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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】質量分析を用いる免疫グロブリンの同定
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240926BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020561661
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 GB2019051239
(87)【国際公開番号】W WO2019211625
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】62/667,076
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】1808529.0
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514212652
【氏名又は名称】ザ バインディング サイト グループ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ダーナンジャイ サクリカール
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ハーディング
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド バーニッジ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ラジコ
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02530521(GB,A)
【文献】国際公開第2017/053932(WO,A1)
【文献】特表2017-513004(JP,A)
【文献】国際公開第2015/154052(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/150170(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の単クローン性の免疫グロブリンを同定する及び/又は定量化するための、ステップ(i)~(iii)を含む方法であって:
(i)対象由来の免疫グロブリンを含む、血液、血清、血漿又は脳脊髄液の試料を提供すること;
(ii)希釈した血液、血清、血漿又は脳脊髄液試料を形成するための水又は水性の緩衝液による血液、血清、血漿又は脳脊髄液試料を希釈すること;
(iii)マトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析又は液体クロマトグラフ-エレクトロスプレーイオン化-質量分析(LC-ESI-MS)によって、希釈した血液、血清、血漿又は脳脊髄液試料をイオン化すること並びに無処置の免疫グロブリン又は免疫グロブリンの軽鎖又は重鎖を検出すること及び任意に定量化すること;
を含み、
前記ステップ(iii)に供される前の血液、血清、血漿または脳脊髄液試料を、他の非免疫グロブリンタンパク質の免疫精製または除去により精製する工程を必要としない、
前記方法。
【請求項2】
前記血液、血清、血漿又は脳脊髄液試料が少なくとも部分的に乾燥され、水又は水性の緩衝液によって再水和される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記希釈された血液、血清、血漿又は脳脊髄液試料が、イオン化される前に、マトリックスによって混合される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
質量分析により、分離された重鎖又は軽鎖の検出及び/又は定量化する前に免疫グロブリンの軽鎖と重鎖を分離するための、還元剤によって血液、血清、血漿又は脳脊髄液試料を処理することを含む、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記軽鎖がカッパ又はラムダ軽鎖である請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記無処置の免疫グロブリン、軽鎖又は重鎖が質量分析前に切断されていない請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記マトリックスがMALDIマトリックスである、請求項からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記血液、血清、血漿又は脳脊髄液試料が、形質細胞(plasma producing cells)と関連する増殖性疾患を有する、又は有すると疑われる対象由来である、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
検出された及び/又は定量化された前記免疫グロブリンが単クローン性の免疫グロブリン、単クローン性の重鎖又は単クローン性の軽鎖である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記血液、血清、血漿又は脳脊髄液試料が質量分析によって検出される前に、1:50から1:5000の間の希釈倍率で希釈される請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
形質細胞(plasma producing cells)と関連する増殖性疾患を診断するために又は予知するために、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法の使用を含む、無処置の免疫グロブリン又は免疫グロブリンの軽鎖又は重鎖を検出し、かつ任意に定量化する方法。
【請求項12】
多クローン性の免疫グロブリン、多クローン性の重鎖又は多クローン性の軽鎖を同定すること及び/又は定量化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は質量分析を用いてイオン化及び検出する前に免疫グロブリンの前精製なしに生体試料由来の免疫グロブリンを同定する及び/又は定量化するための材料及び方法に関する。例えば、単クローン性の免疫グロブリン由来の単クローン性の軽鎖は、酸及び還元剤を含む水性の緩衝液によって単クローン性の免疫グロブリンを含む試料を希釈し、続いてα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸マトリックス(CHCA)を有する試料と混合した後に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析を用いて観測されうる。別の例において、無処置の単クローン性の免疫グロブリンは、水によって単クローン性の免疫グロブリンを含む試料を希釈し、続いてCHCAマトリックスによって試料を混合した後に、MALDI-TOF質量分析を用いて試料中に観察されうる。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫グロブリンはジスルフィド結合によって共に結合される二つの同一の重鎖ポリペプチド及び二つの同一の軽鎖ポリペプチドを含む。二つの異なる軽鎖のアイソタイプ(カッパ及びラムダ)並びに五つの異なる重鎖のアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgD及びIgE)がある。単クローン性の免疫グロブリン、多クローン性の免疫グロブリン、並びに単クローン性の又は多クローン性の免疫グロブリンからの軽鎖及び/又は重鎖の任意の組み合わせは、正確な分子量として質量分析を用いて同定されうる。
【0003】
質量分析による免疫グロブリンの検出及び監視は一般的に当該分野で既知である。
【0004】
例えば、WO 2015/154052A及びWO2014/150170は液体クロマトグラフエレクトロスプレーイオン化四重極飛行時間型質量分析前にMelon Gelを用いて血清試料由来の免疫グロブリンを濃縮することを開示する。同様にWO2015/154052AはLC-ESI-Q-TOF質量分析によってMelon Gel精製を使用する。また、Barnidge D.R.et al(J.Neuroimmunology(2015),285,123-126)では血清試料からの免疫グロブリンを濃縮することを記載する。続いて、精製された血清試料はLC-MSによる分析前に、DTT(ジチオスレイトール)を用いて還元された。
【0005】
Mills et al(Clin.Chem.(2016)62(10)1334-1334)では、MALDI-TOF前に、抗体を精製するために、重鎖又は軽鎖定常ドメインの定常領域に対して、ラクダ類由来のナノボディを使用することを記載する。
【0006】
これらの例は従来通り抗体が質量分析による分析前に精製又は濃縮されることを示す。
【0007】
免疫グロブリンの複雑な精製又は濃縮は、質量分析(M.S.)前に試料における免疫グロブリンを研究する時間を増加させる。
【0008】
Hortin G.L.及びRemaley A.T.(Clin.Geonomics(2006)103-114)では、主要な血漿中のタンパク質の分子量の同定を記載し、そして血清試料を記載した。検体を10 mmol/Lの酢酸アンモニウム及び10g/Lのシナピン酸を含む40%のアクリロニトリル/10%のエタノール/50%の水/0.1%のトリフルオロ酢酸によって希釈した。
【0009】
幅広い範囲の精製したタンパク質、例えば糖タンパク質、トランスフェリン、免疫グロブリンG、アポリポタンパク質及びトランスサイレチンを分析した。
【0010】
二つの検体について希釈した血清試料ではIgG、アルブミン、プレアルブミン、トランスフェリン及びアポリポタンパク質を同定できた。その論文ではいくつかの30,000未満の分子量の最も豊富なタンパク質について(すなわち、例えば147,000の分子量を有するIgGを除いて)、化学修飾及び配列修飾の検出を認める十分な精度及び正確度によって分子量測定を実施できたと結論付けた。また、その論文では分画なしの複雑な混合物の分析において欠点があったことを認める。第一に、最も豊富な成分のみを観測できた。第二に、高いタンパク質濃度及び塩濃度によるシグナルの一般的な抑制があった。アルブミンがm/z 30,000を有する他のピークを検出する能力に干渉することを観察した。その論文はIgG及びアルブミンの選択的な欠乏が用いられるべきであると結論付けた。他の免疫グロブリン、ましてや軽鎖の同定は開示されていない。
【0011】
抗体産生細胞に関連する多くの増殖性疾患がある。
【0012】
多くのそのような増殖性疾患において、形質細胞は増殖し、同一の形質細胞の単クローン性の腫瘍を形成する。これは多量の同一の免疫グロブリンの産生をもたらし、そして単クローン性高ガンマグロブリン血症として知られる。
【0013】
骨髄腫及び原発性全身性アミロイドーシス(AL アミロイドーシス)のような疾病は英国における癌による死亡のそれぞれ約1.5%及び0.3%を占める。多発性骨髄腫は非ホジキンリンパ腫後の血液学的悪性疾患の2番目に一般的な形態である。コーカサス人の人口においてその発生は毎年100万人あたり約40人である。慣習的に、多発性骨髄腫の診断は骨髄の超過した単クローン性の形質細胞、血清又は尿中の単クローン性の免疫グロブリン、及び関連する器官又は組織障害例えば高カルシウム血症、腎機能不全、貧血、又は骨病変の存在に基づいている。骨髄の正常な形質細胞の含有量は約1%であり、一方で多発性骨髄腫においてその含有量は典型的に10%より大きく、高い頻度で30%より大きく、しかし90%を超えうる。
【0014】
AL アミロイドーシスは、アミロイド沈着のような単クローン性の遊離した軽鎖断片の蓄積により特徴づけられたタンパク質のコンフォメーション障害である。典型的に、これらの患者は心臓又は腎臓障害を示すが、また、末梢神経及び他の器官も含まれうる。
【0015】
患者の血流、又は事実上尿中の単クローン性の免疫グロブリンの存在により同定されうる多くの他の疾病がある。これらは形質細胞腫及び骨髄の外側で生じ任意の器官で発生する形質細胞腫瘍の髄外性形質細胞腫を含む。存在する場合、その単クローン性のタンパク質は典型的にIgAである。多発性形質細胞腫は多発性骨髄腫の兆候の有無により起こりうる。ヴァルデンストレームマクログロブリン血症は単クローン性のIgMの産生と関連性のある低グレードのリンパ球増殖性の疾患である。米国において年間約1500、及び英国において300もの新規症例がある。血清IgM定量は診断及び監視の両方について重要である。B細胞性非ホジキンリンパ腫は英国における全ての癌による死の約2.6%の原因であり、そして単クローン性の免疫グロブリンは、約10~15%の患者の血清において標準の電気泳動法を用いて同定された。最初の報告は単クローン性の遊離した軽鎖が60~70%の患者の尿において検出されうることを示す。B細胞の慢性リンパ球性白血病において単クローン性のタンパク質は遊離した軽鎖のイムノアッセイにより同定された。
【0016】
加えて、いわゆるMGUS状態がある。意義不詳の単クローン性ガンマグロブリン血症がある。この用語は、多発性骨髄腫、AL アミロイドーシス、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症等の証拠を有さない個人における単クローン性の無処置の免疫グロブリンの予期されない存在を示す。MGUSは50歳以上の人口の1%、70歳以上の3%及び80歳以上の最大10%において見られうる。これらの大半はIgG-又はIgM-関連であるが、より稀にIgA-関連又は二クローン性である。MGUSを有する大半の人々が無関係な疾病により死ぬが、MGUSは悪性の単クローン性ガンマグロブリン血症に転換する。
【0017】
上記に強調された疾病における少なくともいくつかの症例において、それらの疾病は単クローン性の免疫グロブリン又は遊離した軽鎖の異常な濃度を示す。疾病が形質細胞の異常な複製を引き起こす場合、往々にしてこれはその「単クローン」が増殖して血中に現われるにつれて、その型の細胞によってより多くの免疫グロブリンの産生をもたらす。
【発明の概要】
【0018】
本明細書は質量分析を用いるイオン化及び検出前に免疫グロブリンの前精製なしに生体試料からの免疫グロブリンを同定する及び/又は定量化するための材料及び方法に関する。ある場合において、質量分析技術は、試料由来の他の非免疫グロブリンタンパク質の免疫精製又は除去のいずれかによる免疫グロブリンの追加の精製の必要なしに生体試料中の免疫グロブリンを同定及び/又は定量化するために用いられうる。本明細書で実証されるように、単クローン性の免疫グロブリン、又は多クローン性の免疫グロブリン、及び単クローン性又は多クローン性の免疫グロブリンからの軽鎖及び/又は重鎖の任意の組み合わせは、還元剤を有する又は有さない緩衝液における試料の希釈によって同定されうる。この方法論は、費用を減らしスループットを増加する質量分析を使用するイオン化及び検出前に精製を用いる他の方法を実施するよりもより早い。
【0019】
本出願は水又は水性の緩衝液を用いる、試料の希釈によって又は乾燥試料の再構成物によってさえも、比較的複雑な試料、例えば血液、血清、血漿又は脳脊髄液においてですら免疫グロブリンを検出及び定量化が可能であることを予想外に発見した。
【0020】
本発明は以下の工程を含む試料中の単クローン性及び/又は多クローン性の免疫グロブリンを同定する及び/又は定量化する方法を提供する:
(i)対象からの免疫グロブリンを含む試料を提供すること;
(ii)希釈した試料を形成するための水又は水性の緩衝液によって試料を希釈すること;
(iii)質量分析によって希釈した試料をイオン化すること並びに未処置の免疫グロブリン、又は免疫グロブリンの軽鎖若しくは重鎖を検出すること及び任意に定量化すること。
【0021】
質量分析は潜在的に任意の質量分析技術でありうる。これは、例えば液体クロマトグラフ-エレクトロスプレーイオン化-質量分析(LC-ESI-MS)のような液体クロマトグラフィーとの組み合わせにおける、例えば四重極飛行時間型質量分析を含む。しかしながら、より典型的にその質量分析はマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析である。上述のように、その未精製の希釈された試料は質量分析システムに導入され、試料の全ての成分が同時にシステムに導入されることを意味する。本発明の態様において、液体クロマトグラフ-質量分析(LC-MS)が用いられる場合に、液体クロマトグラフのカラムとの相互作用方法に依存して、異なる時点で質量分析に到達するように、液体クロマトグラフィーのカラムは試料の成分を単に分離する。
【0022】
質量分析がマトリックスの使用を含む技術に基づく場合、その希釈された試料はイオン化される前に適当なマトリックスに混合されうる。例えば、そのマトリックスはトリフルオロ酢酸のような酸を含むアセトニトリル及び水と混合されるα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸マトリックス(CHCA)マトリックスでありうる。例えば、他のマトリックスはシナピン酸、又は2,5-ジヒドロキシ安息香酸を含む。
【0023】
その試料の緩衝液は任意の適当な水性の緩衝液でありうるが、例えば酢酸のような酸の混合物、及びTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)、TCEP-HCl、2-メルカプトエタノール(BME)又はジチオスレイトール(DTT)のような還元剤を含む緩衝液を含む。本発明の好ましい態様において、その緩衝液は酢酸及びTCEP-HClを含みうり、例えばその緩衝液は5%酢酸(v/v)及び20mM TCEP-HClを含みうる。他方、その試料はDTTのような還元剤を用いて還元されうり、続いて酸性の水性溶液と混合されうる。例えば、その試料は10mM DTTによって還元されうり、続いて酸性の水性溶液と混合されうる。
【0024】
軽鎖と結合する重鎖は、緩衝液中に還元剤を含むことによって、又は試料への別々の添加として、お互いに分離されうる。その還元剤は軽鎖から重鎖を分離し、そして別々の重鎖及び軽鎖を検出及び/又は定量化することを可能にする。適当な還元剤は例えば200mMのDTTのように一般的に当該分野で既知である。検出された重鎖は、IgG、IgA、IgM、IgD又はIgMでありうる。その軽鎖はカッパ又はラムダ軽鎖でありうる。
【0025】
典型的に無処置の免疫グロブリン、無処置の軽鎖、又は無処置の重鎖は質量分析前に特定の試薬を用いて切断されない。例えば、その免疫グロブリンは質量分析前に特定のプロテアーゼによって典型的に酵素学的に消化されない。
【0026】
その免疫グロブリンは質量分析前に、例えばアフィニティー精製によって、典型的に濃縮又は精製されない。例えば、その免疫グロブリンは抗重鎖クラス及び/又は軽鎖タイプの抗体、例えば抗IgG、抗IgA、抗IgM、抗κ、抗λ抗体を用いることによって典型的に免疫精製されない。典型的にその免疫グロブリンは、例えばMelon Gel、プロテインA又はプロテインGによって精製されない。典型的にその免疫グロブリンは、例えばクロマトグラフィー、例えばサイズ排除クロマトグラフィーによって精製されない。
【0027】
血液又は組織の試料が提供される場合、細胞例えば赤血球及び/又は白血球は、希釈前に例えば遠心によって除去されうる。
【0028】
試料は、例えば血清、血漿、血液、尿及び脳脊髄液、特に血液、血漿又は血清から選択されうる。その試料はヒトの対象由来でありうる。
【0029】
その試料は、対象、例えば形質細胞(plasma producing cells)と関連する増殖性疾患を有する又は有すると疑われるヒトの対象由来でありうる。それらの増殖性疾患は上記のそれら、例えば単クローン性ガンマグロブリン血症を含む。これらは、例えば、骨髄腫及びAL アミロイドーシス、及び上記のような疾病のような他のものを含む。
【0030】
その試料は乾燥されうり、又は水又は水性の緩衝液によって再水和された少なくとも部分的に乾燥された試料でありうる。これは乾燥状態の試料の貯蔵を可能にすることにおいて意味を有しうり、又は衣類のような物品上で対象由来の乾燥した試料の回収を可能にしうる。さらにその試料の処理は典型的に必要とされない。
【0031】
典型的に検出された及び/又は定量化された免疫グロブリンは単クローン性の免疫グロブリン、単クローン性の重鎖又は単クローン性の軽鎖である。添付された図に示すように、単クローン性の免疫グロブリンは付随する多クローン性の抗体産生と区別できるピークを作り出す。これは本発明の方法によって容易に検出及び/又は定量化されうる。他方、多クローン性の重鎖、多クローン性の軽鎖、及び多クローン性の無処置の免疫グロブリンは検出及び定量化されうる。
【0032】
他方、カッパ及びラムダ軽鎖の相対量は定量化されうり、カッパ軽鎖とラムダ軽鎖との比を決定する。
【0033】
典型的にその軽鎖は遊離した軽鎖である。
【0034】
試料は通常、しかしいつもではないが、質量分析による分析前に希釈される。典型的な希釈は、質量分析による検出前に、1:1,280であるが、1:50と1:5000との間、より典型的には1:500と1:3000又は1:1000と1:2000との間に及びうる。
【0035】
本発明は、試料の複雑な追加の精製技術の必要なしに、例えば、単クローン性の免疫グロブリンの存在又は非存在を早く検出する方法を提供する。
【0036】
別に定めのない限り、本明細書で用いられる全ての技術及び科学用語は本発明に関係がある当業者に一般的に理解されるものと同様の意味を有する。本明細書に記載されるそれらと類似又は同等の方法及び材料は本発明の実施に使用できるが、適当な方法及び材料は以下に記載される。本明細書で記載される全ての出版物、特許出願、特許、及び他の参考文献はそれらの全体において参照によって取り込まれる。矛盾する場合において、定義を含む本明細書が適用されるだろう。加えて、材料、方法、及び実施例は例示のみであり、限定することを意図していない。
【0037】
本発明の一以上の態様の詳細は以下の図面と共に説明される。本発明の他の特徴、課題及び利益は、図面及び特許請求の範囲より明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は次に挙げた手法によって得られた8つのマススペクトルを示す;1)5%酢酸及び20mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)を含む水性の緩衝液中の単クローン性のIgA1カッパ標準(31 g/L濃度)を連続的に希釈すること;2)希釈した試料とCHCAマトリックスとを混合すること;3)MALDI-TOF質量分析を用いて試料を分析すること。マススペクトルは10,500から13,000のm/zの範囲をカバーし、それは単クローン性のカッパ軽鎖の+2の荷電状態を含む。その軽鎖は図1において1から1,280倍希釈に分類され、そしてまた1から160、1から320、1から640、及び1から2,560倍希釈において明らかに観察された。
【0039】
図2図2は5%酢酸及び20mM TCEPを含む水性の緩衝液中のIgA1カッパ標準の連続希釈より+2の荷電状態の強度のプロットを示す。そのプロットは単クローン性のカッパ軽鎖からのシグナル強度が、試料が1から1,280倍まで希釈されるにつれて増加し、続く希釈において減少することを実証する。単クローン性のカッパ軽鎖からの+2の荷電状態からのシグナルが試料を希釈するにつれて増加するその観測は、試料のマトリックスと総タンパク質との比と関連する。
【0040】
図3図3は7,000から25,000に及ぶm/zの範囲にわたって図1から1から1,280倍希釈のMALDI-TOF質量分析を示す。単クローン性のカッパ軽鎖からの+1、+2、及び+3の荷電状態は血清アルブミンからの+3、+4、+5及び+6の荷電状態に沿って図中にラベル化される。その図は血清中最も豊富なタンパク質である血清アルブミンの存在下で単クローン性の軽鎖を観察する能力を示す。
【0041】
図4図4は、5%酢酸及び20mM TCEPを含む水性の緩衝液中で1から1,280倍希釈したIgGカッパM蛋白(4.0 g/L濃度)を有する患者からの試料のMALDI-TOFマススペクトルを示す。単クローン性のカッパ軽鎖からの+2の荷電状態のイオンは11,724.196 m/zで観測される。また、血清アルブミンからの+4の荷電状態のイオンは図中で標識される。
【0042】
図5図5は、5%酢酸及び20mM TCEPを含む水性の緩衝液中で1から1,280倍希釈したIgGラムダM蛋白(6.0 g/L濃度)を有する患者からの試料のMALDI-TOFマススペクトルを示す。単クローン性のラムダ軽鎖からの+2の荷電状態のイオンは11,467.0 m/zで観測される。また、血清アルブミン由来の+4の荷電状態のイオン及び多クローン性のカッパ分子量の分布は図中で標識される。
【0043】
図6図6は、5%酢酸及び20mM TCEPを含む水性の緩衝液中で1から1,280倍希釈したIgAカッパM蛋白(37 g/L濃度)を有する患者からの試料のMALDI-TOFマススペクトルを示す。単クローン性のカッパ軽鎖からの+2の荷電状態のイオンは11,891.836 m/zで観測される。
【0044】
図7図7は、5%酢酸及び20mM TCEPを含む水性の緩衝液中で1から1,280倍希釈した血清タンパク質の電気泳動によって定量化されなかったIgAラムダM蛋白を有する患者からの試料のMALDI-TOFマススペクトルを示す。11,139.298 m/zで標識された単クローン性のラムダ軽鎖からの+2の荷電状態のイオンは図中に標識される。
【0045】
図8図8は5%酢酸及び20mM TCEPを含む水性の緩衝液中で1から1,280倍希釈したIgMカッパM蛋白(8.0 g/L濃度)を有する患者からの試料のMALDI-TOFマススペクトルを示す。単クローン性のカッパ軽鎖からの+2の荷電状態のイオンは11,746.744 m/zで観察される。
【0046】
図9図9は5%酢酸及び20mM TCEPを含む水性の緩衝液中で1から1,280倍希釈したIgMラムダM蛋白(7.0 g/L濃度)を有する患者からの試料のMALDI-TOFマススペクトルを示す。単クローン性のラムダ軽鎖からの+2の荷電状態のイオンは11,350.780 m/zで観察される。
【0047】
図10図10は、それぞれ水で1から200倍希釈したIgGカッパM蛋白(20 g/L濃度)(上のマススペクトル)及び通常のヒト血清(下のマススペクトル)を有する患者からのMALDI-TOFマススペクトルを示す。各試料を酸又は還元剤でなく、水で希釈したので、ジスルフィド結合によって未だに連結された重鎖と軽鎖を有する未処理の単クローン性IgGカッパの+3の荷電状態は、51,150.933 m/z(上のマススペクトル)で観測される。この分子量で通常のヒト血清(下のマススペクトル)からのマススペクトルにピークは存在しない。
【0048】
図11図11は、それぞれ水で1から200倍希釈したIgGカッパM蛋白(20 g/L濃度)(上のマススペクトル)及び通常のヒト血清(下のマススペクトル)を有する患者からのMALDI-TOFマススペクトルを示す。各試料を酸又は還元剤でなく、水で希釈したので、ジスルフィド結合によって未だに連結された重鎖と軽鎖を有する未処理の単クローン性IgGカッパの+3の荷電状態は、49,027.884 m/z(上のマススペクトル)で観察される。この分子量で通常のヒト血清(下のマススペクトル)からのマススペクトルにピークは存在しない。
【0049】
図12A図12は、健常者の血液並びに、一価に荷電した(+1)ピーク(図12A)及び二価に荷電したピーク(図12B)を含む、10 g/L IgGカッパ骨髄腫によってスパイクした血液の再構成された乾燥試料を示す。
【0050】
図12B図12は、健常者の血液並びに、一価に荷電した(+1)ピーク(図12A)及び二価に荷電したピーク(図12B)を含む、10 g/L IgGカッパ骨髄腫によってスパイクした血液の再構成された乾燥試料を示す。
【0051】
試料及び試料の調製
【0052】
本明細書に記載されるように単クローン性の免疫グロブリン又は多クローン性の免疫グロブリンを同定する及び定量化する材料及び方法は、任意の適当な試料を含みうる。試料は任意の生体試料、例えば組織(例えば、脂肪、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、骨、若しくは皮膚組織)又は生体体液(例えば、血液、血清、血漿、尿、涙液、若しくは唾液)でありうる。その試料は免疫グロブリンを有する患者由来でありうり、これらに限定されないが、哺乳類例えばヒト、イヌ、ネコ、霊長類、齧歯動物、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、鳥類、爬虫類、又は魚類を含む。また。試料は人工試薬、例えば既知の組成物の混合物又はコントロール試薬でありうる。ある場合において、その試薬はヒト患者からの血清である。
【0053】
質量分析法
【0054】
本明細書で記載されるように単クローン性の免疫グロブリン又は多クローン性の免疫グロブリンを同定する及び定量化するための材料及び方法は任意の適当な質量分析(MS)技術を含みうる。ある場合において、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間型(TOF)MSは試料のマススペクトルを分析するために用いられうる。
【0055】
さらに本発明は以下の実施例において記載され、それは請求項に記載された発明の範囲を制限しない。
【実施例
【0056】
実施例1:酸及び還元剤を含む水性の緩衝液中の血清試料の希釈、続いてMALDI-TOF MSを用いる試料を分析すること
【0057】
単クローン性及び/又は多クローン性の軽鎖は、酸及び還元剤を含む水性の緩衝液を有する免疫グロブリンを含む試料を第一に希釈すること、続けてMALDIマトリックス例えばα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸マトリックス(CHCA)を有する試料を混合することによって、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(MALDI-TOF)マススペクトルを用いる試料において同定及び/又は定量化されうる。
【0058】
実施例2:水中の血清試料の希釈、続けてMALDI-TOF MSを用いる試料を分析すること
【0059】
無処置の単クローン性の免疫グロブリン及び/又は多クローン性の免疫グロブリンは、水により免疫グロブリンを含む試料を第一に希釈すること、続いて試料とMALDIマトリックス例えばα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸マトリックス(CHCA)とを混合することによって、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析を用いて試料中に観察され同定及び/又は定量化されうる。
【0060】
実施例3:全血乾燥血液スポット
【0061】
方法
【0062】
指の刺し傷より採取したばかりの末梢血を、骨髄腫のIgGカッパパラプロテインの存在の有無で脱イオン水と1+1で混合した。10μLを3 mmの濾紙(Whatman)に染みこませ、そして15分間空気乾燥した。その全血スポットを含む濾紙を最大3日間-80℃で貯蔵した。
【0063】
抽出前に、乾燥血液スポットをフリーザーから除去し、環境温度まで温めた。乾燥血液スポットを濾紙から切り出し、注意深く1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ、続けて100μLの還元-溶出緩衝液(20 mM TCEPを含む5%酢酸)によって30分間抽出した。遠心のパルスに続き、その抽出された液体材料を除去した。半湿式サンドイッチ法を使用するMALDIスチール標的プレート上に自動化された液体ハンドリングシステム(Mosquito)を用いて抽出のスポッティングを実施した。1μLのα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸マトリックス溶液(CHCA、10 mg/mL)を第一にアプライし、乾燥させた。続いて、1μLの抽出した試料に1μLの(CHCA)を一緒にアプライし、15分間乾燥した。マススペクトルを5000から32,000 Daのm/z範囲をカバーする正電荷イオンモードにおいてマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型マススペクトル(MALDI-TOF-MS)システム上で獲得した。
【0064】
結果
【0065】
健常者の全血スペクトルは、ベータ鎖(図12A)から生じる一価に荷電した(+1、15,870 m/z)及び二価に荷電した(+2、m/z 7940)イオンを含むヘモグロビンについて強いシグナルを示した。血液に10 g/LでIgGカッパのパラプロテインを追加した場合に、カッパ軽鎖より生じる追加のシグナルは一価の荷電(+1、m/z 22508)及び2価の荷電(+2、m/z 11261)イオンを含んで観察された(図12A及びB)。
【0066】
結論
【0067】
全血乾燥血液スポットは試料の加工又は濃縮を必要とすることなく、MALDI-TOF MSを用いて入手、溶出及び分析されうる。
【0068】
他の態様
【0069】
本発明がその詳細な記載と共に記載されたが、その前述の記述は例示を意図し、本発明の範囲に制限されず、それらは添付された請求の範囲によって定義されることが理解される。他の側面、利点、及び修飾は以下の請求の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B