(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】感熱記録材料
(51)【国際特許分類】
B41M 5/42 20060101AFI20240926BHJP
B41M 5/28 20060101ALI20240926BHJP
B41M 5/32 20060101ALI20240926BHJP
B41M 5/46 20060101ALI20240926BHJP
B41M 5/41 20060101ALI20240926BHJP
G03C 1/49 20060101ALI20240926BHJP
G03C 1/76 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B41M5/42 211
B41M5/28 220
B41M5/32
B41M5/42 220
B41M5/46 210
B41M5/41 200
G03C1/49
G03C1/76
(21)【出願番号】P 2021009947
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西村 直哉
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-010229(JP,A)
【文献】特開平07-323667(JP,A)
【文献】特開平11-198532(JP,A)
【文献】特表平09-504239(JP,A)
【文献】特開2001-010238(JP,A)
【文献】特表2010-501893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/42
B41M 5/28
B41M 5/32
B41M 5/46
B41M 5/41
G03C 1/49
G03C 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性支持体上に、830nmにおけるモル吸光係数ε(830)と、365nmにおけるモル吸光係数ε(365)の比ε(830)/ε(365)が4.0以上の赤外線吸収色素を含有する赤外線吸収層、非感光性の有機銀塩を含有し、且つ、感光性のハロゲン化銀を実質的に含有しない感熱記録層、および保護層とを少なくともこの順に有する感熱記録材料
であって、該赤外線吸収色素が、下記一般式(1)~(3)の何れかで表される化合物であることを特徴とする感熱記録材料。
【化1】
[一般式(1)~(3)において、R
1
~R
10
は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。R
1
~R
10
は水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、エステル基、アミド基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、チオエーテル基又はスルホニル基であるか、他の置換基と結合して環構造を形成している。X
-
は、ハロゲンイオン、オキソ酸イオン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、アルキルスルホナート又はアリールスルホナートである。]
【請求項2】
透過性支持体上に、830nmにおけるモル吸光係数ε(830)と、365nmにおけるモル吸光係数ε(365)の比ε(830)/ε(365)が4.0以上の赤外線吸収色素を含有する赤外線吸収層、非感光性の有機銀塩を含有し、且つ、感光性のハロゲン化銀を実質的に含有しない感熱記録層、および保護層とを少なくともこの順に有する感熱記録材料
であって、該赤外線吸収色素が、下記例示化合物(1)~(3)の何れかであることを特徴とする感熱記録材料。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線レーザー光の照射により画像を形成する感熱記録材料に関し、特に版下原稿の作製に好適な感熱記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
版下原稿の作製に用いられる高画質な画像記録方法として、ハロゲン化銀感光材料を用いた湿式処理の画像形成方法が長く一般的に用いられてきた。しかしながら、湿式処理の画像形成方法では現像液や定着液等の廃液処理が必要で環境負荷が大きいことから、湿式処理を必要としない乾式の画像形成方法が種々検討されてきた。現在ではインクジェットプリンター、電子写真、染料熱転写方式等といった画像形成システムが実用化されている。しかしこれらの乾式の画像形成方法は、画像部における優れた遮光性および、非画像部における優れた光透過性を有する、いわゆる高コントラストな版下原稿を得ることは困難である。
【0003】
ハロゲン化銀感光材料を用いた湿式処理の画像形成方法と同等の高いコントラストを得ることができる乾式の画像形成方法としては、支持体上に感熱記録層を有する感熱記録材料にサーマルヘッドあるいは赤外線レーザー光を用いて画像形成する方法が挙げられる。その中でも、高密度記録、高画質記録の観点からは赤外線レーザー光を用いた感熱記録方式が優位である。赤外線レーザー光によって描画可能な感熱記録材料としては、例えば特開平6-194781号公報(特許文献1)には高濃度の画像を記録できる、熱的に還元可能な銀源、銀イオン用還元剤、約500~1100nmの波長範囲のレーザー光を吸収する染料、および重合性結合剤を含有する感熱記録材料が開示され、特開平10-29377号公報(特許文献2)には高画質の画像を記録できる、有機銀塩、有機銀塩の現像剤、赤外線吸収色素、および水溶性バインダーを含有する赤外線レーザー光用感熱記録材料が開示されている。また特開2001-10229号公報(特許文献3)には、非感光性有機銀塩、銀イオン用還元剤、バインダー、色調調整剤および750~1100nmの波長範囲の放射線を吸収する吸収剤を含有する、紫外線濃度が低く残色が少ない熱発色画像形成材料が開示されている。
【0004】
しかしながら近年ではより高密度、高精細な画像が求められており、上記した特許文献に開示された感熱記録材料を版下原稿として用いた場合においても、コントラストが不十分なために、製版する感光材料への光照射量不足や過剰照射により細線や微小点などの微細画像が欠落する場合があり、赤外線レーザー光の照射により画像を形成する感熱記録材料のコントラストについて更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-194781号公報
【文献】特開平10-29377号公報
【文献】特開2001-10229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、赤外線レーザー光の照射により高コントラストな画像が得られる感熱記録材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題は、以下の発明により解決される。
光透過性支持体上に、830nmにおけるモル吸光係数ε(830)と、365nmにおけるモル吸光係数ε(365)の比ε(830)/ε(365)が4.0以上の赤外線吸収色素を含有する赤外線吸収層、非感光性の有機銀塩を含有し、且つ、感光性のハロゲン化銀を実質的に含有しない感熱記録層、および保護層とを少なくともこの順に有する感熱記録材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、赤外線レーザー光の照射により高コントラストな画像が得られる感熱記録材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0010】
本発明の感熱記録材料は、光透過性支持体を有する。かかる光透過性支持体としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、硝酸セルロース、ポリカーボネート等の樹脂フィルムや、ガラス等の無機材料等が挙げられる。なお、本発明において光透過性支持体とは、全光線透過率が60%以上である支持体を意味し、更に好ましくは70%以上である。また該光透過性支持体のヘーズ値は10%以下であることが好ましい。該光透過性支持体は易接着層、ハードコート層、帯電防止層等の公知の層を有していてもよい。本発明における光透過性支持体の厚みは特に規定されるものではないが、ハンドリング性の観点から50~300μmであることが好ましい。
【0011】
本発明の感熱記録材料は、前述した光透過性支持体上に830nmにおけるモル吸光係数ε(830)と、365nmにおけるモル吸光係数ε(365)の比ε(830)/ε(365)が4.0以上の赤外線吸収色素を含有する赤外線吸収層を有する。本発明における赤外線吸収色素とは、600~1500nmの波長領域に吸収を有する色素を示し、650~1100nmの波長領域に吸収極大を有することが好ましく、750~1100nmの波長領域に吸収極大を有することがより好ましい。そして、本発明における赤外線吸収色素は、高圧水銀ランプやケミカルランプの紫外線領域における発光ピークが存在する350~450nmの波長領域における吸収が小さいこと、つまり上述したε(830)/ε(365)が4.0以上であることにより、赤外線レーザー光の照射により高コントラストな画像が得られる感熱記録材料とすることができ、上限は特に限定されない。このような色素としてはスクアリリウム、シアニン、メロシアニン、ビス(アミノアリール)ポリメチンなどのポリメチン骨格を有する化合物が挙げられ、具体的には以下の一般式(1)~(3)で表される化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
【0013】
一般式(1)~(3)のR1~R10は置換基であり、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、エステル基、アミド基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、チオール基、チオエーテル基、スルホニル基などが例示される。これらはそれぞれ同じ置換基でも異なる置換基であってもよく、また他の置換基と結合して環構造を形成していてもよい。またX-は負の電荷を有する原子または原子団を表し、ハロゲンイオン、過塩素酸イオンなどのオキソ酸、テトラフルオロボレート、ヘキサフロオロホスフェート、アルキルおよびアリールスルホナートなどが挙げられる。具体的には、例示化合物(1)~(3)のような化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
赤外線吸収色素の含有量は、赤外線吸収層の全固形分に対して0.1~20質量%が好ましい。
【0015】
本発明において赤外線吸収層は上述した赤外線吸収色素と共にバインダー成分を含有することが好ましい。かかるバインダー成分としては熱可塑性樹脂が好ましく、例えばヒドロキシエチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂に代表されるポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が例示される。これらのバインダー成分は水や有機溶媒に溶解して用いるか、疎水性ポリマー固体が微粒子の状態で分散しているラテックスやポリマー分子がミセルを形成し分散しているものを用いてもよい。本発明においては、上述したバインダー成分は乾燥後に透明な被膜を形成するものが好ましい。またこれらのバインダー成分は必要に応じてお互いに相溶する樹脂を2種以上併用してもよい。
【0016】
本発明の感熱記録材料が有する赤外線吸収層は、上述した赤外線吸収色素およびバインダー成分を含有する赤外線吸収層塗布液を作製し、該赤外線吸収層塗布液を上述した光透過性支持体上に塗布、乾燥して形成することが好ましい。また、該赤外線吸収層の膜厚は0.01~5.0μmが好ましい。
【0017】
また塗布性の向上を目的として、該赤外線吸収層塗布液は種々の界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としてはノニオン系、アニオン系、カチオン系いかなるものも使用してもよく、特に限定されない。
【0018】
なお、本発明の感熱記録材料が有する赤外線吸収層は、赤外線レーザー光による画像形成の効率化やヘーズの上昇を抑える等の観点から、後述する非感光性の有機銀塩、還元剤、色調剤、および安定剤を実質的に含有しないことが望ましい。ここで言う実質的に含有しないとは、上記した各成分の合計量が該赤外線吸収層の固形分の5質量%未満であることを意味する。
【0019】
本発明の感熱記録材料が有する感熱記録層は、有機銀塩を含有する。該有機銀塩は、非感光性の有機銀塩であって、後述する還元剤と共に加熱されることにより還元されて銀画像を形成する。具体的には、熱現像感光材料に関するリサーチディスクロージャー第17029(II)項、第29963(XVI)項に記載されているような没食子酸、シュウ酸、ベヘン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の有機酸の銀塩;1-(3-カルボキシプロピル)チオ尿素、1-(3-カルボキシプロピル)-3,3-ジメチルチオ尿素等のカルボキシアルキルチオ尿素の銀塩;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド類とサリチル酸、安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、5,5-チオジサリチル酸等の芳香族カルボン酸との高分子反応生成物と銀との錯体;3-(2-カルボキシエチル)-4-ヒドロキシメチル-4-チアゾリン-2-チオン、3-カルボキシメチル-4-メチル-4-チアゾリン-2-チオン等のチオン類の銀塩または錯体;イミダゾール、ピラゾール、ウラゾール、1,2,4-トリアゾール、1H-テトラゾール、3-アミノ-5-ベンジルチオ-1,2,4-トリアゾールおよびベンゾトリアゾールから選ばれる含窒素複素環の銀塩または錯体;サッカリン、5-クロロサリチルアルドキシム等の銀塩;メルカプチド類の銀塩等が挙げられる。これらのうち炭素数が10以上の脂肪酸銀が好ましく、ステアリン酸銀、ベヘン酸銀が特に好ましい。
【0020】
本発明において感熱記録層が含有する有機銀塩の含有量は、版下原稿として使用するために必要な最大濃度によって適宜調整することが可能であり、銀換算値として1平方メートルあたり0.5~2.0gが好ましい。
【0021】
本発明における感熱記録層は、ハロゲン化銀を実質的に含有しない。ここでいう実質的に含有しないとは、感熱記録層中に含有されるハロゲン化銀が感熱記録層の全固形分量に対して1質量%未満であることを意味し、これによって本発明の感熱記録材料の保管時および通常使用時の非画像部における透過濃度の上昇が抑えられ、高コントラストな画像を製版可能な感熱記録材料が得られる。
【0022】
本発明において感熱記録層は還元剤を含有することが好ましい。かかる還元剤としては、米国特許第3,074,809号明細書に記載のピロガロール、4-ステアロイルピロガロール、没食子酸イソプロピル、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル、2,5-ジヒドロキシ安息香酸等、米国特許第3,440,049号明細書あるいは特開平06-317870号公報記載のポリヒドロキシインダン類や、特開2001-328357号公報記載のジヒドロキシ安息香酸誘導体が好ましい。
【0023】
上述した還元剤の含有量は、還元剤の種類や、有機銀塩の種類によって広範に変化しうるが、有機銀塩1モルあたり0.1~3.0モルであることが好ましく、0.5~2.0モルであることが更に好ましい。また種々の目的のために、上述した還元剤は2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の感熱記録材料が有する感熱記録層は、サーモグラフィまたはフォトサーモグラフィの分野において知られている、いわゆる色調剤を含有することが好ましい。色調剤の例としては前出の熱現像感光材料に関するリサーチディスクロージャー第17029(V)項、第29963(XXII)項等で公知であり、具体的にはフタルイミドに代表されるイミド類、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾールに代表されるメルカプト化合物、フタラジン、フタラゾン、4-メチルフタル酸、テトラクロロフタル酸およびそれらの無水物に代表されるフタル酸誘導体、1,3-ベンズオキサジン-2,4-ジオンに代表されるベンズオキサジン誘導体等が挙げられる。また種々の目的のために、上述した色調剤は2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明の感熱記録材料が有する感熱記録層は画像銀の形成の抑制や促進、画像形成前後の感熱記録材料の保存性を向上させる等の目的で、様々な促進剤や安定剤およびそれらの前駆体を含有してもよい。具体的には写真用安定剤、抑制剤として知られているベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、5-クロロベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンズオキサゾール、4-ヒドロキシ-6-メチル-1,3,3a,7-テトラザインデン、1-フェニル-5-メルカプトテトラゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、3-メルカプト-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール、4-ベンツアミド-3-メルカプト-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール等から選ぶことができる。また種々の目的のために、上述した促進剤および安定剤は2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明の感熱記録材料が有する感熱記録層はバインダー成分を含有することが好ましい。かかるバインダー成分としては熱可塑性樹脂が好ましく、例えば上述した赤外線吸収層のバインダー成分と同様の熱可塑性樹脂を好ましく用いることができる。また、バインダー成分は必要に応じてお互いに相溶する樹脂を2種以上併用してもよい。
【0027】
感熱記録層が含有するバインダー成分の含有量としては、感熱記録層の全固形分に対して10~70質量%が好ましい。
【0028】
上述したバインダー成分は、塩化物イオンや臭化物イオン等の遊離のハロゲン化物イオンを含有しないことが好ましい。ハロゲン化物イオンは有機銀塩の銀イオンと反応し、感光性のハロゲン化銀を形成するため、本発明の感熱記録材料の耐光性を低下させる原因となる。具体的にはバインダー成分量に対して100ppm以下であることが好ましい。
【0029】
本発明において感熱記録層は、前述した赤外線吸収層と他の層を介さずに隣接していることが好ましく、これにより赤外線レーザー光の照射による画像の形成が効率的になり、とりわけ高コントラストな画像を得ることができる。感熱記録層を形成する方法としては、前述した有機銀塩、還元剤、色調剤、およびバインダー成分等を含有する感熱記録層塗布液を作製し、該感熱記録層塗布液を上述した赤外線吸収層上に塗布、乾燥して形成することが好ましい。感熱記録層の膜厚は、0.5~20μmが好ましい。
【0030】
また塗布性の向上を目的として、該感熱記録層塗布液は種々の界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としてはノニオン系、アニオン系、カチオン系いかなるものも使用してもよく、特に限定されるものではない。
【0031】
本発明における感熱記録材料は、感光材料との接触やハンドリング中の衝撃等から感熱記録層を保護する目的で、感熱記録層上に保護層を有する。該保護層は樹脂成分を含有することが好ましく、樹脂成分として具体的にはゼラチン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等が例示される。これらの樹脂や樹脂の水分散物は市販もされており容易に入手可能である。また該保護層の耐傷性を向上させるため、架橋剤を含有していてもよい。
【0032】
本発明において保護層はバキューム性や耐傷性を高める目的で、種々の艶消し剤を含有していてもよい。該保護層を形成するにあたり、艶消し剤は上述した保護層中に分散させて用いることが好ましい。艶消し剤の分散には、ホモディスパーのような高速攪拌機が適している。
【0033】
艶消し剤は有機系または無機系いずれの艶消し剤でも使用することができる。有機系艶消し剤としては、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート等が例示され、無機系艶消し剤としては、シリカ、アルミナ、タルク、マイカ等が例示される。市販品としては例えば、シリコーン樹脂系艶消し剤としてモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズジャパン合同会社から発売されているトスパール(登録商標)120、130、145、2000Bや、シリカ系艶消し剤としてAGCエスアイテック(株)から発売されているサンスフェア(登録商標)H-31、H-51、NP-30等を例示することができる。これらは単一の微粒子であるが、艶消し剤の形態としては単一の微粒子および微粒子が集合した微粒子集合体粒子いずれも用いてもよい。
【0034】
保護層が含有する上述した艶消し剤の量は、樹脂成分量に対して0.5~40質量%であることが好ましく、1~30質量%であることがより好ましい。
【0035】
本発明において保護層を形成する方法としては、上述した樹脂成分、艶消し剤等を含有する保護層塗布液を作製し、該保護層塗布液を上述した感熱記録層上に塗布、乾燥して形成することが好ましい。また塗布性の向上を目的として、該感熱記録層塗布液は種々の界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としてはノニオン系、アニオン系、カチオン系いかなるものも使用してもよく、特に限定されるものではない。
【0036】
本発明の感熱記録材料が有する保護層の膜厚は、用いる樹脂成分の種類や求められる感熱感度により広範に変化しうるが、0.1~10μmの範囲から選ばれる。
【0037】
本発明において、上述した赤外線吸収層、感熱記録層、および保護層の塗布方法については特に制限はなく、E.D.Cohen,E.B.Gutoff,“Modern Coating and Drying Technology”,WILEY-VCH,Inc.New York,1992に記載されているような各種の塗布方法から選択することができる。更にスリット型ダイコーターを用いたスライド塗布方式や、同種、あるいは異種のコーター装置を組み合わせて塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗布方式によって複数の層を同時に塗布することは、生産性を向上させる意味でも特に好ましい。
【0038】
本発明の感熱記録材料には更に必要に応じて、赤外線吸収層、感熱記録層、保護層に加えて、光透過性支持体と赤外線吸収層との間に易接着層や断熱層等を、赤外線吸収層、感熱記録層、および保護層との間に中間層等を、保護層上に易剥離層等を、感熱記録層と保護層から見て光透過性支持体の反対の面に帯電防止層等を有していてもよいが、前述したように赤外線吸収層と感熱記録層は隣接していることが好ましい。
【0039】
上述した感熱記録材料を用い、該感熱記録材料の保護層側から画像様に赤外線レーザー光を照射することにより画像を得ることができる。該赤外線レーザー光の光源としては、半導体レーザー、He-Neレーザー、Arレーザー、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザー等が挙げられる。本発明における感熱記録材料は、照射する赤外線レーザー光のエネルギーおよび露光時間を変えることにより、画像部の濃度を変化させることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、この記述により本発明が限定されるものではない。なお記述中「%」は質量基準である。
【0041】
<実施例1>
【0042】
<赤外線吸収層塗布液の調製および塗布>
2-ブタノン81g、メタノール24gに、ポリビニルブチラール樹脂(Butvar(登録商標)B-79、イーストマンケミカルジャパン(株)製)9.0g、赤外線吸収色素として例示化合物(3)(昭和電工(株)製IRT、ε(830)/ε(365)=6.2)0.45gを加えて赤外線吸収層塗布液とした。厚さ100μmのPETベース(全光線透過率92%、ヘーズ値4%)上に、この赤外線吸収層塗布液を乾燥後の膜厚が1.2μmとなるように塗布し、50℃にて乾燥させた。なお、ε(830)およびε(365)は、赤外線吸収色素の2-ブタノン溶液の吸収スペクトルを紫外可視分光光度計UV-2600((株)島津製作所製、光路長1cmの石英セル使用)によって測定して算出した。
【0043】
<ベヘン酸銀分散液の調製>
ベヘン酸銀結晶20g、ポリビニルブチラール樹脂(ButvarB-79)22gを175gの2-ブタノンに加え、直径0.65mmのジルコニアビーズを充填したビーズミル装置(DYNO-MILL KD20B型、ウィリー・エ・バッコーフェン社製)を用いてベヘン酸銀分散液(平均粒子径0.6μm)を得た。
【0044】
<感熱記録層塗布液の調製および塗布>
2-ブタノン45gに、ポリビニルブチラール樹脂(ButvarB-79)2.4g、上述したベヘン酸銀分散液30g、還元剤として3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル1.5g、テトラクロロフタル酸無水物0.6g、フタラゾン1.2gを加えて感熱記録層塗布液とした。上述のようにして既に得られた赤外線吸収層上に、この感熱記録層塗布液を銀換算値として1.1g/m2となるように塗布し、80℃にて乾燥させ感熱記録層を形成した。なお、得られた感熱記録層中に含有されるハロゲン化銀は感熱記録層の全固形分量に対して0.1%未満であった。
【0045】
<保護層塗布液の調製および塗布>
2-ブタノン15.0gに、光硬化性樹脂としてビームセット(登録商標)3702(荒川化学工業(株)製;エポキシアクリレートポリマー、多官能アクリレート化合物、および光重合開始剤を含む混合物、固形分率59%)15.0gを加え30g(うち、バインダー成分の固形分質量は8.4g)の保護層塗布液を得た。この保護層塗布液を上記感熱記録層上に、乾燥後の膜厚が3.0μmとなるように塗布し、60℃にて乾燥させたのち、高圧水銀ランプを照射距離10cm、搬送速度5m/minの条件で照射して保護層を硬化させ、実施例1の感熱記録材料を得た。
【0046】
<実施例2>
実施例1の赤外線吸収層塗布液の調製および塗布において、赤外線吸収層の硬化後の膜厚が1.5μmとなるように赤外線吸収層塗布液を塗布した以外は実施例1と同様にして実施例2の感熱記録材料を得た。
【0047】
<実施例3>
実施例1の赤外線吸収層塗布液の調製および塗布において、赤外線吸収層の硬化後の膜厚が1.9μmとなるように赤外線吸収層塗布液を塗布した以外は実施例1と同様にして実施例3の感熱記録材料を得た。
【0048】
<実施例4>
実施例1の保護層塗布液の調製および塗布において、2-ブタノン81g、メタノール24gに、ポリビニルブチラール樹脂(ButvarB-79)9gを加えて保護層塗布液を作製し、乾燥後膜厚が1.6μmとなるように塗布した以外は実施例1と同様にして実施例4の感熱記録材料を得た。
【0049】
<実施例5>
実施例1の赤外線吸収層塗布液の調製および塗布において、赤外線吸収色素としてIRTの代わりに例示化合物(1)(ε(830)/ε(365)=18.5)を0.45g加え、赤外線吸収層塗布液を乾燥後膜厚が1.5μmとなるように塗布した以外は実施例1と同様にして実施例5の感熱記録材料を得た。
【0050】
【0051】
<実施例6>
実施例1の赤外線吸収層塗布液の調製および塗布において、赤外線吸収色素としてIRTの代わりに例示化合物(1)を0.45g加え、赤外線吸収層塗布液を乾燥後膜厚が2.3μmとなるように塗布した以外は実施例1と同様にして実施例6の感熱記録材料を得た。
【0052】
<比較例1>
実施例1において、赤外線吸収層を塗布せず、感熱記録層を厚さ100μmのPETベース(全光線透過率92%、ヘーズ値4%)上に塗布した以外は実施例1と同様にして比較例1の感熱記録材料を得た。
【0053】
<比較例2>
実施例1において、赤外線吸収層を塗布せず、感熱記録層塗布液の調製および塗布において赤外線吸収色素として例示化合物(3)を0.045g加え、厚さ100μmのPETベース(全光線透過率92%、ヘーズ値4%)上に塗布した以外は実施例1と同様にして比較例2の感熱記録材料を得た。
【0054】
<比較例3>
実施例1において、赤外線吸収層を塗布せず、感熱記録層塗布液を厚さ100μmのPETベース(全光線透過率92%、ヘーズ値4%)上に塗布し、保護層塗布液の調製および塗布において2-ブタノン81g、メタノール24gに、ポリビニルブチラール樹脂(ButvarB-79)9g、赤外線吸収色素として例示化合物(3)を0.45g加えて保護層塗布液を作製し、該保護層塗布液を乾燥後膜厚が1.6μmとなるように塗布した以外は実施例1と同様にして比較例3の感熱記録材料を得た。
【0055】
<比較例4>
実施例1の赤外線吸収層塗布液の調製および塗布において、赤外線吸収色素としてIRTの代わりにIX-2-IR-14(日本触媒(株)製、フタロシアニン系色素、ε(830)/ε(365)=2.6)を0.07g加えた以外は実施例1と同様にして比較例4の感熱記録材料を得た。
【0056】
このようにして得られた実施例1~6および比較例1~4の感熱記録材料をサーマルCTPセッター(Guangzhou Amsky Technology Co Ltd製、AURA600E)により、ドラム回転数300rpm、露光出力200mW~800mWの範囲で変更しながら、直径20μmの微小点50個(ネガ画像)およびベタ部分を有する画像(20mm(幅)×200mm(長さ))を形成した。
【0057】
<透過濃度測定>
上記画像形成後の実施例1~6および比較例1~4の感熱記録材料のベタ画像および非画像部の透過濃度をエックスライト社製X-Rite(登録商標)361T(UVモード)で測定した。それぞれの感熱記録材料の最大透過濃度が得られた際の露光出力値、ベタ部の透過濃度(Dmax)、および非画像部の透過濃度(Dmin)を表1に示した。
【0058】
<返し性能評価>
上記画像形成後の感熱記録材料をマスクフィルムとして用いて、ネガ型の樹脂版(トレリーフ(登録商標)MF95DIIJ、厚み0.95mm、東レ(株)製)を製版機((株)タカノ機械製作所製、Takano Processer DX-A4)を用いて製版し、感熱記録材料の返し特性を評価した。上述した直径20μmの微小点50個のうち、製版後の樹脂版上に49個以上が残存しているものを〇、30~48個が残存しているものを△、0~29個が残存しているものを×として評価結果を表1に示した。
【0059】
【0060】
表1の結果から明らかなように、本発明によって、高コントラストな画像が得られる感熱記録材料が得られることが分かる。