(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】導波管構造体及びホーンアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01P 5/107 20060101AFI20240926BHJP
H01P 3/12 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H01P5/107 B
H01P3/12 100
(21)【出願番号】P 2020199126
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】市川 順一
(72)【発明者】
【氏名】平野 聡
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】七田 貴史
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-178361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/107
H01P 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層された誘電体基板に構成された導波管構造体であって、
信号伝送方向である第1の方向に延伸し、前記第1の方向に直交する断面が矩形状である導波管部と、
前記誘電体基板の一方の表面に形成された給電部と、
前記給電部と前記導波管部の内部の給電端子との間を電気的に接続し、前記給電部に給電された高周波信号を前記給電端子まで伝送する伝送線路部と、
を備え、
前記伝送線路部は、一端が前記給電部に接続され前記誘電体基板の積層方向に延伸する第1の高周波伝送線路と、前記積層方向に直交する平面に沿って前記第1の高周波伝送線路の他端から前記給電端子まで延伸する第2の高周波伝送線路とにより構成され、
前記第2の高周波伝送線路は、前記第1の高周波伝送線路の他端から前記第1の方向に沿って延伸する第1の線路部分と、前記導波管部の側面を介して前記導波管部の外側から前記給電端子まで前記第1の方向及び前記積層方向に直交する第2の方向に沿って延伸する第2の線路部分と、の間に屈曲部を有する、
ことを特徴とする導波管構造体。
【請求項2】
前記第2の高周波伝送線路は、前記誘電体基板の内層に形成されたストリップ線路又はコプレーナ線路であることを特徴とする請求項1に記載の導波管構造体。
【請求項3】
前記第1の高周波伝送線路は、同軸線路であることを特徴とする請求項1に記載の導波管構造体。
【請求項4】
前記給電部は、前記一方の表面に形成されて外部に露出した給電用接続パッドを含むことを特徴とする請求項1に記載の導波管構造体。
【請求項5】
前記給電用接続パッドは、コプレーナ線路又はマイクロストリップ線路であることを特徴とする請求項4に記載の導波管構造体。
【請求項6】
前記導波管部の両側の側面は、前記第1の方向に沿って配列された複数の柱状導体部からなるポスト壁により構成されることを特徴とする請求項1に記載の導波管構造体。
【請求項7】
複数の誘電体層が積層された誘電体基板に構成されたホーンアンテナであって、
信号伝送方向である第1の方向に延伸し、前記第1の方向に直交する断面が矩形状である導波管部と、
前記第1の方向における前記導波管部の端部に接続され、前記端部から前記第1の方向に沿って離れるに従って前記矩形断面における電界方向にのみ拡径するホーン部と、
前記誘電体基板の一方の表面に形成された給電部と、
前記給電部と前記導波管部の内部の給電端子との間を電気的に接続し、前記給電部に給電された高周波信号を前記給電端子まで伝送する伝送線路部と、
を備え、
前記伝送線路部は、一端が前記給電部に接続され前記誘電体基板の積層方向に延伸する第1の高周波伝送線路と、前記積層方向に直交する平面に沿って前記第1の高周波伝送線路の他端から前記給電端子まで延伸する第2の高周波伝送線路とにより構成され、
前記第2の高周波伝送線路は、前記第1の高周波伝送線路の他端から前記第1の方向に沿って延伸する第1の線路部分と、前記導波管部の側面を介して前記導波管部の外側から前記給電端子まで前記第1の方向及び前記積層方向に直交する第2の方向に沿って延伸する第2の線路部分と、の間に屈曲部を有する、
ことを特徴とするホーンアンテナ。
【請求項8】
前記ホーン部の拡径方向は前記第2の方向に一致することを特徴とする請求項7に記載のホーンアンテナ。
【請求項9】
前記導波管部の両側の側面は、前記第1の方向に沿って配列された複数の柱状導体部からなるポスト壁により構成され、
前記ホーン部の両側の側面は、前記積層方向から見たときに、前記第1の方向及び前記第2の方向に傾斜する所定方向に沿って配列された複数の柱状導体部からなるポスト壁により構成される、
ことを特徴とする請求項8に記載のホーンアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体基板に構成された導波管構造体及びホーンアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロ波帯やミリ波帯の高周波信号を用いた無線通信の分野で、伝送線路を経由して導波管に高周波信号を伝送させる導波管構造体が知られている。近年では、小型軽量化や加工の容易性の観点から、複数の誘電体層が積層された誘電体基板を用いて導波管構造体を構成する手法が提案されている。例えば、特許文献1には、この種の導波管構造体の一例として、誘電体基板からなる導波管部の内部に給電端子としてのスタブを設け、導波管部の側面から伝送線路を経由してスタブに給電する構造が開示されている。スタブに給電するための伝送線路は導波管部の側面に直交する方向に延伸し、例えば、コプレーナ線路が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導波管構造体を利用する場合、高周波信号の損失を極力低減させるために、インピーダンスの整合を確保することが重要となる。例えば、特許文献1の構造を例にとると、スタブの位置を適切に設定することで伝送線路と導波管部のインピーダンスを整合させることができる。この場合、一度導波管構造体を設計した後に、インピーダンスの調整に応じてスタブの最適な位置が変化すると、それに合わせて導体パターン等の設計を変更する必要がある。しかしながら、特許文献1は、直線状の伝送線路の一端にスタブを配置し、他端に給電部(不図示)を配置する構造であるため、これら全体を一括して設計変更することになる。このように、特許文献1の構造を前提にすると、インピーダンスの調整に伴う設計変更の規模が大きくなり、設計工数の増加を避けることは困難である。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、誘電体基板に構成された導波管構造体におけるインピーダンス整合を確保する場合において、導波管内部の給電端子の位置変更に伴う設計変更を最小限に抑制し得る導波管構造体及びホーンアンテナを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の導波管構造体は、複数の誘電体層が積層された誘電体基板に構成された導波管構造体であって、信号伝送方向である第1の方向に延伸し、前記第1の方向に直交する断面が矩形状である導波管部と、前記誘電体基板の一方の表面に形成された給電部と、前記給電部と前記導波管部の内部の給電端子との間を電気的に接続し、前記給電部に給電された高周波信号を前記給電端子まで伝送する伝送線路部とを備えて構成される。前記伝送線路部は、一端が前記給電部に接続され前記誘電体基板の積層方向に延伸する第1の高周波伝送線路と、前記積層方向に直交する平面に沿って前記第1の高周波伝送線路の他端から前記給電端子まで延伸する第2の高周波伝送線路とにより構成され、前記第2の高周波伝送線路は、前記第1の高周波伝送線路の他端から前記第1の方向に沿って延伸する第1の線路部分と、前記導波管部の側面を介して前記導波管部の外側から前記給電端子まで前記第1の方向及び前記積層方向に直交する第2の方向に沿って延伸する第2の線路部分との間に屈曲部を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の導波管構造体によれば、外部から給電部に入力された高周波信号は、第1の高周波伝送線路と第2の高周波伝送線路からなる伝送線路部を経由して導波管部の内部の給電端子に伝送され、導波管部に高周波信号が給電される。このとき、第2の高周波線路は、第1の線路部分と第2の線路部分との間に屈曲部を有する構造であるため、導波管部と伝送線路部のインピーダンスを整合させる際、給電端子の位置変更の必要が生じたとしても、導波管部の信号伝送方向と同方向に延伸する第1の線路部分の長さを調整すれば、第1の高周波伝送部や給電部の設計変更は不要となる。よって、直線状の伝送線路を用いる場合に比べ、インピーダンス調整に伴う設計変更を最小限に抑えることができる。
【0008】
本発明の伝送線路部を構成する際には多様な線路構造を適用することができる。例えば、第2の高周波伝送線路として、誘電体基板の内層に形成されたストリップ線路又はコプレーナ線路を用いることができる。また例えば、第1の高周波伝送線路として、同軸線路を用いることができる。
【0009】
本発明の給電部には、一方の表面に形成されて外部に露出した給電用接続パッドを含めることができる。この場合、給電用接続パッドとして、コプレーナ線路又はマイクロストリップ線路を用いることができる。これにより、外部から給電用接続パッドのサイズに適したコネクタ等を接続し、容易に導波管構造体に給電することができる。
【0010】
本発明の導波管部のうち両側の側面は、前記第1の方向に沿って配列された複数の柱状導体部からなるポスト壁により構成することができる。これにより、誘電体シート積層技術を適用する場合には、多層の誘電体基板の厚さ方向に延伸する複数のビア導体を用いてポスト壁を容易に形成することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明のホーンアンテナは、複数の誘電体層が積層された誘電体基板に構成されたホーンアンテナであって、信号伝送方向である第1の方向に延伸し、前記第1の方向に直交する断面が矩形状である導波管部と、前記第1の方向における前記導波管部の端部に接続され、前記端部から前記第1の方向に沿って離れるに従って前記矩形断面における電界方向にのみ拡径するホーン部と、前記誘電体基板の一方の表面に形成された給電部と、前記給電部と前記導波管部の内部の給電端子との間を電気的に接続し、前記給電部に給電された高周波信号を前記給電端子まで伝送する伝送線路部とを備えて構成される。前記伝送線路部は、一端が前記給電部に接続され前記誘電体基板の積層方向に延伸する第1の高周波伝送線路と、前記積層方向に直交する平面に沿って前記第1の高周波伝送線路の他端から前記給電端子まで延伸する第2の高周波伝送線路とにより構成され、前記第2の高周波伝送線路は、前記第1の高周波伝送線路の他端から前記第1の方向に沿って延伸する第1の線路部分と、前記導波管部の側面を介して前記導波管部の外側から前記給電端子まで前記第1の方向及び前記積層方向に直交する第2の方向に沿って延伸する第2の線路部分との間に屈曲部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明のホーンアンテナによれば、前述の導波管構造体と同様の作用効果が得られ、良好なアンテナ性能を確保するためのインピーダンス調整に伴う設計変更を最小限に抑えることができる。なお、本発明のホーンアンテナにおいて、ホーン部の拡径方向は第2の方向に一致させることができる。これにより、所謂E面ホーンを構成してホーン部の拡径方向が誘電体基板の平面方向となるため、誘電体基板の薄型化が可能となる。また、本発明のホーンアンテナにおいて、導波管部の両側の側面は、第1の方向に沿って配列された複数の柱状導体部からなるポスト壁により構成し、ホーン部の両側の側面を、積層方向から見たときに、第1の方向及び第2の方向に傾斜する所定方向に沿って配列された複数の柱状導体部からなるポスト壁により構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、誘電体基板を用いた導波管構造体において、給電部と導波管内部の給電端子との間の伝送線路部の構造の工夫により、インピーダンスの整合に際して給電端子の位置変更が必要になったとしても、一部の導体パターンのみの設計変更で済む。そのため、インピーダンス調整に伴う設計変更に起因する設計工数の増加を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の導波管構造体の全体構造を部分的に透過して示す斜視図である。
【
図2】ポスト壁Paの部分的な構造を拡大した部分側面図である。
【
図3】伝送線路部14の構成要素を明示するため
図1の全体構造の一部を除去した斜視図である。
【
図4】
図3のZ方向の上方から主に伝送線路部14を部分的に透過して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、本発明を具体化した導波管構造体について説明を行う。ただし、以下に述べる実施形態は本発明を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0016】
以下、
図1~
図4を用いて、本発明を適用した導波管構造体の基本的な構造例について説明する。ここでは、導波管構造体がホーンアンテナとして機能する場合を例示する。なお、
図1~
図4においては、説明の便宜のため、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向をそれぞれ矢印にて示している。
【0017】
図1は、本実施形態の導波管構造体の全体構造を部分的に透過して示す斜視図である。
図1に示す導波管構造体は、その全体が多層の誘電体基板10を用いて構成され、主要な構成要素として、一体化された導波管部11及びホーン部12と、給電部13と、伝送線路部14とを備えている。誘電体基板10は、X方向に沿う長辺と、Y方向に沿う短辺と、Z方向に沿う所定の厚さを有する直方体の板状部材であり、所定の誘電率を有する誘電体層と、導電材料からなる導体層とを交互に積層してなる。
図1では、前述の導波管部11及びホーン部12、給電部13、伝送線路部14の構造を示すため、誘電体層10を透視して示している。
【0018】
以上の構成において、導波管部11は、X方向を長手方向とする直方体の端部にホーン部12を接続した構造を有する。導波管部11は、後述の伝送経路を経由して給電された高周波信号をX方向に伝送し、ホーン部12から電波として放射する。導波管部11は、Y方向を短辺としZ方向を長辺とする矩形状の断面を有し、概ね長辺の長さが短辺の長さの2倍程度に設定される。これにより、導波管部11には主モードとしてTE10モードが伝搬し、その電界の方向は矩形状の断面の短辺方向(Y方向)に一致する。
【0019】
一方、ホーン部12の断面は、Z方向の長さが導波管部11の長辺の長さに一致するが、Y方向の長さが導波管部11の短辺の長さから、X方向に離れるに従って拡径する。このように、導波管部11の電界の方向がホーン部12の拡径方向と一致するので、導波管部11は所謂E面ホーンアンテナの主要部として機能する。
【0020】
導波管部11の上面と下面は、誘電体基板10のうち最上層の導体層L1(
図2)と、下方の複数の導体層を挟んだ最下層の導体層L2(
図2)とからなる。導波管部11の上面と下面は、それぞれXY平面に平行な平面内でホーン部12の上面と下面に連結している。また、導波管部11のうち直方体領域の両側の側面は、それぞれ柱状導体部である1対のポスト壁Paからなる。同様に、導波管部11のホーン部12の両側の側面も、同様の構造の1対のポスト壁Pbからなる。なお、導波管部11は、X方向において、ホーン部12の側は開口しているが、ホーン部12と反対側は同様のポスト壁(
図1では不図示)で閉塞している。
【0021】
ここで、
図2は、
図1のポスト壁Paの部分的な構造を拡大した部分側面図を示している。
図2に示すように、誘電体基板10にはZ方向に沿って上下の導体層L1、L2を含む複数の導体層Lが積層され、ポスト壁Paは誘電体基板10をZ方向に貫く複数の貫通孔に導電材料を充填して形成した複数のビア導体Vからなる。ポスト壁Paを構成する各々のビア導体Vは、Z方向に沿って多数の導体層Lの間を電気的に接続するとともに、X方向に沿って互いに所定間隔で並んで配列されている。この場合、X方向に隣接するビア導体Vの間隔を導波管部11の管内波長よりも十分小さい間隔に設定することで、導波管部11が所謂ポスト壁導波路として機能する。なお、ホーン部12のポスト壁Pbについても、複数のビア導体Vの配列方向(X方向及びY方向に傾斜する所定方向)が異なるものの、
図2と同様の構造を有する。
【0022】
次に、給電部13は、積層基板10の表面の導体層L1に形成されたコプレーナ線路として機能する。すなわち、給電部13は、給電用接続パッド20と、その周囲のグランド部21とにより構成され、給電用接続パッド20とグランド部21とが空隙を介して対向している。グランド部21はY方向を長辺とする長方形の平面形状を有し、その長方形のY方向の中央位置で給電用接続パッド20がX方向に延伸している。給電部13は、給電用接続パッド20のサイズに適した同軸コネクタやボンディングワイヤなどの信号導体部を給電用接続パッド20に接続することで、外部から入力された高周波信号を導波管構造体に給電する役割がある。
【0023】
給電部13の直下には、伝送線路部14が配置されている。ここで、
図3及び
図4を用いて、伝送線路部14の構造について説明する。
図3は、伝送線路部14の構成要素を明示するため、
図1の全体構造の一部を除去した斜視図である。また、
図4は、
図3のZ方向の上方から主に伝送線路部14を透過して示す平面図である。
図3及び
図4に示すように、伝送線路部14は、給電用接続パッド20の一端からZ方向に沿って下方に延伸する同軸線路部30(本発明の第1の高周波伝送線路)と、所定の導体層の平面内で同軸線路部30の下端から導波管部11の内部まで延伸するストリップ線路部31(本発明の第2の高周波伝送線路)とにより構成される。
【0024】
同軸線路部30は、Z方向に延伸する1つの信号用ビア導体Va(
図3)及び複数のグランド用ビア導体Vb(
図1)から構成され、信号用ビア導体Vaが中心に位置し、その周囲を複数のグランド用ビア導体Vbが円周状に取り囲む疑似同軸線路となっている。信号用ビア導体Vaは、上端が給電用接続パッド20の一端に接続され、下端がストリップ線路部31の一端に接続される。また、複数のグランド用ビア導体Vbは、それぞれの上端が給電用接続パッド20の直下を除いてグランド部21に接続され、それぞれの下端が後述のグランド部32(
図1)に接続される。
【0025】
図4に示すように、ストリップ線路部31は、X方向に沿って延伸する線路部分31aと、Y方向に沿って延伸する線路部分31bと、線路部分31aと線路部分31bの間の屈曲部31cと、導波管部11内部に配置されたT字型の給電端子31dとを含む。また、
図1に示すように、ストリップ線路部31には1対のグランド部32、33が設けられ、上下から線路部分31a、31bと屈曲部31cを挟み込む構造となっている。1対のグランド部32、33は、複数のビア導体Vを介して給電部13のグランド部21と接続されている。これら3つのグランド部21、32、33及びそれぞれを接続する複数のビア導体Vは、導波管構造体の全体のグランドを強化するように作用する。
【0026】
ストリップ線路部31のうち、1対の線路部分31a、31bと屈曲部31cの線幅は一定であり、屈曲部31cで延伸方向が90度変わる箇所の角部は丸みを帯びている。なお、屈曲部31cの形状はこれに限らず、X方向に沿って延伸する線路部分31aとY方向に沿って延伸する線路部分31bとを接続していればよい。また、線路部分31bが導波管部11に挿入する箇所では、ポスト壁Paが部分的に除去されており線路部分31bとポスト壁Paは互いに非接触になっている。線路部分31bの先端にはT字型の給電端子31dが接続され、ストリップ線路部31を伝送した信号が給電端子31dから導波管部11の内部に給電される。
【0027】
本実施形態の導波管構造体をホーンアンテナとして動作させる場合、導波管部11及び伝送線路部14のインピーダンスを整合させる必要がある。インピーダンスが不整合であると反射特性の劣化により伝送損失が増加するからである。導波管構造体のうちインピーダンスに最も影響を与えるのは導波管部11における給電端子31dの位置である。
図4に示すように、本実施形態では、給電端子31dのY方向の位置とZ方向の位置を固定にしつつ、X方向の位置PX(
図4)の調整に応じて最適なインピーダンス整合を図っている。つまり、
図4に示す位置PXを導波管部11のX方向に沿って、ホーン部12に近づく方向又はその反対方向に移動させることで、インピーダンス整合に最適な配置を設定することができる。そして、最適な位置PXの設定に連動して、線路部分31aのX方向の長さを設定することによって、屈曲部31c及び線路部分31bのX方向の位置を設定することができる。なお、この際、導波管部11の内部の給電端子31dの位置PXがX方向に移動すると、線路部分31bが挿入されるポスト壁Paの開口部(ポスト壁Paを部分的に除去する領域)についても変更が必要になる。そのため、ポスト壁Paの開口部を、その内部に挿入される線路部分31bの位置をX方向に調整可能な程度に、大きめに形成しておいてもよい。このようにすると、ポスト壁Paの開口部についての変更が不要になる。
【0028】
ここで、伝送線路部14が給電部13から給電端子31dに至るまで直線状に延伸する構造(例えば、特許文献1の構造)を仮定すると、このような構造では、インピーダンス整合のために給電端子31dの位置PXが変更される場合には、この位置PXに対して給電部13及び伝送線路部14がY方向に対向することになり、これらの位置も全体的にX方向に移動させる必要があるため、インピーダンス調整に伴う設計変更の規模が大きくなる。これに対し、本実施形態の場合、2つの線路部31a、31bの間に屈曲部31cを設けたので、給電部13や同軸線路部30の設計変更は不要となり、ストリップ線路部31のみの設計変更で済む。そのため、本実施形態の導波管構造体の構造を採用すれば、インピーダンス調整に伴う設計変更の規模を小さくでき、設計工数の増加を回避できる効果がある。
【0029】
以上、本実施形態の導波管構造体について具体的に説明したが、本発明を適用可能な導波管構造体は
図1~
図4の構造には限られず、多様な変形例がある。例えば、本実施形態では、導波管構造体をホーンアンテナとして機能させる場合を説明したが、異なる構造のアンテナ、あるいはアンテナ以外の導波管構造体を用いる場合であっても、本発明の適用が可能である。例えば、
図1の導波管部11の端部にホーン部12が接続されずに、高周波信号を後段に伝送させる導波管部11を用いる場合であっても、インピーダンス調整が必要な場合は本実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0030】
図5は、本実施形態の給電部13の変形例を示す斜視図である。
図5の変形例においては、
図3の斜視図のうち給電部13の平面構造が変更されている。すなわち、本変形例の給電部13は、同軸線路部30の直上に四角形の給電用接続パッド22を配置するとともに、給電用接続パッド22の周囲を取り囲むグランド部23を配置した構造を有し、給電用接続パッド22にはボンディングワイヤ40が接続されている。このボンディングワイヤ40を経由して、外部から高周波信号が給電部13に入力される。
【0031】
また、本実施形態の給電部13及び伝送線路部14においては、
図1~
図5と異なる線路構造を採用することができる。すなわち、給電部13の給電接続用パッド20は、コプレーナ線路に限らず、マイクロストリップ線路として機能させてもよい。この場合、給電接続用パッド20の直下に対向するグランド導体を設ける必要がある。一方、伝送線路部14のストリップ線路部31と上下のグランド部32、33に代えて、コプレーナ線路を用いてもよい。この場合、同一の導体層内にストリップ線路部31及びその周囲を取り囲むグランド部を配置する必要がある。
【0032】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、更に多様な変更を施すことができる。例えば、本実施形態では、
図3のストリップ線路部31は1つの屈曲部31cのみ有するが、同様の作用効果が得られる限り、2つ以上の屈曲部31cを有するストリップ線路部31を構成してもよい。また、導波管部11及びホーン部12の両側の側面は、
図1のポスト壁Pa、Pbで構成する場合に限らず、それぞれの側面を覆う金属導体で構成してもよい。その他の点についても上記実施形態により本発明の内容が限定されるものではなく、本発明の作用効果を得られる限り、上記実施形態に開示した内容には限定されることなく適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0033】
10…誘電体基板
11…導波管部
12…ホーン部
13…給電部
14…伝送線路部
20…給電用接続パッド
21…グランド部
30…同軸線路部
31…ストリップ線路部
31a、31b…線路部分
31c…屈曲部
31d…給電端子
32、33…グランド部
40…ボンディングワイヤ
L…導体層
Pa、Pb…ポスト壁
V…ビア導体