(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】眼内リング挿入器及び容器付き眼内リング挿入器
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2021057450
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 義崇
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-198481(JP,A)
【文献】特表2003-527162(JP,A)
【文献】特表平06-507094(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0345480(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶体嚢の形状を保持するための眼内リングを眼内に挿入する眼内リング挿入器において、
前記眼内リングを収容する中空を有する中空体を備え、
前記中空体は、前記眼内リングを開口から放出するノズルを備え、
前記中空体の軸方向に対して前記ノズルが曲がった、樹脂製の眼内リング挿入器
であって、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルが曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記中空体の内部を前方に移動するプランジャと、
前記中空体の内部を前記プランジャと共に前方に移動し且つ前記ノズルが曲がる方向に沿いつつ移動することにより前記眼内リングを押し出す押し出し部材と、
を備え、
前記押し出し部材の先端部分には、前記眼内リングの係合用の突起が上方又は下方に向けて突出して設けられ、
前記開口に相対して見たときの前記ノズルの延伸方向に垂直な断面視において、少なくとも前記開口近傍において、前記ノズルの曲がる方向の内側と外側のうち外側の内周上方部分に出っ張りが設けられ、
前記出っ張りにより、前記眼内リングが前記外側の内周上方部分に進入できないようにした、眼内リング挿入器。
【請求項2】
前記ノズルの基端に相対して見たときの前記ノズルの延伸方向に垂直な断面視において、曲がる方向の外側の方が内側に比べて肉厚である、請求項
1に記載の眼内リング挿入器。
【請求項3】
前記ノズルの延伸方向に対する垂直方向であって水平面上にある方向であるノズル先端側方から前記ノズルの先端を見たとき、前記ノズルの先端の上方は鋭角形状であり、前記ノズルの先端の下方は鈍角形状である、請求項1
又は2に記載の眼内リング挿入器。
【請求項4】
前記ノズルの基端側の外周の上方部分以外の部分に補強リブが設けられた、請求項1~
3のいずれか一つに記載の眼内リング挿入器。
【請求項5】
水晶体嚢の形状を保持するための眼内リングを眼内に挿入する眼内リング挿入器において、
前記眼内リングを収容する中空を有する中空体を備え、
前記中空体は、前記眼内リングを開口から放出するノズルを備え、
前記中空体の軸方向に対して前記ノズルが曲がった、樹脂製の眼内リング挿入器、
又は、
請求項1~4のいずれか一つに記載の眼内リング挿入器が
、樹脂製の容器に収容された、容器付き眼内リング挿入器
であって、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルの曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記眼内リング挿入器は、
前記中空体の内部を前方に移動するプランジャと、
前記中空体の内部を前記プランジャと共に前方に移動し且つ前記ノズルの曲がる方向に沿いつつ移動することにより前記眼内リングを押し出す押し出し部材と、
を備え、
前記容器は、
前記眼内リング挿入器を前記容器に収容した状態で、前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させ、前記眼内リングを前記眼内リング挿入器内に収める移動機構と、
前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させる前において前記眼内リングの一部が載置される載置部と、
を備え、
前記載置部から前方に向けて、前記容器の床まで下り斜面が形成された、容器付き眼内リング挿入器。
【請求項6】
水晶体嚢の形状を保持するための眼内リングを眼内に挿入する眼内リング挿入器において、
前記眼内リングを収容する中空を有する中空体を備え、
前記中空体は、前記眼内リングを開口から放出するノズルを備え、
前記中空体の軸方向に対して前記ノズルが曲がった、樹脂製の眼内リング挿入器、
又は、
請求項1~4のいずれか一つに記載の眼内リング挿入器が、樹脂製の容器に収容された、容器付き眼内リング挿入器であって、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルの曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記眼内リング挿入器は、
前記中空体の内部を前方に移動するプランジャと、
前記中空体の内部を前記プランジャと共に前方に移動し且つ前記ノズルの曲がる方向に沿いつつ移動することにより前記眼内リングを押し出す押し出し部材と、
を備え、
前記眼内リング挿入器を前記容器に収容した状態で、前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させ、前記眼内リングを前記眼内リング挿入器内に収める移動機構と、
前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させる前の前記ノズルから見て曲がり水平方向の位置に配置されたフックと、
前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させる前において前記眼内リングの一部が載置される載置部と、
を備え、
前記フックは、前記容器から上方に向けて突出した後に前方に向けて突出した形状であり、
前記載置部から前方に向けて、前記容器の床まで下り斜面が形成され、
前記フックからみて、前記容器に収容された状態の前記眼内リング挿入器の前記ノズルの曲がり水平方向に前記下り斜面が形成された、容器付き眼内リング挿入器。
【請求項7】
前記容器は、
前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させる前の前記ノズルの先端から見て曲がり水平方向の位置に配置された引っ掛け
部を備え、
前記引っ掛け部は、少なくとも前記容器から上方に向けて突出した形状である、請求項
5に記載の容器付き眼内リング挿入器。
【請求項8】
更に眼内リングを備えた、請求項
5~
7のいずれか一つに記載の容器付き眼内リング挿入器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内リング挿入器及び容器付き眼内リング挿入器に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障の治療方法のひとつに眼内レンズを用いた方法がある。この治療方法では、水晶体嚢外摘出手術によって水晶体嚢から水晶体線維(核、皮質)を取り出した後、水晶体嚢に眼内レンズを挿入する。その際、水晶体嚢の形状を保持するために、眼内レンズの挿入に先立って、水晶体嚢外摘出手術後の水晶体嚢に対し、眼内リングとして水晶体嚢拡張リング(capsular tension ring:CTR)を装着する場合がある。この眼内リングは、水晶体嚢の赤道部に内接するように装着され、この装着状態で適度な張力を発揮することにより、水晶体嚢の形状を保持する。
【0003】
この眼内リングを水晶体嚢内に挿入するための眼内リング挿入器が種々開発されている。例えば、非特許文献1では、金属製の眼内リング挿入器が開示されている。そして、この眼内リング挿入器では、眼内リングを放出するためのノズル21を一方向に湾曲させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】https://fci-ophthalmics.com/products/geuder-injector
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の眼内リング挿入器は金属製であり、術式後、洗浄及び消毒を経て、繰り返し使用される。洗浄及び消毒に関するコストが嵩むうえ、洗浄及び消毒が正常に行われていない場合、術式中に感染を引き起こすおそれもある。
【0006】
本発明の課題は、使い捨て可能であっても従来と同等以上の使い勝手の良さを発揮する眼内リング挿入器又は容器付き眼内リング挿入器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、
水晶体嚢の形状を保持するための眼内リングを眼内に挿入する眼内リング挿入器において、
前記眼内リングを収容する中空を有する中空体を備え、
前記中空体は、前記眼内リングを開口から放出するノズルを備え、
前記中空体の軸方向に対して前記ノズルが曲がった、樹脂製の眼内リング挿入器である。
【0008】
本発明の第2の態様は、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルが曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記中空体の内部を前方に移動するプランジャと、
前記中空体の内部を前記プランジャと共に前方に移動し且つ前記ノズルの曲がる方向に沿いつつ移動することにより前記眼内リングを押し出す押し出し部材と、
を備え、
前記押し出し部材の先端部分には、前記眼内リングの係合用の突起が上方又は下方に向けて突出して設けられ、
前記開口に相対して見たときの前記ノズルの延伸方向に垂直な断面視において、少なくとも前記開口近傍において、前記ノズルの曲がる方向の内側と外側のうち外側の内周上方部分に出っ張りが設けられ、
前記出っ張りにより、前記眼内リングが前記外側の内周上方部分に進入できないようにした、第1の態様に記載の眼内リング挿入器である。
【0009】
本発明の第3の態様は、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルが曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記ノズルの基端に相対して見たときの前記ノズルの延伸方向に垂直な断面視において、曲がる方向の外側の方が内側に比べて肉厚である、第1又は第2の態様に記載の眼内リング挿入器である。
【0010】
本発明の第4の態様は、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルが曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記ノズルの延伸方向に対する垂直方向であって水平面上にある方向であるノズル先端側方から前記ノズルの先端を見たとき、前記ノズルの先端の上方は鋭角形状であり、前記ノズルの先端の下方は鈍角形状である、第1~第3のいずれか一つの態様に記載の眼内リング挿入器である。
【0011】
本発明の第5の態様は、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルが曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記ノズルの基端側の外周の上方部分以外の部分に補強リブが設けられた、第1~第4のいずれか一つの態様に記載の眼内リング挿入器である。
【0012】
本発明の第6の態様は、
第1~第5のいずれか一つの態様に記載の眼内リング挿入器が樹脂製の容器に収容された、容器付き眼内リング挿入器である。
【0013】
本発明の第7の態様は、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルが曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記眼内リング挿入器は、
前記中空体の内部を前方に移動するプランジャと、
前記中空体の内部を前記プランジャと共に前方に移動し且つ前記ノズルが曲がる方向に沿いつつ移動することにより前記眼内リングを押し出す押し出し部材と、
を備え、
前記容器は、
前記眼内リング挿入器を前記容器に収容した状態で、前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させ、前記眼内リングを前記眼内リング挿入器内に収める移動機構と、
前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させる前の前記ノズルの先端から見て曲がり水平方向の位置に配置された引っ掛け部と、
を備え、
前記引っ掛け部は、少なくとも前記容器から上方に向けて突出した形状である、第6の態様に記載の容器付き眼内リング挿入器である。
【0014】
本発明の第8の態様は、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルが曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記眼内リング挿入器は、
前記中空体の内部を前方に移動するプランジャと、
前記中空体の内部を前記プランジャと共に前方に移動し且つ前記ノズルが曲がる方向に沿いつつ移動することにより前記眼内リングを押し出す押し出し部材と、
を備え、
前記容器は、
前記眼内リング挿入器を前記容器に収容した状態で、前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させ、前記眼内リングを前記眼内リング挿入器内に収める移動機構と、
前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させる前において前記眼内リングの一部が載置される載置部と、
を備え、
前記載置部から前方に向けて、前記容器の床まで下り斜面が形成された、第6又は第7に記載の容器付き眼内リング挿入器である。
【0015】
本発明の第9の態様は、
前記中空体の軸方向を前後方向、
前記ノズルが曲がる方向であって、前後方向から前記ノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向に対する垂直方向を曲がり水平方向、
前後方向及び曲がり水平方向に垂直な方向を上下方向としたとき、
前記眼内リング挿入器は、
前記中空体の内部を前方に移動するプランジャと、
前記中空体の内部を前記プランジャと共に前方に移動し且つ前記ノズルが曲がる方向に沿いつつ移動することにより前記眼内リングを押し出す押し出し部材と、
を備え、
前記眼内リング挿入器を前記容器に収容した状態で、前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させ、前記眼内リングを前記眼内リング挿入器内に収める移動機構と、
前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させる前の前記ノズルから見て曲がり水平方向の位置に配置されたフックと、
前記中空体と前記プランジャとを軸方向に相対的に移動させる前において前記眼内リングの一部が載置される載置部と、
を備え、
前記フックは、前記容器から上方に向けて突出した後に前方に向けて突出した形状であり、
前記載置部から前方に向けて、前記容器の床まで下り斜面が形成され、
前記フックからみて、前記容器に収容された状態の前記眼内リング挿入器の前記ノズルの曲がり水平方向に前記下り斜面が形成された、第6~第8のいずれか一つの態様に記載の容器付き眼内リング挿入器である。
【0016】
本発明の第10の態様は、
更に眼内リングを備えた、第6~第9のいずれか一つの態様に記載の容器付き眼内リング挿入器である。
【0017】
上記の態様に対して組み合わせ可能な本発明の他の態様は以下の通りである。
【0018】
ノズルは所定の一方向に湾曲する。
【0019】
眼内リング挿入器を収容する容器は、
眼内リング挿入器を容器に収容した状態で、中空体とプランジャとを軸方向に相対的に移動させる移動機構を備える。
【0020】
この移動規制部に関し、眼内リング挿入器を収容する容器は、
眼内リング挿入器を容器に収容した状態でプランジャの軸方向(前後方向)の移動を規制するプランジャ移動規制部と、
眼内リング挿入器を容器に収容した状態で中空体の軸方向(前後方向)の移動は許容する一方で軸方向以外の方向の移動を規制する中空体移動規制部と、
を備える。
【0021】
中空体移動規制部は、中空体の外周と軸方向にて嵌合可能な構成を有する。
【0022】
中空体の後方への移動限界は、容器に設けられた中空体フランジ左側ガイド部と中空体フランジ右側ガイド部により規定されるのが好ましい。
【0023】
中空体の前方への移動限界は、収容初期状態から前進する中空体のフランジに対するストッパーの位置により規定されるのが好ましい。該ストッパーは、容器の中空体嵌合用突起の後方に配置される。容器の中空体嵌合用突起が該ストッパーを兼ねてもよい。該ストッパーは容器の梁を兼ねてもよい。該ストッパーと容器の中空体嵌合用突起とが別である場合、両者の前後方向の距離を、ゼロを超え且つ5mm以下(例えば3mm以下)の範囲内で適宜設定してもよい。該ストッパーは、容器の後方床から上方に突出した部分である。
【0024】
中空体を前進させ、容器の中空体嵌合用突起と中空体の移動規制用左突起及び移動規制用右突起との嵌合が解除されるのと同時、又は嵌合解除後に中空体をわずかに(例えば3mm以下、2mm以下、或いは1mm以下)前進させた時に、中空体のフランジとストッパーとが接触し、中空体の前進を停止させてもよい。
【0025】
前後方向において、中空体フランジ左側ガイド部と中空体フランジ右側ガイド部からストッパーまでの距離は、容器の中空体嵌合用突起の後端から前端までの距離よりも大きいのが好ましい。
【0026】
前方から後方に向けて見たとき、中空体フランジ左側ガイド部と中空体フランジ右側ガイド部は、中空体のフランジの外径に沿った形状を有するのが好ましい。
【0027】
平面視において眼内リング挿入器は容器内において左方(Y1方向)寄りに配置される。つまり、平面視において、収容初期状態の中空体は、容器の左右方向中央から左方に偏位している。
【0028】
また、蓋を閉じた時にノズルの基端側と係合可能なノズル用爪を、蓋を閉じた時の蓋の後端下面に設けてもよい。
【0029】
蓋を開くことにより、容器の前方床に設けられた矢印型の穴が術者に視認される。この矢印は、中空体を移動させるべき方向を表す。
【0030】
ノズルの湾曲度合いには限定は無いが、例えば曲率半径40~60mmの範囲内で湾曲させてもよい。また、平面視にて中空体の中心を通過する前後方向からノズルの先端までの最大距離を30~45mmの範囲内で設定してもよい。
【0031】
出っ張りは、左右両隅部において内向き水平方向(右方)に出っ張り且つ下方にも出っ張るのが好ましい。
【0032】
水平線Lの3時方向を0度として該方向から反時計回りを正としたとき、出っ張りが存在する部分における傾斜角度θは-20~80度の範囲内のいずれかであるのが好ましい。内周に対して連続(例えば少なくとも0~80度の範囲全体)又は不連続に出っ張りが設けられるのが好ましい。
【0033】
出っ張りは、湾曲外側の内周上方部分の凹形状(外側に凸)を凸形状(内側に凸)に変化させる形状を有するのが好ましい。また、内周上方部分の断面形状の曲率の変化率が最も大きい箇所に出っ張りを設けてもよい。
【0034】
例えば、湾曲外側の内周上方部分に設けられた出っ張り(例えば段差状の出っ張り)の左右方向の幅は、左右中点により形成される垂線の所定位置(例えば上下左右中点O)から湾曲外側の逆方向である湾曲内側の内周部分までの幅の30~90%が好ましい。実寸としては、右隅に設けられた出っ張りの左右方向の幅は0.2~0.4μmとするのが好ましい。
【0035】
例えば、湾曲外側の内周上方部分に設けられた出っ張り(例えば段差状の出っ張り)の上下方向の高さは、上下左右中点Oを通過する上下線における上方内周と下方内周との間の高さの30~80%が好ましい。実寸としては、湾曲外側の内周上方部分に設けられた出っ張りの上下方向の高さは0.2~0.6μmとするのが好ましい。
【0036】
一体成型するうえでは、ノズルの湾曲形状に倣い、開口含めてノズルの延伸方向に長尺に出っ張りが形成されてもよい。この長尺とは、実寸としては、25~35μmとしてもよい。
【0037】
ノズルの先端の上下方向の寸法は例えば1.0~1.5mmである。開口に相対して見たときのノズルの延伸方向に垂直な断面視(以降、肉厚については同様。)において、上記出っ張り以外のノズルの厚さ(内周から外周までの距離)は例えば0.1~0.5mmである。
【0038】
ノズルの基端側の外周の上方部分以外の部分に補強リブを設けるのが好ましい。
【0039】
ノズルの基端に相対して見たときのノズルの延伸方向に垂直な断面視において、ノズルの内周の上下の中点であり且つ左右の中点である点Oを通過する水平線Lを仮想し、該水平線Lの3時方向を0度として該方向から反時計回りを正としたとき、傾斜角度θが少なくとも30~150度の範囲内のノズルの基端側の外周の上方部分においては補強リブを設けず、他の外周部分の肉厚に比べて肉厚を小さくするのが好ましい。
【0040】
(湾曲外側に設けられた補強リブの断面積)/(湾曲内側に設けられた補強リブの断面積)の値を1.1~2.0としてもよい。(湾曲外側のノズルの肉厚)/(湾曲内側のノズルの肉厚)の値を1.1~2.0としてもよい。
【0041】
ノズルは上方向に反ってもよい。言い方を変えると、ノズルの開口の下端がノズルの基端の内周下端よりも上方に偏位してもよい。
【0042】
押し出し部材単独の状態にしたときに、押し出し部材がノズルの湾曲方向と同じ方向にある程度湾曲してもよい。
【0043】
押し出し部材の湾曲度合いに関し、眼内リング挿入器を分解して押し出し部材単独の状態にしたとき、曲率半径40~60mmの範囲内で湾曲させてもよい。また、平面視にて中空体の中心を通過する前後方向からノズルの先端までの最大距離を30~45mmの範囲内で設定してもよい。
【0044】
中空体のフランジとノズルの基端との中間位置付近であって平面視にて視認可能な位置(好適には上端)に、湾曲方向を示す指標を中空体に設けてもよい。
【0045】
なお、別の指標を、プランジャの基端側(プランジャのフランジの前方部分)に設けてもよい。例えば、プランジャの上端に対し、前後方向に延在する突起を設けつつ、プランジャの基端側にて該突起の延在を中断させることにより、延在中断箇所を術者が平面視にて視認可能な目印としてもよい。
【0046】
本実施形態の好適例の中空体の後端上側は開閉可能な構成を有している。つまり、中空体の後方上側は小蓋となっている。小蓋を閉めたときの小蓋の内周前端及び後端の上方には、下方に向けた出っ張りが形成されている。それと共に、収容初期状態のプランジャにおいて上方に向けた出っ張りが設けられる。
【0047】
押し出し部材の基端から先端にかけて、押し出し部材の幅方向の中央位置は右方(ノズルの湾曲方向)へと偏位してもよい。具体例を挙げると以下の通りである。
【0048】
眼内リング挿入器の押し出し部材に張り出し部を設けるのが好ましい。
【0049】
眼内リング挿入器を分解して押し出し部材単独の状態にした時、少なくとも先端部をプランジャの軸方向から突起が突出する方向(ここでは下方)へと偏位させるのが好ましい。
【0050】
フックにおける、上方突起の突出距離は、フックを形成する容器の前方床から、収容初期状態の眼内リング挿入器のノズルの先端の上端までの距離よりも大きな値にすればよく、具体的な寸法に限定は無い。例えば、収容初期状態の眼内リング挿入器のノズルの先端の上端よりも1~5mm上方(前方突起含む)に突出させてもよい。
【0051】
フックにおける、前方突起の突出距離は、収容初期状態のノズルの開口から露出した眼内リングの状態に応じて設定すればよく、具体的な寸法に限定は無い。例えば、前方突起は、上方突起に対して1~5mm前方に突出させてもよい。
【0052】
容器に設けられた中空体フランジ左側ガイド部と中空体フランジ右側ガイド部との中間位置と、容器内に眼内リング挿入器を収めたときにプランジャを上方から下方に嵌め込み可能な中央縦溝との間に、前後方向に延在した突起を設けてもよい。該突起は、Y1方向からY2方向を見たときに前方から後方に向けて上り坂の形状を有していてもよい。該突起の最大高さは、収容初期状態の中空体を限界まで前進させた状態での中空体(フランジ除く)の下端よりもわずか(例えばその差2mm以下)に高い。
【0053】
容器に設けられた中空体フランジ左側ガイド部の下方と中空体フランジ右側ガイド部の下方とを包含するように、容器の後方床に一つの幅広穴を設けるのが好ましい。この幅広穴により、容器が撓ったときに、収容初期状態の中空体のフランジが容器の後方床と接触せずに済む。つまり、幅広穴に中空体のフランジの下端を収容可能となる。
【0054】
同様に、収容初期状態の中空体のフランジの下端が後方床と容器の底との間に配置されるような幅狭穴を前後方向に亘って設けてもよい。中空体を前進させる時にフランジの下端と後方床と接触させずに済む。つまり、幅狭穴に中空体のフランジの下端を収容可能となる。幅狭穴は、下端の接触のみ考慮すればよいため、前段落に記載の幅広穴よりは左右方向幅を狭くしても構わない。
【0055】
閉じた状態の蓋を平面視したとき、閉じた蓋の左端は、蓋の前端から後端に亘って略直線上である一方、右端(収容初期状態のノズルの湾曲水平方向の端)では、蓋の後端が前端よりも右方に幅広になるのが好ましい。つまり、閉じた蓋の左端及び右端のうち右端を幅広とするのが好ましい。
【0056】
容器の後端から後方に向けて下方に湾曲した板状の出っ張りを設けてもよい。該板状の出っ張りを把持することにより、眼内リング挿入器及びその周囲の容器を汚さずに済む。板状の出っ張りの形状には限定は無く、例えば左右方向に窪みを設けてもよい。この窪みにおいて紐を括り付け、容器を吊るすように一時的に保持してもよい。
【0057】
前後方向において容器の中央位置に側壁は設けないのがよい。つまり、前方側壁と後方側壁のみを設けるのがよい。
【0058】
本実施形態の眼内リング挿入器及びその容器は樹脂製だが、術式前後における視認性を向上すべく、プランジャを着色する一方でその他の構成(少なくともノズル)を非着色としてもよい。
【0059】
フックは、容器から上方(Z1方向)に向けて突出した後に前方(X1方向)に向けて突出した形状に限定されない。該突出が無く、上方(Z1方向)にのみ向けて突出した棒形状であってもよい。この棒形状の場合を含め、フックを引っ掛け部と呼称してもよい。
【0060】
上記の各態様における「湾曲」を包含する表現として「曲がり」を上記の各態様の「湾曲」の代わりに使用してもよい。「湾曲水平方向」を包含する表現として「曲がり水平方向」を上記の各態様の「湾曲水平方向」の代わりに使用してもよい。「湾曲外側」を包含する表現として「曲がる方向の外側」を上記の各態様の「湾曲外側」の代わりに使用してもよい。「湾曲内側」を包含する表現として「曲がる方向の内側」を上記の各態様の「湾曲内側」の代わりに使用してもよい。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、使い捨て可能であっても従来と同等以上の使い勝手の良さを発揮する眼内リング挿入器又は容器付き眼内リング挿入器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】
図1は、本実施形態の眼内リング挿入器と容器と眼内リングの斜視概略図である。
【
図2】
図2(a)は、本実施形態の眼内リング挿入器の平面概略図である。
図2(b)は、眼内リングを押し出し部材に装着した状態の本実施形態の眼内リング挿入器の平面概略図である。
図2(c)は、本実施形態の眼内リング挿入器を左方から右方に見たときの側面概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の眼内リング挿入器の分解斜視概略図である。
【
図4】
図4(a)は、蓋を開く前の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器の斜視概略図である。
図4(b)は、蓋を開いた後の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器の斜視概略図である。
【
図5】
図5(a)は、蓋を開く前の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器を左方から右方に見たときの側面概略図である。
図5(b)は、蓋を開く前の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器の平面概略図である。
図5(c)は、蓋を開いた後の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器の平面概略図である。
【
図6】
図6(a)は、中空体を前進させて眼内リングをノズル内に収容した、取り外し直前状態の斜視概略図である。
図6(b)は、中空体を前進させて眼内リングをノズル内に収容した、取り外し直前状態の平面概略図である。
【
図7】
図7(a)は、眼内リングの突出量を示すための対比例である。
図7(b)は、眼内リングの突出量を示すための本実施形態に係る例である。
【
図8】
図8(a)は、眼内リングが水晶体嚢に与える影響を示すための対比例である。
図8(b)は、眼内リングが水晶体嚢に与える影響を示すための本実施形態に係る例である。
【
図9】
図9(a)は、本実施形態に係るノズルの平面概略図である。
図9(b)は、本実施形態に係るノズルを前方から後方に見たときの概略図である。
図9(c)は、本実施形態に係るノズルを後方から前方に見たときの概略図である。
図9(d)は、本実施形態に係るノズルを右方から左方に見たときの側面概略図である。
図9(e)は、本実施形態に係るノズルの底面概略図である。
図9(f)は、
図9(e)のD-D線における断面概略図である。
図9(g)は、
図9(e)のF-F線における断面概略図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係るノズル及び中空体の部分拡大斜視概略図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る容器付き眼内リング挿入器の部分拡大斜視概略図である。
【
図12】
図12(a)は、眼内リングの先端部の移動の様子を示すための対比例である。
図12(b)は、フックが存在するときの眼内リングの先端部の移動の様子を示すための本実施形態に係る例である。
【
図13】
図13(a)は、眼内リングの先端部の移動の様子を示すための対比例である。
図13(b)は、下り斜面(スロープ)が存在するときの眼内リングの先端部の移動の様子を示すための本実施形態に係る例である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において「~」は所定の値以上かつ所定の値以下を指す。
【0064】
本実施形態においては、眼内リング挿入器の各部の相対的な位置関係や動作の方向などを説明するにあたって、X軸方向の一方をX1方向、同他方をX2方向、Y軸方向の一方をY1方向、同他方をY2方向、Z軸方向の一方をZ1方向、同他方をZ2方向、X1方向を先端側(前方)、X2方向を後端側(後方、基端)、Y1方向を左側(左方)、Y2方向を右側(右方)、Z1方向を上側(上方)、Z2方向を下側(下方)と定義する。
【0065】
このうち、X1方向及びX2方向は、眼内リング挿入器の長さ方向に相当し、Y1方向及びY2方向は、眼内リング挿入器の幅方向に相当し、Z1方向及びZ2方向は、眼内リング挿入器の高さ方向に相当する。眼内リング挿入器の長さ方向のことを、中空体のノズル以外の部分における軸方向、以降、「中空体の軸方向」或いは単に「軸方向」ともいう。上方は天地の天の方向を意味し、下方は天地の地の方向を意味する。また、本実施形態におけるノズルの湾曲方向はY2方向(右方)とする。本明細書においては、ノズルの湾曲方向は、前後方向からノズルの先端までの距離が最大となる、前後方向(軸方向)に対する垂直方向とする。ノズルの湾曲方向であるY2方向(右方)のことを湾曲水平方向ともいう。Y1、Y2方向合わせて水平方向、左右方向ともいう。
【0066】
<本実施形態の構成の全体の概要>
以下、本実施形態に係る眼内リング挿入器及び容器の全体の概要について説明する。本発明の特徴(例えばノズル21の湾曲等)については本項目、その次の使用態様の項目の後に詳述する。
【0067】
図1は、本実施形態の眼内リング挿入器と容器と眼内リングの斜視概略図である。
図2(a)は、本実施形態の眼内リング挿入器の平面概略図である。
図2(b)は、眼内リングを押し出し部材に装着した状態の本実施形態の眼内リング挿入器の平面概略図である。
図2(c)は、本実施形態の眼内リング挿入器を左方から右方に見たときの側面概略図である。
図3は、本実施形態の眼内リング挿入器の分解斜視概略図である。
【0068】
本実施形態で扱う眼内リングCとしては、水晶体嚢の形状を保持するために眼内に装着される水晶体嚢拡張リング(CTR)が挙げられる。CTRは、全体に円弧状に湾曲したオープンリング形状に形成されている。オープンリング形状とは、リングの一部が開放された形状をいう。但し、CTRは公知のものを用いて構わない。そのため、本明細書には、本出願人による特開2016-214494号公報に記載されたCTRに関する内容が全て記載されているものとする。
【0069】
本実施形態に係る眼内リング挿入器10は、水晶体嚢の形状を保持するための眼内リングを眼内に挿入する眼内リング挿入器10である。そのうえで、眼内リング挿入器10は、
眼内リングCを収容する中空を有する中空体20を備え、
中空体20は、眼内リングCを開口22から放出するノズル21を備え、
ノズル21が所定の一方向に湾曲した、樹脂製の眼内リング挿入器10である。
【0070】
本明細書における少なくともノズル21に関する「湾曲」は、平面視において、中空体20の軸方向(X1-X2方向)に対してノズルの先端21EがY2方向に偏位して存在し、且つ、押し出し部材50をノズル21の開口22に向けて移動可能な程度にノズル21がY2方向に向けて緩やかに曲がっている状態を指す。湾曲の具体的な態様には限定は無く、平面視において曲率半径が一定の湾曲でも構わないし、曲率半径が変化しても構わない。中空体20の軸方向(前後方向)のうち前方以外の方向に向けて開口22から眼内リングCが押し出されるよう、ノズル21が湾曲していればよい。平面視における、眼内リングCが開口22から押し出される方向は、前方から90度以下のずれ(前方向き又は水平向き)であってもよい。該方向は、湾曲形状を更に延伸した場合は平面視にてノズル21が略J字となるため90度を超えたずれ(後方向き)であってもよい。
【0071】
更に、本実施形態に係る眼内リング挿入器10は、
中空体20の内部を前方に移動するプランジャ40と、
中空体20の内部をプランジャ40と共に前方に移動し且つノズル21の湾曲に沿いつつ移動することにより眼内リングCを押し出す押し出し部材50と、
を備える。
【0072】
中空体20は、眼内リング挿入器10の本体部分である。中空体20の先端には開口22を有するノズル21が配置される。ノズル21は中空体20と一体成型されても構わないが、本実施形態に係るノズル21は、中空体20とは別部材として製造され、中空体20とノズル21とは中空体20前方にて係合する場合を例示する。係合態様には限定は無いが、本実施形態では中空体20に開口22を設け且つノズル21に爪を設けた係合部20Jを設ける場合を例示する。中空体20の前後中央の後端寄りの部分にはフランジ23が設けられる。
【0073】
プランジャ40のフランジ41が押されることにより、プランジャ40は中空体20の内部を前方に移動し、眼内リングCを中空体20のノズル21から押し出す。プランジャ40は、中空体20と同軸に配置されている。プランジャ40は、後掲の容器60から取り外した状態だと、中空体20の軸方向、即ち前方にも後方にも(少なくとも前方に)移動可能に設けられている。
【0074】
押し出し部材50は、細長い棒状に形成されている。押し出し部材50は、プランジャ40の前端部に連結され、プランジャ40と一体に中空体20の軸方向に移動可能に設けられている。この移動は、正確には前方に移動し且つノズル21の湾曲に沿いつつの移動である(そのため押し出し部材50では前端ではなく先端(或いは先端部分)と表現している)。押し出し部材50はプランジャ40と一体成型されていても構わない。本実施形態では、プランジャ40の先端の極細部を押し出し部材50と位置付ける。
【0075】
押し出し部材50の基端は、プランジャ40の前端の細部42と一体成型されている。そして細部42の基端側には、ゴム製のリング43を嵌め込むためのフランジ44F、44Bが前後に設けられる。ゴム製のリング43により、プランジャ40を安定して軸方向に移動できる。該フランジ44Bの基端側はプランジャ40の太部45である。
【0076】
押し出し部材50の先端部50E(極細部の先端部)には下方に向けてアイレットCh用の突起が設けられている。本明細書において「先端部」は、先端(末端)及びその近傍を示す表現である。眼内リング挿入器10に眼内リングCを装着する際、眼内リングCに設けられた孔(アイレットCh)に対し、該突起が嵌め入れられる。下方に向けた突起にアイレットChが嵌め入れられているため、押し出し部材50の突起51がノズル21の開口22より外に出た場合、速やかに突起とアイレットChとの嵌合状態は解除され、水晶体嚢内に眼内リングCが放出される。
【0077】
本実施形態の眼内リング挿入器10は、予め眼内リングCのアイレットChと、押し出し部材50の突起51とを嵌合させた状態いわゆるプリロード型の眼内リング挿入器10であってもよい。もちろん、後から眼内リングCのアイレットChと押し出し部材50の突起51とを嵌合させても構わないが、プリロード型の場合、術者による該嵌合作業が不要となる。そのため、眼内リング挿入器10内への眼内リングCの収容をより安定して行うことが可能となる。
【0078】
眼内リング挿入器10を収容する容器60は、
眼内リング挿入器10を容器60に収容した状態で、中空体20とプランジャ40とを軸方向に相対的に移動させる移動機構を備える。
【0079】
この移動機構としては、例えば、眼内リング挿入器10を容器60に収容した状態で、中空体20を軸方向に摺動可能な摺動機構を、眼内リング挿入器10及び容器60に採用してもよい。
【0080】
上記の摺動機構に加えて他の移動機構としては、容器60に収容した状態の眼内リング挿入器10の軸方向以外の方向の移動を規制する移動規制部が挙げられる。「眼内リング挿入器10の軸方向以外の方向の移動を規制」とは、眼内リング挿入器10自体が容器60から抜け出ない状態を指す。
【0081】
この移動規制部に関し、眼内リング挿入器10を収容する容器60は、
眼内リング挿入器10を容器60に収容した状態でプランジャ40の軸方向(前後方向)の移動を規制するプランジャ40移動規制部と、
眼内リング挿入器10を容器60に収容した状態で中空体20の軸方向(前後方向)の移動は許容する一方で軸方向以外の方向の移動を規制する中空体移動規制部と、
を備える。
【0082】
本実施形態におけるプランジャ40移動規制部は、容器60に設けられた溝であり、プランジャ40の後端のフランジ41と嵌合する複数の溝である。
【0083】
一つの溝は、容器60内に眼内リング挿入器10を収めたときにプランジャ40を上方から下方に嵌め込み可能な中央縦溝71である。そして、中央縦溝71から見てY1方向に一つの左縦溝72Lを設け、中央縦溝71から見てY2方向に一つの右縦溝72Rを設ける。更に、中央縦溝71、左縦溝72L及び右縦溝72Rを形成する突起74の後方に、前後方向に延在する突起75を設け、該突起74、75間に中央後方溝73を形成する。中央後方溝73の後方の該突起75は、Y1方向からY2方向に見たとき(水平側面視したとき)、後方から前方に向かって突出度合いが連続的に小さくなるよう形成されている。
【0084】
左縦溝72Lと右縦溝72Rに各々嵌め込み可能な左突起46Lと右突起46Rが、プランジャ40の後端のフランジ41における前方側の面に、上下方向に亘って設けられる。つまり、プランジャ40を下方に移動させる(即ち容器60の後方床62に載置しようとする)と、プランジャ40のフランジ41の根元(フランジ41のわずかに前方の部分)が中央縦溝71に嵌め込まれると共に、フランジ41の左突起46Lが左縦溝72Lに嵌め込まれ、フランジ41の右突起46Rが右縦溝72Rに嵌め込まれる。そして、フランジ41の下端が中央後方溝73に嵌め込まれる。この構成により、プランジャ40が軸方向(前後方向)に移動するのを規制できる。
【0085】
本実施形態における中空体移動規制部は、中空体20の外周と軸方向にて嵌合可能な構成を有する。
【0086】
この構成の場合、容器60の後方床62に対し、前後方向に延在する中空体嵌合用突起80を設ける。この中空体嵌合用突起80は、容器60の後方床62から上方に向けて突出した後、Y1方向及びY2方向に幅広となっている。
【0087】
該突起と共に、眼内リング挿入器10の中空体20の外周に対し、前後方向に延在する突起をY1-Y2方向に並んで二つ設ける。Y1方向側の突起を移動規制用左突起24L、Y2方向側の突起を移動規制用右突起24Rとする。移動規制用左突起24Lは、下方に突出した後で右方向に突出する。移動規制用右突起24Rは、下方に突出した後で左方向に突出する。
【0088】
中空体20を前進させることにより、この二つの突起の間のスペースに容器60の中空体嵌合用突起80が嵌め込まれる。この構成により、中空体20が軸方向(前後方向)以外の方向に移動するのを規制できる。
【0089】
中空体20の後方への移動限界は、容器60に設けられた中空体フランジ左側ガイド部90Lと中空体フランジ右側ガイド部90Rにより規定されるのが好ましい。
【0090】
中空体フランジ左側ガイド部90Lと中空体フランジ右側ガイド部90Rは、容器60の後方床62から上方に突出する二つの突起により構成される。この突起同士の間隔は、前方においては中空体20のフランジ23の左右方向幅よりも大きく、後方においては該左右方向幅よりも狭い。
【0091】
中空体20と共にフランジ23が後方に移動した時に、該フランジ23のY1方向端とY2方向端とが、各々中空体フランジガイド部90L、90Rの前方側を通過した後に後方側と接触する。これにより、中空体20の後方への移動が停止する。この状態を、術式前における眼内リング挿入器10の容器60への収容初期状態とする。
【0092】
収容初期状態から中空体20を限界まで前進させた後に眼内リング挿入器10を上方に取り外し可能となった状態を取り外し直前状態と称する。先に述べた中央後方溝73の後方の突起75により、収容初期状態(後述)から中空体20を前進させ切って取り外し直前状態にした後に、プランジャ40のフランジ41を容器60から取り外しやすくなっている。
【0093】
中空体20の前方への移動限界は、収容初期状態から前進する中空体20のフランジ23に対するストッパー100の位置により規定されるのが好ましい。該ストッパー100は、容器60の中空体嵌合用突起80の後方に配置される。容器60の中空体嵌合用突起80が該ストッパー100を兼ねてもよい。該ストッパー100は容器60の梁180を兼ねてもよい。該ストッパー100と容器60の中空体嵌合用突起80とが別である場合、両者の前後方向の距離を、ゼロを超え且つ5mm以下(例えば3mm以下)の範囲内で適宜設定してもよい。該ストッパー100は、容器60の後方床62から上方に突出した部分である。
【0094】
中空体20を前進させ、容器60の中空体嵌合用突起80と中空体20の移動規制用左突起24L及び移動規制用右突起24Rとの嵌合が解除されるのと同時、又は嵌合解除後に中空体20をわずかに(例えば3mm以下、2mm以下、或いは1mm以下)前進させた時に、中空体20のフランジ23とストッパー100とが接触し、中空体20の前進を停止させてもよい。上記「嵌合の解除」は、本実施形態だと、中空体20の移動規制用左突起24L及び移動規制用右突起24Rの後端が、容器60の中空体嵌合用突起80の前端よりも前方に移動した状態を指す。
【0095】
前後方向において、中空体フランジ左側ガイド部90Lと中空体フランジ右側ガイド部90Rからストッパー100までの距離は、容器60の中空体嵌合用突起80の後端から前端までの距離よりも大きいのが好ましい。但し、本発明はこの構成には限定されない。収容初期状態における中空体20の移動規制用左突起24L及び移動規制用右突起24Rと容器60の中空体嵌合用突起80との嵌合位置と、ストッパー100の位置とを適宜調整することにより、嵌合の解除と同時又はそのわずか後に中空体20の前進をストッパー100により停止させることが可能である。
【0096】
前方から後方に向けて見たとき、中空体フランジ左側ガイド部90Lと中空体フランジ右側ガイド部90Rは、中空体20のフランジ23の外径に沿った形状を有するのが好ましい。つまり、中空体フランジ左側ガイド部90Lの上端は右方に向けて湾曲し、中空体フランジ右側ガイド部90Rの上端は左方に向けて湾曲するのが好ましい。この形状により、中空体20のフランジ23の後端が、中空体フランジ左側ガイド部90Lと中空体フランジ右側ガイド部90Rに接触したとき、該フランジ23は両ガイド部90L、90Rの間に嵌り、中空体20は前方にしか移動できなくなる。
【0097】
平面視において眼内リング挿入器10は容器60内において左方(Y1方向)寄りに配置される。つまり、平面視において、収容初期状態の中空体20は、容器60の左右方向中央から左方に偏位している。これは、眼内リング挿入器10のノズル21が右方(Y2方向)に湾曲し、且つ、収容初期状態だとノズル21の開口22から眼内リングCの大部分がノズル21の湾曲形状に沿って露出し、そのためのスペースを容器60内に確保するためである。
【0098】
<本実施形態の使用態様の概要>
図4(a)は、蓋を開く前の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器の斜視概略図である。
図4(b)は、蓋を開いた後の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器の斜視概略図である。
図5(a)は、蓋を開く前の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器を左方から右方に見たときの側面概略図である。
図5(b)は、蓋を開く前の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器の平面概略図である。
図5(c)は、蓋を開いた後の本実施形態の容器付き眼内リング挿入器の平面概略図である。
図6(a)は、中空体を前進させて眼内リングをノズル内に収容した、取り外し直前状態の斜視概略図である。
図6(b)は、中空体を前進させて眼内リングをノズル内に収容した、取り外し直前状態の平面概略図である。
【0099】
まず、本実施形態の眼内リング挿入器10の容器60の蓋110を開く。この蓋110は、中空体20の先端側を覆うように設けられており、容器60の先端(前端)には、蓋110を回動可能とすべく蓋用ヒンジ111が設けられている。この蓋用ヒンジ111の外観は、蓋110を閉じた時には容器60及び蓋110と一体である。蓋110を開いた時、蓋用ヒンジ111は蓋110と容器60との境界から離れる方向に屈曲する。
【0100】
また、この蓋110には、左右方向に並んで二つの爪が設けられる。蓋110を閉めた状態だと、蓋左側爪112Lは、収容初期状態のノズル21の前後方向の中央付近から見て右側(Y2方向側)に設けられ、蓋右側爪112Rは、蓋左側爪112Lの右側(Y2方向側)に設けられる。蓋110を閉めた状態だと、蓋左側爪112L及び蓋右側爪112Rは、容器60の後方床62から一段高い前方床61との間に設けられた縦長の二つの係合穴(蓋左側爪用係合穴113L、蓋右側爪用係合穴113R)と係合している。この係合を解除することにより蓋110が開かれる。蓋左側爪112L及び蓋右側爪112Rの各々の根元には穴が設けられ、蓋左側爪根元穴114Lを覗いたときに蓋左側爪112Lを視認でき、蓋右側爪根元穴114Rを覗いたときに蓋右側爪112Rを視認できる。
【0101】
また、蓋110を閉じた時にノズル21の基端側と係合可能なノズル用爪115を、蓋110を閉じた時の蓋110の後端下面に設けてもよい。この構成により、より確実に蓋110を閉じることができる。更に、ノズル用爪115がノズル21の基端側と係合しているとき、中空体20の前進が抑制される。つまり、ノズル用爪115は収容初期状態の中空体20にとってのストッパーでもある。
【0102】
蓋110を開くことにより、容器60の前方床61に設けられた矢印型の穴120が術者に視認される。この矢印は、中空体20を移動させるべき方向を表す。
【0103】
本実施形態は、容器60付き眼内リング挿入器10を出荷するときには眼内リングが既に搭載されているプリロード型である。そのため、術者にとって、眼内リングCのアイレットCh(穴)に押し出し部材50の突起51を係合させる作業は不要となる。
【0104】
次に、中空体20のみを前方に移動させる。プランジャ40はフランジ41を含めて上記各溝(すなわちプランジャ移動規制部)に嵌め入れられているため、前後方向の動きは規制されている。これは、プランジャ40と連結された押し出し部材50ひいてはその突起51に対して嵌合するアイレットChを有する眼内リングCを固定したままとすることを意味する。
【0105】
そして、中空体移動規制部のおかげで、中空体20が容器60から外れることなく、中空体20を前方に移動させることが可能となる。その結果、ノズル21から外にはみ出していた眼内リングCを、中空体20の内部に安定して且つ正常に収容することができる。しかもこの収容は、眼内リング挿入器10を容器60に収容した状態のまま行える。
【0106】
押し出し部材50の先端部50Eと係合した眼内リングCが中空体20の内部に収容される距離を中空体20が前方に移動した際に、中空体移動規制部は中空体20の移動の規制が自ずと解除される構成を採用するのが、術者の手間を省けるため好ましい。
【0107】
例えば、アイレットCh近傍以外の眼内リングCの残りの部分が中空体20の内部に収容される程度の距離であって、中空体20の軸方向に移動可能な距離としては、公知の眼内リングCの周長を鑑み、例えば20~50mm(好適には25~45mm)に設定してもよい。
【0108】
中空体20を前進させ続けると、中空体20に設けられた移動規制用左突起24L及び移動規制用右突起24Rの後端が、容器60に設けられた中空体嵌合用突起80の前端を通過する。それにより、中空体20と容器60との間の嵌合関係が解除される。そして、眼内リング挿入器10を上方に向けて容器60から取り出すことが可能となる。
【0109】
<本実施形態の眼内リング挿入器10>
以下、本実施形態に係る眼内リング挿入器10における特徴の一つについて述べる。本実施形態では容器60と係合可能な眼内リング挿入器10を例示するが、本項目即ち<本実施形態の眼内リング挿入器10>に記載の内容は、容器60と係合可能な態様には限定されない。
【0110】
(樹脂製の眼内リング挿入器10且つ湾曲したノズル21)
本実施形態の眼内リング挿入器10は樹脂製であり、使い捨て可能である。そのため、洗浄及び消毒を都度行う必要がない。更に、ノズル21が所定の一方向に湾曲している。この湾曲は、水晶体嚢内への眼内リングCの挿入の際に役に立つ。
【0111】
図7(a)は、眼内リングの突出量を示すための対比例である。
図7(b)は、眼内リングの突出量を示すための本実施形態に係る例である。
【0112】
眼内リングCを水晶体嚢B内に挿入する際、ノズル21が湾曲しない
図7(a)の場合に比べ、ノズル21が一方向に湾曲する
図7(b)の場合、ノズル21の開口22から見て眼内リングCの前方への突出量が小さくなる(ha>hb)。突出量が小さくなると、眼内リングCが水晶体嚢Bの内壁に与える負荷が小さくなる。
【0113】
図8(a)は、眼内リングが水晶体嚢に与える影響を示すための対比例である。
図8(b)は、眼内リングが水晶体嚢に与える影響を示すための本実施形態に係る例である。
【0114】
ノズル21が湾曲しない
図8(a)の場合に比べ、ノズル21が一方向に湾曲する
図8(b)の場合、ノズル21の開口22から眼内リングCを放出する際の眼内リングCの進行方向が水晶体嚢Bの内壁(白抜き矢印で示す箇所)に沿い、眼内リングCが水晶体嚢Bの内壁に沿って移動する際の摺動力を低減できる。
【0115】
上記の構成により、本実施形態に係る眼内リング挿入器10は、使い捨て可能であっても従来と同等以上の使い勝手の良さを発揮する。
【0116】
ノズル21の湾曲度合いには限定は無いが、例えば曲率半径40~60mmの範囲内で湾曲させてもよい。また、平面視にて中空体20の中心を通過する前後方向からノズル21の先端21Eまでの最大距離を30~45mmの範囲内で設定してもよい。
【0117】
(ノズル21の断面形状)
図9(a)は、本実施形態に係るノズルの平面概略図である。
図9(b)は、本実施形態に係るノズルを前方から後方に見たときの概略図である。
図9(c)は、本実施形態に係るノズルを後方から前方に見たときの概略図である。
図9(d)は、本実施形態に係るノズルを右方から左方に見たときの側面概略図である。
図9(e)は、本実施形態に係るノズルの底面概略図である。
図9(f)は、
図9(e)のD-D線における断面概略図である。
図9(g)は、
図9(e)のF-F線における断面概略図である。
【0118】
図9(f)に示すように、開口22に相対して見たときのノズル21の延伸方向に垂直な断面視において、少なくとも開口22近傍において、ノズル21の湾曲内側(IN)と湾曲外側(OUT)のうち湾曲外側の内周上方部分に出っ張り25が設けられ、出っ張り25により、眼内リングCが湾曲外側の内周上方部分に進入できないようにするのが好ましい。
【0119】
本実施形態では、押し出し部材50の先端部50Eには、眼内リングCの係合用の突起51が下方に向けて突出して設けられる。つまり、眼内リングCは、眼内リングCの後端のアイレットCh越しにノズル21下方内周に押し付けられながらノズル21の開口22に向けて前進する。眼内リングCの後端が下方に押し付けられるため、眼内リングCの前端(先端)は上方に偏位しやすくなる。この上方への偏位は、眼内リングCが水晶体嚢B内の赤道に嵌りにくさをもたらす可能性がある。
【0120】
そこで、本実施形態では、眼内リングCの前端(先端)が上方に偏位することを抑制すべく、ノズル21の開口22近傍における湾曲外側の内周上方部分に出っ張り25を設け、眼内リングCが湾曲外側の内周上方部分に進入できないようにするのが好ましい。なお、ノズル21の湾曲内側には該出っ張り25は設けないのが好ましい。つまり、ノズル21の湾曲外側の内周上方部分のみに出っ張り25を設けるのが好ましい。その方が、押し出し部材50が通過可能なスペースを確保しやすくなる。
【0121】
本明細書における「ノズル21の内周」とは、開口22に相対して見たときのノズル21の延伸方向に垂直な断面視(Z1-Z2を包含する平面の断面視)において、ノズル21の最も内側の輪郭を形成する部分である。
【0122】
眼内リングCがノズル21の開口22近傍における湾曲外側の内周上方部分に進入できなければ、本実施形態におけるノズル21の内周の具体的な断面視形状には限定は無い。本実施形態の出っ張り25を形成する前の該断面視形状は、左右方向を長軸とし上下方向を短軸とする楕円形状としてもよい。
【0123】
本実施形態におけるノズル21の湾曲外側の内周上方部分は、出っ張り25の両端間において曲率を連続的に変化させて仮想した断面輪郭線における湾曲外側の内周上隅近傍を指す。なお、内周上隅が出っ張り25で完全に埋められるのではなく内周上隅を囲うように出っ張り25が形成されてもよい。
【0124】
断面視において、出っ張り25は、出っ張り25の根元部分において曲率が急激に変化する部分である。例えば、出っ張り25の根元部分の曲率が、出っ張り25の根元の手前(即ち出っ張り25近傍の内周の形状)の曲率の10倍以上大きい状態を出っ張り25とみなしてもよい。また、出っ張り25の根元の手前の曲率から不連続に曲率が変化する箇所を出っ張り25の根元とみなしてもよい。
【0125】
出っ張り25の態様(数、形状等)には限定は無い。眼内リングCがノズル21の開口22近傍における湾曲外側の内周上方部分に進入できなければよい。眼内リング挿入器10が樹脂製であることを鑑み、出っ張り25もノズル21と一体成型するのが好ましい。
【0126】
出っ張り25は、左右両隅部において内向き水平方向(右方)に出っ張り25且つ下方にも出っ張るのが好ましい。この構成により、眼内リングCがノズル21の開口22近傍における湾曲外側の内周上方部分に確実に進入できなくなる。
【0127】
出っ張り25が設けられる前のノズル21の内周の断面形状を抽出する。そして、その形状の上下の中点であり且つ左右の中点である点Oを通過する水平線Lを仮想する。本明細書では、内周から点Oの方向を内側、その反対側を外側と称している。
【0128】
水平線Lの3時方向を0度として該方向から反時計回りを正としたとき、出っ張り25が存在する部分における傾斜角度θは-20~80度の範囲内のいずれかであるのが好ましい。内周に対して連続(例えば少なくとも0~80度の範囲全体)又は不連続に出っ張り25が設けられるのが好ましい。
【0129】
出っ張り25は、湾曲外側の内周上方部分の凹形状(外側に凸)を凸形状(内側に凸)に変化させる形状を有するのが好ましい。また、内周上方部分の断面形状の曲率の変化率が最も大きい箇所に出っ張り25を設けてもよい。
【0130】
例えば、湾曲外側の内周上方部分に設けられた出っ張り25(例えば段差状の出っ張り25)の左右方向の幅は、左右中点により形成される垂線の所定位置(例えば上下左右中点O)から湾曲外側の逆方向である湾曲内側の内周部分までの幅の30~90%が好ましい。実寸としては、右隅に設けられた出っ張り25の左右方向の幅は0.2~0.4μmとするのが好ましい。
【0131】
例えば、湾曲外側の内周上方部分に設けられた出っ張り25(例えば段差状の出っ張り25)の上下方向の高さは、上下左右中点Oを通過する上下線における上方内周と下方内周との間の高さの30~80%が好ましい。実寸としては、湾曲外側の内周上方部分に設けられた出っ張り25の上下方向の高さは0.2~0.6μmとするのが好ましい。
【0132】
本明細書における「開口22近傍」は、開口22のみの場合も含むし、逆に開口22を含まず開口22からわずかにノズル21基端側である場合も含む。いずれにせよ、眼内リングCの前端の上方への偏位を妨げられればよい。一体成型するうえでは、ノズル21の湾曲形状に倣い、開口22含めてノズル21の延伸方向に長尺に出っ張り25が形成されてもよい。この長尺とは、実寸としては、25~35μmとしてもよい。
【0133】
(ノズル21の先端21Eの形状)
図9(d)に示すように、ノズル21の延伸方向に対する垂直方向であって水平面上にある方向であるノズル21先端側方からノズル21の先端21Eを見たとき、ノズル21の先端21Eの上方は鋭角形状であり、ノズル21の先端21Eの下方は鈍角形状であるのが好ましい。つまり、ノズル21の先端21Eの上方を尖らせるのが好ましい。
【0134】
非特許文献1に記載の眼内リング挿入器10のノズル21の先端21Eを、ノズル21先端側方から見たとき、ノズル21の先端21Eの上方も下方も直角形状である。非特許文献1に記載の眼内リング挿入器10はノズル21を含めて金属製である。そのため、ノズル21の先端21Eを薄肉化しても術式に十分に耐えられる。非特許文献1に記載の眼内リング挿入器のノズルの先端の肉厚は0.14mmである。
【0135】
その一方、本実施形態に係る眼内リング挿入器10はノズル21を含めて樹脂製である。術式に十分に耐えられるようにすべく、ノズル21の先端21Eを肉厚に設定する必要がある。ノズル21の先端21Eを肉厚にすると、ノズル21の先端21Eの上方も下方も直角形状のままだと、水晶体嚢Bに形成した創傷へとノズル21の先端21Eを挿入しづらい。
【0136】
以上の経緯により、本実施形態の好適例のノズル21の先端21Eの形状は、注射器の針のように側方視で一方を尖らせる。更に、その尖らせる位置を、ノズル21の先端21Eの上方としている。その理由は、眼内リングCを上方に偏位させにくくするため、及び、術式中に術者が平面視にて水晶体嚢B内にノズル21の先端21Eを挿入しやすくするため等がある。いずれにせよ、この構成により、眼内リング挿入器10が使い捨て可能であっても従来と同等以上の使い勝手の良さを更に発揮できる。
【0137】
ノズル21の先端21Eの上下方向の寸法は例えば1.0~1.5mmである。開口22に相対して見たときのノズル21の延伸方向に垂直な断面視(以降、肉厚については同様。)において、上記出っ張り25以外のノズル21の厚さ(内周から外周までの距離)は例えば0.1~0.5mmである。
【0138】
(補強リブ)
図10は、本実施形態に係るノズル及び中空体の部分拡大斜視概略図である。
【0139】
本実施形態に係る眼内リング挿入器10はノズル21を含めて樹脂製である。術式に十分に耐えられるようにすべく、ノズル21の外周に補強リブを設けてもよい。補強リブの形状には限定は無く、ノズル21の基端からノズル21の延伸方向に向けてノズル21の外周上に延在させた補強リブを設けてもよい。補強リブの数にも限定は無い。本実施形態では、ノズル21の基端から見て下方(Z2方向)、湾曲水平方向(Y2方向、右方)、湾曲水平方向とは逆の水平方向(Y1方向、左方)の3箇所に補強リブ26D、26L、26Rを設ける場合を例示する。
【0140】
但し、補強リブの形状がどんな形状にせよ、数がいずれにせよ、ノズル21の基端側の外周の上方部分以外の部分に補強リブを設けるのが好ましい。補強リブを設けるということは、補強リブを設けた部分のノズル21が肉厚になることは避けられない。仮に、ノズル21の基端側の外周の上方部分に補強リブを設けることを想定した時、ノズル21の基端側の外周の上方が肉厚になる。その状態で術者が上方から眼内リング挿入器10のノズル21を見たとき、ノズル21の内部に収容された状態の眼内リングCの視認性が低下する。そのため、本実施形態の好適例では、ノズル21の基端側の外周の上方部分には補強リブを設けない。
【0141】
もちろん補強リブを設けずとも、ノズル21の肉厚を単に大きくすることも可能である。但し、先ほど述べたように、ノズル21の先端21Eを水晶体嚢内に挿入させる際の課題を考慮する必要がある。そのため、ノズル21の基端側の一部のみを肉厚にする補強リブを採用するのが好ましい。いずれにせよ、ノズル21の基端側の外周の上方部分のノズル21の肉厚を、該外周の他の部分(補強リブ含む)の肉厚に比べて小さくするのが好ましい。
【0142】
ノズル21の肉厚を小さくする上方部分の具体的な位置としては以下の定義が挙げられる。ノズル21の基端に相対して見たときのノズル21の延伸方向に垂直な断面視において、ノズル21の内周の上下の中点であり且つ左右の中点である点Oを通過する水平線Lを仮想し、該水平線Lの3時方向を0度として該方向から反時計回りを正としたとき、傾斜角度θが少なくとも30~150度の範囲内のノズル21の基端側の外周の上方部分においては補強リブを設けず、他の外周部分の肉厚に比べて肉厚を小さくするのが好ましい。
【0143】
(湾曲水平方向とその逆方向とでのノズル21の肉厚差)
本実施形態では、ノズル21の基端に相対して見たときのノズル21の延伸方向に垂直な断面視において、湾曲外側の方が湾曲内側に比べて肉厚であるのが好ましい。
【0144】
本実施形態に係る眼内リング挿入器10はノズル21を含めて樹脂製である。そのため、ノズル21を製造する際には樹脂の流動が生じる。その一方、本実施形態に係るノズル21は一方向に湾曲している。仮に、ノズル21の基端側から末端(先端)に至るまでに樹脂が流動するように金型を用意する場合、ノズル21の湾曲内側の方が湾曲外側よりも樹脂の流動距離は短い。ノズル21の湾曲内側と湾曲外側とで肉厚を等しくすると、湾曲内側だと十分に樹脂が行き渡る一方で湾曲外側だと樹脂が行き渡らない可能性もある。
【0145】
そこで、本実施形態に係る樹脂製の眼内リング挿入器10を製造する際、ノズル21の基端に相対して見たときのノズル21の延伸方向に垂直な断面視において、湾曲外側の方が湾曲内側に比べて肉厚となるような金型を用意する。ノズル21の湾曲内側の方が湾曲外側よりも樹脂の流動距離は短いが、この金型により、湾曲外側の樹脂の流路が太くなり、樹脂の流量が湾曲内側に比べて増加する。その結果、流動距離の差を埋めることができ、湾曲内側にも湾曲外側にも樹脂を十分行き渡らせることが可能となる。
【0146】
樹脂製の眼内リング挿入器10を完成させた後においても、この構成は有利な効果をもたらす。即ち、ノズル21の基端側において湾曲外側の方が湾曲内側よりも湾曲部分にかかる張力(前方に引っ張られる力と後方に引っ張られる力)が強いが、湾曲外側を肉厚にすることによりノズル21の耐久性を増加させることが可能となる。
【0147】
「湾曲外側の方が湾曲内側に比べて肉厚」は、
図9(g)に示すように、先に述べた補強リブを用いて実現してもよい。例えば、湾曲外側に設けられた補強リブ(例えば補強リブ26L)の断面積を、湾曲内側に設けられた補強リブ(例えば補強リブ26R)の断面積よりも大きくしてもよい。例えば、(湾曲外側に設けられた補強リブの断面積)/(湾曲内側に設けられた補強リブの断面積)の値を1.1~2.0としてもよい。
【0148】
補強リブを設けるか否かにかかわらず、(湾曲外側のノズル21の肉厚)/(湾曲内側のノズル21の肉厚)の値を1.1~2.0としてもよい。「湾曲内側のノズル21の肉厚」とは、ノズル21の基端に相対して見たときのノズル21の延伸方向に垂直な断面視におけるノズル21の内周から外周までの湾曲水平方向(Y2方向)の距離を指す。「湾曲外側のノズル21の肉厚」とは、ノズル21の基端に相対して見たときのノズル21の延伸方向に垂直な断面視におけるノズル21の内周から外周までの湾曲水平方向とは逆の方向(Y1方向)の距離を指す。
【0149】
(上方へのノズル21の反り)
ノズル21は上方向に反ってもよい。言い方を変えると、ノズル21の開口22の下端がノズル21の基端の内周下端よりも上方に偏位してもよい。
【0150】
押し出し部材50の先端部50Eに、眼内リングCの係合用の突起51が下方に向けて突出して設けられる場合、繰り返しになるが、眼内リングCは、眼内リングCの後端のアイレットCh越しにノズル21下方内周に押し付けられながらノズル21の開口22に向けて前進する。このとき、ノズル21は上方向に反っていると、突起51によるノズル21下方内周に押し付け度合いは増加し、眼内リングCと押し出し部材50との係合はより確実になる。
【0151】
その一方、これも繰り返しになるが、眼内リングCの後端が下方に押し付けられるため、眼内リングCの前端(先端)は上方に偏位しやすくなる。ここで、先に述べた本実施形態の好適例、即ち湾曲外側の内周上方部分に設けられる出っ張り25が活きてくる。この出っ張り25により、眼内リングCが湾曲外側の内周上方部分に進入できないようになり、上方へのノズル21の反りによりもたらされる懸念を払しょくできる。
【0152】
(ノズル21と共に湾曲可能な押し出し部材50)
押し出し部材50は、ノズル21の湾曲方向と同じ方向に湾曲可能とする。押し出し部材50も樹脂製であり、押し出し部材50の断面積も非常に小さい。そのため、眼内リング挿入器10を分解して押し出し部材50単独の状態にしたときに押し出し部材50が平面視直線形状としても、ノズル21の内周の湾曲方向に沿った変形が可能である。
【0153】
その一方、押し出し部材50単独の状態にしたときに、押し出し部材50がノズル21の湾曲方向と同じ方向にある程度湾曲してもよい。ノズル21の延伸方向の内周形状に倣った形状の押し出し部材50を使用することにより、術者がプランジャ40(ひいては押し出し部材50)を前進させる際の負担は軽減される。
【0154】
押し出し部材50の湾曲度合いに関し、眼内リング挿入器10を分解して押し出し部材50単独の状態にしたとき、曲率半径40~60mmの範囲内で湾曲させてもよい。また、平面視にて中空体20の中心を通過する前後方向からノズル21の先端21Eまでの最大距離を30~45mmの範囲内で設定してもよい。
【0155】
(湾曲方向を示す指標27)
中空体20のフランジ23とノズル21の基端との中間位置付近であって平面視にて視認可能な位置(好適には上端)に、湾曲方向を示す指標27を中空体20に設けてもよい。この指標27は、例えば、前方(X1方向)から右方向(Y2方向)に屈曲する矢印であってもよい。本実施形態の眼内リング挿入器10は樹脂製であり、着色料を使用しなければ、通常、眼内リング挿入器10全体が透明又は半透明である。従来の金属製のノズル21に比べると、術者にとってノズル21の湾曲方向を把握しにくい。そこで、術者がこの指標27を視認することにより、術者は容易にノズル21の湾曲方向を把握できる。しかも、中空体20の上端に指標27を設けることにより、眼内リング挿入器10の上下方向も把握できる。
【0156】
なお、別の指標(不図示)を、プランジャ40の基端側(プランジャ40のフランジ41の前方部分)に設けてもよい。例えば、プランジャ40の上端に対し、前後方向に延在する突起を設けつつ、プランジャ40の基端側にて該突起の延在を中断させることにより、延在中断箇所を術者が平面視にて視認可能な目印としてもよい。
【0157】
(中空体20に設けられる把持補助構造28)
上記中空体20の指標27の前方に対し、円周方向に延在する凸部を前後方向に並べて設けてもよい。通常、術者は、片手で中空体20を把持しながらもう一方の片手でプランジャ40のフランジ41を前方に押すことにより眼内リングCを放出する。上記構造により、片手で中空体20を把持する際に術者が把持しやすくなる。中空体20に設けられる把持補助構造28は、この態様に限定されず、該凸部に代わってシボ加工としてもよい。
【0158】
(容器60から取り出した後における、プランジャ40の後方への移動規制部)
本実施形態の好適例の中空体20の後端上側は開閉可能な構成を有している。例えば、中空体20の後方上側左端に爪29が設けられ、中空体20を挟んで該爪29と対向する位置にはヒンジ(不図示)が設けられる。該爪29からヒンジまでの部分は円周方向に向けて回動させることができる。つまり、中空体20の後方上側は小蓋30となっている。小蓋30を閉めたときに該爪29と係合する穴31が該小蓋30に設けられる。小蓋30を閉めたときの小蓋30の内周前端及び後端の上方には、下方に向けた出っ張り32F、32Bが形成されている。それと共に、収容初期状態のプランジャ40においてゴム製のリング43の後方近傍位置にて上方に向けた出っ張り47が設けられる。
【0159】
取り外し直前状態の後、術者は、眼内リング挿入器10を上方に取り外し、プランジャ40のフランジ41を前方に向けて押す。その一方、誤操作によりプランジャ40が誤って後方に移動することも考えられる。このような誤操作があっても、上記のプランジャ40の上方の出っ張り47が上記の中空体20の小蓋30の内周前端上方の出っ張り32Fに接触し、プランジャ40の後方への移動が規制される。
【0160】
プランジャ40の出っ張り47及び小蓋30の内周の出っ張り32Fをまとめて「取り出し後の中空体20におけるプランジャ40の後方への移動規制部」と称する。該移動規制部は、本項目の具体的な記載には限定されない。
【0161】
なお、眼内リング挿入器10を分解する場合は、該小蓋30を開ければ、プランジャ40を容易に中空体20から引き抜けるという利点もある。
【0162】
(基端から先端にかけての押し出し部材50の幅の変化)
押し出し部材50の基端から先端にかけて、押し出し部材50の幅方向の中央位置は右方(ノズル21の湾曲方向)へと偏位してもよい。具体例を挙げると以下の通りである。
【0163】
押し出し部材50の基端側52では、幅方向の中央位置(軸)は中空体20及びプランジャ40の軸と一致する。平面視にて、押し出し部材50の右端は、先端から基端に亘って略直線上である一方、左端では、先端側53が基端側52よりも幅狭になる。つまり、押し出し部材50の幅方向の中央位置は右方へと偏位する。この構成は、ノズル21が右方に湾曲していることに基づく。
【0164】
(押し出し部材50の張り出し部)
眼内リング挿入器10の押し出し部材50に張り出し部を設けるのが好ましい。房水の逆流の抑止を意図し、押し出し部材50の軸方向の少なくとも一部に対し、軸方向に垂直な方向への張り出しを設けるのが好ましい。
【0165】
この構成としては、例えば、押し出し部材50の軸方向の一部のみに対し、ノズル21の開口22からの房水の逆流を抑止する張り出しを設けるという構成が挙げられる。この張り出しとしては、押し出し部材50がノズル21の内径と同等の径を有するようにするためのフランジが挙げられる。言い方を変えると、押し出し部材50における張り出し以外の軸方向の部分では、従来のようにノズル21の内壁との間に隙間が形成されてもよい。張り出しによりこの隙間が埋められる。
【0166】
張り出しを設けることにより、押し出し部材50がノズル21の内径と一致するようにしてもよい。その一方、房水の逆流を抑止できるのならばわずかな隙間がノズル21の内壁との間に空いていても構わない。
【0167】
なお、張り出しは、突起が設けられた部分以外の軸方向の全ての部分に対して設けても構わないが、一部にのみ設けることにより押し出し部材50の軽量化ひいては眼内リング挿入器10全体の軽量化が図れる。例えば、本実施形態では、押し出し部材50の突起51の後方に、突起51と同様に下方に向けて出っ張り54を設けてもよい。
【0168】
(押し出し部材50の先端の下方への偏位)
眼内リング挿入器10を分解して押し出し部材50単独の状態にした時、少なくとも先端部50Eをプランジャ40の軸方向から突起が突出する方向(ここでは下方)へと偏位させるのが好ましい。この構成により、眼内リングCをノズル21内に引き込み、ひいては中空体20の内部に眼内リングCを収容する際に、突起からの眼内リングCの脱落を抑止できる。
【0169】
上記偏位の具体的な態様としては以下のものが挙げられる。
【0170】
例えば、プランジャ40に取り付けられた押し出し部材50の全体、又は、押し出し部材50におけるプランジャ40との係合部分から先端側の棒状部分全体を、プランジャ40の軸方向(前後方向)から、突起が突出する方向へと傾ける。これにより、眼内リング挿入器10の押し出し部材50のうち突起が設けられた先端部50Eをノズル21の内周下方に偏位させられる。このとき、眼内リングCのアイレットChに突起を嵌め入れた初期状態において、突起がノズル21の内周に接触する程度に偏位させても構わない。また、眼内リングCをノズル21の内部に引き込んだ位置に至るまで突起がノズル21の内周に接触し続ける程度に偏位させても構わない。
【0171】
本項目の構成は、上方へのノズル21の反り、眼内リングCの係合用の突起51が下方に向けて突出して設けられる態様、湾曲外側の内周上方部分に設けられる出っ張り25と組み合わせてもよい。
【0172】
<本実施形態の眼内リング挿入器10を収容する容器60>
図11は、本実施形態に係る容器付き眼内リング挿入器の部分拡大斜視概略図である。
【0173】
これまで述べてきた眼内リング挿入器10が収容される容器60も樹脂製であるのが好ましい。以下、本実施形態に係る容器60における特徴の一つについて述べる。
【0174】
(フック130)
図12(a)は、眼内リングの先端部の移動の様子を示すための対比例である。
図12(b)は、フックが存在するときの眼内リングの先端部の移動の様子を示すための本実施形態に係る例である。
【0175】
本実施形態に係る容器60は、中空体20とプランジャ40とを軸方向に相対的に移動させる前のノズル21の先端21Eから見て湾曲水平方向の位置に配置されたフック130を備えるのが好ましい。そして、フック130は、容器60から上方(Z1方向)に向けて突出した後に前方(X1方向)に向けて突出した形状であるのが好ましい。
【0176】
収容初期状態に設定された容器60付き眼内リング挿入器10を輸送中、眼内リング挿入器10の撓り又は容器60全体の揺れ等により、眼内リングCのうちノズル21の開口22から露出している部分が上下に偏位する可能性がある。仮に、容器60から上方に向けて突出しただけの構成(
図12(a))では、眼内リングCが該突起を飛び越え、予想しない配置である該突起の後方へと眼内リングCが移動する可能性がある。その一方、容器60から上方に向けて突出した後に前方に向けて突出することにより(
図12(b))、このような予想外の眼内リングCの移動を抑制できる。上方に向けて突出した部分を上方突起131、前方に向けて突出した部分を前方突起132という。
【0177】
本実施形態に係るフック130は、中空体20とプランジャ40とを軸方向に相対的に移動させる前のノズル21の先端21Eから見て湾曲水平方向の位置に配置されるのが好ましい。収容初期状態では、ノズル21の開口22から露出した眼内リングCは、ノズル21の延伸方向に概ね沿って湾曲している。ノズル21の先端21Eから見て湾曲水平方向の位置にフック130が配置されていれば、ノズル21の開口22から眼内リングCを辿ったときに眼内リングCの湾曲内側において最も前方に位置する部分と、フック130における上方突起131とが接触しやすくなる。
【0178】
フック130が配置される「ノズル21の先端21Eから見て湾曲水平方向の位置」とは、平面視(Z1方向からZ2方向を見たとき)において、ノズル21の先端21E(開口22)から見て湾曲水平方向(Y2方向)にフック130の一部が存在することを意味する。
【0179】
フック130における、上方突起131の突出距離は、フック130を形成する容器60の前方床61から、収容初期状態の眼内リング挿入器10のノズル21の先端21Eの上端までの距離よりも大きな値にすればよく、具体的な寸法に限定は無い。例えば、収容初期状態の眼内リング挿入器10のノズル21の先端21Eの上端よりも1~5mm上方(前方突起132含む)に突出させてもよい。
【0180】
フック130における、前方突起132の突出距離は、収容初期状態のノズル21の開口22から露出した眼内リングCの状態に応じて設定すればよく、具体的な寸法に限定は無い。例えば、前方突起132は、上方突起131に対して1~5mm前方に突出させてもよい。
【0181】
(下り斜面(スロープ)150)
本実施形態に係る容器60は、中空体20とプランジャ40とを軸方向に相対的に移動させる前において眼内リングCの一部が載置される載置部140を備え、且つ、載置部140から前方に向けて、容器60の前方床61まで下り斜面(スロープ)150が形成されるのが好ましい。
【0182】
図13(a)は、眼内リングの先端部の移動の様子を示すための対比例である。
図13(b)は、下り斜面(スロープ)が存在するときの眼内リングの先端部の移動の様子を示すための本実施形態に係る例である。
【0183】
本実施形態においては、収容初期状態だと、眼内リングCの大部分は開口22から露出し、眼内リングCの先端部CEは容器60上に載置される。眼内リングCの先端部CEが載置される容器60の部分を載置部140とする。
【0184】
載置部140は、眼内リング挿入器10における最も下方部分から中空体20の中心部分の距離(高さ)に合わせ、容器60の前方床61よりも一段高い位置に設けられる。
【0185】
本実施形態においては、載置部140から前方に向けて、容器60の前方床61まで下り斜面が形成されるのが好ましい。言い換えると、載置部140から容器60の前方床61までの間に段差を設けないのが好ましい。なお、下り斜面150と前方床61とを連結する連結面151を設けてもよい。連結面151には、下り斜面150に対しても前方床61に対しても段差は設けないのが好ましい。
【0186】
容器60付き眼内リング挿入器10を製造後、眼内リングCのアイレットChと、押し出し部材50の先端の突起とを係合させる作業が必要になる。その際、<本実施形態の全体の概要>で述べた、眼内リング挿入器10の容器60からの取り出しとは逆の動作を行う。
【0187】
具体的には、眼内リングCのアイレットChを押し出し部材50の突起に係合させてノズル21内に眼内リングC全体を収容した状態で、眼内リング挿入器10を容器60に嵌め入れる。そして、プランジャ40に対して中空体20を相対的に後方に移動させ、眼内リングCの大部分を開口22から露出させる。
【0188】
その眼内リングCの露出の際、容器60の載置部140に向けて眼内リングCの先端部CEが移動する。先ほど述べたように、載置部140は、容器60の前方床61に比べて一段高い位置にある。仮に、載置部140に至るまでに段差があると(
図13(a))、眼内リングCの先端部CEが該段差に引っ掛かってしまい、押し出し部材50との係合が解除される可能性もある。
【0189】
その一方、本実施形態のように、載置部140から前方に向けて、容器60の前方床61まで下り斜面150を形成することにより(
図13(b))、このような可能性を排除できる。
【0190】
フック130、載置部140及び下り斜面150の位置関係であるが、眼内リングCのアイレットChと、押し出し部材50の先端の突起とを係合させる際の動作を鑑み、フック130からみて、容器60に収容された状態の眼内リング挿入器10のノズル21の湾曲水平方向に下り斜面150が形成されるのが好ましい。
【0191】
(容器60に設けられた中空体20の戻り規制部)
容器60に設けられた中空体フランジ左側ガイド部90Lと中空体フランジ右側ガイド部90Rとの中間位置と中央縦溝71との間に、前後方向に延在した突起160を設けてもよい。該突起160は、Y1方向からY2方向を見たときに前方から後方に向けて上り坂の形状を有していてもよい。該突起160の最大高さは、収容初期状態の中空体20を限界まで前進させた状態での中空体20(フランジ23除く)の下端よりもわずか(例えばその差2mm以下)に高い。
【0192】
このように高さにわずかに差を付けることにより、誤操作により中空体20を後方に移動させたときに中空体20が該突起160により引っ掛かる。この引っ掛かりにより術者は誤操作に気付くことができる。仮に、誤操作ではなく意図的に中空体20を後方に移動させる場合、高さの差はわずかでありしかも眼内リング挿入器10は樹脂製なので多少の変形は可能であることから、この引っ掛かりを気にせず中空体20を強い力で後方に移動させることが可能である。
【0193】
この突起160は、前後方向に延在するのみならず、補強を兼ねて平面視十字形状になるように左右方向にも延在してもよい。
【0194】
(容器60の後方床62に設けられた穴)
容器60に設けられた中空体フランジ左側ガイド部90Lの下方と中空体フランジ右側ガイド部90Rの下方とを包含するように、容器60の後方床62に一つの幅広穴171を設けるのが好ましい。この幅広穴171により、容器60が撓ったときに、収容初期状態の中空体20のフランジ23が容器60の後方床62と接触せずに済む。つまり、幅広穴171に中空体20のフランジ23の下端を収容可能となる。
【0195】
同様に、収容初期状態の中空体20のフランジ23の下端が後方床62と容器60の底との間に配置されるような幅狭穴172を前後方向に亘って設けてもよい。中空体20を前進させる時にフランジ23の下端と後方床62と接触させずに済む。つまり、幅狭穴172に中空体20のフランジ23の下端を収容可能となる。幅狭穴172は、下端の接触のみ考慮すればよいため、前段落に記載の幅広穴171よりは左右方向幅を狭くしても構わない。
【0196】
先に述べた、中空体20の前方への移動限界を規定するストッパー100は、幅狭穴172の前端から梁180を兼ねて突出して形成されるのが好ましい。
【0197】
容器60の中空体嵌合用突起80の根元にも穴を前後方向に亘って設けても構わない。二つの穴81L、81Rを設け、平面視した時、中空体嵌合用突起80の水平方向への突出部分を各穴が包含しても構わない。
【0198】
(容器60の後方床62に設けられた梁180)
容器60の後方床62に、Y1-Y2方向及びX1-X2方向に延在する梁180を設けてもよい。この構成により、容器60の撓りを低減できる。同様の梁180は、蓋110を閉めた状態の蓋110の下面にも設けてもよい。
【0199】
(容器60の蓋110)
容器60の蓋110を閉めたときにフック130が配置される蓋110の箇所にフック収容穴116を設けてもよい。これにより、フック130が蓋110に衝突せずに済む。また、蓋110を閉めたときの後端右方に、Y1-Y2方向に延在する突起を前後方向に並べて設けてもよい。この構成からなる開閉補助構造117により、蓋110を開けるときに術者の手が滑りにくくなる。
【0200】
閉じた状態の蓋110を平面視したとき、閉じた蓋110の左端は、蓋110の前端から後端に亘って略直線上である一方、右端(収容初期状態のノズル21の湾曲水平方向の端)では、蓋110の後端が前端よりも右方に幅広になるのが好ましい。つまり、閉じた蓋110の左端及び右端のうち右端を幅広とするのが好ましい。前段落に記載の突起は、この幅広部118に設けられるのが好ましい。
【0201】
本実施形態に係るノズル21は右方に湾曲する。その関係上、本実施形態に係る眼内リング挿入器10を容器60に収めたときに、眼内リング挿入器10は容器60内の左右方向中央から左方に偏位して配置される。そのため、容器60内においては中空体20の右方のスペースに余裕ができる。該右方のスペースの上方を活用した結果、上記幅広部118が設けられる。そして上記幅広部118により、術者が蓋110を開きやすくなる。
【0202】
閉じた状態の蓋110を側方視したとき、蓋110の後端が上方に向けてわずかに屈曲していてもよい。屈曲の度合いは、前端に対して後端が10度以下の屈曲でもよい。この屈曲により、術者が蓋110を開きやすくなる。
【0203】
(容器60の後端に設けられた板状の出っ張り190)
容器60の後端から後方に向けて下方に湾曲した板状の出っ張り190を設けてもよい。該板状の出っ張り190を把持することにより、眼内リング挿入器10及びその周囲の容器60を汚さずに済む。板状の出っ張り190の形状には限定は無く、例えば左右方向に窪み191を設けてもよい。この窪み191において紐を括り付け、容器60を吊るすように一時的に保持してもよい。
【0204】
(前後方向において容器60の中央位置の側壁)
前後方向において容器60の中央位置に側壁は設けないのがよい。つまり、前方側壁63と後方側壁64のみを設けるのがよい。この構成により、該中央位置に配置される中空体20を術者が把持しやすくなる。
【0205】
<その他>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0206】
例えば、本実施形態の眼内リング挿入器10及びその容器60は樹脂製だが、両者のいずれか又は両方に対し、眼内リングCに関する情報又は眼内リング挿入器10に関する情報が印刷されたシール等の可燃性部材を設けても構わない。
【0207】
本実施形態の眼内リング挿入器10及びその容器60は樹脂製だが、術式前後における視認性を向上すべく、プランジャ40を着色する一方でその他の構成(少なくともノズル21)を非着色としてもよい。この非着色とは、樹脂に色素を含有させていない状態であり、通常は透明又は半透明の状態である。
【0208】
樹脂の種類には限定は無く、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等を使用可能である。また、各構成に応じて樹脂の種類を変えてもよいし、全て同一の樹脂を使用してもよい。
【0209】
押し出し部材50の先端部50Eに、眼内リングCの係合用の突起51が下方の代わりに上方に向けて突出して設けられてもよい。その場合、繰り返しになるが、眼内リングCは、眼内リングCの後端のアイレットCh越しにノズル21上方内周に押し付けられながらノズル21の開口22に向けて前進する。この場合、これまでに述べてきた好適例において上下方向を逆にして本段落の内容を適用してもよい。例えば、本段落の内容を適用し、且つ、ノズル21は下方向に反っていると、突起51によるノズル21上方内周に押し付け度合いは増加し、眼内リングCと押し出し部材50との係合はより確実になる。その一方、眼内リングCがノズル21上方内周に押し付けられることにより、眼内リングC全体が上方に偏位することもあり得る。この偏位の発生を抑制すべく、本段落に記載の場合であっても、湾曲外側の内周上方部分に出っ張り25を設けることは有効である。
【0210】
フック130は、容器60から上方(Z1方向)に向けて突出した後に前方(X1方向)に向けて突出した形状に限定されない。該突出が無く、上方(Z1方向)にのみ向けて突出した棒形状であってもよい。この棒形状の場合を含め、フック130を引っ掛け部と呼称してもよい。
【0211】
ノズル21は湾曲形状に限定されない。例えば、ノズル21(の内周)がY2方向に向かって複数回屈曲した(即ち平面視にて内周の輪郭が複数の直線により構成された)結果、ノズル21全体として見たときにノズル21がY2方向に湾曲した形状を採用してもよい。
押し出し部材50をノズル21の開口22に向けて移動可能であれば、ノズル21が1回のみ屈曲した形状でもよい。
ノズル21の基端ではY1方向に湾曲を開始しつつ先端21Eに向けてノズル21が延伸することにより最終的にY2方向にノズルが湾曲してもよい。つまり、平面視において半円弧よりも長い円弧(例えば3/4円弧)の形状をノズルが有してもよい。
いずれにせよ、中空体20の軸方向(前後方向)のうち前方以外の方向に向けて開口22から眼内リングCが押し出されるよう、ノズルが曲がっていればよい。
湾曲形状に加えて本段落の内容を包含する表現が「中空体20の軸方向に対してノズル21が曲がった眼内リング挿入器10」である。
この表現を使用する場合、上記の各態様における「湾曲」を包含する表現として「曲がり」を上記の各態様の「湾曲」の代わりに使用してもよい。「湾曲水平方向」を包含する表現として「曲がり水平方向」を上記の各態様の「湾曲水平方向」の代わりに使用してもよい。「湾曲外側」を包含する表現として「曲がる方向の外側」を上記の各態様の「湾曲外側」の代わりに使用してもよい。「湾曲内側」を包含する表現として「曲がる方向の内側」を上記の各態様の「湾曲内側」の代わりに使用してもよい。
【符号の説明】
【0212】
10…眼内リング挿入器
20…中空体
20J…中空体とノズルとの係合部
21…ノズル
21E…ノズルの先端
22…開口
23…中空体のフランジ
24L…移動規制用左突起
24R…移動規制用右突起
25…ノズルの内周の出っ張り
26D…下方の補強リブ
26L…左方の補強リブ
26R…右方の補強リブ
27…指標
28…把持補助構造
29…小蓋用の爪
30…小蓋
31…小蓋用の穴
32F…小蓋内周の前方側の出っ張り
32B…小蓋内周の後方側の出っ張り
40…プランジャ
41…プランジャのフランジ
42…プランジャの細部
43…ゴム製のリング
44F…前方側フランジ
44B…後方側フランジ
45…プランジャの太部
46L…プランジャのフランジにおける前方側の面の左突起
46R…プランジャのフランジにおける前方側の面の右突起
47…小蓋と接触するプランジャの出っ張り
50…押し出し部材
50E…押し出し部材の先端部
51…押し出し部材の突起
52…押し出し部材の基端側
53…押し出し部材の先端側
54…押し出し部材の先端側の下方への出っ張り
60…容器
61…前方床
62…後方床
63…前方側壁
64…後方側壁
71…中央縦溝
72L…左縦溝
72R…右縦溝
73…中央後方溝
74…中央縦溝、左縦溝及び右縦溝を形成する突起
75…中央後方溝の後方の突起
80…中空体嵌合用突起
81L…中空体嵌合用突起の根元の左側穴
81R…中空体嵌合用突起の根元の右側穴
90L…中空体フランジ左側ガイド部
90R…中空体フランジ右側ガイド部
100…ストッパー
110…蓋
111…蓋用ヒンジ
112L…蓋左側爪
112R…蓋右側爪
113L…蓋左側爪用係合穴
113R…蓋右側爪用係合穴
114L…蓋左側爪根元穴
114R…蓋右側爪根元穴
115…ノズル用爪
116…フック収容穴
117…開閉補助構造
118…幅広部
120…矢印型の穴
130…フック
131…上方突起
132…前方突起
140…載置部
141…載置部の穴
150…下り斜面(スロープ)
151…スロープと前方床との連結面
160…突起(中空体の戻り規制部)
171…中空体のフランジ下端の収容用の幅広穴
172…中空体のフランジ下端の収容用の幅狭穴
180…梁
190…板状の出っ張り
191…窪み
B…水晶体嚢
C…眼内リング
CE…眼内リングの先端部
Ch…アイレット
IN…ノズルの湾曲内側
OUT…ノズルの湾曲外側