(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ケイ素化合物被覆金属微粒子
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240927BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20240927BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20240927BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/62
C09C3/06
C09C3/08
(21)【出願番号】P 2023038923
(22)【出願日】2023-03-13
(62)【分割の表示】P 2022000091の分割
【原出願日】2017-06-01
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/066542
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/083001
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016111346
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595111804
【氏名又は名称】エム・テクニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎村 眞一
(72)【発明者】
【氏名】本田 大介
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/013762(WO,A1)
【文献】特開2009-102607(JP,A)
【文献】特開2004-124069(JP,A)
【文献】特開2003-342496(JP,A)
【文献】特開2016-041643(JP,A)
【文献】国際公開第00/042112(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素
酸化物で被覆されたケイ素
酸化物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物であって、
置換反応、付加反応、脱離反応、脱水反応、縮合反応、還元反応、酸化反応より選ばれる少なくとも1種である官能基の変更処理で、上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されて
おり、
上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm
-1
から1300cm
-1
の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm
-1
から980cm
-1
の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合の比率が、上記波数750cm
-1
から1300cm
-1
の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、
上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素酸化物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とする塗布用組成物。
【請求項2】
少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素
酸化物で被覆されたケイ素
酸化物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物であって、
置換反応、付加反応、脱離反応、脱水反応、縮合反応、還元反応、酸化反応より選ばれる少なくとも1種である官能基の変更処理で、上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されて
おり、
上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm
-1
から1300cm
-1
の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm
-1
から980cm
-1
の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合の比率が、上記波数750cm
-1
から1300cm
-1
の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、
上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素酸化物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とする塗布用組成物。
【請求項3】
少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素
酸化物で被覆されたケイ素
酸化物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物であって、
置換反応、付加反応、脱離反応、脱水反応、縮合反応、還元反応、酸化反応より選ばれる少なくとも1種である官能基の変更処理で、上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されて
おり、
上記Si-O結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm
-1
から1300cm
-1
の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm
-1
以上1300cm
-1
以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm
-1
から1300cm
-1
の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm
-1
から980cm
-1
の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、
上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素酸化物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とする塗布用組成物。
【請求項4】
少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素
酸化物で被覆されたケイ素
酸化物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物であって、
置換反応、付加反応、脱離反応、脱水反応、縮合反応、還元反応、酸化反応より選ばれる少なくとも1種である官能基の変更処理で、上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されて
おり、
上記Si-O結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm
-1
から1300cm
-1
の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm
-1
以上1300cm
-1
以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm
-1
から1300cm
-1
の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm
-1
から980cm
-1
の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、
上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素酸化物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とする塗布用組成物。
【請求項5】
上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子は、コアとなる1個の金属微粒子の表面全体を、シェルとなるケイ素
酸化物で被覆したコアシェル型ケイ素
酸化物被覆金属微粒子であることを特徴とする、請求項
3に記載の塗布用組成物。
【請求項6】
上記Si-OH結合の比率又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm
-1から1300cm
-1の領域におけるピークを波形分離することによって得られたものであることを特徴とする請求項1から
5の何れかに記載の塗布用組成物。
【請求項7】
上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子が、接近・離反可能な相対的に回転する処理用面間において金属微粒子が析出され、上記析出に引き続き連続的に上記金属微粒子の表面にケイ素
酸化物を被覆されることで得られたものであることを特徴とする請求項1から
6の何れかに記載の塗布用組成物。
【請求項8】
上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子が、少なくとも熱処理を施される前においては上記金属微粒子の内部にケイ素を含むものであり、熱処理を施されたことによって、熱処理を施される前に比べて、上記ケイ素が上記金属微粒子の内部から外周方向に移行したケイ素
酸化物被覆金属微粒子であることを特徴とする請求項1から
7の何れかに記載の塗布用組成物。
【請求項9】
上記Si-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下、又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されていることによって、
上記ケイ素
酸化物被覆金属微粒子の溶媒への分散性が制御されたものであることを特徴とする請求項1から
8の何れかに記載の塗布用組成物。
【請求項10】
請求項1から
9の何れかに記載の塗布用組成物が塗布された塗膜又は塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素化合物被覆金属微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、磁性材料や導電性材料、色材や触媒等、多岐に渡って用いられる材料であり、特に1μm以下の微粒子とすることによってその特性が向上し、分散体として用いる場合等にも好適な組成物となりうる。しかしながら、いずれの用途においても、金属微粒子が微細化されることによって発生又は向上する特性に伴って、同時に大気中での急激な酸化による爆発的な反応が起こりやすくなることや、水分との接触による酸化又は水酸化等によって金属微粒子として期待された特性が失われやすくなるなど、金属微粒子としての特性を最大限利用することが困難であった。
【0003】
これらの課題を解決する上では、特許文献1や特許文献2に記載されたように、金属微粒子の表面をシリカ等のケイ素化合物で被覆することは有効であるが、これら従来の技術においては、被覆状態の制御そのものが難しかったために、ケイ素化合物を被覆することによって、本来金属微粒子に期待されていた効果が損なわれることや、特性を厳密に制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子は得られておらず、ケイ素化合物によって被覆された金属微粒子の特性の要因が明確になっていなかった。
【0004】
特許文献3には導電性の制御を目的として金属粒子表面のシリカの被覆量によって粒子に対する被覆率を制御する被覆粒子の製造方法について記載されているが、絶縁性を高めるためには当然ながら被覆率を高める必要があり、そのように被覆率を高める処理がされたケイ素化合物被覆金属微粒子は、各種の分散媒中における分散性が著しく低下する場合や、期待された効果が発しないなどの問題があり、可能な限り金属微粒子に対するシリカ被覆量が低減されたケイ素化合物被覆金属微粒子についても産業界から要求されていた。
【0005】
シリカ被覆に関しては、特許文献4に、シリカ被覆金属酸化物粒子をさらにジメチルエトキシシランのような疎水性付与材にて表面処理した粒子が記載されている。しかしながら、シリカ被覆金属微粒子については全く開示されておらず、シリカ被覆金属酸化物粒子について化粧料を目的としてトリイソステアリン酸ポリグリセリンやシリコーンオイル、スクワラン等の油性分散媒への分散性を高めるために粒子を疎水性付与材で処理しているに過ぎない。また、特許文献4には、赤外吸収スペクトルにおける1150~1250cm-1に見られるピークが、Si-OHの変角振動の吸収であると記載されているが、通常はSi-Oの結合に帰属されるべきであり、Si-OHとの記載は明らかな誤記である。また、特許文献4に記載された赤外吸収スペクトルにおける異なる2つのピークの比率とシリカ被覆金属微粒子の特性とは明らかに無関係であり、そのため、特許文献4においてもシリカ被覆金属酸化物に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率が微粒子の特性に与える影響が見い出されておらず、特性を厳密に制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子は得られていなかった。
【0006】
本願出願人による特許文献5には、接近離反可能な相対的に回転する処理用面間において金属微粒子や磁性体微粒子等の各種ナノ粒子を析出させる方法を用いて均一な金属微粒子を製造する方法が記載されている。しかし、特許文献5においては均一な金属微粒子の製造に関して記載されているが、ケイ素化合物被覆金属微粒子については記載されておらず、当然ながらそれらのケイ素化合物被覆金属微粒子の特性の制御、特にケイ素化合物に含まれるSi-Oの結合又はSi-OHの結合の制御によるケイ素化合物被覆金属微粒子の分散性に関しても記載されていなかった。すなわち、ケイ素化合物被覆金属微粒子が発現する特性を制御することについては示されておらず、厳密に特性を制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-264611号公報
【文献】特開2007-088156号公報
【文献】特開2011-219869号公報
【文献】国際公開第2000/042112号パンフレット
【文献】国際公開第2009/008393号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、このような事情に照らし、特性が制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子を提供することを課題とする。すなわち金属微粒子に期待される特性を最大限向上させることや、そのような特性を補うことを目的として、ケイ素化合物で金属微粒子を被覆し、特性を制御することを課題とする。被覆されたケイ素化合物中のSi-OH結合又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、ケイ素化合物被覆金属微粒子の作製方法や作製後の環境変化において変化することを利用するものである。本願発明者は、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が特定の範囲においては制御可能であり、その特定の範囲において当該Si-OH結合の比率又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率を制御することで、ケイ素化合物被覆金属微粒子の分散性等の特性を厳密に制御できることを見出して本発明を完成させた。本発明はまた、上記事情に照らし、厳密に特性が制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子を用いた各種の組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されているケイ素化合物被覆金属微粒子である。
【0010】
また本発明は、少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されているケイ素化合物被覆金属微粒子である。
【0011】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率が、官能基の変更処理によって制御されたものであることが好ましい。
【0012】
また本発明は、上記官能基の変更処理が、置換反応、付加反応、脱離反応、脱水反応、縮合反応、還元反応、酸化反応より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、コアとなる1個の金属微粒子の表面全体を、シェルとなるケイ素化合物で被覆したコアシェル型ケイ素化合物被覆金属微粒子であることが好ましい。
【0015】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることが好ましい。
【0016】
また本発明は、上記金属元素又は半金属元素が、銀、銅及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0017】
また本発明は、上記Si-OH結合の比率又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm-1から1300cm-1の領域におけるピークを波形分離することによって得られたものであることが好ましい。
【0018】
また本発明は、上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm-1から1300cm-1の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm-1から980cm-1の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合の比率が、上記波数750cm-1から1300cm-1の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であることが好ましい。
【0019】
また本発明は、上記Si-O結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm-1から1300cm-1の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm-1以上1300cm-1以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm-1から1300cm-1の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm-1から980cm-1の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であることが好ましい。
【0020】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子が、接近・離反可能な相対的に回転する処理用面間において金属微粒子が析出され、上記析出に引き続き連続的に上記金属微粒子の表面にケイ素化合物を被覆されることで得られたものであることが好ましい。
【0021】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子が、少なくとも熱処理を施される前においては上記金属微粒子の内部にケイ素を含むものであり、熱処理を施されたことによって、熱処理を施される前に比べて、上記ケイ素が上記金属微粒子の内部から外周方向に移行したケイ素化合物被覆金属微粒子であることが好ましい。
【0022】
また本発明は、上記Si-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下、又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されていることによって、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の溶媒への分散性が制御されたものであることが好ましい。
【0023】
また本発明のケイ素化合物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物、透明材用組成物、磁性体組成物、導電性組成物、着色用組成物、反応用組成物又は触媒用組成物として実施できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することによって、分散性等の特性が制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子を提供できる。当該Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することによって、ケイ素化合物被覆金属微粒子に対して多様化する用途、及び目的の特性に対して従来に比べてより的確な組成物を容易に設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子のSTEMマッピング結果である。
【
図2】実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子の線分析結果である。
【
図3】実施例1-7で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子のFT-IR測定結果における、波数750cm
-1から1300cm
-1の領域について波形分離した結果である。
【
図4】実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子のXRD測定結果である。
【
図5】実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子の水分散液より作成したコロジオン膜を用いて観察したTEM写真である。
【
図6】実施例5-5で得られたケイ素化合物被覆ケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子のSTEMマッピング結果である。
【
図7】実施例5-5で得られたケイ素化合物被覆ケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子のXRD測定結果である。
【
図8】実施例5-5で得られたケイ素化合物被覆ケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子のXRD測定結果においてピークが確認された領域を拡大し、ピークリストをデータベースにおけるFe(Metal)のピークと比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態の一例を取り上げて説明する。なお、本発明の態様は以下に記載の実施形態にのみ限定するものではない。
【0027】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子組成物-1)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子は、上記ケイ素化合物金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率を制御することで分散性等の特性が制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子である。本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子を、塗膜や塗装体に塗布する目的に用いる塗布用組成物や、ガラスやフィルム、透明樹脂等の透明剤に練り込むことやコートする目的に用いる透明材用組成物、磁性流体や磁性材料等に添加する目的に用いる磁性体組成物、電子材料や半導体材料等に添加する目的に用いる導電性組成物、塗膜や塗装体又は透明剤等を着色する目的に用いる着色用組成物、各種の化学反応のための材料として用いる反応用組成物又は触媒用組成物に対して特に好適である。
【0028】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子組成物-2)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が0.1%以上70%以下の範囲で制御されているか、又は特にSi-OH結合/Si-O結合の比率が0.001以上700以下の範囲で制御されているケイ素化合物被覆金属微粒子である。それによって、上記各種の組成物に用いる場合の親水性又は親油性の分散媒に対して、厳密に分散性を制御することが可能である。例えば、異なる分散媒のオクタノール/水分配係数に対して、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子を用いることによって、分散媒に対する分散性が厳密に制御されているため、目的の組成物として用いた場合に、ケイ素化合物金属微粒子として必要とされた特性を十分に発揮することが可能となる。本願発明者は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率が、上記範囲外である場合は、これらの制御が困難であるにも関わらず、上記範囲内である場合には極めて容易に制御できることを見出した。通常被覆されているケイ素化合物は良好な分散状態を得るために使用する分散媒に応じて様々な官能基が処理されており、水系分散媒や非水系分散媒によりその官能基が選択される。例えばフェノール性ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、アルキル基等々の各種官能基が付加されたケイ素化合物を用いられるが、粒子径が小さくなればなるほど分散状態は凝集を伴うことにより悪化し、官能基の選択だけではその目的を達することが難しかった。そのような状況下、各種官能基を選択した状態でもSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することで目的の分散状態を得ることができることを見出し、本発明を完成した。すなわちFT-IRのスペクトルによって各種結合の情報が得られるが、特にその中でも波数750cm-1から1300cm-1の領域のピークを波形分離することによって得られるSi-OH結合、Si-O結合に帰属されるピーク面積の比率を制御することで目的の分散状態を実現できる。各種の溶媒に対して厳密に分散性を制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子を生成でき、またケイ素化合物被覆金属微粒子そのものの安定性や粉末の状態における保存安定性等の特性を制御できるため、上記各種の組成物に好適に用いることができることを見出した。
【0029】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子組成物-3)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子においては、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が0.1%以上70%以下の範囲に制御されているか、又はSi-OH結合/Si-O結合の比率が0.001以上700以下の範囲に制御されていることによって、上記分散性や安定性以外にも、紫外線や可視光線又は近赤外線等の電磁波に対する吸収特性、透過特性又は反射特性並びにプラズモン特性等が制御されるため、ガラスやフィルム、透明樹脂等に用いる目的の透明剤組成物や、塗膜や塗装体のような塗布用組成物に好適に用いることが可能である。また、少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子を磁性体組成物として用いる場合、ケイ素化合物によって絶縁されたナノサイズの磁区で形成されているため、磁気異方性を孤立させた制御が可能となり結果的に保持力も制御可能となる。すなわち磁性体組成物として従来見られなかったほどに好適である。また電子部品の内部電極としても好適である。例えば積層セラミックコンデンサーの内部電極に用いる場合、分散体を積層塗膜状に加工後、還元雰囲気で焼成されるが焼成時ケイ素化合物が電極の表層に移動し電極層と誘電体層の境界に薄い絶縁膜として形成され積層セラミックコンデンサーの性能は大きく向上する。またケイ素化合物被覆金属微粒子を上記磁性体組成物とする場合であっても内部電極材とする場合であっても、スラリー化が重要な因子であり適正な分散媒に凝集なく分散している状態のスラリー化が必須であり、Si-OH結合/Si-O結合の比率は塗膜形成状態や焼成条件による焼成後の状態に影響を及ぼす。Si-O結合は撥水性又は親油性、Si-OH結合は親水性の傾向も著しくその比率はやはり分散における支配的因子であり、焼成温度や焼成雰囲気でも水分蒸発や還元の進行状態、また絶縁性の制御にも重要な因子となる。
【0030】
さらに、半導体特性を持つケイ素化合物被覆金属微粒子の場合にあっては導電性や絶縁性又はそれらの温度依存性等の半導体特性が制御されたものであるため半導体用組成物にも好適に用いることが可能である。これらの制御が可能となった要因は定かでは無いが、粒子の表面に含まれるSi-OH結合又はSi-O結合のそれぞれが、異なるエネルギーの波に対して振動することで吸収する特性を有しており、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することによって、Si-OH結合又はSi-O結合のそれぞれが振動することで吸収する異なるエネルギーの種類を制御できると本願発明者は考えている。また、半金属であるケイ素元素同士のSi-Siのような結合や、ケイ素元素(Si)と他の金属元素又は半金属元素であるMとのSi-Mのような原子間を自由電子が自由に動き回ることが考えられる結合の末端部位、即ち粒子の表面においては、上記自由電子が行き場を失った状態であるために活性化された状態であり、常に新たな結合を生み出せる状態と言える。活性化された電子を含む金属元素又はケイ素のような半金属元素は、例えば周囲の酸素等との結合を生み、生じたケイ素-酸素結合(Si-O結合)又は金属-酸素結合(M-O結合)はさらに他の元素や官能基と反応することで、ケイ素-酸素結合(Si-OH結合)又は金属―水酸基結合(M-OH結合)等、粒子が置かれた環境下において最も安定な結合へと変化するものと本願発明者は考えている。即ち、それら粒子表面のSi-O結合又はM-O結合及びSi-OH結合又はM-OH結合は平衡状態であるため、粒子を特定の環境下において処理することによってSi-OH結合/Si-O結合の比率又はM-OH結合/M-O結合の比率を制御できるものであり、それらの比率が粒子の特性に与える影響は、粒子が小さくなるほどに大きくなるめに、上記Si-OH結合/Si-O結合の比率を厳密に制御することで、ケイ素化合物被覆金属微粒子の特性を厳密に制御できることを見出したものである。
【0031】
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子を触媒として用いる場合にあっては、上記分散性の制御以外にも、ケイ素化合物被覆金属微粒子の被覆状態の制御によって触媒能を制御することも可能であるが、例えば液中において用いる場合において、使用時には表面を被覆しているケイ素化合物の少なくとも一部を溶解させることで被覆率を制御し、被覆されていた金属微粒子の表面活性部位が、上記ケイ素化合物被覆が溶解することによって露出するために金属微粒子の触媒能が発揮又は向上されるが、その際に触媒能の制御のために、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することによって、上記金属微粒子の表面の少なくとも一部を被覆するケイ素化合物の当該液中での溶解度又は溶解速度を制御することが可能となり、上記触媒の特性を制御並びに向上することも可能であるため、触媒用組成物にも好適に用いることが可能である。本発明のケイ素化合物被覆金属微粒子を酸化剤や還元剤等の反応用材料として用いる場合にあっても同様に、液中における金属微粒子の表面の少なくとも一部を被覆するケイ素化合物の溶解度又は溶解速度を制御することによって、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれる金属微粒子と反応物との目的とする反応を制御し、反応生成物の収率や選択性を向上することが可能であるため反応用組成物にも好適に用いることが可能である。
【0032】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子の形態-1)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子は、金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物によって被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、上記金属としては、化学周期表上における金属元素又は半金属元素の単数又は異なる複数の元素を含む金属微粒子である。本発明における金属元素は、特に限定されないが、好ましくはAg、Cu、Fe、Al等の金属元素を挙げることができる。また、本発明における半金属元素は、特に限定されないが、好ましくは、Si、Ge、As、Sb、Te、Se等の半金属元素を挙げることができる。これらの金属や半金属について、単一の金属元素からなる金属微粒子であってもよく、複数の金属元素からなる合金微粒子や金属元素と半金属元素とを含む合金微粒子であってもよい。
【0033】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子の形態-2)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子における当該金属微粒子は、金属によってのみ構成されるものに限定するものではない。本発明に影響を与えない程度に金属以外の化合物を含むものとしても実施できる。例えば金属以外の化合物を含む金属微粒子又は合金微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物によって被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子としても実施できる。上記金属以外の化合物としては、酸化物又は水酸化物や窒化物、炭化物、硝酸塩や硫酸塩又は炭酸塩等の各種塩類、及び水和物や有機溶媒和物を挙げることができる。
【0034】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子の形態-3)
本発明のケイ素化合物被覆金属微粒子は、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-O結合に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が制御されたケイ素化合物被覆金属微粒子である。そのため、本発明のケイ素化合物被覆金属微粒子には、少なくともケイ素(Si)と酸素(O)が含まれる。ケイ素(Si)と酸素(O)が含まれていることの評価方法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(STEM)を用いて複数の粒子を観察し、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)によって、それぞれの粒子においてケイ素以外の元素に対するケイ素の存在比及び存在位置を確認する方法が好ましい。一例として、一個のケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるケイ素以外の元素とケイ素との存在比(モル比)を特定し、複数個のケイ素化合物被覆金属微粒子におけるモル比の平均値及び変動係数を算出することで、均一性を評価する方法や、マッピングによってケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるケイ素の存在位置を特定する方法等が挙げられる。本発明においては、STEMマッピング又は線分析において、ケイ素化合物被覆金属微粒子の表層近傍にケイ素及び酸素が検出されるケイ素化合物被覆金属微粒子であることが好ましい。金属微粒子の表面をケイ素化合物で被覆することによって、金属微粒子に対して、耐水性や耐酸・耐アルカリ性等の化学安定性を付与できる利点がある。
【0035】
(Si-OH結合及びSi-O結合の説明-1)
本発明においては、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率、又はSi-O結合に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することでケイ素化合物被覆金属微粒子の分散性等の各種特性を制御するものであるが、上記Si-OH結合又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率は、一例としてFT-IR測定結果より判断することができる。ここでIRとは赤外吸収分光法の略である。(以下、単にIR測定と示す。)また、上記Si-OH結合又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率は、IR測定以外の方法で測定してもよく、一例としてX線光電子分光法(XPS)や、固体核磁気共鳴(固体NMR)、電子エネルギー損失分光法(EELS)等の方法が挙げられる。
【0036】
(Si-OH結合及びSi-O結合の説明-2)
本発明において、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率は、ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトル測定における、波数750cm-1から1300cm-1の領域のピークを波形分離することによって得ることが好ましく、波数850cm-1から980cm-1の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたピークをSi-OH結合に由来するピークとすることが好ましく、波数1000cm-1以上1300cm-1以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたピークをSi-O結合に由来するピークとすることが好ましい。通常、上記波数750cm-1から1300cm-1の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率をSi-OH結合の比率とし、上記のピークの総面積に対する上記Si-O結合に帰属されたピークの面積の比率をSi-O結合の比率とすることが好ましく、上記波数750cm-1から1300cm-1の領域のピークを波形分離することによって得られた、上記Si-O結合の比率に対する上記Si-OH結合の比率より上記Si-OH結合/Si-O結合の比率を算出することが好ましい。即ち、少なくとも特許文献4において記載された結合の種類とは異なる官能基の結合についてその比率を制御する。
【0037】
(非晶質のケイ素化合物の説明)
本発明において、上記金属微粒子の表面の少なくとも一部を被覆するケイ素化合物は、上記Si-OH結合の比率又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率を制御することが容易となるために非晶質のケイ素酸化物を含むことが好ましい。ケイ素化合物が非晶質のケイ素酸化物を含むことの評価方法としては特に限定されないが、上記STEMマッピングによるSi及びOの存在の確認と、赤外吸収スペクトルによるケイ素酸化物の存在の確認に加えて、XRD測定において結晶性のシリカ(SiO2)に由来するピークが確認されないことを組み合わせて評価する方法や、TEM観察やSTEM観察において、Si及びOの検出される部位に結晶格子が観察されないことを確認する等の方法が挙げられる。
【0038】
(Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御方法-1)
本発明において、上記Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御方法については特に限定されないが、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれる官能基の変更処理によって、上記Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することが好ましい。上記官能基の変更処理は、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれる官能基に対して、従来公知の置換反応、付加反応、脱離反応、脱水反応、縮合反応、還元反応又は酸化反応等を行う方法によって上記Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することが可能である。上記官能基の変更処理によって、上記Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を高く制御しても良いし、低く制御しても良い。一例として、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合に対して、例えば無水酢酸のようなカルボン酸を作用させ、カルボキシル基(-COOH)からOHが、Si-OH基における水酸基(-OH)からHが脱離する脱水・縮合反応により達成されるエステル化によってSi-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御する方法が挙げられ、エステル化において、酸無水物を用いる方法の他、混合酸無水物、酸ハライド等、又はカルボジイミド等の脱水剤を用いる方法等を用いることもできる。上記エステル化以外には、アルキルハライド、アリールハライド若しくはヘテロアリールハライドを、Si-OH基に好ましくは酸触媒の存在下において作用させることで脱水によって上記アルキルハライド等の物質とSiとの間にエーテル結合を生じさせる方法や、イソシアネート又はチオイソシアネートを上記Si-OHに作用させることで(チオ)ウレタン結合を生じさせる方法等によって、上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することも可能である。
【0039】
上記Si-OH結合に作用させる物質について、フッ素を含む官能基や、親水性又は親油性等の官能基を含む物質を用いて、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御しても良い。本発明においてはSi-OH結合又はSi-O結合に直接他の物質又は官能基を作用させることによって、新たな結合を生むことに限定されるものではなく、例えば粒子に含まれるカルボン酸等にカルボジイミドを作用させる方法によって、上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御する方法やSi-OH結合に、エチレンオキサイド等を作用させることによって、Si-O-(CH2)2-OHのような結合を生むことやエピハロヒドリンを作用させる等の方法によって、上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することも可能である。その他にも、過酸化水素やオゾンをケイ素化合物被覆金属微粒子に作用させる方法によって上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することもできる。また、ケイ素化合物被覆金属微粒子を液中において析出させる際に、当該ケイ素化合物被覆金属微粒子を析出させる際の金属原料液や金属析出溶媒の処方や、pHを制御する等の方法によって上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することも可能である。また、脱水反応の一例として、ケイ素化合物被覆金属粒子を熱処理する方法によって上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することもできる。ケイ素化合物被覆金属微粒子を熱処理する方法によって上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御する場合には、乾式での熱処理によっても実施できるし、ケイ素化合物被覆金属微粒子を分散媒に分散させた分散体の状態で熱処理することによっても実施できる。
【0040】
(Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御方法-2)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子の官能基変更処理としては、脱水等の反応以外にもケイ素化合物被覆金属微粒子を還元雰囲気や酸化雰囲気において処理することによる還元反応や酸化反応によって、Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することができる。例えばケイ素化合物被覆金属微粒子の粉末を炉内において、水素やアンモニア、硫化水素や二酸化硫黄、一酸化窒素などの還元性ガス又は酸素、オゾン、二酸化窒素等の酸化性ガスなどで処理することによって、金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物によって被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSiやMの酸化数を変更することによって、Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することができる。上記酸化処理又は還元処理を含むこれらの官能基の変更処理は、例えば熱処理と還元処理を同時に行う方法など、それらを組み合わせて行ってもよい。
【0041】
(Si-OH結合又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御方法-3)
また、後述するように、ケイ素化合物被覆金属微粒子を目的の溶媒に分散し、当該分散液に官能基を含む物質を加え攪拌等の処理を施して上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御を実施してもよいし、上記金属原料液と金属析出溶媒及びケイ素化合物原料液を混合して析出させたケイ素化合物被覆金属微粒子を含む分散液をそのまま続けて攪拌等の処理を施して上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御を実施しても良い。さらに、分散装置と濾過膜とを連続させた装置を構築し、粒子に対する分散処理とクロスフロー方式の膜濾過による処理によってケイ素化合物被覆金属微粒子を含むスラリーから不純物を除去する等の方法を行う際のスラリー温度やクロスフローに用いる洗浄液の温度の変更等によっても実施できる。この場合にあっては、当該ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子、特にそれぞれの一次粒子の表面に対して均一な改質処理を行うことができるために、本発明におけるケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれる上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御と、分散性等の特性との制御をより厳密かつ均質に行うことが可能となる利点がある。
【0042】
上記ケイ素化合物被覆金属微粒子を析出させる際のpH調整については、本発明における各種溶液、溶媒の少なくとも1つに酸性物質又は塩基性物質等のpH調整剤を含めることによって調整してもよいし、金属原料液を含む流体と金属析出溶媒を含む流体とを混合する際の流量を変化させることによって調整してもよい。
【0043】
本発明にかかるケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれる官能基を変更する方法としては、特に限定されない。ケイ素化合物被覆金属微粒子を目的の溶媒に分散し、当該分散液に官能基を含む物質を加え攪拌等の処理を施して実施してもよいし、ケイ素化合物被覆金属微粒子を含む流体と官能基を含む物質を含む流体とを特許文献5に記載のマイクロリアクターを用いて混合することで実施してもよい。
【0044】
官能基を含む物質としては、特に限定されないが、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれる水酸基と置換可能な官能基を含む物質であって、無水酢酸や無水プロピオン酸等のアシル化剤;ジメチル硫酸や炭酸ジメチル等のメチル化剤;及びクロロトリメチルシラン、メチルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。その他にも例えば疎水性基であるCF結合を含む物質としてトリフルオロ酢酸やトリフルオロメタンスルホン酸、又はそれらの無水物のようなフッ素を含む化合物や、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシランやトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シランのようにフッ素を含むシランカップリング剤、又はトリフルオロメタンやトリフルオロエタンなどフッ素化合物が挙げられる。さらに、例えばトリフルオロメタンやトリフルオロエタンなどの気体をケイ素化合物被覆酸化物粒子に作用させる方法によっても当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することも可能である。具体的には、これらの水酸基と置換可能な官能基を含む物質を用いた場合には、Si-OH結合の比率を制御することが可能である。
【0045】
上述のとおり、過酸化水素やオゾンを酸化物粒子に作用させる方法によっても上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することもできる。過酸化水素やオゾンをケイ素化合物被覆金属微粒子に作用させる方法しては、特に限定されない。ケイ素化合物被覆金属微粒子を目的の溶媒に分散し、当該分散液に過酸化水素又はオゾン又はそれらを含む水溶液等の溶液を加え攪拌等の処理を施して実施してもよいし、ケイ素化合物被覆金属微粒子を含む流体と過酸化水素又はオゾンを含む流体とを特許文献5に記載のマイクロリアクターを用いて混合することで実施してもよい。
【0046】
上記分散体としては、水や有機溶媒、樹脂等の液状の分散媒にケイ素化合物被覆金属微粒子を分散させた、液状の分散体としても実施できるし、ケイ素化合物被覆金属微粒子を含む分散液を用いて作製した塗膜状とした分散体としても実施できる。ケイ素化合物被覆金属微粒子を含む分散体の状態として熱処理した場合には、乾式での熱処理に比べて粒子の凝集が抑制できることや、例えば塗膜に本発明のケイ素化合物被覆金属微粒子を用いた場合には、ケイ素化合物被覆金属微粒子を塗膜とした後に、熱処理等の方法でケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれる上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することでケイ素化合物被覆金属微粒子の特性を制御することが可能であるため、工程数の削減や、厳密な特性の制御に好適である。
【0047】
また上記塗膜用途以外にも、例えば建造物のガラスやフィルム、透明樹脂等に用いる透明材用組成物においても、ガラスや樹脂等にケイ素化合物被覆金属微粒子を分散させることによって、紫外線や近赤外線等の電磁波に対する遮蔽にも好適に用いることができるために、紫外線防御又は近赤外防御目的ケイ素化合物被覆金属微組成物としても好適に用いることができる。また、上記塗膜と同様にガラスや透明樹脂等にケイ素化合物被覆金属微粒子を分散させてフィルム状とした後に、熱処理等による官能基の変更処理を行うことによってケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することでケイ素化合物被覆金属微粒子の特性を制御することも可能であり、上記塗膜と同様に工程数の削減や、厳密な特性の制御に好適である。
【0048】
本発明においては、ケイ素化合物被覆金属微粒子における金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であることが好ましく、1nm以上1μm以下であることがより好ましい。また、被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子における一次粒子径においても、1μm以下であることが好ましく、1nm以上0.5μm以下であることがより好ましい。ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合又はSi-O結合が主に粒子の表面に存在することによって、ケイ素化合物被覆金属微粒子の特性の制御を厳密に行うことが可能となることが想定されるため、一次粒子径が1μm以下のケイ素化合物被覆金属微粒子は、一次粒子径が1μmを超えるケイ素化合物被覆金属微粒子に比べて表面積が増大されており、ケイ素化合物被覆金属微粒子のSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することによる当該ケイ素化合物被覆金属微粒子の分散性等の特性に対して与える影響が大きいことが考えられる。そのため一次粒子径が1μm以下のケイ素化合物被覆金属微粒子にあっては、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することで、所定の特性(特に、塗膜や塗装体等に用いる目的の塗布用組成物、又は透明性を求められる塗装体やガラス、透明樹脂やフィルムに用いる目的の透明材用組成物、磁性流体等の磁性体に用いる目的の磁性体組成物、半導体等に用いる目的の半導体組成物、導電性材料として用いる目的の導電性組成物、反応用材料等に用いる目的の反応用組成物又は触媒材料として用いる目的の触媒用組成物に用いるのに好適な特性)を好適に発揮させることができる利点がある。
【0049】
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子においては、ケイ素化合物による被覆前の上記金属微粒子の平均一次粒子径に対するケイ素化合物被覆金属微粒子の平均一次粒子径の割合が100.5%以上190%以下であることが好ましい。金属微粒子に対するケイ素化合物の被覆が薄すぎると、ケイ素化合物被覆金属微粒子が有する特性に関する効果等を発揮し得なくなるおそれがあることから、ケイ素化合物被覆金属微粒子の平均一次粒子径が、金属微粒子の平均一次粒子径の100.5%以上であることが好ましく、被覆が厚すぎる場合や、粗大な凝集体を被覆した場合には特性の制御が困難となること、並びに被覆の厚みが1μmを超えると、IR測定結果における、上記Si-OH結合に由来するピークとSi-O結合に由来するピークとが重なりあう可能性が発生することから、ケイ素化合物被覆金属微粒子の平均一次粒子径が、金属微粒子の平均一次粒子径の190%以下であることが好ましい。本発明に係る各種の組成物には、表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆した金属微粒子、即ちケイ素化合物被覆金属微粒子そのものを含む。本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子は、コアとなる金属微粒子の表面全体をケイ素化合物で均一に被覆したコアシェル型のケイ素化合物被覆金属微粒子であってもよい。また、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集していない、単一の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆金属微粒子であることが好ましいが、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆金属微粒子であってもかまわない。但しその場合にあっては、一定の大きさを超えた上記凝集体をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆金属微粒子は、単一の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆金属微粒子に比べて分散性等の上記特性の効果が得にくいことから好ましくない。ここで、一定の大きさを超えた上記凝集体とは、例えば、凝集体の大きさが1μmを超えるものを言う。そして、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上190%以下であることが好ましい。なお、上記凝集体の径とは、上記凝集体の最大外周間の距離とする。
【0050】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法:好ましい方法)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法の一例として、ケイ素化合物で被覆される金属微粒子の原料を少なくとも含む金属原料液と、当該金属微粒子を析出させるための金属析出物質を少なくとも含む金属析出溶媒とを用意し、金属原料液と金属析出溶媒とを混合させた混合流体中で、反応、晶析、析出、共沈等の方法で金属微粒子を析出させ、上記析出させた金属微粒子を含む上記混合流体と、被覆する化合物である、ケイ素化合物の原料を少なくとも含むケイ素化合物原料液とを混合させて、上記金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆することによってケイ素化合物被覆金属微粒子を製造する方法を用いることが好ましい。また、上記金属微粒子が合金微粒子の場合とし、ケイ素化合物被覆合金微粒子を作製することを目的とする場合には、上記金属微粒子に含まれる異なる複数の金属元素又は半金属元素とは、上記金属原料液に一緒に含まれていてもよく、金属原料液と金属析出溶媒にそれぞれ含まれていてもよく、金属原料液と金属析出溶媒の両者又はケイ素化合物原料液に含まれていてもよい。
【0051】
本発明におけるケイ素化合物被覆金属微粒子の原料としては、特に限定されない。反応、晶析、析出、共沈等の方法でケイ素化合物被覆金属微粒子となるものであれば実施できる。また、本発明において、金属元素又は半金属元素の化合物を化合物と総称する。化合物としては特に限定されないが、一例を挙げると、金属元素又は半金属元素を含む金属若しくは半金属の塩や酸化物、水酸化物、水酸化酸化物、窒化物、炭化物、錯体、有機塩、有機錯体、有機化合物又はそれらの水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。なお、金属又は半金属の単体を用いることも可能である。金属又は半金属の塩としては、特に限定されないが、金属若しくは半金属の硝酸塩や亜硝酸塩、硫酸塩や亜硫酸塩、炭酸塩、蟻酸塩や酢酸塩、リン酸塩や亜リン酸塩、次亜リン酸塩や塩化物、オキシ塩やアセチルアセトナート塩又はそれらの水和物、有機溶媒和物等が挙げられ、有機化合物としては金属又は半金属のアルコキシド等が挙げられる。以上、これらの金属又は半金属の化合物は単独で使用してもよく、複数以上の混合物として使用してもよい。本発明においては、ケイ素化合物被覆金属微粒子を構成する金属が異なる複数の金属元素又は半金属元素である場合、主たる金属元素をM1とし、副となる金属元素又は半金属元素をM2とすれば、M1に対するM2のモル比(M2/M1)が0.01以上1.00以下であることが好ましい。
【0052】
また、本発明に係るケイ素化合物の原料としては、ケイ素の酸化物や水酸化物、その他ケイ素の塩やアルコキシド等の化合物やそれらの水和物が挙げられる。特に限定されないが、ケイ酸ナトリウム等のケイ酸塩や、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリフルオロプロピル-トリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、及びTEOSのオリゴマ縮合物、例えば、エチルシリケート40、テトライソプロピルシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラブトキシシラン、及び同様の物質が挙げられる。さらにケイ素化合物の原料として、その他のシロキサン化合物、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,9-ビス(トリエトキシシリル)ノナン、ジエトキシジクロロシラン、トリエトキシクロロシラン等を用いてもかまわない。
【0053】
また、上記金属微粒子又は被覆するためのケイ素化合物の原料が固体の場合には、各原料を溶融させた状態、又は後述する溶媒に混合又は溶解された状態(分子分散させた状態も含む)で用いることが好ましい。各原料が液体や気体の場合であっても、後述する溶媒に混合又は溶解された状態(分子分散させた状態も含む)で用いることが好ましい。
【0054】
金属析出物質としては、金属原料液に含まれるケイ素化合物被覆金属微粒子の原料をケイ素化合物被覆金属微粒子として析出させることができる物質であれば、特に限定されず、例えば、金属原料液に含まれる金属または半金属のイオンを還元可能な還元剤を用いることが好ましい。還元剤としては、特に限定されないが、ケイ素化合物被覆金属微粒子を構成する金属元素又は半金属元素を還元できる還元剤の全てが使用可能である。一例を挙げると、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウムなどのヒドリド系還元剤や、ホルマリンやアルデヒド等のアルデヒド類、亜硫酸塩類、蟻酸、蓚酸、コハク酸、アスコルビン酸、クエン酸等のカルボン酸類あるいはラクトン類、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、オクタノール等の脂肪族モノアルコール類、ターピネオール等の脂環族モノアルコール類等のモノアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の脂肪族ジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類、ジエタノールアミンやモノエタノールアミン等のアルカノールアミン類、ハイドロキノン、レゾルシノール、アミノフェノール等のフェノール類、グルコース、フルクトース等の糖類、あるいはクエン酸ナトリウム、次亜塩素酸またはその塩、遷移金属のイオン(チタンや鉄のイオンなど)や、ヒドラジン類や、トリエチルアミンやトリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、オクチルアミン、ジメチルアミノボランなどのアミン類、ピロリドン類(ポリビニルピロリドン、1-ビニル-2-ピロリドン、メチルピロリドン)などが挙げられ、水素ガスやアンモニアガスなどの還元性の気体などを用いることもできる。
【0055】
また、上記金属原料液や金属析出溶媒には、酸性物質又は塩基性物質を含んでも良い。塩基性物質としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の金属水酸化物、ナトリウムメトキシドやナトリウムイソプロポキシドのような金属アルコキシド、トリエチルアミン、ジエチルアミノエタノールやジエチルアミン等のアミン系化合物やアンモニア等が挙げられる。
【0056】
酸性物質としては、王水、塩酸、硝酸、発煙硝酸、硫酸、発煙硫酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、クエン酸等の有機酸が挙げられる。なお、上記塩基性物質及び酸性物質は、ケイ素化合物被覆金属微粒子又は被覆するための化合物を析出させるために使用することもできる。
【0057】
(溶媒)
金属原料液、金属析出溶媒又はケイ素化合物原料液に用いる溶媒としては、例えば水や有機溶媒、又はそれらの複数からなる混合溶媒が挙げられる。上記水としては、水道水、イオン交換水、純水、超純水、RO水(逆浸透水)等が挙げられ、有機溶媒としては、アルコール化合物溶媒、アミド化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、イオン性液体、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物等が挙げられる。上記の溶媒はそれぞれ単独で使用してもよく、又は複数を混合して使用してもよい。アルコール化合物溶媒としては、メタノールやエタノール等の1価アルコールや、エチレングリコールやプロピレングリコール等のポリオール等が挙げられる。
【0058】
(分散剤等)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子の作製に悪影響を及ぼさない範囲において、目的や必要に応じて各種の分散剤や界面活性剤を用いてもよい。特に限定されないが、分散剤や界面活性剤としては一般的に用いられる様々な市販品や、製品又は新規に合成したもの等を使用できる。一例として、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤や、各種ポリマー等の分散剤等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記の界面活性剤及び分散剤は、金属原料液、金属析出溶媒の少なくともいずれか1つの流体に含まれていてもよい。また、上記の界面活性剤及び分散剤は、金属原料液、金属析出溶媒とも異なる、別の流体に含まれていてもよい。
【0059】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法:方法概要)
上記金属微粒子の表面の少なくとも一部にケイ素化合物を被覆する工程においては、上記金属微粒子が凝集する前にケイ素化合物によって被覆することが好ましい。上記金属微粒子を含む流体に、ケイ素化合物原料液を混合する際には、上記金属微粒子が析出し、その後如何に凝集するよりも早い速度でケイ素化合物原料液を投入してケイ素化合物を上記金属微粒子の表面に析出させるかが重要である。さらに、上記ケイ素化合物原料液を、上記金属微粒子を含む流体に投入することによって、上記金属微粒子を含む流体のpH及びケイ素化合物原料の濃度が徐々に変化することとなり、粒子が分散しやすい状況から凝集しやすい状況となった後に粒子の表面を被覆するためのケイ素化合物が析出すると、上記本発明の特性を発揮できない程に凝集する前に被覆することが困難となる可能性がある。上記金属微粒子が析出した直後に、ケイ素化合物原料液に含まれるケイ素化合物原料を作用させることが好ましい。特許文献5に記載されたような接近・離反可能な相対的に回転する処理用面間において、金属微粒子を析出させ、上記金属微粒子の析出に引き続き、連続的に上記金属微粒子の表面にケイ素化合物を被覆する方法によってケイ素化合物被覆金属微粒子を得ることが好ましい。上記ケイ素化合物被覆金属微粒子を得る際の温度やpH、処方条件を変更することによって、本発明のケイ素化合物被覆金属微粒子の作製と、Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御及びそれによる当該ケイ素化合物被覆金属微粒子の特性の制御を厳密に行える利点がある。上記ケイ素化合物被覆金属微粒子を得る際の温度を一定以上とすることで、ケイ素化合物被覆金属微粒子における金属微粒子と被覆するケイ素化合物の層との間に中空層を持つケイ素化合物被覆金属微粒子を作製することが可能である。一定温度以上の環境下において析出した金属微粒子の表面を同程度の温度においてケイ素化合物で被覆し、その後室温などの低温にまで冷却することによって、ケイ素化合物被金属微粒子における金属微粒子の収縮率の方が、ケイ素化合物の収縮率の方が小さいことを利用するものである。本発明において、上記中空層を有するケイ素化合物被覆金属微粒子を得るための温度は150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。
【0060】
(ケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法:装置)
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法の一例としては、例えば、マイクロリアクターを用いたり、バッチ容器内で希薄系での反応を行う等によってケイ素化合物被覆金属微粒子を作製する等の方法が挙げられる。またケイ素化合物被覆金属微粒子を作製するために、本願出願人によって提案された特開2009-112892号公報にて記載されたような装置及び方法を用いてもよい。特開2009-112892号公報に記載の装置は、断面形状が円形である内周面を有する攪拌槽と、該攪拌槽の内周面と僅かな間隙を在して付設される攪拌具とを有し、攪拌槽には、少なくとも二箇所の流体入口と、少なくとも一箇所の流体出口とを備え、流体入口のうち一箇所からは、被処理流体のうち、反応物の一つを含む第一の被処理流体を攪拌槽内に導入し、流体入口のうちで上記以外の一箇所からは、上記反応物とは異なる反応物の一つを含む第二の被処理流体を、上記第一の被処理流体とは異なる流路より攪拌槽内に導入するものであり、攪拌槽と攪拌具の少なくとも一方が他方に対し高速回転することにより被処理流体を薄膜状態とし、この薄膜中で少なくとも上記第一の被処理流体と第二の被処理流体とに含まれる反応物同士を反応させるものであり、三つ以上の被処理流体を攪拌槽に導入するために、同公報の
図4及び5に示すように導入管を三つ以上設けてもよいことが記載されている。また上記マイクロリアクターの一例としては、特許文献5に記載の流体処理装置と同様の原理の装置が挙げられる。
【0061】
本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法の、上記方法とは異なる方法としては、当該金属微粒子に含まれる金属の前駆体となり得る物質の微粒子を還元雰囲気において処理する方法が挙げられる。具体的には、上記前駆体を含む微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物によって被覆したケイ素化合物被覆前駆体微粒子又は、上記前駆体を含む微粒子にケイ素をドープされたケイ素ドープ前駆体微粒子を用意し、上記ケイ素化合物被覆前駆体微粒子又は上記ケイ素ドープ前駆体微粒子を還元雰囲気において処理する方法である。上記前駆体としては、当該金属微粒子を構成する金属元素又は半金属元素を含む酸化物又は水酸化物や窒化物、炭化物、硝酸塩や硫酸塩又は炭酸塩等の各種塩類、及び水和物や有機溶媒和物を挙げることができる。例えば、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子等のケイ素化合物被覆前駆体微粒子を還元性雰囲気である水素雰囲気において熱処理を行うことによって、ケイ素化合物被覆鉄粒子への還元を行うことが可能である。また、ケイ素化合物被覆前駆体微粒子を還元雰囲気において処理することで、当該ケイ素化合物もケイ素にまで還元された場合にあっても、大気などの大気雰囲気において処理することによって、ケイ素酸化物等のケイ素化合物とすることができるため、上記同様にケイ素化合物被覆金属微粒子を得ることができる。このように、当該金属微粒子の前駆体を含むケイ素化合物被覆前駆体微粒子を還元雰囲気において処理することによって、ケイ素化合物被覆金属微粒子の製造と、上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率とを実質的に同時に行えるだけでなく、上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率をより厳密に行うことが可能となる利点がある。
【0062】
また、本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子は、上記前駆体にケイ素が含まれる、ケイ素ドープ前駆体微粒子について還元雰囲気において処理することで得ることもできる。例えば、まず、ケイ素ドープ前駆体粒子であるケイ素ドープ酸化鉄粒子を還元性の雰囲気下において熱処理することによって、ケイ素及び鉄のいずれもが還元されてケイ素鉄合金粒子を得ることができる。次に得られたケイ素鉄合金粒子を大気などの酸化性雰囲気において処理することでケイ素鉄合金粒子の表面に含まれるケイ素を酸化してケイ素酸化物等のケイ素化合物とすることによってケイ素化合物被覆鉄粒子又はケイ素化合物被覆ケイ素鉄合金粒子のようなケイ素化合物被覆金属微粒子を作製することが可能である。
【0063】
また、本願発明者は、金属粒子、又は酸化物等の前駆体粒子に含まれるケイ素が、熱処理によって粒子の内側から外部に向かって移動する変化が行われることを本願発明者は見出している。粒子同士が融着した場合にあっても、粒子間の融着した部位にはケイ素及びケイ素化合物を含まない状態にまで低減された状態にでき、融着によって処理前よりも粒子径が増大化した粒子の表面をケイ素化合物が被覆している状態にできることを見出している。これらの方法を用いることによって作製した、少なくとも熱処理を施される前においては上記金属微粒子の内部にケイ素を含み、熱処理を施されたことによって、熱処理施される前に比べて、上記ケイ素が上記金属微粒子の内部から外周方向に移行したケイ素化合物被覆金属微粒子は、前駆体粒子の還元又は粒子径の制御、上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御をそれぞれ同時に行える利点がある。ただし、本発明においては、上記の還元と上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御とを同時に行うことに限定するものではない。また、例えば本発明に係るケイ素化合物被覆金属微粒子を導電性材料である配線材料等に用いた場合にあっては、当該ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれる金属元素によって導電性配線を形成すると同時に、配線の外周部をケイ素化合物によって被覆した状態にできるために、当該配線の外周部のケイ素化合物によって配線を形成した金属を水分から保護することや酸化から防止することが可能となる利点がある。なお、本発明において、上記ケイ素化合物被覆前駆体微粒子又はケイ素ドープ前駆体微粒子の還元処理は、乾式の方法によって行ってもよく、湿式の方法によって行ってもよい。
【0064】
上記ケイ素化合物被覆前駆体微粒子又はケイ素ドープ前駆体粒子の還元によってケイ素化合物被覆金属微粒子を得る場合にあっては、当該ケイ素化合物被覆前駆体微粒子の粒子径が100nm以下であることが好ましい。100nm以下であることによって、ケイ素化合物被覆金属微粒子への均一な還元処理が可能となり、上記Si-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率の制御も同時行える利点があるだけでなく、従来は電気等の大きなエネルギーを用いた電気還元などの方法でしか還元することが困難であった卑金属においても、還元によって金属微粒子にできる利点がある。上記ケイ素化合物前駆体粒子の製造方法については特に限定されないが、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子と同様に、特許文献5に記載された装置を用いて作製する方法や、ビーズミル等の粉砕法を用いる等して前駆体微粒子を作製し、作製した後に反応容器内や上記マイクロリアクター等を用いてケイ素化合物を前駆体粒子に被覆する処理を行ってもよい。
【0065】
(優先権主張出願との対応関係)
本発明者らは、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することによって、当該ケイ素化合物被覆金属微粒子の分散性等の特性が制御できることを見出して、本発明を完成させるに至った。ケイ素化合物を各種の微粒子の表面に被覆すること、並びにケイ素化合物被覆金属微粒子の前駆体となり得る、ケイ素化合物がケイ素酸化物であるケイ素化合物被覆金属酸化物微粒子を得ることについては、本件出願の基礎出願である特願2016-111346号においても開示されており、これを還元性雰囲気において金属にまで還元できることを見出した。本願発明者らは、さらに、本件出願の別の基礎出願であるPCT/JP2016/83001号に開示されている通り、このケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合を特定の雰囲気において制御することによって、ケイ素化合物被覆金属微粒子の分散性等の特性を制御できることを見出した。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例では特に記載の無いものについては純水として導電率が0.84μS/cm(測定温度:25℃)の純水を用いた。
【0067】
(TEM観察用試料作製とSTEM観察用試料作製)
実施例で得られたケイ素化合物被覆金属微粒子を分散媒に分散させ、得られた分散液をコロジオン膜に滴下して乾燥させて、TEM観察用試料又はSTEM観察用試料とした。
【0068】
(透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置:TEM-EDS分析)
TEM-EDS分析によるケイ素化合物被覆金属微粒子の観察及び定量分析には、エネルギー分散型X線分析装置、JED-2300(日本電子株式会社製)を備えた透過型電子顕微鏡、JEM-2100(日本電子株式会社製)を用いた。観察条件としては、加速電圧を80kV、観察倍率を2万5千倍以上とした。TEMによって観察されたケイ素化合物被覆金属微粒子の最大外周間の距離より粒子径を算出し、100個の粒子について粒子径を測定した結果の平均値(平均一次粒子径)を算出した。TEM-EDSによってケイ素化合物被覆金属微粒子を構成する元素成分のモル比を算出し、10個以上の粒子についてモル比を算出した結果の平均値を算出した。
【0069】
(走査透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置:STEM-EDS分析)
STEM-EDS分析による、ケイ素化合物被覆金属微粒子中に含まれる元素のマッピング及び定量には、エネルギー分散型X線分析装置、Centurio(日本電子株式会社製)を備えた、原子分解能分析電子顕微鏡、JEM-ARM200F(日本電子株式会社製)を用いた。観察条件としては、加速電圧を80kV、観察倍率を5万倍以上とし、直径0.2nmのビーム径を用いて分析した。
【0070】
(X線回折測定)
X線回折(XRD)測定には、粉末X線回折測定装置 EMPYREAN(スペクトリス株式会社PANalytical事業部製)を使用した。測定条件は、測定範囲:10から100[°2θ] Cu対陰極、管電圧45kV、管電流40mA、走査速度0.3°/minとした。各実施例で得られたケイ素化合物被覆金属微粒子の乾燥粉体を用いてXRD測定を行った。
【0071】
(FT-IR測定)
FT-IR測定には、フーリエ変換赤外分光光度計、FT/IR-6600(日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は、窒素雰囲気下におけるATR法を用いて、分解能4.0cm-1、積算回数1024回である。IRスペクトルにおける波数750cm-1から1300cm-1のピークの波形分離は、上記FT/IR-6600の制御用ソフトに付属のスペクトル解析プログラムを用いて、残差二乗和が0.01以下となるようにカーブフィッティングした。実施例で得られたケイ素化合物被覆金属微粒子の乾燥粉体を用いて測定した。
【0072】
(粒度分布測定)
粒度分布測定には、粒度分布計、UPA-UT151(日機装製)を用いた。測定条件は、実施例又で得られたケイ素化合物被覆金属を分散させた分散媒を測定溶媒に用いて、粒子屈折率及び密度は、実施例で得られたケイ素化合物被覆金属微粒子における金属微粒子を構成する主たる金属元素又は半金属元素の数値を用いた。
【0073】
(実施例1)
実施例1においては、特許文献5に記載された原理の装置を用いてケイ素化合物被覆金属微粒子を作製し、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御することによって、各種分散媒への分散性を制御した例を示す。高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM-2.2S、エム・テクニック株式会社製)を用いて、金属原料液(A液)、金属析出溶媒(B液)、及びケイ素化合物原料液(C液)を調製した。具体的には表1の実施例1に示す金属原料液の処方に基づいて、金属原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度50℃、ローター回転数を20000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、金属原料液を調製した。また、表2の実施例1に示す金属析出溶媒の処方に基づいて、金属析出溶媒の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度25℃、ローターの回転数8000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、金属析出溶媒を調製した。さらに、表3の実施例1に示すケイ素化合物原料液の処方に基づいて、ケイ素化合物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度20℃、ローターの回転数6000rpmにて10分間攪拌することにより均質に混合し、ケイ素化合物原料液を調製した。なお、表1から表3に記載の化学式や略記号で示された物質については、MeOHはメタノール(三菱化学株式会社製)、EGはエチレングリコール(キシダ化学株式会社製)、KOHは水酸化カリウム(日本曹達株式会社製)、NaOHは水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)、TEOSはテトラエチルオルトシリケート(和光純薬工業株式会社製)、AgNO3は硝酸銀(関東化学株式会社製)、NaBH4はテトラヒドロほう酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)、HMHはヒドラジン一水和物(関東化学株式会社製)、PVPはポリビニルピロリドン K = 30(関東化学株式会社製)、DMAEは2-ジメチルアミノエタノール(関東化学株式会社製)、H2SO4は濃硫酸(キシダ化学株式会社製)を使用した。
【0074】
次に調製した金属原料液、金属析出溶媒、及びケイ素化合物原料液を本願出願人による特許文献5に記載の流体処理装置を用いて混合した。ここで、特許文献5に記載の流体処理装置とは、同公報の
図1(B)に記載の装置であって、第2及び第3導入部の開口部d20、d30がリング状に形成されたディスクである処理用面2の中央の開口を取り巻く同心円状の円環形状であるものを用いた。具体的には、A液として金属原料液又は金属析出溶媒を第1導入部d1から処理用面1,2間に導入し、処理用部10を回転数1130rpmで運転しながら、B液として金属原料液又は金属析出溶媒の内、A液として送液した液とは異なる他方の液を第2導入部d2から処理用面1と2間に導入して、金属原料液と金属析出溶媒とを薄膜流体中で混合し、処理用面1と2間において、コアとなる銀微粒子を析出させた。次に、C液としてケイ素化合物原料液を第3導入部d3から処理用面1,2間に導入し、薄膜流体中においてコアとなる銀微粒子を含む混合流体と混合した。コアとなる銀微粒子の表面にケイ素化合物が析出され、ケイ素化合物被覆銀微粒子を含む吐出液(以下、ケイ素化合物被覆銀微粒子分散液)を流体処理装置の処理用面1と2間から吐出させた。吐出させたケイ素化合物被覆銀微粒子分散液を、ベッセルvを介してビーカーbに回収した。
【0075】
表4に、流体処理装置の運転条件、並びに得られたケイ素化合物被覆銀微粒子のTEM観察結果より算出したTEM-EDS分析より算出したSi/Mのモル比(実施例1においてはSi/Ag)をA液、B液及びC液の処方及び導入流量より計算した計算値とともに示す。表4に示したA液、B液及びC液の導入温度(送液温度)と導入圧力(送液圧力)は、処理用面1と2間に通じる密封された導入路(第1導入部d1と第2導入部d2、及び第3導入部d3)内に設けられた温度計と圧力計とを用いて測定したものであり、表2に示したA液の導入温度は、第1導入部d1内の導入圧力下における実際のA液の温度であり、同じくB液の導入温度は、第2導入部d2内の導入圧力下における実際のB液の温度であり、C液の導入温度は、第3導入部d3内の導入圧力下における実際のC液の温度である。
【0076】
pH測定には、株式会社堀場製作所製の型番D-51のpHメーターを用いた。A液、B液及びC液を流体処理装置に導入する前に、そのpHを室温にて測定した。また、金属原料液と金属析出溶媒との混合直後の混合流体のpH、及びコアとなる銀微粒子を含む流体とケイ素化合物原料液との混合直後のpHを測定することは困難なため、同装置から吐出させ、ビーカーbに回収したケイ素化合物被覆銀微粒子分散液のpHを室温にて測定した。
【0077】
流体処理装置から吐出させ、ビーカーbに回収したケイ素化合物被覆銀微粒子分散液から、乾燥粉体とウェットケーキサンプルを作製した。作製方法としては、この種の処理の常法に従って行い、吐出されたケイ素化合物被覆銀微粒子分散液を回収し、ケイ素化合物被覆銀微粒子を沈降させて上澄み液を除去し、その後、純水100質量部での洗浄と沈降とを繰り返し行い、ケイ素化合物被覆銀微粒子を含む洗浄液の導電率が10μS/cm以下となるまで繰り返し洗浄し、最終的に得られたケイ素化合物被覆銀微粒子のウェットケーキの一部を-0.10MPaGにて25℃、20時間乾燥させて乾燥粉体とした。残りをウェットケーキサンプルとした。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
実施例1-1から実施例1-3はSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を変化させることを目的として、金属微粒子を析出させ、ケイ素化合物を含む流体(ケイ素化合物原料液)を金属微粒子に作用させる際の処理温度を変更した。実施例1-4から実施例1-6は、実施例1-1に対してケイ素化合物を含む流体に含まれる硫酸の濃度を変更することで、金属微粒子を析出させ、ケイ素化合物を含む流体を金属微粒子に作用させる際のpHを変更した。実施例1-7から実施例1-9は、金属原料液、金属析出溶媒、ケイ素化合物原料液の処方を変更し、処理温度を変更した。
【0083】
ケイ素化合物被覆銀微粒子に含まれる官能基の変更処理の更なる一例として、実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子に過酸化水素を作用させた。具体的には、実施例1-1で得られたケイ素化合物銀微粒子をプロピレングリコールにケイ素化合物被覆銀微粒子として0.1質量%となるように投入し、高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM-2.2S、エム・テクニック株式会社製)を用いて調製温度30℃、ローター回転数を20000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合・分散させてケイ素化合物被覆銀微粒子粒子分散液を調製した。上記分散液をクレアミックスを用いて20000rpmで撹拌しながら、35質量%過酸化水素水(関東化学株式会社製)を投入し、クレアミックスの回転数を20000rpm、処理温度を30℃から35℃に保持したまま30分間の処理を続けた。処理終了後、実施例1-1から実施例1-9と同様の方法で、ケイ素化合物被覆銀微粒子の乾燥粉体とウェットケーキサンプルを作製した。なお、上記過酸化水素水の投入量は、実施例1-10においては、ケイ素化合物被覆銀微粒子に含まれる銀に対する過酸化水素が0.005mol倍となるように、実施例1-11においては0.01mol倍となるように、実施例1-12においては0.1molとなるように過酸化水素水を投入したものである。
【0084】
実施例1-1のケイ素化合物被覆銀微粒子を、ケイ素化合物被覆銀微粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理として、電気炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、実施例1-1:未処理、実施例1-13:100℃にて30分間、実施例1-14:200℃にて30分間、実施例1-15:300℃にて30分間である。
【0085】
実施例1-1のケイ素化合物被覆銀微粒子を、ケイ素化合物被覆銀微粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理として、ケイ素化合物被覆銀微粒子に含まれるSi-OH基にスルホン酸を作用させてスルホ基を導入するために、発煙硫酸雰囲気のデシケーター内において処理した。熱処理条件は、実施例1-1:未処理、実施例1-16:室温(25℃)にて120分間、実施例1-17:温(25℃)にて480分間である。
【0086】
図1に実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子のSTEMを用いたマッピング結果を、
図2に
図1のHAADF像における破線を施した位置での線分析の結果を示す。
図1において、(a)は暗視野像(HAADF像)であり、(b)は酸素(O)、(c)はケイ素(Si)、(d)は銀(Ag)のそれぞれマッピング結果である。
図2は、
図1のHAADF像において、破線を施した位置での線分析の結果であり、粒子の端から端までの線部分において検出された元素の原子%(モル%)を示した結果である。
図2に見られるように、酸素とケイ素については、線分析における分析範囲の両端まで検出されたが、銀については粒子の端から数nm程度内側までは検出されておらず、銀微粒子の表面をケイ素酸化物を含むケイ素化合物で被覆されていることがわかる。
図1及び
図2に見られるように、実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子は、粒子の全体をケイ素化合物によって覆われた銀微粒子として観察された。実施例1-2から実施例1-17で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子についても、実施例1-1と同様のSTEMマッピング及び線分析の結果を得たが、実施例1-6については、銀微粒子の全体をケイ素化合物によって覆われたものではなく、銀微粒子の表面の一部をケイ素酸化物を含むケイ素化合物よって被覆したケイ素化合物被覆銀微粒子も確認された。本発明においては、金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆金属微粒子として実施することができる。また、実施例1-9、実施例1-14及び実施例1-15においては、銀微粒子と表面を被覆するケイ素化合物間に中空層が見られた。
【0087】
図3に実施例1-7で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子について、FT-IR測定結果における、波数750cm
-1から1300cm
-1の領域について波形分離した結果を示す。
図3に見られるように、本実施例においては、波数750cm
-1から1300cm
-1の領域のピークを波形分離した結果、波数850cm
-1から950cm
-1の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたピークをSi-OH結合に由来するピークとし、波数1000cm
-1以上1300cm
-1以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたピークをSi-O結合に由来するピークとし、波数750cm
-1から1300cm
-1の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率をSi-OH結合の比率とし、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積の比率をSi-O結合の比率とすることで、Si-OH結合の比率及びSi-OH結合/Si-O結合の比率を算出した。
【0088】
図4に実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子のXRD測定結果を示す。
図4に見られるように、XRD測定においては、Agに由来するピークのみが検出された。すなわち上記STEM、及びIR測定において確認されたケイ素酸化物を含むケイ素化合物が非晶質のケイ素化合物であることが確認された。また、実施例1-2から実施例1-15についても同様のXRD測定結果が得られた。
【0089】
表5に実施例1-1から実施例1-15で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子の平均一次粒子径、Si-OH結合の比率(Si-OH結合比率)、Si-O結合の比率(Si-O結合比率)、Si-OH結合/Si-O結合の比率(Si-OH結合/Si-O結合比率)並びに各実施例で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子を、分散媒として純水又はトルエン(関東化学株式会社製)に分散した分散液の分散粒子径を粒度分布測定結果による体積平均粒子径用いて記載した結果を示す。本実施例においては、ケイ素化合物被覆金属微粒子の特性の一つとして分散性を評価し、分散性は分散粒子径及び、平均一次粒子径に対する分散粒子径(分散粒子径/平均一次粒子径)によって評価した。分散液の調製は、各分散媒にケイ素化合物被覆銀微粒子が0.1質量%となるように投入し、クレアミックスを用いて調製温度30℃、ローター回転数を20000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合・分散させてケイ素化合物被覆銀微粒子粒子分散液を調製した。
【0090】
【0091】
表5に見られるように、Si-OH結合比率及びSi-OH結合/Si-O結合比率を上昇させることによって、純水及びエタノールを分散媒に用いた場合においては分散粒子径及び分散粒子径/平均一次粒子径が小さくなる傾向が見られ、Si-OH結合/Si-O結合比率を低下させることによって、トルエンを分散媒に用いた場合において、分散粒子径及び分散粒子径/平均一次粒子径が小さくなる傾向が見られた。また、実施例1-16及び実施例1-17においてはIR測定結果において親水性官能基であるスルホ基が確認されたが、Si-OH結合比率又はSi-OH結合/Si-O結合比率が低下することにより、純水に対する分散性は低下し、トルエンに対する分散性が向上した。
図5に実施例1-1で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子の水分散液より作成したコロジオン膜を用いて観察したTEM写真を示す。
【0092】
以下実施例2から4については、ケイ素化合物被覆金属微粒子における金属元素を変更(実施例2、実施例3)又は処理装置を変更(実施例4)してケイ素化合物被覆金属微粒子を作製した。異なる金属元素又は処理装置が異なる条件であるが、各実施例の枝番号が同じ条件は、ケイ素化合物被覆金属微粒子の作製において目的が同じであり同様の条件でケイ素化合物被覆金属微粒子を作製又は処理した条件である。各実施例の分析結果及び評価結果の一覧(実施例2:[表10]、実施例3:[表15]、実施例4:[表16])についても同様である。
【0093】
(実施例2)
以下、実施例2においては、金属微粒子として銅微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆銅微粒子について記載する。作製条件を表6から表9とした以外は、実施例1と同様の条件で作製した。得られたケイ素化合物被覆銅微粒子の分析結果及び評価結果を表10に示す。なお、表6から表8に記載の化学式や略記号で示された物質について、表1から表3に示した物質と異なる物質として、Cu(NO3)2・3H2Oは、硝酸銅三水和物(和光純薬工業株式会社製)を使用し、それ以外については実施例1と同じ物質を使用した。
【0094】
(実施例3)
以下、実施例3においては、金属微粒子としてニッケル微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆ニッケル微粒子について記載する。作製条件を表11から表14とした以外は、実施例1と同様の条件で作製した。得られたケイ素化合物被覆ニッケル微粒子の分析結果及び評価結果を表15に示す。なお、表11から表13に記載の化学式や略記号で示された物質について、表1から表3又は表6から表8に示した物質と異なる物質として、Ni(NO3)2・6H2Oは、硝酸ニッケル六水和物(関東化学株式会社製)を使用し、それ以外については実施例1又は実施例2と同じ物質を使用した。
【0095】
実施例2及び実施例3においても、STEMマッピング及び線分析の結果及びXRD測定結果は実施例1と同様の結果が得られ、実施例2におけるXRD測定結果においてはCuに由来するピークのみが、実施例3におけるXRD測定結果においてはNiに由来するピークのみが検出された。
【0096】
表10及び表15に見られるように、ケイ素化合物被覆銅微粒子及びケイ素化合物被覆ニッケル微粒子においても、実施例1と同様の結果が得られた。ケイ素化合物被覆金属微粒子における金属微粒子が、異なる種類の金属であってもSi-OH結合比率が0.1%以上70%以下の範囲において、並びにSi-OH結合/Si-O結合比率が0.001以上700以下の範囲において、ケイ素化合物被覆金属微粒子の分散性を制御できることがわかった。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
(実施例4)
実施例4として、特開2009-112892号公報に記載の装置並びにA液、B液及びC液の混合・反応方法を用いた以外は、実施例1と同じ条件とすることで、ケイ素化合物被覆銀微粒子を作製した。ここで、特開2009-112892号公報の装置とは、同公報の
図1に記載の装置を用い、撹拌槽の内径が80mm、攪拌具の外端と攪拌槽の内周側面と間隙が0.5mm、攪拌羽根の回転数は7200rpmとした。また、撹拌槽にA液を導入し、攪拌槽の内周側面に圧着されたA液からなる薄膜中にB液を加えて混合し反応させた。
【0108】
STEMマッピング及び線分析の結果及びXRD測定結果は実施例1と同様の結果が得られた。
【0109】
表16に実施例4で得られたケイ素化合物被覆銀微粒子について、分析結果及び評価結果を示す。表16に見られるように特許文献5に記載された装置とは異なる装置を用いて行った実施例4においても実施例1から3と同様に、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合比率又はSi-OH結合/Si-O結合比率を制御することによって、分散性を制御できることがわかった。
【0110】
【0111】
(実施例5)
実施例5として、ケイ素化合物被覆前駆体粒子を用いたケイ素化合物被覆金属微粒子の製造及びSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率を制御した例を示す。ケイ素化合物被覆前駆体微粒子として、ケイ素化合物被覆ケイ素アルミニウムドープ酸化鉄微粒子を作製した。作製条件は表17から表19に示した処方条件に基づき、表20に示した処理条件をとした以外は、実施例1と同様の方法でケイ素化合物被覆ケイ素アルミニウムドープ酸化鉄微粒子を作製した。なお、実施例5の初期段階においては、酸化物粒子を作製するため、金属原料液は酸化物原料液、金属析出溶媒は酸化物析出溶媒と記載している。なお、表17から表19に記載の化学式や略記号で示された物質について、表1から表、表6から表8又は表11から表13に示した物質と異なる物質として、Fe(NO3)3・9H2Oは、硝酸鉄九水和物(関東化学株式会社製)を、Al(NO3)3・9H2Oは硝酸アルミニウム九水和物(関東化学株式会社製)使用し、それ以外については実施例1から実施例4と同じ物質を使用した。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
実施例5で得られたケイ素化合物被覆ケイ素アルミニウムドープ酸化鉄微粒子を還元雰囲気として、水素を含むアルゴンガスを還元炉内にフローし、上記還元炉内において熱処理した。表21に、還元炉内にフローしているガス中の水素濃度、処理温度、処理時間並びに、得られたケイ素化合物被覆金属微粒子の平均一次粒子径、Si-OH結合の比率(Si-OH結合比率)、Si-O結合の比率(Si-O結合比率)、Si-OH結合/Si-O結合の比率(Si-OH結合/Si-O結合比率)並びに各実施例で得られたケイ素化合物被覆金属微粒子を、分散媒として純水、トルエン(関東化学株式会社製)に分散した分散液の分散粒子径を粒度分布測定結果による体積平均粒子径用いて記載した結果を示す。(なお、ケイ素化合物被覆金属微粒子としての結果は、実施例5-1から実施例5-10である。)
【0117】
【0118】
図6に実施例5-5で得られたケイ素化合物被覆ケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子のSTEMマッピング結果を示す。
図5に見られるように、ケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子の表面をケイ素酸化物を含むケイ素化合物が被覆していることがわかる。実施例5-1から実施例5-4、及び実施例5-6から実施例5-8についても同様のSTEMマッピング結果が得られた。また、処理温度の上昇又は処理時間の延長に伴って、上記ケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子に含まれるケイ素が粒子の表層近傍方向に移動していることが確認された。
【0119】
XRD測定結果より、実施例5-1から実施例5-3の条件で得られたケイ素化合物被覆ケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子にはマグネタイト等の酸化物のピークも見られたが、実施例5-4から実施例5-8で得られたケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子には、酸化物のピークは見られず、鉄のみのピークに近いピークが見られた。代表として、実施例5-5の測定結果を
図7に示す。
図8には、
図7で示した測定結果のピークリストに対するデータベースにおける鉄(Fe:Metal)のピーク位置を、各ピーク付近を拡大して示した。
図8に見られるように、実施例5-5で得られたケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子のXRD測定結果は、鉄に近いピークであることを示すものの鉄そのものに対しては、ピーク位置がずれていることがわかる。鉄とケイ素、アルミニウムが固溶体を形成したケイ素アルミニウムドープ鉄微粒子となっていることによって、上記XRD測定結果が得られたと考えられる。
【0120】
表21に見られるように、ケイ素化合物被覆前駆体微粒子を還元雰囲気において処理することによって、ケイ素化合物被覆金属微粒子を得ると共に、ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合/Si-O結合比率を制御することによっても、ケイ素化合物被覆金属微粒子の分散性を制御できることがわかった。