(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ホワイトニング装置
(51)【国際特許分類】
A61C 19/06 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
A61C19/06 Z
(21)【出願番号】P 2021045169
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】507039187
【氏名又は名称】株式会社ニコリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】宍田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】小川 鉄平
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-195662(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0060698(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0345472(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/86891(US,A1)
【文献】米国意匠特許発明第795501(US,S)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00-19/10
A61N 5/06-5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯をホワイトニングするためのマウスピース型のホワイトニング装置であって、
歯列に前記ホワイトニング装置の凸側から投光する複数の発光素子を有する光照射部を備え、
前記複数の発光素子は、前記ホワイトニング装置において前記歯列の奥歯側よりも前記歯列の前歯側に密に配置されることを特徴とするホワイトニング装置。
【請求項2】
前記発光素子と前記発光素子に隣接する発光素子の間隔は、前記発光素子と前記隣接する発光素子との組が前記歯列の幅方向中心線から離れた場所に位置するにつれて大きくなるように設定される、請求項1に記載のホワイトニング装置。
【請求項3】
ユーザの口に咥えられるように構成されたマウスピース部をさらに備え、
前記マウスピース部は、透明な材料で構成され、
前記光照射部から放出される光は、前記マウスピース部を通って前記歯列に照射される、請求項1又は2に記載のホワイトニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯のホワイトニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯のホワイトニング装置の中に光触媒反応を利用するものが知られている。利用者は歯の表面にホワイトニング剤を塗り、マウスピース型のホワイトニング装置を口にはめる。ホワイトニング装置には多数のLEDが埋設されており、これらが歯に投光する。
【0003】
ホワイトニング剤には一般に酸化チタンが配合されている。酸化チタンは、日光や蛍光灯の光が当たると、光触媒反応により有機物や細菌を分解する。これにより歯のステイン(汚れ)をとり、歯は白くなる。酸化チタンは、食品添加物や化粧品などにも使用されている素材で、安全性が高く、ホワイトチョコレートなどの食品、歯磨き粉、カプセルなどの医薬品、顔料、塗料など広く使われている。
【0004】
特許文献1は、歯の漂白において使用される装置のアセンブリを提案する。この技術も光触媒反応を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、ホワイトニング装置においては、歯列全体に高い強度の光を効率的に照射することにより、ホワイトニング効率を高めることが望まれている。
【0007】
上記を鑑み、本発明は、ホワイトニング効率を効果的に高めることが可能なホワイトニング技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、歯をホワイトニングするためのマウスピース型のホワイトニング装置であって、歯列に前記ホワイトニング装置の凸側から投光する複数の発光素子を有する光照射部を備え、前記複数の発光素子は、前記ホワイトニング装置において前記歯列の奥歯側よりも前記歯列の前歯側に密に配置される、ホワイトニング装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のホワイトニング装置によれば、ホワイトニング効率を効果的に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るホワイトニング装置の全体を示す正面図である。
【
図2】実施の形態に係るホワイトニング装置の上面図である。
【
図3】実施の形態に係るホワイトニング装置の斜視図である。
【
図5】実施の形態に係る光照射部における発光素子の配置を例示する図である。
【
図6】実施の形態に係る光照射部における発光素子の配置の詳細を例示する図である。
【
図7】実施の形態に係る光照射部における発光素子の配置の詳細を例示する図である。
【
図9】実施の形態に係るホワイトニング装置から出力される光のx方向の位置に対する照度分布を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図面において同一または同等の構成要素、部材には同一の符号を付し、適宜重複する説明は省略する。
【0012】
図1から
図3を参照して、ホワイトニング装置10について説明する。ホワイトニング装置10は、後述の複数の発光素子15を内蔵するマウスピース型の装置である。ホワイトニング装置10は、家庭などにおいて手軽に歯のホワイトニング処理を施すことを可能とする装置である。
図1のホワイトニング装置10は、光照射部11と、マウスピース部12と、本体部13と、を備える。
【0013】
説明の便宜上、図示のように、水平なある方向をX方向、X方向に直交する水平な方向をY方向、両者に直交する方向すなわち鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を定める。X方向を左右方向若しくは幅方向、Y方向を前後方向、Z方向を上下方向ということがある。
図1の正面図は、前後方向Yの前側から見たときの図である。
【0014】
光照射部11は、ホワイトニング装置10が口に咥えられた状態でホワイトニング装置10の凸側から歯列の表側に投光する複数の発光素子を備える(
図4及び
図5参照)。光照射部11は、LED基板11a上に、上顎側と下顎側とのそれぞれにおいて複数の発光素子15(例えばLED)が並んで配置されて構成される。光照射部11は、動作ボタン14が押された場合に、ホワイトニング装置10がユーザの口に咥えられた状態でユーザの歯の表側に光を照射するように構成される。光照射部11における具体的な発光素子15の配置については後述する。
【0015】
マウスピース部12は、ユーザの口膣内に位置する歯の上顎歯の表側と下顎歯の表側に装着可能なように上面視において略U字型に湾曲した形状で構成される(
図2参照)。マウスピース部12は、歯の並びに沿うように湾曲している。マウスピース部12は、例えば、光を透過し、かつ、外力によって変形可能な柔軟性を有する透明な樹脂部材で構成される。マウスピース部12は、例えば、シリコン樹脂で構成されるが、これに限定されず、他の材料で構成されてもよい。
【0016】
マウスピース部12は、上面視でU字型に湾曲した形状の平板部を有する(
図2参照)。平板部12aは、上顎歯と下顎歯とによって噛締される。平板部12aは、マウスピース部12のZ方向の中央部において、マウスピース部12から後ろ方向に平板状に突出するように構成される。
【0017】
本体部13は、マウスピース部12を取り付け可能に構成される。
【0018】
光照射部11から放出された光は、透明な樹脂材料で構成されたマウスピース部12を通って歯列に照射される。
【0019】
次に、光照射部11における具体的な発光素子15の配置について説明する。
図4に示すように、複数の発光素子15は、ホワイトニング装置10において歯列の奥歯側よりも歯列の前歯側に密に配置される。あるいは、ホワイトニング装置10は前歯側から奥歯側に向けて曲率が大きくなるように構成されているため、複数の発光素子15は、ホワイトニング装置10の曲率が大きい領域よりも曲率が小さい領域に密に配置されるともいえる。
【0020】
図5~
図7を用いて、本実施形態の光照射部11における発光素子15の具体的な配置を説明する。
図5に示すように、光照射部11では、その下顎側において、幅方向中心線CLから左方向に、発光素子15
A1、15
A2、15
A3、15
A4が順に設けられる。光照射部11の上顎側において、幅方向中心線CLから左方向に、発光素子15
B1、15
B2、15
B3、15
B4が順に設けられる。光照射部11の上顎側において、幅方向中心線CLから右方向に、発光素子15
C1、15
C2、15
C3、15
C4が順に設けられる。光照射部11の下顎側において、幅方向中心線CLから右方向に、発光素子15
D1、15
D2、15
D3、15
D4が順に設けられる。本実施形態の歯列の幅方向中心線CLは、Z方向から見て、歯列のX方向の中心からY方向にわたって設けられる(
図4等参照)。
【0021】
発光素子15
A1及び15
A2、15
B1及び15
B2、15
C1及び15
C2、並びに15
D1及び15
D2の間の間隔は7.0mmである。発光素子15
A2及び15
A3、15
B2及び15
B3、15
C2及び15
C3、並びに15
D2及び15
D3の間の間隔は7.5mmである。発光素子15
A3及び15
A2、15
B3及び15
B4、15C3及び15
C4、並びに15
D3及び15
D4の間の間隔は8.0mmである。発光素子15
A1及び15
D1、15
B1及び15
C1の間の間隔は6.0mmである。したがって、本実施形態の光照射部11では、発光素子15とこれに隣接する発光素子15の間隔は、発光素子15とその隣接する発光素子15との組が歯列の幅方向中心線CLから離れた場所に位置するにつれて大きくなるように設定される。
図6及び
図7に、本実施形態の光照射部11における発光素子15の配置の詳細を例示する。
【0022】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0023】
ホワイトニング装置10において曲率の比較的大きい奥歯側領域では、1つの発光素子から放出される光によって照らすことができる歯列の領域が比較的大きくなり、複数の歯全体に当たりやすい。そのため、奥歯側領域では、複数の発光素子を用いて歯列を照射した場合、歯の単位面積当たりに当てることができる光強度が弱くなりにくい。一方で、ホワイトニング装置10において曲率の比較的小さい前歯側領域では、1つの発光素子から放出される光によって照らすことができる歯列の領域が比較的小さくなり、発光素子から放出される光が歯又はその一部に部分的に届きにくくなる。そのため、前歯側領域では、複数の発光素子を用いて歯列を照射した場合、歯の単位面積当たりに当てることができる光強度が歯の位置によっては著しく弱くなりやすい。
【0024】
比較例として、歯列において発光素子15を均等な間隔で配置したホワイトニング装置について考える。マウスピース部12は透明な材料で構成されるものとする。この比較例のホワイトニング装置では、上述したように、奥歯側領域よりも前歯側領域の方が歯の単位面積当たりに当てることができる光の強度が弱くなりやすく、歯の位置によってはその光強度がほぼ0になることがある。その結果、歯列全体でホワイトニング効果にムラが生じやすくなる。
【0025】
上記の問題を解決するために、本発明者らは、発光素子15の配光特性に着目した。
図8を用いて、発光素子15の配光特性について説明する。
図8は、発光素子15から各方向に出力される光の強度を例示する。
図8では、発光素子15を正面からみた位置での光の指向角を0°とし、指向角が0°のときの光強度を1としたときの各指向角での相対光強度が示される。
図8に示すように、光は指向性をもって拡がるように放出されるが、指向角が0°からずれるにつれて光強度は弱くなる。そのため、発光素子間の間隔が大きい場合には、これらの発光素子の間に位置する歯に十分に光が届かなくなりやすい。一方で、発光素子間の間隔を十分に小さくした場合には、これらの発光素子の間に位置する歯に十分に光を届けやすくなる。
【0026】
本発明者らは、上述のような発光素子15の配光特性に鑑み、隣接する発光素子間の間隔を調整することにより、本発明に至った。具体的には、本実施形態では、複数の発光素子15は、ホワイトニング装置10において歯列の奥歯側よりも歯列の前歯側に密に配置される。本構成によると、前歯側領域において、発光素子15とその隣接する発光素子15とから出力された光同士が強め合いやすくなる。その結果、歯の単位面積当たりに当てることができる光強度が歯の位置によって著しく小さくなることを抑制することができる。
【0027】
これについて、
図9を用いて説明する。
図9は、本実施形態のホワイトニング装置10及び比較例のホワイトニング装置を用いて歯列に光を照射したときの歯列の各照度分布を例示する。
図9の縦軸はルクス(Lx)であり、横軸は幅方向中心軸CLからのx方向の距離(mm)である。
図9では、本実施形態の例901として、1回5~10分間程度の使用で電池が3日から一週間程度持続することを想定して、上述したように合計16個の発光素子15を含み、30mA、3.0V、0.090Wの仕様のホワイトニング装置10を用いた。一方、比較例902では、発光素子15をX方向に均等な間隔(7.3mm)で配置した点を除き、本実施形態と同様のホワイトニング装置を用いた。
図9の0、25.5、-25.5の位置は、
図4のCL、25.5、-25.5の位置にそれぞれ対応する。
【0028】
図9の比較例901では、前歯側領域において、隣接する発光素子15の光同士が強め合いにくいことに加え、光が当たりにくいことから、ルクスの谷の部分が0ルクスとなる領域がある。一方、幅方向中心軸CLからのx方向が20mm近傍(奥歯側)のルクスの谷では、ルクスが0よりも多少大きくなっている。このように、前歯側領域では、歯の位置によっては歯の単位面積当たりに当てることができる光強度が著しく小さくなるため、ホワイトニング効果にムラができてしまう。
【0029】
一方で、本実施形態では、ルクスの大きさに山と谷ができるものの、谷の部分において歯の位置によらずに7000ルクス以上を確保できている。したがって、本実施形態では、前歯側領域において歯の単位面積当たりに当てることができる光強度が歯の位置によって著しく小さくなることを抑制できていることが理解される。その結果、ホワイトニング効果のムラを低減することができるため、いずれの歯も決まった施術時間で同程度に白くすることが可能となる。
【0030】
ここで、上述したように、透明な材料で構成されたマウスピース部12を用いる比較例のホワイトニング装置では、特に前歯側領域において歯の位置によってはその照射される光の強度がほぼ0になることがある。その結果、歯列全体でホワイトニング効果にムラが生じやすくなる。
このホワイトニング効果のムラを低減するために、マウスピース部12として不透明な材料を用いて光をマウスピース部12の内部で拡散させることによって歯列全体に均一に光を供給することも想定される。しかし、不透明な材料を用いて光を拡散させる分、光強度の損失が多く、効率的にホワイトニング効果を奏することが難しい。
一方、本実施形態では、マウスピース部12は透明な材料で構成され、光照射部11から放出される光は、マウスピース部12を通って歯列に照射される。本構成によると、上述の発光素子の配置によってホワイトニング効果のムラを低減しつつ、透明な材料を用いることにより光強度の損失を低減するという相乗効果を奏することが可能となる。
【0031】
実施形態では、マウスピース部12として透明な材料を用いたが、これに限定されず、透明ではない材料が用いられてもよい。
【0032】
発光素子15の寸法は、
図5から
図7の例に限られず、上述した本発明の原理を適用できる範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 ホワイトニング装置、11 光照射部、12 マウスピース部、13 本体部、14 動作ボタン、15 発光素子。