(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】滞留コンクリート推定方法およびコンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
(21)【出願番号】P 2021116898
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 定幸
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176310(JP,A)
【文献】特開2018-062757(JP,A)
【文献】特開昭63-198826(JP,A)
【文献】特開2003-162554(JP,A)
【文献】特開2019-124650(JP,A)
【文献】特開平07-138948(JP,A)
【文献】特開昭51-140307(JP,A)
【文献】特開昭55-138517(JP,A)
【文献】特開2020-020192(JP,A)
【文献】特開平06-200528(JP,A)
【文献】特開2006-016787(JP,A)
【文献】米国特許第04664556(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22-5/80
E02D 7/00-13/10
E02D 15/00-15/10
E04G 21/00-21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレミー管の先端を既打設コンクリートに挿入した状態で、前記トレミー管内に自由落下させたコンクリートを打設する場合において、前記トレミー管内に滞留する前記コンクリートの上面から前記既打設コンクリートの上面までの高低差である滞留高さを
算出する滞留コンクリート推定方法であって、
前記滞留高さは、前記トレミー管内にコンクリートが滞留している状態におけるトレミー管外部圧力とトレミー管内部圧力とが等しいものとして算出するものとし、
前記トレミー管外部圧力は、前記トレミー管の前記既打設コンクリートへの挿入深さに基づいて、前記トレミー管の外部から作用する
圧力であり、
前記トレミー管内部圧力は、前記トレミー管内に滞留する前記コンクリートの自重から求まる力から、前記コンクリートと前記トレミー管の内面との摩擦抵抗力を減じた値を前記トレミー管の内空断面積で除
した値であることを特徴とする、滞留コンクリート推定方法。
【請求項2】
前記トレミー管外部圧力は、前記挿入深さに前記コンクリートの単位体積重量を乗じた値と、前記既打設コンクリートの上方に滞留する安定液の深さに前記安定液の単位体積重量を乗じた値とを足し合わせた値であり、
前記トレミー管内部圧力は、前記滞留高さと前記挿入深さとの合計値に前記コンクリートの単位体積重量および前記トレミー管の内空断面積を乗じた値から、前記滞留高さと前記挿入深さとの合計値にコンクリートの摩擦抵抗応力および前記トレミー管の内周長を乗じた値を減じた値を、前記トレミー管の内空断面積で除した値であることを特徴とする、請求項1に記載の滞留コンクリート推定方法。
【請求項3】
前記摩擦抵抗応力が、コンクリートをビンガム流体と仮定した場合のレオロジー定数であり、前記コンクリートが流動し始める限界のせん断応力に基づく値であることを特徴とする、請求項2に記載の滞留コンクリート推定方法。
【請求項4】
下部コンクリートの上に前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打ち継ぐコンクリート構造物の構築方法であって、
下部コンクリートから上部コンクリートへの切り換えが完了する位置である切換完了深度の下方に下部コンクリートの打設が完了する位置である打設切換深度を設定し、当該打設切換深度まで下部コンクリートを打設する第一工程と、
トレミー管の下端が前記打設切換深度の下方に位置した状態で上部コンクリートの供給を開始し、前記切換完了深度まで上部コンクリートを打設する第二工程と、
前記切換完了深度の上方に上部コンクリートを打設する第三工程と、を備えており、
前記第一工程では、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の滞留コンクリート推定方法により求まる前記滞留高さに相当するコンクリート量の影響を見込んだ深度まで下部コンクリートを打設することを特徴とする、コンクリート構造物の構築方法。
【請求項5】
下部コンクリートの上に前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打ち継ぐコンクリート構造物の構築方法であって、
下部コンクリートから上部コンクリートへの切り換えが完了する位置である切換完了深度の下方に下部コンクリートの打設が完了する位置である打設切換深度を設定し、当該打設切換深度まで下部コンクリートを打設する第一工程と、
トレミー管の下端が前記打設切換深度の下方に位置した状態で上部コンクリートの供給を開始し、前記切換完了深度まで上部コンクリートを打設する第二工程と、
前記切換完了深度の上方に上部コンクリートを打設する第三工程と、を備えており、
前記第二工程では、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の滞留コンクリート推定方法により求まる前記滞留高さに相当するコンクリート量以上の上部コンクリートを前記トレミー管内に供給する第一打設作業と、
前記トレミー管の下部コンクリートへの挿入深さを調整するトレミー管調整作業と、
前記トレミー管内への上部コンクリートの供給を再開し、前記切換完了深度まで前記上部コンクリートを打設する第二打設作業と、を行うことを特徴とする、コンクリート構造物の構築方法。
【請求項6】
トレミー管の打設切換深度の下方への挿入長さを設定するとともに、前記トレミー管から前記打設切換深度よりも下側に供給される上部コンクリートの体積および前記滞留高さに相当するコンクリート量を見込んで、前記切換完了深度と前記打設切換深度の差である切換長さを算出することを特徴とする、請求項4または請求項5に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滞留コンクリート推定方法およびコンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を構築する場合において、高い位置からコンクリートを打設する場合に、トレミー管を利用してコンクリートを落とし込む場合がある。例えば、特許文献1には、トレミー管を利用した場所打ちコンクリート杭の施工方法が開示されている。トレミー管を用いてコンクリートを打設する際には、既打設コンクリートにトレミー管の先端を挿入した状態で行うのが一般的である。
例えば、特許文献1のコンクリート構造物の施工方法では、異なる種類のコンクリートを上下に打ち継ぐ場合において、トレミー管を利用して下部コンクリートを所定の高さ(先行打設高さ)まで打設した後、下部コンクリートにトレミー管の先端を挿入した状態で上部コンクリートの打設を開始して切り換え完了高さまで下部コンクリートの一部を押しあげた後、引き続き切り換え完了高さの上方に上部コンクリートを打設する。
トレミー管を利用して高所からコンクリートを打設した場合には、トレミー管の内部のコンクリートは打設箇所に落下しているものとして取り扱われるのが一般的である。一方、既打設コンクリートに先端が挿入されたトレミー管の内部には、トレミー管の内面とコンクリートとの間に発生した摩擦力により、コンクリートが滞留する場合がある。そのため、設計された高さまでコンクリートを打設すると、トレミー管内に滞留するコンクリートが余分になる。したがって、トレミー管を利用して高所から低所にコンクリートを打設する場合には、トレミー管内に滞留するコンクリートの量を考慮したうえでコンクリートの打設完了高さ(先行打設高さ等)を設定するのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、トレミー管を用いてコンクリートを打設する場合において、トレミー管内に滞留するコンクリート量を推定する滞留コンクリート推定方法と、この滞留コンクリート推定方法を利用したコンクリート構造物の構築方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の滞留コンクリート推定方法は、トレミー管の先端を既打設コンクリートに挿入した状態で前記トレミー管内を自由落下させたコンクリートを打設する場合において、前記トレミー管内に滞留する前記コンクリートの上面から前記既打設コンクリートの上面までの高低差である滞留高さを算出するものである。前記滞留高さは、前記トレミー管内にコンクリートが滞留している状態におけるトレミー管外部圧力とトレミー管内部圧力とが等しいものとして算出する。前記トレミー管外部圧力は、前記トレミー管の前記既打設コンクリートへの挿入深さに基づいて前記トレミー管の外部から作用する圧力である。前記トレミー管内部圧力は、前記トレミー管内に滞留する前記コンクリートの自重から求まる力から前記コンクリートと前記トレミー管の内面との摩擦抵抗力を減じた値を前記トレミー管5の内空断面積で除した値である。
なお、前記トレミー管外部圧力は、前記挿入深さに前記コンクリートの単位体積重量を乗じた値と、前記既打設コンクリートの上方に滞留する安定液の深さに前記安定液の単位体積重量を乗じた値とを足し合わせた値とするのが望ましい。また、前記トレミー管内部圧力は、前記滞留高さと前記挿入深さとの合計値に前記コンクリートの単位体積重量および前記トレミー管の内空断面積を乗じた値から、前記滞留高さと前記挿入深さとの合計値にコンクリートの摩擦抵抗応力および前記トレミー管の内周長を乗じた値を減じた値を、前記トレミー管の内空断面積で除した値とするのが望ましい。さらに、前記摩擦抵抗力は、コンクリートをビンガム流体と仮定した場合のレオロジー定数であり、前記コンクリートが流動し始める限界のせん断応力に基づいた値とするのが望ましい。
かかる滞留コンクリート推定方法によれば、トレミー管内に滞留するコンクリートの量(高さ)を推定できるため、トレミー管内に滞留するコンクリートの量を考慮して、コンクリートを打設することができ、ひいては、合理的な施工が可能となる。例えば、異なる種類のコンクリートを上下に連続して打設する場合において、設計上の切換深度にて適切にコンクリートを切り換えることができる。
【0006】
また、本発明のコンクリート構造物の構築方法は、下部コンクリートの上に前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打ち継ぐことによりコンクリート構造物を構築するものであって、下部コンクリートから上部コンクリートへの切り換えが完了する位置である切換完了深度の下方に下部コンクリートの打設が完了する位置である打設切換深度を設定し、当該打設切換深度まで下部コンクリートを打設する第一工程と、トレミー管の下端が前記打設切換深度の下方に位置した状態で上部コンクリートの供給を開始し、前記切換完了深度まで上部コンクリートを供給する第二工程と、前記切換完了深度の上方に上部コンクリートを打設する第三工程とを備えている。
前記第一工程では、前記滞留コンクリート推定方法により求まる前記滞留高さに相当するコンクリート量の影響を見込んだ深度まで下部コンクリートを打設するのが望ましい。
また、前記第二工程では、前記滞留コンクリート推定方法により求まる前記滞留高さに相当するコンクリート量以上の上部コンクリートを前記トレミー管内に供給する第一打設作業と、前記トレミー管の下部コンクリートへの挿入深さを調整するトレミー管調整作業と、前記トレミー管内への上部コンクリートの供給を再開して前記切換完了深度まで前記上部コンクリートを打設する第二打設作業とを行うのが望ましい。
さらに、トレミー管の打設切換深度の下方への挿入長さを設定するとともに、前記トレミー管から前記打設切換深度よりも下側に供給される上部コンクリートの体積および前記滞留高さに相当するコンクリート量を見込んで、前記切換完了深度と前記打設切換深度の差である切換長さを算出するのが望ましい。
かかるコンクリート構造物の構築方法によれば、トレミー管内に滞留するコンクリート量を考慮して、下部コンクリートの打設深度(打設切換深度)を設定するため、切換長さを安全側に設定できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、滞留コンクリート推定方法によれば、トレミー管を用いてコンクリートを打設する場合において、トレミー管内に滞留するコンクリート量を適切に推定することが可能となる。また、この滞留コンクリート推定方法を利用したコンクリート構造物の構築方法によれば、トレミー管内に滞留するコンクリートを考慮することで、効率的かつ経済的な施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリート杭の一部を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す場所打ちコンクリート杭の施工状況を示す断面図であって、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程である。
【
図3】先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートを示す斜視図である。
【
図5】第一評価法の概要を示す図であって、(a)はトレミー管内に下部コンクリートが残留している状態、(b)はトレミー管内の下部コンクリートを排出した状態である。
【
図6】第二評価法における第二工程の概要を示す断面図であって、(a)は第一打設作業、(b)はトレミー管調整作業、(c)は第二打設作業である。
【
図7】現場施工試験時の測点の配置を示す平面図であって、(a)はトレミー管が1本の場合、(b)はトレミー管が2本の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、場所打ちコンクリート杭(コンクリート構造物)1において、合理的な杭の構築を目的として、強度の異なる二種類のコンクリートを深さ方向(上下)に連続して打設する場合について説明する。
図1に本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の一部を示す。本実施形態の場所打ちコンクリート杭1は、地震時に応力が大きくなる杭上部のコンクリート強度を高くするために、下部コンクリート2の上に下部コンクリート2よりも設計基準強度が高い上部コンクリート3を打ち継ぐことにより形成する。
図2に本実施形態のコンクリート構造物の構築方法の各施工段階を示す。
本実施形態のコンクリート構造物の構築方法は、所定高さ(以下、「打設切換深度H1」という)まで下部コンクリート2を打設する第一工程(
図2(a)参照)と、下部コンクリート2のコンクリート打設面(既打設コンクリートの上面)2aよりも下方から上部コンクリート3の供給を開始して既打設コンクリートの上面が切換完了深度H2に到達するまで上部コンクリート3を供給するまで第二工程(
図2(b)参照)と、切換完了深度H2の上方に上部コンクリート3を打設する第三工程(
図2(c)参照)とを備えている。
【0010】
第一工程では、
図2(a)に示すように、既打設コンクリートの上面(コンクリート打設面)が打設切換深度H1に到達するまで下部コンクリート2を供給する。下部コンクリート2は、地中に形成された掘削孔6内に挿入されたトレミー管5を利用して掘削孔6の下端から供給する。掘削孔6内には、孔壁の安定性を確保するための安定液slが貯留されている。トレミー管5は、既打設コンクリートに先端を挿入した状態で、コンクリート打設面2aの上昇に合わせて上昇させる。打設切換深度H1は、打設切換深度H1は、下部コンクリート2の供給を完了する位置であって、下部コンクリート2から上部コンクリート3への切り換えが完了する位置である切換完了深度H2の下方に設定する。打設切換深度H1は、場所打ちコンクリート杭1に作用する応力の推定値(設計値)から切換完了深度H2(コンクリート強度を高くする範囲)を設定し、この切換完了深度H2においてコンクリートが下部コンクリート2から上部コンクリート3に完全に切り換えられるように、打設切換深度H1を設定する。
【0011】
ここで、打設切換深度H1は、式1により算出する。打設切換深度H1は、場所打ちコンクリート杭1の作用応力に基づいて設定された切換完了深度H2から切換長さhを差し引くことにより算出する。切換長さhは、下部コンクリート2の打設後に、上部コンクリート3の供給を開始してから、既打設コンクリートが全て上部コンクリート3に切り換わるまでの区間であって、打設切換深度H1と切換完了深度H2との高低差である。
H1=H2-h ・・・ 式1
H1 :打設切換深度
H2 :切換完了深度
h :切換長さ
【0012】
第二工程では、
図2(b)に示すように、トレミー管5の下端が打設切換深度H1の下方に位置した状態で上部コンクリート3の供給を開始し、切換完了深度H2に既打設コンクリートの上面が到達するまで上部コンクリート3を供給する。上部コンクリート3を打設切換深度H1よりも下側に供給すると、上部コンクリート3が下部コンクリート2を押しのけながら注入される。上部コンクリート3は、下部コンクリート2内において供給開始時点のトレミー管5の直下に半楕円状または半円状(先端部分31)に供給された後、先端部分31の直上に上部コンクリート3が円柱状(円柱部分32)に供給される(
図3参照)。一方、下部コンクリート2は、上部コンクリート3が供給されることによって、打設切換深度H1の下側に供給された上部コンクリート3と同等の体積の下部コンクリート2が打設切換深度H1の下側から打設切換深度H1よりも上側に移動する。このとき、打設切換深度H1の上側に移動した下部コンクリート2は、打設切換深度H1よりも上側の外側部分(トレミー管5を中心とした環状領域21)に移動する(
図2(c)参照)。打設切換深度H1の上側に移動した下部コンクリート2(環状領域21)の上端は、切換完了深度H2以下に位置する。
【0013】
従来の切換長さh(打設切換深度H1および切換完了深度H2)の評価方法として、例えば以下の方法がある(特許文献1参照)。
環状領域21は、下部コンクリート2と上部コンクリート3とが混在する区間であり、環状領域21の高さ(環状領域高さh
T)は、切換長さhの基準となる。環状領域高さh
Tは、式2に示すように、打設切換深度H1よりも下側に供給された上部コンクリート3の体積Vが、環状領域21に移動した下部コンクリート2の体積であるとして、環状領域21の体積を算出する。ここで、打設切換深度H1よりも下側に供給された上部コンクリート3は、
図3に示すように、先端部分31と円柱部分32の体積の合計とする。一方、環状領域21は、
図4に示すように、内径φ
i、外径φ
0の円筒状体とする。
h=h
T
h
T=V/S ・・・式2
V=V1+V2
S=π/4×(φ
o
2-φ
i
2)
V1=πφ
r
2/4×T
V2=2/3×πφ
r
2/4×Δh
0
h
T :環状領域高さ
V
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積
V1
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の体積
V2
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの先端部分の体積
S
:環状領域の断面積
φ
o :場所打ちコンクリート杭の外径
φ
i :環状領域の内径
φ
r :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の直径
T
:第二工程において下部コンクリートに挿入するトレミー管の深さ
Δh
0:第二工程において供給された上部コンクリートの下端からトレミー管先端までの距離である下部流出深さ
この他、実験結果や流動解析(CFD)による解析結果などから切換長さhを評価することも可能である。
【0014】
第三工程では、
図2(c)に示すように、既打設コンクリート(上部コンクリート3)に下端を挿入した状態で、トレミー管5を引き上げつつ切換完了深度H2の上方に上部コンクリート3を供給する。
【0015】
切換長さh(打設切換深度H1および切換完了深度H2)に、本特許に基づく、トレミー管5内に滞留するコンクリートの影響を考慮する方法として、例えば、以下の三つの方法(第一評価方法~第三評価方法)より行えばよい。
(1)第一評価方法
切換長さhは、第一工程後にトレミー管5内に滞留するコンクリートの滞留高さHに相当するコンクリート量を考慮した式3により算出する。
図5に第一評価方法の概要を示す。滞留高さHは、
図5(a)に示すように、トレミー管5の先端を既打設コンクリートに挿入した状態で、トレミー管5内に自由落下させたコンクリートを打設する場合において、トレミー管5内に滞留するコンクリートの上面から既打設コンクリートの上面までの高低差である。上部コンクリート3の打設を開始すると、トレミー管5内に残留する下部コンクリート2が最初に排出されるため、この下部コンクリート2の量を含めて、上部コンクリート3に切り換わるタイミングを算出する(
図5(b)参照)。
切換長さhは、滞留高さHに相当するコンクリート量により増加する下部コンクリートの高さ(切換長さ増分Δh)を環状領域高さh
Tに加えた高さとする。
h=h
T+Δh ・・・式3
Δh=α×ΔT
h :切換長さ
h
T :環状領域高さ
Δh:切換長さ増分
ΔT:滞留コンクリートに対応する根入れ長さ増分
α :流体解析(CFD)や実験などにより求めた根入れ増分に対する係数
【0016】
(2)第二評価方法
第二評価方法における切換長さhは、式4に示すように、滞留高さHに相当するコンクリート量に対応する根入れ長さ増分ΔTを環状領域高さhTに加えた高さとする。すなわち、第二評価方法では、切換長さ増分Δhを根入れ長さ増分ΔTとする。
h=hT+ΔT ・・・式4
h :切換長さ
hT :環状領域高さ
ΔT:根入れ長さ増分
【0017】
なお、第二評価方法を使用する場合には、第二工程において、
図6(a)および(b)に示すように、滞留高さHに相当するコンクリート量以上の上部コンクリート3をトレミー管5内に供給する第一打設作業と、
図6(b)および(c)に示すように、トレミー管5の下部コンクリート2への挿入深さTを調整するトレミー管調整作業と、
図2(b)に示すように、トレミー管5内への上部コンクリート3の供給を再開して切換完了深度H2まで上部コンクリート3を打設する第二打設作業とを行うのが望ましい。
【0018】
(3)第三評価方法
第三評価方法では、式5に示すように、式1において滞留高さHに相当するコンクリート量に対応する根入れ長さ増分ΔTを考慮したものとする。
H1=H2-h-ΔT ・・・ 式5
h=V/S
V=V1+V2
S=π/4×(φo
2-φi
2)
V1=πφr
2/4×(T+ΔT)
V2=2/3×πφr
2/4×Δh0
H1 :打設切換深度
H2 :切換完了深度
h :切換長さ
hT :環状領域高さ
V :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積
V1 :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の体積
V2 :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの先端部分の体積
S :環状領域の断面積
φo :場所打ちコンクリート杭の外径
φi :環状領域の内径
φr :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の直径
T :第二工程において下部コンクリートに挿入するトレミー管の深さ
Δh0:第二工程において供給された上部コンクリートの下端からトレミー管先端までの距離である下部流出深さ
【0019】
ここで、滞留高さHは、式6に示すように、トレミー管5内にコンクリートが滞留している状態におけるトレミー管外部圧力p0とトレミー管内部圧力ptとが等しいものとして算出する。
p0=pt ・・・ 式6
p0:トレミー管外部圧力
pt:トレミー管内部圧力
【0020】
トレミー管外部圧力p
0は、トレミー管5の既打設コンクリートへの挿入深さT(
図2(b)参照)に基づいて、トレミー管5の外部から作用する圧力である。トレミー管外部圧力p
0は、式7に示すように、挿入深さTにコンクリートの単位体積重量γ
cを乗じた値と、既打設コンクリートの上方に滞留する安定液slの深さH
slに安定液slの単位体積重量γ
slを乗じた値とを足し合わせた値である。
p
0=γ
cT+γ
slH
sl ・・・式7
γ
c :コンクリートの単位体積重量
T
:挿入深さ
γ
sl:安定液の単位体積重量
H
sl:安定液の深さ
【0021】
トレミー管内部圧力ptは、式8に示すように、トレミー管5内に滞留するコンクリート(下部コンクリート)の自重から求まる圧力からコンクリートとトレミー管5の内面との摩擦抵抗力を差し引いた値である。トレミー管5内に滞留するコンクリートの自重から求まる圧力は、滞留高さHと挿入深さTとの合計値にコンクリートの単位体積重量γcを乗じた値にトレミー管5の内空断面積Aを乗じることで算出する。また、コンクリートとトレミー管5の内面との摩擦抵抗力は、滞留高さHと挿入深さTとの合計値にコンクリートの摩擦抵抗応力fを乗じた値にトレミー管の内周長φを乗じることで算出する。
そして、トレミー管内部圧力ptは、自重から求まる力から摩擦抵抗力を減じた値をトレミー管5の内空断面積で除することで算出する。
ここで、本実施形態では、コンクリートの摩擦抵抗応力fにコンクリートの降伏値τを用いる。コンクリートの降伏値τ(=摩擦抵抗f)は、コンクリートをビンガム流体と仮定した場合のレオロジー定数であり、コンクリートが流動し始める限界のせん断応力に基づく値である。
【0022】
【0023】
式6~8より、滞留高さHは、式9により表すことができる。なお、Rはトレミー管の内径である。
【0024】
【0025】
以上、本実施形態のコンクリート構造物の構築方法によれば、設計上の切換完了高さの近傍で、コンクリートの切り換えを完了させることができるため、強度が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に設定することが可能となる。その結果、必要な耐力を有した場所打ちコンクリート杭1を経済的に施工することができる。
また、本実施形態によれば、トレミー管5内に滞留するコンクリートの量(滞留高さH)を推定できるため、トレミー管5内に滞留するコンクリートの量を考慮して、コンクリートを打設することができ、ひいては、合理的な施工が可能となる。
【0026】
以下、式9を利用して、トレミー管5内に滞留するコンクリート量の推定方法の妥当性を確認した現場施工試験結果を示す。
施工試験では、4ケースの試験体について、コンクリート打設後にトレミー管5内外のコンクリートの天端レベルを計測した。
図7(a)に試験体1,2を示し、
図7(b)試験体3,4を示す。試験体1,2では、
図7(a)に示すように、掘削孔6の中心部にトレミー管5を配管し、試験体3,4では2本のトレミー管5,5を掘削孔6の中心を挟んで対向するように配管した。測点Pは、トレミー管5内と、トレミー管5外の掘削孔6中心付近1点と、外周部にほぼ等間隔に設定した4点において測定した。すなわち、
図7(a)に示すように、試験体1,2では計6点、
図7(b)に示すように試験体3,4では計7点において測定した。トレミー管5内の計測値(試験体3,4では平均値)と、トレミー管5外の各測点における計測値の平均値により、コンクリート高さを求めた。
【0027】
計算条件を以下に示す。
安定液水位 GL-0m
安定液単位体積重量 γsl=10kN/m3
下部コンクリート単位体積重量 γc=22.6kN/m3
下部コンクリートの降伏値 τ=325Pa
上部コンクリート単位体積重量 γc=23.5kN/m3
上部コンクリートの降伏値 τ=100Pa
【0028】
上部コンクリート3および下部コンクリート2の降伏値τは、スランプ試験の流動解析を別途実施して、スランプあるいはスランプフローが目標値になるように設定した。
図8にコンクリート高さの試験結果と、推定結果の関係を示す。
図8に示すように、推定結果はおおむね対応している。また、推定結果(
図8中の点線)の方が、試験結果よりも大きいことから(推定の直線(点線)よりも上側に位置していることから)、推定結果が安全側であることが確認できた。
【0029】
次に、現場打ちコンクリート杭の杭径および打設切換深度をパラメーターとして、トレミー管5内に残るコンクリートの滞留高さHおよび根入れ長さ増分ΔTを算出した。計算条件を以下に示す。また、表1に計算結果を示す。
杭径:1.6m、2.0m、2.4m、3.0m
打設切換深度:GL-10m,-20m、-30m、-40m、-50m
安定液水位 GL-0m
安定液単位体積重量 γsl=10kN/m3
トレミー管:内径25cm、根入れ長さ2m
コンクリート単位体積重量 γc=22.6kN/m3
コンクリートの降伏値 τ=325Pa
【0030】
【0031】
表1に示すように、杭径の大きさに関わらず、打設切換深度が深くなるほど、根入れ長さ増分ΔTが大きくなった。また、杭径が小さいほど、根入れ長さ増分ΔTが大きくなった。
【0032】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、円柱状の場所打ちコンクリート杭1を構築する場合について説明したが、コンクリート構造物は限定されるものではない。
また、滞留コンクリート推定方法は、種類の異なるコンクリートを深さ方向に連続して打設する場合に限定されるものではなく、1種類のコンクリートを打設する場合に使用してもよい。
また、前記実施形態では、一本の場所打ちコンクリート杭1に対して、一本のトレミー管5により施工する場合について説明したが、トレミー管5の本数は限定されるものではなく、例えば、複数本のトレミー管5を利用してもよい。
前記実施形態では、上部コンクリート3として、下部コンクリート2よりも設計基準強度が高いコンクリートを打設するものとしたが、上部コンクリート3は、例えば、下部コンクリート2よりも流動性が高い等、下部コンクリート2とは種類が異なるコンクリートであれば限定されない。
前記実施形態では、第一工程において、滞留高さに相当するコンクリート量を見込んだ深度まで下部コンクリートを打設するものとしたが、打設切換深度の設定方法は限定されるものではない。
また、前記実施形態では、前記第二工程において、滞留高さに相当するコンクリート量以上の上部コンクリートをトレミー管内に供給する第一打設作業と、トレミー管の下部コンクリートへの挿入深さを調整するトレミー管調整作業と、トレミー管内への上部コンクリートの供給を再開して切換完了深度まで上部コンクリートを打設する第二打設作業を行うものとしたが、第二工程の作業手順は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
1 場所打ちコンクリート杭
2 下部コンクリート
3 上部コンクリート
4 鉄筋かご
5 トレミー管
6 掘削孔