(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ステージ装置、リソグラフィ装置、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240926BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H01L21/68 F
H01L21/68 K
(21)【出願番号】P 2020171415
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-09-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大豆生田 吉広
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-071274(JP,A)
【文献】特開2010-123694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
H01L 21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ステージと、
前記第1ステージの上に配置されている第2ステージと、
前記第1ステージに対する前記第2ステージの傾き量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1ステージを等速移動させる等速区間では、第1目標傾き量に基づいて前記傾き量を制御し、前記第1ステージを加速または減速させる加減速区間では、前記第1目標傾き量より小さい第2目標傾き量に基づいて前記傾き量を制御する、ことを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
前記第1ステージおよび前記第2ステージは、前記傾き量の変化に応じて前記第1ステージと前記第2ステージとの間隙の大きさが変化するように構成されている、ことを特徴とする請求項
1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記第2目標傾き量は、前記傾き量の制御偏差により前記間隙の大きさが許容範囲外になることが回避されるように設定されている、ことを特徴とする請求項
2に記載のステージ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記加減速区間における前記第1ステージの移動中に前記間隙の大きさが許容範囲外になることを回避するように、前記第2目標傾き量を設定する、ことを特徴とする請求項
2又は3に記載のステージ装置。
【請求項5】
前記間隙の大きさを検出する検出部を更に備え、
前記制御部は、前記第1ステージを事前に移動させた際に得られた前記検出部の検出結果に基づいて、前記第2目標傾き量を設定する、ことを特徴とする請求項
4に記載のステージ装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1ステージを加速する加速区間、および前記第1ステージを減速する減速区間の各々について、前記第2目標傾き量を個別に設定する、ことを特徴とする請求項
2乃至5のいずれか1項に記載のステージ装置。
【請求項7】
前記等速区間は、前記第2ステージにより保持された基板に対して走査露光が行われる区間であり、
前記加減速区間は、前記走査露光の開始前に前記第1ステージを加速する加速区間、および/または、前記走査露光の終了後に前記第1ステージを減速する減速区間を含む、ことを特徴とする請求項
2乃至6のいずれか1項に記載のステージ装置。
【請求項8】
前記等速区間では、露光光の光軸に対して前記基板の法線を傾けた状態で前記走査露光が行われ、
前記第1目標傾き量は、前記走査露光において必要となる前記基板の傾きが得られるように設定されている、ことを特徴とする請求項
7に記載のステージ装置。
【請求項9】
第1ステージと、
前記第1ステージの上に配置されている第2ステージと、
前記第1ステージに対する前記第2ステージの傾き量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1ステージが第1加速度で駆動しているときに前記傾き量が第1傾き量となるように制御し、前記第1ステージが第2加速度で駆動しているときに前記傾き量が前記第1傾き量よりも小さい第2傾き量となるように制御し、
前記第2加速度の絶対値は、前記第1加速度の絶対値よりも大きい、ことを特徴とするステージ装置。
【請求項10】
基板上にパターンを形成するリソグラフィ装置であって、
請求項1乃至
9のいずれか1項に記載のステージ装置を含み、
前記基板は、前記ステージ装置の前記第2ステージによって保持される、ことを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項11】
原版を用いて基板上にパターンを形成するリソグラフィ装置であって、
請求項1乃至
9のいずれか1項に記載のステージ装置を含み、
前記原版は、前記ステージ装置の前記第2ステージによって保持される、ことを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項12】
請求項
10又は11に記載のリソグラフィ装置を用いて基板上にパターンを形成する形成工程と、
前記形成工程でパターンが形成された前記基板を加工する加工工程と、を含み、
前記加工工程で加工された前記基板から物品を製造することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置、リソグラフィ装置、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスなどの製造に用いられるリソグラフィ装置では、基板上にパターンを形成する際に当該基板を傾けることがある。例えば、特許文献1には、露光装置における焦点深度を拡大させる手法として、原版(マスク)のパターンを光軸方向の異なる位置に結像させるFLEX(Focus Latitude Enhancement Exposure)法が提案されている。走査露光装置において当該FLEX法による露光を実施する場合、投影光学系の像面に対して基板を傾けた状態で当該基板が走査駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リソグラフィ装置では、例えば、粗動ステージ(第1ステージ)と、基板を保持して当該粗動ステージの上を移動可能な微動ステージ(第2ステージ)とを備える基板ステージが用いられることがある。このような基板ステージでは、粗動ステージに対する微動ステージの傾き量を制御することより、基板の傾き(姿勢)を制御することができる。
【0005】
しかしながら、第1ステージに対して第2ステージを傾けると、その傾き量に応じて第1ステージと第2ステージとの間隙が小さくなる箇所が生じうる。そのため、当該傾き量の制御偏差によっては、第1ステージと第2ステージとが干渉(接触)する虞がある。例えば、第1ステージを加速または減速させる加減速区間では、第1ステージを等速移動させる等速区間と比べ、傾き量の制御偏差が大きく、当該干渉が生じる可能性が高くなる。
【0006】
そこで、本発明は、第1ステージと第2ステージとが干渉する可能性を低減するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としてのステージ装置は、第1ステージと、前記第1ステージの上に配置されている第2ステージと、前記第1ステージに対する前記第2ステージの傾き量を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1ステージを等速移動させる等速区間では、第1目標傾き量に基づいて前記傾き量を制御し、前記第1ステージを加速または減速させる加減速区間では、前記第1目標傾き量より小さい第2目標傾き量に基づいて前記傾き量を制御する。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、第1ステージと第2ステージとが干渉する可能性を低減するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】粗動ステージおよび微動ステージの構成を説明するための図
【
図4】粗動ステージに対する微動ステージの傾き量を説明するための図
【
図5】従来の制御例における粗動ステージの移動速度、微動ステージの目標傾き量、および間隙の大きさを示す図
【
図6】第1実施形態の制御例における粗動ステージの移動速度、微動ステージの目標傾き量、および間隙の大きさを示す図
【
図7】第1実施形態のステージ装置の制御ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
本明細書および添付図面では、基板を露光するための露光光の光軸に垂直な方向をXY平面とするXYZ座標系において方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転、Z軸周りの回転をそれぞれθX、θY、θZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御または駆動は、それぞれX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に関する制御または駆動を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御または駆動は、それぞれX軸周りの回転方向、Y軸周りの回転方向、Z軸周りの回転方向に関する制御または駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸、Z軸の座標に基づいて特定されうる情報であり、傾き(姿勢)は、θX軸、θY軸、θZ軸の値で特定されうる情報である。位置決めは、位置および/または傾き(姿勢)を制御することを意味する。なお、以下の説明において、「X軸方向」と記載している場合、それは+X方向および-X方向を含むものとして定義されうる。「Y軸方向」および「X軸方向」についても同様である。
【0013】
以下の実施形態では、本発明に係るステージ装置を、原版としてのマスクのパターンを基板上に転写する(基板を露光する)露光装置に適用する例について説明するが、それに限られるものではない。例えば、原版としてのモールドを用いて基板上の組成物を成形する成形装置(インプリント装置、平坦化装置)や、荷電粒子線を用いて基板上にパターンを形成する描画装置などのリソグラフィ装置においても、本発明に係るステージ装置を適用することができる。
【0014】
<第1実施形態>
本発明に係る第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における露光装置60の構成を示す概略図である。露光装置60は、例えば、半導体デバイスの製造工程に使用され、ステップ・アンド・スキャン方式により基板Wを露光して原版Rのパターンを基板W上に転写する走査露光装置とする。本実施形態の露光装置60は、例えば、照明系61と、原版Rを保持する原版ステージ62と、投影光学系63と、基板Wを保持する基板ステージ64と、制御部65とを備える。なお、以下では、投影光学系63から射出されて基板Wに照射される光(露光光)の光軸と平行な方向をZ軸方向とし、当該光軸に垂直な面内で互いに直交する方向をX軸方向およびY軸方向とする。また、基板Wの走査露光時における基板Wの走査方向をY軸方向(+Y方向または-Y方向)とする。
【0015】
照明系61は、不図示の光源から照射された光を調整し、原版Rを照明する。原版Rには、基板W上に転写されるべきパターン(例えば回路パターン)が形成されている。原版Rは、例えば石英ガラス製であり、マスクまたはレチクルとも呼ばれる。原版ステージ62は、原版Rを複数の軸方向(例えば、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸方向)の各々に駆動するための駆動機構であり、原版Rを保持して移動可能に構成される。投影光学系63は、照明系61からの光で照明された原版R上のパターンの像を所定の投影倍率で基板W上に投影する。基板Wは、表面上にレジスト(感光剤)が塗布された、例えば単結晶シリコンからなる基板である。基板ステージ64は、基板Wを保持するチャックを有し、基板Wを複数の軸方向(例えば、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸方向)の各々に駆動するための駆動機構であり、基板Wを保持して移動可能に構成されうる。
【0016】
制御部65は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータで構成され、露光装置60の各構成要素に回線を介して接続されて、プログラムに従って各構成要素の制御を実行しうる。制御部65は、露光装置60の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成されてもよいし、露光装置60の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成されてもよい。
【0017】
上記の露光装置60において、原版Rおよび基板Wは、原版ステージ62および基板ステージ64によってそれぞれお保持されており、投影光学系63を介して光学的に共役な位置(投影光学系63の物体面および像面)にそれぞれ配置される。制御部65は、原版ステージ62および基板ステージ64を、互いに同期させながら投影光学系63の投影倍率に応じた速度比で走査方向(本実施形態ではY軸方向)に相対的に走査する。これにより、原版Rのパターンを基板上に転写することができる。
【0018】
次に、本実施形態のステージ装置について説明する。本実施形態のステージ装置は、例えば基板ステージ64と制御部65とを備えうる。
図2は、本実施形態のステージ装置における基板ステージ64の構成例を示す図であり、基板ステージ64を上方(+Z方向)から見た図である。
図2では、X粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間の構成を分かり易くするため、微動ステージSTG2を透過図として破線で示している。基板ステージ64は、例えば、Y粗動ステージ11と、X粗動ステージSTG1(第1ステージ)と、微動ステージSTG2(第2ステージ)とを含みうる。ここで、以下では、基板ステージ64と制御部65とを備えるステージ装置について説明するが、基板ステージ64の代わりに原版ステージ62が備えられてもよい。即ち、ステージ装置は、原版ステージ62と制御部65とを備える構成であってもよい。原版ステージ62は、以下で説明する基板ステージ64と同様の構成を有しうる。
【0019】
Y粗動ステージ11は、Y粗動ステージ11との案内面が鏡面加工された定盤12及びヨーガイド13と不図示の静圧案内を用いて、定盤12上をY軸方向に移動可能に構成される。Y粗動ステージ11は、リニアモータ23,24によって駆動される。リニアモータ23は可動子23aと固定子23bとで構成され、リニアモータ24は可動子24aと固定子24bとで構成されうる。リニアモータ23,24の可動子23a,24aは、例えば永久磁石を有し、連結板25a,25bによってY粗動ステージ11に連結されている。また、リニアモータ23,24の固定子23b,24bは、例えばコイルを有する。これにより、制御部65は、リニアモータ23,24を用いて、Y軸方向におけるY粗動ステージ11の駆動を制御することができる。
【0020】
X粗動ステージSTG1(第1ステージ)は、不図示の静圧案内が定盤12上でY粗動ステージ11をY軸方向で挟み込むように構成されており、Y粗動ステージ11に沿ってX軸方向に移動可能に構成される。Y軸方向へのX粗動ステージSTG1の駆動は、リニアモータ27によって行われうる。リニアモータ27は、Y粗動ステージ11に設けられた固定子と、X粗動ステージSTG1に設けられた可動子とで構成される。これにより、制御部65は、リニアモータ27を用いて、X軸方向におけるX粗動ステージSTG1の駆動を制御することができる。また、X粗動ステージSTG1は、リニアモータ23,24を用いてY軸方向へY粗動ステージ11を駆動することにより、定盤12上をY軸方向に移動可能となる。つまり、制御部65は、リニアモータ23,24,27を用いることにより、X軸方向およびY軸方向におけるX粗動ステージSTG1の位置決め制御を行うことができる。なお、以下では、X粗動ステージSTG1を、単に「粗動ステージSTG1」と呼ぶことがある。
【0021】
微動ステージSTG2(第2ステージ)は、粗動ステージSTG1からZ軸方向に間隔をおいて配置されており、粗動ステージSTG1の上で移動可能に構成される。本実施形態の場合、微動ステージSTG2の下面に凸部15が設けられており、粗動ステージSTG1の上面に設けられた凹部14に微動ステージSTG2の凸部15が配置(挿入)される。
【0022】
粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間には、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向にそれぞれ駆動力を発生させる微動Xリニアモータ31a,31b、微動Yリニアモータ32a,32b、微動Zリニアモータ33a~33dが配置されている。これらのリニアモータ31~33は、粗動ステージSTG1に対して微動ステージSTG2を複数の軸方向(例えば、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸方向)の各々に独立して駆動する。これにより、制御部65は、リニアモータ31~33を用いて、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の位置および姿勢(傾き)を制御することができる。また、粗動ステージSTG1(凹部14)と微動ステージSTG2(凸部15)との間には、電磁アクチュエータ41,42が設けられ、電磁石の作用による吸引力が発生しうる。電磁アクチュエータ41a,41bはX軸方向に、電磁アクチュエータ42a,42bはY軸方向に、それぞれ吸引力を発生させる。
【0023】
図3は、本実施形態の基板ステージ64における粗動ステージSTG1および微動ステージSTG2の構成(位置関係)を説明するための図であり、
図2のA-A断面を模式的に表している。粗動ステージSTG1および微動ステージSTG2は、それらの間に間隙が形成され、且つ、その間隙の大きさが、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の傾き量の変化に応じて変化するように構成されている。ここで、粗動ステージSTG1および微動ステージSTG2は、粗動ステージSTG1を構成する部材(第1部材)と微動ステージSTG2を構成する部材(第2部材)との間にギャップが形成されるように構成されてもよい。当該部材(第1部材、第2部材)は、ステージ自体の構成部材であってもよいが、リニアモータ31~33の一部(可動子、固定子)であってもよい。
【0024】
例えば、微動ステージSTG2は、全体にわたって粗動ステージSTG1との間にギャップが形成されるように、粗動ステージSTG1の上に配置される。この構成により、粗動ステージSTG1に対して微動ステージSTG2を傾けることが可能となる。また、微動ステージSTG2は、その下面に設けられた凸部15が粗動ステージSTG1の凹部14に挿入されるように、粗動ステージSTG1の上に配置される。この構成により、意図せずに粗動ステージSTG1が急加速または急停止した場合であっても、粗動ステージSTG1の上から微動ステージSTG2がずれることを防止することができる。
【0025】
さらに、本実施形態の場合、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間の間隙の大きさを検出するための検出部16(ギャップセンサ)が設けられうる。
図3に示す例では、検出部16は、粗動ステージSTG1の凹部14と微動ステージSTG2の凸部15との間に設けられているが、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間隙の大きさを検出することができれば検出部16の取付位置は任意である。検出部16は、例えば、検出対象物までの距離を検出可能な検出手段であり、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間隙の大きさを検出結果として出力するセンサが適用されうる。検出部16としては、例えば、渦電流式変位センサ、静電容量センサ、光学式センサ、超音波センサなどが適用されうる。
【0026】
露光装置60では、例えば、原版Rのパターンを基板上に転写する際に、投影光学系63の像面に対して基板Wを傾けることがある。換言すると、投影光学系63から射出された露光光の光軸に対して基板Wの法線を傾けることがある。例えば、露光装置60では、焦点深度を拡大させる手法として、原版Rのパターンを光軸方向の異なる位置に結像させるFLEX(Focus Latitude Enhancement Exposure)法が採用されることがある。FLEX法は、投影光学系63の像面に対して基板Wを傾けた状態で基板Wの走査露光を行うことで、原版Rのパターンの結像位置を投影光学系63の焦点付近で連続的に変化させる方法である。これにより、基板Wの多重露光を可能にし、コントラストの向上と焦点深度の拡大を図ることができる。
【0027】
本実施形態のステージ装置(基板ステージ64)では、粗動ステージSTG1(第1ステージ)に対する微動ステージSTG2(第2ステージ)の傾き量を目標傾き量に制御することにより、基板Wの傾き(姿勢)を制御している。しかしながら、本実施形態のステージ装置では、粗動ステージSTG1に対して微動ステージSTG2を傾けると、その傾き量に応じて粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間隙が小さくなる箇所が生じうる。そのため、当該傾き量の制御偏差によっては、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2とが干渉(接触)する虞がある。例えば、粗動ステージSTG1を加速または減速させる加減速区間では、粗動ステージSTG1を等速移動させる等速区間と比べ、傾き量の制御偏差(最大制御偏差)が大きく、当該干渉が生じる可能性が高くなる。
【0028】
そこで、本実施形態のステージ装置では、加減速区間において、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の目標傾き量を等速区間より小さくする。これにより、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2とが干渉(接触)する可能性を低減することができる。ここで、等速区間は、例えば、基板Wの走査露光中において粗動ステージSTG1を等速移動させる区間でありうる。また、加減速区間は、基板Wの走査露光の開始前に粗動ステージSTG1を加速する加速区間、および/または、基板Wの走査露光の終了後に粗動ステージSTG1を減速する減速区間を含みうる。なお、「傾き量」、「目標傾き量」は、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の傾きの絶対値で表される量でありうる。
【0029】
図4は、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の傾き量を説明するための図であり、
図2のA-A断面を模式的に表している。
図4に示される「Gap」は、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間隙の大きさを表しており、「規定値」は、当該間隙の大きさに関する下限の規定値(閾値)を表している。なお、以下では、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の傾き量を、単に「微動ステージSTG2の傾き量」と称することがあり、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間隙の大きさを、単に「間隙の大きさ」と称することがある。また、「間隙の大きさ」は、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2とのギャップ量として理解されてもよい。
【0030】
例えば、等速区間では、
図4(a)に示すように、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の傾き量を第1目標傾き量T
1(角度α)に制御する。この等速区間では、上述したように、傾き量の制御偏差(最大制御偏差)が比較的小さいため、粗動ステージSTG1の移動中に、Gapで示す間隙の大きさが下限の規定値未満になる可能性は低く、ステージ同士が干渉する可能性は低い。ここで、第1目標傾き量T
1は、例えば、FLEX法を用いた走査露光において必要となる基板Wの傾きが得られるように設定されうる。
【0031】
一方、加減速区間では、傾き量の制御偏差が比較的大きい。そのため、第1目標傾き量T
1をそのまま用いて微動ステージSTG2の傾き量を制御すると間隙の大きさが下限の規定値未満となり、ひいてはステージ同士が干渉(接触)する可能性が高くなる。本実施形態のステージ装置では、
図4(b)に示すように、加減速区間において、第1目標傾き量T
1(角度α)より小さい第2目標傾き量T
2(角度β)を用いて微動ステージSTG2の傾き量を制御する。これにより、微動ステージSTG2の傾き量が目標傾き量であるときの間隙の大きさ(基準間隙)を広げ、最大制御偏差が生じた場合においても間隙の大きさが下限の規定値未満となることを回避することができる。即ち、ステージ同士が干渉することを低減することができる。ここで、第2目標傾き量は、例えば、加減速区間における微動ステージSTG2の傾き量の制御偏差により粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間隙の大きさが下限の規定値未満になることを回避するように設定(決定)されるとよい。
【0032】
図5~
図6は、粗動ステージSTG1(基板ステージ64)の移動中における移動速度、微動ステージSTG2の目標傾き量、および間隙の大きさを示している。
図5~
図6では、一例として、等速区間→減速区間→等速区間の順番で粗動ステージSTG1を移動させる場合を示している。
図5は、等速区間および減速区間の両方とも、第1目標傾き量T
1で微動ステージSTG2の傾き量を制御する従来の制御例を示している。また、
図6は、等速区間では第1目標傾き量T
1で微動ステージSTG2の傾き量を制御し、減速区間では第2目標傾き量T
2で微動ステージSTG2の傾き量を制御する本実施形態の制御例を示している。
図5に示す従来の制御例では、減速区間において間隙の大きさが下限の規定値未満になることがあるのに対し、
図6に示す本実施形態の制御例では、減速区間において間隙の大きさが下限の規定値未満になることが回避されている。
【0033】
ここで、微動ステージSTG2が、
図4の例とは逆の方向に傾く場合には、
図4のGapで示す間隙が大きくなるほど、Gapで示す間隙とは反対の間隙が小さくなり、ステージ同士が干渉する可能性が高くなる。このような場合には、Gapで示す間隙とは反対の間隙の大きさが下限の規定値未満となることを回避する必要がある。よって、Gapで示す間隙の大きさが上限の規定値より大きくなることを回避するように、微動ステージSTG2の傾き量を制御する必要がある。したがって、ステージSTG2の傾き量は、間隙の大きさが下限の規定値未満かつ上限の規定値より大きく(間隙の大きさが許容範囲外に)なることが回避されるように、第1目標傾き量T
1、第2目標傾き量T
2を設定して制御されることになる。なお、許容範囲は、下限の規定値以上かつ上限の規定値以下の範囲として定義されうる。
【0034】
図7は、本実施形態のステージ装置の制御ブロック図を示している。本実施形態のステージ装置は、例えば、第1制御系50aと、第2制御系50bと、設定部55と、検出部16とを含みうる。第1制御系50aは、粗動ステージSTG1の位置を制御するための制御系であり、例えば、減算器51aと、第1補償部52aと、駆動機構53aと、第1計測部54aとで構成されうる。第2制御系50
bは、微動ステージSTG2の傾き量を制御するための制御系であり、例えば、減算器51bと、第2補償部52bと、駆動機構53bと、第2計測部54bとで構成されうる。設定部55は、粗動ステージSTG1の位置指令値(目標位置)を設定して第1制御系50a(減算器51a)に供給するとともに、微動ステージSTG2の傾き指令値(目標傾き量)を設定して第2制御系50b(減算器51b)に供給する。なお、減算器51a,51b、第1補償部52a、第2補償部52b、および設定部55は、制御部65に含まれうる。また、本実施形態の第2制御系50
bは、微動ステージSTG2の傾き量だけでなく、微動ステージSTG2の位置も制御することができるように構成されてもよい。
【0035】
まず、第1制御系50aについて説明する。第1計測部54aは、例えばレーザ干渉計やエンコーダなどを含み、粗動ステージSTG1の現在位置を計測する。また、設定部55は、基板Wの走査露光のために事前に設定されたステージ駆動プロファイルやレシピ情報などに基づいて粗動ステージSTGの目標位置を設定し、設定した目標位置の情報を位置指令値として減算器51aに供給する。減算器51aは、第1計測部54aで計測された粗動ステージSTG1の現在位置と設定部55から供給された位置指令値(目標位置)との偏差を算出し、算出した偏差を第1補償部52aに供給する。第1補償部52aは、例えばPID補償器を含み、減算器51aで算出された偏差に基づいて、当該偏差が低減するように粗動ステージSTG1を駆動するための駆動指令値を生成して駆動機構53aに供給する。駆動機構53aは、例えば、上述したリニアモータ23,24,27を含み、第1補償部52aから供給された駆動指令値に応じた電流を各リニアモータに供給することにより粗動ステージSTG1を駆動する。
【0036】
次に、第2制御系50bについて説明する。第2計測部54bは、例えばレーザ干渉計やエンコーダなどを含み、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の現在傾き(傾き量)を計測する。また、設定部55は、粗動ステージSTG1の移動区間(移動状態)に応じて微動ステージSTG2の目標傾き量を設定し、設定した目標傾き量の情報を傾き指令値として減算器51bに供給する。減算器51bは、第2計測部54bで計測された微動ステージSTG2の傾き量と設定部55から供給された傾き指令値(目標傾き量)との偏差を算出し、算出した偏差を第2補償部52bに供給する。第2補償部52bは、例えばPID補償器を含み、減算器51bで算出された偏差に基づいて、当該偏差が低減するように微動ステージSTG2を駆動するための駆動指令値を生成して駆動機構53bに供給する。駆動機構53bは、例えば、上述したリニアモータ31~33を含み、第2補償部52bから供給された駆動指令値に応じた電流を各リニアモータに供給することにより微動ステージSTG2を駆動する。
【0037】
ここで、設定部55は、粗動ステージSTG1の移動区間に応じて微動ステージSTG2の目標傾き量を設定しうる。具体的には、設定部55は、粗動ステージSTG1を等速移動させる等速区間においては第1目標傾き量T1を減算器51bに供給し、粗動ステージSTG1を加速または減速させる加減速区間においては第2目標傾き量T2を減算器51bに供給する。第2目標傾き量T2は、第2目標傾き量T1より小さい値(量)に設定される。
【0038】
設定部55は、粗動ステージSTG1を事前に移動させ、その際に検出部16で検出された粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間隙の大きさに基づいて、第1目標傾き量T1および/または第2目標傾き量T2を設定(決定)してもよい。例えば、設定部55は、粗動ステージSTG1を事前に移動させ、その移動期間において検出部16で逐次検出された間隙の大きさを記憶しておく。これにより、設定部55は、当該移動期間における間隙の大きさの最大値や移動平均値などに基づいて、間隙の大きさが許容範囲外になることを回避するように、第1目標傾き量T1および/または第2目標傾き量T2を設定することができる。
【0039】
また、設定部55は、検出部16で検出された間隙の大きさに基づいて、第2目標傾き量T2を適宜更新してもよい。例えば、基板Wの走査露光を行うため、事前に設定された第2目標傾き量T2を用いて微動ステージSTG2の傾き量を制御した場合において、検出部16で検出された間隙の大きさが一時的に許容範囲外になったとする。この場合、設定部55は、検出部16で検出された間隙の大きさに基づいて、間隙の大きさが許容範囲外になることを回避するように第2目標傾き量T2を新たに設定(決定)し、制御部65のメモリ等に記憶させる(即ち、第2目標傾き量T2を更新する)。これにより、次の加減速区間での粗動ステージSTG1の移動中に間隙の大きさが許容範囲外になることを回避し、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2とが干渉する可能性を更に低減することができる。さらに、設定部55は、加速区間および減速区間の各々について、第2目標傾き量T2を個別に設定してもよい。
【0040】
上述したように、本実施形態のステージ装置は、加減速区間において、粗動ステージSTG1に対する微動ステージSTG2の目標傾き量を等速区間より小さくする。これにより、粗動ステージSTG1と微動ステージSTG2との間隙の大きさが許容範囲外となることを回避し、それらのステージ同士が干渉する可能性を低減することができる。
【0041】
<第2実施形態>
本発明に係る第2実施形態について説明する。微動ステージSTG2の目標傾き量を、第1目標傾き量T
1と第2目標傾き量T
2との間で急速に(瞬時に)変化させてしまうと、その目標傾き量の急速な変化に起因して傾き量の制御偏差が増大し、間隙の大きさが許容範囲外になる虞がある。そのため、
図6の期間δで示すように、微動ステージSTG2の目標傾き量を徐々に変化させることが好ましい。例えば、制御部65(設定部55)は、事前の実験等において、微動ステージSTG2の目標傾き量を第1目標傾き量T
1と第2目標傾き量T
2との間で変化させ、そのときの間隙の大きさを検出部16に検出させる。これにより、制御部65は、検出部16の検出結果に基づいて、間隙の大きさが許容範囲内を維持することができるように目標傾き量の変化速度を決定することができる。なお、本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、特に言及されない限り、第1実施形態と同様の構成および処理が適用されうる。
【0042】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態にかかる物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品の製造方法は、基板に塗布された感光剤に上記のリソグラフィ装置(露光装置)を用いて基板上にパターンを形成する形成工程と、形成工程でパターンが形成された基板を加工する加工工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0043】
<その他の実施例>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0044】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0045】
60:露光装置、62:原版ステージ、64:基板ステージ、65:制御部、STG1:粗動ステージ(第1ステージ)、STG2:微動ステージ(第2ステージ)