(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】複合材の分断方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/364 20140101AFI20240926BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B23K26/364
H01L21/78 B
H01L21/78 Q
(21)【出願番号】P 2021098404
(22)【出願日】2021-06-14
【審査請求日】2024-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 聡
(72)【発明者】
【氏名】菅野 敏広
(72)【発明者】
【氏名】矢野 孝伸
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122966(JP,A)
【文献】特表平10-506087(JP,A)
【文献】特開2009-280447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H01L 21/301
C03B 33/07
B26F 3/06
H01S 3/00-3/02、
3/04-3/0959、
3/098-3/102、
3/105-3/131、
3/136-3/213、
3/23-4/00
B32B 17/06
B32B 38/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材を分断する方法であって、
超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を前記脆性材料層側から前記複合材の分断予定線に沿って照射して前記脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、前記分断予定線に沿って一体的に繋がったスクライブ溝を形成する脆性材料除去工程と、
レーザ光源から発振したレーザ光を前記分断予定線に沿って前記樹脂層に照射して前記樹脂層を形成する樹脂を除去する樹脂除去工程と、を含み、
前記脆性材料除去工程において、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の焦点を前記樹脂層の前記脆性材料層との界面近傍に設定し、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の照射位置における前記樹脂層の厚みが5μm以上ある状態で前記超短パルスレーザ光源からレーザ光を発振し、前記樹脂層側で開口し且つ前記脆性材料層を非貫通である前記スクライブ溝を形成する、
複合材の分断方法。
【請求項2】
前記脆性材料除去工程の後に、前記樹脂除去工程を実行する、
請求項1に記載の複合材の分断方法。
【請求項3】
前記脆性材料除去工程及び前記樹脂除去工程の後に、前記分断予定線に沿って外力を加えることで、前記複合材を分断する複合材分断工程を更に含む、
請求項1又は2に記載の複合材の分断方法。
【請求項4】
前記スクライブ溝の深さが、3μm以上50μm以下である、
請求項1から3の何れかに記載の複合材の分断方法。
【請求項5】
前記スクライブ溝の深さが、20μm以下である、
請求項4に記載の複合材の分断方法。
【請求項6】
前記スクライブ溝の深さが、前記脆性材料層の厚みの10%以上50%以下である、
請求項1から3の何れかに記載の複合材の分断方法。
【請求項7】
前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の波長が、500nm以上2500nm以下である、
請求項1から6の何れかに記載の複合材の分断方法。
【請求項8】
前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光のパルス幅が、350フェムト秒以上10000フェムト秒以下である、
請求項1から7の何れかに記載の複合材の分断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材を分断する方法に関する。特に、本発明は、分断後の脆性材料層の端面にクラックが生じ難く、且つ分断後の複合材(複合材片)に十分な曲げ強度が得られる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビやパーソナルコンピュータに用いられる画像表示装置の最表面側には、多くの場合、画像表示装置を保護するための保護材が配置されている。保護材として、代表的には、ガラス板が使用されている。
しかしながら、スマートフォン、スマートウォッチ、車載ディスプレイ等に用いられる画像表示装置のように、画像表示装置の小型化、薄型化、軽量化に伴い、保護機能と光学機能とを兼ね備える薄型の保護材に対する要望が高まっている。このような保護材としては、例えば、保護機能を奏するガラス等の脆性材料層と、光学機能を奏する偏光フィルム等の樹脂層とが積層された複合材が挙げられる。この複合材は、用途に応じた所定形状・所定寸法に分断する必要がある。
【0003】
従来、脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材を分断する方法として、特許文献1に記載の方法が提案されている。
特許文献1に記載の方法は、CO2レーザ光源等のレーザ光源から発振したレーザ光を複合材の分断予定線に沿って樹脂層に照射して樹脂層を形成する樹脂を除去することで、分断予定線に沿った加工溝を形成する樹脂除去工程と、樹脂除去工程の後、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を分断予定線に沿って脆性材料層に照射して脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、分断予定線に沿った加工痕を形成する脆性材料除去工程と、を含み、加工痕が脆性材料層を貫通する貫通孔である。
特許文献1に記載の方法によれば、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を用いて脆性材料層を形成する脆性材料を除去するため、分断後の脆性材料層の端面にクラックが生じ難いという利点が得られる。
【0004】
また、特許文献1に記載の方法でも、分断後の複合材に所定の曲げ強度が得られる。しかしながら、より一層十分な曲げ強度が得られることが望まれている。
【0005】
なお、非特許文献1には、超短パルスレーザ光を用いた加工技術において、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することが記載されている。
また、非特許文献2には、薄ガラス基板の2点曲げ応力について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】ジョン ロペス(John Lopez)他、“超短パルスベッセルビームを用いたガラス切断(GLASS CUTTING USING ULTRASHORT PULSED BESSEL BEAMS)”、[online]、2015年10月、International Congress on Applications of Lasers & Electro-Optics (ICALEO)、[令和2年7月17日検索]、インターネット(URL:https://www.researchgate.net/publication/284617626_GLASS_CUTTING_USING_ULTRASHORT_PULSED_BESSEL_BEAMS)
【文献】Suresh T. Gulati他、“Two Point Bending of Thin Glass Substrate”、2011年、SID 11 DIGEST、p.652-654
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、分断後の脆性材料層の端面にクラックが生じ難く、且つ分断後の複合材(複合材片)に十分な曲げ強度が得られる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の照射位置における樹脂層の厚みが所定値以上(5μm以上)ある状態で、レーザ光の焦点を樹脂層の脆性材料層との界面近傍に設定し、脆性材料層側から分断予定線に沿ってレーザ光を照射することで、脆性材料層の樹脂層側のみの脆性材料が除去されて、分断予定線に沿って一体的に繋がったスクライブ溝が形成されることを見出した。そして、このスクライブ溝を起点として複合材が分断され、分断後の脆性材料層の端面にクラックが生じ難く、且つ分断後の複合材に十分な曲げ強度が得られることを見出した。
本発明は、上記本発明者らの知見に基づき、完成したものである。
【0010】
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、脆性材料層と樹脂層とが積層された複合材を分断する方法であって、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を前記脆性材料層側から前記複合材の分断予定線に沿って照射して前記脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、前記分断予定線に沿って一体的に繋がったスクライブ溝を形成する脆性材料除去工程と、レーザ光源から発振したレーザ光を前記分断予定線に沿って前記樹脂層に照射して前記樹脂層を形成する樹脂を除去する樹脂除去工程と、を含み、前記脆性材料除去工程において、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の焦点を前記樹脂層の前記脆性材料層との界面近傍に設定し、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の照射位置における前記樹脂層の厚みが5μm以上ある状態で前記超短パルスレーザ光源からレーザ光を発振し、前記樹脂層側で開口し且つ前記脆性材料層を非貫通である前記スクライブ溝を形成する、複合材の分断方法を提供する。
【0011】
本発明に係る複合材の分断方法によれば、脆性材料除去工程において、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を照射して脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、脆性材料層にスクライブ溝を形成するため、このスクライブ溝を起点として複合材が分断され、分断後の脆性材料層の端面(複合材の厚み方向(脆性材料層と樹脂層との積層方向)に直交する方向の端面)にクラックが生じ難い。
また、本発明に係る複合材の分断方法によれば、脆性材料除去工程で形成するスクライブ溝が、樹脂層側で開口し、且つ、脆性材料層を非貫通である。換言すれば、脆性材料除去工程において、脆性材料層の樹脂層側のみの脆性材料を除去してスクライブ溝を形成する。したがって、このスクライブ溝を起点として複合材が分断され、本発明者らが知見したように、分断後の複合材に十分な曲げ強度を得ることができる。
本発明によってスクライブ溝が形成されるメカニズムは必ずしも明確ではないが、レーザ光の焦点を樹脂層の脆性材料層との界面近傍に設定することで、レーザ光のエネルギーが樹脂層の脆性材料層との界面近傍に集中的に吸収されて発熱し、その熱が脆性材料層に伝導することで、伝導した箇所の脆性材料が除去されてスクライブ溝が形成される、と本発明者らは推定している。
【0012】
なお、本発明に係る複合材の分断方法において、「レーザ光を前記脆性材料層側から前記複合材の分断予定線に沿って照射」とは、複合材の厚み方向(脆性材料層と樹脂層との積層方向)から見て、脆性材料層側から分断予定線に沿ってレーザ光を複合材に照射することを意味する。また、本発明に係る複合材の分断方法において、「レーザ光を前記分断予定線に沿って前記樹脂層に照射」とは、複合材の厚み方向から見て、分断予定線に沿ってレーザ光を樹脂層に照射することを意味する。
また、本発明に係る複合材の分断方法において、「前記樹脂層の前記脆性材料層との界面近傍」とは、樹脂層と脆性材料層との界面そのもの、及び、界面に近い樹脂層の部位(例えば、複合材の厚み方向について、界面からの距離が20μm以下、好ましくは10μm以下の部位)を意味する。「前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の焦点を前記樹脂層の前記脆性材料層との界面近傍に設定」とは、複合材の厚み方向についてのレーザ光の焦点の位置を樹脂層の脆性材料層との界面近傍に設定することを意味する。
さらに、本発明に係る複合材の分断方法において、樹脂除去工程において用いるレーザ光源の種類は、発振したレーザ光で樹脂層を形成する樹脂を除去できるものである限りにおいて、特に限定されるものではない。ただし、複合材に対するレーザ光の相対的な移動速度(加工速度)を高めることが可能である点で、赤外域の波長のレーザ光を発振するCO2レーザ光源やCOレーザ光源を用いることが好ましい。
【0013】
本発明に係る複合材の分断方法では、樹脂除去工程を先に実行した後、脆性材料除去工程を実行することも可能である。ただし、この場合、樹脂除去工程において、分断予定線に沿って樹脂を完全に除去することができず、5μm以上の厚み分だけ、敢えて樹脂を残す必要が生じる。樹脂の残量は、樹脂除去工程でレーザ光源から発振するレーザ光のパワーや複合材に対するレーザ光の相対的な移動速度(加工速度)等に依存して変化し得るため、その調整に手間が掛かる一方、樹脂を過度に残すと、複合材の分断に支障が生じるおそれがある。
このため、本発明に係る複合材の分断方法において、前記脆性材料除去工程の後に、前記樹脂除去工程を実行することが好ましい。
上記の好ましい方法によれば、先に実行する脆性材料除去工程によってスクライブ溝が形成されるため、スクライブ溝が形成された後に実行する樹脂除去工程において、分断予定線に沿って樹脂を完全に除去しても支障がない。このため、レーザ光のパワー等の調整に手間が掛かったり、複合材の分断に支障が生じるおそれを回避可能である。
【0014】
好ましくは、本発明に係る複合材の分断方法は、前記脆性材料除去工程及び前記樹脂除去工程の後に、前記分断予定線に沿って外力を加えることで、前記複合材を分断する複合材分断工程を更に含む。
上記の好ましい方法によれば、複合材を確実に分断することが可能である。
【0015】
本発明者らの知見によれば、スクライブ溝の深さが小さいほど、分断後の複合材に十分な曲げ強度を得ることができる一方、スクライブ溝の深さが小さすぎると、複合材の分断に支障が生じる。
したがって、本発明に係る複合材の分断方法において、前記スクライブ溝の深さが、3μm以上50μm以下であることが好ましい。下限は5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。上限は30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがより好ましく、18μm以下であることがより好ましく、16μm以下であることがさらに好ましい。
なお、上記の好ましい方法において、「スクライブ溝の深さ」は、スクライブ溝の樹脂層側の端(スクライブ溝の開口端)と、スクライブ溝の脆性材料層側の底部(スクライブ溝の開口端と反対側の端)との距離を意味する。また、上記の好ましい方法において、「前記スクライブ溝の深さが、3μm以上50μm以下である」とは、分断予定線に沿ったスクライブ溝の深さの平均値が、3μm以上50μm以下であることを意味する。
【0016】
また、本発明に係る複合材の分断方法において、前記スクライブ溝の深さが、前記脆性材料層の厚みの10%以上50%以下であることが好ましい。下限は15%以上であることがより好ましい。上限は35%以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明に係る複合材の分断方法において、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の波長は、例えば、500nm以上2500nm以下である。
【0018】
本発明に係る複合材の分断方法において、前記超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光のパルス幅は、例えば、350フェムト秒以上10000フェムト秒以下である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分断後の脆性材料層の端面にクラックが生じ難く、且つ分断後の複合材に十分な曲げ強度を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る複合材の分断方法の手順を模式的に説明する説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る複合材の分断方法の手順を模式的に説明する説明図である。
【
図3】
図1に示す超短パルスレーザ光源から発振するレーザ光の焦点の設定方法の一例を模式的に説明する説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る分断方法の複合材分断工程で分断された後の複合材片の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】実施例1に係る試験の概要を模式的に説明する図である。
【
図6】実施例1、2及び比較例1、2に係る試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る複合材の分断方法(以下、適宜、単に「分断方法」という)について説明する。
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る複合材の分断方法の手順を模式的に説明する説明図である。
図1(a)は本実施形態に係る分断方法の脆性材料除去工程を示す断面図であり、
図1(b)は本実施形態に係る分断方法の樹脂除去工程を示す断面図であり、
図1(c)は本実施形態に係る分断方法の複合材分断工程を示す断面図である。
図2(a)は本実施形態に係る分断方法の脆性材料除去工程後の複合材を示す上平面図(脆性材料層側から見た平面図)であり、
図2(b)は本実施形態に係る分断方法の樹脂除去工程後の複合材を示す下平面図(樹脂層側から見た平面図)である。
本実施形態に係る分断方法は、脆性材料層1と樹脂層2とが積層された複合材10を厚み方向(脆性材料層1と樹脂層2との積層方向、
図1の上下方向、Z方向)に分断する方法である。
【0022】
脆性材料層1と樹脂層2とは、任意の適切な方法によって積層される。例えば、脆性材料層1と樹脂層2とは、いわゆるロール・ツー・ロール方式によって積層可能である。すなわち、長尺の脆性材料層1と長尺の樹脂層2とを長手方向に搬送しながら、互いの長手方向を揃えるようにして互いに貼り合わせることで、脆性材料層1と樹脂層2とを積層可能である。また、脆性材料層1と樹脂層2とをそれぞれ所定形状に切断した後、積層することも可能である。脆性材料層1と樹脂層2とは、代表的には、任意の適切な粘着剤や接着剤を介して積層される。
【0023】
脆性材料層1を形成する脆性材料としては、ガラス、及び単結晶又は多結晶シリコンを例示できる。
ガラスとしては、組成による分類によれば、ソーダ石灰ガラス、ホウ酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラス、及びサファイアガラスを例示できる。また、アルカリ成分による分類によれば、無アルカリガラス、低アルカリガラスを例示できる。ガラスのアルカリ金属成分(例えば、Na2O、K2O、Li2O)の含有量は、好ましくは15重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0024】
脆性材料層1の厚みは、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下であり、更に好ましくは120μm以下であり、特に好ましくは100μm以下である。一方、脆性材料層1の厚みは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは20μm以上であり、更に好ましくは30μm以上である。脆性材料層1の厚みがこのような範囲であれば、ロール・ツー・ロール方式による樹脂層2との積層が可能になる。
【0025】
脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の波長550nmにおける光透過率は、好ましくは85%以上である。脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の波長550nmにおける屈折率は、好ましくは1.4~1.65である。脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の密度は、好ましくは2.3g/cm3~3.0g/cm3であり、より好ましくは2.3g/cm3~2.7g/cm3である。
【0026】
脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1として、市販のガラス板をそのまま用いてもよく、市販のガラス板を所望の厚みになるように研磨して用いてもよい。市販のガラス板としては、例えば、コーニング社製「7059」、「1737」又は「EAGLE2000」、旭硝子社製「AN100」、NHテクノグラス社製「NA-35」、日本電気硝子社製「OA-10」、ショット社製「D263」又は「AF45」が挙げられる。
【0027】
樹脂層2としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネート(PC)、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリアミド(PA)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、各種樹脂製発泡体などのプラスチック材料で形成された単層フィルム、又は複数の層からなる積層フィルムを例示できる。
【0028】
樹脂層2が複数の層からなる積層フィルムである場合、層間に、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などの各種粘着剤や、エポキシ系接着剤などの各種接着剤が介在してもよい。また、樹脂層2の表面に、上記のような粘着剤や接着剤からなる粘着剤層や接着剤層が形成されていてもよい。
また、樹脂層2の表面に、酸化インジウムスズ(ITO)、Ag、Au、Cuなどの導電性の無機膜が形成されていてもよい。
本実施形態に係る分断方法は、特に樹脂層2がディスプレイに用いられる偏光フィルム、表面保護フィルム、位相差フィルム等の各種光学フィルムである場合に好適に用いられる。
樹脂層2の厚みは、好ましくは20~500μmである。
【0029】
なお、
図1に示す例では、樹脂層2が、PET等で形成された基材フィルム21と基材フィルム21の片面に形成された粘着剤層22とから構成される表面保護フィルムであり、複合材10が、粘着剤層22を介して脆性材料層1と樹脂層2とが積層された構成である例を図示している。
【0030】
本実施形態に係る分断方法は、脆性材料除去工程と、樹脂除去工程と、複合材分断工程と、を含んでいる。以下、各工程について順に説明する。
【0031】
<脆性材料除去工程>
図1(a)及び
図2(a)に示すように、脆性材料除去工程では、超短パルスレーザ光源20から発振(パルス発振)したレーザ光(超短パルスレーザ光)L1を脆性材料層1側から複合材10の分断予定線に沿って照射して脆性材料層1を形成する脆性材料を除去することで、分断予定線に沿って一体的に繋がったスクライブ溝11を形成する。
図1及び
図2に示す例では、複合材10の面内(XY2次元平面内)の直交する2方向(X方向及びY方向)のうち、Y方向に延びる直線DLが分断予定線である場合を図示している。分断予定線DLは、視覚的に認識できる表示として実際に複合材10に描くことも可能であるし、レーザ光L1と複合材10とのXY2次元平面上での相対的な位置関係を制御する制御装置(図示せず)にその座標を予め入力しておくことも可能である。
図1及び
図2に示す分断予定線DLは、制御装置にその座標が予め入力されており、実際には複合材10に描かれていない仮想線である。なお、分断予定線DLは、直線に限るものではなく、曲線であってもよい。複合材10の用途に応じて分断予定線DLを決定することで、複合材10を用途に応じた任意の形状に分断可能である。
【0032】
レーザ光L1を複合材10の分断予定線DLに沿って照射する態様(レーザ光L1を走査する態様)としては、例えば、枚葉状の複合材10をXY2軸ステージ(図示せず)に載置して固定(例えば、吸着固定)し、制御装置からの制御信号によってXY2軸ステージを駆動することで、レーザ光L1に対する複合材10のXY2次元平面上での相対的な位置を変更することが考えられる。また、複合材10の位置を固定し、制御装置からの制御信号によって駆動するガルバノミラーやポリゴンミラーを用いて超短パルスレーザ光源20から発振したレーザ光L1を偏向させることで、複合材10に照射されるレーザ光L1のXY2次元平面上での位置を変更することも考えられる。更には、上記のXY2軸ステージを用いた複合材10の走査と、ガルバノミラー等を用いたレーザ光L1の走査との双方を併用することも可能である。
【0033】
脆性材料層1を形成する脆性材料は、超短パルスレーザ光源20から発振したレーザ光L1のフィラメンテーション現象を利用して、或いは、超短パルスレーザ光源20にマルチ焦点光学系(図示せず)又はベッセルビーム光学系(図示せず)を適用することで、除去される。
なお、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することについては、前述の非特許文献1に記載されている。また、ドイツのTrumpf社から、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系を適用したガラス加工に関する製品が販売されている。このように、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することについては公知であるため、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0034】
超短パルスレーザ光源20から発振するレーザ光L1の波長は、脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合に高い光透過率を示す500nm以上2500nm以下であることが好ましい。非線形光学現象(多光子吸収)を効果的に引き起こすため、レーザ光L1のパルス幅は、100ピコ秒以下であることが好ましく、50ピコ秒以下であることがより好ましい。レーザ光L1のパルス幅は、例えば、350フェムト秒以上10000フェムト秒以下に設定される。レーザ光L1の発振形態は、シングルパルス発振でも、バーストモードのマルチパルス発振でもよい。
【0035】
脆性材料除去工程では、超短パルスレーザ光源20から発振するレーザ光L1の焦点を樹脂層2の脆性材料層1との界面近傍に設定している。これにより、脆性材料除去工程で形成するスクライブ溝11は、樹脂層2側で開口し且つ脆性材料層1を非貫通(樹脂層2側と反対側では開口していない)になっている。換言すれば、脆性材料除去工程において、脆性材料層1の樹脂層2側のみの脆性材料を除去してスクライブ溝11を形成している。
以下、この点について、より具体的に説明する。
【0036】
図3は、超短パルスレーザ光源20から発振するレーザ光L1の焦点の設定方法の一例を模式的に説明する説明図である。
図3に示す例では、超短パルスレーザ光源20にマルチ焦点光学系を適用している。具体的には、
図3に示すマルチ焦点光学系は、3つのアキシコンレンズ21a、21b、21cで構成されている。
図3に示すように、超短パルスレーザ光源20から発振するレーザ光L1の空間強度分布をガウシアン分布と仮定すれば、比較的強度の高い点Aから点Bまでの範囲で発振したレーザ光L1は、
図3において破線で示す光路を辿って、焦点AFで収束する。本実施形態の脆性材料除去工程において、樹脂層2の脆性材料層1との界面近傍に設定する焦点は、点Aから点Bまでの比較的強度の高い範囲で発振したレーザ光L1が収束する焦点AFである。点Aから点Bまでの範囲は、例えば、レーザ光L1の空間強度分布の最大強度の90%以上の強度となる範囲である。
脆性材料除去工程では、このレーザ光L1の焦点AFの位置が樹脂層2の脆性材料層1との界面近傍、具体的には、界面から距離Hの位置となるように、焦点AFと複合材10との位置関係を調整する。この距離Hは、好ましくは0μm~20μm、より好ましくは0μm~10μmに設定される。
焦点AFにおけるレーザ光L1のスポット径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下に設定される。
【0037】
なお、レーザ光L1のフィラメンテーション現象を利用する場合には、レーザ光L1が脆性材料層1を透過する際、カー効果によって自己収束することで、進行するほどスポット径が小さくなる。そして、脆性材料層1にアブレーションが生じるエネルギー閾値までレーザ光L1が収束したときに、脆性材料層1の脆性材料が除去されてスクライブ溝11が形成されることになる。上記のように、アブレーションが生じるエネルギー閾値までレーザ光L1が収束する位置(前述の焦点AFに相当)を樹脂層2の脆性材料層1との界面近傍に設定することで、樹脂層2側で開口し且つ脆性材料層1を非貫通であるスクライブ溝11を形成可能である。
【0038】
超短パルスレーザ光源20から発振するレーザ光L1のパワーを調整することで、スクライブ溝11を形成する(脆性材料を除去する)のに用いられるエネルギーの強弱(点Aから点Bまでの範囲の強度の大小)を調整することが可能である。これにより、スクライブ溝11の深さを調整することが可能である。
スクライブ溝11の深さが小さいほど、分断後の複合材10に十分な曲げ強度を得ることができる一方、スクライブ溝11の深さが小さすぎると、後述の複合材分断工程での複合材10の分断に支障が生じる。
このため、スクライブ溝11の深さは、好ましくは3μm以上50μm以下である。下限は5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。上限は30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがより好ましく、18μm以下であることがより好ましく、16μm以下であることがさらに好ましい。脆性材料層1の厚みが小さい場合(例えば、厚みが50μm以下の場合)、スクライブ溝11の深さは、3μm以上20μm以下であることが好ましい。
また、スクライブ溝11の深さは、好ましくは脆性材料層1の厚みの10%以上50%以下である。下限は15%以上であることがより好ましい。上限は35%以下であることがより好ましい。
【0039】
<樹脂除去工程>
本実施形態の樹脂除去工程は、脆性材料除去工程の後に実行される。
図1(b)及び
図2(b)に示すように、樹脂除去工程では、レーザ光源30から発振したレーザ光L2を複合材10の分断予定線DLに沿って樹脂層2に照射して樹脂層2を形成する樹脂を除去する。これにより、分断予定線DLに沿った加工溝23が形成される。
レーザ光L2を分断予定線DLに沿って照射する態様(レーザ光L2を走査する態様)としては、前述のレーザ光L1を分断予定線DLに沿って照射する態様と同じ態様を採用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0040】
本実施形態では、レーザ光源30として、発振するレーザ光L2の波長が赤外域の9~11μmであるCO2レーザ光源を用いている。
ただし、本発明はこれに限るものではなく、レーザ光源30として、発振するレーザ光L2の波長が5μmであるCOレーザ光源を用いることも可能である。
また、レーザ光源30として、可視光及び紫外線(UV)パルスレーザ光源を用いることも可能である。可視光及びUVパルスレーザ光源としては、発振するレーザ光L2の波長が532nm、355nm、349nm又は266nm(Nd:YAG、Nd:YLF、又はYVO4を媒質とする固体レーザ光源の高次高調波)であるもの、発振するレーザ光L2の波長が351nm、248nm、222nm、193nm又は157nmであるエキシマレーザ光源、発振するレーザ光L2の波長が157nmであるF2レーザ光源を例示できる。
また、レーザ光源30として、発振するレーザ光L2の波長が紫外域以外であり、なお且つパルス幅がフェムト秒又はピコ秒オーダーのパルスレーザ光源を用いることも可能である。このパルスレーザ光源から発振するレーザ光L2を用いれば、多光子吸収過程に基づくアブレーション加工を誘発可能である。
さらに、レーザ光源30として、発振するレーザ光L2の波長が赤外域である半導体レーザ光源やファイバーレーザ光源を用いることも可能である。
前述のように、本実施形態では、レーザ光源30としてCO2レーザ光源を用いているため、以下、レーザ光源30を「CO2レーザ光源30」と称する。
【0041】
CO2レーザ光源30の発振形態は、パルス発振でも連続発振でもよい。レーザ光L2の空間強度分布は、ガウシアン分布でもよいし、レーザ光L2の除去対象外である脆性材料層1のダメージを抑制するため、回折光学素子(図示せず)等を用いて、フラットトップ分布に整形してもよい。レーザ光L2の偏光状態に制約はなく、直線偏光、円偏光及びランダム偏光の何れであってもよい。
【0042】
レーザ光L2を複合材10の分断予定線DLに沿って樹脂層2(基材フィルム21及び粘着剤層22)に照射することで、樹脂層2を形成する樹脂のうち、レーザ光L2が照射された樹脂(基材フィルム21及び粘着剤層22のレーザ光L2が照射された部分)の赤外光吸収に伴う局所的な温度上昇が生じて当該樹脂が飛散することで、当該樹脂が複合材10から除去され、複合材10に加工溝23が形成される。複合材10から除去される樹脂の飛散物が複合材10に再付着することを抑制するには、分断予定線DL近傍に集塵機構を設けることが好ましい。加工溝23の溝幅が大きくなるのを抑制するには、樹脂層2への照射位置におけるスポット径が300μm以下となるようにレーザ光L2を集光することが好ましく、スポット径が200μm以下となるようにレーザ光L2を集光することがより好ましい。
【0043】
なお、レーザ光L2が照射された樹脂の赤外光吸収に伴う局所的な温度上昇を原理とする樹脂の除去方法の場合、樹脂の種類や樹脂層2の層構造に関わらず、樹脂層2の厚みによって、加工溝23を形成するのに必要な投入エネルギーを概ね見積もることが可能である。具体的には、加工溝23を形成するのに必要な以下の式(1)で表わされる投入エネルギーを、樹脂層2の厚みに基づき、以下の式(2)によって見積もることが可能である。
投入エネルギー[mJ/mm]=レーザ光L2の平均パワー[mW]/加工速度[mm/sec] ・・・(1)
投入エネルギー[mJ/mm]=0.5×樹脂層2の厚み[μm] ・・・(2)
実際に設定する投入エネルギーは、上記の式(2)で見積もった投入エネルギーの20%~180%に設定することが好ましく、50%~150%に設定することがより好ましい。このように見積もった投入エネルギーに対してマージンを設けるのは、樹脂層2を形成する樹脂の光吸収率(レーザ光L2の波長における光吸収率)や、樹脂の融点・分解点等の熱物性の違いによって、加工溝23を形成するのに必要な投入エネルギーに差異が生じることを考慮しているからである。具体的には、例えば、本実施形態に係る分断方法を適用する複合材10のサンプルを用意し、上記の好ましい範囲内の複数の投入エネルギーでこのサンプルの樹脂層2に加工溝23を形成する予備試験を行って、適切な投入エネルギーを決定すればよい。
【0044】
本実施形態の樹脂除去工程では、レーザ光源30から発振したレーザ光L2を樹脂層2側から樹脂層2に照射している。
図1(a)、(b)に示す例では、樹脂層2に対向するように、CO
2レーザ光源30を複合材10に対してZ方向下側に配置し、脆性材料層1に対向するように、超短パルスレーザ光源20を複合材10に対してZ方向上側に配置している。そして、脆性材料除去工程において超短パルスレーザ光源20から発振したレーザ光L1でスクライブ溝11を形成した後、レーザ光L1の発振を停止し、樹脂除去工程においてCO
2レーザ光源30から発振したレーザ光L2で加工溝23を形成している。
しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、超短パルスレーザ光源20及びCO
2レーザ光源30を複合材10に対していずれも同じ側(Z方向上側又は下側)に配置し、脆性材料除去工程では脆性材料層1を超短パルスレーザ光源20に対向させ、樹脂除去工程では樹脂層2がCO
2レーザ光源30に対向するように複合材10の上下を反転させる方法を採用することも可能である。
【0045】
樹脂除去工程では、後述の複合材分断工程での複合材10の分断に支障が生じない限り、形成された加工溝23の底部に樹脂の残渣が生じてもよい。
ただし、複合材10を確実に分断するには、樹脂除去工程で形成した加工溝23をクリーニングすることで、樹脂層2を形成する樹脂の残渣を除去するクリーニング工程を更に含むことが好ましい。
クリーニング工程では、各種ウェット方式及びドライ方式のクリーニング方法を適用可能である。ウェット方式のクリーニング方法としては、薬液浸漬、超音波洗浄、ドライアイスブラスト、マイクロ及びナノファインバブル洗浄を例示できる。ドライ方式のクリーニング方法としては、レーザ、プラズマ、紫外線、オゾンなどを用いることが可能である。
【0046】
<複合材分断工程>
図1(c)に示すように、複合材分断工程では、脆性材料除去工程及び樹脂除去工程の後に、分断予定線DLに沿って外力を加えることで、複合材10を分断する。
図1(c)に示す例では、複合材10は、複合材片10a、10bに分断される。
複合材10への外力の付加方法としては、機械的なブレイク(山折り)、赤外域レーザ光による切断予定線DLの近傍部位の加熱、超音波ローラによる振動付加、吸盤による吸着及び引き上げ等を例示できる。山折りによって複合材10を分断する場合には、スクライブ溝11が形成された脆性材料層1の樹脂層2側を起点として分断されるように、樹脂層2側が凸となる(脆性材料層1側が凹となる)ように外力を加えることが好ましい。
【0047】
図4は、本実施形態に係る分断方法の複合材分断工程で分断された後の複合材片10a、10bの構成を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、複合材片10a、10bは、その脆性材料層1の一の端面(分断した端面)における樹脂層2側の第1部位12の表面粗さが、前記一の端面における樹脂層2と反対側の第2部位13の表面粗さよりも大きくなっている。第1部位12は、スクライブ溝11の形成された部位に相当し、第2部位13は、スクライブ溝11の形成されていない部位に相当する。したがって、第1部位12の厚み(脆性材料層1の厚み方向(Z方向)に沿った第1部位12の寸法)は、好ましくは脆性材料層1の厚みの10%以上40%以下である。下限は15%以上であることがより好ましい。上限は35%以下であることがより好ましい。
複合材片10a、10bの脆性材料層1の一の端面(分断した端面)は、樹脂層2の同じ側の端面(分断した端面)よりも前記一の端面側(
図4の紙面左側)に突出している。その突出量14は、CO
2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の樹脂層2への照射位置におけるスポット径に応じて変化するが、例えば、200μm以下や、100μm以下や、50μm以下である。突出量14の下限は、小さいほど好ましいが、例えば、1μm以上や、5μm以上である。
【0048】
以上に説明した本実施形態に係る分断方法によれば、脆性材料除去工程において、超短パルスレーザ光源20から発振したレーザ光L1を照射して脆性材料層1を形成する脆性材料を除去することで、脆性材料層1にスクライブ溝11を形成するため、複合材分断工程において、このスクライブ溝11を起点として複合材10が分断され、分断後の脆性材料層1の端面にクラックが生じ難い。
また、本実施形態に係る分断方法によれば、脆性材料除去工程で形成するスクライブ溝11が、樹脂層2側で開口し、且つ、脆性材料層1を非貫通である。換言すれば、脆性材料除去工程において、脆性材料層1の樹脂層2側のみの脆性材料を除去してスクライブ溝11を形成する。したがって、複合材分断工程において、このスクライブ溝11を起点として複合材10が分断され、分断後の複合材片10a、10bに十分な曲げ強度を得ることができる。
【0049】
なお、本実施形態では、脆性材料除去工程の後に樹脂除去工程を実行しているが、本発明はこれに限るものではなく、樹脂除去工程の後に脆性材料除去工程を実行することも可能である。換言すれば、加工溝23を形成した後にスクライブ溝11を形成することも可能である。
ただし、この場合、脆性材料除去工程では、超短パルスレーザ光源20から発振するレーザ光L1の焦点AFを樹脂層2の脆性材料層1との界面近傍に設定するため、脆性材料除去工程を実行する時点で、加工溝23の底部に樹脂の残渣が生じている必要がある。具体的には、この樹脂の残渣の厚み(すなわち、超短パルスレーザ光源20から発振するレーザ光L1の照射位置における樹脂層2の厚み)が5μm以上ある状態で、脆性材料除去工程を実行する必要がある。
【0050】
以下、本実施形態に係る分断方法(実施例1、2)及び比較例(比較例1、2)に係る分断方法を用いて複合材10を分断する試験を行った結果の一例について説明する。
【0051】
<実施例1>
図5は、実施例1に係る試験の概要を模式的に説明する図である。以下、
図1~
図3及び
図5を適宜参照しつつ、実施例1に係る試験の概要について説明する。
実施例1で用いた複合材10において、脆性材料層1は、無アルカリガラスから形成され、厚みが30μmである。また、樹脂層2は、表面保護フィルムであり、総厚みが58μmである。具体的には、この表面保護フィルムは、厚み38μmのPETフィルムを基材フィルム21として、その片面にアクリル系粘着剤を塗布して乾燥させ、乾燥後の厚みが20μmの粘着剤層(アクリル系粘着剤層)22を形成したものである。複合材10は、粘着剤層22を介して脆性材料層1と樹脂層2とが積層された構成である。
図5(a)に示すように、複合材10は、面内(XY2次元平面内)寸法が150mm×150mmの正方形状である。
図5(a)に破線で示す直線は分断予定線である。
【0052】
実施例1では、最初に、脆性材料除去工程を実行し、次に、樹脂除去工程を実行し、最後に、複合材分断工程を実行した。
【0053】
脆性材料除去工程では、超短パルスレーザ光源20として、コヒレント社製「Monaco 1035-80-60」(発振波長1035nm、レーザ光L1のパルス幅350~10000フェムト秒、パルス発振の繰り返し周波数最大50MHz、平均パワー60W)を用い、超短パルスレーザ光源20から所定の出力で発振したレーザ光L1をマルチ焦点光学系を介して、脆性材料層1側から複合材10に照射した。レーザ光L1の焦点AF(
図3参照)は、樹脂層2の粘着剤層22の厚み方向中央(脆性材料層1との界面から10μmの位置、すなわち、距離H=10μm)に設定した。複合材10に対するレーザ光L1の相対的な移動速度(加工速度)を125mm/sec、パルス発振の繰り返し周波数を125kHzとし、
図5(a)に示すように、面内寸法が110mm×60mmの複合材片10cを分断できるように、分断予定線に沿ってレーザ光L1を走査したところ、脆性材料層1に、深さ(平均値)が10μmで、溝幅が3μm程度の、分断予定線に沿って一体的に繋がったスクライブ溝11(
図1(a)、
図2(a)参照)が形成された。
【0054】
次に、樹脂除去工程では、CO
2レーザ光源30として、コヒレント社製「DIAMOND J-3-9.4」(発振波長9.4μm、パルス発振の繰り返し周波数15kHz、レーザ光L2のパワー13W、ガウシアンビーム)を用い、CO
2レーザ光源30から発振したレーザ光L2を集光レンズを用いてスポット径120μmに集光し、複合材10の樹脂層2に照射した。複合材10に対するレーザ光L2の相対的な移動速度(加工速度)を400mm/secとし、分断予定線に沿ってレーザ光L2を走査したところ、樹脂層2に溝幅150μmの加工溝23(
図1(b)、
図2(b)参照)が形成された。
なお、実施例1の樹脂除去工程において、前述の式(2)によって見積もられる投入エネルギーは、29mJ/mmである。これに対し、実際の投入エネルギーは、前述の式(1)より、33mJ/mmであり、見積もった投入エネルギーの114%である。
【0055】
最後に、複合材分断工程では、分断予定線に沿って、樹脂層2側が凸となる(脆性材料層1側が凹となる)ように、人手で複合材10を山折りすることで、複合材片10cを分断した。
【0056】
<実施例2>
実施例2で用いた複合材10において、脆性材料層1は、無アルカリガラスから形成され、厚みが100μmである。また、樹脂層2は、偏光フィルムの片面にエポキシ系接着剤を塗布して乾燥させ、乾燥後の厚みが1μmの接着剤層(エポキシ系接着剤層)を形成したものである。偏光フィルムとしては、接着剤層が形成される側から順に、TACフィルム(厚み40μm)/PVA系偏光子(厚み5μm)/アクリル系フィルム(厚み40μm)/アクリル系粘着剤層(厚み30μm)/セパレータ(PETフィルム、厚み38μm)の構成を有するものを用いた。複合材10は、接着剤層を介して脆性材料層1と樹脂層2とが積層された構成である。実施例2で用いた複合材10も、実施例1と同様に、面内(XY2次元平面内)寸法が150mm×150mmの正方形状である。
【0057】
実施例2では、脆性材料除去工程において、レーザ光L1の焦点AFを樹脂層2の接着剤層の厚み方向中央(脆性材料層1との界面から0.5μmの位置、すなわち、距離H=0.5μm)に設定した点を除き、実施例1と同様の条件で、スクライブ溝11を形成した。樹脂除去工程及び複合材分断工程も、実施例1と同様の条件で実行し、複合材片10cを分断した。
【0058】
<比較例1>
比較例1で用いた複合材10において、脆性材料層1は、実施例1と同様に、無アルカリガラスから形成され、厚みが30μmである。また、樹脂層2は、TACフィルム(厚み40μm)の片面にエポキシ系接着剤を塗布して乾燥させ、乾燥後の厚みが1μmの接着剤層(エポキシ系接着剤層)を形成したものである。複合材10は、接着剤層を介して脆性材料層1と樹脂層2とが積層された構成である。比較例1で用いた複合材10も、実施例1、2と同様に、面内(XY2次元平面内)寸法が150mm×150mmの正方形状である。
【0059】
比較例1では、最初に、樹脂除去工程を実行し、次に、脆性材料除去工程を実行し、最後に、複合材分断工程を実行した。
【0060】
樹脂除去工程では、CO2レーザ光源30として、コヒレント社製「DIAMOND J-3-9.4」(発振波長9.4μm、パルス発振の繰り返し周波数15kHz、レーザ光L2のパワー18W、ガウシアンビーム)を用い、CO2レーザ光源30から発振したレーザ光L2を集光レンズを用いてスポット径120μmに集光し、複合材10の樹脂層2に照射した。複合材10に対するレーザ光L2の相対的な移動速度(加工速度)を400mm/secとし、分断予定線に沿ってレーザ光L2を走査したところ、樹脂層2に溝幅150μmの加工溝23が形成された。加工溝23の底部に樹脂の残渣は生じていなかった。
なお、比較例1の樹脂除去工程において、前述の式(2)によって見積もられる投入エネルギーは、21mJ/mmである。これに対し、実際の投入エネルギーは、前述の式(1)より、45mJ/mmであり、見積もった投入エネルギーの214%である。
【0061】
次に、脆性材料除去工程では、超短パルスレーザ光源20として、発振波長1035nm、レーザ光L1のパルス幅8500フェムト秒、パルス発振の繰り返し周波数125kHz、平均パワー13Wのものを用い、超短パルスレーザ光源20から所定の出力で発振したレーザ光L1をマルチ焦点光学系を介して、加工溝23と反対側(脆性材料層1側)から複合材10に照射した。レーザ光L1の焦点AFは、脆性材料層1と樹脂層2との界面から脆性材料層1側に25μm離れた位置に設定した。複合材10に対するレーザ光L1の相対的な移動速度(加工速度)を125mm/secとし、分断予定線に沿ってレーザ光L1を走査したところ、脆性材料層1に、加工痕として、ピッチが1μmのミシン目状の貫通孔(直径0.7~0.9μm程度)が形成された。
【0062】
最後に、複合材分断工程では、実施例1、2と同様に、分断予定線に沿って、樹脂層2側が凸となる(脆性材料層1側が凹となる)ように、人手で複合材10を山折りすることで、複合材片10cを分断した。
【0063】
<比較例2>
比較例2で用いた複合材10の構成は、実施例2と同じである。
また、比較例2で実行した樹脂除去工程、脆性材料除去工程及び複合材分断工程の条件は、比較例1と同様である。
【0064】
<評価内容>
以上に説明した実施例1、2及び比較例1、2で得られた複合材片10cに対して、吸光度、曲げ強度及び分断歩留まりを評価した。以下、これら各評価項目の内容について説明する。
【0065】
[吸光度]
実施例1については、超短パルスレーザ光源20の発振波長1035nmに対する樹脂層2(総厚み58μm)の吸光度を測定した。実施例2、比較例1、2については、超短パルスレーザ光源20の発振波長1035nmに対する樹脂層2の接着剤層(厚み1μm)の吸光度を測定した。
具体的には、複合材片10cから上記の測定部位(実施例1については樹脂層2、実施例2、比較例1、2については接着剤層)を取り出し、日立社製分光光度計「U-4100」を用いて、波長1035nmの光を照射し、透過率(I/I0)を測定した。そして、以下の式(3)により、吸光度Aを算出した。
A=-log10(I/I0) ・・・(3)
【0066】
[曲げ強度]
曲げ強度を算出する際には、複合材片10cに2点曲げ試験を行った。2点曲げ試験においては、まず
図5(b)に示すように、固定部40、可動部50a、50bを具備する一軸ステージの固定部40に複合材片10cを載置し、可動部50a、50bの間に複合材片10cを挟み込んだ。この際、後述のように、可動部50bを移動させることで、複合材片10cの脆性材料層側が凸となって曲がるように(すなわち、脆性材料層1側が上側になるように)、固定部40に複合材片10cを載置した。次いで、
図5(c)に示すように、可動部50aの位置を固定する一方、可動部50bを20mm/minの速度で可動部50aに向けて移動させ、複合材片10cに曲げ応力を作用させた。そして、複合材片10cが破壊したときの可動部50aと可動部50bとの間隔Dの値によって、複合材片10cの曲げ強度を評価した。
【0067】
具体的には、非特許文献2に記載されている式(3)(以下の式(4)と同一)に上記の間隔Dを代入して、最大応力σ
maxを算出し、これを曲げ強度とした。
【数1】
上記の式(4)において、Eは複合材片10cのヤング率を、tは複合材片10cの厚みを、ψは複合材片10cの端の接線と鉛直方向(Z方向)との成す角度を意味する。
複合材片10cのヤング率Eとしては、脆性材料層1のヤング率である70GPaを用いた。樹脂層2のヤング率は脆性材料層1のヤング率に比べて十分に小さいため、複合材片10cのヤング率Eとしては脆性材料層1のヤング率が支配的になるからである。
また、角度ψは、2点曲げ試験を実行中に、
図5(c)に示すY方向から、複合材片10cの一端が視野内に位置するように複合材片10cを撮像して、複合材片10cが破壊する直前の撮像画像に基づき算出した。
【0068】
実施例1、2及び比較例1、2について、上記の曲げ強度(最大応力σmax)をそれぞれ10個の複合材片10cについて算出し、その平均値を算出した。
【0069】
[分断歩留まり]
複合材片10cの端面の品質を光学顕微鏡で観察し、脆性材料層1の4つの端面の全てにおいて、生じているクラックの長さが50μm以下であれば、「分断可能」と評価し、何れかの端面において、長さが50μmよりも大きなクラックが生じている場合には、「分断不可」と評価した。実施例1、2及び比較例1、2について、上記の評価をそれぞれ10個の複合材片10cについて行ない、以下の式(5)により、分断歩留まりを算出した。
分断歩留まり=「分断可能」な複合材片10cの個数/10×100
=「分断可能」な複合材片10cの個数×10[%] ・・・(5)
【0070】
<試験結果>
図6は、実施例1、2及び比較例1、2に係る試験の結果を示す図である。
図6に示すように、実施例1、2によれば、分断歩留まりを比較例1、2と同等の値に維持しつつ(すなわち、比較例1、2と同等に分断後の脆性材料層1の端面にクラックが生じ難く)、分断後の複合材片10cの曲げ強度が比較例1、2よりも高まることが分かった。
【符号の説明】
【0071】
1・・・脆性材料層
2・・・樹脂層
10・・・複合材
11・・・スクライブ溝
20・・・超短パルスレーザ光源
30・・・レーザ光源(CO2レーザ光源)
23・・・加工溝
AF・・・焦点
DL・・・分断予定線
L1・・・レーザ光
L2・・・レーザ光