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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】スリップオンシューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 11/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A43B11/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023034276
(22)【出願日】2023-03-07
(65)【公開番号】P2024126105
(43)【公開日】2024-09-20
【審査請求日】2023-12-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 展示日 令和5年1月18日 展示会名 第174回2023夏日本グランドシューズコレクション 開催場所 神戸国際展示場2号館(神戸市中央区港島中町6-11-1)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500036819
【氏名又は名称】株式会社ヴァンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠司
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第218073741(CN,U)
【文献】特表2019-533526(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0107433(KR,A)
【文献】国際公開第2022/221339(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第10247163(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第19611797(DE,A1)
【文献】中国実用新案第217524082(CN,U)
【文献】登録実用新案第3195071(JP,U)
【文献】中国実用新案第215189645(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 11/00,23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪先部(1a)から踵部(1b)へ至り履口(1c)を有するアッパー(1)と、前記アッパー(1)に結合されて接地するソール(2)とから成り、前記踵部(1b)にスプリング部材(3)が内蔵され、足を前記履口(1c)から挿入して前記踵部(1b)を踏み付けつつ前記爪先部(1a)側へ前進させると、前記スプリング部材(3)の弾性により前記踵部(1b)が復元して、履いた状態となるスリップオンシューズにおいて、
前記スプリング部材(3)は、下方へ向けて拡開した一対の脚部(4)の上部が踵受部(5)を介し繋がった形状であり、前記一対の脚部(4)は、下端に位置し底側の幅が広い三角状の支持片(4a)から上端へかけて両側縁が直線をなす帯状のステム(4b)が後傾し、前記ステム(4b)が全長にわたってテーパー状に細くなる形状とされ、前記踵受部(5)は、上下方向の寸法が左右方向の中間部で大きく、両端に連なる脚部(4)へかけて次第に小さくなり、下縁が左右方向の中間部で下方へ膨出し、幅方向に馬蹄形に湾曲して上部が後方へ滑らかに反った形状とされ、
前記スプリング部材(3)の一対の脚部(4)の支持片(4a)が前記ソール(2)の盛り上がった側縁部(2a)に支持され、前記ステム(4b)が前記アッパー(1)の履口(1c)の下方で側面に沿い、前記踵受部(5)が前記アッパー(1)の踵部(1b)の後端上部に沿うように保持され
前記アッパー(1)の踵部(1b)は、前記スプリング部材(3)の踵受部(5)の内側に、スポンジ(7)を介してライニング(8)が張設され、前記踵受部(5)の外側が表面材(9)で覆われ、前記表面材(9)と前記ソール(2)の間で、前記表面材(9)よりも柔らかい月形外皮(10)が前記ライニング(8)の外側に重ねられた構成となっていることを特徴とするスリップオンシューズ。
【請求項2】
前記スプリング部材(3)の一対の脚部(4)は、高張力で弾性率が大きいピアノ線又はばね鋼線からなる金属線(6)を樹脂で被覆して形成され、前記脚部(4)の樹脂と前記踵受部(5)をなす樹脂とが一体に成型されていることを特徴とする請求項1に記載のスリップオンシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハンズフリーで履くことができるスリップオンシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
立ち座りの動作や手を細かく動かす動作が不自由な身体障害者は、かがんで手を使い靴を履くことが困難であり、また、幼い子供を抱いたりした状態で靴を履く際にも、通常の動作で靴を履くことが困難であることから、立ったままで履ける靴が求められている。
【0003】
このような要望に応えるため、例えば、下記特許文献1においては、ソールに結合されたアッパーの踵部に、ピアノ線又はばね鋼線を2つのU字形が前部で角度をもって連なるように曲げられたスプリング部材が内蔵され、足をアッパーの履口から挿入して踵部を踏み付けつつ爪先部側へ前進させると、スプリング部材の弾性により踵部が復元して、履いた状態となるスリップオンシューズが提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、アッパーの踵部に内蔵するスプリング部材として、弾性変形可能な線材の中央部に硬質樹脂の板材を固定したものを用い、アッパーの踵部を、上部がスプリング部材の板材を被覆する第1硬質皮部と、ソールの上端から上方へ延びる第2硬質皮部と、第1硬質皮部の下端と第2硬質皮部の上端間に位置しこれらよりも柔軟な素材から成る中間皮部とを繋いで形成したスリップオンシューズが記載されている。
【0005】
また、下記特許文献3には、アッパーの踵部に内蔵するスプリング部材として、左右の後傾したサイドアームの下部がベースで連なり、上部が中央セグメントで連なった環状のものが記載されている。このスプリング部材の中央セグメントは、内周縁へ向かって下降する傾斜面を有しており、足をアッパーの履口に挿入する際、中央セグメントに足を載せると、サイドアームが撓みつつ、足が滑るように前進し、足がアッパーの所定の位置に収まると、サイドアームが初期の姿勢に復元するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平1-81910号公報
【文献】登録実用新案第3239159号公報
【文献】特開2022-51925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2に記載されたようなスリップオンシューズでは、足をアッパーの履口に挿入しても、足が所定の位置までスムーズに前進せず、アッパーの踵部が復元しにくいため、屈んで手で補助しなければ完全に履くことができないものとなり、不便さが解消されない恐れがある。
【0008】
また、アッパーの踵部に内蔵するスプリング部材として、上記特許文献3に記載されたようなものを使用すると、左右のサイドアームの下部を繋ぐベースの存在により、アッパーのデザインが制約されるほか、足をアッパーの履口に挿入して体重をかけたとき、ベースの上端が足の踵の裏に当たり、違和感を覚える恐れがある。
【0009】
そこで、この発明は、手を使うことなく、立ったままでも簡単に履くことができ、多彩なデザインが可能となるスリップオンシューズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決するため、この発明は、爪先部から踵部へ至り履口を有するアッパーと、前記アッパーに結合されて接地するソールとから成り、前記踵部にスプリング部材が内蔵され、足を前記履口から挿入して前記踵部を踏み付けつつ前記爪先部側へ前進させると、前記スプリング部材の弾性により前記踵部が復元して、履いた状態となるスリップオンシューズにおいて、
前記スプリング部材は、下方へ向けて拡開した一対の脚部の上部が踵受部を介し繋がった形状であり、前記一対の脚部は、下端の支持片から上端へかけて帯状のステムが後傾すると共にテーパー状に細くなり、前記踵受部は、幅方向に馬蹄形に湾曲して上部が後方へ滑らかに反った形状とされ、
前記スプリング部材の一対の脚部の支持片が前記ソールの側縁部に支持され、前記ステムが前記アッパーの履口の下方で側面に沿い、前記踵受部が前記アッパーの踵部の後端上部に沿うように保持されているものとしたのである。
【0011】
また、前記スプリング部材の一対の脚部は、高張力で弾性率が大きい金属線を樹脂で被覆して形成され、前記脚部の樹脂と前記踵受部をなす樹脂とが一体に成型されているものとしたのである。
【0012】
さらに、これらの態様において、前記アッパーの踵部は、前記スプリング部材の踵受部の内側に厚いスポンジを介してライニングが張設され、前記踵受部の外側が表面材で覆われ、前記表面材と前記ソールの間で柔軟な月形外皮が前記ライニングの外側に重ねられているものとしたのである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るスリップオンシューズは、足をアッパーの履口から挿入して踵部を踏み付けると、足の踵がスプリング部材の踵受部で受け止められ、踵受部に案内されて足が滑るように前進する。このとき、スプリング部材の一対の脚部は、下端の支持片間が離間しているので、足の踵の裏面に違和感を覚えることがない。
【0014】
そして、スプリング部材の一対の脚部のステムが、上端へかけて後傾すると共にテーパー状に細くなる帯状となっていることから、ステムの下部よりも上部が柔軟に撓んで弾性をしなやかに発揮し、足を前方へ推し進める。
【0015】
その後、足がアッパーの所定の位置に収まると、一対の脚部の撓みが復元し、これに伴いアッパーの踵部が復元して、足の踵の足首側に沿うので、かがんで手を使うことなく、立ったままでもスリップオンシューズを脱げないように履くことができる。
【0016】
また、このスリップオンシューズに内蔵されるスプリング部材は、アッパーのデザインに殆んど影響を与えることがないので、通常のシューズと同様、カジュアルからフォーマルまで多彩なデザインのスリップオンシューズを提供することが可能となり、身体に障害を有する者や乳幼児を育てている親などの靴選びの選択肢を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明に係るスリップオンシューズ(紐靴のスニーカータイプ)の実施形態を斜め後方から示す斜視図
図2】同上のスプリング部材を平面に展開した状態を示す図
図3】同上のスプリング部材をソールの踵部にセットした状態を示す斜視図
図4】同上のスプリング部材を内蔵したアッパーの踵部を示す縦方向断面図
図5】同上のアッパーの踵部を踏み付けた状態を斜め後方から示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すスリップオンシューズは、紐靴のデザインを採用したスニーカーであり、爪先部1aから踵部1bへ至り履口1cを有するアッパー1と、アッパー1に結合されて接地するソール2とから構成され、アッパー1の踵部1bにスプリング部材3が内蔵されている。このスリップオンシューズを履く際、アッパー1の靴紐1dは、解いた状態から結ぶ必要はなく、常時結んだままでよい。
【0020】
図2に示すように、スプリング部材3は、平面に展開した状態において、下方へ向けて拡開した一対の脚部4の上部が踵受部5を介して繋がり、それぞれの脚部4と踵受部5とが鈍角をなす形状とされている。
【0021】
スプリング部材3において、一対の脚部4は、離間した下端に底側の幅が広い三角状の支持片4aが位置し、支持片4aから上端へかけて斜行する帯状のステム4bが下端から上端へかけてテーパー状に細くなる形状とされている。踵受部5は、上下方向の寸法が左右方向の中間部で大きく、両端に連なる脚部4へかけて次第に小さくなっている。
【0022】
また、スプリング部材3の一対の脚部4は、高張力で弾性率が大きいピアノ線やばね鋼線等の金属線6を硬質で若干の弾性を有する樹脂で被覆して形成され、脚部4の樹脂と踵受部5をなす樹脂とが一体に成型されている。金属線6は、その両側の樹脂を窪ませることにより、所定の位置に保持されている。
【0023】
図3に示すように、踵受部5は、幅方向に馬蹄形に湾曲すると共に、上部が後方へ滑らかに反った形状に成型されている。
【0024】
スリップオンシューズの製造に際し、スプリング部材3は、踵受部5を反発に抗してさらに湾曲させ、一対の脚部4の間隔をソール2の幅方向に押し縮めて、支持片4aがソール2の盛り上がった側縁部2aで支持されるようにする。
【0025】
実際の工程では、スプリング部材3は、ソール2へのセットに先立って、アッパー1の踵部1bの内側に固定される。この状態において、ステム4bが下端から上端へかけて後方へ傾斜した姿勢となる。
【0026】
そして、図4に示すように、スプリング部材3の一対の脚部4のステム4bがアッパー1の履口1cの下方で側面に沿い、踵受部5がアッパー1の踵部1bの後端上部に沿うように保持された状態で、アッパー1とソール2とが結合される。
【0027】
アッパー1の踵部1bは、スプリング部材3の踵受部5の内側にスポンジ7を介してライニング8が張設され、踵受部5の外側が表面材9で覆われ、表面材9の下部からソール2へかけて月形外皮10がライニング8の外側に重ねられた構成となっている。
【0028】
スポンジ7は、厚くクッション性に優れ、ライニング8は、表面の滑りがよく若干のクッション性を有するものとされている。また、表面材9は、アッパー1の主要構造材として強度や耐久性に優れた皮革や布地を用い、月形外皮10は、表面材9よりも柔らかい皮革を用いたものとされている。
【0029】
上記のようなスリップオンシューズは、図5に示すように、足をアッパー1の履口1cから挿入して踵部1bを踏み付けると、足の踵がスプリング部材3の踵受部5で受け止められ、踵受部5に案内されて足が滑るように前進する。このとき、スプリング部材3の一対の脚部4は、下端の支持片4aの間が離間しているので、立ったまま体重をかけても、スプリング部材3を踏んで足の踵の裏面に違和感を覚えることがない。
【0030】
そして、スプリング部材3の一対の脚部4のステム4bが、上端へかけて後傾すると共にテーパー状に細くなる帯状となっていることから、ステム4bの下部よりも上部が柔軟に撓んで弾性をしなやかに発揮し、足を前方へ推し進める。
【0031】
その後、足がアッパー1の所定の位置に収まると、一対の脚部4の撓みがスプリング部材3の弾力で復元し、これに伴いアッパー1の踵部1bが復元して、足の踵の足首側に沿うので、屈んで手を使うことなく、立ったままでもスリップオンシューズを脱げないように履くことができる。
【0032】
また、このスリップオンシューズに内蔵されるスプリング部材3は、アッパー1のデザインに殆んど影響を与えることがないので、通常のシューズと同様、カジュアルからフォーマルまで多彩なデザインのスリップオンシューズを提供することが可能となる。
【0033】
例えば、この実施形態に記載したような紐靴のスニーカーだけでなく、紐のないカジュアルシューズのほか、男性用のビジネスシューズや女性用のパンプス等、様々な種類の靴をハンズフリーでストレスなく履けるものとすることができ、身体に障害を有する者や乳幼児を育てている親などの靴選びの選択肢を広げることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 アッパー
1a 爪先部
1b 踵部
1c 履口
1d 靴紐
2 ソール
2a 側縁部
3 スプリング部材
4 脚部
4a 支持片
4b ステム
5 踵受部
6 金属線
7 スポンジ
8 ライニング
9 表面材
10 月形外皮
図1
図2
図3
図4
図5