(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】磁気結合型コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240926BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240926BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240926BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F17/04 F
H01F27/28 K
H01F27/255
H01F27/32 140
(21)【出願番号】P 2020175039
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】寺内 直也
(72)【発明者】
【氏名】柏 智男
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-033703(JP,A)
【文献】特開2017-162950(JP,A)
【文献】特開2019-121737(JP,A)
【文献】特開2019-129253(JP,A)
【文献】特開2021-180272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23-27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実装面と、前記実装面の第1開口と第2開口とを接続する貫通孔と、を有する磁性基体と、
一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出するように前記貫通孔に配置された第1導体と、
前記第1導体から前記磁性基体の内側に離間した前記貫通孔内の位置に、前記第1導体と対向し、一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出するように配置された第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置されており前記磁性基体よりも小さな比透磁率を有する
非磁性材料から成る非磁性部と、
を備え、
前記第1導体は、前記第1開口から露出する第1露出面と、前記第2開口から露出する第2露出面と、前記第1露出面から前記第2露出面まで延びる内周面と、を有し、前記第1導体の前記内周面は、その全長にわたって前記非磁性部に接している、
磁気結合型コイル部品。
【請求項2】
前記第1導体は、前記第1導体の電流が流れる方向に直交する断面において前記磁性基体の内側から外側に向かう基準方向に前記第2導体から離間しており、
前記第1導体の前記断面の前記基準方向における寸法に対する前記基準方向に垂直な方向における寸法の比である第1アスペクト比は1より大きい、
請求項1に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項3】
前記第2導体の前記断面の前記基準方向における寸法に対する前記基準方向に垂直な方向における寸法の比である第2アスペクト比は1より大きい、
請求項2に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項4】
前記断面で切断した前記第1導体の断面積は、前記断面で切断した前記第2導体の断面積よりも大きい、
請求項2又は3に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項5】
前記第2導体の前記断面の前記基準方向における寸法は、前記第1導体の前記断面の前記基準方向における寸法よりも小さい、
請求項2から4のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項6】
実装面と、前記実装面の第1開口と第2開口とを接続する貫通孔と、を有する磁性基体と、
一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出するように前記貫通孔に配置された第1導体と、
前記第1導体から前記磁性基体の内側に離間した前記貫通孔内の位置に、前記第1導体と対向し、一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出するように配置された第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置されており前記磁性基体よりも小さな比透磁率を有する非磁性部と、
を備え、
前記第1導体は、前記第1導体の電流が流れる方向に直交する断面において前記磁性基体の内側から外側に向かう基準方向に前記第2導体から離間しており、
前記第1導体の前記断面の前記基準方向における寸法に対する前記基準方向に垂直な方向における寸法の比である第1アスペクト比は1より大きく、
前記断面で切断した前記第2導体の断面積は、前記断面で切断した前記第1導体の断面積よりも大きい
、
磁気結合型コイル部品。
【請求項7】
前記第1導体の前記断面の前記基準方向における寸法は、前記第2導体の前記断面の前記基準方向における寸法よりも小さい、
請求項2、3又は6のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項8】
前記貫通孔は、前記第1導体が前記磁性基体の前記上面から前記磁性基体の外部に露出しないように形成される、
請求項1から7のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項9】
前記第1導体は、前記断面において前記磁性基体の内側に向かって突出する凸部を有し、
前記第2導体は、前記凸部と相補的な形状を有し前記凸部の少なくとも一部を受け入れる凹部を有する、
請求項1から8のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項10】
前記第1導体は、前記第2導体と対向する内周面に、前記第1導体の電流が流れる方向に直交する断面において前記磁性基体の外側に向かって凹む凹部を有し、
前記第2導体の少なくとも一部は、前記凹部に収容される、
請求項1から8のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項11】
前記第2導体は、前記断面において前記磁性基体の外側に向かって突出する凸部を有し、
前記凹部は、前記凸部の少なくとも一部を収容する、
請求項10に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項12】
前記磁性基体は、前記実装面に対向する上面をさらに有し、
前記第2導体は、前記貫通孔内において前記第1開口から前記上面に向かって延びる第1部分と、前記貫通孔内において前記第2開口から前記上面に向かって延びる第2部分と、を有し、
前記第1部分の下端と前記第2部分の下端との間には、前記磁性基体の一部が介在している、
請求項1から11のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項13】
前記第1導体は、一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出する第1単位部材と、前記第1単位部材よりも前記磁性基体の内側に配置されており一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出する第2単位部材と、を有する、
請求項1から11のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項14】
前記磁性基体は、前記実装面と対向する上面を有し、
前記第1導体、前記第2導体、前記上面、及び前記実装面を通過する断面において、前記第1導体の軸線と前記上面との最短距離が、前記上面と前記実装面との間隔の2分の1よりも小さい、
請求項1から13のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項15】
前記磁性基体は、複数の金属磁性粒子を含む、
請求項1から14のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項16】
前記磁性基体は、第1部材と、前記第1部材と接合層を介して接合される第2部材と、を有する、
請求項1から15のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項17】
前記磁性基体は、前記実装面と対向する上面と、前記実装面と前記上面とを接続する第1端面と、前記第1端面と対向する第2端面とを有し、
前記上面と前記実装面との間隔は、前記第1端面と前記第2端面との間隔よりも大きい、
請求項1から16のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項18】
前記第1導体及び前記第2導体の少なくとも一方は、絶縁被膜により被覆されている、
請求項1から15のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項19】
前記第2導体は、
前記第1部分の下端から前記磁性基体の内側に向かって突出する第1突出部と、前記第2部分の下端から前記磁性基体の内側に向かって突出する第2突出部と、をさらに有し、
前記第1突出部と前記第2突出部との間には、前記磁性基体の一部が介在している、
請求項
12に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項20】
請求項1から
19のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品を備える回路基板。
【請求項21】
請求項
20に記載の回路基板を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気結合型コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009-117676号公報(特許文献1)及び特開2010-027758号公報(特許文献2)に記載されているように、磁気結合型コイル部品は、互いに磁気結合する二以上の内部導体を有する。磁気結合型コイル部品は、例えば、コモンモードチョークコイル、トランス、又は結合型インダクタとして使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-117676号公報
【文献】特開2010-027758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気結合型コイル部品の二つ以上の内部導体は、実装面に沿う方向において互いに並列に配置される。このため、磁気結合型コイル部品においては、実装面に沿う方向の寸法が大きくなってしまう。特に、特許文献1や特許文献2に記載されている薄い板状に形成された内部導体を有する磁気結合型コイル部品においては、各内部導体がその幅広の面において実装面と対向するように基体内に配置されるため、実装面に沿う方向における小型化が特に困難である。
【0005】
本発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。本発明のより具体的な目的の一つは、実装面に沿う方向における小型化が可能な磁気結合型コイル部品を提供することである。本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。特許請求の範囲に記載される発明は、「発明を解決しようとする課題」から把握される課題以外の課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一又は複数の実施形態による磁気結合型コイル部品は、磁性基体と、磁性基体の貫通孔に配置された第1導体及び第2導体と、第1導体と第2導体との間に配置されており磁性基体よりも小さな比透磁率を有する非磁性部と、を備える。本発明の一又は複数の実施形態において、磁性基体は、実装面と、前記実装面の第1開口と第2開口とを接続する貫通孔と、を有する。本発明の一又は複数の実施形態において、第1導体は、その一端が第1開口から露出し他端が第2開口から露出するように貫通孔に配置される。本発明の一又は複数の実施形態において、第2導体は、第1導体から磁性基体の内側に離間した貫通孔内の位置に第1導体と対向するように配置される。本発明の一又は複数の実施形態において、第2導体は、一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出するように配置される。
【0007】
本発明の一又は複数の実施形態において、第1導体は、第1導体の電流が流れる方向に直交する断面において前記磁性基体の内側から外側に向かう基準方向に第2導体から離間している。本発明の一又は複数の実施形態において、第1導体の前記断面の前記基準方向における寸法に対する前記基準方向に垂直な方向における寸法の比である第1アスペクト比は1より大きい。
【0008】
本発明の一又は複数の実施形態において、第2導体の前記断面の前記基準方向における寸法に対する前記基準方向に垂直な方向における寸法の比である第2アスペクト比は1より大きい。
【0009】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記断面で切断した前記第1導体の断面積は、前記断面で切断した前記第2導体の断面積よりも大きい。
【0010】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記第2導体の前記断面の前記基準方向における寸法(b1)は、前記第1導体の前記断面の前記基準方向における寸法よりも小さい。
【0011】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記断面で切断した前記第2導体の断面積は、前記断面で切断した前記第1導体の断面積よりも大きい。
【0012】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記第1導体の前記断面の前記基準方向における寸法は、前記第2導体の前記断面の前記基準方向における寸法よりも小さい。
【0013】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記貫通孔は、前記磁性基体の前記上面の第3開口により前記磁性基体の外部と連通し、前記第1導体の一部は、前記上面の前記第3開口から前記磁性基体の外側に露出する。
【0014】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記第1導体は、前記断面において前記磁性基体の内側に向かって突出する凸部を有し、前記第2導体は、前記凸部と相補的な形状を有し前記凸部の少なくとも一部を受け入れる凹部を有する。
【0015】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記第1導体は、前記第2導体と対向する内周面に、前記第1導体の電流が流れる方向に直交する断面において前記磁性基体の外側に向かって凹む凹部を有し、前記第2導体の少なくとも一部は、前記凹部に収容される。
【0016】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記第2導体は、前記断面において前記磁性基体の外側に向かって突出する凸部を有し、前記凹部は、前記凸部の少なくとも一部を収容する。
【0017】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記非磁性部は、空気である。
【0018】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記第1導体は、一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出する第1単位部材と、前記第1単位部材よりも前記磁性基体の内側に配置されており一端が前記第1開口から露出し他端が前記第2開口から露出する第2単位部材と、を有する。
【0019】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記第1導体、前記第2導体、前記上面、及び前記実装面を通過する断面において、前記第1導体の軸線と前記上面との最短距離が、前記上面と前記実装面との間隔の2分の1よりも小さい。
【0020】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記磁性基体は、複数の金属磁性粒子を含む。
【0021】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記磁性基体は、第1部材と、前記第1部材と接合層を介して接合される第2部材と、を有する。
【0022】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記磁性基体は、前記実装面と対向する上面と、前記実装面と前記上面とを接続する第1端面と、前記第1端面と対向する第2端面とを有し、前記上面と前記実装面との間隔は、前記第1端面と前記第2端面との間隔よりも大きい。
【0023】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記第1導体及び前記第2導体の少なくとも一方は、絶縁被膜により被覆されている。
【0024】
本発明の一実施形態は、上記の何れかの磁気結合型コイル部品を備える回路基板に関する。本発明の一実施形態は、上記の回路基板を備える電子機器に関する。
【発明の効果】
【0025】
本明細書に開示されている発明によれば、実装面に沿う方向における小型化が可能な磁気結合型コイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実装基板に実装された本発明の一実施形態による磁気結合型コイル部品の斜視図である。
【
図2】
図1の磁気結合型コイル部品のI-I線断面図である。
【
図3】
図1の磁気結合型コイル部品の右側面図である。
【
図4】
図1の磁気結合型コイル部品の底面図である。
【
図5】
図1の磁気結合型コイル部品を
図2に示されているII-II線で切断した断面図である。
【
図6】
図1の磁気結合型コイル部品を
図2に示されているIII-III線で切断した断面図である。
【
図7】
図1の磁気結合型コイル部品の基体を分解して模式的に示す模式図である。
【
図8】組み立てられた基体を模式的に示す模式図である。
【
図9】本発明の一実施形態による磁気結合型コイル部品と従来の磁気結合型コイル部品とを比較する模式図である。
【
図10】本発明の一実施形態による磁気結合型コイル部品における磁束の流れと従来の磁気結合型コイル部品における磁束の流れとを比較する模式図である。
【
図11】本発明の別の実施形態による磁気結合型コイル部品の断面図である。
【
図12】
図11の磁気結合型コイル部品のIV-IV線断面図である。
【
図13】
図11の磁気結合型コイル部品のV-V線断面図である。
【
図14】本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品の断面図である。
【
図16】本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品の断面図である。
【
図17】本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品の断面図である。
【
図18】本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品の断面図である。
【
図19】本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0028】
図1から
図8を参照して本発明の一実施形態に係る磁気結合型コイル部品1について説明する。まずは
図1から
図4を参照して磁気結合型コイル部品1の概略について説明する。
図1は本発明の一実施形態による磁気結合型コイル部品1の斜視図であり、
図2は磁気結合型コイル部品1のI-I線断面図であり、
図3は磁気結合型コイル部品1の右側面図であり、
図4は、磁気結合型コイル部品1の底面図である。図示のように、磁気結合型コイル部品1は、基体10と、この基体10に形成されたほぼU字型の貫通孔10A内に設けられた第1導体25A及び第2導体25Bと、第1導体25Aと第2導体25Bとの間に設けられた非磁性部30と、を備える。記載を簡潔にするために、以下の説明では、磁気結合型コイル部品1を単に「コイル部品1」と呼ぶことがある。
【0029】
各図には、互いに直交するL軸、W軸、及びT軸が記載されている。本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L」方向、「W」方向、及び「T」方向とする。
【0030】
コイル部品1は、例えば、大電流が流れる大電流回路において用いられる。コイル部品1は、信号回路や高周波回路において用いられてもよい。コイル部品1は、ノイズ対策用のビーズ磁気結合型コイル部品として用いられてもよい。
【0031】
コイル部品1は、実装基板2aに実装され得る。回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。実装基板2aには、ランド3a~3dが設けられている。コイル部品1は、第1導体25Aは、その一端においてランド3aと接合され、その他端においてランド3bと接合される。第2導体25Bは、その一端においてランド3cと接合され、その他端においてランド3dと接合される。このように、コイル部品1は、第1導体25A及び第2導体25Bのそれぞれとランド3a~3dのうち対応するランドとを接合することで実装基板2aに実装される。回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。
【0032】
基体10は、磁性材料から直方体形状に形成されている。本発明の一実施形態において、基体10は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.4mm~20mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.2~20mm、厚さ寸法(T軸方向の寸法)が0.2~40mmとなるように形成される。本発明の一実施形態において、基体10は、その厚さ寸法がその幅寸法及びその長さ寸法の一方又は両方よりも大きくなるように構成されてもよい。本発明の一実施形態において、基体10は、その厚さ寸法がその幅寸法及びその長さ寸法のいずれよりも大きくなるように構成されてもよい。これにより、第1導体25A及び第2導体25Bは、基体10内をT軸方向に延びることで高い自己インダクタンスを持つことができるので、所期の自己インダクタンスを得るためにコイル部品1の実装面に沿う方向の寸法を大きくする必要がなくなる。
【0033】
本発明は、比較的小型の磁気結合型コイル部品から比較的大型の磁気結合型コイル部品まで幅広く適用され得る。基体10の寸法は、本明細書で具体的に説明される寸法には限定されない。本明細書において「直方体」又は「直方体形状」というときには、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。
【0034】
基体10は、上面10a、下面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。基体10は、これらの6つの面によってその外面が画定される。上面10aと下面10bとは互いに対向し、第1端面10cと第2端面10dとは互いに対向し、第1側面10eと第2側面10fとは互いに対向している。第1端面10c及び第2端面10dの各々は、上面10aと下面10bとを接続し、また、第1側面10eと第2側面10fとを接続している。コイル部品1は、下面10bが回路基板2aと対向するように配置されるので、下面10bを「実装面」又は「実装面10b」と呼ぶこともある。
【0035】
基体10は、磁性材料から作製される。基体10用の磁性材料は、複数の金属磁性粒子を含んでも良い。基体10用の磁性材料に含まれる金属磁性粒子は、例えば、(1)Fe、Ni等の金属粒子、(2)Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Ni合金等の結晶合金粒子、(3)Fe-Si-Cr-B-C合金、Fe-Si-Cr-B合金等の非晶質合金粒子、または(4)これらが混合された混合粒子である。コア10に含まれる金属磁性粒子の組成は、前記のものに限られない。例えば、コア10に含まれる金属磁性粒子は、Co-Nb-Zr合金、Fe-Zr-Cu-B合金、Fe-Si-B合金、Fe-Co-Zr-Cu-B合金、Ni-Si-B合金、又はFe-AL-Cr合金であってもよい。基体10に含まれるFe系の金属磁性粒子は、Feを80wt%以上含有してもよい。金属磁性粒子の各々の表面には、絶縁膜が形成されてもよい。この絶縁膜は、上記の金属又は合金が酸化してできる酸化膜であってもよい。金属磁性粒子の各々の表面に設けられる絶縁膜は、例えばゾルゲル法によりコーティングされた酸化ケイ素膜であってもよい。
【0036】
一実施形態において、金属磁性粒子は、0.1~20μmの平均粒径を有する。基体10に含まれる金属磁性粒子の平均粒径は、0.1μmより小さくてもよいし20μmより大きくても良い。基体10は、互いに平均粒径の異なる2種類以上の金属磁性粒子を含んでもよい。例えば、複合磁性材料用の金属磁性粒子は、第1平均粒径を有する第1金属磁性粒子と、この第1平均粒径よりも小さな第2平均粒径を有する第2金属磁性粒子と、を含んでもよい。
【0037】
基体10は、金属磁性粒子と結合材とを含む複合磁性材料から形成されてもよい。基体10が複合磁性材料から形成される場合、当該複合磁性材料に含まれる結合材は、例えば、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂である。結合剤として、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、又はポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂が用いられ得る。また、結合材としては、金属磁性粒子の各々の表面の酸化膜、または酸化膜とは別の酸化物でもよい。結合材は、熱伝導性の高い無機材料であることが望ましい。金属磁性粒子同士は、これらの酸化物により結合されてもよい。例えば、基体10は、結合材の含有比率が5wt%以下であり、残部が金属磁性粒子であることが望ましい。基体10における結合材の含有比率は3wt%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
基体10は、フェライト材料から形成されていてもよい。基体10の材料として用いられるフェライト材料は、Ni-Cu-Zn系フェライト、Ni-Cu-Zn-Mg系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Ni-Cu系フェライト、Mn-Zn系フェライト、又はこれら以外の公知のフェライトであってもよい。
【0039】
本発明の一又は複数の実施形態において、基体10の比透磁率は、30~5000であってもよい。本発明の一又は複数の実施形態において、基体10の比透磁率は、100以下の低い比透磁率であり、例えば30~60の範囲とされる。また、基体10の比透磁率は40~60の範囲とされてもよい。30~60の範囲の比透磁率を有する基体10は、例えば、磁性材料として金属磁性粒子を用いた場合、又は、金属磁性粒子と結合材とを含む複合磁性材料を用いた場合に実現される。
【0040】
本発明の一又は複数の実施形態において、基体10は、第1部材11と、第2部材12と、第1部材11と第2部材12との間に配置されている接合層13と、を備える。基体10は、第1部材11と第2部材12とを接着剤で接合することにより作製されてもよい。この場合、硬化した接着剤が接合層13となる。接合層13は、コイル部品1を側面視したときに(つまり、
図3の視点において)、第1導体25A及び第2導体25Bと重複する位置に設けられてもよい。接合層13は、第1部材11及び第2部材の形状に応じて様々な位置に配置され得る。接合層13は、コイル部品1を側面視したときに、第1導体25A及び第2導体25Bと重複しない位置に設けられていてもよい。接合層13は、第1部材11と第2部材12とが接合される接合面の全体に亘って配置されていてもよい。この場合、接合層13は、磁気ギャップとして機能する。接合層13は、第1部材11と第2部材12とが接合される接合面の一部のみに配置されていてもよい。この場合、第1部材11と第2部材12とが接合される接合面の一部は、接合層13を介さずに互いと直接に接触する。接合層13の内部又は表面には、空隙が存在してもよい。例えば、接合層13が固化した接着剤である場合には、接合層13の内部又は表面に気泡が含まれることがある。第1部材11と第2部材12とが接合される接合面の接合層13と、第1部材11と第2部材12と互いと直接に接触していない間隙部の空気は、磁気ギャップとして機能する。
【0041】
図7及び
図8に示されているように、第1部材11は、板状の基部11bと、基部11bから隆起している隆起部11cと、隆起部11cを3方向から囲むように基部11bの外縁に設けられた3つの壁部11aと、を有する。3つの壁部11aと隆起部11cの基部11bからの高さは互いに等しくてもよい。3つの壁部11aと隆起部11cの基部11bは、互いと異なる高さを有していてもよい。第1部材11においては、3つの壁部11aの内周面11a1、基部11bの上面11b1、及び隆起部11cの外周面11c1により、ほぼU字形状の溝11dが画定される。第2部材12は、第1部材11と同じ又は類似の形状を有する。図示の実施形態において、第2部材12は、板状の基部12bと、基部12bから隆起している隆起部12cと、隆起部12cを3方向から囲むように基部12bの外縁に設けられた3つの壁部12aと、を有する。第2部材11においては、3つの壁部12aの内周面12a1、基部12bの下面12b1、及び隆起部12cの外周面12c1により、ほぼU字形状の溝12dが画定される。第1部材11の3つの壁部11aが第2部材12の3つの壁部12aのうち対応するものと接合され、また、第1部材11の隆起部11cが第2部材12の隆起部12cと接合されることにより基体10が形成される。壁部11aの基部11bからの高さと壁部12aの基部12bからの高さとの和は、隆起部11cの基部11bからの高さと隆起部12cの基部12bからの高さとの和と等しい。本明細書では、第1部材11の隆起部11cと当該隆起部11cと接合された第2部材12の隆起部12cとをまとめて内側コアと呼ぶことがある。第1部材11と第2部材12とは接合層13を介して接合される。接合層13は、第1部材11及び第2部材12を接着する接着剤が硬化して生成されているため、磁性材料から成る第1部材11及び第2部材12よりも比透磁率が低い。よって、接合層13が第1部材11と第2部材12との接合面の全体に亘って配置されている場合は、接合層13は磁気ギャップとして機能する。
【0042】
基体10においては、第1部材11の溝11dと第2部材12の溝12dとにより貫通孔10Aが構成される。つまり、貫通孔10Aは、3つの壁部11aの内周面11a1、基部11bの上面11b1、隆起部11cの外周面11c1、3つの壁部12aの内周面12a1、基部12bの下面12b1、及び隆起部12cの外周面12c1により画定される。貫通孔10Aは、実装面10bに設けられた第1開口10A1及び第2開口10A2において基体10の外部に開口している。言い換えると、基体10は、実装面10bにおいて第1開口10A1及び第2開口10A2を有しており、貫通孔10Aは、基体10内において第1開口10A1と第2開口10A2とを接続するように形成されている。図示の実施形態では、貫通孔10Aは、正面視でほぼU字形状を有しているが、貫通孔10Aの形状は図示されたものには限定されない。第1開口10A1及び第2開口10A2は、基体10の実装面10bに接続されている第1端面10c、第2端面10dにも開口していても良い
【0043】
第1導体25A及び第2導体25Bはそれぞれ、導電性に優れたAg、Cuなどの金属材料から形成される。第1導体25A及び第2導体25Bはそれぞれ、貫通孔10Aに沿う形状を有する。図示の実施形態では、貫通孔10Aが正面視(W軸方向から見た視点)でほぼU字形状を有しているため、第1導体25A及び第2導体25Bもそれぞれ正面視でU字形状を有する。第1導体25A及び第2導体25Bはそれぞれ、金属材料から成る金属板を放電加工や折り曲げ加工により折り曲げることで形成され得る。第1導体25A及び第2導体25Bは、放電加工や折り曲げ加工以外にも、打ち抜き加工、切削加工、又はこれら以外の様々な公知の方法で作成され得る。第1導体25A及び第2導体25Bはそれぞれ、金属板の表面にNiを含むNiめっき層及び/又はSnを含むSnめっき層を備えてもよい。また、第1導体25A及び第2導体25Bの各々の表面には、ポリアミドイミド又はこれ以外の絶縁性に優れた絶縁材料から成る絶縁被膜が設けられていてもよい。第1導体25A及び第2導体25Bの少なくとも一方は、複数の薄い金属板を積層して作製された積層体であってもよい。本発明の一又は複数の実施形態において、第1導体25A及び第2導体25Bを構成する複数の金属板は、基体10の内側から外側に向かう方向において積層されていてもよい。本発明の別の実施形態において、第1導体25A及び第2導体25Bを構成する複数の金属板は、W軸方向に積層されていてもよい。積層される金属板の枚数は、2枚でもよく3枚以上でもよい。
【0044】
第1導体25Aは、貫通孔10Aを画定する壁部11aの内周面11a1及び壁部12aの内周面12a1に対向するように配置されている。第1導体25Aは、第1開口10Aから第2開口10A2まで貫通孔10A内を伸びる軸線Aに沿って延伸している。軸線Aは、
図2の視点で見たときに、第1導体25Aの内周面上にある点と当該点における法線と当該法線が第1導体25Aの外周面と交わる点に挟まれた線分の中点の集合であってもよい。端子電極間に印加された電位差により第1導体25A内を電流が流れる場合には、その電流は軸線Aに沿う方向に流れる。
【0045】
第1導体25Aは、実装面10bの第1開口10A1からT軸の正方向に向かって延びる第1部分25A1と、実装面10bの第2開口10A2からT軸の正方向に向かって延びる第2部分25A2と、第1部分25A1の上端と第2部分25A2の上端とを接続する第3部分25A3と、第1部分25A1の下端部から第1端面10cに向かって突出する突出部25A4と、第2部分25A2の下端部から第2端面10dに向かって突出する突出部25A5と、を有する。第1部分25A1の下端及び第2部分25A2の下端は、実装面10bから基体10の外部に露出する。突出部25A4は、実装面10b及び第1端面10cから基体10の外部に露出し、突出部25A5は、実装面10b及び第1端面10dから基体10の外部に露出する。突出部25A4は、第1部分25A1の下端を第1端面10cの方向(基体10の外側に向かう方向)に折り曲げることによって形成され、突出部25A5は、第2部分25A2の下端を第2端面10dの方向(基体10の外側に向かう方向)に折り曲げることによって形成されている。突出部25A4および突出部25A5は、第1導体25Aを折り曲げる方法の他に、第1導体25Aの一部を研削することによって形成されてもよい。突出部25A4および突出部25A5の形成方法は、本明細書に例示されたものには限定されない。このように、第1導体25Aは、その一端において少なくとも第1開口10A1から基体10の外部に露出しており、その他端において少なくとも第2開口10A2から基体10の外部に露出している。第1導体25Aにおいて、第1部分25A1と第3部分25A3との境界付近及び第2部分25A2と第3部分25A3との境界付近は湾曲している。図示の実施形態において、第1部分25A1は、第1端面10cに対向しており、この第1端面10cと平行に延びている。第2部分25A2は、第2端面10dに対向しており、この第2端面10dと平行に延びている。第3部分25A3は、上面10aと平行に延びている。
【0046】
第1導体25Aは、第1部分25A1の下端及び突出部25A4においてランド3aと接続され、第2部分25A2の下端及び突出部25A5においてランド3bと接続される。このように、第1部分25A1の下端付近の部位と突出部25A4が第1導体25Aの一方の端子電極を構成し、第2部分25A2の下端付近の部位と突出部25A5が第1導体25Aの他方の端子電極を構成する。突出部25A4および突出部25A5は省略されてもよい。突出部25A4および突出部25A5が省略される場合には、第1導体25Aは、第1部分25A1の下端においてランド3aに接続され、第2部分25A2の下端においてランド3bに接続される。
【0047】
第2導体25Bは、貫通孔10Aを画定する隆起部11cの外周面11c1及び隆起部12cの外周面12c1に対向するように配置されている。したがって、第2導体25Bは、貫通孔10A内の第1導体25Aから基体10の内側に向かって離間した位置に、第1導体25Aと対向するように配置されている。このように、磁気結合型コイル部品1においては、第1導体25Aと第2導体25Bとが基体10の内側から外側に向かう方向において並んで配置されているので、互いに磁気結合する導体が実装面に沿う方向において並べられている従来の磁気結合型コイル部品と比較して、実装面10bに沿う方向における外形寸法を小型化することができる。
【0048】
第2導体25Bは、第1開口10A1から第2開口10A2まで貫通孔10A内を伸びる軸線Bに沿って延伸している。軸線Bは、貫通孔10A内を軸線Aと平行な方向に沿って延びている。軸線Bは、
図2の視点において、第2導体25Bの内周面上にある点と当該点における法線と当該法線が第2導体25Bの外周面と交わる点に挟まれた線分の中点の集合であってもよい。端子電極間に印加された電位差により第2導体25B内を電流が流れる場合には、その電流は軸線Bに沿う方向に流れる。
【0049】
第2導体25Bは、実装面10bの第1開口10A1からT軸の正方向に向かって延びる第1部分25B1と、実装面10bの第2開口10A2からT軸の正方向に向かって延びる第2部分25B2と、第1部分25B1の上端と第2部分25B2の上端とを接続する第3部分25B3と、第1部分25B1の下端部から第1端面10cとは反対側に向かって(つまり、第2端面10dに向かって)突出する突出部25B4と、第2部分25B2の下端部から第2端面10dとは反対側に向かって(つまり、第1端面10cに向かって)突出する突出部25B5と、を有する。第1部分25B1の下端、第2部分25B2の下端、突出部25B4、及び突出部25B5は、実装面10bから基体10の外部に露出する。突出部25B4は、第1部分25B1の下端を第1端面10cとは反対側に向かう方向(基体10の内側に向かう方向)に折り曲げることによって形成され、突出部25B5は、第2部分25B2の下端を第2端面10dとは反対側に向かう方向(基体10の内側に向かう方向)に折り曲げることによって形成されている。突出部25B4および突出部25B5は、第2導体25Bを折り曲げる方法の他に、第2導体25Aの一部を研削することによって形成されてもよい。端子電極25B4および端子電極25B5は、曲がった形状でなくてもよい。このように、第1導体25Bは、その一端において少なくとも第1開口10A1から基体10の外部に露出しており、その他端において少なくとも第2開口10A2から基体10の外部に露出している。第2導体25Bにおいて、第1部分25B1と第3部分25B3との境界付近及び第2部分25B2と第3部分25B3との境界付近は湾曲している。図示の実施形態において、第2導体25Bの第1部分25B1、第2部分25B2、及び第3部分25B3はそれぞれ、第1導体25Aの第1導体25Aの第1部分25A1、第2部分25A2、及び第3部分25A3に対向している。第2導体25Bの第1部分25B1、第2部分25B2、及び第3部分25B3はそれぞれ、第1導体25Aの第1導体25Aの第1部分25A1、第2部分25A2、及び第3部分25A3と平行に延びている。
【0050】
第2導体25Bは、第1部分25B1の下端及び突出部25B4においてランド3cと接続され、第2部分25B2の下端及び突出部25B5においてランド3dと接続される。このように、第1部分25B1の下端付近の部位と突出部25B4が第2導体25Bの一方の端子電極を構成し、第2部分25B2の下端付近の部位と突出部25B5が第2導体25Bの他方の端子電極を構成する。突出部25B4および突出部25B5は省略されてもよい。突出部25B4および突出部25B5が省略される場合には、第2導体25Bは、第1部分25B1の下端においてランド3cに接続され、第2部分25B2の下端においてランド3dに接続される。
【0051】
基体10は、上面10a及び実装面10bから等距離にある中間面Cによって上部領域と下部領域とに分けられる。図示の実施形態において、第1導体25Aの第3部分25A3は、基体10の上部領域に配置されている。これにより、第1導体25Aの第3部分25A3が下部領域に配置されている場合と比較して、第1導体25Aの全長を長くすることができるので、第1導体25Aの自己インダクタンスを大きくすることができる。また、第1導体25Aにおいて発生したジュール熱を基体10の上面10aから効率的に放熱することができる。また、図示の実施形態において、第2導体25Bの第3部分25B3も基体10の上部領域に配置されている。これにより、第2導体25Bの全長を長くすることができるので、第2導体25Bの自己インダクタンスを大きくすることができる。また、第2導体25Bにおいて発生したジュール熱も基体10の上面10aから効率的に放熱することができる。第1導体25A及び第2導体25Bの自己インダクタンスを大きくすることにより、コイル部品1の結合係数を大きくすることができる。
【0052】
第1導体25A及び第2導体25Bはいずれも1ターン未満のターン数だけ基体10の内側コア(基体10のうち第1部材11の隆起部11cと第2部材12の隆起部12cとが接合された部位)の周囲に巻回されている。T軸の正の方向から見た平面視において、第1導体25Aは、突出部25A4から突出部25A5まで直線状に延びており、第2導体25Bは突出部25B4から突出部25B5まで直線状に延びている。よって、第1導体25A及び第2導体25Bはいずれも、平面視においてターンしている領域(ターン部)を有していない。
【0053】
既述のとおり、第1導体25Aと第2導体25Bとの間には非磁性部30が設けられる。非磁性部30は、絶縁性に優れた非磁性材料から形成される。非磁性部30の比透磁率は、第1導体25Aと第2導体25Bとの間を通る磁束を減らすために、基体10の比透磁率よりも低い。非磁性部30用の非磁性材料として、樹脂材料(例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びこれら以外の樹脂材料)、誘電体セラミックス(ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスと結晶質シリカとの混合物、及びこれら以外の誘電体セラミックス)、金属酸化物(例えば、アルミナ)非磁性の各種フェライト(例えば、Zn-Cu系フェライト)、又はこれら以外の絶縁性に優れた公知の非磁性材料を用いることができる。非磁性部30は、空隙であってもよい。非磁性部30の比透磁率は、例えば、1~15の範囲、1~10の範囲、又は1~5の範囲とされてもよい。本発明の一実施形態において、非磁性部30の比透磁率は、基体10の比透磁率の1/10以下とされる。非磁性部30は、互いに異なる非磁性材料から成る複数の部位を含んでもよい。例えば、非磁性部30の一部は樹脂材料から構成され、残りの部分は誘電体セラミックスから構成されてもよい。非磁性部30の一部は空隙で、残りの部分が非磁性材料から構成されてもよい。既述のとおり、第1導体25A及び第2導体25Bの少なくても一方は、その表面にNiを含むNiめっき層、Snを含むSnめっき層、、及び/又は、絶縁材料から成る絶縁被膜を備えてもよい。このように、基体10よりも透磁率が異なる部材が第1導体25Aと第2導体25Bとの間に配置される場合には、当該透磁率が異なる部材も非磁性部30の一部を構成する。このように、非磁性部30は、互いに比透磁率の異なる複数の領域を含み得る。非磁性部30は、互いに比透磁率の異なる複数の領域を含む場合、「非磁性部30の比透磁率」は、異なる比透磁率を有する領域の個別の比透磁率を意味するのではなく、非磁性部30全体の比透磁率を意味する。第1導体25A及び/又は第2導体25Bは、接着剤により基体10に固定されることがある。また、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の間隔を保つために、第1導体25Aと第2導体25Bとの間に接着剤や非磁性材料から成るスペーサ等の非磁性部材が配置されることがある。この接着剤や非磁性部材が第1導体25Aと第2導体25Bの間にある場合、当該接着剤や非磁性部材も非磁性部30の一部を構成する。接着剤は、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の全領域にわたって設けられてもよいし、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の一部の領域にのみ設けられてもよい。
【0054】
本発明の一実施形態において、非磁性部30の厚さ(すなわち、第1導体25Aと第2導体25Bとの基準方向における間隔)は、500μm以下とすることができる。非磁性部30を薄くすることにより、この非磁性部30を通過する磁束をさらに小さくすることができる。
【0055】
次に、
図5及び
図6をさらに参照して、第1導体25A及び第2導体25Bの形状及び配置についてさらに説明する。
図5は、コイル部品1を
図2に示されているII-II線を通る平面で切断した断面を示す断面図であり、
図6は、コイル部品1を
図2に示されているIII-III線を通る平面で切断した断面を示す断面図である。II-II線は、第1導体25Aの第3部分25A3及び第2導体25Bの第3部分25B3を通るようにT軸に平行に延伸しており、III-III線は、第1導体25Aの第1部分25A1及び第2部分25A2並びに第2導体25Bの第1部分25B1及び第2部分25B2を通るようにL軸に平行に延伸している。II-II線及びIII-III線はいずれも軸線Aと直交している。上述のように、第1導体25Aにおいて、電流は、軸線Aに沿って流れる。よって、
図5には、第1導体25Aにおいて電流が流れる方向に直交する平面で切断された第3部分25A3及び第3部分25B3の断面が示されており、
図6には、第1導体25Aにおいて電流が流れる方向に直交する平面で切断された第1部分25A1、第2部分25A2、第1部分25B1、及び第2部分25B2の断面が示されている。
図5及び
図6においては、説明の簡潔さのために第1導体25A及び第2導体25B以外のコイル部品1の構成要素の図示を省略している。
【0056】
上記のとおり、第2導体25Bは、第1導体25Aから基体10の内側に向かって離間した位置に配置されている。言い換えると、第1導体25Aは、第2導体25Bから基体10の外側に向かって離間した位置に配置されている。本明細書では、第1導体25Aにおいて電流が流れる方向に直交する断面において基体10の内側から外側に向かう方向を「基準方向」と呼ぶ。基準方向は、第1導体25Aにおいて電流が流れる方向(すなわち、軸線Aに沿う方向)に直交する。また、第1導体25Aにおいて電流が流れる方向に直交する平面を「基準平面」と呼ぶ。よって、第1導体25Aは、基準平面で切断した断面において第2導体25Bから基準方向に離間した位置に配置されている。
図5に示されているように、II-II線を通る平面で切断した断面においては、T軸の正方向が基準方向(基準方向X1)となる。また、
図6に示されているように、III-III線を通る平面で切断した断面において、第1部分25A1に関してはL軸の負方向が基準方向(基準方向X2)となり、第1部分25A1に関してはL軸の負方向が基準方向(基準方向X3)となる。
【0057】
本明細書では、基準平面で切断した第1導体25Aの断面の基準方向における寸法をa1とし、当該断面の基準方向に垂直な方向における寸法をa2とする。また、このように定められたa1に対するa2の比(a2/a1)を第1アスペクト比とする。同様に、基準平面で切断した第2導体25Bの断面の基準方向における寸法をb1とし、当該断面の基準方向に垂直な方向における寸法をb2とする。また、このように定められたb1に対するb2の比(b2/b1)を第2アスペクト比とする。
図5及び
図6に示されている実施形態においては、第1導体25Aの断面の基準方向に沿う寸法a1は、当該断面の基準方向に垂直な方向における寸法a2よりも小さい。よって、第1アスペクト比は1より大きい。同様に、第2導体25Bの断面の基準方向に沿う寸法b1は、当該断面の基準方向に垂直な方向における寸法b2よりも小さい。よって、第2アスペクト比は1より大きい。
【0058】
本発明の一又は複数の実施形態において、基準平面で切断した第1導体25Aの断面の基準方向に垂直な方向における寸法a2は、基準平面で切断した第2導体25Bの断面の基準方向に垂直な方向における寸法b2と等しいか、または、ほぼ等しい。本発明の一実施形態において、寸法a2の寸法b2に対する比(a2/a1)は、0.8~1.2の範囲とされる。上記のとおり、第2導体25Bは、第1導体25Aに対向するように配置される。本発明の一実施形態においては、第1導体25Aの基準平面で切断した断面及び第2導体25Bの基準平面で切断した断面を基準方向に投影した場合に、第2導体25Bの投影像の面積の80%以上が第1導体25Aの投影像と重複している場合に、第2導体25Bが第1導体25Aに対向しているということができる。
【0059】
図5及び
図6に示されている実施形態において、基準平面によって第1導体25Aを切断した断面の断面積は、基準平面によって第2導体25Bを切断した断面の断面積よりも大きい。これにより、第1導体25Aに第2導体25Bよりも大きな電流を流すことができる。第1導体25Aの断面積が一定でない場合には、軸線A上に均等な間隔で配置された3点を通過する断面の各々における第1導体25Aの断面積の平均を当該第1導体25Aの断面積とすることができる。第2導体25Bの断面積についても同様である。
【0060】
図5及び
図6に示されている実施形態において、第2導体25bを基準平面で切断した断面の基準方向における寸法b1は、第1導体25Aを基準平面で切断した断面の基準方向における寸法a1よりも小さい。例えば、寸法b1は、寸法a1の10%~50%の範囲である。第2導体25Bは、第1導体25Aよりも基体10の内側に配置されているため、第2導体25Bの軸線Bに沿う長さは、第1導体25Aの軸線Aに沿う長さよりも短い。よって、軸線に沿う方向における長さ以外の条件が同じであれば、第2導体25Bの自己インダクタンスは、第1導体25Aの自己インダクタンスよりも小さくなる。第2導体25Bの寸法b1を第1導体25Aの寸法a1よりも小さくすることにより、寸法b1が寸法a1と同程度である場合と比較して、第1導体25Aの軸線Aに沿う長さと第2導体25Bの軸線Bに沿う長さとの差を小さくすることができる。よって、第2導体25Bの寸法b1を第1導体25Aの寸法a1よりも小さくすることにより、寸法b1が寸法a1と同程度である場合と比較して、第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスとの差を小さくすることができる。
【0061】
図5及び
図6に示されている実施形態において、第1導体25A及び第2導体25Bの基準平面に沿う断面は、いずれも長方形の形状を有しているが、当該断面の形状は長方形には限られない。第1導体25A及び第2導体25Bの基準平面に沿う断面の形状は、楕円形、長円形、又はこれら以外の形状であってもよい。第1導体25A及び第2導体25Bの基準平面に沿う断面の形状が長方形でない場合には、第1導体25Aの基準方向における寸法a1は、基準平面で切断された第1導体25Aの断面において基準方向の一方の端から他方の端までの寸法を意味する。寸法a2、b1、b2についても同様に考えることができる。
【0062】
次に、
図9及び
図10を参照して、コイル部品1における第1導体25Aと第2導体25Bとの磁気結合を従来のコイル部品における磁気結合と比較して説明する。
図9(a)は、
図5に示されているコイル部品1の断面と同じ断面を示し、
図9(b)は、
図6に示されているコイル部品1の断面を反時計回りに90°回転して示している。
図9(c)には、
図9(a)及び(b)との比較のために、互いに磁気結合し実装面に沿う方向において互いから離間して配置されている導体125A及び導体125Bを有する従来の磁気結合型コイル部品の断面を示している。
図9(c)は、導体125Aにおいて電流が流れる方向に直交する平面で切断した断面を示している。このように、
図9(a)~(c)のいずれの断面も、導体において電流が流れる方向に直交する平面で各導体を切断した断面を示している。
図9及び
図10を参照する説明においては、これらの図に示されている導体の各々は、金属磁性粒子を含み比透磁率が30~60の範囲にある磁性基体に囲まれていると想定する。
【0063】
従来の磁気結合型コイル部品は、
図9(c)に示すように、一組の導体125A及び導体125Bを有し、これらの導体125A及び導体125Bが実装面に沿う方向において非磁性部130を介して対向するように設けられている。導体125A、125Bは、その形状及び配置は第1導体25A及び第2導体25Bと異なるが、その材料や機能は第1導体25A及び第2導体25Bと同じであるとする。また、非磁性部130は、非磁性部30と同様に、非磁性材料から形成されるか又は空隙(空気)である。上記のように、導体125A、125Bはいずれも、非磁性部130と接触している領域を除き、比透磁率が30~60の範囲にある磁性基体により囲まれている。従来の磁気結合型コイル部品においては、上記の特許文献1及び特許文献2に示されているように、導体125A及び導体125Bの各辺のうち実装面と平行な辺の寸法(a11、b11)が実装面と直交する辺の寸法(a12、b12)よりも大きくなるよう構成及び配置されている(特に、特許文献2の段落[0024]参照)。このため、従来の磁気結合型コイル部品において、内部導体125A、125Bは、実装面に平行な幅広の面ではなく実装面と直交する幅狭の面同士で対向している。これに対して、本発明の一又は複数の実施形態によれば、第1アスペクト比(a2/a1)が1よりも大きいので、
図9(a)及び
図9(b)に示されているように、第1導体25Aと第2導体25Bとは実装面に平行な幅広の面同士で対向する。
【0064】
図10(a)及び(b)に示されているように、コイル部品1においては、第1導体25Aを流れる電流が変化すると、第1導体25Aの周りに磁束が通過するルートとして非磁性部30を通過せず磁性基体だけを通過する第1ループL1及び経路の一部で非磁性部30を通過する第2ループL2が生じる。第2ループは、第2導体25Bを通過することもある。第2ループL2を通過する磁束は、第1導体25Aと第2導体25Bとの磁気結合に寄与しないため、第2ループL2を通過する磁束を小さくすることにより、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の結合係数を高くすることができる。説明の簡潔さのために、第2導体25Bに流れる電流が変化したときに第2導体25Bの周りに生じる磁束については図示を省略している。第2ループL2のうち第1導体25Aと第2導体25Bとの間にある領域の長さは、概ねa2(b2)と等しい。第1導体25Aと第2導体25Bとの間の領域には非磁性部30が配置されているので、第2ループL2上を通る磁束は、概ねa2の長さの経路において非磁性部30を通過する。
図10(c)に示されているように、従来の磁気結合型コイル部品においても、導体125Aを流れる電流が変化した場合には、導体125Aの周りに非磁性部30を通過せず磁性基体だけを通過する第1ループL11及び経路の一部で非磁性部130を通過する第2ループL12が生じる。第2ループは、第2導体125Bを通過することもある。第2ループL12のうち導体125Aと導体125Bとの間にある領域の長さは、概ねa12(b12)と等しい。導体125Aと導体125Bとの間の領域には非磁性部130が配置されているので、第2ループL12上を通る磁束は、概ねa12の長さの経路において非磁性部130を通過する。磁気結合型コイル1においては第1アスペクト比(a2/a1)が1よりも大きいのに対して、従来の磁気結合型コイル部品においては第1アスペクト比(a12/a11)が1より小さいので、第2ループL2の全長において非磁性部30の占める割合は、第2ループL12の全長において非磁性部130の占める割合よりも高くなる。よって、従来の磁気結合型コイル部品において第2ループL12を通過する磁束と比べて、本発明の一実施形態による磁気結合型コイル1において第2ループL2を通過する磁束を小さくすることができる。これにより、従来の磁気結合型コイル部品よりも、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の結合係数を高めることができる。
【0065】
次に、第1導体25A及び第2導体25Bの自己インダクタンスの差について説明する。2系統以上の導体を有する磁気結合型コイル部品においては、各系統の電気的特性、特に自己インダクタンスが同一か同程度であることが望ましい。特許文献1及び特許文献2に記載されているように、また、
図10(c)に示されているように、従来の磁気結合型コイル部品においては、各系統の導体同士(例えば、導体125Aと導体125B)が同じ形状を有しているため、各系統の導体の電気的特性も互いに等しい。これに対して、本発明の一実施形態においては、第1導体25Aは第2導体25Bよりも外側に配置されているので、第1導体25Aと第2導体25Bとを同一形状とすることはできない。具体的には、第1導体25Aの軸線Aに沿う長さは第2導体25Bの軸線Bに沿う長さよりも長くなる。このため、他の条件が同じであれば、第1導体25Aの自己インダクタンスは第2導体25Bの自己インダクタンスよりも大きくなる。そこで、
図9(a)(b)に示されているように、基準平面に沿って切断された第2導体25Bの断面の基準方向(W1方向、W2方向、W3方向)における寸法b1を第1導体25Aの断面の基準方向における寸法a1よりも小さくする。これにより、第1導体25Aの電流の流れる方向に沿う長さ(軸線Aの長さ)と第2導体25Bの電流の流れる方向に沿う長さ(軸線Bの長さ)との差を小さくすることができる。第1導体25Aと同一の断面形状を有する仮想的な第2導体25B’の断面が
図10(a)において仮想線で示されている。仮想的な第2導体25B’の基準平面で切断した断面の基準方向における寸法は、寸法a1と等しいと仮定している。図示のとおり、第1導体25Aと同じ断面形状を有する仮想的な第2導体25B’の軸線B’は、コイル部品1の第2導体25Bの軸線Bよりも軸線Aから離れた位置にある。本発明の一実施形態においては、基準平面で切断した第2導体25Bの断面の基準方向における寸法b1を基準平面で切断した第1導体25Aの基準方向における寸法a1よりも小さくすることにより、磁気結合する二つの導体の断面形状を同一とした場合に比べて第2導体25Bの軸線Bを第1導体25Aの軸線Aのより近くに配置することができる。これにより、磁気結合する二つの導体の形状を同一とした場合に比べて第1導体25Aの軸線Aに沿う長さと第2導体25Bの軸線Bに沿う長さとの差を小さくすることができ、その結果、第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスとの差を小さくすることができる。
【0066】
以上の説明では、
図9及び
図10に示されている導体の各々は、比透磁率が30~60の範囲にある磁性基体に囲まれていると想定した。上記のとおり、本発明の一又は複数の実施形態においては、基体10の比透磁率は、30~60の範囲には限られない。そこで、基体10がより高い比透磁率を有する場合、具体的には基体10がMn-Zn系フェライトから構成されており5000程度の高い比透磁率を有する場合には、第2ループL2を通過する磁束を小さくすることにより、第1ループを通過する磁束を大きくすることができるので、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の結合係数を高くすることができる。
【0067】
また、第1導体25A及び第2導体25Bが非磁性部30に接している領域以外では比透磁率が30~100の範囲にある磁性基体によって囲まれている場合には、第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスの大きさをコントロールすることができる。これは、第1導体25Aと第2導体25Bの占める割合によって第2ループ上を通る磁束をコントロールできることによるものである。例えば、第1導体25Aの割合を増やせば、第2ループ上を通る磁束が少なくなり、第1導体25Aの自己インダクタンスが低くなる。第1導体25Aの割合を減らせば、第2ループ上を通る磁束が多くなり、第1導体25Aの自己インダクタンスが高くなる。また、第2導体25Bにおいても、同様にインダクタンスを変えることができる。つまり、第1導体25Aと第2導体25Bの調整を行うことだけで、高い結合係数を維持しつつ、第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスとの差を小さくすることも、また逆に大きくすることもできる。
【0068】
本発明者が実施したシミュレーションによれば、導体を囲む磁性基体の比透磁率が非磁性部30又は非磁性部130の比透磁率の100倍以下の場合には、第1導体25Aと第2導体25Bとを幅広の面同士で対向させることによる結合係数の改善効果が見られるが、導体を囲む磁性基体が非磁性部30又は非磁性部130の比透磁率の100倍を超える高い比透磁率を有する場合(例えば、磁性基体がMn-Zn系フェライト等の5000程度の高い比透磁率を有するものである場合)には、第1導体25Aと第2導体25Bとを幅広の面同士で対向させることによる結合係数の改善効果は得られなかった。
【0069】
DC-DCコンバータ及びこれ以外の用途において、外形寸法をコンパクトに維持したまま大電流を流すことができる磁気結合型コイル部品が求められている。飽和磁束密度が高い軟磁性金属材料から成る金属磁性粒子を含む磁性基体は、導体に大電流が流れても磁気飽和が起こりにくいため、コイル部品の基体の材料として適している。そして、金属磁性粒子を含む磁性基体を備える磁気結合型コイル部品に本願発明を適用することにより、結合係数を改善するとともにかかる磁気結合型コイル部品の実装面に平行な方向における寸法を小型化できるとともにという優れた効果が得られる。
【0070】
続いて、
図11から
図13を参照して、本発明の別の実施形態について説明する。
図11は、本発明の別の実施形態による磁気結合型コイル部品1のI-I線断面図を示し、
図12は、
図11に示されている磁気結合型コイル部品1のIV-IV線断面図を示し、
図13は、
図11に示されている磁気結合型コイル部品1のV-V線断面図を示す。
図11から
図13に示されている実施形態では、基準平面によって切断した第2導体25Bの断面の基準方向における寸法b1が第1導体25Aの断面の基準方向における寸法a1よりも大きい点で
図1から
図6に示されている実施形態と異なっている。
【0071】
図11から
図13に示されている実施形態では、基準平面によって切断した第1導体25Aの断面の基準方向における寸法a1を第2導体25Bの断面の基準方向における寸法b1よりも小さくすることにより、磁気結合する二つの導体の形状を同一とした場合に比べて第1導体25Aの軸線Aを第2導体25Bの軸線Bのより近くに配置することができる。これにより、磁気結合する二つの導体の形状を同一とした場合に比べて第1導体25Aの軸線Aに沿う長さと第2導体25Bの軸線Bに沿う長さとの差を小さくすることができ、その結果、第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスとの差を小さくすることができる。
【0072】
図示の実施形態において、基準平面によって切断した第2導体25Bの断面の基準方向に垂直な方向における寸法b2は第1導体25Aの断面の基準方向に垂直な方向における寸法a2と同じなので、第2導体25Bを基準平面に沿って切断した断面の断面積は、第1導体25Aを基準平面に沿って切断した断面の断面積よりも大きい。これにより、第2導体25Aに第1導体25Bよりも大きな電流を流すことができる。
【0073】
続いて、
図14及び
図15を参照して、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
図14は、本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品1のI-I線断面図を示し、
図15は、
図14に示されている磁気結合型コイル部品1の上面図を示す。
図14及び
図15に示されている実施形態では、基体10の上面に上面開口10A3が設けられており、第1導体25Aの一部がこの上面開口10A3から基体10の外部に露出している点で
図1から
図6に示されている実施形態と異なっている。図示されているように、上面開口10A3は、平面視において(
図15の視点で)そのL軸方向の負方向の端が第1開口10A1のL軸方向の負方向の端と一致し、そのL軸方向の正方向の端が第2開口10A2のL軸方向の正方向の端と一致するように配置されてもよい。
【0074】
図14及び
図15に示されている実施形態によれば、
図1から
図6に示されている実施形態と比較して、基体10の外形を変更することなく第1導体25A及び第2導体25Bの実装面に垂直な方向(T軸に沿う方向)の寸法を大きくすることができる。これにより、
図14及び
図15に示されている実施形態によれば、
図1から
図6に示されている実施形態と比較して、第1導体25A及び第2導体25Bの自己インダクタンスを高めることができ、これにより結合係数を高めることができる。
【0075】
図14及び
図15に示されている実施形態によれば、上面開口10A3は、平面視において(
図15の視点で)そのL軸方向の負方向の端が第1開口10A1のL軸方向の負方向の端と一致し、そのL軸方向の正方向の端が第2開口10A2のL軸方向の正方向の端と一致するように配置されているので、成型金型を用いて基体10を一体的に形成することができる。これにより、
図7及び
図8に示されている実施形態と比べて、二つの部材(第1部材11及び第2部材12)を接着する必要がなくなるため、製造工程を簡略化することができる。また、
図14及び
図15に示されている実施形態によれば、基体10が磁性材料からワンピースの部材として構成されているので、基体10が磁気ギャップを有しないように作製される。これにより、第1導体25A及び第2導体25Bの自己インダクタンスをさらに高めることができる。
図14及び
図15に示されている実施形態においても、必要に応じて基体10の一部に磁気ギャップを設けることができる。
【0076】
続いて、
図16を参照して、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
図16は、本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品1のI-I線断面図を示す。
図16に示されている実施形態では、第1導体25Aが、第1単位導体225Aと、第1単位導体225Aよりも基体10の外側に設けられた第2単位導体325Aと、を有している。第1単位導体225A及び第2単位導体325Aはそれぞれ、導電性に優れたAg、Cuなどの金属材料から貫通孔10Aに沿う形状を有するように構成される。
【0077】
第1単位導体225Aは、実装面10bの第1開口10A1からT軸の正方向に向かって延びる第1部分225A1と、実装面10bの第2開口10A2からT軸の正方向に向かって延びる第2部分225A2と、第1部分225A1の上端と第2部分225A2の上端とを接続する第3部分225A3と、第1部分225A1の下端部から第1端面10cに向かって突出する突出部225A4と、第2部分225A2の下端部から第2端面10dに向かって突出する突出部225A5と、を有する。第2単位導体325Aは、第1単位導体225Aの突出部225A4の上面からT軸の正方向に向かって延びる第1部分325A1と、第1単位導体225Aの突出部225A5の上面からT軸の正方向に向かって延びる第2部分325A1と、第1部分325A1の上端と第2部分325A2の上端とを接続する第3部分325A3と、第1部分325A1の下端部から第1端面10cに向かって突出する突出部325A4と、第2部分325A2の下端部から第2端面10dに向かって突出する突出部325A5と、を有する。突出部225A4、225A5、325A4、325A5は、突出部25A4や突出部25A5と同様に、曲げ加工またはそれ以外の方法により形成される。
【0078】
第1単位導体225Aの第1部分225A1の下端及び第2部分225A2の下端は実装面10bから基体10の外部に露出し、突出部225A4は実装面10b及び第1端面10cから基体10の外部に露出し、突出部225A5は実装面10b及び第1端面10dから基体10の外部に露出する。また、第2単位導体325Aの突出部325A4は第1端面10cから基体10の外部に露出し、突出部325A5は第1端面10dから基体10の外部に露出する。よって、第1単位導体225Aは、第1部分225A1の下端及び突出部225A4においてランド3aと接続され、第2部分225A2の下端及び突出部225A5においてランド3bと接続される。第2単位導体325Aは、突出部325A4においてランド3cと接続され、突出部325A5においてランド3dと接続される。
図16に示されているコイル部品1を実装基板2に実装する場合には、溶融したはんだが第1単位導体225Aの突出部225A4の表面を伝って第2単位導体325Aの突出部325A4まで濡れ拡がり、また、溶融したはんだが第1単位導体225Aの突出部225A5の表面を伝って第2単位導体325Aの突出部325A5まで濡れ拡がる。実装時にはんだが濡れ拡がりやすくするために、突出部225A4、225A5、325A4、325A5の表面(基体10が露出する露出面)の各々には、Niを含むNiめっき層及び/又はSnを含むSnめっき層が設けられることが望ましい。
【0079】
第1単位導体225Aの外周面は、第2単位導体325Aの内周面と直接接していてもよいし、第1単位導体225Aの外周面と第2単位導体325Aの内周面との間には、空気、樹脂、めっき又はこれら以外の絶縁性の部材が介在していてもよい。
【0080】
第1単位導体225Aと第2単位導体325Aとの間に絶縁性の部材が介在しておらず、第1単位導体225Aの外周面と第2単位導体325Aの内周面とが直接接している場合は、第1単位導体225Aと第2単位導体325Bとは基体10内において電気的に接続されている。第1単位導体225Aと第2単位導体325Aとが基体10内で電気的に接続されている場合には、軸線Aは、第1導体25Aが単一の部材から構成される場合と同様に、
図16の視点で見たときに、第1導体25Aの内周面上にある点と当該点における法線と当該法線が第1導体25Aの外周面と交わる点に挟まれた線分の中点の集合であってもよい。端子電極間に印加された電位差により第1導体25A内を電流が流れる場合には、その電流は軸線Aに沿う方向に流れる。
【0081】
第1単位導体225Aと第2単位導体325Aとの間に絶縁性の部材が介在している場合には、第1単位導体225A第2単位導体325Bとの間に絶縁性の部材が介在し、第1単位導体225Aと第2単位導体325Aとが電気的に絶縁されている場合は、第1導体25Aは、基体10の内部においては、第1単位導体225Aと、この第1単位導体225Aと並列に配置された第2単位導体325Aとを有する。この場合、第1単位導体225Aと第2単位導体225Bとは、基体10の外部で電気的に接続される。端子電極間に印加された電位差により第1導体25A内を電流が流れる場合には、第1単位導体225A及び第2単位導体225Bのそれぞれにおいて、各々の軸線(不図示)に沿って流れる。第1単位導体225Aの軸線及び第2単位導体325Aの軸線は、上述した第1導体25Aの軸線と同様に定めることができる。第1導体25Aが第1単位導体225A及び第2単位導体325Aを備える場合には、第1導体25Aの軸線Aは、第1単位導体225Aの軸線及び第2単位導体325Aの軸線の各々から等距離にある。端子電極間に印加された電位差により第1導体25A内を電流が流れる場合には、その電流は第1単位導体225Aと第2単位導体325Bとに分かれて、第1導体25Aの軸線Aに沿う方向に流れる。
【0082】
図16に示されている実施形態によれば、第1導体25Aが、第1単位導体225A及び第2単位導体325Aの2層構造を有している。第1単位導体225A及び第2単位導体325Aの各々の厚さは、第1導体25Aの厚さよりも薄いため、第1単位導体225A及び第2単位導体325Aは、ワンピース部材として作製された第1導体25Aよりも貫通孔10Aの形状に合致する形状に加工することが容易になる。第1導体25Aは、3層以上の単位導体を含んでいてもよい。第2導体25Bも、第1導体25Aと同様に、2層以上の単位導体を積層して構成されてもよい。
図16においては、第1導体25Aが、基準方向に並ぶように2層構造を有しているが、第1導体25Aは基体10のW方向に並ぶ2稿構造であってもよい。
【0083】
続いて、
図17を参照して、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
図17は、本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品1のIII-III線断面図を示す。
図17に示されている実施形態では、基準平面で切断した第1導体25A及び第2導体25Bの断面形状が
図6に示されている第1導体25A及び第2導体25Bの断面形状と異なっている。具体的には、
図17に示されている実施形態において、第1導体25Aの第1部分25A1及び第2部分25A2はいずれも、基準平面に沿って切断した断面において基体10の内側に向かって突出する凸部25A6を有している。図示は省略されているが、第1導体25Aの第3部分25A3も同様に、基体10の内側に向かって突出する凸部25A6を有している。凸部25A6は、第1導体25Aの内周面から基体10の内側に向かって突出している。
【0084】
第2導体25Bは、凸部25A6を受け入れるために、凸部25A6と相補的な形状を有する凹部25B6を有している。凹部25B6は、第2導体25Bの外周面から基体10の外側に向かって凹んでいる。凹部25B6は、凸部25A6の少なくとも一部を受け入れる。
【0085】
図17に示されている実施形態においては、基準平面によって切断した第1導体25Aの断面において凸部25A6を含まない部位の基準方向における寸法をa1としている。基準平面によって切断した第1導体25Aの断面うち凸部25A6を含む部位の基準方向における寸法をa1としてもよい。また、図示の実施形態においては、基準平面によって切断した第2導体25Bのうち凹部25B6を含まない部位の基準方向における寸法をb1としている。基準平面によって切断した第2導体25Bの断面のうち凹部25B6を含む部位の基準方向における寸法をb1としてもよい。いずれの方法で寸法a1及び寸法b1を定めても、第1アスペクト比は1より大きくてもよいし、第2アスペクト比は1より大きくてもよい。
【0086】
図17に示されている実施形態によれば、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の磁束が通る経路が蛇行しているため、
図1から
図6に示されている実施形態よりも第1導体25Aと第2導体25Bとの間を通過する磁束を小さくすることができる。これにより、
図17に示されている磁気結合型コイル部品1においては結合係数をさらに向上させることができる。
【0087】
図17に示されている実施形態によれば、第1導体25Aの凸部25A6と第2導体25Bの凹部25B6とがL軸方向において重複するように配置されているので、凸部25A6及び凹部25B6が設けられていない態様と比較して、コイル部品1のL軸に沿う方向における寸法を小型化することができる。また、第1導体25Aの電流の流れる方向に沿う長さと第2導体25Bの電流が流れる方向に沿う長さとの差をさらに小さくすることができる。このため、第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスとの差を小さくすることができ、これにより結合係数を向上させることができる。
【0088】
続いて、
図18を参照して、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
図18は、本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品1のIII-III線断面図を示す。
図18に示されている実施形態は、
図17に示されている実施形態の変形例である。
図17に示されている実施形態では、第1導体25Aが凸部25A6を有し、第2導体25Bがこの凸部25A6を受け入れる凹部25B6を有しているのに対して、
図18に示されている実施形態では、第2導体25Bが凸部25A7を有し、第1導体25Bがこの凸部25A7を受け入れる凹部25B7を有している。
図18に示されている実施形態によれば、
図17に示されている実施形態と同様に、結合係数を向上させることができ、また、実装面に沿う方向の寸法を小型化することができる。
【0089】
続いて、
図19を参照して、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
図19は、本発明のさらに別の実施形態による磁気結合型コイル部品1のIII-III線断面図を示す。
図19に示されている実施形態では、基準平面で切断した第1導体25A及び第2導体25Bの断面形状が
図1から
図6に示されている第1導体25A及び第2導体25Bの断面形状と異なっている。具体的には、第1導体25Aの第1部分25A1及び第2部分25A2には、第2導体と対向する内周面には基体10の外側に向かって凹む凹部25A8が形成されている。図示は省略されているが、第1導体25Aの第3部分25A3にも基体10の外側に向かって凹む凸部が形成されている。第2導体25Bは、基準平面で切断した断面の基準方向に垂直な方向における寸法b2が、凹部25A8の基準方向に垂直な方向の寸法よりも小さくなるように構成されている。第2導体25Bは、その一部が凹部25A8に収容され、その一部が凹部25A8より突出する。
【0090】
図示の実施形態においては、基準平面によって切断した第1導体25Aの断面において凹部25A8を含まない部位の基準方向における寸法をa1としている。第1導体25Aの断面のうち凹部25A8を含む部位の基準方向に沿う寸法をa1としてもよい。いずれの方法で寸法a1及び寸法b1を定めても、第1アスペクト比は1より大きくてもよい。基準平面によって切断した第2導体25Bの断面の基準方向に垂直な方向における寸法b2は、
図6に示されている実施形態と異なりa2と比べて小さいが、第2アスペクト比は、1より大きくともよい。
【0091】
図19に示されている実施形態によれば、第1導体25Aに流れる電流が変化したときに発生する磁束及び第2導体25Aに流れ電流が変化したときに発生する磁束は、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の領域(非磁性部30が配置されている領域)をほとんど通過しない。これにより、
図19に示されている磁気結合型コイル部品1においては結合係数をさらに向上させることができる。
【0092】
図19に示されている実施形態によれば、第1導体25Aの凹部25A8と第2導体25Bの外周面25B7とがL軸方向において重複するように配置されているので、凹部25A8が設けられていない態様と比較して、コイル部品1のL軸に沿う方向における寸法を小型化することができる。また、第1導体25Aの電流の流れる方向に沿う長さと第2導体25Bの電流が流れる方向に沿う長さとの差をさらに小さくすることができる。このため、第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスとの差を小さくすることができ、これにより結合係数を向上させることができる。
【0093】
続いて、本発明の一実施形態による磁気結合型コイル部品1の別の例示的な製造方法について説明する。以下で説明する製造方法においては、加圧成型プロセスによって基体10を構成する第1部材11及び第2部材12を作製し、この第1部材11及び第2部材12の内側に第1導体25A及び第2導体25Bを配置し、その後に第1部材11と第2部材12とを接合することで磁気結合型コイル部品1が製造される。この例示的な製造方法の具体的な手順は以下のとおりである。
【0094】
まず、基体10を作製するために、第1部材11及び第2部材12をそれぞれ製造する。具体的には、複数の金属磁性粒子をアクリル樹脂等のバインダ樹脂及び潤滑剤と混練して混合磁性材料のスラリーを生成し、この生成したスラリーを成型金型に流し込んで成形圧力を加えることで成型体を得る。第1部材11を作製するための成型金型は、溝11dを形成するためのコアと壁部11a及び隆起部11cを形成するためのキャビティとを有している。同様に、第2部材12を作製するための成型金型は、溝12dを形成するためのコアと壁部12a及び隆起部12cを形成するためのキャビティを有している。第1部材11と第2部材12とが同一の形状を有する場合には、第1部材11と第2部材12とは同じ成型金型を用いて作製される。溝11d及び溝12dを生成するためのコアを有しない成型金型を用いて成形体を作製し、このように作製された成形体に溝加工を行うことで溝11d及び溝12dを形成してもよい。
【0095】
次に、この成型体を加熱することで脱脂処理を行う。次に、脱脂処理が施された成形体を600~850℃で加熱し、金属磁性粒子を熱処理する。この加熱処理において、金属磁性粒子の表面は酸化し、金属磁性粒子の表面に金属磁性粒子に含まれる金属元素が酸化した酸化膜が形成される。金属磁性粒子同士は、その表面の酸化膜を介して結合される。脱脂処理と加熱処理とは単一の工程で行ってもよい。すなわち、脱脂前の成形体を600~850℃で加熱することで、脱脂処理と熱処理とを並行して進行させてもよい。この加熱処理により、第1部材11及び第2部材12が得られる。
【0096】
次に、導電性に優れたAg、Cuなどの金属材料から成る金属板を放電加工や折り曲げ加工により折り曲げて第1導体25A及び第2導体25Bを作製する。第1導体25Aは、第1部材11の壁部11aの内周面11a1及び第2部材12の壁部12aの内周面12a1に沿った形状に形成される。また、第2導体25Bは、第1部材11の隆起部11cの外周面11c1及び第2部材12の隆起部12cの外周面12c1に沿った形状に形成される。
【0097】
次に、第1導体25Aを、第1部材11の壁部11aの内周面11a1に沿って設置する。例えば、第1導体25Aは、壁部11aの内周面11a1の一部又は第1導体25Aの外周面の一部に接着剤を付け、この接着剤により第1部材11の壁部11aの内周面11a1に接着されてもよい。また、第2導体25Bを、第1部材11の隆起部11cの外周面11c1に沿って設置する。例えば、第2導体25Aは、隆起部11cの外周面11c1の一部又は第2導体25Bの内周面の一部に接着剤を付け、この接着剤により第1部材11の隆起部11cの外周面11c1に接着されてもよい。
【0098】
次に、第1部材11のうち第2部材12との接合面に接着剤を付け、この接着剤により第2部材12を第1部材11に接着する。接着剤は、硬化して接合層13となる。第1部材11の第2部材12と接合される接合面に、樹脂材料又はガラス等の非磁性材料から成る一定の厚さのスペーサ(不図示)を設けてもよい。接合層13は、このスペーサと硬化した接着剤とを備えてもよい。スペーサにより第1部材11と第2部材12との間で磁気ギャップとして機能する接合層13の厚さを調整することができる。第1部材11を第2部材12と接合することにより、基体10が得られる。
【0099】
このようにして得られた基体10の実装面10bの第1開口10A1からは、第1導体25Aの一端及び第2導体25Bの一端がそれぞれ露出しており、第2開口10A2からは、第1導体25Aの他端及び第2導体25Bの他端がそれぞれ露出している。第1導体25Aの開口10A1及び10A2から基体10の外部へ露出している部位は、基体10の実装面10bに沿って基体10の内側から外側に向かって折り曲げられ、これにより突出部25A4及び突出部25A5が形成される。同様に、第2導体25Aの開口10A1及び10A2から基体10の外部へ露出している部位は、基体10の実装面10bに沿って基体10の外側から内側に向かって折り曲げられ、これにより突出部25B4及び突出部25B5が形成される。以上のようにして、磁気結合型コイル部品1が得られる。
【0100】
上記の製造方法に含まれる工程の一部は、適宜省略可能である。磁気結合型コイル部品1の製造方法においては、本明細書において明示的に説明されていない工程が必要に応じて実行され得る。上記の磁気結合型コイル部品1の製造方法に含まれる各工程の一部は、本発明の趣旨から逸脱しない限り、随時順番を入れ替えて実行され得る。上記の磁気結合型コイル部品1の製造方法に含まれる各工程の一部は、可能であれば、同時に又は並行して実行され得る。
【0101】
図14に示されている態様のコイル部品1は、圧縮成形プロセスにより、基体10に対応する形状を有するワンピースの成形体を作製し、この成形体に加熱処理を行って基体10とした後に、上面10aの上面開口10A3から貫通孔10A内に第1導体25A及び第2導体25Bを挿入することで作成されてもよい。この場合、基体10は、二つの成形体を接合して作製されるのではなく、圧縮成形プロセスによりワンピースの成形体として作製される。よって、磁気ギャップを有しない基体10が得られる。これにより、第1導体25A及び第2導体25Bの自己インダクタンスを向上させることができる。
【0102】
第1導体25A及び第2導体25Bの少なくとも一方は、複数の薄い金属板を積層して作製された積層金属板であってもよい。金属板の厚さが増すと、貫通孔10Aに沿った形状への加工が難しくなる可能性がある。そこで、第1導体25A全体の厚さ又は第2導体25B全体の厚さよりも薄い単位金属板を複数準備し、これらの単位金属板を貫通孔10Aに沿った形状に曲げ加工した後に、曲げ加工された単位金属板同士を積層することで第1導体25A及び第2導体25Bの少なくとも一方を作製してもよい。
【0103】
コイル部品1は、薄膜プロセスにより作製されてもよい。
【0104】
次に、上記の実施形態による作用効果について説明する。本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品1においては、第1導体25Aから基体10の内側に離間した位置に第1導体25Aと対向するように第2導体25Bが配置されている。よって、磁気結合型コイル部品1は、従来の磁気結合型コイル部品と比べて実装面に平行な方向における寸法を小型化することができる。
【0105】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、第1導体25Aは、第1アスペクト比(a2/a1)が1よりも大きくなるように構成されているので、その幅広の面で第2導体25Bと対向する。また、第1導体25Aと第2導体25Bとの間には、非磁性部30が配置されている。よって、幅狭の面で対向するように配置された導体同士が磁気結合する従来の磁気結合型コイル部品と比べて、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の領域を通過する磁束を小さくすることができ、第1導体25Aと第2導体25Bとの結合係数を高くすることができる。
【0106】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、第2導体25Bは、第2アスペクト比(b2/b1)が1よりも大きくなるように構成されているので、その幅広の面で第1導体25Aと対向する。よって、幅狭の面で対向するように配置された導体同士が磁気結合する従来の磁気結合型コイル部品と比べて、第1導体25Aと第2導体25Bとの間の領域を通過する磁束を小さくすることができるので、第1導体25Aと第2導体25Bとの結合係数を高くすることができる。
【0107】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、第1導体25Aの断面積は、第2導体25Bの断面積よりも大きい。本発明の一又は複数の実施形態によれば、第2導体25Bの断面積は、第1導体25Aの断面積よりも大きい。従来の磁気結合型コイル部品においては、2系統のコイル導体が同一の断面形状を有しているため、両系統に異なる大きさの電流を流す場合には、その大きな電流が流れる方の系統の導体の断面積に両系統の導体の断面積が統一されていた。このため、少ない電流が流れる方の系統の導体は、流れる電流に対して過剰に広い断面積を有しており、このことが従来の磁気結合型コイル部品の小型化を妨げていた。これに対して、本発明の一又は複数の実施形態においては、各系統の導体を、流れる電流に応じた断面積とすることができる。例えば、第1導体25Aを含む系統に大きな電流が流れる場合には、第1導体25Aの断面積を第2導体25Bの断面積よりも大きくすることができる。これとは反対に、第2導体25Bを含む系統に大きな電流が流れる場合には、第2導体25Bの断面積を第1導体25Aの断面積よりも大きくすることができる。
【0108】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、基準平面に沿って切断された断面において、第2導体25Bの基準方向における寸法b1を第1導体25Aの基準方向における寸法a1よりも小さくすることにより、第1導体25Aの電流の流れる方向に沿う長さ(軸線Aの長さ)と第2導体25Bの電流の流れる方向に沿う長さ(軸線Bの長さ)との差を小さくすることができる。また、本発明の一又は複数の実施形態によれば、基準平面に沿って切断された断面において、第1導体25Aの基準方向における寸法a1を第2導体25Bの基準方向における寸法b1よりも小さくすることにより、第1導体25Aの電流の流れる方向に沿う長さ(軸線Aの長さ)と第2導体25Bの電流の流れる方向に沿う長さ(軸線Bの長さ)との差を小さくすることができる。このように、軸線Aの長さと軸線Bの長さとの差を小さくすることにより、第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスとの差を小さくすることができる。
【0109】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、基体10の上面10aに上面開口10A3が形成され、第1導体25Aがこの上面開口10A3から基体10の外部に露出するように構成及び配置される。これにより、基体10の外形を変更することなく第1導体25A及び第2導体25Bの実装面に垂直な方向の寸法を大きくすることができるので、第1導体25A及び第2導体25Bの自己インダクタンスを高めることができる。
【0110】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、第1導体25Aが基体10の内側に向かって突出する凸部25A6を有し、この凸部25A6の少なくとも一部が第2導体25Bに形成された凹部25B6に受け入れられる。これにより、第1導体25Aと第2導体25Bとの間を通過する磁束をさらに抑制して、コイル部品1の結合係数をさらに向上させることができる。また、第1導体25Aの凸部25A6と第2導体25Bの凹部25B6とがL軸方向において重複するように配置されているので、コイル部品1のL軸に沿う方向における寸法を小型化することができ、また、第1導体25Aの電流の流れる方向に沿う長さと第2導体25Bの電流が流れる方向に沿う長さとの差をさらに小さくして第1導体25Aの自己インダクタンスと第2導体25Bの自己インダクタンスとの差を小さくすることができる。
【0111】
発明の一又は複数の実施形態によれば、第1導体25A及び第2導体25Bの少なくとも一方は、第1導体25A全体の厚さ又は第2導体25B全体の厚さよりも薄い単位金属板を基体10の貫通孔10Aに沿う形状に曲げ加工した後に、曲げ加工された単位金属板同士を積層することで作製される。これにより、第1導体25A及び第2導体25Bを貫通孔10Aの形状に合致する形状に加工することが容易になる。
【0112】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、第1導体25A及び第2導体25Bは、非磁性部30に接している領域以外では金属磁性粒子を含む比透磁率が30~60の範囲にある基体10によって囲まれている。この場合、基体10が優れた磁気飽和特性を有するため、基体10の体積を小さくしても第1導体25Aと第2導体25Bとの結合係数を高くすることができる。このように、基体10を金属磁性粒子から構成することにより、第1導体25Aと第2導体25Bとの結合係数を改善するとともにコイル部品1を小型化できる。
【0113】
本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品1の基体10においては磁気飽和が抑制されているので、内部導体25A、25Bに大きな電流を流すことができる。例えば、コイル部品1の自己インダクタンスLを150nHより小さくした場合に、単位体積当たりの電流値を0.12A/mm3以上とすることができる。また、コイル部品1の自己インダクタンスLを100nHより小さくした場合場合に、単位体積当たりの電流値を0.16A/mm3以上とすることができる。また、コイル部品1の自己インダクタンスLを75nHより小さくした場合に、単位体積当たりの電流値を0.20A/mm3以上とすることができる。
【0114】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0115】
1 磁気結合型コイル部品
2 実装基板
3a、3b、3c、3d ランド
10 基体
10a 上面
10b 実装面
10A 貫通孔
10A1 第1開口
10A2 第2開口
10A3 上面開口
11 第1部材
12 第2部材
13 接合層
25A 第1導体
25B 第2導体
30 非磁性部
X1、X2、X3 基準方向