(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】情報処理方法及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20240927BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20240927BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2022559275
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2021040121
(87)【国際公開番号】W WO2022092289
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2020183516
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大東 寛典
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 瞳
(72)【発明者】
【氏名】島崎 悠太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸紀
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-127070(JP,A)
【文献】特開2009-245043(JP,A)
【文献】特開2004-355172(JP,A)
【文献】特開2006-202255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロット間の段取り作業に要した時間である段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を、記憶部から読み出された生産実績データに基づいて算出する算出ステップと、
前記確率密度分布に基づいて、前記作業時間が異常か否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおける判定の結果を出力する出力ステップと、を含
み、
前記段取り時間は、
第1ロットの後処理に要した第1作業時間と、
前記第1ロットの次に製造される第2ロットの製造準備に要した第2作業時間と、
前記第1作業時間と前記第2作業時間との間の第3作業時間と、を含み、
前記算出ステップでは、前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間の各々の確率密度分布を算出し、
前記判定ステップでは、
前記段取り時間の作業条件に基づいて、前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間を算出し、
算出した前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間の各々が異常か否かを判定する、
情報処理方法。
【請求項2】
前記作業条件は、前記第1ロットと、前記第2ロットと、前記第1ロット及び前記第2ロットを製造した設備と、前記段取り作業を行う作業者と、を含む複数の項目で定義される、
請求項
1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
ロット間の段取り作業に要した時間である段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を、記憶部から読み出された生産実績データに基づいて算出する算出ステップと、
前記確率密度分布に基づいて、前記作業時間が異常か否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおける判定の結果を出力する出力ステップと、を含み、
前記算出ステップでは、さらに、前記生産実績データに基づいて、前記段取り時間と当該段取り時間の直後に製造されたロットの製造時間とを含む工程リードタイムの確率密度分布を算出し、
前記判定ステップでは、さらに、前記工程リードタイムの確率密度分布に基づいて、前記工程リードタイムが異常か否かを判定する、
情報処理方法。
【請求項4】
前記判定ステップでは、さらに、
前記工程リードタイムが異常であると判定された場合に、前記工程リードタイム及び前記作業時間の各々の確率密度分布に基づいて、前記工程リードタイムの異常に対する前記作業時間の影響度を算出し、
算出した影響度に基づいて前記作業時間が異常か否かを判定する、
請求項
3に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記製造時間は、
前記ロットを製造した設備の稼働時間と、
前記設備が停止したことによる停止ロス時間と、
前記設備が不良品を製造したことによる不良ロス時間と、を含み、
前記算出ステップでは、さらに、前記生産実績データに基づいて、前記稼働時間、前記停止ロス時間及び前記不良ロス時間の各々の確率密度分布を算出し、
前記判定ステップでは、さらに、
前記工程リードタイムが異常であると判定された場合に、前記工程リードタイム、前記稼働時間、前記停止ロス時間及び前記不良ロス時間の各々の確率密度分布に基づいて、前記工程リードタイムの異常に対する前記稼働時間、前記停止ロス時間及び前記不良ロス時間の各々の影響度を算出し、
算出した影響度に基づいて、前記稼働時間、前記停止ロス時間及び前記不良ロス時間の各々が異常か否かを判定する、
請求項
3又は
4に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記算出ステップでは、1つの良品の製造にかかるタクトタイムの確率密度分布に良品数を乗じた分布と、前記段取り時間の確率密度分布と、所定の補正パラメータとの和を、前記工程リードタイムの確率密度分布として算出する、
請求項
3~
5のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項8】
ロット間の段取り作業に要した時間である段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を、記憶部から読み出された生産実績データに基づいて算出する算出部と、
前記確率密度分布に基づいて、前記作業時間が異常か否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定の結果を出力する出力部と、を備え
、
前記段取り時間は、
第1ロットの後処理に要した第1作業時間と、
前記第1ロットの次に製造される第2ロットの製造準備に要した第2作業時間と、
前記第1作業時間と前記第2作業時間との間の第3作業時間と、を含み、
前記算出部は、前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間の各々の確率密度分布を算出し、
前記判定部は、
前記段取り時間の作業条件に基づいて、前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間を算出し、
算出した前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間の各々が異常か否かを判定する、
情報処理装置。
【請求項9】
ロット間の段取り作業に要した時間である段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を、記憶部から読み出された生産実績データに基づいて算出する算出部と、
前記確率密度分布に基づいて、前記作業時間が異常か否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定の結果を出力する出力部と、を備え
、
前記算出部は、さらに、前記生産実績データに基づいて、前記段取り時間と当該段取り時間の直後に製造されたロットの製造時間とを含む工程リードタイムの確率密度分布を算出し、
前記判定部は、さらに、前記工程リードタイムの確率密度分布に基づいて、前記工程リードタイムが異常か否かを判定する、
情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理方法及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工程の生産性を、当該工程に対応する段取り時間に基づいて求め、求めた生産性に基づいてネック工程を特定するネック工程特定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6703836号公報
【文献】国際公開第2020/166236号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、段取り時間の異常を精度良く判定することができる情報処理方法及び情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る情報処理方法は、ロット間の段取り作業に要した時間である段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を、記憶部から読み出された生産実績データに基づいて算出する算出ステップと、前記確率密度分布に基づいて、前記作業時間が異常か否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおける判定の結果を出力する出力ステップと、を含む。
【0006】
本開示の一態様に係る情報処理装置は、ロット間の段取り作業に要した時間である段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を、記憶部から読み出された生産実績データに基づいて算出する算出部と、前記確率密度分布に基づいて、前記作業時間が異常か否かを判定する判定部と、前記判定部による判定の結果を出力する出力部と、を備える。
【0007】
また、本開示の一態様は、上記情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムとして実現することができる。あるいは、本開示の一態様は、当該プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体として実現することもできる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、段取り時間の異常を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、工程リードタイムの内訳を示す図である。
【
図2】
図2は、複数のロットを製造する場合に必要な段取り作業と製造時間との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る生産異常推定装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、製造時間推定部の処理を説明するための図である。
【
図6】
図6は、段取り時間推定部の処理を説明するための図である。
【
図7】
図7は、工程リードタイム推定部の処理を説明するための図である。
【
図8】
図8は、異常度の算出方法を説明するための図である。
【
図9】
図9は、工程リードタイムの異常の発生を示す図である。
【
図10】
図10は、影響度の算出方法を説明するための図である。
【
図12】
図12は、実施の形態に係る生産異常推定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
従来の製造現場では、少ない品種の製品を大量に生産することがよく行われていた。品種切り替えなどの段取り作業の回数は少なく、また、同じ作業を繰り返し行うことで作業に慣れた熟練の作業者によって段取り作業が行われていた。このため、段取り作業に要した段取り時間は、その変動が小さく、かつ、製造時間に比べて些細な時間であった。
【0011】
しかしながら、近年の製造現場では、製品の品種が多くなり、かつ、品種毎の生産数も少なくなっている。このため、段取り作業が多く発生し、かつ、個々の段取り作業の内容も多岐にわたっている。また、熟練の作業者の減少の影響もあり、段取り時間は、その変動が大きく、かつ、工程リードタイム中に占める割合も大きくなっている。
【0012】
このため、製品を製造している時間である製造時間の短縮を図るだけでは、生産効率を十分に高めることができない。生産効率の向上という観点からは、段取り時間を短縮することが求められている。
【0013】
段取り時間は、段取り作業の内容、設備又は作業者などに依存する。例えば、段取り作業の内容によっては、大幅な時間短縮が可能な場合、及び、時間短縮が実質的に不可能である場合などが存在する。このため、短縮可能な段取り時間を適切に特定することが求められる。短縮可能な段取り時間は、本来は短い時間で完了するはずであるにも関わらず、完了までに長時間を必要とした段取り時間、すなわち、異常な段取り時間である。
【0014】
そこで、本開示は、段取り時間の異常を精度良く判定することができる情報処理方法及び情報処理装置を提供することを目的とする。
【0015】
本開示の一態様に係る情報処理方法は、ロット間の段取り作業に要した時間である段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を、記憶部から読み出された生産実績データに基づいて算出する算出ステップと、前記確率密度分布に基づいて、前記作業時間が異常か否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおける判定の結果を出力する出力ステップと、を含む。
【0016】
これにより、段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を利用することで、作業時間の異常を精度良く判定することができる。よって、異常な作業時間を含む段取り時間、すなわち、段取り時間が異常か否かを精度良く判定することができる。
【0017】
また、例えば、前記段取り時間は、第1ロットの後処理に要した第1作業時間と、前記第1ロットの次に製造される第2ロットの製造準備に要した第2作業時間と、前記第1作業時間と前記第2作業時間との間の第3作業時間と、を含み、前記算出ステップでは、前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間の各々の確率密度分布を算出し、前記判定ステップでは、前記段取り時間の作業条件に基づいて、前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間を算出し、算出した前記第1作業時間、前記第2作業時間及び前記第3作業時間の各々が異常か否かを判定してもよい。
【0018】
これにより、段取り時間を少なくとも3つの作業時間に分けて分析することができるので、段取り時間が異常か否かをより精度良く判定することができる。段取り時間が異常であると判定された場合に、異常の要因を精度良く特定することができるので、段取り作業の改善などに役立てることができる。
【0019】
また、例えば、前記作業条件は、前記第1ロットと、前記第2ロットと、前記第1ロット及び前記第2ロットを製造した設備と、前記段取り作業を行う作業者と、を含む複数の項目で定義されてもよい。
【0020】
これにより、段取り作業の前後に製造される第1ロット及び第2ロットの情報、並びに、段取り作業を行う作業者の情報が作業条件に含まれるので、確率密度分布の推定精度を高めることができる。よって、段取り時間の異常の判定の精度を高めることができる。
【0021】
また、例えば、前記算出ステップでは、さらに、前記生産実績データに基づいて、前記段取り時間と当該段取り時間の直後に製造されたロットの製造時間とを含む工程リードタイムの確率密度分布を算出し、前記判定ステップでは、さらに、前記工程リードタイムの確率密度分布に基づいて、前記工程リードタイムが異常か否かを判定してもよい。
【0022】
これにより、生産性の向上に直結する工程リードタイムの異常を判定するので、異常と判定された工程リードタイムの短縮化のための対策を取ることで、効率良く生産性を高めることができる。
【0023】
また、例えば、前記判定ステップでは、さらに、前記工程リードタイムが異常であると判定された場合に、前記工程リードタイム及び前記作業時間の各々の確率密度分布に基づいて、前記工程リードタイムの異常に対する前記作業時間の影響度を算出し、算出した影響度に基づいて前記作業時間が異常か否かを判定してもよい。
【0024】
これにより、工程リードタイムに含まれる各時間の影響度を算出することで、異常の要因を特定することができる。異常の要因が特定されることにより、生産性を高めるための対策を効果的に行うことができる。
【0025】
また、例えば、前記製造時間は、前記ロットを製造した設備の稼働時間と、前記設備が停止したことによる停止ロス時間と、前記設備が不良品を製造したことによる不良ロス時間と、を含み、前記算出ステップでは、さらに、前記生産実績データに基づいて、前記稼働時間、前記停止ロス時間及び前記不良ロス時間の各々の確率密度分布を算出し、前記判定ステップでは、さらに、前記工程リードタイムが異常であると判定された場合に、前記工程リードタイム、前記稼働時間、前記停止ロス時間及び前記不良ロス時間の各々の確率密度分布に基づいて、前記工程リードタイムの異常に対する前記稼働時間、前記停止ロス時間及び前記不良ロス時間の各々の影響度を算出し、算出した影響度に基づいて、前記稼働時間、前記停止ロス時間及び前記不良ロス時間の各々が異常か否かを判定してもよい。
【0026】
これにより、段取り時間だけでなく、性能ロス時間、停止ロス時間及び不良ロス時間などを異常の要因として特定することができるので、異常に対する対策をより効果的に行うことができる。
【0027】
また、例えば、前記算出ステップでは、1つの良品の製造にかかるタクトタイムの確率密度分布に良品数を乗じた分布と、前記段取り時間の確率密度分布と、所定の補正パラメータとの和を、前記工程リードタイムの確率密度分布として算出してもよい。
【0028】
これにより、工程リードタイムの確率密度分布を精度良く算出することができる。
【0029】
また、本開示の一態様に係るプログラムは、上記各態様に係る情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0030】
これにより、上述した情報処理方法と同様に、段取り時間の異常を精度良く判定することができる。
【0031】
また、本開示の一態様に係る情報処理装置は、ロット間の段取り作業に要した時間である段取り時間の少なくとも一部である作業時間の確率密度分布を、記憶部から読み出された生産実績データに基づいて算出する算出部と、前記確率密度分布に基づいて、前記作業時間が異常か否かを判定する判定部と、前記判定部による判定の結果を出力する出力部と、を備える。
【0032】
これにより、上述した情報処理方法と同様に、段取り時間の異常を精度良く判定することができる。
【0033】
以下では、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0034】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0035】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0036】
また、本明細書において、「第1」、「第2」などの序数詞は、特に断りの無い限り、構成要素の数又は順序を意味するものではなく、同種の構成要素の混同を避け、区別する目的で用いられている。
【0037】
また、本明細書において、「生産」及び「製造」の語が用いられているが、これらは実質的に同じ意味で用いられている。
【0038】
また、本明細書において、「ロット」は、製品の生産単位を表しており、同一の生産条件で生産される所定数の製品で構成されている。「ロットを製造する」とは、ロットを構成する所定数の製品を製造することである。所定数は、1でもよく、複数であってもよい。ロットを構成する所定数の製品の品種は同一(1種のみ)である。1つの設備において複数のロットを連続して製造する場合において、各ロットの品種及び製造数の少なくとも一方は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
(実施の形態)
[1.ロス時間]
まず、本実施の形態に係る情報処理装置又は情報処理方法によって特定されるべき生産性の低下の要因となるロス時間について説明する。ロス時間は、本来であれば不要な時間であり、何らかの要因によって通常よりも余計に要した時間である。ロス時間は、工程リードタイムに含まれる。
【0040】
図1は、工程リードタイムL
Tの内訳を示す図である。
図1に示される工程リードタイムL
Tは、対象工程の開始から完了までに要した時間である。工程リードタイムL
Tは、対象工程を実施する設備が実際に稼働している時間だけでなく、エラーなどの要因で設備が停止している時間、及び、当該設備を稼働させるための準備時間などが含まれる。
【0041】
具体的には、
図1に示されるように、工程リードタイムL
Tは、製造時間と、段取り時間sと、を含んでいる。より具体的には、工程リードタイムL
Tは、製造時間と段取り時間sとの合計時間である。
【0042】
製造時間は、稼働時間t0と、停止ロス時間fiと、不良ロス時間yと、を含んでいる。具体的には、製造時間は、稼働時間t0と、停止ロス時間fiと、不良ロス時間yとの合計時間である。
【0043】
稼働時間t0は、ロットを製造した設備の稼働時間である。具体的には、稼働時間t0は、設備が良品を製造している時間である。稼働時間t0は、性能最大製造時間と、性能ロス時間との合計時間である。性能最大製造時間は、設備がその性能を最大に発揮し、良品を製造することができた時間である。性能ロス時間は、設備の性能低下よるロス時間、すなわち、性能低下に起因して余計に要した時間である。例えば、設備の生産速度の低下によって、性能ロス時間が発生する。
【0044】
停止ロス時間fiは、設備が停止したことによるロス時間、すなわち、設備の停止に起因して余計に要した時間である。例えば、停止ロス時間fiは、設備が停止してから復旧するまでの停止時間である。添字iは、停止要因毎に定められた識別番号である。複数の要因で複数回の停止が発生した場合には、停止要因毎の停止ロス時間fiの合計時間が製造時間に含まれる。
【0045】
不良ロス時間yは、設備が不良品を製造したことによるロス時間、すなわち、不良品の製造に起因して余計に要した時間である。例えば、不良ロス時間yは、不良品の製造時間である。
【0046】
段取り時間sは、ロット間の段取り作業に要した時間である。段取り時間sは、段取りロス時間と、最低必要段取り時間と、を含む。具体的には、段取り時間sは、最低必要段取り時間と、段取りロス時間との合計時間である。
【0047】
最低必要段取り時間は、段取り作業に最低限必要となる時間である。仮に、段取り作業の前後のロットの品種及び製造数が同じであっても、段取り作業は必要である。
【0048】
段取りロス時間は、段取り作業中に何らかの要因で余計に要した時間、すなわち、段取り作業に関わるロス時間である。例えば、段取りロス時間は、作業者のスキル不足、不適切な作業順序、及び、不適切な作業内容などに起因して発生する。
【0049】
例えば、樹脂製品の成形工程の工程リードタイムLTを例に挙げると、性能ロス時間、停止ロス時間fi、不良ロス時間y及び段取りロス時間はそれぞれ、一例として、次のような状況で発生する。性能ロス時間は、金型を取り付けた直後の製造で、設備の様子を確認するために最適な速度よりも低い速度で製造を行う場合に発生する。停止ロス時間fiは、設備のメンテナンス不足によって、樹脂射出不良という要因で発生する。不良ロス時間yは、金型の取り付け不良によって不良品が増加することで発生する。段取りロス時間は、品種切り替え作業の作業数が多く、通常よりも段取り作業に多くの時間を要したことで発生する。
【0050】
なお、上記の各ロス時間の発生要因は、一例に過ぎない。また、対象となる工程は、成形工程に限定されず、金属板への塗布工程又は部品の実装工程などであってもよい。
【0051】
以上のように、工程リードタイムLTが長くなり、生産性が低下する要因として、性能ロス時間、停止ロス時間fi、不良ロス時間y及び段取りロス時間の4つのロス時間が存在する。本実施の形態に係る情報処理方法では、工程リードタイムLTの異常(すなわち、生産性の低下)を検知し、検知した異常の要因が4つのロス時間のいずれであるかを特定する。つまり、製造時間に含まれる性能ロス時間、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yだけでなく、異常の要因の候補として段取りロス時間が含まれている。このため、本実施の形態に係る情報処理方法によれば、製造時間の異常だけでなく、段取り時間が異常か否かを判定することができる。これにより、段取り作業の改善などの有効な対策を取ることができ、生産性の向上に繋げることができる。
【0052】
[2.段取り時間]
次に、段取り時間の詳細について、
図2及び
図3を用いて説明する。
【0053】
図2は、複数のロットを製造する場合に必要な段取り作業と製造時間との関係を示す図である。
図3は、段取り時間sの内訳を示す図である。
【0054】
図2に示されるように、ロットAとロットBとをこの順で連続して製造する場合、ロットAの製造前と、ロットAの製造後で、かつ、ロットBの製造前とでそれぞれ、作業者が段取り作業を行う。段取り時間sは、直前のロットの製造終了時刻から直後のロットの製造開始時刻までの時間である。
【0055】
なお、ロットAは、第1ロットの一例であり、ロットBは、第2ロットの一例である。第2ロットは、同一設備で第1ロットの次に製造されるロットである。第1ロットの製造と第2ロットの製造との間には、同一設備で他のロットの製造は行われない。以下の説明では、第1ロットを「前ロット」、第2ロットを「後ロット」と記載する場合がある。後ロットは、工程リードタイムLT中に製造される対象ロットである。本実施の形態では、段取り時間sは、対象ロット(後ロット)の工程リードタイムLTに含まれる。
【0056】
本実施の形態では、段取り時間sは、複数の作業時間s
jを含んでいる。複数の作業時間s
jはそれぞれ、段取り時間sを分割した要素(段取り要素)である。具体的には、
図3に示されるように、段取り時間sは、製造後作業時間s
αと、製造前作業時間s
βと、その他時間s
hとの合計時間である。なお、添字jは、α、β及びhのいずれかを意味する。
【0057】
製造後作業時間sαは、前ロットの後処理に要した第1作業時間である。後処理は、例えば、前ロットの製造に用いた材料及び/又は部品の片付け(設備からの取り外し)などである。製造後作業時間sαは、前ロットの品種及び製造数に主に依存する。
【0058】
製造前作業時間sβは、後ロットの製造準備(前処理)に要した第2作業時間である。製造準備(前処理)は、例えば、後ロットの製造に用いる材料及び/又は部品の取り付け、並びに、設備の制御パラメータの設定などである。製造前作業時間sβは、後ロットの品種及び製造数に主に依存する。
【0059】
その他時間shは、製造後作業時間sαと製造前作業時間sβとの間の第3作業時間である。その他時間shは、前ロットの後処理及び後ロットの製造準備のいずれにも属しない作業に要した時間である。
【0060】
一般的に、工場などの製造現場においては、多数の設備が設置されており、多数の作業者が作業を行っている。また、作業者が段取り作業を行うタイミング及び作業時間は、通常異なっている。このため、全ての設備に対して、製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shを逐一計測することは困難である。このため、本実施の形態に係る情報処理方法又は情報処理装置では、各作業時間sjを段取り作業の作業条件に基づいて算出する。
【0061】
[3.生産異常推定装置の概要と利用データ]
次に、本実施の形態に係る情報処理装置の一例である生産異常推定装置の概要、及び、生産異常推定装置が利用するデータについて、
図4を用いて説明する。
【0062】
図4は、本実施の形態に係る生産異常推定装置100の機能構成を示すブロック図である。
図4に示される生産異常推定装置100は、本実施の形態に係る情報処理方法を実行するコンピュータ機器である。生産異常推定装置100は、1台のコンピュータ機器であってもよく、ネットワークを介して接続される複数台のコンピュータ機器であってもよい。生産異常推定装置100は、例えば、プログラムが格納された不揮発性メモリ、プログラムを実行するための一時的な記憶領域である揮発性メモリ、入出力ポート、及び、プログラムを実行するプロセッサなどを備える。プロセッサは、メモリなどと協働して、生産異常推定装置100が備える各機能処理部の処理を実行する。
【0063】
生産異常推定装置100は、記憶部200から必要なデータを読み出し、読み出したデータを利用して各処理を実行する。本実施の形態では、記憶部200は、生産異常推定装置100とは別体の記憶装置であり、生産異常推定装置100と有線又は無線で通信可能に接続されている。記憶部200は、HDD(Hard Disk Drive)又はSDD(Solid State Drive)などである。なお、生産異常推定装置100は、記憶部200を内蔵していてもよい。
【0064】
記憶部200には、蓄積データ210と、判定対象データ220と、が記憶されている。
【0065】
蓄積データ210は、過去の生産に関わるデータであり、製造ログデータに基づいて得られるデータである。蓄積データ210は、稼働時間t0、停止ロス時間fi、不良ロス時間y及び段取り時間s(作業時間sj)の推定に用いられる推定モデルを作成するために利用される。蓄積データ210は、製造条件211と、実績データ212と、を含む。
【0066】
製造条件211は、複数の項目で工程毎に定義される。複数の項目は、例えば、ロットの品種及び製造数、ロットを製造した設備、並びに、工程に含まれる段取り作業を行う作業者を含んでいる。段取り作業の作業条件は、製造条件211に基づいて特定可能である。
【0067】
実績データ212は、過去に行われた複数のロットの生産実績を示す生産実績データである。具体的には、実績データ212は、製造開始時刻、製造終了時刻、設備の停止履歴及び製品の不良率などを含む。設備の停止履歴は、例えば、停止した設備と、停止時刻及び復旧時刻を含む。
【0068】
判定対象データ220は、生産異常推定装置100による異常判定の対象となるデータである。判定対象データ220は、製造条件221と、実績データ222と、を含む。製造条件221及び実績データ222の各々の具体的な要素は、蓄積データ210の製造条件211及び実績データ212と同じである。例えば、異常判定の対象が一工程のみである場合、段取り時間sの推定には、直前の工程のロット(前ロット)の情報も用いるため、製造条件221及び実績データ222には、対象の一工程のデータとその直前の工程のデータとが含まれる。
【0069】
[4.生産異常推定装置の機能構成]
次に、生産異常推定装置100の機能構成について、
図4を用いて説明する。
【0070】
図4に示されるように、生産異常推定装置100は、時間算出部110と、段取り要素算出部120と、製造時間推定部130と、段取り時間推定部140と、工程リードタイム推定部150と、特定部160と、表示部170と、を備える。以下では、各機能構成要素の具体的な処理について、順に説明する。
【0071】
[4-1.時間算出部]
時間算出部110は、工程リードタイムL
T、稼働時間t
0、停止ロス時間f
i及び不良ロス時間yを算出する。工程リードタイムL
Tは、
図2に示されるように、後ロットの製造終了時刻から前ロットの製造終了時刻を減算することで得られる。
【0072】
稼働時間t
0は、
図1に示されるように、製造時間から停止ロス時間f
i及び不良ロス時間yを減算することで得られる。製造時間は、
図2に示されるように、後ロットの製造終了時刻から後ロットの製造開始時刻を減算することで得られる。
【0073】
停止ロス時間fiは、後ロットの製造開始時刻から後ロットの製造終了時刻の範囲に含まれる停止時刻と復旧時刻とに基づいて算出される。1回の停止時間は、復旧時刻から停止時刻を減算した時間である。複数の停止時刻と複数の復旧時刻とが含まれる場合、すなわち、複数回の停止が発生した場合には、停止毎の停止時間を合計することで、停止ロス時間fiが得られる。
【0074】
不良ロス時間yは、製造時間から停止ロス時間fiを減算した時間(製造時間-停止ロス時間fi)に不良率を乗じることで得られる。不良率は、後ロットの製造数に占める不良品数の割合である。製造数は、良品数と不良品数との和である。
【0075】
時間算出部110は、蓄積データ210及び判定対象データ220の各々に基づいて、工程リードタイムLT、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yを工程毎に算出する。算出した各時間は、実績データ212及び222から得られる実測値である。
【0076】
蓄積データ210の実績データ212から得られる実測値は、推定モデルの作成に利用される。稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各実測値は、製造時間推定部130のモデル作成部131に出力される。工程リードタイムLTの実測値は、工程リードタイム推定部150のモデル作成部151に出力される。
【0077】
判定対象データ220の実績データ222から得られる実測値は、異常判定に利用される。工程リードタイムLT、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各実測値は、特定部160に出力される。
【0078】
なお、
図4では、L
T、t
0、f
i、y及びs
jの各記号にオーバーライン( ̄)を付すことで、各々の時間の実測値を表している。オーバーライン( ̄)がない記号は、各時間の推定値を表している。また、
図4では、蓄積データ210の流れを実線の矢印で表し、判定対象データ220の流れを破線の矢印で表している。これらの表記方法は、後述する
図5~
図7においても同様である。
【0079】
[4-2.段取り要素算出部]
段取り要素算出部120は、段取り時間sに含まれる複数の作業時間s
j(すなわち、段取り要素)を算出する。具体的には、段取り要素算出部120は、製造後作業時間s
α、製造前作業時間s
β及びその他時間s
hを工程毎に算出する。なお、段取り時間sは、
図2に示されるように、後ロットの製造開始時刻から前ロットの製造終了時刻を減算することにより得られる。
【0080】
製造後作業時間sαは、製造数に依存する時間要素αyと、製造数に依存しない時間要素αzと、を含んでいる。製造前作業時間sβも同様に、製造数に依存する時間要素βyと、製造数に依存しない時間要素βzと、を含んでいる。前ロットの製造数をnとし、後ロットの製造数をmとすると、製造後作業時間sα及び製造前作業時間sβは、以下の式(1)及び(2)で表される。
【0081】
(1) sα=n×αy+αz
(2) sβ=m×βy+βz
【0082】
したがって、αy、αz、βy及びβzを求めることにより、製造後作業時間sα及び製造前作業時間sβが算出される。なお、その他時間shは、製造数には依存しない。
【0083】
αy、αz、βy及びβzは、製造数n及びmのみが異なる(他の項目が同じ)作業条件の実績データが4つ、蓄積データ210の実績データ212に含まれている場合に、以下の式(3)を利用して算出することができる。実績データは、(n,m,s)の組み合わせで表される。なお、他の項目とは具体的には、前ロットの品種、後ロットの品種、設備及び作業者である。
【0084】
(3) s=sα+sβ+sh=n×αy+αz+m×βy+βz+sh
【0085】
例えば、4つの実績データを(n1,m1,s1)、(n2,m2,s2)、(n3,m3,s3)及び(n4,m4,s4)とする。これらの値は全て既知の値である。これら4つの実績データをそれぞれ、式(3)に代入することにより、以下の式(4)~(7)が得られる。
【0086】
(4) s1=n1×αy+αz+m1×βy+βz+sh
(5) s2=n2×αy+αz+m2×βy+βz+sh
(6) s3=n3×αy+αz+m3×βy+βz+sh
(7) s4=n4×αy+αz+m4×βy+βz+sh
【0087】
式(4)~(7)の連立方程式を解くことにより、以下の式(8)及び(9)としてαy及びβyを得ることができる。
【0088】
【0089】
αz、βz及びshは、以下の式(10)及び(11)を利用して求められる。
【0090】
(10) τ=t-(n×αy+m×βy)
(11) αz+βz+sh=τ
【0091】
以下の説明では、所定の生産条件Pでのαz及びβzをそれぞれ、αz
P及びβz
Pと記載する。まず、簡単のため、生産条件Pが1つのみの場合(具体的には、共通の設備で共通の作業者が単一の品種の製品を製造している場合)を想定する。この場合、上述した式(11)は、以下の式(12)となる。
【0092】
(12) αz
P+βz
P+sh=τ
【0093】
しかしながら、この式1つのみでは、αz、βz及びshを求めることができない。そこで、式(12)を行列で表す。具体的には、D=(1 1 1)、w=(αz βz sh)T、b=(τ)と記載することで、式(12)は、以下の式(13)と表すことができる。なお、添え字Tは、転置行列を表している。
【0094】
(13) Dw=b
【0095】
本実施の形態では、段取り要素算出部120は、L2ノルム最小点を解とすることで、式(14)のように、wを求める。
【0096】
(14) w=DT(DDT)-1b
【0097】
作業条件Pが1つのみであるので、wは、式(15)のように得ることができる。
【0098】
【0099】
生産条件Pだけでなく、生産条件Qが含まれている場合は、段取り作業の作業条件としては、P→P、P→Q、Q→P、及び、Q→Qの4通り存在する。なお、「→」の起点は、前ロットの生産条件を表し、「→」の終点は後ロットの生産条件を表している。つまり、「P→P」及び「Q→Q」は、ロット間で生産条件が変更されていないことを意味している。
【0100】
4通りの作業条件の実績データに基づいて、式(11)から式(16)~(19)が得られる。
【0101】
(16) αz
P+βz
P+sh=τ1
(17) αz
P+βz
Q+sh=τ2
(18) αz
Q+βz
P+sh=τ3
(19) αz
Q+βz
Q+sh=τ4
【0102】
式(16)~(19)を整理することで、以下の式(20)~(22)が得られる。
【0103】
(20) αz
P+βz
Q+sh=τ2
(21) βz
P-βz
Q =τ3-τ4
(22) αz
Q+βz
Q+sh=τ4
【0104】
生産条件が1つのみの場合と同様に、式(20)~(22)を、式(13)の行列式で表す。このとき、D、w及びbは以下の式(23)~(25)で示される通りである。
【0105】
【0106】
これにより、式(14)に基づいて、条件が1つの場合と同様に、wを求めることができる。条件が3つ以上になった場合においても、同様にしてαz、βz及びshを算出することができる。
【0107】
なお、算出後のデータは、複数の実績データを元に算出されるので、元の実績データよりも数が少なくなる。例えば、4つの実績データから1組のαy及びβyが得られる。αz、βz及びshも同様である。算出後のデータ数を増やす場合には、元の実績データの組み合わせを変更すればよい。算出後のデータ数を増やすことにより、推定モデルの精度を高めることができ、結果として異常判定の精度を高めることができる。
【0108】
段取り要素算出部120は、蓄積データ210及び判定対象データ220の各々に基づいて、各作業時間sα、sβ及びshを工程毎に算出する。算出した各時間は、実績データ212及び222から得られる実測値とみなされる。
【0109】
蓄積データ210の実績データ212から得られる実測値は、推定モデルの作成に利用される。各作業時間sα、sβ及びshの各実測値は、段取り時間推定部140のモデル作成部141に出力される。
【0110】
判定対象データ220の実績データ222から得られる実測値は、異常判定に利用される。各作業時間sα、sβ及びshの各実測値は、特定部160に出力される。
【0111】
[4-3.製造時間推定部]
製造時間推定部130は、記憶部200から読み出された製造条件211及び実績データ212に基づいて、稼働時間t
0、停止ロス時間f
i及び不良ロス時間yの各々の確率密度分布を算出する。
図4及び
図5に示されるように、製造時間推定部130は、モデル作成部131と、時間推定部132と、を含む。
図5は、製造時間推定部130の処理を説明するための図である。
【0112】
モデル作成部131は、蓄積データ210の製造条件211と、時間算出部110によって蓄積データ210に基づいて算出された稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の実測値と、に基づいて、製造時間の推定モデルを作成する。例えば、モデル作成部131は、1つの良品を製造するのに要する時間である実効タクトタイムt1を用いて評価する。実効タクトタイムt1の推定モデルの作成は、例えば、特許文献2に開示された手法を利用することができる。
【0113】
具体的には、モデル作成部131は、後ロットの品種及び設備を含む生産条件と、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の実測値とから、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の推定モデルを作成する。推定モデルは、生産条件(具体的には、品種及び設備)に対する、期待される性能値(対象となる各時間)の確率密度分布であり、確率密度分布のパラメータによって定義される。
【0114】
モデル作成部131は、例えば、ベイズ推定に基づいて確率密度分布のパラメータを推定する。確率密度分布のパラメータは、例えば、確率密度分布が正規分布の場合、平均μ及び標準偏差σ(又は分散σ2)である。ベイズ推定では、平均μ及び標準偏差σなどのパラメータも、各値が取りうる確率分布(事後確率分布)として推定される。ベイズ推定に基づくパラメータの確率分布の推定は、マルコフ連鎖モンテカルロシミュレーション(MCMC)などのサンプリング法、又は、VB-EMアルゴリズムなどの変分推定によって求めることができる。
【0115】
なお、確率密度分布は、正規分布、対数正規分布、0過剰指数分布、ガンマ分布などであり、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々に対して適切な分布が定められる。例えば、稼働時間t0の確率密度分布は、対数正規分布である。停止ロス時間fiの確率密度分布は、0過剰指数分布である。不良ロス時間yの確率密度分布は、ガンマ分布である。実効タクトタイムt1の確率密度分布は、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの総和として得ることができる。
【0116】
時間推定部132は、モデル作成部131によって作成された推定モデルに対して、判定対象データ220の製造条件221を入力することで、製造時間の推定値を算出する。具体的には、時間推定部132は、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の推定値を算出する。算出された推定値は、工程リードタイム推定部150及び特定部160に出力される。各時間の推定値は、所定の製造条件における各々の確率密度分布で表される。
【0117】
[4-4.段取り時間推定部]
段取り時間推定部140は、記憶部200から読み出された製造条件211及び実績データ212に基づいて、段取り時間sの確率密度分布を算出する。具体的には、段取り時間推定部140は、段取り時間sに含まれる作業時間s
j毎の確率密度分布を算出する。
図4及び
図6に示されるように、段取り時間推定部140は、モデル作成部141と、時間推定部142と、を含む。
図6は、段取り時間推定部140の処理を説明するための図である。
【0118】
モデル作成部141は、蓄積データ210の製造条件211と、段取り要素算出部120によって蓄積データ210に基づいて算出された作業時間sjの実測値と、に基づいて、作業時間sjの推定モデルを作成する。具体的には、モデル作成部141は、製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shの各々の確率密度分布のパラメータを決定する。モデル作成部141は、モデル作成部131と同様に、例えば、ベイズ推定に基づいて確率密度分布のパラメータを推定する。
【0119】
図6に示されるように、製造後作業時間s
αの確率密度分布のパラメータの決定には、前ロットの品種及び製造数、設備、後ロットの品種、並びに、作業者の5つの項目を含む作業条件が用いられる。作業条件は、蓄積データ210の製造条件211に基づいて得ることができる。モデル作成部141は、5つの項目の各々に対する重み係数w
α1~w
α5と、作業条件に依存しない重み係数w
α0とを、パラメータとして決定する。例えば、製造後作業時間s
αの推定値の確率密度分布を、平均μ、標準偏差σの正規分布N(μ,σ)と設定する。この場合、μ及びσはそれぞれ、以下の式(26)及び(27)で示される。
【0120】
(26) μ=μy×(前ロットの製造数)+μz
μy=wμy1×(設備)+wμy2×(前ロットの品種)×(後ロットの
品種)+wμy3×(前ロットの品種)+wμy4×(作業者)
μz=wμz1×(設備)+wμz2×(前ロットの品種)×(後ロットの
品種)+wμz3×(前ロットの品種)+wμz4×(作業者)
(27) σ=σy×(前ロットの製造数)+σz
σy=wσy1×(設備)+wσy2×(前ロットの品種)×(後ロットの
品種)+wσy3×(前ロットの品種)+wσy4×(作業者)
σz=wσz1×(設備)+wσz2×(前ロットの品種)×(後ロットの
品種)+wσz3×(前ロットの品種)+wσz4×(作業者)
【0121】
上記式(26)及び(27)におけるw
μy1、w
μy2、w
μy3、w
μy4、w
μz1、w
μz2、w
μz3、w
μz4、w
σy1、w
σy2、w
σy3、w
σy4、w
σz1、w
σz2、w
σz3及びw
σz4が、確率密度分布のパラメータに相当し、これらに基づいて
図6に示されるw
α1~w
α5及びw
α0を決定することができる。モデル作成部141は、蓄積データ210に基づいて段取り要素算出部120によって算出された製造後作業時間s
αの実測値と、製造条件211に含まれる作業条件とに基づいて、各パラメータを算出する。
【0122】
製造前作業時間sβの確率密度分布のパラメータは、製造後作業時間sαと同様にして算出することができる。具体的には、式(26)及び(27)において、前ロットの製造数の代わりに後ロットの製造数を用いればよい。また、式(26)及び(27)におけるwμy3、wμz3、wσy3及びwσz3に係る前ロットの品種の代わりに後ロットの品種を用いればよい。
【0123】
また、その他時間s
hの推定モデルは、作業条件に依存しないので、作業条件の入力がないモデルとして定められる。その他時間s
hの確率密度分布のパラメータは、例えば、
図6に示されるw
h0のみである。
【0124】
時間推定部142は、モデル作成部141によって作成された推定モデルに対して、判定対象データ220の製造条件221を入力することで、各作業時間sjの推定値を算出する。具体的には、時間推定部142は、製造前作業時間sα、製造後作業時間sβ及びその他時間shの各々の推定値を算出する。算出された推定値は、工程リードタイム推定部150及び特定部160に出力される。各作業時間の推定値は、所定の作業条件における各々の確率密度分布で表される。
【0125】
[4-5.工程リードタイム推定部]
工程リードタイム推定部150は、記憶部200から読み出された製造条件211及び実績データ212に基づいて、工程リードタイムL
Tの確率密度分布を算出する。
図4及び
図7に示されるように、工程リードタイム推定部150は、モデル作成部151と、時間推定部152と、を含む。
図7は、工程リードタイム推定部150の処理を説明するための図である。
【0126】
モデル作成部151は、製造時間推定部130によって算出された稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の推定値と、段取り時間推定部140によって算出された段取り時間sjと、時間算出部110によって算出された工程リードタイムLTの実測値と、に基づいて、工程リードタイムLTの推定モデルを作成する。具体的には、モデル作成部151は、工程リードタイムLTの確率密度分布のパラメータを決定する。モデル作成部151は、モデル作成部131と同様に、例えば、ベイズ推定に基づいて確率密度分布のパラメータを推定する。
【0127】
工程リードタイムL
Tは、
図1に示されたように、製造時間と段取り時間sとの合計時間である。なお、この合計時間と現実の工程リードタイムL
Tとには、何らかの理由で差が生じることが多い。本実施の形態では、当該差に相当する補正パラメータw
Tとして設定される。これにより、工程リードタイムL
Tの推定モデルは、製造時間の推定モデルと、段取り時間sの推定モデルと、補正パラメータw
Tとを合算したモデルとして表すことができる。
【0128】
モデル作成部151は、
図7に示されるように、製造時間推定部130によって算出された稼働時間t
0、停止ロス時間f
i及び不良ロス時間yの各々の推定値と、段取り時間推定部140によって算出された段取り時間sの推定値(具体的には、各作業時間s
jの推定値)と、工程リードタイムL
Tの実測値と、を用いて、工程リードタイムL
Tの確率密度分布のパラメータを決定する。具体的には、補正パラメータw
Tを算出する。製造時間推定部130では実効タクトタイムとして1良品あたりの稼働時間t
0、停止ロス時間f
i及び不良ロス時間yの各々の推定値が算出されるので、モデル作成部151は、各推定値に良品数n
gを乗じたものを利用する。具体的には、モデル作成部151は、稼働時間t
0、停止ロス時間f
i及び不良ロス時間yの各々の推定値に良品数n
gを乗じたものと、製造後作業時間s
α、製造前作業時間s
β及びその他時間s
hの各々の推定値と、を加算し、工程リードタイムL
Tの実測値から減算することで、補正パラメータw
Tを算出する。
【0129】
時間推定部152は、モデル作成部151によって作成された推定モデルに対して、算出された各時間の推定値を入力することで、工程リードタイムLTの推定値を算出する。算出された推定値は、特定部160に出力される。工程リードタイムLTの推定値は、所定の製造条件における確率密度分布で表される。
【0130】
[4-6.特定部]
特定部160は、工程リードタイムLTが異常か否かを判定し、異常と判定した場合に、その異常の要因を特定する。具体的には、特定部160は、工程リードタイム推定部150によって算出された工程リードタイムLTの推定値(確率密度分布)に基づいて、工程リードタイムLTの実測値の異常度を算出する。異常度は、実測値と推定値との離れ具合を示す指標である。
【0131】
図8は、異常度の算出方法を説明するための図である。
図8において、横軸は工程リードタイムL
Tを表し、縦軸は、工程リードタイムL
Tの確率密度を表している。
図8に示されるグラフは、工程リードタイム推定部150によって算出された工程リードタイムL
Tの推定値である確率密度分布である。
【0132】
本実施の形態では、特定部160は、工程リードタイムL
Tの実測値に基づいて算出される下側確率を異常度として算出する。下側確率は、
図8におけるドットの網掛けが付された面積に相当する。下側確率が大きい程、工程リードタイムL
Tの実測値が推定値から離れている、すなわち、異常度が高いことを意味している。例えば、特定部160は、実測値の異常度(下側確率)を算出し、算出した異常度と閾値とを比較する。特定部160は、算出した異常度が閾値以上である場合に、工程リードタイムL
Tが異常であると判定する。特定部160は、算出した異常度が閾値未満である場合に、工程リードタイムL
Tが正常である(異常ではない)と判定する。
【0133】
図9は、工程リードタイムL
Tの異常の発生を示す図である。
図9において、横軸は日付(時間)を表し、縦軸は工程リードタイムL
Tの実測値を表している。また、
図9には、工程リードタイムL
Tの推定値に基づく所定の範囲をドットの網掛けで表している。所定の範囲は、推定値である確率密度分布に基づいて決定される範囲であり、工程リードタイムL
Tが異常ではないことを表す範囲である。つまり、当該所定の範囲は、確率密度分布に基づいて決定される下側確率が閾値未満であるときの工程リードタイムL
Tの範囲である。
【0134】
このため、工程リードタイムL
Tが長くなったからといって、製造条件によっては正常な範囲の長さであることがあり、必ずしも異常であるとは判定されない。
図9に示される例では、6/26、28及び29にそれぞれ、工程リードタイムL
Tが長くなっているが、このうち異常と判定されるのは、6/29のみである。このように、単純に工程リードタイムL
Tの長さのみで判定する場合に比べて、工程リードタイムL
Tの異常を精度良く判定することができる。
【0135】
本実施の形態では、特定部160は、工程リードタイムLTが異常と判定された場合に、工程リードタイムLTの異常の要因を特定する。具体的には、特定部160は、工程リードタイムLTが異常と判定された場合に、工程リードタイムLTの異常に対する、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の影響度、並びに、段取り時間sに含まれる各作業時間sjの影響度を算出する。作業時間sjの影響度は、具体的には、製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shの各々の影響度である。
【0136】
影響度は、各時間が工程リードタイムLTに及ぼした影響の大きさを示す指標である。影響度が大きい時間が工程リードタイムLTの異常の要因である。つまり、各時間の影響度が大きいか否かを判定することにより、各時間が異常か否かを判定することができる。
【0137】
具体的には、影響度は、各時間の推定値を実測値に置き換えた場合における、工程リードタイムL
Tの確率分布の上側確率の増加量である。
図10は、影響度の算出方法を説明するための図である。
図10において、P(x)は、工程リードタイム推定部150によって算出された工程リードタイムL
Tの確率密度分布を表している。P’(x)は、判定対象の時間の推定値を実測値に置き換えた場合の工程リードタイムL
Tの確率密度分布を表している。
【0138】
工程リードタイムLTは、上述した通り、各時間の和で表されるので、以下の式(28)で表される。
【0139】
(28) LT=t0+fi+y+sα+sβ+sh+wT
【0140】
式(28)における各項はいずれも推定値である。例えば、製造後作業時間sαの影響度を算出する場合、式(28)の推定値を実測値に置き換えることで、式(29)が得られる。式(29)において、実測値は、オーバーライン( ̄)を用いて表している。
【0141】
【0142】
製造後作業時間sαが異常の要因であった場合、式(29)で得られる工程リードタイムL’Tは、異常な数値ではないと判断されやすくなる。つまり、置き換えた後の確率密度分布P’(x)における上側確率が大きくなる。このように、上側確率の増加量と影響度とは相関関係を有する。本実施の形態では、特定部160は、以下の式(30)に基づいて時間qの影響度I(q)を算出する。
【0143】
【0144】
なお、式(30)において、
【0145】
【数6】
が推定値を実測値に置き換える前の上側確率である。
【0146】
【数7】
が推定値を実測値に置き換えた後の上側確率である。なお、上側確率の増加量の代わりに、下側確率の減少量が用いられてもよい。
【0147】
図11は、算出された影響度の一例を示す図である。なお、
図11では、段取り時間s全体の影響度を算出した例を示しているが、要素毎に影響度が算出されてもよい。
図11に示される例では、段取り時間sに含まれる段取りロスが最も影響度が大きいことが分かる。これにより、段取りロスが工程リードタイムL
Tの異常の要因であると判定することができる。
【0148】
[4-7.表示部]
表示部170は、特定部160による判定の結果を出力する出力部の一例である。表示部170は、例えば、液晶表示装置又は有機EL(Electroluminescence)表示装置などであるが、特に限定されない。
【0149】
具体的には、表示部170は、工程リードタイムL
Tが異常か否かの判定結果を示す画像を表示する。工程リードタイムL
Tが異常である場合には、表示部170が表示する画像に、異常の要因を特定する情報が含まれてもよい。例えば、表示部170は、
図11に示される表を表示する。
【0150】
なお、生産異常推定装置100は、表示部170の代わりに、判定の結果を音声として出力する音声出力部、及び/又は、判定の結果を含む信号を送信する通信部を備えてもよい。
【0151】
[5.動作]
続いて、本実施の形態に係る生産異常推定装置100の動作(すなわち、情報処理方法の一例である生産異常推定方法)について、
図12を用いて説明する。
図12は、本実施の形態に係る生産異常推定装置100の動作を示すフローチャートである。
【0152】
図12に示されるように、まず、生産異常推定装置100は、記憶部200から蓄積データ210及び判定対象データ220を読み出すことで取得する(S10)。次に、時間算出部110は、読み出した蓄積データ210及び判定対象データ220の各々に基づいて、工程リードタイムL
T、稼働時間t
0、停止ロス時間f
i及び不良ロス時間yを算出する(S11)。
【0153】
次に、製造時間推定部130のモデル作成部131は、蓄積データ210に基づいて算出された稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yと製造条件211とに基づいて、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の推定モデルを作成する(S12)。次に、製造時間推定部130の時間推定部132は、判定対象データ220の製造条件221に基づいて、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の推定値である確率密度分布を算出する(S13)。
【0154】
次に、段取り要素算出部120は、段取り要素毎の作業時間を算出する(S14)。具体的には、段取り要素算出部120は、読み出した蓄積データ210及び判定対象データ220の各々に基づいて、製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shを算出する。
【0155】
次に、段取り時間推定部140のモデル作成部141は、蓄積データ210に基づいて算出された製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shと製造条件211とに基づいて、製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shの各々の推定モデルを作成する(S15)。次に、段取り時間推定部140の時間推定部142は、判定対象データ220の製造条件221に基づいて、製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shの各々の推定値である確率密度分布を算出する(S16)。
【0156】
次に、工程リードタイム推定部150のモデル作成部151は、算出された稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の推定値と、算出された製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shの各々の推定値と、工程リードタイムLTの実測値と、に基づいて、工程リードタイムLTの推定モデルを作成する(S17)。次に、工程リードタイム推定部150の時間推定部152は、判定対象データ220の製造条件221に基づいて、工程リードタイムLTの推定値である確率密度分布を算出する(S18)。
【0157】
次に、特定部160は、算出した確率密度分布と工程リードタイムLTの実測値とに基づいて、実測値の異常度を算出する(S19)。次に、特定部160は、算出した異常度と閾値とを比較する(S20)。
【0158】
異常度が閾値以上である場合(S20でYes)、特定部160は、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の影響度、並びに、製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shの影響度を算出する(S21)。特定部160は、算出した影響度のうち、最も大きい影響度に対応する時間を、工程リードタイムLTの異常の要因として特定する。あるいは、特定部160は、算出した影響度のうち、所定の閾値より大きい1つ以上の影響度に対応する1つ以上の時間を、異常の要因として特定してもよい。なお、影響度の算出は、稼働時間t0、停止ロス時間fi、不良ロス時間y、製造後作業時間sα、製造前作業時間sβ及びその他時間shのいずれかについての影響度が算出されなくてもよい。
【0159】
次に、表示部170は、異常の判定結果及び要因の特定結果を表示する(S22)。異常度が閾値未満である場合(S20でNo)、表示部170による判定結果の表示は省略されてもよい。
【0160】
なお、
図12に示される処理は、一例に過ぎず、図示された順序とは異なる順序で各処理が行われてもよい。例えば、作業時間s
jの算出処理(S14)が工程リードタイムL
Tなどの算出処理(S11)よりも先に行われてもよい。
【0161】
また、図示された処理の一部は、行われなくてもよい。例えば、影響度の算出処理(S21)は、行われなくてもよい。また、工程リードタイムLT、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの算出処理、モデル作成処理及び推定値の算出処理(S11~S13)は、行われなくてもよい。また、段取り要素毎の作業時間の算出処理(S14)が行われなくてもよい。この場合、ステップS15では、段取り時間sの推定モデルを作成し、ステップS16では、段取り時間sの推定値である確率密度分布を算出してもよい。また、工程リードタイムLTの異常判定を行う代わりに、作業時間sj又は段取り時間sの異常判定を行ってもよい。
【0162】
(他の実施の形態)
以上、1つ又は複数の態様に係る情報処理方法及び情報処理装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、及び、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0163】
例えば、上記の実施の形態では、生産異常推定装置100は、段取り時間sを要素毎に分割して異常の判定を行ったが、これに限らない。生産異常推定装置100は、段取り時間sが異常か否かを判定してもよい。この場合、生産異常推定装置100は、段取り要素算出部120を備えなくてもよい。
【0164】
また、例えば、生産異常推定装置100は、工程リードタイムLTの異常の判定を行わなくてもよい。また、生産異常推定装置100は、稼働時間t0、停止ロス時間fi及び不良ロス時間yの各々の異常の判定を行わなくてもよい。つまり、生産異常推定装置100が行う異常の判定は、段取り時間の少なくとも一部である作業時間sjの異常のみであってもよい。この場合、生産異常推定装置100は、時間算出部110、製造時間推定部130及び工程リードタイム推定部150を備えなくてもよい。例えば、特定部160は、段取り時間推定部140によって推定された推定値に基づいて、段取り要素算出部120によって算出された実測値(とみなせる値)が異常か否かを判定してもよい。
【0165】
また、例えば、段取り時間sにはその他時間shが含まれないとみなして、段取り時間sは、製造後作業時間sα及び製造前作業時間sβの2つの作業時間のみを含んでいてもよい。
【0166】
また、上記実施の形態で説明した装置間の通信方法については特に限定されるものではない。装置間で無線通信が行われる場合、無線通信の方式(通信規格)は、例えば、ZigBee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、又は、無線LAN(Local Area Network)などの近距離無線通信である。あるいは、無線通信の方式(通信規格)は、インターネットなどの広域通信ネットワークを介した通信でもよい。また、装置間においては、無線通信に代えて、有線通信が行われてもよい。有線通信は、具体的には、電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)又は有線LANを用いた通信などである。
【0167】
また、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよく、あるいは、複数の処理が並行して実行されてもよい。
【0168】
例えば、上記実施の形態において説明した処理は、単一の装置(システム)を用いて集中処理することによって実現してもよく、又は、複数の装置を用いて分散処理することによって実現してもよい。また、上記プログラムを実行するプロセッサは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、又は分散処理を行ってもよい。
【0169】
また、上記実施の形態において、制御部などの構成要素の全部又は一部は、専用のハードウェアで構成されてもよく、あるいは、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)又はプロセッサなどのプログラム実行部が、HDD又は半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0170】
また、制御部などの構成要素は、1つ又は複数の電子回路で構成されてもよい。1つ又は複数の電子回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0171】
1つ又は複数の電子回路には、例えば、半導体装置、IC(Integrated Circuit)又はLSI(Large Scale Integration)などが含まれてもよい。IC又はLSIは、1つのチップに集積されてもよく、複数のチップに集積されてもよい。ここでは、IC又はLSIと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又は、ULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれるかもしれない。また、LSIの製造後にプログラムされるFPGA(Field Programmable Gate Array)も同じ目的で使うことができる。
【0172】
また、本開示の全般的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路又はコンピュータプログラムで実現されてもよい。あるいは、当該コンピュータプログラムが記憶された光学ディスク、HDD若しくは半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0173】
また、上記の各実施の形態は、請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本開示は、段取り時間の異常を精度良く判定することができる情報処理方法などとして利用でき、例えば、工場などの生産システムの管理装置、分析装置及び支援装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0175】
100 生産異常推定装置
110 時間算出部
120 段取り要素算出部
130 製造時間推定部
131、141、151 モデル作成部
132、142、152 時間推定部
140 段取り時間推定部
150 工程リードタイム推定部
160 特定部
170 表示部
200 記憶部
210 蓄積データ
211、221 製造条件
212、222 実績データ
220 判定対象データ