IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-圧縮機及び機器 図1
  • 特許-圧縮機及び機器 図2
  • 特許-圧縮機及び機器 図3
  • 特許-圧縮機及び機器 図4
  • 特許-圧縮機及び機器 図5A
  • 特許-圧縮機及び機器 図5B
  • 特許-圧縮機及び機器 図6
  • 特許-圧縮機及び機器 図7
  • 特許-圧縮機及び機器 図8
  • 特許-圧縮機及び機器 図9
  • 特許-圧縮機及び機器 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】圧縮機及び機器
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F04C29/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022581281
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2022001790
(87)【国際公開番号】W WO2022172709
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2021021651
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 敏
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 章史
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-084688(JP,A)
【文献】特開2008-190467(JP,A)
【文献】実開昭56-122812(JP,U)
【文献】国際公開第2018/123716(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/00- 2/077
18/00-18/077、
23/00-29/12
B23K 9/23、11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉された鉄系容器内に、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機構部とを有し、前記圧縮機構部は、回転軸と、前記回転軸を支持するフレームとを有し、前記回転軸を支持する前記フレームの母材は、軽金属を主成分とする比重5以下の軽金属とし、
鉄を主成分とする部材が前記フレームの外周にあらかじめ止着され
前記鉄を主成分とする前記部材が前記フレームの前記外周から突出していないことで前記フレームに前記鉄を主成分とする前記部材が止着された状態で前記フレームが焼き嵌めや圧入されることなく前記鉄系容器内に収められており、
前記鉄を主成分とする前記部材を前記鉄系容器に溶接固定することで前記フレームを前記鉄系容器に固定したことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記フレームに、螺旋状ネジ溝付きの部材止着用穴を設けて、前記鉄を主成分とする前記部材を螺着したことを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記螺着された前記鉄を主成分とする前記部材をボルト部材としたことを特徴とする請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記ボルト部材は通し孔を有する構成としたことを特徴とする請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記ボルト部材のボルト頭部の直径A、前記鉄系容器に設ける溶接用の貫通穴の直径Bの関係が、A>Bを満たすことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記ボルト部材のはめあい長さLとねじ部の直径Dの関係が、0.4≦L/D≦8を満たすことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記フレームに設けた前記部材止着用穴には、前記鉄系容器の内部空間と連通する貫通孔を設けたことを特徴とする請求項4から請求項6にいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項8】
圧縮部形成部品の母材が軽金属を主成分とする材料であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の圧縮機、凝縮器、減圧装置、及び蒸発器を配管によって環状に接続したことを特徴とする機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄系容器に軽金属を主成分とした材料からなるフレームを固定して軽量化した圧縮機及びこの圧縮機を用いた機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から化石燃料の使用を減らすために、冷凍サイクルに用いられている圧縮機の高効率化・軽量化が進められている。
特許文献1は冷凍サイクルに用いられている圧縮機を開示する。この圧縮機の圧縮機構部品、例えば圧縮機が備える回転体を支持するフレームは比重の大きい鉄系部材で構成されている。
特許文献2は他の圧縮機を開示する。この圧縮機は、圧縮機の高効率化・軽量化を図るため、回転体を支持するフレームを、軽金属を主成分とする材料に変更し、鉄を主成分とする鉄系容器に固定して構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-2290号公報
【文献】特開2010-84688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、圧縮機は、特許文献1に開示されているように、材料が鉄系からなるフレームと、材料が鉄系からなる容器を溶接固定して構成してあった。この構成によると、フレームと容器は互いに鉄系金属であるため、溶接固定は容易であるが、圧縮機の重量が大きくなる。これを解決すべくフレームを軽金属が主成分である材料に変更すると、融点や熱伝導率に大きな差が生じる。そのため、溶接固定が困難になり信頼性に欠けるという課題があった。
一方、特許文献2に開示されているもう一つの圧縮機は、軽金属であるアルミニウム合金からなるフレームを、材料が鉄系からなる容器の内側に、焼き嵌め或いは圧入固定する。容器の外側から、材料がすべて鉄、或いは溶接部のみが鉄で構成される係止部材でフレームを係止し、その係止部材と容器を溶接する。
しかし、特許文献2に記載されている構成にすると、フレームの焼き嵌めや圧入工程の後に係止部材を挿入し溶接するという多くの工程を経る。そのため、組み立てコストが高くなるといった課題があった。また、焼き嵌めや圧入固定時に、比較的硬度の低いフレームに強い応力が加わって歪みが生じるため、性能のばらつきや、長期使用時における信頼性低下の可能性があった。
また、フレームと鉄系容器との嵌合がすきま嵌めであるような構成の場合は、特許文献2に記載される固定方法では、容器の外側から仕上げ加工されたフレームを係止する。そのため、係止部材の挿入または締めつけ時に、比較的硬度の低いフレームに歪みが発生し、性能のばらつきや、信頼性の低下を引き起こす可能性があった。
発明者らはこのような課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0005】
本開示は、軽金属を主成分とする材料からなるフレームを鉄系容器に歪みなく固定して、低コストで軽量かつ長期信頼性の高い圧縮機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の圧縮機は、軽金属を主成分とする比重5以下の軽金属で圧縮機構部のフレームを構成する。また本開示の圧縮機は、鉄を主成分とする部材をフレームにあらかじめ止着した状態でフレームが鉄系容器内に収め、部材を鉄系容器に溶接して上記比重5以下の軽金属からなるフレームを鉄系容器に固定した構成としてある。
【発明の効果】
【0007】
本開示の圧縮機は、軽金属を主成分とするフレームにあらかじめ鉄を主成分とする部材を止着し、鉄を主成分とする部材と鉄系容器を溶接している。そのため、軽金属を主成分とするフレームと鉄系容器を直接溶接する場合のように軽金属製フレームに歪みを発生させることなくフレームを鉄系容器に固定できるとともに、組み立て工数も低減できる。よって、低コストで軽量かつ長期信頼性の高い圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る圧縮機の断面図
図2】実施の形態1に係る圧縮機の要部となる鉄系容器とフレームとの固定部を示す拡大断面図
図3】実施の形態1-2に係る圧縮機の要部となる鉄系容器とフレームとの固定部を示す拡大断面図
図4】実施の形態1-3に係る圧縮機の要部となる鉄系容器とフレームとの固定部におけるボルト部材のボルト頭部の直径Aと鉄系容器の溶接孔となる貫通孔直径Bとの関係を示す断面図
図5A】実施の形態1-3における圧縮機のボルト部材のボルト頭部を示す図
図5B】実施の形態1-3における圧縮機のボルト部材の他のボルト頭部を示す図
図6】実施の形態1-4に係る圧縮機の要部となる鉄系容器とフレームとの固定部を示す拡大断面図
図7】実施の形態1-5に係る圧縮機の要部となる鉄系容器とフレームとの固定部を示す拡大断面図
図8】実施の形態1-6に係る圧縮機の要部となる鉄系容器とフレームとの固定部を示す拡大断面図
図9】実施の形態1-7に係る圧縮機の要部となる鉄系容器とフレームとの固定部を示す拡大断面図
図10】実施の形態2に係る圧縮機の断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0010】
(実施の形態1)
なお、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0011】
[1-1.構成]
図1は、実施の形態1に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
このスクロール圧縮機41aは、密閉された鉄系容器1内に、冷媒を圧縮する圧縮機構部10と、圧縮機構部10を駆動する電動機構部20とが配置されている。
鉄系容器1は、胴部1aと下蓋1bと上蓋1cとで構成されている。胴部1aは、上下方向に沿って延びる円筒状に形成される。下蓋1bは、胴部1aの下部開口を塞ぐ。上蓋1cは、胴部1aの上部開口を塞ぐ。鉄系容器1は、底部に潤滑油を貯留する貯油部4が形成されている。
鉄系容器1には、圧縮機構部10に冷媒を導入する冷媒吸込管2と、圧縮機構部10にて圧縮された冷媒を鉄系容器1の外に吐出する冷媒吐出管3とを設けている。
【0012】
圧縮機構部10は、固定スクロール11と、旋回スクロール12と、旋回スクロール12を旋回駆動する回転軸13とを有している。
電動機構部20は、鉄系容器1に固定されたステータ21と、ステータ21の内側に配置されたロータ22とを備える。ロータ22には回転軸13が固定される。回転軸13の上端には、回転軸13に対して偏心する偏心軸13aが形成されている。
【0013】
固定スクロール11及び旋回スクロール12の下方には、固定スクロール11及び旋回スクロール12を支持するフレーム30が設けられている。
フレーム30には、回転軸13を軸支する軸受部31と、ボス収容部32とが形成されている。フレーム30は、鉄系容器1に本開示の実施形態による固定方法によって固定される。
【0014】
固定スクロール11は、円板状の固定スクロール鏡板11aと、固定スクロール鏡板11aに立設した渦巻状の固定渦巻きラップ11bと、固定渦巻きラップ11bの周囲を取り囲むように立設した外周壁部11cとを備える。固定スクロール鏡板11aの略中心部に吐出ポート14が形成されている。
旋回スクロール12は、円板状の旋回スクロール鏡板12aと、旋回スクロール鏡板12aのラップ側端面に立設した旋回渦巻きラップ12bと、旋回スクロール鏡板12aの反ラップ側端面に形成した円筒状のボス部12cとを備えている。
固定スクロール11の固定渦巻きラップ11bと旋回スクロール12の旋回渦巻きラップ12bとは相互に噛み合わされ、固定渦巻きラップ11bと旋回渦巻きラップ12bとの間に複数の圧縮室15が形成される。
ボス部12cは、旋回スクロール鏡板12aの略中央に形成される。偏心軸13aはボス部12cに挿入され、ボス部12cはボス収容部32に収容される。
固定スクロール11は、外周壁部11cで複数本のボルト(図示せず)を用いてフレーム30に固定される。一方、旋回スクロール12は、オルダムリングなどの自転拘束部材17を介して固定スクロール11に支持されている。旋回スクロール12の自転を拘束する自転拘束部材17は、固定スクロール11とフレーム30との間に設けている。これにより、旋回スクロール12は、固定スクロール11に対して、自転しないで旋回運動をする。
【0015】
回転軸13の下端部13bは、鉄系容器1の下部に配置されたサブフレーム18に軸支されている。また、回転軸13の下端には容積型のオイルポンプ5を設けている。オイルポンプ5は、その吸い込み口が貯油部4内に存在するように配置する。オイルポンプ5は、回転軸13によって駆動され、鉄系容器1の底部に設けられた貯油部4にある潤滑油を、圧力条件や運転速度に関係なく、確実に吸い上げることができる。よって、オイル切れの心配も解消される。
回転軸13には、回転軸オイル供給孔13cが形成されている。回転軸オイル供給孔13cは、回転軸13の下端部13bから偏心軸13aに至る。オイルポンプ5で吸い上げた潤滑油は、回転軸13内に形成している回転軸オイル供給孔13cを通じて、サブフレーム18の軸受部、フレーム30の軸受部31、ボス部12c内に供給される。
【0016】
冷媒吸込管2から吸入される冷媒は、吸入ポート15aから圧縮室15に導かれる。圧縮室15は、外周側から中央部に向かって容積を縮めながら移動する。圧縮室15で所定の圧力に到達した冷媒は、固定スクロール11の中央部に設けた吐出ポート14から吐出室6に吐出される。吐出ポート14には吐出弁を設けている。圧縮室15で所定の圧力に到達した冷媒は、吐出弁を押し開いて吐出室6に吐出される。吐出室6に吐出された冷媒は、鉄系容器1内上部に導出され、冷媒吐出管3から吐出される。
旋回スクロール12は所定の中間圧力を旋回スクロール鏡板12aに印加することで、固定スクロール11に押しつけられる。これによりスラスト面からの漏れ損失を低減させることができる。
【0017】
本実施の形態による機器は、スクロール圧縮機41a、凝縮器42、減圧装置43、及び蒸発器44が配管によって環状に接続されている。凝縮器42では冷媒吐出管3から吐出される冷媒を凝縮し、減圧装置43では凝縮器42で凝縮された冷媒を減圧し、蒸発器44では減圧装置43で減圧された冷媒を蒸発させる。
蒸発器44で蒸発された冷媒は、冷媒吸込管2からスクロール圧縮機41aに戻される。
【0018】
以上のように構成されているスクロール圧縮機41aのフレーム30およびサブフレーム18の母材は、比重5以下の軽金属(アルミ合金)を主成分とする材料で形成される。一方、鉄系容器1の母材は鉄を主成分とする材料で形成される。したがって、上記フレーム30およびサブフレーム18を鉄系容器1に直接溶接固定すると既述しているように、融点や熱伝導率の差により溶接固定が困難で歪が生じ信頼性も欠けるという課題が生じる。
そこで本実施の形態のスクロール圧縮機41aでは、図2に示すように、まずフレーム30およびサブフレーム18の外周に鉄を主成分とする部材97をあらかじめ止着する。その後、部材97と鉄系容器1を溶接Zする。これにより、フレーム30およびサブフレーム18は鉄系容器1に間接的に固定される。
【0019】
[1-2.動作]
以上のように構成した本開示のスクロール圧縮機41aは、あらかじめ鉄を主成分とする部材97をフレーム30およびサブフレーム18に止着しておき、部材97を鉄系容器1に溶接Zするという単一工程で簡単にフレーム30およびサブフレーム18を鉄系容器1に歪なく固定することができる。
すなわち、本開示のスクロール圧縮機41aは、圧縮機軽量化のため、圧縮機構部10のフレーム30およびサブフレーム18の母材を、比重5以下の軽金属(アルミ合金)を主成分とする材料としている。そのため、鉄を主成分とする材料からなる鉄系容器1にフレーム30およびサブフレーム18を直接溶接Zするのが困難で歪を発生させる恐れがある。
しかしながら、上記フレーム30およびサブフレーム18の外周に鉄を主成分とする部材97をあらかじめ止着しておき、この鉄を主成分とする部材97と鉄系容器1を溶接Zする。そうすることで、フレーム30およびサブフレーム18に歪を発生させることなく単一の溶接工程のみによって、フレーム30およびサブフレーム18を鉄系容器1に固定できる。これにより、低コスト化が可能になるとともに、例えば、回転軸13を軸支するフレーム30とサブフレーム18のそれぞれの軸受部31の軸心のずれを抑制できる。よって、性能や信頼性が低下するのを防止して、長期信頼性を確保できる。
【0020】
ここで、鉄を主成分とする部材97のフレーム30およびサブフレーム18への止着は、図2では、部材97の小径軸部97aをフレーム30およびサブフレーム18に設けた部材止着用穴50に密接挿入することによって簡単に行える。そうすることで、組み立て容易化によるコストダウンを促進している。
また、上記部材止着用穴50は入り口側を大径孔50aとして部材97の大径部97bとの間に間隙Tを形成し、この間隙Tにより断熱効果を持たせる。そうすることで、溶接Z部分から部材97の大径部97bを介してフレーム30およびサブフレーム18に伝導する熱の影響を低減する。
【0021】
なお、上記鉄を主成分とする部材97のフレーム30およびサブフレーム18に対する止着は上記構成に限定されるものではない。
例えば実施の形態1-2として図3に示すように、小径軸部97aをネジ化したボルト部材102として螺合することにより止着する構成としてもよい。そうすることで、組み立て容易化によるコストダウンの促進を実現できる。
この場合、フレーム30およびサブフレーム18の母材は軽金属であるため、鉄を主成分とするボルト部材102を螺着する際に歪みが発生する。しかしながら、あらかじめ螺着した状態で仕上げ加工を施すことでこれらの歪みが除去される。これにより、性能の低下を防ぎ、高い信頼性の圧縮機を提供することができる。
【0022】
また、上記部材97は図3に示すように、凹部99を有するボルト部材102とするのが好ましい。このボルト部材102、フレーム30およびサブフレーム18は異種金属であり、線膨張係数が異なるため、温度変化により膨張・収縮差が生じる。しかしながら、ねじ嵌めあい部の山同士が弾性変形する範囲内でこの差を吸収できる。これにより繰り返し温度変化があるような過酷な状況下においても長期的な信頼性を確保した圧縮機を提供できる。また、溶接Z時に発生する有害なスパッタ(金属粒)をボルト部材102の凹部99の中にとどまらせる効果がある。六角ボルトのように凹部99がない場合はボルト頭部に凹部99に相当するザグリを設けてもよい。
【0023】
図4は、実施の形態1-2におけるボルト部材102のボルト頭部102bの直径Aと鉄系容器1に設けられた溶接用の貫通穴96の直径Bの関係を示す(部材97であっても同様であるが、ボルト部材102の場合を例にして説明する)。直径Aと直径Bは、A>Bを満たすようになっており、鉄系容器1の溶接用の貫通穴96をボルト部材102のボルト頭部102bで覆い隠せるように構成してある。
これにより、溶接Z時の熱が、前記した間隙Tによる断熱効果によって、融点の低い軽金属であるフレーム30及びサブフレーム18に伝わりにくくなり、フレーム30及びサブフレーム18の割れ・歪みなどの不具合を抑制できる。ボルト部材102のボルト頭部102bの形状が図5Aに示す円筒形でない(例:図5Bに示す六角ボルトなど)の場合は、ボルト頭部102bの対辺の距離をAとする。
また、ボルト部材102のボルト102aの嵌めあい長さLとボルト部材102のボルト102aの直径Dの関係が、0.4≦L/D≦8.0 を満たすようになっている。L/Dが0.4を下回るとボルト部材102の締結ゆるみなどにより軸力の低下を引き起こし、構造的強度を満足することができない可能性がある。また、空気調和装置や給湯器などに使用される圧縮機は、使用環境により様々な温度変化に対応することが求められる。そのため、L/Dが8.0を上回ると、温度変化による異種金属の膨張収縮率の差に起因するボルト102aと部材止着用穴(この場合の部材止着用穴はネジ孔となっている)50の伸びの差(ボルト部材102の頭部座面からの距離が大きくなるほど伸びの差が大きい)の影響による、ボルト102aの山同士のせん断破壊を引き起こす可能性がある。
【0024】
また、フレーム30及びサブフレーム18に設けられた部材止着用穴50には、容器内空間と連通する空気孔(貫通孔)100が設けられている。上記構成によれば、溶接Z時の熱により膨張する部材止着用穴50に存在する空気が、容器内の空間に導出される構造になっている。そのため、ボルト部材102の場合はそのボルト102a(この場合、部材止着用穴50はネジ穴)の締め付けやボルト部材102のボルト102aの山同士のかみ合いへの影響をなくすことができる。また、ボルト部材102には既述したように軸方向に貫通する通し孔98(図3に記載)を設けてもよい。これによりボルト部材102の凹部99の中に溶融固化物が形成される時に空隙が発生しないため、溶接強度を安定させることができる。
【0025】
また、本実施の形態ではフレーム30に締結される圧縮部形成部品、例えば固定スクロール11の母材は、フレーム30と同等の線膨張係数を有する軽金属を主成分とする材料となっている。この構成により軽量化が期待できるうえに、温度変化に対して同じように膨張収縮するため、部品間の隙間が適切に維持され、長期的な信頼性を確保できる。また、固定スクロール11と嵌合される旋回スクロール12の母材も、固定スクロール11と同等の線膨張率を有する軽金属を主体とする材料となっている。この構成によりさらなる軽量化が可能であると同時に、温度変化に対して同じように膨張収縮する。そのため、ラップ間の隙間が適切に維持され、高効率な圧縮機とすることができる。
【0026】
以上、上記実施の形態1~実施の形態1-3では、軽金属を主成分とするフレーム30及びサブフレーム18に、鉄を主成分とする部材97もしくはボルト部材102をそれ自体で直接、止着する事例を説明した。
しかし上記部材97は、例えば図6に実施の形態1-4として示すように、鉄を主成分とする部材97を、止め具103(例:ボルト)でフレーム30及びサブフレーム18に固定してもよい。あるいは、ボルト部材102の場合は、図7に実施の形態1-5として示すように、ボルト102a及びナット105を用いてフレーム30及びサブフレーム18を挟み込むように固定する方法としてもよい。
【0027】
上記各構成によれば、部材97あるいはボルト部材102とフレーム30及びサブフレーム18との結合が、溶接Zと止め具103との二箇所、或いは溶接Zとナット105の二箇所で行われるために、溶接強度が安定したものとなり、より信頼性を向上させることができる。また、鉄を主成分とする部材97もしくはボルト部材102を固定した状態でフレーム30及びサブフレーム18を仕上げ加工することで、固定時に発生するフレーム30及びサブフレーム18の歪みを除去することができる。更に、異なる線膨張係数に起因する温度変化での膨張率または収縮率の違いを、止め具103の弾性変形できる範囲内で吸収できる。
【0028】
また、軽金属を主成分とするフレーム30及びサブフレーム18に直接ネジ加工を施せない場合でも対応が可能である。したがって、フレーム30及びサブフレーム18にあらかじめ固定する鉄を主成分とする部材97もしくはボルト部材102は、直接螺着する形状に限定されない。
【0029】
また、図8に実施の形態1-6として示すように、フレーム30及びサブフレーム18と直接接触するボルト座面は、部材の線膨張率差で生じる熱応力による塑性変形を抑えるためにワッシャー95などを用いて接触面積を大きくとるようにしておくことが望ましい。
【0030】
また、図9に実施の形態1-7として示すように、小径軸部97aをテーパー形状とし、小径軸部97aが挿入される部材止着用穴50をテーパー形状とすることが望ましい。このように、小径軸部97aと、小径軸部97aが挿入される部材止着用穴50とをテーパー形状とすることで、熱膨張率の差に起因するアルミ部材の座面の陥没を回避できる。
【0031】
[1-3.効果等]
以上のように、本開示の圧縮機は、密閉された鉄系容器1内に、冷媒を圧縮する圧縮機構部10と、圧縮機構部10を駆動する電動機構部20とを有する。前記圧縮機構部10は、回転軸13と、前記回転軸13を支持するフレーム30とを有する。前記回転軸13を支持する前記フレーム30の母材は比重5以下の軽金属とする。前記フレーム30にはあらかじめ鉄を主成分とする部材97が止着されている。前記鉄を主成分とする前記部材97を同じく前記鉄を主成分とする前記鉄系容器1に溶接固定して間接的に前記鉄系容器1とフレーム30を固定している。
これにより、フレーム30、ひいてはフレーム30を内蔵した圧縮機の大幅な軽量化を図ることができる。更に、軽金属製のフレーム30を歪みなく鉄系容器1に固定でき、かつ、組み立て工数も低減できる。よって、低コストで軽量かつ長期信頼性の高い圧縮機を提供することができる。
【0032】
また本実施の形態は、前記フレーム30に螺旋状の部材止着用穴50を設けて、前記鉄を主成分とする前記部材97を螺着した構成としている。
これにより、鉄を主成分とする部材97を直接フレーム30に固定して構成の簡素化を図ることができる。
【0033】
また本実施の形態の前記フレーム30に螺着する前記鉄を主成分とする前記部材97は、ボルト部材102としている。
これにより、フレーム30の螺旋状ネジ溝付きとした部材止着用穴50への締め付けトルクの管理が容易になり、製造コストを削減できる。なお、前記ボルト102aはナット105と対で使用しないものを含む。
【0034】
また本実施の形態の前記フレーム30に螺着する前記ボルト部材102は、凹部99を有する構造としている。
これにより、繰り返し温度変化があるような過酷な状況下で使用される場合においても長期的な信頼性を確保できるとともに、溶接Z時に発生する有害なスパッタ(金属粒)をボルト部材102の凹部99の中にとどまらせることができる。よって、信頼性をより高いものとすることができる。
【0035】
また本実施の形態の前記ボルト部材102のボルト頭部102bの直径Aと、前記鉄系容器1に設けられた溶接用の貫通穴96の直径Bの関係が、A>Bを満たすようにしている。なお、前記ボルト部材102の前記ボルト頭部102bが円筒状でない(例:六角ボルトなど)場合は、前記ボルト頭部の対辺の長さをAとしている。
これにより、溶接熱のフレーム30に対する伝熱を低減して部材の割れ・歪みなどの不具合を抑制し、信頼性を向上させることができる。
また本実施の形態の前記ボルト部材102は、ボルトの嵌めあい長さLとボルトの直径Dの関係が、0.4≦L/D≦8を満たすように構成している。
これにより、ボルト部材102の構造的強度を満足し、かつ、せん断破壊を防止することができ、信頼性をより一層高いものとすることができる。
【0036】
また、本実施の形態の前記フレーム30に設けた部材止着用穴50には、前記鉄系容器1の内部空間と連通する空気孔100を設けた構成としている。
これにより、溶接Z時の熱により膨張する部材止着用穴50の空気を、鉄系容器1内の空間に導出することができる。更に、部材止着用穴50内の空気膨張による部材97若しくはボルト部材102のフレーム30への固定に対する影響を低減し、フレーム30との結合を良好なものとすることができる。
【0037】
また本実施の形態の前記部材97若しくは前記ボルト部材102は、止め具103或いはナット105などの係合手段を用いてフレーム30の前記部材止着用穴50に止着してもよい。
これにより、部材97あるいはボルト部材102とフレーム30及びサブフレーム18との溶接強度を安定化させ、品質をより向上させることができる。
【0038】
また本実施の形態の圧縮機では、前記フレーム30及びサブフレーム18に加えて圧縮室15を構成する部品を軽金属で構成している。
これにより圧縮室15を構成する部品が前記フレーム30と同等の熱膨張率となり、温度変化に応じて同じように膨張収縮する。そのため、部品間の隙間が適切に維持され、高効率化が図れると同時に、大幅に軽量化した圧縮機を提供できる。
【0039】
(実施の形態2)
実施の形態1では、スクロール圧縮機41aの事例について説明した。しかし、これはロータリ圧縮機41bに本構成を適用してもよい。
図10はロータリ圧縮機の縦断面図である。密閉された鉄系容器110には、固定子111及び回転子112からなる電動要素113と、この電動要素113によって駆動される圧縮要素114が収納されている。図10に示されているように回転軸118は偏心部116を有している。シリンダ117は、回転軸118の回転中心と同心に圧縮室を形成する。フレーム119とサブフレーム120は、シリンダ117の両側面を気密的に閉塞する。ピストン121は、偏心部116に装着され、圧縮室の内壁に沿って転動する。ピストン121に接して往復動するベーン(図示せず)によって、圧縮室は高圧室と低圧室に仕切られている。吸入管122の一端は、シリンダ117に圧入され、圧縮室の低圧室に開口する。吸入管122の他端は、鉄系容器110の外でシステム(図示せず)の低圧側に連接している。フレーム119には、吐出バルブ(図示せず)が設けられている。開口部を有する吐出マフラが、フレーム119に嵌装されている。吐出管123の一端は鉄系容器110内空間に開口し、吐出管123の他端は、システム(図示せず)の高圧側に連接している。
【0040】
上記構成において、回転子112の回転は回転軸118に伝わり、偏心部116に嵌装されたピストン121が圧縮室の中で転動する。そして、ピストン121に当接されるベーンにより、圧縮室内が高圧室と低圧室に仕切られることで、吸入管122より吸入されたガスは連続して圧縮される。圧縮されたガスは、吐出バルブ(図示せず)から吐出マフラ内に吐出された後、鉄系容器110内空間に開放され、吐出管123から吐出される。
【0041】
本実施の形態による機器は、ロータリ圧縮機41b、凝縮器42、減圧装置43、及び蒸発器44が配管によって環状に接続されている。凝縮器42では吐出管123から吐出される冷媒を凝縮する。減圧装置43では凝縮器42で凝縮された冷媒を減圧する。蒸発器44では減圧装置43で減圧された冷媒を蒸発させる。
蒸発器44で蒸発された冷媒は、吸入管122からロータリ圧縮機41bに戻される。
【0042】
このような構成において、フレーム119またはサブフレーム120の少なくとも1つの材料の母材は、比重5以下の軽金属(アルミ合金)を主成分とする材料となっている。フレーム119またはサブフレーム120の外周には、鉄を主成分とする部材97があらかじめ止着されている。鉄を主成分とする部材97と鉄系容器1を溶接することで、間接的にフレーム119またはサブフレーム18を固定する。
これにより、ロータリ圧縮機41bの大幅な軽量化が実現できる。本構成においては、シリンダ117の母材を比重5以下の軽金属(アルミ合金)を主成分とする材料とする。本開示の実施形態によって母材を固定しても同様の効果が得られる。
【0043】
また、本開示の各圧縮機には、冷媒として、R32、二酸化炭素、又は炭素間に二重結合を有する冷媒を用いることができる。本実施の形態の構成であれば、より大きな温度・圧力の変化に対応することが可能であり、圧縮機の信頼性を維持することができる。
【0044】
なお、上述の各実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の圧縮機は、低コストで軽量かつ長期にわたり高い信頼性を保つことができ、エアーコンディショナー、除湿機、ヒートポンプ式給湯機、温水暖房装置、冷蔵庫(家庭用冷蔵庫、業務用冷蔵庫)、製氷機、ショーケース、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、自動販売機、等の機器に使用される。
【符号の説明】
【0046】
1 鉄系容器
1a 胴部
1b 下蓋
1c 上蓋
2 冷媒吸込管
3 冷媒吐出管
4 貯油部
5 オイルポンプ
6 吐出室
10 圧縮機構部
11 固定スクロール(圧縮部形成部品)
11a 固定スクロール鏡板
11b 固定渦巻きラップ
11c 外周壁部
12 旋回スクロール(圧縮部形成部品)
12a 旋回スクロール鏡板
12b 旋回渦巻きラップ
12c ボス部
13 回転軸
13a 偏心軸
13b 下端部
13c 回転軸オイル供給孔
14 吐出ポート
15 圧縮室
15a 吸入ポート
17 自転拘束部材
18 サブフレーム
20 電動機構部
21 ステータ
22 ロータ
30 フレーム
31 軸受部
32 ボス収容部
41a スクロール圧縮機
41b ロータリ圧縮機
42 凝縮器
43 減圧装置
44 蒸発器
50 部材止着用穴
50a 大径孔
95 ワッシャー
96 溶接用の貫通穴
97 部材
97a 小径軸部
97b 大径部
98 通し孔
99 凹部
100 空気孔(貫通孔)
102 ボルト部材
102a ボルト
102b ボルト頭部
103 止め具
105 ナット
110 鉄系容器
111 固定子
112 回転子
113 電動要素
114 圧縮要素
116 偏心部
117 シリンダ
118 回転軸
119 フレーム
120 サブフレーム
121 ピストン
122 吸入管
123 吐出管
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10