(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電気化学システム及び電気化学システムの酸素極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/077 20210101AFI20240927BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240927BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240927BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240927BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240927BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240927BHJP
C25B 11/067 20210101ALI20240927BHJP
【FI】
C25B11/077
C25B1/04
C25B9/00 A
H01M4/90 B
H01M4/90 M
H01M4/90 X
H01M8/10 101
C23C14/08 K
C25B11/067
(21)【出願番号】P 2020168016
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松澤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】平山 想真
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-052987(JP,A)
【文献】特表2008-541336(JP,A)
【文献】Khaled M. ISMAIL et al.,“Stability of Sputter-Deposited Amorphous Mn-Ta Alloys in Chloride-Free and Chloride-Containing H2SO4 Solutions”,Journal of The Electrochemical Society,2001年,Vol. 148, No. 2,p.C81,DOI: 10.1149/1.1337610
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/077
C25B 1/04
C25B 9/00
H01M 4/90
H01M 8/10
C23C 14/08
C25B 11/067
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極及びアノード電極を有する電気化学システムであって、
前記カソード電極及びアノード電極のいずれか一方が酸素極であり、
前記酸素極が、MnとTaO
2.5との複合材料である、Mn-TaO
2.5で構成されており、
前記酸素極全体において、且つ、Mn、Ta、Оを含む全元素を全体とした含有量としてMnを50~65at%含有し、前記酸素極の表面から
5nmの深さまでMnが存在しない、電気化学システム。
【請求項2】
前記電気化学システムが固体高分子形水電解装置であり、
前記酸素極が、前記固体高分子形水電解装置のアノード電極である、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項3】
前記電気化学システムがアルカリ水電解装置であり、
前記酸素極が、前記アルカリ水電解装置のアノード電極である、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項4】
前記電気化学システムが固体高分子形燃料電池であり、
前記酸素極が、前記固体高分子形燃料電池の空気電極である、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項5】
前記電気化学システムがアルカリ形燃料電池であり、
前記酸素極が、前記アルカリ形燃料電池の空気電極である、請求項1に記載の電気化学システム。
【請求項6】
Mn及びTaを、仕込み比が45at%:55at%~55at%:45at%となるように設けたスパッタリングターゲットに対し、酸素分圧を0.229~0.231Paに制御した状態で、スパッタリングすることにより、前記酸素極を製造する、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気化学システムの酸素極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学システム及び電気化学システムの酸素極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形水電解装置、アルカリ水電解装置、固体高分子形燃料電池及びアルカリ形燃料電池等の電気化学システムは、酸素を還元するカソード電極または酸素を生成するアノード電極として、酸素極を備えている。
【0003】
電気化学システムにおいて、酸素極の電極材料は、電解性能の点で非常に重要な要素である。例えば、特許文献1には、電解用電極材料として、電解性能の向上を目的としてイリジウム酸化物が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イリジウム酸化物は、酸素極として用いると電解性能が向上するが、希少で高価格な材料であり、電気化学システムを構築するにはコストの面で問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決すべく、良好なコストで電気化学システムを構築することができ、電解性能が良好な酸素極を備えた電気化学システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは研究を重ねたところ、所定の組成のMnとTaO2.5との複合材料を用いることで、イリジウム酸化物等の希少で高価格な材料と比べて低コストで作製でき、電解性能が良好な電気化学システムの酸素極を提供することができることを見出した。
【0008】
上記課題は、以下のように特定される本発明によって解決される。
(1)カソード電極及びアノード電極を有する電気化学システムであって、
前記カソード電極及びアノード電極のいずれか一方が酸素極であり、
前記酸素極が、MnとTaO2.5との複合材料である、Mn-TaO2.5で構成されており、Mnを50~65at%含有し、前記酸素極の表面から4~5nmの深さまでMnが存在しない、電気化学システム。
(2)前記電気化学システムが固体高分子形水電解装置であり、
前記酸素極が、前記固体高分子形水電解装置のアノード電極である、(1)に記載の電気化学システム。
(3)前記電気化学システムがアルカリ水電解装置であり、
前記酸素極が、前記アルカリ水電解装置のアノード電極である、(1)に記載の電気化学システム。
(4)前記電気化学システムが固体高分子形燃料電池であり、
前記酸素極が、前記固体高分子形燃料電池の空気電極である、(1)に記載の電気化学システム。
(5)前記電気化学システムがアルカリ形燃料電池であり、
前記酸素極が、前記アルカリ形燃料電池の空気電極である、(1)に記載の電気化学システム。
(6)Mn及びTaを、仕込み比が45at%:55at%~55at%:45at%となるように設けたスパッタリングターゲットに対し、酸素分圧を0.229~0.231Paに制御した状態で、スパッタリングすることにより、前記酸素極を製造する、(1)~(5)のいずれかに記載の電気化学システムの酸素極の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好なコストで電気化学システムを構築することができ、電解性能が良好な酸素極を備えた電気化学システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る固体高分子形水電解装置の模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るアルカリ水電解装置の模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るアルカリ形燃料電池の模式図である。
【
図5】実施例1、比較例1、2に係る電流電位曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
<電気化学システム>
本発明の実施形態に係る電気化学システムは、カソード電極及びアノード電極を有する電気化学システムであって、カソード電極及びアノード電極のいずれか一方が酸素極であり、酸素極が、MnとTaO2.5との複合材料である、Mn-TaO2.5で構成されており、Mnを50~65at%含有し、酸素極の表面から4~5nmの深さまでMnが存在しない。酸素極がMnとTaO2.5との複合材料である、Mn-TaO2.5で構成されているため、電子伝導性が確保される。また、酸素極の表面から4~5nmの深さまでMnが存在しないため、活性点が発現しており、電気化学反応が良好となる。従って、本発明の実施形態に係る電気化学システムの電解性能が向上する。また、希少で高価格な材料を用いずに酸素極を作製することができるため、電気化学システムの構築の際、コストの面で有利である。
【0013】
電気化学システムとしては、固体高分子形水電解装置、アルカリ水電解装置、固体高分子形燃料電池及びアルカリ形燃料電池等が挙げられ、それぞれ具体的な実施形態を以下に詳述する。
【0014】
<固体高分子形水電解装置>
図1は、本発明の実施形態に係る固体高分子形水電解装置10の模式図である。固体高分子形水電解装置10は、電解質としての固体高分子膜11と、固体高分子膜11の各表面にそれぞれ設けられたカソード電極13及びアノード電極14とで構成された膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持し、それぞれアノード電極14に正の電荷を、カソード電極13に負の電荷を与える一対の給電体16と、給電体16を膜電極接合体に向けて押圧する一対のバイポーラ板17とを備える。
【0015】
アノード電極14側の給電体16には、図示しない水供給源から水が供給されるように構成されている。アノード電極14側の給電体16に水が供給されると、電気分解により、アノード電極14(酸素極)側で酸素及び水素イオンが発生する。発生した酸素は図示しない配管等によって電解装置外へ排出される。また、アノード電極14(酸素極)側で発生した水素イオンは、固体高分子膜11を通り、カソード電極13側へ到達する。カソード電極13側に到達した水素イオンは、電子を受け取り水素となり、図示しない配管等によって電解装置外へ排出される。
【0016】
固体高分子形水電解装置10では、カソード反応、アノード反応及び電解装置反応として、それぞれ以下の反応式に示す反応が生じている。
カソード反応:2H+ + 2e- → H2
アノード反応:H2O → 2H+ → 1/2O2 + 2e-
電解装置反応:H2O → H2 + 1/2O2
【0017】
本発明の実施形態に係る固体高分子形水電解装置10の固体高分子膜11、カソード電極13、給電体16及びバイポーラ板17は、それぞれ公知の構成のものを用いることができる。具体的には、固体高分子膜11は、公知の材料を用いることができ、例えば、パーフルオロスチレンスルホン酸系カチオン交換膜で構成することができる。カソード電極13は、公知の材料を用いることができ、例えば、白金系材料等で構成することができる。給電体16は、公知の材料を用いることができ、例えば、エキスパンドメッシュ、金網、パンチングメタル等の開口部を有するチタン製の多孔体等で構成することができる。バイポーラ板17は、公知の材料を用いることができ、例えば、鉄系材料、チタン系材料、カーボンと樹脂との複合材料等で構成することができる。
【0018】
本発明の実施形態に係る固体高分子形水電解装置10のアノード電極14として、上述のように、MnとTaO2.5との複合材料である、Mn-TaO2.5で構成されており、Mnを50~65at%含有し、酸素極の表面から4~5nmの深さまでMnが存在しない、本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を用いる。このような構成によれば、酸素極として、イリジウム酸化物のような希少で効果な貴金属酸化物を使用しないため、良好なコストで電気化学システムを構築することができる。また、上述の本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を用いることで、電気化学システムの電解性能が良好となる。
【0019】
<アルカリ水電解装置>
図2は、本発明の実施形態に係るアルカリ水電解装置20の模式図である。アルカリ水電解装置20は、アノード電極24を設けたアノード室22と、カソード電極23を設けたカソード室21と、アノード室22及びカソード室21を区画する隔膜25とを有している。
【0020】
アルカリ水電解装置20では、カソード反応、アノード反応及び電解装置反応として、それぞれ以下の反応式に示す反応が生じている。
カソード反応:2H2O + 2e- → H2 + 2OH-
アノード反応:2OH- → H2O → 1/2O2 + 2e-
電解装置反応:H2O → H2 + 1/2O2
【0021】
本発明の実施形態に係るアルカリ水電解装置20のカソード電極23、及び、隔膜25は、アルカリ水の電解装置に係る技術分野において、それぞれ公知の構成のものを用いることができる。具体的には、カソード電極23は、公知の材料を用いることができ、例えば、鉄系材料、ニッケル系材料等で構成することができる。隔膜25は、公知の材料を用いることができ、例えば、アスベスト、高分子補強アスベスト、PTFE結着チタン酸カリウム、PTFE結着ジルコニア、ポリスルホン結着ポリアンチモン酸/酸化アンチモン、焼結ニッケル、セラミックス/酸化ニッケル被覆ニッケル、ポリスルホン等で構成することができる。
【0022】
本発明の実施形態に係るアルカリ水電解装置20において、電気分解の対象となるアルカリ水26としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を用いることができ、特に、20~30質量%の水酸化カリウム水溶液を用いることができる。
【0023】
本発明の実施形態に係るアルカリ水電解装置20のアノード電極24として、上述のように、MnとTaO2.5との複合材料である、Mn-TaO2.5で構成されており、Mnを50~65at%含有し、酸素極の表面から4~5nmの深さまでMnが存在しない、本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を用いる。このような構成によれば、酸素極として、イリジウム酸化物のような希少で効果な貴金属酸化物を使用しないため、良好なコストで電気化学システムを構築することができる。また、上述の本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を用いることで、電気化学システムの電解性能が良好となる。
【0024】
<固体高分子形燃料電池>
図3は、本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池30の模式図である。固体高分子形燃料電池30は、電解質としての固体高分子膜31と、固体高分子膜31の各表面にそれぞれ設けられたカソード電極33及びアノード電極34と、カソード電極33及びアノード電極34の各表面に設けられたガス拡散層36と、カソード電極33及びアノード電極34とガス拡散層36とを固体高分子膜31に向けて押圧する一対のバイポーラ板37とを備える。バイポーラ板37の両端から固体高分子膜31にかけて、ガス漏れを防ぐためのガスシール38が設けられている。
【0025】
固体高分子形燃料電池30において、アノード電極34が燃料極となり、カソード電極33が酸素極として機能する。アノード電極34とカソード電極33との間に、水素イオンが通過できる固体高分子膜31を挟み、電解質として用いている。アノード電極34に燃料である水素ガス、カソード電極33に酸素ガスを供給すると、それぞれの電極で以下の反応式に示すカソード反応、アノード反応が進行し、これらによる電池反応が生じる。アノード反応によって生成した水素イオンは、固体高分子膜31を通過し、カソード電極33に移動する。カソード電極33では、水を生成する反応が進行する。
【0026】
カソード反応:1/2O2 + 2H+ + 2e- → H2O
アノード反応:H2 → 2H+ + 2e-
電池反応:H2 + 1/2O2 → H2O
【0027】
本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池30の固体高分子膜31、アノード電極34、ガス拡散層36、ガスシール38及びバイポーラ板37は、それぞれ公知の構成のものを用いることができる。具体的には、固体高分子膜31は、公知の材料を用いることができ、例えば、パーフルオロスチレンスルホン酸系カチオン交換膜で構成することができる。アノード電極34は、公知の材料を用いることができ、例えば、カーボンブラック担体上に白金触媒、または、ルテニウム-白金合金触媒を担持した触媒電極等で構成することができる。ガス拡散層36は、公知の材料を用いることができ、例えば、炭素繊維不織布等の多孔質材料で構成することができる。ガスシール38は、公知の材料を用いることができ、例えば、樹脂シール材料等で構成することができる。バイポーラ板37は、公知の材料を用いることができ、例えば、鉄系材料、チタン系材料、カーボンと樹脂との複合材料等で構成することができる。
【0028】
本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池30のカソード電極33として、上述のように、MnとTaO2.5との複合材料である、Mn-TaO2.5で構成されており、Mnを50~65at%含有し、酸素極の表面から4~5nmの深さまでMnが存在しない、本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を用いる。当該酸素極は、例えば、PtコーティングされたMn-TaO2.5で構成される。このような構成によれば、酸素極として、イリジウム酸化物のような希少で効果な貴金属酸化物を使用しないため、良好なコストで電気化学システムを構築することができる。また、上述の本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を用いることで、電気化学システムの電解性能が良好となる。
【0029】
<アルカリ形燃料電池>
図4は、本発明の実施形態に係るアルカリ形燃料電池40の模式図である。アルカリ形燃料電池40は、アニオン伝導電解質膜41と、アニオン伝導電解質膜41の各表面にそれぞれ設けられたカソード電極43及びアノード電極44とを備える。
【0030】
アルカリ形燃料電池40において、アノード電極44が燃料極となり、カソード電極43が空気電極(酸素極)として機能する。アノード電極44とカソード電極43との間に、水酸化物イオンが通過できるアニオン伝導電解質膜41を挟み、電解質として用いている。アノード電極44に燃料である水素ガス、カソード電極43に酸素ガス及びH2Oを供給すると、それぞれの電極で以下の反応式に示すカソード反応、アノード反応が進行し、これらによる電池反応が生じる。カソード反応によって生成した水酸化物イオンは、アニオン伝導電解質膜41を通過し、カソード電極43に移動する。カソード電極43では、水を生成する反応が進行する。
【0031】
カソード反応:3/2O2 + 3H2O + 6e- → 6OH-
アノード反応:3H2 + 6OH-→ 6H2O + 6e-
電池反応:H2 + 1/2O2 → H2O
【0032】
本発明の実施形態に係るアルカリ形燃料電池40のアニオン伝導電解質膜41及びアノード電極44は、それぞれ公知の構成のものを用いることができる。具体的には、アニオン伝導電解質膜41は、公知の材料を用いることができ、例えば、株式会社トクヤマ製A201膜、A901膜等で構成することができる。アノード電極44は、公知の材料を用いることができ、例えば、鉄系材料、ニッケル系材料等で構成することができる。
【0033】
本発明の実施形態に係るアルカリ形燃料電池40のカソード電極43として、上述のように、MnとTaO2.5との複合材料である、Mn-TaO2.5で構成されており、Mnを50~65at%含有し、酸素極の表面から4~5nmの深さまでMnが存在しない、本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を用いる。このような構成によれば、酸素極として、イリジウム酸化物のような希少で効果な貴金属酸化物を使用しないため、良好なコストで電気化学システムを構築することができる。また、上述の本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を用いることで、電気化学システムの電解性能が良好となる。
【0034】
<電気化学システムの酸素極の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極の製造方法を詳述する。
まず、スパッタリングターゲットとして、Mn及びTaを、仕込み比が45at%:55at%~55at%:45at%、好ましくは50at%:50at%となるようにスパッタ室に設ける。
【0035】
次に、スパッタ室に酸素極を成膜させるための基板を設け、当該基板を300~320℃に加熱しておく。さらに、スパッタ室をアルゴンまたは窒素などの不活性ガス雰囲気とした状態で、酸素ガスを導入する。
【0036】
続いて、スパッタ室の酸素分圧が0.229~0.231Paとなるように制御した状態で、19~21分間スパッタリングを行うことで、本発明の実施形態に係る電気化学システムの酸素極を上記基板に成膜する。スパッタリングは、例えば、薄膜の電極が作製しやすいという観点からは、マグネトロンスパッタを用いることが好ましい。
【0037】
このようにして作製した酸素極は、このまま電気化学システムの酸素極として使用することができる。また、所定時間(例えば、3~4時間)の使用により、酸素極の表面から4~5nmの深さまでMnが存在しない領域が生じた酸素極を、電気化学システムの酸素極として使用することができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
スパッタリングターゲットとして、Mn及びTaを、仕込み比が50at%:50at%となるようにマグネトロンスパッタ室に設けた。
【0040】
次に、マグネトロンスパッタ室に酸素極を成膜させるためのチタン金属ロッド基板を設け、当該チタン金属ロッド基板を300℃に加熱し、マグネトロンスパッタ室をアルゴン雰囲気とした状態で、酸素ガスを導入し、酸素分圧を0.23Paに調整した。
【0041】
続いて、マグネトロンスパッタ室の酸素分圧を0.23Paに制御した状態で、20分間マグネトロンスパッタリングを行うことで、電気化学システムの酸素極を上記チタン金属ロッド基板に成膜した。
【0042】
次に、得られた酸素極を用いて、以下の条件により、SSVを実施し、酸素発生過電圧を評価した。
(SSV:Slow Scan Voltammetry)
・電気化学システム:三電極式セル
・参照極:可逆水素電極 (RHE)
・対極:グラッシーカーボンプレート
・作用極:実施例1で作製した酸素極
・電解液:1.0M H2SO4
・電圧範囲:1.2~2.5V vs. RHE
・走査速度:5mVs-1
【0043】
SSVによる電気化学測定後、酸素極表面について、以下のImpedance測定を実施した。
(Impedance測定)
・電気化学システム:三電極式セル
・参照極:可逆水素電極 (RHE)
・対極:グラッシーカーボンプレート
・作用極:実施例1で作製した酸素極
・電解液:1.0M H2SO4
・電圧範囲:2.0V、2.1V、…、2.4V、2.5V vs. RHE
・周波数:100k~0.1Hz
・電位振幅:0.05mV
【0044】
Impedance測定により得られたデータを以下のMott-Schottkyプロットにより解析した。
(Mott-Schottkyプロット)
・電気化学システム:三電極式セル
・参照極:可逆水素電極 (RHE)
・対極:グラッシーカーボンプレート
・作用極:実施例1で作製した酸素極
・電解液:1.0M H2SO4
・電圧範囲:0.0V、0.1V、…、2.4V、2.5V vs. RHE
・周波数:1kHz
・電位振幅:0.01mV
【0045】
(比較例1)
スパッタリングターゲットとして、Mn及びTaを、仕込み比が3.5at%:96.5at%となるようにマグネトロンスパッタ室に設けた以外は、実施例1と同様の手順で、電気化学システムの酸素極をチタン金属ロッド基板に成膜した。また、実施例1と同様の条件で、電気化学測定を実施した。
【0046】
(比較例2)
スパッタリングターゲットとして、Taのみをマグネトロンスパッタ室に設けた以外は、実施例1と同様の手順で、電気化学システムの酸素極をチタン金属ロッド基板に成膜した。また、実施例1と同様の条件で、電気化学測定を実施した。
【0047】
<XPS表面分析>
実施例1と比較例1、2について、それぞれ、上述の電気化学測定前後の酸素極について、X線光電子分光装置として、アルバック・ファイ株式会社製XPS QuanteraSXMを用いて、以下の条件により、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)による表面分析を実施した。
・X線源 :単色化Al(1486.6eV)
・検出領域 :100μmφ
・検出深さ :約4~5nm(取出角45°)
【0048】
この結果を表1に示す。電気化学測定前において酸素極の表面に存在していたMnが、電気化学測定後には所定の深さまで消失していた。また、実施例1の酸素極は、MnとTaO2.5との複合材料であり、Mnを50~65at%含有していた。比較例1の酸素極は、MnとTaO2.5との複合材料であり、Mnを2~5at%含有していた。また、比較例2の酸素極は、TaO2.5であった。
【0049】
【0050】
<電気化学測定結果>
Mott-Schottkyプロットの結果から、電流電位曲線を
図5に示す。実施例1では、比較例1、2に対して、電流密度の増大が顕著であり、電解性能が良好な酸素極を備えた電気化学システムが得られていることがわかる。
【符号の説明】
【0051】
10 固体高分子形水電解装置
11 固体高分子膜
13、23 カソード電極
14、24 アノード電極(酸素極)
16 給電体
17 バイポーラ板
20 アルカリ水電解装置
21 カソード室
22 アノード室
25 隔膜
26 アルカリ水
30 固体高分子形燃料電池
31 固体高分子膜
33、43 カソード電極(酸素極)
34、44 アノード電極
36 ガス拡散層
37 バイポーラ板
38 ガスシール
40 アルカリ形燃料電池
41 アニオン伝導電解質膜