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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/152 20210101AFI20240927BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M50/152
H01M50/107
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020186691
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076327
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】清水 公太
(72)【発明者】
【氏名】葛西 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】清水 一路
(72)【発明者】
【氏名】下司 真也
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-022586(JP,A)
【文献】特開2013-143332(JP,A)
【文献】特開2008-159536(JP,A)
【文献】特開2007-157519(JP,A)
【文献】特開平09-007561(JP,A)
【文献】実開平07-008950(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部に開口縁部を有する筒部、および、筒部の他方の端部を閉じる底部を有する金属製の電池缶と、
前記電池缶に収容された電極体と、
前記電池缶に充填された電解液と、
前記筒部の前記開口縁部の内周面に対向するように配置された外周面を有し、前記開口縁部を封口する封口部材と、を備え、
前記開口縁部の内周面の一部と、前記封口部材の外周面の一部とが、溶融部により接合され、
前記開口縁部の内周面と前記封口部材の外周面との間を前記電解液が前記溶融部を形成する位置に向かって上昇することを抑制する抑制部が、前記封口部材の外周面において前記溶融部よりも前記底部側に設けられており、
前記抑制部は、前記封口部材の外周面の全周にわたって設けた溝部である、電池。
【請求項2】
前記溝部が延びる方向が、前記封口部材の外周面の周方向に対して0°より大きく90°より小さい角度を有する、請求項に記載の電池。
【請求項3】
前記溝部の形成する容積が、前記開口縁部の内周面における想定電解液付着量よりも大きい、請求項に記載の電池。
【請求項4】
前記抑制部は、第1抑制部であり、
前記開口縁部の内周面と前記封口部材の外周面との間を前記電解液が前記溶融部を形成する位置に向かって上昇することを抑制する第2抑制部が、前記開口縁部の内周面かつ前記溶融部よりも前記底部側に設けられている、請求項1~のいずれか1項に記載の電池。
【請求項5】
前記第2抑制部は、前記開口縁部の前記内周面に設けた別の溝部である、請求項4に記載の電池。
【請求項6】
前記第2抑制部は、前記開口縁部の前記内周面の全周にわたって設けられている、請求項4または5に記載の電池。
【請求項7】
一方の端部に開口縁部を有する筒部、および、筒部の他方の端部を閉じる底部を有する金属製の電池缶と、
前記電池缶に収容された電極体と、
前記電池缶に充填された電解液と、
前記筒部の前記開口縁部の内周面に対向するように配置された外周面を有し、前記開口縁部を封口する封口部材と、を備え、
前記開口縁部の内周面の一部と、前記封口部材の外周面の一部とが、溶融部により接合され、
前記開口縁部の内周面と前記封口部材の外周面との間を前記電解液が前記溶融部を形成する位置に向かって上昇することを抑制する抑制部が、前記封口部材の外周面において前記溶融部よりも前記底部側に設けられており、
前記抑制部は、前記封口部材の外周面の全周にわたって設けた、前記電解液に対して撥水効果または撥油効果を有する表面加工部である、電池。
【請求項8】
前記表面加工部は、前記封口部材に対して前記電解液の濡れ角が90°以上になるような撥水効果または撥油効果を有する、請求項7に記載の電池。
【請求項9】
前記抑制部は、第1抑制部であり、
前記開口縁部の内周面と前記封口部材の外周面との間を前記電解液が前記溶融部を形成する位置に向かって上昇することを抑制する第2抑制部が、前記開口縁部の内周面かつ前記溶融部よりも前記底部側に設けられている、請求項7または8に記載の電池。
【請求項10】
前記第2抑制部は、前記開口縁部の前記内周面の全周にわたって設けられている、請求項9に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、封口された電池として様々な構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような従来の電池は、開口した端部を備えた電池缶を有し、電池缶の開口した端部を封口する。開口した端部を封口する方法として、次の方法が知られている。電極体を電池缶に収容後、電池缶の開口した端部の付近において、電池缶を内側に縮径する。この縮径によって、電池缶の内周面に環状の隆起が形成され、この隆起の上にガスケットおよび封口部材を載置する。ガスケットを介して電池缶の開口した端部を封口部材にかしめて、封口部材の上にかしめ部を形成する。よって、電池を封口し、密閉型電池を製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-105933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の電池において、封口部材の下に隆起を形成し、封口部材の上にかしめ部を形成するため、封口部材近傍における電池の長手方向の寸法が増加する。これによって、電池缶の体積が増加し、電池のエネルギ密度は低下する。
【0006】
したがって、本開示の目的は、上記従来の課題を解決することにあって、エネルギ密度の向上を実現できる電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様における電池は、金属製の電池缶と、電極体と、電解液と、封口部材と、を備える。電池缶は、一方の端部に開口縁部を有する筒部、および、筒部の他方の端部を閉じる底部を有する。電池缶には電極体が収容される。電池缶は電解液で充填される。封口部材は、電池缶の筒部における開口縁部を封口する。封口部材の外周面が開口縁部の内周面と対向するように、封口部材は配置される。開口縁部の内周面の一部と、封口部材の外周面の一部とが、溶融部により接合される。また、封口部材の外周面において溶融部よりも底部側に、開口縁部の内周面と封口部材の外周面との間を電解液が溶融部を形成する位置に向かって上昇することを抑制する抑制部が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電池のエネルギ密度の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本開示の実施形態1に係る電池の概略図
図1B】実施形態1に係る電池の断面図
図2A】実施形態1に係る電池における溝部近傍の概略断面図
図2B】実施形態1に係る電池における封口部材の概略図
図2C】実施形態1に係る電池における2本溝部近傍の概略断面図
図2D】実施形態1に係る電池における両側溝部近傍の概略断面図
図2E】実施形態1に係る電池における角度付き溝部を有する封口部材の概略図
図2F図2Eの断面図
図3A】本開示の実施形態2に係る電池における表面加工部近傍の概略断面図
図3B】実施形態2に係る電池における封口部材の概略図
図3C】実施形態2に係る電池における両側表面加工部近傍の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に至った経緯)
前記従来の特許文献1の電池の封口方法において、かしめ部を形成し、その結果、封口部材近傍における電池の長手方向の寸法が増加し、電池のエネルギ密度は低下する。そこで、本発明者らは、従来の課題を解決するため、電池缶と封口部材とを、例えば、溶接により接合することで、かしめ部を形成せずに電池缶を封口できる密閉型電池を検討した。
【0011】
しかし、溶接により電池缶を封口する場合、電池缶の開口縁部に封口部材を挿入した際、電池缶と封口部材との間において、電解液が毛細管現象によって電池缶の開口側に向かって上昇する。溶接によって形成される溶融部に電解液が混入し、溶接不良が発生する原因となる。
【0012】
電解液の上昇について詳細に説明する。本明細書において、「上」とは、電池缶に電解液を充填した後の電池において、電池缶の底部から溶融部に向かう方向である。また、「電解液の上昇」は上向きに生じる。電解液の上昇は、開口縁部の内周面と封口部材の外周面との間の空間における毛細管現象によって生じる。毛細管現象において、開口縁部の内周面と封口部材の外周面との間の空間内の電解液には、表面張力と空間内の電解液の容積に応じた重力とが作用する。表面張力と重力とがつり合う位置まで電解液は上昇する。
【0013】
続いて、溶融部への電解液の混入について詳細に説明する。電池缶に封口部材を挿入した後、電池缶の一部と封口部材の一部とを溶融させ、溶融部を形成する。毛細管現象によって上昇した電解液が、溶融部が形成される高さに到達している場合、溶接の際に溶融された溶融部の中へ入り込み、溶融部に電解液が混入する。このような電解液の混入は、例えば、開口欠陥等の溶接不良が発生する原因となる。そこで、本発明者らは、前記の課題を解決できる電池として、以下の電池を検討した。
【0014】
本開示の一の態様における電池は、金属製の電池缶と、電極体と、電解液と、封口部材と、を備える。電池缶は、一方の端部に開口縁部を有する筒部、および、筒部の他方の端部を閉じる底部を有する。電池缶には電極体が収容される。電池缶は電解液で充填される。封口部材は、電池缶の筒部における開口縁部を封口する。封口部材の外周面が開口縁部の内周面と対向するように、封口部材は配置される。開口縁部の内周面の一部と、封口部材の外周面の一部とが、溶融部により接合される。また、封口部材の外周面において溶融部よりも底部側に、開口縁部の内周面と封口部材の外周面との間を電解液が溶融部を形成する位置に向かって上昇することを抑制する抑制部が設けられている。
【0015】
このような構成によれば、毛細管現象を抑制し、開口縁部の内周面と封口部材の外周面との間の溶融部に向かった電解液の上昇を抑制できる。電解液の上昇を抑制することで、溶融部への電解液の混入を抑制できる。したがって、電解液の溶融部への混入による溶接不良の減少を実現できる。電解液が溶融部に混入した場合、電解液が溶融部への加熱により急激に体積膨張を起こすことによって溶融部の形状が崩れた状態で凝固し、溶接不良となる。溶接不良の減少によって、溶接で電池缶を封口するとともに、封口部材を電池缶に固定することができる。従来の電池のように電池缶の内周面に環状の隆起(縮径部ともいう)および電池缶の開口した端部にかしめ部を設ける必要がないため、電極体と封口部材との距離の減少を実現できる。これによって、電池缶の体積を減少させることができ、電池エネルギと電池缶の体積との比である電池のエネルギ密度が向上する。
【0016】
また、抑制部として、封口部材の外周面の全周にわたる溝部を設けてもよい。
【0017】
このような構成によれば、溝部において、開口縁部の内周面と封口部材の外周面との間の空間の幅が大きくなる。空間の幅が大きいほど、単位高さ当たりの電解液に作用する重力は大きくなるため、毛細管現象による電解液の上昇は抑制される。これによって、電解液の溶融部への混入を抑制することができる。さらに、溝部は封口部材の外周面の全周にわたって設けられているため、断続的に形成された溝部より、封口部材の外周における広い範囲で電解液の上昇を抑制できる。
【0018】
また、溝部が延びる方向が、封口部材の外周面の周方向に対して0°より大きく90°より小さい角度を有してもよい。角度を設けることで電解液が重力方向に落ちやすくなる効果が得られる。
【0019】
また、溝部の形成する容積が、開口縁部の内周面における想定電解液付着量よりも大きくなるように、溝部を形成してもよい。
【0020】
このような構成によれば、毛細管現象によって電解液が上昇しても溝部が満たされず、電解液は溝部より高く上昇しない。溝部は溶融部よりも電池缶の底部側に位置するため、電解液の溶融部への混入を抑制することができる。
【0021】
また、抑制部として、封口部材の外周面の全周にわたり、電解液に対して撥水効果または撥油効果を有する表面加工部を設けてもよい。
【0022】
このような構成によれば、表面加工部における封口部材に対する電解液の濡れ性が低下する。封口部材に対する電解液の濡れ性の低下により、電解液の表面張力および、表面張力とつり合うための重力が減少し、毛細管現象による電解液の上昇を抑制することができる。よって、電解液の溶融部への混入を抑制することができる。さらに、表面加工部は封口部材の外周面の全周にわたって設けられているため、断続的に形成された表面加工部より、封口部材の外周において広い範囲で電解液の上昇を抑制できる。
【0023】
また、封口部材に対して電解液の濡れ角が90°以上になるような表面加工部を設けてもよい。
【0024】
このような構成によれば、電解液は表面加工部より高く上昇しない。表面加工部は溶融部よりも電池缶の底部側に位置するため、電解液の溶融部への混入を抑制することができる。
【0025】
また、第1抑制部と、第2抑制部との2つの抑制部を設けてもよい。第1抑制部は、封口部材の外周面における溶融部よりも底部側に設けられてもよく、第2抑制部は、開口縁部の内周面かつ溶融部よりも底部側に設けられてもよい。
【0026】
このような構成によれば、開口縁部の内周面と封口部材の外周面との間において、電解液の上昇をさらに抑制できる。
【0027】
以下に、本開示に係る実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本開示は、以下に説明する実施の形態に限るものではない。
【0028】
(実施の形態1)
以下に、実施の形態1を図面に基づいて詳細に説明する。図1Aに実施の形態1に係る電池10の概略図を示す。図1Bに実施の形態1に係る電池10の断面図を示す。
【0029】
図1Aに示すように、実施の形態1に係る電池10は、電池缶11と、封口部材12と、電解液13と、電極体14と、正極タブ19と、負極タブ20と、によって構成される。
【0030】
電池缶11は、一方の端部に開口縁部17を有する筒部33、および、筒部33の他方の端部を閉じる底部34を有する。実施の形態1において、筒部33は、例えば、円筒部であり、電池缶11は図面上の上端が開口した円筒形状を有する有底の金属製容器である。底部34には、負極タブ20が接続される。電池缶11には電極体14が収容され、電池缶11内に電解液13が充填される。電池缶11は封口部材12によって封口される。電池缶11の内部における電極体14と電解液13とが収容された空間が密閉された空間となっている。よって、実施の形態1に係る電池10は密閉型電池である。
【0031】
封口部材12は、円盤形状を有する中央部分と、中央部分よりも上方に隆起した環形状を有する外周部分とを備え、中央部分の外周縁が外周部分の内周縁にガスケット12aを介して固定されている。封口部材12の中央部分には、正極タブ19が接続されており、中央部分が電池10の正極部となる。封口部材12は、電池缶11の内周面と対向するように配置された外周面を有する。封口部材12の図面上の上端の高さと電池缶11の図面上の上端の高さとがおおむね一致するように、封口部材12は電池缶11内に挿入されている。このように挿入した状態において、封口部材12の外周面と対向する電池缶11の部分が開口縁部17に該当する。開口縁部17の内周面を第1対向面15と、封口部材12の外周面を第2対向面16という。図1Aにおいては示していないが、封口部材12の外周面には、開口縁部17の内周面と封口部材12の外周面との間を電解液13が上昇することを抑制する抑制部が設けられている。なお、後述する図2Aの説明の中で述べる。
【0032】
なお、本明細書の説明においては、電池缶11の形状を円筒としているが、電池缶11の形状はこのようなものに限られない。例えば、楕円筒または多角筒であってもよい。なお、本明細書の説明においては、封口部材12の形状を中央部分よりも外周部分が上方に隆起した円盤形状としているが、封口部材12の形状はこのようなものに限られず、その外周面が電池缶11の開口縁部17の内周面と対向するように開口縁部17の内側に挿入され、開口縁部17を封口できる形状であればよい。
【0033】
電極体14は、その材質によって、電池缶11内に電子またはイオンを放出または吸収させる。電極体14は正極と負極との2種類を有し、その間に電子またはイオンの移動を遮るセパレータを挟んだ3層構造を有する。電解液13は、電極体14より放出された電子またはイオンが移動できる媒体である。また、電極体14の正極および負極には、それぞれに対して電子またはイオンの流れる正極タブ19および負極タブ20が接続されている。
【0034】
実施の形態1に係る電池10は、次の工程を経て製造される。電池缶11に電極体14を挿入し、電解液13が注入される。また、電解液13は注液時、電池缶11に対し一度図1Bに示す溶融部26の高さまで注がれる。注液後、含侵工程により液面は溶融部26以下に下がる。この一連の工程により電池缶11の開口縁部17全面に電解液13が一度付着する。封口部材12が電池缶11内に挿入される時、既に開口縁部17に付着している電解液13が毛細管現象により吸い上げられやすくなる。続いて、図1Bに示すように、開口縁部17の内周面の図面上の上端と、封口部材12の外周面の図面上の上端とがおおむね一致するように、電池缶11に封口部材12を挿入する。その結果、第1対向面15と第2対向面16とが互いに対向する。続いて、例えば、溶接用レーザ25を用いて、封口部材12の一部と開口縁部17の一部とを照射する。具体的には、図面上において封口部材12と開口縁部17とのおおむね一致した上端を、封口部材12の上方から、照射し溶融させる。また、封口部材12の外周の周方向に沿って、レーザ25を走査させる。この照射によって、溶融部26が形成され、封口部材12の外周は開口縁部17の内周に接合される。その結果、電池缶11は封口され、封口部材12は電池缶11に固定される。
【0035】
図2Aに実施の形態1に係る電池10における溝部22近傍の概略断面図を示す。図2Bに実施の形態1に係る電池10における封口部材12の概略図を示す。
【0036】
図2Aに示すように、開口縁部17の内周面と封口部材12の外周面とを同一形状に加工することは困難であるため、開口縁部17と封口部材12との間に空間18が生じる。また、図面上の水平方向における空間18の幅(以降、空間18の幅)、すなわち、図面上の水平方向における第1対向面15と第2対向面16との距離は封口部材12の外径に対して小さい。このような空間18では、上述したように毛細管現象によって電解液が上昇する可能性がある。
【0037】
図2Bに示すように、実施の形態1の電池10では、このような空間18における毛細管現象による電解液13の上昇を抑制するため、封口部材12の外周面に溝部22が設けられている。
【0038】
溝部22は、封口部材12の外周面に、その外周面の周方向に沿って延びるように形成される。また、溝部22は、封口部材12の全周にわたり1本の連続した溝として形成される。溝部22は封口部材12の外周面の全周にわたるため、封口部材12の外周面において、周方向と直交する方向に溝部22が存在することになる。また、溝部22は溶融部26より電池缶11の底部34側に位置する。
【0039】
実施の形態1において、溝部22は、開口縁部17の内周面と封口部材12の外周面との間を電解液13が溶融部26を形成する位置に向かって上昇することを抑制する抑制部として形成される。溝部22によって空間18の幅が大きくなる。また、溝部22には電解液13が溜まる。空間18の幅が大きいほど、そこに溜まる電解液13に作用する単位高さ当たりの重力は大きく、空間18における電解液13の上昇は抑制される。
【0040】
封口部材12の外周面において、溝部22は溶融部26よりも電池缶11の底部34側に設けられていればよい。また、封口部材12の外周面において、溝部22を溶融部26から離れた位置に形成してもよい。例えば、波長1070nm連続出力ファイバレーザにおいて、パワー700W、速度125mm/s、スポット径0.7mmとした場合、溶融部26の溶け込み深さは約0.25mm程度である。溶け込み深さの位置からさらに0.1mm以上離れた位置に溝部22を形成することで、気化した電解液13の溶融部26への混入を抑制できる。よって、溝部22と溶融部26との間に所定の距離を設けることにより、溝部22内の電解液13が溶接の熱により気化し溶融部26へ混入することを抑制できる。
【0041】
なお、溝部22は、封口部材12の外周面以外にも、開口縁部17の内周面に、または封口部材12の外周面と開口縁部17の内周面との両方に設けてもよい。なお、溝部22は1本の連続した溝に限定されない。例えば、連続した溝を複数設けてもよい。また、周方向と直交する方向に少なくとも1つの溝が存在するように、複数の断続的な溝を設けてもよい。
【0042】
図2Cには、実施の形態1の溝部22の変形例を示し、変形例の2本溝部23近傍の概略断面図を示す。この変形例は、溝部22に代わり、2本溝部23を備える。また、2本溝部23は、封口部材12の外周面の周方向に延び、その全周にわたる。2本溝部23は、溶融部26より電池缶11の底部34側に位置するように設けられている。
【0043】
図2Dにも、実施の形態1の溝部22の変形例を示し、変形例の両側溝部24近傍の概略断面図を示す。この変形例は、溝部22に代わり、封口部材12側と開口縁部17側との両側に形成された両側溝部24を備える。また、両側溝部24は、封口部材12においてはその外周面の周方向に延びその全周にわたり、開口縁部17の内周面においてはその内周面の周方向に延びその全周にわたる。両側溝部24は、溶融部26より電池缶11の底部34側に位置するように設けられている。両側溝部24を設けることによって、電解液13の上昇をさらに抑制することができる。
【0044】
また、図2Eおよび図2Fには、実施の形態1の溝部22の別の変形例を示し、角度付き溝部27を有する封口部材12の概略図および断面図を示す。図2Eおよび図2Fに示すように、角度付き溝部27が延びる方向が、封口部材12の外周面の周方向に対して0°より大きく90°より小さい角度を有してもよい。例えば、図2Eに、角度付き溝部27の延びる方向が封口部材12の外周面の周方向に対して30°の角度を有する角度付き溝部27を示す。
【0045】
溝部22-24、27内に電解液13を溜めることができる。溝部22-24、27は、その溝部22-24、27に溜めることができる容積が、電解液付着量よりも大きくなるように形成すればよい。本明細書において、「電解液付着量」とは、封口部材12を挿入した際、開口縁部17の内周面に付着した電解液13の容積を意味する。電解液付着量よりも大きくなるように溝部22-24、27の容積を形成することで、電解液13は溝部22-24、27より高く上昇しない。よって、電解液13の溶融部26への混入を抑制することができる。
【0046】
例えば、封口部材12の外周面の周方向と直交する方向の寸法を2.0mm、電池缶11の内径を10mmとする。また、開口縁部17の範囲で、電解液13が全面に一様に厚さ0.05mmで付着しているとする。この場合の電解液付着量は約3.2×10-9である。例えば、図2Aのように溝部22を形成する場合、切削加工によって断面が幅1mm、深さ1mmの三角形になるような溝を1本形成すれば、溝部22の容積は電解液付着量以上になる。
【0047】
また、例えば、前述と同一の条件において、図2Cのように溝を複数本形成する場合、2本溝部23として幅1mm、深さ0.5mmの溝を2本形成すれば、2本溝部23の容積は電解液付着量以上になる。よって、2本溝部23の形成において、溝部22より小さい溝深さで形成できる。また、両側溝部24の形成においても、複数本の溝を形成するため、同様に溝部22より小さい溝深さで形成できる。
【0048】
なお、溝部22-24、27において、形成方法は特に限定されず、封口部材12および電池缶11の材質に応じて適宜選択するとよい。形成方法としては、例えば、切削加工、プレス加工、レーザ加工等が挙げられる。
【0049】
(効果)
実施の形態1に係る電池10においては、開口縁部17の内周面と封口部材12の外周面との間の空間18における電解液13が溶融部26を形成する位置に向かって上昇することを抑制する抑制部を有する。抑制部によって毛細管現象による電解液13の上昇を抑制し、その結果、電池缶11と封口部材12との溶接の際に電解液13の溶融部26への混入が抑制できる。したがって、電解液13の溶融部26への混入による溶接不良の減少を実現することができる。よって、溶接により電池缶11と封口部材12とを接合し電池缶11を封口するとともに、封口部材12を電池缶11に固定することができる。そのため、従来の電池のように封口部材12と電池缶11とでかしめ部を形成する必要がなく、電極体14と封口部材12との距離の減少を実現できる。したがって、エネルギ密度を向上させた電池10を提供することができる。
【0050】
電解液13の上昇を抑制する抑制部として、封口部材12の外周面に溝部22-24、27を形成すると、溝部22-24、27において第1対向面15と第2対向面16との間の空間18の幅が大きくなる。また、溝部22-24、27には電解液13が溜まる。空間18の幅が大きいほど、そこに溜まっている電解液13に作用する単位高さ当たりの重力は大きくなる。そのため、重力が表面張力とつり合う電解液13の高さは減少し、電解液13の上昇は抑制される。よって、電池缶11と封口部材12との溶接の際に電解液13の溶融部26への混入が抑制できる。
【0051】
また、溝部22-24、27は封口部材12の外周面の全周にわたって設けられているため、断続的に形成された溝部より、封口部材12の外周における広い範囲で電解液13の上昇を抑制できる。
【0052】
また、溝部22-24、27が延びる方向が、封口部材12の外周面の周方向に対して0°より大きく90°より小さい角度を有してもよい。角度を設けることで電解液13が重力方向に落ちやすくなる効果が得られる。
【0053】
また、溝部22-24、27によって形成される容積が、電解液付着量よりも大きくなるように形成してもよい。溝部22-24、27をこのように形成することで、電解液13が上昇しても溝部22-24、27は電解液13で満たされず、電解液13は溝部22-24、27より高く上昇しない。また、溝部22-24、27は溶融部26より電池缶11の底部34側に設けられている。よって、電解液13は溶融部26に到達せず、電池缶11と封口部材12との溶接の際に電解液13の溶融部26への混入が抑制できる。
【0054】
(実施の形態2)
実施の形態2の電池40において、開口縁部の内周面と封口部材の外周面との間を電解液が溶融部を形成する位置に向かって上昇することを抑制する抑制部として、溝部22-24、27とは異なる形態を採用している。実施の形態2の電池40において、抑制部以外の構成は実施の形態1の電池10と同様である。実施の形態2においては、実施の形態1と同一又は同等の構成については同じ符号を付して説明する。また、実施の形態2において、主に実施の形態1と異なる点について説明し、実施の形態1と重複する記載は省略する。
【0055】
以下に、実施の形態2を図面に基づいて詳細に説明する。図3Aに実施の形態2に係る電池40における表面加工部31近傍の概略断面図を示す。図3Bに実施の形態2に係る電池40における封口部材12の概略図を示す。
【0056】
図3Aに示すように、実施の形態2の電池40において、実施の形態1の電池10と同様に、開口縁部17と封口部材12との間に空間18が生じる。このような空間18では、上述したように毛細管現象によって電解液13が上昇する可能性がある。
【0057】
図3Bに示すように、実施の形態2の電池40においては、このような空間18における毛細管現象による電解液13の上昇を抑制するため、封口部材12の外周面に、電解液13に対して撥油効果を有する表面加工部31が設けられている。
【0058】
表面加工部31は、封口部材12の外周面に、その外周面の周方向に沿って延びるように形成される。また、表面加工部31は、封口部材12の全周にわたり1つの連続した表面加工部として形成される。表面加工部31は封口部材12の外周面の全周にわたるため、封口部材12の外周面において、周方向と直交する方向に表面加工部31が存在することになる。また、表面加工部31は溶融部26より電池缶11の底部34側に位置する。
【0059】
実施の形態2において、表面加工部31は、抑制部として形成される。表面加工部31は、電解液13に対して撥油効果を有し、電解液13の濡れ性が低下させることができる。電解液13の濡れ性が小さいと、電解液13の表面張力および、表面張力とつり合うための重力が減少し、空間18における電解液13の上昇は抑制される。なお、表面加工部31に代えて、撥水効果を有する表面加工部を設けてもよい。
【0060】
表面加工部31による電解液13の濡れ性の低下について詳細に説明する。例えば、2次電池の電解液の主成分である炭酸エチレンを主体に毛細管現象を考える。毛細管現象による上昇高さhは、密度ρ、表面張力T、濡れ角θ、空間18の半径r(空間18の幅の半分を半径とみなす)、重力加速度gを用いて、式(1)で表せることが知られている。
h=2Tcosθ/ρgr ・・・(1)
炭酸エチレンを20℃で使用した場合の計算として、密度ρを1.320g/cm、表面張力Tを0.02N/m、空間18の半径rを0.01mm、重力加速度gを9.8m/sとする。ここで、濡れ角θを90°になるような表面加工を行った場合、空間18における電解液13の上昇高さhは理論上0mmとなる。したがって、毛細管現象による電解液13の上昇および溶融部26への混入を抑制することができる。一方で、濡れ角θが89°となると上昇高さhが約5.4mmとなるため、表面加工部31による電解液13の濡れ角は90°以上であることが望ましい。
【0061】
また、実施の形態1と同様に、封口部材12の外周面において、表面加工部31は溶融部26よりも電池缶11の底部34側に設けられていればよい。また、封口部材12の外周面において、表面加工部31を溶融部26から離れた位置に形成してもよい。例えば、波長1070nm連続出力ファイバレーザにおいて、パワー700W、速度125mm/s、スポット径0.7mmとした場合、溶融部26の溶け込み深さは約0.25mm程度である。溶け込み深さの位置からさらに0.1mm以上離れた位置に表面加工部31を形成することで、気化した電解液13の溶融部26への混入を抑制できる。よって、表面加工部31と溶融部26との間に所定の距離を設けることにより、表面加工部31近傍の電解液13が溶接の熱により気化し溶融部26へ混入することを抑制できる。
【0062】
なお、実施の形態1と同様に、表面加工部31は、封口部材12の外周面以外にも、開口縁部17の内周面に、または封口部材12の外周面と開口縁部17の内周面との両方に設けてもよい。なお、表面加工部31は1つの連続した表面加工部に限定されない。例えば、連続した表面加工部31を複数設けてもよい。また、周方向と直交する方向に少なくとも1つの表面加工部31が存在するように、複数の断続的な表面加工部31を設けてもよい。
【0063】
また、図3Cに、実施の形態2の表面加工部31の変形例を示し、両側表面加工部32近傍の概略断面図を示す。この変形例では、表面加工部31に代わり、封口部材12側と開口縁部17側との両側に形成された両側表面加工部32を備える。また、両側表面加工部32は、封口部材12においてはその外周面の周方向に延びその全周にわたり、開口縁部17の内周面においてはその内周面の周方向に延びその全周にわたる。両側表面加工部32は、溶融部26より電池缶11の底部34側に位置するように設けられている。
【0064】
表面加工部31および両側表面加工部32を形成する方法は表面微細パターニング加工に限定される。コーティング加工では、溶接時にコーティング材が封口部材12から剥離し溶融部26に混入することで、溶接不良の原因となる。表面微細パターニング加工方法は特に限定されず、封口部材12および電池缶11の材質に応じて適宜選択すればよい。表面微細パターニング加工方法としては、例えば、切削加工、ナノインプリント加工、レーザ加工が挙げられる。
【0065】
(効果)
実施の形態2に係る電池40においては、抑制部として、封口部材12に撥水効果または撥油効果を有する表面加工部31を形成する。
【0066】
表面加工部31によって、表面加工部31における封口部材12に対する電解液13の濡れ性が低下する。封口部材12に対する電解液13の濡れ性の低下によって、電解液13の表面張力および、表面張力とつり合うための重力が減少し、毛細管現象による電解液13の上昇を抑制することができる。よって、電池缶11と封口部材12との溶接の際に電解液13の溶融部26への混入が抑制できる。
【0067】
また、表面加工部31は封口部材12の外周面の全周にわたって設けてもよい。そのため、断続的に形成された表面加工部31より、封口部材12の外周において広い範囲で電解液13の上昇を抑制できる。
【0068】
例えば、封口部材12に対して電解液13の濡れ角が90°以上になるような撥水効果または撥油効果を有する表面加工部31を、封口部材12に形成するとよい。濡れ角が90°以上となる場合、電解液13は表面加工部31より高く上昇しない。また、表面加工部31は溶融部26より電池缶11の底部34側に設けられている。よって、電解液13は溶融部26に到達せず、電池缶11と封口部材12との溶接の際に電解液13の溶融部26への混入が抑制できる。
【0069】
なお、上記における様々な実施の形態のうち、任意の実施の形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示に係る電池は、種々の缶型の電池に利用可能であり、例えば携帯機器、ハイブリッド自動車、電気自動車等の電源としての適用が有用である。
【符号の説明】
【0071】
10 電池
11 電池缶
12 封口部材
13 電解液
14 電極体
15 第1対向面
16 第2対向面
17 開口縁部
18 空間
19 正極タブ
20 負極タブ
22 溝部
23 2本溝部
24 両側溝部
25 レーザ
26 溶融部
27 角度付き溝部
31 表面加工部
32 両側表面加工部
33 筒部
34 底部
40 電池
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C