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特許7561036筋特異的キナーゼキメラ自己受容体細胞の組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】筋特異的キナーゼキメラ自己受容体細胞の組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240926BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240926BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20240926BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240926BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240926BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240926BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240926BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240926BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240926BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K19/00 ZNA
C07K14/725
C12N15/62 Z
C07K14/47
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K48/00
A61P21/04
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020567760
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 US2019035409
(87)【国際公開番号】W WO2019236593
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】62/680,769
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ペイン エイミー エス.
(72)【発明者】
【氏名】エレブレヒト クリストフ ティー.
(72)【発明者】
【氏名】オー サンウーク
(72)【発明者】
【氏名】マイローン マイケル シー.
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0051035(US,A1)
【文献】国際公開第2015/039015(WO,A2)
【文献】Science,2016年07月08日,Vol.353, No.6295,pp.179-184,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5343513/のPDFファイルを参照。上記の引用箇所は当該PDFファイルのページ数を示す。
【文献】Ann N Y Acad Sci.,2018年01月,Vol.1412, No.1,pp.154-165,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5793885/のPDFファイルを参照。上記の引用箇所は当該PDFファイルのページ数を示す。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K 14/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドであって、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、およびシグナル伝達ドメインをコードし、MuSK自己抗原がSEQ ID NO: 11および23から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、前記ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記MuSK自己抗原が、SEQ ID NO: 11またはSEQ ID NO: 23のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記膜貫通ドメインが、CD8α膜貫通ドメインを含む、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO: 13のアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記共刺激分子の細胞内ドメインが、4-1BB細胞内ドメインを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記4-1BB細胞内ドメインが、SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列を含む、請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記シグナル伝達ドメインが、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、SEQ ID NO: 15のアミノ酸配列を含む、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記CAARが、SEQ ID NO: 9、22、27、および30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項11】
レンチウイルスベクターまたはRNAベクターである、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、およびシグナル伝達ドメインを含み、MuSK自己抗原がSEQ ID NO: 11および23から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、キメラ自己抗体受容体(CAAR)。
【請求項13】
前記MuSK自己抗原が、SEQ ID NO: 11またはSEQ ID NO: 23のアミノ酸配列を含む、請求項12に記載のCAAR。
【請求項14】
前記膜貫通ドメインが、CD8α膜貫通ドメインを含む、請求項12または13に記載のCAAR。
【請求項15】
前記CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO: 13のアミノ酸配列を含む、請求項14に記載のCAAR。
【請求項16】
前記共刺激分子の細胞内ドメインが、4-1BB細胞内ドメインを含む、請求項1215のいずれか一項に記載のCAAR。
【請求項17】
前記4-1BB細胞内ドメインが、SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列を含む、請求項16に記載のCAAR。
【請求項18】
前記シグナル伝達ドメインが、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む、請求項1217のいずれか一項に記載のCAAR。
【請求項19】
前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、SEQ ID NO: 15のアミノ酸配列を含む、請求項18に記載のCAAR。
【請求項20】
SEQ ID NO: 9、22、27、および30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1219のいずれか一項に記載のCAAR。
【請求項21】
請求項1220のいずれか一項に記載のCAARを含む、遺伝子改変細胞。
【請求項22】
CAARを発現し、かつ、B細胞上の自己抗体ベースのBCRに対して高い親和性を有し、任意で、自己抗体を発現するB細胞、または抗体分泌細胞へと成熟しうるB細胞の死滅を誘導する、請求項21に記載の細胞。
【請求項23】
CAARを発現し、かつ、健常細胞に対する限定された毒性を有する、請求項21または請求項22に記載の細胞。
【請求項24】
ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、調節性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、サイトカイン誘導性キラー細胞、それらの細胞株、Tメモリー幹細胞、多能性幹細胞に由来するT細胞、および他のエフェクター細胞からなる群より選択される、請求項2123のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項25】
請求項1~9のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項1220のいずれか一項に記載のCAAR、または請求項2124のいずれか一項に記載の細胞と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項26】
療法に使用するための、請求項2124のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞の有効量を含む組成物。
【請求項27】
前記療法が、それを必要とする対象において自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患を処置すること、または自己抗体媒介性NMJ疾患のリスクがあるかもしくはそれに罹患している対象においてNMJ損傷を阻止するかもしくは低下させることを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記自己抗体媒介性NMJ疾患が重症筋無力症(MG)である、請求項27に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法(35 U.S.C.)第119条(e)の下で、2018年6月5日に出願された米国特許仮出願第62/680,769号の優先権が与えられ、該出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
重症筋無力症(MG)は、ヒトにおける最も一般的な自己抗体媒介性疾患の1つであり、米国においては1年あたり3,000人の新たな患者が発生して、合計で25,000~50,000人の患者に蔓延し;米国、欧州、およびアジアにおいて100万人よりも多くの患者が、重症筋無力症を有すると推定されている。神経筋接合部(NMJ)で発現したタンパク質の抗体攻撃により、筋力低下がもたらされ、これは、たれ目、複視、不安定な歩行、不明瞭発語、ならびに嚥下および呼吸の困難として現れる。MG患者によって産生される自己抗体は、補体を固定するかまたはアセチルコリン受容体(AChR)クラスターを偽ることによって、NMJを破壊する。AChRを介したシグナル伝達にとって不可欠であるAChRクラスターの形成は、膜貫通タンパク質である筋特異的キナーゼ(MuSK)の活性化に依存する。大部分のMG患者は、抗AChR抗体(85%)または抗MuSK抗体(4%)のいずれかを示す。患者のうちの11%は、「血清陰性」と分類され、これは、AChR、MuSK、または他のNMJタンパク質、例えばLRP4に対する低力価の抗体に起因している。呼吸を制御する筋肉の命を脅かす筋力低下のために機械的換気が必要であると定義される筋無力症クリーゼが、MG患者の10~20%において起こり;筋無力症クリーゼ由来の全死亡率は、4.5%である。
【0003】
現在、軽度のMGは、アセチルコリンの分解を阻害するためのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤で処置されるが、MuSK型MG患者は、多くの場合、この形態の治療法には応答しない。より重篤なMGは、プレドニゾロン、アザチオプリンなどの抗増殖剤、およびより進行した疾患においてはリツキシマブで処置される。抗MuSK抗体力価は、リツキシマブ後には、陰性範囲にまでも落下し、これは、短命の形質細胞が抗MuSK抗体の大多数を産生することを示している。
【0004】
重症筋無力症のためのより特異的かつ有効な処置の達成について、当技術分野において緊急の必要がある。本発明は、この必要に対処する。
【発明の概要】
【0005】
キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドであって、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインをコードする、前記ポリヌクレオチドが提供される。いくつかの態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列を含む核酸配列によってコードされる。さらなる態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。いくつかの態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0006】
いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、CD8α膜貫通ドメインを含む。さらなる態様において、CD8α膜貫通ドメインは、SEQ ID NO: 5または18を含む核酸配列によってコードされる。またさらなる態様において、CD8α膜貫通ドメインは、SEQ ID NO: 13のアミノ酸配列を含む。
【0007】
いくつかの態様において、共刺激分子の細胞内ドメインは、4-1BB細胞内ドメインを含む。さらなる態様において、4-1BB細胞内ドメインは、SEQ ID NO: 7または19を含む核酸配列によってコードされる。またさらなる態様において、4-1BB細胞内ドメインは、SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列を含む。
【0008】
いくつかの態様において、シグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む。さらなる態様において、CD3ζシグナル伝達ドメインは、SEQ ID NO: 8または20を含む核酸配列によってコードされる。またさらなる態様において、CD3ζシグナル伝達ドメインは、SEQ ID NO: 15のアミノ酸配列を含む。
【0009】
いくつかの態様において、CAARは、SEQ ID NO: 1、16、21、24、25、および28からなる群より選択される核酸配列によってコードされる。さらなる態様において、CAARは、SEQ ID NO: 9、22、27、および30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0010】
いくつかの態様において、CAARは、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)膜貫通ドメイン、およびKIR細胞質ドメインを含む。
【0011】
前述の態様のいずれか1つのポリヌクレオチドを含む、ベクターが提供される。いくつかの態様において、ベクターはレンチウイルスベクターである。さらなる態様において、ベクターはRNAベクターである。
【0012】
いくつかの態様において、ベクターは、CAARをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結した誘導性プロモーターを含む。
【0013】
また、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメインを含む、キメラ自己抗体受容体(CAAR)も提供される。
【0014】
また、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインを含む、キメラ自己抗体受容体(CAAR)も提供される。
【0015】
いくつかの態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列によってコードされる。さらなる態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。
【0016】
いくつかの態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0017】
いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、CD8α膜貫通ドメインを含む。さらなる態様において、CD8α膜貫通ドメインは、SEQ ID NO: 5または18を含む核酸配列によってコードされる。またさらなる態様において、CD8α膜貫通ドメインは、SEQ ID NO: 13のアミノ酸配列を含む。
【0018】
いくつかの態様において、共刺激分子の細胞内ドメインは、4-1BB細胞内ドメインを含む。さらなる態様において、4-1BB細胞内ドメインは、SEQ ID NO: 7または19を含む核酸配列によってコードされる。またさらなる態様において、4-1BB細胞内ドメインは、SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列を含む。
【0019】
いくつかの態様において、シグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む。さらなる態様において、CD3ζシグナル伝達ドメインは、SEQ ID NO: 8または20を含む核酸配列によってコードされる。またさらなる態様において、CD3ζシグナル伝達ドメインは、SEQ ID NO: 15のアミノ酸配列を含む。
【0020】
いくつかの態様において、CAARは、SEQ ID NO: 1、16、21、24、25、および28からなる群より選択される核酸配列によってコードされる。さらなる態様において、CAARは、SEQ ID NO: 9、22、27、および30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0021】
いくつかの態様において、CAARは、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメインを含む細胞外ドメイン、KIR膜貫通ドメイン、およびKIR細胞質ドメインを含む。
【0022】
以前の態様のいずれか1つのCAARを含む、遺伝子改変細胞が提供される。いくつかの態様において、細胞は、CAARを発現し、かつ、B細胞上の自己抗体ベースのBCRに対して高い親和性を有する。いくつかの態様において、細胞は、CAARを発現し、かつ、自己抗体を発現するB細胞、または抗体分泌細胞へと成熟しうるB細胞の死滅を誘導する。さらなる態様において、細胞は、CAARを発現し、かつ、健常細胞に対する限定された毒性を有する。またさらなる態様において、細胞は、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、調節性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、サイトカイン誘導性キラー細胞、それらの細胞株、Tメモリー幹細胞、多能性幹細胞に由来するT細胞、および他のエフェクター細胞からなる群より選択される。
【0023】
また、(a)前述の態様のいずれか1つのキメラ自己抗体受容体と;(b)DAP12とを含む、遺伝子改変細胞も提供される。
【0024】
いくつかの態様において、前述の態様のいずれか1つの細胞は、誘導性プロモーターに機能的に連結した、CAARをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0025】
前述の態様のいずれか1つのポリヌクレオチド、前述の態様のいずれか1つのCAAR、または前述の態様のいずれか1つの細胞と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物が提供される。
【0026】
対象において自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患を処置するための方法であって、該方法が、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子改変細胞の有効量を該対象に投与する段階を含み、該ポリヌクレオチドが、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインをコードし、それにより、該対象において自己抗体媒介性NMJ疾患を処置する、前記方法が提供される。
【0027】
自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象においてNMJ損傷を阻止するかまたは低下させるための方法であって、該方法が、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子改変細胞の有効量を該対象に投与する段階を含み、該ポリヌクレオチドが、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインをコードし、それにより、該対象においてNMJ損傷を阻止するかまたは低下させる、前記方法が提供される。
【0028】
対象において自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患を処置するための方法であって、該方法が、(a)MuSK自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)膜貫通ドメイン、およびKIR細胞質ドメインをコードする、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドと;(b)DAP12をコードするポリヌクレオチドとを含む遺伝子改変細胞の有効量を該対象に投与する段階を含み、それにより、該対象において自己抗体媒介性NMJ疾患を処置する、前記方法が提供される。
【0029】
自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象においてNMJ損傷を阻止するかまたは低下させるための方法であって、該方法が、(a)MuSK自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)膜貫通ドメイン、およびKIR細胞質ドメインをコードする、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドと;(b)DAP12をコードするポリヌクレオチドとを含む遺伝子改変細胞の有効量を該対象に投与する段階を含み、それにより、該対象において自己抗体媒介性NMJ疾患を処置する、前記方法が提供される。
【0030】
いくつかの態様において、ポリヌクレオチドは、本明細書に記載されたポリヌクレオチドのいずれか1つである。
【0031】
いくつかの態様において、CAARは、本明細書に記載されたCAARのいずれか1つである。
【0032】
いくつかの態様において、自己抗体媒介性NMJ疾患は、重症筋無力症(MG)である。
【0033】
いくつかの態様において、対象はヒトである。
【0034】
いくつかの態様において、改変細胞は、B細胞を標的とする。
【0035】
いくつかの態様において、改変細胞はT細胞である。
[本発明1001]
キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドであって、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインをコードする、前記ポリヌクレオチド。
[本発明1002]
前記MuSK自己抗原またはその断片が、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列を含む核酸配列によってコードされる、本発明1001のポリヌクレオチド。
[本発明1003]
前記MuSK自己抗原またはその断片が、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる、本発明1001のポリヌクレオチド。
[本発明1004]
前記MuSK自己抗原またはその断片が、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、本発明1001のポリヌクレオチド。
[本発明1005]
前記MuSK自己抗原またはその断片が、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、本発明1001のポリヌクレオチド。
[本発明1006]
前記膜貫通ドメインが、CD8α膜貫通ドメインを含む、本発明1001~1005のいずれかのポリヌクレオチド。
[本発明1007]
前記CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO: 5または18を含む核酸配列によってコードされる、本発明1006のポリヌクレオチド。
[本発明1008]
前記CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO: 13のアミノ酸配列を含む、本発明1006のポリヌクレオチド。
[本発明1009]
前記共刺激分子の細胞内ドメインが、4-1BB細胞内ドメインを含む、本発明1001~1008のいずれかのポリヌクレオチド。
[本発明1010]
前記4-1BB細胞内ドメインが、SEQ ID NO: 7または19を含む核酸配列によってコードされる、本発明1009のポリヌクレオチド。
[本発明1011]
前記4-1BB細胞内ドメインが、SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列を含む、本発明1009のポリヌクレオチド。
[本発明1012]
前記シグナル伝達ドメインが、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む、本発明1001~1011のいずれかのポリヌクレオチド。
[本発明1013]
前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、SEQ ID NO: 8または20を含む核酸配列によってコードされる、本発明1012のポリヌクレオチド。
[本発明1014]
前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、SEQ ID NO: 15のアミノ酸配列を含む、本発明1012のポリヌクレオチド。
[本発明1015]
前記CAARが、SEQ ID NO: 1、16、21、24、25、および28からなる群より選択される核酸配列によってコードされる、本発明1001~1014のいずれかのポリヌクレオチド。
[本発明1016]
前記CAARが、SEQ ID NO: 9、22、27、および30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、本発明1001~1014のいずれかのポリヌクレオチド。
[本発明1017]
前記CAARが、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)膜貫通ドメイン、およびKIR細胞質ドメインを含む、本発明1001~1005のいずれかのポリヌクレオチド。
[本発明1018]
本発明1001~1017のいずれかのポリヌクレオチドを含む、ベクター。
[本発明1019]
レンチウイルスベクターである、本発明1018のベクター。
[本発明1020]
RNAベクターである、本発明1019のベクター。
[本発明1021]
CAARをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結した誘導性プロモーターを含む、本発明1018~1020のいずれかのベクター。
[本発明1022]
筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメインを含む、キメラ自己抗体受容体(CAAR)。
[本発明1023]
筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインを含む、キメラ自己抗体受容体(CAAR)。
[本発明1024]
前記MuSK自己抗原またはその断片が、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列によってコードされる、本発明1022または本発明1023のCAAR。
[本発明1025]
前記MuSK自己抗原またはその断片が、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる、本発明1022または本発明1023のCAAR。
[本発明1026]
前記MuSK自己抗原またはその断片が、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、本発明1022または本発明1023のCAAR。
[本発明1027]
前記MuSK自己抗原またはその断片が、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、本発明1022または本発明1023のCAAR。
[本発明1028]
前記膜貫通ドメインが、CD8α膜貫通ドメインを含む、本発明1023~1027のいずれかのCAAR。
[本発明1029]
前記CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO: 5または18を含む核酸配列によってコードされる、本発明1028のCAAR。
[本発明1030]
前記CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO: 13のアミノ酸配列を含む、本発明1028のCAAR。
[本発明1031]
前記共刺激分子の細胞内ドメインが、4-1BB細胞内ドメインを含む、本発明1023~1030のいずれかのCAAR。
[本発明1032]
前記4-1BB細胞内ドメインが、SEQ ID NO: 7または19を含む核酸配列によってコードされる、本発明1031のCAAR。
[本発明1033]
前記4-1BB細胞内ドメインが、SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列を含む、本発明1031のCAAR。
[本発明1034]
前記シグナル伝達ドメインが、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む、本発明1023~1033のいずれかのCAAR。
[本発明1035]
前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、SEQ ID NO: 8または20を含む核酸配列によってコードされる、本発明1034のCAAR。
[本発明1036]
前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、SEQ ID NO: 15のアミノ酸配列を含む、本発明1034のCAAR。
[本発明1037]
SEQ ID NO: 1、16、21、24、25、および28からなる群より選択される核酸配列によってコードされる、本発明1023~1036のいずれかのCAAR。
[本発明1038]
SEQ ID NO: 9、22、27、および30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、本発明1023~1036のいずれかのCAAR。
[本発明1039]
筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメインを含む細胞外ドメイン、KIR膜貫通ドメイン、およびKIR細胞質ドメインを含む、本発明1023~1038のいずれかのCAAR。
[本発明1040]
本発明1022~1039のいずれかのCAARを含む、遺伝子改変細胞。
[本発明1041]
CAARを発現し、かつ、B細胞上の自己抗体ベースのBCRに対して高い親和性を有する、本発明1040の細胞。
[本発明1042]
CAARを発現し、かつ、
自己抗体を発現するB細胞、または
抗体分泌細胞へと成熟しうるB細胞
の死滅を誘導する、本発明1040または1041の細胞。
[本発明1043]
CAARを発現し、かつ、健常細胞に対する限定された毒性を有する、本発明1040~1042のいずれかの細胞。
[本発明1044]
ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、調節性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、サイトカイン誘導性キラー細胞、それらの細胞株、Tメモリー幹細胞、多能性幹細胞に由来するT細胞、および他のエフェクター細胞からなる群より選択される、本発明1040~1043のいずれかの細胞。
[本発明1045]
(a)本発明1039のキメラ自己抗体受容体と;(b)DAP12とを含む、遺伝子改変細胞。
[本発明1046]
誘導性プロモーターに機能的に連結した、CAARをコードするポリヌクレオチドを含む、本発明1040~1045のいずれかの細胞。
[本発明1047]
本発明1001~1017のいずれかのポリヌクレオチド、本発明1022~1039のいずれかのCAAR、または本発明1040~1046のいずれかの細胞と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物。
[本発明1048]
対象において自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患を処置するための方法であって、
該方法が、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子改変細胞の有効量を該対象に投与する段階を含み、
該ポリヌクレオチドが、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインをコードし、
それにより、該対象において自己抗体媒介性NMJ疾患を処置する、前記方法。
[本発明1049]
自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象においてNMJ損傷を阻止するかまたは低下させるための方法であって、
該方法が、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子改変細胞の有効量を該対象に投与する段階を含み、
該ポリヌクレオチドが、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインをコードし、
それにより、該対象においてNMJ損傷を阻止するかまたは低下させる、前記方法。
[本発明1050]
対象において自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患を処置するための方法であって、該方法が、
(a)MuSK自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)膜貫通ドメイン、およびKIR細胞質ドメインをコードする、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドと;
(b)DAP12をコードするポリヌクレオチドと
を含む遺伝子改変細胞の有効量を該対象に投与する段階を含み、それにより、該対象において自己抗体媒介性NMJ疾患を処置する、前記方法。
[本発明1051]
自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象においてNMJ損傷を阻止するかまたは低下させるための方法であって、該方法が、
(a)MuSK自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)膜貫通ドメイン、およびKIR細胞質ドメインをコードする、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドと;
(b)DAP12をコードするポリヌクレオチドと
を含む遺伝子改変細胞の有効量を該対象に投与する段階を含み、それにより、該対象において自己抗体媒介性NMJ疾患を処置する、前記方法。
[本発明1052]
前記ポリヌクレオチドが、本発明1001~1017のいずれかのポリヌクレオチドである、本発明1048および1051のいずれかの方法。
[本発明1053]
前記CAARが、本発明1022~1039のいずれかのCAARである、本発明1048および1051のいずれかの方法。
[本発明1054]
前記自己抗体媒介性NMJ疾患が重症筋無力症(MG)である、本発明1048~1053のいずれかの方法。
[本発明1055]
前記対象がヒトである、本発明1048~1054のいずれかの方法。
[本発明1056]
前記改変細胞が、B細胞を標的とする、本発明1048~1055のいずれかの方法。
[本発明1057]
前記改変細胞がT細胞である、本発明1048~1056のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0036】
本発明の好ましい態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読んだ場合に、より良く理解されるであろう。本発明を実例で説明するために、現時点で好ましい態様を図面において示している。しかし、本発明は、図面中に示されている態様の厳密な配置および手段には限定されないことが理解されるべきである。
【0037】
図1】MG患者由来の自己抗体が、AChRクラスターおよびNMJを破壊することを示す図解である。抗AChR抗体は、AChRクラスターに干渉し、抗MuSK抗体は、AChRクラスタリングを調節するMuSK/LRP4複合体を崩壊させる。
図2】CAAR-T細胞が、自己抗原認識B細胞を特異的に死滅させることを示す図解である。CAAR-T細胞は、T細胞受容体シグナル伝達ドメインに融合したキメラ免疫受容体の細胞外ドメインとして、表面上に自己抗原を発現する。Ag特異的B細胞は、CAAR-T細胞に結合するB細胞受容体を発現する。CAAR-T細胞は、メディエーター(赤色の点)を分泌して、Ag特異的B細胞を死滅させる。
図3A図3A~3Bは、例示的なMuSK CAAR構築物を示す一連の画像である。図3A:MuSK CAAR構築物pTRPE.MuSKWT.BBz CAARおよびpTRPE.MuSKI96A.BBz CAARの模式図。図3B:完全長MuSK CAARは、先行技術において記載されたようなMuSKエピトープをすべて含む(Huijbers et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 110(51): 20783-20788)。
図3B図3Aの説明を参照のこと。
図4図4A~4Bは、MuSK CAAR構築物を示し、CAAR-T細胞が、細胞表面上にMuSK wtおよびMuSK I96A細胞外ドメイン(ECD)を成功裡に発現することを示す。図4A:MuSK野生型(wt)/I96A CAAR 構築物の模式図。MuSK wt ECDのアミノ酸96位のイソロイシンが、アラニンへと変異し、白四角として示されている。図4B:pTRPEレンチウイルスベクター中のMuSK wt/I96A CAARを、初代ヒトCD3+ T細胞中に形質導入した。形質導入後5日目に、MuSK wt/I96A CAAR の表面発現を、抗MuSK抗体4A3を用いて検出した。
図5A図5A~5Bは、トランスフェクトされた細胞の表面上のMuSK CAARの発現を実証する、一連の略図、グラフ、およびヒストグラムである。図5A:MuSK CAAR構築物pTRPE.MuSKWT.BBz CAARおよびpTRPE.MuSKI96A.BBz CAARの略図。図5B(上のパネル):非トランスフェクト細胞(非、左)、MuSKWTトランスフェクト細胞(中央)、およびMuSKI96Aトランスフェクト細胞(右)上のMuSK CAARの表面発現を、抗MuSK-APC抗体を用いて検出した。図5B(下のパネル):上のパネルにおける抗MuSK-APC抗体の平均蛍光強度:非トランスフェクト細胞(右の列)、MuSKWT(中央の列)、およびMuSKI96A(左の列)。293T細胞に、Lipofectamine 2000を用いてトランスフェクトした。CD3+ T細胞には、レンチウイルスを用いて形質導入した。
図5B図5Aの説明を参照のこと。
図6】MuSK CAARが、抗MuSK BCRを認識して、TCRシグナル伝達を活性化することを示す、一連の略図およびフローサイトメトリープロットである。MuSK CAARを発現するJurkat NFAT-GFPレポーター細胞を、抗MuSK BCR発現ハイブリドーマ細胞と共培養した。Jurkat NFAT-GFPレポーター細胞における活性化されたTCRシグナル伝達は、GFP発現を誘導する。MuSK CAARは、抗MuSK BCRによって活性化され、TCRシグナル伝達を成功裡に開始した(太字長方形)。(非=非トランスフェクト。フローサイトメトリー解析を、4A3ハイブリドーマ細胞との共培養12時間後に実施した。Jurkat細胞を、抗CD3-APC抗体で染色して、4A3ハイブリドーマ細胞と区別した。TCRシグナル伝達が形質導入された場合に、Jurkat NFAT-GFP細胞はGFP発現を誘導した。)
図7】MuSK CAAR操作された初代ヒトT細胞が、4A3抗MuSKハイブリドーマ細胞を死滅させることを、MuSK CAAR-T細胞との4時間の共インキュベーション後の51Cr標識4A3細胞の特異的溶解のパーセントに基づいて実証する、一連の画像およびグラフである。比較すると、MuSK CAAR-T細胞は、非標的Nalm-6細胞を死滅させず、これは、MuSK CAAR-T細胞による標的細胞死滅の特異性を示している。
図8】4A3標的細胞結合後に、MuSK CAAR T細胞はインターフェロンγを分泌するが、非形質導入T細胞は分泌しないことを示す、一連のヒストグラムである。
図9A図9A~9Bは、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞が、抗MuSK B細胞受容体3-28を発現するように操作されたNalm6 B細胞を特異的に死滅させる(図9A)が、Nalm-6 wt細胞は死滅させない(図9B)ことを示す。Nalm-6 wt細胞は、緑色蛍光タンパク質(GFP)チャンネルにおいて放射するコメツキムシルシフェラーゼ緑色(CBG)タンパク質、および、B細胞受容体(BCR)として表面免疫グロブリンの発現に必要であるCD79a/CD79bを安定に発現していた。MuSK wt/I96A CAAR-T標的細胞としてのNalm6 3-28(抗MuSK BCR)細胞を生成するために、3-28 IgG4 BCRをNalm-6/CBG/CD79a/CD79b細胞中に導入し、GFP+hIgG+細胞をソーティングした。ソーティングされたNalm6 3-28細胞またはNalm6 wt細胞を、指示されたエフェクター:標的(E:T)比で22時間、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞またはCART-19細胞と共培養した。Nalm6細胞中のルシフェラーゼ活性を、150μg/mlの最終濃度になるようにルシフェリンを添加することによって検出した。特異的溶解パーセントを、以下の方程式によって算出した:特異的溶解の%=[(実験試料-自然細胞死試料)/(最大細胞死試料-自然細胞死試料試料)]100。最大細胞死は、5% SDSでの溶解によって誘導した。
図9B図9Aの説明を参照のこと。
図10】MuSK wt/I96A CAAR-T細胞が、抗MuSK B細胞受容体3-28を発現するように操作されたNalm6 B細胞との相互作用後にIFNγを分泌することを示す。図9A~9Bに示されるようにルシフェラーゼ活性を解析した後に、スピンダウン後の上清を収集した。ヒトIFNγを、Human IFN-gamma DuoSet ELISA kit(R&D Systems)によって検出した。培地のみ試料での独立両側t検定;ns:非有意、**:<0.005、***:<0.0005。左から右へのグラフの棒:培地のみ、NTD、MuSK wt CAAR、MuSK I96A CAAR、およびCART-19。
図11図11A~11Bは、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞が、抗MuSK抗体を産生する4A3ハイブリドーマ細胞を死滅させ、かつIFNγを分泌することを示す。図11A:4A3ハイブリドーマ細胞を、51Crを用いて標識し、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞またはCART-19細胞と21時間共培養した。特異的溶解パーセントを、以下の方程式によって算出した:特異的溶解の%=[(実験試料-自然細胞死試料)/(最大細胞死試料-自然細胞死試料試料)]100。最大細胞死は、5% SDS(最終5%)を添加することによって誘導した。図11B:MuSK wt/I96A CAAR-T細胞を、非標識4A3ハイブリドーマ細胞と21時間共培養した。スピンダウン後の上清を収集した。ヒトIFNγを、Human IFN-gamma DuoSet ELISA kit(R&D Systems)によって検出した。
図12A図12A~12Bは、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞が、インビボで抗MuSK標的細胞を除去することを示す。図12A:0.5×106個の CBG+hIgG+ Nalm6 3-28細胞を、静脈内免疫グロブリン(IVIG、Privigen、2日間毎日の600 mg/kg腹腔内注射)での前処置後のNSGマウス中に、静脈内注射した。4日後に、5×106個の指示されたCAAR-T細胞またはCAR-T細胞を、静脈内注射した(橙色の矢印)。非形質導入(NTD)T細胞およびDesmoglein(DSG)3 EC1-3 CAAR-T細胞を、陰性対照と考え、Nalm6細胞はCD19を発現するため、CART-19細胞を陽性対照として用いた。生物発光を、1、3、5、7、および9日目にIVIS Luminaで定量した。同時に、600 mg/kg IVIGもまた、2日毎に腹腔内投与した。総フラックスを、Living Image 4.5 software(PerkinElmer)を用いて定量した。画像を、1分間隔で連続的に撮った。図12B図12Aにおける各処置群についての生物発光フラックス(光子/秒)を示し、MuSK wt/I96A CAAR T細胞が、CART-19細胞に対する効力に匹敵して、抗MuSK Nalm6標的細胞を制御するのに対して、陰性対照のNTD細胞およびDSG3 EC1-3 CAAR T細胞は、抗MuSK Nalm6標的細胞の増殖を制御しないことを示す。
図12B図12Aの説明を参照のこと。
図13図13A~13Bは、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞が、IFNγを分泌して、インビボで抗MuSK標的細胞を除去することを示す。図13A:マウスの体重を、図12Aにおける画像化の直後に測定した。最初の体重のパーセンテージを、1日目(100%)と比べて算出した。図13B:T細胞注射の24時間後に、後眼窩採血によって血液試料を収集した。マウス血清を、さらなる解析のために-20℃で保存した。ヒトIFNγを、Human IFN-gamma DuoSet ELISA kit(R&D Systems)によって検出した。ND463_NTDでの独立両側t検定;ns:非有意、**:<0.005。
図14】MuSK wt/I96A CAARの模式図である。コドン最適化されたドメインを、薄い灰色の四角として示す。図15および16に示される実験以外の本明細書に記載された実験はすべて、ベクター#2(pTRPE.MuSKWT.BBz CAAR)およびベクター#4(pTRPE.MuSKI96A.BBz CAAR)を用いて実施した。ベクター#5(pTRPE.MuSKWT_opt.BBz CAAR)およびベクター#6(pTRPE.MuSKWT_opt.BBz CAAR)を、図15および16のために用いた。ベクター#5およびベクター#6は、細胞外ドメインとGSリンカーとの間にいかなる制限酵素部位も有さない(輪郭を伴わない白色の点として示される)。
図15】コドン最適化されたMuSK wt/I96A CAARが、ヒト初代CD3+ T細胞において発現されることを示す。pTRPEレンチウイルスベクター中のMuSK wt_optまたはMuSKI96A_opt CAARを、初代ヒトCD3+ T細胞中に形質導入した。形質導入後5日目に、MuSK wt_optまたはMuSK I96A_optの表面発現を、抗MuSK (4A3) PEコンジュゲート抗体を用いて検出した。
図16】コドン最適化されたMuSK wt/I96A CAAR-T細胞が、抗MuSK B細胞受容体3-28を発現するように操作されたNalm6 B細胞を死滅させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
本発明は、抗筋特異的キナーゼ(MuSK)B細胞受容体(BCR)に特異的なキメラ自己抗体受容体(CAAR)、該CAARを含む組成物、該CAARをコードするポリヌクレオチド、該CAARをコードするポリヌクレオチドを含むベクター、および該CAARを含む組換え細胞、例えば、T細胞を含む。
【0039】
本発明はまた、MuSK-CAARを発現する遺伝子改変細胞、例えば、遺伝子改変T細胞を作製する方法も含み、ここで、発現したCAARは、MuSK細胞外ドメインを含む。
【0040】
本発明はまた、一般に、自己抗原(例えば、MuSK)のターゲティングに関連する、神経筋接合部(NMJ)疾患(例えば、重症筋無力症(MG))を処置するための、CAARを発現するように操作された細胞、例えば、T細胞の使用にも関する。1つの態様において、本発明のCAARを発現する細胞、例えば、T細胞は、抗MuSK BCR発現細胞に特異的に結合して死滅させるが、正常BCR発現細胞には結合せず、死滅させない。
【0041】
定義
別に定める場合を除き、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されたものと同様または同等な任意の方法および材料を本発明の試験の実地におよび/または本発明の試験のための実地に用いることができるが、本明細書では好ましい材料および方法について説明する。本発明の説明および特許請求を行う上では、以下の専門用語を、その定義方法、定義が提供されている箇所に従って用いる。
【0042】
また、本明細書中で用いる専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、限定的であることは意図しないことも理解される必要がある。
【0043】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は、本明細書において、その冠詞の文法的目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指して用いられる。一例として、「1つの要素」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0044】
量、時間的長さなどの測定可能な値に言及する場合に本明細書で用いる「約」は、特定された値からの±20%または±10%、場合によっては±5%、場合によっては±1%、場合によっては±0.1%のばらつきを包含するものとするが、これはそのようなばらつきが、開示された方法を実施する上で妥当なためである。
【0045】
「抗体」という用語は、抗原と結合する免疫グロブリン分子のことを指す。抗体は、天然供給源または組換え供給源に由来する無傷の免疫グロブリンであってもよく、無傷の免疫グロブリンの免疫応答部分であってもよい。抗体は典型的には、免疫グロブリン分子のテトラマーである。抗体は、例えば、単一ドメイン抗体断片(sdAb)、一本鎖抗体(scFv)およびヒト化抗体を含む、連続ポリペプチド鎖の一部として抗体が発現される種々の形態で存在しうる(Harlow et al., 1999, In: Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY;Harlow et al., 1989, In: Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York;Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0046】
本明細書で用いる「高親和性」という用語は、標的分子に対する結合分子の結合または相互作用または引力における高い特異性のことを指す。例えば、いくつかの態様において、例えば、表面プラズモン共鳴によって測定された場合に、結合分子は、100 nM、50 nM、20 nM、15 nM、10 nM、9 nM、8 nM、7 nM、6 nM、5 nM、4 nM、3 nM、2 nM、または1 nMよりも強い標的分子に対する親和性を有しうる。
【0047】
本明細書で用いる「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を誘発する分子と定義される。この免疫応答には、抗体産生、または特異的免疫適格細胞の活性化のいずれかまたは両方が含まれうる。当業者は、事実上すべてのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原としての役を果たしうることを理解するであろう。その上、抗原が組換えDNAまたはゲノムDNAに由来してもよい。当業者は、免疫応答を惹起するタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、それ故に、本明細書中でその用語が用いられる通りの「抗原」をコードすることを理解するであろう。その上、当業者は、抗原が遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされる必要はないことも理解するであろう。本発明が複数の遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用を非限定的に含むこと、およびこれらのヌクレオチド配列が所望の免疫応答を惹起するポリペプチドをコードするさまざまな組み合わせで並べられていることは直ちに明らかである。さらに、当業者は、抗原が「遺伝子」によってコードされる必要が全くないことも理解するであろう。抗原を合成して作製することもでき、または生物試料から得ることもできることは直ちに明らかである。そのような生物試料には、組織試料、細胞、または生体液が非限定的に含まれうる。
【0048】
「自己抗原(autoantigen)」とは、自己抗体の産生などの、自己免疫応答の産生を刺激する内因性抗原を意味する。自己抗原はまた、自己免疫疾患の発症を結果としてもたらしうる細胞媒介性または抗体媒介性の免疫応答の標的である、自己抗原(self-antigen)または正常組織由来の抗原も含む。自己抗原の例には、MuSKおよびその断片が非限定的に含まれる。
【0049】
本明細書で用いる「限定された毒性」という用語は、インビトロまたはインビボのいずれかで、健常細胞、非罹患細胞、非標的細胞、またはそのような細胞の集団に対する実質的に負の生物学的作用または実質的に負の生理的症状の欠如を表す、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、細胞、および/または抗体のことを指す。
【0050】
「自己抗体」とは、自己抗原に特異的である抗体のことを指す。
【0051】
本明細書で用いる「自己免疫疾患」という用語は、自己抗原に対する抗体媒介性自己免疫応答から結果として生じる障害または状態として定義される。自己免疫疾患は、自己抗原(self-antigen)または自己抗原(autoantigen)に対して不適切に産生される、かつ/または過剰に産生される自己抗体の産生を結果としてもたらす。
【0052】
本明細書で用いる場合、「自己」という用語は、後にその個体中に再導入される、同じ個体に由来する任意の材料のことを指すものとする。
【0053】
「同種」とは、同じ種の異なる動物に由来する任意の材料のことを指す。
【0054】
「異種」とは、異なる種の動物に由来する任意の材料のことを指す。
【0055】
「キメラ自己抗体受容体」または「CAAR」とは、細胞、例えば、T細胞または任意の他のエフェクター細胞型、例えば、細胞媒介性細胞傷害が可能であるエフェクター細胞型上で発現される、操作された受容体のことを指す。CAARは、BCRおよび/または自己抗体に特異的である抗原またはその断片を含む。CAARは、任意でまた、膜貫通ドメイン、細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインも含む。
【0056】
本明細書で用いる場合、「保存的配列改変」という用語は、アミノ酸配列を含有する抗体の結合特性に有意に影響することもそれを有意に変化させることもないアミノ酸改変を指すことを意図している。そのような保存的改変には、アミノ酸の置換、付加、および欠失が含まれる。改変は、当技術分野において公知の標準的な手法、例えば、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介性突然変異誘発によって、本発明の抗体中に導入することができる。保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基によって置き換えられるもののことである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において明確に定められている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、例えば、本発明のCAARの細胞外領域内の1つまたは複数のアミノ酸残基を、類似の側鎖または電荷を有する他のアミノ酸残基によって置き換えることができ、変化したCAARを、本明細書に記載された機能アッセイを用いて、自己抗体に結合する能力について試験することができる。
【0057】
「共刺激リガンド」には、この用語が本明細書で用いられる場合、T細胞上のコグネイト共刺激分子と特異的に結合し、それにより、例えば、ペプチドが負荷されたMHC分子のTCR/CD3複合体への結合によって与えられる一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化などを非限定的に含むT細胞応答を媒介するシグナルも与えることのできる、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上の分子が含まれる。
【0058】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドに特異的に結合し、それにより、これに限定されるわけではないが増殖などの、T細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上のコグネイト結合パートナーのことを指す。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLAおよびTollリガンド受容体が非限定的に含まれる。
【0059】
「コードする」とは、所定のヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または所定のアミノ酸配列のいずれか、およびそれに起因する生物学的特性を有する、生物過程において他のポリマーおよび高分子の合成のためのテンプレートとして働く、遺伝子、cDNAまたはmRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列の固有の特性のことを指す。すなわち、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳によって細胞または他の生体系においてタンパク質が産生される場合、そのタンパク質をコードする。mRNA配列と同一であって通常は配列表として提示されるヌクレオチド配列を有するコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のためのテンプレートとして用いられる非コード鎖の両方を、タンパク質、またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードすると称することができる。
【0060】
「有効量」または「治療的有効量」は、本明細書において互換的に用いられ、特定の生物学的結果を達成するのに有効な本明細書に記載の化合物、製剤、材料、または組成物の量のことを指す。そのような結果には、当技術分野で適切な任意の手段によって決定される、抗MuSK B細胞およびそれが産生する抗体の除去が含まれ得るが、これに限定されない。
【0061】
「エフェクター機能」という用語は、細胞の特化した機能のことを指す。
【0062】
本明細書で用いる場合、「内因性」とは、生物体、細胞、組織もしくは系に由来するか、またはその内部で産生される任意の材料のことを指す。
【0063】
本明細書で用いる場合、「外因性」という用語は、生物体、細胞、組織もしくは系に導入されるか、またはそれらの外部で産生される任意の材料のことを指す。
【0064】
本明細書で用いる「発現」という用語は、プロモーターによって作動する特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0065】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列と機能的に連結した発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターのことを指す。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用エレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給されうる。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み入れたコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソーム中に含まれるもの)、レトロトランスポゾン(例えば、piggyback、sleeping beauty)、およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)といった、当技術分野において公知であるすべてのものが含まれる。
【0066】
本明細書で用いる「相同な」とは、2つのポリマー分子の間、例えば、2つのDNA分子もしくは2つのRNA分子などの2つの核酸分子の間、または2つのポリペプチド分子の間の、サブユニット配列同一性のことを指す。2つの分子の両方においてあるサブユニット位置が、同じ単量体サブユニットによって占められている場合;例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおいてある位置がアデニンによって占められているならば、それらはその位置で相同である。2つの配列間の相同性は、一致するかまたは相同な位置の数の直接的な関数である;例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、長さが10サブユニットであるポリマーにおける5つの位置)が相同であるならば、2つの配列は50%相同である;位置の90%(例えば、10のうち9)が一致するかまたは相同であるならば、2つの配列は90%相同である。
【0067】
本明細書で用いる「同一性」とは、2つのポリマー分子の間、特に、2つのポリペプチド分子の間などの2つのアミノ酸分子の間の、サブユニット配列同一性のことを指す。2つのアミノ酸配列が、同じ位置で同じ残基を有する場合;例えば、2つのポリペプチド分子のそれぞれにおいてある位置がアルギニンによって占められているならば、それらはその位置で同一である。2つのアミノ酸配列がアラインメントにおいて同じ位置で同じ残基を有する同一性または程度は、しばしばパーセンテージとして表現される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、一致するかまたは同一の位置の数の直接的な関数である;例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、長さが10アミノ酸であるポリマーにおける5つの位置)が同一であるならば、2つの配列は50%同一である;位置の90%(例えば、10のうち9)が一致するかまたは同一であるならば、2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0068】
本明細書で用いる場合、「説明資料(instructional material」には、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために用いうる、刊行物、記録、略図または他の任意の表現媒体が含まれる。本発明のキットの説明資料は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器に添付してもよく、または核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器と一緒に出荷してもよい。または、説明資料および化合物がレシピエントによって一体として用いられることを意図して、説明資料を容器と別に出荷してもよい。
【0069】
「細胞内ドメイン」とは、細胞の内部に存在する分子の一部分または領域のことを指す。
【0070】
「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な、細胞内ドメインの任意の完全長または短縮部分を含むことを意味する。
【0071】
「単離された」とは、天然の状態から変更されるかまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きた動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然の状態で共存する物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは、「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することもでき、または例えば宿主細胞などの非天然の環境で存在することもできる。
【0072】
本発明に関連して、一般的に存在する核酸塩基に関しては以下の略語を用いる。「A」はアデノシンのことを指し、「C」はシトシンのことを指し、「G」はグアノシンのことを指し、「T」はチミジンのことを指し、「U」はウリジンのことを指す。
【0073】
別に指定する場合を除き、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、相互に縮重型であって、同じアミノ酸配列をコードする、すべてのヌクレオチドが含まれる。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列という語句には、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が一部の型においてイントロンを含みうる限り、イントロンも含まれうる。
【0074】
本明細書で用いる「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミリーの属のことを指す。レンチウイルスは、非分裂細胞を感染させうるという点で、レトロウイルスの中でも独特である;それらはかなりの量の遺伝情報を宿主細胞のDNA中に送達することができるため、それらは遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIVおよびFIVはすべて、レンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボでかなり高いレベルの遺伝子移入を達成するための手段を与える。
【0075】
本明細書で用いる場合、「MuSK」または「MuSKWT」は、骨格筋受容体チロシンタンパク質キナーゼの野生型ポリヌクレオチドおよびポリペプチドアイソフォーム(例えば、Gene ID: 4593;NM_005592.3;NP_005583.1;Consensus coding Sequence(CDS)CCDS48005.1を伴う)に関する。いくつかの態様において、MuSKポリヌクレオチドは、コドン最適化されている。いくつかの態様において、I96Aバリアント(MuSKI96A)が、本発明の組成物および方法において用いられる。MuSKI96Aの変異は、抗体結合に対して最小の効果を有するが、MuSKの1番目のIg 様ドメインに結合するLRP4との結合を崩壊させうることが、当技術分野において公知である(Zhang et al., J Biol Chem. 2011 Nov 25; 286(47): 40624-40630)。いくつかの態様において、MuSKI96Aは、抗MuSK抗体に結合し、したがって、抗MuSK BCRを標的とする能力を有する。
【0076】
「機能的に連結した」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の、後者の発現を結果的にもたらす機能的連結のことを指す。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列との機能的関係の下で配置されている場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と機能的に連結している。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼすならば、プロモーターはコード配列と機能的に連結している。一般に、機能的に連結したDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を接続することが必要な場合には、同一のリーディングフレーム内にある。
【0077】
免疫原性組成物の「非経口的」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)または胸骨内の注射法または輸注法が含まれる。
【0078】
本明細書で用いる場合、「形質細胞(plasma cell)」とは、抗体を産生して分泌することができる白血球の種類のことを指す。形質細胞はまた、プラズマ細胞(plasmocyte)、プラスマ細胞(plasmacyte)、またはエフェクターB細胞とも呼ばれる。
【0079】
本明細書で用いる「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの連鎖と定義される。その上、核酸はヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書で用いる核酸およびポリヌクレオチドは互換的である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、それらはモノマー性「ヌクレオチド」に加水分解されうるという一般知識を有する。モノマー性ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解されうる。本明細書で用いるポリヌクレオチドには、組換え手段、すなわち通常のクローニング技術およびPCR(商標)などを用いて組換えライブラリーまたは細胞ゲノムから核酸配列をクローニングすること、および合成手段を非限定的に含む、当技術分野で利用可能な任意の手段によって得られる、すべての核酸配列が非限定的に含まれる。いくつかの態様において、核酸配列は、本明細書に開示されたいずれかの核酸配列に対して、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の同一性または相同性を有すると見なされる。
【0080】
本明細書で用いる場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は互換的に用いられ、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基で構成される化合物のことを指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなくてはならず、タンパク質またはペプチドの配列を構成しうるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって相互に結合した2つまたはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書で用いる場合、この用語は、例えば、当技術分野において一般的にはペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも称される短鎖、ならびに当技術分野において一般にタンパク質と称される長鎖の両方のことを指し、それらには多くの種類がある。「ポリペプチド」には、いくつか例を挙げると、例えば、生物学的活性断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの変異体、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはこれらの組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、アミノ酸配列は、本明細書に記載されたいずれかのアミノ酸配列に対して、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性または相同性を有すると見なされる。
【0081】
「炎症誘発性サイトカイン」という用語は、炎症または炎症性応答を促進するサイトカインまたは因子のことを指す。炎症誘発性サイトカインの例には、ケモカイン(CCL、CXCL、CX3CL、XCL)、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-5、IL-6、IL-7、IL-9、IL-10、およびIL-15)、インターフェロン(IFNγ)、ならびに腫瘍壊死因子(TNFαおよびTNFβ)が非限定的に含まれる。
【0082】
本明細書で用いる「プロモーター」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始させるために必要な、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列と定義される。
【0083】
本明細書で用いる場合、「プロモーター/調節配列」という用語は、プロモーター/調節配列と機能的に連結した遺伝子産物の発現のために必要とされる核酸配列を意味する。ある場合には、この配列はコアプロモーター配列であってよく、また別の場合には、この配列が、遺伝子産物の発現に必要とされるエンハンサー配列および他の制御エレメントをも含んでもよい。プロモーター/制御配列は、例えば、組織特異的な様式で遺伝子産物を発現させるものであってもよい。
【0084】
「構成性」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、細胞のほとんどまたはすべての生理学的条件下で、その遺伝子産物が細胞内で産生されるようにするヌクレオチド配列のことである。
【0085】
「誘導性」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、実質的にはそのプロモーターに対応する誘導物質が細胞内に存在する場合にのみ、その遺伝子産物が細胞内で産生されるようにするヌクレオチド配列のことである。
【0086】
「組織特異的」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、実質的には細胞がそのプロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ、その遺伝子産物が細胞内で産生されるようにするヌクレオチド配列のことである。
【0087】
「シグナル伝達経路」とは、細胞の1つの部分から細胞の別の部分へのシグナルの伝送において役割を果たす、種々のシグナル伝達分子間の生化学的関係のことを指す。「細胞表面受容体」という語句には、シグナルを受け取り、細胞の膜をまたいでシグナルを伝送することができる分子および分子の複合体が含まれる。
【0088】
「シグナル伝達ドメイン」とは、活性化シグナルに応答して、特異的タンパク質を動員し、それと相互作用する、分子の一部分または領域のことを指す。
【0089】
「対象」という用語は、免疫応答を惹起させることができる、生きている生物(例えば、哺乳動物)を含むことを意図している。
【0090】
本明細書で用いる場合、「実質的に精製された」細胞とは、他の細胞型を本質的に含まない細胞のことである。また、実質的に精製された細胞とは、その天然の状態に本来付随する他の細胞型から分離された細胞のことも指す。場合によっては、実質的に精製された細胞の集団とは、均一な細胞集団のことを指す。また別の場合には、この用語は、単に、天然の状態において本来付随する細胞から分離された細胞のことを指す。いくつかの態様において、細胞はインビトロで培養される。他の態様において、細胞はインビトロでは培養されない。
【0091】
本明細書で用いる「治療的」という用語は、治療および/または予防のことを意味する。治療効果は、疾病状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0092】
本明細書で用いる「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞内に移入または導入される過程のことを指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞とは、外因性核酸をトランスフェクトされた、外因性核酸によって形質転換された、または外因性核酸を形質導入されたもののことである。この細胞には初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0093】
「膜貫通ドメイン」とは、脂質二重膜にまたがる分子の一部分または領域のことを指す。
【0094】
本明細書で用いる「転写制御下」または「機能的に連結した」という語句は、プロモーターが、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するために正しい位置および向きにあることを意味する。
【0095】
「ベクター」とは、単離された核酸を含み、かつその単離された核酸を細胞の内部に送達するために用いうる組成物のことである。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミドおよびウイルスを非限定的に含む数多くのベクターが、当技術分野において公知である。したがって、「ベクター」という用語は、自律複製性プラスミドまたはウイルスを含む。この用語は、例えばポリリジン化合物、リポソームなどのような、細胞内への核酸の移入を容易にする非プラスミド性および非ウイルス性の化合物も含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが非限定的に含まれる。
【0096】
本明細書で用いる「特異的に結合する」という用語は、試料中に存在するコグネイト結合パートナー(例えば、T細胞上に存在する刺激分子および/または共刺激分子)タンパク質を認識してそれと結合するが、試料中の他の分子を実質的に認識しないかまたは結合しない、抗体またはリガンドを意味する。
【0097】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)がそのコグネイトリガンドと結合して、それにより、これに限定されるわけではないがTCR/CD3複合体を介するシグナル伝達などのシグナル伝達イベントを媒介することによって誘導される、一次応答のことを意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、および/または細胞骨格構造の再構築などのような、ある種の分子の発現の改変を媒介してもよい。
【0098】
「刺激分子」とは、この用語が本明細書で用いられる場合、抗原提示細胞上に存在するコグネイト刺激リガンドに特異的に結合する、T細胞上の分子のことを意味する。
【0099】
「刺激リガンド」とは、本明細書で用いる場合、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上に存在する場合に、T細胞上のコグネイト結合パートナー(本明細書では「刺激分子」と称する)と特異的に結合して、それにより、活性化、免疫応答の開始、増殖などを非限定的に含む、T細胞による一次応答を媒介することのできるリガンドのことを意味する。刺激リガンドは当技術分野において周知であり、とりわけ、ペプチドが負荷されたMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体およびスーパーアゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0100】
範囲:本開示の全体を通じて、本発明のさまざまな局面を、範囲形式で提示することができる。範囲形式による記載は、単に便宜上かつ簡潔さのためであって、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定とみなされるべきではないことが理解される必要がある。したがって、ある範囲の記載は、その範囲内におけるすべての可能な部分的範囲とともに、個々の数値も具体的に開示されていると考慮されるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分的範囲とともに、その範囲内の個々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3および6も、具体的に開示されていると考慮されるべきである。これは範囲の幅広さとは関係なく適用される。
【0101】
説明
キメラ自己抗体受容体(CAAR)
本発明は、活性化および自己抗体分泌後に自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患(例えば、重症筋無力症(MG))を引き起こしうる、自己抗体ベースのB細胞受容体を発現するB細胞を標的とするために、キメラ自己抗体受容体を使用することができるという発見に、一部基づく。本発明は、抗筋特異的キナーゼ(MuSK)B細胞受容体(BCR)に特異的なキメラ自己抗体受容体(CAAR)、該CAARを含む組成物、該CAARをコードするポリヌクレオチド、該CAARをコードするポリヌクレオチドを含むベクター、および該CAARを含む組換え細胞、例えば、T細胞を含む。本発明はまた、MuSK CAARを発現する遺伝子改変細胞、例えば、遺伝子改変T細胞を作製する方法も含み、ここで、発現したCAARは、MuSK細胞外ドメインを含む。
【0102】
本発明は、自己抗体媒介性NMJ疾患を処置するための技術を含む。特に、最終的に自己抗体を産生し、その細胞表面上に自己抗体を提示するB細胞を標的とする技術は、これらのB細胞を、治療的介入のための疾患特異的標的として区分する。したがって、本発明は、抗原特異的な(例えば、MuSK)キメラ自己抗体受容体(すなわちCAAR)を用いて、疾患を引き起こすB細胞を標的とすることによって、自己抗体媒介性疾患において病原性B細胞を効率的に標的とし、死滅させるための方法を含む。本発明の1つの態様において、特異的な抗MuSK BCR発現B細胞のみが死滅し、感染症から防護する有益なB細胞および抗体は無傷の状態になる。
【0103】
1つの局面において、本発明は、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメインを含む、キメラ自己抗体受容体(CAAR)を含む。
【0104】
1つの局面において、本発明は、MuSK自己抗原またはその断片を含むキメラポリペプチドであって、該MuSK自己抗原またはその断片が、キメラ自己抗体受容体(CAAR)の膜貫通ドメインに連結している、キメラポリペプチドを含む。
【0105】
1つの局面において、本発明は、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドであって、MuSK自己抗原またはその断片をコードする、ポリヌクレオチドを含む。いくつかの態様において、ポリヌクレオチドはまた、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインもコードする。
【0106】
1つの態様において、MuSK CAARは、SEQ ID NO: 9、22、27、または30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。1つの態様において、MuSK CAARは、SEQ ID NO: 1、16、21、24、25、および28からなる群より選択される核酸配列によってコードされる。
【0107】
いくつかの態様において、MuSK CAARは、SEQ ID NO: 9、22、27、または30からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。他の態様において、MuSK CAARは、SEQ ID NO: 1、16、21、24、25、および28からなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。
【0108】
自己抗原部分
1つの態様において、本発明のCAARは、別の言い方では自己抗原またはその断片と呼ばれる、自己抗体結合ドメインを含む。本発明における使用のための自己抗原の選択は、標的とされる自己抗体またはBCRの種類(例えば、抗MuSK)に依存する。例えば、自己抗原は、特定の自己抗体媒介性疾患状態、例えば、重症筋無力症(MG)に関連する、BCR発現B細胞などの標的細胞上のBCRまたは自己抗体を認識するため、選択されてもよい。
【0109】
場合によっては、自己抗体結合ドメインは、CAARが最終的に用いられることになる同じ種に由来することが、有益である。例えば、ヒトにおける使用のためには、CAARの自己抗体結合ドメインが、ヒトBCRもしくは自己抗体またはその断片に結合するヒト自己抗原(またはその断片)を含むことが、有益でありうる。
【0110】
1つの例示的な態様において、遺伝子操作されたキメラ自己抗体受容体は、抗MuSK BCR、例えば、対象におけるB細胞上の抗MuSK BCRに結合する、MuSKまたはその断片を含む。
【0111】
1つの態様において、CAARは、MuSK自己抗原またはその断片を含む。いくつかの態様において、MuSKの細胞外ドメインは、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列によってコードされる。いくつかの態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 3、6、26、および29からなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。他の態様において、MuSKの細胞外ドメインは、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。さらに他の態様において、MuSK自己抗原またはその断片は、SEQ ID NO: 11および23からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0112】
膜貫通ドメイン
いくつかの態様において、MuSK CAARは、MuSK CAARの細胞外ドメインに融合している膜貫通ドメインを含む。1つの態様において、MuSK CAARは、MuSK CAAR中のドメインのうちの1つと天然で会合している膜貫通ドメインを含む。場合によっては、膜貫通ドメインは、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに対する結合を避けるように選択されるか、またはアミノ酸置換によって改変される。
【0113】
膜貫通ドメインは、天然供給源または合成供給源のいずれかに由来しうる。供給源が天然である場合には、ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来しうる。1つの態様において、膜貫通ドメインは、合成であってもよく、その場合、それは主として、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を含むであろう。1つの局面において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリンのトリプレットが、合成膜貫通ドメインの各末端に見出されるであろう。任意で、長さが2~10アミノ酸の短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーが、MuSK CAARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインとの間の連結を形成しうる。グリシン-セリン(GS)ダブレットは、特に適したリンカーを提供する。
【0114】
場合によっては、膜貫通ドメイン前の種々のスペーサードメインを、CD8もしくはヒトIg(免疫グロブリン)ヒンジ、またはグリシン-セリンリンカーを含んで、同様に使用することができる。
【0115】
ヒンジおよび/または膜貫通ドメインの例には、T細胞受容体のα、β、もしくはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、KIR、OX40、CD2、CD27、LFA-1(CD11a、CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD40、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA1、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、および/またはNKG2Cのヒンジおよび/または膜貫通ドメインが非限定的に含まれる。
【0116】
1つの態様において、MuSK CAARは、これに限定されるわけではないがCD8α膜貫通ドメイン:IYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYC(SEQ ID NO: 13)などの、膜貫通ドメインを含む。
【0117】
いくつかの態様において、CD8α膜貫通ドメインは、
によってコードされる。
【0118】
いくつかの態様において、CD8α膜貫通ドメインは、SEQ ID NO: 13のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、CD8α膜貫通ドメインは、SEQ ID NO: 5または18の核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。
【0119】
別の態様において、MuSK CAARは、GSリンカーGGGGSGGGGS(SEQ ID NO: 12)を含み、これは、
によって、または
によってコードされる。
【0120】
いくつかの態様において、MuSK CAARは、CD8αヒンジ領域:
を含み、これは、
によってコードされる。
【0121】
いくつかの態様において、ヒンジ領域は、SEQ ID NO: 31のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または、SEQ ID NO: 32に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。
【0122】
共刺激分子の細胞内ドメイン
いくつかの態様において、MuSK CAARは、共刺激分子の細胞内ドメインを含む。本発明のMuSK CAARの共刺激分子の細胞内ドメインは、MuSK CAARがその中に配置されている免疫細胞の正常なエフェクター機能のうちの少なくとも1つの活性化の原因となる細胞質ドメインである。
【0123】
T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性、またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性でありうる。したがって、「共刺激分子の細胞内ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達して、細胞が特化した機能を果たすように方向づける、タンパク質の一部分のことを指す。共刺激分子の細胞内ドメイン全体を使用することができるが、多くの場合には、ドメイン全体を用いることは必要でない。共刺激分子の細胞内ドメインの短縮部分が用いられる範囲内において、そのような短縮部分は、それがエフェクター機能シグナルを伝達する限り、無傷のドメインの代わりに用いられてもよい。
【0124】
共刺激分子の細胞内ドメインとは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCAARの一部分のことを指す。共刺激分子とは、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要とされる、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子の例には、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、およびCD83特異的結合リガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、本明細書に記載された他の共刺激分子、その任意の誘導体、バリアント、または断片、同じ機能的能力を有する共刺激分子の任意の合成配列、ならびにそれらの任意の組み合わせが含まれる。したがって、本発明は、共刺激シグナル伝達ドメインとして主に4-1BB(CD137)で例示されるが、他の共刺激ドメインが、本発明の範囲内である。
【0125】
1つの態様において、共刺激分子の細胞内ドメインの核酸配列は、共刺激分子4-1BB(CD137細胞内ドメインとしても公知であり、かつ呼ばれる)を含むアミノ酸配列:
をコードする。
【0126】
また別の態様において、4-1BB細胞内ドメインをコードする核酸配列は、
を含む。
【0127】
いくつかの態様において、4-1BB細胞内ドメインは、SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。他の態様において、4-1BB細胞内ドメインは、SEQ ID NO: 7および19からなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。
【0128】
ヒト細胞内4-1BBドメインは、MuSKまたはその断片などの細胞外自己抗原に対する結合時に、その元のリガンドを必要とせずに、共刺激細胞内シグナル伝達を提供する。
【0129】
TCRのみを通して生成されるシグナルは、T細胞の完全な活性化のためには不十分であること、および、二次シグナルまたは共刺激シグナルも必要とされることが、十分に認識されている。したがって、T細胞活性化は、2つの別個のクラスの細胞質シグナル伝達配列:TCRを通して抗原依存性の一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)、および抗原非依存性様式で作用して二次シグナルまたは共刺激シグナルを提供するもの(二次細胞質シグナル伝達配列)によって媒介されると言うことができる。
【0130】
シグナル伝達ドメイン
いくつかの態様において、MuSK CAARは、シグナル伝達ドメインを含む。一次細胞質シグナル伝達配列は、刺激性様式または阻害性様式のいずれかで、TCR複合体の一次活性化を調節する。刺激性様式で作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシン活性化モチーフまたはITAMとして公知である、シグナル伝達モチーフを含有しうる。
【0131】
本発明において特に有用であるITAMを含有する一次シグナル伝達配列の例には、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dに由来するものが含まれる。本発明のCAARにおけるシグナル伝達分子は、CD3ζに由来するシグナル伝達ドメインを含むことが、特に好ましい。
【0132】
1つの態様において、CAARのシグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを単独で、または本発明のCAARの文脈において有用な任意の他の望ましい細胞質ドメインと組み合わせて含むように、設計することができる。例えば、CAARのシグナル伝達ドメインは、CD3ζ鎖部分と共刺激シグナル伝達ドメインとを含むことができる。
【0133】
いくつかの態様において、MuSK CAARは、CD3ζシグナル伝達ドメインを単独で、または本発明のMuSK CAARの文脈において有用な任意の他の望ましい細胞質ドメインと組み合わせて含む。例えば、MuSK CAARは、CD3ζ鎖部分と共刺激分子の細胞内ドメインとを含むことができる。いくつかの態様において、CD3ζ鎖部分は、ヒトT細胞表面糖タンパク質CD3ζ鎖アイソフォーム3細胞内ドメイン(ヒトCD247)である。ヒト細胞内CD3ζドメインは、MuSKまたはその断片などの細胞外自己抗原に対する結合時に、HLA拘束なしで、刺激性細胞内シグナル伝達を提供する。
【0134】
1つの態様において、シグナル伝達ドメインの核酸配列は、CD3ζシグナル伝達ドメインをコードする核酸配列を含む。別の態様において、CD3ζシグナル伝達ドメインの核酸配列は、
を含むアミノ酸配列をコードする。別の態様において、CD3ζシグナル伝達ドメインをコードする核酸配列は、
を含む。
【0135】
いくつかの態様において、CD3ζシグナル伝達ドメインは、SEQ ID NO: 15のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。他の態様において、CD3ζシグナル伝達ドメインは、SEQ ID NO: 8および20からなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。
【0136】
他のドメイン
いくつかの態様において、MuSK CAARおよびMuSK CAARをコードするポリヌクレオチドは、ヒトT細胞表面糖タンパク質CD8α鎖シグナルペプチドを含む。ヒトCD8αシグナルペプチドは、T細胞表面への受容体の移行の原因となる。
【0137】
他の態様において、MuSK CAARおよびMuSK CAARをコードするポリヌクレオチドは、IgGシグナルペプチドを含む。いくつかの態様において、IgGシグナルペプチドは、
を含む核酸配列によってコードされる。他の態様において、IgGシグナルペプチドは、MEFGLSWLFLVAILKGVQC(SEQ ID NO: 10)のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、IgGシグナルペプチドは、SEQ ID NO: 2の核酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。いくつかの態様において、IgGシグナルペプチドは、SEQ ID NO: 10のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0138】
1つの態様において、MuSK CAARをコードするポリヌクレオチドは、ペプチドリンカーの核酸配列を含む。別の態様において、MuSK CAARは、ペプチドリンカーを含む。さらに別の態様において、MuSK CAARの細胞内シグナル伝達ドメイン内の細胞質シグナル伝達配列は、ランダムな順序または指定された順序で互いに連結させることができる。任意で、例えば、長さが2~10アミノ酸の短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーが、連結を形成しうる。グリシン-セリン(GS)ダブレットが、特に適したリンカーである。
【0139】
いくつかの態様において、CAARは、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリータンパク質由来の膜貫通ドメインおよび/または細胞質(細胞内)ドメインを含む。KIR遺伝子ファミリーは、19番染色体(19q13.4)上に位置する白血球受容体複合体(Leukocyte Receptor Complex)(LRC)の100~200 Kb領域内にコードされる、少なくとも15個の遺伝子座(KIR2DL1、KIR2DL2/L3、KIR2DL4、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR2DS1、KIR2DS2、KIR2DS3、KIR2DS4、KIR2DS5、KIR3DL1/S1、KIR3DL2、KIR3DL3)ならびに2個の偽遺伝子(KIR2DP1およびKIR3DP1)を有する。LRCは、特徴的なIg様細胞外ドメインを有する他の細胞表面分子をコードする遺伝子を含有する、迅速に進化する免疫遺伝子の大きな1 Mbの高密度のクラスターを構成している。加えて、拡張されたLRCは、膜貫通アダプター分子であるDAP10およびDAP12をコードする遺伝子を含有する。したがって、KIR膜貫通ドメインおよび/または細胞質ドメインを含む本発明のCAARを含む細胞はまた、DAP10またはDAP12をコードするポリヌクレオチドを含んでもよい。ある態様において、KIRは、KIRS2またはKIR2DS2である。
【0140】
MuSK CAARを含むベクター
1つの局面において、本発明は、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターであって、該ポリヌクレオチドが、ヒトMuSK自己抗原またはその断片を含む細胞外ドメイン、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、および/または細胞内シグナル伝達ドメインをコードする核酸配列を含む、ベクターを含む。いくつかの態様において、ベクターは、本明細書に記載されたようなCAARをコードする核酸配列のいずれかを含む。本発明はまた、本発明のCAARをコードするDNAが挿入されているベクターも提供する。
【0141】
核酸は、任意の数の異なる種類のベクター中にクローニングすることができる。ベクターは、哺乳動物細胞において一般に複製が可能で、かつ/または哺乳動物の細胞ゲノム中への組み込みも可能なものである。典型的なベクターは、転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列、ならびに所望の核酸配列の発現の調節のために有用なプロモーターを含有する。例えば、核酸を、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、およびコスミドを非限定的に含むベクター中にクローニングすることができる。特に関心が持たれるベクターには、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、およびシークエンシングベクターが含まれる。いくつかの態様において、ベクターには、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロトランスポゾン(例えば、piggyback、sleeping beauty)、部位特異的挿入ベクター(例えば、CRISPR、Znフィンガーヌクレアーゼ、TALEN)、または自殺発現ベクター、または当技術分野において公知の他のベクターが含まれる。いくつかの態様において、ベクターはRNAベクターである。
【0142】
いくつかの態様において、ベクターは、レンチウイルスベクターなどのウイルスベクターである。
【0143】
ウイルスベクター技術は、当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al., 2012, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, volumes 1-4, Cold Spring Harbor Press, NY、ならびにウイルス学および分子生物学の他のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスが非限定的に含まれる。一般に、適したベクターは、少なくとも1つの生物において機能する複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択可能なマーカーを含有する(例えば、WO 01/96584;WO 01/29058;および米国特許第6,326,193号)。
【0144】
レンチウイルスなどのレトロウイルスに由来するベクターを含むウイルスベクターは、長期的遺伝子移入を達成するための適したツールであるが、これはそれらが、導入遺伝子の長期的で安定的な組み込み、および娘細胞におけるその伝播を可能にするためである。レンチウイルスベクターは、マウス白血病ウイルスなどのオンコレトロウイルスに由来するベクターを上回る利点を有するが、これはそれらが、肝細胞などの非増殖性細胞の形質導入も行うことができるためである。それらにはまた、それらが導入される対象において結果として生じる免疫原性が低いという利点も加わっている。
【0145】
いくつかの態様において、ベクターは、第3世代のレンチウイルスベクターである。いくつかの態様において、CARの発現がヒト伸長因子1αプロモーターによって調節される第3世代の自己不活性化レンチウイルスベクタープラスミドを、用いることができる。これは、宿主細胞、例えば、宿主T細胞におけるCARの安定な(永久の)発現を結果としてもたらす。代替アプローチとして、コードmRNAを、宿主細胞中にエレクトロポレーションすることができ、これは、ウイルスで形質導入された宿主細胞と同じ治療効果を達成するであろうが、mRNAは細胞分裂に伴って薄まるため、永久ではないと考えられる。
【0146】
いくつかの態様において、ベクターは、トランスポゾンベースの発現ベクターである。「トランスポゾン」または「転位因子」とは、ゲノム内でその位置を変えることができるDNA配列である。以下の2つの別個の種類のトランスポゾンがある:あちらこちらに直接動くDNAからなる、クラスIIトランスポゾン;ならびに、最初にDNAからRNAへと転写し、次いで逆転写酵素を用いてRNAのDNAコピーを作って、新たな場所に挿入するレトロトランスポゾンである、クラスIトランスポゾン。トランスポゾンシステムにおいて、例えば、CAARをコードする核酸配列を含む転写ユニットは、トランスポゾンの末端反復配列に隣接している。トランスポゾンは、典型的には、末端反復配列を認識して、トランスポゾンの移動を媒介する、トランスポザーゼと相互作用する。トランスポザーゼは、例えば、タンパク質として同時送達することができ、CAARと同じベクター上にコードされることができ、または別々のベクター上にコードされることができる。トランスポゾン/トランスポザーゼシステムの非限定的な例には、Sleeping Beauty、Piggybac、Frog Prince、およびPrince Charmingが含まれる。CAARをコードする天然性または合成性のポリヌクレオチドの発現は、典型的には、CAARポリペプチドまたはその部分をコードする核酸をプロモーター(例えば、EF1αプロモーター)と機能的に連結させて、その構築物を発現ベクター中に組み入れることによって達成される。
【0147】
そのほかのプロモーターエレメント、例えばエンハンサーなどは、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、数多くのプロモーターは、開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが最近示されている。多くの場合、プロモーターエレメント間の間隔には柔軟性があり、そのため、エレメントが互いに対して逆位になったり移動したりしてもプロモーター機能は保持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、反応性の低下を起こすことなく、プロモーターエレメント間の間隔を50bpまで隔てることができる。プロモーターによっては、個々のエレメントが協調的に、または独立して、転写を活性化しうるように思われる。
【0148】
プロモーターの例は、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それと機能的に連結した任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を作動させることのできる、強力な構成性プロモーター配列である。しかし、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、伸長因子-1αプロモーター、ならびに、これらに限定されるわけではないがアクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、およびクレアチンキナーゼプロモーターなどのヒト遺伝子プロモーターを非限定的に含む、他の構成性プロモーター配列を用いることもできる。さらに、本発明は、構成性プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも本発明の一部として想定している。誘導性プロモーターの使用により、それと機能的に連結しているポリヌクレオチド配列の発現を、そのような発現が所望である場合には有効にし、発現が所望でない場合には発現を無効にすることができる、分子スイッチがもたらされる。誘導性プロモーターの例には、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーターおよびテトラサイクリンプロモーターが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、誘導性プロモーターは、細胞外リガンドに応答して活性化される。例えば、いくつかの態様において、誘導性プロモーターは、合成受容体に結合する細胞外リガンドによって活性化される(かつCAARの発現が調節される)。例えば、いくつかの態様において、合成受容体、例えば、合成Notch受容体(すなわち、「synNotch」)が、そのリガンドに結合した場合に、CAARをコードする核酸配列が機能的に連結しているプロモーターを活性化する、結合誘因性転写スイッチとして使用されてもよい。したがって、非限定的な例として、そのようなシステムは、免疫細胞が(例えば、CAARが結合する)BCRまたは自己抗体に応答性であるために、(例えば、synNotchが結合する)リガンドの存在を必要としうる。分子回路においてあるシグナル伝達アウトプットを生成するために特定の組み合わせを必要とすることは、論理ゲートを結果としてもたらす。例えば、Roybal et al., 2016 Cell 164(4):770-9を参照されたい。
【0149】
キメラ受容体を発現させるため、またはその発現を調節するための他のシステムの例には、Wu et al. (2015) Science 350: aab4077;Fedorov et al. (2014) Cancer Journal 20:160-165;Kloss et al. (2013) Nature Biotechnology 31: 71-75;Sakemura et al. (2016) Cancer Immunol. Res. 4:658-668;Hill et al. (2018) Nature Chemical Biology 14:112-117;Di Stasi et al. (2011) N. Engl. J. Med. 365:1673-1683;Budde et al. (2013) PLoS One 8: e82742;Wei et al. (2012) Nature 488: 384-388;Ma et al. (2016) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 113: E450-458;Rodgers et al. (2016) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 113: E459-468;Kudo et al. (2014) Cancer Res. 74: 93-103、およびChen et al. (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107, 8531-8536に記載されたものが含まれる。
【0150】
CAARタンパク質の発現は、免疫ブロット、免疫組織化学、フローサイトメトリー、または、当技術分野において周知の、かつ利用可能な他の技術を用いて検証することができる。好ましい態様において、CAARの発現は、フローサイトメトリーによって検証する。CAARポリペプチドまたはその部分の発現を評価する目的で、ウイルスベクターによってトランスフェクトまたは感染させようとする細胞の集団からの発現細胞の同定および選択を容易にするために、細胞に導入される発現ベクターに、選択マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子またはその両方を含有させることもできる。他の局面において、選択マーカーを別個のDNA小片上に保有させて、同時トランスフェクション手順に用いることもできる。宿主細胞における発現を可能にするために、選択マーカー遺伝子およびレポーター遺伝子をいずれも、適切な調節配列に隣接させることができる。有用な選択マーカーには、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0151】
レポーター遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞を同定するため、および調節配列の機能性を評価するために用いられる。一般に、レポーター遺伝子とは、レシピエント生物または組織に存在しないかまたはそれらによって発現されず、かつ、その発現が何らかの容易に検出可能な特性、例えば、酵素活性によって顕在化するポリペプチドをコードする、遺伝子のことである。レポーター遺伝子の発現は、そのDNAがレシピエント細胞に導入された後の適した時点で評価される。適したレポーター遺伝子には、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌性アルカリホスファターゼをコードする遺伝子、または緑色蛍光性タンパク質の遺伝子が含まれうる(例えば、Ui-Tei et al., 2000 FEBS Letters 479:79-82)。適した発現系は周知であり、公知の手法を用いて調製すること、または販売されているものを入手することができる。一般に、レポーター遺伝子の最も高レベルでの発現を示す最小限の5'フランキング領域を有する構築物が、プロモーターとして同定される。そのようなプロモーター領域をレポーター遺伝子と連結させて、プロモーターにより作動する転写を作用物質がモジュレートする能力を評価するために用いることができる。
【0152】
細胞に遺伝子を導入して発現させる方法は、当技術分野において公知である。発現ベクターに関連して、ベクターは、宿主細胞、例えば、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞または昆虫細胞に、当技術分野における任意の方法によって容易に導入することができる。例えば、発現ベクターを、物理的、化学的または生物学的手段によって宿主細胞に導入することができる。
【0153】
宿主細胞にポリヌクレオチドを導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション、微粒子銃法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれる。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を作製するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、Sambrookら、2012, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, volumes 1-4, Cold Spring Harbor Press, NYを参照されたい。宿主細胞へのポリヌクレオチドの導入のために好ましい方法の1つは、リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0154】
関心対象のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNAベクターおよびRNAベクターの使用が含まれる。RNAベクターは、RNAプロモーターおよび/またはRNA転写物の産生のための他の関連ドメインを有するベクターを含む。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞に遺伝子を挿入するために最も広く使用される方法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどに由来しうる。例えば、米国特許第5,350,674号および第5,585,362号を参照されたい。
【0155】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段には、コロイド分散系、例えば高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズなど、ならびに、水中油型エマルション、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含む脂質ベースの系が含まれる。インビトロおよびインビボで送達媒体として用いるための例示的なコロイド系の1つは、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0156】
非ウイルス性送達系を利用する場合には、例示的な送達媒体の1つはリポソームである。脂質製剤の使用を、宿主細胞への核酸の導入のために想定している(インビトロ、エクスビボまたはインビボ)。別の局面において、核酸を脂質と結合させてもよい。脂質と結合した核酸をリポソームの水性内部の中に封入し、リポソームの脂質二重層の内部に配置させ、リポソームおよびオリゴヌクレオチドの両方と結合する連結分子を介してリポソームに付着させ、リポソーム内に封じ込め、リポソームと複合体化させ、脂質を含有する溶液中に分散させ、脂質と混合し、脂質と配合し、脂質中に懸濁物として含有させ、ミセル中に含有させるかもしくは複合体化させ、または他の様式で脂質と結合させることができる。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクターが結合する組成物は、溶液中のいかなる特定の構造にも限定されない。例えば、それらは二重層構造の中に、ミセルとして、または「崩壊した」構造として存在しうる。それらはまた、溶液中に単に点在していて、大きさも形状も均一でない凝集物を形成する可能性があってもよい。脂質とは、天然脂質または合成脂質であってよい脂肪性物質のことである。例えば、脂質には、細胞質中に天然に存在する脂肪小滴、ならびに長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体を含む化合物のクラス、例えば脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコールおよびアルデヒドなどが含まれる。
【0157】
使用に適した脂質は、販売元から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)はSigma, St. Louis, MOから入手することができ;ジアセチルホスファート(「DCP」)はK & K Laboratories(Plainview, NY)から入手することができ;コレステロール(「Choi」)はCalbiochem-Behringから入手することができ;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc.(Birmingham, AL)から入手することができる。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中にある脂質の貯蔵溶液は、約-20℃で保存することができる。クロロホルムはメタノールよりも容易に蒸発するので、それを唯一の溶媒として用いることが好ましい。「リポソーム」とは、閉じた脂質二重層または凝集物の生成によって形成される、種々の単層および多重層の脂質媒体を包含する総称である。リポソームは、リン脂質二重層膜による小胞構造および内部の水性媒質を有するものとして特徴づけることができる。多重層リポソームは、水性媒質によって隔てられた複数の脂質層を有する。それらはリン脂質を過剰量の水性溶液中に懸濁させると自発的に形成される。脂質成分は自己再配列を起こし、その後に閉鎖構造の形成が起こり、水および溶解溶質を脂質二重層の間に封じ込める(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5:505-10)。しかし、溶液中で通常の小胞構造とは異なる構造を有する組成物も包含される。例えば、脂質がミセル構造をとってもよく、または単に脂質分子の不均一な凝集物として存在してもよい。また、リポフェクタミン-核酸複合体も想定している。
【0158】
CAARの任意のドメインおよび/または断片、ベクター、ならびにプロモーターは、PCRまたは当技術分野において公知の任意の他の手段によって増幅された、合成遺伝子断片であってもよい。
【0159】
CAARを含む細胞
別の局面において、本発明は、本明細書に開示されたMuSKキメラ自己抗体受容体(CAAR)を含む遺伝子改変細胞を含む。
【0160】
別の態様において、遺伝子改変細胞は、MuSK CAARを発現する。この態様において、細胞は、B細胞上の、または、形質細胞に分化しているB細胞上の、MuSK自己抗体ベースのB細胞受容体(BCR)に対して高い親和性を有する。結果として、遺伝子改変細胞は、抗MuSK B細胞の直接の死滅、またはMuSK自己抗体を発現する形質細胞の間接的な死滅を誘導することができる。さらに別の態様において、遺伝子改変細胞は、Fc受容体に結合した抗体に対して低い親和性を有する。
【0161】
1つの態様において、遺伝子改変細胞は、T細胞、例えば、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、調節性T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、サイトカイン誘導性キラー細胞、それらの細胞株、Tメモリー幹細胞、または他のTエフェクター細胞である。T細胞が、健常細胞に対する限定された毒性、および自己抗体を発現する細胞に対する特異性を有することもまた、有用である。そのような特異性により、自己抗体に特異的ではない現在の療法において優勢であるオフターゲットの毒性が阻止されるか、または低下する。1つの態様において、T細胞は、健常細胞に対する限定された毒性を有する。1つの態様において、T細胞は自己細胞である。別の態様において、T細胞は同種細胞である。
【0162】
いくつかの態様において、本発明は、インビトロで分化した多能性幹細胞に由来する遺伝子改変免疫細胞を含む。他の態様において、本発明は、T細胞、例えば初代細胞、初代T細胞に由来する増大したT細胞、インビトロで分化した幹細胞に由来するT細胞、Jurkat細胞などのT細胞株、他の供給源のT細胞、それらの組み合わせ、および他のエフェクター細胞を含む。例えば、NFAT応答エレメントおよびそれに続くGFPが形質導入されたJurkat細胞株を、MuSK特異的B細胞を検出して単離するため、およびMuSK特異的抗体レパートリーを包括的様式かつ不偏様式でクローニングするために用いることができる。相互作用するB細胞とJurkat細胞を、GFP陽性のダブレットまたは多量体として検出し、フローサイトメトリーによってソーティングすることができる。B細胞受容体をコードする遺伝子の発現クローニングにより、重症筋無力症(MG)などの自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患における自己免疫および自己抗体についてのさらなる情報が提供されるであろう。
【0163】
自己抗体および血清、例えば、非限定的にMG血清に結合するCAARの機能的能力を、Jurkatレポーター細胞株において評価することができ、これは、自己抗体に結合することによるCAARの活性化に依存する(それに応答して、活性化された細胞は、その中に含有されているNFAT-GFPレポーター構築物により緑色の蛍光を発する)。そのような方法は、機能的結合能力についての有用なかつ信頼できる定性的測定法である。細胞表面上の自己抗原の妥当なプロセシングもまた、重要であり、モノクローナル抗体を用いて測定することができる。さらに、主要疾患エピトープに基づくMuSKの短縮または変異もまた、有用であり、本明細書に含まれる。さまざまな長さのヒンジ領域を用いた短縮バージョンもまた、有用である。安全性に関しては、形質導入細胞間のまたは神経筋接合部に対する、可能性のある同種親和性およびヘテロ親和性の相互作用および活性化(例えば、MuSK-LRP4)を阻止するかまたは低下させることが好ましい。
【0164】
CAARの効力および安全性のさらなる評価は、例えば、以下のように行うことができる。
【0165】
構築物を、293T/17などのヒト細胞中に一過性にトランスフェクトすることができる。表面発現を、上述の細胞外ドメイン(Ig1、Ig2、Ig3、Fz(Ig様ドメインおよびfrizzledドメイン))、ドメイン間のリンカー、またはCAARに含まれる他の構造に特異的なモノクローナル抗体(IgGまたはScFvのいずれか)で検出することができる。結合を、特異的な二次抗体で検証し、フローサイトメトリーによって定量することができる。
【0166】
任意のアイソタイプのヒト抗MuSK抗体の膜に発現される構築物の作製は、さまざまなMuSK-CAARを試験するための標的細胞として働くことができる。追加的な標的細胞株を、細胞株(例えば、Nalm6またはK562細胞)の表面上でのヒトモノクローナル抗体の発現によって、必要とされる際に作製することができる。
【0167】
自己免疫疾患
本発明はまた、自己抗体媒介性神経筋接合部(NMJ)疾患の文脈において、自己抗体発現細胞に関連する障害または自己免疫疾患を予防し、処置し、および/または管理するための方法も提供する。方法は、自己抗体発現細胞に結合する本発明のCAARを含む遺伝子改変細胞、例えば、T細胞を、それを必要とする対象に投与する段階を含む。1つの局面において、対象はヒトである。自己抗体媒介性NMJ疾患の非限定的な例には、重症筋無力症(MG)が非限定的に含まれる。
【0168】
投与される本発明の細胞は、治療を受ける対象に対して自己、同種、または異種であってもよい。処置の方法において、対象から単離された細胞、例えば、T細胞を、適切なCAARを発現するように改変し、エクスビボで増大させ、次いで、同じ対象中に再び輸注することができる(例えば、細胞は自己細胞である)。いくつかの態様において、細胞、例えば、T細胞は、元のT細胞のドナーとは異なる対象中に再び輸注される(例えば、細胞は同種細胞である)。改変細胞、例えば、T細胞は、MuSK自己抗体を産生するB細胞または形質細胞などの標的細胞を認識し、活性化されて、自己免疫標的細胞の死滅を結果としてもたらす。
【0169】
自己免疫疾患を有する患者において、例えば、MG患者において、再燃もまた起こりうる。薬物(例えば、プレドニゾンまたはリツキシマブ)で処置された患者において、再燃は、同じ自己抗体B細胞クローンの残存によって媒介されうるのに対して、寛解は、これらのクローンの消失に関連している。MuSK CAAR細胞、例えば、T細胞を輸注することによって、恐らくMuSK CAAR細胞、例えば、T細胞の長命のために、自己免疫細胞が枯渇されて長期の寛解を誘導し、かつ/または自己抗原反応クローンが再出現しない。
【0170】
インビトロ、インサイチュ、またはインビボでMuSK CAAR発現細胞をモニタリングするために、MuSK CAAR細胞は、検出可能なマーカーをさらに発現することができる。MuSK CAARが標的に結合すると、検出可能なマーカーが活性化されて発現し、それを、フローサイトメトリーなどの当技術分野において公知のアッセイによって検出することができる。1つの態様において、MuSK CAAR発現細胞を検出して定量するために、MuSK CAARは、NFAT応答エレメント、および緑色蛍光タンパク質(GFP)などの検出可能なマーカーを含む。
【0171】
T細胞の供給源
遺伝子改変および/または増大の前に、T細胞(例えば、自己または同種T細胞)を対象から入手する。対象の例には、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、およびそれらのトランスジェニック種が含まれる。T細胞は、皮膚、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、および脾臓組織を含む、数多くの供給源から入手することができる。本発明のある態様において、当技術分野において入手可能な任意のさまざまなT細胞株を用いることができる。本発明のある態様において、T細胞は、フィコール(商標)分離などの、当業者に公知の任意のさまざまな手法を用いて対象から収集された血液ユニットから得られる。1つの好ましい態様において、個体の流血由来の細胞はアフェレーシスによって入手される。アフェレーシス産物は、典型的には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞を含むリンパ球、他の有核白血球、赤血球、および血小板を含む。1つの態様においては、アフェレーシスによって収集された細胞を、血漿画分を除去するために洗浄した上で、その後の処理段階のために細胞を適切な緩衝液または培地中に配置することができる。本発明の1つの態様においては、これらの細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄する。1つの代替的な態様において、洗浄溶液はカルシウムを含まず、かつ、マグネシウムを含まないか、またはすべてではないものの多くの二価カチオンを含まない。この場合にも、驚くべきことに、カルシウム非存在下での最初の活性化段階により、活性化の増強がもたらされる。当業者は容易に理解するであろうが、洗浄段階は、半自動化された「フロースルー」遠心分離機(例えば、Cobe 2991細胞プロセッサー、Baxter CytoMate、またはHaemonetics Cell Saver 5など)を製造元の指示に従って用いることなどによって、当技術分野において公知の方法によって実現することができる。洗浄の後に、細胞を、例えば、Ca非含有、Mg非含有PBS、PlasmaLyte A、または緩衝剤を含むかもしくは含まない他の食塩液といった、種々の生体適合性緩衝液中に再懸濁させることができる。または、アフェレーシス試料の望ましくない成分を除去して、細胞を培養培地中に直接再懸濁させてもよい。
【0172】
別の態様においては、赤血球を溶解させた上で、例えばPERCOLL(商標)勾配での遠心分離によるか、または向流遠心分離溶出法によって単球を枯渇させることによって、T細胞を末梢血リンパ球から単離する。CD3+、CD28+、CD4+、CD8+、CD45RA+、およびCD45RO+T細胞といったT細胞の特定の部分集団を、陽性選択法または陰性選択法によってさらに単離することができる。例えば、1つの好ましい態様において、T細胞は、DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 Tなどの抗CD3/抗CD28(すなわち、3x28)結合ビーズとの、所望のT細胞の陽性選択に十分な期間にわたるインキュベーションによって単離される。1つの態様において、この期間は約30分間である。1つのさらなる態様において、この期間は、30分間~36時間またはそれ以上、およびそれらの間の全ての整数値の範囲にわたる。1つのさらなる態様において、この期間は、少なくとも1時間、2時間、3時間、4時間、5時間または6時間である。さらに別の好ましい態様において、この期間は10~24時間である。1つの好ましい態様において、インキュベーション期間は24時間である。一部の患者のためには、24時間といった比較的長いインキュベーション時間を用いることにより、細胞収量を増やすことができる。免疫機能低下個体からT細胞を単離するように、他の細胞型と比較してT細胞がわずかしか存在しないあらゆる状況で、T細胞を単離するために比較的長いインキュベーション時間を用いることができる。さらに、比較的長いインキュベーション時間の使用により、CD8+ T細胞の捕捉効率を高めることもできる。したがって、この時間を短縮または延長させるだけでT細胞はCD3/CD28ビーズへ結合でき、かつ/または、T細胞に対するビーズの比を増加もしくは減少させることにより(本明細書でさらに説明するように)、T細胞の部分集団は、培養開始時もしくはこの過程の他の時点で、これについて優先的に選択もしくは除外されうる。加えて、ビーズまたは他の表面上の抗CD3および/または抗CD28抗体の比を増加または減少することにより、T細胞部分集団は、培養開始時もしくは他の望ましい時点で、これについてまたはこれに対して優先的に選択される。当業者は、本発明の状況において複数回の選択を使用することができることを認めると思われる。ある態様においては、この選択手順を実行し、活性化および増大の過程において「選択されない」細胞を使用することが望ましいことがある。「選択されない」細胞に、さらに選択を施すこともできる。
【0173】
陰性選択によるT細胞集団の濃縮は、陰性選択された細胞への独自の表面マーカーに対する抗体の組合せにより実行することができる。1つの方法は、陰性選択された細胞上に存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体カクテルを使用する、負磁気免疫接着またはフローサイトメトリーによる細胞ソーティングおよび/または選択である。例えば、陰性選択によってCD4+細胞を濃縮するためのモノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。ある態様において、典型的にはCD4+、CD25+、CD62L+、GITR+、およびFoxP3+を発現する調節性T細胞を濃縮するかまたは陽性選択することが望ましいことがある。または、ある態様においては、抗CD25結合ビーズまたは他の類似の選択方法によって、調節性T細胞を枯渇させる。他の態様においては、T細胞の亜集団を、例えば、限定されるわけではないが、1つまたは複数の表面マーカーについて陽性の細胞またはそれらを高レベルで発現する細胞、例えばCD28+、CD8+、CCR7+、CD27+、CD127+、CD45RA+、および/もしくはCD45RO+ T細胞を、陽性または陰性選択技術によって単離することができる。
【0174】
陽性または陰性選択によって望ましい細胞集団を単離するために、細胞および表面(例えば、ビーズなどの粒子)の濃度を変化させることができる。ある態様においては、細胞とビーズの最大接触を確実にするために、ビーズおよび細胞が一緒に混合される容積の著しい減少(すなわち、細胞の濃度の増加)が望ましいことがある。例えば、1つの態様においては、細胞20億個/mlの濃度を用いる。1つの態様において、細胞10億個/mlの濃度を用いる。さらなる態様においては、細胞1億個/mlよりも高いものを用いる。さらなる態様においては、1000万個/ml、1500万個/ml、2000万個/ml、2500万個/ml、3000万個/ml、3500万個/ml、4000万個/ml、4500万個/mlまたは5000万個/mlの細胞濃度を用いる。さらに別の態様においては、7500万個/ml、8000万個/ml、8500万個/ml、9000万個/ml、9500万個/ml、または1億個/mlからの細胞濃度を用いる。さらなる態様においては、1億2500万個/mlまたは1億5000万個/mlの濃度を用いることができる。高濃度を用いることにより、増加した細胞収量、細胞活性化および細胞増大を生じることができる。さらに、高い細胞濃度の使用は、CD28陰性T細胞のような、関心のある標的抗原を弱く発現する細胞の捕捉効率を高めることができる。そのような細胞集団は、治療的価値があり、かつ得ることが望ましい。例えば、高い濃度の細胞の使用は、通常弱くCD28を発現するCD8+ T細胞をより効率的に選択することを可能にする。
【0175】
1つの関連した態様においては、より低い濃度の細胞を用いることが望ましいことがある。T細胞および表面(例えばビーズなどの粒子)の混合物の高度の希釈により、粒子と細胞間の相互作用は最小化される。これにより、これらの粒子と結合する所望の抗原を大量発現する細胞が選択される。例えば、CD4+ T細胞は、より高いレベルのCD28を発現し、希釈した濃度でCD8+ T細胞よりもより効率的に捕捉される。1つの態様において、用いられる細胞濃度は、5×106個/mlである。別の態様において、用いられる濃度は、約1×105個/ml~1×106個/ml、およびその間の任意の整数であることができる。
【0176】
他の態様において、細胞を、回転器にて、さまざまな時間にわたって、さまざまな速度で、2~10℃または室温のいずれかで、インキュベートすることもできる。
【0177】
また、刺激のためのT細胞を、洗浄段階の後に凍結することもできる。理論に拘束されることは望まないが、凍結段階およびそれに続く解凍段階は、細胞集団における顆粒球およびある程度の単球を除去することによって、より均一な製剤を提供する。血漿および血小板を除去する洗浄段階の後に、これらの細胞を凍結液中に懸濁させてもよい。多くの凍結液およびパラメーターが当技術分野において公知であり、かつこの状況において有用であるが、1つの方法は、20% DMSOおよび8%ヒト血清アルブミンを含有するPBS、または、10%デキストラン40および5%デキストロース、20%ヒト血清アルブミンおよび7.5% DMSO、または31.25% Plasmalyte-A、31.25%デキストロース5%、0.45% NaCl、10%デキストラン40および5%デキストロース、20%ヒト血清アルブミンおよび7.5% DMSO、または例えばHespanおよびPlasmaLyte Aを含有する他の適した細胞凍結培地の使用を伴い、続いてこれらの細胞は、1分間に1℃の速度で-80℃に凍結され、液体窒素貯蔵タンク内で気相中に貯蔵される。その他の制御された凍結法に加え、即時-20℃または液体窒素中の制御されない凍結を使用してもよい。
【0178】
ある態様においては、凍結保存細胞を本明細書に記載の通りに解凍および洗浄して、室温で1時間静置した後に、本発明の方法を用いる活性化を行う。
【0179】
また、本発明に関連して、本明細書に記載されたような増大された細胞が必要となる前の期間での、対象からの血液試料またはアフェレーシス産物の収集も想定している。そのために、増大させようとする細胞の供給源を、必要な任意の時点で収集し、T細胞などの所望の細胞を、本明細書に記載された説明されたもののような、T細胞療法による恩恵を受けると考えられる任意のさまざまな疾患または病状に対するT細胞療法に後に用いるために単離して凍結することができる。1つの態様においては、血液試料またはアフェレーシス物を、全般的に健常な対象から採取する。ある態様においては、血液試料またはアフェレーシス物を、疾患を発症するリスクがあるが、まだ疾患を発症していない全般的に健常な対象から採取し、関心対象の細胞を、後に用いるために単離して凍結する。ある態様においては、T細胞を増大させ、凍結して、後の時点で用いる。ある態様においては、本明細書に記載されたような特定の疾患の診断後間もなく、しかしいかなる治療も行わないうちに、患者から試料を収集する。1つのさらなる態様においては、細胞を、以下に限定されるわけではないがリツキシマブまたは他の抗CD20もしくは抗CD19作用物質、抗FcRn作用物質、Btk阻害剤、血漿交換、コルチコステロイド、ミコフェノラート、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、シクロホスファミドなどの作用物質による治療を非限定的に含む、任意のさまざまな妥当な治療様式の前の対象由来の血液試料またはアフェレーシス物から単離する。これらの薬物は、例えば、カルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリンを阻害するか(シクロスポリンおよびFK506)、または増殖因子で誘導されるシグナル伝達にとって重要なp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)ことができる(Liu et al., Cell, 66:807-815,1991;Henderson et al., Immun., 73:316-321,1991;Bierer et al., Curr. Opin. Immun., 5:763-773,1993)。さらなる態様においては、細胞を、患者のために単離し、かつ、後で併用して(例えば、フルダラビン、外照射療法(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体によるような除去療法の前にまたはそれと同時に)使用するために凍結する。別の態様においては、細胞を事前に単離した上で、例えばリツキサンなどによるB細胞除去療法後の治療のために後で用いるために凍結することができる。
【0180】
本発明の1つのさらなる態様においては、T細胞を、治療後に患者から直接入手する。これに関して、ある種の癌治療、特に免疫系に障害を及ぼす薬物による治療の後には、患者が通常であれば治療から回復中であると考えられる治療後間もない時点で、得られるT細胞の品質が、それらがエクスビボで増大する能力の点で最適であるか改善されていることが観察されている。同様に、本明細書に記載された方法を用いるエクスビボ操作の後にも、これらの細胞は生着およびインビボ増大の増強のために好ましい状態にある可能性がある。したがって、本発明に関連して、この回復相の間に、T細胞、樹状細胞、または造血系統の他の細胞を含む血液細胞を収集することを想定している。さらに、ある態様においては、動員(例えば、GM-CSFによる動員)レジメンおよび条件付けレジメンを用いて、特定の細胞型の再増殖、再循環、再生および/または増大にとって有利に働く状態を、特に治療法の後のある規定された時間枠の間に、対象において作り出すことができる。例示的な細胞型には、T細胞、B細胞、樹状細胞および免疫系の他の細胞が含まれる。
【0181】
T細胞の活性化および増大
いくつかの態様において、例えば、米国特許第6,352,694号;第6,534,055号;第6,905,680号;第6,692,964号;第5,858,358号;第6,887,466号;第6,905,681 号;第7,144,575号;第7,067,318号;第7,172,869号;第7,232,566号;第7,175,843号;第5,883,223号;第6,905,874号;第6,797,514号;第6,867,041号;ならびに米国特許出願公開第20060121005号に記載された方法を用いて、T細胞を活性化して増大させることができる。他の態様においては、T細胞は、使用前に、活性化させるが増大させない、または活性化も増大もさせない。
【0182】
活性化および増大させる場合、本発明のT細胞は、一般に、CD3/TCR複合体関連シグナルを刺激する作用物質、およびT細胞の表面上の共刺激分子を刺激するリガンドが付着した表面との接触によって増大させられる。特に、T細胞集団は、本明細書に記載されたように、例えば、表面上に固定化された抗CD3抗体もしくはその抗原結合断片または抗CD2抗体との接触によって、またはカルシウムイオノフォアを伴うプロテインキナーゼCアクチベーター(例えば、ブリオスタチン)との接触などによって、刺激することができる。T細胞の表面上のアクセサリー分子の同時刺激のためには、アクセサリー分子と結合するリガンドが用いられる。例えば、T細胞の集団を、T細胞の増殖を刺激するのに適した条件下で、抗CD3抗体および抗CD28抗体と接触させることができる。CD4+ T細胞またはCD8+ T細胞のいずれかの増殖を刺激するためには、抗CD3抗体および抗CD28抗体。抗CD28抗体の例には、9.3、B-T3、XR-CD28(Diaclone, Besancon, France)が含まれ、当技術分野において一般に公知である他の方法と同様に用いることができる(Berg et al., Transplant Proc. 30(8):3975-3977, 1998;Haanen et al., J. Exp. Med. 190(9):13191328, 1999;Garland et al., J. Immunol Meth. 227(1-2):53-63, 1999)。
【0183】
ある態様において、T細胞に対する一次刺激シグナルおよび共刺激シグナルは、さまざまなプロトコールによって与えることができる。例えば、各シグナルを与える作用物質は、溶液中にあってもよく、または表面と結合させてもよい。表面と結合させる場合、これらの作用物質を同じ表面に結合させてもよく(すなわち、「シス」フォーメーション)、または別々の表面に結合させてもよい(すなわち、「トランス」フォーメーション)。または、一方の作用物質を溶液中の表面に結合させ、もう一方の作用物質が溶液中にあってもよい。1つの態様においては、共刺激シグナルを与える作用物質を細胞表面と結合させ、一次活性化シグナルを与える作用物質は溶液中にあるか、または表面と結合させる。ある態様においては、両方の作用物質が溶液中にあってもよい。別の態様において、これらの物質は可溶形態にあり、続いて、Fc受容体を発現する細胞または抗体またはこれらの物質と結合する他の結合物質などの表面と架橋結合することができる。これに関しては、例えば、本発明においてT細胞を活性化および増大させるために用いることを想定している人工抗原提示細胞(aAPC)についての、米国特許出願公開第20040101519号および第20060034810号を参照されたい。
【0184】
1つの態様においては、2種の作用物質を、同じビーズ上に、すなわち「シス」か、または別々のビーズ上に、すなわち「トランス」かのいずれかとして、ビーズ上に固定化する。一例として、一次活性化シグナルを与える作用物質は抗CD3抗体またはその抗原結合断片であり、共刺激シグナルを与える作用物質は抗CD28抗体またはその抗原結合断片である;そして、両方の作用物質を等モル量で同じビーズに同時固定化する。1つの態様においては、CD8+ T細胞の増大およびT細胞増殖のためにビーズと結合させる各抗体を1:1の比で用いる。1つの態様においては、CD4+ T細胞の増大およびT細胞増殖のためにビーズと結合させる各抗体を1:1の比で用いる。本発明のある局面においては、ビーズと結合させる抗CD3:CD28抗体の比として、1:1の比を用いて観察される増大と比較してT細胞増大の増加が観察されるようなものを用いる。1つの特定の態様においては、1:1の比を用いて観察される増大と比較して約1~約3倍の増加が観察される。1つの態様においては、ビーズと結合させるCD3:CD28抗体の比は、100:1~1:100、およびそれらの間のすべての整数の範囲にある。本発明の1つの局面においては、抗CD3抗体よりも多くの抗CD28抗体が粒子と結合され、すなわちCD3:CD28の比は1未満である。本発明のある態様において、ビーズと結合させる抗CD28抗体と抗CD3抗体との比は、2:1よりも大きい。1つの特定の態様においては、ビーズと結合させる抗体に1:100のCD3:CD28比を用いる。別の態様においては、ビーズと結合させる抗体に1:75のCD3:CD28比を用いる。さらなる態様においては、ビーズと結合させる抗体に1:50のCD3:CD28比を用いる。別の態様においては、ビーズと結合させる抗体に1:30のCD3:CD28比を用いる。1つの好ましい態様においては、ビーズと結合させる抗体に1:10のCD3:CD28比を用いる。別の態様においては、ビーズと結合させる抗体に1:3のCD3:CD28比を用いる。さらに別の態様においては、ビーズと結合させる抗体に3:1のCD3:CD28比を用いる。
【0185】
T細胞または他の細胞標的を刺激するには、粒子と細胞との比として1:500~500:1およびその間の任意の整数値を用いることができる。当業者が容易に理解するように、粒子と細胞との比は、標的細胞に対する粒子サイズに依存しうる。例えば、小さいサイズのビーズは2、3個の細胞と結合しうるに過ぎないが、一方、より大きいビーズは多くと結合しうると考えられる。ある態様において、細胞と粒子との比は1:100~100:1およびその間の任意の整数値の範囲にあり、さらなる態様において、この比は1:9~9:1およびその間の任意の整数値を含み、これを同じくT細胞を刺激するために用いることができる。T細胞の刺激をもたらす、抗CD3が結合した粒子および抗CD28が結合した粒子とT細胞との比は、上述したようにさまざまでありうるが、いくつかの好ましい値には、1:100、1:50、1:40、1:30、1:20、1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1および15:1が含まれ、ここで、T細胞1個あたり粒子少なくとも1:1が、1つの好ましい比である。1つの態様においては、1:1またはそれ未満である粒子と細胞との比を用いる。1つの特定の態様において、好ましい粒子:細胞比は1:5である。さらなる態様において、粒子と細胞との比は、刺激の日に応じて変化しうる。例えば、1つの態様において、粒子と細胞との比は第1日に1:1~10:1であり、その後最長10日間にわたって毎日または1日おきに追加の粒子を細胞に添加して、最終的な比が1:1~1:10となる(添加の日の細胞数に基づく)。1つの特定の態様において、粒子と細胞との比は刺激の1日目に1:1であり、刺激の3日目および5日目に1:5に調節される。別の態様において、粒子は毎日または1日おきに添加され、最終的な比は1日目に1:1であり、刺激の3日目および5日目には1:5である。別の態様において、粒子と細胞との比は刺激の1日目に2:1であり、刺激の3日目および5日目に1:10に調節される。別の態様において、粒子は毎日または1日おきに添加され、最終的な比は1日目に1:1であり、刺激の3日目および5日目には1:10である。当業者は、さまざまな他の比が、本発明における使用に適することを理解するであろう。特に、比は粒子サイズならびに細胞のサイズおよび型に応じて多様であると考えられる。
【0186】
本発明のさらなる態様においては、T細胞などの細胞を、作用物質でコーティングされたビーズと一緒にし、その後にビーズと細胞を分離した上で、続いて細胞を培養する。1つの代替的な態様においては、培養の前に、作用物質でコーティングされたビーズと細胞を分離せずに、一緒に培養する。1つのさらなる態様においては、ビーズおよび細胞を磁力などの力の印加によってまず濃縮して、細胞表面マーカーの連結を増加させて、それにより、細胞刺激を誘導する。
【0187】
例として、抗CD3および抗CD28が付着した常磁性ビーズ(3x28ビーズ)をT細胞と接触させることによって、細胞表面タンパク質を連結させることができる。1つの態様においては、細胞(例えば、104~109個のT細胞)およびビーズ(例えば、DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T常磁性ビーズ、1:1の比)を、緩衝液中、例えばPBS(カルシウムおよびマグネシウムなどの二価カチオンを含まない)中で一緒にする。この場合も、当業者は、あらゆる細胞濃度を用いうることを容易に理解するであろう。例えば、標的細胞が試料中に非常に稀であって、試料のわずかに0.01%を構成してもよく、または試料の全体(すなわち、100%)が関心対象の標的細胞で構成されてもよい。したがって、あらゆる細胞数が本発明の状況の範囲に含まれる。ある態様においては、粒子と細胞を一緒にして混合する容積を著しく減らして(すなわち、細胞の濃度を高めて)、細胞と粒子の最大の接触を確実にすることが望ましいと考えられる。例えば、1つの態様においては、細胞約20億個/mlの濃度を用いる。別の態様においては、細胞1億個/ml超を用いる。1つのさらなる態様においては、1000万個、1500万個、2000万個、2500万個、3000万個、3500万個、4000万個、4500万個、または5000万個/mlの細胞濃度を用いる。さらに別の態様においては、7500万個、8000万個、8500万個、9000万個、9500万個または1億個/mlの細胞濃度を用いる。さらなる態様において、細胞1億2500万または1億5000万個/mlの濃度を用いることができる。高濃度を用いることにより、細胞収量、細胞活性化、および細胞増大の増加がもたらされうる。さらに、高い細胞濃度を用いることにより、CD28陰性T細胞のように関心対象の標的抗原を弱く発現する細胞のより効率的な捕捉が可能になる。ある態様においては、そのような細胞集団は治療的価値を有する可能性があり、入手することが望ましいと考えられる。例えば、高濃度の細胞を用いることにより、通常は比較的弱いCD28発現を有するCD8+ T細胞のより効率的な選択が可能にある。
【0188】
本発明の1つの態様においては、混合物を、数時間(約3時間)~約14日間、またはその間の任意の整数値単位の時間にわたって培養しうる。別の態様において、混合物を21日間培養しうる。本発明の1つの態様においては、ビーズとT細胞を約8日間一緒に培養する。別の態様においては、ビーズとT細胞は2~3日間一緒に培養する。数回の刺激サイクルも望ましく、その結果、T細胞の培養時間は60日間またはそれより長くなる。T細胞の培養に適した条件には、血清(例えばウシ胎仔血清またはヒト血清)、インターロイキン-2(IL-2)、インスリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGFβおよびTNF-α、または当業者に公知である細胞増殖のための他の添加物を含む、増殖および生存のために必要な因子を含みうる適切な培地(例えば、最小必須培地またはRPMI Medium 1640または、X-vivo 15(Lonza))が含まれる。細胞の増殖のための他の添加剤には、界面活性剤、プラスマネート、および還元剤、例えばN-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールなどが非限定的に含まれる。培地には、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウムおよびビタミンが添加された、血清非含有であるか、またはT細胞の増殖および増大のために十分な、適量の血清(または血漿)もしくは規定されたホルモンのセットおよび/もしくは一定量のサイトカインが加えられた、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、α-MEM、F-12、X-Vivo 15、およびX-Vivo 20が含まれうる。ペニシリンおよびストレプトマイシンなどの抗生物質は実験培養物のみに含められ、対象に輸注される細胞の培養物には含められない。標的細胞は、増殖を支えるために必要な条件下、例えば適切な温度(例えば、37℃)および雰囲気(例えば、空気+5% CO2)の下で維持される。
【0189】
多様な刺激時間にわたって曝露されたT細胞は、異なる特性を示しうる。例えば、典型的な血液またはアフェレーシスを受けた末梢血単核細胞産物は、ヘルパーT細胞集団(TH、CD4+)を、細胞傷害性またはサプレッサーT細胞集団(TC、CD8+)よりも多く有する。CD3受容体およびCD28受容体を刺激することによるT細胞のエクスビボ増大では、約8~9日目より前には主としてTH細胞からなるT細胞集団が生じるが、約8~9日目以後、T細胞の集団はTC細胞の集団を次第に多く含むようになる。したがって、治療の目的によっては、主としてTC細胞またはTH細胞で構成されるT細胞集団を対象に輸注することが有利な場合がある。同様に、TC細胞の抗原特異的サブセットが単離されている場合には、このサブセットをより高度に増大させることが有益な場合がある。
【0190】
さらに、CD4およびCD8マーカーのほかに、他の表現型マーカーも、細胞増大の過程で顕著に、しかし大部分は再現性を伴って変動する。このため、そのような再現性により、活性化T細胞製剤を特定の目的に合わせて作ることが可能になる。
【0191】
治療応用
1つの局面において、本発明は、対象において自己抗体媒介性NMJ疾患を処置するための方法を含む。方法は、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子改変細胞、例えば、T細胞の有効量を対象に投与する段階を含み、該ポリヌクレオチドは、筋特異的キナーゼ(MuSK)自己抗原またはその断片、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインをコードし、それにより、該対象において自己抗体媒介性NMJ疾患を処置する。いくつかの態様において、ポリヌクレオチドは、KIRエレメントをさらにコードする。
【0192】
別の局面において、本発明は、自己抗体媒介性NMJ疾患のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象においてNMJ損傷を阻止するかまたは低下させるための方法を含む。方法は、CAARをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子改変細胞、例えば、T細胞の有効量を対象に投与する段階を含み、該ポリヌクレオチドは、MuSK自己抗原またはその断片、ならびに任意で、膜貫通ドメイン、共刺激分子の細胞内ドメイン、および/またはシグナル伝達ドメインをコードし、それにより、該対象においてNMJ損傷を阻止するかまたは低下させる。いくつかの態様において、ポリヌクレオチドは、KIRエレメントをさらにコードする。
【0193】
1つの態様において、自己抗体媒介性NMJ疾患は、重症筋無力症(MG)である。別の態様において、対象はヒトである。
【0194】
いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、CAAR改変細胞、例えばT細胞によって惹起される抗自己抗体免疫応答は、能動免疫応答または受動免疫応答でありうる。さらに別の態様において、改変細胞、例えばT細胞は、B細胞を標的とする。例えば、自己抗体発現B細胞は、近くの自己抗体発現細胞に対して以前に反応したことがあるCAAR再誘導細胞、例えばT細胞による間接破壊を受けやすい可能性がある。
【0195】
1つの態様において、本発明の遺伝子改変細胞、例えばT細胞は、完全ヒトCAARによって改変される。1つの態様において、完全ヒトCAAR遺伝子改変細胞、例えばT細胞は、哺乳動物におけるエクスビボ免疫処置および/またはインビボ治療法のためのワクチンの一種であってもよい。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。
【0196】
エクスビボ免疫処置に関しては、細胞を哺乳動物に投与する前に、以下のうちの少なくとも1つをインビトロで行う:i)細胞の増大、ii)CAARをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入すること、iii)細胞の凍結保存。
【0197】
エクスビボ手順は、当技術分野において周知であり、以下でより詳細に考察する。手短に述べると、細胞を哺乳動物(例えば、ヒト)から単離して、本明細書に開示されたCAARを発現するベクターで遺伝子改変する(すなわち、インビトロで形質導入するかまたはトランスフェクトする)。CAAR改変細胞を哺乳動物レシピエントに投与して、治療的利益を与えることができる。哺乳動物レシピエントはヒトであってもよく、CAAR改変細胞は、レシピエントに対して自己であることができる。あるいは、細胞は、レシピエントに対して同種、同系、または異種であることができる。
【0198】
造血幹細胞および前駆細胞のエクスビボ増大のための手順は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,199,942号に記載されており、本発明の細胞に適用することができる。他の適した方法は当技術分野において公知であり、このため、本発明は、細胞のエクスビボ増大のいずれかの特定の方法に限定されない。手短に述べると、T細胞のエクスビボ培養および増大は、以下を含む:(1)哺乳動物由来のCD34+造血幹細胞および前駆細胞を、末梢血採取物または骨髄エクスプラントから収集すること;ならびに(2)そのような細胞をエクスビボで増大させること。米国特許第5,199,942号に記載された細胞増殖因子に加えて、flt3-L、IL-1、IL-3、およびc-kitリガンドなどの他の因子を、細胞の培養および増大のために用いることができる。
【0199】
エクスビボ免疫処置に関して細胞ベースのワクチンを用いることに加えて、本発明はまた、患者において抗原に対する免疫応答を惹起するための、インビボ免疫処置用の組成物および方法も含む。
【0200】
一般に、本明細書に記載されたように活性化および増大させた細胞を、免疫機能が低下している個体において生じる疾患の処置および予防に利用してもよい。特に、本発明のMuSK CAAR改変細胞、例えばT細胞は、自己抗体の発現に関連する疾患、障害、および状態の処置において用いられる。ある態様において、本発明の細胞は、自己抗体の発現に関連する自己免疫NMJ疾患、障害、および状態を発症するリスクがある患者の処置において用いられる。したがって、本発明は、自己抗体(抗MuSK)の発現に関連する自己免疫NMJ疾患、障害、および状態の処置または予防のための方法であって、本発明のCAAR改変細胞、例えばT細胞の治療的有効量を、それを必要とする対象に投与する段階を含む、方法を提供する。
【0201】
本発明のCAAR改変細胞、例えばT細胞は、単独で、または、希釈剤とおよび/またはIL-2もしくは他のサイトカインもしくは細胞集団などの他の成分と組み合わせた薬学的組成物としてのいずれかで、投与されてもよい。手短に述べると、本発明の薬学的組成物は、本明細書に記載されたような標的細胞集団を、1つまたは複数の薬学的または生理的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせて含んでもよい。そのような組成物は、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水などのような緩衝液;ブドウ糖、マンノース、ショ糖またはデキストラン、マンニトールなどの糖質;タンパク質;ポリペプチド、またはグリシンなどのアミノ酸;酸化防止剤;EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);ならびに保存剤を含んでもよい。本発明の組成物は、1つの局面において、静脈内投与用に製剤化される。
【0202】
本発明の薬学的組成物は、処置(または予防)されるべき疾患に適切な方法で投与されうる。適切な投与量は臨床試験によって決定されうるが、投与の量および頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患の種類および重症度などの因子によって決定されるであろう。
【0203】
「免疫学的有効量」、「抗自己抗体有効量」、「抗BCR有効量」、「自己免疫疾患阻害有効量」、または「治療量」が示される場合、投与されるべき本発明の組成物の正確な量は、患者(対象)の年齢、体重、および状態における個々の差を考慮して、医師が決定することができる。本明細書に記載された細胞、例えばT細胞を含む薬学的組成物は、細胞104~109個/kg体重、場合によっては細胞105~106個/kg体重であって、これらの範囲内のすべての整数値を含む投与量で投与されてもよいと、一般に述べられる。細胞、例えばT細胞組成物はまた、これらの投与量で複数回投与されてもよい。細胞は、免疫療法において一般的に公知である輸注手法を用いることによって投与することができる(例えば、Rosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319:1676, 1988を参照されたい)。特定の患者のための最適な投与量および処置レジメンは、疾患の徴候に関して患者をモニタリングすること、およびそれに応じて処置を調整することによって、医療の当業者が容易に決定することができる。
【0204】
ある態様において、活性化された細胞、例えばT細胞が、対象に投与される。投与に続いて、血液を再び採取するか、またはアフェレーシスを行い、本明細書に記載された方法を用いて細胞、例えばT細胞をそこから活性化および増大させて、次いで、患者に再び輸注して戻す。この過程を、2、3週間毎に複数回実施することができる。ある態様において、細胞、例えばT細胞を、10cc~400ccの採取血から活性化させることができる。ある態様において、細胞、例えばT細胞は、20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90cc、または100ccの採取血から活性化される。理論に拘束されるわけではないが、この複数回の採血/複数回の再輸注プロトコールを用いて、細胞、例えばT細胞のある特定の集団を選別することができる。
【0205】
投与される本発明の細胞は、治療を受ける対象に対して自己、同種、または異種であってもよい。
【0206】
本発明の細胞の投与は、エアロゾル吸入、注射、経口摂取、注入、植え付け、または移植を含む、任意の好都合な手段を用いて実施されてもよい。本明細書に記載された組成物は、患者に対して、経動脈的、皮下、皮内、節内、髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射により、または腹腔内に投与されてもよい。1つの態様において、本発明の細胞、例えばT細胞組成物は、皮内注射または皮下注射によって患者に投与される。別の態様において、本発明の細胞、例えばT細胞組成物は、i.v.注射によって投与される。細胞、例えばT細胞の組成物は、リンパ節、または病態生理学的活性の部位中に直接注射されてもよい。
【0207】
本発明のある態様において、本明細書に記載された方法、または細胞、例えば、T細胞を治療レベルまで増大させる当技術分野において公知の他の方法を用いて、活性化および増大させた細胞が、抗ウイルス療法、シドフォビル、インターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとしても公知である)、リツキシマブ(またはBtk阻害剤もしくは他の抗CD20/CD19もしくはB細胞ターゲティング剤などの任意の他の一般化されたB細胞枯渇剤)、および/またはSoliris(登録商標)(エクリズマブ、終末補体阻害剤)などの剤での処置を非限定的に含む、任意の数の関連した処置様式とともに(例えば、その前に、同時に、またはその後に)患者に投与される。さらなる態様において、本発明の細胞、例えば、T細胞は、抗FcRn抗体、IVIg、または治療前に抗MuSK抗体濃度を低下させるための血漿交換と組み合わせて用いられてもよい。さらに他の態様において、軽度のリンパ球枯渇レジメン(例えば、低用量フルダラビンまたはCytoxan)が、本発明の細胞、例えば、T細胞での処置に先行してもよい。
【0208】
患者に投与される上記の治療の投与量は、治療される病状および治療のレシピエントの正確な性質に応じて異なると考えられる。ヒトへの投与に関する投与量の増減は、当技術分野において許容される実践に従って行うことができる。例えば、CAMPATHの用量は、一般に成人患者について1~約100mgの範囲であり、通常は1~30日の期間にわたって毎日投与される。好ましい一日量は1~10mg/日であるが、場合によっては、最大40mg/日までの、より少ないまたはより多くの用量を用いることもできる(米国特許第6,120,766号に記載)。
【実施例
【0209】
実験例
ここで本発明を、以下の実験例を参照しながら説明する。これらの例は例示のみを目的として提供されるものであり、本発明はこれらの例に限定されるとは全くみなされるべきではなく、本明細書で提供される教示の結果として明らかになる任意かつすべての変更も包含するとみなされるべきである。
【0210】
それ以上の説明がなくても、当業者は、前記の説明および以下の例示的な例を用いて、本発明の化合物を作成して利用し、請求される方法を実施することができる。以下の実施例は、このため、本発明の好ましい態様を具体的に指摘しており、本開示の残りを限定するものとは全くみなされるべきでない。
【0211】
本明細書に開示された実験の実行において用いた材料および方法を、次に説明する。
【0212】
‐MuSK CAAR構築物(図3A、4A、および14に示される通り)
ベクター#1:pTRPE.MuSKWT.BBz CAAR(核酸配列、SEQ ID NO: 1)

ベクター#1:pTRPE.MuSKWT.BBz CAAR(アミノ酸配列、SEQ ID NO: 9)

ベクター#2:pTRPE.MuSKWT.BBz CAARヌクレオチド配列(核酸配列、SEQ ID NO: 16)

ベクター#2:pTRPE.MuSKWT.BBz CAARアミノ酸配列(アミノ酸配列、SEQ ID NO: 9)

ベクター#3:pTRPE.MuSKI96A.BBz CAAR(核酸配列、SEQ ID NO: 21)

ベクター#3:pTRPE.MuSKI96A.BBz CAAR(アミノ酸配列、SEQ ID NO: 22)

ベクター#4:pTRPE.MuSKI96A.BBz CAARヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 24)

ベクター#4:pTRPE.MuSKI96A.BBz CAARアミノ酸配列(SEQ ID NO: 22)

ベクター#5:pTRPE.MuSKWT_opt.BBz CAARヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 25)

ベクター#5:pTRPE.MuSKWT_opt.BBz CAARアミノ酸配列(SEQ ID NO: 27)

ベクター#6:pTRPE.MuSKI96A_opt.BBz CAARヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 28)


ベクター#6:pTRPE.MuSKI96A_opt.BBz CAARアミノ酸配列(SEQ ID NO: 30)
【0213】
実験の結果を、次に説明する。
【0214】
実施例1:MuSK CAART細胞
MG患者由来の自己抗体は、AChRクラスターおよびNMJを破壊する。抗AChR抗体は、AChRクラスターに干渉し、抗MuSK抗体は、AChRクラスタリングを調節するMuSK/LRP4複合体を崩壊させる(図1)。
【0215】
本発明のMuSK CAAR-T細胞は、自己抗原認識B細胞を特異的に死滅させる。図2に示されるように、CAAR-T細胞は、T細胞受容体シグナル伝達ドメインに融合したキメラ免疫受容体の細胞外ドメインとして、表面上に自己抗原を発現する。Ag特異的B細胞は、CAART細胞に結合するB細胞受容体を発現する。CAART細胞は、メディエーター(赤色の点)を分泌して、Ag特異的B細胞を死滅させる。
【0216】
本発明の例示的なMuSK CAAR構築物であるpTRPE.MuSKWT.BBz CAARおよびpTRPE.MuSKI96A.BBz CAARを、図3A~3Bに示す。
【0217】
図4A~4Bは、MuSK CAAR構築物を示し、CAAR-T細胞が、細胞表面上にMuSK wtおよびMuSK I96A細胞外ドメイン(ECD)を成功裡に発現することを示す。図4Aは、MuSK野生型(wt)/I96A CAAR構築物の模式図である。MuSK wt ECDのアミノ酸96位のイソロイシンが、アラニンへと変異し、白四角として示されている。pTRPEレンチウイルスベクター中のMuSK wt/I96A CAARを、初代ヒトCD3+ T細胞中に形質導入した。形質導入後5日目に、MuSK wt/I96A CAARの表面発現を、抗MuSK抗体4A3を用いて検出した。結果を図4Bに示す。
【0218】
トランスフェクトされた細胞の表面上のMuSK CAARの発現を、図5A~5Bにおいて実証する。図5Bの上のパネルに示されるように、非トランスフェクト細胞(非、赤色)、MuSKWT CAARトランスフェクト細胞(中央)、およびMuSKI96Aトランスフェクト細胞(右)上のMuSK CAARの表面発現を、抗MuSK-APC抗体を用いて検出した。図5Bの下のパネルにおけるヒストグラムは、上のパネルにおける抗MuSK-APC抗体染色の平均蛍光強度を要約する。
【0219】
図6は、MuSK CAARが、抗MuSK BCRを認識して、TCRシグナル伝達を活性化することを図示する。MuSK CAARを、Jurkat NFAT-GFPレポーター細胞において発現させ、これを、抗MuSK BCR発現ハイブリドーマ細胞と共培養した。Jurkat NFAT-GFPレポーター細胞における活性化されたTCRシグナル伝達は、GFP発現を誘導する。MuSK CAARは、抗MuSK BCRによって活性化され、TCRシグナル伝達を成功裡に開始した(太字長方形)。
【0220】
実施例2:MuSK CAAR-T細胞死滅アッセイ
図7は、MuSK CAAR操作された初代ヒトT細胞が4A3抗MuSKハイブリドーマ細胞を死滅させることを、MuSK CAAR-T細胞との4時間の共インキュベーション後の51Cr標識4A3細胞の特異的溶解パーセントに基づいて示す。比較すると、CAAR-T細胞は、非標的Nalm-6細胞を死滅させず、これは、MuSK CAAR-T細胞による標的細胞死滅の特異性を示している。
【0221】
図8に示されるように、4A3標的細胞結合後に、MuSK CAAR T細胞はインターフェロンγを分泌するが、非形質導入T細胞は分泌しない。図示されたMuSK CAARは、抗MuSK BCRを認識して、標的細胞を除去するためのCAART細胞のエフェクター機能に必要とされる、TCRシグナル伝達を成功裡に開始する。
【0222】
図9A~9Bに示されるように、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞は、抗MuSK B細胞受容体3-28を発現するように操作されたNalm6 B細胞を特異的に死滅させる。Nalm-6 wt細胞は、緑色蛍光タンパク質(GFP)チャンネルにおいて放射するコメツキムシルシフェラーゼ緑色(CBG)タンパク質、および、B細胞受容体(BCR)として表面免疫グロブリンの発現に必要であるCD79a/CD79bを安定に発現していた。MuSK wt/I96A CAAR-T標的細胞としてのNalm6 3-28(抗MuSK BCR)細胞を生成するために、3-28 IgG4 BCRをNalm-6/CBG/CD79a/CD79b細胞中に導入し、GFP+hIgG+細胞をソーティングした。ソーティングされたNalm6 3-28細胞またはNalm6 wt細胞を、指示されたエフェクター:標的(E:T)比で22時間、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞またはCART-19細胞と共培養した。Nalm6細胞中のルシフェラーゼ活性を、150μg/mlの最終濃度になるようにルシフェリンを添加することによって検出した。特異的溶解パーセントを、以下の方程式によって算出する:特異的溶解の%=[(実験試料-自然細胞死試料)/(最大細胞死試料-自然細胞死試料試料)]100。最大細胞死は、5% SDSでの溶解によって誘導した。
【0223】
図10に示されるように、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞は、抗MuSK B細胞受容体3-28を発現するように操作されたNalm6 B細胞との相互作用後に、IFNγを分泌する。図9A~9Bに示されるようにルシフェラーゼ活性を解析した後に、スピンダウン後の上清を収集した。ヒトIFNγを、Human IFN-gamma DuoSet ELISA kit(R&D Systems)によって検出した。培地のみ試料での独立両側t検定;ns:非有意、**:<0.005、***:<0.0005。
【0224】
図11A~11Bに示されるように、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞は、抗MuSK抗体を産生する4A3ハイブリドーマ細胞を死滅させ、かつIFNγを分泌する。図11Aは、4A3ハイブリドーマ細胞を、51Crを用いて標識し、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞またはCART-19細胞と21時間共培養したことを示す。特異的溶解パーセントを、以下の方程式によって算出した:特異的溶解の%=[(実験試料-自然細胞死試料)/(最大細胞死試料-自然細胞死試料試料)]100。最大細胞死は、5% SDS(最終5%)を添加することによって誘導した。図11Bは、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞を、非標識4A3ハイブリドーマ細胞と21時間共培養したことを示す。スピンダウン後の上清を収集した。ヒトIFNγを、Human IFN-gamma DuoSet ELISA kit(R&D Systems)によって検出した。
【0225】
図12A~12Bに示されるように、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞は、インビボで抗MuSK標的細胞を除去する。図12Aは、0.5×106個の CBG+hIgG+ Nalm6 3-28細胞を、静脈内免疫グロブリン(IVIG、Privigen、2日間毎日の600 mg/kg腹腔内注射)での前処置後のNSGマウス中に、静脈内注射したことを示す。4日後に、5×106個の指示されたCAAR-T細胞またはCAR-T細胞を、静脈内注射した(橙色の矢印)。非形質導入(NTD)T細胞およびDesmoglein(DSG)3 EC1-3 CAAR-T細胞を、陰性対照と考え、Nalm6細胞はCD19を発現するため、CART-19細胞を陽性対照として用いた。生物発光を、1、3、5、7、および9日目にIVIS Luminaで定量した。同時に、600 mg/kg IVIGもまた、2日毎に腹腔内投与した。総フラックスを、Living Image 4.5 software(PerkinElmer)を用いて定量した。画像を、1分間隔で連続的に撮った。図12Bは、図12Aにおける各処置群についての生物発光フラックス(光子/秒)を示し、MuSK wt/I96A CAAR T細胞が、CART-19細胞に対する効力に匹敵して、抗MuSK Nalm6標的細胞を制御するのに対して、陰性対照のNTD細胞およびDSG3 EC1-3 CAAR T細胞は、抗MuSK Nalm6標的細胞の増殖を制御しないことを示す。
【0226】
図13A~13Bに示されるように、MuSK wt/I96A CAAR-T細胞は、IFNγを分泌して、インビボで抗MuSK標的細胞を除去する。マウスの体重を、図12Aにおける画像化の直後に測定した。最初の体重のパーセンテージを、1日目(100%)と比べて算出した。結果を図13Aに示す。T細胞注射の24時間後に、後眼窩採血によって血液試料を収集した。マウス血清を、さらなる解析のために-20℃で保存した。ヒトIFNγを、Human IFN-gamma DuoSet ELISA kit(R&D Systems)によって検出した。ND463_NTDでの独立両側t検定;ns:非有意、**:<0.005。結果を図13Bに示す。
【0227】
本発明のMuSK CAAR構築物:ベクター#1、#2、#3、#4、#5、および#6を、図14に示す。コドン最適化されたドメインを、薄い灰色の四角として示す。
【0228】
図15に示されるように、コドン最適化されたMuSK wt/I96A CAARを、ヒト初代CD3+ T細胞において発現させた。pTRPEレンチウイルスベクター中のMuSK wt_optまたはMuSK I96A_opt CAARを、初代ヒトCD3+ T細胞中に形質導入した。形質導入後5日目に、MuSK wt_optまたはMuSK I96A_optの表面発現を、抗MuSK (4A3) PEコンジュゲート抗体を用いて検出した。
【0229】
図16に示されるように、コドン最適化されたMuSK wt/I96A CAAR-T細胞は、抗MuSK B細胞受容体3-28を発現するように操作されたNalm6 B細胞を死滅させる。
【0230】
本明細書で引用される各々のおよびあらゆる特許、特許出願、および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明は、具体的な態様に関して開示されているが、本発明の他の態様および変形物が、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、当業者によって考案されうることが明らかである。添付の特許請求の範囲は、すべてのそのような態様および等価の変形物を含むように解釈されることが意図される。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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