(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】走行環境認識装置
(51)【国際特許分類】
G01C 21/30 20060101AFI20240926BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G01C21/30
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021019217
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 亮介
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小山 哉
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-121845(JP,A)
【文献】特開2010-249641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の撮像モード或いは前記第1の撮像モードよりもフレームレートの高い第2の撮像モードによって駆動され、自車両の走行環境を撮像するカメラと、
前記カメラによって撮像した画像に基づいて前記自車両の周辺における第1の走行環境情報を認識するとともに、前記画像のオプティカルフローに基づいて前記自車両の移動量を算出する第1の走行環境認識手段と、
複数の衛星から受信した測位信号に基づいて実空間上の自車両の位置座標を算出するとともに、前記位置座標に基づいて道路地図上の自車位置を推定して、前記自車両の周辺における第2の走行環境情報を道路地図情報から認識する第2の走行環境認識手段と、
前記測位信号に基づく測位精度を判定し、前記測位精度が高いとき前記カメラを前記第1の撮像モードで駆動させ、前記測位精度が低いとき前記カメラを前記第2の撮像モードで駆動させる撮像モード切換手段と、を備え、
前記第2の走行環境認識手段は、前記カメラが前記第2の撮像モードで駆動されているとき、前記オプティカルフローから算出した前記自車両の移動量に基づいて前記道路地図上の自車位置を推定することを特徴とする走行環境認識装置。
【請求項2】
前記第2の走行環境認識手段は、前記カメラが前記第2の撮像モードで駆動されているとき、前記第1の走行環境情報に基づいて前記道路地図上の自車位置を補正することを特徴とする請求項1に記載の走行環境認識装置。
【請求項3】
前記撮像モード切換手段は、前記衛星から受信した前記測位信号の数が設定値未満であるとき、前記測位精度が低いと判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の走行環境認識装置。
【請求項4】
前記撮像モード切換手段は、前記第1の走行環境情報と前記第2の走行環境情報との間に予め設定した
値以上の誤差が生じているとき、前記測位精度が低いと判定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の走行環境認識装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路地図上の自車位置を基準とする走行環境情報の認識を道路地図情報から認識する走行環境認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、ドライバの運転操作の負担を軽減するとともに、安全性の向上を実現することを目的として、ドライバの運転操作を支援するための走行制御装置が実用化されている。この種の走行制御装置では、ドライバによる主体的な運転操作を前提として操舵支援制御や加減速制御を行う走行制御モードや、ドライバの運転操作を必要とすることなく車両を走行させるための走行制御モード(所謂、自動運転モード)についての各種技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
走行制御装置による走行制御は、基本的には、追従車間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)機能と車線中央維持(ALKC:Active Lane Keep Centering)制御機能等とを備えることによって実現される。そして、このような走行制御により、先行車との車間を維持しつつ走行車線に沿って車両を自動走行させることができる。
【0004】
ところで、走行制御を精度よく行うためには、車外の走行環境情報を精度よく認識することが不可欠である。この種の走行制御装置に用いられる走行環境認識装置では、一般に、衛星からの測位信号を用いて推定した道路地図上の自車位置を基準として道路地図情報に基づく走行環境情報の認識が行われるとともに、カメラ等の自律センサを用いた実空間上の走行環境情報の認識が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、自車両がトンネル内に進入して測位信号が遮断された場合や、自車両が高層ビル街を走行中に測位信号にマルチパス現象が発生した場合等においては、自車位置の測位精度が低下する場合(測位不能となる場合を含む)がある。そして、このように測位精度が低下すると、道路地図情報に基づく走行環境情報の認識精度が低下し、適切な走行制御を行うことが困難となる虞がある。
【0007】
これらに対処し、ジャイロセンサや車速センサ等からの情報に基づいて自車両の移動量を算出し、道路地図上の自車位置を推定することも可能である。しかしながら、このような自車位置の推定は、走行環境情報の認識精度が低下してからの走行距離が短い場合には有効であるものの、走行距離が嵩むにつれて推定誤差が累積的に増加する。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、衛星を用いた自車位置の測位精度が低下した場合にも、道路地図上の自車位置を精度よく推定することができる走行環境認識装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による走行環境認識装置は、第1の撮像モード或いは前記第1の撮像モードよりもフレームレートの高い第2の撮像モードによって駆動され、自車両の走行環境を撮像するカメラと、前記カメラによって撮像した画像に基づいて前記自車両の周辺における第1の走行環境情報を認識するとともに、前記画像のオプティカルフローに基づいて前記自車両の移動量を算出する第1の走行環境認識手段と、複数の衛星から受信した測位信号に基づいて実空間上の自車位置を算出するとともに、前記実空間上の自車位置に基づいて道路地図上の自車位置を推定して、前記自車両の周辺における第2の走行環境情報を道路地図情報から認識する第2の走行環境認識手段と、前記測位信号に基づく測位精度を判定し、前記測位精度が高いとき前記カメラを前記第1の撮像モードで駆動させ、前記測位精度が低いとき前記カメラを前記第2の撮像モードで駆動させる撮像モード切換手段と、を備え、前記第2の走行環境認識手段は、前記カメラが前記第2の撮像モードで駆動されているとき、前記オプティカルフローから算出した前記自車両の移動量に基づいて前記道路地図上の自車位置を推定するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の走行環境認識装置によれば、衛星を用いた自車位置の測位精度が低下した場合にも、道路地図上の自車位置を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】ステレオカメラの撮像領域及び自車両の中心を原点とする直交座標系を示す説明図
【
図4】撮像モード切換制御ルーチンを示すフローチャート
【
図5】オプティカルフローを用いた自車両の移動量を算出するために好適な画像上の領域を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係り、
図1は走行制御装置の全体構成図である。
図1に示すように、本実施形態における走行制御装置1は、車外の走行環境を認識するための走行環境認識装置10を有する。この走行環境認識装置10は、カメラユニット11と、ロケータユニット12と、を有して構成されている。
【0013】
また、走行制御装置1は、走行制御ユニット(以下、「走行_ECU」と称す)22と、エンジン制御ユニット(以下、「E/G_ECU」と称す)23と、パワーステアリング制御ユニット(以下、「PS_ECU」と称す)24と、ブレーキ制御ユニット(以下、「BK_ECU」と称す)25と、を備える。これら各制御ユニット22~25は、カメラユニット11及びロケータユニット12と共に、CAN(Controller Area Network)等の車内通信回線を介して接続されている。
【0014】
カメラユニット11は、例えば、車室内前部の上部中央に固定されている。このカメラユニット11は、メインカメラ11aおよびサブカメラ11bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)11cと、第1の走行環境認識部11dと、を有している。
【0015】
メインカメラ11a及びサブカメラ11bは、例えば、自車両Mの前方の実空間をセンシングする自律センサであり、互いの撮像タイミングが同期されている。すなわち、メインカメラ11a及びサブカメラ11bは、例えば、車幅方向中央を挟んで左右対称な位置に配置され、自車両Mの前方領域Af(
図2参照)を異なる視点からステレオ撮像する。
【0016】
ここで、メインカメラ11a及びサブカメラ11bは、例えば、1秒間に300フレーム(300[f/s])の画像を撮像することが可能なカメラ(高速カメラ)により構成されている。さらに、本実施形態におけるメインカメラ11a及びサブカメラ11bは、フレームレートを多段階(例えば、2段階)に切り替えることが可能となっている。具体的には、メインカメラ11a及びサブカメラ11bは、例えば、1秒間に30~60フレーム(30~60[f/s])の画像を撮像する通常撮像モード(第1の撮像モード)と、1秒間に300フレーム(300[f/s])の画像を撮像する高速撮像モード(第2の撮像モード)と、の間で撮像モードを切り替えることが可能となっている。
【0017】
IPU11cは、両カメラ11a,11bで撮像した自車両Mの前方の前方走行環境画像情報を所定に画像処理し、対応する対象の位置のズレ量から求めた距離情報を含む前方走行環境画像情報(距離画像情報)を生成する。
【0018】
第1の走行環境認識部11dは、IPU11cから受信した距離画像情報などに基づき、自車両Mの周辺の走行環境情報(第1の走行環境情報)を認識する。
【0019】
具体的に説明すると、第1の走行環境認識部11dは、距離画像情報に基づき、第1の走行環境情報として、道路上に敷設された車線区画線、停止線、或いは、各種注意喚起標示等の各種標示物を求める。
【0020】
また、第1の走行環境認識部11dは、第1の走行環境情報として、自車両が走行する走行路(自車走行レーン)の左右を区画する区画線の道路曲率[1/m]、および左右区画線間の幅(車線幅)を求める。この道路曲率、および車線幅の求め方は種々知られているが、例えば、第1の走行環境認識部11dは、道路曲率を前方走行環境画像情報に基づき輝度差による二値化処理にて、左右の区画線を認識し、最小二乗法による曲線近似式などにて左右区画線の曲率を所定区間毎に求める。
【0021】
また、第1の走行環境認識部11dは、距離画像情報に対して所定のパターンマッチングなどを行い、第1の走行環境情報として、道路に沿って存在するガードレール、縁石、建造物、および、自車両Mの周辺の道路上に存在する歩行者、二輪車、二輪車以外の車両等の立体物の認識を行う。ここで、第1の走行環境認識部11dにおける立体物の認識では、例えば、立体物の種別、立体物までの距離、立体物の速度、立体物と自車両Mとの相対速度などの認識が行われる。
【0022】
ここで、第1の走行環境認識部11dは、上述のように認識した第1の走行環境情報(車線区画線や各種立体物等)の位置を、例えば、自車両Mの中心を原点Oとする直交座標系(自車両Mの前後方向をZ軸、自車両Mの車幅方向をX軸とする座標系:
図2参照)の座標に変換する。
【0023】
さらに、第1の走行環境認識部11dは、道路上或いは道路周辺において認識した静止物における1または2以上の特徴点のオプティカルフローから、自車両Mの移動量を算出する。すなわち、第1の走行環境認識部11dは、フレーム間で対応する特徴点の移動量(自車両Mを基準とする相対移動量)算出し、算出した相対移動量を逆算することで、自車両Mの移動量(移動方向を含む)を算出する。
【0024】
ここで、道路上の静止物としては、例えば、道路上に敷設された車線区画線、停止線、或いは、各種注意喚起標示等の標示物を好適に用いることが可能である。また、道路周辺の静止物としては、例えば、道路沿いに存在する建造物、ガードレール、縁石等を好適に用いることが可能である。
【0025】
また、静止物における特徴点としては、例えば、上述の各静止物の角部等に出現するエッジ点等を好適に用いることが可能である。
【0026】
また、特徴点を抽出する画像上の領域としては、自車両Mとの相対距離を精度よく検出することが可能な領域であることが望ましい。具体的には、特徴点を抽出する領域は、例えば、
図5に破線で示すように、自車両Mの近傍を撮像した領域(すなわち、画像の下側の領域)であることが望ましい。
【0027】
このように、本実施形態において、第1の走行環境認識部11dは、第1の走行環境認識手段としての機能を有する。
【0028】
ロケータユニット12は、道路地図上の自車位置を推定するものであり、自車位置を推定するロケータ演算部13を有している。このロケータ演算部13の入力側には、自車両Mの加速度を検出する加速度センサ14、前後左右各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ15、自車両の角速度または角加速度を検出するジャイロセンサ16、複数の測位衛星50から発信される測位信号を受信するGNSS受信機17など、自車両Mの位置座標を算出するに際して必要とするセンサ類が接続されている。
【0029】
また、ロケータ演算部13には、図示しない基地局との間で情報の送受信(路車間通信)を行うとともに、他車両との間で情報の送受信(車車間通信)を行うための送受信機18が接続されている。
【0030】
さらに、ロケータ演算部13には、高精度道路地図データベース19が接続されている。高精度道路地図データベース19は、HDDなどの大容量記憶媒体であり、高精度な道路地図情報(ダイナミックマップ)が記憶されている。この高精度道路地図情報は、例えば、主として道路情報を構成する静的情報と、主として交通情報を構成する準動的情報及び動的情報と、の3層の情報を有する。
【0031】
静的情報は、例えば、道路や道路上の構造物、車線情報、路面情報、恒久的な規制情報等、1ヶ月以内の更新頻度が求められる情報によって構成されている。
【0032】
準動的情報は、例えば、観測時点における実際の渋滞状況や走行規制、落下物や障害物等、一時的な走行障害状況、実際の事故状態、狭域気象情報など、1分以内での更新頻度が求められる情報によって構成されている。
【0033】
動的情報は、例えば、移動体の間で送信・交換される情報や現在示されている信号の情報、交差点内の歩行者・二輪車情報、交差点を直進する車両情報等、1秒以内での更新頻度が求められる情報によって構成されている。
【0034】
なお、これら道路地図情報を構成する各層の情報は、例えば、自車両Mがカメラユニット11において認識した走行環境情報、及び、送受信機18が路車間通信や車車間通信を通じて取得した走行環境情報等と比較され、必要に応じて適宜更新することが可能である。
【0035】
ロケータ演算部13は、地図情報取得部13aと、第2の走行環境認識部13bと、撮像モード切換部13cと、を備えている。
【0036】
地図情報取得部13aは、GNSS受信機17で受信した複数の衛星50からの測位信号に基づき、測位情報として自車両Mの位置座標(絶対座標)を算出する。
【0037】
なお、衛星50からの測位信号の受信周期が長く設定されている場合には、地図情報取得部13aは、測位信号に基づく位置座標を、加速度センサ14、車輪速センサ15、及び、ジャイロセンサ16等からの信号に基づいて補完することが可能となっている。すなわち、地図情報取得部13aは、加速度センサ14、車輪速センサ15、及び、ジャイロセンサ16等からの信号に基づいて自車両Mの移動量を算出し、この移動量から求まる自車両Mの走行軌跡を用いて算出した位置座標を、測位信号に基づく位置座標として補完することが可能となっている。
【0038】
そして、地図情報取得部13aは、算出した位置座標を基準とする所定範囲の道路地図情報を、高精度道路地図データベース19から適宜取得する。
【0039】
第2の走行環境認識部13bは、地図情報取得部13aにおいて算出した実空間上の位置座標を道路地図情報上にマップマッチングして、道路地図上の自車位置を推定する。
【0040】
また、後述する撮像モード切換部13cの切換制御によってステレオカメラが高速撮像モードで駆動されている場合には、地図情報取得部13aは、オプティカルフローを用いて第1の走行環境認識部11dで算出した自車両Mの移動量から自車両Mの走行軌跡を求める。そして、地図情報取得部13aは、この走行軌跡を用いて道路地図上の自車位置を推定する。
【0041】
さらに、後述する撮像モード切換部13cの切換制御によってステレオカメラが高速撮像モードで駆動されている場合には、地図情報取得部13aは、第1の走行環境情報に基づいて、道路地図上の自車位置を適宜補正する。
【0042】
そして、第2の走行環境認識部13bは、推定した道路地図上の自車位置の周辺の道路地図情報から、自車両Mの周辺の走行環境情報(第2の走行環境情報)を認識する。ここで、第2の走行環境情報の認識に際し、高速撮像モードの駆動時に推定(補正を含む)された道路地図上の自車位置は、測位信号に基づいて推定した道路地図上の自車位置よりも優先して用いられる。
【0043】
具体的に説明すると、第2の走行環境認識部13bは、道路地図情報に基づく第2の走行環境情報として、自車走行路(走行車線)を区画する左右の車線区画線を認識し、走行車線中央の道路曲率を認識する。
【0044】
また、第2の走行環境認識部13bは、道路地図情報に基づく第2の走行環境情報として、自車両Mが走行中の走行路の道路種別等を認識する。
【0045】
撮像モード切換部13cは、カメラユニット11のステレオカメラを通常撮像モードによって駆動させるか、或いは、カメラユニット11のステレオカメラを高速撮像モードによって駆動させるか、の切り換えを行う。この切り換えは、衛星50からの測位信号に基づいて推定した道路地図上の自車位置の測位精度が高いか否かに基づいて行われる。
【0046】
具体的には、撮像モード切換部13cは、測位信号に基づく自車位置の測位精度が高いと判定した場合にはカメラユニット11のステレオカメラを通常撮像モードにて駆動させ、測位信号に基づく自車位置の測位精度が低いと判定した場合にはカメラユニット11のステレオカメラを高速撮像モードにて駆動させる。
【0047】
測位精度の判定は、例えば、衛星50から受信した測位信号の数に基づいて行われる。すなわち、撮像モード切換部13cは、GNSS受信機17が衛星50から受信した測位信号の数が設定値(例えば、5つ)以上である場合には測位精度が高いと判定し、GNSS受信機17が衛星50から受信した測位信号の数が設定値未満である場合には測位精度が低いと判定する。
【0048】
さらに、測位精度の判定は、例えば、第1の走行環境情報と第2の走行環境情報との比較に基づいて行われる。すなわち、撮像モード切換部13cは、例えば、第1の走行環境情報として認識した自車両Mから道路上の標示物(例えば、車線区画線や停止線等)までの距離と、第2の走行環境情報として認識した自車両Mから道路上の標示物までの距離とを比較し、これらの距離の誤差が設定値未満である場合には測位精度が高いと判定し、これらの距離の誤差が設定値以上である場合には測位精度が低いと判定する。
【0049】
そして、撮像モード切換部13cは、これらの判定結果を総合的に勘案して、カメラユニット11のステレオカメラを通常撮像モードで駆動するか、或いは、カメラユニット11のステレオカメラを高速撮像モードで駆動するかの切換制御を行う。すなわち、撮像モード切換部13cは、測位信号の数に基づく測位精度及び第1,第2の走行環境情報の比較に基づく測位精度の何れもが高いと判定されている場合には、カメラユニット11のステレオカメラを通常撮像モードで駆動する。一方、撮像モード切換部13cは、測位信号の数に基づく測位精度及び第1,第2の走行環境情報の比較に基づく測位精度のうちの少なくとも何れか一方が低いと判定されている場合には、カメラユニット11のステレオカメラを高速撮像モードで駆動する。
【0050】
このように、本実施形態において、地図情報取得部13a、及び、第2の走行環境認識部13bは、第2の走行環境認識手段としての機能を有する。また、撮像モード切換部13cは、撮像モード切換手段としての機能を実現する。
【0051】
カメラユニット11の第1の走行環境認識部11dで認識した第1の走行環境情報、及び、ロケータユニット12の第2の走行環境認識部13bで認識した第2の走行環境情報などは、走行_ECU22により読込まれる。また、走行_ECU22の入力側には、ドライバが自動運転(走行制御制御)のオン/オフ切換等を行うモード切換スイッチ、ドライバによる運転操作量としての操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ、ドライバによる運転操作量としてのブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキセンサ、ドライバによる運転操作量としてのアクセルペダルの踏込量を検出するアクセルセンサ、及び、自車両Mに作用するヨーレートを検出するヨーレートセンサ等の各種スイッチ・センサ類が接続されている(何れも図示せず)。
【0052】
走行_ECU22には、運転モードとして、手動運転モードと、走行制御制御のためのモードである第1の走行制御モード及び第2の走行制御モードと、退避モードと、が設定されている。これらの各運転モードは、モード切換スイッチに対する操作状況等に基づき、走行_ECU22において選択的に切換可能となっている。
【0053】
ここで、手動運転モードとは、ドライバによる保舵を必要とする運転モードであり、例えば、ドライバによるステアリング操作、アクセル操作およびブレーキ操作などの運転操作に従って、自車両Mを走行させる運転モードである。
【0054】
また、第1の走行制御モードも同様に、ドライバによる保舵を必要とする運転モードである。すなわち、第1の走行制御モードは、ドライバによる運転操作を反映しつつ、例えば、E/G_ECU23、PS_ECU24、BK_ECU25などの制御を通じて、主として、先行車追従制御(ACC:Adaptive Cruise Control)と、車線中央維持(ALKC:Active Lane Keep Centering)制御および車線逸脱抑制(Active Lane Keep Bouncing)制御と、を適宜組み合わせて行うことにより、目標走行経路に沿って自車両Mを走行させる、いわば半自動運転モードである。
【0055】
また、第2の走行制御モードとは、ドライバによる保舵、アクセル操作およびブレーキ操作を必要とすることなく、例えば、E/G_ECU23、PS_ECU24、BK_ECU25などの制御を通じて、主として、先行車追従制御と、車線中央維持制御および車線逸脱抑制制御とを適宜組み合わせて行うことにより、目標ルート(ルート地図情報)に従って自車両Mを走行させる自動運転モードである。
【0056】
退避モードは、例えば、第2の走行制御モードによる走行中に、当該モードによる走行が継続不能となり、且つ、ドライバに運転操作を引き継ぐことができなかった場合(すなわち、手動運転モード、または、第1の走行制御モードに遷移できなかった場合)に、自車両Mを路側帯などに自動的に停止させるためのモードである。
【0057】
次に、第2の走行環境認識部13bにおいて行われる道路地図上の自車位置推定について、
図3に示す自車位置推定ルーチンに従って説明する。このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるものである。
【0058】
ルーチンがスタートすると、第2の走行環境認識部13bは、ステップS101において、衛星50からの測位信号に基づいて算出した位置座標を道路地図情報上にマップマッチングして道路地図上の自車位置を推定する。
【0059】
続くステップS102において、第2の走行環境認識部13bは、カメラユニット11のステレオカメラの撮像モードが通常撮像モードであるか否かを調べる。
【0060】
そして、ステップS102において、撮像モードが通常撮像モードであると判定した場合、第2の走行環境認識部13bは、そのままルーチンを抜ける。
【0061】
一方、ステップS102において、撮像モードが高速撮像モードであると判定した場合、第2の走行環境認識部13bは、ステップS103に進み、カメラユニット11の第1の走行環境認識部11dから第1の走行環境情報を読み込む。
【0062】
続くステップS104において、第2の走行環境認識部13bは、第1の走行環境情報の中に、自車位置を推定可能な指標となる静止物が存在するか否かを調べる。すなわち、第2の走行環境認識部13bは、例えば、道路上における自車両Mの横位置を推定可能な車線区画線等と、道路上における自車両Mの前後位置を推定可能な停止線等と、が同時に存在するか否かを調べる。
【0063】
そして、ステップS104において、指標となる静止物が存在しないと判定した場合、第2の走行環境認識部13bは、ステップS107に進む。
【0064】
一方、ステップS104において、指標となる静止物が存在すると判定した場合、第2の走行環境認識部13bは、ステップS105に進み、第1の走行環境情報中の指標と、第2の走行環境情報(道路地図情報)中の指標と、を比較し、これらの間に位置ズレがあるか否かを調べる。すなわち、第2の走行環境認識部13bは、例えば、第1の走行環境情報における自車両Mから車線区画線等までの距離と、第2の走行環境情報における自車両Mから車線区画線等までの距離と、の間に誤差(車幅方向の位置ズレ)が生じているか否かを調べる。また、第2の走行環境認識部13bは、例えば、第1の走行環境情報における自車両Mから停止線までの距離と、第2の走行環境情報における自車両Mから停止線までの距離と、の間に誤差(前後方向の位置ズレ)が生じているか否かを調べる。 そして、ステップS105において、位置ズレが生じていないと判定した場合、第2の走行環境認識部13bは、ステップS107に進む。
【0065】
一方、ステップS105において、位置ズレが生じていると判定した場合、第2の走行環境認識部13bは、ステップS106に進み、第1の走行環境情報に基づいて道路地図上の自車位置を推定(補正)した後、ルーチンを抜ける。すなわち、第2の走行環境認識部13bは、例えば、道路地図上の自車両Mから車線区画線等までの距離が、第1の走行環境情報における自車両Mから車線区画線等までの距離と一致するように、道路地図上の自車位置を補正する。また、第2の走行環境認識部13bは、例えば、道路地図上の自車両Mから停止線等までの距離が、第1の走行環境情報における自車両Mから停止線等までの距離と一致するように、道路地図上の自車位置を補正する。なお、このようにステップS106において推定された自車位置は、第2の走行環境情報の認識に際し、ステップS101において推定された自車位置よりも優先して用いられる。
【0066】
また、ステップS104或いはステップS105からステップS107に進むと、第2の走行環境認識部13bは、第1の走行環境認識部11dから、自車両Mの移動量を読み込む。
【0067】
そして、ステップS108に進むと、第2の走行環境認識部13bは、自車両Mの移動量に基づいて道路地図上の自車位置を推定した後、ルーチンを抜ける。すなわち、第2の走行環境認識部13bは、自車両Mの移動量から自車両Mの走行軌跡を求める。そして、地図情報取得部13aは、この走行軌跡を用いて道路地図上の自車位置を推定する。なお、このようにステップS107において推定された自車位置は、第2の走行環境情報の認識に際し、ステップS101において推定された自車位置よりも優先して用いられる。
【0068】
次に、撮像モード切換部13cにおいて行われる撮像モード切換制御について、
図4に示す撮像モード切換制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるものである。
【0069】
ルーチンがスタートすると、撮像モード切換部13cは、ステップS201において、衛星50からGNSS受信機17が受信した測位信号の数が設定数(例えば、5つ)未満であるか否かを調べる。
【0070】
そして、ステップS201において、測位信号の数が設定数未満であると判定した場合、撮像モード切換部13cは、測位信号に基づく自車位置の測位精度が低下していると判定してステップS206に進む。
【0071】
一方、ステップS201において、測位信号の数が設定数以上であると判定した場合、撮像モード切換部13cは、ステップS202に進み、カメラユニット11の第1の走行環境認識部11dから第1の走行環境情報を読み込む。
【0072】
ステップS202からステップS203に進むと、撮像モード切換部13cは、第1の走行環境情報の中に、自車位置を推定可能な指標となる静止物が存在するか否かを調べる。
【0073】
そして、ステップS203において、指標となる静止物が存在しないと判定した場合、撮像モード切換部13cは、ステップS205に進む。
【0074】
一方、ステップS203において、指標となる静止物が存在すると判定した場合、撮像モード切換部13cは、ステップS204に進み、第1の走行環境情報中の指標と、上述のステップS101において推定した自車位置を基準とする道路地図上の指標と、を比較し、これらの間に位置ズレがあるか否かを調べる。すなわち、撮像モード切換部13cは、例えば、第1の走行環境情報における自車両Mから車線区画線等までの距離と、道路地図上における自車両Mから車線区画線等までの距離と、の間に誤差が生じているか否かを調べる。また、撮像モード切換部13cは、第1の走行環境情報における自車両Mから停止線等までの距離と、道路地図上における自車両Mから停止線等までの距離と、の間に誤差が生じているか否かを調べる。
【0075】
そして、ステップS204において、位置ズレが生じていないと判定した場合、撮像モード切換部13cは、測位信号に基づく自車位置の測位精度が低下していないと判定してステップS205に進む。
【0076】
一方、ステップS204において、位置ズレが生じていると判定した場合、撮像モード切換部13cは、測位信号に基づく自車位置の測位精度が低下していると判定してステップS206に進む。
【0077】
ステップS203、或いは、ステップS204からステップS205に進むと、撮像モード切換部13cは、カメラユニット11のステレオカメラの撮像モードとして通常撮像モードを選択した後、ルーチンを抜ける。
【0078】
また、ステップS201、或いは、ステップS204からステップS206に進むと、撮像モード切換部13cは、カメラユニット11のステレオカメラの撮像モードとして高速撮像モードを選択した後、ルーチンを抜ける。
【0079】
これにより、ステレオカメラは、測位信号に基づく自車位置の測位精度が低下していない場合には通常撮像モードによって駆動され、測位信号に基づく自車位置の測位精度が低下している場合には高速撮像モードによって駆動される。
【0080】
このような実施形態によれば、通常撮像モード或いは高速撮像モードによって駆動され、自車両Mの走行環境を撮像するステレオカメラ(メインカメラ11a及びサブカメラ11b)と、ステレオカメラによって撮像した画像に基づいて第1の走行環境情報を認識するとともに、画像のオプティカルフローに基づいて自車両Mの移動量を算出する第1の走行環境認識部11dと、複数の衛星50から受信した測位信号に基づいて実空間上の自車両Mの位置座標を算出するとともに、位置座標に基づいて道路地図上の自車位置を推定して第2の走行環境情報を道路地図情報から認識する第2の走行環境認識部13bと、測位信号に基づく測位精度を判定し、測位精度が高いときステレオカメラを通常撮像モードで駆動させ、測位精度が低いときステレオカメラを高速撮像モードで駆動させる撮像モード切換部13cと、を備え、第2の走行環境認識部13bは、ステレオカメラが高速撮像モードで駆動されているとき、オプティカルフローから算出した自車両Mの移動量に基づいて道路地図上の自車位置を推定することにより、衛星を用いた自車位置の測位精度が低下した場合にも道路地図上の自車位置を精度よく推定することができる。
【0081】
すなわち、測位信号に基づく自車位置の測位精度が低下した場合において、撮像モード切換部13cは、ステレオカメラを高速撮像モードにより駆動させる。これにより、同一の静止物を多くのフレーム間において継続して撮像することができ、オプティカルフローを用いた自車両Mの移動量を高い精度にて算出することができる。そして、このように高精度に算出した自車両Mの移動量から自車両Mの移動軌跡を求めて道路地図上の自車位置を推定することにより、測位信号に基づく測位精度が低下した場合であっても、道路地図上の自車位置を精度よく推定することができる。従って、道路地図情報を用いた第2の走行環境情報を精度よく得ることができ、自車両Mの走行制御を高いレベルで維持することができる。
【0082】
特に、オプティカルフローを用いた移動量の算出は、車輪速センサやジャイロセンサ等を用いた移動量の算出とは異なり、自車両Mのスリップ等の影響を考慮する必要がないため、走行距離が嵩んだ場合にも自車位置の推定誤差の累積的な増加を抑制することができる。
【0083】
加えて、測位信号に基づく測位精度が低下した場合には、第1の走行環境情報に基づいて道路地図上の自車位置を適宜補正することにより、道路地図上の自車位置の推定精度を高いレベルで維持することができる。
【0084】
また、このようなステレオカメラの高速撮像モードによる駆動は、測位信号に基づく自車位置の測位精度が低下した場合に限定的に行うものであるため、高速撮像モードによる駆動を常時行う場合に比べて、第1の走行環境認識部11d等における演算負荷を格段に低減することができ、第1の走行環境認識部11d等における発熱等の問題についても軽減することができる。
【0085】
ここで、上述の実施形態において、第1の走行環境認識部11d、ロケータ演算部13、走行_ECU22、E/G_ECU23、PS_ECU24、BK_ECU25等は、CPU,RAM,ROM、不揮発性記憶部等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラムやデータテーブル等の固定データ等が予め記憶されている。なお、プロセッサの全部若しくは一部の機能は、論理回路あるいはアナログ回路で構成してもよく、また各種プログラムの処理を、FPGAなどの電子回路により実現するようにしてもよい。
【0086】
以上の実施の形態に記載した発明は、それらの形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 … 走行制御装置
10 … 走行環境認識装置
11 … カメラユニット
11a … メインカメラ
11b … サブカメラ
11d … 第1の走行環境認識部
12 … ロケータユニット
13 … ロケータ演算部
13a … 地図情報取得部
13b … 第2の走行環境認識部
13c … 撮像モード切換部
14 … 加速度センサ
15 … 車輪速センサ
16 … ジャイロセンサ
17 … GNSS受信機
18 … 送受信機
19 … 高精度道路地図データベース
22 … 走行_ECU
23 … E/G_ECU
24 … PS_ECU
25 … BK_ECU
50 … 測位衛星