(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ダイラタンシー組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20240927BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20240927BHJP
C10M 105/18 20060101ALI20240927BHJP
C10M 105/36 20060101ALI20240927BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20240927BHJP
C10M 107/34 20060101ALI20240927BHJP
C10M 129/16 20060101ALI20240927BHJP
C10M 129/68 20060101ALI20240927BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240927BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/02
C10M105/18
C10M105/36
C10M105/38
C10M107/34
C10M129/16
C10M129/68
C10N30:00 Z
C10N40:00 Z
(21)【出願番号】P 2021019694
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】村上 孝志
(72)【発明者】
【氏名】牧野 宏輝
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-281095(JP,A)
【文献】特開平10-152669(JP,A)
【文献】特開2020-059842(JP,A)
【文献】特開2003-027080(JP,A)
【文献】特開2002-201483(JP,A)
【文献】特開2012-201718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒としての基油と、フィラーと、分散剤と、を含有するダイラタンシー組成物において、
前記基油は、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、ジフェニルエーテル油、及び、アルキレングリコール油から選択される少なくともいずれか1種であり、
前記フィラーは、球状シリカ或いは、球状炭酸カルシウムの少なくともいずれか1種を含み、
前記分散剤は、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリセロール及びグリセリン脂肪酸エステルから選択される少なくともいずれか1種であり、
せん断速度を0~200S
-1
に変化させて測定した最大粘度を(A)とし、(A)の粘度上昇が始まる起点の粘度を(B)としたとき、(A)/(B)にて算出される粘度の比が、3.5以上である、
ことを特徴とするダイラタンシー組成物。
【請求項2】
前記フィラーの平均粒径が、0.4μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項
1に記載のダイラタンシー組成物。
【請求項3】
前記フィラーは、50質量%以上95質量%以下の範囲で含有されることを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載のダイラタンシー組成物。
【請求項4】
前記基油の含有量は、前記ダイラタンシー組成物中、11.6質量%以上27.7質量%以下であり、前記フィラーの含有量は、69.6質量%以上87.4質量%以下であり、前記分散剤の含有量は、1.0質量%以上2.9質量%以下である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のダイラタンシー組成物。
【請求項5】
3質量%以下のグリースの増ちょう剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項
4に記載のダイラタンシー組成物。
【請求項6】
自動車関連分野の部品に用いられる、ことを特徴とする請求項1から請求項5に記載のダイラタンシー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、及び産業機械の部品などに適用されるダイラタンシー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダイラタンシー性を備えた組成物が知られている。ダイラタンシー組成物は、自動車、家電、及び産業機械の部品等に多く使用される。
【0003】
特許文献1に記載の発明には、フッ素油と、窒化硼素とからなり、混和ちょう度が、220~340であるグリース組成物に関する発明が開示されている。また、特許文献2に記載の発明には、無機粒子とシリコーンオイルからなるダイラタント組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-201718号公報
【文献】特開2010-24420号公報
【文献】特開2006-2027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、基油がフッ素油の場合や、分散剤を含まない場合では、所望のダイラタンシー性が得られないことがわかった。
【0006】
また、ダイラタンシー組成物の分散媒にシリコーン油を使用する公知例も知られている(特許文献3を参照)。しかしながら、分散媒にシリコーン油である組成物を部品に適用すると、低分子シロキサンによる電気接点の接触不良の懸念があり、特に、自動車関連部品に使用しにくい問題があった。また、シリコーン油と相溶性がある分散剤はシリコーン油とのみ効果を発揮でき、シリコーン油以外の分散媒には適用できなかった。
【0007】
そこで本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、優れたダイラタンシー性を得ることができるダイラタンシー組成物を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のダイラタンシー組成物は、分散媒としての基油と、フィラーと、分散剤と、を含有するダイラタンシー組成物において、前記基油は、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、ジフェニルエーテル油、及び、アルキレングリコール油から選択される少なくともいずれか1種であり、前記フィラーは、球状シリカ或いは、球状炭酸カルシウムの少なくともいずれか1種を含み、前記分散剤は、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリセロール及びグリセリン脂肪酸エステルから選択される少なくともいずれか1種であり、せん断速度を0~200S
-1
に変化させて測定した最大粘度を(A)とし、(A)の粘度上昇が始まる起点の粘度を(B)としたとき、(A)/(B)にて算出される粘度の比が、3.5以上である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明では、前記フィラーの平均粒径が、0.4μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明では、前記基油の含有量は、前記ダイラタンシー組成物中、11.6質量%以上27.7質量%以下であり、前記フィラーの含有量は、69.6質量%以上87.4質量%以下であり、前記分散剤の含有量は、1.0質量%以上2.9質量%以下であることが好ましい。
本発明では、3質量%以下のグリースの増ちょう剤を含有していてもよい。
本発明では、自動車関連分野の部品に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のダイラタンシー組成物によれば、分散媒としての基油に、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、ジフェニルエーテル油、およびアルキレングリコール油の少なくともいずれか1種を含むことで、良好なダイラタンシー性を得ることができる。また、基油に、シリコーン油を使用した場合に比べて、電気接点不良の懸念を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態(以下、「実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、「~」の表記は、下限値及び上限値の双方を範囲として含む。
【0013】
<本実施形態に至る経緯>
ダイラタンシー組成物は、分散媒としての基油と、フィラーと、分散剤と、を含有してなる。従来品には、分散媒に、水系、溶剤系、或いはシリコーン系が多く用いられた。
しかしながら、従来のダイラタンシー組成物は、所望のダイラタンシー性を得にくい問題があった。「所望のダイラタンシー性」については後述する。
【0014】
ここで、ダイラタンシー組成物が付与される自動車、家電、産業機械等の部品には、様々な特性が求められる。例えば、ダンパ装置やコンベアブレーキ等は、速度制御の特性が求められ、継手等は動力伝達の特性が求められ、シートベルト巻き取り装置や部品の保護等は、衝撃防止の特性が求められ、ブレーキの鳴き音防止等には振動防止の特性が求められる。
【0015】
しかしながら、従来のダイラタンシー組成物は、例えば、分散媒に水系、溶剤系を使用すると、使用温度範囲が狭く、上記の特性を満たすために適用可能な部品が限られた。すなわち、分散媒が水系や溶剤系であると分散媒が低温では固化し、高温では揮発しやすい問題があった。また、そこまで至らない場合でも、粘度変化が激しく、室温付近でしか使用できない問題があった。また、分散媒としてシリコーン油を用いたダイラタンシー組成物では電気接点不良に懸念がある自動車用部品に使用することが困難であった。
【0016】
そこで、本発明者らは、分散媒としての基油と、フィラーと、分散剤と、を含有するダイラタンシー組成物について鋭意研究を重ねた結果、組成の改良等により、ダイラタンシー性を向上させるに至った。
【0017】
<本実施形態のダイラタンシー組成物>
本実施形態におけるダイラタンシー組成物は、分散媒としての基油と、フィラーと、分散剤と、を含有するダイラタンシー組成物において、前記基油は、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、ジフェニルエーテル油、及び、アルキレングリコール油から選択される少なくともいずれか1種であることを特徴とする。
【0018】
「ダイラタンシー性」とは、せん断速度が大きくなるに連れて粘度が急激に増加する性質をいう。本実施形態では、所望のダイラタンシー性の有無を以下の指標により規定した。すなわち、レオメーター(TAInstruments製Discovery HR-2)を用いて、せん断速度を0~200s-1に変化させて、粘度を測定した。そして、上記測定で求めた最大粘度を(A)とし、(A)の粘度上昇が始まる起点の粘度を(B)としたとき、(A)/(B)にて算出される粘度の比(X)を求めた。そして、粘度の比(X)が、1.5以上である場合を、ダイラタンシー性ありと判断した。
【0019】
本実施形態では、分散媒としての基油に、鉱物油或いは合成炭化水素油といった炭化水素油を用いることで、所望のダイラタンシー性を得られることがわかった。また、分散媒に、水や溶剤系を用いた場合に比べて、使用温度範囲を広くできる。また、分散媒に、シリコーン油を用いた場合に比べて、電気接点不良を抑制できる。このような効果が得られるのは、ダイラタンシー組成物中に、フィラーを十分に添加できることが要因の一つと考えられる。
【0020】
本実施形態では、炭化水素油以外に、エステル油、エーテル油、或いは、グリコール油を基油に用いた場合でも、炭化水素油と同様の効果を得ることができる。エステル油には、ジエステル油或いはポリオールエステル油から選択することが好ましい。エーテル油は、ジフェニルエーテル油であることが好ましい。グリコール油は、アルキレングリコール油であることが好ましい。本実施形態では、基油を、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、ジフェニルエーテル油、及び、アルキレングリコール油から2種以上選択してもよい。
【0021】
本実施形態では、基油は、ダイラタンシー組成物中、4.5質量%以上45質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。また、基油は、10質量%以上40質量%の範囲で含まれることがより好ましい。
【0022】
フィラー(固体成分)は、樹脂微粒子、及び無機微粒子から選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。限定されるものではないが、無機微粒子には、球状シリカ、球状炭化カルシウム、Zn粉末などを用いることができる。また、樹脂微粒子には、メラミンシアヌレートやポリプロピレンからなる微粒子などを選択することができる。
【0023】
本実施形態では、フィラーの平均粒径が、0.4μm以上10μm以下であることが好ましい。好ましくは、フィラーの平均粒径は、0.4μm以上5μm以下であることが好ましく、0.4μm以上3μm以下であることがより好ましい。平均粒径が小さいほど沈降速度が遅くなり、経時安定性が良好になる(ストークスの式)。その一方で、平均粒径が小さすぎても表面積が大きくなり、添加できるフィラー量が減る。したがって、平均粒径は上記範囲であることが好ましい。平均粒径の測定は、例えば、走査型電子顕微鏡で断面画像を取得し、市販の画像解析ソフトを用いて解析することができる。或いは、市販品であれば、各カタログに記載の粒径を、本実施形態におけるフィラーの平均粒径とすることができる。
【0024】
本実施形態では、フィラーは、ダイラタンシー組成物中、50質量%以上95質量%以下の範囲で含有されることが好ましい。このように、本実施形態では、フィラーの含有量を大きくすることができ、優れたダイラタンシー性を得ることができる。本実施形態では、フィラーの含有量は、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが更により好ましい。また、フィラーの含有量は、90質量%以下であることが好ましい。これにより、基油及び分散剤を夫々、バランスよく配合することができる。
【0025】
本実施形態では、分散剤は、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリセロール及びグリセリン脂肪酸エステルから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルには、例えば、モノオレイン酸ソルビタン、アルキルグリセロールには、例えば、オレイルグリセリル、グリセリン脂肪酸エステルには、例えば、ステアリン酸グリセリルを選択できる。
【0026】
分散剤は、ダイラタンシー組成物中、0.5質量%以上5質量%の範囲で含有されることが好ましい。また、分散剤は、0.5質量%以上3質量%以下の範囲で含有されることがより好ましい。
【0027】
本実施形態では、分散剤に、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリセロール或いはグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、本実施形態における炭化水素油等の基油と、それに適した分散剤との組み合わせを実現できる。これにより、基油と分散剤を足した含有量は最大でも、計50質量%程度にでき、ダイラタンシー性が発現するのに十分なフィラーを添加できる。
【0028】
すなわち、分散媒としてシリコーン油やフッ素油、或いは水系を選択すると、分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリセロール及びグリセリン脂肪酸エステルは、相溶せず、したがって、十分なダイラタンシー性を発揮することができない。換言すれば、例えば、シリコーン油と相溶可能な分散剤は、シリコーン油以外の分散媒と相溶性がなく、シリコーン油の場合のみ効果を発揮する。このため、ダイラタンシー組成物を構成する基油、フィラー及び分散剤の組み合わせは、ダイラタンシー性と極めて密接な関係にある。
【0029】
本実施形態のダイラタンシー組成物は、液状であっても半固体状(グリースタイプ)であってもよい。グリースタイプとする場合は、更に増ちょう剤が含まれる。本実施形態では、増ちょう剤を限定するものでなく、市販のものを適宜使用することができる。例えば、増ちょう剤は、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム複合石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム複合石けん、ウレア化合物、有機化ベントナイト、ポリテトラフルオロエチレン、シリカゲル、ナトリウムテレフタラメート、カルシウムスルフォネート複合石けん、バリウム複合石けんのうち、少なくともいずれか1種から選択できる。
【0030】
本実施形態では、増ちょう剤の含有量を、ダイラタンシー組成物中、3質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
また、必要に応じて、本実施形態のダイラタンシー組成物に、酸化防止剤、防錆剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤等を添加することができる。これら添加物の含有量は、ダイラタンシー組成物中、0.01質量%~20重量%程度の範囲内に収められる。
【0032】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン等から選択することができる。防錆剤としては、亜硝酸ナトリウム、ステアリン酸などのカルボン酸、ジカルボン酸、金属石鹸、カルボン酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、または多価アルコールのカルボン酸部分エステル等から選択することができる。金属腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾールまたはベンゾイミダゾール、チアジアゾール等から選択することができる。油性剤としては、ラウリルアミンなどのアミン類、ミリスチルアルコール等の高級アルコール類、パルミチン酸などの高級脂肪酸類、ステアリン酸メチル等の脂肪酸エステル類、またはオレイルアミドなどのアミド類等から選択することができる。耐摩耗剤としては、亜鉛系、硫黄系、リン系、アミン系、またはエステル系等から選択することができる。極圧剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、硫化オレフィン、硫化油脂、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、ヨウ素化ベンジル、フルオロアルキルポリシロキサン、または、ナフテン酸鉛等から選択することができる。また、固体潤滑剤としては、黒鉛、フッ化黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、硫化アンチモン等から選択することができる。
【0033】
本実施形態のダイラタンシー組成物の用途を限定するものではないが、例えば、自動車、家電、産業機械等の速度制御、動力伝達、衝撃防止、振動防止等の部品に使用できる。本実施形態のダイラタンシー組成物は、分散媒として低分子シロキサン(シリコーン油)を使用しない。このため、特に、自動車関連分野では、本実施形態のダイラタンシー組成物を用いることで、低分子シロキサンによる電気接点不良の懸念がなくなり、自動車関連分野の部品に好ましく適用することができる。
【0034】
また、ダイラタンシー組成物は、せん断がかかっていないと液状であり、したがって、ダイラタンシー組成物を、密封した状態で使用することが好適である。ただし、基油の動粘度を高くするか、又は、フィラーを多くして硬くしたり、或いは、増ちょう剤を添加してグリースタイプにして半流動体とすることで、密封以外でも使用できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実験では、ダイラタンシー組成物を調製するにあたり以下の原料を用いた。
【0036】
(基油)
a:ポリアルファオレフィン(40℃における動粘度は18mm2/s)
b:ポリアルファオレフィン(40℃における動粘度は100mm2/s)
c:ポリアルファオレフィン(40℃における動粘度は407mm2/s)
d:アルキルジフェニルエーテル(40℃における動粘度は100mm2/s)
e:アルキレングリコール(40℃における動粘度は32mm2/s)
f:ジエステル油(40℃における動粘度は11mm2/s)
g:ポリオールエステル油(40℃における動粘度は44mm2/s)
h:パーフルオロポリエーテル(40℃における動粘度は17mm2/s)
【0037】
(フィラー)
i:高純度合成球状シリカ(粒径1.5~2.5μm)
j:高純度合成球状シリカ(粒径0.9~1.2μm)
k:高純度合成球状シリカ(粒径0.4~0.6μm)
l:球状炭酸カルシウム(平均粒径5μm)
m:メラミンシアヌレート(粒径3.0±1.0μm)
n:ポリプロピレン(平均粒径10μm)
【0038】
(分散剤)
o:オレイルグリセリル(酸価:1.1mgKOH/g以下)
p:モノオレイン酸ソルビタン (酸価:5mgKOH/g)
q:ステアリン酸グリセリル(酸価:1.1mgKOH/g)
【0039】
(増ちょう剤)
r:リチウム石けん(融点:217℃)
実験では、下記表1、表2及び表3に示す混合割合で、上記したa~qまでの原料を混合して、各種組成物を調製した。
【0040】
或いは、rのリチウム石けんを基油と混合して220℃まで加熱撹拌して冷却後、3本ロール処理して混和ちょう度が、NLGIグレード1号(310~340)のグリースにし、更に、フィラー及び分散剤を混ぜた組成物を調製した。
【0041】
(ダイラタンシー性の測定)
ダイラタンシー性の測定は、以下の方法により行った。すなわち、レオメーター(TAInstruments製Discovery HR-2)を用いて、せん断速度を0~200s-1に変化させて、粘度を測定した。
【0042】
そして、上記測定で求めた最大粘度を(A)とし、(A)の粘度上昇が始まる起点の粘度を(B)としたとき、(A)/(B)にて算出される粘度の比(X)を求めた。(X)が1.5以上の時を、ダイラタンシー性ありと判断し、(X)が、1.5を下回る時を、ダイラタンシー性なしと判断した。表1~表3には、ダイラタンシー性ありの場合には〇を、ダイラタンシー性なしの場合には×を付した。
【0043】
(沈殿確認)
100mLビーカーに、50mLのダイラタンシー組成物を充填し、25℃で24時間静置した後、ビーカー底にフィラーが沈殿していない場合を沈殿なしとした。表1から表3には、沈殿無しの場合には〇を、沈殿なしの場合には×を付した。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
表1、表2に示すように、実施例1~実施例15については、基油とフィラーと分散剤を混合・撹拌して、潤滑油タイプのダイラタンシー組成物を得た。表に示す基油、フィラー及び分散剤の各含有量は、それらを足して100質量%としたときの割合である。また、表2に示すように、実施例16~17については、基油とフィラーと分散剤と増ちょう剤を混合してグリースタイプのダイラタンシー組成物を得た。表に示す基油、フィラー、分散剤及び増ちょう剤の各含有量は、それらを足して100質量%としたときの割合である。
【0048】
比較例1は、基油とフィラーのみを混合・撹拌した組成物であり、分散剤を含まない。比較例1は、硬いペースト状になった。
【0049】
また、比較例2は、基油にパーフルオロポリエーテルを用い、フィラー及び分散剤を混合・撹拌した組成物である。この比較例2においても、硬いペースト状になった。
【0050】
また、比較例3は、基油とフィラーを混合・撹拌した組成物であるが、分散剤を含まず、更にはフィラーの含有量が少なく、ダイラタンシー性は得られなかった。
【0051】
このように、比較例1、及び比較例2は、ともに、硬いペースト状であったため、レオメーターでの粘度の測定ができなかった。すなわち、ダイラタンシー性が得られなかった。
【0052】
これに対し、実施例1~実施例15に関しては、基油に、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、ジフェニルエーテル油、及び、アルキレングリコール油から1種を選択した。そして、基油とフィラーと分散剤を混合・撹拌した組成物を得た。これら実施例の組成物は、せん断がかかっていないと液状であった。そして、上記の粘度の比(X)は1.5以上であった。なお、粘度の比(X)を、3以上にすることができ、更に5以上、或いは10以上にすることも可能であった。
【0053】
実施例16、及び実施例17は、グリースタイプであるが、これら実施例においても、粘度の比(X)は1.5以上であった。また、いずれの実施例においても、フィラーの沈殿は見られなかった。
以上により、各実施例の組成物は、優れた所望のダイラタンシー性を有することがわかった。
【0054】
また、本実施例では、フィラーに、樹脂微粒子、或いは、無機微粒子を選択し、また、フィラーの平均粒径は、0.4μm以上10μm以下の範囲であった。無機微粒子には、シリカや炭酸カルシウムが好ましく使用できることがわかった。特に、シリカであると含有量を大きくでき、効果的に、ダイラタンシー性を向上できることがわかった。
【0055】
本実施例では、フィラーを、50質量%以上95質量%以下の範囲で含有できた。好ましくは、フィラーを60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、含有できることがわかった。
【0056】
また、本実施例では、分散剤に、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリセロール或いは、グリセリン脂肪酸エステルを用いたところ、良好なダイラタンシー性を得ることができた。
【0057】
本実施例では、基油に炭化水素油を使用し、フィラーに無機微粒子を80質量%以上添加し、更に、分散剤に、アルキルグリセロールを0、5質量%以上2.0質量%以下添加することで、粘度の比(X)を約5以上にでき、優れたダイラタンシー性を得ることができた。
【0058】
また、実施例15及び実施例16に示すように、増ちょう剤を加えてグリースに調製しても良好なダイラタンシー性を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のダイラタンシー組成物によれば、従来に比べて、使用温度範囲を広くできるとともに、電気接点の接触不良の懸念を低下でき、優れたダイラタンシー性を得ることができる。したがって、本発明のダイラタンシー組成物を、自動車、家電、及び産業機械の部品などに適用でき、特に、自動車関連部品に好ましく適用できる。