IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ YKK株式会社の特許一覧

特許7561092スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法
<>
  • 特許-スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法 図1
  • 特許-スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法 図2
  • 特許-スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法 図3
  • 特許-スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法 図4
  • 特許-スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法 図5
  • 特許-スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法 図6
  • 特許-スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法 図7
  • 特許-スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】スライドファスナー用金属製エレメント、スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/06 20060101AFI20240926BHJP
   B21F 45/18 20060101ALI20240926BHJP
   B21D 28/14 20060101ALI20240926BHJP
   B21D 22/02 20060101ALI20240926BHJP
   A44B 19/42 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A44B19/06
B21F45/18
B21D28/14 B
B21D22/02 B
A44B19/42
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021101786
(22)【出願日】2021-06-18
(65)【公開番号】P2023000778
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】弁理士法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 恵一朗
(72)【発明者】
【氏名】馬瀬口 諒
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 力
(72)【発明者】
【氏名】川口 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】谷越 博文
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-237532(JP,A)
【文献】特開2008-132509(JP,A)
【文献】特開平8-164428(JP,A)
【文献】特開平4-305323(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0183246(US,A1)
【文献】国際公開第2010/089854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B19/00-19/64
B21D28/14
B21D22/02
B21F45/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛合頭部(2)と左右の脚部(3)とを備え、
左右の前記脚部(3)は、前記噛合頭部(2)から二又に延びる左右の脚部本体(31)と、左右の前記脚部本体(31)の先端部から互いに接近する方向に延びる左右の挟持部(32)とを備え、
左右の前記脚部本体(31)はその外側面に、一定の幅の範囲にわたり剪断面(4)のみを備え、破断面(5)を備えない部分を有することを特徴とするスライドファスナー用金属製エレメント(1)。
【請求項2】
前記一定の幅の範囲とは、左右の前記脚部本体(31)に挟まれるテープ(9)の芯部(91)に対応する範囲(S1、S2)であることを特徴とする請求項1に記載のスライドファスナー用金属製エレメント(1)。
【請求項3】
前記一定の幅の範囲とは、左右の前記脚部本体(31)の外側面全体(S7、S8)であることを特徴とする請求項2に記載のスライドファスナー用金属製エレメント(1)。
【請求項4】
前記噛合頭部(2)の外側面にも剪断面(4)のみを備え、破断面(5)を備えない部分を有することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のスライドファスナー用金属製エレメント(1)。
【請求項5】
金属板(7)をその厚み方向に塑性変形させて金属製エレメント(1)の噛合頭部(2)の噛合凸部(22)と噛合凹部(23)とを形作る凹凸形成用のプレス加工と、
前記凹凸形成用のプレス加工後の前記金属板(7)から製品となる前記金属製エレメント(1)を打ち抜く打抜き用のプレス加工とを備えるスライドファスナー用金属製エレメント(1)の製造方法において、
前記打抜き用のプレス加工は、金属製エレメント(1)の噛合頭部(2)の外形を形成しつつ前記噛合頭部(2)から二又に延びる左右の脚部本体(31)と左右の前記脚部本体(31)の先端部から互いに接近する方向に延びる左右の挟持部(32)とを備える左右の脚部(3)の外形を形成し、
前記打抜き用のプレス加工で用いるダイ(12)は、前記ダイ(12)の穴(h)の入口部(h1)であって且つ左右の前記脚部本体(31)の外側面に対応する部分のうちの一定の幅の範囲を傾斜面を備えた傾斜部とし、
前記傾斜面は前記穴(h)の奥に向かって前記穴(h)の幅を狭くする状態で前記穴(h)の深さ方向に対し傾斜することを特徴とするスライドファスナー用金属製エレメント(1)の製造方法。
【請求項6】
前記一定の幅の範囲とは、左右の前記脚部本体(31)に挟まれるテープ(9)の芯部(91)に対応する範囲であることを特徴とする請求項5に記載のスライドファスナー用金属製エレメント(1)の製造方法。
【請求項7】
前記一定の幅の範囲とは、左右の前記脚部本体(31)の外側面全体であることを特徴とする請求項5に記載のスライドファスナー用金属製エレメント(1)の製造方法。
【請求項8】
前記打抜き用のプレス加工で用いるダイ(12)は、前記ダイ(12)の穴(h)の入口部(h1)であって且つ前記噛合頭部(2)の外側面に対応する部分にも傾斜部を設けたことを特徴とする請求項5~7の何れかに記載のスライドファスナー用金属製エレメント(1)の製造方法。
【請求項9】
前記傾斜面は前記穴(h)の深さ方向に対し以下の関係式1を満たす角度θで傾斜しており、
関係式1は0°<θ≦30°であることを特徴とする請求項5~8の何れかに記載のスライドファスナー用金属製エレメント(1)の製造方法。
【請求項10】
前記傾斜面は前記穴(h)の深さ方向に対し以下の関係式1を満たす角度θで傾斜しており、
関係式1は10°≦θ≦28°であることを特徴とする請求項5~8の何れかに記載のスライドファスナー用金属製エレメント(1)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスライドファスナー用金属製エレメントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナー用金属製エレメントの製造方法の一例として、金属板をその厚み方向に塑性変形させて金属製エレメントの噛合頭部の噛合凸部と噛合凹部とを形作る凹凸形成用のプレス加工と、凹凸形成用のプレス加工後の金属板から製品となる金属製エレメントを打ち抜く打抜き用のプレス加工とを備えるものが知られている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示された製造方法によれば、打抜き用のプレス加工で用いられたダイの穴はその入口部に半径0.01~1.0mmの面取り加工が施され、入口部に対し奥側が深さ方向に平行に形成されている。そしてパンチとダイとの隙間を0.1~10μmとしてある。
【0004】
また特許文献1に開示された製造方法によれば、打ち抜かれた金属製エレメントの左右の脚部には剪断面と破断面とが必ず形成されている。詳しく言えば金属製エレメントは噛合頭部と左右脚部との外側面の全面を剪断面と破断面とで形成し、当該全面積に対する剪断面の割合を80%以上とし、全面積に対する破断面の割合を残りの20%未満としている。そして剪断面よりも破断面の方が表面粗さが粗いことから、全面積に対する剪断面の比率を大きくすることにより、金属製エレメントの外観を向上するようにしてある。
【0005】
図8には特許文献1に開示された金属製エレメントと同等のものが示されている。この図は、金属製エレメント1aの左側面に対しその上方から下方に向けて斜めに光を照射して撮像された映像を模写したものである。この図では左の脚部3aの外側面と噛合頭部2aの左側面が金属製エレメント1aの左側面として示されている。そして映像では金属製エレメントの側面は暗黒色部分と白色部分で形成されていた。暗黒色部分は剪断面であり、白色部分は破断面である。この図では、暗黒色部分(剪断面4a)を平行な等間隔の細線で表し、白色部分(破断面5a)を白色で表している(なお、これは金属製エレメント1aの側面だけに関する色分けであり、金属製エレメント1aの外側面以外の部分の白色が破断面5aを表しているわけではない。)。そしてこの図から分かるように、剪断面4aが左の脚部3aの外側面の大部分(右縁部を除く部分)を占め、破断面5aが左の脚部3aの外側面における残り僅かの部分(右縁部)を占めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-237532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情を考慮して創作されたもので、その目的は金属製エレメントの外側面の外観を更に向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスライドファスナー用金属製エレメントは、噛合頭部と左右の脚部とを備える。そして左右の脚部は、噛合頭部から二又に延びる左右の脚部本体と、左右の脚部本体の先端部から互いに接近する方向に延びる左右の挟持部とを備える。その上で左右の脚部本体はその外側面に、一定の幅の範囲にわたり剪断面のみを備え、破断面を備えない部分を有することにする。
【0009】
一定の幅の範囲とは例えば次の1)、2)のようにする。
1)一定の幅の範囲とは左右の脚部本体に挟まれるテープの芯部に対応する範囲である。
2)一定の幅の範囲とは左右の脚部本体の外側面全体である。
【0010】
また剪断面のみを備え、破断面を備えない部分は、脚部本体の外側面だけであるか否かを問わない。そして次のようにすることが望ましい。
すなわち噛合頭部の外側面にも剪断面のみを備え、破断面を備えない部分を有することである。
【0011】
本発明のスライドファスナー用金属製エレメントの製造方法は、金属板をその厚み方向に塑性変形させて金属製エレメントの噛合頭部の噛合凸部と噛合凹部とを形作る凹凸形成用のプレス加工と、凹凸形成用のプレス加工後の金属板から製品となる金属製エレメントを打ち抜く打抜き用のプレス加工とを備えることを前提とする。そして打抜き用のプレス加工は、金属製エレメントの噛合頭部の外形を形成しつつ噛合頭部から二又に延びる左右の脚部本体と左右の脚部本体の先端部から互いに接近する方向に延びる左右の挟持部とを備える左右の脚部の外形を形成する。
【0012】
そのうえで本発明のスライドファスナー用金属製エレメントの製造方法では、打抜き用のプレス加工で用いるダイは、ダイの穴の入口部であって且つ左右の脚部本体の外側面に対応する部分のうちの一定の幅の範囲を傾斜面を備えた傾斜部とし、傾斜面は穴の奥に向かって穴の幅を狭くする状態で穴の深さ方向に対し傾斜することを特徴とする。
【0013】
一定の幅の範囲とは例えば次の3)、4)のようにする。
3)一定の幅の範囲とは左右の脚部本体に挟まれるテープの芯部に対応する範囲である。
4)一定の幅の範囲とは左右の脚部本体の外側面全体である。
【0014】
また剪断面のみを備え、破断面を備えない部分は、脚部本体の外側面だけに形成するのか否かを問わない。そして次のようにすることが望ましい。
すなわち打抜き用のプレス加工で用いるダイは、ダイの穴の入口部であって且つ噛合頭部の外側面に対応する部分にも傾斜部を設けることである。
【0015】
傾斜面の詳細は問わないが、次のようにすることが望ましい。
すなわち傾斜面は穴の深さ方向に対し以下の関係式1を満たす角度θで傾斜しており、関係式1は0°<θ≦30°である。
より望ましくは関係式1は次の通りである。
関係式1は10°≦θ≦28°である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスライドファスナー用金属製エレメントは左右の脚部本体の外側面に一定の幅の範囲にわたって破断面を備えず、剪断面のみを備えるので、当該外側面に破断面を備える金属製エレメントに比べて、金属製エレメントの外観が向上する。
【0017】
また本発明のスライドファスナー用金属製エレメントの製造方法は、ダイの穴の入口部に傾斜面を備える傾斜部を形成し、その傾斜面を穴の奥に向かって穴の幅が狭くなる状態で穴の深さ方向に対し傾斜させてあるので、打抜き用のプレス加工では、傾斜面を通過する期間の間、左右の脚部本体の外側面のうち一定の幅の範囲は傾斜面に押し付けられた状態で形成されることになり、その結果、左右の脚部本体の外側面のうち一定の幅の範囲は金属製エレメントの厚み範囲内において破断することなく(千切れた跡が形成されることなく)剪断面のみが形成され、金属板から金属製エレメントを単に打ち抜くプレス加工を用いる製造方法に比べて、左右の脚部本体の外側面の外観が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態のスライドファスナー用金属製エレメントを示す斜視図である。
図2】(A)(B)図は左右の脚部が開いた状態と閉じた状態の金属製エレメントを対比して示す図面である。
図3】金属製エレメントの左側面図である。
図4】金属製エレメントが使用されたスライドファスナーを示す平面図である。
図5】本発明の第一実施形態のスライドファスナー用金属製エレメントの製造方法を示す平面図である。
図6図5のVI-VI線断面図である。
図7図5のVII-VII線断面図である。
図8】従来のスライドファスナー用金属製エレメントの一例を示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図4に示すようにスライドファスナー用金属製エレメント1は、一対のテープ9の対向する側縁部に間隔を開けて固定される。その結果、各テープ9の対向する側縁部にはその長手方向に沿って多数の金属製エレメント1が一列に並ぶ形になる。この一列に並んだ多数の金属製エレメント1をエレメント列と称する。対向する一対のエレメント列に沿って図示しないスライダーを一方向に移動させることによって、対向するエレメント列の金属製エレメント1同士が噛合って一対のテープ9が閉じ、スライダーを反対方向に移動させることによって、対向するエレメント列の金属製エレメント1同士の噛合いが解除されて一対のテープ9が開く。
【0020】
本発明の第一実施形態の金属製エレメント1は図1,2に示すように、他の金属製エレメント1に噛合う噛合頭部2と、テープ9の側縁部を挟む状態で取り付けられると共に噛合頭部2から二又に延びる一対の脚部3とから構成される。なお金属製エレメント1は例えばアルミニウム合金製である。
【0021】
ここで金属製エレメント1を説明するうえで必要とする方向を、図2を基準として以下のように定める。
「左右方向」とは一対の脚部3が離れている方向であり、図2での左右方向である。なお左右方向はテープ9の厚み方向に一致する。
「上方向」とは一対の脚部3に対する噛合頭部2の方向であり、図2での上方向である。
「下方向」とは噛合頭部2に対する一対の脚部3の方向であり、図2での下方向である。なお上下方向はテープ9の幅方向に一致する。
「前後方向」とは左右方向と上下方向とに直交する方向であり、図2での紙面に直交する方向である。また「前後方向」とは金属製エレメント1の厚み方向でもある。
【0022】
噛合頭部2は、頭部本体21と、頭部本体21の前後両面において相対的に凸凹する噛合凸部22と噛合凹部23とを備える。つまり噛合頭部2は、頭部本体21の前後両面において突出する噛合凸部22と、頭部本体21の前後両面において凹む噛合凹部23とを備える(図3参照)。なお、本実施形態では、頭部本体21の前後両面に噛合凸部22と噛合凹部23がある金属製エレメント1で説明しているが、頭部本体21の前後片面に噛合凹部のみがあり、もう片面に噛合凸部のみがあるタイプの金属製エレメントにも本発明は適用できるものである。
【0023】
頭部本体21は、その下部を左右の脚部3が接合する接合部25とし、接合部25よりも上側を接合部25の前後両面よりも段差状に凹んだ状態で上方に延びる平板部26としてある。
接合部25は前後両面において上側に向かって開口するU字状としてある。接合部25と左右の脚部3とにおいて金属製エレメント1の前後面(金属製エレメント1の厚み方向の両面)は平行な平面としてある。より詳しく言えば接合部25の前面と左右の脚部3の前面は面一の平面であり、つまり同一の平面上に位置しており、接合部25の後面と左右の脚部3の後面も面一の平面であり、接合部25の前面と左右の脚部3の前面に対して平行である。
平板部26は前後両面の中央部を噛合凸部22が突出する部分としてある。平板部26の前後両面のうち噛合凸部22よりも下側(脚部3側)は、噛合凸部22と接合部25よりも段差状に凹んだ面となっており、その結果、平板部26(頭部本体21)の前後両面には噛合凸部22と接合部25とで包囲された噛合凹部23が形成される。
【0024】
左右の脚部3は、噛合頭部2から二又に延びる左右の脚部本体31と、左右の脚部本体31の先端部(下端部)から互いに接近する方向に延びる左右の挟持部32とを備える。
図2(A)には金属製エレメント1をテープ9に取り付ける前の状態が示されている。この状態では左右の脚部本体31は下方に向かうにつれて左右の間隔が広がる形に形成される。
図2(B)には金属製エレメント1をテープ9に取り付けた状態が示されている。テープ9は、図示しないもう一方のテープ9に対向する側縁部をそれよりも反対側よりも厚く形成してある。この厚い部分を芯部9aと称する。一方、芯部9aに対し隣りに位置する厚みの薄い部分をテープ本体部9bと称する。つまりテープ9は、テープ本体部9bと、テープ本体部9bの幅方向の一端に隣接する芯部9aとを備える。
そしてテープ9に取り付けた状態では左右の脚部本体31はその外側面の大部分がほぼ上下方向に平行となる形に形成されると共に、その内側に芯部9aを収容する。左右の挟持部32はテープ本体部9bを挟んで芯部9aが抜け外れないように支持する。
また図2(B)に示す状態では金属製エレメント1は、上下方向に対向する面(上面と下面)をテープ9の厚み方向に対してほぼ平行とし、左右方向に対向する面(外側面)をテープ9の幅方向に対してほぼ平行としてある。そのうえで金属製エレメント1は、上面と左右の外側面とが交わる角部C1を円弧状に膨らむ形で滑らかに連続する湾曲面C1とし、下面と左右の外側面とが交わる角部C2も円弧状に膨らむ形で滑らかに連続する湾曲面C2としてある。
【0025】
上記した金属製エレメント1は、左右の脚部本体31の外側面に剪断面4のみからなる一定幅の範囲(以下、本明細書では「全剪断面範囲」と称する。)を備える。また金属製エレメント1は外側面のうち全剪断面範囲以外の部分については剪断面4と破断面5を備える。ここで金属製エレメント1の外側面に全剪断面範囲を設ける複数の例を以下で図2(B)を使って説明する。その前提として、金属製エレメント1をテープ9に取り付けた状態、つまり図2(B)の状態を基準とする。
【0026】
この基準の状態において金属製エレメント1の全剪断面範囲の第一例は左右の脚部本体31の外側面を対象とするもので、次の通りである。基準の状態では金属製エレメント1の左右の挟持部32にはテープ9のテープ本体部9bをその厚み方向に挟む平行な平面状の一対の挟持面32aが形成される。この挟持面32aのうち最も芯部9a側の端点からテープ9の厚み方向に仮想線L1を引く。この仮想線L1が左右の脚部本体31の全剪断面範囲とそれ以外の部分とを分ける第一の境界線L1である。
【0027】
図2(B)に示す基準の状態において、左右の脚部3の間に形成された空間のうちテープ9の幅方向の最も端からテープ9の厚み方向に仮想線L2を引く。そして仮想線L2が左右の脚部本体31の全剪断面範囲とそれ以外の部分とを分ける第二の境界線L2である。
【0028】
したがって左側の脚部本体31の全剪断面範囲とは、左側の脚部本体31の左側面であって且つ左の第一の境界線L1と左の第二の境界線L2との間に位置する範囲S1である。同様に右側の脚部本体31の全剪断面範囲とは、右側の脚部本体31の右側面であって且つ右側の第一の境界線L1と右側の第二の境界線L2との間に位置する範囲S2である。このように金属製エレメント1の全剪断面範囲の第一例は脚部本体31を対象とするもので、左右の第一の境界線L1と左右の第二の境界線L2の間の範囲S1、S2であり、言い換えれば左右の脚部本体31に挟まれるテープ9の芯部9aに対応する範囲S1、S2である。
【0029】
また図2(B)に示す基準の状態において、金属製エレメント1の全剪断面範囲の第二例は左右の脚部本体31と噛合頭部2の接合部25とを対象とするもので、次の通りである。上側に向かって開口するU字状の接合部25の前後各面と左右の脚部3の前後各面とは、前述したように各面毎に面一に形成されている。そしてこの接合部25の前後各面のうち脚部3に対して最も離れた端からテープ9の厚み方向に仮想線L3を引く。この仮想線L3が金属製エレメント1の全剪断面範囲とそれ以外の部分とを分ける第三の境界線L3である。
そして金属製エレメント1の全剪断面範囲の第二例は、左右の第一の境界線L1と左右の第三の境界線L3の間の範囲S3、S4であり、要するに噛合頭部2の外側面と左右の脚部本体31の外側面とを連続する形である。
【0030】
また図2(B)に示す基準の状態において、金属製エレメント1の全剪断面範囲の第三例は、金属製エレメント1の外側面の全体を対象とするもので、次の通りである。前述したように金属製エレメント1は上面をテープ9の厚み方向に対してほぼ平行とし、しかも上側の左右の角部C1を円弧状に膨らむ形の湾曲面C1としてある。この湾曲面C1のうち最も上側の点からテープ9の厚み方向に仮想線L4を引く。この仮想線L4が金属製エレメント1の全剪断面範囲とそれ以外の部分とを分ける上限の境界線L4である。
また前述したように金属製エレメント1は下面をテープ9の厚み方向に対してほぼ平行とし、下側の左右の角部C2を円弧状に膨らむ形の湾曲面C2としてある。この湾曲面C2のうち最も下側の点からテープ9の厚み方向に仮想線L0を引く。この仮想線L0が金属製エレメント1の全剪断面範囲とそれ以外の部分とを分ける下限の境界線L0である。
そして金属製エレメント1の全剪断面範囲の第三例は、左右の上限の境界線L4と左右の下限の境界線L0との間の範囲S5、S6であり、要するに金属製エレメント1の左右の外側面の全体S5、S6であり、より詳しく言えば左右の脚部本体31の外側面の全体と噛合頭部2の左右の外側面の全体とを連続する形である。ちなみに左右の脚部本体31の外側面の全体とは、左右の下限の境界線L0と左右の第二の境界線L2との間の範囲S7、S8である。
【0031】
上記図2(B)に示す基準の状態において指摘した全剪断面範囲の第一例~第三例は、全剪断面範囲を設ける一例であり、全剪断面範囲は最低限、脚部本体31の外側面に一定の幅の範囲にわたって、かつ、その金属製エレメント1の厚み方向の全面にわたって設けられていればよい。好ましくは、ファスナーを取り付けたときにそのファスナー製品(衣服や鞄など)の使用者に見える外側面全体に設けることが好ましい。
【0032】
ちなみに図1,3でも図8と同じ要領で剪断面4を平行な等間隔の細線で表している。なお、図1は左右の脚部本体31の外側面の全体と接合部25の外側面の全体を全剪断面範囲とするように記載しており、図3は金属製エレメント1の左右の外側面の全体を全剪断面範囲とするように記載している。また左右の脚部本体31の外側面は、左右の脚部3の間に形成された空間の貫通方向(前後方向)に剪断された剪断面4のみで形成されている。
【0033】
剪断面4の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは1.0a以下である。また破断面5の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは1.0aよりも大きい。この値は単位aに対する小数点第2位の値を四捨五入した値である。
【0034】
第一実施形態のスライドファスナー用金属製エレメント1の製造方法は図5に示すように、金属板7を搬送しながら間欠的に少なくとも2回停止させ、2回の各停止期間中にプレス加工することによって、金属板7から第一実施形態の金属製エレメント1を連続的に製造するものである。図5に示されたA,Bの各文字は搬送経路中の各プレス加工の位置を示す。また図5でのハッチング領域はプレス加工での加工領域である。金属板7は帯状で、その厚みが左右の脚部3および噛合頭部2の接合部25の厚みに対応することになる。
【0035】
図5Aで示す第一のプレス加工は、図示しない金型を用いて金属板7をその厚み方向に塑性変形させて、金属製エレメント1の噛合頭部2の噛合凸部22と噛合凹部23とを形作る。つまり第一のプレス加工は噛合頭部2の凹凸形成用のプレス加工である。
【0036】
次に図5Bで示す第二のプレス加工は凹凸形成用のプレス加工後の金属板7から製品となる金属製エレメント1を打ち抜く打抜き用のプレス加工である。より詳しく言えば第二のプレス加工は金属板7のうち図での一点鎖線に対して内側のハッチング領域部分(金属製エレメント1の外形の内側部分)を打抜いて、図5Cで示すように金属製エレメント1の外形、つまり噛合頭部2と左右の脚部3との外形を形作る。そして図1に示すように金属製エレメント1の外側面の左右の脚部本体31の全剪断面範囲以外の部分には剪断面4と破断面5が形成されるが、左右の脚部本体31の全剪断面範囲には破断面5が形成されることなく剪断面4のみが形成される。
【0037】
第二のプレス加工で用いるパンチ11とダイ12の断面図(図5のVI-VI線とVII-VII線での断面図)とが図6,7に示されている。パンチ11は、金属板7を打ち抜く(押し込む)部分を、左右の脚部3と噛合頭部2の接合部25の双方に対応する外形(後述するが、ダイ12の穴hの奥側部h2の形)よりも僅かに小さな外形に形成してある。ダイ12のうち金属板7を載せる部分は、金属板7が十分に安定して載るような幅に形成してある。
【0038】
本明細書において、ダイ12の穴hの全周にわたり、打ち抜き時に金属製エレメント1が入り込んでくる側を入口部h1とし、入口部h1に対して穴hの奥側を奥側部h2として説明する。
【0039】
奥側部h2は金属製エレメント1の外形に対応する形にすると共に深さ方向に平行な面としてある。
【0040】
入口部h1は金属製エレメント1の外形よりも僅かに大きな外形に形成してある。そして穴hの入口部h1は、左右の脚部本体31の全剪断面範囲に対応する部分を「剪断面のみを形成するための傾斜面を備えた傾斜部」(以下では単に傾斜部と称する。)としている。また入口部h1の傾斜面の深さは例えば0.20~0.30mmとする。この値は単位mmに対する小数点第3位の値を四捨五入した値である。
一方、穴hの入口部h1のうち、傾斜部が形成されていない部分は、従来技術である特許文献1に開示された製造方法のように、半径0.01~1.0mm(この値は単位mmに対する小数点第3位の値を四捨五入した値である。)の面取り加工のみが施されているか、又はそれよりも小さな面取り加工が施され、当該面取り加工によって円弧状に膨らむ形で滑らかに連続する湾曲面が形成される。また穴hの入口部h1のうち、傾斜部が形成されていない部分は、当該面取り加工された湾曲面に対して奥側を深さ方向に平行な面としてある。
【0041】
図6図7の実施例は、説明が分かりやすいように便宜上は、傾斜部の全体を傾斜面とした例を記載しているが、実際は全体を傾斜面とすることが必須なわけではなく、傾斜面の他に、面取り加工によって傾斜面に対して円弧状に膨らむ形で滑らかに連続する湾曲面を備えていることが望ましい。例えば、入口部h1の深さ方向のほぼ全面を傾斜面とし、入口部h1のうち奥側部h2との角部を傾斜面に対して円弧状に膨らむ形で滑らかに連続する湾曲面(例えば半径0.01~1.0mm(この値は単位mmに対する小数点第3位の値を四捨五入した値である。)の面取り加工によって形成された湾曲面)としてもよいし、また、入口部h1のうちダイ12の上面との角部を傾斜面に対して円弧状に膨らむ形で滑らかに連続する湾曲面としても良い。
【0042】
傾斜面は穴hの深さ方向に対し全体を直線的に傾斜させてある。またその傾斜状態は穴hの奥に向かって穴hの幅を狭くする状態である。つまり傾斜面は、穴hの奥に向かって穴の幅を狭くする状態で穴hの深さ方向に対し傾斜させてある。また傾斜面は穴hの深さ方向に対し以下の関係式1を満たす角度θで傾斜している。なお深さ方向とはパンチ11の往復動する直線方向である。
関係式1は0°<θ≦30°
なお望ましくは関係式1は10°≦θ≦28°の範囲であり、さらにより望ましくは関係式1は15°≦θ≦25°の範囲である。(10°、20°、25°、28°、30°は小数点第1位の値を四捨五入した値である。)
【0043】
ここで、傾斜面の意義について補足説明する。前記した第二のプレス加工においては金属製エレメント1は金属板7から千切れるように打ち抜かれるわけであるが、この千切れた部分が破断面になるものと考えられる。本発明においては、傾斜面を設けることで、金属製エレメント1が金属板7から千切れるタイミングが遅らされることになり、金属製エレメント1の厚み方向の上面を越えたところで千切れるようにすることができる。それにより、厚み方向の範囲では金属製エレメント1が金属板7から千切れる痕跡が残らず、すなわち破断面が無い面とすることができるのである。一方、従来例で説明したように、ダイ12の穴hの入口部h1に半径0.01~1.0mmの面取り加工がなされ、面取り加工された部分に対し穴hの奥側が深さ方向に平行に形成された場合では、多くの部分を剪断面にすることが出来ても、金属製エレメント1の厚み方向の範囲に金属製エレメント1が金属板7から千切れる痕跡が残ってしまう。そのため、本発明における傾斜面は、金属製エレメント1の厚み方向の範囲では金属製エレメント1が金属板7から千切れる痕跡が残らないような、一定の長さが必要になってくる。
【0044】
またパンチ11とダイ12の隙間のうち傾斜部に対し穴hの奥側部h2での隙間Tは、以下の関係式2を満たしている。
関係式2は0.1μm<T<10μm
【0045】
なお第二のプレス工程後の金属製エレメント1に対しバレル研磨や化学研磨による仕上げ加工を施すことが望ましい。前記した第一実施形態の金属製エレメント1は、仕上げ加工後のものである。
【0046】
上記した第一実施形態のスライドファスナー用金属製エレメント1の製造方法で製造された第一実施形態の金属製エレメント1は、左右の脚部本体31の外側面や噛合頭部2の外側面の全剪断面範囲に破断面5を備えないので、当該外側面に破断面5を備える金属製エレメント1に比べて、金属製エレメント1の外観が向上する。全剪断面範囲が広いほど、金属製エレメント1の外観が向上する。
【0047】
また上記した第一実施形態のスライドファスナー用金属製エレメント1の製造方法は、ダイ12の穴hの入口部h1に傾斜部を形成し、その傾斜部は傾斜面を備え、傾斜面を穴hの奥に向かって穴hの幅が狭くなる状態で傾斜させてあるので、打抜き用のプレス加工では、傾斜面を通過する期間の間、左右の脚部本体31の外側面は傾斜面に押し付けられた状態で形成されることになり、その結果、左右の脚部本体31の外側面の全剪断面範囲は金属製エレメントの厚み範囲内において破断することなく(千切れた跡が形成されることなく)剪断面4のみが形成され、金属板から金属製エレメントを単に打ち抜くプレス加工を用いる製造方法に比べて、左右の脚部本体31の外側面の外観が向上する。しかも傾斜面を関係式1を満たすようにしてあるし、そのうえ第二のプレス加工で用いるパンチ11とダイ12の隙間のうち傾斜面に対し穴hの奥側部h2での隙間Tを関係式2を満たすようにして、剪断面4の表面粗さを望ましいものとしてある。
【0048】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 金属製エレメント
2 噛合頭部
21 頭部本体
22 噛合凸部
23 噛合凹部
25 接合部
26 平板部
3 脚部
31 脚部本体
32 挟持部
32a 挟持面
4 剪断面
5 破断面
7 金属板
9 テープ
9a 芯部
9b テープ本体部
11 パンチ
12 ダイ
C1,C2 角部(湾曲面)
h 穴
h1 入口部
h2 奥側部
L0 仮想線(下限の境界線)
L1 仮想線(第一の境界線)
L2 仮想線(第二の境界線)
L3 仮想線(第三の境界線)
L4 仮想線(上限の境界線)
T 隙間
S1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8 範囲
θ 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8