(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】耐酸用鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240926BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240926BHJP
C22C 38/02 20060101ALI20240926BHJP
C22C 38/48 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C22C38/00 301R
C22C38/00 301W
C21D9/46 H
C21D9/46 S
C22C38/02
C22C38/48
(21)【出願番号】P 2021531253
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 KR2019016378
(87)【国際公開番号】W WO2020111734
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-31
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】10-2018-0153136
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ミン ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ビョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ヤン-クァン
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】相澤 啓祐
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.1重量%以下(0重量%を除く)、Si:2.0~4.0重量%、Mn:0.1~0.5重量%、Al:0.1重量%以下、P:0.01重量%以下、S:0.01重量%以下およびN:0.01重量%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物
からなり、
鋼板表面から内部方向に深さ10μmまでの表面部のSi含有量が15重量%以上である、耐酸用鋼板。
【請求項2】
Cr:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下、Cu:0.1重量%以下、Nb:0.1重量%以下およびMo:0.1重量%以下のうち1種以上をさらに含む、請求項1に記載の耐酸用鋼板。
【請求項3】
1重量%の硫酸水溶液に70℃で1時間の間浸漬するとき、平均腐食速度が3.5mg/cm
2・h以下である、請求項1または2に記載の耐酸用鋼板。
【請求項4】
伸び率が30%以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の耐酸用鋼板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の耐酸用鋼板を製造する方法であって、
C:0.1重量%以下(0重量%を除く)、Si:2.0~4.0重量%、Mn:0.1~0.5重量%、Al:0.1重量%以下、P:0.01重量%以下、S:0.01重量%以下およびN:0.01重量%以下を含み、残部Feおよび不可避不純物
からなるスラブ
、又は、Cr:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下、Cu:0.1重量%以下、Nb:0.1重量%以下およびMo:0.1重量%以下のうち1種以上をさらに含むスラブを加熱する段階;
前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;および
前記熱延鋼板を25重量%以上の酸水溶液に10秒以上酸処理する段階
を含む、耐酸用鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記スラブを加熱する段階で、
前記スラブを1200℃以上加熱する、請求項5に記載の耐酸用鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延鋼板を製造する段階で、
仕上げ圧延温度はAr
3以上である、請求項5または6に記載の耐酸用鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱延鋼板を製造する段階の後、
前記熱延鋼板を550~750℃で巻き取りする段階をさらに含む、請求項5から7のいずれか1項に記載の耐酸用鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延鋼板を製造する段階の後、
前記熱延鋼板を冷間圧延する段階をさらに含む、請求項5から8のいずれか1項に記載の耐酸用鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記熱延鋼板を製造する段階の後、
前記熱延鋼板を焼鈍する段階をさらに含む、請求項5から9のいずれか1項に記載の耐酸用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐酸用鋼板およびその製造方法に関する。具体的には各種酸によって発生する腐食に対する耐食性と加工性に優れる鋼板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギを生成させるために化石燃料を燃焼させる過程で硫酸ガス、硝酸ガスなどの有毒性排気ガスとともに水蒸気が発生し、これらが冷却される過程で硫酸、塩酸、硝酸などの各種強酸が含有された凝縮水が生成されて排気装置を腐食させることがある。その他、各種産業施設で洗浄などのために使用する溶液として酸溶液を使用する場合が多いため酸による腐食が誘発される。
【0003】
このような酸環境に鋼板が露出する場合、鋼板の急速な腐食により厚さが減少することによって構造材としての機能を喪失することがある。したがって、酸と接触し得る環境に使用される鋼板は寿命延長のために酸に対する耐食性を向上させる必要がある。また、所望する形態の構造物として使用されるためには成形のために一定水準以上の機械的物性が満たされなければならない。
【0004】
冷延鋼鈑の耐食性を補完するために鋼板にAl溶融メッキして耐食性を改善する方法が提案されている。アルミニウムメッキ鋼板は一般的な炭素鋼にアルミニウムがメッキされているが、Al2O3不動態膜による耐食性を有し、特に塩による腐食に対する耐食性は非常に強い長所がある。しかし、pHが低い強酸環境でAlは溶出されて簡単に除去され、これ以上耐食性を発揮できない限界がある。
【0005】
このような問題を解消するために、鋼板にCuを添加することによりpHが低い強酸環境での腐食を抑制する方法が提案されている。Cuを添加すると腐食される過程でCuが表面に濃化して腐食速度を減少させるが、Cuの添加による耐食性水準には限界があり、耐食性をより向上させる方法が必要である。また、Cuを多量添加すると鋼板の生産過程で表面にクラックが誘発される短所がある。
【0006】
鋼板の耐食性を大きく向上させる方法として、Crを含む様々な合金元素の多量添加によりステンレス鋼板を製造する方法が提案されている。ステンレス鋼板も一定範囲のpHでCr2O3不動態膜による耐食性を有するが、pHが低い強酸環境でCr2O3不動態膜が活性化して耐食性を失う。それだけでなく、高価な合金元素が多量添加されて経済性が低下する短所がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耐酸用鋼板およびその製造方法を提供する。具体的には各種酸によって発生する腐食に対する耐食性と加工性に優れる鋼板とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板は、重量%で、C:0.1%以下(0%を除く)およびSi:2.0~4.0%を含み、残部Feおよびその他不可避不純物を含み、鋼板表面から内部方向に深さ10μmまでの表面部のSi含有量が15重量%以上である。
【0009】
Mn:0.1~0.5重量%、Al:0.1重量%以下、P:0.01重量%以下、S:0.01重量%以下およびN:0.01重量%以下のうち1種以上をさらに含み得る。
【0010】
Cr:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下、Cu:0.1重量%以下、Nb:0.1重量%以下、Ti:0.1重量%以下およびMo:0.1重量%以下のうち1種以上をさらに含み得る。
【0011】
1重量%の硫酸水溶液に70℃で1時間の間浸漬するとき、平均腐食速度が3.5mg/cm2・h以下であり得る。
伸び率が30%以上であり得る。
【0012】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.1%以下(0%を除く)およびSi:2.0~4.0%を含み、残部Feおよびその他不可避不純物を含むスラブを加熱する段階スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階および熱延鋼板を25重量%以上の酸水溶液に10秒以上酸処理する段階を含む。
【0013】
スラブを加熱する段階で、スラブを1200℃以上加熱し得る。
熱延鋼板を製造する段階で、仕上げ圧延温度はAr3以上であり得る。
【0014】
Ar3温度は下記式で計算され得る。
Ar3=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo]-(0.35×(25.4-8))
【0015】
熱延鋼板を製造する段階の後、熱延鋼板を550~750℃で巻き取りする段階をさらに含み得る。
熱延鋼板を製造する段階の後、熱延鋼板を冷間圧延する段階をさらに含み得る。
熱延鋼板を製造する段階の後、熱延鋼板を焼鈍する段階をさらに含み得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板は耐酸性と加工性に優れる。
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板は、Crのような高価な合金成分を添加せずとも、優れた耐酸性と加工性を得ることができる。
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板は、Si濃化層が形成されており、酸による腐食環境で優れた耐食性を有することによって素材の寿命を効果的に延長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例による耐酸用鋼板の概略的な断面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるがこれらに限定されない。これらの用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するために使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及され得る。
【0019】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形は文脈上明らかに逆の意味を示さない限り複数形も含む。明細書で使用される「含む」の意味は特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0020】
また、特記しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0021】
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は追加元素の追加量だけ残部である鉄(Fe)の代わりに含むことを意味する。
【0022】
他に定義していないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。一般に用いられている辞書に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に合う意味を有するものとして追加解釈され、定義されない限り理想的または公式的過ぎる意味に解釈ならない。
【0023】
以下、本発明の実施形態について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0024】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板は、酸による腐食が起きる環境で使用される鋼板に関するものである。該当用途の素材は寿命延長のために酸環境に対する耐食性を有するとともに所望する形態に成形するための加工性を有さなければならない。
【0025】
耐酸性を高めるために高価な合金元素を過多に添加する場合、素材の原価が増加して経済性が低下するだけでなく加工性が減少する結果を招く。したがって、高価な合金元素を多量添加せず耐食性および加工性をともに確保できる方法が必要である。
【0026】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板は、表面部にSi濃化層が形成されており、酸による腐食環境で優れた耐食性を有することによって素材の寿命を効果的に延長させることができる。
【0027】
図1では本発明の一実施形態による耐酸用鋼板の概略的な断面を示す。
図1に示すように、耐酸用鋼板10の表面から内部方向に表面部20が存在する。
図1では表面部20が一面に位置することが示されているが、両面に位置することも可能である。
【0028】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板10は、重量%で、C:0.1%以下(0%を除く)およびSi:2.0~4.0%を含み、残部Feおよび不可避不純物を含む。
以下、各成分別に詳細に説明する。
【0029】
炭素(C):0.1重量%以下
Cは含有量が高いほど強度が増加するので所望する降伏強度および引張強度を得るために適正量のCを添加する。しかし、Cの含有量が過度に高い場合は伸び率が減少して成形性が低下し得る。したがって、Cを0.1重量%以下で含み得る。より具体的にはCを0.001~0.1重量%含み得る。さらに具体的にはCを0.01~0.09重量%含み得る。
【0030】
ケイ素(Si):2.0~4.0重量%
Siは少量添加されて脱炭剤として使用できる元素であり、固溶強化による強度の向上に寄与することができる。本発明の一実施形態におけるSiは、非常に重要な添加元素としてSiの添加および表面濃化により表面にSi系酸化層を形成させることによって酸に対する耐食性を大きく向上させることができる。Siが過度に少なく添加される場合、前述した効果を得難い。逆にSiが過多に添加される場合はB2またはDO3規則相の形成によって加工性が大きく低下し得る。したがって、Siを2.0~4.0重量%含み得る。より具体的にはSiを2.5~3.5重量%含み得る。
【0031】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板10は、Mn:0.1~0.5重量%、Al:0.1重量%以下、P:0.01重量%以下、S:0.01重量%以下およびN:0.01重量%以下のうち1種以上をさらに含み得る。
【0032】
マンガン(Mn):0.1~0.5重量%
マンガン(Mn)は鋼中の固溶Sと結合してMnSとして析出されることによって固溶Sによる赤熱脆性(Hot shortness)を防止する元素である。このような効果を出すために、Mnをさらに含む場合、0.1重量%以上含まれ得る。しかし、Mnを0.5重量%を超える場合は材質が硬化して軟性を低下させ得る。より具体的にはMnを0.15~0.35重量%含み得る。
【0033】
アルミニウム(Al):0.1重量%以下
Alは脱酸効果が非常に大きい元素であり、鋼中のNと反応してAlNを析出させることによって固溶Nによる成形性が低下することを防止するので、さらに含まれ得る。しかし、多量添加される場合は軟性が急激に低下するので、含有量を0.1重量%以下に制限する。より具体的にはAlを0.01~0.05重量%さらに含み得る。
【0034】
リン(P):0.01重量%以下
一定量以下のPの添加は鋼の軟性を大きく減少させず強度を上げることができる元素であるが、0.01重量%を超えて添加すると結晶粒界に偏析して鋼を硬化させるので0.01重量%以下に制限し得る。より具体的にはPを0.001~0.01重量%さらに含み得る。
【0035】
硫黄(S):0.01重量%以下
Sは固溶時赤熱脆性を誘発する元素であるので、Mnの添加によりMnSの析出が誘導されなければならない。しかし、MnSの過多な析出は鋼を硬化させるので好ましくない。したがって、Sの上限を0.01重量%に制限する。より具体的にはSを0.001~0.01重量%さらに含み得る。
【0036】
窒素(N):0.01重量%以下
Nは鋼中に不可避な元素として含有される場合が多く、析出されず固溶された状態で存在するNは軟性を低下させ、耐時効性を悪化させるだけでなく加工性を落とす。またTi、Nbなどの元素と結合して析出物を形成する場合は耐食性を大きく悪化させるので上限を0.01重量%に制限する。より具体的にはNを0.001~0.005重量%さらに含み得る。
【0037】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板10は、C:0.01重量%以下、Si:2.0~4.0重量%、Mn:0.1~0.5重量%、Al:0.1重量%以下、P:0.01重量%以下、S:0.01重量%以下およびN:0.01重量%以下を含み、残部Feおよびその他不可避不純物を含み得る。具体的には本発明の一実施形態による耐酸用鋼板10は、C:0.01重量%以下、Si:2.0~4.0重量%、Mn:0.1~0.5重量%、Al:0.1重量%以下、P:0.01重量%以下、S:0.01重量%以下およびN:0.01重量%以下を含み、残部Feおよびその他不可避不純物からなる。
【0038】
前述した合金組成以外に残部はFeおよび不可避不純物を含む。ただし、本発明の一実施形態で他の組成の添加を排除するものではない。上記不可避不純物は通常の鉄鋼製造過程では原料または周囲環境から意図せずに混入し得、これを排除することはできない。上記不可避不純物は通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば理解することができる。例えば、Cr:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下、Cu:0.1重量%以下、Nb:0.1重量%以下、Ti:0.1重量%以下、およびMo 0.1重量%以下であり得る。
【0039】
本発明の一実施形態で鋼板表面から内部方向に深さ10μmまでの表面部20のSi含有量が15重量%以上であり得る。
【0040】
前述した合金組成は表面部20を含む鋼板10全体の合金組成であり、表面部20を除いたものではない。
【0041】
表面部20内にSi含有量の他に残りの含有量は鋼板10の合金組成と同一であり、ただしOを5~50重量%さらに含み得る。表面部20内でもSiの濃度勾配が存在し得、Si含有量が15%以上であるという表現は表面部20全体厚さでの平均を意味する。
【0042】
本発明の一実施形態で表面部20のSi含有量を15重量%以上確保することによって、耐食性を確保することができる。より具体的には表面部20のSi含有量が20重量%以上であり得る。さらに具体的には20~35重量%であり得る。
【0043】
表面部20の形成方法については後述する耐酸用鋼板の製造方法で詳しく説明するので、重複する説明は省略する。
【0044】
前述したように、表面部20が存在することによって、優れた耐食性とともに優れた加工性を確保することができる。
【0045】
具体的には1重量%の硫酸水溶液に70℃で1時間の間浸漬するとき、平均腐食速度が3.5mg/cm2・h以下であり得る。また、伸び率が30%以上であり得る。より具体的には1重量%の硫酸水溶液に70℃で1時間の間浸漬するとき、平均腐食速度が1.0~3.0mg/cm2・h以下であり得る。また、伸び率が30~40%であり得る。
【0046】
本発明の一実施形態による耐酸用鋼板の製造方法は、スラブを加熱する段階スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階および熱延鋼板を25重量%以上の酸水溶液に10秒以上酸処理する段階を含む。
【0047】
以下では各段階別に具体的に説明する。
先にスラブを加熱する。
スラブの合金組成については前述した耐酸用鋼板で説明したので、重複する説明は省略する。耐酸用鋼板の製造過程で合金成分が実質的に変動しないので、耐酸用鋼板の合金組成とスラブの合金組成は実質的に同一である。
【0048】
スラブの加熱温度は1200℃以上であり得る。鋼中に存在する析出物をほとんど再固溶させなければならないので、1200℃以上の温度が必要である。より具体的にはスラブ加熱温度は1250℃以上であり得る。
【0049】
次に、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。
このとき、仕上げ圧延温度はAr3以上であり得る。
【0050】
Ar3温度は下記式で計算される。
Ar3=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo]-(0.35×(25.4-8))
【0051】
これはオーステナイト単相領域で圧延をするためである。
【0052】
熱延鋼板を製造する段階の後、熱延鋼板を550~750℃で巻き取りする段階をさらに含み得る。550℃以上で巻き取りすることによって固溶された状態で残っているNをAlNとして追加的に析出させ得るので、優れた耐時効性を確保することができる。550℃未満で巻き取りする場合はAlNとして析出されずに残っている固溶Nによって加工性が落ちる危険性がある。750℃以上で巻き取りする場合は結晶粒が粗大化して冷間圧延性を落とす要因になる。
【0053】
熱延鋼板を製造する段階の後、熱延鋼板を冷間圧延する段階をさらに含み得る。また、熱延鋼板を製造する段階の後、熱延鋼板を焼鈍する段階をさらに含み得る。冷間圧延する段階および焼鈍する段階については該当分野に広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0054】
次に、熱延鋼板を25重量%以上の酸水溶液に10秒以上酸処理する。
本発明の一実施形態で酸処理により表面部20にSiを濃化させることによって、優れた耐酸性を確保することができる。
【0055】
酸としては無機酸または有機酸を使用することができる。具体的には硫酸、塩酸および硝酸のうち1種以上を使用することができる。より具体的には塩酸を使用することができる。
【0056】
酸濃度は25重量%以上であり、10秒以上処理しなければならない。酸濃度が低いか、時間が短い場合、Siが適切に濃化されず、耐食性を確保し難い。より具体的には酸濃度は25~50重量%であり、10~60秒処理し得る。
【実施例】
【0057】
以下では実施例により本発明についてより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
(実施例)
下記表1の組成を有する鋼を製造し、成分は実績値を表記したものである。このような表1の組成を有する鋼スラブを1250℃で再加熱して、900℃以上で熱間圧延を実施して、620℃で巻き取りして、表1の酸処理条件で塩酸による表面処理を実施して、最終的に3mm厚さの熱延鋼板を得た。
【0059】
【0060】
各製造された熱延鋼板に対して、表面から10μm深さまでの表面部に含有されたSiの含有量をEDS(Energy Dispersive Spectrometer)を用いて測定した。そして、1重量%の硫酸溶液に70℃で1時間の間腐食させた後平均腐食速度を測定することによって耐酸性を評価し、常温引張実験によって機械的物性を評価した。測定された表面部Si含有量、平均腐食速度、伸び率を下記表2に示した。
【0061】
【0062】
上記表2に示すように、本発明の組成および製造条件を満たす発明鋼1~16は、表面部のSi含有量が15重量%以上であり、硫酸腐食試験において平均腐食速度に優れ、伸び率に優れることを確認することができる。
【0063】
比較鋼1はC含有量が過度に高いため加工性が落ちることを確認することができる。
【0064】
比較鋼2および3はSi含有量が低く、表面部のSi含有量も低い。そのため腐食速度が大きく増加することを確認することができる。これに対し、比較鋼4および5はSi含有量が高く、このときの表面部のSi含有量も高い。腐食速度は優れるが、伸び率が非常に劣悪であることを確認することができる。これはSiとFeの規則的配列によるB2またはDO3相の形成によるものであり、該当相が生成される場合は転位の移動が自由でなく伸び率が大きく減少すると分析される。
【0065】
比較鋼6~8は酸水溶液濃度が低く、表面部のSiの濃化が充分でないため平均腐食速度が非常に劣悪であることを確認することができる。
【0066】
比較鋼9~11は酸処理時間が非常に短く、表面部のSiの濃化が充分でないため平均腐食速度が非常に劣悪であることを確認することができる。
【0067】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく互いに異なる多様な形態で製造することができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施できることを理解することができる。したがって、上記一実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0068】
10 耐酸用鋼板
20 表面部