(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】麺類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20240926BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/109 B
A23L7/109 F
A23L7/109 G
(21)【出願番号】P 2023196618
(22)【出願日】2023-11-20
【審査請求日】2024-01-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593020108
【氏名又は名称】エースコック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【氏名又は名称】福島 芳隆
(74)【代理人】
【識別番号】100121005
【氏名又は名称】幸 芳
(72)【発明者】
【氏名】香山 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】上野 倫睦
(72)【発明者】
【氏名】木下 靖介
(72)【発明者】
【氏名】東田 潤
(72)【発明者】
【氏名】藤川 真奈
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 智幸
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1376993(KR,B1)
【文献】特開2000-245375(JP,A)
【文献】特開2003-289818(JP,A)
【文献】特開2005-318832(JP,A)
【文献】特開2019-136001(JP,A)
【文献】特開2016-077196(JP,A)
【文献】特開2010-187548(JP,A)
【文献】特開2016-182059(JP,A)
【文献】特開2009-112288(JP,A)
【文献】特開2020-178623(JP,A)
【文献】特開2001-128631(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107668515(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109363082(CN,A)
【文献】特開2011-115090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を備える、麺類の製造方法であって、
前記原料混合工程の原料が、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉
(ただし、前記でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉は、小麦粉を除く。)、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含有し、
前記原料混合工程は、前記原料と水とを混合することによって麺生地を製造する工程であり、
前記麺生地の加水率が、70質量%以上であり、
前記乾燥工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下であ
り、
かつ、
前記α化工程の後に、酸液処理工程を行わないこと、又は、酸液処理工程を行うことを特徴とする、麺類の製造方法。
【請求項2】
前記原料混合工程で得られた麺生地のpHが、6~9.5である、請求項1に記載の麺類の製造方法。
【請求項3】
前記α化工程の後に、酸液処理工程を
行わない、請求項1に記載の麺類の製造方法。
【請求項4】
老化工程を有しないことを特徴とする、請求項1に記載の麺類の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の麺類の製造方法によって得られる、麺類。
【請求項6】
原料混合工程、製麺工程及びα化工程を備える、α化麺類の製造方法であって、
前記原料混合工程の原料が、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉
(ただし、前記でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉は、小麦粉を除く。)、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含有し、
前記原料混合工程は、前記原料と水とを混合することによって麺生地を製造する工程であり、
前記麺生地の加水率が、70質量%以上であり、
前記α化工程で得られたα化麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下であ
り、
かつ、
前記α化工程の後に、酸液処理工程を行わないこと、又は、酸液処理工程を行うことを特徴とする、α化麺類の製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載のα化麺類の製造方法によって得られる、α化麺類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麺類は、日本だけでなく、世界中で好まれている食品の1つである。麺類の種類としては、例えば、小麦粉から作るラーメン、パスタ、うどん、焼きそば、素麺、冷や麦等が代表的な麺類であるが、これら以外にも、小麦以外のそば粉、米粉等の穀粉を主体に作るそば、ビーフン等の穀物麺、更には、でん粉を主体に作る春雨、くずきり等のでん粉麺等、バラエティーに富み、食生活上の重要な食品として位置付けられている。
【0003】
近年、小麦アレルギーが問題となっており、また、グルテンフリーという考えが注目されていることから、小麦粉以外の穀粉を原料とする穀物麺、でん粉を原料とするでん粉麺等に対する需要が高まっている。
一般に、グルテンは、生地を繋げる役割を有しており、生地及び麺線の断裂を防ぐことで製造適正を良好に保っている。また、グルテンは、麺質にも寄与しており、弾力及びコシの付与、茹で溶け防止等の効果がある。
一方、グルテンを有しない麺(グルテンフリー麺)を作製する際には、グルテン以外の繋ぎ成分(糊剤)を添加することによって製造適正を担保する必要がある。さらに、小麦粉以外の穀粉のほとんどは、グルテンを有しないため、ボソボソとした崩壊感のある食感、又は弱々しい食感の麺になりやすい。小麦粉を用いずに、小麦麺のような弾力及びコシのある食感の麺を製造しようとする場合には、原料に麺質改良剤(食感改良剤)を加えることが必要となる。
【0004】
でん粉麺の一種である春雨は、一般的には、でん粉に加水して練った、でん粉スラリーを原料として用い、このでん粉スラリーを底に穴の空いた筒状の容器(とんぴょう)に入れ、容器の底から自然に生地を垂れ下がらせ、沸騰した熱湯中に線状に落下させてα化(糊化)させる製麺工程、得られた麺線を水で冷却する工程、冷却した麺線を竿掛けする工程、竿掛けした麺線を冷凍して老化させる冷凍工程、冷凍した春雨を解かす解凍工程、及び、解凍した春雨を乾燥させる乾燥工程等により製造されている。
【0005】
上記工程の中で、冷凍工程及び解凍工程が、春雨の食感及びほぐれ性に大きく寄与しているが、前記冷凍工程は、春雨を一定期間冷凍庫の中で保存する必要があることから、製造時間が長く、トータルランニングコストが高いという問題があった。
そこで、春雨を簡便に製造できる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0006】
例えば、特許文献1には、でん粉、セルロースエーテル及び水を含む混合物から春雨を製造することで、冷凍工程及び解凍工程を経ることなく、従来の春雨と類似した食感が得られることが記載されている。
しかしながら、本発明者らが、この特許文献1に記載の製法に沿って、春雨用生地にセルロースエーテルを含ませて春雨の試作検討を行ったところ、得られた春雨は、喫食時(湯戻し後)のほぐれ性が悪く、一般にいう春雨と類似する食感は得られなかった。
【0007】
また、特許文献2には、麺線のα化処理と酸液処理を経て製造された麺類において、該麺類が、原料粉及びアルギン酸類を含む製麺原料から得られた麺類であり、かつ該原料粉が、実質的にグルテンを含まない穀粉及び/又はでん粉を主原料として含む麺類が記載されている。さらに、特許文献2には、小麦粉以外の穀粉及び/又はでん粉を主原料とした原料粉を含む製麺原料であっても、茹で処理時の麺線の茹で溶けが少なく、かつ良好な食味及び食感を呈する麺類が得られることが記載されている。
特許文献2の請求項4等には、アルギン酸類が、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸エステル、及びこれらの混合物からなるグループから選択されることが記載されているが、実施例で実際に使用されたのはアルギン酸のみであり、アルギン酸エステルで同様な効果があることは示されていない。さらに、特許文献2に記載の製造方法では、食感を付与するために、麺線をα化した後に、酸液処理工程が必須であるが、麺に酸味が付与されて食味が低下するという懸念があった。
【0008】
そこで、本発明者らが、特許文献2に記載の製法に従って、でん粉麺を作製したところ、加水率が50~60%と低いために生地が非常に硬く、通常の押出し機では押し出すことができず、パスタマシンのような高圧で生地を押し出せる装置を使用する必要があった。また、得られた麺は、弾力及びコシに優れ、良好な食感であったが、アルギン酸を添加せずに同様に作製した麺も良好な食感であり、アルギン酸の有無で麺の食感に顕著な差は生じなかった。さらに、生地を柔らかくするために加水率を90%まで上げて麺を作製したところ、良好な食感は得られなかった。これにより、特許文献2に記載の製法では、加水率が60%を超える麺については十分な効果が得られないことが示唆された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-103967号公報
【文献】特開2000-245375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アルギン酸エステルを添加した生地において、酸液処理を必要とすることなく、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺類、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが、アルギン酸エステルを添加した生地において、酸液処理を必要とすることなく、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺類を開発すべく鋭意検討した結果、原料がでん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉、アルギン酸エステル、及びアルカリ剤を含み、得られた麺の10%懸濁液のpHを、6.5を超えて9以下とすることにより、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺が得られることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
原料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を備える、麺類の製造方法であって、
前記原料混合工程の原料が、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含有し、
前記乾燥工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、
麺類の製造方法。
項2.
前記原料混合工程で得られた麺生地のpHが、6~9.5である、項1に記載の麺類の製造方法。
項3.
前記原料混合工程は、前記原料と水とを混合することによって麺生地を製造する工程であり、
前記麺生地の加水率が、60質量%以上である、項1に記載の麺類の製造方法。
項4.
前記α化工程の後に、酸液処理工程を行わなくてよい、項1に記載の麺類の製造方法。
項5.
老化工程を有しないことを特徴とする、項1に記載の麺類の製造方法。
項6.
項1~5のいずれか一項に記載の麺類の製造方法によって得られる、麺類。
項7.
原料混合工程、製麺工程及びα化工程を備える、α化麺類の製造方法であって、
前記原料混合工程の原料が、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含有し、
前記α化工程で得られたα化麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、
α化麺類の製造方法。
項8.
項7に記載のα化麺類の製造方法によって得られる、α化麺類。
【0013】
なお、本発明のうち、製造工程で規定された麺は、現時点で、どのような成分までが含まれているか、又は、その構造がどのようなものであるか、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルギン酸エステルを添加した生地において、酸液処理を必要とすることなく、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺類、及びその製造方法を提供することができる。
さらに、付随的な効果として、麺類がでん粉麺である場合には、従来のでん粉麺の製造方法において必須の工程である老化工程(冷蔵工程、冷凍及び解凍工程等)を行わなくても、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.麺類の製造方法
以下、本発明の麺類の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明の麺類の製造方法は、原料混合工程、製麺工程、α化工程、及び、乾燥工程を備え、前記原料混合工程の原料が、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含有し、前記乾燥工程で得られた麺の10%懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である。
なお、製造する麺類がでん粉麺である場合、本発明の麺類の製造方法は、原料としてアルギン酸を使用した場合に必要となる酸液処理工程、並びに、従来のでん粉麺の製造方法において必須の老化工程(冷蔵工程、冷凍及び解凍工程等)を行うことなく、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺を得ることができるが、必要に応じて、酸液処理工程、老化工程等を備えることもできる。
また、製造する麺類が穀物麺である場合、保存性を向上させるために、酸液処理工程を行ってもよい。
【0017】
以下、製造方法の各工程について詳細に説明する。
原料混合工程
原料混合工程とは、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀粉を含む原料と水(以下、「練り水」ということもある。)とを混合する(混練する)ことによって麺生地を製造する工程(練り工程ということもある。)である。
【0018】
<原料>
本発明の麺類の原料(原材料と言い換えてもよい。)は、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀粉、アルギン酸エステル、及びアルカリ剤を含んでいる。
【0019】
麺類の原料は、主原料である原料粉として、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀粉を含む。
【0020】
でん粉
でん粉は、ブドウ糖が結合したアミロースとアミロペクチンという高分子化合物により構成されていて、アミロースはブドウ糖の分子が長い鎖状(あるいはラセン状)に結合した単純な構造をしており、アミロペクチンはブドウ糖の鎖状結合が、網の目のような構造となっており、さらに枝分かれをしている複雑な構造となっている。
結合しているブドウ糖の数は、アミロースが数十から数百個、アミロペクチンでは数百から数十万にもおよぶ。アミロースとアミロペクチンの含有量はでん粉の種類によって異なっており、これが糊化状態での粘り強弱等に現れるなど、それぞれのでん粉の性質の違いとなっている。
【0021】
前記でん粉としては、特に限定はなく、例えば、緑豆でん粉、トウモロコシでん粉(コーンスターチ)、米でん粉、ソラマメでん粉、小豆でん粉、サツマイモでん粉、エンドウでん粉、小麦でん粉、ジャガイモでん粉、タピオカ(キャッサバ)でん粉、葛粉等の生でん粉(未加工でん粉)等が挙げられる。
また、前記でん粉は、原料となる植物の種類に分けることもできる。例えば、地上で取れるでん粉(地上でん粉)と地下で取れるでん粉(地下でん粉)とに分かれる。
地上でん粉としては、例えば、穀類でん粉(米、小麦、トウモロコシ等)、茎幹でん粉、豆類でん粉(緑豆、ソラマメ、小豆、エンドウ等)が挙げられる。
地下でん粉としては、例えば、根茎でん粉(ジャガイモ)、塊根でん粉(サツマイモ、タピオカ、葛等)等が挙げられる。
【0022】
前記でん粉には、前記生でん粉(未加工でん粉)だけでなく、漂白でん粉、加工でん粉等も含まれる。
前記漂白でん粉は、次亜塩素酸塩類をアルカリ性に調整したでん粉懸濁液に添加して処理したでん粉であり、色調が改善されている。
前記加工でん粉は、でん粉が化学的又は物理的に加工処理されたでん粉である。前記加工処理として、例えば、酸処理、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理、油脂加工処理等が挙げられる。
これらのでん粉は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
本発明では、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀粉を特に限定なく原料として使用することができるが、特に、安価なタピオカでん粉、ジャガイモでん粉等を使用して麺を製造することができることが、特徴の1つといえる。
【0023】
以下、タピオカでん粉及びジャガイモでん粉について説明する。
タピオカでん粉は、直鎖分子アミロース16~17%と、枝分かれ分子アミロペクチン83~84%とで構成されている。
また、ジャガイモでん粉は、直鎖分子アミロース20~23%と、枝分かれ分子アミロペクチン77~80%とで構成されている。
ここで、タピオカでん粉、ジャガイモでん粉等は、アミロペクチンを多く含んでおり、粘度又は保水力が高く、老化しにくいという特徴がある。アミロペクチンを多く含むでん粉を使用すると、滑らかでのどごしが良く、ソフトな食感の麺が得られるため、前記タピオカでん粉、ジャガイモでん粉等は、麺類の食感改良剤として用いられることが多い。しかしながら、配合量を多くすると、食感が柔らかくなりすぎる、麺線表面がべたつき、麺線同士が結着しやすくなるためにほぐれ性が悪くなる等の傾向がある。
このように、タピオカでん粉、ジャガイモでん粉等は、弾力及びコシがあり、ほぐれ性が良い麺を作製するためには適していない原料といえる。
本発明は、安価であってコストの点では使用しやすい一方、弾力及びコシのある麺が得られにくい原料(タピオカでん粉、ジャガイモでん粉等)を使用して、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺類が得られたものである。
【0024】
実質的にグルテンを含まない穀粉
本明細書において、前記実質的にグルテンを含まない穀粉は、小麦粉以外の穀粉を意味する。前記実質的にグルテンを含まない穀粉は、例えば、そば粉、トウモロコシ粉(コーン粉)、米粉、大豆粉等を含むが、これらに限定されない。
これらの実質的にグルテンを含まない穀粉は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0025】
前記原料粉は、でん粉のみを含んでいてもよく、実質的にグルテンを含まない穀粉のみを含んでいてもよく、又は、でん粉及び実質的にグルテンを含まない穀粉の両方を含んでいてもよい。
【0026】
緑豆、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ等のでん粉を原料として作られる乾麺として市販されているものには、春雨、葛切り等がある。
【0027】
前記原料粉として、実質的にグルテンを含まない穀粉のみを含む麺には、例えば、フォー、ブン等の米麺等が含まれる。
【0028】
原料粉が、でん粉と実質的にグルテンを含まない穀粉とを含む場合、でん粉と実質的にグルテンを含まない穀粉との質量比は、特に限定されない。でん粉と、実質的にグルテンを含まない穀粉とを、質量比で、通常1:0.01~100、好ましくは1:0.05~50、より好ましくは1:0.04~40で混合することができる。本明細書では、原料粉中にでん粉を50質量%以上含むものは、でん粉麺ということができる。
【0029】
なお、でん粉から得られた麺は、一般に、でん粉麺と言われる。でん粉麺は、一般の小麦粉から得られる麺類とは異なり、タンパク質が少ない。例えば、ラーメン100g中に含まれるタンパク質の量が7.4gであるのに対して、乾燥春雨100g中に含まれるタンパク質の量は0.2gである。でん粉麺は、低タンパク質麺として用いることができる。低タンパク質麺の用途としては、例えば、腎臓病食等が挙げられる。腎臓病は、腎臓の機能が低下する病気であり、主にタンパク質、食塩に制限が必要である。したがって、本発明の麺類は、腎臓への負担を軽減するための食事として用いることができる。腎臓病の悪化を抑制するためには、低タンパク質麺等を用いる食事療法が効果的といえる。
【0030】
そして、でん粉麺は、グルテンフリーの食品である。グルテンフリーとは、グルテンを用いていないことを意味する。具体的にグルテンフリーとは、小麦粉由来の小麦グルテンを用いていないことだけでなく、他の穀物由来のグルテン性タンパク質を含まないことを意味する。その基準値としては、米国食品医薬品局(FDA)が規定している基準として、以下の(1)、(2)のいずれかを満たすものとされている。
(1)以下のいずれも含有していないもの。
グルテン含有穀物である原料(スペルト小麦等)
グルテン含有穀物に由来しグルテン除去処理が施されていない原料(小麦粉等)
グルテン含有穀物に由来しグルテン除去処理が施されている原料で(小麦でん粉等)、食品中のグルテンを1キログラム当たり20ミリグラム以上とする原料
(2)本質的にグルテンを含有しないもの。
これらの定義からわかるように、グルテンフリーとは、まったくグルテンを含まないもののみを指しているものではない。
【0031】
<アルカリ剤>
麺類の原料は、上述した主原料(原料粉)に加えて、アルカリ剤を含んでいる。
アルカリ剤には、通常、一般に使用可能な公知の食品用アルカリ剤を特に限定なく使用することができる。このようなアルカリ剤として、例えば、リン酸塩、炭酸塩等が挙げられる。リン酸塩としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、トリポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられる。
【0032】
アルカリ剤の添加量は、原料粉の種類及びその量、アルカリ剤の種類等に応じて、製品のpHが弱酸性から弱アルカリ性のpH、6.5を超えて9以下になるように調整する。
例えば、原料が生でん粉で、かつ、アルカリ剤がリン酸三ナトリウムの場合には、アルカリ剤の添加量は、原料粉(でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀粉)の合計量に対して、通常0.01~10質量%、好ましくは0.02~5質量%、より好ましくは0.03~2質量%である。
アルカリ剤は、練り水に溶解させて水溶液として、原料粉等と混合することが好ましい。
【0033】
<アルギン酸エステル>
麺類の原料は、アルギン酸エステルを含んでいる。原料にアルギン酸エステルが含まれることで、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、良好な食感を呈する麺を得ることができる。
本発明においては、アルギン酸又はアルギン酸塩類ではなく、アルギン酸エステルを使用することで、酸液処理が不要となる。また、麺類がでん粉麺である場合には、従来の老化工程(冷蔵工程、冷凍及び解凍工程等)を経なくても、従来のでん粉麺が有する弾力、コシ等の食感を有し、ほぐれ性に優れたでん粉麺を得ることができる。ここで、ほぐれ性とは、喫食時に箸で麺を持ち上げた時のほぐれやすさを意味する。
【0034】
アルギン酸エステルは、アルギン酸にアルコールがエステル結合したものである。
一般に、アルギン酸又はアルギン酸塩類は、コンブ、ワカメ等の褐藻類に含まれる多糖類である。
アルギン酸塩類、及び、その基本の酸となるアルギン酸は、ウロン酸の重合体である。
ウロン酸には、β-D-マンヌロン酸と、α-L-グルロン酸の2つがある。
重合体の中のこれら2つの構成糖の配列は一定ではなく、海藻の種類、部位、採取した海藻の成長度合によって異なる。
配列には、マンヌロン酸とグルロン酸が交互に連なっているユニット、マンヌロン酸が連なるユニット、及び、グルロン酸が連なるユニットの3種類のユニットが存在する。
よって、アルギン酸エステルは、アルギン酸を構成するウロン酸のカルボキシル基にアルコールがエステル結合したものである。
【0035】
本発明において、アルギン酸エステルとしては、特に限定はなく、例えば、アルギン酸と炭素数1~6のアルコールとのエステルが挙げられる。前記炭素数1~6のアルコールの例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のモノアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール;グリセリン等のトリオール等を含む。
【0036】
具体的なアルギン酸エステルは、例えば、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸エチレングリコールエステル、アルギン酸グリセリンエステル等が挙げられる。これらのうち、アルギン酸エステルは、食品添加物の指定を受けているアルギン酸プロピレングリコールエステルが好ましい。
アルギン酸プロピレングリコールエステルは、アルギン酸を構成するウロン酸のカルボキシル基にプロピレングリコールがエステル結合したものであるが、全てのカルボキシル基がエステル化されていなくてもよく、未反応の遊離酸の部分、ナトリウム塩、カルシウム塩等の塩の部分が残っていてもよい。
【0037】
アルギン酸エステルは白色~淡黄白色の粉末で、冷水又は温水に対する溶解性が良好であり、粘性のあるコロイド溶液となる。アルギン酸エステルは、他のアルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩等)に比べて経時変化が少なく、比較的安定な素材である。粉末状態で冷暗所(概ね20℃以下)に保存してあれば、品質(粘度、エステル化度等)は1年以上変化しにくい。
【0038】
アルギン酸エステルのエステル化度は、通常40%以上であり、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、なかでも、75~80%の範囲が特に好ましい。アルギン酸エステルのエステル化度が40%以上であれば、日本の食品添加物公定書の規格を満たすことができる。
【0039】
アルギン酸エステルは、市販されているものを適宜使用することができる。
アルギン酸エステルの市販品としては、アルギン酸プロピレングリコールエステル及びその製剤「昆布酸501」(エステル化度:75%以上、1質量%水溶液の20℃における粘度:150~250mPa・s、株式会社キミカ製)、「昆布酸503」(エステル化度:75%以上、1重量%水溶液の20℃における粘度:10~30mPa・s、株式会社キミカ)、「昆布酸507」(エステル化度:75%以上、1質量%水溶液の20℃における粘度:10~30mPa・s、株式会社キミカ)、「キミロイドHV」(エステル化度:75%以上、1質量%水溶液の20℃における粘度:150~250mPa・s、株式会社キミカ)、「キミロイドLV」(エステル化度:75%以上、1質量%水溶液の20℃における粘度:60~100mPa・s、株式会社キミカ)等を用いることができる。
【0040】
アルギン酸エステルは、他の原料と混合する際に、粉末の形態で添加してもよく、また、あらかじめ水溶液の形態に調整した上で添加することもできる。また、練り水に添加し、練り水として混合してもよい。アルギン酸エステルを練り水に添加して使用する場合には、練り水を調製した後すぐに粉体と混合することが好ましい。また、アルギン酸エステルを含む水溶液と、アルカリ剤を含む水溶液とを、別々に、原料粉へ添加することができる。いずれの態様のものでも適宜選択できる。アルギン酸エステルは粉体に添加することが好ましい。
なお、アルギン酸エステルは、生地を繋げる機能を有するため、下記糊剤のような機能も有している。
【0041】
アルギン酸エステルの添加量は、他の原料との関係、例えば、アルカリ剤の添加量、麺生地のpH、α化処理の程度、獲得しようとする麺質等を考慮して適宜決定することができる。
アルギン酸エステルの添加量は、原料粉(でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀粉)の合計量に対して、通常、0.01~3質量%であり、好ましくは0.1~2質量%であり、より好ましくは0.3~1質量%である。
【0042】
<糊剤>
麺の原料には、必要に応じて糊剤を含ませることができる。糊剤を配合することで、原料と練り水とを混合したときに生地が繋がりやすくなる。なお、本明細書において、前記糊剤は、アルギン酸エステル以外の糊剤であり、アルギン酸エステルを含まない。
糊剤を使用することで、原料粉としてでん粉を用いる場合にはダイラタンシー現象(強く握ると固体のようになり、握るのを止めると液体のようになる現象)が起こらない麺生地を形成することができ、押出し機で押し出して麺線化することが可能となる。
糊剤は、一般に食品に使用されるものであれば特に限定されない。糊剤は、例えば、グアーガム、カラギーナンガム、キサンタンガム、ガティガム、アラビアガム、α化でん粉等を含む。ここで、α化でん粉は、でん粉を水と加熱し、糊化した後、急速に乾燥して粉末化したものをいう。
これらは、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0043】
糊剤を添加する場合、その添加量は、糊剤の種類(粘度)、アルギン酸エステルの量等によって変化する。例えば、原料粉(でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀粉)の合計量に対して、通常0.1~10質量%であり、好ましくは0.5~8質量%であり、より好ましくは1~5質量%である。
なお、糊剤がα化でん粉である場合には、α化でん粉を別途添加してもよいが、あらかじめ原料でん粉の一部に水を混合しながら加熱糊化してキャリア糊を作り、このキャリア糊を糊剤として残りのでん粉に加えて生地を作製してもよい。この場合には、別途糊剤を添加する必要はない。
【0044】
さらに、前記原材料に、必要に応じて、即席麺の製造において一般に使用されている添加剤を添加してもよい。添加剤として、例えば、
食塩、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、イノシン酸等)、醤油(例えば、薄口、濃口等)、酢酸、チキンエキス等の調味料;動植物油脂、液体状の油脂、乳化油脂、粉末油脂等の油脂類;卵類、乳、乳製品、乳加工品、乳タンパク質、大豆タンパク質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等のタンパク質素材;麺質改良剤、ほぐし剤、乳化剤、可溶化剤、界面活性剤、増粘剤、賦形剤、強化剤、キレート剤、中和剤、酸味料、食物繊維、香辛料、甘味剤、調味料、ビタミン類、ミネラル類、デキストリン、アルコール、酵素剤、保存料、防腐剤、カロチノイド色素等の色素、香料等のその他添加剤が挙げられる。
【0045】
これらの添加剤は、水と混合して使用するが、添加方法としては、原料粉等と一緒に固体の状態で添加してもよく、水に溶解又は懸濁させて水溶液又は懸濁液として添加してもよい。
【0046】
前記原料混合工程において、前記原材料に水を加え、次いで、ピンミキサー等の製麺ミキサーを用いて、各種原材料が均一に混ざるように混練して麺生地を製造する。
原料混合工程の温度は、特に限定はなく、例えば、通常18~100℃である。なお、原料の種類、量等によって、温度は大きく異なることがある。
原料混合工程の時間は、特に限定はなく、例えば、通常2~20分であり、好ましくは5~15分であり、より好ましくは10~12分である。
【0047】
ここで、原料混合工程において使用される水の量は、麺生地の形成に必要な水分量であればよい。
前記水の量は、例えば、麺生地の加水率として表すことができる。本明細書において、加水率は、原料(水に溶解させて添加する原料を除く。)の質量に対する水分量の比率のことをいう。例えば、アルカリ剤、食塩等は、水に溶解させて添加されるため、加水率を計算する際の原料からは除かれる。
前記加水率は、特に限定はなく、例えば、50質量%以上~200質量%であり、好ましくは60~150質量%であり、より好ましくは70~100質量%である。本発明の製造方法を用いれば、加水率が高い(70質量%以上の)麺生地から、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺類を製造することができる。
混合工程後の麺生地のpHは、6~9.5であることが好ましい。
麺生地のpHは、混練終了直後にpH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を直接麺生地に差し込み、pHを測定する。
本発明の麺類の製造方法によれば、加水を多く含む生地であっても、麺類に弾力及びコシを付与することができる。
【0048】
製麺工程
製麺工程は、上記原料混合工程で得られた麺生地を、麺線化する工程である(麺線化工程ともいう。)。麺線化する方法は、特に限定されず、例えば、麺生地を押出し機等により押し出して麺線化する方法、麺生地を圧延して麺帯とした後に切出す方法、原料粉がでん粉である場合には、例えば、トンピョウのような複数の穴が開いた容器を用いて生地を垂らすことで麺線化を行う方法(落下式)等が挙げられる。
【0049】
α化工程
α化工程において、麺線に含まれるでん粉がα化(糊化)する。麺線をα化させる方法としては、特に限定はなく、例えば、蒸気を使った蒸し処理(蒸煮)方法、茹でる方法等が挙げられる。
蒸し処理は、蒸気を使用した蒸機を使用して行うことが好ましい。蒸し処理で使用する蒸気の質として、乾いた蒸気、湿り気のある蒸気、過熱蒸気等を使用することができ、得られる麺線の食感をよりよくするためには、湿り気のある蒸気を使用することが好ましい。あるいは、ボイラーで発生させた蒸気を減圧して蒸機内に噴射し、その蒸機の中を、麺線を通過させることによってα化させてもよい。
α化は、茹で処理で行うことも可能である。
【0050】
α化工程の温度は、特に限定はなく、例えば、通常96~110℃であり、好ましくは98~105℃であり、より好ましくは99~100℃である。
【0051】
α化工程の時間は、α化方法、原材料、麺線をα化させる方法等によって変化する。
例えば、α化工程を蒸煮処理で行う場合の時間は、通常1秒間~3分間であり、好ましくは5秒間~2分間であり、より好ましくは10秒間~1.5分間である。
α化工程を茹で処理で行う場合の時間は、通常1秒間~2分間であり、好ましくは5秒間~1.5分間であり、より好ましくは10秒間~1分間である。
【0052】
α化工程の後、直ちにα化した麺線を乾燥するのではなく、この麺線にほぐし剤(ほぐし液)を付与することができる。前記ほぐし剤の付与には、麺線の結着の防止等の効果がある。前記ほぐし剤には、水又は着味液を使用してもよいし、水に乳化剤、油脂、乳化油脂、増粘多糖類、加工でん粉、酵素等を溶解させた液、着味液に乳化剤、油脂、増粘多糖類等を添加した液等を使用してもよい。ほぐし剤は、例えば、α化工程後の麺線に直接塗布するか、又はα化工程後の麺線をほぐし剤中に浸漬させることにより付与することができる。
なお、ほぐし剤は、前記のα化工程後の麺線に付与する以外に、α化工程前又はα化工程中に麺線に塗布するか、又は、麺生地にほぐし剤を練り込むことによって付与することも可能である。
【0053】
麺線にほぐし剤を付与した後、常温でそのまま静置する時間を設けることが好ましい。麺線を静置しておくことで、麺線表面に付着した水分を麺線内部に吸収させることができる。麺線を静置する時間は特に限定されないが、通常10秒間~15分間程度、好ましくは1~10分間程度、より好ましくは2~6分間程度である。
本発明の製造方法には、上記工程以外にも、任意の工程を備えることができる。任意の工程としては、例えば、冷却した麺線をカットする工程(麺線カット工程)、型枠にカットした麺線を入れる工程、麺線を乾燥する工程、乾燥した麺類をカップに入れる工程、調味料を入れる工程、包装する工程等が挙げられる。
【0054】
乾燥工程
乾燥工程に特に限定はなく、例えば、得られた麺線を、15cm程度にカットし、カットした麺線を乾燥させる。
乾燥工程は、麺の水分を減少させる方法であれば特に限定されない。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、フリーズドライ、寒干し乾燥、油揚げ等が挙げられる。本発明においては、非油揚げ麺(ノンフライ麺)とすることが好ましく、上記乾燥方法のなかでも、熱風乾燥により乾燥させることが好ましい。
熱風乾燥を乾燥機等で行う場合、乾燥機の温度は、特に限定はなく、例えば、通常20~180℃程度、好ましくは40~120℃程度であり、より好ましくは50~100℃程度である。なお、乾燥時間は麺質によって異なるため、例えば、10分毎に麺の様子を観察しながら、完全に乾燥させることが好ましい。
【0055】
乾燥した麺は、包装工程に移り、スープ、具材等とともにカップに包装され、即席麺製品として販売される。
【0056】
麺類
本発明の乾燥後の麺の懸濁液におけるpHは、通常6.5を超えて9以下であり、6.6~7.98が好ましく、6.7~7.6がより好ましい。
麺のpHは、例えば、麺線の固形分を10%含む懸濁液(10%懸濁液)を作成し、その懸濁液のpHを測定することができる。
ここで、固形分とは、食品分析又は品質評価にあたって、多水分食品中の水分を蒸発除去した残留物をいう。固形分(%)は、100-水分(%)により求めることができる。水分は、例えば、OHAUS社製ハロゲン水分計MB45により測定することができる。
以下に、乾燥後の麺(乾燥麺)のpHの具体的な測定方法を示す。
(1)乾燥後の麺の水分を測定し、麺線の固形分を算出する。
(2)麺線の固形分が6gになるように計量し、計量した麺線をメスシリンダーに入れる。例えば、固形分が93%である乾燥麺の場合には、約6.5g計量する。
(3)麺線を入れたメスシリンダーに、60mLになるまで常温の蒸留水を添加し、常温で30分間放置して麺を膨潤させる。
(4)麺線と蒸留水との混合物をミキサーで30秒間粉砕して、10%懸濁液を作成し、この懸濁液を100mLビーカーに注ぐ。
(5)pH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を用いて、常温(25~30℃)でpHを測定する。
上述の製造方法によって得られる麺類は、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈するものである。
【0057】
α化麺類
また、上記製造方法のうち、α化工程後で、かつ、乾燥工程前の麺を、α化麺という。当該α化麺は、弾力及びコシのある良好な食感を有する。よって、乾燥工程前のα化麺は、チルドタイプの麺として販売することも可能である。
この乾燥工程前のα化麺は、本発明の麺類を製造するための前駆体といえるものであり、以下の製造方法により製造することができる。
よって、本発明には、原料混合工程、製麺工程、及びα化工程を備え、前記原料混合工程の原料が、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含有し、前記α化工程で得られたα化麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、α化麺類の製造方法、並びに、前記α化麺類の製造方法によって得られるα化麺類が包含される。
なお、α化麺のpHは、α化の後に、上記乾燥麺のpHの測定方法と同様にして測定することができる。
α化麺のpHの具体的な測定方法は、以下のとおりである。
(1)α化後の麺の水分を測定し、麺線の固形分を算出する。
(2)麺線の固形分が6gになるように計量し、計量した麺線をメスシリンダーに入れる。例えば、固形分が40%であるα化麺の場合には、約15g計量する。
(3)麺線を入れたメスシリンダーに、60mLになるまで常温の蒸留水を添加する。
(4)麺線と蒸留水との混合物をミキサーで30秒間粉砕して、10%懸濁液を作成し、この懸濁液を100mLビーカーに注ぐ。
(5)pH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を用いて、常温(25~30℃)でpHを測定する。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「約」とは、麺の質量の場合には、±(プラスマイナス)3gを意味しており、温度の場合には、±3℃を意味している。
【0059】
(1)原料としてでん粉を含む麺(でん粉麺)の製造
以下の実施例1~13及び比較例1~23では、でん粉麺の一例として春雨を製造した。
実施例1
(原料混合工程)
でん粉(タピオカでん粉:松谷化学工業株式会社製、「MKK-100」(商品名))3000g、アルギン酸エステル(株式会社キミカ製、「昆布酸501」(商品名))30g、及び、糊剤(グアーガム)30gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。
別途、アルカリ剤(リン酸三ナトリウム)1.2gを水2600gに溶解し、練り水を調製した。
【0060】
次いで、粉体混合物に、上記練り水を加え、真空ミキサーで10分間混練した。
<加水率及びpH測定>
得られた混練物(麺生地)の加水率を、下記式を用いて計算した。
【数1】
その結果、実施例1に記載する混練物(麺生地)の加水率は、85%であった。
また、麺生地にpH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を直接差し込んでpHを測定したところ、6.15であった。
【0061】
(製麺工程)
得られた麺生地をモーノポンプ(兵神装備株式会社製)で配管に送り、細孔を有するノズルより押し出し、麺線に成形した。
【0062】
(α化工程)
得られた麺線を、ボイラーで発生させた蒸気を減圧させた後に噴射している蒸機の中を1分20秒間通過させることにより、100℃で常圧蒸煮を行い、α化させて、α化麺を得た。
<pH測定>
ここで、α化麺のpHを、以下の方法により測定した。
(1)α化後の麺の水分をOHAUS社製ハロゲン水分計MB45により測定し、麺線の固形分を算出したところ、40%であった。
(2)麺線の固形分が6gになるように約15g計量し、計量した麺線をメスシリンダーに入れた。
(3)麺線を入れたメスシリンダーに、60mLになるまで常温の蒸留水を添加した。
(4)麺線と蒸留水との混合物をミキサーで30秒間粉砕して、10%懸濁液を作成し、この懸濁液を100mLビーカーに注いだ。
(5)pH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を用いて、常温(25~30℃)でpHを測定したところ、6.28であった。
【0063】
(乾燥工程)
その後、このα化麺の麺線を15cm程度の長さにカットし、室温で12分間放置した。
次に、麺線60gに、5mlのほぐし液を塗布し、1食ずつ円錐台形状の乾燥枠に投入し、乾燥機により50~60℃で熱風乾燥することにより、でん粉麺(1食分は約20g)が得られた。
【0064】
実施例2~5及び比較例1~5
下記表2のアルカリ剤の添加量及び加水量に代えた以外は、実施例1と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
なお、実施例3及び5においては、α化後にpH測定を行い、α化麺のpHを下記表2に示した。実施例2及び4では、α化後にpH測定を行わなかったが、実施例1、3及び5の結果から、乾燥麺のpHと同程度であると予想される。
【0065】
比較例6、8及び10
アルギン酸エステルをアルギン酸に代え、さらに、アルカリ剤の添加量及び加水量を下記表2のように代えた以外は、実施例1と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0066】
比較例7、9及び11
α化工程後に、イオン化したアルギン酸をゲル化させるためにカルシウム処理(α化後の麺線に対して、1%乳酸カルシウム溶液に10秒間浸漬を行う処理)を行った以外は、比較例6、8及び10とそれぞれ同じ製法で、でん粉麺を製造した。
【0067】
比較例12、14及び16
アルギン酸エステルをアルギン酸ナトリウムに代え、さらに、アルカリ剤の添加量及び加水量を下記表2のように代えた以外は、実施例1と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0068】
比較例13、15及び17
α化工程後に、アルギン酸ナトリウムをゲル化させるためにカルシウム処理を行った以外は、比較例12、14及び16とそれぞれ同じ製法で、でん粉麺を製造した。
【0069】
作製したでん粉麺(実施例1~5、比較例1~17)について、以下の試験を行った。
【0070】
<pH測定>
得られたでん粉麺のpHを、以下の方法により測定した。
(1)乾燥後の麺の水分をOHAUS社製ハロゲン水分計MB45により測定し、麺線の固形分を算出した。なお、実施例1~5で得られた乾燥麺の固形分は6~9%であり、他の実施例及び比較例で得られた乾燥麺の固形分も同程度と考えられるため、計量する麺線の量は約6.5gとした。
(2)でん粉麺の麺線を約6.5g計量し、計量した麺線をメスシリンダーに入れた。
(3)麺線を入れたメスシリンダーに、60mLになるまで常温の蒸留水を添加し、常温で30分間放置して麺を膨潤させた。
(4)麺線と蒸留水との混合物をミキサーで30秒間粉砕して、10%懸濁液を作成し、この懸濁液を100mLビーカーに注いだ。
(5)pH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を用いて、常温(25~30℃)でpHを測定した。
【0071】
<官能試験>
作製したでん粉麺を1日以上室温で放置した後、このでん粉麺を容器に入れ、熱湯を注いで約3分間放置した。その後、食感及びほぐれ性に関する官能試験を行った。
官能試験は、熟練したパネリスト5名が2回ずつ評価を行った(評価数:10回)。
食感は、下記表1に記載の評価基準に従って5段階で評価し、10回の値の平均値を算出し、平均点が2.5以上を合格とした。なお、食感の5点は、市販されている中国製の春雨(冷凍及び解凍工程を経て作製された春雨)の食感と同程度の食感という意味である。
ほぐれ性(喫食時のほぐれ性)は、麺塊中心部に箸を入れ、麺塊又は麺線が湯面から出るまで持ち上げる作業を、麺線がほぐれるまで繰り返し、持ち上げた回数と麺塊の状態によって評価した。ほぐれ性も、下記表1に記載の評価基準に従って5段階で評価し、10回の平均点が2.5以上を合格とした。
なお、製麺工程において麺生地をノズルから吐出することができず、麺が得られなかったことを、「吐出不可」と示した。また、α化後の麺線を1時間乾燥させても乾かなかったことを、「乾燥不良」と示した。
【0072】
【0073】
【0074】
<結果>
表2より、実施例1~5のでん粉麺は、食感評価及び喫食時のほぐれ性評価がいずれも合格点であった。なお、実施例1~5のでん粉麺は、α化後の麺線(α化麺)の段階でpH6.5を超えて9以下となり、弾力及びコシがあり、麺線のべたつきが少なかった。そのため、乾燥前の状態で麺線同士の結着がほとんどなく、ほぐれ性が良好であった。
一方、比較例1、2及び3は、混合工程後の麺生地のpHが6未満又は9.5を超えたため、乾燥不良となり、製品である麺が得られなかった。なお、比較例1、2及び3のでん粉麺は、α化後の麺線の段階で、実施例1~5の麺線と比較して麺線強度が弱く、千切れやすかった。また、麺線にハリ及びコシがなく、表面がべたついていたために、すぐに麺線同士が結着し、乾燥不良となった。
比較例4及び5は、混合工程後の麺生地のpHが10を超えたため、製麺工程においてノズルから吐出することができず、製品である麺が得られなかった。これは、麺生地のpHが高すぎたことにより、アルギン酸エステルの生地を繋げる効果が低下したことが原因と考えられる。なお、この麺生地を用いて落下式で麺線化を試みたところ、麺線が得られたが、得られた麺線は、比較例1、2及び3と同様に弱々しくべたつく麺線であり、乾燥不良となることが予想されたため、乾燥は行わなかった。
【0075】
また、アルギン酸エステル以外のアルギン酸類を使用した比較例6、8及び10(アルギン酸を使用)、及び比較例12、14及び16(アルギン酸ナトリウムを使用)は、乾燥不良となり、製品である麺が得られなかった。なお、これらのでん粉麺も、α化後の麺線(α化麺)の段階で、比較例1、2及び3と同様にハリがなく、麺線同士の結着が起こりやすかったために、乾燥不良となった。
イオン化したアルギン酸及びアルギン酸ナトリウムは、カルシウムイオン等を添加するとゲル化する性質があるため、α化工程後の麺線(α化麺)にカルシウム処理を行ってみたが、比較例7、9及び11(アルギン酸を使用)は、麺質に大きな改善は見られず、乾燥不良となり、製品である麺が得られなかった。比較例13、15及び17(アルギン酸ナトリウムを使用)は、多少麺線の結着が改善され、乾燥はできたものの、得られた麺は、食感評価結果が1~2、ほぐれ性評価結果が1~3であり、食感及びほぐれ性が明らかに悪かった。
【0076】
比較例6~11及び比較例18~19(アルギン酸の添加方法の検討)
前記比較例6~11では、アルギン酸をでん粉及び糊剤と混合し、得られた粉体混合物に練り水を加えて混練したために、アルギン酸が十分に膨潤していない可能性があった。そこで、アルギン酸を練り水に添加して、でん粉麺の製造を試みた。
原料混合工程は以下のように行った。でん粉(タピオカでん粉:松谷化学工業株式会社製、「MKK-100」(商品名))3000g、及び、糊剤(グアーガム)30gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。別途、アルギン酸30g、及び、アルカリ剤(リン酸三ナトリウム)22gを水2600gに溶解し、練り水を調製した。次いで、粉体混合物に、上記練り水を加え、真空ミキサーで10分間混練した。
製麺工程、α化工程、及び、乾燥工程は、実施例1と同様にしてでん粉麺を製造した(比較例18)。
また、α化工程後に、酸液処理(8.3g/Lの90%乳酸溶液中に麺線を30秒間浸漬する工程)を行ったこと以外は、比較例18と同様にしてでん粉麺の製造を試みた(比較例19)。
そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。これらの結果を、比較例10の結果と比較することで、アルギン酸の添加方法による効果を検討した。その結果を、表3に示す。なお、比較例10は、表2の記載を再掲した。
【0077】
【0078】
<結果>
表3より、比較例18において、アルギン酸をアルカリ剤と共に練り水に混合することにより、アルギン酸を十分に膨潤させたが、麺質に大きな改善は見られなかった。比較例19では、アルギン酸をアルカリ剤と共に練り水に混合し、さらにα化工程後に酸液処理を行ったが、麺質は比較例10及び18と同様、乾燥不良となり、製品である麺が得られなかった。
【0079】
実施例2~3及び比較例20~23(アルギン酸エステルの有無の検討)
アルギン酸エステル及びアルカリ剤を添加しない以外は、実施例1と同様にして、でん粉麺の製造を試みた(比較例20)。
また、アルギン酸エステルを添加しない以外は、実施例2と同様にして、でん粉麺の製造を試みた(比較例21)。アルギン酸エステルを添加しない以外は、実施例3と同様にして、でん粉麺の製造を試みた(比較例22)。
さらに、アルギン酸エステルを添加せず、かつ、糊剤の量を表3に記載の量に代えた以外は、実施例3と同様にして、でん粉麺の製造を試みた(比較例23)。
そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。これらの結果を、実施例2及び3の結果と比較することで、アルギン酸エステルの添加による効果を検討した。その結果を、表4に示す。なお、実施例2及び3は、表2の記載を再掲した。
【0080】
【0081】
<結果>
表4より、アルギン酸エステルを添加した実施例2及び3のでん粉麺は、食感評価及びほぐれ性評価がいずれも合格点であった。
一方、アルギン酸エステルを添加しなかった比較例20、21、及び22は、いずれも製麺工程においてノズルから吐出できず、製品であるでん粉麺が得られなかった。これらの場合も、比較例4及び5と同様に、生地の繋がりが不十分であると考えられるため、生地を吐出できる状態にするために、糊剤の添加量を比較例22の3倍に増やして、製麺を行った(比較例23)。比較例23では、製麺工程でノズルから吐出することはできたが、乾燥工程において乾燥不良となり、製品である麺が得られなかった。なお、比較例23のα化後の麺線(α化麺)も、比較例1、2、3、12、14及び16でみられた、弱々しくべたつく麺質であった。
【0082】
実施例3、6及び7(アルカリ剤の検討)
アルカリ剤を下記表5の種類及び添加量に代えた以外は、実施例3と同様にして、でん粉麺の製造を試みた(実施例6及び7)。そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。これらの結果を、実施例3の結果と比較することで、アルカリ剤の種類による効果を検討した。その結果を、表5に示す。なお、実施例3は、表2の記載を再掲した。
【0083】
【0084】
<結果>
表5より、アルカリ剤の種類を代えた実施例6及び7のでん粉麺は、実施例3と同様、食感評価及びほぐれ性評価のいずれも合格点であった。よって、アルカリ剤の種類に関係なく、食感及びほぐれ性に優れたでん粉麺が得られることがわかった。
【0085】
実施例3、4、及び8~10(アルギン酸エステルの種類の検討)
アルギン酸エステルとして、株式会社キミカ製、「昆布酸503」を用い、アルカリ剤の添加量及び加水量に代えた以外は、実施例3と同様の製造方法を用いて、でん粉麺の製造を試みた(実施例8~10)。そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。これらの結果を、実施例3及び4の結果と比較することで、アルギン酸エステルの種類による効果を検討した。その結果を、表6に示す。なお、実施例3及び4は、表2の記載を再掲した。
【0086】
【0087】
<結果>
表6より、実施例3及び4とは異なるアルギン酸エステルの製品を用いた実施例8~10のでん粉麺は、実施例3及び4と同様、食感評価及びほぐれ性評価が合格点であった。よって、アルギン酸エステルの種類に関係なく、食感及びほぐれ性に優れたでん粉麺が得られることがわかった。
【0088】
実施例4及び11(でん粉の種類の検討)
でん粉として下記表7に記載のものを用い、その添加量及び加水量に代えた以外は、実施例4と同様にしてでん粉麺の製造を試みた(実施例11)。そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。その結果を、実施例4の結果と比較することで、でん粉の種類による効果を検討した。その結果を、表7に示す。なお、実施例4は、表2の記載を再掲した。
【0089】
【0090】
<結果>
表7より、実施例4とは異なるでん粉を用いた実施例11のでん粉麺は、実施例4と同様、食感評価及びほぐれ性評価が合格点であった。よって、でん粉の種類に関係なく、食感及びほぐれ性に優れたでん粉麺が得られることがわかった。
【0091】
実施例3及び12(糊剤の種類の検討)
糊剤を下記表8の種類、その添加量に代えた以外は、実施例3と同様にしてでん粉麺の製造を試みた(実施例12)。そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。その結果を、表8に示す。なお、実施例3は、表2の記載を再掲した。
【0092】
【0093】
<結果>
表8より、実施例3とは異なる糊剤を用いた実施例12のでん粉麺は、実施例3と同様、食感評価及びほぐれ性評価が合格点であった。よって、糊剤の種類に関係なく、食感及びほぐれ性に優れたでん粉麺が得られることがわかった。
【0094】
実施例3及び13(酸液処理の有無の検討)
α化工程後に、酸液処理(8.3g/Lの90%乳酸溶液中に麺線を30秒間浸漬する工程)を行ったこと以外は実施例3と同様にしてでん粉麺の製造を試みた(実施例13)。そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。その結果を、表9に示す。なお、実施例3は、表2の記載を再掲した。
【0095】
【0096】
<結果>
表9より、酸液処理を行った実施例13のでん粉麺は、食感評価及びほぐれ性評価が合格点であった。
よって、本発明の麺類の製造方法によれば、酸液処理がなくても食感及びほぐれ性に優れたでん粉麺が得ることができるが、さらに酸液処理を行った場合でも食感及びほぐれ性に優れたでん粉麺が得られることがわかった。
【0097】
(2)原料として実質的にグルテンを含まない穀粉を含む麺
原料として実質的にグルテンを含まない穀粉を含む麺として、以下のように米麺及びそばを製造し、上記でん粉麺と同様の方法で、加水率、麺生地のpH、及び、麺のpHを測定した。
そして、得られた麺を1日以上室温で放置した後、これを容器に入れ、熱湯を注いで約3分間放置した。その後、食感及びほぐれ性に関する官能試験を行った。
官能試験は、熟練したパネリスト5名が2回ずつ評価を行った(評価数:10回)。
食感は、下記表10に記載の評価基準に従って5段階で評価し、10回の値の平均値を算出した。米麺及びそばのような原料として実質的にグルテンを含まない穀粉を含む麺は、前記でん粉麺と比較して、より固めの食感が好まれるため、平均点が3点以上を合格とした。
ほぐれ性(喫食時のほぐれ性)は、麺塊中心部に箸を入れ、麺塊又は麺線が湯面から出るまで持ち上げる作業を、麺線がほぐれるまで繰り返し、持ち上げた回数と麺塊の状態によって評価した。ほぐれ性も、下記表10に記載の評価基準に従って5段階で評価し、10回の平均点を算出した。米麺及びそばのような原料として実質的にグルテンを含まない穀粉を含む麺は、本質的に、前記でん粉麺と比較するとほぐれ性が良好であるため、3点以上を合格とした。
【0098】
【0099】
実施例14、並びに、比較例24及び25(米麺)
米麺は、実質的にグルテンを含まない穀粉として米粉を用いた麺である。
米粉(株式会社波里製、「薄力米粉V3」(商品名))3000g、アルギン酸エステル(株式会社キミカ製、「昆布酸501」(商品名))9g、及び、糊剤(α化でん粉)90gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。
別途、アルカリ剤(リン酸三ナトリウム)8gを水2900gに溶解し、練り水を調製した。なお、混合工程以降は、実施例1と同じ製法で、麺を製造した(実施例14)。
アルギン酸エステルを添加せず、水の量を3300gに代えた以外は、実施例14と同様にして、麺の製造を試みた(比較例24)。
アルカリ剤を添加せず、水の量を3300gに代えた以外は、実施例14と同様にして、麺の製造を試みた(比較例25)。
米麺が製造できた場合には、米麺の官能評価を行った。その結果を、表11に示す。
【0100】
【0101】
<結果>
表11より、アルギン酸エステルを添加し、アルカリ剤によって最適なpHに調整した実施例14の米麺は、弾力及びコシがあり、良好な食感であった。
一方、アルギン酸エステルを添加しなかった比較例24の米麺、及びpHを調整しなかった比較例25の米麺は、弾力及びコシが弱く、崩壊感のある食感だった。いずれの麺もα化後の麺線(α化麺)が脆いために千切れやすく、製麺適正が悪かった。特に、比較例24の米麺は脆く、ほとんどが短い麺となった。
【0102】
実施例15及び16、並びに、比較例26(そば)
そばは、実質的にグルテンを含まない穀粉としてそば粉を用いた麺であるが、原料粉として、そば粉とともに加工でん粉を含む。
そば粉(飯坂製粉株式会社製、「そば粉 薫(i)」(商品名))2700g、でん粉(酢酸タピオカでん粉:松谷化学工業株式会社製、「松谷さくら」(商品名))300g、アルギン酸エステル(株式会社キミカ製、「昆布酸501」(商品名))15g、及び、糊剤(グアーガム)45gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。
別途、アルカリ剤(リン酸三ナトリウム)30gを水2800gに溶解し、練り水を調製した。なお、混合工程以降は、実施例1と同じ製法で、そばを製造した(実施例15)。
アルカリ剤(リン酸三ナトリウム)の量を5gに変更したこと以外は、実施例15と同様にして、そばの製造を試みた(実施例16)。
アルカリ剤を添加しない以外は、実施例15と同様にして、そばの製造を試みた(比較例26)。
そばが製造できた場合には、そばの官能評価を行った。その結果を、表12に示す。
【0103】
【0104】
<結果>
表12より、アルカリ剤によって最適なpHに調整した実施例15及び16のそばは、弾力及びコシがあり、良好な食感であった。ただし、実施例16の麺線のpHは、効果が得られる最低ラインの値であり、α化後の麺線(α化麺)がやや脆かった。
一方、pHを調整しなかった比較例26のそばは、弾力及びコシが弱く、崩壊感のある食感だった。また、α化後の麺線(α化麺)が脆いために千切れやすく、喫食時にはカットした麺線の長さ(15cm)よりも短い麺が多く出ていた。
このように、本発明を利用すれば、麺のpHによって麺質又は食感をコントロールすることができるため、目指す食感、製造ライン等に合わせて、適宜pHを調整すればよい。
【要約】
【課題】本発明は、アルギン酸エステルを添加した生地において、酸液処理を必要とすることなく、喫食時のほぐれ性が良く、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺類及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、原料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を備える、麺類の製造方法であって、前記原料混合工程の原料が、でん粉及び/又は実質的にグルテンを含まない穀物粉を含む原料粉、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含有し、前記乾燥工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、麺類の製造方法、並びに、前記製造方法によって得られる麺類に関する。
【選択図】なし