(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】接合基板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
H01L21/02 B
(21)【出願番号】P 2022553932
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035265
(87)【国際公開番号】W WO2022071184
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2020164933
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楢原 賢英
(72)【発明者】
【氏名】梶原 光広
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/163461(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/159555(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/044579(WO,A1)
【文献】特開2018-201022(JP,A)
【文献】特開2020-078047(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶で形成された支持基板、
タンタル酸リチウムの単結晶またはニオブ酸リチウムの単結晶で形成された圧電基板、および
前記支持基板と前記圧電基板とを接合するための接合層、
を含み、
前記接合層が、シリコンと前記圧電基板の構成元素とを主成分として含み、炭素を含むアモルファス層であ
る、接合基板の製造方法であって、
前記支持基板の表面および前記圧電基板の表面を、遮蔽板を間に介在させずに直接対向させて、炭素を含むターゲットとともにFab照射して活性化処理を行なった後、前記支持基板および前記圧電基板を接合することによって前記接合層を形成する、
接合基板の製造方法。
【請求項2】
前記接合層は、前記支持基板側に位置し、シリコンを主成分として炭素を含む第1接合層を含む、請求項1に記載の接合基板の製造方法。
【請求項3】
前記支持基板と前記接合層との接合界面に、Si-C結合が存在する、請求項1または2に記載の接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記炭素が、前記接合層中に1atm%以上10atm%以下の割合で含まれる請求項1~3のいずれかに記載の接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
表面弾性波素子(SAW素子)は、例えば、タンタル酸リチウム(LT)やニオブ酸リチウム(LN)のような圧電基板と、シリコンのような支持基板とを接合した接合基板を利用して作製される。このような接合基板は、例えば、特許文献1および2に記載のように、接合面に中間膜が使用される。
【0003】
接合基板の接合強度が低いと、加工、熱処理などの処理時に剥離することがある。例えば、接合基板が高温環境下に曝されると、圧電基板と支持基板との熱膨張差によって、圧電基板と支持基板とが剥離する可能性が高くなる。圧電基板と支持基板との剥離を抑制するために、接合基板には、高い接合強度が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3774782号公報
【文献】特許第6621561号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る接合基板は、シリコン単結晶で形成された支持基板、タンタル酸リチウムの単結晶またはニオブ酸リチウムの単結晶で形成された圧電基板、および支持基板と圧電基板とを接合するための接合層を含む。接合層は、シリコンと圧電基板の構成元素とを主成分として含み、炭素を含むアモルファス接合層である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係る接合基板を模式的に示す断面図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る接合基板において、支持基板と接合層との接合界面をX線光電子分光(XPS)によって定性分析した結果を示すグラフである。
【
図4】本開示の一実施形態に係る接合基板において、支持基板と接合層との接合界面をXPSによって状態分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
従来の接合強度が低い接合基板は、上記のように、加工や熱処理の際に圧電基板と支持基板とが剥離する可能性が高くなる。そのため、圧電基板と支持基板とが強固に接合された接合基板が求められている。
【0008】
本開示に係る接合基板は、支持基板と圧電基板とを接合するための接合層が、シリコンと圧電基板の構成元素とを主成分として含み、炭素を含むアモルファス接合層である。したがって、本開示によれば、圧電基板と支持基板とが強固に接合された接合基板を提供することができる。
【0009】
以下、本開示に係る接合基板を、図面に基づいて説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る接合基板を模式的に示す断面図である。
【0010】
図1に示す一実施形態に係る接合基板1は、シリコンの単結晶で形成された支持基板2と、タンタル酸リチウム(LT)の単結晶またはニオブ酸リチウム(LN)の単結晶で形成された圧電基板3とが、支持基板2と圧電基板3との間に形成された接合層4を介して接合された構造を有する。
【0011】
支持基板2はシリコン単結晶で形成されており、接合基板1において圧電基板3を支持するために使用される。支持基板2の熱膨張係数は、圧電基板3の熱膨張係数よりも小さい。支持基板2の厚みは限定されず、例えば0.1mm以上1.0mm以下である。
【0012】
圧電基板3は、後述する接合層4を介して支持基板2の表面に設けられる。圧電基板3は、支持基板2によって支持される圧電材料膜である。圧電基板3は、タンタル酸リチウムの単結晶またはニオブ酸リチウムの単結晶で形成されている。圧電基板3は、例えば、研削および研磨によって2μm以上50μm以下程度の厚みに加工された薄膜状を有する。圧電基板3は、単一分極となっているとよい。
【0013】
接合層4は、支持基板2と圧電基板3とを接合している。接合層4は、支持基板2の構成元素であるシリコンと圧電基板3の構成元素(リチウム、タンタル、ニオブおよび酸素)とを主成分として含み、炭素を含むアモルファス接合層である。「主成分」とは、接合層4中に対象元素が50atm%以上の割合で含まれていることを意味する(以下、接合層4の元素比率は、特に記載がなければ原子比(atm%)を示す)。接合層4は、支持基板2側に位置し、シリコンを主成分とする第1接合層と、圧電基板3側に位置し、圧電基板3の構成元素を主成分とする第2接合層とからなる。接合層4および第1接合層と第2接合層の存在は、断面TEM(透過電子顕微鏡)像で確認できる。主成分元素の組成はエネルギー分散型X線分析(EDS)で確認できる。接合層4にはシリコン、圧電基板3の構成元素、炭素に加えて、接合のための活性化処理で照射された元素(例えばAr)が含まれていてもよい。第1接合層中にシリコンは、例えば50%以上99%以下程度の割合で含まれているのがよい。接合層4の厚みは限定されず、例えば、1nm以上50nm以下程度であるのがよい。
【0014】
接合層4、すなわち第1接合層および第2接合層には、例えば、炭素が1%以上10%以下の割合で含まれているのがよい。接合層4に炭素がこのような割合で含まれていることによって、支持基板2と圧電基板3とがより強固に接合される。炭素の有無については、例えば、X線光電子分光(XPS)によって分析することができる。
【0015】
支持基板2と接合層4との接合界面には、Si-C結合が存在していてもよい。Si-C結合の原子間距離(1.88Å)は、Si-Si結合の原子間距離(2.35Å)よりもタンタル酸リチウムのTa-O結合の原子間距離(1.89Åまたは2.08Å)およびニオブ酸リチウムのNb-Oの原子間距離(1.92Åまたは2.06Å)に近い。そのため、圧電基板3と接合層4との接合界面で結晶欠陥が発生しにくくなり、支持基板2と圧電基板3との接合強度がより向上する。
【0016】
支持基板2と接合層4との接合界面にSi-C結合が存在しているか否かについては、例えば、上記のXPSによって分析することができる。XPSによって、支持基板2と接合層4との接合界面の状態を分析し、Si-C結合由来のピークが検出されると、Si-C結合が存在していると認識することができる。
【0017】
このような本開示の一実施形態に係る接合基板1を製造する方法は限定されない。一実施形態に係る接合基板1は、例えば、下記のような方法によって得られる。
【0018】
まず、支持基板2および圧電基板3を準備する。支持基板2は、シリコン単結晶で形成されている。圧電基板3は、タンタル酸リチウムの単結晶またはニオブ酸リチウムの単結晶で形成されている。以下、圧電基板3については、タンタル酸リチウムの単結晶で形成された圧電基板を用いた場合について説明する。
【0019】
シリコン単結晶で形成された基板およびタンタル酸リチウム単結晶で形成された基板は、それぞれの表面に平坦化処理を施していてもよい。例えば、いずれの基板も接合面となる表面の表面粗さを、算術平均粗さRaで1.0nm以下にしておくのがよい。
【0020】
次いで、接合面となる支持基板2の表面と圧電基板3の表面とを、中性粒子(原子または分子)または荷電粒子(イオン、プラズマまたは電子)によって活性化処理を施す。活性化処理方法は限定されず、例えば、高速原子線照射(Fast atom beam、以下、「Fab」と記載する場合がある)ガンを使用して、高速原子線を照射する方法が挙げられる。Fabガンを使用すれば、例えば、高濃度の電気的に中性化されたAr原子線を得ることができる。
【0021】
Fabガンは、例えば、次のように構成されている。板状のアノード電極と2枚のカソード電極とが平行に配置されている。高減圧下で不活性ガス(本実施形態ではAr)を注入し、中央のアノード電極に高電圧を印加してグロー放電させる。プラズマ中の電界分布は、イオンの加速方向が出口側のカソード電極に垂直となるように構成されている。加速されたイオンはカソード電極付近の電子と結合して高速原子線として放出される。
【0022】
そのため、出口のFab放出孔から放出されるFabは直進性に優れたビームとなる。したがって、Fabガンを使用することによって、高減圧下でFab照射が行われる。その結果、基板表面の吸着分子や酸化膜などの不活性な膜が、不活性ガス線(すなわち、Ar中性原子線)で除去され、活性な面を露出させることができる。
【0023】
図2に高速原子線(Fab)照射装置の概略図を示す。本実施形態で使用したFab照射装置(接合装置)は、支持基板2用および圧電基板3用の2台のFabガン5を備える。Fabガン5前面の照射口には、開口部を有する板(開口板)6がそれぞれ配置されている。支持基板2と圧電基板3とは対向して配置され、それぞれがFab照射によって活性化処理される。装置の構成上、Fabは支持基板2および圧電基板3に対して斜めから照射される。
【0024】
ここで、接合装置内に炭素性のターゲットを配置し、ターゲットにもFabを照射するなどして、接合層4に炭素を含有させることができる。接合層4に炭素を含有させる方法としては、このような方法に限定されない。
【0025】
Fab照射を、支持基板2および圧電基板3の両方に行うと、接合強度がより向上する。さらに、接合時の両基板の温度を、照射量(照射エネルギーや照射時間)や照射終了から接合までの時間で調整して、熱膨張量を調整することができる。例えば、支持基板2(シリコン単結晶)よりも熱膨張係数の大きい圧電基板3(タンタル酸リチウム)への照射量を小さくして温度上昇を抑制してもよい。
【0026】
Fabガンによる照射量の調整は、照射面に対するFabの照射角度を調整して行ってもよい。例えば、Fabガンの照射角度が照射面に対して垂直に近いほど照射量は大きくなる。さらに、Fabガンの照射エネルギーで照射量を調整してもよい。照射エネルギーは、Fab照射条件である電流値、加速電圧値、照射時間のうち、特に電流値を調節することにより制御可能である。照射量に必要な照射エネルギーは限定されず、20kJ以上80kJ以下程度であるのがよい。
【0027】
次いで、Fab照射により活性化した後、支持基板2と圧電基板3との貼り合わせを行う。具体的には、Arにより活性化された支持基板2の表面と圧電基板3の表面とを合わせ、加圧して接合させる。表面は活性化されているため、加熱なしでの接合(常温接合)が可能となる。この貼り合わせによって、支持基板2と圧電基板3との間に、接合層4が形成される。接合時の圧力は、0.5kN以上20kN以下程度であるのがよい。
【0028】
次いで、圧電基板3に研削処理および研磨処理を施し、所望の厚み(例えば、2μm以上50μm以下程度)となるように薄膜化する。その後、必要に応じて熱処理に供して、接合基板1が得られる。
【0029】
具体的に、シリコン単結晶で形成された基板(直径100mm)およびタンタル酸リチウム単結晶で形成された基板(直径100mm)を用いて、下記の手順によって、一実施形態に係る接合基板1を得た。
【0030】
まず、シリコン単結晶で形成された基板(支持基板2)の表面およびタンタル酸リチウム単結晶で形成された基板(圧電基板3)の表面の算術平均粗さRaが1.0nm以下となるように、平坦化処理を施した。次いで、
図2に示すように、2台のFabガン5と炭素含有の開口板6とを用いて、シリコン単結晶で形成された基板の表面およびタンタル酸リチウム単結晶で形成された基板の表面に活性化処理を施した。Fabガン5の照射エネルギーは、いずれも30kJ程度とした。
【0031】
次いで、それぞれの基板の活性化処理を施した表面同士を合わせて、5kN程度の力で加圧して、シリコン単結晶で形成された基板とタンタル酸リチウム単結晶で形成された基板との間に接合層4(厚み5nm程度)を形成した。その後、タンタル酸リチウム単結晶で形成された基板の厚みが15μm程度となるように、研削処理および研磨処理を施して熱処理を行った。このようにして、一実施形態に係る厚さ245μmの接合基板1を得た。
【0032】
得られた一実施形態に係る接合基板1について、第1接合層をXPSによって分析した。定性分析結果を
図3に示し、状態分析結果を
図4に示す。
【0033】
図3に示す定性分析結果から、炭素に由来するピーク(C1s)が存在していることがわかる。この炭素は、開口板6に由来する炭素と考えられる。この定性分析では、炭素の検出限界が1%程度である。したがって、炭素のピークが存在している点で、支持基板2と接合層4との接合界面に、炭素が1%以上の割合で含まれていることがわかる。
図3のグラフおよび後述の
図4のグラフに記載の「Fab非照射」は、Fab照射による活性化処理を施していないシリコン単結晶基板の表面の定性分析結果を示す。
【0034】
さらに、支持基板2と接合層4との接合界面を、炭素の検出限界が10%程度であるラザフォード後方散乱分光法(RBS)および核反応分析法(NRA)によって分析すると、炭素は検出されなかった。したがって、一実施形態に係る接合基板1において、接合層4に含まれる炭素の割合は、1%以上10%以下程度であることがわかる。
【0035】
次に、
図4に示す状態分析結果から、Si-C結合に由来するピークが存在していることがわかる。したがって、支持基板2と接合層4との接合界面には、Si-C結合が存在していることがわかる。
【0036】
圧電基板3として、タンタル酸リチウム単結晶で形成された基板の代わりに、ニオブ酸リチウムを使用した接合基板においても、具体的には示していないが、同様の挙動を示した。
【符号の説明】
【0037】
1 接合基板
2 支持基板
3 圧電基板
4 接合層
5 Fabガン
6 開口部を有する板(開口板)