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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】高分子凝集剤混合溶解システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/01 20060101AFI20240927BHJP
   B01F 21/00 20220101ALI20240927BHJP
   B01F 23/50 20220101ALI20240927BHJP
   B01F 25/10 20220101ALI20240927BHJP
   B01F 35/221 20220101ALI20240927BHJP
   C02F 11/147 20190101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D21/01 B ZAB
B01D21/01 D
B01F21/00 101
B01F23/50
B01F25/10
B01F35/221
C02F11/147
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022505668
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010934
(87)【国際公開番号】W WO2021181633
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-06-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591162022
【氏名又は名称】巴工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129539
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 康志
(72)【発明者】
【氏名】平松 達生
(72)【発明者】
【氏名】柴田 智
(72)【発明者】
【氏名】波多野 恵一
(72)【発明者】
【氏名】荻原 徹也
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】原 賢一
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/114283(WO,A1)
【文献】特開2008-142582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F21/00-21/20,23/50-23/57,25/10,25/50-25/64,35/21-35/222
C02F11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状の高分子凝集剤を、溶媒である水と混合する混合槽と、
前記高分子凝集剤を含んだ水溶液を、前記混合槽から送液する送液手段と、
前記送液手段から送られてくる前記高分子凝集剤を含んだ水溶液を、渦流れを形成しながら加圧して、該高分子凝集剤を混合溶解する渦流ミキサーと、
前記渦流ミキサーを通過した前記水溶液を、下流の工程に送るプロセス流路と、前記送液手段よりも上流位置であって且つ前記高分子凝集剤を含んだ水溶液が流れる流路及び/又は前記高分子凝集剤を含んだ水溶液を含む前記混合槽に戻す循環流路と、前記プロセス流路と前記循環流路との間で前記水溶液の流量を調節する流量調節手段と、を備えたことを特徴とする高分子凝集剤の混合溶解システム。
【請求項2】
前記循環流路は、前記送液手段の吸入側に前記水溶液を戻すことを特徴とする請求項1に記載の高分子凝集剤の混合溶解システム。
【請求項3】
前記下流の工程で必要とされる前記水溶液の流量の情報に基づいて前記流量調節手段の自動制御を実行する流量調節制御部をさらに設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子凝集剤の混合溶解システム。
【請求項4】
前記渦流ミキサーと前記流量調節手段の間の流路に、前記渦流ミキサーの吐出側の圧力を制御する圧力調節手段をさらに設けたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子凝集剤の混合溶解システム。
【請求項5】
前記送液手段及び前記渦流ミキサーは、それぞれ、一定で且つ最大能力の70%以上の高負荷運転条件に設定されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の高分子凝集剤の混合溶解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子凝集剤混合溶解システムに関し、特に、固体状の高分子凝集剤を溶媒である水に溶かすための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥処理の分野においては、汚泥の濃縮処理や脱水処理などが行われる。その際、汚泥の濃縮効率や脱水効率などを向上させるために、凝集剤を添加して汚泥を凝集させる処理を行う。また、水処理の分野においては、懸濁物の凝集沈殿処理が行われる。その際にも、凝集沈殿効率を向上させるために、凝集剤を被処理水に添加して懸濁物を凝集させる処理を行う。
【0003】
前述の汚泥処理や水処理では、無機系凝集剤,カチオン系やアニオン系の高分子凝集剤など、種々の凝集剤が選択的に用いられる。その中で、固体状の高分子凝集剤は、架橋凝集による高い凝集効果が得られる一方で、液体に溶け難いという短所がある。そのため、固体状の高分子凝集剤を汚泥等に直接添加することはせず、予め水に溶解させて水溶液にしてから、所定の薬注率となるように汚泥等に添加する。
【0004】
但し、高分子凝集剤には、水溶液にしてから長時間が経過すると劣化して凝集効果が低下する別の問題がある為、水溶液を予め多量に調製してタンク等に貯留しておくことは好ましくない。高分子凝集剤本来の凝集効果を十分に得るためには、水に溶かしてからの経過時間が出来るだけ短い、フレッシュな水溶液を添加するのが好ましい。かかる事情を鑑み、本発明者は、高分子凝集剤の溶解液を短時間で且つ低動力で生成することのできる高分子凝集剤混合溶解システムを具現化し(特許文献1参照)、実施すると共にさらなる改良を検討している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5731089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
とりわけ、特許文献1で報告した高分子凝集剤混合溶解システムは、高分子凝集剤の溶解液を短時間で且つ低動力で生成することを可能にしたが、下流の工程に送る溶解液の流量を送液手段である送液ポンプで調整する必要があり、その際、渦流ミキサーの回転数をうまく制御しないと過剰な負圧が発生して送液ポンプを損傷してしまう懸念があった。そのため、下流の工程に送る溶解液の流量を変える度に渦流ミキサーの回転数まで変える必要があった。この場合、例えば自動で制御するシステムの場合は、制御機器(例えばインバーターなど)の設置が必要となり、例えば手動で制御するシステムの場合は、オペレーターの負担が大きくなる。
【0007】
本発明は、一例として挙げた上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、下流の工程が必要とする量の溶解液を、安定して供給することのできる高分子凝集剤混合溶解システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の高分子凝集剤混合溶解システムは、固体状の高分子凝集剤を、溶媒である水と混合する混合槽と、前記高分子凝集剤を含んだ水溶液を、前記混合槽から送液する送液手段と、前記送液手段から送られてくる前記高分子凝集剤を含んだ水溶液を、渦流れを形成しながら加圧して、該高分子凝集剤を混合溶解する渦流ミキサーと、前記渦流ミキサーを通過した前記水溶液を、下流の工程に送るプロセス流路と、前記送液手段よりも上流位置に戻す循環流路と、前記プロセス流路と前記循環流路との間で前記水溶液の流量を調節する流量調節手段と、を備えたことを特徴とする。
ここで、一般の渦流(かりゅう)ポンプであっても、膨潤した未溶解の高分子凝集剤を溶解する目的で使用されている場合は、本発明の作用・効果を得る目的で使用されているので、前記渦流ミキサーに含まれると解釈される。なお、渦流(かりゅう)ポンプは、カスケードポンプと称されることもある。
(2)好ましくは、前記循環流路は、前記送液手段の吸入側、及び/又は、前記混合槽に前記水溶液を戻すようにする。
(3)前記下流の工程で必要とされる前記水溶液の流量の情報に基づいて前記流量調節手段の自動制御を実行する流量調節制御部をさらに設けるようにしてもよい。
(4)前記渦流ミキサーと前記流量調節手段の間の流路に、前記渦流ミキサーの吐出側の圧力を制御する圧力調節手段をさらに設けるようにする。
(5)前記送液手段及び前記渦流ミキサーは、一定で且つ高負荷運転条件に設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子凝集剤混合溶解システムは、固体状の高分子凝集剤を溶媒である水に混合し、混合により得られた高分子凝集剤を含んだ水溶液を送液手段で渦流ミキサーに送り込み、この渦流ミキサーにおいて渦流れを形成しながら加圧して混合溶解させる構成である。かかる構成において、下流の工程に水溶液を送るプロセス流路と、送液手段よりも上流位置に水溶液を戻す循環流路を設け、プロセス流路と循環流路を流れる水溶液の流量を流量調節手段で調節するようにしたことにより、送液手段及び渦流ミキサーを安定運転することができる。その結果、下流の工程が必要とする量の溶解液を、安定して供給することが可能となる。さらに、渦流ミキサーの吸込側に過剰な負圧が発生して送液手段に悪影響を及ぼす現象を抑制することができる。
【0010】
また、好ましい一例として、渦流ミキサーと送液手段を一定で且つ高負荷で運転すれば、その分、システム全体の溶解性が向上する。さらにまた、送液手段や渦流ミキサーの負荷を自動で制御する制御機器(例えばインバーターなど)を省略することでコストダウンに寄与することができ、手動で制御する必要性も少ないので、オペレーターの負担も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に従う高分子凝集剤混合溶解システムを示す図である。
図2】上記システムの渦流ミキサーの構成を説明するための図である。
図3】上記システムの循環流路の変形例を示す図である。
図4】上記システムの循環流路の他の変形例を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態に従う高分子凝集剤混合溶解システムを示す図である。
図6】上記システムの循環流路の変形例を示す図である。
図7】上記システムの循環流路の他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態に従う高分子凝集剤混合溶解システムについて、添付図面を参照しながら説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に従う高分子凝集剤混合溶解システム(以下、「混合溶解システム」と称す)の全体構成を示す概略図である。図1に示すように、混合溶解システム1は、固体状の高分子凝集剤を、溶媒である水と混合するための混合槽2を備えている。混合槽2は、溶媒である水を貯留することのできる密閉系又は開放系の槽である。溶媒である水は、例えば槽上部に接続した配管等の流路を通じて槽内に供給する。混合槽2は、槽内の水を撹拌して、高分子凝集剤を分散させるための撹拌手段をさらに備えることができる。撹拌手段の一例として、槽内に配置した撹拌羽根を駆動モータで回転させる撹拌機21を用いることができる。勿論、撹拌機以外の公知の撹拌手段を採用してもよい。
【0014】
混合槽2の容積は、調製する水溶液の量に応じて適宜設計することができる。一例として、槽内での混合時間(すなわち滞留時間)を5分~15分、好ましくは10分に設定して運転するのに適した容積に設計することができる。この混合時間に設定する理由は、後段の工程で溶解し得る程度にまで高分子凝集剤を膨潤させるのに必要な時間を確保するためである。混合時間が短過ぎると、高分子凝集剤の膨潤が不十分となり後段の工程によっても十分に溶解することができない場合がある。また反対に長過ぎると、フレッシュな水溶液を得るという目的に反することとなる。また、混合槽2が大型化してしまうという欠点もある。溶媒である水は、連続的に槽内に供給する連続供給方式とすることができる。連続供給方式とすれば混合槽2を小型化できる利点もある。連続供給方式に代えて、一定量の水を槽内に張り込み、高分子凝集剤を添加した後、張り込んだ量の水(水溶液)を抜き出すバッチ方式としてもよい。
【0015】
例えば粉状又は粒状にされた固体状の高分子凝集剤は、例えば混合槽2の上部に配置したホッパー22を用いて定量的に混合槽2に添加する。ホッパー22は、錐状体に形成された本体部を有し、内部に高分子凝集剤を貯留すると共に、底部から定量的に高分子凝集剤を切り出して混合槽2に添加する構成となっている。ホッパー22は、貯留時に高分子凝集剤が吸湿しないように密閉系とし、さらに乾燥気体を吹き込むなどの防湿対策を行ってもよい。ホッパー22の底部には、高分子凝集剤をホッパーから定量に切り出すための排出手段22aが配置されている。排出手段22aの一例として、スクリューコンベア式の定量フィーダを用いることができる。なお、ホッパー22は、高分子凝集剤を定量的に混合槽2に添加する手段の好ましい一例であり、他の添加手段を採用してもよく、若しくは作業員が手作業で添加するようにしてもよい。
【0016】
混合槽2には、送液手段の一例として、送液ポンプ3が接続されている。送液ポンプ3は、槽内の水溶液を連続的に抜き出して後段の混合溶解工程に送液する。混合槽2から抜き出される水溶液は、既に溶解した高分子凝集剤と、膨潤した未溶解の高分子凝集剤を含んでいる。水溶液は、高分子凝集剤が溶解した分において粘性が高くなっているので、送液ポンプ3を用いて後段の混合溶解工程に送り込む構成となっている。送液ポンプ3は、特にポンプの種類が限定されることはない。そして定量性は特に有していなくてもよい。また、インバーターなどポンプの送液流量を可変に制御する装置も特に設けなくてもよい。送液手段は、ポンプ以外の送液手段を採用してもよい。
【0017】
送液ポンプ3の吐出側に接続された配管等の流路には、第1渦流ミキサー4Aが接続されており、続いて第2渦流ミキサー4Bが接続されている。すなわち、高分子凝集剤を混合溶解させるための第1渦流ミキサー4Aと第2渦流ミキサー4Bが2段に直列に配置された構成になっている。送液ポンプ3から第1渦流ミキサー4Aまでの流路の途中、及び第1渦流ミキサー4Aから第2渦流ミキサー4Bまでの流路の途中には、バルブV(V1,V2,V3)や圧力計P(P1,P2,P3)などを設けるようにしてもよい。第1渦流ミキサーの吸入側は、負圧になる場合があるので、圧力計P1の一例として連成計を用いることもできる。第1渦流ミキサー4A単独での運転を可能にするために、第2渦流ミキサー4Bを経由しないで下流に送るためのバイパス流路を設けるようにしてもよい。
【0018】
第1渦流ミキサー4Aと第2渦流ミキサー4Bは、処理能力が異なる仕様の渦流ミキサーを配置してもよいが、同じ構造で同じ処理能力のものを用いることが好ましい。渦流ミキサー4A,4Bの構成について、好ましい一例を詳しく説明する。図2に示すように、水溶液の吸入口41a及び吐出口41bを有するケーシング41と、ポンプでいうところのインペラに相当する羽根車42と、羽根車42を回動させる駆動機構としての駆動モータ43を備えている。作図の便宜上、駆動モータ43はブロック図で示している。
【0019】
ケーシング41は、水溶液の吸入口41a及び吐出口41bのそれぞれと連通すると共に、羽根車42を回転可能に収容する内部領域41cを有している。この内部領域41cは、羽根車42の外周縁に対して非接触に隙間を介して対向する内周面41dを有する。吸入口41aからケーシング41に吸入された水溶液は、回転する羽根車42によってケーシング内部領域41cを加圧されながら移送され、吐出口41bから排出される。吐出口41bには、好ましい一例として、容積が拡大したバッファー領域44が形成されている。ケーシング41から吐出された水溶液は、渦流れを形成しているので、このバッファー領域44によって渦流れを消失させることができる。また、吸入口41aには、好ましい一例として、起動時に所謂「呼び水」をケーシング41内に注入するための注入口41eが設けられている。
【0020】
羽根車42は、概ね円盤状に形成されており、その円の中心から直角方向(紙面に対して鉛直方向)に延びる線を回転軸として回転可能なように、ケーシング41の内部領域41cに配置されている。羽根車42の外周縁には、ケーシング41の内周面41dに沿って細かい渦流れを形成するための多数の溝45が放射状に形成されている。この放射状の多数の溝45は、羽根車42の外周縁に全周に亘って形成されている。
【0021】
羽根車42には、回転シャフト46が前記回転軸に沿って接続されている。回転シャフト46は、ケーシング41を貫通して、外部に配置されている駆動モータ43に連結されており、駆動モータ43を駆動させると羽根車42が回転するように構成されている。ケーシング41を貫通する部分は、例えばメカニカルシール等のシール機構(不図示)によって封止することができる。
【0022】
説明を図1に戻すと、第2渦流ミキサー4Bの吐出側に接続された配管等の流路には、好ましい一例として、第2渦流ミキサー4Bの吐出側の圧力が、所定の圧力となるように制御する圧力調節手段が設けられている。自動で制御を行う圧力調節手段の一例としては、バルブ開度によって圧力を調節する圧力調節バルブ5と、圧力センサー51と、圧力センサー51の検出値が所定の圧力となるように圧力調節バルブ5の開度を制御する圧力制御部52の組み合わせを用いることができる。圧力調節手段は、手動で制御を行う構成であってもよい。一例として、圧力センサー51又はこれに代わる圧力計の検出値が所定の圧力となるように、オペレーターが圧力調節バルブ5の開度を調節する。
【0023】
なお、所定の圧力とは、好ましい一例として、高分子凝集剤の種類に応じて予め決めた設定圧力値を用いることができる。すなわち、高分子凝集剤の溶解は、圧力が高いと溶媒への浸透が促進されて溶け易く、しかも種類によって圧力の程度が異なるという特性に着目し、その高分子凝集剤の溶解に適した圧力にまで加圧制御する構成を採用する。そのため、高分子凝集剤の種類に対応付けて予め決定した圧力設定値の情報を所持しておくか、若しくは、圧力制御部52のコンピュータのメモリ等に格納しておくのが好ましい。圧力設定値は、例えば高分子凝集剤の成分や分子量等に基づいて決定してもよく、実際に試験を行って決定してもよい。そして、高分子凝集剤の種類に応じて、オペレーターが圧力制御部52の圧力設定値を設定するか、若しくは、圧力制御部52がメモリ等から情報を読み出して圧力設定値を設定する。
【0024】
圧力調整バルブ5を通過した水溶液の流路は、下流の工程に水溶液を送液するプロセス流路61と、送液ポンプ3の吸入側(好ましくはサクション部)に水溶液を戻す循環流路62に分岐している。さらに、分岐点に、流量調節手段としての三方弁6を配置している。三方弁6は、バルブ開度を変えることによって、プロセス流路61を流れる水溶液の流量と、循環流路62を流れる水溶液の流量の比率を調整する。すなわち、プロセス流路61と循環流路62との間で、水溶液の流量を調節する。調節可能な範囲の一例として、プロセス流路61:循環流路62=0~100%:100~0%に調節可能な構成とする。
【0025】
水溶液(すなわち、高分子凝集剤溶解液)は、プロセス流路61を通じて下流の工程に送液する。例えば汚泥処理工程の場合、そのまま汚泥に添加してもよく、バッファー槽等を一旦経由してから汚泥に添加するようにしてもよい。水処理工程においても同様に被処理水に添加することができる。汚泥処理工程においては、所定の薬注率となるように高分子凝集剤溶解液を添加した汚泥を、例えばデカンタタイプの遠心濃縮機や遠心脱水機に供給して、濃縮や脱水の固液分離をする。水処理工程においても同様に、所定の薬注率となるように高分子凝集剤溶解液を添加した被処理水を、沈降槽や濾過機等に供給して固液分離をする。但し、本実施形態の混合溶解システム1で調製した高分子凝集剤溶解液は、固液分離装置の種類に制限されることはなく、公知の固液分離装置に使用可能である。なお、本実施形態では、好ましい形態として図2の構成の渦流ミキサー4A,4Bを示したが、代替として一般の渦流(かりゅう)ポンプを用いてもよい。図2の渦流ミキサー4A,4Bは、渦流ポンプの構造をベースとしてそのミキシング機能を強化した渦流式ターボミキサーである。従って、効果は劣るが一般の渦流ポンプでも未溶解の高分子凝集剤を溶解できる場合があるからである。なお、渦流ポンプは、カスケードポンプとも称されることもある。
【0026】
本実施形態の混合溶解システム1に適用される高分子凝集剤の種類は、特に制限されることはなく、被処理汚泥や被処理水等の種類や組成等に応じて適宜選択することができる。汚泥処理においては、カチオン系の高分子凝集剤が主流であるが、その他にもアニオン系や両性の高分子凝集剤を用いる場合もある。カチオン系の高分子凝集剤の一例としては、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステルを用いることができる。より具体的には、メタクリル酸ジメチルアミノエチルやアクリル酸ジメチルアミノエチルを用いることができる。カチオン系の高分子凝集剤の他の例としては、架橋系やアミジン系の高分子凝集剤を用いることもできる。これら高分子凝集剤の分子量は、150~1600万である。
【0027】
(作用)
続いて、上述の混合溶解システム1を用いて、高分子凝集剤の溶解液を生成する方法について説明する。なお、以下の説明では、カチオン系の高分子凝集剤の場合を主体にして説明するが、特筆しない限り、他の高分子凝集剤でも同様の作用・効果を奏する。混合溶解システム1が起動されると、まず、溶媒である水を混合槽2に所定の流量で供給すると共に、所定の濃度の水溶液となるように高分子凝集剤を所定の流量で添加する。濃度の一例としては、0.1~0.3質量%、好ましくは0.2質量%に設定することができる。その一方で、送液ポンプ3、第1渦流ミキサー4A及び第2渦流ミキサー4Bを各々起動させると共に、圧力制御部52による制御圧力の設定値を決定/変更する。ここでは、一例として圧力設定値を0.3MPaとする。
【0028】
水と混合された高分子凝集剤は、混合槽2内で水に溶解していくが、一部は未溶解で残存する。但し、混合槽2において水との混合時間を10分程度確保していることで、膨潤した状態になっている。高分子凝集剤が溶解することで粘度が増した水溶液は、送液ポンプ3によって未溶解の高分子凝集剤を含んだ状態で第1渦流ミキサー4Aに送り込まれる。水溶液の流量は、例えば25L/minである。
【0029】
ここで、送液ポンプ3、第1渦流ミキサー4A及び第2渦流ミキサー4Bの各々は、例えば上記圧力設定値を確保できることを前提として、一定で且つ高負荷な運転条件に設定するのが好ましい。より具体的には、送液ポンプ3、第1渦流ミキサー4A及び第2渦流ミキサー4Bは、その仕様の範囲内において、高負荷な運転条件(例えば、夫々最大能力の70%以上、望ましくは100%)に設定し、通常運転中は原則としてこの条件を継続するようにする。一定運転は、各々の各駆動モータを固定速で回転させることによって行う。このように、送液ポンプ3、第1渦流ミキサー4A及び第2渦流ミキサー4Bは、通常運転中は回転数を変えずに、その仕様の範囲内において高負荷運転で動作(混合溶解)させるようにする。
【0030】
送液ポンプ3によって第1渦流ミキサー4Aに送り込まれた水溶液は、回転する羽根車42によって細かい渦流れをケーシング41の内周面41dに沿って繰り返し形成し、これにより加圧されていく。一例として、吸入口付近で-0.05MPaであった水溶液を、吐出口付近で0.12MPaまで加圧する。このように、羽根車42によって細かい渦流れを繰り返し形成しながら加圧することによって、高分子凝集剤が十分に混合されて水に溶解していく。このとき、溶解が進むことで水溶液の粘度も増していくこととなる。既述のように、羽根車42は、他の部位に対して非接触で回転するので、機械的に高分子凝集剤を潰す作用や剪断応力は殆ど発現しない。放射状に形成した細かい溝45を通じて繰り返し形成される細かい渦流れと、その加圧作用によって、高分子凝集剤の混合溶解が促進されるのである。
【0031】
第1渦流ミキサー4Aを通過した水溶液は、続く第2渦流ミキサー4Bにおいても、回転する羽根車42によって細かい渦流れをケーシング41の内周面41dに沿って繰り返し形成し、これにより加圧されていく。一例として、吸入口付近で0.12MPaであった水溶液を、吐出口付近で目標圧力である0.3MPaまで加圧する。すなわち、直列の2段構成になっている渦流ミキサー4A,4Bによって、その高分子凝集剤が溶解するのに適した圧力まで順次加圧するのである。第2渦流ミキサー4Bにおいても、第1渦流ミキサー4Aと同様に、放射状に形成した細かい溝45を通じて繰り返し形成される細かい渦流れと、その加圧作用によって、高分子凝集剤の混合溶解が促進される。さらに、その高分子凝集剤が溶解するのに適した圧力にまで加圧することによって、高分子凝集剤が十分に溶解していく。
【0032】
第1渦流ミキサー4A及び第2渦流ミキサー4Bを通じて生成された水溶液は、三方弁6の開度調節により、プロセスの本流と循環流に分けられる。すなわち、下流の工程で必要とされる流量がプロセス流路61を通じて下流の工程に送液され、残りが循環流路62を通じて送液ポンプ3の吸入側に戻される。下流の工程で必要とされる流量が変わると、例えばオペレーターにより手動で三方弁6の開度を調整し、プロセス流路61を通じて必要流量の水溶液が下流の工程に送液されるようにする。下流の工程で必要とされる流量は、例えば汚泥処理の場合、汚泥の性状が変化することで適正な薬注率が変わることによって変化する。勿論、その他の理由もある。なお、好ましくは、下流の工程で必要とされる流量(例えば最大流量)に対して0~100%の流量が循環可能なように、各機器の仕様を決定する。
【0033】
上述の実施形態の混合溶解システム1は、混合槽2で溶解することができなかった未溶解の高分子凝集剤を含んだ水溶液を、直列に配置した第1渦流ミキサー4Aと第2渦流ミキサー4Bに通水する。そして、各渦流ミキサー4A,4Bが、細かい渦流れを形成しながら加圧する。その結果、高分子凝集剤の混合溶解を促進させることができ、膨潤した未溶解の高分子凝集剤を溶解させることが可能となる。なお、渦流ミキサーは、必ずしも複数設けなくともよい。
【0034】
特に、本実施形態のように、プロセス流路61と循環流路62との間で水溶液の流量を可変に調節可能な流量調節手段を設けたことにより、送液ポンプ3,第1渦流ミキサー4A及び第2渦流ミキサー4Bの運転状態(特に回転数)を変えずとも、下流の工程で必要とされる流量の水溶液を可変に送液することができる。さらには、残りの水溶液を循環流路で戻して、送液ポンプ3→渦流ミキサー→圧力調整手段に至る「混合溶解部」内で水溶液を繰り返し循環させることにより、混合溶解部内で水溶液の液質を均一化(濃度,粘度などが系内で収束)させることができる。以前のように三方弁6と循環流路62を設けずに送液ポンプ3で流量調節を行う構成にした場合、例えば下流の汚泥処理工程での使用量が少なくなるとそれに合わせて送液ポンプ3の送液流量が少なくなる。流量によっては、混合溶解部の系内の圧力を所定の圧力に維持するために圧力調節バルブ5を僅かな開度にまで絞る必要があった。この場合、例えば混合槽2に高分子凝集剤と水を投入した際に入り込んだ気泡や予期せぬ未溶解分等が圧力調節バルブ5の一次側に停滞し圧力調節が安定しない現象が発生することがあった。これに対し、送液ポンプ3を例えば全速且つ固定速で運転し三方弁6で流量調節を行う構成にすると、圧力調節バルブ5の一次側に気泡や予期せぬ未溶解分等が停滞する現象を抑制することができ、圧力調節が安定する。なお、万が一、圧力調節バルブ5の一次側に気泡等が停滞した場合、三方弁6を操作することによってプロセス流路61に全量が流れるようにすれば気泡や予期せぬ未溶解分等を系外に排出することができる。
【0035】
さらに、送液ポンプ3、第1渦流ミキサー4A及び第2渦流ミキサー4Bの各々を、一定で且つ高負荷な運転条件に設定して運転すれば、溶解性を高めることができる。加えて、運転条件を自動で制御する装置(例えばインバーターなど)などを省略することで、コストダウンを図ることができ、また手動で制御する必要性も少ないのでオペレーターの負担も少ない。
【0036】
実際に混合溶解を実施し、生成した高分子凝集剤溶解液のメッシュ透過率を測定したところ、下流の工程に送る流量を12.5(L/min),16.7(L/min)に設定したときのメッシュ透過率は、夫々、96.1%,95.5%であった。比較として、循環経路62を遮断して循環させなかった場合、下流の工程に送る流量を12.5(L/min),16.7(L/min)に設定したときのメッシュ透過率は、夫々、94.0%,92.4%であった。すなわち、溶解性が向上することを確認している。
【0037】
なお、流量調節手段の好ましい一例として、三方弁6を用いているが、プロセス流路61と循環流路62との間で流量の調節ができればこれに限られない。例えば、プロセス流路61と循環流路62に夫々バルブを設け、各バルブの開度を調節する構成としてもよい。或いは、プロセス流路61と循環流路62のいずれか一方にバルブを設けただけにしてもよい。
【0038】
さらには、圧力調節手段としての圧力調節バルブ5を省略し、例えば三方弁6に代えてプロセス流路61と循環流路62に夫々設けたバルブで第2渦流ミキサー4Bの吐出圧力を調節するようにしてもよい。すなわち、圧力センサー51の検出値が所定の圧力となるようにプロセス流路61と循環流路62に設けたバルブの開度を調整しつつ、プロセス流路61と循環流路62との間で流量の調節も行う。このように、流量調節手段が圧力調節手段を兼用する構成としてもよい。さらにまた、本実施形態は、送液ポンプ3、第1渦流ミキサー4A及び第2渦流ミキサー4Bの各々を、一定で且つ高負荷な運転条件に設定するので、圧力変動が起こり難ければ、必要であれば例えばオリフィス等の抵抗部材を設けて圧力調節手段自体を省略するようにしてもよい。
【0039】
ここで、図1に示した実施形態では、水溶液を確実に渦流ミキサー4A,4Bに戻すことが可能なように、送液ポンプ3の吸入側に戻す構成としたが、これに限られず、例えば図3に示すように、膨潤が促進されるように混合槽2に戻すようにしてもよい。さらには、図4に示すように、循環流路62を途中で分岐させて送液ポンプ3の吸入側と混合槽2の両方に戻すようにしてもよい。この場合、分岐点に三方弁63を設けて、送液ポンプ3の吸入側と混合槽2との間で戻す流量を調節するようにしてもよい。一例として、渦流ミキサー4A,4Bによる溶解を促進したいときは送液ポンプ3の手前に戻す比率を多くし、膨潤を促進したいときは混合槽2に戻す比率を多くする。
【0040】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態に従う高分子凝集剤混合溶解システムについて説明する。本実施形態に従う混合溶解システムは、流量調節手段を自動で制御するための制御部を備えたことを除けば、第1実施形態の混合溶解システム1と同じである。よって、同じ構成については同じ符号を付すことによって、詳しい説明は省略する。
【0041】
本実施形態に従う高分子凝集剤混合溶解システム1は、図5に示すように、プロセス流路61を流れる水溶液の流量を検出する流量センサー71、及び制御部である流量調節制御部7を備えている。流量調節制御部7は、下流の工程で必要とされる水溶液の流量の情報(流量設定値)に基づいて、流量センサー71の検出値が流量設定値となるように三方弁6の開度を自動で制御する。流量設定値の情報は、下流の工程にある機器から自動で受け取るように構成してもよく、或いは、オペレーターが入力するようにしてもよい。かかる構成であっても、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる、特に本実施形態によれば流量調節制御部7を設けたことで下流の工程で必要とされる流量の変化に速やかに対応することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態においても、図6に示すように、循環流路62を混合槽2に戻すようにしてもよく、或いは、図7に示すように、循環流路62を途中で分岐させて送液ポンプ3の吸入側と混合槽2の両方に戻すようにしてもよい。
【0043】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。従って、本発明の範囲は、前述の実施形態及び添付図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0044】
1 高分子凝集剤混合溶解システム
2 混合槽
3 送液ポンプ
4A 第1渦流ミキサー
4B 第2渦流ミキサー
45 溝
5 圧力調節バルブ
51 圧力センサー
52 圧力制御部
6 三方弁
61 プロセス流路
62 循環流路
7 流量調節制御部
71 流量センサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7