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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】細胞培養槽
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240926BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/36
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020098239
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021191234
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁也
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0226462(US,A1)
【文献】特開平08-070844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に第1開口が形成された第1室と、
前記第1室の内部へ培養液を送液する送液配管と、
前記第1室の内部において、前記第1開口から下方へ所定深さの位置に配置された細胞組織と、
上部において前記第1開口よりも低い位置に第2開口が形成されており、前記第1開口から溢れた前記培養液が流入し、前記第2開口から前記培養液が溢れる第2室と、
前記第2室の内部へ挿入されており、前記第2室の内部に貯留された前記培養液の性質を測定するセンサと、
を備え、
前記第1開口から前記培養液が連続して溢れるように、前記送液配管から前記第1室の内部へ前記培養液が連続して送液されており、
前記第1室と前記第2室とは、上下方向に延びる第1壁を介して隣接しており、
前記第1壁の上端は前記第1開口の一部を形成しており、
上下方向に延びる第2壁を介して前記第2室と隣接した第3室を備え、
前記第2壁の上端は前記第2開口の一部を形成しており、前記第2壁の上端は前記第1壁の上端よりも低い、細胞培養槽。
【請求項2】
上部に第1開口が形成された第1室と、
前記第1室の内部へ培養液を送液する送液配管と、
前記第1室の内部において、前記第1開口から下方へ所定深さの位置に配置された細胞組織と、
上部において前記第1開口よりも低い位置に第2開口が形成されており、前記第1開口から溢れた前記培養液が流入し、前記第2開口から前記培養液が溢れる第2室と、
前記第2室の内部へ挿入されており、前記第2室の内部に貯留された前記培養液の性質を測定するセンサと、
を備え、
前記第1開口から前記培養液が所定周期で溢れるように、前記送液配管から前記第1室の内部へ前記培養液が前記所定周期で送液されており、
前記第1室と前記第2室とは、上下方向に延びる第1壁を介して隣接しており、
前記第1壁の上端は前記第1開口の一部を形成しており、
上下方向に延びる第2壁を介して前記第2室と隣接した第3室を備え、
前記第2壁の上端は前記第2開口の一部を形成しており、前記第2壁の上端は前記第1壁の上端よりも低い、細胞培養槽。
【請求項3】
前記第1室の上方を覆う第1蓋と、
前記第2室及び前記第3室の上方を覆う第2蓋と、
前記第1壁の上方を覆う屋根部と、
を備え、
前記センサは、前記第2蓋を貫通して前記第2室の内部へ挿入されており、
前記第1蓋における第2室側の端部、及び前記第2蓋における第1室側の端部は、前記屋根部の上に配置している、請求項1又は2に記載の細胞培養槽。
【請求項4】
前記第2室及び第3室を、前記第1壁と共に囲む本体を備え、
前記第2蓋及び前記本体には、前記第2室及び前記第3室の上方を前記第2蓋で覆った後に、前記第1室から離す方向へ前記第2蓋を移動させることにより、前記本体に対する前記第2蓋の上下方向の移動を規制するように互いに係合する第1係合部及び第2係合部がそれぞれ設けられており、
前記第1係合部と前記第2係合部とを係合させた状態で、前記第1室の上方を前記第1蓋で覆うことにより、前記第1室へ近付ける方向へ前記第2蓋を移動させることが規制されている、請求項に記載の細胞培養槽。
【請求項5】
前記第1蓋には、前記第1室の内部へ気体を導入する導入口が形成されている、請求項又はに記載の細胞培養槽。
【請求項6】
前記第1蓋には、前記第1室の内部へ気体を導入する導入口が形成されており、
前記第2蓋には、前記本体における前記第3室を囲む部分と前記第2蓋との隙間を、前記本体における前記第2室を囲む部分と前記第2蓋との隙間よりも広くする薄肉部が形成されている、請求項に記載の細胞培養槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養する槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養液が入ったタンク内に加圧手段により加圧気体を供給し、タンクと培養装置との間に設けた流量計の流量が所定流量になるように加圧手段を制御する細胞培養システムがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-168436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の細胞培養システムは、培養液の流量が所定流量になるように加圧気体による加圧圧力を制御している。しかし、血管を有する細胞組織等の培養では、血管の耐圧性や生体機能の発現性の点から、細胞組織に作用する圧力が安定していることが望ましい。特許文献1に記載の細胞培養システムでは、培養装置(細胞培養槽)内の細胞組織に作用する圧力を安定させることができない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、細胞培養槽内の細胞組織に作用する圧力を安定させることができる細胞培養槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、細胞培養槽であって、
上部に第1開口が形成された第1室と、
前記第1室の内部へ培養液を送液する送液配管と、
前記第1室の内部において、前記第1開口から下方へ所定深さの位置に配置された細胞組織と、
を備え、
前記第1開口から前記培養液が連続して溢れるように、前記送液配管から前記第1室の内部へ前記培養液が連続して送液されている。
【0007】
上記構成によれば、第1室の上部には、第1開口が形成されている。送液配管は、第1室の内部へ培養液を送液する。このため、送液配管から第1室の内部へ培養液を送液し続けると、第1室の第1開口から培養液が溢れるようになる。
【0008】
ここで、第1室の内部において、第1開口から下方へ所定深さの位置に細胞組織が配置されている。そして、第1開口から培養液が連続して溢れるように、送液配管から第1室の内部へ培養液が連続して送液されている。第1開口から培養液が連続して溢れる状態では、第1室の内部の培養液の深さは一定になっている。このため、細胞組織は、培養液中において第1開口から常に所定深さの位置に配置されている。したがって、細胞組織に作用する培養液の液圧を一定にすることができ、細胞培養槽内の細胞組織に作用する圧力を安定させることができる。
【0009】
第2の手段は、細胞培養槽であって、
上部に第1開口が形成された第1室と、
前記第1室の内部へ培養液を送液する送液配管と、
前記第1室の内部において、前記第1開口から下方へ所定深さの位置に配置された細胞組織と、
を備え、
前記第1開口から前記培養液が所定周期で溢れるように、前記送液配管から前記第1室の内部へ前記培養液が前記所定周期で送液されている。
【0010】
上記構成によれば、第1開口から培養液が所定周期で溢れるように、送液配管から第1室の内部へ培養液が所定周期で送液されている。第1開口から培養液が溢れている状態又は溢れた直後の状態では、第1室の内部の培養液の深さは一定になっている。このため、細胞組織は、培養液中において第1開口から所定深さの位置に配置されている。したがって、細胞組織に作用する培養液の液圧を一定にすることができ、細胞培養槽内の細胞組織に作用する圧力を安定させることができる。
【0011】
第3の手段では、上部において前記第1開口よりも低い位置に第2開口が形成されており、前記第1開口から溢れた前記培養液が流入し、前記第2開口から前記培養液が溢れる第2室と、前記第2室の内部へ挿入されており、前記第2室の内部に貯留された前記培養液の性質を測定するセンサと、を備える。
【0012】
細胞組織の活動により培養液の性質が変化するため、培養液の性質を常時あるいは定期的に測定することが望ましい。一方、培養液の性質を測定する際に、培養液を汚染しないようにする必要がある。
【0013】
この点、上記構成によれば、第2室の上部において、第1開口よりも低い位置に第2開口が形成されている。第1室の第1開口から溢れた培養液が第2室へ流入し、第2室の第2開口から培養液が溢れる。そして、センサは、第2室の内部へ挿入されており、第2室の内部に貯留された培養液の性質を測定する。
【0014】
このため、第2室の内部に貯留された培養液の性質を、第1室の内部に貯留された培養液の性質と同等に維持することができ、細胞組織の活動により変化した培養液の性質をセンサにより測定することができる。さらに、第1室から第2室へ培養液が流入し、第2室から第1室へ培養液が逆流することはない。したがって、培養液の性質を測定することを可能にしつつ、培養液の性質を測定する際に第1室の培養液を汚染しないようにすることができる。しかも、センサは第2室の内部へ挿入されているため、第1室のメンテナンスにセンサが支障をきたすことを抑制することができる。
【0015】
第4の手段では、前記第1室と前記第2室とは、上下方向に延びる第1壁を介して隣接しており、前記第1壁の上端は前記第1開口の一部を形成しており、上下方向に延びる第2壁を介して前記第2室と隣接した第3室を備え、前記第2壁の上端は前記第2開口の一部を形成しており、前記第2壁の上端は前記第1壁の上端よりも低い。
【0016】
上記構成によれば、第1室と第2室とは、上下方向に延びる第1壁を介して隣接している。第1壁の上端は、第1開口の一部を形成している。このため、第1室から第1壁の上端を越えて溢れた培養液が第2室へ流入する。そして、第3室は、上下方向に延びる第2壁を介して第2室と隣接している。第2壁の上端は第2開口の一部を形成しており、第2壁の上端は第1壁の上端よりも低い。このため、第2室から第2壁の上端を越えて溢れた培養液は第3室へ流入し、第2室から第1室へ培養液が逆流することはない。したがって、培養液の性質を測定することを可能にしつつ、培養液の性質を測定する際に第1室の培養液を汚染しないようにすることができる。
【0017】
第5の手段では、前記第1室の上方を覆う第1蓋と、前記第2室及び前記第3室の上方を覆う第2蓋と、前記第1壁の上方を覆う屋根部と、を備え、前記センサは、前記第2蓋を貫通して前記第2室の内部へ挿入されており、前記第1蓋における第2室側の端部、及び前記第2蓋における第1室側の端部は、前記屋根部の上に配置している。
【0018】
第1~第3室は、雑菌や異物が入らないように蓋を備えていることが望ましい。ただし、定期的に細胞組織のメンテナンスを行うために、第1室の蓋を開閉する必要がある。一方、センサが第2室の蓋を貫通して第2室の内部へ挿入されている場合、第2蓋の開閉を抑制することが望ましい。そのためには、第1室の蓋と第2室の蓋とを、別々に開閉できることが望ましい。上述した第4の手段では、第1室と第2室とは、上下方向に延びる第1壁を介して隣接している。このため、第1室の蓋と第2室の蓋との隙間から、第1室及び第2室へ雑菌や異物が落下するおそれがある。
【0019】
この点、上記構成によれば、細胞培養槽は、第1室の上方を覆う第1蓋と、第2室及び第3室の上方を覆う第2蓋とを備えている。このため、第1~第3室に雑菌や異物が入ることを抑制することができる。また、センサが第2蓋を貫通して第2室の内部へ挿入されている構成において、第1蓋だけを開閉することができる。
【0020】
さらに、細胞培養槽は第1壁の上方を覆う屋根部を備えている。そして、第1蓋における第2室側の端部、及び第2蓋における第1室側の端部は、屋根部の上に配置している。このため、第1蓋と第2蓋との隙間から雑菌や異物が落下したとしても、屋根部により受けることができ、第1室及び第2室へ雑菌や異物が入ることを抑制することができる。
【0021】
第6の手段では、前記第2室及び第3室を、前記第1壁と共に囲む本体を備え、前記第2蓋及び前記本体には、前記第2室及び前記第3室の上方を前記第2蓋で覆った後に、前記第1室から離す方向へ前記第2蓋を移動させることにより、前記本体に対する前記第2蓋の上下方向の移動を規制するように互いに係合する第1係合部及び第2係合部がそれぞれ設けられており、前記第1係合部と前記第2係合部とを係合させた状態で、前記第1室の上方を前記第1蓋で覆うことにより、前記第1室へ近付ける方向へ前記第2蓋を移動させることが規制されている。
【0022】
センサが第2蓋を貫通して第2室の内部へ挿入されている構成では、センサが傾いたり、センサに何かが当たったりすることにより、第2蓋が意図せず開くおそれがある。
【0023】
この点、上記構成によれば、細胞培養槽は、第2室及び第3室を、第1壁と共に囲む本体を備えている。すなわち、第2室及び第3室は、第1壁と本体とで囲まれている。第2蓋及び本体には、第2室及び第3室の上方を第2蓋で覆った後に、第1室から離す方向へ第2蓋を移動させることにより、本体に対する第2蓋の上下方向の移動を規制するように互いに係合する第1係合部及び第2係合部がそれぞれ設けられている。このため、第1係合部と第2係合部とを係合させることにより、本体に対する第2蓋の上下方向の移動を規制することができ、第2蓋が意図せず開くことを抑制することができる。
【0024】
さらに、第1係合部と第2係合部とを係合させた状態で、第1室の上方を第1蓋で覆うことにより、第1室へ近付ける方向へ第2蓋を移動させることが規制されている。このため、第1室の上方を第1蓋で覆うことにより、第1係合部と第2係合部との係合が外れることを抑制することができ、第2蓋が意図せず開くことをさらに抑制することができる。
【0025】
第7の手段では、前記第1蓋には、前記第1室の内部へ気体を導入する導入口が形成されている。このため、第1室の内部に貯留された培養液の性質を調整するための気体を、導入口から第1室の内部へ導入することができる。さらに、導入口から第1室の内部へ導入された気体は、第1開口を通じて第2室へ導入され、第2開口を通じて第3室へ導入される。したがって、第2室の培養液の性質を、第1室の培養液の性質に近付けることができる。
【0026】
第8の手段では、前記第1蓋には、前記第1室の内部へ気体を導入する導入口が形成されており、前記第2蓋には、前記本体における前記第3室を囲む部分と前記第2蓋との隙間を、前記本体における前記第2室を囲む部分と前記第2蓋との隙間よりも広くする薄肉部が形成されている。このため、第3室へ導入された気体が本体と薄肉部との隙間から第3室の外部へ排出され易くなり、第1室から第2室へ、第2室から第3室へと順に気体を導き易くなる。したがって、第2室の培養液の性質を、第1室の培養液の性質にさらに近付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】細胞培養システムを示す模式図。
図2】ポンプ停止時の細胞培養システムの動作を示す模式図。
図3】ポンプ駆動時の細胞培養システムの動作を示す模式図。
図4】細胞培養槽の斜視図。
図5】細胞培養槽の本体の斜視図。
図6】細胞培養槽の本体の平面図。
図7】細胞培養槽の本体の側面図。
図8】細胞培養槽の本体の部分断面斜視図。
図9図7のIX-IX線断面図。
図10】第2カバーの斜視図。
図11】第2カバーの下面図。
図12】DOセンサ及びpHセンサの組立図。
図13】第1仕切壁の変更例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、細胞を培養する細胞培養システムの細胞培養槽に具現化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1に示すように、細胞培養システム10は、圧力制御送液部20、細胞培養槽50、ポンプ90等を備えている。
【0030】
圧力制御送液部20は、空気供給源21、流量比例弁24、絞り弁27、滅菌フィルタ31、タンク34、圧力センサ37、液面センサ41、制御部45等を備えている。
【0031】
空気供給源21(気体の供給源)は、所定圧力の空気(気体)を供給する。空気供給源21は、配管22,23によりタンク34に接続されている。配管22には、流量比例弁24が設けられている。流量比例弁24(流量調節部)は、入力信号に比例して開度を調節可能であり、空気供給源21から供給される空気の流量を調節する。流量比例弁24は制御部45によって制御される。
【0032】
配管22と配管23とは、接続部25において接続されている。配管23には、滅菌フィルタ31が設けられている。滅菌フィルタ31は、配管23を介してタンク34へ流れる空気を滅菌する。タンク34は、有底円筒状に形成されており、気密性であり、培養液Lを貯留している。配管23は、タンク34の上部に接続されている。すなわち、配管23は、タンク34において培養液Lの液面よりも高い位置に接続されており、培養液Lと接していない。なお、配管22,23によって、第1配管が構成されている。タンク34の形状は、有底円筒状に限らず、任意である。
【0033】
培養液Lには、例えば重炭酸塩等、pH6~8の範囲において遊離してpH緩衝機能を有する試薬が添加されている。重炭酸塩としては、重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム等を採用することができる。その他、培養液Lには、血管を有する細胞組織B(細胞)が活動するために必要な養分として、血清、アミノ酸、ビタミン、糖類等が添加されている。なお、培養液Lには、pHを目視で確認するためにフェノールレッド等の指示薬が添加されている。
【0034】
圧力センサ37は、タンク34の下部における培養液Lの圧力を検出する。液面センサ41は、培養液Lの液面の位置を検出する。
【0035】
接続部25には、配管26が接続されている。接続部25は、配管26により空気の排出部28に接続されている。配管26には、絞り弁27が設けられている。絞り弁27(絞り部)は、例えば微少な流量を調節するニードル弁であり、排出部28へ排出される空気の流量を制限(調節)する。絞り弁27の開度は、タンク34内の空気の圧力(タンク34内の圧力)を目標圧力にすべく、所定開度に設定されている。タンク34内の空気の目標圧力に応じて、絞り弁27の開度を変更してもよい。排出部28へ流れた空気は圧力制御送液部20の外部(大気)へ排出される。なお、配管23,26によって、第2配管が構成されている。
【0036】
細胞培養槽50は、培養室51、センサ室52、及び調整室53を備えている。培養室51(第1室)とセンサ室52(第2室)とは、上下方向に延びる第1仕切壁61(第1壁)を介して隣接している。センサ室52と調整室53(第3室)とは、上下方向に延びる第2仕切壁62(第2壁)を介して隣接している。そして、第2仕切壁62の上端62aは第1仕切壁61の上端61aよりも低くなっている。培養室51、センサ室52、調整室53、第1仕切壁61、第2仕切壁62の詳細については後述する。
【0037】
送液配管42は、タンク34に貯留された培養液Lの中と細胞培養槽50の培養室51とを接続している。送液配管42は、タンク34に貯留された培養液Lの中に挿入されており、送液配管42の下端は培養液Lの液面よりも低い位置にある。
【0038】
細胞培養槽50は、培養液Lと細胞組織Bとを収納している。細胞培養槽50には、タンク34から送液配管42を介して培養液Lが送液される。細胞組織Bは、例えば血管を有する動物細胞組織である。細胞組織Bは、培養液Lにより培養され、所定の生体機能を発現する。その際に、細胞の活動により細胞培養槽50内の培養液Lの溶存酸素濃度DO及びpHが変化する。
【0039】
細胞組織Bの血管を損傷しないように、培養液Lは10[mmHg]以下の圧力(加圧)で細胞培養槽50の培養室51へ送液される。また、細胞組織Bが所定の生体機能を発現するためには、目標流量の培養液Lを送液する流量制御送液ではなく、目標圧力で培養液Lを送液する圧力制御送液とすることが望ましい。この理由は、実際の動物の動物細胞組織では、心臓により血液が送液されており、流量制御送液よりも圧力制御送液に近いためである。さらに、細胞組織Bが所定の生体機能を発現するためには、細胞組織Bに作用する圧力が安定していることが望ましい。なお、培養液Lを10[mmHg]以下の圧力(加圧)で細胞培養槽50へ送液する場合、培養液Lの流量は1[mL/min]以下となる。
【0040】
センサ室52に貯留された培養液Lの中には、酸素濃度センサ81、及びpHセンサ82(図4参照)が挿入されている。酸素濃度センサ81(センサ)は、センサ室52内の培養液Lの溶存酸素濃度DO(性質)を検出する。pHセンサ82(センサ)は、センサ室52内の培養液LのpH(性質)を検出する。pHセンサ82により培養液LのpHを検出する際には、pHセンサ82から基準液(内部液)が培養液Lへ若干漏れ出すことがある。
【0041】
細胞培養槽50の調整室53は、返液配管43によりタンク34に接続されている。返液配管43(供給配管)には、ポンプ90及びチェック弁92が設けられている。ポンプ90は、液面センサ41により検出された液面の位置が所定位置よりも下がった場合(液面センサ41:OFF)に、培養液Lを圧送する。そして、ポンプ90は、液面センサ41により検出された液面の位置が所定位置よりも上がった場合(液面センサ41:ON)に、培養液Lの圧送を停止する。チェック弁92(逆止弁)は、ポンプ90からタンク34への培養液Lの流通を許容し、タンク34からポンプ90への培養液Lの流通を禁止する。返液配管43は、タンク34において培養液Lの液面よりも低く、且つ送液配管42の下端よりも高い位置に接続されている。
【0042】
制御部45は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータである。制御部45は、目標圧力で培養液Lを細胞培養槽50へ送液すべく、流量比例弁24を制御する。
【0043】
制御部45は、タンク34から送液配管42を介して培養液Lを細胞培養槽50へ送液する際に、所定条件に基づき算出した目標流量の空気が供給されるように流量比例弁24を制御する。制御部45は、タンク34内の圧力Pvが平衡するまで、その状態を5[S]以下の所定時間(例えば3[S])維持する。本実施形態では、略1[S]で、圧力Pvが平衡する。その結果、培養液Lが目標圧力で細胞培養槽50へ送液される。
【0044】
空気供給源21から空気を供給し始めてから、タンク34の内部の圧力Pvを平衡させるまでの時間は、タンク34の容積が大きいほど、絞り弁27の有効断面積Sが大きいほど、タンク34の内部の目標圧力が高いほど、長くなる。この点、血管を有する細胞組織Bの培養では、10[mmHg]以下の微圧で細胞培養槽50へ培養液Lを送液する必要があるため、タンク34の内部の目標圧力を非常に低く設定している。したがって、圧力Pvが平衡するまでの時間は非常に短くなる。
【0045】
制御部45は、タンク34から送液配管42を介して培養液Lを細胞培養槽50へ送液する際に、タンク34の内部の圧力を平衡させた状態における空気供給源21から供給される空気の流量とタンク34の内部の圧力との所定の相関関係に基づいて、タンク34の内部の目標圧力に対応する目標流量の空気が供給されるように流量比例弁24を制御した状態でタンク34の内部の圧力を平衡させる。換言すれば、制御部45は、タンク34の内部の圧力を平衡させた状態における空気供給源21から供給される空気の流量とタンク34の内部の圧力との所定の相関関係に基づいて、タンク34の内部の目標圧力に対応する目標流量の空気が供給されるように流量比例弁24を制御した状態でタンク34の内部の圧力を平衡させて、タンク34から送液配管42を介して培養液Lを細胞培養槽50へ送液させる。
【0046】
図2は、ポンプ90停止時の細胞培養システム10の動作を示す模式図である。
【0047】
タンク34の内部の圧力が目標圧力に制御されており、タンク34内の培養液Lが加圧されている。このため、タンク34から送液配管42を介して、培養液Lが細胞培養槽50の培養室51へと送液されている。これに伴い、タンク34内の培養液Lの液面が下降している。培養室51内の培養液Lは、第1仕切壁61の上端61aまで満たされている。そして、培養室51内の培養液Lは、第1仕切壁61の上端61aを越えてセンサ室52へ溢れ出ている。
【0048】
培養液Lを貯留する培養室51の内部において、培養室51の底面、すなわち第1仕切壁61の上端61aから下方へ所定深さDの位置に細胞組織Bが配置されている。そして、第1仕切壁61の上端61aを越えて培養液Lが連続して溢れるように、送液配管42から培養室51の内部へ培養液Lが連続して送液されている。第1仕切壁61の上端61aを越えて培養液Lが連続して溢れる状態では、培養室51の内部の培養液Lの深さは一定になっている。このため、細胞組織Bは、培養液L中において第1仕切壁61の上端61aから常に所定深さDの位置に配置されている。
【0049】
センサ室52内の培養液Lの溶存酸素濃度DOが、酸素濃度センサ81により検出されている。センサ室52内の培養液LのpHが、pHセンサ82により検出されている。センサ室52内の培養液Lは、第2仕切壁62の上端62aまで満たされている。そして、センサ室52内の培養液Lは、第2仕切壁62の上端62aを越えて調整室53へ溢れ出ている。これに伴い、調整室53内の培養液Lの液面が上昇している。
【0050】
そして、ポンプ90は、液面センサ41により検出された液面の位置が所定位置よりも下がった場合(液面センサ41:OFF)に、駆動を開始して培養液Lを圧送する。
【0051】
図3は、ポンプ90駆動時の細胞培養システム10の動作を示す模式図である。
【0052】
ポンプ90駆動時も、タンク34の内部の圧力が目標圧力に制御されており、タンク34内の培養液Lが加圧されている。このため、タンク34から送液配管42を介して、培養液Lが細胞培養槽50の培養室51へと送液されている。加圧空気によりタンク34から培養室51へ送液される培養液Lの流量よりも、ポンプ90により調整室53からタンク34へ圧送される培養液Lの流量は多くなっている。このため、タンク34内の培養液Lの液面が上昇している。培養室51内の培養液Lは、第1仕切壁61の上端61aまで満たされている。そして、培養室51内の培養液Lは、第1仕切壁61の上端61aを越えてセンサ室52へ溢れ出ている。
【0053】
センサ室52内の培養液Lの溶存酸素濃度DOが、酸素濃度センサ81により検出されている。センサ室52内の培養液LのpHが、pHセンサ82により検出されている。センサ室52内の培養液Lは、第2仕切壁62の上端62aまで満たされている。そして、センサ室52内の培養液Lは、第2仕切壁62の上端62aを越えて調整室53へ溢れ出ている。センサ室52から調整室53へ溢れ出る培養液Lの流量よりも、ポンプ90により調整室53からタンク34へ圧送される培養液Lの流量は多くなっている。このため、調整室53内の培養液Lの液面が下降している。
【0054】
そして、ポンプ90は、液面センサ41により検出された液面の位置が所定位置よりも上がった場合(液面センサ41:ON)に、駆動を停止して培養液Lの圧送を停止する。その後、細胞培養システム10は、図2の動作から繰り返す。
【0055】
次に、細胞培養槽50の構成を詳細に説明する。図4は、細胞培養槽50の斜視図である。細胞培養槽50は、本体60、第1カバー75、第2カバー78、酸素濃度センサ81、pHセンサ82、及びスターラ86等を備えている。
【0056】
図5は細胞培養槽50の本体60の斜視図であり、図6は細胞培養槽50の本体60の平面図である。本体60は、金属や樹脂等により、空洞の直方体状に形成されている。本体60の上面は開口している。本体60の内部には、上記培養室51、センサ室52、及び調整室53が形成されている。
【0057】
第1カバー75(第1蓋)は、金属や樹脂等により形成され、培養室51の上方を覆っている。第1カバー75には、培養室51の内部へ気体を導入する導入口76が形成されている。導入口76から導入する気体としては、酸素や二酸化炭素を採用することができる。導入口76には、チューブ(配管)等が接続され、チューブを通じて酸素や二酸化炭素が培養室51の内部へ導入される。第2カバー78(第2蓋)は、金属や樹脂等により形成され、センサ室52及び調整室53の上方を覆っている。酸素濃度センサ81及びpHセンサ82は、第2カバー78を貫通してセンサ室52の内部へ挿入されている。第2カバー78の詳細については後述する。
【0058】
培養室51の下方には、スターラ86が配置されている。スターラ86は、磁力を利用して攪拌子(図示略)を回転させ、培養室51内の培養液Lを攪拌する。攪拌子は、培養室51内において細胞組織Bに当たらないように配置されている。攪拌子と細胞組織Bとは、水平方向の位置がずれていてもよいし、垂直方向の位置がずれていてもよい。
【0059】
上記送液配管42は、継手83を介して培養室51に接続されている。上記返液配管43は、継手84を介して調整室53に接続されている。
【0060】
図7は細胞培養槽50の本体60の側面図であり、図8は細胞培養槽50の本体60の部分断面斜視図であり、図9図7のIX-IX線断面図である。
【0061】
図8に示すように、培養室51とセンサ室52とは、上記第1仕切壁61を介して隣接している。第1仕切壁61は、金属や樹脂等により、矩形板状に形成されている。第1仕切壁61は、本体60の底面から上方へ垂直に延びている。第1仕切壁61は、培養室51の全長にわたって延びており、培養室51とセンサ室52とを水平方向に仕切っている。培養室51内の培養液Lは、第1仕切壁61の上からのみセンサ室52へ流入可能となっており、第1仕切壁61の横からセンサ室52へ流入不可能となっている。なお、培養室51は、第1仕切壁61と本体60とで囲まれている。
【0062】
培養室51の上部には、水平方向に開口する断面矩形状の第1開口55が形成されている。第1仕切壁61の上端61aは、第1開口55の底部(一部)を形成している。なお、培養室51の上部には、上方に開口する断面矩形状の開口(第1開口)が形成されているということもできる。
【0063】
図8,9に示すように、センサ室52と調整室53とは、上記第2仕切壁62を介して隣接している。第2仕切壁62は、金属や樹脂等により、矩形板状に形成されている。第2仕切壁62は、本体60の底面から上方へ垂直に延びている。第2仕切壁62は、センサ室52の全幅にわたって延びており、センサ室52と調整室53とを水平方向に仕切っている。センサ室52内の培養液Lは、第2仕切壁62の上からのみ調整室53へ流入可能となっており、第2仕切壁62の横から調整室53へ流入不可能となっている。なお、センサ室52及び調整室53は、第1仕切壁61と本体60とで囲まれている。
【0064】
センサ室52の上部には、上方に開口する断面矩形状の第2開口56が形成されている。第2仕切壁62の上端62aは、第2開口56の測部(一部)を形成している。第2仕切壁62の上端62aは、第1仕切壁61の上端61aよりも低くなっている。すなわち、第2開口56は、第1開口55よりも低い位置に形成されている。なお、センサ室52の上部には、水平方向に開口する断面矩形状の開口(第2開口)が形成されているということもできる。
【0065】
図1,6~8に示すように、第1仕切壁61の上方は屋根部65によって覆われている。屋根部65は、第1仕切壁61の厚みよりも広い幅で形成され、第1仕切壁61の上端61aに沿って水平方向に延びている。すなわち、屋根部65は、培養室51のセンサ室52側の端部の上方と、センサ室52の培養室51側の端部の上方とを覆っている。なお、屋根部65の下面は、第1開口55の上面(一部)を形成している。
【0066】
屋根部65の培養室51側の端部には、上方へ延びる矩形板状の側板66が設けられている。側板66は、本体60の上端まで延びている。側板66は、培養室51の全長にわたって設けられている。屋根部65のセンサ室52(調整室53)側の端部には、上方へ延びる矩形板状の側板67が設けられている。側板67は、本体60の上端まで延びている。側板67は、センサ室52及び調整室53を足した全長にわたって設けられている。
【0067】
図5~8に示すように、本体60の上部の外縁部には、側面視で「L」字状の溝68A,68Bが形成されている。溝68A(第2係合部)と溝68B(第2係合部)とは、本体60において培養室51よりもセンサ室52側の位置に、対向して形成されている。溝68A,68Bは、本体60の上端から下方へ延びた後、培養室51から離れる方向へ水平に延びている。溝68A,68Bは、所定幅W2及び所定深さD2で形成されている。
【0068】
図4,6に示すように、第1カバー75は、培養室51を囲む本体60の側壁及び側板66の外形よりも若干大きい矩形板状に形成されており、外縁部が下向き(直角)に折れている。第1カバー75により培養室51に蓋をすると、培養室51を囲む本体60の側壁及び側板66の上端に第1カバー75の外縁部が嵌合する。これにより、培養室51に対して第1カバー75が水平方向にずれることが抑制される。このとき、第1カバー75におけるセンサ室52側の端部は、屋根部65の上に配置している。
【0069】
図10は第2カバー78の斜視図であり、図11は第2カバー78の下面図である。第2カバー78は、センサ室52及び調整室53を囲む本体60の側壁及び側板67の外形よりも若干大きい矩形板状に形成されており、外縁部が下向き(直角)に折れている。第2カバー78によりセンサ室52及び調整室53に蓋をすると、センサ室52及び調整室53を囲む本体60の側壁及び側板66の上端に第2カバー78の外縁部が嵌合する。これにより、センサ室52及び調整室53に対して第2カバー78が水平方向にずれることが抑制される。このとき、第2カバー78における培養室51側の端部は、屋根部65の上に配置している。なお、センサ室52及び調整室53を囲む本体60の側壁及び側板66の上端に、第2カバー78を取り付ける手順については後述する。
【0070】
第2カバー78においてセンサ室52の上方に配置される部分には、断面円形の貫通孔78a,78bが形成されている。
【0071】
第2カバー78において本体60の上記溝68A,68Bの上方に配置される部分には、円柱状のピン79A,79Bがそれぞれ設けられている。ピン79A,79B(第1係合部)は、第2カバー78の下向きに折れた外縁部から内側へ水平に延びている。ピン79A,79Bの径d1は、溝68A,68Bの所定幅W2よりも若干小さくなっている。ピン79A,79Bの長さL1は、溝68A,68Bの所定深さD2と略等しくなっている。すなわち、ピン79A,79Bは、それぞれ溝68A,68Bに係合可能となっている。
【0072】
第2カバー78は、第1カバー75よりも先に本体60に取り付ける。作業者は以下の手順で、本体60に第2カバー78、第1カバー75、及び酸素濃度センサ81、pHセンサ82を取り付ける。
【0073】
まず、第2カバー78のピン79A,79Bが、それぞれ溝68A,68Bにおける上方へ延びる部分に係合するように、第2カバー78の位置を合わせて下方へ移動させる。このとき、第2カバー78の培養室51側の端部は屋根部65の上に位置している。また、上記側板67と第2カバー78の培養室51側の端部(下向きに折れた外縁部)との間には、溝68A,68Bにおける水平に延びる部分の長さと略等しい隙間が形成されている。
【0074】
ピン79A,79Bが、それぞれ溝68A,68Bにおける上方へ延びる部分の下端に到達した後、第2カバー78を培養室51から離す方向へ水平に移動させる。これにより、ピン79A,79Bは、溝68A,68Bにおける水平に延びる部分に係合する。このため、ピン79A,79Bにより、第2カバー78は上下方向への移動が規制される。
【0075】
すなわち、センサ室52及び調整室53の上方を第2カバー78で覆った後に、培養室51から離す方向へ第2カバー78を移動させることにより、本体60に対する第2カバー78の上下方向の移動を規制するように、溝68A,68Bとそれぞれピン79A,79Bとが係合している。
【0076】
続いて、培養室51を囲む本体60の側壁及び側板66の上端に第1カバー75の外縁部を嵌合させるように、第1カバー75の位置を合わせて下方へ移動させる。これにより、本体60に第1カバー75が取り付けられ、培養室51の上方が第1カバー75により覆われる。このとき、第2カバー78の培養室51側の端部(下向きに折れた外縁部)と、第1カバー75のセンサ室52側の端部(下向きに折れた外縁部)との間の隙間は、溝68A,68Bの水平に延びる部分の長さよりも狭く(略0に)なっている。すなわち、溝68A,68Bとそれぞれピン79A,79Bとを係合させた状態で、培養室51の上方を第1カバー75で覆うことにより、培養室51へ近付ける方向へ第2カバー78を移動させることが規制されている。これにより、溝68A,68Bからピン79A,79Bが外れることが規制されている。
【0077】
続いて、図12に示すように、第2カバー78の貫通孔78a,78bに、それぞれセンサケース81C,82Cを嵌合させる。センサケース81C,82Cは、それぞれ貫通孔78a,78bの内径よりも若干小さい外径の円筒状に形成されており、下部にフランジfが設けられている。センサケース81C,82Cの内径は、それぞれ酸素濃度センサ81及びpHセンサ82の外径よりも若干大きくなっている。貫通孔78a,78bにセンサケース81C,82Cの下端を挿入し、フランジfを第2カバー78の上面に当接させることで、第2カバー78にセンサケース81C,82Cが取り付けられる。なお、第2カバー78とセンサケース81C,82Cとを、ねじ止めすることもできる。
【0078】
続いて、センサケース81C,82Cに、それぞれ酸素濃度センサ81及びpHセンサ82を挿入する。酸素濃度センサ81及びpHセンサ82の上部には、他の部分よりも径が大きい大径部81a,82aが設けられている。大径部81a,82aの下端をそれぞれセンサケース81C,82Cの上端に当接させることで、センサケース81C,82Cにそれぞれ酸素濃度センサ81及びpHセンサ82が取り付けられる。なお、センサケース81C,82Cと酸素濃度センサ81及びpHセンサ82とを、それぞれねじ止めすることもできる。以上により、本体60に第2カバー78、第1カバー75、酸素濃度センサ81、及びpHセンサ82が取り付けられる。
【0079】
また、図10,11に示すように、第2カバー78において調整室53の上方に位置する部分には、他の部分よりも厚みが薄くされた薄肉部78cが形成されている。これにより、本体60に第2カバー78を取り付けた状態において、本体60における調整室53を囲む部分と第2カバー78(薄肉部78c)との隙間は、本体60におけるセンサ室52を囲む部分と第2カバー78との隙間よりも広くなっている。すなわち、本体60における調整室53を囲む部分と薄肉部78cとの隙間は、調整室53から気体を排出する排出口の機能を果たす。
【0080】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0081】
・培養室51の内部において、第1開口55から下方へ所定深さDの位置に細胞組織Bが配置されている。そして、第1開口55から培養液Lが連続して溢れるように、送液配管42から培養室51の内部へ培養液Lが連続して送液されている。第1開口55から培養液Lが連続して溢れる状態では、培養室51の内部の培養液Lの深さは一定になっている。このため、細胞組織Bは、培養液L中において第1開口55から常に所定深さDの位置に配置されている。したがって、細胞組織Bに作用する培養液Lの液圧を一定にすることができ、細胞培養槽50内の細胞組織Bに作用する圧力を安定させることができる。
【0082】
・センサ室52の上部において、第1開口55よりも低い位置に第2開口56が形成されている。培養室51の第1開口55から溢れた培養液Lがセンサ室52へ流入し、センサ室52の第2開口56から培養液Lが溢れる。そして、酸素濃度センサ81及びpHセンサ82は、センサ室52の内部へ挿入されており、センサ室52の内部に貯留された培養液Lの性質を測定する。このため、センサ室52の内部に貯留された培養液Lの性質を、培養室51の内部に貯留された培養液Lの性質と同等に維持することができ、細胞組織Bの活動により変化した培養液Lの性質を酸素濃度センサ81及びpHセンサ82により測定することができる。
【0083】
・培養室51からセンサ室52へ培養液Lが流入し、センサ室52から培養室51へ培養液Lが逆流することはない。このため、培養液Lの性質を測定することを可能にしつつ、培養液Lの性質を測定する際に培養室51の培養液Lを汚染しないようにすることができる。したがって、センサ室52においてpHセンサ82により培養液LのpHを検出する際に、pHセンサ82から基準液(内部液)が培養液Lへ若干漏れ出したとしても、培養室51の培養液Lを汚染しないようにすることができる。しかも、酸素濃度センサ81及びpHセンサ82はセンサ室52の内部へ挿入されているため、培養室51のメンテナンスに酸素濃度センサ81及びpHセンサ82が支障をきたすことを抑制することができる。
【0084】
・培養室51とセンサ室52とは、上下方向に延びる第1仕切壁61を介して隣接している。第1仕切壁61の上端61aは、第1開口55の一部を形成している。このため、培養室51から第1仕切壁61の上端61aを越えて溢れた培養液Lがセンサ室52へ流入する。そして、調整室53は、上下方向に延びる第2仕切壁62を介してセンサ室52と隣接している。第2仕切壁62の上端62aは第2開口56の一部を形成しており、第2仕切壁62の上端62aは第1仕切壁61の上端61aよりも低い。このため、センサ室52から第2仕切壁62の上端62aを越えて溢れた培養液Lは調整室53へ流入し、センサ室52から培養室51へ培養液Lが逆流することはない。したがって、培養液Lの性質を測定することを可能にしつつ、培養液Lの性質を測定する際に培養室51の培養液Lを汚染しないようにすることができる。
【0085】
・細胞培養槽50は、培養室51の上方を覆う第1カバー75と、センサ室52及び調整室53の上方を覆う第2カバー78とを備えている。このため、培養室51、センサ室52、及び調整室53に、雑菌や異物が入ることを抑制することができる。また、酸素濃度センサ81及びpHセンサ82が第2カバー78を貫通してセンサ室52の内部へ挿入されている構成において、第1カバー75だけをメンテナンスのために開閉することができる。
【0086】
・細胞培養槽50は第1仕切壁61の上方を覆う屋根部65を備えている。そして、第1カバー75におけるセンサ室52側の端部、及び第2カバー78における培養室51側の端部は、屋根部65の上に配置している。このため、第1カバー75と第2カバー78との隙間から雑菌や異物が落下したとしても、屋根部65により受けることができ、培養室51及びセンサ室52へ雑菌や異物が入ることを抑制することができる。
【0087】
・細胞培養槽50は、センサ室52及び調整室53を、第1仕切壁61と共に囲む本体60を備えている。すなわち、センサ室52及び調整室53は、第1仕切壁61と本体60とで囲まれている。第2カバー78及び本体60には、センサ室52及び調整室53の上方を第2カバー78で覆った後に、培養室51から離す方向へ第2カバー78を移動させることにより、本体60に対する第2カバー78の上下方向の移動を規制するように互いに係合するピン79A,79B及び溝68A,68Bがそれぞれ設けられている。このため、ピン79A,79Bとそれぞれ溝68A,68Bとを係合させることにより、本体60に対する第2カバー78の上下方向の移動を規制することができ、第2カバー78が意図せず開くことを抑制することができる。
【0088】
・ピン79A,79Bと溝68A,68Bとを係合させた状態で、培養室51の上方を第1カバー75で覆うことにより、培養室51へ近付ける方向へ第2カバー78を移動させることが規制されている。このため、培養室51の上方を第1カバー75で覆うことにより、ピン79A,79Bと溝68A,68Bとの係合が外れることを抑制することができ、第2カバー78が意図せず開くことをさらに抑制することができる。
【0089】
・第1カバー75には、培養室51の内部へ気体を導入する導入口76が形成されている。このため、培養室51の内部に貯留された培養液Lの性質を調整するための気体を、導入口76から培養室51の内部へ導入することができる。さらに、導入口76から培養室51の内部へ導入された気体は、第1開口55を通じてセンサ室52へ導入され、第2開口56を通じて調整室53へ導入される。したがって、センサ室52の培養液Lの性質を、培養室51の培養液Lの性質に近付けることができる。
【0090】
・第1カバー75には、培養室51の内部へ気体を導入する導入口76が形成されており、第2カバー78には、本体60における調整室53を囲む部分と第2カバー78との隙間を、本体60におけるセンサ室52を囲む部分と第2カバー78との隙間よりも広くする薄肉部78cが形成されている。このため、調整室53へ導入された気体が本体60と薄肉部78cとの隙間から調整室53の外部へ排出され易くなり、培養室51からセンサ室52へ、センサ室52から調整室53へと順に気体を導き易くなる。したがって、センサ室52の培養液Lの性質を、培養室51の培養液Lの性質にさらに近付けることができる。
【0091】
・流量比例弁24により空気供給源21から供給される空気の流量Q1を調節し、絞り弁27により排出部28へ排出される空気の流量Qrを制限することにより、気密性のタンク34の内部の圧力Pvを制御することができる。そして、細胞培養槽50は、培養液Lと細胞組織Bとを収納する。送液配管42は、タンク34に貯留された培養液Lの中と細胞培養槽50とを接続している。このため、タンク34に空気を供給してタンク34の内部の圧力Pvを上昇させることにより、タンク34から送液配管42を介して培養液Lを細胞培養槽50の細胞組織Bへ送液することができる。
【0092】
・制御部45は、タンク34から送液配管42を介して培養液Lを細胞培養槽50へ送液する際に、タンク34の内部の圧力Pvを平衡させた状態における空気供給源21から供給される空気の流量Q1とタンク34の内部の圧力Pvとの所定の相関関係に基づいて、タンク34の内部の目標圧力に対応する目標流量の空気が供給されるように流量比例弁24を制御した状態でタンク34の内部の圧力Pvを平衡させる。このため、タンク34の内部の圧力Pvを目標圧力に平衡させた状態で培養液Lを細胞培養槽50へ送液することができ、目標流量の培養液Lを送液する場合と比較して、より生体に近い状態で培養液Lを細胞培養槽50の細胞組織Bへ送液することができる。
【0093】
・タンク34の内部の圧力Pvを平衡させた状態では、タンク34の内部の圧力Pvと空気供給源21から供給される空気の流量Q1とは、温度の影響が小さい相関関係を有している。したがって、培養液Lの送液状態が周囲温度による外乱の影響を受けることを抑制することができる。
【0094】
・目標圧力は、10[mmHg]以下であり、空気供給源21から空気を供給し始めてから、タンク34の内部の圧力Pvを平衡させるまでの時間は、5[S]以下である。こうした構成によれば、5[S]以下の短時間でタンク34の内部の圧力Pvを平衡させることができ、培養液Lを目標圧力で速やかに細胞培養槽50へ送液することができる。
【0095】
・細胞培養システム10は、培養液Lを圧送するポンプ90と、タンク34とポンプ90とを接続している返液配管43とを備えている。このため、返液配管43を介して、タンク34に培養液Lを補充することができる。
【0096】
・返液配管43は、タンク34において培養液Lの液面よりも低く、且つ送液配管42の下端よりも高い位置に接続されている。このため、返液配管43がタンク34において培養液Lの液面よりも高い位置に接続されている場合と比較して、培養液Lが液面に落下して気泡が発生することを抑制することができる。
【0097】
・返液配管43がタンク34において送液配管42の下端よりも低い位置に接続されている場合と比較して、培養液Lに混入した気泡が送液配管42に取り込まれることを抑制することができる。
【0098】
・ポンプ90からタンク34への培養液Lの流通を許容し、タンク34からポンプ90への培養液Lの流通を禁止するチェック弁92が、返液配管43に設けられている。したがって、返液配管43がタンク34において培養液Lの液面よりも低い位置に接続されることで返液配管43に培養液Lの圧力がかかっても、タンク34からポンプ90へ培養液Lが逆流することを抑制することができる。
【0099】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0100】
・第2カバー78において薄肉部78cを省略することもできる。その場合であっても、本体60と第2カバー78との隙間から、気体を排出することができる。
【0101】
・培養液Lの溶存酸素濃度DO及びpHを調整する必要がなければ、第1カバー75において導入口76を省略することもできる。
【0102】
・本体60にピン79A,79Bを設け、第2カバー78に溝68A,68Bを設けることもできる。その場合は、溝68A,68Bが、上方へ延びた後に培養室51の方向へ水平に延びるようにすればよい。また、本体60の溝68A,68B、及び第2カバー78のピン79A,79Bを省略することもできる。
【0103】
・第1カバー75と第2カバー78とが一体に形成されていてもよい。また、本体60がインキュベータ等の内部に配置されている場合は、第1カバー75及び第2カバー78を省略することもできる。その場合は、屋根部65も省略してもよい。
【0104】
図13に示すように、第1仕切壁161の上端の高さを、第1上端161aと第2上端161bとで変えてもよい。第1仕切壁161において、調整室53と隣接する部分に第2上端161bが設けられており、残りの部分に第1上端161aが設けられている。第2上端161bは、第1上端161aよりも高くなっている。こうした構成によれば、培養室51から溢れ出た培養液Lが、調整室53へ直接流入することを抑制することができる。したがって、培養室51から、センサ室52、調整室53へと順に、確実に培養液Lを流すことができる。なお、第2上端161bを屋根部65の底部まで延長して、第2上端161bの上方には第1開口55を形成しないようにすることもできる。
【0105】
・第1開口55から培養液Lが所定周期Tで溢れるように、送液配管42から培養室51の内部へ培養液Lを所定周期Tで送液することもできる。所定周期Tは、培養液Lの蒸発が問題にならない周期であり、例えば1秒間~1分間を採用することができる。第1開口55から培養液Lが溢れている状態又は溢れた直後の状態では、培養室51の内部の培養液Lの深さは一定になっている。このため、細胞組織Bは、培養液L中において第1開口55から所定深さDの位置に配置されている。したがって、細胞組織Bに作用する培養液Lの液圧を一定にすることができ、細胞培養槽50内の細胞組織Bに作用する圧力を安定させることができる。なお、所定周期Tを、気温(培養液Lの蒸発速度)に応じて可変とすることもできる。
【0106】
・調整室53を省略して、センサ室52に返液配管43を接続することもできる。
【0107】
・培養液Lの性質を検出する必要がなければ、酸素濃度センサ81及びpHセンサ82を省略することもできる。さらに、培養液Lの性質を検出する必要がなければ、センサ室52、酸素濃度センサ81、及びpHセンサ82を省略することもできる。その場合に、培養室51から溢れ出た培養液Lを廃棄することもできる。
【0108】
・流量比例弁24に代えて、開閉式の電磁弁を採用し、制御部45は、所定期間における電磁弁の開弁割合をDUTY制御することで、空気の流量を調節させることもできる。
【0109】
・絞り弁27(絞り部)は、ニードル弁に限らず、固定のオリフィスであってもよい。
【0110】
・返液配管43を、タンク34において培養液Lの液面よりも低く、且つ送液配管42の下端よりも低い位置に接続することもできる。また、返液配管43を、タンク34において培養液Lの液面よりも高い位置に接続することもできる。
【0111】
・細胞組織Bとして又は細胞組織Bに代えて、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母、真菌等を採用することができる。また、細胞組織Bは、複数種の細胞からなる組織であってもよい。
【0112】
・細胞組織B(細胞)の種類に応じて、目標圧力は、10[mmHg]よりも高く且つ20[mmHg]以下であり、空気供給源21から空気を供給し始めてから、タンク34の内部の圧力Pvを平衡させるまでの時間は、5[S]よりも長く且つ10[S]よりも短い、といった構成を採用することもできる。また、目標圧力は、20[mmHg]よりも高く、空気供給源21から空気を供給し始めてから、タンク34の内部の圧力Pvを平衡させるまでの時間は、10[S]よりも長い、といった構成を採用することもできる。
【0113】
・空気供給源21に代えて、窒素(気体)を供給する供給源を採用することもできる。
【符号の説明】
【0114】
10…細胞培養システム、20…圧力制御送液部、34…タンク、42…送液配管、43…返液配管、50…細胞培養槽、51…培養室(第1室)、52…センサ室(第2室)、53…調整室(第3室)、55…第1開口、56…第2開口、60…本体、61…第1仕切壁(第1壁)、62…第2仕切壁(第2壁)、75…第1カバー(第1蓋)、78…第2カバー(第2蓋)、81…酸素濃度センサ(センサ)、82…pHセンサ(センサ)、161…第1仕切壁(第1壁)。
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図13