(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】コーティング法、熱コーティング、および熱コーティングを有するシリンダ
(51)【国際特許分類】
C23C 4/12 20160101AFI20240926BHJP
C23C 4/11 20160101ALI20240926BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20240926BHJP
【FI】
C23C4/12
C23C4/11
C23C4/06
(21)【出願番号】P 2022028816
(22)【出願日】2022-02-28
(62)【分割の表示】P 2018561970の分割
【原出願日】2017-05-23
【審査請求日】2022-02-28
(32)【優先日】2016-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515135572
【氏名又は名称】エリコン メテコ アクチェンゲゼルシャフト、ヴォーレン
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アーンスト、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】リュティ、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ボーンハイオ、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シュテックリ、マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ミクラ、アレクサンダー
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-322049(JP,A)
【文献】特開2005-272890(JP,A)
【文献】特開2005-171274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射装置(4)を用いて、粉末コーティング材(3)により湾曲面(1)をコーティングするコーティング法であって、
アークにより前記粉末コーティング材(3)からコーティング用ジェット(7)を生成するために、前記溶射装置(4)の銃シャフト(5)上に銃(6)が設けられ、前記銃(6)は、所定の回転数(N)で前記銃シャフト(5)のシャフト軸線(A)を中心として回転され、
前記湾曲面(1)にコーティング(8)を付着させるための前記コーティング用ジェット(7)は、前記シャフト軸線(A)から前記湾曲面(1)に向かって少なくともある程度半径方向に向けられる、コーティング法において
、
前記銃(6)の回転数(N)が
基本回転数(N
0
)よりも大きくなるように選択され、
前記基本回転数(N
0
)が200rpmであり、
前記粉末コーティング材(3)の搬送速度(F)は、前記銃(6)の
前記基本回転数(N
0
)よりもより大きな前記回転数(N)に適合するように所定の規則に従って
、基本搬送速度(F
0
)よりも大きくなるように選択され、
N=FM
N×N
0により表される回転係数(FM
N)の選択、及びF=FM
F×F
0により表される搬送係数(FM
F)の選択が、FV=FM
N/FM
Fによる係数比(FV)の選択によって決定され、ここで1≦FV≦4であることを特徴とするコーティング法。
【請求項2】
前記湾曲面(1)は、ボア壁またはシリンダ壁(2)の凹形状の内面(1)である、請求項1に記載されたコーティング法。
【請求項3】
前記溶射装置(4)は、プラズマ溶射装置(4)またはHVOF溶射装置である、請求項1または請求項2に記載されたコーティング法。
【請求項4】
前記基本回転数(N
0)に対応する基本搬送速度(F
0)は、前記粉末コーティング材(3)を搬送するために事前に決定される、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたコーティング法。
【請求項5】
前記基本回転数(N
0)に対応する前記基本搬送速度(F
0)は、使用される前記粉末コーティング材(3)に応じて選択される、請求項4に記載されたコーティング法。
【請求項6】
前記コーティング(8)の層の厚さ(D)は、FV=FM
N/FM
Fによる係数比(FV)の選択によって決定される、請求項4または請求項5に記載されたコーティング法。
【請求項7】
前記回転係数(FM
N)および/または前記搬送係数(FM
F)の好適な選択によって、前記コーティング(8)の層特性が決定される、請求項4から請求項6までのいずれか一項に記載されたコーティング法。
【請求項8】
前記層特性は、前記コーティング(8)の硬度、微小硬度、気孔率、降伏強度、弾性率、または接着強度である、請求項7に記載されたコーティング法。
【請求項9】
前記回転数(N)は、400rpm超である、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載されたコーティング法。
【請求項10】
前記搬送速度(F)は、25g/分超以上である、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載されたコーティング法。
【請求項11】
前記コーティング材(3)は、セラミックコーティング材(3)である、および/または
前記コーティング材(3)は、金属コーティング材(3)である、請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載されたコーティング法。
【請求項12】
前記コーティング材はセラミックコーティング材であり、前記セラミックコーティング材は、TiO
2またはCr
2O
3である、請求項11に記載されたコーティング法。
【請求項13】
前記コーティング材は金属コーティング材であり、前記金属コーティング材は、低合金鋼である、請求項11に記載されたコーティング法。
【請求項14】
前記低合金鋼は、Fe-1.4Cr-1.4Mn-1.2Cである、請求項13に記載されたコーティング法。
【請求項15】
同一または異なるコーティング材(3)で構成される多層コーティング(8)が付着させられる、および/または
前記多層コーティング(8)は、同一または異なる層特性を有する、請求項1から請求項14までのいずれか一項に記載されたコーティング法。
【請求項16】
前記層特性は、硬度、微小硬度、気孔率、降伏強度、弾性率、または接着強度である、請求項15に記載されたコーティング法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれのカテゴリの独立請求項の前文に記載された、湾曲面、詳細にはボア壁またはシリンダ壁の凹形状の内面をコーティングするコーティング法、熱コーティング、および熱コーティングを有するシリンダに関するものである。
【0002】
プラズマ溶射法または高速フレーム溶射法(HVOF)などの溶射法、ならびにいわゆるプラズマ銃などのプラズマ溶射装置などの対応する溶射装置は一般に、プラズマ銃内で生成されたアークを利用して、例えばセラミックまたは合金などの好適な材料を溶融させ、ガス流のサポートを利用して被覆すべき面にそれを付着させることによって、熱または機械的に高応力の作用する部分をコーティングするために使用される。
【0003】
被覆すべき面が、外部から容易に到達可能である、または全く湾曲面を有さない限り、従来式の溶射装置によって被覆することが可能である。しかしながら、例えば孔または管状の幾何学形状の内壁を被覆すべき場合、特定の問題が生じる。そのような幾何学形状の壁が、従来式の溶射装置によって、例えば、その長手方向軸に対して主に軸方向に吹き出すプラズマジェットを使用するプラズマ溶射装置によって被覆される場合、溶融したコーティング材のごくわずかな部分しか、プラズマ溶射装置の長手方向に対して半径方向に位置する壁に有効に付着されないため、非常に非効率である。
【0004】
このような問題は、技術的応用において、とりわけ内燃機関のシリンダ走行面の熱コーティングにおいて起こるため、従来技術による様々な溶射法によってしかるべきコーティングが付着される。
【0005】
現在では、これだけではないが、とりわけ全ての種類の自動車、航空機、小型船および大型船用のエンジンにおいて広く利用されている。
【0006】
今日、一般的にシリンダの凹形状の内面をコーティングするために回転式のプラズマ銃を備えたプラズマ溶射装置を使用するが、あるいはライナー自体を回転させることも可能である。このような特殊なプラズマ溶射装置では、コーティング用ジェットは、プラズマ銃の回転軸線に直交して、または回転軸線に対して特定の傾斜角度でプラズマ銃から噴射され、所望される表面層を形成するために、例えば加圧されたガス流(しばしば希ガスまたは窒素などの不活性ガスによって、あるいは単に空気によって形成される)によって円筒形の凹形状面に投射される。コーティングの出発原料として溶射粉末を利用するコーティング法またはプラズマ溶射装置は、実際にとりわけ首尾よくコーティングできることが証明されている。そのような回転式プラズマ溶射装置ならびに対応するプラズマ溶射法は、例えば既にEP0601968A1に記載されている。Oerlikon MetcoからのSM-F210銃などの極めて最新式の設備が長い間使用されており、市場で確立されている。しかしながら、例えばWO2008/037514に示されるように、回転式の銃内で吹き付けワイヤを利用する解決法も既に知られている。
【0007】
対応するシリンダ走行面は通常、熱コーティングの前に種々のプロセスによって、例えばコランダムジェット、硬性鋳造用ジェット、高圧水ジェット、種々のレーザプロセスまたは他のよく知られた活性化プロセスによって活性化される。Al基またはMg基の軽量金属合金だけでなく、鉄基または鋼などでできた基板が前処理され、その後被覆される。表面の活性化により、とりわけ溶射コーティングの優れた接着性が保証される。
【0008】
多層システムが有利であると思われる特有の用途の例もある。この複数の層は、異なるコーティング材から交互に溶射されるか、あるいは同一材料で構成されるが異なる溶射パラメータを用いて付着されることで、付着されたコーティングは、例えば層の厚さ方向に変化できる、極めて特殊な化学的、物理的、位相幾何学的または他の特性が得られ、る。
【0009】
現在当業者によく知られている、これらのおよびいくつかの他の革新的な措置によって、とりわけのシリンダの内部コーティングの特性は今日まで次々と改善されてきた。
【0010】
しかし、走行面材料が異なると、異なるコーティング付着方法が要求されることも示されてきた。
【0011】
本出願人により実績にあるコーティング材F6399(Cr2O3)などのセラミックコーティング材は、例えばXPT512(低合金炭素鋼)などの金属のコーティング材より処理がはるかに難しいことが分かってきた。これは、とりわけ層付着速度の低下がよく起こり、結果として処理時間が長くなることに反映される。
【0012】
したがって、少なくとも粉末コーティング材を有するプラズマコーティングに関して、銃の回転をその最大値まで制限し、それによって同時に粉末の最大搬送速度も制限する必要があることは、従来技術において常識である。プラズマ銃ユニットの回転数の上記制限は、必然的に出願人のRotaPlasma(登録商標)ユニットにも適用される。この装置は、粉末材料をシリンダボアの内部に堆積させるためにAPS内部銃を回転させるために使用される工具マニピュレータである。200rmp前後までの回転数の制限は、RotaPlasma(登録商標)ユニットに適用されるだけでなく、従来技術において維持される粉末材料を用いる他の回転式のプラズマ銃を使用する場合、同程度の回転数制限のも適用される。
【0013】
このような回転数制限は、かねてより溶射における過度な残存応力を阻止するために必須であると見なされている。このような残存応力は、溶射コーティングの損傷させる亀裂または他の損傷を招く虞がある。これは、例えば内燃機関のシリンダライナーが被覆される場合に致命的な結果をもたらすが、このことは当然のことながら当業者に周知である。
【0014】
セラミックコーティング材が使用される際には、このような危険性が存在だけでなく、かなりの範囲まで及ぶことが示されている。そのため、十分な品質のコーティングを形成すべき場合、そのようなラミックコーティング材はとりわけ、プラズマ銃の搬送速度を極めて低くして関連する回転速度を相対的に低くするしか付着させることができないという事実につながる。このような状況はそれのみで、シリンダの内面のセラミックコーティングを、とりわけ工業規模において十分な経済的見地から形成できないという結論を導く。
【0015】
しかし、コーティングが、プラズマ銃の回転速度を極めて低くして対応する粉末搬送速度を低くさせて付着された場合でも、付着層に亀裂や他の損傷をなおも生じさせる高残留応力が依然として生じる場合がある。このことは、特定の制限された範囲においては許容できるが、例えばわずかな亀裂の進行でもコーティングの品質に対してマイナスの作用を有するため、当然のことながら望ましいことではない。立法は、環境基準および燃料消費に対してさらにいっそう高い要求を提起しており、これは基本的に、品質がより高いコーティングの場合に達成するのがより容易であるため、とりわけ内燃機関のシリンダコーティングの場合に決定的な役割を果たしている。低品質のコーティングは当然のことながら、運転中の工具の寿命を短くすることにもなり、これによりメンテナンスの間隔が短くなり、全体の耐用寿命も短くなり、最終的には、それらが備わっているエンジンに関する運転コストも高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】欧州特許出願公開第0601968号明細書
【文献】国際公開第2008/037514号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明の目的は、湾曲面、とりわけボア壁または配管壁の凹形状の内面、詳細には内燃機関のシリンダボアの走行面の内壁またはシリンダライナーの内壁をコーティングするプラズマコーティング法を提供することである。この方法によって、従来技術で知られた不利益が回避され、とりわけ粉末材を利用するプラズマコーティング被覆が大きく改善され、形成されたコーティングは、従来技術と比較して残留応力が大きく低下し、その結果亀裂や他の損傷が大幅に減少するか、または全くなくなる。また、従来技術方法を利用する場合よりも、より効率的に、より迅速に、かつよりコスト効果が高い方法でコーティングを付着させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これらの問題に対処する本発明の目的は、独立請求項1、12および13の構成によって特徴付けられている。
【0019】
各従属クレームは、本発明のとりわけ有利な具体例に関するものである。
【0020】
本発明はよって、溶射装置、とりわけプラズマ溶射装置またはHVOF溶射装置を用いて、粉末コーティング材により、湾曲面、とりわけボア壁またはシリンダ壁の凹形状の内面をコーティングするコーティング法に関するものである。とりわけ、アークにより粉末コーティング材からコーティング用ジェットを生成するために、溶射装置の銃シャフト上に銃、とりわけプラズマ銃が設けられ、この銃は所定の回転数で銃シャフトのシャフト軸線を中心として回転され、この場合、湾曲面にコーティングを付着させるためのコーティング用ジェットは、少なくともある程度半径方向にシャフト軸線から湾曲面に向けられる。本発明によると、銃の基本回転数よりも大きい銃の回転数が選択され、粉末コーティング材の搬送速度は、搬送速度が、銃の回転数に適合するように所定の規則(スキーム)に従って変更される。
【0021】
既に上記に述べたように、市場で周知の出願人のF6399(Cr2O3)などの走行面材料は、そのセラミック材料の特性によって特徴付けられる。XPT512(低合金炭素鋼)などの金属コーティング材と比較して、セラミック材料は一般に加工がより難しい。これにより、とりわけよく起こるコーティングの付着速度の低下、および結果として生じるより加工時間の長期化に反映される。
【0022】
まず、特にこの問題が、重点的に検討され、最終的に本発明によって解決された。従来、RotaPlasma(登録商標)ユニットなどのプラズマ銃の最大回転速度は、おおよそ200rpmまでに制限されており、これにより粉末コーティング材の最大搬送速度も制限されていた。この制限は、層内の残留応力が大きくなるリスクを冒したくない場合には必須であった。このような危険性は、セラミック材料の場合に特に問題であり、セラミック材料は通常、極めて低い搬送速度でしか付着させすることができないという事実につながり、このことによりセラミックコーティングの費用効果が問題になる。
【0023】
全てのこれまでの専門家の想定とは反対に、例えば800rpmまで、またはさらにそれを超えるプラズマ銃の回転数の増加、および同時にコーティング法における粉末コーティング材の搬送速度の適切な上昇によって、コーティング特性は劇的に改善されることが本発明によって初めて認識された。したがって、本発明の極めて重要な発見は、全てのこれまでの想定に反して、プラズマ銃の回転数の増加は、粉末コーティング材の搬送速度が適切に適合された場合に限って、コーティング特性の低下に必然的につながらないということである。発明者等によって行われた容赦実験によれば、粉末ジェットと、(高回転速度の結果として)被覆すべき面との間の相対速度を上げることは(、コーティング品質に対して良い影響を有することをはっきりと示した。このことは、とりわけセラミックコーティングの場合に観察できる。それにより、コーティング特性の改善に加えて、コーティング時間も、劇的に短縮することができる。本発明方法によって、2倍~3倍、またはそれ以上に、シリンダ走行面のコーティングを行なうコーティング時間を容易に短縮することができる。
【0024】
さらに、本発明によるコーティングは、とりわけ内面被覆されたシリンダの上縁部および下縁部領域において、従来技術のコーティングに比べて大幅に品質が優れている。この点、内燃機関のシリンダ走行面に付着されるコーティングの品質に関しては、例えばシリンダの上端部および下端部が常に問題であった。例えばコーティング用ジェットにおける乱流の増大および/または他のマイナスの作用が、溶射中に縁部領域において生じる可能性があるため、縁部領域は、シリンダ走行面のさらに内側の残りの部分と比べて、例えば気孔率、硬度、接着力などの点においてはるかに低品質であることが多かった。本発明によって、このような欠陥もほぼ解消され、シリンダの縁部領域にも一貫して高い品質のコーティングを形成することができる。
【0025】
実際にとりわけ好ましい一具体例では、粉末コーティング材は、所定の搬送速度でプラズマ銃へ搬送される。この搬送速度は、プラズマ銃の回転数がより大きくなると、粉末コーティング材の搬送速度も同様により大きくなるように選択されるような方法で、プラズマ銃の回転数に適合される。このことは、プラズマ銃の回転速度が上昇した場合、粉末コーティング材の搬送速度も上昇することが好ましいことを意味している。これにより、例えばプラズマ銃による処理時間が短縮されるにもかかわらず、すなわちプラズマ銃の回転が速くなるのにもかかわらず、プラズマ銃の回転数が低い場合と同様に、同様のまたは同一の層厚さを得ることができる。回転数の選択および/またはこの回転数に対応する搬送速度の適合は、コーティングのパス開始よりも前に、すなわち粉末コーティング材が供給される前に行なわれるため、回転数および/または搬送速度の適合は、コーティングのパスの間には全く必要ない。ここで、コーティングのパスは、粉末コーティング材および/または他の粉末コーティング材の1つまたは複数の層を有する層の付着として理解できる。
【0026】
実際には、プラズマ銃の基本回転数、ならびに基本回転数に対応する粉末コーティング材搬送のための基本搬送速度は、RotaPlasma(登録商標)ユニットなどの使用されるべきプラズマ銃による技術的理由により規定され、事前に決定される場合が多い。実際には、プラズマ銃の基本回転数ならびに基本回転数に対応する基本搬送速度は、使用される特有のプラズマ銃に左右されるだけでなく、使用されるコーティング材によって、または同様にボアの幾何学的形状によっても決められることが極めて多い。したがって、特定のコーティング法に関する基本回転数および基本搬送速度、多くのケースにおいて溶射材料に応じて選択することも必要である。
【0027】
したがって、基本回転数および基本搬送速度は故に、従来技術において標準的に使用されてきた回転数および搬送速度以外の何ものではない。
【0028】
実際には、回転数は、より優れたコーティングおよびより短いコーティング時間を達成するために、通常、基本回転数を超えるようにN=FMN×N0に従う所定の回転係数によって選択される。とりわけ好ましい搬送速度も、F=FMF×F0に従って事前に決定された搬送係数によって基本搬送速度を超えるように選択される。
【0029】
特に、プラズマ銃の回転がより速くなるにも関わらず、コーティング層厚さを変化させない場合、搬送係数は、回転係数に等しくなるように選択することができる。当業者には、コーティングの層の厚さは、FV=FMN/FMFによる係数比の好適な選択によって、層の厚さを必要に応じて決定することができるだけでなく、回転係数および/または搬送係数の好適な選択によって、詳細にはFV=FMN/FMFによる係数比の好適な選択によって、コーティングの他の層特性、とりわけ硬度、微小硬度、気孔率、降伏強度、弾性率または接着強度またはコーティングの他の層特性も決定できることが理解できる。係数比FVは、0.5≦FV≦10、好ましくは0.75≦FV≦8の範囲、とりわけ好ましくは1≦FV≦4の範囲にできる。但し係数比FVは、FV=4またはFV=3またはFV=2またはFV=1である場合もある。
【0030】
実際には、粉末プラズマ銃の増加した回転数は、例えば200rpm超、好ましくは400rpm超、または600rpm超、とりわけ800rpm以上の回転数を意味する。増大搬送速度は、例えば25g/分超、好ましくは50g/分超、または50g/分超、とりわけ100g/分以上の搬送速度を意味する。上記に挙げた増加した回転数および搬送速度は、特に典型的には、RotaPlasma(登録商標)タイプのプラズマ銃ユニットに対するものである。しかし、これらの値は、他の粉末プラズマ銃ユニットに対しても適用できると理解することができる。その理由は、技術的に妥当な付着速度は、基板の特性、および使用される溶射材によって主に決められる、とりわけセラミックか、または金属か、または金属以外の材料かによって決められ、回転式プラズマ銃の種類には2次的に依存するのみであるためである。
【0031】
セラミックコーティング材、とりわけTiO2またはCr2O3が、特に内燃機関のシリンダ用のシリンダ走行面をコーティングするためのコーティング材として使用されることが好ましく、および/または、金属コーティング材、とりわけ低合金鋼、特にFe-1.4Cr-1.4Mn-1.2Cまたは他のコーティング材もコーティング材として有利に利用される。
【0032】
本発明によるコーティングは、要求または用途に応じて、多層コーティングの形態で、それ自体が知られる方法で付着される場合もある。これらの層は、同一のまたは異なるコーティング材で構成されてよく、これにより多層コーティングは同一のまたは異なる層特性、詳細には、硬度、微小硬度、気孔率、降伏強度、弾性率または接着強度などを有することができる。
【0033】
本発明はさらに、本発明によるコーティング法によって付着された、シリンダ壁の内面上の、詳細には内燃機関のシリンダのシリンダ走行面上の熱コーティング、および本発明によるコーティング法を利用して付着された熱コーティングを有する内燃機関のシリンダにも関する。
【0034】
以下において、本発明を図面を参照してより詳細に説明する。
【0035】
それらの図面は、概略的に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】シリンダ走行面の例を用いた本発明によるコーティング法の一実施形態の概略的な図。
【
図2】回転数と搬送速度との関係を説明するための概略図。
【
図3a】200rpmで溶射されたTiO
2のコーティングの断面を図示した図。
【
図3b】400rpmで溶射されたTiO
2のコーティングの断面を図示した図。
【
図3c】600rpmで溶射されたTiO
2のコーティングの断面を図示した図。
【
図3d】800rpmで溶射されたTiO
2のコーティングの断面を図示した図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を、プラズマ溶射プロセスを参照して例示的に説明する。本発明は、プラズマ溶射プロセスに限定されるものではなく、例えばHVOFプロセスなどの任意の好適な溶射プロセスによって実施できることは明白である。
【0038】
図1は、乗用車のエンジンのシリンダのシリンダ走行面をコーティングする例を用いて、本発明による方法の単純な具体例の実施を概略的に示している。
【0039】
図1に示された本発明による方法では、乗用車のシリンダの凹形状のシリンダ走行面である湾曲面1にコーティング8を付着させている。
【0040】
図1では、アークを利用して粉末コーティング材3からコーティング用ジェット7を生成するために、既知の方法でプラズマ溶射装置4の銃シャフト5にプラズマ銃6が設けられる。この場合プラズマ銃6は、湾曲面1をコーティングするために銃シャフト5のシャフト軸線Aを中心に回転可能に配置される。
図1の例では、銃シャフト3は、矢印Nによって示される方向に回転数Nで回転する。湾曲面1、すなわちここではシリンダのシリンダ走行面にコーティング8を付着させるためのコーティング用ジェット7が、シャフト軸線Aから湾曲面1に向かって実質的に半径方向に向けられ、それにより湾曲面1は可能な限り効率的にコーティング材3を付着される。プラズマ銃6の基本回転数N
0(
図2を参照)に対して大きいプラズマ銃6の回転数が選択され、粉末コーティング材3の搬送速度Fは、搬送速度Fがプラズマ銃6の高回転数Nに適切に適合されるように、
図1には示されない所定の規則に従って変更された。プラズマ銃6の基本回転数は、
図1で使用されるプラズマ溶射ユニット4の場合は、おおよそ200rpmであり、このプラズマ溶射ユニットは、ここでは例えばRotaPlasma(登録商標)ユニットを備える。
【0041】
詳細には、
図1に記載される方法では、粉末コーティング材3は、プラズマ銃6まで所定の搬送速度Fで搬送される。この搬送速度Fは、その基本回転数N
0を超えるプラズマ銃6の回転数Nに対応して、粉末コーティング材3の高搬送速度Fも同様に選択されるような方法でプラズマ銃6の回転数Nに適合される。このことは、搬送速度Fが、基本搬送速度F
0より大きいことを意味している。
【0042】
回転数Nと、搬送速度Fとの関係を例示する概略図を
図2に示す。搬送速度Fは縦座標軸にプロットされ、回転数Nは横座標にプロットされている。グラフ中の曲線は所定のプラズマ溶射装置4および使用されるべき粉末コーティング材3に対して、パラメータの対(搬送速度F/回転数N)がいかにして適切に選択され得るかの特定例を示している。グラフ中の座標(F
0/N
0)は、従来技術において使用されてきたパラメータ対に対応し、パラメータ対(FM
FxF
0/FM
NxN
0)は、例えば
図1に記載されるような本発明による溶射プロセスにおけるコーティングに使用される特定のパラメータ対(F
1/N
1)に対応している。
【0043】
図2における曲線は単に概略的であると理解すべきことは明白である。実際には、
図2に示される曲線は、直線であることが極めて多く、そのため例えば回転数Nと搬送速度Fとは常に同一の係数によって変更されるため、異なる回転数Nにおいてもコーティング8の同一の層の厚さDが常に達成される。
【0044】
原則として、当然のことながら、
図2による曲線より上、またはこれより下にあるパラメータの対(N/F)を選択することも可能である。その場合、例えばより小さな、またはより大きな層の厚さDが異なる回転数Fにおいて達成される。および/またはコーティング8の他のパラメータ、詳細には硬度、微小硬度、気孔率、降伏強度、弾性率または接着強度あるいはコーティング8の他の層特性などが、回転係数FM
Nの好適な選択によって、および/または搬送速度FM
Fの好適な選択によって、詳細にはFV=FM
N/FM
Fによる係数比FVの好適な選択によって決定されることが実現できる。
【0045】
最後に、
図3aから
図3dまでは、各々、TiO
2の4つのコーティング断面を図示しており、これらは各々、異なる回転数N、および対応して適合された異なる搬送速度Fで溶射されたものである。
【0046】
図3aは、RotaPlasma(登録商標)プラズマ溶射装置4を用いて、従来技術による方法によってシリンダ壁2上に溶射されたたコーティング8を示している。ここで、従来のパラメータは、N=200rpmの回転数およびF=25g/分の搬送速度によって選択された。はっきりと分かるように、コーティング8には、細かい亀裂Rがあり、このような亀裂は以前より許容可能と見なされていたが、本質的には望ましいものではない。亀裂Rに加えて、細かい気孔Pも
図3aから
図3dまでの全てのコーティングに見ることができる。これらの気孔は、通常望ましいものであり、さらには所定の気孔率を得るようになっている。
【0047】
図3bによるコーティング8は、
図3aによる従来技術と比較して2倍の回転数N=400rpmおよび2倍の搬送速度F=50g/分によって溶射された。コーティング8内の亀裂Rの形成が減少したことが明確に確認された。したがって、コーティングの品質は著しく改善されている。
【0048】
図3cによるコーティング8は、
図3aによる従来技術と比較して3倍の回転数N=600rpmおよび3倍の搬送速度F=75g/分によって溶射されたた。実際、コーティング8内には亀裂Rは見つからない。したがって、コーティングの品質は改善されている。
【0049】
最後に、
図3dによるコーティング8は、
図3aによる従来技術と比較して4倍の回転数N=800rpmおよび4倍の搬送速度F=100g/分によって溶射された。ここで、コーティング8内には亀裂は全く存在しない。したがって、コーティングの品質は改善されており、実用に理想的と考えられる。
【0050】
本発明は、記載された実施形態に限定されるものではない。詳細には、本発明は、記載された実施形態の全ての好適な組み合わせを包含することは明らかである。