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特許7561198乳がんの治療におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】乳がんの治療におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/136 20060101AFI20240926BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240926BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240926BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240926BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A61K31/136
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/34
A61K9/127
A61P35/00
A61P35/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022548491
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 CN2021076210
(87)【国際公開番号】W WO2021160115
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】202010083745.4
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506417359
【氏名又は名称】石薬集団中奇制薬技術(石家庄)有限公司
【氏名又は名称原語表記】CSPC ZHONGQI PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY(SHIJIAZHUANG)CO.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.896,Zhongshan East Road,High-Tech Zone,Shijiazhuang,Hebei,050035,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】李春雷
(72)【発明者】
【氏名】王暁東
(72)【発明者】
【氏名】楊修誥
(72)【発明者】
【氏名】王玲玲
(72)【発明者】
【氏名】杜艶玲
(72)【発明者】
【氏名】▲ジン▼秋双
(72)【発明者】
【氏名】王世霞
(72)【発明者】
【氏名】王暁麗
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103622909(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110711178(CN,A)
【文献】Annals of Oncology,1992年,Vol.3, No.6,p.445-449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳がんを治療するための薬物の調製におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用であって、
前記乳がんは、内分泌療法に適しない又は内分泌療法抵抗性の、HER2陰性又は抗HER2標的療法を受けられない再発性又は転移性乳がんであり、
前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、粒径が約30~80nmであり、1)リポソーム内の多価対イオンと不溶性の沈殿物を形成する活性成分ミトキサントロンと、2)相転移温度(Tm)が体温より高いリン脂質を含むリン脂質二重層とを含有し、前記Tmが体温より高いリン脂質は、ホスファチジルコリン、水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、ジパルミチン酸レシチン或いはジステアリン酸レシチン、又はそれらの任意の組み合わせであり、
前記リン脂質二重層は、水素添加大豆レシチン、コレステロール、及びポリエチレングリコール2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを質量比3:1:1で含み、前記粒径は約60nmであり、前記対イオンは硫酸イオンである、ことを特徴とする、ミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用。
【請求項2】
乳がんを治療するための薬物の調製におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用であって、
前記乳がんは、内分泌療法に適しない又は内分泌療法抵抗性の、HER2陰性又は抗HER2標的療法を受けられない再発性又は転移性乳がんであり、
前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、粒径が約30~80nmであり、1)リポソーム内の多価対イオンと不溶性の沈殿物を形成する活性成分ミトキサントロンと、2)相転移温度(Tm)が体温より高いリン脂質を含むリン脂質二重層とを含有し、前記Tmが体温より高いリン脂質は、ホスファチジルコリン、水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、ジパルミチン酸レシチン或いはジステアリン酸レシチン、又はそれらの任意の組み合わせであり、
前記リポソームのリン脂質二重層は、水素添加大豆レシチン、コレステロール、及びポリエチレングリコール2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを質量比3:1:1で含み、前記粒径は約40~60nmであり、前記対イオンは硫酸イオンであり、リポソーム中のHSPC:Chol:DSPE-PEG2000:ミトキサントロンの重量比は9.58:3.19:3.19:1である、ことを特徴とする、ミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用。
【請求項3】
前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームが唯一の活性成分として使用されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載のミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用。
【請求項4】
前記薬物は液体注射剤、注射用粉末、注射用錠剤等を含む注射剤形である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用。
【請求項5】
ミトキサントロンで計算すると、前記薬物は活性成分を0.5~5mg/ml含有する、ことを特徴とする請求項に記載のミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用。
【請求項6】
患者の乳がんを治療するためのミトキサントロン塩酸塩リポソーム医薬製剤であって、
前記乳がんは、内分泌療法に適しない又は内分泌療法抵抗性の、HER2陰性又は抗HER2標的療法を受けられない再発性又は転移性乳がんであり、
前記ミトキサントロン塩酸塩リポソーム医薬製剤は、
粒径が約30~80nmであり、1)リポソーム内の多価対イオンと不溶性の沈殿物を形成する活性成分ミトキサントロンと、2)相転移温度(Tm)が体温より高いリン脂質を含むリン脂質二重層とを含有するリポソームを含有し、前記Tmが体温より高いリン脂質は、ホスファチジルコリン、水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、ジパルミチン酸レシチン或いはジステアリン酸レシチン、又はそれらの任意の組み合わせであり、
前記リン脂質二重層は、水素添加大豆レシチン、コレステロール、及びポリエチレングリコール2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを質量比3:1:1で含み、前記粒径は約60nmであり、前記対イオンは硫酸イオンである、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム医薬製剤。
【請求項7】
患者の乳がんを治療するためのミトキサントロン塩酸塩リポソーム医薬製剤であって、
前記乳がんは、内分泌療法に適しない又は内分泌療法抵抗性の、HER2陰性又は抗HER2標的療法を受けられない再発性又は転移性乳がんであり、
前記ミトキサントロン塩酸塩リポソーム医薬製剤は、
粒径が約30~80nmであり、1)リポソーム内の多価対イオンと不溶性の沈殿物を形成する活性成分ミトキサントロンと、2)相転移温度(Tm)が体温より高いリン脂質を含むリン脂質二重層とを含有するリポソームを含有し、前記Tmが体温より高いリン脂質は、ホスファチジルコリン、水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、ジパルミチン酸レシチン或いはジステアリン酸レシチン、又はそれらの任意の組み合わせであり、
前記リポソームのリン脂質二重層は、水素添加大豆レシチン、コレステロール、及びポリエチレングリコール2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを質量比3:1:1で含み、前記粒径は約40~60nmであり、前記対イオンは硫酸イオンであり、リポソーム中のHSPC:Chol:DSPE-PEG2000:ミトキサントロンの重量比は9.58:3.19:3.19:1である、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2020年2月10日に中国国家知識産権局に提出された、出願番号が202010083745.4で、発明名称が「乳がんの治療におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途」である先行発明の特許出願の優先権を主張する。当該先行出願は、その全文が引用により本願に組み込まれる。
【0002】
本特許出願は、2006年12月29日に出願された中国特許出願200610102339.8及び2007年12月29日に出願されたPCT出願WO2008/080367A1を引用しており、その開示全文が引用により本願に組み込まれる。
【0003】
〔技術分野〕
本発明は、抗腫瘍の分野に属し、具体的には乳がんを治療するための薬物の調製におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途に関する。
【0004】
〔背景技術〕
乳がんは女性に最もよく見られる悪性腫瘍の1つであり、世界の統計によると、毎年約170万人(女性の癌患者全体の25%を占める)が乳がんと診断され、約52万人(女性の癌患者全体の15%を占める)がこの病気で死亡した。乳がんは全身性の病気であり、病気の初期・中期には乳がん細胞が循環器系に入り込み、全身に転移することがある。現在では、乳がんの治療は、やはり主に手術、化学放射線療法、内分泌療法が中心となっており、そのうち、末期乳がん患者の生存率が比較的低く、治癒が困難である。乳がんの病理学的サブタイプには、ルミナールA型、ルミナールB型、正常乳腺様型、ヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)過剰発現型、及び基底細胞様型2があり、そのうち、トリプルネガティブ乳がんとはエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、及びHER-2の何れも陰性の乳がんであり、新たに診断された乳がんの全症例の約15%から20%を占める。ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)は、さまざまな種類の固形腫瘍(乳がん、胃がん等を含む)で過剰発現及び増幅されることがある。HER2検査が陽性の患者の場合、HER2を標的としたトラスツズマブと化学療法等の治療レジメンを併用し、顕著な効果を有する。HER2陰性で内分泌療法に失敗した末期乳がん患者にとって、化学療法は依然として主な治療法である。中国国家衛生健康委員会が発行した『中国乳がん診断及び治療規範(2018年版)』では、末期乳がんによく使われる化学療法薬として、アントラサイクリン系(エピルビシン、ドキソルビシン、ドキソルビシン)、タキサン系、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビン、プラチナ系等が挙げられる。しかし、重篤な毒性と副作用のため、化学療法薬の臨床応用は限られており、患者が重篤な副作用に耐えられずに治療を中止することがよくある。そのため、より優れた治療効果とより低い毒性を備えた化学療法レジメンを開発することが特に重要である。
【0005】
ミトキサントロン塩酸塩はアントラキノン系化学療法薬であり、FDAにより承認されたミトキサントロン塩酸塩通常注射液の適応症は、多発性硬化症、前立腺癌、及び急性骨髄性白血病である。中国ではリンパ腫、白血病、及び乳がん等の患者を対象に承認されており、推薦用量は、単剤の成人の場合、3~4週間毎に1回、12~14mg/m2とし、又は1日1回、4~8mg/m2で3~5日間連続投与し、2~3週間休薬することである。併用用量は1回5~10mg/m2とする。アントラサイクリン系薬物として、ミトキサントロンの主な副作用は主に心毒性、骨髄抑制、及び胃腸反応等と表現される。そのうち、骨髄抑制と胃腸反応は適切な薬物を投与することで解決できるが、心毒性はしばしば深刻な結果をもたらし、アントラサイクリン系薬物の最も深刻な副作用であり、臨床研究と実際の観察により、アントラサイクリン系薬物による心毒性の多くは進行性で不可逆的であることが示され、特にアントラサイクリン系薬物の初回投与の時にも、心臓の損傷を引き起こしやすくなる。慢性累積的な用量制限毒性である心毒性は、臨床医にとって共通の懸念事項である。従って、乳がんがその適応症として承認されているものの、権威ある臨床投薬ガイドラインでは、ミトキサントロンは乳がんの治療手段として推奨されていない。
【0006】
また、末期乳がん患者集団を対象とした、本発明に係るミトキサントロン塩酸塩リポソームとミトキサントロン塩酸塩通常製剤の対照臨床試験も報告されていない。更に、乳がんや末期乳がん患者、特にHER-2陰性末期乳がん患者に対するミトキサントロン塩酸塩リポソームのレジメンも開示されていない。
【0007】
リポソームは新しい薬物送達形態である。研究によると、受動的ターゲティングを行うことにより、封入された薬物の体内分布を変化させ、主に肝臓、脾臓、肺、及び骨髄等の組織・器官に薬物を蓄積させることができ、それによって薬物の治療指数を向上させ、薬物の治療用量を減少させ、薬物の毒性を低減させることが示されている。これらの特性から、抗腫瘍薬の研究におけるリポソームによる薬物送達の適用が強く注目されている。研究者がミトキサントロンリポソーム製剤について検討した。例えば、2006年12月29日に出願された中国特許出願200610102339.8及び2007年12月29日に出願されたPCT出願WO2008/080367A1は、ミトキサントロンリポソームを開示しており、その開示の全文は、参照として本明細書に組み込まれる。研究によると、ミトキサントロンの遊離薬物に比べて、リポソームの封入により薬物の体内動態パラメータ及び体内組織分布が変化し、例えば、血中薬物保持時間の延長、正常組織における薬物分布の減少、腫瘍組織における薬物蓄積量の増加、薬物毒性の低減、及び比較的に低用量でより良い抗腫瘍効果の取得が示されている。ミトキサントロンリポソームは、乳がん、特に末期乳がんの治療に潜在的な治療手段を提供すると思われる。
【0008】
石薬集団は、新薬であるミトキサントロンリポソームのオリジナルメーカとして、前期に固形腫瘍及びリンパ腫に対するミトキサントロンリポソームの探索的研究を実施してきた。しかし、ミトキサントロンリポソームは通常注射剤とは異なる特殊な剤形であるため、体内に入った後の吸収、分布、代謝の様子が非常に複雑であり、一方の適応症から他方の適応症へと単純に推測することは困難である。腫瘍によって薬物感受性が異なることは、当該分野で公知であり、既存の研究によると、異なる適応症を治療する場合、同じ薬物でも投与レジメンが異なる可能性があることが示されている。例えば、Doxil(ドキソルビシン塩酸塩リポソーム)は次の3つの適応症がFDAによって承認されており、それぞれは、(1)卵巣がん、推奨用量は50mg/m2、4週間毎に1回静脈内投与、(2)カポジ肉腫、推薦用量は20mg/m2、3週間毎に1回静脈内投与、(3)多発性骨髄腫、推薦用量は30mg/m2、ボルテゾミブ投与後の4日目に静脈内投与である。別の例として、Abraxane(注射用パクリタキセル[アルブミン結合型])も次の3つの適応症がFDAによって承認されており、それぞれは、(1)転移性乳がん、推薦用量は260mg/m2、30分間点滴静脈内注射、3週間毎に1回投与、(2)非小細胞肺がん、推薦用量は100mg/m2、30分間点滴静脈内注射、21日間を1コースとし、それぞれ1日目、8日目、15日目に投与、1日目に注射用パクリタキセル(アルブミン結合型)の投与直後に直ちにカルボプラチンを投与し、21日間毎に1回投与、(3)膵臓がん、推薦用量は125mg/m2、30~40分間点滴静脈内注射、28日間を1サイクルとし、それぞれ1日目、8日目、15日目に1回投与、毎回注射用パクリタキセル(アルブミン結合型)の投与直後に直ちにゲムシタビンを投与することである。更に別の例として、AmBisome(注射用アムホテリシンBリポソーム)が以下の適応症の治療のための開始用量は次のとおりである:(1)経験的治療、推奨用量は3mg/kg/日、(2)全身性真菌感染症(アスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス)、推薦用量は3~5mg/kg/日、(3)HIV感染者のクリプトコッカス髄膜炎、推薦用量は6mg/kg/日(1日目から5日目)、3mg/kg/日(4日目、21日目)、(4)免疫機能低下の内臓リーシュマニア症患者、4mg/kg/日(1日目から5日目)、4mg/kg/日(10日目、17日目、24日目、31日目、38日目)。用量及び投与データは、最大限の薬効と最小限の毒性又は副作用を達成するために、患者の実際の状態に合わせて個別に設定される。同じ薬物でも、異なる適応症に対しての安全且つ有効な用量に違いがあることが分かる。用量及び投与データは、最大限の薬効と最小限の毒性又は副作用を達成し、疾患の安全で効果的な治療の効果を取得するために、具体的な疾患の種類や患者の実際の状態に合わせて個別に設定される。
【0009】
以上により、乳がんがその適応症として承認されているものの、権威ある臨床投薬ガイドラインでは、ミトキサントロンは乳がんの治療手段として推奨されず、乳がんの治療におけるミトキサントロンの如何なる使用経験もなく、乳がんの治療におけるミトキサントロンリポソームの単独投与の安全性と治療効果について、信頼できる参考資料を提供することが困難である。ミトキサントロンリポソームは通常注射剤とは異なる特殊な剤形であるため、体内に入った後の吸収、分布、代謝の様子が非常に複雑であり、様々な適応症の治療、特に様々な腫瘍の治療では、一方の適応症から他方の適応症へと単純に推測することも困難である。そして、ミトキサントロン薬は主に肝臓で代謝され、主な副作用として心毒性、骨髄抑制、肝機能障害等があり、リポソームによる薬物送達により、薬物が肝臓、脾臓、骨髄等の組織に更に蓄積し、肝臓、脾臓、骨髄への負荷が明らかに大きくなり、これが臨床投薬の治療効果や安全性に影響を与えるかどうか予測することは困難である。従って、ミトキサントロンリポソームが乳がん、特に末期乳がんの治療に適するかどうかを系統的に検討し、その安全且つ有効な用量を明らかにし、臨床治療のための参考を提供する必要がある。
【0010】
〔発明の概要〕
本発明は、乳がんを治療するための薬物の調製におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途を提供する。
【0011】
好ましくは、前記乳がんは末期乳がんであり、より好ましくは末期再発性又は転移性乳がんであり、更に好ましくはHER2陰性又は抗HER2標的療法を受けられない末期再発性又は転移性乳がんであり、最も好ましくは内分泌療法に適しない又は内分泌療法抵抗性の、HER2陰性又は抗HER2標的療法を受けられない末期再発性又は転移性乳がんである。
【0012】
好ましくは、ミトキサントロン塩酸塩リポソームが唯一の活性成分として使用されている。
【0013】
好ましくは、前記薬物は液体注射剤、注射用粉末、注射用錠剤等を含む注射剤形である。
【0014】
好ましくは、前記薬物は液体注射剤である。
【0015】
前記薬物が液状注射剤である場合、ミトキサントロンで計算すると、前記薬物は活性成分(ミトキサントロンで計算する)を0.5~5mg/ml、好ましくは1~2mg/ml、より好ましくは1mg/ml含有する。
【0016】
本発明は、治療有効量のミトキサントロン塩酸塩リポソームを乳がん患者に投与することである、乳がんを治療する方法を更に提供する。好ましくは、前記治療有効量(ミトキサントロンで計算する)は8~30mg/m2、より好ましくは12~20mg/m2又は16~30mg/m2を指す。具体的には、例えば12mg/m2、14mg/m2、16mg/m2、18mg/m2、20mg/m2である。
【0017】
好ましくは、本発明に係る投与方式は、静脈内投与である。好ましくは、投与サイクルは4週間毎に1回投与することである。好ましくは、毎回の静脈内投与において、前記リポソーム医薬製剤の点滴投与時間は、30分間~120分間であり、好ましくは55分間~120分間、60分間~120分間であり、より好ましくは60分間以上であり、更に好ましくは60±5分間である。そのうち、前記リポソーム医薬製剤は液体注射剤、注射用粉末、注射用錠剤等を含む、ミトキサントロン塩酸塩リポソームの注射剤形である。好ましくは、患者が受けるミトキサントロンの総投与量は200mg/m2以下、好ましくは160mg/m2以下、より好ましくは140mg/m2以下、更に好ましくは120mg/m2以下である。
【0018】
本発明は、乳がんを治療するための薬物の調製における上記のリポソーム医薬製剤の用途を提供し、そのうち、各患者への前記リポソーム医薬製剤の総投与量(ミトキサントロンで計算する)は、200mg/m2以下、好ましくは160mg/m2以下、より好ましくは140mg/m2以下、更に好ましくは120mg/m2以下である。そのうち、前記リポソーム医薬製剤は液体注射剤、注射用粉末、注射用錠剤等を含む、ミトキサントロン塩酸塩リポソームの注射剤形である。
【0019】
本発明は、患者の乳がんを治療するためのミトキサントロン塩酸塩リポソームを更に提供する。
【0020】
いくつかの実施例において、前記リポソームは液体注射剤、注射用粉末、注射用錠剤等を含む注射剤形である。前記薬物が液状注射剤である場合、ミトキサントロンで計算すると、前記リポソームは、活性成分(ミトキサントロンで計算する)を0.5~5mg/ml、好ましくは1~2mg/ml、より好ましくは1mg/ml含有する。
【0021】
いくつかの実施例において、前記リポソームは患者の乳がんの治療に単独で使用される。
【0022】
いくつかの実施例において、前記リポソームの治療有効量(ミトキサントロンで計算する)は8~30mg/m2であり、より好ましくは12~20mg/m2又は16~30mg/m2である。具体的には、例えば12mg/m2、14mg/m2、16mg/m2、18mg/m2、20mg/m2である。
【0023】
いくつかの実施例において、前記リポソームの投与方式は静脈内投与である。好ましくは、投与サイクルは4週間毎に1回投与することである。好ましくは、毎回の静脈内投与において、前記リポソームの点滴投与時間は、30分間~120分間であり、好ましくは55分間~120分間、60分間~120分間であり、より好ましくは60分間以上であり、更に好ましくは60±5分間である。
【0024】
いくつかの実施例において、患者が受けるミトキサントロンの総投与量は200mg/m2以下、好ましくは160mg/m2以下、より好ましくは140mg/m2以下、更に好ましくは120mg/m2以下である。
【0025】
本発明の文脈において、前記「ミトキサントロンの総投与量」は、ミトキサントロン計算で本発明のミトキサントロン塩酸塩リポソーム、ミトキサントロン塩酸塩注射液及び他のミトキサントロン製剤を含む、患者が受けるすべてのミトキサントロン薬の投与量の合計を指す。
【0026】
本発明の文脈において、特に明記しない限り、前記用量はミトキサントロンで計算することである。
【0027】
本発明の文脈において、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、本分野の通常方法によって調製されることができ、従来技術に開示された任意の方法によって調製されるミトキサントロン塩酸塩リポソームであってもよく、例えばWO2008/080367A1に開示された方法によって調製される等、この特許開示がその全文を参照として本明細書に組み込まれる。
【0028】
本発明の文脈において、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、その粒径が約30~80nmであり、1)リポソーム内の多価対イオンと不溶性の沈殿物を形成する活性成分ミトキサントロンと、2)相転移温度(Tm)が体温より高いリン脂質を含むリン脂質二重層とを含有するため、リポソームの相転移温度が体温よりも高い。前記Tmが体温より高いリン脂質は、ホスファチジルコリン、水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、ジパルミチン酸レシチン或いはジステアリン酸レシチン、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記粒径は約35~75nmであり、好ましくは40~70nmであり、更に好ましくは40~60nmであり、特に好ましくは60nmである。好ましくは、前記リン脂質二重層は、水素添加大豆レシチン、コレステロール、及びポリエチレングリコール2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを質量比3:1:1で含み、前記粒径は約60nmであり、前記対イオンは硫酸イオンである。好ましくは、前記リポソームのリン脂質二重層は、水素添加大豆レシチン、コレステロール、及びポリエチレングリコール2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを質量比3:1:1で含み、前記粒径は約40~60nmであり、前記対イオンは硫酸イオンであり、リポソーム中のHSPC:Chol:DSPE-PEG2000:ミトキサントロンの重量比は9.58:3.19:3.19:1である。
【0029】
本発明の文脈において、ミトキサントロンリポソームの調製方法は以下の通りである。HSPC(水素添加大豆レシチン)、Chol(コレステロール)及びDSPE-PEG2000(ポリエチレングリコール2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)を(3:1:1)の質量比で秤量し、95%エタノールに溶解して清澄溶液を得た。リン脂質のエタノール溶液を300mMの硫酸アンモニウム溶液と混合し、60~65℃で1時間振とう・水和させて、不均一な多層リポソームを得た。その後、マイクロジェット装置を使用してリポソームの粒度を減少させた。得られたサンプルを0.9%のNaCl溶液で200倍に希釈した後、NanoZSで検出したところ、粒子の平均粒度は約60nmであり、メインピークは40~60nmに集中していた。その後、限外濾過装置を用いてブランクリポソーム外相の硫酸アンモニウムを除去し、外相を290mMのスクロース及び10mMのグリシンに置換して、膜貫通硫酸アンモニウム勾配を形成した。脂質と薬物の比率16:1に従って、ブランクリポソームにミトキサントロン塩酸塩溶液(10mg/mL)を添加し、60~65℃で薬物送達を行った。約1時間インキュベートした後、ゲル排除クロマトグラフィーを使用して、封入効率が約100%であることが証明された。この処方で得られた製品はPLM 60と名付けられる。PLLM60におけるHSPC:Chol:DSPE-PEG2000:ミトキサントロンの重量比は9.58:3.19:3.19:1であり、ショ糖-グリシン溶液の浸透圧は生理的値に近い。
【0030】
本発明の文脈において、前記末期再発性乳がんとは、乳がんに対する治療を初期に受けたが、再発した患者をいう。患者は初期に、5-FU+エピルビシン+シクロホスファミド、ゲムシタビン+シスプラチン、パクリタキセル、エリブリン、パクリタキセル+エピルビシン、ゲムシタビン+パクリタキセル、カペシタビン、クエン酸トレミフェン、ハーセプチン(トラスツズマブ)+パクリタキセル+カルボプラチン、ハーセプチン(トラスツズマブ)、ビノレルビン+ハーセプチン(トラスツズマブ)、パクリタキセル+カルボプラチン、エピルビシン+シクロホスファミド、エキセメスタン、レトロゾール+メトホルミン、ビノレルビン、ドセタキセル+カペシタビン、レトロゾール、エピルビシン+シクロホスファミド+ドセタキセル、エキセメスタン+ゾレドロン酸、注射用パクリタキセルポリマーミセル、ゲムシタビン、ゲムシタビン+カルボプラチン、シクロホスファミド+ドセタキセル、シクロホスファミド+エピルビシン+フルオロウラシル、タモキシフェン、放射線療法、ドセタキセル+カルボプラチン、ビノレルビン+カペシタビン、フルベストラント、パクリタキセル+ゲムシタビン、カペシタビン+ベンテプアン、エトポシド+クロドロネート二ナトリウム、シクロホスファミド、オキサリプラチン+ロイコボリン+フルオロウラシル、シクロホスファミド+エピルビシン+フルオロウラシル+ドセタキセル、ドセタキセル+エピルビシン、ビノレルビン+シスプラチン、ドセタキセル、ファミティニブ、アナストロゾール、オキサリプラチン+ロイコボリン+フルオロウラシル+フルオロウラシル、アパチニブ、シクロホスファミド+テガフール+ドキソルビシンリポソーム、ゴセレリン、ゴセレリン+アナストロゾール、リュープロリド+エキセメスタン、フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスフィル+ドセタキセル、エトポシド、ドセタキセル+カペシタビン、トレミフェン、アナストロゾール+エベロリムス、パクリタキセル+エピルビシン、オキサリプラチン+ロイコボリン+フルオロウラシル、フルオロウラシル、テガフール、シクロホスファミド+エピルビシン+5-フルオロウラシル、メトホルミン+レトロゾール、ゲイナー、エトポシド、シクロホスファミド+ピラルビシン+フルオロウラシル、プロトンポンプ阻害剤+ドセタキセル、アナストロゾール、クエン酸タモキシフェン、ラパチニブ錠+カペシタビン錠、レトロゾール+ゴセレリン、メトホルミン+エキセメスタン、ビノレルビン+カペシタビン+アバスチン、ゴセレリン、アナストロゾール+ゴセレリン、エキセメスタン+ゴセレリン、エベロリムス+タモキシフェン、アルブミン結合型パクリタキセル+ゲムシタビン+組換えヒトエンドスタチン+ドセタキセル+ゲムシタビン+組換えヒトエンドスタチン、ビンフルニン+カペシタビン、マレイン酸スニチニブ、イリノテカンリポソーム、エピルビシン、アドリアマイシン、エピルビシン、ピラルビシンを含む治療を受けたが、これらに限定されない。
【0031】
〔発明を実施するための形態〕
実施例1 乳がんの治療におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの単独使用
一、試験設計:
この研究は、末期再発性又は転移性乳がん患者におけるミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の安全性と有効性を評価するための、ランダム、非盲検、陽性薬物対照、単一施設の研究である。
【0032】
1. 投与方法
【0033】
【表1】
【0034】
試験薬:ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液(PLM60(10mg/10ml/個))、20mg/m2の用量で250mlの5%グルコースに加え、点滴静脈内注射を1時間で行う。
【0035】
対照薬:ミトキサントロン塩酸塩注射液(仕様5mg/5ml/個、四川升和薬業股ふん有限公司製、石薬集団中奇製薬技術(石家庄)有限公司により提供され、ロット番号:1501201)、14mg/m2の用量で100mlの5%ブドウ糖注射液に加え、点滴静脈内注射を30分間で行う。
【0036】
2. 症例選択標準:
この研究の選択標準は以下の通りである:
1) 自発的に臨床試験に参加し、且つ同意説明文書にサインする。
【0037】
2) 18~75歳(18歳と75歳を含む)、女性。
【0038】
3) 病理学的及び/又は細胞学的に確認された再発性・転移性乳がん、且つ再発性又は転移性病巣に対する少なくとも2つの化学療法レジメンが失敗した。
【0039】
4) 化学療法を受けるのに適した患者。
【0040】
5) HER2陰性患者(定義:IHC0又は1+、IHC2+且つFISH陰性)、抗HER2標的療法を受けられないHER2陽性患者(定義:IHC3+、又はFISH陽性)。
【0041】
6) 内分泌療法に適しない、又は内分泌療法抵抗性が認められた。
【0042】
7) 少なくとも1つの測定可能な病巣(RECIST1.1標準、スパイラルCTスキャンで
【0043】
【数1】
【0044】
)がある。
【0045】
8) 補助化学療法のレジメンにアントラサイクリン系薬物が含まれていれば、再発は化学療法レジメンの最終投与から12か月以上経過している必要がある。
【0046】
9) ECOGスコアは0~2であり(ECOGスコア標準については付録1を参照)、予想される生存期間は3か月以上である。
【0047】
10) 心機能は基本的に正常である(NYHAクラスI、
【0048】
【数2】
【0049】
)。
【0050】
11) 出産可能年齢のすべての被験者(生育能力がある)は、医学的に認められた効果的な避妊処置を取らなければならない。
【0051】
12) 血液、肝臓、腎臓機能検査の結果は以下の範囲内である:
【0052】
【数3】
【0053】
注:HER2陽性患者は、経済的、毒性、又は耐薬品性の問題により、抗HER2標的療法を使用できない場合がある。この研究では、抗HER2標的療法を受けられないHER2陽性患者を登録することができる。
【0054】
3. 安全性評価:
安全性評価の指標には、バイタルサイン、有害事象、臨床検査パラメータ(血液ルーチン、尿ルーチン、血液生化学、心電図、心臓超音波)、及び早期離脱の状況が含まれる。安全性評価標準:NCI-CTC4.0。
【0055】
4. 有効性評価:
被験者はベースラインで1回の腫瘍評価を受ける。
【0056】
治療期間中に、2回の投与サイクル毎に1回の治療効果の評価を行い、更に治療効果の評価がPR又はCRの場合、4週間後に再度画像検査を行い、治療効果を確認する。治療終了後、疾患が進行するまで3か月毎に1回評価する。腫瘍指標の評価はRECIST1.1標準を採用する。
【0057】
主要的治療効果のエンドポイント:客観的奏効率(ORR)は、治療効果の評価でPR及びCRを達成した被験者の割合を指す。
【0058】
副次的治療効果のエンドポイント:無増悪生存期間(PFS)は、ランダムに群分けしてから腫瘍の進行又は死亡までの時間を指す。
【0059】
二、試験結果
1. 有効性分析:
この研究では、乳がん患者を分析し、60例の適格な乳がん被験者を試験群と対照群に30例ずつランダムに分けた。60例の被験者のうち、42例の被験者は投与サイクルが4サイクル未満であり、そのうち、19例は試験群で23例は対照群であった。18例は投与サイクルが4サイクル以上であり、そのうち、11例は試験群で7例は対照群であった。
【0060】
試験群:30例の乳がん被験者のうち、4例は部分寛解(PR)であり、11例は疾患安定(SD)であり、客観的奏効率(ORR)は13.3%(4/30)であり、疾患制御率(PR+SD)は50%(15/30)であった。
【0061】
対照群:30例の乳がん被験者のうち、2例は部分寛解(PR)であり、7例は疾患安定(SD)であり、客観的奏効率(ORR)は6.7%(2/30)であり、疾患制御率(PR+SD)は30%(9/30)であった。
【0062】
FASセットでは、試験群のPFS中央値は2.3か月であり、対照群のPFS中央値は1.86か月であり、両群間で試験群のPFSは、対照群のPFSよりも数値的に高かった。FASセットでは、試験群の3、6、及び12か月の無増悪生存率は、それぞれ43.3%、21.9%、及び16.4%であり、対照群の3、6、及び12か月の無増悪生存率は、それぞれ26.7%、20%、0であった。
【0063】
両群間での客観的奏効率と疾患制御率については、試験群は対照群よりも数値的に優れていた(13.3%vs.6.7%)(50%vs.30%)。乳がんの治療におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの単独使用の治療効果は下記表の通りである。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
注:上記の略語の意味は次の通りである:
CR:完全寛解、具体的な定義は、国際的な研究で一般的に使用されている「固形腫瘍の治療効果評価標準(RECIST1.1)」に基づく。
【0068】
PR:部分寛解、具体的な定義は、国際的な研究で一般的に使用されている「固形腫瘍の治療効果評価標準(RECIST1.1)」に基づく。
【0069】
PD:疾患進行、具体的な定義は、国際的な研究で一般的に使用されている「固形腫瘍の治療効果評価標準(RECIST1.1)」に基づく。
【0070】
SD:疾患安定、具体的な定義は、国際的な研究で一般的に使用されている「固形腫瘍の治療効果評価標準(RECIST1.1)」に基づく。
【0071】
FAS:完全解析セット、統計学用語。
【0072】
PPS:パープロトコルセット、統計学用語。
【0073】
全奏効率(ORR)=(CR+PR)/評価可能な症例の総数*100%。
【0074】
2. 安全性分析:
ミトキサントロンという薬物について、最も深刻な有害事象は心毒性であり、臨床研究と実際の観察により、アントラサイクリン系薬物による心毒性の多くは進行性で不可逆的であることが示され、特にアントラサイクリン系薬物の初回投与の時にも、心臓の損傷を引き起こしやすくなる。慢性累積的な用量制限毒性である心毒性は、臨床医にとって共通の懸念事項である。本試験は、トロポニンT上昇の発生率と脳性ナトリウム利尿ペプチド上昇の発生率を、心毒性を調べる指標とした。心筋トロポニンTレベルの変化は、心筋損傷を反映することができ、且つ感度が比較的に高い。脳性ナトリウム利尿ペプチドは、心室細胞から分泌されるポリペプチドホルモンであり、心室負荷が増加して壁張力が増加すると、脳性ナトリウム利尿ペプチドの分泌レベルが高まる。
【0075】
表5から分かるように、1)試験群のトロポニンT上昇の発生率は3.3%であるが、対照群の発生率は36.7%であり、その差は極めて顕著であった。リポソームの剤形がミトキサントロン塩酸塩の心毒性を明らかにに低下させることができることが分かる。
2)脳性ナトリウム利尿ペプチド上昇の発生率は両群で同じであったが(33.3%vs33.3%)、表6と7から分かるように、上昇レベルは異なり、試験群の回数と重篤度は対照群よりも明らかに低かった。
【0076】
試験群と対照群における有害事象の総発生率は何れも100%であり、発生率が最も高いのは血液学的毒性であった。何れの発生率が30%を超える有害事象の中で、白血球数の減少(86.7%vs96.7%)、好中球数の減少(80.0%vs96.7%)、抱合型ビリルビンの増加(53.3%vs56.7%)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素の増加(40.0%vs53.3%)及びトロポニンTの上昇(3.3%vs36.7%)の発生率は、対照群よりも試験群が低く、貧血(76.7%vs46.7%)、皮膚色素沈着過剰(66.7%vs3.3%)及び血小板数の減少(56.7%vs53.3%)の発生率は、対照群よりも試験群が高かった。
【0077】
試験結果により、末期再発性又は転移性乳がんの治療におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの客観的奏効率、疾患制御率及び無増悪生存期間等の指標が、ミトキサントロン塩酸塩よりも数値的に優れる傾向があり、そして心毒性がミトキサントロン塩酸塩よりも明らかに低かったことが示されている。
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】