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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】調理器
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20240926BHJP
   A47J 27/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H05B6/12 324
A47J27/00 103A
A47J27/00 109A
H05B6/12 308
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021067345
(22)【出願日】2021-04-12
(65)【公開番号】P2022162468
(43)【公開日】2022-10-24
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002473
【氏名又は名称】象印マホービン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】三崎 純
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-195741(JP,A)
【文献】特開平02-291815(JP,A)
【文献】特開平05-317172(JP,A)
【文献】特開2013-109889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/12
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋を収容する有底筒状の収容部と、
前記収容部の底外面側に前記収容部の周方向に並べて配置された4以上のコイルと、
2個の前記コイルを1組のコイル群とし、複数組の前記コイル群のうちの1つを通電して残りを遮断するように、前記複数組のコイル群を個別に制御して前記鍋を誘導加熱する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記周方向に隣り合う2個の前記コイルを1組の第1コイル群として制御する第1通電モードと、前記収容部の対向位置にある2個の前記コイルを1組の第2コイル群として制御する第2通電モードとを、時間的に切り換えて制御する、調理器。
【請求項2】
前記第1通電モードでは、前記制御部は、通電する前記第1コイル群がそれぞれ異なる複数の段階を定められた順番で繰り返し実行し、
前記第2通電モードでは、前記制御部は、通電する前記第2コイル群がそれぞれ異なる複数の段階を定められた順番で繰り返し実行し、
前記制御部による前記鍋の加熱制御は、前記第1通電モードの前記段階と前記第2通電モードの前記段階とを交互に実行する工程を有する、請求項1に記載の調理器。
【請求項3】
前記第1通電モードでは、前記制御部は、通電する前記第1コイル群がそれぞれ異なる複数の段階を定められた順番で実行し、
前記第2通電モードでは、前記制御部は、通電する前記第2コイル群がそれぞれ異なる複数の段階を定められた順番で実行し、
前記制御部による前記鍋の加熱制御は、前記第1通電モード及び前記第2通電モードのうちの一方の前記複数の段階を全て行った後、前記第1通電モード及び前記第2通電モードのうちの他方の前記複数の段階を全て行うステップを繰り返し実行する工程を有する、請求項1に記載の調理器。
【請求項4】
前記コイル群の組数が奇数になるように、前記コイルが6個以上配置されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の調理器。
【請求項5】
前記コイルの数は6個であり、そのうちの第1コイル、第2コイル、第3コイル、第4コイル、第5コイル及び第6コイルが、この順で前記周方向に並べて配置されており、
前記制御部は、
前記第1通電モードでは、前記第1コイルと前記第6コイルを第1組、前記第2コイルと前記第3コイルを第2組、前記第4コイルと前記第5コイルを第3組とし、
前記第2通電モードでは、前記第1コイルと前記第4コイルを第1組、前記第3コイルと前記第6コイルを第2組、前記第2コイルと前記第5コイルを第3組とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の調理器。
【請求項6】
前記第1コイルに対して、前記第6コイルが直列に接続された第1状態と前記第4コイルが直列に接続された第2状態とを切り換える第1スイッチと、
前記第3コイルに対して、前記第2コイルが直列に接続された第1状態と前記第6コイルが直列に接続された第2状態とを切り換える第2スイッチと、
前記第5コイルに対して、前記第4コイルが直列に接続された第1状態と前記第2コイルが直列に接続された第2状態とを切り換える第3スイッチと
を備える、請求項5に記載の調理器。
【請求項7】
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチはいずれも、3接点式スイッチ素子である、請求項6に記載の調理器。
【請求項8】
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチはいずれも、並列に接続された一対の2接点式スイッチ素子を有する、請求項6に記載の調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鍋を収容する収容部に周方向に間隔をあけて複数のコイルを配置した誘導加熱装置が開示されている。この誘導加熱装置では、複数のコイルのうち所定数のコイルを1組のコイル群とし、複数組のコイル群のうちの1つが通電されて残りが遮断されるように、定められた順番で通電状態を切り換えながら鍋を誘導加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-149470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、隣り合うコイルを1組のコイル群として複数組のコイル群を順番に通電する例と、対向位置にあるコイルを1組のコイル群として複数組のコイル群を順番に通電する例とが開示されている。しかし、これらの加熱制御では、対流の流動方向(鍋を軸線方向から見たときの流動角度)が規則的に変更されるだけであり、かまど炊きのような火の不規則な変動(ゆらぎ)による対流とは程遠い。よって、特許文献1の誘導加熱装置には、かまど炊きのような対流生成について、改良の余地がある。
【0005】
本発明は、かまど炊きのような対流を鍋内に生じさせることができる調理器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、鍋を収容する有底筒状の収容部と、前記収容部の底外面側に前記収容部の周方向に並べて配置された4以上のコイルと、2個の前記コイルを1組のコイル群とし、複数組の前記コイル群のうちの1つを通電して残りを遮断するように、前記複数組のコイル群を個別に制御して前記鍋を誘導加熱する制御部とを備え、前記制御部は、前記周方向に隣り合う2個の前記コイルを1組の第1コイル群として制御する第1通電モードと、前記収容部の対向位置にある2個の前記コイルを1組の第2コイル群として制御する第2通電モードとを、時間的に切り換えて制御する、調理器を提供する。
【0007】
第1通電モードでは、隣接する2個のコイルを起点とし、鍋の対向位置に向けた直径方向の1つの対流が鍋内に生じる。第2通電モードでは、対向する2個のコイルを起点とし、それぞれ鍋の対向位置に向けた半径方向の2つの対流が鍋内に生じる。半径方向の2つの対流は鍋の中央で衝突して旋回するため、それぞれ鍋の半分の領域のみ(2つの流動領域)での対流になる。このように、第1通電モードによって鍋内に生じる対流と、第2通電モードによって鍋内に生じる対流とは、鍋を軸線方向から見たときの流動角度が異なるだけでなく性質(流動領域が1つであるか2つであるか)も異なる。
【0008】
本態様では、第1通電モードと第2通電モードとが時間的に切り換えられるため、流動角度と流動領域が異なる2種の対流が時間的に切り換わる。よって、かまど炊きのような火の不規則な変動(ゆらぎ)による対流に近い対流を、鍋内で生じさせることができる。また、2種の対流によって、鍋内の飯米を偏りなく充分に撹拌でき、強い火力でムラなく加熱できるため、甘み、香り、及び粘りのあるご飯を炊き上げることができる。
【0009】
前記第1通電モードでは、前記制御部は、通電する前記第1コイル群がそれぞれ異なる複数の段階を定められた順番で繰り返し実行し、前記第2通電モードでは、前記制御部は、通電する前記第2コイル群がそれぞれ異なる複数の段階を定められた順番で繰り返し実行し、前記制御部による前記鍋の加熱制御は、前記第1通電モードの前記段階と前記第2通電モードの前記段階とを交互に実行する工程を有する。
【0010】
第1通電モードの段階と第2通電モードの段階とが交互に実行されるため、かまど炊きによる対流に近い対流を鍋内に確実に生じさせることができる。
【0011】
前記第1通電モードでは、前記制御部は、通電する前記第1コイル群がそれぞれ異なる複数の段階を定められた順番で実行し、前記第2通電モードでは、前記制御部は、通電する前記第2コイル群がそれぞれ異なる複数の段階を定められた順番で実行し、前記制御部による前記鍋の加熱制御は、前記第1通電モード及び前記第2通電モードのうちの一方の前記複数の段階を全て行った後、前記第1通電モード及び前記第2通電モードのうちの他方の前記複数の段階を全て行うステップを繰り返し実行する工程を有する。
【0012】
第1通電モードの全ての段階を行った後、第2通電モードの全ての段階を行うステップを繰り返すため、かまど炊きによる対流に近い対流を鍋内に生じさせることができる。また、第1通電モードの一段階と第2通電モードの一段階とを交互に実行する場合と比較して、制御プログラムを簡素化できるとともに、コイルの通電状態の切換回数を低減できる。よって、調理器の耐久年数を長期化できる。
【0013】
前記コイル群の組数が奇数になるように、前記コイルが6個以上配置されている。より具体的には、前記コイルの数は6個であり、そのうちの第1コイル、第2コイル、第3コイル、第4コイル、第5コイル及び第6コイルが、この順で前記周方向に並べて配置されており、前記制御部は、前記第1通電モードでは、前記第1コイルと前記第6コイルを第1組、前記第2コイルと前記第3コイルを第2組、前記第4コイルと前記第5コイルを第3組とし、前記第2通電モードでは、前記第1コイルと前記第4コイルを第1組、前記第3コイルと前記第6コイルを第2組、前記第2コイルと前記第5コイルを第3組とする。
【0014】
第1通電モードでは、第1コイル群の組数が偶数の場合、対流の起点(対流の向き)は異なっても流動角度が同一になる第1コイル群が生じるが、第1コイル群の組数が奇数の場合、流動角度が同一になる第1コイル群は生じない。よって、鍋内の飯米を偏りなく充分に撹拌し、強い火力でムラなく加熱できる。
【0015】
前記第1コイルに対して、前記第6コイルが直列に接続された第1状態と前記第4コイルが直列に接続された第2状態とを切り換える第1スイッチと、前記第3コイルに対して、前記第2コイルが直列に接続された第1状態と前記第6コイルが直列に接続された第2状態とを切り換える第2スイッチと、前記第5コイルに対して、前記第4コイルが直列に接続された第1状態と前記第2コイルが直列に接続された第2状態とを切り換える第3スイッチとを備える。
【0016】
3個のスイッチによって6個のコイルの接続状態が切り換えられるため、加熱対象のコイルのみ確実に通電できる。
【0017】
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチはいずれも、3接点式スイッチ素子である。
【0018】
スイッチがいずれも3接点式スイッチ素子であるため、6個のコイルの接続状態の切り換えに必要な部品点数を削減できる。また、スイッチが2個の2接点式スイッチ素子によって構成される場合と比較して、第1通電モードと第2通電モードの切り換えに必要なスイッチの切り換え回数を低減できる。
【0019】
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチはいずれも、並列に接続された一対の2接点式スイッチ素子を有する。
【0020】
スイッチがいずれも2接点式スイッチ素子を2個有するため、6個のコイルの通電状態を確実に切り換えることができる。また、切り換えに伴うスイッチ素子の温度上昇を抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の調理器では、かまど炊きのような対流を鍋内に生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る調理器の概略断面図。
図2】収容部に対するコイルの配置と制御部の構成を示すブロック図。
図3】第1実施形態に係る複数のコイル、インバータ回路及び切換部の構成を示す回路図。
図4A】第1組の第1コイル群への通電状態を示す平面図。
図4B】第2組の第1コイル群への通電状態を示す平面図。
図4C】第3組の第1コイル群への通電状態を示す平面図。
図4D】第1コイル群への通電時の対流を示す概略図。
図5A】第1組の第2コイル群への通電状態を示す平面図。
図5B】第2組の第2コイル群への通電状態を示す平面図。
図5C】第3組の第2コイル群への通電状態を示す平面図。
図5D】第2コイル群への通電時の対流を示す概略図。
図6】3組のコイル群への通電時の対流の流動角度と流動領域を示す概略図。
図7】4組のコイル群への通電時の対流の流動角度と流動領域を示す概略図。
図8】第1実施形態のコイル群への通電順序を示す概略図。
図9A】第1変形例のコイル群への通電順序を示す概略図。
図9B】第2変形例のコイル群への通電順序を示す概略図。
図9C】第3変形例のコイル群への通電順序を示す概略図。
図9D】第4変形例のコイル群への通電順序を示す概略図。
図9E】第5変形例のコイル群への通電順序を示す概略図。
図10】第2実施形態に係る複数のコイル、インバータ回路及び切換部の構成を示す回路図。
図11】第3実施形態に係る複数のコイル、インバータ回路及び切換部の構成を示す回路図。
図12】第4実施形態に係る複数のコイル、インバータ回路及び切換部の構成を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る調理器の1つである炊飯器10を示す。炊飯器10は、炊飯鍋15が配置された炊飯器本体20と、炊飯器本体20に開閉可能に取り付けられた蓋体40とを備え、炊飯器本体20に複数のコイル30を配置したマルチコイル式である。本実施形態では、複数のコイル30のうちの2個を1組のコイル群とし、適切な順番で所定のコイル群に通電することで、かまど炊きによる対流に近い対流を炊飯鍋15内に生じさせる。
【0025】
まず、炊飯器10の概要について説明する。
【0026】
図1を参照すると、炊飯鍋15は、磁性材料からなり、プレス加工又は鋳造によって成形された一体構造である。炊飯鍋15は有底筒状であり、円板状の底部16と、軸線Aが底部16の中心を通る円筒状の外周部17と、底部16と外周部17に連なる湾曲部18とを備える。
【0027】
炊飯器本体20は、外装体21の内部に炊飯鍋15を着脱可能に収容する収容部22を備える。収容部22は、有底筒状であり、金属製で円筒状の内胴23と、樹脂(非導電性材料)製で受皿状の保護枠24とを備え、炊飯器本体20の上面に形成された開口の下側に設けられている。収容部22内に炊飯鍋15を配置することで、保護枠24の軸線と炊飯鍋15の軸線Aとが一致する。より具体的には、保護枠24は、炊飯鍋15の底部16に対応する底部24a、炊飯鍋15の外周部17の下側部分に対応する外周部24b、及び炊飯鍋15の湾曲部18に対応する湾曲部24cを備える。
【0028】
引き続いて図1を参照すると、収容部22の底外面側、つまり保護枠24の外装体21側の面には複数のコイル30が配置されている。複数のコイル30は、収容部22の周方向に並べて配置されており、隣り合うコイル30は互いに間隔をあけて位置している。個々のコイル30の外側には、フェライトコア25を保持するホルダ26が配置されており、このホルダ26と保護枠24の間にコイル30が保持されている。
【0029】
図2を参照すると、複数のコイル30は、いずれも複数の巻線を同形状に巻回して形成されている。個々のコイル30は、高周波電流が通電されることで渦電流を発生させ、炊飯鍋15を誘導加熱する。個々のコイル30は楕円環状で、長軸方向が炊飯鍋15の底部16から外周部17にかけて延びるように、保護枠24の底部24aの外面から外周部24bの外面にかけて配置されている。但し、個々のコイル30は、保護枠24の底部24aだけに配置されてもよいし、保護枠24の底部24aの外面から湾曲部24cの外面にかけて配置されてもよい。
【0030】
図1を参照すると、蓋体40は、図1において右側に位置する外装体21の背部に設けられたヒンジ接続軸27に回転可能に取り付けられている。蓋体40は、炊飯鍋15を臨む内面側(図1において下側)に放熱板41を備える。放熱板41の下面には、炊飯鍋15の上端開口を閉塞する内蓋42が設けられている。放熱板41の上面には、放熱板41を介して内蓋42を加熱し、内蓋42に付着した露を蒸発させる蓋ヒータ43が配設されている。また、蓋体40には、炊飯鍋15内の蒸気を外部に排出するための排気通路44が形成されている。
【0031】
引き続いて図1を参照すると、図1において左側に位置する炊飯器本体20の正面側には、ホルダ28を介して制御基板50が配置されている。図2を参照すると、制御基板50には、電気部品を制御する制御部51、インバータ回路(電力供給部)57、及び切換部60が設けられている。但し、制御部51、インバータ回路57、及び切換部60は、2つ又は3つの制御基板に分けて設けられてもよい。
【0032】
引き続いて図2を参照すると、制御部51は、単一又は複数のマイクロコンピュータ、及びその他の電子デバイスにより構成されている。制御部51は、記憶部(メモリ)43と計時部(タイマ)44を備える。記憶部52には、炊飯処理と保温処理を実行するためのプログラム、及びプログラムに用いられる設定値(温度や時間)等が記憶されている。計時部53は、炊飯処理及び保温処理での時間を計測する。
【0033】
炊飯処理では、制御部51は、2つの温度センサ54A,54B(図1参照)の検出結果に基づいて、予熱工程、中ぱっぱ工程(昇温工程)、沸騰維持工程、炊き上げ工程及びむらし工程をこの順で実行し、炊飯鍋15内の飯米を炊き上げる。保温処理では、制御部51は、2つの温度センサ54A,54Bの検出結果に基づいて、炊き上げた米飯(炊飯鍋15)を定められた温度に温調する。
【0034】
引き続いて図2を参照すると、インバータ回路57は、制御部51に電気的に接続されており、コイル30に電力を投入する。図3を参照すると、インバータ回路57は、コイル30の数に応じた複数のパワートランジスタ(以下、単に「トランジスタ」と略す)58を備える。これらのトランジスタ58には、いずれもIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることができる。
【0035】
図2を参照すると、切換部60は、制御部51とインバータ回路57に電気的に接続されている。切換部60は、複数のコイル30のうち、所定のコイル30に高周波電流を通電し、残りのコイル30への通電が遮断されるように、制御部51の指令に従って接続状態を切り換える。図3を参照すると、切換部60は、コイル30の数に応じた複数のスイッチ61を備える。これらのスイッチ61には、いずれも3接点式のスイッチ素子(リレー)を用いることができる。
【0036】
以下、制御部51による複数のコイル30の制御、及びその制御を実現するための回路構成について、具体的に説明する。
【0037】
図2を参照すると、コイル30は、4以上の偶数個(本実施形態では6個)用いられている。制御部51は、複数のコイル30のうちの2個を1組のコイル群とし、複数組のコイル群のうちの1つを通電して残りを遮断するように、複数組のコイル群を個別に制御する。より具体的には、制御部51は、収容部22の周方向に隣り合う2個のコイル30を1組の第1コイル群31とする第1通電モードと、収容部22の対向位置にある2個のコイル30を1組の第2コイル群32とする第2通電モードとを、時間的に切り換えて制御する。ここで、対向位置とは、図2に示すように、保護枠24の径方向に対向するという幾何学的に厳密な意味での対向位置に限られず、後述するように、所定位置のコイル30から周方向に序数を付したとき、数的に対向することを意味する。
【0038】
第1実施形態の炊飯器10には、6個のコイル30が用いられている。以下の説明では、図2において右上に位置するコイルを第1コイル30Aといい、この第1コイル30Aから時計回りの向きで順番に第2コイル30B、第3コイル30C、第4コイル30D、第5コイル30E及び第6コイル30Fということがある。
【0039】
引き続いて図2を参照すると、第1通電モードでは、制御部51は、第1コイル30Aと第6コイル30Fを第1組の第1コイル群31Aとし、第2コイル30Bと第3コイル30Cを第2組の第1コイル群31Bとし、第4コイル30Dと第5コイル30Eを第3組の第1コイル群31Cとする。制御部51は、第1コイル群31Aに通電する場合、残りの第1コイル群31B,31Cへの通電は遮断し、第1コイル群31Bに通電する場合、残りの第1コイル群31A,31Cへの通電は遮断し、第1コイル群31Cに通電する場合、残りの第1コイル群31A,31Bへの通電は遮断する。また、制御部51は、第1コイル群31Aに通電する第1段階、第1コイル群31Bに通電する第2段階、及び第1コイル群31Cに通電する第3段階を、この順で繰り返し実行する。
【0040】
第2通電モードでは、制御部51は、第1コイル30Aと第4コイル30Dを第1組の第2コイル群32Aとし、第3コイル30Cと第6コイル30Fを第2組の第2コイル群32Bとし、第2コイル30Bと第5コイル30Eを第3組の第2コイル群32Cとする。制御部51は、第2コイル群32Aに通電する場合、残りの第2コイル群32B,32Cへの通電は遮断し、第2コイル群32Bに通電する場合、残りの第2コイル群32A,32Cへの通電は遮断し、第2コイル群32Cに通電する場合、残りの第2コイル群32A,32Bへの通電は遮断する。また、制御部51は、第2コイル群32Aに通電する第1段階、第2コイル群32Bに通電する第2段階、及び第2コイル群32Cに通電する第3段階を、この順で繰り返し実行する。
【0041】
図3を参照すると、インバータ回路57は、複数のコイル30の半数のトランジスタ58、つまり本実施形態では3個のトランジスタ58A~58Cを備える。インバータ回路57と同様に、切換部60は、複数のコイル30の半数のスイッチ61、つまり本実施形態では3個のスイッチ61A~61Cを備える。
【0042】
引き続いて図3を参照すると、トランジスタ58A~58Cは、交流電源65に電気的に接続されたダイオードブリッジ66に並列に接続されている。そのうち、第1トランジスタ58Aのコレクタが第1コイル30Aに接続され、第2トランジスタ58Bのコレクタが第3コイル30Cに接続され、第3トランジスタ58Cのコレクタが第5コイル30Eに接続されている。これにより、第1トランジスタ58Aは、第1コイル群31A又は第2コイル群32Aに高周波電流を通電できる。第2トランジスタ58Bは、第1コイル群31B又は第2コイル群32Bに高周波電流を通電できる。第3トランジスタ58Cは、第1コイル群31C又は第2コイル群32Cに高周波電流を通電できる。
【0043】
スイッチ61A~61Cは、切換対象のコイル30A~30Fに電気的に接続されている。具体的には、以下の通りである。
【0044】
第1スイッチ61Aには、共通端子に第1コイル30Aが接続され、一対の接続端子のうちの一方に第6コイル30Fが接続され、一対の接続端子のうちの他方に第4コイル30Dが接続されている。これにより、第1コイル30Aと第6コイル30Fが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第1段階)と、第1コイル30Aと第4コイル30Dが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第1段階)とに、切換可能である。
【0045】
第2スイッチ61Bには、共通端子に第3コイル30Cが接続され、一対の接続端子のうちの一方に第2コイル30Bが接続され、一対の接続端子のうちの他方に第6コイル30Fが接続されている。これにより、第3コイル30Cと第2コイル30Bが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第2段階)と、第3コイル30Cと第6コイル30Fが直列に接続された第2状態(第2通電モード第2段階)とに、切換可能である。
【0046】
第3スイッチ61Cには、共通端子に第5コイル30Eが接続され、一対の接続端子のうちの一方に第4コイル30Dが接続され、一対の接続端子のうちの他方に第2コイル30Bが接続されている。これにより、第5コイル30Eと第4コイル30Dが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第3段階)と、第5コイル30Eと第2コイル30Bが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第3段階)とに、切換可能である。
【0047】
なお、図3中の符号67は、ダイオードブリッジ66から出力される直流電源を平滑するコンデンサであり、符号68は共振コンデンサである。
【0048】
次に、引き続き図3を参照して、制御部51によるコイル30A~30Fの接続状態の切り換え、及び通電について説明する。
【0049】
図3に実線で示すように、第1通電モードで炊飯鍋15を加熱する場合、制御部51は、第1コイル30Aと第6コイル30Fが直列に接続され、第3コイル30Cと第2コイル30Bが直列に接続され、第5コイル30Eと第4コイル30Dが直列に接続されるように、スイッチ61A~61Cの接続状態を切り換える。このスイッチ61A~61Cの切り換えは、図示しないコイルを非通電状態とすることで行われる。
【0050】
第1通電モードで第1コイル群31Aに通電する場合、第1トランジスタ58Aを高周波で通電し、残りのトランジスタ58B,58Cを非通電状態とする。これにより、第1コイル30Aと第6コイル30Fに高周波電流が通電される(第1段階)。
【0051】
第1通電モードで第1コイル群31Bに通電する場合、第2トランジスタ58Bを高周波で通電し、残りのトランジスタ58A,58Cを非通電状態とする。これにより、第2コイル30Bと第3コイル30Cに高周波電流が通電される(第2段階)。
【0052】
第1通電モードで第1コイル群31Cに通電する場合、第3トランジスタ58Cを高周波で通電し、残りのトランジスタ58A,58Bを非通電状態とする。これにより、第4コイル30Dと第5コイル30Eに高周波電流が通電される(第3段階)。
【0053】
図3に破線で示すように、第2通電モードで炊飯鍋15を加熱する場合、制御部51は、第1コイル30Aに第4コイル30Dが直列に接続され、第3コイル30Cに第6コイル30Fが直列に接続され、第5コイル30Eに第2コイル30Bが直列に接続されるように、スイッチ61A~61Cの接続状態を切り換える。このスイッチ61A~61Cの切り換えは、図示しないコイルを通電状態とすることで行われる。
【0054】
第2通電モードで第2コイル群32Aに通電する場合、第1トランジスタ58Aを高周波で通電し、残りのトランジスタ58B,58Cを非通電状態とする。これにより、第1コイル30Aと第4コイル30Dに高周波電流が通電される(第1段階)。
【0055】
第2通電モードで第2コイル群32Bに通電する場合、第2トランジスタ58Bを高周波で通電し、残りのトランジスタ58A,58Cを非通電状態とする。これにより、第3コイル30Cと第6コイル30Fに高周波電流が通電される(第2段階)。
【0056】
第2通電モードで第2コイル群32Cに通電する場合、第3トランジスタ58Cを高周波で通電し、残りのトランジスタ58A,58Bを非通電状態とする。これにより、第2コイル30Bと第5コイル30Eに高周波電流が通電される(第3段階)。
【0057】
次に、それぞれの通電モードで炊飯鍋15内に生じる対流について説明する。
【0058】
図4Aから図4Cを参照すると、第1通電モードで炊飯鍋15の加熱を行った場合、通電される2個のコイル30が位置する炊飯鍋15の角度範囲(一位置)が局所的に加熱される。これにより、図4Dに示すように、通電される2個のコイル30を起点とし、炊飯鍋15の対向位置に向けた直径方向の1つの対流が、炊飯鍋15内に生じる。
【0059】
図6に太線で示すように、第1コイル群31Aが通電される場合(第1段階)、第1コイル30Aと第6コイル30Fの間を通る直径方向の対流が生じる。第1コイル群31Bが通電される場合(第2段階)、第2コイル30Bと第3コイル30Cの間を通る直径方向の対流が生じる。第1コイル群31Cが通電される場合(第3段階)、第4コイル30Dと第5コイル30Eの間を通る直径方向の対流が生じる。炊飯鍋15を軸線方向から見ると、これらの対流の流動角度は、いずれも異なる。
【0060】
図5Aから図5Cを参照すると、第2通電モードで炊飯鍋15の加熱を行った場合、通電される2個のコイル30が位置する炊飯鍋15の対向位置(二位置)が局所的に加熱される。これにより、図5Dに示すように、対向する2個のコイル30を起点とし、炊飯鍋15の対向位置に向けた半径方向の2つの対流が炊飯鍋15内に生じる。2つの対流は、炊飯鍋15の中央で衝突して旋回するため、それぞれ炊飯鍋15の半分の領域のみでの対流になる。
【0061】
図6に細線で示すように、第2コイル群32Aが通電される場合(第1段階)、第1コイル30Aから第4コイル30Dに向けた第1の対流が、第1コイル30A側の半分の領域で生じ、第4コイル30Dから第1コイル30Aに向けた第2の対流が、第4コイル30D側の半分の領域で生じる。第2コイル群32Bが通電される場合(第2段階)、第3コイル30Cから第6コイル30Fに向けた第1の対流が、第3コイル30C側の半分の領域で生じ、第6コイル30Fから第3コイル30Cに向けた第2の対流が、第6コイル30F側の半分の領域で生じる。第2コイル群32Cが通電される場合(第3段階)、第2コイル30Bから第5コイル30Eに向けた第1の対流が、第2コイル30B側の半分の領域で生じ、第5コイル30Eから第2コイル30Bに向けた第2の対流が、第5コイル30E側の半分の領域で生じる。これらの対流の流動角度と流動領域は、いずれも異なる。
【0062】
図7にコイル群の組数が偶数の例を示す。この例では、8個のコイル30A~30Hを用いており、第1通電モードの場合には4組の第1コイル群31A~31Dが形成され、第2通電モードの場合にも4組の第2コイル群32A~32Dが形成される。
【0063】
図7に細線で示すように、第2通電モードでは、第2コイル群32A~32Dによって生じる対流の流動角度と流動領域は、いずれも異なる。しかし、図7に太線で示すように、第1通電モードでは、対流の起点(対流の向き)は異なるが流動角度が同一になる第1コイル群31Aと31C,31Bと31Dが生じる。よって、数が少ない6個のコイル30A~30Fを用いた場合と比較して、第1コイル群の組数は多いが、これらによる流動角度の種類(2種)は少なくなる。
【0064】
図6を参照すると、本実施形態のように第1コイル群の組数が奇数の場合、対流の流動角度が同一になる第1コイル群31A~31Cは生じない。そのため、第1通電モードで炊飯鍋15を加熱する際、8個のコイル30A~30Hを用いた場合よりも流動角度の種類は多い。よって、コイル30の数は、2個1組の組数が奇数になるように、コイル30を6個以上配置することが好ましい。
【0065】
次に、制御部51による炊飯処理の一例を説明する。
【0066】
前述のように、炊飯処理は、予熱工程、中ぱっぱ工程、沸騰維持工程、炊き上げ工程及びむらし工程を備える。
【0067】
予熱工程では、定められた予熱温度(例えば40℃)を維持するように炊飯鍋15を加熱(温調)し、飯米に水を吸収させる。予熱工程では炊飯鍋15を均一に加熱する必要があるため、制御部51は、第1通電モード及び第2通電モードのうちの一方のみを実行し、定格電力よりも低い出力(例えば66%)でデューティ制御する。つまり、第1通電モード及び第2通電モードのうちの他方は実行されない。この予熱工程は、定められた時間が経過すると終了する。
【0068】
第1通電モードのみで予熱工程を実行する場合、制御部51は、図4Aに示すように第1コイル群31Aに通電する第1段階、図4Bに示すように第1コイル群31Bに通電する第2段階、及び図4Cに示すように第1コイル群31Cに通電する第3段階を繰り返し実行する。第2通電モードのみで予熱工程を実行する場合、制御部51は、図5Aに示すように第2コイル群32Aに通電する第1段階、図5Bに示すように第2コイル群32Bに通電する第2段階、及び図5Cに示すように第2コイル群32Cに通電する第3段階を繰り返し実行する。個々の段階の実行時間は、例えば0.5秒である。
【0069】
中ぱっぱ工程では、予熱温度よりも高い沸騰温度になるまで炊飯鍋15を高出力(例えば定格電力の100%)で加熱し、炊飯鍋15内の水を短時間で沸騰させる。中ぱっぱ工程では飯米を充分に撹拌する必要があるため、第1通電モード及び第2通電モードの両方が実行される。この中ぱっぱ工程は、炊飯鍋15の温度が定められた沸騰温度に達すると終了する。
【0070】
第1通電モードと第2通電モードの両方で中ぱっぱ工程を実行する場合、制御部51は、図8に示すように、第1通電モードの段階と第2通電モードの段階とを交互に実行する。具体的には、図4Aに示す第1通電モードの第1段階、図5Aに示す第2通電モードの第1段階、図4Bに示す第1通電モードの第2段階、図5Bに示す第2通電モードの第2段階、図4Cに示す第1通電モードの第3段階、及び図5Cに示す第2通電モードの第3段階を、この順で繰り返し実行する。個々の段階の実行時間は、例えば10秒である。
【0071】
切換部60による通電モードの切換時、切換前のコイル群への通電と切換後のコイル群への通電とは、重複しないように設定されている。但し、切換前のコイル群と切換後のコイル群への投入電力の総和が定格電力以下であれば、切換前のコイル群への通電と切換後のコイル群への通電とを重複させてもよい。
【0072】
一般的に、日本の家庭に設けられた配電盤は20アンペアでコンセントが15アンペアのものが多いため、この種の炊飯器10を含む電気機器において、単位時間当たりに投入可能な定格電力は最大で1500Wである。底部16全体を覆う1個のコイルを用いた炊飯器の場合、定格電力に応じた加熱量で炊飯鍋15全体が誘導加熱される。これに対して本実施形態の炊飯器10では、6個のコイル30A~30Fのうちの2個に定格電力が最大で投入されるため、対応する炊飯鍋15の1/3の加熱領域が、定格電力に応じた加熱量が最大で集中して誘導加熱される。よって、1個のコイルを用いた炊飯器と比較して、本実施形態の炊飯器10では炊飯鍋15の単位面積当たりの最大加熱量を大きくできる。よって、本実施形態では、炊飯鍋15の局部を大きな熱量で集中して加熱できる。
【0073】
沸騰維持工程は、第1沸騰維持工程と第2沸騰維持工程を備え、沸騰温度(例えば検出温度が90℃)を維持するように炊飯鍋15を加熱(温調)し、炊飯鍋15内の水を無くす。沸騰維持工程では炊飯鍋15を均一に加熱する必要があるため、制御部51は、予熱工程と同様に、第1通電モード及び第2通電モードのうちの一方のみを実行する。
【0074】
第1沸騰維持工程では、定格電力よりも低い出力(例えば85%)でデューティ制御し、鍋用の温度センサ54Aの検出温度に基づいてコイル30をオンオフ制御する。この第1沸騰維持工程は、温度センサ54Aの検出温度が定められたドライアップ温度(例えば110℃)に達すると終了する。
【0075】
第2沸騰維持工程では、第1沸騰維持工程よりも出力を抑えて炊飯鍋15を弱火(例えば定格電力の40%)でデューティ制御し、蓋用の温度センサ54Bの検出温度に基づいてコイル30をオンオフ制御する。この第2沸騰維持工程は、定められた時間が経過すると終了する。
【0076】
炊き上げ工程では、火力を上げて米飯を炊き上げる。炊き上げ工程では炊飯鍋15を均一に加熱する必要があるため、制御部51は、予熱工程と同様に、第1通電モード及び第2通電モードのうちの一方のみを実行し、第2沸騰維持工程のよりも高い出力(例えば定格電力の75%)でデューティ制御するとともにオンオフ制御する。この炊き上げ工程は、鍋用の温度センサ54Aの検出温度がドライアップ温度に達すると終了する。
【0077】
むらし工程では、炊飯鍋15を低出力で温調し、炊き上げた米飯を蒸らす。このむらし工程では炊飯鍋15を均一に加熱する必要があるため、制御部51は、第1通電モード及び第2通電モードのうちの一方のみを実行し、第2沸騰維持工程よりも低い出力(例えば定格電力の10%)でデューティ制御するとともにオンオフ制御する。このむらし工程は、定められた時間が経過すると終了する。
【0078】
このように構成した炊飯器10は、以下の特徴を有する。
【0079】
第1通電モードでは、隣接する2個のコイル30を起点とし、炊飯鍋15の対向位置に向けた直径方向の1つの対流が炊飯鍋15内に生じる。第2通電モードでは、対向する2個のコイル30を起点とし、それぞれ炊飯鍋15の対向位置に向けた半径方向の2つの対流が炊飯鍋15内に生じる。半径方向の2つの対流は炊飯鍋15の中央で衝突して旋回するため、それぞれ炊飯鍋15の半分の領域のみでの対流になる。このように、第1通電モードによって炊飯鍋15内に生じる対流と、第2通電モードによって炊飯鍋15内に生じる対流とは、炊飯鍋15を軸線方向から見たときの流動角度が異なるだけでなく性質(対流領域が1つであるか2つであるか)も異なる。
【0080】
中ぱっぱ工程では、第1通電モードと第2通電モードとが時間的に切り換えられるため、流動角度と対流領域が異なる2種の対流が時間的に切り換わる。よって、かまど炊きのような火の不規則な変動(ゆらぎ)による対流に近い対流を、炊飯鍋15内で生じさせることができる。また、2種の対流によって、炊飯鍋15内の飯米を偏りなく充分に撹拌でき、強い火力でムラなく加熱できるため、甘み、香り、及び粘りのあるご飯を炊き上げることができる。
【0081】
第1通電モードの段階と第2通電モードの段階とが交互に実行されるため、かまど炊きの場合のように加熱部分が変動するゆらぎを再現でき、かまど炊きによる対流に近い対流を炊飯鍋15内に確実に生じさせることができる。
【0082】
第1通電モードでは、第1コイル群31の組数が偶数の場合、対流の起点(対流の向き)は異なっても炊飯鍋15を軸線方向から見たときの流動角度が同一になる第1コイル群31が生じるが、第1コイル群31の組数が奇数の場合、流動角度が同一になる第1コイル群31は生じない。よって、炊飯鍋15内の飯米を偏りなく充分に撹拌し、強い火力でムラなく加熱できる。
【0083】
3個のスイッチ61によって6個のコイル30の接続状態が切り換えられるため、加熱対象のコイル30のみ確実に通電できる。
【0084】
スイッチ61がいずれも3接点式スイッチ素子であるため、6個のコイル30の接続状態の切り換えに必要な部品点数を削減できる。また、スイッチ61が2個の2接点式スイッチ素子によって構成される場合と比較して、第1通電モードと第2通電モードの切り換えに必要なスイッチ61の切り換え回数を低減できる。
【0085】
複数のコイル30が全て同形状であるため、炊飯器10の製造に必要な部品の種類を削減できるとともに、製造時の組付作業性向上と誤装着防止を図ることができる。
【0086】
以下、本発明の他の実施形態並びに種々の変形例を説明するが、これらの説明において、特に言及しない点は第1実施形態と同様である。以下で言及する図面において、第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付している。
【0087】
1つの工程で第1通電モードと第2通電モードの両方を実行する場合、制御部51は、図9Aから図9Eに示すように通電状態を切り換えてもよい。具体的には以下の通りである。
【0088】
図9Aに示すように、第1実施形態とは逆順で、第1通電モードの段階と第2通電モードの段階とを交互に実行してもよい。具体的には、図5Cに示す第2通電モードの第3段階、図4Cに示す第1通電モードの第3段階、図5Bに示す第2通電モードの第2段階、図4Bに示す第1通電モードの第2段階、図5Aに示す第2通電モードの第1段階、及び図4Aに示す第1通電モードの第1段階を、この順で繰り返し実行してもよい。
【0089】
図9Bに示すように、図4Aに示す第1通電モードの第1段階、図5Aに示す第2通電モードの第1段階、図4Cに示す第1通電モードの第3段階、図5Cに示す第2通電モードの第3段階、図4Bに示す第1通電モードの第2段階、及び図5Bに示す第2通電モードの第2段階を、この順で繰り返し実行してもよい。
【0090】
図9Cに示すように、第1通電モードの全ての段階を行った後、第2通電モードの全ての段階を行うステップを、繰り返し実行してもよい。具体的には、図4Aに示す第1通電モードの第1段階、図4Bに示す第1通電モードの第2段階、図4Cに示す第1通電モードの第3段階、図5Aに示す第2通電モードの第1段階、図5Bに示す第2通電モードの第2段階、及び図5Cに示す第2通電モードの第3段階を、この順で繰り返し実行してもよい。
【0091】
図9Dに示すように、図5Cに示す第2通電モードの第3段階、図5Bに示す第2通電モードの第2段階、図5Aに示す第2通電モードの第1段階、図4Cに示す第1通電モードの第3段階、図4Bに示す第1通電モードの第2段階、及び図4Aに示す第1通電モードの第1段階を、この順で繰り返し実行してもよい。
【0092】
図9Eに示すように、図4Aに示す第1通電モードの第1段階、図4Bに示す第1通電モードの第2段階、図5Aに示す第2通電モードの第1段階、図5Bに示す第2通電モードの第2段階、図4Cに示す第1通電モードの第3段階、及び図5Cに示す第2通電モードの第3段階を、この順で繰り返し実行してもよい。
【0093】
また、制御部51による通電状態の切り換えは、図8及び図9Aから図9Eに示す例に限られず、第1通電モードの3つの段階と第2通電モードの3つの段階とを、不規則に並べて実行してもよいし、ランダムに実行してもよく、必要に応じて変更が可能である。
【0094】
以上の変形例のうち、図9Cに示す第3変形例及び図9Dに示す第4変形例では、制御部51は、第1通電モード及び第2通電モードのうちの一方の複数の段階を全て行った後、第1通電モード及び第2通電モードのうちの他方の複数の段階を全て行うステップを繰り返し実行する。よって、かまど炊きによる対流に近い対流を炊飯鍋15内に生じさせることができる。また、第1通電モードの一段階と第2通電モードの一段階とを交互に実行する場合と比較して、制御プログラムを簡素化できるとともに、コイル30の通電状態の切換回数(スイッチ61の切換回数)を低減できる。よって、炊飯器10の耐久年数を長期化できる。
【0095】
6個のコイル30A~30Fは、図10から図12に示す実施形態のように接続されてもよい。
【0096】
(第2実施形態)
図10に示す第2実施形態では、3個のスイッチ61を、いずれも並列に接続した一対の2接点式スイッチ素子(リレー)62A,62Bによって構成している。具体的には以下の通りである。
【0097】
第1スイッチ61Aのスイッチ素子62A,62Bそれぞれの第1接続端子には、第1コイル30Aが接続されている。第1スイッチ61Aのスイッチ素子62Aの第2接続端子には第6コイル30Fが接続され、第1スイッチ61Aのスイッチ素子62Bの第2接続端子には第4コイル30Dが接続されている。これにより、第1コイル30Aと第6コイル30Fが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第1段階)と、第1コイル30Aと第4コイル30Dが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第1段階)とに、切換可能である。
【0098】
第2スイッチ61Bのスイッチ素子62A,62Bそれぞれの第1接続端子には、第3コイル30Cが接続されている。第2スイッチ61Bのスイッチ素子62Aの第2接続端子には第2コイル30Bが接続され、第2スイッチ61Bのスイッチ素子62Bの第2接続端子には第6コイル30Fが接続されている。これにより、第3コイル30Cと第2コイル30Bが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第2段階)と、第3コイル30Cと第6コイル30Fが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第2段階)とに、切換可能である。
【0099】
第3スイッチ61Cのスイッチ素子62A,62Bそれぞれの第1接続端子には、第5コイル30Eが接続されている。第3スイッチ61Cのスイッチ素子62Aの第2接続端子には第4コイル30Dが接続され、第3スイッチ61Cのスイッチ素子62Bの第2接続端子には第2コイル30Bが接続されている。これにより、第5コイル30Eと第4コイル30Dが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第3段階)と、第5コイル30Eと第2コイル30Bが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第3段階)とに、切換可能である。
【0100】
このように、スイッチ61がいずれも2接点式スイッチ素子62を2個有するため、6個のコイル30の通電状態を確実に切り換えることができ、第1実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。また、切り換えに伴うスイッチ素子62の温度上昇を抑制できる。
【0101】
(第3実施形態)
図11に示す第3実施形態では、3個のスイッチ61として、第1実施形態と同様に3接点式のスイッチ素子(リレー)を用いるが、共通端子を逆向きに配置した点で、第1実施形態と相違している。具体的には以下の通りである。
【0102】
第1スイッチ61Aには、共通端子に第6コイル30Fが接続され、一対の接続端子のうちの一方に第1コイル30Aが接続され、一対の接続端子のうちの他方に第3コイル30Cが接続されている。これにより、第6コイル30Fと第1コイル30Aが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第1段階)と、第6コイル30Fと第3コイル30Cが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第2段階)とに、切換可能である。
【0103】
第2スイッチ61Bには、共通端子に第2コイル30Bが接続され、一対の接続端子のうちの一方に第3コイル30Cが接続され、一対の接続端子のうちの他方に第5コイル30Eが接続されている。これにより、第2コイル30Bと第3コイル30Cが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第2段階)と、第2コイル30Bと第5コイル30Eが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第3段階)とに、切換可能である。
【0104】
第3スイッチ61Cには、共通端子に第4コイル30Dが接続され、一対の接続端子のうちの一方に第5コイル30Eが接続され、一対の接続端子のうちの他方に第1コイル30Aが接続されている。これにより、第4コイル30Dと第5コイル30Eが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第3段階)と、第4コイル30Dと第1コイル30Aが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第1段階)とに、切換可能である。
【0105】
(第4実施形態)
図12に示す第4実施形態では、第2実施形態と同様に、3個のスイッチ61を一対の2接点式スイッチ素子(リレー)62A,62Bによって構成した点で、第3実施形態と相違している。具体的には以下の通りである。
【0106】
第1スイッチ61Aのスイッチ素子62A,62Bそれぞれの第1接続端子には、第6コイル30Fが接続されている。第1スイッチ61Aのスイッチ素子62Aの第2接続端子には第1コイル30Aが接続され、第1スイッチ61Aのスイッチ素子62Bの第2接続端子には第3コイル30Cが接続されている。これにより、第6コイル30Fと第1コイル30Aが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第1段階)と、第6コイル30Fと第3コイル30Cが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第2段階)とに、切換可能である。
【0107】
第2スイッチ61Bのスイッチ素子62A,62Bそれぞれの第1接続端子には、第2コイル30Bが接続されている。第2スイッチ61Bのスイッチ素子62Aの第2接続端子には第3コイル30Cが接続され、第2スイッチ61Bのスイッチ素子62Bの第2接続端子には第5コイル30Eが接続されている。これにより、第2コイル30Bと第3コイル30Cが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第2段階)と、第2コイル30Bと第5コイル30Eが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第3段階)とに、切換可能である。
【0108】
第3スイッチ61Cのスイッチ素子62A,62Bそれぞれの第1接続端子には、第4コイル30Dが接続されている。第3スイッチ61Cのスイッチ素子62Aの第2接続端子には第5コイル30Eが接続され、第3スイッチ61Cのスイッチ素子62Bの第2接続端子には第1コイル30Aが接続されている。これにより、第4コイル30Dと第5コイル30Eが直列に接続された第1状態(第1通電モードの第3段階)と、第4コイル30Dと第1コイル30Aが直列に接続された第2状態(第2通電モードの第1段階)とに、切換可能である。
【0109】
以上の第2実施形態から第4実施形態に示すように、複数のコイル30のうちの2個を1組にするための接続態様は、必要に応じて変更が可能である。
【0110】
なお、本発明は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0111】
例えば、コイル30はコイル群の組数が偶数になる数であってもよい。つまり、コイル30の数は、4個であってもよいし、8個以上であってもよく、偶数個であればよい。
【0112】
また、コイル30の総数は、必ずしも偶数に限られず、奇数としてもよい。この場合、例えば図2において、第1コイル30Aと第6コイル30Fの間に配置される第7コイルは単独で制御し、他のコイル30A~30Fは、前記実施形態と同様に制御すればよい。つまり、コイル30の総数が奇数である場合、特定の1つのコイルを1組のコイル群とみなし、残りのコイルを2個1組のコイル群として制御すればよい。この場合、第1通電モードでは、前記特定のコイルを除き、周方向に隣り合うコイルを1組のコイル群とし、第2通電モードでは、前記特定のコイルを除き、数的に対向位置にあるコイルを1組のコイル群とすればよい。
【0113】
前記実施形態では炊飯器10を例に挙げて説明したが、焼く、蒸す、揚げるといった種々の調理が可能なマルチクッカーであってもよく、有底筒状の収容部と、収容部の外面側に配置された2以上の偶数個のコイルとを備える調理器であれば、いずれでも適用可能であり、同様の作用および効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0114】
10…炊飯器(調理器)
15…炊飯鍋(鍋)
16…底部
17…外周部
18…湾曲部
20…炊飯器本体
21…外装体
22…収容部
23…内胴
24…保護枠
24a…底部
24b…外周部
24c…湾曲部
25…フェライトコア
26…ホルダ
27…ヒンジ接続軸
28…ホルダ
30,30A~30F…コイル
31,31A~31C…第1コイル群
32,32A~32C…第2コイル群
40…蓋体
41…放熱板
42…内蓋
43…蓋ヒータ
44…排気通路
50…制御基板
51…制御部
52…記憶部
53…計時部
54A,54B…温度センサ
57…インバータ回路
58,58A~58C…トランジスタ
60…切換部
61,61A~61C…スイッチ
62A,62B…スイッチ素子
65…交流電源
66…ダイオードブリッジ
67…コンデンサ
68…共振コンデンサ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10
図11
図12