(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】有機物質の製造装置及び有機物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240926BHJP
C12M 1/107 20060101ALI20240926BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20240926BHJP
C12P 7/00 20060101ALI20240926BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20240926BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20240926BHJP
C10K 1/02 20060101ALN20240926BHJP
【FI】
C12M1/00 H
C12M1/107
C12P1/04 Z
C12P7/00
B01D53/26 100
C12N1/00 P
C10K1/02
(21)【出願番号】P 2022131896
(22)【出願日】2022-08-22
(62)【分割の表示】P 2020148333の分割
【原出願日】2014-09-12
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2013190617
(32)【優先日】2013-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2014033868
(32)【優先日】2014-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2014038384
(32)【優先日】2014-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2014044443
(32)【優先日】2014-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 周知
(72)【発明者】
【氏名】藤森 洋治
(72)【発明者】
【氏名】石井 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】濱地 心
(72)【発明者】
【氏名】土山 和夫
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-500100(JP,A)
【文献】特表2012-525145(JP,A)
【文献】特表2011-509691(JP,A)
【文献】特表2011-524933(JP,A)
【文献】特開2012-001441(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037710(WO,A1)
【文献】特表2012-515145(JP,A)
【文献】Biotechnol. Prog.,2010年07月,Vol. 26, No. 6,P. 1616-1621
【文献】行本正雄、他,「廃棄物系バイオマスの有効利用とその現状に関する技術調査」報告,パネルディスカッション&特別講演 廃棄物系バイオマスの有効利用の現状~木質系バイオマス~,廃棄物学会 リサイクルシステム・技術研究部会,2008年11月21日,P. 1-1 - 1-31
【文献】大屋利和、他,第V章 バイオガス改質・エネルギー機器導入の為の実証計画,別海町バイオマス利活用計画等策定報告書,2006年03月,P. 99-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12P 1/10-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素及び水蒸気を含む合成ガス1から有機物質を製造する有機物質の製造装置であって、
前記合成ガス1の含水率を低下させて、含水率の低下した合成ガス2を生成させる含水率低下部と、
内部に微生物及び水を有する発酵器と、
前記発酵器に前記合成ガス1を供給する配管と、を備え、
発酵器よりも低温の前記合成ガス2をバブリングにより前記発酵器の底部から前記発酵器内の前記微生物に供給して、微生物発酵により前記有機物質を生成させ、
前記含水率低下部は、前記配管のうち、最も温度が低くなる部分よりも上流側に配されており、前記合成ガス2の含水量が前記配管の最も温度が低くなる部分の最低温度における飽和水蒸気量よりも低くなるように前記合成ガス1中の水分を除去する、有機物質の製造装置。
【請求項2】
前記発酵器では、前記発酵器内の水の蒸発による吸熱反応により、前記発酵器の内部を冷却しつつ前記微生物発酵を行う、請求項1に記載の有機物質の製造装置。
【請求項3】
炭素源を部分酸化させることにより一酸化炭素を含む合成ガス3を生成させる合成ガス生成炉と、
前記合成ガス生成炉と前記発酵器との間に配されており、前記一酸化炭素を含む合成ガス3の含水率を上昇させて前記合成ガス1を生成する含水率上昇部と、をさらに備え、
前記含水率低下部は、前記含水率上昇部と前記発酵器との間に配されている、請求項1
又は2に記載の有機物質の製造装置。
【請求項4】
前記含水率上昇部は、前記合成ガス3を水中に通過させる、請求項
3に記載の有機物質の製造装置。
【請求項5】
前記含水率上昇部は、前記合成ガス1の含水量が飽和水蒸気量に達するまで、前記合成ガス
3の含水率を上昇させる、請求項
3又は
4に記載の有機物質の製造装置。
【請求項6】
前記合成ガス生成炉は、炭素源を含む廃棄物を部分酸化させることにより前記合成ガス3を生成させる、請求項
3~
5のいずれか一項に記載の有機物質の製造装置。
【請求項7】
前記含水率低下部と前記発酵器との間に配されており、前記合成ガス2中の固形分を除去するフィルターをさらに備える、請求項1~
6のいずれか一項に記載の有機物質の製造装置。
【請求項8】
前記含水率低下部は、冷媒を用いて前記合成ガス1を冷却すること、または膜式脱水により前記合成ガス1の含水率を低下させる、請求項1~
7のいずれか一項に記載の有機物質の製造装置。
【請求項9】
前記含水率低下部は、前記配管の最低温度よりも低い温度まで前記合成ガス1を冷却する、請求項
1~8のいずれか一項に記載の有機物質の製造装置。
【請求項10】
一酸化炭素及び水蒸気を含む合成ガス1から有機物質を製造する有機物質の製造方法であって、
前記合成ガス1の含水率を低下させて、含水率の低下した合成ガス2を生成させる含水率低下工程と、
発酵器よりも低温の前記合成ガス2をバブリングにより内部に微生物及び水を有する発酵器の底部から前記発酵器内の前記微生物に供給して、微生物発酵により有機物質を生成させる有機物質生成工程と、を備え、
前記含水率低下工程は、前記発酵器に前記合成ガス1を供給する配管のうち、最も温度が低くなる部分よりも上流側において、前記合成ガス2の含水量が前記配管の最も温度が低くなる部分の最低温度における飽和水蒸気量よりも低くなるように前記合成ガス1中の水分を除去する含水率低下工程である、有機物質の製造方法。
【請求項11】
前記有機物質生成工程において、前記発酵器内の水の蒸発による吸熱反応により、前記発酵器の内部を冷却しつつ前記微生物発酵を行う、請求項
10に記載の有機物質の製造方法。
【請求項12】
一酸化炭素を含む合成ガス3の含水率を上昇させて前記合成ガス1を生成する含水率上昇工程をさらに備え、
前記含水率上昇工程において、前記合成ガス3を水中に通過させる、請求項
10又は11に記載の有機物質の製造方法。
【請求項13】
前記含水率上昇工程において、前記合成ガス1の含水量を飽和水蒸気量とする、請求項
12に記載の有機物質の製造方法。
【請求項14】
前記含水率低下工程において、前記配管の最低温度よりも低い温度まで前記合成ガス1を冷却する、請求項
10~13のいずれか一項に記載の有機物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物質の製造装置及び有機物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば製鉄所からの排気ガス等から合成された一酸化炭素を含む合成ガスを微生物発酵させることによりエタノールなどの化学物質を製造する方法の実用化が検討されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、合成ガスから有機物質を製造する装置は、現在のところ、実用化に至っておらず、十分に検討されていないのが実情である。
【0005】
本発明の主な目的は、合成ガスから有機物質を好適に製造し得る新規な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る有機物質の製造装置は、合成ガス生成炉と、有機物質合成部と、含水率上昇部と、含水率低下部とを備える。合成ガス生成炉は、炭素源を部分酸化させることにより一酸化炭素を含む合成ガスを生成させる。有機物質合成部は、合成ガスから有機物質を生成させる。含水率上昇部は、合成ガス生成炉と有機物質合成部との間に配されている。含水率上昇部は、合成ガスの含水率を上昇させる。含水率低下部は、含水率上昇部と有機物質合成部との間に配されている。含水率低下部は、合成ガスの含水率を低下させる。
【0007】
本発明に係る有機物質の製造装置では、含水率上昇部が、合成ガスに水中を通過させるものであることが好ましい。
【0008】
本発明に係る有機物質の製造装置では、含水率上昇部が、合成ガスの含水量が飽和水蒸気量に達するまで、合成ガスの含水率を上昇させるものであることが好ましい。
【0009】
本発明に係る有機物質の製造装置では、合成ガス生成炉が、炭素源を含む廃棄物を部分酸化させることにより一酸化炭素を含む合成ガスを生成させるものであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る有機物質の製造装置では、含水率低下部と有機物質合成部との間に配されている、合成ガス中の固形分を除去するフィルターをさらに備えることが好ましい。
【0011】
本発明に係る有機物質の製造装置では、含水率低下部が、冷媒を用いて合成ガスを冷却すること、または膜式ドライヤーを用いて露点低下することにより合成ガスの含水率を低下させるものであることが好ましい。その他、吸着材や吸水剤を用いて含水率低下部を構成してもよい。
【0012】
本発明に係る有機物質の製造装置では、有機物質合成部が、発酵することにより合成ガスから有機物質を生成させる微生物を含むことが好ましい。
【0013】
本発明に係る有機物質の製造装置は、合成ガス生成炉と有機物質合成部とを接続している配管をさらに備えていてもよい。含水率低下部は、配管のうち、最も温度が低くなる部分よりも上流側に配されており、合成ガスの含水量が配管の最も温度が低くなる部分の最低温度における飽和水蒸気量よりも低くなるように合成ガス中の水分を除去するものであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る有機物質の製造装置では、含水率低下部は、配管の最低温度よりも低い温度まで合成ガスを冷却するものであることがより好ましい。または、膜式ドライヤーによって配管の最低温度よりも低い露点となるよう含水率を低下させる。
【0015】
本発明に係る有機物質の製造方法では、炭素源を部分酸化させることにより、一酸化炭素を含む合成ガスを生成させる合成ガス生成工程を行う。合成ガスの含水率を上昇させる含水率上昇工程を行う。含水率が上昇した合成ガスの含水率を低下させる。含水率が低下した合成ガスから有機物質を生成させる。
【0016】
本発明に係る有機物質の製造方法では、含水率上昇工程において、合成ガスに水中を通過させることが好ましい。
【0017】
本発明に係る有機物質の製造方法では、含水率上昇工程において、合成ガスの含水量は飽和水蒸気量とすることが好ましい。
【0018】
本発明に係る有機物質の製造方法では、合成ガス生成炉と有機物質合成部とを接続している配管のうち、最も温度が低くなる部分よりも上流側において、合成ガスの含水量が配管の最も温度が低くなる部分の最低温度における飽和水蒸気量よりも低くなるように合成ガス中の水分を除去する含水率低下工程をさらに行ってもよい。
【0019】
本発明に係る有機物質の製造方法では、含水率低下工程において、配管の最低温度よりも低い温度まで合成ガスを冷却することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、合成ガスから有機物質を好適に製造し得る新規な装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る廃棄物からの有機物質の製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0023】
図1は、本実施形態に係る廃棄物からの有機物質の製造装置の模式図である。
図1に示される製造装置1は、廃棄プラスチック、家庭ごみ、バイオマス等の炭素源を含む廃棄物から、有機物質を製造するための装置である。製造される有機物質は、含酸素有機物であってもよい。製造される有機物質は、例えば、アルコール、有機酸、脂肪酸、油脂、ケトン、バイオマス、糖等であってもよい。アルコール、有機酸、脂肪酸、油脂、ケトン、バイオマス、糖の具体例としては、例えば、エタノール、酢酸、ブタンジオール、アセトン、ブタノール等が挙げられる。
【0024】
製造された有機物質の用途は、特に限定されない。製造された有機物質は、例えば、プラスチックや樹脂等の原料として用いることもできるし、燃料として用いることもできる。
【0025】
製造装置1は、合成ガス生成炉11と、含水率上昇部12と、含水率低下部13と、フィルター14と、合成ガス精製機15と、発酵器16と、精製機17とを備えている。合成ガス生成炉11には、プラスチックや樹脂などの炭素源を含む有機物を含む廃棄物が供給される。合成ガス生成炉11において廃棄物が部分酸化され一酸化炭素を含む合成ガスが生成する。通常、合成ガスは、一酸化炭素に加え、水素ガスや窒素ガス、二酸化炭素を含んでいる。
【0026】
通常、廃棄物は、生ゴミ等を含む。このため、廃棄物は高い含水率を有する。このため、廃棄物の部分酸化により生成した合成ガスは、例えば製鉄所から排出される合成ガスと比較して、高い含水率を有している。
【0027】
もっとも、本発明において、合成ガス生成炉が廃棄物を部分酸化することにより合成ガスを生成させるものである必要は必ずしもない。合成ガス生成炉は、例えば、石炭やコークスやオイルシェールを原料としたガス発生炉、天然ガス等を原料とした水蒸気メタン改質炉等であってもよい。
【0028】
合成ガス生成炉11において生成した合成ガスは、有機物質合成炉としての発酵器16に供給される。発酵器16は、微生物と培地とを含む。培地には、微生物増殖に必要な塩類、ビタミン、必須アミノ酸、必須金属イオンが含まれる。微生物は、発酵することにより合成ガスから有機物質を生成させる。このため、発酵器16においては、微生物発酵により合成ガスから有機物質が製造される。合成ガスから有機物質を生成する微生物としては、カルボキシド栄養性細菌等が挙げられる。例えば、エタノール等のアルコールを生成させる場合に好適に用いられる微生物の具体例としては、例えば、クロストリジウム属、モーレラ属、バイロネラ属等が挙げられる。
【0029】
なお、本実施形態では、有機物質合成部が発酵器により構成されている例について説明する。但し、本発明は、これに限定されない。有機物質合成部は、例えば、金属触媒等の触媒反応により合成ガスから有機物質を生成させるものであってもよい。
【0030】
発酵器16は、精製機17に接続されている。発酵器16における生成物は、精製機17に移送される。通常、発酵器16においては、製造しようとする有機物質に加え、他の有機物質も生成する。精製機17は、発酵器16における生成物を精製する。これにより、目的とする有機物質を得ることができる。
【0031】
合成ガス生成炉11と発酵器16との間には、含水率上昇部12と、含水率低下部13と、フィルター14とが、合成ガス生成炉11側からこの順番で配されている。含水率上昇部12と、含水率低下部13と、フィルター14とは、合成ガスにおける不純物濃度を低減する機能を有する。さらに、合成ガス精製機15を設けることによって、発酵に阻害を与える不純物を除去することができる。
【0032】
なお、合成ガスにおける不純物とは、微生物代謝反応または、金属触媒の触媒活性に悪影響を及ぼす物質であり、微生物や金属触媒の種類等にもより異なるが、芳香族化合物、飽和及び不飽和炭化水素が挙げられる。例えば、芳香族化合物については、ベンゼン、トルエン、キシレン等である。飽和・不飽和炭化水素については、C1以上の炭化水素が挙げられる。不飽和炭化水素については、C2以上の炭化水素が挙げられる。その他、硫化物や窒素化合物も挙げられる。例えば、硫化カルボニル、硫化水素、SОxやNОx等である。またシアン化合物や酸やアルカリも挙げられる。
【0033】
フィルターに用いられる材質としては、HEPAフィルター、活性炭フィルター、ゼオライトフィルター、不織布フィルター等が挙げられる。また、フィルターの構造としては、各種フィルターが組み合わせ加工されてなるフィルターであっても良い。また、酸化チタンなどの光触媒が加工されていてもよい。
【0034】
含水率上昇部12は、合成ガスの含水率を上昇させる。合成ガスの含水率を上昇させる方法は特に限定されない。例えば、合成ガスに水蒸気を供給したり、合成ガスに水を噴霧してもよい。本実施形態では、含水率上昇部12において、合成ガスに、水中を通過させることにより合成ガスの含水率を上昇させる。含水率上昇部12により、合成ガス中の水分が実質的に飽和水蒸気量に達する。
【0035】
含水率上昇部12は、含水率低下部13に接続されている。含水率低下部13は、合成ガスから水分を除去することにより、含水率上昇部12によって含水率が高められた合成ガスの含水率を低下させる。含水率低下部13は、合成ガスを冷却することにより結露させ、合成ガスの含水率を低下させるものであることが好ましい。合成ガスの冷却方法は特に限定されない。例えば、冷媒を用いて合成ガスを冷却してもよい。また、モレキュラーシーブ等の水分吸着剤を用いて合成ガス中の水分を除去してもよい。合成ガスを冷媒に接触させ、凝縮水をトラップすることにより水分を低減させてもよい。合成ガスの分圧を下げて水分を凝縮させて除去してもよいし、水分を透過する膜を用いた膜式ドライヤー等の膜分離装置を設け、その膜分離装置に合成ガスを通気させることにより水分を除去してもよい。冷却溶媒に接触させるための方法としては、例えば、熱伝導のよい金属配管を外気に晒して冷却する方法、冷媒循環装置をガスに接触させて冷却する方法などが挙げられる。含水率低下部13は、膜式脱水するものであってもよい。
【0036】
含水率低下部13が合成ガスの含水率をゼロにするものである必要は必ずしもない。含水率低下部13は、合成ガスの含水率を低減できるものであれば特に限定されない。
【0037】
含水率低下部13と発酵器16との間には、フィルター14が配されている。フィルター14は、合成ガス中の固形分を除去する。フィルター14は、合成ガス中の固形分の全てを除去するものであってもよいが、固形分の一部を除去するものであってもよい。すなわち、フィルター14は、合成ガス中の固形分を完全に除去するものに限定されない。除去されなかったものは、合成ガス精製機15において、さらに精製される。合成ガス中の固形分はタールや飛灰や煤などの成分をさす。また、フィルター14において、活性炭フィルターが組み合わさってなるフィルターを用いれば、固形分除去以外に、含水率上昇部12、含水率13で除去できない物質をより精製することができる。
【0038】
以上説明したように、有機物質の製造装置1では、まず、含水率上昇部12において合成ガスの含水率が高められる。その後、含水率低下部13において合成ガス中の水が除去され、合成ガスの含水率が低下する。このように、合成ガスの含水率を高めたうえで、合成ガス中の水分を除去する工程において、合成ガスに含まれる水溶性の不純物や、タール・すす等の固形物が水と共に合成ガスから取り除かれる。このため、不純物濃度の少ない合成ガスを発酵器16に供給することができる。従って、不純物により微生物に悪影響が及ぶことが効果的に抑制される。例えば、微生物を用いずに触媒を用いた場合には、不純物により触媒に悪影響が及ぶことが効果的に抑制される。従って、有機物質の製造装置1によれば、有機物質を高効率に製造することができる。
【0039】
また、フィルター14の前に不純物の少なくとも一部が取り除かれるため、フィルター14の目詰まりを抑制することができる。従って、フィルターの交換頻度が少なくなる。その結果、有機物質の製造効率が向上し、製造コストが低減される。
【0040】
合成ガス中の不純物をより効果的に除去する観点からは、合成ガスの水蒸気量が飽和水蒸気量となるまで合成ガスの含水率を高めた後に、合成ガスの含水率を低減することが好ましい。そうすることにより、含水率の低下工程において合成ガスから取り除かれる水の量が多くなり、それに伴い、より多くの不純物を取り除くことができる。
【0041】
また、合成ガス中の不純物をより効果的に除去する観点からは、合成ガスに水中を通過させることにより、合成ガスの含水率を高めることが好ましい。合成ガスが水中を通過する際に、水溶性の不純物が水に溶解することにより合成ガスから取り除かれ、また、合成ガス中の固形物の一部も水中に移動し、合成ガスから取り除かれるためである。
【0042】
本実施形態の合成ガスに含まれる不純物を効率的に除去する技術は、どのような合成ガスを用いる場合にも好適である。なかでも、廃棄物から合成された合成ガスは、不純物を多く含み得るため、本実施形態の合成ガスに含まれる不純物を効率的に除去する技術は、廃棄物から合成された合成ガスを用いる場合に特に好適である。
【0043】
なお、合成ガスの含水率を低減する方法は、特に限定されないが、冷媒を用いて合成ガスを冷却することにより合成ガスの含水率を低減する方法がより好ましく用いられる。固形分を含む合成ガスを好適に冷却できるためである。
【0044】
ところで、本発明者らは、廃棄物から合成された合成ガスを用いて有機物質を実際に製造することを試みた。その実験中において、合成ガスの発酵器への供給が停止するという問題に予想外にも遭遇した。本発明者らが鋭意研究した結果、廃棄物から合成された合成ガスは、製鉄所等により合成された合成ガスとは異なり、高い含水率を有しているため、配管において、合成ガス中の水分が結露し、凍結、閉塞したため、合成ガスの発酵器への供給が停止したことが判明した。
【0045】
そこで、製造装置1では、合成ガス生成炉11と、有機物質合成部としての発酵器16とを接続している配管18に含水率低下部13が配されている。含水率低下部13は、配管18のうち、最も温度が低くなる部分よりも上流側に配されている。含水率低下部13は、合成ガスの含水量が、配管18の最も温度が低くなる部分の最低温度における飽和水蒸気量よりも低くなるように合成ガス中の水分を除去する。具体的には、本実施形態では、含水率低下部13は、配管18の最低温度よりも低い温度まで合成ガスを冷却することにより、合成ガス中の水分を除去する。例えば、配管18のうち、屋外に設置されている部分は、製造装置1が設置された場所の冬期の最低温度まで冷却され得る。従って、配管18の最も温度が低くなる部分の最低温度とは、製造装置1が設置された場所の冬期の最低温度であり、過去10年間に記録された冬期の最低温度であることがより好ましい。製造装置1では、含水率低下部13が配されているため、配管18が冬期に冷却された場合であっても、結露が生じることがなく、配管18が凍結により閉塞されない。従って、発酵器16に安定的に合成ガスが供給される。従って製造装置1を用いることにより、有機物質を安定的に製造し得る。
【0046】
有機物質のより安定的な製造を可能にする観点からは、含水率低下部13は、合成ガスの含水量が、配管18の最も温度が低くなる部分の最低温度における飽和水蒸気量の相対湿度70%よりも低くなるように合成ガス中の水分を除去するものであることが好ましく、相対湿度50%よりも低くなるように合成ガス中の水分を除去するものであることがより好ましい。例えば、含水率低下部13は、20℃以下にまで合成ガスを冷却することにより合成ガスから水分を除去するものであることが好ましく、10℃以下にまで合成ガスを冷却することにより合成ガスから水分を除去するものであることがより好ましい。但し、冷却温度を低くしすぎると、合成ガスの冷却に要するエネルギーが多くなりすぎ、有機物質の製造におけるエネルギー効率が低下する場合がある。従って、含水率低下部13における合成ガスの冷却温度は、配管18の最低温度よりも5℃程度低い温度以上であることが好ましい。具体的には、例えば、含水率低下部13における合成ガスの冷却温度は、15℃以上であることが好ましい。
【0047】
発酵器16における微生物の発酵は、発熱反応である。このため、発酵器16を冷却しないと、発酵器16内の温度が高くなりすぎ、微生物の発酵効率が低くなる虞がある。
【0048】
例えば、発酵器16の周囲にクーラントが流れる配管を配置することにより発酵器16を冷却することも考えられる。しかしながら、この場合は、発酵器16の中央部を十分に冷却することは困難である。例えば、発酵器16の中央部を発酵に好適な温度にまで冷却すると、発酵器16の外側部分の温度が発酵に好適な温度よりも低くなってしまう虞があり、発酵器16全体の温度を発酵に好適な温度に保持することは困難である。
【0049】
また、廃棄物は水分を多く含むため、合成ガスの含水率は高い。この含水率の高い合成ガスが発酵器16に供給され、発酵器16において合成ガスの温度が低下すると、合成ガス中において結露が生じる場合がある。結露は発熱反応であるため、発酵器16内において結露が生じると発酵器16の温度がさらに上昇する虞がある。
【0050】
本実施形態では、合成ガス生成工程において生成された合成ガスの含水率を低下させた後に、その含水率が低下された合成ガスを発酵器16に供給する。このため、発酵器16内の水が蒸発して合成ガス中に取り込まれやすい。この水の蒸発は吸熱反応である。従って、発酵器16内において水の蒸発が生じやすい本実施形態においては、水の蒸発に伴って発酵器16が内部から好適に冷却される。従って、発酵器16の冷却機構を別途設ける必要が必ずしもない。また、発酵器16を内部から冷却することができるため、発酵器16内の温度の均一性を高めることができる。このため、発酵器16の全体を発酵に適した温度に保持し得る。従って、高い発酵効率を実現することができる。その結果、有機物質の製造効率を高めることができる。
【0051】
発酵器16内の温度の均一性をさらに高める観点からは、含水率が低下された合成ガスをバブリングにより発酵器16の水中の微生物に供給することが好ましい。含水率が低下された合成ガスを発酵器16の底面からバブリングさせることがより好ましい。そうすることにより、発酵器16のより広域で水の蒸発を促進することができる。
【0052】
また、発酵器16をより効率的に冷却する観点からは、発酵器16よりも低温の合成ガスを供給することが好ましく、発酵器16における発酵温度設定値よりも10℃低い温度の合成ガスを供給することがより好ましい。
【0053】
ところで、例えば、高温で、含水量が高い合成ガスを発酵器16に供給した場合、合成ガス中の水分が発酵器16内において結露し、発酵器16中の水が増大する虞がある。発酵器16中の水が増大すると、発酵器16における微生物の濃度が低下するため、発酵効率が低下する虞がある。
【0054】
それに対して、本実施形態では、含水率が低下された合成ガスが発酵器16に供給される。このため、発酵器16における微生物の濃度低下、及びそれに伴う発酵効率の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0055】
廃棄物焼却炉から排出される合成ガスを原料ガスとし、この原料ガスを湿式スクラバー(協立製作所製)に通過させた。スクラバーでは、純水又は炭酸ナトリウムを用いた。なお、スクラバー通過後の合成ガス湿度は、湿度計(テクネ計測)によって測定した。
【0056】
スクラバーを通過した合成ガスを、ミストセパレーター(ミウラ化学装置製)を通過させた後に、その一部を、サンプルガス除湿装置(アイ・エイ・シー株式会社製)に8NL/minの流量で流した。除湿設定値を、除湿装置に入る前の湿度を100%とし、湿度5%、15%、50%、80%となる様に除湿運転を行った。
【0057】
除湿後の合成ガスを、集塵フィルター(フェレドンエアフィルタPH―400:日本バイリーン製)が備え付けられたフィルターホルダー(内径20cm, 厚み5cm)を通過させた。これらの一連の実験を、約2週間連続稼働した後の各プロセスにおける各種データを測定した。測定したデータ項目を表1及び表2に示す。表2は、運転開始2週間後のフィルタの物性を示している。なお、表中、「N.T.」は、Not Test(分析せず)の略号である。
【0058】
【0059】
【符号の説明】
【0060】
1:製造装置
11:合成ガス生成炉
12:含水率上昇部
13:含水率低下部
14:フィルター
15:合成ガス精製機
16:発酵器(有機物質合成部)
17:精製機
18:配管