(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】輸送経路決定方法、コンピュータプログラム、及び、輸送経路決定装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/047 20230101AFI20240927BHJP
B65G 61/00 20060101ALI20240927BHJP
G06Q 10/083 20240101ALI20240927BHJP
【FI】
G06Q10/047
B65G61/00 544
G06Q10/083
(21)【出願番号】P 2021561472
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2020043936
(87)【国際公開番号】W WO2021106977
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2019215683
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519426162
【氏名又は名称】株式会社AirBusinessClub
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】酒井 道
(72)【発明者】
【氏名】大堀 富生
【審査官】深津 始
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-028992(JP,A)
【文献】特開2000-331293(JP,A)
【文献】特開2005-096979(JP,A)
【文献】特開平09-160981(JP,A)
【文献】特開2007-207215(JP,A)
【文献】古川正志、ほか,メタヒューリスティクスとナチュラルコンピューティング,初版,株式会社コロナ社,2012年01月06日,第135-147ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 61/00
G06Q 10/00 -G06Q 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、所定の地域内で、物品を輸送する輸送機器が経由
可能な輸送拠点を順に選択して前記
輸送機器の輸送経路を決定する輸送経路決定方法であって、
前記輸送拠点は、前記地域内の前記物品の集荷地点及び配荷地点を含み、
前記コンピュータが、
前記輸送機器が位置する前記所定の地域内の任意の初期存在位置又は前のステップで選択した輸送拠点から
、次に経由する輸送拠
点を順次
、隣接する地点
の中から確率的に選択する選択処理を
1ステップとして、
前記輸送機器が、積載する前記物品の配荷地点への輸送を完了するまで
前記ステップを繰り返
し、前記輸送機器が経由する輸送拠点を時系列に結んだ輸送経路を作成するシミュレーション工程、
前記シミュレーション工程で得られる輸送経路に対する所定の評価量を算出する工程、並びに、
次に経由する輸送拠
点を順次、隣接する地点から確率的に選択する前記選択処理を含む前記シミュレーション工程及び前記所定の評価量の算出工程を
、工程の回数又は演算時間に関する所定の範囲内で繰り返して得られる複数の輸送経路の中から、前記所定の評価量に基づいて輸送経路を決定する工程
を含む輸送経路決定方法。
【請求項2】
前記所定の評価量とは、輸送完了までの所要時間、所要ステップ数、輸送機器の総移動距離、所要移動回数、
及び、輸送機器の移動による二酸化炭素の推定排出
量の内のいずれか1つ若しくは複数の組み合わせ、又は、複数の組み合わせから演算された値である
請求項1に記載の輸送経路決定方法。
【請求項3】
前記所定の範囲内とは、得られた輸送経路の数が、所定の輸送経路数の上限値以内であることか、又は、シミュレーション工程及び評価量を算出する工程の計算時間が所定の計算時間上限値以内であることである
請求項1又は2に記載の輸送経路決定方法。
【請求項4】
前記コンピュータは、前記選択処理における輸送拠点又は配荷地点を選択する確率は、予め重み付けされた確率である設定で、前記シミュレーション工程
を実行
する
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の輸送経路決定方法。
【請求項5】
前記物品は複数種類の
複数の物品であり、前記輸送機器は前記複数種類の
複数の物品の積載が許可され、前記複数種類の
複数の物品は、
集荷地点でも配荷地点でもない輸送拠点で、荷積み又は荷降ろしが許可される条件で、
前記コンピュータは前記シミュレーション工程
を実行
する
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の輸送経路決定方法。
【請求項6】
前記コンピュータは、
前記シミュレーション工程で、前記選択処理を繰り返す過程で、前記評価量に係る数値を算出し、
前記数値が、予め設定された算出処理の打ち切り条件を満たす場合に、前記シミュレーション工程
を打ち切
る
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の輸送経路決定方法。
【請求項7】
前記コンピュータは、
前記選択処理を
前記1ステップずつ繰り返す過程で、
前記所定の地域内の集荷地点に対応付けられていた複数の物品の数に対し、それぞれの配荷地点へ到達した数の割合である進捗率を算出し、
複数回の前記シミュレーション工程により既に得られた
複数パターンの輸送経路の内で前記所定の評価量に基づき最適と判断される輸送経路における前記進捗率と同一
の進捗率のときの状態と比較し、
所定の指標が基準値を超えること
を前記打ち切り条件
とする
請求項
6に記載の輸送経路決定方法。
【請求項8】
前記所定の指標は、前記進捗率までの輸送所要時間、所要ステップ数、前記進捗率までの輸送機器の移動距離、前記進捗率までの輸送機器の移動回数、
又は前記進捗率までの二酸化炭素の推定排出
量である
請求項
7に記載の輸送経路決定方法。
【請求項9】
前記コンピュータは、
前記輸送機器が複数の物品を積載することと、前記輸送機器が前記複数の物品を、それぞれの配荷地点全てに配荷した時点で所定の集荷地点へ移動することとを条件とし、更に、前記シミュレーション工程の前提条件として前記輸送機器の条件を設定し、
前記輸送機器の条件を変更して前記シミュレーション工程を実行し、
異な
る条件に対して実行される
前記シミュレーション工程によって得られた
異なるパターンの輸送経路
それぞれに対する前記所定の評価量に基づき、最適な輸送経路及び前記輸送機器の条件を決定する
請求項1から
8のいずれか1項に記載の輸送経路決定方法。
【請求項10】
前記輸送機器の条件は、前記輸送機器の数であり、
前記コンピュータは、
前記輸送機器の数を1ずつ増加させることで条件を変更し、
輸送機器の数を増加させても前記所定の評価量が減少しない前記輸送機器の最小値を、輸送機器の数として決定する
請求項9に記載の輸送経路決定方法。
【請求項11】
前記所定の地域は、複数の物品それぞれの集荷地点から、前記複数の物品それぞれの最終的な目的地までに跨る複数の地域のうちの1つであり、
前記コンピュータは、前記複数の物品の種類と
、前記複数の物品を積み付けた物流部材の個数と、前記物品が集配される集配地点、及び前記物品の最終的な目的
地点の情報と、前記目的
地点への
各物品の希望到着時間情報とを取得する処理、
前記複数の地域毎に、請求項1から請求項10のいずれか1項の前記シミュレーション工程及び評価量を算出する工程に基づき地域内の輸送経路を決定して記憶しておく処理、
前記複数の地域毎に、前記地点を含む地域毎に必要な輸送機器の台数を導出する処理、
及び、
取得した情報に基づいて、記憶部に記憶してある輸送経路、及び、新たに演算によって導出した輸送経路のいずれか
を、部分経路
として選択して、前記輸送機器毎に、輸送経路を決定する処理
を含む
請求項1から請求項10に記載の輸送経路決定方法。
【請求項12】
コンピュータに、
所定の地域内で、物品を輸送する輸送機器が経由
可能な輸送拠点を順に選択して前記
輸送機器の輸送経路を決定する処理を実行させるコンピュータプログラムであって、
前記輸送拠点は、前記地域内の前記物品の集荷地点及び配荷地点を含み、
前記コンピュータに、
前記輸送機器が位置する前記所定の地域内の任意の初期存在位置又は前のステップで選択した輸送拠点から
、次に経由する輸送拠
点を順次
、隣接する地点
の中から確率的に選択する選択処理を
1ステップとして、
前記輸送機器が積載する前記物品の配荷地点への輸送を完了するまで
前記ステップを繰り返
し、前記輸送機器が経由する輸送拠点を時系列に結んだ輸送経路を作成するシミュレーション工程、
前記シミュレーション工程で得られる輸送経路に対する所定の評価量を算出する工程、並びに、
次に経由する輸送拠
点を順次、隣接する地点から確率的に選択する前記選択処理を含む前記シミュレーション工程及び前記所定の評価量の算出工程を
、工程の回数又は演算時間に関する所定の範囲内で繰り返して得られる複数の輸送経路の中から、前記所定の評価量に基づいて輸送経路を決定する工程
を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項13】
所定の地域内で、物品を輸送する輸送機器が経由
可能な輸送拠点を順に選択して
前記輸送機器の輸送経路を決定する輸送経路決定装置であって、
前記輸送拠点は、前記地域内の前記物品の集荷地点及び配荷地点を含み、
前記輸送機器が位置する前記所定の地域内の任意の初期存在位置又は前のステップで選択した輸送拠点から
、次に経由する輸送拠
点を順次
、隣接する地点
の中から確率的に選択する選択処理を
1ステップとして、
前記輸送機器が積載する前記物品の配荷地点への輸送を完了するまで
前記ステップを繰り返
し、前記輸送機器が経由する輸送拠点を時系列に結んだ輸送経路を作成するシミュレーション工程を実行する実行部と、
前記シミュレーション工程で得られる輸送経路に対する所定の評価量を算出する算出部と、
次に経由する輸送拠
点を順次、隣接する地点から確率的に選択する前記選択処理を含む前記シミュレーション工程及び前記所定の評価量の算出工程を
、工程の回数又は演算時間に関する所定の範囲内で繰り返して得られる複数の輸送経路の中から、前記所定の評価量に基づいて輸送経路を決定する決定部と
を備える輸送経路決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の流通効率を向上させるために、パレット、小型コンテナ、又は段ボール箱等の物品が積み付けられる物流部材の輸送経路を最適化する輸送経路決定方法、コンピュータプログラム、及び、輸送経路決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物流全体を効率化させるためには、物品のみならず、パレット、小型コンテナ(折り畳みコンテナ)、段ボール箱等の、物品が積み付けられる物流部材、更には物流部材を積載する輸送機器の経路の最適化が必要である。
【0003】
特許文献1,2では、物流の基幹(幹線)における物品の移動を、パレット単位で輸送機器の荷台をシェアして最適化することが提案されている。
【0004】
幹線輸送した物品を、各地域で配送する必要がある。配送のためのルートを設定する方法は、従前から提案されている。特許文献3には、配送拠点から配送先へ、1台の輸送車両の1回の走行で、積載した荷物を輸送することを想定した配送計画問題を解く手法が開示されている。特許文献3は、複数の配送車両を用いて、物流拠点から複数の配送先へ、積み荷を配送し、元の拠点へ戻る経路への走行距離が最短になるように、異なるアルゴリズムで配送計画を作成することを繰り返し、総走行距離が最短となる計画を選択するようにしている。
【0005】
特許文献4には、暫定的に決定した配送経路に、配送先を挿入して走行距離の最も短い経路を選択するステップを繰り返す挿入法を用いて手法が開示されている。特許文献4は、物流拠点から複数の配送先を巡って回る閉じた経路にて、走行時間の上限、車両の最大積載量を超過しないという制約条件下で、途中で顧客を挿入した暫定解を生成し、走行距離又は走行時間を少なくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6362229号
【文献】特許第6362240号
【文献】特開2001-188984号公報
【文献】特開2015-038429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、特許文献1,2に開示している最適化について詳細に検討し、最適解を求める方法に想到した。
【0008】
特許文献3、4で開示されているような拠点から配送先への配送経路の設定方法はいずれも、各輸送車両は、荷物を配送先まで積載して配送する。輸送車両は、配送拠点で積み込んだ荷物を途中で他の車両へ積み換える、といったことを全く想定していない。車両が各荷物を配送先まで積載するから、途中で荷物が積み下ろされる都度に、車両の荷物の積載率は低下し、最適な配送計画を導出することは難しい。
【0009】
本発明は、物流部材の輸送経路を最適化する輸送経路決定方法、コンピュータプログラム、及び、輸送経路決定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一実施形態の輸送経路決定方法は、物品を輸送する輸送機器が経由する輸送拠点を順に選択して前記物品の集荷地点から配荷地点に至る輸送経路を決定する輸送経路決定方法であって、前記輸送機器が輸送拠点又は集荷地点から次に経由する輸送拠点又は配荷地点を順次、確率的に選択する選択処理を、前記物品の配荷地点への輸送を完了するまで繰り返すシミュレーション工程、前記シミュレーション工程で得られる輸送経路に対する所定の評価量を算出する工程、並びに、前記シミュレーション工程及び前記所定の評価量の算出工程を所定の範囲内で繰り返して得られる複数の輸送経路の中から、前記所定の評価量に基づいて輸送経路を決定する工程を含む。
【0011】
本開示の一実施形態の輸送経路決定方法は、物品を集配する複数の集配地点、及び、前記物品を輸送する輸送機器であって前記物品を収容する物流部材を各々収容する部材収容部を複数設けた荷台を持つ輸送機器が経由する複数の輸送拠点を含む地点間で輸送機器の経路を決定する輸送経路決定方法であって、前記物流部材に積み付けられる物品の種類と、物流部材の個数と、前記物品が集配される集配地点、及び、前記物品の最終的な目的地である集配地点又は輸送拠点の情報と、前記目的地への希望到着時間情報とを取得する処理、前記地点を含む地域毎に必要な輸送機器の台数、及び、地域内での輸送経路を、経由地点の複数の選択肢から1つを選択するときに乱数による確率的選択過程を含む数理モデルに基づくシミュレーション演算によって導出する処理、導出した地域毎の輸送機器の台数、及び地域内の輸送経路を記憶する処理、及び、取得した情報に基づいて、記憶部に記憶してある輸送経路、及び、新たに演算によって導出した輸送経路のいずれかの部分経路を選択して、前記輸送機器毎に、輸送経路を決定する処理を含む。
【0012】
本開示の一実施形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、物品を輸送する輸送機器が経由する輸送拠点を順に選択して前記物品の集荷地点から配荷地点に至る輸送経路を決定する処理を実行させるコンピュータプログラムであって、前記コンピュータに、前記輸送機器が輸送拠点又は集荷地点から次に経由する輸送拠点又は配荷地点を順次、確率的に選択する選択処理を、前記物品の配荷地点への輸送を完了するまで繰り返すシミュレーション工程、前記シミュレーション工程で得られる輸送経路に対する所定の評価量を算出する工程、並びに、前記シミュレーション工程及び前記所定の評価量の算出工程を所定の範囲内で繰り返して得られる複数の輸送経路の中から、前記所定の評価量に基づいて輸送経路を決定する工程を実行させる。
【0013】
本開示の一実施形態の輸送経路決定装置は、物品を輸送する輸送機器が経由する輸送拠点を順に選択して前記物品の集荷地点から配荷地点に至る輸送経路を決定する輸送経路決定装置であって、前記輸送機器が輸送拠点又は集荷地点から次に経由する輸送拠点又は配荷地点を順次、確率的に選択する選択処理を、前記物品の配荷地点への輸送を完了するまで繰り返すシミュレーション工程を実行する実行部と、前記シミュレーション工程で得られる輸送経路に対する所定の評価量を算出する算出部と、前記シミュレーション工程及び前記所定の評価量の算出工程を所定の範囲内で繰り返して得られる複数の輸送経路の中から、前記所定の評価量に基づいて輸送経路を決定する決定部とを備える。
【0014】
本開示の輸送経路決定方法では、エージェントベースモデリングに基づき、輸送機器をエージェントとして設定し、エージェントに条件を持たせてシミュレーションすることにより、必要な輸送機器の台数を最適なエージェント数として求めることが可能である。この点で、エージェントベースモデリングは、物流問題を解決するのに有用である。
【0015】
本開示の輸送経路決定方法では、地域毎に必要な輸送機器の台数、及び輸送経路が、数理モデルによって1ステップずつ、各ステップにおける状況に応じたエージェントベースモデルによるシミュレーションを実行して最適化される。1つの物流部材(例えばパレット)を、輸送機器をシェア、即ち乗り継いで運搬することを想定できれば、最適解が得られる。
【0016】
最適解を部分経路として地域毎に組み合わせ、全体の経路を決定することも可能である。
【0017】
本開示の輸送経路決定方法のエージェントベースモデリングでは、物品の集荷地点から輸送先への経由地点を順次、確率的に選択するステップを繰り返し、複数の物品がそれぞれ輸送先まで輸送し終えるまで実行される。算出された輸送経路は、所定の評価量で評価される。
【0018】
前記所定の評価量とは、輸送完了までの所要時間、所要ステップ数、輸送機器の総移動距離、所要移動回数、輸送機器の移動による二酸化炭素の推定排出量、及び輸送に掛かるコストの内のいずれか1つ若しくは複数の組み合わせ、又は、複数の組み合わせから演算された値であってもよい。
【0019】
前記所定の範囲内とは、得られた輸送経路の数が、所定の輸送経路数の上限値以内であることか、又は、シミュレーション工程及び評価量を算出する工程の計算時間が所定の計算時間上限値以内であることであってもよい。
【0020】
前記輸送機器は、積載する物品を全て配荷した時点で所定の集荷地点へ移動することを条件として、前記シミュレーション工程が実行されてもよい。
【0021】
前記選択処理における輸送拠点又は配荷地点を選択する確率は、予め重み付けされた確率である設定で、前記シミュレーション工程が実行されてもよい。
【0022】
前記物品は複数種類の物品であり、前記輸送機器は前記複数種類の物品の積載が許可され、前記複数種類の物品は、輸送拠点で、荷積み又は荷降ろしが許可される条件で、前記シミュレーション工程が実行されてもよい。
【0023】
本開示の輸送経路決定方法のエージェントベースモデリングでは、前記シミュレーション工程で、前記選択処理を繰り返す過程で、前記評価量に係る数値を算出し、前記数値が、予め設定された算出処理の打ち切り条件を満たす場合に、前記シミュレーション工程が打ち切られてもよい。
【0024】
前記選択処理を繰り返す過程で、輸送完了までの進捗率を算出し、既に得られた輸送経路の内で前記所定の評価量に基づき最適と判断される輸送経路における前記進捗率と同一の状態と比較し、所定の指標が基準値を超えることが前記打ち切り条件であってよい。
【0025】
前記所定の指標は、前記進捗率までの輸送所要時間、所要ステップ数、前記進捗率までの輸送機器の移動距離、前記進捗率までの輸送機器の移動回数、前記進捗率までの二酸化炭素の推定排出量、又は、輸送に掛かるコストであってよい。
【0026】
見込みがないと判断された場合に中断することで、より早い時間に最適な経路の算出にたどり着く可能性が高まる。
【0027】
本開示の輸送経路決定方法では、前記シミュレーション工程の前提条件として前記輸送機器の条件を設定し、前記輸送機器の条件を変更して前記シミュレーション工程を実行し、異なる前記輸送機器の条件に対して実行されるシミュレーション工程によって得られた輸送経路に対する前記所定の評価量に基づき、最適な輸送経路及び前記輸送機器の条件を決定してもよい。
【0028】
前記輸送機器の条件は、前記輸送機器の数であり、前記輸送機器の数を1ずつ増加させることで条件を変更し、輸送機器の数を増加させても前記所定の評価量が減少しない前記輸送機器の最小値を、輸送機器の数として決定されてもよい。
【0029】
本開示の輸送経路決定方法では、前記経由地点の段階から、前記確率的に選択するステップにて、前記記憶してある輸送経路における次の選択地点とは異なる選択をして、前記複数の物品の前記輸送先への輸送が完了するまで繰り返して前記輸送機器の新たな輸送経路を算出してもよい。
【0030】
既に記憶してある最小の移動回数又は最短の移動距離の経路から、より最小又は最短の経路を算出するべく学習を行なう場合、局所解に陥る可能性があるため、異なる選択によって突然変異を起こし、最適な解を導出できるようにしてもよい。
【0031】
本開示の一実施形態の輸送経路決定方法は、事前に前記演算によって導出された前記記憶部に記憶してある輸送機器の台数及び輸送経路の一部又は全部を用い、前記演算に用いてもよい。
【0032】
本開示の一実施形態の輸送経路決定方法は、事前に前記演算によって導出して前記記憶部に記憶してある輸送機器の台数及び輸送経路の一部又は全部を用いるに際し、前記記憶部に記憶してある輸送経路を導出するための条件である物品の種類、パレットの個数、集配地点、及び目的地との差分に相当する部分のみを新規導出対象とし、新規導出の結果と、前記記憶部に記憶してある導出結果とを統合してもよい。
【0033】
本開示の輸送経路決定方法では、それまでの演算で記憶してある輸送経路の台数、輸送経路を用いて、輸送経路の決定を初期状態から実行せずに使用してもよい。過去に演算で求めた輸送経路の経由地点から演算を開始してもよい。より少ない移動回数、より短い移動距離の輸送経路を選ぶことによって学習効果が得られる。
【発明の効果】
【0034】
本開示によれば、各集配地から輸送される物流部材の数及び積み付けられている物品の種類、物品の到着地点となる目的の集配地、必着時間情報が特定された場合には、各物流部材の最適な輸送経路が導出される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図3】輸送経路決定装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】物流DBに記憶されている情報の内容例を示す図である。
【
図5】輸送経路決定装置によって実行される輸送経路決定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】輸送経路決定装置によって実行される輸送経路決定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】輸送経路の演算処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】S401の処理における大まかな経路の説明図である。
【
図9】経路計算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】経路計算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】エージェントベースモデリングによる解の探索過程の模式図である。
【
図12】経路計算の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。
【
図13】経路計算の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。
【
図14】実施例1における最適解の導出過程の説明図である。
【
図15】実施例2における解の導出過程の説明図である。
【
図16】実施例3における解の導出過程の説明図である。
【
図17】実施例4における解の導出過程の説明図である。
【
図18A】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図18B】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図19A】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図19B】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図20】シミュレーションの結果を示す棒グラフである。
【
図21】実施例5における解の導出過程の説明図である。
【
図22】実施例6における解の導出過程の説明図である。
【
図23】実施例7における解の導出過程の説明図である。
【
図24A】エージェントベースモデリングによって得られた輸送経路の模式図である。
【
図24B】エージェントベースモデリングによって得られた輸送経路の模式図である。
【
図24C】エージェントベースモデリングによって得られた輸送経路の模式図である。
【
図24D】エージェントベースモデリングによって得られた輸送経路の模式図である。
【
図24E】エージェントベースモデリングによって得られた輸送経路の模式図である。
【
図24F】エージェントベースモデリングによって得られた輸送経路の模式図である。
【
図25】変形例における経路計算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図26】変形例における経路計算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図27】距離付きの輸送ネットワークの内容例を示す。
【
図28】進捗率に基づく見込みの有り無し判断の概要図である。
【
図29】実施例8における解の導出過程の説明図である。
【
図30】実施例9における解の導出過程の説明図である。
【
図31】見込みの判断による計算時間の短縮効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本開示をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。以下の実施の形態では、本開示の輸送経路決定方法を適用した物流システムについて説明する。
【0037】
図1は、本開示の物流システム100の概要図である。物流システム100は、物品、例えば農作物を輸送する輸送機器1と、輸送機器1が立ち寄るトランスファーセンターである拠点センター(ベース)2と、物品を集配するディストリビューションセンタである集配センター3、コントロールセンター400とを含む。物流システム100は、輸送経路決定装置4が決定する経路情報に基づいて運用される。輸送経路決定装置4は、輸送機器1、拠点センター2内の装置、集配センター3内の装置と通信接続が可能である。また輸送経路決定装置4は、生産者又は製造者、拠点センター2、集配センター3のオペレータが使用する端末装置5と通信接続が可能である。
【0038】
輸送機器1は、搬送トラック、列車、輸送機、船舶等の乗り物(vehicle)である。輸送機器1は、自動運転によって走行する搬送ロボットであってもよい。
【0039】
拠点センター2は、物流における所謂幹線に設けられた通過型センターであり、港、空港、貨物駅、道路網におけるインターチェンジ(IC)等、輸送機器1の拠点となる場所に設置される。拠点センター2は例えば所定の距離毎に設けられる。拠点センター2には、拠点センター2にて輸送機器1の入庫を受け付け、輸送機器1からパレットPを搬出・搬入する装置群と、装置群を制御する拠点コントローラ20が設けられている。拠点コントローラ20は、輸送経路決定装置4と通信接続が可能であり、輸送経路決定装置4からの指示に基づいて装置群を制御する。
【0040】
拠点センター2を中心とする物流システムでは、輸送対象物は物流部材に積み付けられて搬送される。物流部材は、具体的にはパレットP及び小型コンテナCである。以下の説明ではパレットPに絞って説明するが小型コンテナCも同様に扱われるとよい。物流部材は更に、フレキシブルコンテナ、所謂フレコンであってもよいし、鉄コンテナであってもよいし、段ボール箱であってもよい。その他、物流で物品を載置させたり、収容させたりするために使用される袋、板材、箱材は物流部材に含まれる。
【0041】
拠点センター2には、パレットセンター22が並設されるとよい。パレットセンター22には、パレットPが集配されている。パレットセンター22には、パレットPを搬出・搬入する装置を制御するパレットコントローラ23が設置されている。パレットコントローラ23は、輸送経路決定装置4と通信接続が可能であり、輸送経路決定装置4からの指示に基づいて装置群を制御する。
【0042】
集配センター3は、生産者若しくは製造者の拠点から輸送対象の物品を収集して、拠点センター2へ向けて輸送するか、又は、逆に、拠点センター2から荷を受けて保管し、エンドユーザへ向けて物品を輸送する拠点である。集配センター3は、卸、若しくは配送センターに相当する。集配センター3は、拠点センター2に対して複数設けられるとよい。集配センター3は、小売業者である荷受人によって管理されていてもよい。集配センター3が拠点センター2へ向けて輸送する物品を収集する場合、集配センター3にて物品がパレットPに積み付けられてもよい。集配センター3には、輸送経路決定装置4からの指示を受ける集配地装置30が設置されている。集配地装置30は、集配センター3におけるオペレータからの発送物品及びパレットPの入力を受け付けたり、到着した物品の入力を受け付けたりする。集配地装置30は、発送される物品が積み付けられたパレットPのパレット識別情報と物品の識別情報との対応、及び、到着した物品と物品が積み付けられたパレットPのパレット識別情報との対応を記憶して輸送経路決定装置4へ送信する。
【0043】
後述するように本開示の物流システム100では、同一の輸送機器1が物品を集荷した出発地点から、その物品の配荷先である到着地点まで輸送を完了させるのではなく、物品は、複数の輸送機器1を乗り継ぐように輸送されてよい。つまり、輸送機器1は経由地点で物品を積み降ろすことが許可される。このような条件下で、本開示の物流システム100では、輸送機器1と、物品を積み付けられたパレットPとが、どのように移動することが最適であるかをシミュレーションして求める。輸送経路は、複数の拠点センター2間を結ぶ高速道路、空路、鉄道等の幹線における輸送と、集荷地点又は配荷地点を含む地域の拠点センター2へパレットPが到着するまで、又は到着した後の地域における輸送とを階層的に分別して決定する。幹線における輸送は、特許文献1,2に開示されたように幹線に存在する拠点センター2で積み降ろしすることを許可して最適化する。地域における輸送では、幹線を経由せず地域内に集荷地点及び配荷地点があるパレットPも共に輸送し、パレットPの経由地点での積み下ろしを許可する条件で、地域内に存在する拠点センター2及び集配センター3を集荷地点又は配荷地点(集配地点)として輸送機器1及びパレットPそれぞれの経路を決定する。
【0044】
地域には、1又は複数の拠点センター2が存在し、複数の集配センター3が存在する(
図8参照)。地域は行政区分に限られず、任意の単位で区分されるように定義され、緯度経度情報及び拠点センター2及び集配センター3の識別データ、所属地域の識別データで記憶される。地域同士は重複してもよい。集配センター3は異なる地域に所属していてもよい。拠点センター2及び集配センター3は、地域内の輸送において集荷地点でもあり配荷地点でもある(「集配地点」に対応する)。対象地域に含まれる、ある集配センター3を配荷地点とするパレットPが、他の地域から幹線を経由して輸送され拠点センター2で降ろされる場合、拠点センター2が、その対象地域内の輸送機器1にとっては集荷地点である。対象地域内の、ある集配センター3で集荷され、幹線を経由して他の地域へ輸送されるパレットPは、その対象地域内では拠点センター2が配荷地点として扱われる。地域内の複数の集配センター3は、夫々集荷地点でもあり且つ配荷地点でもある。いずれかの集配センター3は、集荷地点としてのみ機能してもよいし、同様にして他のいずれかの集配センター3は、配荷地点としてのみ機能してもよい。
【0045】
輸送経路決定装置4は、輸送機器1の位置を逐次取得し、輸送機器1に収容されているパレットPの情報、集配センター3にて発送待ち状態であるパレットPの情報を、逐次収集する。輸送経路決定装置4は、輸送機器1から逐次取得した位置、及び、各パレットPの存在位置を含む位置情報と、各パレットPが届けられるべき集配センター3の目的地情報と、届けられるべき時間情報とから、パレットPの移動経路及び輸送機器1の輸送経路を逐次決定する。
【0046】
輸送経路決定装置4は、決定した輸送機器1夫々の輸送経路及びパレットPの移動経路に基づいて、輸送機器1へ、立ち寄るべき拠点センター2を指示する。輸送経路決定装置4は、拠点センター2へ、到着した輸送機器1から搬出すべきパレットP、輸送機器1へ搬入すべきパレットPを指示する。輸送経路決定装置4は、決定した輸送経路及び移動経路に基づいて、集配センター3、パレットセンター22から発送すべきパレットPを夫々のセンターへ指示し、輸送機器1へ、搬出すべきパレットPを指示する。
【0047】
本開示では、輸送経路決定装置4が、輸送すべき物品の情報、輸送機器1の位置情報等から、パレットPの移動経路、及び輸送機器1の輸送経路を逐次最適化していく処理について説明する。
【0048】
パレットPについて説明する。パレットPは物流の現場で広く用いられているパレットと同様に90cm四方の大きさを有した物流部材であり、より好ましくは樹脂製である。パレットPはその他、木製、ステンレス製、段ボール製等多様な材料製でよく、フォークリフトでの運搬に適合したリフト孔が設けられているとよい。パレットPは、輸出入の規制に適合した材料製のパレットを用いるとよい。パレットPには、パレット識別情報を記憶してあるタグが取り付けられている。タグは、RFID等を用いた無線タグであることが好ましい。
【0049】
タグには、予め付与されているパレットPのパレット識別情報が無線リーダにより読み出し可能に記憶されている。なおタグにおけるパレットPのパレット識別情報は書き換え不可であるが、タグには、ライタによってパレットPに積み付けられる一つ又は複数の物品の情報を書き込み可能である。物品の情報とは、物品の種別及び品目、重量、集荷の日付、物品の配送番号、直近に経由した拠点センター2の拠点識別情報、目的地の拠点センター2、荷受人情報、送り元情報等である。タグに代替して予め付与されているパレットPのパレット識別情報に対応する一次元コード、二次元コードが印刷された所定の媒体であってもよい。タグの上に一次元コード、二次元コードが印刷されていてもよい。物品の情報は輸送経路決定装置4側にパレット識別情報に対応付けて記憶されている。
【0050】
輸送機器1は、本実施の形態では搬送トラックである。
図2A及び
図2Bは、輸送機器1の一例を示す模式図である。
図2Aは、横開きの扉を有している荷台の例、
図2Bは、後方の扉を有している荷台の例を示している。
図2A及び
図2Bに示す例のどちらの場合も輸送機器1は、パレットP単位で物品を搬送するためにパレットフレーム11を荷台内部に設けている。パレットフレーム11は具体的には、荷台を床面から天井に至る高さを半分に上下二段に分ける台である。荷台は車幅方向にパレットPが2つ並置できる内寸を有している。パレットフレーム11にて区分けされた上下と、左右とでパレットPの収容位置を特定することができる。
【0051】
パレットフレーム11は、
図2Bに示すように、荷台の後部扉から全体引き出すことが可能な構成であってもよい。この場合、パレットフレーム11を巨大なパレットと考えれば、パレットフレーム11も物流部材としてパレット上にパレットPが複数積載され、パレットP夫々の上に複数の小型コンテナCが積載された入れ子状態で管理することも可能である。なおパレットフレーム11は、
図2A及び
図2Bに示しているように二段に分ける台ではなく、荷台の床面に敷かれた板材状であってもよい。
【0052】
輸送機器1が列車、輸送機、船舶等の乗り物である場合、
図2A又は
図2Bの荷台部分と同様の構造の大型コンテナが用いられ、大型コンテナがパレットフレーム11を備える構成とすればよい。
【0053】
輸送機器1は、車載機10及びパレットPのタグからパレット識別情報を読み取るリーダを備える。車載機10は、GPS受信機を有し、輸送機器1の位置情報を逐次取得し、輸送経路決定装置4へ送信する。車載機10は、輸送機器1の荷台にパレットPが搬入されると、パレットPのタグからパレット識別情報をリーダで読み取る。収容中のパレットPのパレット識別情報と、パレットフレーム11における収容位置を識別する収容部識別情報とを、予め記憶している輸送機器1の識別情報と対応付けて輸送経路決定装置4へ送信する。車載機10は、輸送機器1の荷台から搬出されるパレットPのタグからパレット識別情報をリーダで読み取り、搬出されたパレットPのパレット識別情報を、予め記憶している輸送機器1の識別情報と対応付けて輸送経路決定装置4へ送信する。車載機10は、搬出されるパレットPについて、そのパレットPが収容されていた収容部の収容部識別情報を対応付けて、搬出されることを輸送経路決定装置4へ通知してもよい。
【0054】
図3は、輸送経路決定装置4の構成を示すブロック図である。輸送経路決定装置4は、サーバコンピュータであり、処理部40、記憶部41、通信部42を備える。輸送経路決定装置4は、1つのサーバコンピュータ(ハードウェア)を用いる構成のみならず、複数のサーバコンピュータで処理を分散する構成としてもよいし、大型コンピュータに仮想的に生成される複数のサーバコンピュータ(インスタンス)の内の1つであってもよい。輸送経路決定装置4は、記憶部41の物流DB410の情報の更新処理を除き、量子コンピュータによって演算を実行してもよい。
【0055】
処理部40はCPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)を用いたプロセッサである。処理部40は、内蔵するROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等のメモリを用いて処理を実行する。処理部40は、内蔵するタイマーによって逐次、時間情報を取得することができる。
【0056】
記憶部41は、ハードディスク又はSSD(Solid State Drive)等の不揮発性の記憶媒体を含む。記憶部41は、コンピュータプログラム40Pを記憶する。記憶部41は、モデル4Mを記憶する。処理部40は、記憶部41に記憶されているコンピュータプログラム40Pに基づき、モデル4Mを用いた後述する演算によって最適経路を導出する処理を実行する。
【0057】
記憶部41にはWebサーバプログラムが記憶されており、処理部40はWebサーバ機能を発揮し、このWebサーバ機能によって端末装置5から、輸送機器1の荷台のシェアの依頼等を受け付けてもよい。
【0058】
記憶部41又は外部記憶装置に、物流DB(Data Base)410が構築される。処理部40は、データベース操作モジュールにより、物流DB410に対する読み書きが可能である。物流DB410には例えば、後述するようにユーザ情報411、第1パレット情報412、第2パレット情報413、及び輸送機器情報414が記憶されている。
【0059】
通信部42は、公衆通信網N1又はキャリアネットワークN2における通信を実現する。処理部40は、通信部42により、公衆通信網N1又はキャリアネットワークN2を介して端末装置5との間で情報の送受信が可能である。また処理部40は、通信部42により、キャリアネットワークN2を介して輸送機器1に搭載されている車載機との間で情報の送受信が可能である。処理部40は、通信部42により、公衆通信網N1、キャリアネットワークN2、又は専用線を介し、拠点センター2の拠点コントローラ20、集配センター3の集配地装置30と通信接続が可能である。
【0060】
図4は、物流DB410に記憶されている情報の内容例を示す図である。
図4に示すように、物流DB410には、第1パレット情報412として、各拠点センター2、パレットセンター22、集配センター3、生産拠点に対して付与されている識別情報に対応付けて、各所に存在するはずのパレットPのパレット識別情報が逐次記憶されている。
【0061】
物流DB410には、第2パレット情報413として、パレット識別情報に対応付けて、パレットPが積載されている輸送機器1を識別する機器識別情報、パレットPに積み付けられている物品の情報が記憶されている。物品の情報は、パレットPに積み付けられている小型コンテナC又は他の物流部材のコンテナ識別情報であってもよい。物品の情報は、輸送番号、出荷者、荷受人を識別する情報、パレットPの物品込みの重さの情報を含むとよい。
【0062】
物流DB410には、輸送機器情報414として、輸送機器1を識別する機器識別情報に対応付けて、輸送機器1の位置情報(緯度経度)、出発地、目的地、及び経由地点を時間と共に含む運行情報、並びに積載中のパレットPのパレット識別情報が記憶されている。
【0063】
このように構成される輸送経路決定装置4は、輸送機器1の移動、物品の発送によって車載機10から得られる情報、拠点センター2、集配センター3から得られる物品の在所情報に基づき物流DB410を逐次、更新する。輸送経路決定装置4は、物流DB410の更新と共に、輸送機器1の輸送機器1及びパレットPの移動経路を決定し、これに基づいて輸送機器1、拠点センター2、集配センター3における輸送、搬入及び搬出をコントロールする。
【0064】
以下の説明においてパレットPは、集配センター3にて、最終的な目的地を共通とし、且つ、同時間帯に到着すべきである1又はできるだけ同一の種類でまとめた複数の物品を積載しているものとする。以下の説明では、パレットは物品を収容する他の物流部材又は物品そのものや複数の物品をまとめた物品群であってもよい。
【0065】
図5及び
図6は、輸送経路決定装置4によって実行される輸送経路決定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0066】
輸送経路決定装置4は、発送予定のパレットPの目的地、希望到着時刻等を含むパレット情報を、そのパレットPが集配される集配センター3が所属している地域毎に分別する(S101)。
【0067】
処理部40は、1つの地域を選択する(S102)。S102の処理では、拠点センター2を選択してもよい。
【0068】
処理部40は、S101の処理で分別したパレットP毎のパレット情報に基づき、S102の処理で選択した拠点センター2から発送される複数のパレットPの個数、各パレットPの目的地である集配センター3、又は、拠点センター2、各パレットの到着希望時刻を、各パレットPのパレット識別情報に対応付けて取得する(S103)。S103の処理は「取得部」に対応する。
【0069】
処理部40は、S103の処理で取得したパレットPの情報を用いて輸送機器1の輸送経路を導出するための演算を実行する(S104)。S104の処理における輸送機器1の輸送経路の導出については詳細を後述する。S104の処理は、「導出部」に対応する。
【0070】
処理部40は、選択している拠点センター2に対し、S104の演算結果である必要な輸送機器1の台数、および収容部の数に基づいて、必要とされた台数の輸送機器それぞれが輸送すべきパレットPの種類、個数、パレット収容部の数を取得し、記憶する(S105)。S105の処理は「記憶部」に対応する。
【0071】
処理部40は、取得したパレットPの種類、個数、必要なパレット収容部の数から、選択した拠点センター2に存在する、又は、到着予定の輸送機器1を特定する(S106)。
【0072】
処理部40は、S106の処理で特定した輸送機器1の荷台のパレット収容部に、パレット識別情報を仮に割り当て、割り当てを記憶する(S107)。
【0073】
処理部40は、全ての地域についてS103-S107の処理を実行したか否かを判断する(S108)。
【0074】
S108の処理ですべての地域について処理を実行していないと判断された場合(S108:NO)、処理部40は処理をS102へ戻す。
【0075】
S108の処理ですべての地域について処理を実行したと判断した場合(S108:YES)、処理部40は、輸送機器1毎に、地域毎の最適な輸送経路を選択して全体の輸送経路を決定する(S109)。処理部40は、決定した輸送経路を記憶部41に記憶しておく(S110)。S109の処理において処理部40は、以前に導出してある経路については記憶部41から読み出すとよい。S109の処理は、「決定部」に対応する。
【0076】
処理部40は、パレットP毎のパレットPの移動経路、即ち、目的地までに乗り継ぐべき輸送機器1のパレット収容部を決定する(S111)。
【0077】
処理部40は、各パレットPの移動経路に基づき、輸送機器1毎に、経由地点である拠点センター2で搬出すべきパレットPのパレット識別情報と、そのパレットPが収容されている収容部の収容部識別情報とをリスト化する(S112)。
【0078】
処理部40は、各パレットPの移動経路に基づき、輸送機器1毎に、経由地点である拠点センター2で搬入すべきパレットPのパレット識別情報と、そのパレットPが収容されるべきパレット収容部の収容部識別情報をリスト化する(S113)。
【0079】
処理部40は、決定した輸送機器1の輸送経路、パレットPの移動経路、各拠点センター2で搬出・搬入すべきパレットPのリストを出力する(S114)。処理部40は、出力内容に基づいて、車載機10、拠点コントローラ20、集配地装置30、及びパレットコントローラ23へ指示を送信し(S115)、処理を終了する。
【0080】
図7は、輸送経路の演算処理の一例を示すフローチャートである。
図7のフローチャートに示す処理手順は、
図5及び
図6のフローチャートに示した処理手順のうち、S104の処理の詳細に対応する。
【0081】
処理部40は、選択中の拠点センター2から発送予定のパレットPについて、最終的な目的地までの大まかな経路を、パレットPの移動経路として仮決定する(S401)。S401の処理において処理部40は、最終的な目的地である集配センター3又は拠点センター2と、パレットPの到着希望時刻に基づいて決定するとよい。
【0082】
S401の処理におけるおおまかな経路とは、各パレットPの出発地点の拠点センター2から最終的な目的地までの経路に基づく、各地域の境界に対応する拠点センター2及び最終的な集配センター3を含む。
図8は、S401の処理における大まかな経路の説明図である。
図8は、出発地の拠点センター2から、最終的な目的地の集配センター3までの間に跨る複数の地域毎の経由点を示す。
図8の例では、拠点センター2はネット状に接続されている。1つのパレットPは、長野県の拠点センター2を出発し、滋賀県内の集配センター3を目的地とする。この場合、処理部40は、長野県の拠点センター2から、岐阜県の拠点センター2までの幹線を通る部分経路、岐阜県の拠点センター2から愛知県の拠点センター2までの幹線を通る部分経路、愛知県の拠点センター2から滋賀県の拠点センター2までの幹線を通る部分経路、滋賀県の拠点センター2から滋賀県内の最終目的地である集配センター3までの地域内の部分経路、と太線で示す大まかな経路を仮に選択して決定する。
【0083】
処理部40は、S401を、選択中の地域の拠点センター2を出発地とし、輸送機器への割り当てが未決定のパレットP全てについて実行する。これにより、各パレットPについての各拠点センター2に対応する地域(所定範囲)での入口(出発地)及び出口(目的地)が定まる。所定範囲は、例えば、拠点センター2を結ぶ幹線を走行する場合の、輸送機器1の運転者の連続運転時間の制限に対応する距離という条件で設定されてもよい。
【0084】
処理部40は、各パレットPに対して仮決定した大まかな経路に含まれ、選択中の拠点センター2の地域内での経由地点(入口)、及び地域内での目的地(出口)を設定する(S402)。S402の処理においては、地域内での目的地への到着予定時刻を条件として設定してもよい。なお、S402の処理において地域の大きさは、系の大きさで計算量が大きいほど膨大になるので、適宜設計されるとよい。
【0085】
S401及びS402の処理により、選択中の拠点センター2を含む各拠点センター2に対応する地域内で、入口(地域内の出発地)に同一の時間帯に存在するパレットPの数、地域内での目的地(ミクロな目的地)夫々へ輸送されるべきパレットPの数が決定される。例えば、選択中の拠点センター2が滋賀県の拠点センター2である場合、入口となるH市にパレットPが100個集まり、この100個のパレットPを、地域内の複数の集積センター3にそれぞれ、50個、30個、10個輸送すべきであるという条件が決定される。
【0086】
処理部40は、処理部40は、選択中の拠点センター2(地域内での出発地)から出発予定のパレットPの個数、各パレットPの地域内での目的地(その地域内での目的地への必着時刻)を条件にして、これらを輸送する輸送機器1を1又は複数のエージェントに設定し、エージェントの空き収容部数を設定してエージェントベースモデリングに基づいた経路計算を実行する(S403)。なおS403の経路計算は予め地域毎に輸送経路を導出して記憶部41に記憶してある輸送経路から条件に見合う最適な経路を選択することであってもよい。経路計算は、類似する条件に対して導出してある輸送経路を部分経路として、又は一から、後述のシミュレーション工程によって実行されてもよい。
【0087】
処理部40は、S403の処理にて導出された最適解をもとに、必要な輸送機器1の台数、各輸送機器で必要な収容部の数(収容すべきパレットPの数)、収容すべきパレットPの種類、各輸送機器の、選択中の拠点センター2を中心とする地域における部分的な輸送経路を出力し(S404)、処理を
図5のフローチャートのS105へ戻す。
【0088】
S403の経路計算を実行する処理部40は、1又は複数のエージェントが、ある拠点センター2又は集積センター3に存在する状態から、次の拠点センター2又は集積センター3を選択して移動した状態へと1ステップずつ遷移するシミュレーションを実行する。
図9及び
図10は、経路計算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0089】
処理部40は、選択中の拠点センター2を含む地域内での隣接する拠点センター2又は集積センター3をノード、ノード間の経路をエッジとする地域内の輸送ネットワークを定義する(S301)。S301の処理において処理部40は、予め定義してあるネットワークを読み出してもよい。S301の処理において処理部40は、各ノード間のエッジは、距離の要素を持たなくてよい。
【0090】
処理部40は、輸送機器1の数を初期値に設定する(S302)。処理部40は、設定された数の輸送機器1をエージェントとして扱い、以下の処理を実行する。
【0091】
処理部40は、エージェントの存在位置、パレットPのノードへの配置、ステップ数を初期状態に設定する(S303)。S303の処理において処理部40は、エージェントを出発地のノードに対応付ける。S303の処理において処理部40は、出発地(拠点センター2)に存在するパレットPの数と、集配センター3に対応するノード1に必要なパレットPの数を設定する。S303の処理において処理部40は、パレットPの補給地(集配地点の1つ)を設定してもよい。
【0092】
処理部40は、以下のような処理を繰り返し実行し、出発地に存在するパレットPが、地域内での目的地までに分配が完了するまでの最小ステップ数、最小ステップ数となったケースにおける経路を求める。
【0093】
処理部40は、エージェントに対応付けられたパレットP(積載されたパレットP)の数を取得する(S304)。処理部40は、エージェントが位置するノードに存在するパレットPの数を取得する(S305)。処理部40は、エージェントが位置するノードで積み上げるパレットPの数を決定し、記憶する(S306)。
【0094】
S306の処理において処理部40は、エージェントが存在するノードが出発地であれば、エージェントである輸送機器1の空いている収容部を埋めるように、出発地に存在するパレットPを荷積みするように決定する。エージェントが存在するノードが経由地又は目的地であれば、処理部40は、収容部に収容しているパレットPの数と、ノードに必要なパレットPの数とを比較し、ノードに必要なパレットPの残数を減らすように、積み降ろすパレットPの数を決定する。
【0095】
処理部40は、次に進むべき隣接ノードへのエッジを確率的に選択する(S307)。
【0096】
S307の処理において処理部40は、基本的に乱数によって確率的に選択する(解A)。後述するように、次に進むべきノードに対する重みに基づく確率で選択してもよいし、エージェントに対応づけられているパレット数(積載数)がゼロになった場合には出発地(又は補給地)へ戻る、という条件付きで選択するようにしてもよい(解B)。処理部40は、1つステップが進む都度に、積載効率等の報酬を与える強化学習により、ノードを選択する重み係数を学習してもよい(解C)。この場合処理部40は、より早く最適解にたどり着く可能性が高まる。処理部40は、その他、何突然変異のように、パラメータ(例えば確率)を1つ大きく変えてもよい(解D)。これにより、局所解に陥る可能性が低下する。
【0097】
処理部40は、選択したエッジを経由して移動した先のノードに存在するパレットPの数を算出する(S308)。S308の処理において処理部40は、エージェントの移動前にそのノードに存在していたパレットPの数と、エージェントに対応付けられていた数との合計を算出する。
【0098】
処理部40は、エージェントの状態が遷移するステップ数を加算して記憶し(S309)、エージェントの移動先のノードの識別データ、各ノードにおけるパレットPの数を記憶する(S310)。S310の処理において処理部40は、識別データ及び各ノードのパレット数をステップ数に対応付けて記憶してもよい。
【0099】
処理部40は、各ノードにおけるパレットPの数に基づき、輸送ネットワーク内での配送が完了したか否かを判断する(S311)。
【0100】
配送が完了していないと判断された場合(S311:NO)、処理部40は、処理をS304へ戻す。
【0101】
配送が完了したと判断された場合(S311:YES)、処理部40は、エージェントが経由したノードの識別データの履歴(輸送経路)及びステップ数を記憶する(S312)。
【0102】
S303の処理で設定した初期状態から、S311の処理でYESと判断されて輸送が完了するまでがシミュレーション工程に対応する。
【0103】
処理部40は、S304-S312の処理を所定回数以上実行したか否か判断する(S313)。S313の判断処理は、シミュレーション工程が所定の範囲内で繰り返されるか否かに対応する。S313の判断処理では、S304-S312の処理を所定の計算時間の上限に達したか否かで判断してもよい。処理部40は、所定回数未満であると判断された場合(S313:NO)、S303へ処理を戻す。S313の処理は、所定回数ではなく、最適解が得られたと判断されたか否かであってもよい。
【0104】
所定回数以上実行したと判断された場合(S313:YES)、処理部40は、S301で定義した輸送ネットワークに対して、輸送機器1の数の変更は全て完了したか否かを判断する(S314)。輸送機器1の数の変更は完了していないと判断された場合(S314:NO)、処理部40は、エージェント(輸送機器1)の数を変更し(S315)、処理をS303へ戻す。S315にて処理部40は、エージェントの数を1つずつ増加させる。S315にて処理部40は、エージェントの数を増減させると共に、エージェントの初期位置を変更してもよい。
【0105】
S301で定義した輸送のネットワークに対し、輸送機器1の数の変更についても完了したと判断された場合(S314:YES)、処理部40は、所定回数の中での最小のステップ数の輸送経路を抽出する(S316)。処理部40は、抽出した輸送経路を最適解として記憶し(S317)、経路計算処理を終了する。S316及びS317の処理は、所定の評価量(ここでは所要ステップ数)に基づいて輸送経路を決定する工程に対応する。S316の処理において処理部40は、最小のステップ数の輸送経路と共に、最小のステップ数の輸送経路が算出された際のエージェント数(輸送機器1)の数を、最適な数として決定してもよい。
【0106】
図9及び
図10のフローチャートに示した処理により、定義されたネットワークにおいて輸送経路の全パターンが記憶される。同一のネットワークに対して全輸送経路のステップ数の平均値を算出することも可能になる。また、全輸送経路を記憶しておくことにより、同一の輸送ネットワークについては再度一から算出する必要はない。
【0107】
このように処理部40は、エージェントベースモデリングによって、拠点センター2を中心とした地域毎に定義されたネットワークでの最適解を導出する。処理部40は、
図9及び
図10のフローチャートにおいて、毎回S303-S313の処理を、S303で初期状態に戻してから実行するのではなく、過去の計算で得られた最小ステップ数の輸送経路周辺で探索してもよい。この場合処理部40は、最小ステップ数の輸送経路の内、途中のエージェントの位置及びパレットの配置の状態にし、S304-S312の処理を実行し、より最小のステップ数の輸送経路の計算を試みる(学習)。このとき処理部40は、突然変異のように、最小ステップ数の輸送経路ではなく、他の輸送経路の途中の状態からS304-S312の処理を実行し、局所解に陥っていないかを確認する処理を加えるとよい(突然変異)。
【0108】
処理部40は、
図9及び
図10のフローチャートに示した処理手順のS301の処理で定義した輸送ネットワークが、過去の処理によって導出済みの輸送経路の輸送ネットワークと共通する場合、その導出済みの輸送経路を用いてもよい。この場合、S302-S312の処理をすべて繰り返すのではなく、すでに導出された最小ステップの輸送経路を読み出して一部を変更してS304-S312の処理を実行してもよい。また処理部40は、過去の導出済みの輸送経路との差分に相当する部分のみを、S303-S312に当てはめて導出してもよい。
【0109】
また処理部40は、
図9及び
図10のフローチャートに示した処理手順を、事前に多様な条件で実行しておいて記憶しておいて利用してもよい。具体的には、
図7のフローチャートにおけるS403において、処理部40は、S401及びS402の処理によって求められた選択中の拠点センター2(地域内での出発地)から出発予定のパレットPの個数、各パレットPの地域内での目的地(その地域内での目的地への必着時刻)の条件と合致する条件に対して既に求められている最適な経路を選択するとよい。これにより、計算時間が大幅に短縮される。また差分のみについて上述したように
図9及び
図10のフローチャートの処理を実行して導出してもよい。条件同士が合致するか否かは、各条件をベクトルとして扱い、統計的距離又はユークリッド距離によって近い条件の最短経路を抽出してもよい。
【0110】
図11は、エージェントベースモデリングによる解の探索過程の模式図である。処理部40は基本的に、上述のS307の選択処理でランダムな探索を行なう場合、解Aは、空間内で均等な確率の中で得られる。条件を設定した場合、縮小された空間の中で解Bとして得られる。学習によって、最適解はグローバルな最小値である解Cに収束し得る。突然変異に対応するパラメータの変更によって、局地的な解Dから、グローバルな解を含む空間への補正が可能になる。
【0111】
図9及び
図10のフローチャートに示した処理手順では、S316にて処理部40は、最小ステップ数の輸送経路を、その条件(エージェント数)下で最適な輸送経路として選択した。しかしながら最適な輸送経路は、最小ステップ数に限らず、輸送完了までの所要時間、総移動距離(後述の変形例)、延べ移動回数、二酸化炭素の排出推定量、又は輸送に掛かるコストの試算に基づいて選択されてもよい。あるいはそれらの値に基づいて導出される1又は複数の演算値に基づいて最適か否かが評価されてもよい。
【0112】
図12及び
図13は、経路計算の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。輸送経路決定装置4の処理部40は、経路計算の対象の輸送ネットワークを特定する(S501)。S501において輸送ネットワークは、輸送拠点及び集配地点(拠点センター2、集積センター3等)をノード、ノード間の経路をエッジとするネットワークとして定義される。
【0113】
処理部40は、物品及び輸送機器の情報を設定する(S502)。S502にて処理部40は、物品の情報として輸送すべき物品の物品名、数量、重量、輸送する際の梱包状態における占有体積・容積、分割可能な単位、荷主、又は荷姿の情報を設定する。物品の情報は、物品毎に、その物品が発送される集荷地点を識別する情報(名称、識別情報等)、輸送先の配荷地点を識別する情報、集荷地点の出発時刻、配荷地点の到着指定時刻(あるいは許容される到着時間帯)を設定する。
【0114】
S502にて処理部40は、物品を輸送する輸送機器の情報として、トラック、貨物船等の機器の種類、台数、以下に実行するシミュレーションの初期状態における存在地点を設定する。処理部40は、輸送機器それぞれの収容部の容積、可載重量、収容位置の識別情報、の情報を設定する。輸送機器の情報には、通行できる経路、特定の経路を運行する場合の上限速度、燃料補給無しで走行できる航続距離、運転者の連続運転時間の制限に対応する距離という条件で設定されてもよい。
【0115】
設定される物品の情報は、実際に輸送する物品の輸送計画から取得できる情報であってもよい。同様に設定される輸送機器の情報は、実際の輸送機器の現状の情報から取得できる情報であってもよい。
【0116】
処理部40は、S501の処理で特定した輸送ネットワーク上の初期条件、配送完了条件、及び、算出処理の打ち切り条件を設定する(S503)。初期条件は、シミュレーション工程の初期状態における物品及び輸送機器1の位置を含む。配送完了条件は、物品がいつまでにどの地点(配荷地点)に存在すべきという情報を含む。算出処理の打ち切り条件は、経路計算の途上で、それ以上計算を続けたとしても最適な輸送経路の解が得られないとして計算を中断するための判断条件である。
【0117】
処理部40は、輸送機器1が移動する次のノードを選択し、次のステップでの状態を算出する(S504)。S504の処理は、ある特定の輸送機器1が位置するノードに、輸送すべき物品が存在し、輸送機器1の収容部に空きがある場合には物品を荷積みし、続いて輸送ネットワーク上の次の移動地点のノードへのエッジを確率的に選択する処理を含む。選択処理の詳細は、後述の実施例で示す。エッジに距離情報が付加されている場合、1ステップでエッジを進む都度に、そのエッジに付加されている距離を加算すればよい。S504で処理部40は、輸送機器1が次のノードへ移動した際に、物品情報からそのノードが物品の配荷地点であり、その配荷地点に配送未完了の物品が存在する場合には荷降ろしをしたものとして次のステップでの状態を算出する。処理部40は、次のノードが配荷地点ではなくとも、荷物の積み換えが許可される条件によって積み換えが指定されている場合には荷降ろしをしたものとして状態を算出する。
【0118】
処理部40は、S504の処理で1ステップ後の状態が、配送完了条件、又は打ち切り条件を満たすか否かを判断する(S505)。処理部40は、配送条件又は打ち切り条件のいずれかの条件を満たすと判断した場合(S505:YES)、配送を完了させたとして、又は、最適な経路を見出す可能性がないとして(打ち切り)、設定した初期条件でのS504の算出の繰り返しを終了させる。
【0119】
S505にて配送条件又は打ち切り条件のいずれも満たさないと判断された場合(S505:NO)、配送が完了するか、最適な経路を見出す可能性が無いと判断されるまで、S504の算出処理を繰り返す。
【0120】
S504の算出の繰り返しを終了した後、配送完了と判断されている場合(S506:YES)、全ての物品及び輸送機器1の移動の情報から所定の評価量を算出する(S507)。S507における評価量として、配送完了までの所要ステップ数(時間に相当)、輸送機器1の総移動距離、総移動回数、輸送機器1の二酸化炭素の推定排出量、輸送に掛かるコスト(原価等)を指標として使用してもよい。これらの指標を複数組み合わせから演算された値を評価量としてもよい。複数の評価量を算出し、いずれの評価量を選択して使用するかを決定してもよい。
【0121】
S504の算出処理の繰り返しを終了した後、配送完了と判断されておらず(S506:NO)、即ち、打ち切り条件を満たすと判断されている場合、処理部40は、処理をS507の処理を省略して処理を次のS508へ進める。
【0122】
以上のS502からS507までの処理により、対象の輸送ネットワークに対して一つの輸送経路及び評価量が算出される。処理部40は、それまでに経路計算に要したリソースが所定の範囲内であるか否かを判断する(S508)。所定の範囲内であると判断された場合(S508:YES)、処理部40は、処理をS503へ戻して同様の経路計算(S503-S507)を繰り返し、更に新たな輸送経路を算出する。所定の範囲内とは、例えば得られた輸送経路の数(計算回数)が予定の輸送経路数の上限値以内であることか、又は、シミュレーション工程及び評価量の算出工程の計算時間が所定の計算時間上限値以内であることである。
【0123】
所定の範囲内でないと判断された場合(S508:NO)、処理部40は、得られた輸送経路それぞれに対して算出された評価量を比較して最適な評価量の輸送機器1の輸送経路を選定する(S509)。
【0124】
処理部40は、選定した輸送経路における物品(パレットP)の移動経路(どの輸送機器1に積載されたか)、輸送機器1それぞれの輸送経路を決定する(S510)。
【0125】
以上の処理により、ある特定の輸送機器1の条件での最適輸送経路が確定する。しかしながら輸送機器1の条件、特に輸送機器1の数が少ない場合、全ての物品の配送が設定された配送時間帯内までに完了しない場合が生じる。あるいは、配送が完了したとしても、評価量が望む範囲に入っていないという事態が生じる可能性がある。したがって、輸送機器1の条件を変更して上述のフローを繰り返すことが望ましい。そこで処理部40は、輸送機器1の数を増加させても評価量の改善(評価量の上昇)は少なかったか(上昇幅が所定値以内)否かを判断する(S511)。
【0126】
評価量の改善が少なくないと判断された場合(S511:NO)、処理部40は、輸送機器1の数を1加算し(S512)、処理をS502へ戻してS502-S511の処理を実行することが好ましい。
【0127】
輸送機器1の条件を変更した上記フローを繰り返した場合、処理部40は、変更前と変更後の最適評価量が改善(評価値が上昇)される場合、変更後の輸送経路を最適な輸送経路として決定する。輸送機器1の条件を変更しても評価量が変化しない、あるいは悪化(評価値が下降)する場合、輸送機器1の条件の変更(S512)を行なわずに変更を打ち切る(S511:YES)。輸送機器1の数は1台ずつ増加されてもよいし、輸送機器1の条件が他の方法で変更されてもよい。例えば処理部40は、初期状態の輸送機器1の位置を変更してもよい。この場合処理部40は、所定の条件数について計算をした中で最も評価量が大きい輸送経路を選出し、それ以上の条件の変更を行なわないと決定してもよい。また、実際に輸送経路決定装置4を運営する事業者が保有する輸送機器1の台数が上限とされてもよい。対象の地域で運用(登録)されている輸送機器1の台数が上限とされてもよい。運行に関わる人員の上限値から設定する条件の上限が決定されてもよい。
【0128】
評価量の改善が少ないと判断された場合(S511:YES)、処理部40は、最終的な輸送機器1の輸送経路、物品(パレットP)の移動経路、及び、輸送機器1の台数を決定し(S513)、処理を終了する。
【0129】
図9及び
図10(若しくは
図12及び
図13)のフローチャートに示した経路計算の処理手順について、具体例を挙げて実施例としてそれぞれ説明する。
【0130】
[実施例1]
実施例1では、上述のS307の選択処理において、次に進むべきノードを乱数で選択する。
図14は、実施例1における最適解の導出過程の説明図である。
図14は、対象の拠点センター2をH市の拠点センター2とし、近隣のY市、O市、K市の拠点センター2をノードとして定義された地域内の輸送ネットワークを示している。
【0131】
H市の拠点センター2から発送される複数のパレットPの個数は、
図14に示すように例えば100個であるとし、配送先はH市に10個残し、O市に50個、K市に30個、Y市に10個であるとする。これらのパレットPの配送に使える空きパレット収容部が20個である輸送機器1が1台存在する場合、エージェントベースモデリングにより、各目的地に90個のパレットPを輸送するためには、完全にランダム移動を行なった場合には、エッジを最小で10回行き来することが必要であるとの解が得られる。また、乱数で選択する場合に、全ての配送を終えるまでに要するステップ数の平均は21.7ステップであった。
【0132】
[実施例2]
実施例2は、実施例1と同一のパレットPの配置の初期状態である。ただし実施例2では、上述のS307の選択処理において、次に進むべきノードを選択する際の条件として、最大20個である対象のパレット収容部が空になった場合には、何も積載せずにH市に戻ることを条件とする。
図15は、実施例2における解の導出過程の説明図である。
図15に示す例では、最初にエージェント1が出発地のH市に位置している場合に、O市、K市、Y市のいずれへ進むかは乱数で選択される。1ステップ完了後に輸送機器1がK市に位置している場合、20個輸送してきたパレットPはK市に全て積み降ろすから、空になる。条件があるので、次の選択の際に処理部40は、O市、H市、Y市の内、H市を必然的に選択する。
【0133】
実施例2では、導出されたステップ数の平均は16.8ステップであった。
図14に示した完全な乱数によって選択する場合と比較すると、条件の設定により、ステップ数は最適解の10ステップに近いものを算出することができており、より早く最適解へ到達できることが分かる。
【0134】
[実施例1]及び[実施例2]に示したように、地域内でエージェントベースモデリングによる最適解の導出は成功することが分かった。
【0135】
[実施例3]
実施例3では、
図9及び
図10のフローチャートに示した処理手順が、パレットPが、異なる種類を乗せたものが更に60個、異なる拠点センター2に存在するという条件で実行される。実施例3では、S307の選択処理において、次に進むべきノードを乱数で選択する。
【0136】
図16は、実施例3における解の導出過程の説明図である。
図16の例では、
図14に示した例と同一の輸送ネットワークに対し、H市の拠点センター2から、100個のパレットPが発送待ち状態であって、H市に10個残し、O市に50個、K市に30個、Y市に10個輸送することとする。更に、異なる種類の物品を乗せたパレットPが、K市に60個発送待ち状態であって、K市に20個残し、O市に30個、H市に5個、Y市に5個輸送するという前提条件である。
【0137】
図16に示す前提条件では、これらのパレットPの配送に使える空きパレット収容部が20個である輸送機器1が1台存在する場合、エージェントベースモデリングにより、各目的地に異なる種類の130個のパレットPを輸送するためには、完全にランダム移動を行なった場合、エッジを最小で15回行き来することが必要であるとの解が得られる。また、乱数で選択する場合に、全ての配送を終えるまでに要するステップ数の平均は31.8ステップであった。
【0138】
[実施例4]
実施例4の前提条件は、実施例3と同一のパレットPの配置の初期状態である。ただし実施例4では、上述のS307の選択処理において、次に進むべきノードを選択する際の条件として、最大20個である対象のパレット収容部が空になった場合には、何も積載せずにH市に戻ることを設定する。
図17は、実施例4における解の導出過程の説明図である。
図17に示す例では、最初にエージェント1が出発地のH市に位置している場合に、O市、K市、Y市のいずれへ進むかは乱数で選択される。1ステップ完了後に輸送機器1がK市に位置している場合、20個輸送してきたパレットPはK市に全て積み降ろすから、空になる。条件があるので、次の選択の際に処理部40は、O市、H市、Y市の内、H市を必然的に選択する。
【0139】
実施例4では、導出されたステップ数の平均は28.8ステップであった。
図16に示した完全な乱数によって選択する場合と比較すると、条件の設定により、ステップ数は最適解の15ステップに近いものを算出することができており、より早く最適解へ到達できることが分かる。
【0140】
図18A、
図18B、
図19A及び
図19Bは、シミュレーションの結果を示すグラフである。
図18Aのグラフは、
図16に示した実施例3の条件において、目的地別のパレットPの輸送完了までのステップ数に応じた残量の推移の例を示す。
図18Bのグラフは、
図17に示した実施例4の条件において、目的地別のパレットPの輸送完了までのステップ数に応じた、残量の推移の例を示す。
図19Aのグラフは、
図16に示した実施例3の条件において、種類別に、パレットPの輸送完了までのステップ数に応じた残量の推移の例を示す。
図19Bのグラフは、
図17に示した条件において、種類別に、パレットPの輸送完了までのステップ数に応じた残量の推移の例を示す。
図18A、
図18B、
図19A及び
図19Bに示すように、最小15ステップによる輸送経路が導出される場合と、最大52ステップによる輸送経路が導出される場合がある。
図18A、
図18B、
図19A及び
図19Bに示すように、残量が減らずに輸送機器1がステップ数を消化するケースがあり得る。
【0141】
図20は、シミュレーションの結果を示す棒グラフである。
図20のグラフは、
図16又は
図17に示した実施例3又は実施例4の条件において各ノード(市)に輸送機器1が立ち寄る回数を示している。最小ステップで輸送が完了した場合であっても、最大ステップで輸送が完了した場合であっても、集荷数が多いH市に輸送機器1が立ち寄る回数が最も多いことが分かる。
【0142】
[実施例5]
実施例5の前提条件は、実施例3と同一のパレットPの配置である。つまり、初期状態では、H市の拠点センター2に種類ZのパレットPが100個、K市の拠点センター2に種類WのパレットPが60個存在している。ただし、実施例5では、上述のS307の選択処理における次に進むべきノードの選択に、重み付けが付与されている。
【0143】
図21は、実施例5における解の導出過程の説明図である。
図21の例は、輸送ネットワーク及びパレットPの配置状態は
図16に示す実施例3の状態と同一である。
【0144】
図21の例では、H市からK市、O市、Y市を行き先として選択する場合、K市は0.2、O市は0.5、K市は0.3に選択され易さの重み付けが分配されている。同様にしてY市からH市及びK市を選択する場合には、H市とK市とでは0.5ずつの重み付けが付与されている。K市からY市、O市へも0.5ずつの重み付けが付与されており、K市からH市、及びO市からK市は選択されない。
【0145】
図21に示す前提条件及びS307の選択の方法では、空きパレット収容部が20個である輸送機器1を1台使用すると、エージェントベースモデリングにより、各目的地にパレットPを輸送するために必要なステップ数は、平均27.7回となった。なお、重み付けがされない、実施例3では、平均31.8ステップであった。
【0146】
[実施例6]
実施例6は、実施例4及び実施例5の条件を組み合わせたものである。実施例6の前提条件は、実施例3と同一のパレットPの配置である。つまり、初期状態では、H市の拠点センター2に種類ZのパレットPが100個、K市の拠点センター2に種類WのパレットPが60個存在している。
【0147】
図22は、実施例6における解の導出過程の他の説明図である。実施例6では、上述のS307の処理における次に進むべきノードの選択に、重み付けが付与されており、且つ、最大20個である対象のパレット収容部が空になった場合には、何も積載せずにH市に戻ることを条件とする。
【0148】
実施例6において、各目的地にパレットPを輸送するために必要なステップ数は、平均25.6ステップとなった。実施例6は、上述したように実施例3~実施例5と、S307の処理における選択時の条件が異なる。完全ランダムな確率でノードを選択する場合(実施例3)の平均ステップ数は31.8、空になった時の条件付きで(実施例4)で平均ステップ数は28.8、重み付けの付与(実施例5)で平均ステップ数は27.7、重み付け且つ空になった時の条件付き(実施例6)で平均ステップ数は25.6に減少することが分かった。
【0149】
[実施例7]
実施例7は、エージェント(輸送機器1)を2台にした場合の例を示す。
図23は、実施例7における解の導出過程の他の説明図である。
図23の例では、
図14と同一条件である上で、使用できる輸送機器1が2台である。つまり
図23の実施例7では、初期状態でエージェント(輸送機器1)はH市に2台位置しており、地域内の出発地であるH市にパレットPが100個存在している。
【0150】
図23に示す条件において、これらのパレットPの配送に使える空きパレット収容部が20個である輸送機器1を2台使用すると、エージェントベースモデリングにより、各目的地にパレットPを輸送するためには、エッジを行き来するステップ数の平均は、13.6である解が得られる。
図14のエージェント(輸送機器1)が1台である場合では、ステップ数の平均が21.7であったからステップ数の平均は低下しているが、半分以下とはなっていない。したがって、適切な条件が必要になる。
【0151】
図24A-
図24Fは、実施例7のエージェントベースモデリングによって得られた輸送経路の模式図である。
図24A-
図24Fは、輸送の進行過程を示している。実施例7では、2エージェントでエージェントベースモデリングによるシミュレーションを行ない、平均で13.6回のステップ数の輸送経路が計算された。その内の1例として、
図24A-
図24Fに示すような2台の輸送機器1の輸送経路が得られた。
【0152】
具体的には、輸送機器1は、
図24Aにおいて100個のパレットPが発送待ち状態であるH市から、1台の輸送機器1(
図24A-
図24F中のX)は
図24Bの過程においてK市へ20個のパレットPを輸送し、
図24Cの過程においてH市へ戻っている。この輸送機器1は、
図24Dの過程においてO市へ20個のパレットPを輸送し、
図24Eの過程で再度、H市へ戻っている。この輸送機器1は、
図24Fの過程でO市へ20個のパレットPを輸送している。
【0153】
もう1台の輸送機器1(
図24A-
図24F中のY)は、H市から20個のパレットPを荷台に収容して
図24Bの過程においてY市へ10個、
図24Cの過程においてK市へ10個、パレットPを輸送している。この輸送機器1は、
図22Dの過程においてY市を経由して
図24Eの過程でH市へ戻り、
図24Fの過程でO市へ10個のパレットPを輸送している。
【0154】
このようにして輸送経路決定装置4は、拠点センター2を含む地域内の輸送ネットワークにエージェントベースモデリングを適用し、乱数、重み、又は条件付きの確率的過程を含むステップごとの数理モデルに基づく演算によって、最小ステップ数の輸送経路を導出できる。そして輸送経路決定装置4は、地域内の輸送ネットワークにおける最適な輸送経路を部分選択し、最初の目的地から最終的な目的地までの最適経路を決定することができる。
【0155】
なお、
図24A-
図24Fに示す条件下において、2台の輸送機器1間でパレットPを経由地で受け渡すなどの連携についての演算が必要となる。
【0156】
(変形例)
変形例においては、地域内の輸送ネットワークにおいて、ノード間の距離を考慮する。また、変形例では、エージェント及びパレットPの配置を初期状態から1ステップずつ確率的に移動させる処理を所定回数繰り返していく内に、これまでの最短のステップ数での輸送経路よりもよりよい経路を導出できそうにない状況になったタイミングで探索を終了させる。
【0157】
図25及び
図26は、変形例における経路計算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図25及び
図26のフローチャートに示す処理手順の内、
図9及び
図10のフローチャートに示した手順と共通する手順については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0158】
変形例では、処理部40は、選択中の拠点センター2を中心とした隣接する拠点センター2又は集積センターをノード、ノード間の経路をエッジとし、且つエッジに距離の情報を対応付けた地域内の距離付き輸送ネットワークを定義する(S321)。
図27は、距離付きの輸送ネットワークの内容例を示す。
図14同様に、H市、O市、Y市及びK市間を結ぶネットワークであるが、市間の距離、及び市間のつながり方が距離を考慮していないネットワークと異なる。また
図27に示す輸送ネットワークでは、パレットPはH市に最初に集積されているのではなく、地域内の生産地から補給されることとしている。生産地は、地域内の輸送ネットワークにおいては、パレットPが初期状態で集積されている拠点センター2として扱う。
【0159】
図25及び
図26のフローチャートに戻り説明を続ける。処理部40は、エージェントの移動先のノードで、ノードに存在するパレットPの数を算出すると(S308)、ステップ数の加算のみならず、移動したエッジに対応付けられている距離を、累積移動距離として加算して記憶する(S329)。
【0160】
処理部40は、S311の処理にて輸送ネットワーク内の配送が完了したと判断した場合(S311:YES)、エージェントが経由したノードの識別データの履歴(輸送経路)、累積移動距離及びステップ数を記憶する(S332)。これにより、各回での配送完了までに要したステップ数、移動距離、及び輸送経路が記憶される。
【0161】
S311の処理にて輸送ネットワーク内の配送が完了していないと判断した場合(S311:NO)、処理部40は、輸送ネットワーク全体における配送の進捗率を算出する(S333)。S333にて処理部40は、パレットPの数全体に対し、地域内の目的地に到達したパレットPの数の割合を、進捗率として算出する。
【0162】
処理部40はS333の処理において、後述のS336の処理における計算中の経路が最短経路を導出する見込みがあるか否かを判断するタイミングを決定する基準を導出すればよい。したがって、進捗率に限られず、計算ステップ数又は時間を用いて基準を導出してもよい。
【0163】
処理部40は、S333の処理で算出した進捗率が、条件を満たすか否かを判断する(S334)。S334の処理で処理部40は例えば、進捗率(%)が10の倍数であるか否かで判断する。
【0164】
S334の処理で条件を満たさないと判断された場合(S334:NO)、処理部40は、処理をS304に戻し、ステップを次に進める。
【0165】
S334で条件を満たすと判断された場合(S334:YES)、処理部40は、今回のこれまでの移動距離を、S333の処理で算出した進捗率と対応付けて記憶する(S335)。処理部40は記憶した移動距離と、複数回輸送経路の計算を実行した移動距離の内、最短の移動距離の輸送経路を、S333の処理で算出した進捗率における距離と、幅を持たせて比較する(S336)。
【0166】
S336の処理において処理部40は、例えば以下の式(1)のように計算する。それまでの移動距離をk、それまでに得られている輸送経路の内の最短距離の輸送経路のその進捗率(prog)における移動経路をkmin progとすると、式(1)は
kprog<kmin prog+kmin prog×(1-進捗率(prog))…(1)
である。
図28は、進捗率に基づく見込みの有り無し判断の概要図である。
図28は、横軸に移動距離の累計を示し、縦軸に輸送の進捗率を示す。
図28中の丸印は、それまでの得られている輸送経路の内の最短距離を算出した際の各進捗率における移動距離を示す。
図28中のX印は、最短距離の各進捗率における移動距離に、進捗率に応じた
数値を加えた比較値を示す。進捗率が10%のときの移動距離k10は、最短距離の輸送経路の進捗率10%における移動距離kmin 10の1.9倍と比較される。進捗率が20%のときの移動距離k20は、最短距離の輸送経路の進捗率20%における移動距離kmin 20の1.8倍と比較される。進捗率が90%のとき、移動距離k90は、最短距離の輸送経路の進捗率90%における移動距離kmin 90の1.1倍と比較される。それまでに得られた移動距離kが、比較値以上である場合、より最短距離の輸送経路を導出できる見込みはないと判断できる。
【0167】
処理部40は、S335の処理による比較の結果、以後配送のシミュレーションを進めて最短距離の輸送経路を導出できる見込みがあるのか否かを判断する(S337)。見込みなしと判断された場合(S337:NO)、処理部40は、今回の計算を途中で終了して処理をS313へ進める。
【0168】
S337で見込みありと判断された場合(S337:YES)、処理部40は計算を続行して処理をS304へ戻す。
【0169】
これにより、それ以上計算を進めても最短経路を導出する見込みのない場合には計算を中断して、計算時間を短縮させることができる。
【0170】
図25及び
図26のフローチャートに示した経路計算の処理手順について、具体例を挙げて実施例として説明する。
【0171】
[実施例8]
実施例8では、
図27に示した距離付きの輸送ネットワークを初期状態として、エージェント(輸送機器1)を2台とし、S307の選択処理にて、次に進むべきノードを乱数で選択する場合を示す。
図29は、実施例8における解の導出過程の説明図である。乱数でエッジを選択する場合、全ての配送を終えるまでに要する平均ステップ数は107.5、平均移動距離は675.3であった。
【0172】
[実施例9]
実施例9では、
図27に示した距離付きの輸送ネットワークを初期状態として、エージェント(輸送機器1)を2台とし、S307の選択処理にて、次に進むべきノードを乱数で選択し、且つ、最大20個である対象のパレット収容部が空になった場合には、何も積載せずに補給地の拠点センター2へ戻ることを条件とする。
図30は、実施例9における解の導出過程の説明図である。空になった場合には拠点センター2へ戻すと設定した場合、全ての配送を終えるまでに要する平均ステップ数は80.9、平均移動距離は445.9であった。空になった場合には拠点センター2へ戻すという条件により、実施例8の結果よりも移動距離は短く、より最短経路を導出できる可能性が高まることがわかった。
【0173】
図31は、見込みの判断による計算時間の短縮効果を示すグラフである。
図31のグラフの横軸は、経路計算処理を開始してからの経過時間を示し、縦軸は、各時点における最短の移動距離を示す。実線は、見込みがない場合に計算を中断して初期状態に戻して計算処理を開始する場合、即ち
図25及び
図26のフローチャートに示した処理手順を実行する場合の経過を示す。破線は、見込みの有無の判断を実行しない場合、即ち
図9及び
図10のフローチャートに示した処理手順を実行する場合の経過を示す。
【0174】
図31に示すように、見込みの有無の判断を実行する変形例の方が、最短の移動距離を算出できるまでの経過時間が短い。つまり見込みの有無の判断を実行する方が、処理部40は、より早く、最適解にたどり着くことが分かる。
【0175】
このようにして、距離付きの輸送ネットワークにおける最適な経路をより早く計算することが可能になる。
【0176】
物品のパレットPへの積み付け段階の最適化も同様の手法を適用できる。この場合、上述のパレットPを物品に、上述の輸送機器1をパレットPに置き換えることで実現が可能である。
【0177】
本実施の形態では、輸送経路決定装置4自身が、車載機10、拠点センター2における拠点コントローラ20、集配センター3の集配地装置30と通信して情報を収集し、物流DB410を更新した。しかしながら、DB410の情報更新の処理、端末装置5からの受け付け等、各通信可能な装置とのやり取りを含む処理は、別途情報管理装置によって実現され、輸送経路決定装置4は輸送経路の決定処理のみを実行する専用装置として実現されてよい。
【0178】
上述のように開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0179】
1 輸送機器
P パレット
4 輸送経路決定装置
40 処理部
41 記憶部
410 物流DB
40P コンピュータプログラム