(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその磁区微細化方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20240926BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20240926BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C21D8/12 D
B23K26/364
H01F1/147 183
(21)【出願番号】P 2022537572
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 KR2020018722
(87)【国際公開番号】W WO2021125902
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172475
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン,オ‐ヨル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウ‐シン
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ‐ウク
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン‐テ
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/177007(WO,A1)
【文献】特開2005-262217(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164746(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/099281(WO,A1)
【文献】特開2012-031519(JP,A)
【文献】国際公開第2019/132360(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/171124(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056501(WO,A1)
【文献】特表2016-532776(JP,A)
【文献】特表2015-510543(JP,A)
【文献】特開2012-077380(JP,A)
【文献】特開2012-036446(JP,A)
【文献】特開2019-147980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12
C22C 38/00-38/60
B23K 26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板の表面に存在するグルーブ、および
前記グルーブに当接した再結晶粒
と前記グルーブに当接していないその他の再結晶粒を含み、
前記グルーブに当接した再結晶
粒と前記その他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、
前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み、グルーブ
に当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在することを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記グルーブ上に当接した絶縁被膜をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記グルーブ深さは鋼板厚さの3~15%であり、グルーブ幅は10~50μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
冷延鋼板を準備する段階、
前記冷延鋼板を一次再結晶焼鈍する段階、
前記冷延鋼板を二次再結晶焼鈍する段階、
前記二次再結晶焼鈍過程で一次再結晶焼鈍時形成された酸化層とMgOの反応による金属酸化物被膜にレーザーを照射してグルーブを形成する段階、および
前記グルーブが形成された鋼板上に絶縁被膜を形成する段階を含み、
前記レーザー照射時、レーザーのエネルギー密度は2.5~8.0J/mm
2であり、
前記レーザービームの長さは100~450μmであり、前記レーザービームの幅は10~27μmであり、
前記グルーブに当接した再結晶
粒と前記グルーブに当接していないその他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、
前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み、グルーブ
に当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在することを特徴とする方向性電磁鋼板の磁区微細化方法。
【請求項5】
前記レーザー出力が500W以上であり、レーザー走査速度が5m/s以上であり、レーザー走査距離が100mm以上であることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の磁区微細化方法。
【請求項6】
前記レーザーの波長は1.06~10.6μmであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の方向性電磁鋼板の磁区微細化方法。
【請求項7】
前記絶縁被膜を形成する段階は750~950℃の温度で熱処理する段階を含むことを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の磁区微細化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその磁区微細化方法に係り、より詳しくは、方向性電磁鋼板の再結晶温度以上の温度で焼鈍熱処理時グルーブ下部に応力緩和あるいは再結晶時基地部の二次再結晶組織に完全蚕食されて磁束密度の劣化を最少化した方向性電磁鋼板およびその磁区微細化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は変圧器などの電磁気製品の鉄心材料として使用され、電気器機の電力損失を減らすことによってエネルギー変換効率を向上させる。そのためには鉄心素材の鉄損に優れ積層および巻取り時点滴率の高い鋼板が要求される。
方向性電磁鋼板は、熱延、冷延および焼鈍工程を通じて二次再結晶された結晶粒が圧延方向に{110}<001>方向に配向された集合組織(別名“Goss Texture”ともいう)を有する機能性鋼板である。
【0003】
方向性電磁鋼板の鉄損を低くする方法として、磁区微細化が知られている。即ち、磁区をスクラッチやエネルギー的衝撃を与えて方向性電磁鋼板が有している大きな磁区を微細化させることである。この場合、磁区が磁化されその方向が変わる時エネルギー的消耗量を磁区が大きかった時より減らすことができるようになる。磁区微細化方法には、熱処理後にも改善効果が維持される永久磁区微細化と、そうでない一時磁区微細化がある。
回復(Recovery)が現れる熱処理温度以上の応力緩和熱処理後にも鉄損改善効果を示す永久磁区微細化方法は、エッチング法、ロール法およびレーザー法に分類することができる。エッチング法は、溶液内選択的な電気化学反応で鋼板表面に溝(グルーブ、groove)を形成させるため溝形状を制御しにくく、最終製品の鉄損特性を幅方向に均一に確保することが難しい。これと共に、溶媒として使用する酸容液によって環境に優しくないという短所を有している。
【0004】
ロールによる永久磁区微細化方法は、ロールに突起を加工形成して材料のロールや板を加圧することによってその表面に一定の幅と深さを有する溝を形成し、その後に焼鈍することによって溝下部の再結晶を部分的に発生させて鉄損改善効果を引き出す磁区微細化技術である。ロール法は、機械加工に対する安定性、厚さによる安定的な鉄損確保を得にくいため、信頼性が低く、また、プロセスが複雑であり、溝形成直後(応力緩和焼鈍前)鉄損と磁束密度特性が劣化する短所を有している。
レーザーによる永久磁区微細化方法は、高出力のレーザーを高速で移動する電磁鋼板表面部に照射し、レーザー照射によって基地部の溶融を伴うグルーブ(groove)を形成させる方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、方向性電磁鋼板およびその磁区微細化方法を提供することにある。具体的には、グルーブ下部に形成された応力集中部や再凝固組織が再結晶温度以上の再コーティングあるいは応力緩和焼鈍時基地部の二次再結晶組織に蚕食されて磁束密度の劣化を最少化した方向性電磁鋼板およびその磁区微細化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方向性電磁鋼板は、電磁鋼板の表面に存在するグルーブおよびグルーブ下部に当接した再結晶を含み、グルーブ下部に当接した再結晶およびその他の再結晶の平均配向度差が0.5~10゜であることを特徴とする。
【0007】
上記グルーブ下部に当接した再結晶は、亜結晶粒界(Sub boundary)を含み、グルーブ一つ当り10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在することがよい。
上記亜結晶粒界は、グルーブ一つ当り1個~10個存在することができる。
【0008】
上記グルーブ上に当接した絶縁被膜をさらに含むことができる。
グルーブ深さは鋼板厚さの3~15%であり、グルーブ幅は10~50μmであることが好ましい。
【0009】
本発明の方向性電磁鋼板の磁区微細化方法は、冷延鋼板を準備する段階、冷延鋼板を一次再結晶焼鈍する段階、冷延鋼板を二次再結晶焼鈍する段階、二次再結晶焼鈍が完了した鋼板にレーザーを照射してグルーブを形成する段階、およびグルーブが形成された鋼板上に絶縁被膜を形成する段階を含み、レーザーを照射時、レーザーのエネルギー密度は3.0~8.0J/mm2であることを特徴とする。
【0010】
レーザーの出力が500W以上であり、レーザー走査速度が5m/s以上であり、レーザー走査距離が100mm以上であることができる。
レーザーの波長は1.06~10.6μmであることが好ましい。
【0011】
レーザーのビームの長さは100~500μmであり、レーザーのビームの幅は10~27μmであることがよい。
絶縁被膜を形成する段階は750~950℃の温度で熱処理する段階を含むことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、グルーブを形成して再結晶温度以上の焼鈍処理時鉄損を改善しながらも、グルーブ下部の結晶粒配向度を10°以内に適切に形成することによって、磁束密度劣化を最少化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の圧延面(ND面)の模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の断面(TD面)の模式図である。
【
図3】既存の方向性電磁鋼板の断面(TD面)の模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の断面(TD面)の模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるレーザーのビームの形状を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1、第2、および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
ここで使用される専門用語は単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
【0015】
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあり得るか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分“の真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
特に定義しなかったが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の圧延面(ND面)の模式図である。
図1に示したとおり、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板10は、電磁鋼板の一面または両面に、圧延方向(RD方向)と交差する方向に形成された線状のグルーブ20が形成される。
図1に示したとおり、グルーブ20の長さ方向(
図1のRD方向)と圧延方向(RD方向)は75~88°の角度を成すことができる。この角度でグルーブ20を形成する時、方向性電磁鋼板の鉄損を改善するのに寄与することができる。
グルーブ20は、鋼板の圧延方向に垂直な方向(TD)に沿って、連続的にまたは断続的に形成できる。断続的に形成される場合、鋼板の圧延垂直方向(TD)に沿って、2個~10個形成されることがよい。
図1ではグルーブ20が断続的に4個形成された場合を示す。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の断面(TD面)の模式図である。
図2に示したとおり、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は表面にグルーブ20が存在し、グルーブ20下部に当接した二次再結晶31を含む。本発明の一実施形態では、この二次再結晶31の配向度を制御することによって、グルーブ20形成による磁性劣化を最少化することができる。
グルーブ20下部に当接した二次再結晶31は、その他の再結晶32と区分される。その他の二次再結晶32はグルーブ20と当接しない二次再結晶32であって、グルーブ20が形成されない表面付近に形成された二次再結晶32または鋼板内部に形成された二次再結晶32である。
【0018】
本発明の一実施形態で、グルーブ20下部に当接した二次再結晶31の大きさは通常の方向性電磁鋼板で現れる数mmから数十mmに達する結晶粒大きさを示すため、厚さ方向には大部分が貫通された結晶粒を示す。
二次再結晶31の粒径とは、圧延方向垂直面(TD面)に対して再結晶31と同一な面積の仮想の円を仮定し、その円の直径として計算する。
本発明の一実施形態でグルーブと当接した二次再結晶31の配向度は様々な工程条件によって制御されるが、最も重要な工程条件は鋼板に形成されるレーザーのビームの形状と共にレーザーを照射時エネルギー密度の条件である。即ち、二次再結晶された板にグルーブを形成し、当該鋼板を再結晶温度以上の温度で熱処理する時、エネルギー密度条件が適切な時、グルーブ20と当接した二次再結晶の平均結晶粒方位配向度差が0.5~10゜に形成できる。さらに具体的に、0.5~5゜に形成できる。
【0019】
二次再結晶が完了した鋼板にレーザーを照射する時、グルーブ20下部にはレーザー熱による衝撃が発生し、これらのうちの一部は亜結晶粒界(sub boundary)33として形成される。グルーブ20形成以後、絶縁被膜形成工程で熱処理時、この亜結晶粒界33が成長する。
亜結晶粒界(sub-boundary)33は熱あるいは機械的応力を局部的に印加することによって同一結晶粒内で電位あるいはツイン(twin)のような格子欠陥部密度が局部的に増加して発生した結晶粒内の欠陥発生部と定義し、結晶格子が限定された領域のみで現れるため、一般的な結晶粒界(grain boundary)とは異なる。
【0020】
亜結晶粒界は、グルーブ20と当接した二次再結晶31内でグルーブ1個当り10μm~700μmの連続あるいは不連続的な長さで存在する。基準面はグルーブ20の長さ方向を切断する面であり、SEMあるいはEBSD(Electron BackScatter Diffraction)で測定した写真でグルーブ20と当接した二次再結晶31分析時、結晶粒内に位置したグルーブ20下部近所で結晶方位が0.5~10°の差が現れる部分を亜結晶粒界33と判断し、これらの長さを測定して検出することができる。
亜結晶粒界33の長さが過度に長いか短い場合、グルーブ20と当接した二次再結晶31の配向度に悪影響を与え、窮極的に磁性が劣位になる。さらに具体的に、亜結晶粒界33の長さは300~700μmであることがよい。
【0021】
亜結晶粒界は断続的に複数存在することがあり、この場合、二次再結晶31内でグルーブ付近に存在する亜結晶粒界の全ての長さの合計が前述の範囲を満足することができる。
上記のとおり、亜結晶粒界はグルーブ1個当り1個~10個存在することができる。
亜結晶粒界33は、グルーブ20形成時、レーザーのエネルギー密度、レーザーのビームの形状およびグルーブ20形成以後、絶縁被膜形成工程での熱処理条件などによってその長さに影響を受ける。
【0022】
図3は、既存の方向性電磁鋼板の断面(TD面)の模式図である。絶縁被膜形成後、レーザーを照射してグルーブを形成した。
図3に示したとおり、グルーブ20に当接した二次再結晶31内に亜結晶粒界33が
図2に比べて少なく形成されたことを確認することができる。
これはレーザーの熱衝撃によってのみ亜結晶粒界33が形成されたためであり、その後、亜結晶粒界33が適切に成長しなかったためである。
この場合は、本発明の一実施形態とは異なり、グルーブ20と当接した二次再結晶31とその他の二次再結晶32の配向度差が10゜を超過するようになる。この場合、上記のとおり、磁束密度が大きく劣位になる虞がある。
【0023】
図4は、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の断面(TD面)の模式図である。
図4を参照して本発明の一実施形態によるグルーブ20の形成を説明する。
グルーブ20の幅W
Gは10~50μmであることがよい。グルーブ20の幅が狭いか又は広いと、適切な磁区微細化効果を得ることができなくなる虞がある。
グルーブの深さH
Gは鋼板厚さの3~15%であることがよい。グルーブの深さが過度に浅ければ、鉄損改善効果を十分に得ることができない。グルーブの深さが過度に深ければ、強いレーザー照射によって鋼板10の組織特性を大きく変化させるか、多量のヒルアップおよびスパッタを形成して磁性を劣化させる虞がある。したがって、上記の範囲にグルーブ20の深さを制御することが好ましい。さらに具体的に、グルーブ20の深さは鋼板厚さの5~10%であることがよい。
【0024】
上記のとおり、本発明の一実施形態で二次再結晶焼鈍された鋼板にレーザーを照射してグルーブを形成するので、グルーブ上部には金属酸化物層40が存在しないことになる。金属酸化物層40は、二次再結晶焼鈍過程で焼鈍分離剤と鋼板表面の酸化物層が反応して形成された層である。一例として、MgO焼鈍分離剤を塗布した場合、フォルステライト層が形成される。
図4に示したとおり、グルーブ20が形成されていない鋼板10の上部には金属酸化物層40が存在するのに対し、グルーブ20上には金属酸化物層40が存在しない。
その後、上記のとおり、絶縁被膜を形成するので、グルーブ上には絶縁被膜50が当接して存在することになる。即ち、グルーブ20および絶縁被膜50の間に金属酸化物層40が存在しない状態となる。
絶縁被膜50は一般的な絶縁被膜を制限なく使用することができる。一例として、10重量%以下の無機質化物、60重量%以下のシリカ、60重量%以下の金属リン酸塩を含むことができる。追加的に、4重量%以下のほう酸をさらに含むことができる。
【0025】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の磁区微細化方法は、冷延鋼板を準備する段階、冷延鋼板を一次再結晶焼鈍する段階、冷延鋼板を二次再結晶焼鈍する段階、二次再結晶焼鈍が完了した鋼板にレーザーを照射してグルーブを形成する段階、およびグルーブが形成された鋼板上に絶縁被膜を形成する段階を含む。
まず、冷延鋼板を準備する。本発明の一実施形態では磁区微細化方法および形成されるグルーブ20およびグルーブ20下部に存在する再結晶31にその特徴があるのであって、磁区微細化の対象になる冷延鋼板は制限なく使用することができる。特に、冷延鋼板の合金組成とは関係なく本発明の効果が発現される。したがって、冷延鋼板の合金組成に関する具体的な説明は省略する。
その次に、冷延板を一次再結晶焼鈍する。
【0026】
一次再結晶焼鈍する段階は方向性電磁鋼板分野で広く知られているので、詳しい説明は省略する。一次再結晶焼鈍過程で脱炭または脱炭と窒化を含むことができ、脱炭または脱炭と窒化のために湿潤雰囲気で焼鈍することができる。一次再結晶焼鈍する段階での亀裂温度は710~870℃であることがよい。また、露点温度は40~70℃であることがよい。
その次に、焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶焼鈍する。焼鈍分離剤については広く知られているので、詳しい説明は省略する。一例として、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を使用することができる。
【0027】
二次再結晶焼鈍の目的は大きく見れば、二次再結晶による{110}<001>集合組織形成、一次再結晶焼鈍時形成された酸化層とMgOの反応による金属酸化物(ガラス質)被膜40形成で絶縁性付与、磁気特性を害する不純物の除去である。二次再結晶焼鈍の方法では二次再結晶が起こる前の昇温区間では窒素と水素の混合ガスとして維持して粒子成長抑制剤である窒化物を保護することによって二次再結晶がよく発達し得るようにし、二次再結晶が完了した後、亀裂段階では100%水素雰囲気で長時間維持して不純物を除去する。
二次再結晶焼鈍する段階は900~1210℃の亀裂温度で行うことができる。
その次に、二次再結晶焼鈍が完了した鋼板にレーザーを照射してグルーブを形成する。上記のとおり、本発明の一実施形態ではグルーブを形成する段階の順序、板に形成されるビームの形状とグルーブ形成時レーザーのエネルギー密度が重要である。
【0028】
圧延方向(RD方向)と交差する方向にレーザーを照射して、グルーブ20を形成する。
レーザー密度は3.0~8.0J/mm2であることがよい。レーザー密度が過度に低ければ、グルーブ20下部への熱影響が小さくて、微細な再結晶が生成され、その後絶縁被膜形成工程で熱処理してもグルーブ20下部に当接した再結晶31が十分に成長できない。一方、レーザー密度が過度に高ければ、鋼板溶融によって形成されるヒルアップおよびスパッタが多量形成され、これらの影響によって再結晶31の配向度が大きく劣位になる虞がある。したがって、上記の範囲でレーザー密度を調節することができる。さらに具体的に、レーザー密度は3.0~7.0J/mm2であることがよい。
【0029】
レーザーの出力が500W以上であり、レーザー走査速度が5m/s以上であり、レーザー走査距離が100mm以上であることがよい。適切な出力、走査速度および走査距離を使用することによって、グルーブ下部に再結晶を適切に形成することができる。さらに具体的に、レーザーの出力が500~10kWであり、レーザー走査速度が10~80m/sであり、レーザー走査距離が100~500mmであることがよい。
レーザーの発振方式は制限なく使用することができる。即ち、連続発振またはPulsed modeを使用することができる。このように表面ビーム吸収率が鋼板銀の溶融熱以上になるようにレーザーを照射して、
図1および
図2に示したグルーブ20を形成するようになる。具体的に、Gaussian mode(TEMoo M2≦1.10)であるレーザーを使用することができる。
レーザー波長は、金属酸化物層40が形成された鋼板10のエネルギー吸収率を考慮して、1.06~10.6μmの範囲に該当するレーザーを使用することができる。
【0030】
図5は、本発明の一実施形態によるレーザーのビームの形状を示した模式図である。グルーブを形成する段階で、レーザーの鋼板圧延垂直方向(TD方向)のビーム長さLが100~500μmであることがよい。圧延方向と垂直な方向(TD方向)のビーム長さLが過度に短ければ、レーザーが照射される時間が過度に短くなり、適切なグルーブを形成することができなくなるため、鉄損改善効果を得にくい。さらに具体的に、ビーム長さLは150~450μmであることがよい。
レーザーの鋼板圧延方向(RD方向)のビーム幅Wは10~27μmであることがよい。ビーム幅Wが過度に短いか又は長ければ、グルーブ20の幅が狭いか又は幅広くなり、適切な磁区微細化効果を得ることができなくなる虞がある。
図5ではビーム形状を楕円形に示したが、球形、あるいは長方形など形状の制限を受けない。
【0031】
グルーブを形成する段階以後、酸洗いまたはブラシでスパッタの高さを3.5μm以下に制御する段階をさらに含むことができる。
その次に、グルーブが形成された鋼板上に絶縁被膜を形成する。
絶縁被膜層を形成する方法は特に制限なく使用することができ、一例に、リン酸塩を含む絶縁コーティング液を塗布する方式で絶縁被膜層を形成することができる。このような絶縁コーティング液は10重量%以下の無機質化物、60重量%以下のシリカ、60重量%以下の金属リン酸塩を含むコーティング液を使用することができる。この時、金属リン酸塩はAlリン酸塩、Mgリン酸塩、またはこれらの組み合わせであることがよく、絶縁コーティング液の重量に対してAl、Mg、またはこれらの組み合わせの含量は15重量%以上であることがよい。コーティング液は追加的に4重量%以下のほう酸をさらに含むことができる。
【0032】
絶縁コーティング液を塗布した後、熱処理して絶縁コーティングを形成することができる。この時、温度は750~900℃であることがよい。適切な範囲の温度調節を通じて再結晶31の粒径を適切に調節することができる。
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がここに限定されるのではない。
【実施例】
【0033】
実施例1~5
二次再結晶が完了した0.27mmの方向性電磁鋼板を準備した。この電磁鋼板に1.0kWのGaussian modeの連続波レーザーを照射して、RD方向と86°角度のグルーブを形成した。レーザーのビームの幅Wは13μmであり、レーザーのビームの長さLは200μmである。TD方向に8個区間で断続的にグルーブを形成した。
レーザーのエネルギー密度およびグルーブの深さを下記表1のように変更しながら実施した。
その後、絶縁コーティング液を塗布し、840℃の温度で1.5分間熱処理した。
【0034】
表1に鉄損改善率および磁束密度劣化率を示した。鉄損改善率はグルーブを形成していない電磁鋼板の鉄損W1とグルーブを形成した電磁鋼板の鉄損W2を測定して(W1-W2)/W1で計算した。鉄損は、磁束密度の値が1.7Teslaである時、周波数が50Hzである場合の鉄損値W17/50で測定した。
磁束密度劣化率はグルーブを形成していない電磁鋼板の磁束密度B1とグルーブを形成した電磁鋼板の磁束密度B2を測定して(B2-B1)/B1で計算した。磁束密度は800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(B8、Tesla)で測定した。
圧延垂直方向断面(TD面)でグルーブ下部に当接した再結晶31およびその他の再結晶32粒径、配向度差、亜結晶粒界長さをEBSDで測定して下記表1に整理した。
【0035】
比較例1
実施例1と同一に実施し、レーザーを冷延板に照射した後、一次再結晶、二次再結晶焼鈍した。
比較例2、3
実施例1と同一に実施し、レーザーのビーム形状、レーザーのエネルギー密度およびグルーブの深さを下記表1のように変更しながら実施した。
【0036】
【0037】
表1に示したとおり、グルーブ形成時、レーザーの形状およびレーザーのエネルギー密度を適切に制御した場合、グルーブ下部に当接した再結晶31の配向度差も低くて、鉄損および磁束密度が優れるのを確認することができる。
反面、比較例1は冷延板にレーザーを照射し、亜結晶粒界がほとんど形成されず、配向度が低くて、磁束密度が劣位になったのを確認することができる。
比較例2はレーザーの形状およびエネルギー密度が適切に調節されなくて、亜結晶粒界がほとんど形成されず、配向度が低くて、磁束密度が劣位になるのを確認することができる。
比較例3はレーザーの形状が適切に調節されなくて、亜結晶粒界がほとんど形成されず、磁束密度が劣位になるのを確認することができる。
【0038】
本発明は実施形態に限定されるのではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更ことなく他の形態で実施できるということを理解することができるはずである。したがって、以上に記した実施形態は全て例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0039】
10:方向性電磁鋼板
20:グルーブ
31:グルーブ下部に当接した二次再結晶
32:その他の二次再結晶
33:亜結晶粒界
40:金属酸化物層
50:絶縁被膜