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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】難水溶性物質用可溶化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/39 20060101AFI20240926BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240926BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240926BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240926BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A61K8/39
A61K8/86
A61K8/37
A61K8/34
A61Q19/00
A61K47/14
A61K47/10
A61P17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020168021
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022060041
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米村 博貴
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 宗矢
(72)【発明者】
【氏名】樋口 智則
(72)【発明者】
【氏名】林 堅
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070529(JP,A)
【文献】特開2015-209399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0052476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性物質が香料及び精油からなる群より選択される少なくとも1種以上であり、以下の(A)~(D)を含有し、(A):(B)が重量比で7:1~15:1であり、{(A)+(B)}:(C)が重量比で8:1~15:1であり、且つ{(A)+(B)}:(D)が重量比で1:3~1:6である難水溶性物質用可溶化組成物。
(A)炭素数が18の不飽和及び/又は分岐鎖脂肪酸で構成され、構成するポリグリセリンの重合度が5~20であり、HLB値が13以上のポリグリセリン脂肪酸エステル
(B)炭素数が10~14の脂肪酸で構成され、構成するポリグリセリンの重合度が5~20であり、HLB値が13以上のポリグリセリン脂肪酸エステル
(C)炭素数が10以下の脂肪酸と炭素数が9以下のアルコールから構成されるエステル油
(D)多価アルコール
【請求項2】
(A)+(B)が可溶化組成物全体に対して13重量%以上である請求項1記載の難水溶性物質用可溶化組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の難水溶性物質用可溶化組成物を含有する化粧料。
【請求項4】
請求項1記載の難水溶性物質と請求項1又は2記載の難水溶性物質用可溶化組成物を水に20~50℃の温度で混合する工程を有することを特徴とする、請求項3記載の化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLB値が13以上である特定のポリグリセリン脂肪酸エステルと特定のエステル油、多価アルコールを含有し、化粧料調製時に20~50℃の温度で難水溶性物質を水に混合して、容易に且つ透明に可溶化できる難水溶性物質用可溶化組成物に関する。また、本発明は、難水溶性物質を水に可溶化するために用いられる界面活性剤の含有量が低減された化粧料に関するものである。更には、難水溶性物質と難水溶性物質用可溶化組成物を水に20~50℃の温度で混合する工程を有する化粧料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧料の内、化粧水や美容液等のように、一般的に透明であることが前提となる化粧料では、配合される香料、精油、植物油脂、炭化水素油、エステル油や脂溶性ビタミン等の難水溶性物質は、通常は可溶化剤によって可溶化されている。この可溶化剤として、従来からポリオキシエチレン系界面活性剤が、その可溶化力の強さ故に一般的に使用されており、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレン誘導体が挙げられる。しかしながら、これらのポリオキシエチレン誘導体中には、配合量によって皮膚刺激性や眼粘膜刺激性、感作性が認められる問題点があった。更には、親水基としてエチレンオキシド鎖を有しているため、エチレンオキシド鎖の分解によるホルマリンの溶出等の安全性の問題があった。また、香料、精油、植物油脂は極性が高いため、これらを可溶化するために界面活性剤の量を多く配合している。その結果、化粧料として肌に塗布した時の使用性が悪くなる欠点を有していた。
【0003】
難水溶性物質を可溶化した化粧料の安定性を高める目的で、ポリグリセリン脂肪酸エステルとエタノールを使用した60~80℃での調製方法が提案されている(例えば、特許文献1、4、5参照)。しかしながら、エタノールは、配合量によって皮膚刺激性や眼粘膜刺激性、感作性が認められる問題点があった。また、香料や精油は極性が高く、沸点が低いため、これらを可溶化する際、60~80℃に加熱して可溶化を行うと、香料や精油の香気成分が揮散し、化粧料の賦香性低下、香気の変質等の問題があった。
【0004】
また、皮膚等に対する刺激の面から、より安全性を高める目的で、ポリグリセリン脂肪酸エステルの使用が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これら報告に用いられているポリグリセリン脂肪酸エステルは、透明な化粧料を調製するには、強力なせん断力で攪拌する必要があり、高圧ホモジナイザー等の高いせん断力を有する機器が用いられてきた。しかしながら、高いせん断力を有する機器で処理する際、その溶液温度は容易に50℃を超え、香料や精油の香気成分が揮散し、化粧料の賦香性低下、香気の変質等の問題があった。また、高いせん断力を有する機器はその使用方法が煩雑であり、高価であるため、現実的な使用が困難なものであった。
【0005】
その他、ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリンオレイン酸エステル及び/又はポリグリセリンラウリン酸エステルとの混合物を用いるものであり、難水溶性物質を可溶化した化粧料を得る方法としては良好な方法であるが、この方法で透明な化粧料を得るためには、難水溶性物質1gに対して、界面活性剤を2.5~3.0gと多量に配合する必要があり、得られた化粧料はノビの重さや塗布後のべたつき等の肌に塗布した時の使用性の問題があった。
【0006】
以上のことから、ポリオキシエチレン系界面活性剤やエタノール、高いせん断力を有する機器を用いず、少量配合することで、化粧料調製時に20~50℃の温度で難水溶性物質を水に混合して、容易に且つ透明に可溶化でき、得られた化粧料の経時温度安定性が良好である、可溶化組成物の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-44780号公報
【文献】特開2013-224290号公報
【文献】特開2010-100586号公報
【文献】特開2014-122196号公報
【文献】特開2015-86147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を解決した難水溶性物質用可溶化組成物を提供するものである。即ち、可溶化力に優れ、少量配合することで、香料、精油等の難水溶性物質を水に20~50℃の温度で混合して、容易に且つ透明に可溶化でき、得られた化粧料の経時温度安定性、及びノビやべたつき等の肌に塗布した時の使用性が良好であり、賦香性も良好である、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有した難水溶性物質用可溶化組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、少量配合することで、化粧料調製時に20~50℃の温度で難水溶性物質を水に混合して、容易に且つ透明に可溶化を可能とするため、炭素数が18の不飽和及び/又は分岐鎖脂肪酸で構成され、構成するポリグリセリンの重合度が5~20であり、HLB値が13以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、炭素数が10~14の脂肪酸で構成され、構成するポリグリセリンの重合度が5~20であり、HLB値が13以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、炭素数が10以下の脂肪酸と炭素数が9以下のアルコールから構成されるエステル油、多価アルコールを、特定の含有量(重量比)で含有した可溶化組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、次の成分(A)~(D):
(A)炭素数が18の不飽和及び/又は分岐鎖脂肪酸で構成され、構成するポリグリセリンの重合度が5~20であり、HLB値が13以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)炭素数が10~14の脂肪酸で構成され、構成するポリグリセリンの重合度が5~20であり、HLB値が13以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、
(C)炭素数が10以下の脂肪酸と炭素数が9以下のアルコールから構成されるエステル油、
(D)多価アルコールを含有し、(A):(B)が重量比で7:1~15:1であり、{(A)+(B)}:(C)が重量比で8:1~15:1であり、且つ{(A)+(B)}:(D)が重量比で1:3~1:6である難水溶性物質用可溶化組成物である。また、(A)+(B)が可溶化組成物全体に対して13重量%以上である難水溶性物質用可溶化組成物を提供する。さらに、難水溶性物質用可溶化組成物を用いることで、難水溶性物質を水に可溶化するために用いる界面活性剤の含有量が低減された化粧料を提供する。さらには、難水溶性物質と難水溶性物質用可溶化組成物を水に20~50℃の温度で混合する工程を有する化粧料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の難水溶性物質用可溶化組成物は化粧料に少量配合することで、20~50℃の温度で難水溶性物質を水に混合して、容易に且つ透明に可溶化できるため、皮膚刺激の懸念があるポリオキシエチレン系界面活性剤やエタノール、高いせん断力を有する機器を用いずに香料、精油等を可溶化でき、調製した化粧料の経時温度安定性、及び肌に塗布した時の使用性と賦香性が良好な化粧料を開発することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの調製方法は、特に限定するものではないが、例えば、グリセリンの脱水重合法、グリシドールやエピクロルヒドリンといったグリセリン類似化合物を用いた開環重合法、ジクロロプロパノールによるジグリセリン架橋法等が挙げられる。また、蒸留精製やカラムによるクロマト分離にてポリグリセリンを調製する方法が挙げられる。
【0013】
本発明の成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの重合度とは、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの重合度である。詳しくは、(式1)及び(式2)から算出した重合度である。
【0014】
(式1)重合度=(112.2×103-18×水酸基価)/(74×水酸基価-56.1×103)
(式2)水酸基価=(a-b)×28.05/試料の採取量(g)
a:空試験による0.5N水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
b:本試験による0.5N水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
上記(式1)中の水酸基価は社団法人日本油化学会編「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(I)1996年度版」に準じて(式2)で算出される。
【0015】
本発明の成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの重合度は5~20であり、好ましくは6~10である。これよりも重合度が低いポリグリセリンで構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、親水性が不十分であり、難水溶性物質の可溶化力が低下し、化粧料等に添加した際には透明性を損なうため好ましくない。また、重合度が20より高いポリグリセリンで構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、遊離のポリグリセリンの含有量が顕著に多くなり、ポリグリセリン脂肪酸エステル自体の親水性が不十分となり、難水溶性物質の可溶化力が低下し、化粧料等に添加した際には透明性を損なうため好ましくない。
【0016】
本発明の成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの環状体含有率は、液体クロマトグラフ-質量分析計(LC/MS)で検出されるポリグリセリン全体のグリセリン環状体の含有率のことを言う。分析条件は下記の通りである。
(LC分離条件)
カラム:TSKgel α-2500(7.8×300mm)(水系ポリマーゲルカラム)
温度:40℃
溶離液:水/アセトニトリル=7/3
流量:0.8ml/min
注入量:10μl(試料濃度100ppm)
分析時間:20分
(MS分析条件)
装置:LCQ(サーモクエスト社製、イオントラップ型)
イオン化モード:APCI(Atmospheric Pressure Chemical Ionization、大気圧化学イオン化法)negative
測定範囲:m/z=90-2000
強度比測定法:任意の時間において各m/zの相対的強度分布を示すマススペクトル分析法による。
【0017】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの調製方法は、特に限定するものではないが、例えば、ポリグリセリンと脂肪酸を、酸触媒(リン酸、p-トルエンスルホン酸等)又はアルカリ触媒(苛性ソーダ等)存在下、もしくは無触媒で水を除去しながら、好ましくは100~300℃、より好ましくは120~260℃の範囲で加熱する方法が挙げられる。なお、脂肪酸の代わりに、脂肪酸のエステルや油脂等を用い、ポリグリセリンとエステル交換反応を行う方法が挙げられる。また、脂肪酸へのグリシドールの付加重合反応による方法が挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの調製は不活性ガスの存在下で行ってもよい。このようにして得られたポリグリセリン脂肪酸エステルは目的に応じて活性炭や活性白土等による脱色処理、水蒸気、窒素等をキャリアーガスとして用いた減圧下脱臭処理、あるいは酸やアルカリを用いた洗浄、分子蒸留、有機溶剤による抽出や分画、合成吸着剤やゲル濾過剤を充填したカラムによるクロマト分離等による精製を行ってもよい。
【0018】
本発明における、HLB値は以下(式3)のアトラス法により測定された値を指す。
(式3)HLB=20(1-S/A)
S:ポリグリセリン脂肪酸エステルのけん化価
A:原料脂肪酸の中和価
【0019】
本発明における成分(A)のポリグリセリン脂肪酸エステルは、炭素数が18の不飽和及び/又は分岐鎖脂肪酸で構成され、構成するポリグリセリンの重合度が5~20であり、そのHLB値が13以上、好ましくは14以上である。
【0020】
一般的に、ポリグリセリンは重合度分布のある混合物であり、直鎖状に結合しているものだけでなく分子内で脱水縮合した環状体を含む。環状体の含有量はポリグリセリンが高重合度になるほど多くなるため、高重合度のポリグリセリンにおいて環状体の含有量が少ないものを得ることは難しいことが知られている。分子内で脱水縮合した環状物を多く含む場合、ポリグリセリンの親水性が低くなる。このようなポリグリセリンより構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルでは、一般的に界面活性剤の親水性を反映するHLB値で、この環状体を加味し、親水性の低下を反映することは難しい。そのため、高重合度のポリグリセリンより構成される、成分(A)のポリグリセリン脂肪酸エステルでは、構成するポリグリセリンにおいて環状体の含有量が少ないものが好ましい。
【0021】
本発明における成分(A)のポリグリセリン脂肪酸エステルは、親水性の観点から、環状体の含有量が好ましくは30重量%以下であるポリグリセリンより構成されるポリグリセリン脂肪酸エステル(以下、「成分A1」とも称する)、又は、重合度5以上のポリグリセリンの含有量が好ましくは構成するポリグリセリン全体の80重量%以上であり、且つ重合度5のポリグリセリンの含有量が好ましくは構成するポリグリセリン全体の30重量%以上である、ポリグリセリンより構成されるポリグリセリン脂肪酸エステル(以下、「成分A2」とも称する)である。
【0022】
本発明における成分(A)のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、天然の動植物より抽出した油脂を加水分解し、分離して、あるいは分離せずに精製して得られるカルボン酸を官能基として含む物質であり、特に限定するものではないが、例えば、イソステアリン酸、オレイン酸、リシノレイン酸等が挙げられる。
【0023】
本発明における成分(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルは、炭素数が10~14の脂肪酸で構成され、構成するポリグリセリンの重合度が5~20であり、そのHLB値が13以上、好ましくは14以上である。
【0024】
本発明における成分(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、天然の動植物より抽出した油脂を加水分解し、分離して、あるいは分離せずに精製して得られるカルボン酸を官能基として含む物質であり、特に限定するものではないが、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等が挙げられる。
【0025】
本発明の難水溶性物質用可溶化組成物中の成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量において、(A):(B)は重量比で、好ましくは7:1~11:1であり、より好ましくは7:1~8:1である。また、(A)+(B)は、可溶化組成物全体に対して好ましくは13重量%以上である。この含有量で成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有した難水溶性物質用可溶化組成物は、難水溶性物質の半分以下の添加量で難水溶性物質を容易に且つ透明に可溶化できる。
【0026】
また、本発明の難水溶性物質用可溶化組成物における成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルの合計(A)+(B)が、化粧料に対して好ましくは0.5重量%以下であり、より好ましくは0.2重量%以下であり、更に好ましくは0.18重量%以下である。(A)+(B)の含有量は化粧料に対して1.0重量%を超えて配合した場合、化粧料の使用感が悪く(ノビの重さや塗布後のべたつき等)なり、好ましくない。
【0027】
本発明における成分(C)炭素数が10以下の脂肪酸と炭素数が9以下のアルコールから構成されるエステル油は、常温で液状の油性成分であり、化粧品原料として用いられるものであれば特に限定するものではないが、例えば、アジピン酸ジイソプロピル、炭酸ジカプリリル、イソノナン酸イソノニル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリンエステル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリンエステル等からなる群より選択される少なくとも1種以上が挙げられる。
【0028】
また、本発明の難水溶性物質用可溶化組成物における成分(C)の含有量は、成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルの合計(A)+(B)と成分(C)のエステル油の重量比で8:1~15:1であり、好ましくは10:1~14:1である。さらに、成分(C)のエステル油の含有量は、好ましくは、化粧料に対して0.05重量%以下である。
【0029】
本発明における成分(D)の多価アルコールは、常温で液状の多価アルコールであり、化粧品原料として用いられるものであれば特に限定するものではないが、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクトース、フラクトース,マルトース,ソルビタン等からなる群より選択される少なくとも1種以上が挙げられ、好ましくはグリセリン、ジグリセリンであり、より好ましくはグリセリンである。
【0030】
また、本発明の難水溶性物質用可溶化組成物における成分(D)の含有量は、成分(A)及び(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルの合計(A)+(B)と成分(D)の多価アルコールの重量比で1:3~1:6であり、好ましくは1:4~1:5である。
【0031】
本発明における難水溶性物質は、常温で液状の難水溶性物質であり、化粧品原料として用いられるものであれば特に限定するものではないが、例えば、香料や精油、植物油脂、脂溶性ビタミンが挙げられる。香料としては、リモネン等の炭化水素系香料、リナロール、ゲラニオール、メントール等のアルコール系香料、シトラール等のアルデヒド系香料、β-イオノン等のケトン系香料、オイゲノール等のフェノール系香料等が挙げられる。精油としては、ラベンダー油、ユーカリ油、ローズ油、ジャスミン油、ペパーミント油、アニス油、ローズマリー油、ベルガモット油等の植物性香料、ジャコウ、レイビョウコウ、カイリュウ、リュウゼンコウ等が挙げられる。植物油脂としては、アボカド油、アルモンド油、オリーブ油、マカデミアンナッツ油、ヒマシ油、ツバキ油、ホホバ油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、パーシック油、綿実油、ヒマワリ油等が挙げられる。その他、植物性香料や動物性香料及び合成香料を目的に応じて調合した調合香料等の香料や、酢酸トコフェロール、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、α-トリコエノール、β-トリコエノール、γ-トリコエノール、δ-トリコエノール等のビタミンE、レチノールとβ-カロテン等のビタミンA等の脂溶性ビタミンが挙げられる。これら以外、化粧料に使用される香料や脂溶性ビタミンも使用でき、望ましくは精油と呼ばれる植物性香料、合成香料が好ましい。これらの難水溶性物質は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明の化粧料中の難水溶性物質の含有量は、好ましくは0.01~1.0重量%である。また、難水溶性物質として、香料、精油の含有量が多すぎると、これらを可溶化するための界面活性剤の含有量が多くなり、使用時における香気成分の揮散を阻害してしまう場合がある。化粧料中の香料、精油の含有量は、これらの点も考慮し、使用する香料の種類等に応じて適宜選択することが望ましい。
【0033】
本発明における化粧料とは、難水溶性物質を含有するものであり、特に限定するものではないが、例えば、化粧水、美容液、へアローション、ヘアトニック、コロン、ボディシート、ウエットティッシュ、洗口液、シャンプー、ボディーソープ等が挙げられる。
【0034】
本発明の化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲で上記成分に加えて、界面活性剤、水性ゲル化剤、紫外線吸収剤、粉体、抗酸化剤、防腐剤、香料、着色剤、キレート剤、清涼剤、増粘剤、植物抽出液、ビタミン類、中和剤、保湿剤、抗炎症剤、pH調整剤、アミノ酸等を適宜用いることができる。
【0035】
本発明における難水溶性物質用可溶化組成物の製造方法は、特に限定するものではないが、好ましくは(A)~(D)を20~50℃の温度で混合する工程を有する。(A)~(D)の均一性の点から、より好ましくは40~50℃である。
【0036】
本発明における化粧料の製造方法は、特に限定するものではないが、好ましくは難水溶性物質と難水溶性物質用可溶化組成物を水に20~50℃の温度で混合する工程を有する。難水溶性物質と難水溶性物質用可溶化組成物を20~50℃の温度で混合し、その後水に混合することがより好ましい。この工程によって、難水溶性物質を水に容易に且つ透明に可溶化できる。難水溶性物質と難水溶性物質用可溶化組成物を水に混合する工程の温度は、いずれの工程でも、難水溶性物質の賦香性と安定性の点から、より好ましくは25~40℃である。さらに、化粧水又は美容液の成分を配合することで、本発明の化粧料を得ることができる。
【0037】
本発明における高いせん断力を有する機器は、特に限定するものではないが、例えば、ホモミキサー、ディスパーミキサー、ウルトラミキサー、マイクロフルイダイザー、スターバースト等が挙げられ、本発明の難水溶性物質用可溶化組成物を用いることで、化粧料の製造工程においてこれらの高いせん断力を有する機器を使用することなく、化粧料の製造が可能となる。
【実施例
【0038】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0039】
本発明における成分(A)のポリグリセリン脂肪酸エステルは表1と表2に記載されたものを用いた。成分(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルは表3に記載されたものを用いた。成分(C)のエステル油は表4に記載されたものを用いた。難水溶性物質は表5に記載されたものを用いた。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
実施例1及び比較例1
表6~11に記載の配合割合で、本発明品1~38の難水溶性物質用可溶化組成物と、比較品1~21の組成物を調製した。
その後、表6~11に記載の配合割合で、難水溶性物質と本発明品1~38、又は比較品1~21を25~50℃で混合した。その後、難水溶性物質が0.1重量%になるように25℃で水に混合し、本発明品1~38又は比較品1~21を含有した化粧料を調製した。
【0046】
実施例2及び比較例2
表12に記載の配合割合で、本発明品39、40の難水溶性物質用可溶化組成物と、比較品22の組成物を調製した。
その後、表12に記載の配合割合と調製温度で、難水溶性物質と本発明品2、39、40又は比較品3、22を混合した。その後、難水溶性物質が0.1重量%になるように、難水溶性物質と本発明品又は比較品を混合したときと同じ調製温度で水に混合し、本発明品2、39又は比較品3、22を含有した化粧料を調製した。
【0047】
試験例1(外観の透明性)
本発明品1~40又は比較品1~22を含有した化粧料を、分光光度計(島津製作所製:UV-2600)にて550nmの波長にて透過率を測定し、透過率94%以上を透明と評価した。これらの結果を表6~12に示した。
【0048】
試験例2(経時温度安定性)
本発明品1~40又は比較品1~22を含有した化粧料を50℃又は-5℃、1ヶ月暴露し、試験例1の条件にて透過率を測定し、以下の評価基準にて評価した。また、各温度での評価結果に基づき、以下の評価基準にて総合評価を行った。その結果を表6~12に示した。
【0049】
(各温度での評価基準)
◎:透過率98.0%以上
○:透過率96.0%以上98.0%未満
△:透過率94.0%以上96.0%未満
×:透過率94.0%未満
【0050】
(総合評価基準)
◎:全ての温度で透過率98.0%以上
○:全ての温度で透過率96.0%以上、いずれかの温度で98.0%未満
△:全ての温度で透過率94.0%以上、いずれかの温度で96.0%未満
×:いずれかの温度で透過率94.0%未満
【0051】
試験例3(賦香性)
本発明品2、39、40又は比較品3、22を含有した化粧料を優秀な女性パネラー20名にて、香気について官能評価を行った。1:非常に悪い、2:悪い、3:やや悪い、4:良好、5:非常に良好の5段階の評価点で評価し、20名の平均点を算出した。この平均値を以下の評価基準にて評価し、その結果を表12に示した。
【0052】
(評価基準)
◎:平均値4.5点以上
〇:平均値4.0点以上4.5点未満
△:平均値3.0点以上4.0点未満
×:平均値3.0点未満
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】
【表8】
【0056】
【表9】
【0057】
【表10】
【0058】
【表11】
【0059】
【表12】
【0060】
本発明品を含有した化粧料は、外観の透明性、経時温度安定性及び賦香性が良好なものであった。一方、比較品を含有した化粧料は、外観の透明性、経時温度安定性又は賦香性の何れかが悪いものであった。
【0061】
処方例1(化粧水)
表13に示した処方に従って、本発明品を含有した化粧水を調製した。本発明品2とラベンダー油を30℃で混合し、その後、残りの成分を25℃で混合して化粧水を調製した。外観の透明性、経時温度安定性及びノビやべたつき等の肌に塗布した時の使用性が良好であった。
【0062】
【表13】
【0063】
処方例2(美容液)
表14に示した処方に従って、本発明品を含有した美容液を調製した。本発明品2とラベンダー油を50℃で混合し、その後、残りの成分を40℃で混合して美容液を調製した。外観の透明性、経時温度安定性及びノビやべたつき等の肌に塗布した時の使用性が良好であった。
【0064】
【表14】
【0065】
処方例3(化粧水)
表15に示した処方に従って、本発明品を含有した化粧水を調製した。本発明品2とラベンダー油を25℃で混合し、その後、残りの成分を25℃で混合して美容液を調製した。外観の透明性、経時温度安定性及びノビやべたつき等の肌に塗布した時の使用性が良好であった。
【0066】
【表15】
【0067】
処方例4(ボディシート)
表16に示した処方に従って、本発明品を含有したボディシートを調製した。本発明品38とFLORAL SOAPを40℃で混合し、その後、残りの成分を25℃で混合してボディシートを調製した。外観の透明性、経時温度安定性及びノビやべたつき等の肌に塗布した時の使用性が良好であった。
【0068】
【表16】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の難水溶性物質用可溶化組成物は可溶化力に優れ、化粧料に少量配合することで、化粧料調製時に20~50℃の温度で、高いせん断力を有する機器を用いずに、精油、香料等の難水溶性物質を水に混合して、容易に且つ透明に可溶化できる。そして、本発明の難水溶性物質用可溶化組成物を含有する化粧料は、長時間保存しておいても透明性が高く、経時温度安定性に優れるため、商品イメージが良好であり、また、皮膚刺激の懸念があるポリオキシエチレン系界面活性剤やエタノールを用いないため、安全性が高く、市場において高い評価を得ることができるため、産業上の利用可能性は大である。