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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F28D15/02 101H
F28D15/02 102B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022197351
(22)【出願日】2022-12-09
(62)【分割の表示】P 2021107022の分割
【原出願日】2017-01-18
(65)【公開番号】P2023021254
(43)【公開日】2023-02-10
【審査請求日】2022-12-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恵莉
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031604(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0040726(US,A1)
【文献】特開平11-183067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液が封入された密封空間を有するベーパーチャンバであって、
第1金属シートと、
前記第1金属シートとの間に前記密封空間を形成する第2金属シートと、
前記第1金属シートの前記第2金属シートとは反対側の面および前記第2金属シートの前記第1金属シートとは反対側の面のそれぞれの全域に設けられ、前記ベーパーチャンバの変形を抑制する平板状の変形抑制部材と、を備え、
平面視で前記密封空間は、前記ベーパーチャンバの厚さ方向に延びる周縁壁によって囲まれ、
平面視における前記周縁壁の外側面に、前記変形抑制部材は設けられておらず、
前記第1金属シートに設けられた前記変形抑制部材の曲げ強度は、前記第1金属シートの曲げ強度よりも大きく、
前記第2金属シートに設けられた前記変形抑制部材の曲げ強度は、前記第2金属シートの曲げ強度よりも大きく、
前記変形抑制部材は、全体的に平坦状に形成され、
前記第1金属シートに設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数は、前記第1金属シートの熱膨張係数よりも大きく、
前記第2金属シートに設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数は、前記第2金属シートの熱膨張係数よりも小さく、
前記第1金属シートに設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数は、前記第2金属シートに設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数よりも大きい、ベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記第1金属シートは、平板状に形成されている、請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
前記第2金属シートは、平板状に形成されている、請求項1または2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項4】
前記変形抑制部材を除く前記ベーパーチャンバの厚さは、0.1mm~1.0mmであり、
前記変形抑制部材の厚さは、0.1mm~0.15mmである、請求項1~のいずれ一項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項5】
作動液が封入された密封空間を有するベーパーチャンバであって、
第1金属シートと、
前記第1金属シートとの間に前記密封空間を形成する第2金属シートと、
前記第1金属シートの前記第2金属シートとは反対側の面および前記第2金属シートの前記第1金属シートとは反対側の面のそれぞれに設けられ、前記ベーパーチャンバの変形を抑制する変形抑制部材と、を備え、
前記第1金属シートに設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数は、前記第1金属シートの熱膨張係数よりも大きく、
前記第2金属シートに設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数は、前記第2金属シートの熱膨張係数よりも小さい、ベーパーチャンバ。
【請求項6】
前記第1金属シートに設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数は、前記第2金属シートに設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数よりも大きい、請求項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項7】
前記第1金属シートに設けられた前記変形抑制部材の曲げ強度は、前記第1金属シートの曲げ強度よりも大きい、請求項またはに記載のベーパーチャンバ。
【請求項8】
前記第2金属シートに設けられた前記変形抑制部材の曲げ強度は、前記第2金属シートの曲げ強度よりも大きい、請求項のいずれか一項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項9】
前記密封空間内に、ウィックが設けられている、請求項1~のいずれか一項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項10】
前記変形抑制部材は、ステンレス鋼により形成されている、請求項1~のいずれか一項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項11】
前記第1金属シートおよび前記第2金属シートは、銅または銅合金により形成されている、請求項1~10のいずれか一項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項12】
前記変形抑制部材は、めっき層を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のベーパーチャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動液が密封された密封空間を有するベーパーチャンバ、ベーパーチャンバ用金属シート組合体およびベーパーチャンバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末やタブレット端末といったモバイル端末等で使用される中央演算処理装置(CPU)等の発熱を伴うデバイスの冷却のために、ベーパーチャンバ(ヒートパイプとも言う)が使用されている(例えば、特許文献1参照)。ベーパーチャンバ内には、作動液が封入されており、この作動液がデバイスの熱を吸収して外部に放出することで、デバイスの冷却を行っている。
【0003】
より具体的には、ベーパーチャンバ内の作動液は、デバイスに近接した部分(蒸発部)でデバイスから熱を受けて蒸発して蒸気になり、その後蒸気が、蒸発部から離れた位置に移動して冷却され、凝縮して液状になる。液状になった作動液は、ベーパーチャンバ内の液流路を通過して蒸発部に輸送され、再び蒸発部で熱を受けて蒸発する。このようにして、作動液が、相変化、すなわち蒸発と凝縮とを繰り返しながらベーパーチャンバ内を還流することによりデバイスの熱を移動させ、放熱効率を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-315745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベーパーチャンバは、放熱効果を高めるために、熱伝導率の良好な銅または銅合金で形成される場合がある。このため、モバイル端末のコンパクト化のためにベーパーチャンバの厚みを薄くする場合には、ベーパーチャンバの剛性が問題になり得る。例えば、ベーパーチャンバをモバイル端末等に設置する際に、ベーパーチャンバに無理な力がかかるとベーパーチャンバが変形するおそれがあるため、設置時には慎重なハンドリングが求められる。また、ベーパーチャンバの密封空間に作動液を注入する前に密封空間を真空引きするが、この場合にも、ベーパーチャンバ内外の差圧によって、ベーパーチャンバが変形する可能性が考えられる。また、ベーパーチャンバに他の部品等をはんだ付けで接合する場合には、熱膨張によってベーパーチャンバが変形する可能性も考えられる。
【0006】
また、上述したように、ベーパーチャンバの作動時、ベーパーチャンバの一部分は液状の作動液と接し、他の部分は、作動液の蒸気と接している。このことにより、ベーパーチャンバに温度分布が生じ、各部分の熱膨張による伸びが異なる。このため、ベーパーチャンバに、反りによる変形が発生するという問題もある。
【0007】
このようにして、ベーパーチャンバが変形すると、密封空間内の作動液の蒸気や、液状の作動液が流れる流路の流路面積が低減し、ベーパーチャンバが正常に作動しなくなるおそれがある。
【0008】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、変形を抑制することができるベーパーチャンバ、ベーパーチャンバ用金属シート組合体およびベーパーチャンバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、作動液が封入された密封空間を有し、被冷却装置を冷却するベーパーチャンバであって、前記被冷却装置が取り付けられる下側金属シートと、前記下側金属シート上に設けられ、前記下側金属シートとの間に前記密封空間を形成する上側金属シートと、前記下側金属シートの下面および前記上側金属シートの上面のうちの少なくとも一方に設けられ、前記ベーパーチャンバの変形を抑制する変形抑制部材と、を備えた、ベーパーチャンバ、を提供する。
【0010】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、前記変形抑制部材は、前記下側金属シートの前記下面に設けられ、前記下側金属シートの前記下面に設けられた前記変形抑制部材の曲げ強度は、前記下側金属シートの曲げ強度よりも大きい、ようにしてもよい。
【0011】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、前前記変形抑制部材は、前記下側金属シートの前記下面に設けられ、前記下側金属シートの前記下面に設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数は、前記下側金属シートの熱膨張係数よりも大きい、ようにしてもよい。
【0012】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、前記変形抑制部材は、前記上側金属シートの前記上面に設けられ、前記上側金属シートの前記上面に設けられた前記変形抑制部材の曲げ強度は、前記上側金属シートの曲げ強度よりも大きい、ようにしてもよい。
【0013】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、前記変形抑制部材は、前記上側金属シートの前記上面に設けられ、前記上側金属シートの前記上面に設けられた前記変形抑制部材の熱膨張係数は、前記上側金属シートの熱膨張係数よりも小さい、ようにしてもよい。
【0014】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、前記変形抑制部材は、ステンレス鋼により形成されている、ようにしてもよい。
【0015】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、前記変形抑制部材は、めっき層を含む、ようにしてもよい。
【0016】
また、上述したベーパーチャンバにおいて、前記下側金属シートおよび前記上側金属シートは、銅または銅合金により形成されている、ようにしてもよい。
【0017】
また、本発明は、作動液が封入された密封空間を有し、被冷却装置を冷却するベーパーチャンバのためのベーパーチャンバ用金属シート組合体であって、ベーパーチャンバ用金属シートと、前記ベーパーチャンバ用金属シートの一方の面に設けられ、前記ベーパーチャンバの変形を抑制する変形抑制部材と、を備えた、ベーパーチャンバ用金属シート組合体、を提供する。
【0018】
また、本発明は、下側金属シートと上側金属シートとの間に形成された、作動液が封入される密封空間を有し、被冷却装置を冷却するベーパーチャンバの製造方法であって、前記被冷却装置が取り付けられる前記下側金属シートと、前記上側金属シートとを準備する工程と、前記下側金属シートと前記上側金属シートとを接合し、前記下側金属シートと前記上側金属シートとの間に前記密封空間を形成する工程と、前記下側金属シートと前記上側金属シートとを接合した後、前記下側金属シートの下面および前記上側金属シートの上面のうちの少なくとも一方に、前記ベーパーチャンバの変形を抑制する変形抑制部材を設ける工程と、前記密封空間に前記作動液を封入する工程と、を備えた、ベーパーチャンバの製造方法、を提供する。
【0019】
また、本発明は、下側金属シートと上側金属シートとの間に形成された、作動液が封入される密封空間を有し、被冷却装置を冷却するベーパーチャンバの製造方法であって、前記被冷却装置が取り付けられる前記下側金属シートと、前記上側金属シートとを準備する工程と、前記下側金属シートの下面および前記上側金属シートの上面のうちの少なくとも一方に、前記ベーパーチャンバの変形を抑制する変形抑制部材を設ける工程と、少なくとも一方に前記変形抑制部材が設けられた前記下側金属シートと前記上側金属シートとを接合し、前記下側金属シートと前記上側金属シートとの間に前記密封空間を形成する工程と、前記密封空間に前記作動液を封入する工程と、を備えた、ベーパーチャンバの製造方法を提供する。
【0020】
また、上述したベーパーチャンバの製造方法において、前記変形抑制部材を設ける工程において、前記変形抑制部材は、前記下側金属シートの下面および前記上側金属シートの上面のうちの少なくとも一方に、接着剤、ろう付け、はんだ付け、拡散接合、レーザ溶接のうちのいずれかによって接合される、ようにしてもよい。
【0021】
また、上述したベーパーチャンバの製造方法において、前記変形抑制部材を設ける工程において、前記変形抑制部材は、前記下側金属シートの下面および前記上側金属シートの上面のうちの少なくとも一方に、めっき処理によって形成される、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態によるベーパーチャンバを示す上面図である。
図2図2は、図1のA-A線断面図である。
図3図3は、図1のB-B線断面図である。
図4図4は、図1のC-C線断面図である。
図5図5は、図1の下側金属シートを示す上面図である。
図6図6は、図1の上側金属シートを示す下面図である。
図7図7は、曲げ強度の測定に用いる測定器を示す正面図である。
図8図8は、図7の測定器を用いた曲げ強度の測定工程を説明するための図である。
図9図9は、図1のベーパーチャンバの製造方法において、下側金属シートの準備工程を説明するための図である。
図10図10は、図1のベーパーチャンバの製造方法において、下側金属シートのハーフエッチング工程を説明するための図である。
図11図11は、図1のベーパーチャンバの製造方法において、ウィックの取付工程を説明するための図である。
図12図12は、図1のベーパーチャンバの製造方法において、仮止め工程を説明するための図である。
図13図13は、図1のベーパーチャンバの製造方法において、拡散接合工程を説明するための図である。
図14図14は、図1のベーパーチャンバの製造方法において、変形抑制部材の接合工程を説明するための図である。
図15図15は、図1のベーパーチャンバの製造方法において、作動液の封入工程を説明するための図である。
図16図16は、図1のベーパーチャンバの製造方法の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0025】
図1乃至図15を用いて、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態におけるベーパーチャンバ1は、作動液2が封入された密封空間3を有しており、密封空間3内の作動液2が相変化を繰り返すことにより、携帯端末やタブレット端末といったモバイル端末等で使用される中央演算処理装置(CPU)等の発熱を伴うデバイスD(被冷却装置)を冷却するための装置である。ベーパーチャンバ1は、概略的に薄い平板状に形成されている。
【0026】
図1乃至図4に示すように、ベーパーチャンバ1は、下側金属シート10と、下側金属シート10上に設けられた上側金属シート20と、を備えている。下側金属シート10および上側金属シート20は、いずれもベーパーチャンバ用金属シートに相当する。下側金属シート10の下面10b(とりわけ、後述する蒸発部11の下面)に、後述する下側変形抑制部材31を介して冷却対象物であるデバイスDが取り付けられる。下側金属シート10と上側金属シート20との間には、作動液2が封入された密封空間3が形成されている。作動液2の例としては、純水、エタノール、メタノール、アセトン等が挙げられる。下側金属シート10と上側金属シート20とは、後述する拡散接合によって接合されている。図1に示す形態では、下側金属シート10および上側金属シート20は、平面視でいずれも矩形状に形成されている例が示されているが、これに限られることはない。ここで平面視とは、ベーパーチャンバ1がデバイスDから熱を受ける面(下側金属シート10の下面10b)、および受けた熱を放出する面(上側金属シート20の上面20b)に直交する方向から見た状態であって、例えば、ベーパーチャンバ1を上方から見た状態(図1参照)、または下方から見た状態に相当している。なお、ベーパーチャンバ1がモバイル端末内に設置される場合、モバイル端末の姿勢によっては、下側金属シート10と上側金属シート20との上下関係が崩れる場合もある。しかしながら、本実施の形態では、デバイスDから熱を受ける液相側の金属シートを下側金属シート10と称し、受けた熱を放出する気相側の金属シートを上側金属シート20と称して説明する。
【0027】
図1乃至図5に示すように、下側金属シート10は、作動液2が蒸発して蒸気を生成する蒸発部11と、上面10a(上側金属シート20の側の面)に設けられ、平面視で矩形状に形成された下側流路凹部12と、を有している。このうち下側流路凹部12は、上述した密封空間3の一部を構成しており、主として、蒸発部11で生成された蒸気から凝縮した作動液2(図2乃至図4参照)を蒸発部11に輸送するように構成されている。この蒸発部11は、下側金属シート10の下面10bに取り付けられるデバイスDから熱を受けて、密封空間3内の作動液2が蒸発する部分である。このため、蒸発部11という用語は、デバイスDに重なっている部分に限られる概念ではなく、デバイスDに重なっていなくても作動液2が蒸発可能な部分をも含む概念として用いている。ここで蒸発部11は、下側金属シート10の任意の場所に設けることができるが、図5においては、下側金属シート10の中央部に設けられている例が示されている。この場合、ベーパーチャンバ1が設置されたモバイル端末の姿勢によらずに、ベーパーチャンバ1の動作の安定化を図ることができる。
【0028】
本実施の形態では、図1図2図4および図5に示すように、下側金属シート10の下側流路凹部12内に、下側流路凹部12の底面12a(後述)から上方(底面12aに垂直な方向)に突出する複数の下側流路突出部13が設けられている。本実施の形態では、下側流路突出部13は、円柱状のボスとして形成されている例が示されており、上面13aと側面とを含んでいる。また、各下側流路突出部13は、ベーパーチャンバ1の長手方向(図1および図5における左右方向)に沿って延び、等間隔に離間して配置されている。また、下側流路突出部13は、ベーパーチャンバ1の横断方向(長手方向に直交する横方向、図1および図5における上下方向)にも沿って配置されている。このようにして配置された下側流路突出部13の周囲には、下側流路凹部12の底面12aが形成されている。このようにして、下側流路突出部13の周囲を作動液2が流れるように構成されており、作動液2の流れが妨げられることを抑制している。また、下側流路突出部13は、上側金属シート20の対応する上側流路突出部22(後述)に平面視で重なるように配置されており、ベーパーチャンバ1の機械的強度の向上を図っている。
【0029】
図2乃至図4に示すように、下側流路凹部12のうち、蒸発部11を除く部分には、ウィックWが設けられている。ここで、ウィックとは、例えば銅線を不定形状に圧接した金属メッシュや、多孔質焼結体により形成され、毛細管作用を発揮する部材である。このウィックWは、毛細管作用を発揮することにより、下側流路凹部12内の作動液2に、蒸発部11に向かう推進力を与えることができるように構成されている。このようにして、蒸気から凝縮した下側流路凹部12内の作動液2が、蒸発部11に向かってスムースに輸送されるようになっている。なお、ウィックWは、下側流路凹部12の底面12aの全領域に設けられていてもよい。底面12aのうち蒸発部11に設けられたウィックWは、液状の作動液2とデバイスDから受けた熱との熱交換面積を増大させ、熱効率向上をさせることに寄与し得る。また、底面12aのうち蒸発部11の周囲に設けられたウィックWは、液状の作動液2を、蒸発部11に効果的に輸送することに寄与し得る。また、ウィックWは、下側流路凹部12の下側流路突出部13の間に嵌められるように取り付けられている。さらに、ウィックWの高さは、蒸発部11における熱交換面積を増大させることや、毛細管作用によって蒸発部11に向かう作動液2の流量を確保することができれば任意とすることができる。
【0030】
図4および図5に示すように、下側金属シート10の周縁部には、下側周縁壁14が設けられている。下側周縁壁14は、密封空間3、とりわけ下側流路凹部12を囲むように形成されており、密封空間3を画定している。また、平面視で下側周縁壁14の四隅に、下側金属シート10と上側金属シート20との位置決めをするための下側アライメント孔15がそれぞれ設けられている。
【0031】
本実施の形態では、上側金属シート20は、下側金属シート10と同一の構造を有している。すなわち、本実施の形態によるベーパーチャンバ1は、下側金属シート10を上下反転させると上側金属シート20になるように構成されており、下側金属シート10と同一構造の金属シートを2枚作製して、一方を上下反転させて互いに接合した構成になっている。以下に、上側金属シート20の構成についてより詳細に説明する。
【0032】
図1乃至図4および図6に示すように、上側金属シート20は、下面20a(下側金属シート10の側の面)に設けられた上側流路凹部21を有している。この上側流路凹部21は、密封空間3の一部を構成しており、主として、蒸発部11で生成された蒸気を拡散して冷却するように構成されている。より具体的には、上側流路凹部21内の蒸気は、蒸発部11から離れる方向に拡散して、蒸気の多くは、比較的温度の低い周縁部に輸送される。また、図2および図3に示すように、上側金属シート20の上面20bには、後述する上側変形抑制部材32を介してモバイル端末等のハウジングの一部を構成するハウジング部材Hが配置される。このことにより、上側流路凹部21内の蒸気は、上側金属シート20、上側変形抑制部材32およびハウジング部材Hを介して外気によって冷却される。
【0033】
本実施の形態では、図1および図6に示すように、上側金属シート20の上側流路凹部21内に、上側流路凹部21の天井面21a(上側金属シート20を上下反転させた場合には上側流路凹部21の底面に相当する)から下方(天井面21aに垂直な方向)に突出する複数の上側流路突出部22が設けられている。本実施の形態では、上側流路突出部22は、円柱状のボスとして形成されている例が示されており、下面22aと側面とを含んでいる。また、各上側流路突出部22は、ベーパーチャンバ1の長手方向に沿って延び、等間隔に離間して配置されている。また、上側流路突出部22は、ベーパーチャンバ1の横断方向にも沿って配置されている。このようにして配置された上側流路突出部22の周囲には、上側流路凹部21の天井面21a(下側流路凹部12の底面12aに相当する面)が形成されている。このようにして、上側流路突出部22の周囲を作動液2の蒸気が流れるように構成されており、蒸気の流れが妨げられることを抑制している。また、上側流路突出部22は、下側金属シート10の対応する下側流路突出部13に平面視で重なるように配置されており、ベーパーチャンバ1の機械的強度の向上を図っている。
【0034】
図4および図6に示すように、上側金属シート20の周縁部には、上側周縁壁23が設けられている。上側周縁壁23は、密封空間3、とりわけ上側流路凹部21を囲むように形成されており、密封空間3を画定している。また、平面視で上側周縁壁23の四隅に、下側金属シート10と上側金属シート20との位置決めをするための上側アライメント孔24がそれぞれ設けられている。すなわち、各上側アライメント孔24は、後述する仮止め時に、上述した各下側アライメント孔15に重なるように配置され、下側金属シート10と上側金属シート20との位置決めが可能に構成されている。
【0035】
このような下側金属シート10と上側金属シート20とは、好適には拡散接合で、互いに恒久的に接合されている。より具体的には、図2乃至図4に示すように、下側金属シート10の下側周縁壁14の上面14aと、上側金属シート20の上側周縁壁23の下面23aとが当接し、下側周縁壁14と上側周縁壁23とが互いに接合されている。このことにより、下側金属シート10と上側金属シート20との間に、作動液2を密封した密封空間3が形成されている。また、下側金属シート10の下側流路突出部13の上面13aと、上側金属シート20の上側流路突出部22の下面22aとが当接し、各下側流路突出部13と対応する上側流路突出部22とが互いに接合されている。このことにより、ベーパーチャンバ1の機械的強度を向上させている。とりわけ、本実施の形態による下側流路突出部13および上側流路突出部22は等間隔に配置されているため、ベーパーチャンバ1の各位置における機械的強度を均等化させることができる。なお下側金属シート10と上側金属シート20とは、拡散接合ではなく、恒久的に接合できれば、ろう付け等の他の方式で接合されていてもよい。
【0036】
また、図1図5および図6に示すように、ベーパーチャンバ1は、長手方向における一対の端部のうちの一方の端部に、密封空間3に作動液2を注入する注入部4を更に備えている。この注入部4は、下側金属シート10の端面から突出する下側注入突出部16と、上側金属シート20の端面から突出する上側注入突出部25と、を有している。このうち下側注入突出部16の上面に下側注入流路凹部17が形成され、上側注入突出部25の下面に上側注入流路凹部26が形成されている。下側注入流路凹部17は、下側流路凹部12に連通しており、上側注入流路凹部26は、上側流路凹部21に連通している。下側注入流路凹部17および上側注入流路凹部26は、下側金属シート10と上側金属シート20とが接合された際、作動液2の注入流路を形成する。当該注入流路を通過して作動液2は密封空間3に注入される。なお、本実施の形態では、注入部4は、ベーパーチャンバ1の長手方向における一対の端部のうちの一方の端部に設けられている例が示されているが、これに限られることはない。
【0037】
ところで、下側金属シート10および上側金属シート20に用いる材料は、熱伝導率が良好な材料であれば特に限られることはないが、例えば、下側金属シート10および上側金属シート20は、銅または銅合金により形成されていることが好適である。このことにより、下側金属シート10および上側金属シート20の熱伝導率を高めることができる。このため、ベーパーチャンバ1の放熱効率を高めることができる。また、後述する下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32を除くベーパーチャンバ1の厚さT0は、0.1mm~1.0mmである。下側金属シート10の厚さT1および上側金属シート20の厚さT2は、ハンドリングを良好にするために、変形抑制部材31、32を除くベーパーチャンバ1の厚さの半分にし、T1とT2を等しくすることが好適である。
【0038】
次に、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32について、図1乃至図4図7および図8を用いて説明する。
【0039】
図1乃至図4に示すように、下側金属シート10の下面10bおよび上側金属シート20の上面20bに、ベーパーチャンバ1の変形を抑制する変形抑制部材が設けられている。本実施の形態では、下側金属シート10の下面10bに設けられた変形抑制部材を下側変形抑制部材31と称し、上側金属シート20の上面20bに設けられた変形抑制部材を上側変形抑制部材32と称する。下側変形抑制部材31は、ベーパーチャンバ1がモバイル端末等のハウジング内に設置された際、下側金属シート10の下面10bと冷却対象物であるデバイスDとの間に介在される。上側変形抑制部材32は、ベーパーチャンバ1がモバイル端末等のハウジング内に設置された際、上側金属シート20の上面20bとハウジング部材Hとの間に介在される。また、本実施の形態では、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32は、平板状に形成されるとともに、平面視で矩形状に形成され、下側金属シート10の下面10bおよび上側金属シート20の上面20bの全域にそれぞれ設けられている。しかしながら、これに限られることはなく、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32の形状は、ベーパーチャンバ1の変形を抑制することができれば任意とすることができる。下側変形抑制部材31の厚さT3および上側変形抑制部材32の厚さT4は、各々の強度にもよるが、それぞれ、ベーパーチャンバ1の変形を抑制することができれば任意とすることができ、例えば、0.1mm~0.15mmとすることができる。
【0040】
このような下側変形抑制部材31の曲げ強度は、下側金属シート10の曲げ強度よりも大きくなっていることが好適である。このことにより、下側金属シート10および上側金属シート20を、下側変形抑制部材31により効果的に補強することができる。また、上側変形抑制部材32の曲げ強度は、上側金属シート20の曲げ強度よりも大きくなっていることが好適である。このことにより、下側金属シート10および上側金属シート20を、上側変形抑制部材32により効果的に補強することができる。ここで、曲げ強度という用語は、以下に規定する三点曲げ試験法によって得られる曲げ強度を意味するものとして用いている。
【0041】
曲げ強度の測定に用いる測定器としては、引張試験機(島津製作所社製のオートグラフAGS-H)と、三点曲げ試験用に作製した三点曲げ試験用治具とを組み合わせたものを用いる。すなわち、測定器50は、図7に示すように、試験片51の上方から試験片51を押圧する圧子52と、試験片51を下方から支持する一対の支持具53と、を含む。圧子52は、試験片51に沿って図7の紙面に垂直な方向に延びるように棒状に形成されている。この圧子52のうち、試験片51に接する先端部52aの半径Rは1.5mmとする。図7の紙面奥行方向における圧子52および支持具53の寸法は、約100mmとする。一対の支持具53間の距離L1は100mmとする。
【0042】
測定対象となる試験片51は矩形の平板状に形成されている。試験片51の長さL2は約150mm、試験片51の幅(図7の紙面奥行方向における試験片51の寸法)は約75mm、試験片51の厚さT5は約0.3mmとする。そして、このような試験片51を3個準備する。なお、測定対象の試験片51、圧子52および支持具53の位置合わせは、夫々の中心が一致するように目視で実施する。
【0043】
測定時には、図8に示すように、まず、試験片51の両端部を支持具53上に載置する。この際、試験片51の両端部は、支持具53に対して拘束されることなく、単に載置されるだけである。次に、圧子52を試験片51の上面に当接させる。続いて、圧子52を一定の下降速度(0.5mm/s)で、試験片51との当接地点から30mmまで下降させる。その後、圧子52を上昇させ、圧子52を試験片51から引き離す。圧子52を下降させている間に、圧子52に加えられた最大荷重を測定する。そして、3個の試験片51で同様に最大荷重を測定し、得られた最大荷重の平均値を、本実施の形態による曲げ強度とする。
【0044】
また、下側変形抑制部材31の熱膨張係数は、下側金属シート10の熱膨張係数よりも大きいことが好適である。この場合、ベーパーチャンバ1の作動時に、熱膨張による伸びが上側金属シート20よりも小さくなり得る下側金属シート10の熱膨張による伸びを、増加させることができる。
【0045】
また、上側変形抑制部材32の熱膨張係数は、上側金属シート20の熱膨張係数よりも小さいことが好適である。この場合、ベーパーチャンバ1の作動時に、熱膨張による伸びが下側金属シート10よりも大きくなり得る上側金属シート20の熱膨張による伸びを、低減させることができる。
【0046】
ところで、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32に用いる材料としては、ベーパーチャンバ1の変形を抑制することができれば特に限られることはない。例えば、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32は、SUS304、SUS316L等のステンレス鋼により形成されていることが好適である。
【0047】
例えば、下側金属シート10が銅により形成され、下側変形抑制部材31がSUS304により形成されている場合について説明する。銅の0℃~100℃における熱膨張係数は、16.6×10-6/Kであり、SUS304の0℃~100℃における熱膨張係数は17.3×10-6/Kである。このため、下側変形抑制部材31の熱膨張係数を、下側金属シート10の熱膨張係数よりも大きくすることができる。
【0048】
また、上側金属シート20が銅により形成され、上側変形抑制部材32がSUS316Lにより形成されている場合について説明する。SUS316Lの0℃~100℃における熱膨張係数は16.0×10-6/Kである。このため、上側変形抑制部材32の熱膨張係数を、上側金属シート20の熱膨張係数よりも小さくすることができる。
【0049】
下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32が、上述のようなステンレス鋼により形成されている場合には、接着剤、ろう付け、はんだ付け、拡散接合、レーザ溶接等によってそれぞれ下側金属シート10および上側金属シート20に取り付けることができる。
【0050】
なお、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32は、ステンレス鋼により形成されていることに限られない。例えば、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32は、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、クロム、モリブデン等の硬質金属、またはこれらの合金によって形成されていてもよい。
【0051】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。ここでは、まず、ベーパーチャンバ1の製造方法について、図9乃至図15を用いて説明するが、上側金属シート20のハーフエッチング工程の説明は簡略化する。なお、図9乃至図15では、図4の横断面と同様の横断面を示している。
【0052】
まず、図9に示すように、平板状の下側金属シート10を準備する。ここで準備される下側金属シート10は、図5に示すような外形輪郭形状を有している。
【0053】
続いて、図10に示すように、下側金属シート10がハーフエッチングされて、密封空間3の一部を構成する下側流路凹部12が形成される。この場合、まず、下側金属シート10の上面10aに図示しないレジスト膜が、フォトリソグラフィー技術によって、複数の下側流路突出部13および下側周縁壁14に対応するパターン状に形成される。続いて、ハーフエッチング工程として、下側金属シート10の上面10aがハーフエッチングされる。このことにより、下側金属シート10の上面10aのうちレジスト膜の開口(図示せず)に対応する部分がハーフエッチングされて、図10に示すような下側流路凹部12、下側流路突出部13および下側周縁壁14が形成される。この際、図1および図5に示す下側注入流路凹部17も同時に形成される。ハーフエッチング工程の後、レジスト膜が除去される。なお、ハーフエッチングとは、材料を貫通しないような凹部を形成するためのエッチングを意味している。このため、ハーフエッチングにより形成される凹部の深さは、下側金属シート10の厚さの半分であることには限られない。エッチング液には、例えば、塩化第二鉄水溶液等の塩化鉄系エッチング液、または塩化銅水溶液等の塩化銅系エッチング液を用いることができる。
【0054】
一方、下側金属シート10と同様にして、上側金属シート20が下面20aからハーフエッチングされて、上側流路凹部21、上側流路突出部22および上側周縁壁23が形成される。このようにして、上述した上側金属シート20が得られる。
【0055】
次に、図11に示すように、下側流路凹部12の下側流路突出部13の間にウィックWが挿入されて嵌められる。
【0056】
次に、図12に示すように、下側流路凹部12を有する下側金属シート10と、上側流路凹部21を有する上側金属シート20とが仮止めされる。この場合、まず、下側金属シート10の下側アライメント孔15(図1および図5参照)と上側金属シート20の上側アライメント孔24(図1および図6参照)とを利用して、下側金属シート10と上側金属シート20とが位置決めされる。続いて、下側金属シート10と上側金属シート20とが固定される。固定の方法としては、特に限られることはないが、例えば、下側金属シート10と上側金属シート20とに対して抵抗溶接を行うことによって下側金属シート10と上側金属シート20とを固定してもよい。この場合、図12に示すように、電極棒40を用いてスポット的に抵抗溶接を行うことが好適である。抵抗溶接の代わりにレーザ溶接を行ってもよい。あるいは、超音波を照射して下側金属シート10と上側金属シート20とを超音波接合して固定してもよい。さらには、接着剤を用いてもよいが、有機成分を有しないか、若しくは有機成分が少ない接着剤を用いることが好適である。このようにして、下側金属シート10と上側金属シート20とが、位置決めされた状態で固定される。
【0057】
仮止めの後、図13に示すように、下側金属シート10と上側金属シート20とが、拡散接合によって恒久的に接合される。拡散接合とは、接合する下側金属シート10と上側金属シート20とを密着させ、真空や不活性ガス中などの制御された雰囲気中で、各金属シート10、20を密着させる方向に加圧するとともに加熱して、接合面に生じる原子の拡散を利用して接合する方法である。拡散接合は、下側金属シート10および上側金属シート20の材料を融点に近い温度まで加熱するが、融点よりは低いため、各金属シート10、20が溶融して変形することを回避できる。より具体的には、下側金属シート10の下側周縁壁14の上面14aと上側金属シート20の上側周縁壁23の下面23aとが、接合面となって拡散接合される。このことにより、下側周縁壁14と上側周縁壁23とによって、下側金属シート10と上側金属シート20との間に密封空間3が形成される。また、下側注入流路凹部17(図1および図5参照)と上側注入流路凹部26(図1および図6参照)とによって、密封空間3に連通する作動液2の注入流路が形成される。さらに、下側金属シート10の下側流路突出部13の上面13aと、上側金属シート20の上側流路突出部22の下面22aとが、接合面となって拡散接合され、ベーパーチャンバ1の機械的強度が向上する。
【0058】
恒久的な接合の後、図14に示すように、下側金属シート10の下面10bに、下側変形抑制部材31が接合され、上側金属シート20の上面20bに、上側変形抑制部材32が接合される。この場合、例えば、下側金属シート10と下側変形抑制部材31、および上側金属シート20と上側変形抑制部材32とを、接着剤、ろう付け、はんだ付け、拡散接合、レーザ溶接等によって接合してもよい。また、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32は、下側金属シート10の下面10bおよび上側金属シート20の上面20bに、めっきによって形成されてもよい。
【0059】
次に、図15に示すように、注入部4(図1参照)から密封空間3に作動液2が注入される。この際、まず、密封空間3が真空引きされて減圧され、その後に、作動液2が密封空間3に注入される。注入時、作動液2は、下側注入流路凹部17と上側注入流路凹部26とにより形成された注入流路を通過する。
【0060】
作動液2の注入の後、上述した注入流路が封止される。例えば、注入部4にレーザを照射し、注入部4を部分的に溶融させて注入流路を封止することが好適である。このことにより、密封空間3と外気との連通が遮断され、作動液2が密封空間3に封入される。このようにして、密封空間3内の作動液2が外部に漏洩することが防止される。
【0061】
以上のようにして、本実施の形態によるベーパーチャンバ1が得られる。
【0062】
上述のようにして得られたベーパーチャンバ1は、モバイル端末等のハウジング内に設置されるとともに、下側金属シート10の下面10bに、下側変形抑制部材31を介して被冷却対象物であるCPU等のデバイスDが取り付けられる。このとき、下側変形抑制部材31の曲げ強度が、下側金属シート10の曲げ強度よりも大きく、上側変形抑制部材32の曲げ強度が、上側金属シート20の曲げ強度よりも大きくなっている。このことにより、下側金属シート10および上側金属シート20が、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32により補強され、ベーパーチャンバ1の剛性が効果的に高められる。このため、ベーパーチャンバ1をモバイル端末等のハウジング内に設置する際に、ベーパーチャンバ1の変形、とりわけ曲げ変形が抑制される。
【0063】
次に、ベーパーチャンバ1の作動方法、すなわち、デバイスDの冷却方法について説明する。
【0064】
下側金属シート10が鉛直下方に配置され、上側金属シート20が鉛直上方に配置される場合には、密封空間3に封入された作動液2の多くは、重力の影響を受けて、下側金属シート10の下側流路凹部12に滞留する。
【0065】
この状態でデバイスDが発熱すると、下側流路凹部12のうち蒸発部11に存在する作動液2が、下側変形抑制部材31を介してデバイスDから熱を受ける。受けた熱は潜熱として吸収されて作動液2が蒸発(気化)し、作動液2の蒸気が生成される。生成された蒸気の多くは、密封空間3内を上昇して上側流路凹部21内に拡散する。生成された蒸気の一部は、下側金属シート10の下側流路凹部12内で拡散する。上側流路凹部21内および下側流路凹部12内の蒸気は、蒸発部11から離れ、蒸気の多くは、比較的温度の低い周縁部に輸送される。拡散した蒸気は、上側金属シート20に放熱して冷却される。上側金属シート20が蒸気から受けた熱は、ハウジング部材H(図2および図3参照)を介して外気に伝達される。
【0066】
蒸気は、上側金属シート20に放熱することにより、蒸発部11において吸収した潜熱を失って凝縮する。液状になった作動液2の多くは、上側流路凹部21内を下降して、下側流路凹部12に達する。蒸発部11では作動液2が蒸発し続けているため、下側流路凹部12のうち蒸発部11以外の部分における作動液2は、蒸発部11に向かって輸送される。この際、下側流路凹部12には、毛細管作用を発揮することができるウィックWが設けられている。このため、ウィックWの毛細管作用により、作動液2は、蒸発部11に向かう推進力を得て、蒸発部11に向かってスムースに輸送される。
【0067】
蒸発部11に達した作動液2は、デバイスDから再び熱を受けて蒸発する。このようにして、作動液2が、相変化、すなわち蒸発と凝縮とを繰り返しながらベーパーチャンバ1内を還流してデバイスDの熱を移動させて放出する。この結果、デバイスDが冷却される。
【0068】
ところで、ベーパーチャンバ1の作動時には、上述したように、作動液2がデバイスDから熱を受け、作動液2の蒸気が生成される。そして、生成された蒸気は、主として上側流路凹部21に拡散する。このため、下側金属シート10および上側金属シート20並びに下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32は、熱膨張する。また、上述したように下側金属シート10の下側流路凹部12は、主として比較的温度が低い液状の作動液2を輸送する。このことにより、下側金属シート10の熱膨張による伸びよりも上側金属シート20の熱膨張による伸びの方が大きくなり得る。このため、下側金属シート10の熱膨張による伸びと、上側金属シート20の熱膨張による伸びとの差によってベーパーチャンバ1に反りが発生し得る。
【0069】
しかしながら本実施の形態では、下側金属シート10よりも大きい曲げ強度を有する下側変形抑制部材31が下側金属シート10の下面10bに設けられている。また、上側金属シート20よりも大きい曲げ強度を有する上側変形抑制部材32が上側金属シート20の上面20bに設けられている。このことにより、下側金属シート10および上側金属シート20が、下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32により補強される。このため、ベーパーチャンバ1の剛性が確保され、ベーパーチャンバ1の変形が抑制される。
【0070】
また、本実施の形態では、下側変形抑制部材31の熱膨張係数が、下側金属シート10の熱膨張係数よりも大きくなっている。このことにより、下側変形抑制部材31の熱膨張による伸びは、下側金属シート10の熱膨張による伸びよりも大きくなる。このため、下側変形抑制部材31によって、下側金属シート10の伸びが増加する。また、上側変形抑制部材32の熱膨張係数が、上側金属シート20の熱膨張係数よりも小さくなっている。このことにより、上側変形抑制部材32の熱膨張による伸びは、上側金属シート20の熱膨張による伸びよりも小さくなる。このため、上側変形抑制部材32によって、上側金属シート20の熱膨張による伸びが低減する。この結果、下側金属シート10の熱膨張による伸びと、上側金属シート20の熱膨張による伸びとの差が小さくなる。このため、下側金属シート10の熱膨張による伸びと、上側金属シート20の熱膨張による伸びとの差に起因するベーパーチャンバ1の反りによる変形が抑制される。
【0071】
このように本実施の形態によれば、下側金属シート10の下面10bに下側変形抑制部材31が設けられ、上側金属シート20の上面20bに上側変形抑制部材32が設けられている。このことにより、ベーパーチャンバ1の変形を抑制することができる。このため、ベーパーチャンバ1の変形によって、密封空間3を構成する下側流路凹部12および上側流路凹部21の流路面積が減少することを防止でき、ベーパーチャンバ1の安定的な動作を確保することができる。
【0072】
また、本実施の形態によれば、下側金属シート10よりも大きい曲げ強度を有する下側変形抑制部材31が下側金属シート10の下面10bに設けられ、上側金属シート20よりも大きい曲げ強度を有する上側変形抑制部材32が上側金属シート20の上面20bに設けられている。このことにより、下側金属シート10および上側金属シート20を下側変形抑制部材31および上側変形抑制部材32により補強することができる。このため、ベーパーチャンバ1の剛性を効果的に高めることができ、ベーパーチャンバ1の変形を抑制することができる。この場合、ベーパーチャンバ1をモバイル端末等へ設置する際のベーパーチャンバ1の変形を抑制することができるため、ベーパーチャンバ1のハンドリングを容易にすることができる。また、密封空間3の真空引き時におけるベーパーチャンバ1の変形を抑制することができる。さらには、ベーパーチャンバ1に他の部品等をはんだ付けで接合する場合に生じる熱膨張によって変形することなどを抑制することができる。
【0073】
また、本実施の形態によれば、下側変形抑制部材31の熱膨張係数が、下側金属シート10の熱膨張係数よりも大きく、上側変形抑制部材32の熱膨張係数が、上側金属シート20の熱膨張係数よりも小さくなっている。このことにより、下側変形抑制部材31の熱膨張による伸びを、下側金属シート10の熱膨張による伸びよりも大きくすることができ、上側変形抑制部材32の熱膨張による伸びを、上側金属シート20の熱膨張による伸びよりも小さくすることができる。このため、下側変形抑制部材31が、下側金属シート10の伸びを増加させることができ、上側変形抑制部材32が上側金属シート20の伸びを低減させることができる。この結果、下側変形抑制部材31の熱膨張による伸びと、上側変形抑制部材32の熱膨張による伸びとの差を小さくすることができる。このため、下側金属シート10の熱膨張による伸びと、上側金属シート20の熱膨張による伸びとの差に起因するベーパーチャンバ1の反りによる変形を抑制できる。
【0074】
なお、上述した本実施の形態においては、下側金属シート10の下面10bおよび上側金属シート20の上面20bに、ベーパーチャンバ1の変形を抑制する変形抑制部材31、32が設けられている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、例えば、変形抑制部材31、32は、下側金属シート10の下面10bおよび上側金属シート20の上面20bの一方には設けられていなくてもよい。この場合においても、ベーパーチャンバ1の変形を、下側変形抑制部材31または上側変形抑制部材32により抑制することができる。なお、下側変形抑制部材31が設けられない場合、デバイスD(図1乃至図3および図5参照)は、ベーパーチャンバ1がモバイル端末等のハウジング内に設置された際、下側金属シート10の下面10bに取り付けられる。また、上側変形抑制部材32が設けられない場合、ハウジング部材H(図2および図3参照)は、ベーパーチャンバ1がモバイル端末等のハウジング内に設置された際、上側金属シート20の上面20bに配置される。
【0075】
また、上述した本実施の形態においては、下側変形抑制部材31の曲げ強度が、下側金属シート10の曲げ強度よりも大きく、上側変形抑制部材32の曲げ強度が、上側金属シート20の曲げ強度よりも大きくなっている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはない。例えば、下側変形抑制部材31の曲げ強度が、下側金属シート10の曲げ強度よりも大きくなっていなくても、下側変形抑制部材31の熱膨張係数が、下側金属シート10の熱膨張係数よりも大きくなっていればよい。また、上側変形抑制部材32の曲げ強度が、上側金属シート20の曲げ強度よりも大きくなっていなくても、上側変形抑制部材32の熱膨張係数が、上側金属シート20の熱膨張係数よりも小さくなっていればよい。この場合、上述したように、下側変形抑制部材31の熱膨張による伸びと、上側変形抑制部材32の熱膨張による伸びとの差を小さくすることができる。このため、下側金属シート10の熱膨張による伸びと、上側金属シート20の熱膨張による伸びとの差に起因するベーパーチャンバ1の反りによる変形を抑制できる。
【0076】
また、上述した本実施の形態においては、複数の下側流路突出部13がベーパーチャンバ1の長手方向に沿って配置されているとともに、ベーパーチャンバ1の横断方向にも沿って配置されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、複数の下側流路突出部13の配置は、上側流路突出部22に当接してベーパーチャンバ1の機械的強度を確保することができれば、任意である。
【0077】
また、上述した本実施の形態においては、下側金属シート10の下側流路突出部がボスとして形成されるとともに、上側金属シート20の上側流路突出部がボスとして形成されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはない。すなわち、蒸発部11で生成された蒸気を密封空間3内に拡散することができるとともに、蒸気から凝縮した作動液2を蒸発部11に輸送し、さらに、下側流路突出部と上側流路突出部とを当接させることができれば、下側流路突出部および上側流路突出部の形状は、任意である。
【0078】
より具体的には、上側流路突出部および下側流路突出部の少なくとも一方は、所定の方向に沿って略平行に細長状に延びる壁(図示せず)として形成されていてもよい。この壁は、ベーパーチャンバ1の長手方向に沿って延びてもよく、平面視で蒸発部11から放射方向に沿って延びていてもよい。この場合においても下側流路突出部と上側流路突出部は、平面視で重なるように配置することが好適である。
【0079】
また、上側金属シート20は、平板状に形成され、上側流路凹部21を有していなくてもよい。この場合には、蒸発部11において蒸発した作動液2の蒸気は、下側金属シート10の下側流路凹部12内で拡散し、上側金属シート20に放熱して冷却され、凝縮される。すなわち、密封空間3の全体が下側流路凹部12によって構成される。また、上側金属シート20が平板状に形成された場合には、ベーパーチャンバ1の機械的強度を向上させることができる。
【0080】
さらに、上述した本実施の形態においては、恒久的な接合として下側金属シート10と上側金属シート20とが拡散接合された後、下側金属シート10の下面10bに、下側変形抑制部材31が接合されるとともに、上側金属シート20の上面20bに、上側変形抑制部材32が接合される例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、例えば、図16に示すように、変形抑制部材31、32は、下側金属シート10と上側金属シート20とが拡散接合される前に、対応する金属シート10、20に接合されるようにしてもよい。この場合、下側変形抑制部材31が接合された下側金属シート10と、上側変形抑制部材32が接合された上側金属シート20とが、拡散接合によって恒久的に接合される。なお、下側変形抑制部材31が接合された下側金属シート10(ベーパーチャンバ用金属シート)が、ベーパーチャンバ用金属シート組合体110に相当する。同様に、上側変形抑制部材32が接合された上側金属シート20(ベーパーチャンバ用金属シート)も、ベーパーチャンバ用金属シート組合体120に相当する。この場合、変形抑制部材31、32は、上側金属シート20または下側金属シート10にめっき処理によって析出されためっき層33によって構成され、このめっき層33が、金属シート10、20に接合されていることが好適である。めっき層33の例としては、ニッケルめっき、ニッケルコバルト合金めっき、硬質クロムめっき、ニッケルリンめっき等の硬質めっき層が挙げられる。しかしながら、図16に示す変形例においても、変形抑制部材31、32は、上述した本実施の形態のような材料によって金属シート10、20とは別体に形成して、金属シート10、20に接合するようにしてもよい。
【0081】
本発明は上記実施の形態および変形例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態および変形例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。実施の形態および変形例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 ベーパーチャンバ
2 作動液
3 密封空間
10 下側金属シート
10b 下面
11 蒸発部
12 下側流路凹部
20 上側金属シート
20b 上面
21 上側流路凹部
31 下側変形抑制部材
32 上側変形抑制部材
110、120 ベーパーチャンバ用金属シート組合体
D デバイス
図1
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