(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】表面品質に優れた鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20240926BHJP
C23G 1/08 20060101ALI20240926BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240926BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C21D9/46 S
C21D9/46 E
C23G1/08
C22C38/00 301W
C22C38/00 301R
C22C38/38
(21)【出願番号】P 2022549291
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 KR2021001996
(87)【国際公開番号】W WO2021167332
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】10-2020-0019925
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】パク、 キョン-ス
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-130356(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0073839(KR,A)
【文献】特開平11-189885(JP,A)
【文献】特開2016-130334(JP,A)
【文献】特許第6388099(JP,B1)
【文献】特開2012-012655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0241052(US,A1)
【文献】特表2022-515159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
C23G 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.05%以上0.4%未満、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、ボロン(B):0.01%以下、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち一つ以上:0.1~2.5%を含み、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなる熱延コイルを準備する段階と、前記熱延コイルを酸洗槽に浸漬して通過させることにより表層部の内部酸化層及び/又は脱炭層を除去する段階と、を含む酸洗鋼板の製造方法であって、
前記熱延コイルを長さ方向に第1領域、第2領域、第3領域、第4領域及び第5領域に分割したとき、前記第2領域、第3領域及び第4領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を前記第1領域及び第5領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度よりも遅く制御する、表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記熱延コイルは、下記関係式1を満たす、請求項
1に記載の表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
[関係式1]
C(%)+Si(%)/6+Mn(%)/20+Cr(%)/20+2×P(%)+4×S(%)<0.5
【請求項3】
前記熱延コイルは、
鋼スラブを1050~1350℃の温度範囲で再加熱した後、粗圧延し、次いで、粗圧延された鋼スラブを800~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階と、
前記仕上げ熱間圧延された熱延鋼板を10~1000℃/sの冷却速度で500~750℃の温度範囲に冷却した後、巻き取る段階と、
前記巻き取られた熱延コイルを空冷する段階と、を含む工程から準備される、請求項
1に記載の表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記第3領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を、前記第2領域及び第4領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度よりも遅く制御する、請求項
1に記載の表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度は5mpm~50mpmであり、前記第1領域及び第5領域の平均酸洗槽通過速度は5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度]×1/2~5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度]×2、並びに、前記第2領域及び第4領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度は5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度/2]×1/2~5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度/2]×2に制御する、請求項
1に記載の表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
【請求項6】
熱延コイルを長さ方向にn個の領域に分割したとき、前記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さが最も厚い領域である第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を5mpm~50mpmとし、t≦(n/2)の場合には、各領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を下記関係式2により制御し、t>(n/2)の場合には、各領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を下記関係式3により制御する、請求項
1に記載の表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
[関係式2]
t番目の領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度=n×[(第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度/t]×1/2~n×[(第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度)/t]×2
[関係式3]
t番目の領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度=n×[(第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度/(n-t+1)]×1/2~n×[(第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度)/(n-t+1)]×2
[但し、関係式2-3において、nは
2以上の奇数である自然数であり、t番目とは、熱延コイルの長さ方向に分割されたそれぞれの領域に対応するように順次に付与された次数をいう。]
【請求項7】
前記酸洗槽の酸洗溶液中の塩酸の濃度は5~25%である、請求項
1に記載の表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記酸洗槽の酸洗溶液の温度が70℃~90℃の範囲である、請求項
1に記載の表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記酸洗後、鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが1~10μmであり、且つ、前記酸洗鋼板の長さ方向における前記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が2μm以下である、請求項
1に記載の表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法。
【請求項10】
重量%で、炭素(C):0.05%以上0.4%未満、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、ボロン(B):0.01%以下、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち一つ以上:0.1~2.5%を含み、残部鉄(Fe)及び不可避不純物からなる熱延コイルを準備する段階と、前記熱延コイルを酸洗槽に浸漬して通過させることにより表層部の内部酸化層及び/又は脱炭層を除去する段階と、前記内部酸化層及び/又は脱炭層が除去された熱延鋼板を冷間圧延する段階と、を含む冷延鋼板の製造方法であって、
前記熱延コイルを長さ方向に第1領域、第2領域、第3領域、第4領域及び第5領域に分割したとき、前記第2領域、第3領域及び第4領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を、前記第1領域及び第5領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度よりも遅く制御する、表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記熱延コイルは、下記関係式1を満たす、請求項
10に記載の表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
[関係式1]
C(%)+Si(%)/6+Mn(%)/20+Cr(%)/20+2×P(%)+4×S(%)<0.5
【請求項12】
前記熱延コイルは、
鋼スラブを1050~1350℃の温度範囲で再加熱した後、粗圧延し、次いで、粗圧延された鋼スラブを800~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階と、
前記仕上げ熱間圧延された熱延鋼板を10~1000℃/sの冷却速度で500~750℃の温度範囲に冷却した後、巻き取る段階と、
前記巻き取られた熱延コイルを空冷する段階と、を含む工程から準備される、請求項
10に記載の表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記第3領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を、前記第2領域及び第4領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度よりも遅く制御する、請求項
10に記載の表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度は5mpm~50mpmであり、前記第1領域及び第5領域の平均酸洗槽通過速度は5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度]×1/2~5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度]×2、並びに、前記第2領域及び第4領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度は5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度/2]×1/2~5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度/2]×2に制御する、請求項
10に記載の表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項15】
熱延コイルを長さ方向にn個の領域に分割したとき、前記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さが最も厚い領域である第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を5mpm~50mpmとし、t≦(n/2)の場合には、各領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を下記関係式2により制御し、t>(n/2)の場合には、各領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を下記関係式3により制御する、請求項
10に記載の表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
[関係式2]
t番目の領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度=n×[(第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度/t]×1/2~n×[(第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度)/t]×2
[関係式3]
t番目の領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度=n×[(第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度/(n-t+1)]×1/2~n×[(第(
(n
+1)/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度)/(n-t+1)]×2
[但し、関係式2-3において、nは
2以上の奇数である自然数であり、t番目とは、熱延コイルの長さ方向に分割されたそれぞれの領域に対応するように順次に付与された次数をいう。]
【請求項16】
前記冷間圧延時に冷間圧下率を10~80%の範囲に管理する、請求項
10に記載の表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記酸洗後、熱延鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが1~10μmであり、且つ、前記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が2μm以下である、請求項
10に記載の表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項18】
前記冷間圧延後、鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが1×[1-冷間圧下比]μm~10×[1-冷間圧下比]μmであり、冷延鋼板の長さ方向における前記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が2μm以下である、請求項
10に記載の表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面品質に優れた鋼板及びその製造方法に関するものであって、より詳細には、鋼板の長さ方向に内部酸化層及び脱炭層の厚さ偏差が小さい表面品質に優れた酸洗鋼板、冷延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼の場合、表面品質を向上させるために製造段階で表層酸化物や脱炭層の形成を抑制したり、生成された表層酸化物や脱炭層を除去するために熱処理あるいは特別な装置を用いる等の次のような特許文献が知られている。
【0003】
特許文献1では、炭素鋼の熱間加工時に発生する脱炭を防止するために炭素を含有する脱炭防止剤を塗布する技術を提示しているが、これは、加熱段階における脱炭を防止することはできるものの、熱間圧延後の巻取りの際に発生する脱炭の問題を解決する上では好ましくない。
【0004】
特許文献2及び3では、鋼材の表面に生成されたスケールを除去するために、硫酸を主成分とする添加剤を投入して酸洗処理能力を向上させる技術を提示しているが、コイルの長さ方向に内部酸化層等を均一に制御する技術とは差がある。
【0005】
特許文献4及び5では、鋼材の表面に生成されたスケールを効果的に除去するために、脱炭性還元雰囲気での熱処理あるいは誘導加熱を用いるスケール除去の技術を提示しているが、更なる装置の製作及び使用に対するコストがかかり、これもコイルの長さ方向に内部酸化層等を均一に制御する技術とは差がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本特許公開1993-123739号
【文献】日本特許公開1998-072686号
【文献】日本特許公開2004-331994号
【文献】日本特許公開1995-070635号
【文献】韓国登録特許10-1428311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面によると、表面品質に優れた鋼板及びその製造方法を提供する。
【0008】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全般的な内容から本発明の更なる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一実施形態において、重量%で、炭素(C):0.05%以上0.4%未満、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、ボロン(B):0.01%以下、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち一つ以上:0.1~2.5%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが1~10μmであり、且つ、鋼板の長さ方向における上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が2μm以下である、表面品質に優れた酸洗鋼板に関するものである。
【0010】
本発明の他の実施形態において、重量%で、炭素(C):0.05%以上0.4%未満、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、ボロン(B):0.01%以下、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち一つ以上を0.1~2.5%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが1×[1-冷間圧下率(%)]μm~10×[1-冷間圧下率(%)]μmであり、鋼板の長さ方向における上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が2μm以下である、表面品質に優れた冷延鋼板に関するものである。
【0011】
また、本発明の酸洗鋼板及び冷延鋼板は、下記関係式1を満たすことができる。
【0012】
[関係式1]
C(%)+Si(%)/6+Mn(%)/20+Cr(%)/20+2×P(%)+4×S(%)<0.5
【0013】
本発明は、さらに他の実施形態において、重量%で、炭素(C):0.05%以上0.4%未満、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、ボロン(B):0.01%以下、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち一つ以上を0.1~2.5%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物を含む熱延コイルを準備する段階と、上記熱延コイルを酸洗槽に浸漬して通過させることにより表層部の内部酸化層及び/又は脱炭層を除去する段階と、を含む酸洗鋼板の製造方法であって、上記熱延コイルを長さ方向に第1領域、第2領域、第3領域、第4領域及び第5領域に分割したとき、上記第2領域、第3領域及び第4領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を、上記第1領域及び第5領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度よりも遅く制御することを特徴とする、表面品質に優れた酸洗鋼板の製造方法に関するものである。
【0014】
本発明は、さらに他の実施形態において、重量%で、炭素(C):0.05%以上0.4%未満、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、ボロン(B):0.01%以下、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち一つ以上を0.1~2.5%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物を含む熱延コイルを準備する段階と、上記熱延コイルを酸洗槽に浸漬して通過させることにより表層部の内部酸化層及び/又は脱炭層を除去する段階と、上記内部酸化層及び/又は脱炭層が除去された熱延鋼板を冷間圧延する段階と、を含む冷延鋼板の製造方法であって、上記熱延コイルを長さ方向に第1領域、第2領域、第3領域、第4領域及び第5領域に分割したとき、上記第2領域、第3領域及び第4領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を上記第1領域及び第5領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度よりも遅く制御することを特徴とする、表面品質に優れた冷延鋼板の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成の本発明によると、鋼板の長さ方向に内部酸化層等が均一に形成された表面品質に優れた炭素鋼板及びその製造方法を提供することができる。特に、追加工程や装置等による追加コストを発生させることなく、むしろ従来に比べて酸洗の生産性が向上し、製造コストを低減するという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について説明する。
【0017】
一般的に、通常の再加熱、仕上げ圧延、冷却及び巻取りによって製造される熱延コイルの表層部には、周知のように、内部酸化層及び/又は脱炭層のような内部欠陥層が存在する。上記内部酸化層は、鉄(Fe)より酸素親和度の高いクロム(Cr)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)などの成分が母材内で酸化を引き起こす過程で発生することがある。そして、上記脱炭層は、鋼中の炭素と大気及びスケールの酸素が結合した後、ガスの形態で大気中に排出される過程で発生することがあり、このような内部欠陥層の厚さは、熱延鋼板の成分、熱延鋼板を熱延コイル(HC)として巻き取るときの温度、巻取り後の冷却時間、熱延鋼板の幅及び厚さ、長さなどに応じて異なることがあり、50μm以内であってもよい。
【0018】
一方、このような内部欠陥層は、後行する酸洗工程及び冷間圧延工程にも影響を及ぼし、究極的に最終製造された鋼板の表面特性を低下させる要因となっている。したがって、本発明は、このような内部酸化層などの厚さ偏差を示す熱延コイルを用いて、最適な酸洗条件を提供することにより、表面品質に優れた酸洗鋼板及び冷延鋼板を提供することを特徴とする。
【0019】
以下、本発明の酸洗鋼板及び冷延鋼板について説明する。
【0020】
まず、本発明の酸洗鋼板及び冷延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.05%以上0.4%未満、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、ボロン(B):0.01%以下、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち一つ以上を0.1~2.5%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物を含む鋼板を用いるものであって、以下、これらの鋼の組成成分及び成分範囲の制限理由について説明する。なお、ここで「%」は、特に断らない限り、「重量%」を意味する。
【0021】
・炭素(C):0.05%以上0.4%未満
炭素(C)は、鋼の強度向上に効果的に寄与する元素であるため、本発明では、高炭素鋼板の強度を確保するために一定レベル以上の炭素(C)を含むことができる。また、炭素含量(C)が一定レベル未満である場合、最終部品の所望の強度と硬度及び耐久性を確保することができず、高炭素鋼板の機能を果たすことができないため、本発明では、炭素(C)含量の下限を0.05%に制限することができる。一方、炭素(C)が過剰に添加される場合、強度は向上するのに対し、過剰なセメンタイトの形成により製造過程でクラックが発生したり、表面にも割れを発生させたりして表面品質の低下という問題が発生する可能性があり、溶接性低下の原因となるため、本発明では、炭素(C)含量を0.4%未満に制限することができる。したがって、本発明の炭素(C)含量は、0.05%以上0.4%未満の範囲であってもよい。
【0022】
・シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)
シリコン(Si)は、酸素との親和力が強い元素であるため、多量添加される場合、赤スケールのような表面スケールにより目視で観察される表面傷を誘発することがあるため好ましくない。したがって、本発明では、シリコン(Si)含量の上限を0.5%に制限することができる。但し、シリコン(Si)は脱酸剤として作用するだけでなく、鋼の強度向上にも寄与する元素であるため、本発明ではシリコン(Si)含量の下限から0%を除くことができる。
【0023】
・リン(P):0.05%以下
リン(P)は、結晶粒界に偏析して鋼の靭性低下を誘発する主要元素である。したがって、リン(P)含量を可能な限り低く制御することが好ましい。したがって、リン(P)の含量を0%に制限することが理論上最も有利である。但し、リンPは、製鋼工程中、鋼中に不可避に流入する不純物であり、その含量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される可能性がある。したがって、本発明では、このような点を考慮して、リン(P)含量の上限を0.05%に制限することができる。
【0024】
・硫黄(S):0.03%以下
硫黄(S)は、MnSを形成して析出物の量を増加させ、鋼を脆化させる主要元素である。したがって、硫黄(S)含量を可能な限り低く制御することが好ましい。したがって、硫黄(S)の含量を0%に制限することが理論上最も有利である。但し、硫黄(S)も製鋼工程中、鋼中に不可避に流入する不純物であり、その含量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される可能性がある。したがって、本発明では、このような点を考慮して、硫黄(S)含量の上限を0.03%に制限することができる。
【0025】
・ボロン(B):0.01%以下
ボロン(B)は、オーステナイトからフェライト、パーライト、ベイナイトなどに変態する際、変態速度を遅くする元素であって、冷却による変態制御に容易な元素である。但し、ボロン(B)を過剰に添加する場合、粒界に偏析して強度、延性、靭性等を低下させる原因となる。したがって、本発明のボロン(B)含量は0.01%以下であることが好ましい。
【0026】
・マンガン(Mn)とクロム(Cr)のうち1種以上:0.1%以上2.5%未満
マンガン(Mn)、クロム(Cr)は、鋼の硬化能の形成に寄与する元素であるため、本発明は、このような効果を達成するためにマンガン(Mn)及びクロム(Cr)を含むことができる。但し、高価な元素であるマンガン(Mn)及びクロム(Cr)の過剰な添加は、経済的な観点から好ましくなく、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)が過剰に添加される場合、溶接性を低下させる可能性があるため、本発明のマンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち1種以上の含量は0.1%以上2.5%未満の範囲であってもよい。
【0027】
・[関係式1]
本発明の酸洗鋼板及び冷延鋼板は、下記関係式1を満たすようにC、Si、Mn、Cr、P及びSを含有することが好ましい。本発明において、下記関係式1を規定した理由は、当該元素が溶接性を低下させる原因となるためである。仮に、下記関係式1で定義される成分元素の含量の和が0.5以上であると、溶接性が低下して溶接部の周囲に割れを発生させるという問題がある。
【0028】
[関係式1]
C(%)+Si(%)/6+Mn(%)/20+Cr(%)/20+2×P(%)+4×S(%)<0.5
【0029】
本発明は、上述した鋼の組成のほかに、残りはFe及び不可避不純物を含むことができる。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で意図せずに混入し得るものであって、これを全面的に排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野における技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。また、本発明は、前述した鋼の組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0030】
本発明の酸洗鋼板において、鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さは1~10μmの範囲であることが要求される。仮に、上記厚さが1μm未満であると、内部酸化層及び/又は脱炭層が多量に除去されるか、又は全て除去されて制御できないレベルとなる。このようになると、酸洗の生産性が低下するだけでなく、酸洗によって除去される鋼板の消耗量が大きくなるという問題がある。一方、10μmを超えると、表面に残留する内部酸化層及び/又は脱炭層が厚く残るようになり、耐久性などの表面品質を低下させるという問題がある。
【0031】
本発明において、上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さは鋼板の断面を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡(SEM)で測定したものであって、平均厚さは鋼板の長さ方向に5箇所以上を測定してその平均値を求めたものである。すなわち、本発明において、上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さは、鋼板の断面を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡(SEM)で測定したものであり、脱炭層は、ナイタル等の腐食溶液を用いて腐食した断面を測定して母材層と脱炭層を区分し、内部酸化層は、腐食を行わずに断面で直接観察して母材層と内部酸化層を区分する。このとき、内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さは、鋼板の長さ方向に5箇所以上を測定してその平均値を求めたものであり、鋼板の長さ方向に対する測定位置は、コイルを長さ方向に均等に5等分以上としたとき、それぞれの区域における1個以上のサンプルを採取して測定したものである。また、標準偏差は、上記で測定した鋼板の長さ方向における5箇所以上のデータに対する標準偏差の値を求めたものである。
【0032】
一方、本発明の冷延鋼板は、鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが1×[1-冷間圧下率(%)]μm~10×[1-冷間圧下率(%)]μmの範囲を満たす。すなわち、冷間圧延時の圧下率に応じて鋼板表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さも減少するようになる。好ましくは、上記冷延鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さを0.2~8μmの範囲に管理することである。
【0033】
また、本発明の酸洗鋼板及び冷延鋼板は、鋼板の長さ方向における上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が2μm以内を満たす。仮に、上記厚さの標準偏差が2μmを超えると、位置別に表面品質の偏差が発生し、酸洗によって除去される量の偏差が発生して、酸洗によって除去される鋼板の消耗量が大きくなったり、十分に除去されず、表面品質を低下させるという問題がある。より好ましくは、上記厚さの標準偏差を1.6μm以下に制限することである。
【0034】
次に、本発明の表面品質に優れた酸洗鋼板及び冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0035】
まず、本発明では、熱延コイルを準備する。
【0036】
そして、重量%で、炭素(C):0.05%以上0.4%未満、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下、ボロン(B):0.01%以下、マンガン(Mn)、クロム(Cr)のうち一つ以上を0.1~2.5%、残部鉄(Fe)及び不可避不純物を含む鋼板を用いる。
【0037】
また、本発明は、上記熱延コイルを製造する具体的な製造工程に制限されず、一般的な製造工程を用いることができる。具体的には、前述した鋼の組成で備えられるスラブを再加熱する段階と、上記再加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階と、上記熱間圧延された熱延鋼板を冷却する段階と、上記冷却された熱延鋼板を巻き取る段階と、上記巻き取られたコイルを冷却する段階と、を含む一般的な熱延コイルの製造工程を用いることができる。
【0038】
その一例として、次のような製造工程を用いて熱延コイルを製造することができる。
【0039】
スラブ再加熱及び熱間圧延
通常のスラブ製造工程によって製造されたスラブは、一定の温度範囲で再加熱されてもよい。十分な均質化処理のために再加熱温度の下限を1050℃に制限することができ、経済性及び表面品質を考慮して再加熱温度の上限を1350℃に制限することができる。
【0040】
次いで、再加熱されたスラブは、通常の方法で粗圧延され、粗圧延された鋼スラブは仕上げ熱間圧延によって1.5mm~10mmの厚さに圧延されてもよい。本発明では、熱間圧延が通常の条件によって行われてもよいが、圧延荷重の制御及び表面スケールの低減のための仕上げ圧延温度は800~950℃の範囲であってもよい。
【0041】
冷却及び巻取り
熱間圧延直後の熱延鋼板に対して制御冷却を行うことができる。
本発明では、熱延鋼板の表面品質を厳格に制御しようとするため、本発明の冷却は5秒以内に開始されることが好ましい。熱間圧延後、冷却開始時点までの時間が5秒を超える場合、大気中における空冷により、本発明が意図しない内部酸化層及び/又は脱炭層が鋼板の表層部に形成されることがある。熱間圧延後、冷却開始時点までのより好ましい時間は3秒以内であってもよい。
【0042】
また、熱間圧延直後の熱延鋼板は、10~1000℃/sの冷却速度で500℃以上750℃以下の巻取り温度まで冷却されてもよい。冷却速度が10℃/s未満である場合、冷却中に内部酸化層及び/又は脱炭層が鋼板の表層部に形成されることがあるため、本発明が目的とする表面品質を確保できないという問題点が存在する。本発明では、目的の表面品質を確保するために冷却速度の上限を特に限定しないが、設備の限界及び経済性を考慮して、冷却速度の上限を1000℃/sに制限することができる。また、巻取り温度が500℃未満である場合、ベイナイトやマルテンサイトのような低温変態組織が形成され、鋼板の割れが発生する可能性がある。また、750℃を超える場合には、過度に多量の内部酸化層及び/又は脱炭層が鋼板の表層部に形成される可能性があるため、本発明が目的とする表面品質を確保できないという問題点が存在する。
【0043】
巻き取られたコイルの冷却
巻き取られたコイルは空気中で冷却されるが、このとき、高炭素熱延鋼板は表層に形成されたスケール層だけでなく、表面直下に酸化物及び/又は脱炭層がさらに形成される。このような表層直下に形成される酸化物及び/又は脱炭層は、熱延鋼板の長さ方向に先尾端部と中心部の深さが異なって形成される。これは、熱延コイルが巻き取られた状態で冷却するとき、先尾端部と中心部の温度が異なるためである。これらの先尾端部と中央部の表面直下の酸化物及び脱炭層は、それぞれ0~5μm、3~20μmの深さであってもよい。
【0044】
以上の製造方法により製造された熱延鋼板を、表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが2~20μmのレベルで形成することができる。
【0045】
そして、本発明では、上記熱延コイルを酸洗槽の酸洗溶液に浸漬して通過させることにより表層部の内部酸化層及び/又は脱炭層を除去する。
【0046】
このとき、本発明では、上記熱延コイルを長さ方向に第1領域、第2領域、第3領域、第4領域及び第5領域に分割したとき、上記第2領域、第3領域及び第4領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を、上記第1領域及び第5領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度よりも遅く制御する。また、上記第3領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を、上記第2領域及び第4領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度よりも遅く制御することが好ましい。このようにすることで、熱延コイルに形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の長さ別の厚さ偏差にもかかわらず、酸洗処理によって長さ方向における厚さ偏差が低減された酸洗鋼板を得ることができる。本発明において、上記第3領域の内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さが最も厚く、上記分割は等分割であってもよい。
【0047】
より好ましくは、上記第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度は5mpm~50mpmであり、上記第1領域及び第5領域の平均酸洗槽通過速度は5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度]×1/2~5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度]×2であり、上記第2領域及び第4領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度は5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度/2]×1/2~5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度/2]×2に制御するものである。
【0048】
上記第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度は、表面直下の酸化物及び脱炭層を効果的に除去するために50mpm以下の速度を維持する必要がある。一方、上記通過速度が低すぎると、過酸洗となることで酸洗により除去される鋼板の量が多くなり、酸洗速度が遅く生産性が低下するため、5mpm以上の速度に制御することが好ましい。
【0049】
上記第1領域と第5領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度は、上記第3領域より速い速度に制御することができるが、その速度は、第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度を基準に5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度]×1/2~5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度]×2に制御する必要がある。この場合も、表面直下の酸化物及び脱炭層を効果的に除去し、生産性を低下させない範囲に制御することが好ましい。
【0050】
上記第2領域及び第4領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度も同様に、上記第3領域より速い速度に制御することができるが、その速度は、第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度を基準に5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度/2]×1/2~5×[第3領域の熱延コイルの酸洗槽通過速度/2]×2に制御する必要がある。この場合も、表面直下の酸化物及び脱炭層を効果的に除去し、生産性を低下させない範囲に制御することが好ましい。
【0051】
また、本発明では、熱延コイルを長さ方向にn個の領域に分割したとき、上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さが最も厚い領域である第(n/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を5mpm~50mpmとし、t≦(n/2)の場合には、各領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を下記関係式2により制御し、t>(n/2)の場合には、各領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度を下記関係式3により制御することがさらに好ましい。
【0052】
[関係式2]
t番目の領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度=n×[(第(n/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度/t]×1/2~n×[(第(n/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度)/t]×2
【0053】
[関係式3]
t番目の領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度=n×[(第(n/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度/(n-t+1)]×1/2~n×[(第(n/2)領域に該当する熱延コイルの酸洗槽通過速度)/(n-t+1)]×2
[但し、関係式2-3において、nは自然数であり、t番目とは、熱延コイルの長さ方向に分割されたそれぞれの領域に対応するように順次に付与された次数をいう。]
【0054】
一方、本発明の酸洗工程では、前述した酸洗速度だけでなく、酸洗槽の酸洗溶液の酸濃度及び温度を制御して表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層を効率的に除去することができる。
【0055】
具体的には、酸洗溶液中の塩酸の濃度は5~25%であってもよい。塩酸の濃度が5%未満である場合、酸洗能が低下するという問題があり、25%を超える場合、塩酸の濃度が高く過酸洗となったり、コストが増加したりする問題がある。
【0056】
酸洗溶液の温度は70℃~90℃であってもよい。酸の温度が70℃未満である場合、酸洗能が低下するという問題があり、90℃以上である場合、過酸洗となったり、蒸発による消耗量が多くなったりする問題がある。
【0057】
上記のような酸洗処理によって、その表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが1~10μmであり、且つ、長さ方向における上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が2μm以下、より好ましくは、1.6μm以下である表面品質に優れた高炭素酸洗鋼板を提供することができる。
【0058】
続いて、本発明では、上記酸洗された鋼板を冷延圧延することにより冷延鋼板を製造することができる。
【0059】
上記冷間圧延の圧下率は、最終製品の強度及び厚さの要件に応じて10%~80%で冷間圧延することができる。このように冷間圧延する場合、酸洗鋼板の表面直下の酸化層及び脱炭層の平均厚さは、圧下率に比例して減少するようになる。すなわち、冷延鋼板の内部酸化層及び脱炭層の厚さは、[酸洗鋼板の内部酸化層及び脱炭層の厚さ]×冷間圧下率(%)/100とすることができる。
【0060】
したがって、本発明の冷延鋼板は、鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが1×[1-冷間圧下率(%)]μm~10×[1-冷間圧下率(%)]μmを満たすことができる。
【0061】
好ましくは、上記冷延鋼板の表層部に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さが0.2~8μmの範囲を満たすことである。
【0062】
一方、冷延鋼板の長さ方向における上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差は、前述した酸洗鋼板と同様に2μm以下、より好ましくは1.6μm以下を維持することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。下記の実施例は、本発明の理解のためのものであり、本発明の権利範囲を特定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定される。
【0064】
(実施例)
下記表1の組成を有する熱延コイルを製造した後、下記表2の条件を用いて酸洗鋼板及び冷延鋼板を製造した。それぞれの熱延コイルは、通常の製造方法を用いて製造された。すなわち、下記表1の組成を有する鋼スラブを1050~1350℃の温度範囲で再加熱した後、粗圧延し、次いで、粗圧延された鋼スラブを800~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延した。その後、上記仕上げ熱間圧延された熱延鋼板を10~1000℃/sの冷却速度で500~750℃の温度範囲に冷却した後、巻き取り、次いで、巻き取られた熱延コイルを空冷することにより製造した。
【0065】
そして、上記製造されたそれぞれの熱延コイルを下記表2の条件で酸洗槽に浸漬して酸洗することにより、その表面に形成された内部酸化層及び/又は脱炭層を除去して酸洗鋼板を製造した。具体的には、上記製造されたそれぞれの熱延コイルを長さ方向に第1領域、第2領域、第3領域、第4領域及び第5領域に5等分したとき、その各領域に対する熱延コイルが酸洗槽を通過する速度を下記表2のように制御して酸洗鋼板を製造した。
【0066】
その後、上記酸洗槽から排出され、その表面の内部酸化層及び/又は脱炭層が除去された酸洗鋼板の内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さ(μm)を、酸洗前の熱延コイルの内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さ(μm)と比べて測定し、その結果を下記表3に示した。このとき、上記酸洗鋼板の長さ方向における内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差(μm)をさらに測定して下記表3に示した。
【0067】
一方、本発明では、上記製造された酸洗鋼板を、下記表2の条件で冷間圧延することにより冷延鋼板をさらに製造した。そして、製造されたそれぞれの冷延鋼板の内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さ(μm)を酸洗前の熱延コイルの内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さ(μm)と比べて測定し、その結果を下記表3に示した。このとき、上記冷延鋼板の長さ方向における内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差(μm)をさらに測定して下記表3に示した。
【0068】
ここで、上記内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さ(μm)及び標準偏差(μm)を測定する具体的な方法は以下の通りである。まず、上記内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さは、鋼板の断面を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡(SEM)で測定したものであり、脱炭層は、ナイタル等の腐食溶液を用いて腐食した断面を測定して母材層と脱炭層とを区分し、内部酸化層は、腐食を行わずに断面で直接観察して母材層と内部酸化層とを区分する。このとき、内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さは、鋼板の長さ方向における5箇所以上を測定してその平均値を求めたものであり、鋼板の長さ方向に対する測定位置は、コイルを長さ方向に均等に5等分以上としたとき、それぞれの区域における1個以上のサンプルを採取して測定したものである。また、標準偏差は、上記で測定した鋼板の長さ方向における5箇所以上のデータに対する標準偏差の値を求めたものである。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
上記表1-3に示すように、本発明の合金組成及び製造条件を全て満たす発明例1~発明例11の場合、熱延鋼板の内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さ、酸洗鋼板の内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さ、酸洗鋼板の長さ方向における内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差、冷延鋼板の内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さ、冷延鋼板の長さ方向における内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が全て要求する範囲を満たしていることが確認できる。
【0073】
これに対し、酸洗槽通過速度が均一に制御された比較例1-2の酸洗鋼板及び冷延鋼板の内部酸化層及び/又は脱炭層の平均厚さは、所望のレベルと評価されたが、酸洗鋼板及び冷延鋼板の長さ方向における内部酸化層及び/又は脱炭層の厚さの標準偏差が高すぎて、均一な表面品質を確保できないことが分かる。
【0074】
また、比較例3-4は、関係式1で定義する溶接性指数の値が過度であり、溶接性が低下することが確認できる。
【0075】
一方、酸洗槽通過速度を過度に低い速度で一定に制御する従来例は、酸洗処理において一般的に行われている過酸洗操業を示す場合であって、酸洗槽をゆっくり通過した酸洗鋼板又は冷延鋼板の内部酸化/脱炭層が全て除去されることが分かる。しかし、本従来方法は、酸洗鋼板又は冷延鋼板の内部酸化/脱炭層が全て除去されることによって製品の表面欠陥の問題はないものの、酸洗作業の時間が非常に長くなるという問題があり、非効率的かつ非経済的であるという基本的な問題がある。
【0076】
以上のように、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは、当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。