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特許7561438水系ポリエステル樹脂の製造方法及び水系ポリエステル樹脂並びに水系コーティング組成物の製造方法及び水系コーティング組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】水系ポリエステル樹脂の製造方法及び水系ポリエステル樹脂並びに水系コーティング組成物の製造方法及び水系コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20240927BHJP
   C08G 63/127 20060101ALI20240927BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240927BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/127
C09D5/00 Z
C09D167/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022003933
(22)【出願日】2022-01-13
(65)【公開番号】P2023103082
(43)【公開日】2023-07-26
【審査請求日】2022-01-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 輝
(72)【発明者】
【氏名】棚川 一裕
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】小出 直也
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-179783(JP,A)
【文献】特表2001-505608(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158643(WO,A1)
【文献】特開2011-219545(JP,A)
【文献】特開2019-137790(JP,A)
【文献】特開2009-275187(JP,A)
【文献】特開2009-275186(JP,A)
【文献】特開2004-67910(JP,A)
【文献】特表2005-517050(JP,A)
【文献】特開2003-327679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63, C09J, C09D, C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルポリエステルを用いて水系ポリエステル樹脂を製造する方法であって、
前記リサイクルポリエステルと、テレフタル酸残基以外の二価の多価カルボン酸残基を含む第1多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを用いて、エステル形成反応と解重合反応とを行う第1工程と、
前記第1工程の反応生成物と、三価以上の多価カルボン酸残基を含む第2多価カルボン酸成分とを用いて、エステル形成反応を行う第2工程と、
減圧することにより重縮合反応を行う第3工程と
を備え、
前記第1工程において、
前記リサイクルポリエステルと、前記第1多価カルボン酸成分と、前記多価アルコール成分とを混合し、反応原料混合物を得た後、前記反応原料混合物において、前記エステル形成反応と前記解重合反応とを行い、
前記第1工程において、前記リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基と前記第1多価カルボン酸成分及び前記第2多価カルボン酸成分が含む多価カルボン酸残基との合計に対する前記テレフタル酸残基の割合が20質量%以上72質量%以下となる量の前記リサイクルポリエステルを用い、
得られる水系ポリエステル樹脂の酸価が30mgKOH/g以上120mgKOH/g以下である水系ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基と前記第1多価カルボン酸成分及び前記第2多価カルボン酸成分が含む多価カルボン酸残基との合計に対する前記二価の多価カルボン酸残基の割合が5質量%以上50質量%以下となる量の前記第1多価カルボン酸成分を用いる請求項1に記載の水系ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基と前記第1多価カルボン酸成分及び前記第2多価カルボン酸成分が含む多価カルボン酸残基との合
計に対する前記三価以上の多価カルボン酸残基の割合が10質量%以上30質量%以下となる量の前記第2多価カルボン酸成分を用いる請求項1又は2に記載の水系ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記第1多価カルボン酸成分及び第2多価カルボン酸成分が、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸化合物を含まない請求項1から3のいずれか一項に記載の水系ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記多価アルコール成分が、三価以上の多価アルコール化合物を含まない請求項1から4のいずれか一項に記載の水系ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記多価アルコール成分が、二価のアルコール化合物を含み、前記二価のアルコール化合物が分岐鎖を有し、前記分岐鎖を有する二価のアルコール化合物の残基の割合が、前記水系ポリエステル樹脂が含む全多価アルコール残基に対して、10質量%以上90質量%以下である請求項1から5のいずれか一項に記載の水系ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の水系ポリエステル樹脂の製造方法と、
前記水系ポリエステル樹脂のカルボキシ基の少なくとも一部を塩基により中和する工程と
を備える水系コーティング組成物の製造方法。
【請求項8】
リサイクルポリエステルに由来するテレフタル酸残基と、前記テレフタル酸残基以外の多価カルボン酸残基と、多価アルコール残基とを有する水系ポリエステル樹脂であって、
前記多価カルボン酸残基が、二価の第1多価カルボン酸残基と、三価以上の第2多価カルボン酸残基とを含み、
前記第1多価カルボン酸残基及び前記第2多価カルボン酸残基が、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基を含まず、
前記テレフタル酸残基と前記第1多価カルボン酸残基と前記第2多価カルボン酸残基との合計に対する前記テレフタル酸残基の割合が45質量%以上72質量%以下であり、
前記テレフタル酸残基と前記第1多価カルボン酸残基と前記第2多価カルボン酸残基との合計に対する前記第1多価カルボン酸残基の割合が5質量%以上40質量%以下であり、
前記多価アルコール残基が三価以上の多価アルコール化合物の残基を含まず、
前記多価アルコール残基が、二価のアルコール化合物の残基を含み、前記二価のアルコール化合物の残基が分岐鎖を有し、前記分岐鎖を有する二価のアルコール化合物の残基の割合が、前記水系ポリエステル樹脂が含む全多価アルコール残基に対して、10質量%以上42質量%以下であり、
酸価が35mgKOH/g以上120mgKOH/g以下である水系ポリエステル樹脂。
【請求項9】
前記テレフタル酸残基と前記第1多価カルボン酸残基と前記第2多価カルボン酸残基との合計に対する前記第2多価カルボン酸残基の割合が10質量%以上30質量%以下である請求項8に記載の水系ポリエステル樹脂。
【請求項10】
水系ポリエステル樹脂を含有する水系コーティング組成物であって、
前記水系ポリエステル樹脂が、請求項8又は9に記載の水系ポリエステル樹脂の中和物を含む水系コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水系ポリエステル樹脂の製造方法及び水系ポリエステル樹脂並びに水系コーティング組成物の製造方法及び水系コーティング組成物に関し、詳しくは、リサイクルポリエステルに由来するテレフタル酸残基を有する水系ポリエステル樹脂の製造方法及び水系ポリエステル樹脂、並びにこの水系ポリエステル樹脂を含有する水系コーティング組成物の製造方法及び水系コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境配慮の観点からリサイクルポリエステルを原料に使用し、親水性成分を共重合させることにより、水又は親水性溶剤を含有する水に分散可能な水系ポリエステル樹脂を製造することが検討されている(特許文献1~4参照)。しかし、これらに記載の製造方法で製造した水系ポリエステル樹脂の水分散性は低くなる傾向にあり、また、この水系ポリエステル樹脂の液中の分散を長時間持続させることは難しく、すなわち、樹脂分散液の安定性も低くなる傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-271612号公報
【文献】特表2001-505608号公報
【文献】特表2005-517050号公報
【文献】特開2004-163808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる傾向は、例えばリサイクルポリエステルの主成分がポリエチレンテレフタレート(PET)であり、結晶性が高い樹脂であることに加え、流通しているリサイクルポリエステルは、リサイクルされる廃ポリエステル材料の種類や、廃ポリエステル材料の後処理方法の違いにより、分子量が一様でないこと等に起因していると考えられる。すなわち、水系ポリエステル樹脂の分子構造の剛直性や、その製造の際におけるリサイクルポリエステルの解重合反応の程度に差異が生じること等に関係していると考えられる。
【0005】
一方、水系ポリエステル樹脂の水分散性や樹脂分散液の安定性を向上させる方法として、リサイクルポリエステルの配合比率を低くする方法や、樹脂分散液に分散助剤として界面活性剤を添加する方法もある。しかし、環境配慮の観点からは、リサイクルポリエステルの配合比率は高い方が好ましい。また、界面活性剤を使用すると、樹脂分散液から形成した樹脂被膜上に界面活性剤がブリードアウトして、樹脂被膜の物性が低下したり、接触により他の材料を汚染したりすることがある上、界面活性剤等の異種材料の使用は、材料のリサイクル性を低下させ、環境負荷の増大に繋がる。
【0006】
このように、リサイクルポリエステルから、界面活性剤等がなくても水分散性に優れ、樹脂分散液の安定性にも優れる水系ポリエステル樹脂が求められている。加えて、リサイクルポリエステルを用いて製造される水系ポリエステル樹脂には、耐水性に優れると共に、リサイクルポリエステル由来でない新品のテレフタル酸又はテレフタル酸誘導体を用いて製造したものと同等の特性を有することが要求される場合がある。特に、水系ポリエステル樹脂の特性として、樹脂や金属への密着性が良好であること、ヘーズが低い等、透明性に優れることなどが求められ、また、水系ポリエステル樹脂の分散液には、長期間の水分散性に優れ、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性などを向上させることなどが求められている。
【0007】
本開示の課題は、環境負荷を低減しつつ、耐水性に優れ、水分散性に優れると共に、樹脂分散液の安定性にも優れ、また、リサイクルポリエステル由来のテレフタル酸残基を有していても、リサイクルポリエステル由来ではないテレフタル酸又はテレフタル酸誘導体を用いたのと同等の密着性、透明性等の樹脂特性を有し、樹脂分散液は、長期間の水分散性に優れると共に、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる水系ポリエステル樹脂を製造することができる水系ポリエステル樹脂の製造方法及び水系ポリエステル樹脂、並びに水系コーティング組成物の製造方法及び水系コーティング組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る水系ポリエステル樹脂の製造方法は、リサイクルポリエステルを用いて水系ポリエステル樹脂を製造する方法である。前記製造方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程とを備える。第1工程では、前記リサイクルポリエステルと、テレフタル酸残基以外の二価の多価カルボン酸残基を含む第1多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを用いて、エステル形成反応と解重合反応とを行う。第2工程では、前記第1工程の反応生成物と、三価以上の多価カルボン酸残基を含む第2多価カルボン酸成分とを用いて、エステル形成反応を行う。第3工程では、減圧することにより重縮合反応を行う。前記第1工程において、前記リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基と前記第1多価カルボン酸成分及び前記第2多価カルボン酸成分が含む多価カルボン酸残基との合計に対する前記テレフタル酸残基の割合が20質量%以上72質量%以下となる量の前記リサイクルポリエステルを用いる。得られる水系ポリエステル樹脂の酸価が30mgKOH/g以上120mgKOH/g以下である。
【0009】
本開示の一態様に係る水系ポリエステル樹脂は、リサイクルポリエステルに由来するテレフタル酸残基と、前記テレフタル酸残基以外の多価カルボン酸残基とを有する。前記多価カルボン酸残基は、二価の第1多価カルボン酸残基と、三価以上の第2多価カルボン酸残基とを含む。前記テレフタル酸残基と前記第1多価カルボン酸残基と前記第2多価カルボン酸残基との合計に対する前記テレフタル酸残基の割合は20質量%以上72質量%以下である。前記水系ポリエステル樹脂の酸価は30mgKOH/g以上120mgKOH/g以下である。
【0010】
本開示の一態様に係る水系コーティング組成物の製造方法は、前記水系ポリエステル樹脂の製造方法と、前記水系ポリエステル樹脂のカルボキシ基の少なくとも一部を塩基により中和する工程とを備える。
【0011】
本開示の一態様に係る水系コーティング組成物は、水系ポリエステル樹脂を含有する水系コーティング組成物であって、前記水系ポリエステル樹脂が、前記水系ポリエステル樹脂の中和物を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、環境負荷を低減しつつ、耐水性に優れ、水分散性に優れると共に、樹脂分散液の安定性にも優れ、また、リサイクルポリエステル由来のテレフタル酸残基を有していても、リサイクルポリエステル由来ではないテレフタル酸又はテレフタル酸誘導体を用いたのと同等の密着性、透明性等の樹脂特性を有し、樹脂分散液は、長期間の水分散性に優れると共に、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる水系ポリエステル樹脂を製造することができる水系ポリエステル樹脂の製造方法及び水系ポリエステル樹脂、並びに水系コーティング組成物の製造方法及び水系コーティング組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<水系ポリエステル樹脂の製造方法>
本実施形態に係る水系ポリエステル樹脂の製造方法(以下、製造方法(X)ともいう)は、リサイクルポリエステルを用いて、水系ポリエステル樹脂を製造する方法である。製造方法(X)は、第1工程と、第2工程と、第3工程とを備える。
【0014】
本実施形態に係る製造方法(X)によれば、環境負荷を低減しつつ、耐水性に優れ、水分散性に優れると共に、樹脂分散液の安定性にも優れ、また、リサイクルポリエステル由来のテレフタル酸残基を有していても、リサイクルポリエステル由来ではないテレフタル酸又はテレフタル酸誘導体を用いたのと同等の密着性、透明性等の樹脂特性を有し、樹脂分散液は、長期間の水分散性に優れると共に、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる水系ポリエステル樹脂を製造することができる。発明者らは、リサイクルポリエステルを用いて水系ポリエステル樹脂を製造する際に、親水性成分として、二価の多価カルボン酸化合物に加えて三価以上の多価カルボン酸化合物を用い、用いるリサイクルポリエステルの割合を特定範囲とし、かつ水系ポリエステル樹脂の酸価を特定範囲とすることにより、また、製造の際に、三価以上の多価カルボン酸化合物の配合を特定の時点で行うことにより、前記課題を解決できることを見出した。
【0015】
この理由については、例えば以下のように推察することができる。リサイクルポリエステルの使用割合を一定値以上とすることで、化石燃料に由来する原料の使用量削減、廃棄物削減等により、また、得られる水系ポリエステル樹脂の樹脂分散液を調製するのに、水又は親水性有機溶剤を含む水を使用することができると共に、界面活性剤等を使用する必要がないことにより、環境負荷の低減を図ることができる。また、リサイクルポリエステルの使用割合を特定範囲とし、かつ三価以上の多価カルボン酸化合物を用いて、水系ポリエステル樹脂の酸価を特定範囲とすることで、水系ポリエステル樹脂の疎水性部分と親水性部分との割合のバランスを適度なものにでき、水系ポリエステル樹脂は、界面活性剤等がなくても水分散性に優れるものとなり、さらに樹脂分散液の安定性を向上させることができ、かつ耐水性を向上させることができると考えられる。さらに、製造方法(X)において、二価の多価カルボン酸化合物を用いる第1工程の後に、第2工程で三価以上の多価カルボン酸化合物を用いることによって、得られる水系ポリエステル樹脂に架橋構造が生じることを抑制でき、かつ酸価を特定範囲とすることができると考えられる。また、第1工程で、リサイクルポリエステルと二価の多価カルボン酸化合物とを反応させることにより、種々の分子量のリサイクルポリエステルに対しても、解重合反応を適切に行うことができることも、理由として挙げられる。また、上述の水系ポリエステル樹脂が水分散性及び樹脂分散液の安定性に優れるのと同様の理由により、テレフタル酸残基がリサイクルポリエステル由来であるか、新品のテレフタル酸又はテレフタル酸誘導体で形成されたものであるかに関係なく、密着性、透明性等の樹脂物性、及び長期間の水分散性、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性について、同等の特性が得られるものと考えられる。
【0016】
製造方法(X)により得られる水系ポリエステル樹脂(以下、樹脂(Y)ともいう)は、ポリエステル樹脂であり、多価カルボン酸残基からなる構造単位と、多価アルコール残基からなる構造単位とを有している。樹脂(Y)又は多価カルボン酸成分に含まれる多価カルボン酸残基は、通常下記式(1)で表される。樹脂(Y)又は多価アルコール成分に含まれる多価アルコール残基は、通常下記式(2)で表される。樹脂(Y)は、多価カルボン酸残基からなる構造単位として、リサイクルポリエステルに由来するテレフタル酸残基を有している。
【0017】
【化1】
【0018】
式(1)中、Rは、置換又は非置換の炭素数1~50の炭化水素基である。
式(2)中、Rは、置換又は非置換の炭素数1~50の炭化水素基である。
式(1)及び(2)中、*は、式(1)又は(2)で表される残基に隣接する基又は隣接する残基と結合する部位を示す。
【0019】
及びRにおける炭化水素基の置換基としては、例えばアルコール性ヒドロキシ基、フェノール性ヒドロキシ基等のヒドロキシ基、カルボキシ基、アシル基、アシロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基などが挙げられる。
【0020】
多価カルボン酸残基を与える化合物としては、例えば第1多価カルボン酸成分、第2多価カルボン酸成分などが挙げられる。「第1多価カルボン酸成分」とは、テレフタル酸残基以外の二価の多価カルボン酸残基を含む化合物をいい、例えばテレフタル酸以外の二価の多価カルボン酸、そのエステル及び無水物から選ばれる少なくとも一種などが挙げられる。「第2多価カルボン酸成分」とは、三価以上の多価カルボン酸残基を含む化合物をいい、例えば三価以上の多価カルボン酸、そのエステル及び無水物から選ばれる少なくとも一種などが挙げられる。第2多価カルボン酸成分が与える三価以上の多価カルボン酸残基は、通常、式(1)のRの炭化水素基が、置換基として1又は複数のカルボキシ基等を有している。
【0021】
多価アルコール残基を与える化合物としては、例えば二価の多価アルコール化合物、三価以上の多価アルコール化合物等が挙げられる。三価以上の多価アルコール化合物が与える三価以上の多価アルコール残基は、通常、式(2)のRの炭化水素基が、置換基として1又は複数のアルコール性ヒドロキシ基等を有している。
以下、各工程について説明する。
【0022】
[第1工程]
第1工程では、リサイクルポリエステルと、第1多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを用いて、エステル形成反応と解重合反応とを行う。
【0023】
エステル形成反応とは、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とが脱水縮合又は脱アルコール縮合等によりエステル化合物を形成する反応をいう。
解重合反応とは、リサイクルポリエステルと、多価カルボン酸成分、多価アルコール成分又はこれらから形成されたエステル化合物とにより、より低分子量のポリエステルを形成する反応をいう。
【0024】
第1工程において、第1工程で用いる反応原料の全成分を一度に配合してもよく、反応原料のうちの一部である1種以上の成分又は一定量の成分を逐次的に配合してもよい。また、反応原料のうちの一部を配合してから反応を行った後、反応原料のうちの別の一部を配合してから、さらに反応を行ってもよい。これらの配合及び反応を繰り返し行ってもよい。
【0025】
第1工程において、リサイクルポリエステルと、第1多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを配合した後、エステル形成反応と解重合反応を行ってもよく、第1多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを配合した後、エステル形成反応を行い、その後、リサイクルポリエステルを配合した後、解重合反応を行ってもよい。
反応原料の配合は、通常、製造方法(X)を行うための装置、例えば反応器などに対して行う。
【0026】
以下、第1工程で用いる各反応原料について説明する。
(リサイクルポリエステル)
リサイクルポリエステルは、主成分として、ポリエチレンテレフタレートを含む。主成分とは、最も含有割合が大きい成分をいう。リサイクルポリエステルにおけるポリエチレンテレフタレートの割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。この場合、水系ポリエステル樹脂におけるモノマテリアル化を推進することができる。前記割合は、100質量%であってもよい。
【0027】
リサイクルポリエステルとしては、マテリアルリサイクルポリエステル、メカニカルリサイクルポリエステル、ケミカルリサイクルポリエステル等が挙げられる。マテリアルリサイクルポリエステルとは、ボトル、容器、フィルム等のポリエステルの成形品の使用済みのもの又は廃棄品を、選別、粉砕、洗浄等を行って汚染物質や異物を除去した後、フレーク化することにより得られたポリエステルをいう。メカニカルリサイクルポリエステルとは、マテリアルリサイクルポリエステルのフレークを高温、減圧下などで一定時間処理することにより樹脂内部の汚染物質を除去すると共に、ポリエステルの一部を再重合することにより重合度を調整したポリエステルをいう。ケミカルリサイクルポリエステルとは
、ポリエステルをモノマーレベルまで分解して、このモノマーを再度重合することにより得られたポリエステルをいう。
【0028】
リサイクルポリエステルの固有粘度(IV値、単位:dl/g)は、第1工程における解重合反応をより適切に行う観点から、0.40以上1.20以下であることが好ましく、0.45以上1.00以下であることがより好ましい。固有粘度は一般にポリマーの重合度の指標として用いられる。
【0029】
リサイクルポリエステルは、環境負荷をより低減する観点から、マテリアルリサイクルポリエステル及びメカニカルリサイクルポリエステルの少なくとも一方を含むことが好ましく、水系ポリエステル樹脂の品質向上の観点から、メカニカルリサイクルポリエステルを含むことがより好ましく、PETボトル又はPETフィルム又はポリエステル繊維(PET繊維)を回収して得たメカニカルリサイクルポリエステルを含むことがさらに好ましい。
【0030】
(第1多価カルボン酸成分)
第1多価カルボン酸成分は、例えばテレフタル酸残基以外の二価の多価カルボン酸残基を含むテレフタル酸以外の二価の多価カルボン酸、そのエステル及び無水物から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0031】
第1多価カルボン酸成分としては、例えば
フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸、そのエステル、その無水物などが挙げられる。
【0032】
環境負荷の低減の観点からは、バイオマス由来の第1多価カルボン酸成分を用いることも好ましい。バイオマス由来の第1多価カルボン酸成分としては、例えば2,5-フランジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0033】
第1多価カルボン酸成分は、水系ポリエステル樹脂の結晶性をより適度に下げることにより、樹脂(Y)の水分散性及び樹脂分散液の安定性をより高める観点から、芳香族ジカルボン酸、そのエステル及び無水物から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、イソフタル酸及び2,6-ナフタレンジカルボン酸から選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0034】
第1多価カルボン酸成分は、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸、そのエステル、その無水物等の金属スルホネート基を有する多価カルボン酸化合物を含まないことが好ましい。金属スルホネート基を有する多価カルボン酸を用いると、樹脂(Y)の耐水性が低下する場合がある。金属スルホネート基とは、スルホ基(-SOH)の金属塩基をいい、例えば-SO (Mn+1/n(Mn+は、n価の金属カチオンである。nは、1~6の整数である。)で表される。金属カチオンとしては、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンなどが挙げられる。金属スルホネート基を含有多価カルボン酸化合物としては、例えば5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム等が挙げられる。
【0035】
(多価アルコール成分)
樹脂(Y)は、多価アルコール残基として、リサイクルポリエステルに由来するエチレングリコール残基を通常有している。
【0036】
多価アルコール成分としては、例えば二価のアルコール化合物、三価以上のアルコール化合物などが挙げられる。
【0037】
二価のアルコール化合物としては、例えば
エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール;1,4-ベンゼンジメタノール、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン等の芳香族ジオール;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のエーテル基含有ジオールなどが挙げられる。
【0038】
二価のアルコール化合物は、分岐鎖を有する二価のアルコール化合物を含むことが好ましい。この場合、樹脂(Y)の樹脂分散液は、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる。
【0039】
分岐鎖を有する二価のアルコール化合物としては、例えば下記式(3)で表される化合物等が挙げられる。
【0040】
【化2】
【0041】
式(3)中、Rは、炭素数3~50の分岐鎖状の二価の炭化水素基である。
【0042】
で表される分岐鎖状の二価の炭化水素基としては、例えばプロパン-1,2-ジイル基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基、ペンタン-1,2-ジイル基、ペンタン-1,2-ジイル基、ペンタン-1,3-ジイル基、ペンタン-1,4-ジイル基、2,2-ジメチルプロパン-1,3
-ジイル基、2-メチルブタン-1,4-ジイル基、ヘキサン-1,2-ジイル基、ヘキサン-2,5-ジイル基、2,4-ジエチルペンタン-1,5-ジイル基などが挙げられる。
【0043】
分岐鎖を有する二価のアルコール化合物としては、例えばネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールなどが挙げられる。これらの中で、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール及び1,3-ブタンジオールが好ましい。
【0044】
三価以上のアルコール化合物としては、例えば
グリセリン、トリメチロールプロパン等の脂肪族トリオール;1,2,4-シクロヘキサントリメタノール等の脂環族トリオール;ベンゼントリメタノール等の芳香族トリオールなどのトリオール化合物;ペンタエリトリトール等のテトラオール化合物などが挙げられる。
【0045】
多価アルコール成分が、三価以上の多価アルコール化合物を含まないことが好ましい。この場合、樹脂(Y)は、三価以上の多価アルコール化合物に起因する架橋構造を少なくすることができ、その結果、水分散性及び樹脂分散液の安定性をより向上させることができる。
【0046】
環境負荷の低減の観点からは、バイオマス由来の多価アルコール成分を用いることも好ましい。バイオマス由来の多価アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールなどが挙げられる。
【0047】
第1工程において、リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基の割合が、リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基と第1多価カルボン酸成分及び第2多価カルボン酸成分が含む多価カルボン酸残基との合計に対して、20質量%以上72質量%以下となる量のリサイクルポリエステルを用いることが重要である。前記割合が20質量%未満であると、環境負荷の低減が不十分になる。前記割合が72質量%を超えると、樹脂(Y)は、結晶性が低くならず、水分散性が低下する。前記割合は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。前記割合は、71質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、69質量%以下であることがさらに好ましく、68質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
第1工程において、二価の多価カルボン酸残基の割合が、リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基と第1多価カルボン酸成分及び第2多価カルボン酸成分が含む多価カルボン酸残基との合計に対して、5質量%以上50質量%以下となる量の第1多価カルボン酸成分を用いることが好ましい。前記割合を前記範囲とすることにより、樹脂(Y)は、結晶性をより適度に下げることができ、水分散性及び樹脂分散液の安定性をより向上させることができる。前記割合は、10質量%以上であることがより好ましく、14質量%以上であることがさらに好ましく、18質量%以上であることが特に好ましい。前記割合は、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、26質量%以下であることが特に好ましい。
【0049】
多価アルコール成分が、分岐鎖を有する二価のアルコール化合物を含む場合、分岐鎖を有する二価のアルコール化合物の残基の割合が、樹脂(Y)が含む全多価アルコール残基に対して、10質量%以上90質量%以下となる量の分岐鎖を有する二価のアルコール化合物を用いることが好ましい。この場合、樹脂(Y)の樹脂分散液は、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる。前記割合は、15質量%以上85質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
多価アルコール成分が、エチレングリコール以外の他の多価アルコール化合物を含む場合、エチレングリコールの割合は、多価アルコール成分全体に対して、20質量%以上であることが好ましい。この場合、リサイクルポリエステルの解重合反応をより起こり易くすることができる。前記割合は、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。前記割合は、100質量%であってもよい。すなわち、リサイクルポリエステルの解重合反応をより起こり易くする観点からは、他の多価アルコール化合物の割合は、多価アルコール成分全体に対して、80質量以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、65質量%以下であることが特に好ましい。前記割合は、0質量%であってもよい。
【0051】
本開示の効果を損なわない範囲であれば、第1工程において、リサイクルポリエステル、第1多価カルボン酸成分及び多価アルコール成分以外に、テレフタル酸、そのエステル及び無水物から選ばれる少なくとも一種、ヒドロキシカルボン酸、そのエステル及び無水物から選ばれる少なくとも一種などを用いてもよいが、用いないことが好ましい。
【0052】
第1工程における反応は、配合された反応原料を、例えば加熱することにより進行させることができる。
【0053】
第1工程において、反応をより促進する観点から、触媒を用いることが好ましい。触媒としては、例えばシュウ酸チタンカリウム、シュウ酸チタンナトリウム等のシュウ酸チタン塩;テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート等のチタンアルコキシド;酢酸チタン等の脂肪酸チタン塩;チタン酸化物等の無機チタン化合物などのチタン触媒;酢酸マンガン等の脂肪酸マンガン塩;炭酸マンガンなどのマンガン触媒;三酸化アンチモン等のアンチモン触媒;アルミニウムトリスアセチルアセテート等のアルミニウム触媒;二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム触媒;sec-ブチルリチウム等のリチウム触媒などが挙げられる。
【0054】
触媒の使用量としては、第1工程において配合する全成分に対して、例えば0.0001質量%以上0.1質量%以下であり、0.003質量%以上0.05質量%以下であることが好ましい。
【0055】
第1工程における反応においては、反応溶剤を用いても用いなくてもよいが、用いない方が好ましい。
【0056】
第1工程における反応は、樹脂(Y)の品質向上の観点から、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0057】
第1工程を行う態様としては、以下の(A)、(B)の方法等が挙げられる。
(A)リサイクルポリエステルと、第1多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを配合した後、エステル形成反応と解重合反応とを行う。
(B)第1多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを配合した後、エステル形成反応を行う工程と、リサイクルポリエステルを配合した後、解重合反応を行う工程とを含む。
【0058】
[方法(A)]
方法(A)は、第1工程において、リサイクルポリエステルと第1多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを反応原料として配合した後、配合された反応原料において、エステル形成反応と解重合反応とを行う(以下、X1工程ともいう)。方法(A)によれば、より簡便に樹脂(Y)を製造することができる。
【0059】
X1工程における反応温度は、150℃以上270℃以下であることが好ましく、180℃以上260℃以下であることがより好ましい。反応時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましく、2時間以上8時間以下であることがより好ましい。X1工程におけるエステル形成反応及び解重合反応をより促進する観点から、反応系は常圧とすることが好ましい。X1工程における反応温度は段階的に変化させてもよい。
【0060】
[方法(B)]
方法(B)は、第1工程において、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを反応原料として配合した後、配合された反応原料において、エステル形成反応を行う工程(以下、X2-1工程ともいう)と、X2-1工程の反応生成物に対して、リサイクルポリエステルを配合した後、解重合反応を行う工程(以下、X2-2工程ともいう)とを含む。方法(B)によれば、X2-1及びX2-2の各工程に分けて配合と反応とを行うことにより、例えばリサイクルポリエステルの解重合反応をより適切に行うことができ、樹脂(Y)の水分散性及び樹脂分散液の安定性をより向上させることができる。
【0061】
(X2-1工程)
X2-1工程では、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを配合した後、エステル形成反応を行う。
【0062】
X2-1工程における反応温度は、150℃以上250℃以下であることが好ましく、180℃以上240℃以下であることがより好ましい。反応時間は、1時間以上8時間以下であることが好ましく、2時間以上5時間以下であることがより好ましい。X2-1工程におけるエステル形成反応をより促進する観点から、反応系は常圧とすることが好ましい。X2-1工程における反応温度は段階的に変化させてもよい。
【0063】
(X2-2工程)
X2-2工程では、リサイクルポリエステルをさらに配合した後、解重合反応を行う。
【0064】
X2-2工程における反応温度は、200℃以上270℃以下であることが好ましく、210℃以上260℃以下であることがより好ましい。反応時間は、1時間以上8時間以下であることが好ましく、2時間以上7時間以下であることがより好ましい。X2-2工程における解重合反応をより促進する観点から、反応系は常圧とすることが好ましい。X2-2工程における反応温度は段階的に変化させてもよい。
【0065】
[第2工程]
第2工程では、第1工程の反応生成物と、第2多価カルボン酸成分とを用いて、エステル形成反応を行う。
【0066】
(第2多価カルボン酸成分)
第2多価カルボン酸成分は、例えば三価以上の多価カルボン酸残基を含む三価以上の多価カルボン酸、そのエステル及び無水物から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0067】
第2多価カルボン酸成分としては、例えば
トリメリット酸、ヘミメリット酸、トリメシン酸、1,2,5-ナフタレントリカルボン酸等の芳香族トリカルボン酸;1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸等の脂環族トリカルボン酸;1,2,3-ブタントリカルボン酸等の脂肪族トリカルボン酸;ピロメリット酸などの4価以上の多価カルボン酸、そのエステル、その無水物などが挙げられる。
【0068】
第2工程において、リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基と第1多価カルボン酸成分及び第2多価カルボン酸成分が含む多価カルボン酸残基との合計に対する三価以上の多価カルボン酸残基の割合が10質量%以上30質量%以下となる量の第2多価カルボン酸成分を用いることが好ましい。この場合、樹脂(Y)の酸価をより適度な値にすることができ、その結果、樹脂(Y)の耐水性をより高めることができ、樹脂(Y)分散液の長期間の水分散性、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる。前記割合は、13質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、17質量%以上であることが特に好ましい。前記割合は、27質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、23質量%以下であることが特に好ましい。
【0069】
第2多価カルボン酸成分は、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸、そのエステル、その無水物等の金属スルホネート基を有する多価カルボン酸化合物を含まないことが好ましい。
【0070】
環境負荷の低減の観点からは、水系ポリエステル樹脂を製造するために用いる原料の総量に対するリサイクルポリエステルの配合量の割合は大きいことが好ましい。詳しくは、樹脂(Y)の製造に用いるリサイクルポリエステルの割合が、リサイクルポリエステルと多価カルボン酸成分と多価アルコール成分との合計に対して、20質量%以上72質量%以下となる量のリサイクルポリエステルを用いることが好ましい。前記割合は、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。前記割合は、65質量%以下であることがより好ましく、62質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
また、環境負荷の低減の観点からは、樹脂(Y)を製造するために用いる原料の総量に対する多価アルコール成分の配合量の割合は小さいことが好ましい。詳しくは、多価アルコール成分の割合が、リサイクルポリエステルと多価カルボン酸成分と多価アルコール成分との合計に対して、10質量%以上40質量%以下となる多価アルコール成分を用いることが好ましい。前記割合は、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。前記割合は、13質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。
【0072】
樹脂(Y)を製造するために用いる多価アルコール成分は、多価カルボン酸成分よりもモル基準で多く用いることが好ましい。この場合、リサイクルポリエステルの解重合反応をより起こり易くすることができる。具体的には、多価カルボン酸成分に対する多価アルコール成分のモル比(多価アルコール成分/多価カルボン酸成分)は、1.1/1以上5/1以下であることが好ましく、1.3/1以上4.0/1以下であることがより好ましく、1.5/1以上3.5/1以下であることがさらに好ましく、1.7/1以上3.0/1以下であることが特に好ましい。
【0073】
第1工程の反応を行った後、そのまま反応系に第2多価カルボン酸成分を添加して第2工程を行ってもよく、第1工程の反応生成物を単離し、必要に応じて触媒、溶媒等を添加して第2工程を行ってもよい。
【0074】
第2工程において、反応をより促進する観点から、触媒を用いることが好ましい。第1工程の反応生成物をそのまま用いることにより、反応生成物に含まれる触媒を用いることができる。
【0075】
第2工程における反応温度は、150℃以上270℃以下であることが好ましく、160℃以上240℃以下であることがより好ましい。反応時間は、10分間以上3時間以下であることが好ましく、20分間以上2時間以下であることがより好ましい。第2工程におけるエステル形成反応をより促進する観点から、反応系は常圧とすることが好ましい。第2工程における反応温度は段階的に変化させてもよい。
【0076】
[第3工程]
第3工程では、減圧することにより重縮合反応を行う。第3工程では、反応系を減圧して、反応により生成した多価アルコール等を除去することにより、重縮合反応を促進させる。
【0077】
重縮合反応とは、第1工程及び第2工程で形成されたエステル化合物とポリエステルとの間で、脱アルコール縮合反応等を行うことにより、より高分子量のポリエステルを形成する反応をいう。
【0078】
第3工程における反応は、第2工程による反応生成物において、反応系を減圧にし、かつ例えば加熱することにより進行させることができる。
【0079】
第2工程の反応を行った後、そのまま反応系を減圧にし、温度を調整して、第3工程を行ってもよく、第2工程における反応生成物を単離し、必要に応じて触媒、溶媒等を添加した後、反応系を減圧にし、加熱等して第3工程を行ってもよい。
【0080】
第3工程における減圧度(絶対圧)は、25hPa以下であることが好ましく、10hPa以下であることがより好ましい。第3工程における反応温度は、150℃以上270℃以下であることが好ましく、160℃以上240℃以下であることがより好ましい。第3工程における減圧度及び反応温度は段階的に変化させてもよい。なお、第3工程における、減圧度、温度、時間を調整することで、樹脂(Y)の重量平均分子量、酸価等を調整することができる。
【0081】
以上の製造方法(X)を行うことにより、水系ポリエステル樹脂(樹脂(Y))が得られる。
【0082】
(酸価)
得られる樹脂(Y)の酸価は、30mgKOH/g以上120mgKOH/g以下であることが重要である。樹脂(Y)の酸価が30mgKOH/g以上であることで、樹脂(Y)の水分散性を優れたものとすることができる。酸価が120mgKOH/g以下であることで、樹脂(Y)の耐水性を優れたものとすることができる。酸価が30mgKOH/g未満であると、水分散性が不十分となる。酸価が120mgKOH/gを超えると、耐水性が低下する。酸価は33mgKOH/g以上であることが好ましく、35mgKOH/g以上であることがより好ましく、40mgKOH/g以上であることがさらに好ましい。酸価は、110mgKOH/g以下であることが好ましく、100mgKOH/g以下であることがより好ましく、90mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。樹脂(Y)の「酸価」とは、樹脂(Y)1gを中和するために必要な水酸化カリウムの質量(mg)をいう。樹脂(Y)の酸価は、樹脂(Y)の分子の側鎖又は末端に有するカルボキシ基などに起因する値である。
【0083】
(ガラス転移温度)
得られる樹脂(Y)のガラス転移温度(Tg)は、0℃以上100℃以下であることが好ましい。Tgが0℃以上であると、樹脂(Y)は、過度な粘着性が生じ難いため、取扱性がより良好になり、加えて、タックの発生をより抑制することができる。Tgが100℃以下であることで、樹脂(Y)は、造膜性がより良好となり、基材との密着性やプライマー性がより向上する。Tgは10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。Tgは90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることがさらに好ましい。
【0084】
得られる樹脂(Y)の重量平均分子量は、2000以上100000以下であることが好ましく、3000以上50000以下であることがより好ましく、4000以上30000以下であることがさらに好ましい。
【0085】
<水系ポリエステル樹脂>
本実施形態に係る樹脂(Y)は、リサイクルポリエステルに由来するテレフタル酸残基(以下、残基(I)ともいう)と、前記テレフタル酸残基以外の多価カルボン酸残基(以下、残基(II)ともいう)とを有する。残基(II)は、二価の第1多価カルボン酸残基(以下、残基(IIa)ともいう)と、三価以上の第2多価カルボン酸残基(以下、残基(IIb)ともいう)とを含む。残基(I)と残基(IIa)と残基(IIb)との合計に対する残基(I)の割合は20質量%以上72質量%以下である。樹脂(Y)の酸価は30mgKOH/g以上120mgKOH/g以下である。
【0086】
樹脂(Y)は、環境負荷を低減しつつ、耐水性に優れ、水分散性に優れると共に、樹脂分散液の安定性にも優れ、また、リサイクルポリエステル由来のテレフタル酸残基を有していても、リサイクルポリエステル由来ではないテレフタル酸又はテレフタル酸誘導体を用いたのと同等の密着性、透明性等の樹脂特性を有し、樹脂分散液は、長期間の水分散性に優れると共に、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる。
【0087】
樹脂(Y)は、多価カルボン酸残基と、多価アルコール残基とを有する。
(多価カルボン酸残基)
樹脂(Y)は、多価カルボン酸残基として、残基(I)と残基(II)とを有する。
【0088】
(残基(I))
残基(I)は、リサイクルポリエステルに由来するテレフタル酸残基である。「リサイクルポリエステルに由来するテレフタル酸残基」とは、リサイクルポリエステルが含むテレフタル酸残基が、樹脂(Y)が含むテレフタル酸残基になったことを意味する。テレフタル酸残基とは、下記式(4)で表される残基をいう。
【0089】
【化3】
【0090】
式(4)中、*は、式(4)で表される残基に隣接する基又は隣接する残基と結合する部位を示す。
【0091】
樹脂(Y)における残基(I)と残基(IIa)と残基(IIb)との合計に対する残基(I)の割合は、20質量%以上72質量%以下であることが重要である。前記割合は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。前記割合は、71質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、69質量%以下であることがさらに好ましく、68質量%以下であることが特に好ましい。
【0092】
(残基(II))
残基(II)は、残基(IIa)と残基(IIb)とを含む。
【0093】
(残基(IIa)
残基(IIa)は、テレフタル酸残基以外の二価の多価カルボン酸残基であり、第1多価カルボン酸残基ともいう。
【0094】
樹脂(Y)における残基(I)と残基(IIa)と残基(IIb)との合計に対する残基(IIa)の割合は、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。前記割合は、10質量%以上であることがより好ましく、14質量%以上であることがさらに好ましく、18質量%以上であることが特に好ましい。前記割合は、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、26質量%以下であることが特に好ましい。
【0095】
(残基(IIb))
残基(IIb)は、三価以上の多価カルボン酸残基であり、第2多価カルボン酸残基ともいう。
【0096】
樹脂(Y)における残基(I)と残基(IIa)と残基(IIb)との合計に対する残基(IIb)の割合は、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。前記割合は、13質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、17質量%以上であることが特に好ましい。前記割合は、27質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、23質量%以下であることが特に好ましい。
【0097】
(多価アルコール残基)
多価アルコール残基は、複数のアルコール性ヒドロキシ基を有する多価アルコール化合物が含む残基である。樹脂(Y)は、多価アルコール残基として、リサイクルポリエステルに由来するエチレングリコール残基を通常有している。
【0098】
多価アルコール残基は、三価以上の多価アルコール化合物の残基を含まないことが好ましい。すなわち、多価アルコール残基は、二価の多価アルコール化合物の残基のみを含むことが好ましい。この場合、適度の架橋構造を有することにより、樹脂(Y)の水分散性、並びに樹脂分散液の安定性及び成膜性をより向上させることができる。
【0099】
多価アルコール残基が二価のアルコール化合物の残基を含む場合、二価のアルコール化合物の残基が分岐鎖を有することが好ましい。この場合、樹脂(Y)の樹脂分散液は、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる。
【0100】
多価アルコール残基が、分岐鎖を有する二価のアルコール化合物の残基を含む場合、分岐鎖を有する二価のアルコール化合物の残基の割合は、樹脂(Y)が含む全多価アルコール残基に対して、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。この場合、樹脂(Y)の樹脂分散液は、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる。前記割合は、15質量%以上85質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい。
【0101】
<水系コーティング組成物の製造方法>
水系コーティング組成物(以下、組成物(Z)ともいう)は、上述の水系ポリエステル樹脂(樹脂(Y))を含む組成物である。組成物(Z)は、樹脂(Y)が均一に分散していることが好ましい。樹脂(Y)は、カルボキシ基を塩基で中和することにより、より均一に分散させることができる。
【0102】
本実施形態の水系コーティング組成物の製造方法(以下、製造方法(V)ともいう)は、上述の製造方法(X)(第1~第3工程)と、水系ポリエステル樹脂のカルボキシ基の少なくとも一部を塩基により中和する工程(以下、第4工程ともいう)とを備える。製造方法(V)によれば、樹脂(Y)がより均一に分散された組成物(V)を得ることができる。
【0103】
第4工程で用いる塩基としては、例えばアンモニア;トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミンなどの有機塩基;水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。これらの中で、塗布した組成物(Z)から塗膜形成する際に、加熱により塩基が除去されて、カルボキシ基が再生し、より耐水性に優れる塗膜を形成できる観点から、塩基としては、アンモニア及び有機塩基が好ましく、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン及びトリエチルアミンがより好ましい。
【0104】
中和に用いる塩基の量としては、樹脂(Y)のカルボキシ基の少なくとも一部を中和することができればよく、特に限定されないが、樹脂(Y)のカルボキシ基の50モル%以上100モル%以下を中和できる量を用いることが好ましく、カルボキシ基の70モル%以上100モル%以下を中和できる量を用いることがより好ましい。用いる塩基の量を前記範囲とすることにより、樹脂(Y)がより均一に分散した組成物(Z)を得ることができる。
【0105】
第4工程において、例えば水又は親水性有機溶剤を含む水を添加してもよい。この場合、例えば組成物(Z)の粘度を適度に調整することで、組成物(Z)の塗布性をより高めることができる。組成物(Z)が水又は親水性有機溶剤を含む水を含有する場合、組成物(Z)は、樹脂(Y)の樹脂分散液である。この樹脂(Y)の樹脂分散液は、安定性に優れ、樹脂の分散を長時間持続させることができる。
【0106】
親水性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、1,2-プロパンジオール等のアルコール;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、n-ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトンなどが挙げられる。
【0107】
第4工程において、架橋剤を添加してもよい。この場合、塗布した組成物(Z)から塗膜形成する際に、加熱により樹脂(Y)のカルボキシ基が架橋剤と反応し、架橋構造が形成されることにより、耐水性に優れる塗膜を形成できる。また、酸価の値が大きい樹脂(Y)についても、耐水性をより向上させることが可能となる。架橋剤としては、例えばカルボキシ基と反応する官能基を2個以上有する化合物などが挙げられ、例えば、メラミン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤などが挙げられる。
【0108】
第4工程において、例えば樹脂(Y)以外の他の水性樹脂、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、架橋剤、無機粒子等の適宜の添加剤を添加してもよい。
【0109】
組成物(Z)は、例えばバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法などにより容易に塗布することができる。
【0110】
製造方法(V)により得られた水系コーティング組成物(Z)から形成される樹脂被膜(以下、樹脂被膜(W)ともいう)は、耐水性に優れ、また、PETフィルム等の極性構造を有する樹脂、アルミ蒸着層等の金属などに対する密着性に優れている。また、樹脂被膜(W)は、ヘーズ(Haze)を低く抑えることができ、透明性に優れている。さらに、樹脂被膜(W)は、プライマー性等にも優れている。
【0111】
<水系コーティング組成物>
本実施形態の水系コーティング組成物(組成物(Z))は、水系ポリエステル樹脂を含有し、水系ポリエステル樹脂が、上述の樹脂(Y)の中和物を含む。「水系ポリエステル樹脂の中和物」とは、水系ポリエステル樹脂が有するカルボキシ基の一部又は全部を塩基で中和したものをいう。
【0112】
組成物(Z)は、例えば水又は親水性有機溶剤を含む水を含有していてもよい。この場合、例えば組成物(Z)の粘度を適度に調整することで、組成物(Z)の塗布性をより高めることができる。組成物(Z)が水又は親水性有機溶剤を含む水を含有する場合、組成物(Z)は、樹脂(Y)の樹脂分散液である。この樹脂(Y)の樹脂分散液は、安定性に優れ、樹脂の分散を長時間持続させることができる。
【0113】
組成物(Z)から形成される樹脂被膜(W)は、PETフィルム等の極性構造を有する樹脂、アルミ蒸着層等の金属などに対する密着性に優れている。また、樹脂被膜(W)は、ヘーズ(Haze)を低く抑えることができ、透明性に優れている。さらに、樹脂被膜(W)は、プライマー性等にも優れている。
【0114】
組成物(Z)は、例えば樹脂(Y)以外の他の水性樹脂、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、架橋剤、無機粒子等の適宜の添加剤を含有していてもよい。
【実施例
【0115】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明するが、本開示は、実施例のみに限定されるものではない。
【0116】
<水系ポリエステル樹脂の製造>
下記表1に示す原料を用い、下記手順に従って、水系ポリエステル樹脂を製造した。製造に用いたリサイクルポリエステルの詳細は、以下の通りである。
リサイクルポリエステルA:回収された使用済みPETボトルを原料としたマテリアルリサイクルポリエステル、固有粘度(IV値):0.88dl/g
リサイクルポリエステルB:回収された使用済みPETボトルを原料としたマテリアルリサイクルポリエステル、固有粘度(IV値):0.67dl/g
リサイクルポリエステルC:回収されたポリエステル繊維(PET繊維)廃材を原料としたマテリアルリサイクルポリエステル、固有粘度(IV値):0.59dl/g
リサイクルポリエステルD:回収されたPETフィルム廃材を原料としたマテリアルリサイクルポリエステル、固有粘度(IV値):0.50dl/g
なお、リサイクルポリエステルの固有粘度(IV値)は、ウベローデ粘度計を用いた測定結果から求めた。
ここで言う「固有粘度」とはJIS K 7390-1:2015)に準拠して測定された固有粘度のことを言う。
【0117】
(1)方法(A)による製造(実施例1,3,5,7~9及び比較例1~3)
(第1工程)
(X1工程)
撹拌機、窒素ガス導入口、温度計、精留塔及び冷却コンデンサーを備える容量1000mLの反応容器を準備した。この反応容器内に、表1に示すリサイクルポリエステルと第1多価カルボン酸成分と多価アルコール成分と、触媒であるシュウ酸チタンカリウムとを入れて、混合物を得た。この混合物を、常圧下、窒素雰囲気中で撹拌混合しながら200℃に昇温し、続いて7時間かけて250℃にまで徐々に昇温することで、エステル形成反応と解重合反応とを行った。
【0118】
(第2工程)
常圧下、窒素雰囲気中でX1工程の反応生成物の温度を200℃に安定させた。ここに、表1に示す第2多価カルボン酸成分を添加した後、常圧下、窒素雰囲気中で温度を200~210℃に保ちながら40分間撹拌混合することで、エステル形成反応を行った。
【0119】
(第3工程)
第2工程終了後、200~210℃の温度下、撹拌混合しながら0.67hPa(0.5mmHg)まで徐々に減圧してから、その状態で1時間保持することで、重縮合反応を行った。これにより、水系ポリエステル樹脂を得た。
【0120】
(2)方法(B)による製造(実施例2,4,6)
(第1工程)
(X2-1工程)
撹拌機、窒素ガス導入口、温度計、精留塔及び冷却コンデンサーを備える容量1000mLの反応容器を準備した。この反応容器内に、表1に示す第1多価カルボン酸成分と多価アルコール成分と、触媒であるシュウ酸チタンカリウムとを入れて、混合物を得た。この混合物を、常圧下、窒素雰囲気中で撹拌混合しながら200℃に昇温し、続いて3時間かけて240℃にまで徐々に昇温することで、エステル形成反応を行った。
【0121】
(X2-2工程)
X2-1工程終了後、反応容器内に表1に示すリサイクルポリエステルを入れて、常圧下、窒素雰囲気中で撹拌混合しながら250℃に昇温し、その状態で5時間保持することで、解重合反応を行った。
【0122】
(第2工程)
常圧下、窒素雰囲気中でX2-2工程の反応生成物の温度を200℃に安定させた。ここに、表1に示す第2多価カルボン酸成分を添加した後、常圧下、窒素雰囲気中で温度を200~210℃に保ちながら40分間撹拌混合することで、エステル形成反応を行った。
【0123】
(第3工程)
第2工程終了後、200~210℃の温度下、撹拌混合しながら0.67hPa(0.5mmHg)まで徐々に減圧してから、その状態で1時間保持することで、重縮合反応を行った。これにより、水系ポリエステル樹脂を得た。
【0124】
(3)参考例(参考例1~3)
実施例3、7及び比較例2の水系ポリエステル樹脂を、リサイクルポリエステルを用いず、新品のテレフタル酸誘導体であるテレフタル酸ジメチルを用いて前記製造を行い、参考例1~3の水系ポリエステル樹脂を得た。
【0125】
<水系コーティング組成物の調製>
(1)実施例1、2、7及び8
撹拌機、温度計及び冷却コンデンサーを備える容量1000mLの反応容器を準備した。この反応容器内に、前記得られた水系ポリエステル樹脂100質量部と、水288質量部と、中和塩基である25質量%アンモニア水溶液12質量部とを入れて、撹拌混合しながら85℃に昇温した。その後、85℃の温度下に2時間保持し、水系ポリエステル樹脂を中和し分散することで、樹脂濃度25質量%の水系コーティング組成物を得た。
【0126】
(2)実施例3~6、9及び比較例1~3
前記得られた水系ポリエステル樹脂は水溶性が低く、前記(1)の条件ではポリエステル樹脂を分散できなかった。このため親水性有機溶剤としてn-ブチルセロソルブを使用して水系ポリエステル樹脂を分散した。詳しくは、前記得られた水系ポリエステル樹脂100質量部と、n-ブチルセロソルブ20質量部と、水274質量部と、中和塩基である25質量%アンモニア水溶液6質量部とを入れて、撹拌混合しながら85℃に昇温した。その後、85℃の温度下に2時間保持し、水系ポリエステル樹脂を中和し分散することで、樹脂濃度25質量%の水系コーティング組成物を得た。
【0127】
(3)参考例(参考例1~3)
前記得られた参考例1~2の水系ポリエステル樹脂は、前記(1)の方法で、参考例3の水系ポリエステル樹脂は、前記(2)の方法で、それぞれ樹脂濃度25質量%の水系コーティング組成物を得た。
【0128】
<評価>
[樹脂物性]
前記製造した水系ポリエステル樹脂の樹脂物性を以下の方法により評価した。
【0129】
(酸価(mgKOH/g))
水系ポリエステル樹脂の酸価は、水酸化カリウムのエタノール溶液を用いた滴定による測定結果から求めた。
【0130】
(重量平均分子量)
水系ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン換算)による測定結果から求めた。
【0131】
(ガラス転移温度(℃))
水系ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定による測定結果から求めた。
【0132】
[物性測定]
前記調製した水系コーティング組成物(樹脂分散液)について、以下の方法により物性測定を行った。
【0133】
(水分散性)
樹脂分散液の外観を観察し、その結果を以下のように評価した。
A:沈降物が認められない。
B:沈降物がわずかに認められる。
C:沈降物が多く認められる。
D:樹脂が溶剤に分散しない。
【0134】
(樹脂分散液の安定性)
樹脂分散液をガラス瓶に入れて密閉し、20℃で15日間静置した。静置後の分散液の外観を観察し、その結果を以下のように評価した。
A:分散液に分離や沈降物が認められない。
B:分散液に分離や沈降物が少し認められる。
C:分散液に分離や沈降物が多く認められる。
【0135】
(溶液ヘーズの経日安定性)
樹脂分散液をガラス瓶に入れて密閉し、5℃、20℃、30℃でそれぞれ15日間静置した。静置後の分散液のヘーズ(%)を、日本電色工業社製のヘーズメーターを用いて測定し、その結果を以下のように評価した。
A:静置前の分散液と比べて、分散液のヘーズの変化率が20%未満である。
B:静置前の分散液と比べて、分散液のヘーズの変化率が20%以上40%未満である。
C:静置前の分散液と比べて、分散液のヘーズの変化率が40%以上60%未満である。
D:静置前の分散液と比べて、分散液のヘーズの変化率が60%以上である、又は分散液のヘーズが90%以上である。
【0136】
(PETフィルム密着性)
基材として未処理の二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。この基材の上に、前記塩基で中和して調製した樹脂分散液をバーコーターで塗布してから、120℃で5分間加熱した。これにより、塩基が除去され、カルボキシ基が再生した樹脂(Y)により、基材上に厚み約1μmのプライマー層を形成した。続いて、基材上のプライマー層にセロハン粘着テープを密着させて引きはがし、残存するプライマー層の様子を観察した。その結果を以下のように評価した。
A:プライマー層の剥離が認められない。
B:プライマー層の一部で剥離が認められる。
C:プライマー層の大半の部分で剥離が認められる。
【0137】
(アルミ蒸着層密着性)
基材として未処理の二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、前記「PETフィルム密着性」の場合と同じ方法で、基材上に厚み約1μmのプライマー層を形成した。続いて、基材上のプライマー層の上に、真空蒸着工程により厚み約1μmのアルミ蒸着層を形成した。このアルミ蒸着層にセロハン粘着テープを密着させて引きはがし、残存するアルミ蒸着層の様子を観察した。その結果を以下のように評価した。
A:アルミ蒸着層の剥離が認められない。
B:アルミ蒸着層の一部で剥離が認められる。
C:アルミ蒸着層の大半の部分で剥離が認められる。
【0138】
(耐水性)
基材として未処理の二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、前記「PETフィルム密着性」の場合と同じ方法で、基材上に厚み約1μmのプライマー層を形成した。続いて、プライマー層を形成した基材を50℃の水中に30分間浸漬した。30分後に水中から引き上げ、20℃の室内で24時間静置乾燥させた。乾燥後、基材上のプライマー層の様子を観察した。その結果を以下のように評価した。
A:プライマー層の白化や溶解が認められない。
B:プライマー層の一部で白化や溶解が認められる。
C:プライマー層の大半で白化や溶解が認められる。
【0139】
(ヘーズ)
基材として未処理の二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。この基材の上に、樹脂分散液をバーコーターで塗布してから、120℃で5分間加熱した。これにより、基材上に厚み約3μmのプライマー層を形成した。続いて、基材のみのヘーズ、及び基材とプライマー層とを合わせたヘーズを、日本電色工業社製のヘーズメーターを用いて測定した。基材とプライマー層とを合わせたヘーズから、基材のみのヘーズを差し引いた値を、プライマー層のヘーズ(%)として算出した。
【0140】
下記表1に、水分散性、樹脂分散液の安定性、樹脂分散液の安定性、溶液ヘーズの経日安定性、耐水性、PETフィルム密着性、アルミ蒸着層密着性及びヘーズについての物性試験による評価結果を示す。
【0141】
【表1】
【0142】
表1の結果から分かるように、実施例1~9の製造方法により得られた水系ポリエステル樹脂は、環境負荷を低減しつつ、耐水性に優れ、水分散性に優れると共に、樹脂分散液の安定性にも優れ、また、リサイクルポリエステル由来のテレフタル酸残基を有していても、リサイクルポリエステル由来ではないテレフタル酸又はテレフタル酸誘導体を用いたのと同等の密着性、透明性等の樹脂特性を有し、樹脂分散液は、長期間の水分散性に優れると共に、溶液ヘーズの経日安定性等の安定性をより向上させることができる。
【0143】
比較例1の製造方法により得られた水系ポリエステル樹脂は、水又は親水性有機溶剤を含む水に、界面活性剤等なしに分散させることができなかった。比較例2及び3の製造方法により得られた水系ポリエステル樹脂は、樹脂分散液の安定性、及び溶液ヘーズの経日安定性が劣っていた。