(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】切羽前方探査システム、受振器および切羽前方探査方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/104 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
G01V1/104
(21)【出願番号】P 2021130163
(22)【出願日】2021-08-06
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山上 順民
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-020891(JP,A)
【文献】特開2011-043409(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0284934(US,A1)
【文献】特開2002-139574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削用発破を開始する発破器と、
前記掘削用発破の開始タイミングを示すショットマークを検出する検出器と、
前記掘削用発破に起因して発生した弾性波を検出する受振器とを備え、
前記受振器は、トンネル周壁面に削孔された受振孔に配置されており、前記受振器を前記受振孔の孔壁に固定する保持部を備え
、
前記保持部は、
前記保持部が開状態になったときに前記受振孔の孔壁に当接するブロックと、
略棒状体である前記受振器の軸方向に移動可能なアクチュエータと、
前記ブロック及び前記アクチュエータを連結する一対の第1アームと、
前記ブロック、及び前記受振器の筐体の根元部側面を連結する第2アームと、を備える切羽前方探査システム。
【請求項2】
前記検出器は、前記掘削用発破に用いる火薬と前記発破器とを繋ぐ発破母線に連結されているとともに、前記火薬と前記発破器との間に配置されており、
前記火薬は、トンネル切羽に配置されており、
前記発破器は、前記受振孔よりもトンネル坑口側に配置されている請求項1に記載の切羽前方探査システム。
【請求項3】
前記受振器に接続されたデータロガーをさらに備え、
前記データロガーは、
無線通信により前記検出器から前記ショットマークを受信する無線部を備える請求項1または請求項2に記載の切羽前方探査システム。
【請求項4】
前記受振器は、
前記弾性波を検出するジオフォンを備え、
前記データロガーは、
前記保持部を開閉する制御部と、
前記ジオフォンが検出した弾性波のデータを記録する記録部とを備える請求項3に記載の切羽前方探査システム。
【請求項5】
前記データロガーが前記受振孔に配置されている請求項3または請求項4に記載の切羽前方探査システム。
【請求項6】
前記受振器と前記データロガーとを通信可能に接続するケーブルをさらに備える請求項3から請求項5の何れか1項に記載の切羽前方探査システム。
【請求項7】
前記受振器を前記受振孔の奥に押し込む押し込み部をさらに備える請求項1から請求項6の何れか1項に記載の切羽前方探査システム。
【請求項8】
掘削用発破に起因して発生した弾性波を検出する受振器であって、
トンネル周壁面に削孔された受振孔に配置されており、前記受振器を前記受振孔の孔壁に固定する保持部を備え
、
前記保持部は、
前記保持部が開状態になったときに前記受振孔の孔壁に当接するブロックと、
略棒状体である前記受振器の軸方向に移動可能なアクチュエータと、
前記ブロック及び前記アクチュエータを連結する一対の第1アームと、
前記ブロック、及び前記受振器の筐体の根元部側面を連結する第2アームと、を備える受振器。
【請求項9】
受振器をトンネル周壁面に削孔された受振孔に配置する第1ステップと、
前記受振器を前記受振孔の孔壁に固定する第2ステップと、
発破器を操作して掘削用発破を開始する第3ステップと、
検出器が前記掘削用発破の開始タイミングを示すショットマークを検出する第4ステップと、
前記受振器が前記掘削用発破に起因して発生した弾性波を検出する第5ステップとを備え
、
前記第2ステップにおいて、
ブロック、略棒状体である前記受振器の軸方向に移動可能なアクチュエータ、前記ブロック及び前記アクチュエータを連結する一対の第1アーム、並びに、前記ブロック、及び前記受振器の筐体の根元部側面を連結する第2アームを備える保持部が開状態になったときに前記ブロックが前記受振孔の孔壁に当接する切羽前方探査方法。
【請求項10】
前記掘削用発破は、所定の発破予定タイミングで3段階以上発破する段発発破であり、
1発目の発破から2発目の発破までの時間間隔を2発目の発破から3発目の発破までの時間間隔よりも大きくする請求項9の切羽前方探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切羽前方探査システム、受振器および切羽前方探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの工事において、施工上問題となる可能性のある破砕帯、湧水帯などの地山情報を事前に把握することは重要である。地山情報を事前に把握するために、反射法地震探査の原理を用いた切羽前方探査が行われてきた。切羽前方探査の従来方法として、TSP(Tunnel Seismic Prediction)法とTFT(Tunnel Face Tester)法が知られている。TSP法は、トンネル周壁面を削孔した複数の発破孔で順次発破し振動を発生させ、破砕帯等で反射した反射波を複数の受振孔内の受振器で受振し解析することで、切羽前方の地山状況を予測する技術である。TSP法の詳細は、例えば、非特許文献1に開示されている。また、TFT法は、トンネル切羽壁面を発破し振動を発生させ、破砕帯等で反射した反射波を、トンネル周壁面のロックボルト頭部に配置した受振器で受振し解析することで、切羽前方の地山状況を予測する技術である。TFT法の詳細は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】四塚勝久・篠原 茂,トンネル切羽前方探査システム TSP303 切羽前方の断層破砕帯や地質境界面及び湧水の有無を弾性波反射法の3次元解析で予測,建設機械施工,Vol.68,No.5,May 2016
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
TSP法では、探査用発破を震源とする。このため、切羽前方探査の際、掘削作業を中断する必要がある。その結果、掘削作業が長期化するという問題がある。また、TSP法では、反射波の解析精度を高めるため、受振孔内をモルタル等の充填材で充填し受振器を固定する必要があった。このため、受振器の配置位置に不良地山が分布していたとしても、位置を変更できず、再度、受振孔を削孔するなどの必要が発生し、受振器の設置に時間がかかるという問題があった。
一方、TFT法では、掘削用発破を震源とするため、掘削作業を中断しなくてもよい利点がある。しかし、TFT法では、受振器がロックボルト頭部に配置されるため、トンネル側壁を伝わる表面波の影響により、反射波のノイズが大きくなり、解析精度を高めることができないという問題がある。
このような観点から、本発明は、発破による切羽前方からの弾性波の解析精度を高めることができるとともに、受振器の位置変更を容易にすることができる切羽前方探査システム、受振器および切羽前方探査方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、掘削用発破を開始する発破器と、前記掘削用発破の開始タイミングを示すショットマークを検出する検出器と、前記掘削用発破に起因して発生した弾性波を検出する受振器とを備え、前記受振器は、トンネル周壁面に削孔された受振孔に配置されており、前記受振器を前記受振孔の孔壁に固定する保持部を備える切羽前方探査システムである。
また、本発明は、掘削用発破に起因して発生した弾性波を検出する受振器であって、トンネル周壁面に削孔された受振孔に配置されており、前記受振器を前記受振孔の孔壁に固定する保持部を備える受振器である。
また、本発明は、受振器をトンネル周壁面に削孔された受振孔に配置する第1ステップと、前記受振器を前記受振孔の孔壁に固定する第2ステップと、発破器を操作して掘削用発破を開始する第3ステップと、検出器が前記掘削用発破の開始タイミングを示すショットマークを検出する第4ステップと、前記受振器が前記掘削用発破に起因して発生した弾性波を検出する第5ステップとを備える切羽前方探査方法である。
かかる構成によれば、掘削用発破を震源とするため、掘削作業を中断しなくてもよい。また、受振器が受振孔に配置されているため、TFT法と比較して、掘削用発破に起因して発生した弾性波(切羽前方の破砕帯、湧水帯などで反射した反射波を含む)のノイズを小さくできる。また、保持部が受振器を受振孔の孔壁に固定するため、受振器のセンサを地山に密着させることができ、モルタル等の充填材無しでも、センサが検出する弾性波のノイズを小さくできる。よって、受振器が検出した弾性波を解析装置が解析するときの解析精度を高めることができる。また、保持部は、受振孔の孔壁に対する受振器の固定を解除できるため、受振器の配置位置に不良地山が分布していたとしても、受振器を取り出すなどして受振器の位置を変更できる。つまり、モルタル等の充填材は用いないので、受振器の設置は短時間で済む。したがって、発破による切羽前方からの弾性波の解析精度を高めることができるとともに、受振器の位置変更を容易にすることができる。
なお、TFT法では、受振器がロックボルト頭部に配置されるため、発破による飛石や建設機械との接触に起因して受振器が破損することがないように防護器具を用意する必要があった。つまり、TFT法では、切羽前方探査を行うための部品点数が多くなってしまうという問題があった。これに対し、本発明の受振器は受振孔内に配置されているため、防護器具は不要となり、切羽前方探査を行うための部品点数を低減できる。
【0007】
また、前記検出器は、前記掘削用発破に用いる火薬と前記発破器とを繋ぐ発破母線に連結されているとともに、前記火薬と前記発破器との間に配置されており、前記火薬は、トンネル切羽に配置されており、前記発破器は、前記受振孔よりもトンネル坑口側に配置されていることが好ましい。
かかる構成によれば、掘削用発破を実現する構成を簡易にできる。また、発破器を発破による飛石から保護できる。
【0008】
また、前記受振器に接続されたデータロガーをさらに備え、前記データロガーは、無線通信により前記検出器から前記ショットマークを受信する無線部を備えることが好ましい。
かかる構成によれば、データロガーは、ショットマークの受信をトリガにして、受振器が弾性波を受振したときに生成するデータの収録を開始できる。つまり、発破の開始タイミングから弾性波の受振タイミングまでの時間を確実に記録できる。また、データロガーと検出器が無線通信をするため、掘削作業の進行状況に応じて、データロガーと検出器との位置関係を適宜調整できる。
【0009】
また、前記受振器は、前記弾性波を検出するジオフォンを備え、前記データロガーは、前記保持部を開閉する制御部と、前記ジオフォンが検出した弾性波のデータを記録する記録部とを備えることが好ましい。
かかる構成によれば、弾性波の検出を実現する構成を簡易にできる。
【0010】
また、前記データロガーが前記受振孔に配置されていることが好ましい。
かかる構成によれば、発破による飛石や建設機械との接触に起因してデータロガーが破損することがないように防護器具を用意する必要がない。よって、切羽前方探査を行うための部品点数を低減できる。
【0011】
また、前記受振器と前記データロガーとを通信可能に接続するケーブルをさらに備えることが好ましい。
かかる構成によれば、切羽前方探査の終了後、ケーブルを手繰り寄せて、受振孔の奥にある受振器を容易に回収することができる。
【0012】
また、前記受振器を前記受振孔の奥に押し込む押し込み部をさらに備えることが好ましい。
かかる構成によれば、受振孔の奥の位置に受振器を容易に配置できる。
【0013】
また、前記掘削用発破は、所定の発破予定タイミングで3段階以上発破する段発発破であり、1発目の発破から2発目の発破までの時間間隔を2発目の発破から3発目の発破までの時間間隔よりも大きくすることが好ましい。
かかる構成によれば、1発目の発破に起因した弾性波(反射波)の計測時間を稼ぐことができる。切羽前方の破砕帯や湧水帯までの距離が大きくなるにつれて、反射波が観測されるまでの時間が長くなるが、1発目の発破から2発目の発破までの時間間隔を2発目の発破から3発目の発破までの時間間隔よりも大きくすれば、2発目の発破の影響を受けることなく受振器に検出される。このため、1発目の発破による反射波のノイズは小さくなる。その結果、切羽前方探査の探査距離を増大させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発破による切羽前方からの弾性波の解析精度を高めることができるとともに、受振器の位置変更を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の切羽前方探査システムの全体構成図である。
【
図3】受振器の保持部が開いたときの説明図である。
【
図4】(a)が、押し込み部の側方視内部断面図であり、(b)が、受振器の根元部の側方視内部断面図である。
【
図5】掘削用発破における段発発破の説明図である。
【
図6】本実施形態の切羽前方探査方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0017】
[構成]
図1は、本実施形態の切羽前方探査システムの全体構成図であり、トンネル坑内の平面図である。切羽前方探査システムは、発破器1と、検出器2と、受振器3と、データロガー4とを備えている。
発破器1は、掘削用発破を開始する機器である。掘削用発破は、トンネル切羽に配置された火薬(図示略)を爆破させ、地山を破砕することである。発破器1は、発破母線5によって火薬と連結されている。発破器1は、トンネル周壁面を削孔した受振孔6よりも坑口側に配置されている。
検出器2は、掘削用発破の開始タイミングを示すショットマークを検出する。検出器2は、データロガー4と無線(例:WiFi(登録商標))で通信可能に接続している。検出器2は、検出したショットマークをデータロガー4に送信できる。検出器2は、発破母線5に連結されているとともに、火薬と発破器1との間のトンネル坑内に配置されている。
受振器3は、掘削用発破に起因して発生した弾性波8を検出する。受振器3は、受振孔6内に配置されている。弾性波8は、トンネル切羽前方にある破砕帯9などで反射した後、地山を介して受振器3に到達する。
データロガー4は、各種データを記録する機器である。データロガー4は、ケーブル7によって、受振器3と通信可能に接続しており、受振器3が検出した弾性波8のデータを受信できる。
【0018】
[受振器の詳細]
図2は、受振器3の側方視内部断面図である。受振器3は、受振孔6の孔径よりも小さな径を有する略棒状体を呈している。受振器3は、筐体31と、キャップ32と、ジオフォン33と、保持部34と、モータ35とを備えている。
筐体31は、略筒状体である。筐体31の中空部には、閉状態にある保持部34とモータ35が配置されている。なお、筐体31の一部側面が開口しており、筐体31内に収容されていた保持部34を、前記開口を通じて径方向外側に展開することができる。
キャップ32は、受振器3の頭部であり、筐体31の先端部に連結されている。
ジオフォン33は、掘削用発破により破砕帯9で反射した弾性波8を検出するセンサ(地震計)である。ジオフォン33は、キャップ32に受容されている。
【0019】
保持部34は、受振器3を受振孔6の孔壁に固定する部材である。保持部34は、ブロック341と、一対の第1アーム342,342と、第2アーム343と、アクチュエータ344とを備えている。ブロック341、一対の第1アーム342,342およびアクチュエータ344により平行リンク機構が形成されている。
ブロック341は、保持部34が開状態になったときに受振孔6の孔壁に当接する部位である。
一対の第1アーム342,342は、ブロック341とアクチュエータ344を連結する。
第2アーム343は、ブロック341と筐体31の根元部側面を連結する。
アクチュエータ344は、モータ35の駆動により、軸方向に移動する。
モータ35は、正回転するとアクチュエータ344を軸方向正側(筐体31の根元部からキャップ32に向かう方向)に移動させ、逆回転するとアクチュエータ344を軸方向逆側(キャップ32から筐体31の根元部に向かう方向)に移動させる。アクチュエータ344を軸方向正側に移動させると、平行リンク機構が展開して保持部34が開状態となり(
図3参照)、アクチュエータ344を軸方向逆側に移動させると、平行リンク機構が折り畳まれて保持部34が閉状態となる(
図2参照)。
なお、
図2では、筐体31の根元部を覆うエンドキャップ37が図示されているが、受振器3の使用時にはエンドキャップ37が外され、ケーブル7が受振器3に接続される。
【0020】
[受振器の動作]
図3は、受振器3の保持部34が開いたときの説明図である。保持部34が閉状態である受振器3が、受振孔6内の所定位置に配置されたとする。例えば、作業員は解析装置を用いてデータロガー4を介して制御信号を受振器3に送信できる。制御信号を送信すると、受振器3は、制御信号に従い、モータ35を正転させて、アクチュエータ344を軸方向正側に移動させる。すると、一対の第1アーム342,342、第2アーム343を介して、ブロック341が、筐体31の係方向外側に移動し、受振孔6の孔壁に当接する。よって、受振器3が受振孔6の孔壁に固定され、ジオフォン33を地山に実質的に密着させることができる。その結果、ジオフォン33が検出する弾性波8のノイズを小さくできる。
また、受振器3の配置位置に不良地山が分布していたため、弾性波8の検出が良好にならない等の理由により、受振器3の配置位置を変更したい場合がある。この場合、例えば、作業員が解析装置を用いてデータロガー4を介して制御信号を受振器3に送信する。受振器3は、制御信号に従い、モータ35を逆転させて、アクチュエータ344を軸方向逆側に移動させる。すると、第1アーム342,342、第2アーム343を介して、ブロック341と受振孔6の孔壁との当接が解除され、ブロック341が筐体31内に収納される。その結果、受振器3を移動させ、所望の配置位置に変更できる。
【0021】
[押し込み部]
図4は、(a)が、押し込み部の側方視内部断面図であり、(b)が、受振器の根元部の側方視内部断面図である。押し込み部10は、受振器3を受振孔6の奥に押し込む筒状体である。押し込み部10は、複数のロッド部101と、複数の継手部102と、ガイド受容部103,103とを備えている。また、受振器3は、根元部にガイド部36,36を備えている。
ロッド部101は、押し込み部10の本体部分を構成する筒状体である。ロッド部101の中空部にケーブル7を挿通できる。
継手部102は、隣り合うロッド部101を連結する。継手部102を用いてロッド部101を継ぎ足すことにより、押し込み部10の全長を調整できる。
ガイド受容部103,103は、受振器3のガイド部36,36を受容する。ガイド受容部103,103は、先頭のロッド部101の先端部に連結されているとともに、先頭のロッド部101の先端部から押し込み部10の軸方向に、かつ、受振器3に対向するように延在している。
受振器3のガイド部36,36は、受振器3の根元部から受振器3の軸方向に、かつ、押し込み部10に対向するように延在する針状体である。ガイド部36,36は、ガイド受容部103,103に受容されることで、押し込み部10の軸回り回転位置と受振器3の軸回り回転位置とを位置合わせできる。
【0022】
図4(b)に示すように、受振器3の根元部にケーブル7が接続された状態で、受振器3が受振孔6内の所定位置(作業員の手の届かない位置)に配置されていたとする。受振器3を受振孔6の奥に押し込みたい場合、作業員は、押し込み部10の中空部にケーブル7を挿通させ、ガイド受容部103,103にガイド部36,36を受容させる。その後、作業員が押し込み部10を受振孔6の奥に押し込むことで、受振器3を受振孔6の奥に押し込むことができ、受振器3を所望の位置に配置できる。
【0023】
[データロガー4の詳細]
図1に戻って、データロガー4は、無線部(図示略)と、記録部(図示略)とを備えている。無線部は、無線通信により検出器2からショットマークを受信する機能部である。記録部は、ジオフォン33が検出した弾性波8のデータを記録する機能部である。
図1に示すように、データロガー4は、受振孔6の入口に配置されている。データロガー4は、受振孔6の孔径と略一致するまたは孔径よりも小さい直径を有する円柱状体を呈している。また、データロガー4は、データロガー4の本体部よりも大きな直径を有する円板状体のフランジ部を有している。一方、受振孔6の入口には、受振孔6の孔径よりも大きい径を有する凹部(拡径部)が形成されている。作業員が受振孔6の入口にデータロガー4を配置すると、データロガー4のフランジ部が受振孔6の入口の凹部に受容されるとともに、凹部の平面に係止される。作業員がビス止め等でフランジ部を凹部に固定することで、データロガー4を受振孔6の入口に固定できる。また、凹部の深さをフランジ部の板厚よりも大きくすることでデータロガー4全体をトンネル周壁面よりもトンネル周壁内部に配置することができる。その結果、掘削用発破による飛石がデータロガー4に衝突する可能性を極めて小さくできる。
【0024】
[ケーブル]
図1に示すように、ケーブル7は、データロガー4と受振器3と接続している。切羽前方探査が終了すると、作業員は、データロガー4を受振孔6の入口から取り出す。次に、作業員は、ケーブル7を手繰り寄せて、受振孔6の奥にある受振器3を容易に回収することができる。
【0025】
[掘削用発破]
本実施形態の掘削用発破は、例えば、所定の発破予定タイミングで3段階発破する段発発破とすることができる。なお、3段階に限らず、4段階以上にしてもよい。
図5は、掘削用発破における段発発破の説明図である。
図5に示すトンネル切波面上に仮想的な点P、円Q1~Q3を用意する。円Q1~Q3は、点Pを中心とする同心円である。円Q2の半径は、円Q1の2倍である。円Q3の半径は、円Q1の3倍である。点Pに火薬を配置する。点Pは、探査震源となる。また、円Q1~Q3の各々の周上には、1または複数の火薬が配置されている。ただし、点Pに配置された火薬および円Q1~円Q3の各々の周上に配置された火薬は、一直線上に並んでいる。よって、点Pに配置された火薬および円Q1~円Q3の各々に配置された火薬は、等間隔に並んでいる。
発破器1を作動させ、掘削用発破を開始した場合、発破母線5に繋がっている点Pの火薬が発破し、その後、円Q1の火薬、円Q2の火薬、円Q3の火薬が順次発破する。点Pに配置された火薬および円Q1~円Q3の各々に配置された火薬は、等間隔に並んでいるため、各火薬の発破間隔が同じになる。点Pの火薬の発破タイミングを0msとした場合、例えば、円Q1の火薬の発破タイミングは250ms後、円Q2の火薬の発破タイミングは500ms後、円Q3の火薬の発破タイミングは750ms後となる。受振器3は、発破タイミング0ms、250ms後、500ms後、および750ms後の弾性波8を検出する。
【0026】
上記は通常の段発発破の説明であったが、本実施形態では、段飛ばしの段発発破を導入する。
図5の例の場合、段飛ばしの段発発破は、円Q1の周上に500ms後の発破、円Q2の周上に750ms後の発破、円Q3の周上に1000ms後の発破となる。よって、250ms後の発破は存在せず、受振器3は、発破タイミング0ms、500ms後、および750ms後の弾性波8を検出する。段飛ばしにより、点Pの火薬の発破に起因した弾性波8(反射波)の計測時間(500ms)を稼ぐことができる。切羽前方の破砕帯9や湧水帯までの距離が大きくなるにつれて、反射波が観測されるまでの時間が長くなるが、円Q1の火薬の発破を省略し、500msの計測時間(無音区間)を確保することで、点Pの火薬の発破による弾性波8は、円Q2の火薬の発破の影響を受けることなく受振器3に検出される。このため、点Pの火薬の発破による弾性波8のノイズは小さくなる。その結果、切羽前方探査の探査距離を増大させることができる。具体的には、通常の段発発破の場合は、探査距離が100~150m程度であったが、段飛ばしの段発発破の場合は、探査距離を400m程度に伸ばせることが確認された。
【0027】
より一般的な段飛ばしの段発発破は、1発目の発破から2発目の発破までの時間間隔を2発目の発破から3発目の発破までの時間間隔よりも大きくするものである。かかる構成によれば、1発目の発破に起因した弾性波(反射波)の計測時間を稼ぐことができる。切羽前方の破砕帯や湧水帯までの距離が大きくなるにつれて、反射波が観測されるまでの時間が長くなるが、1発目の発破から2発目の発破までの時間間隔を2発目の発破から3発目の発破までの時間間隔よりも大きくすれば、2発目の発破の影響を受けることなく受振器に検出される。このため、1発目の発破による反射波のノイズは小さくなる。その結果、切羽前方探査の探査距離を増大させることができる。
【0028】
[動作]
切羽前方探査システムが行う切羽前方探査方法について説明する。
図6は、本実施形態の切羽前方探査方法の手順を示すフローチャートである。
まず、作業員が受振器3を受振孔6に配置する(ステップS1)。作業員は、押し込み部10を用いて受振器3を受振孔6の奥に押し込むことができる。よって、受振孔6内の受振器3の位置を適宜設定できる。なお、受振器3は、データロガー4とケーブル7で連結されている。
次に、作業員が解析装置を操作して、受振器3を受振孔6に固定する(ステップS2)。具体的には、解析装置がデータロガー4を介して受振器3に制御信号を送信する。制御信号を受信した受振器3は、保持部34のブロック341を受振孔6の孔壁に当接させる。地山不良等により受振器3の位置を変更したい場合には、作業員が解析装置を操作して、保持部34の固定を解除し、所望の位置に移動させた後、再度、保持部34のブロック341を受振孔6の孔壁に当接させ、受振器3を受振孔6に固定する。
次に、作業員がデータロガー4を受振孔6に配置する(ステップS3)。
【0029】
次に、作業員が発破器1を操作して掘削用発破を開始する(ステップS4)。掘削用発破により、トンネル切羽に配置された火薬が爆破し、弾性波8が発生する。弾性波8は、破砕帯9で反射した後、地山を介して受振孔6に到達する。
次に、発破器1の操作に応じて、検出器2がショットマークを検出する(ステップS5)。検出器2は、検出したショットマークをデータロガー4に送信する。よって、データロガー4は、掘削用発破の開始タイミングを知得でき、受振器3による弾性波8の検出タイミングを特定できる。
次に、受振器3が破砕帯9で反射した弾性波8を検出する(ステップS6)。具体的には、保持部34による受振器3の固定によって、地山に実質的に密着したジオフォン33が弾性波8を検出できる。受振器3は、検出した弾性波8のデータを、ケーブル7を介してデータロガー4に送信する。
次に、データロガー4が受振器3から受信した弾性波8のデータを記録する。例えば、データロガー4は、検出された弾性波8のデータの各々に、掘削用発破の開始タイミングから特定された弾性波8の検出タイミングを関連付けることができる。なお、例えば、データロガー4は、内蔵している記録媒体に弾性波8のデータを記録することができる。作業員は、データロガー4から記録媒体を取り出して、解析装置に記録媒体を接続することで、解析装置が、弾性波8のデータを取得し、所定の解析を行うことができる。
以上で切羽前方探査方法が完了する。
【0030】
切羽前方探査終了後、作業員は、データロガー4を受振孔6から取り出す。また、作業員は、データロガー4に繋がっているケーブル7を手繰り寄せることで受振器3を容易に取り出すことができる。
【0031】
本実施形態によれば、掘削用発破を震源とするため、掘削作業を中断しなくてもよい。また、受振器3が受振孔6に配置されているため、TFT法と比較して、掘削用発破に起因して発生した弾性波8(切羽前方の破砕帯、湧水帯などで反射した反射波を含む)のノイズを小さくできる。また、保持部34が受振器3を受振孔6の孔壁に固定するため、受振器3のセンサ(ジオフォン33)を地山に密着させることができ、従来によるモルタル等の充填材無しでも、センサが検出する弾性波のノイズを小さくできる。よって、受振器3が検出した弾性波8を解析装置が解析するときの解析精度を高めることができる。また、保持部34は、受振孔6の孔壁に対する受振器3の固定を解除できるため、受振器3の配置位置に不良地山が分布していたとしても、受振器3を取り出すなどして受振器3の位置を変更できる。つまり、従来によるモルタル等の充填材は用いないので、受振器3の設置は短時間で済む。したがって、発破による切羽前方からの弾性波8の解析精度を高めることができるとともに、受振器3の位置変更を容易にすることができる。
また、受振器3は受振孔6内に配置されているため、従来のTFT法では必須であった防護器具は不要となり、切羽前方探査を行うための部品点数を低減できる。
【0032】
また、データロガー4は、ショットマークの受信をトリガにして、受振器3が弾性波8を受振したときに生成するデータの収録を開始できる。つまり、発破の開始タイミングから弾性波8の受振タイミングまでの時間を確実に記録できる。また、データロガー4と検出器2が無線通信をするため、掘削作業の進行状況に応じて、データロガー4と検出器2との位置関係を適宜調整できる。
また、データロガー4が受振孔6に配置されているため、受振器3と同様、防護器具は不要となり、切羽前方探査を行うための部品点数を低減できる。
【0033】
[変形例]
(a):検出器2とデータロガー4は、無線でなく、有線で通信可能に接続してもよい。
(b):ケーブル7を用いる代わりに、データロガー4と受振器3とは無線で通信可能に接続してもよく、データロガー4は、受振器3から弾性波8のデータを無線で受振してもよい。
(c):受振孔6は、複数用意することができ、受振孔6の各々に受振器3とデータロガー4を配置できる。また、受振孔6に配置する受振器3は、複数であってもよい。また、受振孔6の削孔方向は、トンネルの延在方向と垂直でなくてもよい。
(d):段飛ばしの段発発破の際、飛ばそうとする段の番号、回数は適宜設定できる。
(e):データロガー4は、取り出し可能な記録媒体を内蔵せず、埋め込み型の記憶部を備える構成であってもよい。この場合、解析装置とデータロガー4が有線または無線で通信可能に接続しており、データロガー4は、弾性波8のデータを解析装置に送信できる。
【0034】
(f):本実施形態で説明した種々の技術を適宜組み合わせた技術を実現することもできる。
(g):本実施形態で説明したソフトウェアをハードウェアとして実現することもでき、ハードウェアをソフトウェアとして実現することもできる。
(h):その他、ハードウェア、ソフトウェア、フローチャートなどについて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 発破器
2 検出器
3 受振器
4 データロガー
5 発破母線
6 受振孔
7 ケーブル
8 弾性波
9 破砕帯
10 押し込み部
101 ロッド部
102 継手部
103 ガイド受容部
31 筐体
32 キャップ
33 ジオフォン
34 保持部
341 ブロック
342 第1アーム
343 第2アーム
344 アクチュエータ
35 モータ
36 ガイド部
37 エンドキャップ