(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】デュアル光周波数コム発光装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/137 20060101AFI20240927BHJP
H01S 3/23 20060101ALI20240927BHJP
G02F 1/01 20060101ALN20240927BHJP
G02F 1/365 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
H01S3/137
H01S3/23
G02F1/01 F
G02F1/365
(21)【出願番号】P 2021536644
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2020022657
(87)【国際公開番号】W WO2021019918
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019141179
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】中村 將
(72)【発明者】
【氏名】稲田 安寿
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-138129(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080415(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/123719(WO,A1)
【文献】特開2017-059683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0134078(US,A1)
【文献】DUTT Avik et al.,Dual-comb Spectroscopy using On-chip Mode-locked Frequency Combs,Conference on Lasers and Electro-Optics,米国,2017年,STh3L.2.pdf,DOI: 10.1364/CLEO_SI.2017.STh3L.2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光路長を有する第1レーザ共振器を含む第1光周波数コムレーザ光源と、
前記第1の光路長とは異なる第2の光路長を有する第2レーザ共振器を含む第2光周波数コムレーザ光源と、
前記第1レーザ共振器から発せられた第1光周波数コムレーザ光の第1部分を前記第2レーザ共振器に入力させる光結合器と、
を備え、
前記第1光周波数コムレーザ光源は、前記第1光周波数コムレーザ光の第2部分を外部に出射し、
前記第2光周波数コムレーザ光源は、前記第2レーザ共振器から発せられた第2光周波数コムレーザ光を外部に出射
し、
前記第1光周波数コムレーザ光の周波数帯域は、前記第2レーザ共振器の共振周波数を含む、
デュアル光周波数コム発光装置。
【請求項2】
前記光結合器は、ある周波数帯域の光を通過させるフィルタを備え、
前記光結合器は、前記第1光周波数コムレーザ光の前記第1部分を、前記フィルタを通して前記第2レーザ共振器に入力させる、
請求項1に記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項3】
前記光結合器は、周波数シフタを備え、
前記光結合器は、前記第1光周波数コムレーザ光の前記第1部分を、前記周波数シフタを通して前記第2レーザ共振器に入力させる、
請求項1または2に記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項4】
前記
フィルタの通過周波数帯域は、前記第2レーザ共振器の共振周波数を含む、
請求項2に記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項5】
前記第1レーザ共振器は、一対の第1ミラーと、前記一対の第1ミラーの間に位置する第1ゲイン媒質とを備える、
請求項1から4のいずれかに記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項6】
前記第1光周波数コムレーザ光の前記第1部分は、前記一対の第1ミラーの一方から出射され、
前記第1光周波数コムレーザ光の前記第2部分は、前記一対の第1ミラーの他方から出射される、
請求項5に記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項7】
前記一対の第1ミラーの前記一方は、前記他方よりも高い反射率を有する、
請求項6に記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項8】
前記第1光周波数コムレーザ光の前記第1部分および前記第2部分は、前記一対の第1ミラーの一方から出射される、
請求項5に記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項9】
前記一対の第1ミラーの前記一方は、他方よりも低い反射率を有する、
請求項8に記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項10】
前記第1レーザ共振器は、前記一対の第1ミラーの間の光路の少なくとも一部の屈折率を変調する第1屈折率変調器をさらに備える、
請求項5から9のいずれかに記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項11】
前記第2レーザ共振器は、一対の第2ミラーと、前記一対の第2ミラーの間に位置する第2ゲイン媒質とを備える、
請求項1から10のいずれかに記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項12】
前記第2レーザ共振器は、前記一対の第2ミラーの間の光路の少なくとも一部の屈折率を変調する第2屈折率変調器をさらに備える、
請求項11に記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項13】
前記第2レーザ共振器は、非線形光学材料から形成されたリング共振器を備える、
請求項1から10のいずれかに記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【請求項14】
基板をさらに備え、
前記第1光周波数コムレーザ光源、前記第2光周波数コムレーザ光源、および前記光結合器は、前記基板の表面に集積されている、
請求項1から13のいずれかに記載のデュアル光周波数コム発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、デュアル光周波数コム発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を光で照射し、対象物を透過した光または対象物によって反射された光の周波数スペクトルを得ることにより、対象物の光周波数に関する特性を調べることができる。従来、高い周波数の光の周波数スペクトルを得るために、複雑で高価な装置が用いられていた。しかし、光周波数コム技術により、簡易で安価な装置によって光の周波数スペクトルを得ることが可能になった。光周波数コムとは、複数の離散的な等間隔の線から形成された櫛状の周波数スペクトルを意味する。本明細書では、光周波数コムを有するレーザ光を、「光周波数コムレーザ光」と称する。
【0003】
近年、光周波数コムの等間隔線の間隔がわずかに異なる2つの光周波数コムレーザ光を用いたデュアルコム分光法により、光の周波数スペクトルをより容易に得ることができるようになった(例えば、非特許文献1から3参照)。デュアルコム分光法では、これら2つの光周波数コムレーザ光を重ね合わせた干渉光で対象物を照射し、対象物を透過した干渉光または対象物によって反射された干渉光のビート周波数スペクトルを得ることにより、対象物の光周波数に関する特性を調べることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】N. Picque and T. W.Hansch, “Frequency comb spectroscopy”, Nature photonics 13, 146-157 (2019).
【文献】I. Coddington, N. Newbury, and W. Swann, “Dual-comb spectroscopy”, Optica 3, 414-426 (2019).
【文献】A. L. Gaeta, M. Lipson and T. J. Kippenberg, “Photonic-chip-based frequency combs”, Nature photonics 13, 158-169 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、2つの光周波数コムレーザ光源の動作を同期して安定化させたデュアル光周波数コム発光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第1の光路長を有する第1レーザ共振器を含む第1光周波数コムレーザ光源と、前記第1の光路長とは異なる第2の光路長を有する第2レーザ共振器を含む第2光周波数コムレーザ光源と、前記第1レーザ共振器から発せられた第1光周波数コムレーザ光の第1部分を前記第2レーザ共振器に入力させる光結合器と、を備える。前記第1光周波数コムレーザ光源は、前記第1光周波数コムレーザ光の第2部分を外部に出射する。前記第2光周波数コムレーザ光源は、前記第2レーザ共振器から発せられた第2光周波数コムレーザ光を外部に出射する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、2つの光周波数コムレーザ光源の動作を同期して安定化させたデュアル光周波数コム発光装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態1におけるデュアル光周波数コム発光装置の例を模式的に示す図である。
【
図2A】
図2Aは、フィルタの機能を説明するための図である。
【
図2B】
図2Bは、フィルタおよび周波数シフタの機能を説明するための図である。
【
図3】
図3は、実施形態1の変形例におけるデュアル光周波数コム発光装置の例を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態2におけるデュアル光周波数コム発光装置の例を模式的に示す図である。
【
図5A】
図5Aは、周波数f
inの光がリング共振器に入力された場合におけるエネルギーの遷移過程を模式的に示す図である。
【
図5B】
図5Bは、第2光周波数コムが形成される過程を模式的に示す図である。
【
図6A】
図6Aは、本開示の実施形態3におけるデュアル光周波数コム発光装置の例を模式的に示す上面図である。
【
図6B】
図6Bは、
図6Aに示すデュアル光周波数コム発光装置における第1レーザ光源を模式的に示すXZ平面における断面図である。
【
図7A】
図7Aは、光周波数コムレーザ光の電界の時間変化を模式的に示す図である。
【
図7B】
図7Bは、光周波数コムレーザ光の周波数スペクトルを模式的に示す図である。
【
図8A】
図8Aは、デュアルコム分光法における分光システムを模式的に示す図である。
【
図8B】
図8Bは、デュアルコム分光法における光の周波数スペクトルを得る原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(光周波数コムレーザ光およびデュアルコム分光法)
光周波数コムレーザ光およびデュアルコム分光法の基本原理を簡単に説明する。
【0010】
まず、
図7Aおよび
図7Bを参照して、光周波数コムレーザ光の電界の時間変化および周波数スペクトルを説明する。
【0011】
図7Aは、光周波数コムレーザ光の電界の時間変化の例を模式的に示す図である。
図7Aに示すように、光周波数コムレーザ光は、繰り返し周期T
repで発生する光パルス列から形成されている。繰り返し周期T
repは例えば100ps以上100ns以下である。各光パルスの半値全幅はΔtによって表される。各光パルスの半値全幅Δtは、例えば10fs以上1ps以下である。光周波数コムレーザ光源は、励起光の入力または電圧印加によって光周波数コムレーザ光を発するレーザ共振器を含む。レーザ共振器の詳細については後述する。レーザ共振器では、光パルスの包絡線が伝搬する群速度v
gと、光パルス内の波が伝搬する位相速度v
pとが異なる。群速度v
gと位相速度v
pとの違いに起因して、隣接する2つの光パルスを包絡線が一致するように重ねると、これらの光パルス内の波の位相はΔφだけシフトする。Δφは2πよりも小さい。光パルス列の繰り返し周期は、レーザ共振器の周回長(round-trip length)をLとして、T
rep=L/v
gによって表される。
【0012】
図7Bは、光周波数コムレーザ光の周波数スペクトルを模式的に示す図である。
図7Bに示すように、光周波数コムレーザ光は、複数の離散的な等間隔線から形成された櫛状の周波数スペクトルを有する。複数の離散的な等間隔線の周波数は、レーザ共振器における縦モードの共振周波数に相当する。光周波数コムにおける隣接する2つの等間隔線の間隔に相当する繰り返し周波数は、f
rep=1/T
repによって表される。繰り返し周波数f
repは、例えば10MHz以上10GHz以下である。レーザ共振器の周回長がL=30cmであり、群速度v
gが真空中の光速にほぼ等しいとき、繰り返し周期はT
rep=1nsであり、繰り返し周波数はf
rep=1GHzである。光周波数コムの半値全幅は、Δf=1/Δtによって表される。光周波数コムの半値全幅Δfは、例えば1THz以上100THz以下である。等間隔線がゼロ周波数付近まで存在すると仮定した場合における、ゼロ周波数に最も近い等間隔線の周波数は、キャリアエンベロープオフセット周波数と呼ばれる。キャリアエンベロープオフセット周波数は、f
CEO=(Δφ/(2π))f
repによって表される。キャリアエンベロープオフセット周波数f
CEOは、繰り返し周波数f
repよりも低い。キャリアエンベロープオフセット周波数f
CEOを0番目のモード周波数とすると、光周波数コムにおけるn番目のモード周波数は、f
n=f
CEO+nf
repによって表される。
図7Aに示す光周波数コムレーザ光の電界は、n番目のモード周波数f
nでの電界の振幅および位相をそれぞれE
nおよびφ
nとして、E(t)=Σ
nE
nexp[-i(2πf
nt+φ
n)]によって表される。光周波数コムレーザ光は、複数のモード周波数での位相がすべて等しくなるようにモード同期されている。
【0013】
繰り返し周波数frepおよびキャリアエンベロープオフセット周波数fCEOは、光周波数コムレーザ光源に対する振動または温度変化などの外乱によってわずかに変化し得る。これは、振動がレーザ共振器の周回長Lを変化させ、温度変化がレーザ共振器の屈折率変化を介して群速度vgおよび位相速度vpを変化させ得るからである。繰り返し周波数frepおよびキャリアエンベロープオフセット周波数fCEOは光の周波数よりもはるかに低い。それらのわずかな変化でも、光周波数コムにおけるモード周波数の特定に影響を及ぼし得る。このため、従来の光周波数コムレーザ光源には、繰り返し周波数frepおよびキャリアエンベロープオフセット周波数fCEOを安定化させる変調素子が組み込まれている。変調素子は、例えば、ピエゾ素子などの振動を抑制するための圧電素子、およびペルチェ素子などの温度変化を抑制するための温度調整素子を含む。変調素子は、光周波数コムレーザ光源の外部に設けられてもよい。繰り返し周波数frepを安定化するために、光周波数コムレーザ光の一部を検出し、検出した当該一部に基づいて、ピエゾ素子およびペルチェ素子を用いてレーザ共振器の周回長Lが一定になるように、フィードバックが行われる。キャリアエンベロープオフセット周波数fCEOを安定化するために、非線形光学効果を用いて光周波数コムレーザ光の一部を検出し、検出した当該一部に基づいて、レーザ共振器に入力する励起光の強度を調整することによってレーザ共振器内の非線形性が一定になるように、フィードバックが行われる。
【0014】
次に、
図8Aおよび
図8Bを参照して、デュアルコム分光法の原理を簡単に説明する。
【0015】
図8Aは、デュアルコム分光法における分光システム90Sを模式的に示す図である。分光システム90Sにおける従来のデュアル光周波数コム発光装置90は、第1光周波数コムレーザ光91lを出射する第1光周波数コムレーザ光源91と、第2光周波数コムレーザ光92lを出射する第2光周波数コムレーザ光源92と、これら2つのレーザ光源の動作を同期して安定化させるフィードバック機構を含む同期装置93とを備える。
【0016】
第1光周波数コムレーザ光源91は、第1光周波数コムレーザ光91lを発する不図示の第1レーザ共振器を含み、第2光周波数コムレーザ光源92は、第2光周波数コムレーザ光92lを発する不図示の第2レーザ共振器を含む。第1光周波数コムレーザ光91lは、n番目のモード周波数がf1n=fCEO1+nfrep1によって表される第1光周波数コムを有し、第2光周波数コムレーザ光92lは、n番目のモード周波数がf2n=fCEO2+nfrep2によって表される第2光周波数コムを有する。fCEO1およびfCEO2は、それぞれ、第1光周波数コムおよび第2光周波数コムのキャリアエンベロープオフセット周波数である。frep1およびfrep2は、それぞれ、第1光周波数コムおよび第2光周波数コムの繰り返し周波数である。frep1およびfrep2はわずかに異なり、frep2=frep1+δfの関係が成り立つ。δfはfrep1よりもはるかに小さい。δfは、例えば0.1kHz以上10MHz以下である。
【0017】
図8Aに示す例では、第1光周波数コムレーザ光91lは、ミラー94によって反射され、ハーフミラー95を通過し、対象物96に入射する。第2光周波数コムレーザ光92lは、ハーフミラー95によって反射され、対象物96に入射する。第1光周波数コムレーザ光91lおよび第2光周波数コムレーザ光92lを重ね合わせた干渉光で対象物96が照射され、対象物96を透過した干渉光が検出器97によって検出される。干渉光ではビートが発生する。
【0018】
なお、対象物96は、第1光周波数コムレーザ光源91とミラー94との光路上、または第2光周波数コムレーザ光源92とハーフミラー95との光路上に位置してもよい。この場合、第1光周波数コムレーザ光91lおよび第2光周波数コムレーザ光92lのうち、対象物96を透過した一方の光と、対象物96を透過しない他方の光との干渉光が、検出器97によって検出される。
【0019】
図8Bは、デュアルコム分光法における光の周波数スペクトルを得る原理を説明するための図である。
図8Bの上の図は、第1光周波数コムおよび第2光周波数コムのスペクトルを模式的に示す。実線は第1光周波数コムを表し、破線は第2光周波数コムを表す。
図8Bの下の図は、干渉光のビート周波数スペクトルを模式的に示す図である。第1光周波数コムと第2光周波数コムとの最近接のモード周波数の差が、ビート周波数に相当する。
【0020】
ビート周波数スペクトルから、対象物96の光周波数に関する特性を調べることができる。例えば、どの周波数の光が対象物96によってどれくらい吸収されたかを調べることができる。第1光周波数コムにおける複数のモード周波数の1つが、第2光周波数コムにおける複数のモード周波数の1つに一致していれば、ゼロのビート周波数が現れる。これにより、一致したモード周波数を基準として、対象物96の光周波数に関する特性を容易に調べることができる。
【0021】
デュアルコム分光法の利点は、THzオーダーの高い周波数の光の情報を、MHzオーダーのラジオ周波数の情報にダウンコンバージョンすることができることである。GHzオーダー以下の周波数の信号波の時間波形は、一般的な検出器によって検出することができる。しかし、THzオーダー以上の周波数の信号波の時間波形を一般的な検出器によって検出することは難しい。このため、従来、THzオーダー以上の周波数の信号波は、例えば分光器によって周波数ごとに分けて検出されていた。この周波数の掃引に時間を要するため、光の周波数スペクトルを短時間で得ることができなかった。
【0022】
デュアルコム分光法では、ラジオ周波数のビートの時間波形を、一般的な検出器によって検出することができる。この時間波形をフーリエ変換することにより、
図8Bの下の図に示すようなビート周波数スペクトルを短時間で得ることができる。これにより、高い周波数の光の周波数スペクトルを短時間で得ることができる。
【0023】
一方、前述した同期装置93は複雑で高価な回路を含む場合がある。
【0024】
第1レーザ共振器から発せられる第1光周波数コムレーザ光の一部を、第2レーザ共振器から発せられる第2光周波数コムレーザ光の励起光として利用することにより、同期装置93を省略し、簡易で安価なデュアル光周波数コム発光装置を実現できる。
【0025】
第1の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第1の光路長を有する第1レーザ共振器を含む第1光周波数コムレーザ光源と、前記第1の光路長とは異なる第2の光路長を有する第2レーザ共振器を含む第2光周波数コムレーザ光源と、前記第1レーザ共振器から発せられた第1光周波数コムレーザ光の第1部分を前記第2レーザ共振器に入力させる光結合器と、を備える。前記第1光周波数コムレーザ光源は、前記第1光周波数コムレーザ光の第2部分を外部に出射する。前記第2光周波数コムレーザ光源は、前記第2レーザ共振器から発せられた第2光周波数コムレーザ光を外部に出射する。
【0026】
このデュアル光周波数コム発光装置では、第1レーザ共振器から発せられる第1光周波数コムレーザ光の第1部分を、第2レーザ共振器から発せられる第2光周波数コムレーザ光の励起光として利用することにより、第1光周波数コムレーザ光源および第2光周波数コムレーザ光源の動作を同期して安定化させことができる。
【0027】
第2の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第1の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置において、ある周波数帯域の光を通過させるフィルタを備える。前記光結合器は、前記第1光周波数コムレーザ光の前記第1部分を、前記フィルタを通して前記第2レーザ共振器に入力させる。
【0028】
このデュアル光周波数コム発光装置では、フィルタによって第1光周波数コムレーザ光の第1部分から余分なモード周波数の光を除去することにより、第2レーザ共振器の動作を安定化することができる。
【0029】
第3の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第2の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記周波数帯域が、前記第2レーザ共振器の共振周波数を含む。
【0030】
このデュアル光周波数コム発光装置では、第2レーザ共振器から効率よく第2光周波数コムレーザ光が発せられる。
【0031】
第4の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第1から第3の項目のいずれかに係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記第1レーザ共振器が、一対の第1ミラーと、前記一対の第1ミラーの間に位置する第1ゲイン媒質とを備える。
【0032】
このデュアル光周波数コム発光装置では、第1ゲイン媒質から誘導放出された光が、一対の第1ミラーの間で反射され、何回も第1ゲイン媒質を通過することによって増幅される。その結果、第1レーザ共振器から、第1光周波数コムレーザ光が発せられる。
【0033】
第5の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第4の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記第1光周波数コムレーザ光の前記第1部分が、前記一対の第1ミラーの一方から出射され、前記第1光周波数コムレーザ光の前記第2部分が、前記一対の第1ミラーの他方から出射される。
【0034】
このデュアル光周波数コム発光装置では、光結合器が、第1光周波数コムレーザ光の第2部分が外部に出射される側とは反対の側に設けられている。
【0035】
第6の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第5の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記一対の第1ミラーの前記一方が、前記他方よりも高い反射率を有する。
【0036】
このデュアル光周波数コム発光装置では、第1光周波数コムレーザ光の第2部分が、効率よく外部に出射される。
【0037】
第7の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第4の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記第1光周波数コムレーザ光の前記第1部分および前記第2部分が、前記一対の第1ミラーの一方から出射される。
【0038】
このデュアル光周波数コム発光装置では、光結合器が、第1光周波数コムレーザ光の第2部分が外部に出射される側と同じ側に設けられている。
【0039】
第8の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第7の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記一対の第1ミラーの前記一方が、他方よりも低い反射率を有する。
【0040】
このデュアル光周波数コム発光装置では、第1光周波数コムレーザ光の第2部分が、効率よく外部に出射される。
【0041】
第9の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第4から第8の項目のいずれかに係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記第1レーザ共振器が、前記一対の第1ミラーの間の光路の少なくとも一部の屈折率を変調する第1屈折率変調器をさらに備える。
【0042】
このデュアル光周波数コム発光装置では、第1屈折率変調器により、第1光周波数コムの繰り返し周波数を変調することができる。
【0043】
第10の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第1から第9の項目のいずれかに係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記第2レーザ共振器が、一対の第2ミラーと、前記一対の第2ミラーの間に位置する第2ゲイン媒質とを備える。
【0044】
このデュアル光周波数コム発光装置では、第2ゲイン媒質から誘導放出された光が、一対の第2ミラーの間で反射され、何回も第2ゲイン媒質を通過することによって増幅される。その結果、第2レーザ共振器から、第2光周波数コムレーザ光が発せられる。
【0045】
第11の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第10の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記第2レーザ共振器が、前記一対の第2ミラーの間の光路の少なくとも一部の屈折率を変調する第2屈折率変調器をさらに備える。
【0046】
このデュアル光周波数コム発光装置では、第2屈折率変調器により、第2光周波数コムの繰り返し周波数を変調することができる。
【0047】
第12の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第1から第9の項目のいずれかに係るデュアル光周波数コム発光装置において、前記第2レーザ共振器が、非線形光学材料から形成されたリング共振器を備える。
【0048】
このデュアル光周波数コム発光装置では、4光波混合により、非線形光学材料から形成されたリング共振器から、第2光周波数コムレーザ光が発せられる。
【0049】
第13の項目に係るデュアル光周波数コム発光装置は、第1から第12の項目のいずれかに係るデュアル光周波数コム発光装置において、基板をさらに備える。前記第1光周波数コムレーザ光源、前記第2光周波数コムレーザ光源、および前記光結合器は、前記基板の表面に集積されている。
【0050】
このデュアル光周波数コム発光装置は、第1光周波数コムレーザ光源、第2光周波数コムレーザ光源、および光結合器を基板に集積することによって小型化される。
【0051】
本開示において、回路、ユニット、装置、部材または部の全部または一部、またはブロック図における機能ブロックの全部または一部は、例えば、半導体装置、半導体集積回路(IC)、またはLSI(large scale integration)を含む1つまたは複数の電子回路によって実行され得る。LSIまたはICは、1つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、1つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIまたはICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、もしくはULSI(ultra large scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、またはLSI内部の接合関係の再構成またはLSI内部の回路区画のセットアップができるreconfigurable logic deviceも同じ目的で使うことができる。
【0052】
さらに、回路、ユニット、装置、部材または部の全部または一部の機能または動作は、ソフトウェア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウェアは1つまたは複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウェアが処理装置(processor)によって実行されたときに、そのソフトウェアで特定された機能が処理装置(processor)および周辺装置によって実行される。システムまたは装置は、ソフトウェアが記録されている1つまたは複数の非一時的記録媒体、処理装置(processor)、および必要とされるハードウェアデバイス、例えばインターフェースを備えていてもよい。
【0053】
本開示において、「光」とは、可視光(波長が約400nm~約700nm)だけでなく、紫外線(波長が約10nm~約400nm)および赤外線(波長が約700nm~約1mm)を含む電磁波を意味する。
【0054】
以下、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複する説明を省略することがある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するわけではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0055】
(実施形態1)
まず、
図1を参照して、本開示の実施形態1におけるデュアル光周波数コム発光装置の基本的な構成例を説明する。
図1は、本開示の実施形態1におけるデュアル光周波数コム発光装置100の例を模式的に示す図である。このデュアル光周波数コム発光装置100は、第1光周波数コムレーザ光源10と、第2光周波数コムレーザ光源20と、光結合器30とを備える。以下の説明では、第1光周波数コムレーザ光源10を単に「第1レーザ光源10」と称し、第2光周波数コムレーザ光源20を単に「第2レーザ光源20」と称し、デュアル光周波数コム発光装置100を単に「発光装置100」と称する。
【0056】
第1レーザ光源10は、第1の光路長を有する第1レーザ共振器12を含む。光路長は、実際の距離と屈折率との積に相当する。第1レーザ共振器12は、ミラー12m1およびミラー12m2と、第1ゲイン媒質12gと、第1屈折率変調器12nとを備える。第1ゲイン媒質12gは、ミラー12m1とミラー12m2との間に位置する。第1屈折率変調器12nは、ミラー12m1とミラー12m2との光路の少なくとも一部の屈折率を変調する。ミラー12m1およびミラー12m2を、「一対の第1ミラー」と称することがある。ミラー12m1の反射率は、ミラー12m2の反射率よりも低い。ミラー12m1の反射率は、例えば90%以上95%以下であり、ミラー12m2の反射率は、例えば95%以上99%以下である。ただし、この範囲に限定されない。
【0057】
第1ゲイン媒質12gは、例えばTi:Al2O3、Yb:YAG、Yb:KYW、Yb:KY(WO4)2、Yb:Sr5(PO4)3F、Yb:YVO4、Yb:Sc2O3、Yb:Y2O3、Yb:Lu2O3、Er:YAG、Tm:YAG、Nd:YAG、Nd:YLF、Cr:YAG、Cr:forsterite、Cr:LiSGaF、Cr:LiSAF、Cr:LiCAF、Cr:ZnS、Cr:ZnSe、およびPr:YLFからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含み得る。
【0058】
第1屈折率変調器12nは、例えば電圧印加または温度変化によって屈折率が変化する材料、例えば液晶材料を含み得る。第1屈折率変調器12nによって屈折率を変調することにより、第1レーザ共振器の第1の光路長を変化させることができる。これにより、第1光周波数コムを調整することができる。第1屈折率変調器12nは、用途に応じて設けられ、省略されてもよい。
【0059】
第1レーザ共振器12から第1光周波数コムレーザ光が発せられる原理は以下の通りである。第1ゲイン媒質12gを、例えば外部からの連続光または電圧印加によって励起すると、第1ゲイン媒質12gから光が誘導放出される。この誘導放出された光は、ミラー12m1とミラー12m2との間で繰り返し反射され、第1ゲイン媒質12gを何回も通過することによって増幅される。増幅された光は、ミラー12m1とミラー12m2との間に配置された不図示の過飽和吸収体によってモード同期された光パルス列になる。過飽和吸収体は、低強度の光に対しては吸収体として機能し、高強度の光に対しては透明体として機能する。過飽和吸収体を用いずに、例えば第1ゲイン媒質12gにおけるカーレンズ効果などの非線形光学効果によってモード同期された光パルス列を発生させてもよい。カーレンズ効果では、光が伝搬する箇所での屈折率の増加により、光が自己収束される。以上により、第1レーザ共振器12から第1光周波数コムレーザ光が発せられる。
【0060】
第1レーザ光源10は、第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l1を、ミラー12m2から光結合器30に向けて出射し、第1光周波数コムレーザ光の第2部分10l2を、ミラー12m1から外部に出射する。
【0061】
第2レーザ光源20は、第1の光路長とは異なる第2の光路長を有する第2レーザ共振器22を含む。第2レーザ共振器22は、ミラー22m1およびミラー22m2と、第2ゲイン媒質22gと、第2屈折率変調器22nと、を備える。第2ゲイン媒質22gは、ミラー22m1とミラー22m2との間に位置する。第2屈折率変調器22nは、ミラー22m1とミラー22m2との光路の少なくとも一部の屈折率を変調する。ミラー22m1およびミラー22m2を、「一対の第2ミラー」と称することがある。ミラー22m1の反射率は、ミラー22m2の反射率よりも低い。ミラー22m1の反射率は、例えば90%以上95%以下であり、ミラー22m2の反射率は、例えば95%以上99%以下である。ただし、この範囲に限定されない。第2レーザ光源20は、第2の光路長が第1の光路長と異なる点以外は、第1レーザ光源10と同じ構造を備え得る。
【0062】
第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l1は、光結合器30により、励起光として第2レーザ共振器22に入力される。これにより、第2レーザ共振器22から、第2光周波数コムレーザ光20lが発せられる。第2レーザ光源20は、第2光周波数コムレーザ光20lをミラー22m1から外部に出射する。第2の光路長は第1の光路長とは異なることから、第2光周波数コムレーザ光20lの繰り返し周波数frep2は、第1光周波数コムレーザ光の繰り返し周波数frep1とは異なる。
【0063】
第2光周波数コムレーザ光20lの出射強度は、第1光周波数コムレーザ光の第2部分10l2の出射強度よりも低い。2つのレーザ光の出射強度が異なっていても、2つレーザ光の重ね合わせた干渉光ではビートが発生する。前述したように、デュアルコム分光法では、ビートが検出できれば、ビート周波数から、対象物の光周波数に関する特性を調べることができる。したがって、発光装置100から出射される2つのレーザ光の強度の違いは問題にはならない。
【0064】
本実施形態における発光装置100では、前述したように、第2光周波数コムレーザ光20lは、第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l
1を励起光として第2レーザ共振器22から発せられる。したがって、発光装置100に外乱が生じても、第2光周波数コムの揺らぎ方は、第1光周波数コムの揺らぎ方と同じか、相関を有する。すなわち、外乱が生じても、第1光周波数コムにおけるモード周波数と第2光周波数コムにおけるモード周波数との差は変化しにくい。したがって、本実施形態における発光装置100は、
図8Aに示す従来の発光装置90における複雑で高価な同期装置93を必要としない。これにより、簡易で安価な発光装置100を実現できる。
【0065】
次に、光結合器30の構成例を説明する。光結合器30は、ミラー32およびミラー34と、フィルタ36と、周波数シフタ38とを備える。フィルタ36および周波数シフタ38は、ミラー32とミラー34との間に位置する。第1レーザ共振器12から発せられた第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l1は、ミラー12m2を透過して、ミラー32によって反射され、フィルタ36および周波数シフタ38を通過して、ミラー34によって反射され、第2レーザ共振器22にミラー22m2から入射する。このようにして、光結合器30は、第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l1を、フィルタ36および周波数シフタ38を通して第2レーザ共振器22に入力させる。なお、フィルタ36および周波数シフタ38の少なくとも一方は、用途によっては省略されてもよい。
【0066】
次に、
図2Aおよび
図2Bを参照して、光結合器30におけるフィルタ36および周波数シフタ38の機能を説明する。
【0067】
図2Aは、フィルタ36の機能を説明するための図である。この例では、第1光周波数コムおよび第2光周波数コムに、一致するモード周波数が存在する。このような場合、
図2Aに示す例では、周波数シフタ38は不要である。
図2Aのうち、上の図は、第1光周波数コムのスペクトルを模式的に示す。中央の図は、フィルタ36を通過した後の第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l
1の周波数スペクトルを模式的に示す。下の図は、第2光周波数コムのスペクトルを模式的に示す。
【0068】
フィルタ36は、第1光周波数コムにおける複数のモード周波数のうちの一部の周波数を有する光を通過させるバンドパスフィルタとして機能する。具体的には、フィルタ36の通過周波数帯域(
図2Aにおいて点線枠によって表示)は、第1光周波数コムにおける複数のモード周波数のうち、第2光周波数コムにおける複数のモード周波数の1つに一致するモード周波数を含む。すなわち、この一致するモード周波数は、第2レーザ共振器22の共振周波数に相当する。
【0069】
図2Aに示す例では、第1光周波数コムにおけるモード周波数の1つだけが、第2光周波数コムにおけるモード周波数の1つに一致する。この例におけるフィルタ36は、この一致するモード周波数とその最近接の2つのモード周波数とを有する光を通過させるように設計されている。第1光周波数コムと第2光周波数コムにおける繰り返し周波数の差δf=f
rep2-f
rep1が十分に小さければ、一致する周波数を1つだけにすることができる。この一致するモード周波数を有する光が第2レーザ共振器22に入力されると、その光を励起光として、第2光周波数コムレーザ光20lが発せられる。上記のモード周波数に最も近接する2つのモード周波数は、第2光周波数コムにおける複数のモード周波数のいずれにも一致しない。したがって、これらの2つのモード周波数を有する光は、第2光周波数コムの発生に寄与しない。フィルタ36は、第2レーザ共振器22の共振周波数に一致するモード周波数の光だけを透過させるように設計されていてもよい。余分なモード周波数の光が第2レーザ共振器22に入力すると、非線形光学効果に起因して第2レーザ共振器22の動作が不安定になる可能性がある。フィルタ36によって余分なモード周波数の光を除去することにより、第2レーザ共振器22の動作を安定化することができる。
【0070】
図2Bは、フィルタ36および周波数シフタ38の機能を説明するための図である。この例では、第1光周波数コムおよび第2光周波数コムに、一致するモード周波数が存在しない。
図2Bのうち、上の図は、第1光周波数コムのスペクトルを模式的に示す。中央の図は、フィルタ36および周波数シフタ38を通過した後の第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l
1の周波数スペクトルを模式的に示す。下の図は、第2光周波数コムのスペクトルを模式的に示す。
【0071】
周波数シフタ38は、第1光周波数コムにおける複数のモード周波数のうちの少なくとも1つを第2光周波数コムにおける複数のモード周波数のうちの少なくとも1つに一致させるように、第1光周波数コムにおける複数のモード周波数をシフトする。周波数シフタ38は、例えば音響光学素子を含む。
図2Bに示す例では、シフトされた第1光周波数コムにおけるモード周波数の1つが、第2光周波数コムにおけるモード周波数の1つに一致する。フィルタ36は、この一致するモード周波数とその最近接の2つのモード周波数とを有する光を通過させる。
図2Bに示す例では、
図2Aに示す例と同様に、この一致するモード周波数の光が第2レーザ共振器22に入力される。その光を励起光として、第2光周波数コムレーザ光が発せられる。
【0072】
(実施形態1の変形例)
次に、
図3を参照して、実施形態1における発光装置100の変形例を説明する。
図3は、実施形態1の変形例における発光装置100Mの例を模式的に示す図である。
図3に示す例では、光結合器30Mは、ミラー12m
1およびミラー22m
1の正面側に位置する。光結合器30Mは、ハーフミラー32hおよびハーフミラー34hと、フィルタ36と、周波数シフタ38とを備える。フィルタ36および周波数シフタ38は、ハーフミラー32hとハーフミラー34hとの間に位置する。光結合器30Mにおけるフィルタ36および周波数シフタ38については、
図2Aおよび
図2Bを参照して説明した通りである。
【0073】
第1レーザ共振器12から発せられた第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l1は、ミラー12m1を透過し、ハーフミラー32hによって反射され、フィルタ36および周波数シフタ38を通過し、ハーフミラー34hによって反射され、第2レーザ共振器22にミラー22m1から入射する。このようにして、光結合器30Mは、第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l1を、フィルタ36および周波数シフタ38を通して第2レーザ共振器22に入力させる。
【0074】
本変形例における発光装置100Mにおいて、第1レーザ光源10におけるミラー12m1の反射率、および第2レーザ光源20におけるミラー22m1の反射率は、例えば90%以上95%以下であり得る。第1レーザ光源10におけるミラー12m2の反射率、および第2レーザ光源20におけるミラー22m2の反射率は、例えば95%以上99.9%以下であり得る。ただし、この範囲に限定されない。第1レーザ光源10におけるミラー12m2、および第2レーザ光源20におけるミラー22m2は、光を透過させる必要がないことから、100%に近い高い反射率を有してもよい。第1レーザ光源10および第2レーザ光源20のミラー以外の構成については、前述した通りである。
【0075】
第1レーザ光源10は、第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l1を、ミラー12m1から光結合器30に向けて出射する。一方、第1レーザ光源10は、第1光周波数コムレーザ光の第2部分10l2を、ミラー12m1から光結合器30におけるハーフミラー32hを通して外部に出射する。第2レーザ光源20は、第2光周波数コムレーザ光20lを、ミラー22m1からハーフミラー34hを通して外部に出射する。
【0076】
第2光周波数コムレーザ光20lの一部は、ハーフミラー34hおよびハーフミラー32hによって反射され、戻り光として第1レーザ共振器12に入力し得る。戻り光は、第1レーザ共振器12の動作を不安定にする可能性がある。戻り光を除去するために、光結合器30Mは、光路上に不図示のアイソレータをさらに備えてもよい。
【0077】
実施形態1の変形例における発光装置100Mもまた同期装置を必要としない。これにより、簡易で安価な発光装置100Mが可能になる。
【0078】
(実施形態2)
次に、
図4を参照して、本開示の実施形態2における発光装置の基本的な構成例を説明する。以下では、前述した説明と重複する説明は省略することがある。
図4は、本開示の実施形態2における発光装置110の例を模式的に示す図である。実施形態2における発光装置110と、実施形態1における発光装置100とが異なる点は、第2レーザ光源20の構造である。実施形態2における発光装置110では、第2レーザ光源20は、光導波路22wと、光導波路22wに隣接する第2レーザ共振器22とを備える。第2レーザ共振器22は、非線形光学材料から形成されたリング共振器である。第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l
1が光結合器30によって光導波路22wを介してリング共振器22に入力される。その結果、リング共振器22から第2光周波数コムレーザ光20lが発せられる。
【0079】
次に、
図5Aおよび
図5Bを参照して、リング共振器22から第2光周波数コムレーザ光20lが発せられる原理を説明する。
【0080】
図5Aは、周波数f
inの光がリング共振器22に入力された場合におけるエネルギーの遷移過程を模式的に示す図である。周波数f
inは、リング共振器22内に形成される複数の定在波にそれぞれ対応する複数のモード周波数のうちの1つである。
図5Aに示す遷移過程は、非線形光学効果における4光波混合に起因する。非線形光学効果により、基底準位から仮想的な周波数2f
inの励起準位への遷移が生じる。その後、励起準位から基底状態への遷移において、周波数f
in±f
rep2の光が出力される。
図5Aに示す遷移過程では、出力エネルギーは入力エネルギーに等しい。第2光周波数コムの繰り返し周波数f
rep2は、リング共振器22における上記の複数のモード周波数のうちの最も近い2つのモード周波数の差に相当する。
【0081】
図5Bは、第2光周波数コムが形成される過程を模式的に示す図である。
図5Bの上の図に示すように、
図5Aに示す遷移過程により、周波数f
inから、周波数f
in±f
rep2が現れる。同様に、
図5Bの中央の図に示すように、周波数f
in±f
rep2から、周波数f
inおよび周波数f
in±2f
rep2が現れる。同様に、
図5Bの下の図に示すように、周波数f
in±2f
rep2から、周波数f
in±f
rep2および周波数f
in±3f
rep2が現れる。この過程を繰り返すことにより、第2光周波数コムが形成される。
【0082】
第2光周波数コムの繰り返し周波数frep2は、リング共振器22の光路長に反比例する。リング共振器22の光路長は、温度変化によってリング共振器22の屈折率を変化させたり、リング共振器22自体を膨張・収縮させたりすることにより、調整することができる。したがって、リング共振器22に温度調整素子を組み込めば、第2光周波数コムの繰り返し周波数frep2を、温度調整素子によって調整することができる。
【0083】
第1レーザ光源10は、第1光周波数コムレーザ光の第2部分10l2を、ミラー12m1から外部に出射する。第2レーザ光源20は、第2光周波数コムレーザ光20lを、光導波路22wを介して外部に出射する。
【0084】
本実施形態における発光装置110もまた同期装置を必要としない。これにより、簡易で安価な発光装置110を実現することが可能になる。本実施形態のように、第1光周波数コムおよび第2光周波数コムが異なる原理によって得られる場合でも、実施形態1と同様の効果を得ることができる。発光装置110は、光結合器30の代わりに、実施形態1の変形例における光結合器30Mを備えてもよい。
【0085】
(実施形態3)
次に、
図6Aおよび
図6Bを参照して、本開示の実施形態3における発光装置の基本的な構成例を説明する。上記の各実施形態における発光装置は、基板に実装し、集積させることができる。以下では、前述の実施形態と異なる点を説明する。
【0086】
図6Aは、本開示の実施形態3における発光装置120の例を模式的に示す上面図である。
図6Bは、
図6Aに示す発光装置120における第1レーザ光源10を模式的に示すXZ平面における断面図である。本実施形態における発光装置120は、基板40、基板40の表面に集積された第1レーザ光源10、第2レーザ光源20、および光結合器30、ならびに、第1レーザ光源10、第2レーザ光源20、および光結合器30を覆うポリマーなどの保護層50を備える。
図6Aでは、保護層50の記載は省略されている。本実施形態における発光装置120は、実施形態1における発光装置100と同様に、第1屈折率変調器12n、第2屈折率変調器22n、および周波数シフタ38をさらに備えてもよい。参考のために、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸が模式的に示されている。説明の便宜上、Zの値が増加する方向を「上方」と称する。このことは、発光装置120の使用時における向きを制限するわけではなく、発光装置120の向きは任意である。
【0087】
図示されている例における基板40の表面は、XY平面に平行である。基板40は、例えば、Siなどの高屈折率層40aと、SiO2などの低屈折率層40bとがこの順にZ方向に積層された積層構造から形成され得る。基板40は、高屈折率層40aを含んでいなくてもよい。
【0088】
第1レーザ光源10は、第1の光路長を有する第1レーザ共振器12を含む。第1レーザ共振器12は、ミラー12m1およびミラー12m2と、第1ゲイン媒質12gと、光導波路12w1と、光導波路12w2とを備える。第1ゲイン媒質12gの一部は、平面視でミラー12m1とミラー12m2との間に位置する。光導波路12w1は、ミラー12m1に接続されている。光導波路12w2は、ミラー12m2と第1ゲイン媒質12gとの間に位置する。
【0089】
同様に、第2レーザ光源20は、第1の光路長とは異なる第2の光路長を有する第2レーザ共振器22を含む。第2レーザ共振器22は、ミラー22m1およびミラー22m2と、第2ゲイン媒質22gと、光導波路22w1と、光導波路22w2とを備える。第2ゲイン媒質22gの一部は、ミラー22m1とミラー22m2との間に位置する。光導波路22w1は、ミラー22m1に接続されている。光導波路22w2は、ミラー22m2と第2ゲイン媒質22gとの間に位置する。
【0090】
図6Aに示す例では、第1レーザ共振器12における第1ゲイン媒質12g、および第2レーザ共振器22における第2ゲイン媒質22gは、点線によって表されている。第1レーザ共振器12および第2レーザ共振器22は、光路長が異なる点以外は同じ構造を備える。
【0091】
図6Bに示す例では、第1レーザ共振器12における光導波路12w
1は、基板40における低屈折率層40bに埋め込まれている。光導波路12w
1は、低屈折率層40b上に設けられていてもよい。光導波路12w
1は、SiまたはSiNからなる群から選択される少なくとも1つの高屈折率材料から形成され得る。光導波路12w
1の屈折率は、基板40における低屈折率層40bの屈折率、および保護層50の屈折率よりも高い。これにより、光は、全反射によって光導波路12w
1内を伝搬することができる。光導波路12w
2についても同様である。光導波路12w
2は、光路長を増加させるために、らせん構造を有している。ミラー12m
1は、例えば分布ブラッグ反射器から形成され得る。分布ブラッグ反射器では、屈折率の周期構造に起因するブラッグ反射によって光が反射される。ミラー12m
1は、金属から形成されていてもよい。ミラー12m
2についても同様である。
【0092】
図6Bに示す例では、第1レーザ共振器12は、第1ゲイン媒質12gを挟むnドープ層12l
1およびpドープ層12l
2と、第1ゲイン媒質12gの一部の上に位置し、かつ、ミラー12m
1の上方に位置する過飽和吸収体12saとをさらに備える。nドープ層12l
1およびpドープ層12l
2の配置関係は逆であってもよい。第1レーザ光源10における第1ゲイン媒質12gは、例えばIII-V族の半導体材料から形成され得る。III-V族の半導体材料は、例えば、ZnSe、InGaAlP、InGaAs、GaInAsP、GaInAsSb、InP、GaN、GaAs、InGaAs、AlGaAs、AlInGaNからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含み得る。nドープ層12l
1およびpドープ層12l
2に取り付けられた不図示の電極から電流注入された第1ゲイン媒質12gでは、光が誘導放出される。この誘導放出された光は、光導波路12w
2を介してミラー12m
1とミラー12m
2との間で繰り返し反射され、第1ゲイン媒質12gを何回も通過することによって増幅される。増幅された光は、不図示の電極から電流注入された過飽和吸収体12saによってモード同期された光パルス列になる。これにより、第1レーザ共振器12から第1光周波数コムレーザ光が発せられる。第1レーザ光源10は、第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l
1を、ミラー12m
2から光結合器30に向けて出射し、第1光周波数コムレーザ光の第2部分10l
2を、ミラー12m
1から光導波路12w
1を介して外部に出射する。
【0093】
第1光周波数コムレーザ光の第1部分10l1は、光結合器30により、励起光として第2レーザ共振器22に入力される。これにより、第2レーザ光源20は、第2レーザ共振器22から発せられた第2光周波数コムレーザ光20lをミラー22m1から光導波路22w1を介して外部に出射する。
【0094】
光結合器30は、フィルタ36と、フィルタ36および第1レーザ共振器12を接続する光導波路30w1と、フィルタ36および第2レーザ共振器22を接続する光導波路30w2とを備える。
【0095】
本実施形態における発光装置120によれば、前述の実施形態の効果に加え、基板40への集積化により、発光装置120を小型化することができる。発光装置120は、光結合器30の代わりに、実施形態1の変形例における光結合器30Mを備えてもよい。
【0096】
図6Aおよび
図6Bに示す例以外にも、実施形態1の変形例における発光装置100Mと同様の構成、および実施形態2における発光装置110と同様の構成もまた、基板40に集積させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本開示の実施形態におけるデュアル光周波数コム発光装置は、例えば、対象物の光周波数に関する特性を調べる用途、および対象物までの精密距離測定(absolute distance measurement)の用途に利用できる。
【符号の説明】
【0098】
10 第1光周波数コムレーザ光源
10l1 第1光周波数コムレーザ光の第1部分
10l2 第1光周波数コムレーザ光の第2部分
12 第1レーザ共振器
12g ゲイン媒質
12l1 nドープ層
12l2 pドープ層
12m1、12m2 ミラー
12n 第1屈折率変調器
12sa 過飽和吸収体
12w1 光導波路
12w2 光導波路
20 第2光周波数コムレーザ光源
20l 第2光周波数コムレーザ光
22 第2レーザ共振器、リング共振器
22g 第2ゲイン媒質
22m1、22m2 ミラー
22n 第2屈折率変調器
22w、22w1、22w2 光導波路
30、30M 光結合器
30w1、30w2 光導波路
32、34 ミラー
32h、34h ハーフミラー
36 フィルタ
40 基板
40a 高屈折率層
40b 低屈折率層
50 保護層
90 デュアル光周波数コム発光装置
91 第1光周波数コムレーザ光源
91l 第1光周波数コムレーザ光
92 第2光周波数コムレーザ光源
92l 第2光周波数コムレーザ光
93 同期装置
94 ミラー
95 ハーフミラー
96 対象物
97 検出器
100、100M、110、120 デュアル光周波数コム発光装置