」である一方、「発電機」の「出力」が「出力低下」となっている。
【0048】
また、係る水車内のゴミ掛かりに特有の傾向の他の一例として、水車内のゴミ掛かりが生じたとしても、鉄管71内の水圧、ガイドベーン73の開度及び水槽の水位については正常時に比して特段の差異が確認可能となるほどの変化を生じないにも関わらずドラフト75内の水圧値の振幅が増大する傾向が挙げられる。図7では、係る一例を「様式2」として示している。「様式2」では、「鉄管」の「水圧」、「ガイドベーン」の「開度」及び「水槽」の「水位」が「正常」である一方、「ドラフト」の「水圧」が「振幅増大」となっている。
【0049】
ガブリ制御部管理プログラム121を実行処理した演算部11は、検出部50に含まれる各種のセンサの出力に応じた信号を取得する。演算部11は、係る信号から各種のセンサの出力を示すセンシングデータをセンサ毎に生成する。また、センシングログデータ122は、過去に取得された複数のセンシングデータを含む。具体的には、センシングログデータ122は、図6及び図7を参照して説明した正常時の水力発電施設100において検出部50から出力された各種のセンサの出力に基づいたセンシングデータと、異常時の水力発電施設100において検出部50から出力された各種のセンサの出力に基づいたセンシングデータとを区別可能な状態で記憶部12に記憶される。
【0050】
なお、後述する機械学習が実施される事前に準備されるセンシングログデータ122では、予め正常時のセンシングデータと異常時のセンシングデータとの区別が行われている。係る区別は、例えば、事前の測定、シミュレーション、過去に取得されて記憶されたセンシングデータに基づいたヒトの手による区別等によるが、その他の任意の手法を採用可能である。
【0051】
係る事前に準備されるセンシングログデータ122における正常時のセンシングデータと異常時のセンシングデータの区別の例について説明すると、異常を示すセンシングデータが図6の「振幅増大」に該当するセンシングデータである場合、例えば「正常時」の振幅範囲を示す振幅基準データに基づいて、当該振幅範囲を超える振幅が生じているセンシングデータが異常を示すセンシングデータであるものとして扱われる。係る振幅基準データは、センサ毎に設けられる。なお、鉄管水圧センサ51からの出力に基づいた水圧に係るセンシングデータの正常/異常判定も、振幅基準データに基づいて行われる。異常を示すセンシングデータが図6の「電流増加」に該当するセンシングデータである場合、例えば「正常時」の電流値の範囲を示す電流基準データに基づいて、当該電流値の範囲を超える駆動電流が与えられていることを示すセンシングデータが異常を示すセンシングデータであるものとして扱われる。係る電流基準データは、ガイドベーン駆動部21と入口弁駆動部31とで個別に設けられる。異常を示すセンシングデータが図6の「出力低下」に該当するセンシングデータである場合、例えば「正常時」の発電機79の出力値の下限を示す発電基準データに基づいて、当該下限を下回る出力となっているセンシングデータが異常を示すセンシングデータであるものとして扱われる。
【0052】
入口弁80及びガイドベーン73の開度を示すセンシングデータの正常/異常判定は、予め定められた正常時の開度範囲を示す開度基準データに基づいて行われる。なお、開度範囲自体は物理的制約があり、規格上の開度基準データについては係る物理的制約に従ったものとなるが、異常判定に際しては係る物理的制約より狭い「水力発電施設100の運転終了に向かわない運転継続時(ランナ74への水Wの供給継続時)に想定される開度範囲」を示す開度基準データとするようにしてもよい。また、水槽の水位を示すセンシングデータの正常/異常判定は、予め定められた正常時の水位範囲を示す開度基準データに基づいて行われる。なお、水位上限及び下限は水槽による物理的制約があり、規格上の開度基準データについては係る物理的制約に従ったものとなるが、異常判定に際しては係る物理的制約より狭い「水力発電施設100の運転終了に向かわない運転継続時(ランナ74への水Wの供給継続時)に想定される水位範囲」を示す水位基準データとするようにしてもよい。
【0053】
実施形態では、図6及び図7を参照して説明したように、異常を示すセンシングデータの1つに、ケーシング水圧センサ52が検出するケーシング72内の水圧値の上下の振幅が正常時と比して増大していることを示すセンシングデータが含まれる。また、異常を示すセンシングデータの1つに、ランナ側圧センサ53が検出するランナ側圧の値の上下の振幅が正常時と比して増大していることを示すセンシングデータが含まれる。また、異常を示すセンシングデータの1つに、ランナ背圧センサ54が検出するランナ背圧の値の上下の振幅が正常時と比して増大していることを示すセンシングデータが含まれる。また、異常を示すセンシングデータの1つに、ドラフト水圧センサ55が検出するドラフト75内の水圧値の上下の振幅が正常時と比して増大していることを示すセンシングデータが含まれる。また、異常を示すセンシングデータの1つとして、軸振動センサ56が検出する軸76の振動の大きさ(出力値の振れ幅)が正常時と比して増大していることを示すセンシングデータが含まれる。また、異常を示すセンシングデータの1つとして、軸受振動センサ57が検出する軸受(例えば、軸受77)の振動の大きさ(出力値の振れ幅)が正常時と比して増大していることを示すセンシングデータが含まれる。また、異常を示すセンシングデータの1つとして、入口弁駆動電流センサ60が検出する入口弁80動作時の駆動電流が正常時と比して増加していることを示すセンシングデータが含まれる。また、異常を示すセンシングデータの1つとして、ガイドベーン駆動電流センサ61が検出するガイドベーン73動作時の駆動電流が正常時と比して増加していることを示すセンシングデータが含まれる。また、異常を示すセンシングデータの1つとして、発電機出力センサ63が検出する発電機79の出力が正常時と比して低下していることを示すセンシングデータが含まれる。
【0054】
また、実施形態では、特定のセンシングデータの組み合わせが示す相関の観点で、水車内のゴミ掛かりに特有の傾向が生じているかも考慮される。具体的には、第1の組み合わせ及び第2の組み合わせの少なくとも1つの組み合わせが考慮される。第1の組み合わせは、鉄管水圧センサ51からの出力に基づいたセンシングデータ、ガイドベーン開度センサ59からの出力に基づいたセンシングデータ及び水槽水位センサ62からの出力に基づいたセンシングデータが正常であって、かつ、水槽水位センサ62からの出力に基づいたセンシングデータが異常であるというセンシングデータの組み合わせである。第1の組み合わせは、図7の「様式1」に係る説明と同様の考え方による。第2の組み合わせは、鉄管水圧センサ51からの出力に基づいたセンシングデータ、ガイドベーン開度センサ59からの出力に基づいたセンシングデータ及び水槽水位センサ62からの出力に基づいたセンシングデータが正常であって、かつ、ドラフト水圧センサ55からの出力に基づいたセンシングデータが異常であるというセンシングデータの組み合わせである。第2の組み合わせは、図7の「様式2」に係る説明と同様の考え方による。
【0055】
実施形態では、最新のセンシングデータが、上述の異常を示すセンシングデータを1つ以上含み、かつ、第1の組み合わせと第2の組み合わせのうち1つ以上が成立する場合、ガブリ制御を行う条件が成立したものとして扱われる。以下、係る条件に基づいて説明を行う。
【0056】
上述のように、ガブリ制御の実施に関する判定では、検出部50に含まれる1つのセンサからの出力に基づいたセンシングデータに留まらず、複数のセンサからの出力に基づいて生成されたセンシングデータが参照される。従って、係る複数のセンサからの出力に基づいて生成されたセンシングデータは、ある時点での水力発電施設100の状態と対応付けられて記憶される。具体的には、各種のセンサの出力に基づいた複数のセンシングデータは、例えばセンサの出力又はセンシングデータの生成が行われた時点を示す情報(日時情報等)に基づいて、ある時点での水力発電施設100の状態に関するセンシングデータをひとまとめで管理可能な形式で記憶される。また、正常時と異常時の区別は、例えば正常時又は異常時を区別するための管理フラグ値(2値又はそれ以上の値)がセンシングデータに付加されることで管理される。このように管理されたセンシングログデータ122を参照することで、過去のある時点での水力発電施設100の状態を示すセンシングデータと、新たに得られたセンシングデータとに基づいた水力発電施設100の状態の判定が可能になる。
【0057】
なお、管理フラグ値は、個別のセンシングデータとしては異常時であっても(他のセンシングデータに基づいて)ガブリ制御については実施されない場合と、個別のセンシングデータとして異常時であって、かつ、ガブリ制御が実施される場合とを区別可能に設定されていてもよい。また、同様の考え方で、管理フラグ値は、個別のセンシングデータとしては正常時であってもガブリ制御が実施される場合と、個別のセンシングデータとして異常時であってもガブリ制御が実施されない場合とを区別可能に設定されていてもよい。
【0058】
図5に示す例では、ガブリ制御を行う条件が成立するセンシングデータ及び過去にガブリ制御を行う条件が成立して適正にガブリ制御が行われた時点のセンシングデータがガブリ制御実施条件成立データ123としてセンシングログデータ122内で区別されている。言い換えれば、ガブリ制御実施条件成立データ123に属しないデータは、ガブリ制御を行う条件が成立しなかった時点のセンシングデータである。
【0059】
以上のように説明したガブリ制御の実施に係るセンシングデータに基づいた判定のため、演算部11は、ニューラルネットワークアルゴリズムを利用する。具体的には、ガブリ制御部管理プログラム121は、ガブリ制御の実施に係るセンシングデータに基づいた判定を行うためのニューラルネットワークを生成するためのプログラム等である。係るガブリ制御部管理プログラム121の実行によってニューラルネットワークアルゴリズムを利用する演算部11を含む本実施形態の構成によれば、所謂機械学習によってセンシングデータに基づいたガブリ制御の実施に関する判定精度をより高められる。例えば、所謂ニューラルネットワークにおける入力を最新のセンシングデータとし、出力をセンシングデータに基づいたガブリ制御の実施に関する判定結果とし、教師データをセンシングログデータ122に含まれる各種のデータとする。ここで、ガブリ制御部管理プログラム121を実行中の演算部11は、ニューラルネットワークを生成して入力と出力との間に介在する。係るガブリ制御部管理プログラム121は、図6及び図7を参照して説明した、最新のセンシングデータの各々が正常時又は異常時のいずれに該当するか及び水車内のゴミ掛かりを示すセンシングデータの組み合わせが成立するかの判定を行って入力から出力を導出するための重み付けを行う隠れ層として機能する。当該隠れ層としての演算部11は、最新のセンシングデータが異常時、すなわち、ガブリ制御実施条件成立データ123に含まれる過去のセンシングデータとどの程度類似するかに基づいた重み付け処理を行う。なお、係る重み付け処理は、反証的にガブリ制御実施条件成立データ123を除く過去のセンシングデータとどの程度類似するかに基づいた重み付け処理による点数を所定の最高値から差し引いて導出された重み付け値を導出する方法で行われてもよい。
【0060】
上述のような重み付け処理は、検出部50に含まれる複数のセンサの各々からの出力に基づいて生成された複数のセンシングデータの各々で個別に行われるものであってもよいし、複数のセンシングデータの組み合わせに基づいたものであってもよいし、その両方であってもよい。複数のセンシングデータの各々で個別に行われる重み付け処理について一例を示すと、鉄管水圧センサ51の出力に基づいたセンシングデータがガブリ制御部管理プログラム121に含まれる異常時のセンシングデータに該当する可能性が高い場合に高い値又は加算値を出力するニューロンと、鉄管水圧センサ51の出力に基づいたセンシングデータがガブリ制御部管理プログラム121に含まれる異常時のセンシングデータに該当するものの他のセンシングデータを含む判定によってガブリ制御が実施されなかった場合のセンシングデータに該当する可能性が高い場合に低い値又は減算値を出力するニューロンと、鉄管水圧センサ51の出力に基づいたセンシングデータがガブリ制御部管理プログラム121に含まれる異常時のセンシングデータに該当し、かつ、他のセンシングデータを含む判定によってガブリ制御が実施され場合のセンシングデータに該当する可能性が高い場合により高い値又はより大きな加算値を出力するニューロンと、…のように、センシングログデータ122に含まれるデータの種類の各々に対応して判定を行って値を導出するニューロンがガブリ制御部管理プログラム121を実行中の演算部11によって生成される。検出部50に含まれる鉄管水圧センサ51以外のセンサの出力に基づいたセンシングデータについても、同様の考え方で各種のニューロンが生成される。また、複数のセンシングデータの組み合わせに基づいて行われる重み付け処理について一例を示すと、最新のセンシングデータにおいて図6における「相関1」が成立する場合に高い値又は加算値を出力するニューロンと、「相関2」が成立する場合に高い値又は加算値を出力するニューロンと、…のように、センシングログデータ122のうち特にガブリ制御実施条件成立データ123に該当する場合により高い値を導出するニューロンがガブリ制御部管理プログラム121を実行中の演算部11によって生成される。なお、値の高低、加減についてはあくまで例示された相対的なものであり、具体的にどのように取り扱うかについてはセンシングログデータ122の実装に際して任意に調整可能である。係るニューロンによって導出された値が、最新のセンシングデータに基づいた重み付けの度合いを示す値として扱われる。
【0061】
演算部11は、最新のセンシングデータに基づいた重み付けの度合いを示す値に基づいて、センシングデータに基づいたガブリ制御の実施に関する判定結果を決定する。具体的には、重み付けの度合いを示す値には、ガブリ制御の実施の是非を判定するための所定の閾値が定められている。係る所定の閾値は、ガブリ制御部管理プログラム121に含まれていてもよいし、演算部11が参照可能な記憶部12その他の記憶装置に個別に記憶されていてもよい。演算部11は、最新のセンシングデータに基づいた重み付けの度合いを示す値と所定の閾値とを比較してガブリ制御を実施するか判定する。より具体的な例を挙げると、最新のセンシングデータに水車内の異常を示すセンシングデータが含まれており、水車内のゴミ掛かりを示す最新のセンシングデータの組み合わせが成立する場合に導出される重み付けの度合いを示す値は、所定の閾値以上の値になる。この場合、記憶部12は、ガブリ制御を実施させる。
【0062】
ガブリ制御を実施させる場合、演算部11は、ガブリ制御を実行するための命令をガイドベーン制御部13に出力する。ガイドベーン制御部13は、当該命令に従ってガイドベーン駆動部21を動作させ、ガイドベーン73の開度を変化させてガブリ制御を実行する。当該命令には、ガブリ制御後にガイドベーン73の開度がガブリ制御前と同様の開度になるよう制御する内容が含まれる。なお、ガブリ制御の実施には至らなかったものの、最新のセンシングデータが異常を示すセンシングデータを含んでいる場合、何らかの異常が水力発電施設100に発生している可能性はあるため、この場合には他の異常対処制御を行うようにしてもよい。
【0063】
なお、所定の閾値は複数設定されていてもよい。例えば、最新のセンシングデータに水車内の異常を示すセンシングデータが含まれていると判定するための第1閾値と、水車内のゴミ掛かりを示す最新のセンシングデータの組み合わせが成立するかを判定するための第2閾値とが個別に設定されていてもよい。この場合、重み付けの度合いを示す値に基づいたガブリ制御の実施の判定は、第2閾値に基づいた判定の比重がより大きくなるようにしてもよい。すなわち、第1閾値に基づいてガブリ制御を実施すべきという判定が導出されたとしても、第2閾値に基づいてガブリ制御を実施すべきという判定が導出されないということがありうるようにしてもよい。
【0064】
最新のセンシングデータに基づいてガブリ制御を実施するという判定が行われた場合、ガブリ制御部管理プログラム121を実行中の演算部11は、当該最新のセンシングデータをガブリ制御実施条件成立データ123に追加して記憶部12に記憶させる。その後、ある時点で最新のセンシングデータとして扱われたデータを含むセンシングログデータ122が、当該時点以降に教師データとして機能する。すなわち、最新のセンシングデータが生じる程、センシングログデータ122がより多様なデータを含み、かつ、ガブリ制御の実施に係るより高精度な判定結果を得るための「学習後の教師データ」として機能する。なお、最新のセンシングデータに基づいてガブリ制御を実施しないという判定が行われた場合、ガブリ制御部管理プログラム121を実行中の演算部11は、当該最新のセンシングデータをガブリ制御実施条件成立データ123に含まれない範囲のセンシングログデータ122に追加して記憶部12に記憶させるようにしてもよいし、破棄してもよい。
【0065】
以上、説明したように、ニューラルネットワークを利用した機械学習によってガブリ制御の実施に関する判定を行うことができる。すなわち、ガブリ制御部管理プログラム121は、機械学習プログラムとして機能する。また、ガブリ制御部管理プログラム121を実行中の演算部11を含む構成は、所謂機械学習システムとして機能する。
【0066】
さらに、センシングログデータ122及びガブリ制御実施条件成立データ123が過去の複数の時点のセンシングデータを含む場合、各時点のセンシングデータとの比較に基づいて個別に値を導出するニューロンを生成して階層化するアルゴリズムを含むガブリ制御部管理プログラム121が採用されることで、ニューラルネットワークを利用したガブリ制御の判定においてより高い精度が望める。これらをさらに発展させて所謂ディープラーニングによるセンシングデータに基づいたガブリ制御の実施に関する判定を行うようにしてもよい。
【0067】
なお、ガブリ制御を実施した直後に得られた最新のセンシングデータでなおガブリ制御を実施する条件が成立し続けた場合、ガブリ制御では解決しない他の異常が水力発電施設100に生じている可能性がある。係る可能性を考慮し、演算部11は、ガブリ制御を実施した直後に得られた最新のセンシングデータでガブリ制御を実施する条件が成立なかった場合、ガブリ制御を実施する契機となった直前のセンシングデータをガブリ制御実施条件成立データ123に追加するようにしてもよい。すなわち、当該直前のセンシングデータを得られた時点で「ガブリ制御を実施することが適当であった」状態に水力発電施設100が置かれていたものとして扱うようにしてもよい。
【0068】
また、万が一、判定結果に誤りがあったとしても、例えばガイドベーン動作制御部10の管理者による手動の入力を可能とする入力部(例えば、キーボード、マウス等の入力装置を含む構成)をガイドベーン動作制御部10に設け、管理者が当該誤りを訂正して正しい判定結果を設定することで、演算部11は、ガブリ制御部管理プログラム121による隠れ層の重み付けを訂正する機会を得ることができる。
【0069】
ガブリ制御の実行回数には、所定期間あたりの上限回数が設定されていてもよい。係る所定期間として、例えば1日単位が挙げられるがこれに限られるものでなく、適宜変更可能である。また、上限回数は1回以上の任意の回数(K)であってよい。
【0070】
図8は、所定期間毎のガブリ制御に係る処理の流れを示すフローチャートである。ガブリ制御部管理プログラム121を実行処理した演算部11は、ガブリ制御の実行回数(ガブリ制御回数)を管理するためのカウンタ(N)の初期値を0として設定する(ステップS1)。
【0071】
演算部11は、検出部50に含まれる各種のセンサの出力に応じた信号を取得し、係る信号から各種のセンサの出力を示すセンシングデータをセンサ毎に生成して取得する(ステップS2)。演算部11は、ステップS2で取得したセンシングデータを最新のセンシングデータとして、上述のように説明したニューラルネットワークを利用したガブリ制御の実施の判定を行う(ステップS3)。
【0072】
ステップS2の処理で得られたセンシングデータが、ステップS3の処理によってガブリ制御を実施すべきセンシングデータであると判定された場合(ステップS4;Yes)、ガブリ制御が実施される(ステップS5)。また、演算部11は、ステップS1で設定されたカウンタ(N)の値を+1する(ステップS6)。
【0073】
演算部11は、ステップS2の処理と同様、検出部50に含まれる各種のセンサの出力に応じた信号を取得し、係る信号から各種のセンサの出力を示すセンシングデータをセンサ毎に生成して取得する(ステップS7)。演算部11は、ステップS7の処理で得られたセンシングデータが、ガブリ制御を実施する必要がないセンシングデータであるか判定する。具体的には、上述のステップS3と同様の処理を行う。ここで、ガブリ制御を実施する必要がないセンシングデータが得られたと判定された場合(ステップS8;Yes)、ステップS2の処理で得られたセンシングデータ、すなわち、ガブリ制御実施時のセンシングデータをガブリ制御実施条件成立データ123に追加する(ステップS9)。一方、ステップS7で得られたセンシングデータがガブリ制御を実施すべきセンシングデータであると判定された場合(ステップS8;No)、ステップS9の処理は行われない。なお、この場合、ガブリ制御実施時のセンシングデータをガブリ制御実施条件成立データ123に含まれないセンシングログデータ122のデータとしてもよい。
【0074】
演算部11は、カウンタ(N)の値が予め定められた回数(K)と等しいか判定する(ステップS10)。カウンタ(N)の値が予め定められた回数(K)と等しいと判定された場合(ステップS10;Yes)、演算部11は、処理を終了する。以降、所定期間の経過後に再度ステップS1から処理が行われる。
【0075】
ステップS2の処理で得られたセンシングデータが、ステップS3の処理によってガブリ制御を実施する必要がないセンシングデータであると判定された場合(ステップS4;No)、又はステップS10の処理でカウンタ(N)の値が予め定められた回数(K)と等しくないと判定された場合(ステップS10;No)、演算部11は、水力発電施設100の動作が終了するシーケンスに移行しているか判定する(ステップS11)。水力発電施設100の動作が終了するシーケンスに移行していないと判定された場合(ステップS11;No)、ステップS2に移行する。
【0076】
一方、水力発電施設100の動作が終了するシーケンスに移行していると判定された場合(ステップS11;Yes)、演算部11は、処理を終了する。この場合、水力発電施設100の再動作開始後に再度ステップS1から処理が行われる。
【0077】
以上、実施形態によれば、水力発電施設100の水車に設けられる複数のセンサを含む検出部50と、検出部50の出力に基づいて水車のガイドベーン73のガブリ制御の実施に関する判定を行う情報処理部(ガイドベーン動作制御部10)とを備え、情報処理部は、水車がガブリ制御を実施すべき状態であることを示す複数のセンサからの出力に対応する教師データ(ガブリ制御実施条件成立データ123)が記憶された記憶部12と、教師データに基づいて、複数のセンサからの新たな出力に対応するデータ(最新センシングデータ)がガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであるかの判定に関するニューラルネットワークを生成する演算部11とを備える。これによって、複数のセンサからの新たな出力に対応するデータ(最新センシングデータ)がガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータである場合にガブリ制御を行うようにガイドベーン73を制御可能になる。従って、より的確にガブリ制御を実施できる。
【0078】
また、演算部11は、新たな出力に対応するデータ(最新センシングデータ)がガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであると判定された場合に当該新たな出力に対応するデータを教師データ(ガブリ制御実施条件成立データ123)に加える。これによって、所謂機械学習を利用してガブリ制御に関する判定のさらなる高精度化を図れる。従って、より的確にガブリ制御を実施できる。
【0079】
また、演算部は、ガブリ制御の実施直後に得られた新たな出力に対応するデータがガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであると判定された場合にガブリ制御の実施直前に得られた新たな出力に対応するデータを教師データに加えない。これによって、ガブリ制御が行われても水力発電施設100の状態が改善されない場合のデータと同様のデータが以後に生じた場合に不必要にガブリ制御が行われてしまう可能性の低減を図れる。従って、より的確にガブリ制御を実施できる。
【0080】
また、水車は、水Wの供給に応じて回転するランナ74と、ランナ74に水Wを導くケーシング72と、ケーシング72内の水Wがランナ74に供給される流路に設けられるガイドベーン73と、ランナ74に供給されて排出された水Wを導くドラフト75とを含み、複数のセンサは、少なくとも、ガイドベーン73の開度を検出する第1センサ(ガイドベーン開度センサ59)と、ケーシング72に水Wを供給する管(鉄管71)内の水圧を検出する第2センサ(鉄管水圧センサ51)と、管に供給される水Wを貯留する水槽の水位を検出する第3センサ(水槽水位センサ62)と、ドラフト75内の水圧を検出する第4センサ(ドラフト水圧センサ55)及びランナ74の回転に応じて発電する発電機79の出力を検出する第5センサ(発電機出力センサ63)の少なくとも1つとを含み、制御部は、所定条件が成立する場合に新たな出力に対応するデータ(最新センシングデータ)がガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであると判定し、所定条件は、第1センサ、第2センサ及び第3センサの各出力が水車内にゴミ掛かりが生じていない正常時の出力の範囲内であって、第4センサ及び第5センサの少なくとも1つの出力が前記正常時の出力の範囲を超えた異常時の出力であることである。これによって、発電機79の出力の異常及びドラフト水圧センサ55の水圧の異常の少なくとも1つの原因が鉄管71の異常、ガイドベーン73の開度の異常及び水槽に貯留された水位の異常によるものでないことを確認したうえでガブリ制御を実施できる。すなわち、水車内のゴミ掛かり以外の原因(鉄管71の破損、狭窄等による異常、ガイドベーン73の故障等による開度の異常及び水槽に貯留された水位の異常上昇又は低減の少なくともいずれか1つ以上)で発電機79の出力の異常及びドラフト水圧センサ55の水圧の異常が生じた場合にガブリ制御が実施されることを抑制することができる。このため、水車内のゴミ掛かりによって発電機79の出力の異常及びドラフト水圧センサ55の水圧の異常の少なくとも1つが生じている場合にガブリ制御を実施することができる。従って、より的確にガブリ制御を実施できる。
【0081】
また、管(鉄管71)とケーシング72との間の水Wの流路を開閉する入口弁80の開度を検出する第6センサ(入口弁開度センサ58)を備え、制御部(演算部11)は、複数のセンサのうち第1センサ(ガイドベーン開度センサ59)、第2センサ(鉄管水圧センサ51)、第3センサ(水槽水位センサ62)及び第6センサを除くセンサが異常時の出力を生じた場合に新たな出力に対応するデータ(最新センシングデータ)がガブリ制御を実施すべき状態であることを示すデータであると判定する。これによって、水車内のゴミ掛かりによって生じる異常をより検出しやすくなる。
【0082】
また、所定期間に実施されるガブリ制御の回数が予め定められている。これによって、ガブリ制御が頻繁に行われ過ぎることによる発電効率の低下を抑制できる。
【0083】
なお、上記の実施形態はあくまで一例であり、本発明の技術的特徴を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。例えば、第1の組み合わせ又は第2の組み合わせの一方が省略される場合、省略される判定専用のセンサは省略可能である。すなわち、第1の組み合わせが省略される場合、発電機出力センサ63は省略可能である。また、第2の組み合わせが省略される場合、ドラフト水圧センサ55は省略可能である。
【0084】
また、ケーシング水圧センサ52、ランナ側圧センサ53、ランナ背圧センサ54、軸振動センサ56、軸受振動センサ57、入口弁駆動電流センサ60、ガイドベーン駆動電流センサ61の1つ以上は省略可能である。
【0085】
また、カウンタ(N)と予め定められた回数(K)による所定期間のガブリ制御実施回数の管理は必須でなく、省略可能である。
【符号の説明】
【0086】
10 ガイドベーン動作制御部
11 演算部
12 記憶部
121 ガブリ制御管理プログラム
122 センシングログデータ
123 ガブリ制御実施条件成立データ
13 ガイドベーン制御部
21 ガイドベーン駆動部
50 検出部
51 鉄管水圧センサ
55 ドラフト水圧センサ
58 入口弁開度センサ
59 ガイドベーン開度センサ
62 水槽水位センサ
63 発電機出力センサ
71 鉄管
72 ケーシング
73 ガイドベーン
74 ランナ
75 ドラフト
80 入口弁
100 水力発電施設
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8