(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ブラシレスモータ駆動装置、モータ駆動システム及びブラシレスモータ駆動方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/08 20160101AFI20240927BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H02P6/08
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2020135610
(22)【出願日】2020-08-11
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000143031
【氏名又は名称】コーデンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 正彦
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-207261(JP,A)
【文献】特開平04-310015(JP,A)
【文献】特開平07-067375(JP,A)
【文献】特開平05-344779(JP,A)
【文献】特開2008-193233(JP,A)
【文献】特開2017-135886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータを正弦波駆動させるものであって、
PWM信号を生成して出力するPWM信号生成部と、
前記PWM信号によってスイッチング素子をオン・オフさせることにより、入力された直流を正弦波交流に変換して前記ブラシレスモータに出力するインバータと、
を備え、
前記PWM信号生成部が
、前記ブラシレスモータのロータの回転角を計測するエンコーダから出力されるパルス信号を
ベースクロックとして
用いて前記PWM信号を生成するように構成され、
前記PWM信号生成部が、
デューティ比が互いに異なる複数の個別パルス信号を生成する個別パルス生成部と、
生成された前記複数の個別パルス信号の一部又は全部を所定の順序で選択して前記スイッチング素子に出力する個別パルス選択部とを備え、
前記個別パルス生成部がシフトレジスタを用いて構成されるものであり、前記エンコーダから出力されるパルス信号を前記シフトレジスタのクロック端子に入力することにより前記複数の個別パルス信号を生成するブラシレスモータ駆動装置。
【請求項2】
前記エンコーダが、位相が互いに90°異なるA相パルス信号とB相パルス信号とを出力するインクリメンタル形のものであり、
前記A相パルス信号と前記B相パルス信号の立ち上がり及び立ち下がりと同期する4逓倍パルス信号を生成して出力する逓倍処理部をさらに備え、
前記PWM信号生成部が、出力された4逓倍パルス信号をベースクロックとして前記PWM信号を生成する請求項1に記載のブラシレスモータ駆動装置。
【請求項3】
前記エンコーダが、位相が90°異なるA相とB相のアナログ信号を出力するアナログ出力型のものであり、
前記アナログ信号に基づき逓倍矩形波信号を出力する逓倍処理部をさらに備え、
前記PWM信号生成部が、出力された逓倍矩形波信号をベースクロックとして前記PWM信号を生成する請求項1に記載のブラシレスモータ駆動装置。
【請求項4】
前記エンコーダが、U相、V相及びW相のパルス信号を出力するものであり、
前記U相、V相及びW相のパルス信号から、前記ブラシレスモータを矩形波駆動させるための矩形波信号を論理演算により生成し、前記インバータに出力する矩形波信号生成部を更に備える請求項1~
3のいずれか一項に記載のブラシレスモータ駆動装置。
【請求項5】
前記ブラシレスモータの駆動モードを、矩形波駆動モードと正弦波駆動モードとの間で切り替える駆動モード切替部を更に備え、
前記駆動モード切替部が、
前記インバータへの電源投入を示す電源投入信号を受け付けると、前記駆動モードを正弦波駆動モードから矩形波駆動モードに切り替え、
前記エンコーダから出力されたZ相パルス信号を受け付けると、前記駆動モードを矩形波駆動モードから正弦波駆動モードに切り替えるように構成されている請求項
4に記載のブラシレスモータ駆動装置。
【請求項6】
前記駆動モード切替部が、電源電圧が所定値以上になった場合にパルス信号を出力するパワーオンリセット回路から前記電源投入信号を受け付ける、請求項
5に記載のブラシレスモータ駆動装置。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載のブラシレスモータ駆動装置と、前記ブラシレスモータとを備えるモータ駆動システム。
【請求項8】
ブラシレスモータを正弦波駆動させる駆動方法であって、
PWM信号を作成して出力するPWM信号生成ステップと、
前記PWM信号によってインバータのスイッチング素子をオン・オフさせることにより、入力された直流を正弦波交流に変換して前記ブラシレスモータに出力する正弦波交流出力ステップとを備え、
前記PWM信号生成ステップにおいて、前記ブラシレスモータのロータの回転角を計測するエンコーダから出力されるパルス信号を
ベースクロックとして
用いて前記PWM信号を生成
し、
前記PWM信号生成ステップが、
デューティ比が互いに異なる複数の個別パルス信号を生成する個別パルス生成ステップと、
生成された前記複数の個別パルス信号の一部又は全部を所定の順序で選択して前記スイッチング素子に出力する個別パルス選択ステップとを備え、
前記個別パルス生成ステップがシフトレジスタを用いて実行されるものであり、前記エンコーダから出力されるパルス信号を前記シフトレジスタのクロック端子に入力することにより前記複数の個別パルス信号を生成する、ブラシレスモータ駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータを正弦波駆動させるブラシレスモータ駆動装置、モータ駆動システム及びブラシレスモータ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシレスモータを正弦波駆動させる駆動装置として、AC電源とブラシレスモータの間に接続されたインバータのスイッチング素子にPWM信号を出力して当該スイッチング素子をオン・オフさせることにより、AC電源からインバータに供給された交流を所定の電圧及び周波数の正弦波交流に変換してブラシレスモータに供給するものが知られている(例えば特許文献1)。ブラシレスモータを正弦波駆動させるものは、矩形波駆動させるものに比べて電力効率が良く、また騒音や振動を小さくできるというメリットがある。
【0003】
しかしながら、正弦波駆動型のブラシレスモータの回転速度等を制御する場合には、モータに印加する電圧と、インバータに出力するPWM信号の周波数の両方を連動させて制御する必要があるため、矩形波駆動させるものに比べてその制御が難しいという問題がある。例えば、回転速度を小さくする場合には、周波数を低くするだけでは磁束が飽和するため、同時に駆動電圧を低くする必要がある。逆に回転速度を大きくする場合には、周波数を高くするだけでなく、同時に駆動電圧を高くする必要がある。従来、マイコン等の高価な制御部品を使用することにより、モータに印加する電圧とインバータに出力するPWM信号の周波数の両方を制御するようにしているが、装置全体の製造コストが高くなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した問題を一挙に解決すべくなされたものであり、ブラシレスモータの回転速度等の制御を簡単にでき、かつ安価に製造することができるブラシレスモータ駆動装置を提供することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係るブラシレスモータ駆動装置は、ブラシレスモータを正弦波駆動させるものであって、PWM信号を作成して出力するPWM信号生成部と、前記PWM信号によってスイッチング素子をオン・オフさせることにより、入力された直流を正弦波交流に変換して前記ブラシレスモータに出力するインバータとを備え、前記PWM信号生成部が、前記ブラシレスモータのロータの回転角を計測するエンコーダから出力されるパルス信号をベースクロックとして用いて前記PWM信号を生成するように構成されていることを特徴とする。
【0007】
このような構成であれば、ブラシレスモータのロータの回転角を計測するエンコーダから出力されるパルス信号をベースクロックとして用いてPWM信号を生成するので、ベースクロックをブラシレスモータの回転速度と完全に同期させることができる。これにより、PWM信号の周波数を制御することなく、インバータからブラシレスモータに印加する電圧のみを制御することで、ブラシレスモータの回転速度を簡単に制御することができる。
またこのようにすれば、PWM信号の周波数を制御するためのマイコン等の高価な制御部品を用いる必要がないので、ブラシレスモータを安価に製造することができる。
なお、本発明でいう“エンコーダから出力されるパルス信号”とは、エンコーダから出力されたパルス信号、当該パルス信号を逓倍処理して生成したパルス信号、及びアナログ出力エンコーダの出力を逓倍したパルス信号を含むことを意味する。
【0008】
また前記ブラシレスモータ駆動装置は、前記PWM信号生成部が、前記エンコーダから出力されるパルス信号を入力信号として、論理演算により前記PWM信号を生成するように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、高価なマイコン等を用いることなく簡単な論理回路によりPWM信号生成部を構成することができるので、ブラシレスモータをより安価に製造することができる。
【0009】
また前記ブラシレスモータ駆動装置は、前記エンコーダが、互いに位相が異なるA相パルス信号とB相パルス信号とを出力するインクリメンタル形のものであり、前記A相パルス信号と前記B相パルス信号の立ち上がり及び立ち下がりと同期する4逓倍パルス信号を生成して出力する逓倍処理部をさらに備え、前記PWM信号生成部が、出力された4逓倍パルス信号をベースクロックとして前記PWM信号を生成することが好ましい。
このようにすれば、ベースクロックの周波数を上げることができ、これによりPWM信号のパルス幅を細かく設定することができるため、ブラシレスモータの回転をより滑らかにすることができる。
【0010】
また、前記ブラシレスモータ駆動装置は、前記エンコーダが、位相が90°異なるA相とB相のアナログ信号を出力するアナログ出力型のものであり、前記アナログ信号に基づき逓倍矩形波信号を出力する逓倍処理部をさらに備え、前記PWM信号生成部が、出力された逓倍矩形波信号をベースクロックとして前記PWM信号を生成するものであってもよい。
このようにすれば、逓倍処理部により任意の逓倍出力が得られるようでき、PWM信号のパルス幅を任意に設定できるようになる。
【0011】
また前記ブラシレスモータ駆動装置の構成として、前記PWM信号生成部が、デューティ比が互いに異なる複数の個別パルス信号を生成する個別パルス生成部と、生成された前記複数の個別パルス信号の一部又は全部を所定の順序で選択して前記スイッチング素子に出力する個別パルス選択部とを備えるものを上げることができる。
【0012】
前記ブラシレスモータ駆動装置の具体的な構成としては、前記個別パルス生成部がシフトレジスタを用いて構成されるものであり、前記エンコーダから出力されるパルス信号を前記シフトレジスタのクロック端子に入力することにより前記複数の個別パルス信号を生成するように構成されたものを挙げることができる。
【0013】
ところで本発明のブラシレスモータ駆動装置は、エンコーダから出力されるパルス信号をベースクロックとして用いてPWM信号を生成するので、ブラシレスモータが停止している場合にはPWM信号を生成できず、正弦波駆動により始動することができない。
そこで前記ブラシレスモータ駆動装置は、前記エンコーダが、U相、V相及びW相のパルス信号を出力するものであり、前記U相、V相及びW相のパルス信号から、前記ブラシレスモータを矩形波駆動させるための矩形波信号を論理演算により生成し、前記インバータに出力する矩形波信号生成部を更に備えることが好ましい。
このような構成であれば、スケールの1回転を6分割した絶対位置を検知するためのU相、V相及びW相のパルス信号から、ブラシレスモータを駆動させるための矩形波信号を生成できるので、ブラシレスモータが停止している場合には、まず矩形波駆動により始動させることができる。
【0014】
前記ブラシレスモータ駆動装置は、前記ブラシレスモータの駆動モードを、矩形波駆動モードと正弦波駆動モードとの間で切り替える駆動モード切替部を更に備え、前記駆動モード切替部が、前記インバータへの電源投入を示す電源投入信号を受け付けると、前記駆動モードを正弦波駆動モードから矩形波駆動モードに切り替え、前記エンコーダから出力されたZ相パルス信号を受け付けると、前記駆動モードを矩形波駆動モードから正弦波駆動モードに切り替えるように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、
ブラシレスモータが停止している状態から矩形波駆動モードにより始動させ、エンコーダのZ相パルス信号が出力されると正弦波駆動モードに切り替えて駆動させることができる。
【0015】
前記ブラシレスモータ駆動装置は、前記駆動モード切替部が、電源電圧が所定値以上になった場合にパルス信号を出力するパワーオンリセット回路から前記電源投入信号を受け付けるように構成してもよい。
【0016】
また本発明のブラシレスモータの駆動方法は、ブラシレスモータを正弦波駆動させる方法であって、PWM信号を作成して出力するPWM信号生成ステップと、前記PWM信号によってインバータのスイッチング素子をオン・オフさせることにより、入力された直流を正弦波交流に変換して前記ブラシレスモータに出力する正弦波交流出力ステップとを備え、前記PWM信号生成ステップにおいて、前記ブラシレスモータのロータの回転角を計測するエンコーダから出力されるパルス信号をベースクロックとして用いて前記PWM信号を生成することを特徴とする。
【0017】
このようなブラシレスモータの駆動方法であれば、上記した本発明のブラシレスモータ駆動装置と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0018】
このようにした本発明によれば、ブラシレスモータの回転速度等の制御を簡単にでき、かつ安価に製造することができるブラシレスモータの駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態におけるブラシレスモータ駆動装置の構成を模式的に示す図。
【
図2】同実施形態においてインバータに入力されるPWM信号と、ブラシレスモータに入力される正弦波交流のそれぞれの波形を示す図。
【
図3】同実施形態の逓倍処理部の回路構成を示す図。
【
図4】同実施形態の逓倍処理部により4逓倍パルス信号を生成する流れを説明する図。
【
図5】同実施形態のブラシレスモータ駆動装置の処理部の回路構成を示すブロック図。
【
図6】同実施形態の個別パルス生成用シフトレジスタの回路構成を示すブロック図。
【
図7】同実施形態の個別パルス生成用シフトレジスタの出力を示すタイミングチャート。
【
図8】同実施形態のマルチプレクサ駆動用シフトレジスタの回路構成を示すブロック図。
【
図9】同実施形態のマルチプレクサ駆動用シフトレジスタの出力を示すタイミングチャート。
【
図10】同実施形態のマルチプレクサとインバータの接続図。
【
図11】同実施形態のマルチプレクサのスイッチ動作タイミングを示す図。
【
図12】同実施形態の矩形波信号生成部の回路構成を示すブロック図。
【
図13】同実施形態のエンコーダのUVW相信号及び生成される矩形波信号を示す図。
【
図14】他の実施形態におけるブラシレスモータ駆動装置の構成を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明のブラシレスモータ駆動装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係るブラシレスモータ駆動装置100は、ブラシレスモータ200を正弦波駆動させるためのものであり、所謂モータドライバである。具体的にこのブラシレスモータ駆動装置100は、
図1に示すように、出力電圧可変な直流電源Gとブラシレスモータ200の間に接続されたインバータ1と、インバータ1に対してPWM信号を出力してPWM制御する制御部2とを備えている。PWM信号に基づきインバータ1が備えるスイッチング素子がオン・オフすることにより、直流電源Gからインバータ1に供給された直流が、所定の周波数の正弦波交流(厳密には疑似正弦波交流)に変換されてブラシレスモータ200に供給される。以下、各部の詳細について説明する。
【0022】
ブラシレスモータ200は、ここでは3相のモータ構造を有するものであり、3相の電機子巻線であるU相ステータコイル、V相ステータコイル及びW相ステータコイルが巻かれたステータ(固定子)と、複数の磁極を有するロータ(回転子)とを備えている。
【0023】
このブラシレスモータ200には、ロータの回転数、回転角度、回転方向等を計測するエンコーダ3が設けられている。具体的にこのエンコーダ3は、反射型のロータリエンコーダであり、ロータに取り付けられてこれと同軸回転する円板状のスケールと、スケールの裏面に対して光を出射するとともに、裏面からの反射光をセンシングする反射型の光センサとを備えている。
【0024】
このエンコーダ3はインクリメンタル形のものであり、スケールの裏面に形成された所定の反射パターンからの反射光を光センサがセンシングすることで、A相、B相及びZ相の3相のパルス信号を出力するように構成されている。A相パルス信号及びB相パルス信号は、スケールの相対位置を検知するためのものである。A相パルス信号及びB相パルス信号はデューティ比が一定であり且つ位相が互いに90°異なっており、ここではスケールが1回転するにつきそれぞれ360個のパルスを出力するようにしている。Z相パルス信号はスケールの原点位置を検知するためのものであり、スケールが1回転するにつき1つのパルスを出力するようにしている。
【0025】
このエンコーダ3はまた、スケールの1回転を6分割した絶対位置を検知するためのU相、V相及びW相のパルス信号を出力するように構成されている。このU相、V相及びW相のパルス信号は、位相が互いに120°異なるものである。
【0026】
インバータ1は、直流電源Gから供給される直流を正弦波交流に変換してブラシレスモータ200に出力するものである。具体的にこのインバータ1は、U相、V相及びW相のそれぞれに対応する3つのレグ(6つのアーム)を備える3相型のものであり、6つスイッチング素子を備えている。そして、PWM信号に基づき各スイッチング素子がオン・オフすることで、
図2に示すような位相が互いに120°異なる3相の正弦波交流(U相、V相及びW相)をブラシレスモータ200の各ステータコイルに出力する。
【0027】
制御部2は、エンコーダ3から出力されるパルス信号を逓倍処理した逓倍パルス信号を生成する逓倍処理部22と、生成された逓倍パルス信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成部21としての機能とを備えている。
【0028】
逓倍処理部22は、論理演算及びアナログ処理によって、エンコーダ3から出力されるA相パルス信号とB相パルス信号の立ち上がり及び立ち下がりと同期する4逓倍パルス信号を生成し、これを出力するように構成されている。具体的にこの逓倍処理部22は、
図3に示すような論理回路221、224と、簡単なアナログ回路222、223とによって構成されている。
【0029】
より具体的にいうと、逓倍処理部22は、A相パルス信号とB相パルス信号の排他的論理和を取ることにより、
図4に示すように、その周波数がA相パルス信号(B相パルス信号)の周波数の2倍である第1の2逓倍パルス信号を生成する2逓倍パルス生成回路と、第1の2逓倍パルス信号の立ち上がり及び立ち下りを遅らせた時間積分波形を生成する積分回路222と、時間積分波形を所定の大きさの電圧でコンパレートすることで、第1の2逓倍パルス信号から少し遅れた(具体的には1/4周期以下)第2の2逓倍パルス信号を生成するコンパレータ回路223と、第1の2逓倍パルス信号と第2の2逓倍パルス信号の排他的論理和を取ることにより、その周波数がA相パルス信号(B相パルス信号)の周波数の4倍である4逓倍パルス信号を生成して、これを出力する4逓倍パルス生成回路224と、を備える。この生成された4逓倍パルス信号が示す波形は、その立ち上がりのタイミングが、A相パルス信号及びB相パルス信号の立ち上がり及び立ち下りのタイミングと同期している。
【0030】
PWM信号生成部21は、
図2に示すように、U相、V相及びW相の各上側及び下側のスイッチング素子に対応する6相分のPWM信号(mU
+、mU
-、mV
+、mV
-、mW
+及びmW
-)を生成し、これをインバータ駆動用信号として各スイッチング素子に出力するように構成されている。
【0031】
しかして本実施形態のブラシレスモータ駆動装置100では、ブラシレスモータ200の回転数等の制御を簡単にすべく、PWM信号生成部21が、エンコーダ3から出力されるパルス信号(ここでは、逓倍処理部22が生成した4逓倍パルス信号)をベースクロックとして用いて、論理演算によってPWM信号を生成し、これをインバータ1に出力するように構成されている。なお、本明細書でいうベースクロックとは、PWM信号を生成するロジック回路の基準となるクロックを指す。
【0032】
具体的にこのPWM信号生成部21は、
図1及び
図5に示すように、4逓倍パルス信号をベースクロックとして用いて、周期が同じであってデューティ比が互いに異なる複数種類の個別パルス信号(いずれも1周期分)を生成する個別パルス生成部211と、生成された複数種の個別パルス信号の一部又は全部を所定の順序で選択して、PWM信号としてインバータ1に出力する個別パルス選択部212としての機能を備えている。個別パルス生成部211及び個別パルス選択部212はいずれも論理回路により構成されている。
【0033】
個別パルス生成部211は、
図6に示すように、シリアル入力パラレル出力形のシフトレジスタ(個別パルス生成用シフトレジスタ211Sという)を用いて構成されるものである。個別パルス生成用シフトレジスタ211Sのデータ端子はHIGHに固定(すなわち1に固定)されており、逓倍処理部22が出力した4逓倍パルス信号が各シフトレジスタのクロック端子に入力されると、各パラレル出力端子からデューティ比が異なる個別パルス信号が出力される。ここでは個別パルス生成用シフトレジスタ211Sとして40ビットのシフトレジスタを用いており、
図7に示すように、デューティ比が異なる40種類のパルス信号を出力するように構成されている。個別パルス生成用シフトレジスタ211SのQ端子からは正論理の個別パルス信号が出力され、/Q端子からは負論理の個別パルス信号が出力されるようにしている。
【0034】
個別パルス選択部212は、
図5に示すように、生成された個別パルス信号を選択してこれをインバータ1の各スイッチング素子に所定のタイミングで出力するマルチプレクサ212Mと、マルチプレクサ212Mを駆動させるマルチプレクサ駆動用シフトレジスタ212Sとを用いて構成されている。
【0035】
マルチプレクサ駆動用シフトレジスタ212Sは、
図8に示すように、ここでは36ビットのシリアル入力パラレル出力形のものであり、そのクロック端子には、個別パルス生成用シフトレジスタ211Sのリセット信号(ここではQ40出力)が入力される。そして、
図9に示すように、マルチプレクサ駆動用シフトレジスタ212Sのデータ端子にエンコーダ3のZ相パルス信号が初めに入力されると、その後はクロック信号(リセット信号)が入力される毎に、パラレル出力端子をHIGH信号が1ビットずつシフトするように構成されている。このパラレル出力端子は、
図10に示すように、マルチプレクサ212Mが備える各スイッチング素子の制御端子に接続されている。
図11に示すように、マルチプレクサ212Mは、マルチプレクサ駆動用シフトレジスタ212Sからの出力を受け付けると、インバータ1の各スイッチング素子に、個別パルス生成部211が生成した個別パルスを所定のタイミングで出力するように構成されている。
【0036】
また本実施形態のブラシレスモータ駆動装置100では、ブラシレスモータ200の停止時でもこれを始動させられるようにすべく、制御部2が、ブラシレスモータ200を矩形波駆動させるための矩形波信号を生成してインバータ1に出力する矩形波信号生成部23としての機能をさらに備える。
【0037】
この矩形波信号生成部23は、
図12に示すように論理回路により構成されている。そして
図13に示すように、エンコーダ3が出力したU相、V相及びW相のパルス信号から、論理演算により6相分の矩形波信号(mU
+、mU
-、mV
+、mV
-、mW
+及びmW
-)を生成し、これをインバータ1の各スイッチング素子に出力する。インバータ1は、矩形波信号によってスイッチング素子をオン・オフさせることにより、ブラシレスモータ200を矩形波駆動させることができる。制御部2が矩形波信号生成部23としての機能を備えることにより、ブラシレスモータ200が停止している状態から、これを始動させることができる。
【0038】
また本実施形態のブラシレスモータ駆動装置100では、制御部2が、ブラシレスモータ200の駆動モードを、矩形波駆動モードと正弦波駆動モードとの間で切り替える駆動モード切替部24としての機能をさらに備えている。矩形波駆動モードとは、矩形波信号生成部23が生成した矩形波信号をインバータ1に印加して、ブラシレスモータ200を矩形波駆動させるモードである。正弦波駆動モードとは、PWM信号生成部21が生成したPWM信号をインバータ1に印加して、ブラシレスモータ200を正弦波駆動させるモードである。
【0039】
駆動モード切替部24は、論理回路により構成されており、インバータ1への電源投入を示す電源投入信号を受け付けると、ブラシレスモータ200の駆動モードを正弦波駆動モードから矩形波駆動モードに切り替え、エンコーダ3から出力されたZ相パルス信号を受け付けると、駆動モードを矩形波駆動モードから正弦波駆動モードに切り替えるように構成されている。具体的にこの駆動モード切替部24は、
図12に示すように、D型フリップフロップと、D型フリップフロップの出力に応じて、インバータ1に出力する駆動信号を、矩形波駆動回路からの矩形波信号とPWM信号生成部21からのPWM信号との間で切替える切替スイッチとから構成されている。このD型フリップフロップでは、エンコーダ3のZ相パルス信号がクロック端子に入力され、インバータ1への電源投入を示す電源投入信号がリセット信号として入力され、その出力信号により切替えスイッチのオン・オフを切り替えられるように構成されている。
【0040】
このように構成された本実施形態のブラシレスモータ駆動装置100によれば、ブラシレスモータ200のロータの回転角を計測するエンコーダ3から出力されるパルス信号をベースクロックとして用いてPWM信号を生成するので、ベースクロックをブラシレスモータ200の回転速度と完全に同期させることができる。これにより、PWM信号の周波数を制御することなく、インバータ1からブラシレスモータ200に印加する電圧のみを制御することで、ブラシレスモータ200の回転速度を簡単に制御することができる。またこのようにすれば、PWM信号の周波数を制御するためのマイコン等の高価な制御部品を用いる必要がないので、ブラシレスモータ200を安価に製造することができる。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0042】
前記実施形態では、ブラシレスモータ200は3相のものであったがこれに限らない。他の実施形態では、例えば2相のものであってもよい。
【0043】
前記実施形態ではエンコーダ3は反射型のものであったがこれに限らない。他の実施形態では、エンコーダ3は透過型のものであってもよい。また他の実施形態のエンコーダ3は、ブラシレスモータ200のロータの回転角度に比例したパルスを出力できるものであれば光学式のものでなくてもよく、例えば磁気式等であってもよい。またエンコーダ3は、ブラシレスモータ200のロータの回転角度に比例したパルスを出力できるものであれば、ロータリエンコーダに限らず、リニアエンコーダであってもよい。
【0044】
前記実施形態では、1つのエンコーダ3が、A相、B相、Z相、U相、V相及びW相の全相を出力するものであったが、これに限らない。他の実施形態では、エンコーダ3を複数個備え、A相、B相及びZ相の出力と、U相、V相及びW相の出力とを別々のエンコーダ3により行ってもよい。
【0045】
前記実施形態のブラシレスモータ駆動装置100は、A相とB相を出力するエンコーダ3で逓倍処理した信号をベースクロックとしてPWM信号を生成していたが、これに限らない。ブラシレスモータ駆動装置100は、A相のみ(フォトインタラプタ等)の出力で逓倍処理を行わない状態の信号をベースクロックとしてPWM信号を生成しても、本発明の目的を達成できる。このようなブラシレスモータ駆動装置100の態様として、例えば、A相のみを出力するエンコーダ(フォトインタラプタ)と、Z相のみを出力するエンコーダ(フォトインタラプタ)と、U相、V相及びW相を出力するエンコーダとを搭載するものが挙げられる。
【0046】
前記実施形態のPWM信号生成部21は、4逓倍パルス信号をベースクロックとしてPWM信号を生成していたがこれに限定されない。他の実施形態では、逓倍処理部22が生成した2逓倍パルス信号をベースクロックとしてもよく、あるいはA相パルス信号又はB相パルス信号のいずれかをベースクロックとしてもよい。
【0047】
前記実施形態では逓倍処理部22としての機能を制御部2が発揮していたがこれに限定されない。他の実施形態では、逓倍処理部22としての機能をエンコーダ3が発揮するようにしてもよい。
【0048】
前記実施形態のブラシレスモータ駆動装置100は、直流電源Gから供給される直流をインバータ1が正弦波交流に変換してブラシレスモータ200に供給するものであったが、これに限らない。他の実施形態のブラシレスモータ駆動装置100は、
図14に示すように、交流電源Gから交流を供給され、これをインバータ1が所定の電圧及び周波数の正弦波交流に変換してブラシレスモータ200に供給してもよい。この場合インバータ1は、交流電源Gから供給される交流を任意の電圧の直流に変換するコンバータ回路11と、コンバータ回路11が出力した直流を平滑する平滑回路12と、平滑化された直流を正弦波交流に変換するインバータ回路13とを備えることが好ましい。
【0049】
また他の実施形態のブラシレスモータ駆動装置100は、
図14に示すように、電源電圧が所定値以上になった場合にパルス信号を出力するパワーオンリセット回路を備えており、駆動モード切替部24が、パワーオンリセット回路から電源投入信号を受け付けるように構成されてもよい。
【0050】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
200・・・ブラシレスモータ
100・・・ブラシレスモータ駆動装置
1 ・・・インバータ
21 ・・・PWM信号生成部
3 ・・・エンコーダ