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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】推定方法、および、推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/46 20060101AFI20240927BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20240927BHJP
   G01S 13/52 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S7/02 216
G01S13/52
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023531747
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2022023087
(87)【国際公開番号】W WO2023276592
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021108202
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中山 武司
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 翔一
(72)【発明者】
【氏名】本間 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥアイニ アブドゥサイミ
(72)【発明者】
【氏名】白木 信之
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-109389(JP,A)
【文献】特開2015-072173(JP,A)
【文献】特開2017-129558(JP,A)
【文献】特開2012-112712(JP,A)
【文献】特開2020-190566(JP,A)
【文献】特開2019-132850(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2243445(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00 - 3/74
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置が実行する推定方法であって、
測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子を用いて第一送信信号を複数回送信し、
前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第一受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第一受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、
測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子を用いて第二送信信号を複数回送信し、
前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第二受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第二受信信号を、前記第一期間に観測し、
前記第一期間に観測された前記複数の第一受信信号、および前記複数の第二受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出し、前記第一結合複素伝達関数の算出では、前記複数の第一受信信号から算出される第一複素伝達関数と、前記複数の第二受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、前記第一複素伝達関数と前記第二複素伝達関数とを結合することで前記第一結合複素伝達関数を算出し、
前記第一結合複素伝達関数の全要素を、生体を経由しない直接波である第一結合複素伝達関数の一つの要素にて除算することで第二結合複素伝達関数を算出し、
複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を算出し、
所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する
推定方法。
【請求項2】
前記第一結合複素伝達関数を算出する際には、
前記第一送信信号の第一エレメントと前記第二送信信号の第一エレメントとを用いて、前記複数の第一受信信号から算出される第一複素伝達関数と、前記複数の第二受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、前記第一複素伝達関数と前記第二複素伝達関数とを結合することで、前記第一結合複素伝達関数を算出する
請求項1記載の推定方法。
【請求項3】
前記第二結合複素伝達関数を算出する際には、
前記第一結合複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一結合複素伝達関数から、
(1)アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、
(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換、または、前記第一受信信号もしくは前記第二受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、
の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二結合複素伝達関数を算出する
請求項2記載の推定方法。
【請求項4】
前記第二結合複素伝達関数を算出する際には、
前記第一送信信号の第一エレメントと前記第二送信信号の第一エレメントとによる位相補正を前記第一送信信号と前記第二送信信号とに施すことによって、前記第一送信信号と前記第二送信信号との一方に対する他方の位相回転を消失させることで、前記第二結合複素伝達関数を算出する
請求項1記載の推定方法。
【請求項5】
M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置が実行する推定方法であって、
測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれより第一送信信号を複数回送信し、
前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子により受信された複数の第三受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第三受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、
測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれより第二送信信号を複数回送信し、
前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子により受信された複数の第四受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第四受信信号を、前記第一期間に観測し、
前記第一期間に観測された前記複数の第三受信信号、および前記複数の第四受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出し、前記第一結合複素伝達関数の算出では、前記複数の第三受信信号から算出される第一複素伝達関数と、前記複数の第四受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、前記第一複素伝達関数と前記第二複素伝達関数とを結合することで前記第一結合複素伝達関数を算出し、
前記第一結合複素伝達関数の全要素を、生体を経由しない直接波である第一結合複素伝達関数の一つの要素にて除算することで第二結合複素伝達関数を算出し、
複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を算出し、
所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する
推定方法。
【請求項6】
前記第一結合複素伝達関数を算出する際には、
前記第三受信信号の第一エレメントと前記第四受信信号の第一エレメントとを用いて、前記複数の第三受信信号から算出される第一複素伝達関数と、前記複数の第四受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、前記第一複素伝達関数と前記第二複素伝達関数とを結合することで、前記第一結合複素伝達関数を算出する
請求項5記載の推定方法。
【請求項7】
前記第二結合複素伝達関数を算出する際には、
前記第一結合複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一結合複素伝達関数から、
(1)アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、
(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換、または、前記第三受信信号もしくは前記第四受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、
の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二結合複素伝達関数を算出する
請求項6記載の推定方法。
【請求項8】
前記第二結合複素伝達関数を算出する際には、
前記第三受信信号の第一エレメントと前記第四受信信号の第一エレメントとによる位相補正を前記第三受信信号と前記第四受信信号とに施すことによって、前記第三受信信号と前記第四受信信号との一方に対する他方の位相回転を消失させることで、前記第二結合複素伝達関数を算出する
請求項5記載の推定方法。
【請求項9】
前記第二結合複素伝達関数の算出では、
前記第一結合複素伝達関数から一つの要素を抽出し、抽出した前記一つの要素で、前記第一結合複素伝達関数の全要素を除算することで、前記第二結合複素伝達関数を算出する
請求項3または7に記載の推定方法。
【請求項10】
前記第二結合複素伝達関数の算出では、
前記第一結合複素伝達関数の全要素の平均値を算出し、算出した前記平均値で、前記第一結合複素伝達関数の全要素を除算することで、前記第二結合複素伝達関数を算出する
請求項3または7に記載の推定方法。
【請求項11】
前記第二結合複素伝達関数の算出では、
前記第一結合複素伝達関数について所定の方法で相関行列を算出し、前記相関行列を固有値分解することで、1以上の固有値と、前記1以上の固有値それぞれに対応する固有ベクトルを算出し、
算出した1以上の前記固有ベクトルのうち、算出した前記1以上の固有値のうちの最大の固有値に対応する固有ベクトルを前記第一結合複素伝達関数に乗算することで、直接波のチャネル成分である第三複素伝達関数を算出し、
前記第一結合複素伝達関数の全要素を前記第三複素伝達関数にて除算することで、前記第二結合複素伝達関数を算出する
請求項3または7に記載の推定方法。
【請求項12】
前記第二結合複素伝達関数の算出では、
前記第一結合複素伝達関数について所定の方法で特異値分解することで左特異ベクトルおよび右特異ベクトルを算出し、前記左特異ベクトルおよび前記右特異ベクトルを前記第一結合複素伝達関数に乗算することで、直接波のチャネル成分である第四複素伝達関数を算出し、
前記第一結合複素伝達関数の全要素を前記第四複素伝達関数にて除算することで、前記第二結合複素伝達関数を算出する
請求項3または7に記載の推定方法。
【請求項13】
前記所定の到来方向推定手法は、MUSIC(MUltipleSIgnal Classification)法、ビームフォーマ法、およびCapon法のいずれかを少なくとも用いる推定手法である
請求項1~8のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項14】
前記第一受信信号または前記第二受信信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に変調されている信号である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項15】
前記第三受信信号または前記第四受信信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に変調されている信号である、
請求項5~8のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項16】
M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置であって、
前記第一無線機が、測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子を用いて第一送信信号を複数回送信し、
前記第二無線機が、前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第一受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第一受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、
前記第二無線機が、測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子を用いて第二送信信号を複数回送信し、
前記第一無線機が、前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第二受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第二受信信号を、前記第一期間に観測し、
前記推定装置は、さらに、
前記第一期間に観測された前記複数の第一受信信号、および前記複数の第二受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出し、前記第一結合複素伝達関数の算出では、前記複数の第一受信信号から算出される第一複素伝達関数と、前記複数の第二受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、前記第一複素伝達関数と前記第二複素伝達関数とを結合することで前記第一結合複素伝達関数を算出する第一結合複素伝達関数算出部と、
前記第一結合複素伝達関数の全要素を、生体を経由しない直接波である第一結合複素伝達関数の一つの要素にて除算することで第二結合複素伝達関数を算出する第二結合複素伝達関数算出部と、
複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を抽出する生体情報算出部と、
所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する位置推定処理部とを備える
推定装置。
【請求項17】
M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置であって、
前記第一無線機が、測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれより第一送信信号を複数回送信し、
前記第二無線機が、前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子により受信された複数の第三受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第三受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、
前記第二無線機が、測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれより第二送信信号を複数回送信し、
前記第一無線機が、前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子により受信された複数の第四受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第四受信信号を、前記第一期間に観測し、
前記推定装置は、さらに、
前記第一期間に観測された前記複数の第三受信信号、および前記複数の第四受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出し、前記第一結合複素伝達関数の算出では、前記複数の第三受信信号から算出される第一複素伝達関数と、前記複数の第四受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、前記第一複素伝達関数と前記第二複素伝達関数とを結合することで前記第一結合複素伝達関数を算出する第一結合複素伝達関数算出部と、
前記第一結合複素伝達関数の全要素を、生体を経由しない直接波である第一結合複素伝達関数の一つの要素にて除算することで第二結合複素伝達関数を算出する第二結合複素伝達関数算出部と、
複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を抽出する生体情報算出部と、
所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する位置推定処理部とを備える
推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線信号を利用することで生体の方向または位置を推定する推定方法、および、推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1または特許文献2では、人物の位置などを知る方法として、無線信号を利用する方法が開示されている。特許文献1には、無線機の複素伝達関数の周波数応答を利用して検出対象となる人物の位置を知る方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、無線機の複素伝達関数のうち、所定の間隔の2つの時点における2つの複素伝達関数の差分情報を利用して検出対象となる人物の位置または状態を知る方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、複数のセンサ間でタイマー補正命令によりタイミング補正を行う方法が開示されている。特許文献4には、2つのセンサの統計結果に基づいて疲労度を測定する方法が開示されている。特許文献5には、人により発生したドップラシフトと、送信機と受信機との間のクロック周波数誤差とを区別する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-72173号公報
【文献】特開2017-129558号公報
【文献】特開2014-216786号公報
【文献】特開2011-019845号公報
【文献】特開2020-109389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~5に示される技術では、例えばM本のアンテナを持つ送信機とN本のアンテナを持つ受信機とによって構成される推定装置に対する生体の方向または位置を推定するには、M×Nの要素をもつチャネル状態情報(CSI:Channel State Information、以下CSIと呼称する)の取得が必要である。
【0007】
昨今の無線機では、例えば、M×1、または、1×NといったCSIの一部だけを出力する無線機が存在する。これらのCSIの一部だけを出力する無線機では、生体の方向または位置を推定することが難しいという問題がある。
【0008】
本開示は、上述の事情を鑑みてなされたもので、CSIの一部を少なくとも出力する無線機、具体的には、SIMO(Single Input Multiple Output)またはMISO(Multiple Input Single Output)などに対応した無線機を用いて、推定装置に対する生体の方向または位置を精度よく推定することができる推定方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示の一形態に係る推定方法は、M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置が実行する推定方法であって、測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子を用いて第一送信信号を複数回送信し、前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第一受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第一受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子を用いて第二送信信号を複数回送信し、前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第二受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第二受信信号を、前記第一期間に観測し、前記第一期間に観測された前記複数の第一受信信号、および前記複数の第二受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出し、所定の方法で、複数の前記第一結合複素伝達関数に、前記第一無線機と前記第二無線機とに生じたクロック周波数誤差と送信電力誤差との影響を抑制する演算を施すことで、複数の第二結合複素伝達関数を算出し、複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を算出し、所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する推定方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて推定装置に対する生体の方向または位置を精度よく推定する方法などを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施の形態1における推定装置の構成、および、検出対象の一例を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示すアンテナ部における信号波の伝達の様子を概念的に示す図である。
図3図3は、実施の形態1における推定装置の構成、および、検出対象の一例を示すブロック図である。
図4図4は、実施の形態1における受信したI信号およびQ信号の周波数成分の一例を示す概念図である。
図5図5は、実施の形態1における推定装置の推定処理を示すフローチャートである。
図6図6は、実施の形態2における推定装置の構成、および、検出対象の一例を示すブロック図である。
図7図7は、実施の形態2における推定装置の構成、および、検出対象の一例を示すブロック図である。
図8図8は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験の概念を示す図である。
図9図9は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験の条件を示す図である。
図10図10は、実施の形態2に係る推定方法を用いた実験結果を示す図である。
図11図11は、実施の形態2に係る推定方法を用いた別の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示の基礎となった知見)
人物の位置などを知る方法として、無線信号を利用する方法が検討されている。
【0013】
例えば特許文献1には、フーリエ変換を用いてドップラシフトを含む成分を解析することで検出対象となる人物の位置または状態を知る方法が開示されている。より具体的には、複素伝達関数の要素の時間変化を記録し、その時間波形をフーリエ変換する。人物などの生体は、呼吸または心拍などの生体活動により、反射波に僅かなドップラ効果を与える。したがって、ドップラシフトを含む成分は、人物の影響を含んでいる。一方、ドップラシフトのない成分は、人物の影響を受けていない無線信号、つまり固定物からの反射波または送受信アンテナ間の直接波に対応する。以上のことから、特許文献1では、ドップラシフトを含む成分を解析することで検出対象となる人物の位置または状態を知ることができることが開示されている。
【0014】
また、特許文献2には、無線機の複素伝達関数のうち、所定の間隔の2つの時点における2つの複素伝達関数の差分情報を利用して、検出対象となる人物の位置または状態を知る方法が開示されている。
【0015】
また、特許文献3には、複数のセンサ間にタイマー補正命令を送りタイミング補正する方法が開示されているが、無線機のRF信号の位相調整をコマンドで行うのは難しい。また、特許文献4は、加速度センサを対象とした技術であって、無線機に適用することは難しい。
【0016】
また、特許文献3には、送信機と受信機との間のクロック周波数誤差、ならびに、AD変換機およびDA変換機内で使われるサンプリングクロック周波数誤差など、送信機および受信機由来の周波数変動に関して、人により発生したドップラシフトとクロック周波数誤差により発生した成分を抑制して人の位置を推定する方法が開示されている。
【0017】
しかしながら、特許文献1~5に示される技術では、例えばM本のアンテナを持つ送信機とN本のアンテナを持つ受信機とによって構成される推定装置に対する生体の方向または位置を推定するには、M×Nの要素をもつCSIの取得が必要である。
【0018】
昨今の無線機では、例えばM×1の要素、または、1×Nの要素というように、CSIの一部だけを出力する無線機が存在する。これらのCSIの一部だけを出力する無線機では、M×Nの要素をもつCSIを取得することができないので、生体の方向または位置を推定することが難しいという問題がある。
【0019】
発明者らは、上記問題に対して研究を重ねた結果、図1および図3に示すように、往路と復路とのCSIを取得し、取得したCSIを位相回転に配慮して結合することで、推定装置の相関関数(より具体的には相関行列)を算出できることを見出した。ここでは、発明者らは、特許文献4記載のクロック周波数誤差に加え、CSI取得時刻の違いまたは位相ズレ、往路および復路による位相回転の反転などを考慮すればよいことを見出した。これにより、発明者らは、例えば、往路と復路とのCSIの第一エレメントに着目し、一方の位相に合わせてから他方と結合することで、チャネルを生成することが可能であること、そして、CSIの一部だけを出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定する方法等を見出すことに至った。
【0020】
本開示の一態様に係る推定方法は、M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置が実行する推定方法であって、測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子を用いて第一送信信号を複数回送信し、前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第一受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第一受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子を用いて第二送信信号を複数回送信し、前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第二受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第二受信信号を、前記第一期間に観測し、前記第一期間に観測された前記複数の第一受信信号、および前記複数の第二受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出し、所定の方法で、複数の前記第一結合複素伝達関数に、前記第一無線機と前記第二無線機とに生じたクロック周波数誤差と送信電力誤差との影響を抑制する演算を施すことで、複数の第二結合複素伝達関数を算出し、複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を算出し、所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する推定方法である。
【0021】
上記態様によれば、1つのアンテナ素子により送信した信号を複数のアンテナ素子により受信する場合における、往路のCSIと復路のCSIとを、第一無線機と第二無線機とのクロック周波数誤差および送信電力誤差の影響を抑制する演算を施しながら結合することで、生体の存在する方向または位置を推定することができる。往路と復路とのCSIは、CSIの一部だけを出力する無線機によって出力された、CSIの一部であってよい。よって、上記推定方法によれば、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0022】
例えば、前記第一結合複素伝達関数を算出する際には、前記第一送信信号の第一エレメントと前記第二送信信号の第一エレメントとを用いて、前記複数の第一受信信号から算出される第一複素伝達関数と、前記複数の第二受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、前記第一複素伝達関数と前記第二複素伝達関数とを結合することで、前記第一結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0023】
上記態様によれば、往路のCSIと復路のCSIとの結合のときに、第一複素伝達関数と第二複素伝達関数との位相を合わせてから結合することによって、より容易に、第一無線機と第二無線機とのクロック周波数誤差および送信電力誤差の影響を抑制することに寄与する。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0024】
例えば、前記第二結合複素伝達関数を算出する際には、前記第一結合複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一結合複素伝達関数から、(1)アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換、または、前記第一受信信号もしくは前記第二受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0025】
上記態様によれば、往路のCSIと復路のCSIとの結合のときに、送信信号の送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、デジタル-アナログ変換またはアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎの少なくとも一方を用いて、より容易に、第二結合複素伝達関数を算出する。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0026】
例えば、前記第二結合複素伝達関数を算出する際には、前記第一送信信号の第一エレメントと前記第二送信信号の第一エレメントとによる位相補正を前記第一送信信号と前記第二送信信号とに施すことによって、前記第一送信信号と前記第二送信信号との一方に対する他方の位相回転を消失させることで、前記第二結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0027】
上記態様によれば、第一送信信号と第二送信信号との一方に対する他方の位相回転を消失させることで、より容易に、第二結合複素伝達関数を算出することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0028】
また、本開示の一態様に係る推定方法は、M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置が実行する推定方法であって、測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれより第一送信信号を複数回送信し、前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子により受信された複数の第三受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第三受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれより第二送信信号を複数回送信し、前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子により受信された複数の第四受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第四受信信号を、前記第一期間に観測し、前記第一期間に観測された前記複数の第三受信信号、および前記複数の第四受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出し、所定の方法で、複数の前記第一結合複素伝達関数に、前記第一無線機と前記第二無線機とに生じたクロック周波数誤差と送信電力誤差との影響を抑制する演算を施すことで、複数の第二結合複素伝達関数を算出し、複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を算出し、所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する推定方法である。
【0029】
上記態様によれば、複数のアンテナ素子により送信した信号を1つのアンテナ素子により受信する場合における、往路のCSIと復路のCSIとを、第一無線機と第二無線機とのクロック周波数誤差および送信電力誤差の影響を抑制する演算を施しながら結合することで、生体の存在する方向または位置を推定することができる。往路と復路とのCSIは、CSIの一部だけを出力する無線機によって出力された、CSIの一部であってよい。よって、上記推定方法によれば、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0030】
例えば、前記第一結合複素伝達関数を算出する際には、前記第三受信信号の第一エレメントと前記第四受信信号の第一エレメントとを用いて、前記複数の第三受信信号から算出される第一複素伝達関数と、前記複数の第四受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、前記第一複素伝達関数と前記第二複素伝達関数とを結合することで、前記第一結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0031】
上記態様によれば、往路のCSIと復路のCSIとの結合のときに、第一複素伝達関数と第二複素伝達関数との位相を合わせてから結合することによって、より容易に、第一無線機と第二無線機とのクロック周波数誤差および送信電力誤差の影響を抑制することに寄与する。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0032】
例えば、前記第二結合複素伝達関数を算出する際には、前記第一結合複素伝達関数の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、前記第一結合複素伝達関数から、(1)アンテナ部から送信する送信信号を生成する送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、(2)前記送信信号のデジタル-アナログ変換、または、前記第三受信信号もしくは前記第四受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0033】
上記態様によれば、往路のCSIと復路のCSIとの結合のときに、送信信号の送信部と受信部との間のクロック揺らぎ、および、デジタル-アナログ変換またはアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎの少なくとも一方を用いて、より容易に、第二結合複素伝達関数を算出する。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0034】
例えば、前記第二結合複素伝達関数を算出する際には、前記第三受信信号の第一エレメントと前記第四受信信号の第一エレメントとによる位相補正を前記第三受信信号と前記第四受信信号とに施すことによって、前記第三受信信号と前記第四受信信号との一方に対する他方の位相回転を消失させることで、前記第二結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0035】
上記態様によれば、第一送信信号と第二送信信号との一方に対する他方の位相回転を消失させることで、より容易に、第二結合複素伝達関数を算出することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0036】
例えば、前記第二結合複素伝達関数の算出では、前記第一結合複素伝達関数から一つの要素を抽出し、抽出した前記一つの要素で、前記第一結合複素伝達関数の全要素を除算することで、前記第二結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0037】
上記態様によれば、第一結合複素伝達関数から抽出した一つの要素による除算を用いて、より容易に、第一結合複素伝達関数から第二結合複素伝達関数を算出することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0038】
例えば、前記第二結合複素伝達関数の算出では、前記第一結合複素伝達関数の全要素の平均値を算出し、算出した前記平均値で、前記第一結合複素伝達関数の全要素を除算することで、前記第二結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0039】
上記態様によれば、第一結合複素伝達関数の全要素の平均値による除算を用いて、より容易に、第一結合複素伝達関数から第二結合複素伝達関数を算出することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0040】
例えば、前記第二結合複素伝達関数の算出では、前記第一結合複素伝達関数について所定の方法で相関行列を算出し、前記相関行列を固有値分解することで、1以上の固有値と、前記1以上の固有値それぞれに対応する固有ベクトルを算出し、算出した1以上の前記固有ベクトルのうち、算出した前記1以上の固有値のうちの最大の固有値に対応する固有ベクトルを前記第一結合複素伝達関数に乗算することで、直接波のチャネル成分である第三複素伝達関数を算出し、前記第一結合複素伝達関数の全要素を前記第三複素伝達関数にて除算することで、前記第二結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0041】
上記態様によれば、第一結合複素伝達関数から算出した固有値および固有ベクトルを用いて、より容易に、第一結合複素伝達関数から第二結合複素伝達関数を算出することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0042】
例えば、前記第二結合複素伝達関数の算出では、前記第一結合複素伝達関数について所定の方法で特異値分解することで左特異ベクトルおよび右特異ベクトルを算出し、前記左特異ベクトルおよび前記右特異ベクトルを前記第一結合複素伝達関数に乗算することで、直接波のチャネル成分である第四複素伝達関数を算出し、前記第一結合複素伝達関数の全要素を前記第四複素伝達関数にて除算することで、前記第二結合複素伝達関数を算出してもよい。
【0043】
上記態様によれば、第一結合複素伝達関数から算出した特異値および特異ベクトルを用いて、より容易に、第一結合複素伝達関数から第二結合複素伝達関数を算出することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0044】
例えば、前記所定の到来方向推定手法は、MUSIC(MUltipleSIgnal Classification)法、ビームフォーマ法、およびCapon法のいずれかを少なくとも用いる推定手法であってもよい。
【0045】
上記態様によれば、MUSIC法、ビームフォーマ法、およびCapon法のいずれかにより、生体の方向または位置を、より容易に推定することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0046】
例えば、前記第一受信信号または前記第二受信信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に変調されている信号であってもよい。
【0047】
上記態様によれば、OFDM信号に変調された第一受信信号または第二受信信号を用いて、より容易に、生体の方向または位置を推定することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0048】
例えば、前記第三受信信号または前記第四受信信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に変調されている信号であってもよい。
【0049】
上記態様によれば、OFDM信号に変調された第一受信信号または第二受信信号を用いて、より容易に、生体の方向または位置を推定することができる。よって、上記推定方法によれば、より容易に、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて生体の方向または位置を推定することができる。
【0050】
また、本開示の一態様に係る推定装置は、M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置であって、前記第一無線機が、測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子を用いて第一送信信号を複数回送信し、前記第二無線機が、前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第一受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第一受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、前記第二無線機が、測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子を用いて第二送信信号を複数回送信し、前記第一無線機が、前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれにより受信された複数の第二受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第二受信信号を、前記第一期間に観測し、前記推定装置は、さらに、前記第一期間に観測された前記複数の第一受信信号、および前記複数の第二受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出する第一結合複素伝達関数算出部と、所定の方法で、複数の前記第一結合複素伝達関数に、前記第一無線機と前記第二無線機とに生じたクロック周波数誤差と送信電力誤差との影響を抑制する演算を施すことで、複数の第二結合複素伝達関数を算出する第二結合複素伝達関数算出部と、複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を抽出する生体情報算出部と、所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する位置推定処理部とを備える推定装置である。
【0051】
上記態様によれば、上記推定方法と同様の効果を奏する。
【0052】
また、本開示の一態様に係る推定装置は、M個(Mは2以上の自然数)の第一アンテナ素子を有する第一アンテナ部を備えた第一無線機と、N個(Nは2以上の自然数)の第二アンテナ素子を有する第二アンテナ部を備えた第二無線機とを備える推定装置であって、前記第一無線機が、測定対象の領域に、前記M個の第一アンテナ素子のそれぞれより第一送信信号を複数回送信し、前記第二無線機が、前記N個の第二アンテナ素子のうちの一つの第二アンテナ素子により受信された複数の第三受信信号であって、複数回送信された前記第一送信信号が生体によって反射された反射信号を含む複数の第三受信信号を、前記生体の動きの周期に相当する第一期間に観測し、前記第二無線機が、測定対象の領域に、前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれより第二送信信号を複数回送信し、前記第一無線機が、前記M個の第一アンテナ素子のうちの一つの第一アンテナ素子により受信された複数の第四受信信号であって、複数回送信された前記第二送信信号が前記生体によって反射された反射信号を含む複数の第四受信信号を、前記第一期間に観測し、前記推定装置は、さらに、前記第一期間に観測された前記複数の第三受信信号、および前記複数の第四受信信号を用いて、前記M個の第一アンテナ素子と前記N個の第二アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出する第一結合複素伝達関数算出部と、所定の方法で、複数の前記第一結合複素伝達関数に、前記第一無線機と前記第二無線機とに生じたクロック周波数誤差と送信電力誤差との影響を抑制する演算を施すことで、複数の第二結合複素伝達関数を算出する第二結合複素伝達関数算出部と、複数の前記第二結合複素伝達関数における、前記生体に関する成分に対応する所定周波数範囲に対応する生体情報を抽出する生体情報算出部と、所定の到来方向推定手法により、前記生体情報を用いて、前記生体の存在する方向または位置を推定する位置推定処理部とを備える推定装置である。
【0053】
上記態様によれば、上記推定方法と同様の効果を奏する。
【0054】
なお、本開示は、装置として実現するだけでなく、このような装置が備える処理手段を備える集積回路として実現したり、その装置を構成する処理手段をステップとする方法として実現したり、それらステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、そのプログラムを示す情報、データまたは信号として実現したりすることもできる。そして、それらプログラム、情報、データおよび信号は、CD-ROM等の記録媒体やインターネット等の通信媒体を介して配信してもよい。
【0055】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0056】
(実施の形態1)
本実施の形態では、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて推定装置に対する生体の方向または位置を精度よく推定する推定装置および推定方法について説明する。
【0057】
具体的には、本実施の形態では、SIMO構成のCSIであっても、往路のCSIと復路のCSIとを結合することを用いて、生体の存在する方向を推定する推定装置10および推定方法を説明する。推定装置10および推定方法では、往路のCSIと復路のCSIを結合し、生体を経由しない直接波を抽出し、周波数誤差によって生じる位相回転を検出し、チャネル全体から周波数誤差由来の位相回転を除去することで、生体の存在する方向を推定することが可能となる。
【0058】
以下では、図面を参照しながら、本実施の形態における推定装置10が、所定の2つ無線機により得る往路および復路のCSIを用いて、検出対象である生体の方向を推定することについて説明する。
【0059】
[推定装置10の構成]
図1は、本実施の形態における推定装置10の構成の一例を示すブロック図である。図1には、図1に示す推定装置10の検出対象である生体30が合わせて示されている。
【0060】
図1に示す推定装置10は、第二無線機11と、第一無線機12と、アンテナ部20とアンテナ部21と、第一送受信部22と、第二送受信部23と、第一結合複素伝達関数算出部24と、第二結合複素伝達関数算出部25と、生体情報算出部26と、位置推定処理部27とを備える。推定装置10は、推定装置10に対する相対的な、生体30の存在する方向を推定する。
【0061】
なお、推定装置10は、一の筐体内に上記の構成要素のすべてを備えるものに限定されない。推定装置10は、互いに通信可能に接続された複数の装置を備え、複数の装置のそれぞれに、上記の構成要素が分かれて配置されていてもよい。その場合、推定装置10は、推定システムと呼ばれてもよい。
【0062】
推定装置10が、M個のアンテナ素子を持つ第一無線機12、および、N個のアンテナ素子を持つ第二無線機11を用いて、第一無線機12から第二無線機11に既知信号を送信した時のCSI(往路CSIに相当)を取得する場合を図1に示す。また、推定装置10が、第二無線機11から第一無線機12に既知信号を送信した時のCSI(復路CSIに相当)を取得する場合を図3に示す。推定装置10は、フルMIMO構成を有しているが、一例として、SIMO構成のCSIが往路と復路との分だけ得られた場合に生体30の位置を推定する方法を説明する。
【0063】
[第一無線機12]
第一無線機12は、生体30の方向を推定するために用いる高周波の信号を、第一無線機12の内部クロックfTXを用いて生成する。例えば、図2に示すように、第一無線機12は、生成した信号(送信波)を、アンテナ部20が備えるアンテナ素子から送信する。また、第一無線機12は、受信時は、上記アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号を処理する。
【0064】
図4に本実施の形態における、推定装置10が受信したI信号およびQ信号の周波数成分の一例を示す概念図を示す。より具体的には、図4に示される点線100は、推定装置10が受信した信号のDC成分を示し、実線101は、推定装置10が受信したI信号のAC成分を示し、破線102は、推定装置10が受信したQ信号のAC成分を示す。
【0065】
[アンテナ部20]
アンテナ部20は、M個(Mは2以上の自然数)のアンテナ素子(具体的には、アンテナ素子#1~#M)を有する。
【0066】
[第一送受信部22]
第一送受信部22は、M個のアンテナ素子により、所定の信号を送信、または、受信する。
【0067】
第一送受信部22は、送信の際は、生体推定用の既知の信号を送信する。
【0068】
第一送受信部22は、受信の際は、アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、送信側のアンテナ素子から送信され、生体30によって反射された反射信号を含む受信信号を、生体30の活動に由来する周期に相当する第一期間に観測する。
【0069】
ここで、送信側のアンテナ素子は、第二無線機11が備えるアンテナ部21が有するアンテナ素子であり得る。生体30は、図2に示すような生体30であるがこれに限られない。また、生体30の活動に由来する周期は、生体30の呼吸、心拍および体動の少なくとも一つを含む生体由来の周期(生体変動周期)である。第一送受信部22は、観測した受信信号を第二受信信号として第一結合複素伝達関数算出部24に送る。
【0070】
[第二無線機11]
第二無線機11は、生体30の方向を推定するために用いる高周波の信号を、第一無線機12と同様に内部クロックfRXを用いて生成する。例えば、図2に示すように、第二無線機11は、生成した信号(送信波)を、アンテナ部21が備えるアンテナ素子から送信する。
【0071】
また、第二無線機11は、受信時は、上記アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号を処理する。
【0072】
[アンテナ部21]
アンテナ部21は、N個(Nは2以上の自然数)のアンテナ素子(具体的には、アンテナ素子#1~#N)を有する。
【0073】
[第二送受信部23]
第二送受信部23は、N個のアンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、送信側のアンテナ素子から送信され、生体30によって反射された反射信号を含む受信信号を、生体30の活動に由来する周期に相当する第一期間について観測する。ここで、上記第一期間は、第一送受信部22が受信信号を観測する第一期間と同じであってよい。
【0074】
第二送受信部23は、観測した受信信号を第一受信信号として、第一結合複素伝達関数算出部24に送る。
【0075】
本実施の形態では、第一送受信部22と第二送受信部23とは、それぞれ複数のアンテナ素子を持ち、対応するアンテナ素子で受信された高周波の信号を、内部クロックfTXまたはfRXを用いて、信号処理が可能な低周波の信号に変換する。
【0076】
より具体的には、SIMO構成のCSIを利用する場合、第一送受信部22は、アンテナ部20が有する所定の1つのアンテナ素子よりCSI取得用の既知信号を送信する。送信した信号が生体30によって反射された信号を第二無線機11のアンテナ部21が有するN個のアンテナ素子が受信する。受信した信号を、第二送受信部23が第一受信信号として、第一結合複素伝達関数算出部24に送る。
【0077】
さらに、第二送受信部23は、アンテナ部21が有する所定の1つのアンテナ素子よりCSI取得用の既知信号を送信する。送信した信号が生体30によって反射された信号を第一無線機12のアンテナ部20が有するM個のアンテナ素子が受信する。受信した信号を、第一送受信部22が第二受信信号として、第一結合複素伝達関数算出部24に送る。
【0078】
[第一結合複素伝達関数算出部24]
第一結合複素伝達関数算出部24は、第一受信信号と第二受信信号とから、第一無線機12と第二無線機11のそれぞれとの間の伝搬特性を表す複素伝達関数を複数算出する。
【0079】
第一結合複素伝達関数算出部24は、第一送受信部22および第二送受信部23から伝達された低周波の第一受信信号、または、第二受信信号から、第一無線機12と第二無線機11との間の伝搬特性を表す複素伝達関数を算出する。
【0080】
以降において、往路CSIの取得について図2を用いて具体的に説明する。
【0081】
図2は、図1に示すアンテナ部21における信号波の伝達の様子を概念的に示す図である。図2に示すように、アンテナ部20のアンテナ素子から送信される送信波は、生体30によって反射され、アンテナ部21のアレーアンテナに到達する。ここで、アレーアンテナは、M個のアンテナ素子からなり、素子間隔dのリニアアレーである。また、アレーアンテナの正面から見た生体30の方向をθとする。生体30とアレーアンテナとの距離は十分に大きく、アレーアンテナに到来する生体30由来の反射波は平面波と見なせるものとする。
【0082】
この場合、第一結合複素伝達関数算出部24は、アレーアンテナを使って観測された第一受信信号ベクトル
【数1】
から、送信側のアンテナ素子と受信側のアレーアンテナとの間の伝搬特性を表す第一複素伝達関数ベクトルを算出することができる。第一複素伝達関数ベクトルhFは、例えば、
【数2】
【数3】
により算出できる。ここで、sは複素送信信号であり、既知であるものとする。なお、往路CSIである第一複素伝達関数ベクトルhFは、第一複素伝達関数の一例である。
【0083】
次に、復路CSIの取得について説明する。
【0084】
第一結合複素伝達関数算出部24は、往路CSIの場合と同様に、アレーアンテナを使って観測された第二受信信号ベクトル
【数4】
から、送信側のアンテナ素子と受信側のアレーアンテナとの間の伝搬特性を表す第二複素伝達関数ベクトルを算出することができる。第二複素伝達関数ベクトルhBは、例えば、
【数5】
【数6】
により算出できる。なお、
【数7】
は転置を表す。ここで、本来(言い換えれば設計上)、hF11とhB11とは同じ値であるが、クロック周波数誤差、電力誤差および取得時間差などにより位相が異なるので、下記により一方の位相に合わせてからチャネルを結合(つまり、第一複素伝達関数ベクトルと第二複素伝達関数ベクトルとを結合)する。
【0085】
【数8】
【0086】
言い換えれば、第一結合複素伝達関数算出部24は、第一送信信号の第一エレメントと第二送信信号の第一エレメントとを用いて、複数の第一受信信号から算出される第一複素伝達関数と、複数の第二受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、第一複素伝達関数と第二複素伝達関数とを結合することで、第一結合複素伝達関数を算出する。
【0087】
これにより、第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)が下記のように表現される。
【0088】
【数9】
【0089】
[第二結合複素伝達関数算出部25]
更に、第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)には、送信機および受信機由来の周波数変動成分と、生体30由来のドップラシフトとが含まれる。送信機および受信機由来の周波数変動成分には、例えば、(i)送信信号の空間伝播による減衰または位相回転、(ii)送信機および受信機間のクロック周波数誤差(fRX-fTX)、(iii)DA変換など無線機内にて用いられるサンプリングクロック周波数誤差などが含まれる。第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)から送信機および受信機由来の周波数変動成分の位相回転を除去するために、第二結合複素伝達関数算出部25は、直接波成分としてh(t)内の任意の一つの要素hを抽出する。
【0090】
【数10】
【0091】
そして、第二結合複素伝達関数算出部25は、第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)の全要素を直接波成分として、上記のように抽出した一つの要素hにて除算することで上記位相回転を除去することによって、第二結合複素伝達関数ベクトルh′を算出する。ここで、直接波成分の要素は、要素hなど、第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)のうちの一つの要素であればどの要素を用いてもよい。なお、第二結合複素伝達関数ベクトルh′は、第二結合複素伝達関数の一例である。
【0092】
このように、第二結合複素伝達関数算出部25は、第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)の1以上の要素を用いて所定の演算を行うことにより、第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)から、(1)第一無線機12と第二無線機11間とのクロック揺らぎ、および、(2)送信信号のデジタル-アナログ変換または受信信号のアナログ-デジタル変換のタイミング揺らぎ、の少なくとも一方に対応する成分が抑制された第二結合複素伝達関数ベクトルh′を算出する。
【0093】
[生体情報算出部26]
生体情報算出部26は、算出された第二結合複素伝達関数ベクトルh′を用い、特許文献1に記載の差分情報算出部と同様に所定間隔の2つの時点における2つの第二結合複素伝達関数ベクトルh′の差分情報を算出することで、生体情報を算出する。つまり、生体情報算出部26は、算出された複数の第二結合複素伝達関数ベクトルh′における所定周波数範囲に対応する生体情報を抽出することで、生体30に関する成分に対応する生体情報を抽出する。例えば、生体情報算出部26は、生体情報として、生体30の呼吸、心拍および体動の少なくともいずれかを含むバイタル活動の影響を受けた成分に対応する生体情報を抽出する。
【0094】
なお、この生体情報は第二結合複素伝達関数ベクトルh′より生体由来の成分を算出すればよく、周波数応答を用いても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0095】
本実施の形態では、アンテナ素子が複数(N個)存在するので、アンテナ部21に対応する第二複素伝達関数ベクトルh′の差分値(差分情報)の個数も複数である。これらをまとめて複素差分チャネルベクトルと定義する。アンテナ素子の個数をNとすると複素差分チャネルベクトルは、
【数11】
と表せ、
【数12】
である。また、lまたはmは、測定番号を表す正の整数であり、サンプル時間である。
【0096】
[位置推定処理部27]
位置推定処理部27は、第二結合複素伝達関数ベクトルh′より抽出した当該生体情報を用いて、所定の到来方向推定手法により、推定装置10を方向の基準として生体30の存在する方向を推定する。より具体的には、所定の到来方向推定手法は、特許文献1記載の方向推定処理部のようなMUSIC(MUltipleSIgnal Classification)アルゴリズムに基づく推定手法であってよく、この場合を例として説明するが、ビームフォーマ法またはCapon法に基づく推定手法であってもよい。
【0097】
位置推定処理部27は、例えば(式1)に示した複素差分チャネルベクトルを用いて、MUSICアルゴリズムを適用する場合は、
【数13】
により相関行列化し固有値分解する。ここでUは固有ベクトル行列を表す。Eは、lおよびmそれぞれを変化させた場合の平均を得る演算を意味する。更に、MUSICスペクトラムPについて下記(式2)が適用される。
【0098】
【数14】
【0099】
ここでUは雑音空間固有ベクトル、aはステアリングベクトルである。
【0100】
【数15】
【0101】
は往路のステアリングベクトル、aは復路のステアリングベクトルである。
【0102】
【数16】
【0103】
なお、第一無線機12より送信される信号は、連続信号(CW信号)であってもよいし、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号のような符号化された信号でもよい。
【0104】
[直接波成分の他の例]
なお、本実施の形態の第二結合複素伝達関数算出部25は、第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)を、直接波成分として第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)内の任意の一つの要素hにて除算することで、第二結合複素伝達関数ベクトルh′を算出したが、一つの要素hにて除算することに限らない。
【0105】
例えば、第二結合複素伝達関数算出部25は、第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)の除算に用いる直接波成分には、従来の非同期吸収法にあるように任意の一つの要素hの代わりに、|h|の時変動が最も小さい要素hlminを用いてもよい。また、第一複素伝達関数ベクトルhの全要素の平均値を用いてもよい。また、複素伝達関数を一定期間観測することで、任意の時間tの複素伝達関数を特異値分解することで特異ベクトルを求め、これにより、第二結合複素伝達関数ベクトルh′を算出してもよい。また、複素伝達関数を一定期間観測し、当該観測時間全体の相関行列を固有値分解することで固有ベクトルを求め、これにより、第二結合複素伝達関数ベクトルh′を算出してもよい。また、当該直接波成分は、上記観測時間全体の相関行列を固有値分解することで固有ベクトルを求め、これにより第二結合複素伝達関数ベクトルh′を算出してもよい。
【0106】
なお、第一結合複素伝達関数算出部24は、第一複素伝達関数ベクトルhFと第二複素伝達関数ベクトルhBを用いて、往路と復路で位相回転が逆に見えることを利用して
【数17】
【数18】
を算出し、これにより
【数19】
として第二複素伝達関数ベクトルを算出してもよい。これにより位相回転が消失し、2局の中間の周波数で観測したことと等価になる。
【0107】
なお、第一無線機12、第二無線機11、第一結合複素伝達関数算出部24、第二結合複素伝達関数算出部25、生体情報算出部26および位置推定処理部27は、推定装置10が備えるメモリに格納されているプログラムを、1以上のプロセッサが実行することにより実現されてもよいし、1以上の専用回路により実現されてもよい。つまり、上記の構成要素は、ソフトウェアで実現されてもよいし、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0108】
[推定装置10の動作]
以上のように構成された推定装置10の推定処理の動作について説明する。図5は、本実施の形態における推定装置10の推定処理を示すフローチャートである。
【0109】
まず、推定装置10は、測定対象の領域に第一無線機12、および、第二無線機11を用いてそれぞれ送信信号を送信し、第一期間に受信信号を観測する(S10)。より具体的には、推定装置10は、1個のアンテナ素子から送信され、生体30によって反射された反射信号を含む受信信号を、生体30の活動に由来する周期に相当する第一期間について観測する。観測は、往路分と復路分とのそれぞれについてなされる。
【0110】
次に、推定装置10は、ステップS10において第一期間に観測された複数の受信信号から、1個の送信側アンテナ素子と複数の受信側アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を表す第一結合複素伝達関数を複数算出する(S20)。詳細は上述した通りであるため、ここでの説明は省略する。以下も同様である。
【0111】
次に、推定装置10は、ステップS20で算出した第一結合複素伝達関数を直接波成分にて除算することで、第二結合複素伝達関数を算出する(S30)。
【0112】
次に、推定装置10は、ステップS30で算出した第二結合複素伝達関数より生体情報を算出する(S40)。
【0113】
そして、推定装置10は、ステップS40で算出した2以上の生体情報を用いて、生体30の存在する位置を推定する(S50)。
【0114】
[効果等]
本実施の形態の推定装置10および推定方法によれば、受信信号から生体30を経由しない直接波成分を抽出し、周波数誤差によって生じる位相回転を検出し、チャネル全体から送信部および受信部間のクロック揺らぎ、および、周波数誤差由来の位相回転を除去するため、生体30の存在する方向を精度よく推定することが可能となる。このため、推定装置10は、推定装置10に対する相対的な、生体30が存在する方向を精度よく推定することができる。
【0115】
(実施の形態2)
本実施の形態では、CSIの一部を少なくとも出力する無線機を用いて推定装置に対する生体の方向または位置を精度よく推定する推定装置および推定方法について、実施の形態1とは異なる形態を説明する。
【0116】
本実施の形態では、MISO構成のCSIであっても、往路のCSIと復路のCSIとを結合することを用いて、生体の存在する方向を推定する推定装置10Aおよび推定方法を説明する。
【0117】
[推定装置10Aの構成]
図6および図7は、それぞれ、本実施の形態における推定装置10Aの構成の一例を示すブロック図である。図1と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明を省略する。本実施の形態において、実施の形態1と同じ要素については特に言及がない限り、同様の動作および同様のバリエーションがあるとし、重複した説明は省略する。
【0118】
図6に示す推定装置10Aは、第二無線機11と、第一無線機12と、アンテナ部20とアンテナ部21と、第一送受信部22Aと第二送受信部23Aと、第一結合複素伝達関数算出部24Aと、第二結合複素伝達関数算出部25と、生体情報算出部26と、位置推定処理部27とを備える。推定装置10Aは、推定装置10Aに対する相対的な、生体30の存在する方向を推定する。
【0119】
推定装置10Aが、M個のアンテナ素子を持つ第一無線機12、および、N個のアンテナ素子を持つ第二無線機11を用いて、第一無線機12から第二無線機11に既知信号を送信した時のCSI(往路CSIに相当)を取得する場合を図6に示す。また、推定装置10Aが、第二無線機11から第一無線機12に既知信号を送信した時のCSI(復路CSIに相当)を取得する場合を図7に示す。推定装置10Aは、フルMIMO構成を有しているが、一例として、MISO構成のCSIが往路と復路との分だけ得られた場合に、推定装置10Aが生体30の位置を推定する方法を説明する。
【0120】
[第一送受信部22A]
第一送受信部22Aは、M個のアンテナ素子により、所定の信号を送信、または、受信する。
【0121】
第一送受信部22Aは、送信の際は、生体推定用の既知の信号を送信する。
【0122】
第一送受信部22Aは、受信の際は、アンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、送信側のアンテナ素子から送信され、生体30によって反射された反射信号を含む受信信号を、生体30の活動に由来する周期に相当する第一期間について観測する。
【0123】
第一送受信部22Aは、観測した受信信号を第四受信信号として第一結合複素伝達関数算出部24Aに送る。
【0124】
[第二送受信部23A]
第二送受信部23Aは、N個のアンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号であって、送信側のアンテナ素子から送信され、生体30によって反射された反射信号を含む受信信号を、生体30の活動に由来する周期に相当する第一期間について観測する。
【0125】
第二送受信部23Aは、観測した受信信号を第三受信信号として第一結合複素伝達関数算出部24Aに送る。
【0126】
より具体的には、MISO構成のCSIを利用する場合、第一送受信部22Aは、アンテナ部20が有するM個のアンテナ素子がCSI取得用の既知信号を送信し、生体30によって反射された信号を第二無線機11のアンテナ部21が有する所定の1個のアンテナ素子が受信する。受信した信号を、第二送受信部23Aが第三受信信号として、第一結合複素伝達関数算出部24Aに送る。
【0127】
さらに、第二送受信部23Aは、アンテナ部21が有するN個のアンテナ素子よりCSI取得用の既知信号を送信する。送信した信号が生体30によって反射された信号を第一無線機12のアンテナ部20が有する所定の1個のアンテナ素子が受信する。受信した信号を、第一送受信部22Aが第四受信信号として、第一結合複素伝達関数算出部24Aに送る。
【0128】
[第一結合複素伝達関数算出部24A]
第一結合複素伝達関数算出部24Aは、第三受信信号と第四受信信号とから、第一無線機12と第二無線機11のそれぞれとの間の伝搬特性を表す複素伝達関数を複数算出する。
【0129】
第一結合複素伝達関数算出部24Aは、第一送受信部22Aおよび第二送受信部23Aから伝達された低周波の第三受信信号、または、第四受信信号から、第一無線機12と第二無線機11との間の伝搬特性を表す複素伝達関数を算出する。
【0130】
以降において、往路CSIの取得について説明する。
【0131】
この場合、第一結合複素伝達関数算出部24Aは、アレーアンテナを使って観測された第三受信信号ベクトル
【数20】
から、送信側のアンテナ素子と受信側のアレーアンテナとの間の伝搬特性を表す第三複素伝達関数ベクトルを算出することができる。第三複素伝達関数ベクトルhFは、例えば、
【数21】
【数22】
により算出できる。
【0132】
次に、復路CSIの取得について説明する。
【0133】
第一結合複素伝達関数算出部24Aは、復路CSIの場合と同様に、アレーアンテナを使って観測された第四受信信号ベクトル
【数23】
から、送信側のアンテナ素子と受信側のアレーアンテナとの間の伝搬特性を表す第四複素伝達関数ベクトルを算出することができる。第四複素伝達関数ベクトルhBは、例えば、
【数24】
【数25】
により算出できる。
【0134】
ここで、本来(言い換えれば設計上)、hF11とhB11とは同じ値であるが、クロック周波数誤差、電力誤差および取得時間差などにより位相が異なるので、下記により一方の位相に合わせてからチャネルを結合(つまり、第一複素伝達関数ベクトルと第二複素伝達関数ベクトルとを結合)する。
【0135】
言い換えれば、第一結合複素伝達関数算出部24Aは、第三受信信号の第一エレメントと第四受信信号の第一エレメントとを用いて、複数の第三受信信号から算出される第一複素伝達関数と、複数の第四受信信号から算出される第二複素伝達関数との一方の位相を他方の位相に合わせてから、第一複素伝達関数と第二複素伝達関数とを結合することで、第一結合複素伝達関数を算出する。
【0136】
【数26】
【0137】
これにより、SIMO構成の第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)が下記のように表現される。
【0138】
【数27】
【0139】
更に第一結合複素伝達関数ベクトルh(t)は、送信機および受信機由来の周波数変動成分と、生体30由来のドップラシフトとが含まれる。送信機および受信機由来の周波数変動成分は、実施の形態1で説明した方法と同様の方法で除去すればよい。また、上記の除去以降、生体30の位置を推定する方法は、実施の形態1で説明した方法と同様である。
【0140】
[効果等]
本実施の形態の推定装置10Aおよび推定方法によれば、MISO構成のCSIであっても、往路のCSIと復路のCSIとを結合することを用いて、生体30の存在する方向を推定することが可能となる。
【0141】
ここで、本実施の形態に係る効果を確かめるために実験による評価を行った。以下に、実験について説明する。
【0142】
(実験)
図8は、本実施の形態に係る推定方法を用いたシミュレーション実験の概念を示す図である。図9は、本実施の形態に係る推定方法を用いた実験の条件を示す図である。
【0143】
図8に示す送信アレーアンテナ(Tx array)と受信アレーアンテナ(Rx array)との双方は、4素子パッチアレーアンテナを用いた4×4MIMO(Multiple Input Multiple Output)構成である。また、送信側にSP4T(Single-Pole-4-Throw)スイッチを有し、受信側に4系統の受信機を有する。
【0144】
本実験では、これらの機器を用いてMIMOチャネルの測定を行った。
【0145】
ここで、図9に示すように、送受信アンテナのアレー素子間隔を0.5波長、送受信間距離Dを4.0m、アンテナ高hを人間(Living-Body)の直立時の胸の高さである1.0mに設定した。送信機からは2.47125GHzの無変調連続波(CW:Continuous Wave)が送信され、チャネル測定時間は33秒とした。チャネル測定時、被験者以外無人とし、被験者はアンテナ側の壁に対して正面を向いた状態とした。
【0146】
図10は、実施の形態2に係る推定方法を用いたシミュレーション結果を示す図である。図10の(a)は、フルMIMOのCSIを用いて従来法によりシミュレーションした結果を示している。図10の(b)は、SIMO構成のCSIを用いて従来法によりシミュレーションした結果を示している。
【0147】
図10では、空間に被験者が2人存在している場合の生体位置推定の結果が示されている。実験時の被験者の立ち位置は、被験者1が(X=0.4m,Y=1.8m)、被験者2が(X=3.2m,Y=3.0m)であった。
【0148】
図10の(a)および(b)において、実際の被験者の位置が×印で示されている。また、空間内の各位置についてのMUSICスペクトラムP((式2)参照)がグレースケールで示されており、黒に近い色を有する位置に被験者が存在すると推定されることを示している。
【0149】
図10の(b)に示されるSIMO構成のCSIの場合において、空間内の各位置において被験者が存在する確率は、図10の(a)に示される場合とほぼ同じである。よって、図10の(b)よりSIMO構成のCSIの場合でも、実施の形態2に係る推定方法により人の生体位置推定が可能であることが分かる。
【0150】
図11は、実施の形態2に係る推定方法を用いた別の実験結果を示す図である。図11には、被験者が2人の場合の位置推定誤差の累積確率分布(CDF:Cumulative Distribution Function)が示されている。図11において、横軸が位置推定誤差(単位:m)を示し、位置推定誤差に対するCDFが縦軸に示されている。図11の(a)がフルMIMOのCSIを用いた時のCDFを示し、図11の(b)がSIMO構成のCSIを用いた時のCDFを示している。
【0151】
図11より、位置推定誤差0.1mのCDF値が0.91と得られており、全体の91%が誤差0.1m以内に収まっていることを示している。したがって、実施の形態2に係る推定方法は、従来のフルMIMOのCSIを用いた時の手法と同等に精度よく推定できていることが分かる。これにより、本実施の形態によってSIMO構成のCSIを用いた生体の位置推定であっても高い精度で生体位置を推定できることが示された。
【0152】
以上のように、本開示によれば、MISO構成のCSIであっても往路と復路のCSIを取得することで、それらを結合し周波数誤差の処理を同様に行うことで生体の存在する方向を推定することが可能となる。
【0153】
以上、本開示の一態様に係る推定装置および推定方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施形態に施したもの、あるいは異なる実施形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0154】
例えば、実施の形態1および2では、生体30の方向推定または位置推定を例として説明したが、推定処理の対象は生体30に限らない。推定処理の対象は、高周波の信号が照射された場合に、その活動または動きによって反射波にドップラ効果を与える種々の生体(機械等)に適用可能である。
【0155】
また、本開示は、このような特徴的な構成要素を備える、推定装置として実現することができるだけでなく、推定装置に含まれる特徴的な構成要素をステップとする推定方法などとして実現することもできる。また、そのような方法に含まれる特徴的な各ステップをコンピュータに実行させるコンピュータプログラムとして実現することもできる。そして、そのようなコンピュータプログラムを、CD-ROM等のコンピュータで読取可能な非一時的な記録媒体あるいはインターネット等の通信ネットワークを介して流通させることができるのは、言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本開示は、無線信号を利用した生体の方向や位置を推定する推定装置に利用でき、特に、生体と機械を含む生体の方向や位置を測定する測定器、生体の方向や位置に応じた制御を行う家電機器、生体の侵入を検知する監視装置などに搭載される推定装置等に利用できる。
【符号の説明】
【0157】
10、10A 推定装置
11 第二無線機
12 第一無線機
20、21 アンテナ部
22、22A 第一送受信部
23、23A 第二送受信部
24、24A 第一結合複素伝達関数算出部
25 第二結合複素伝達関数算出部
26 生体情報算出部
27 位置推定処理部
30 生体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11