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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】画像形成システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 21/00 20060101AFI20240927BHJP
   G03G 21/16 20060101ALI20240927BHJP
   B41J 29/13 20060101ALI20240927BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20240927BHJP
   B41J 29/42 20060101ALI20240927BHJP
   G01H 11/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G03G21/00 370
G03G21/00 386
G03G21/16 133
B41J29/13 103
B41J29/38 301
B41J29/42 F
G01H11/08 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020013813
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120701
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】原 星児
(72)【発明者】
【氏名】門出 昌文
(72)【発明者】
【氏名】萩原 紘史
(72)【発明者】
【氏名】財津 義貴
(72)【発明者】
【氏名】熊田 博光
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-161777(JP,A)
【文献】特開2019-101276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 29/00-29/70
G01H 1/00-17/00
G03G 13/00
13/34-15/00
15/36
21/00-21/02
21/14-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザにより物理的に操作されて第1状態から第2状態へ又は前記第2状態から前記第1状態へ変化する第1可変機構、
前記第1可変機構の状態の前記変化を検知する第1検知手段、及び
集音手段、
を備える画像形成装置と、
前記第1検知手段により前記変化が検知された場合に、検知された前記変化の前又は後の少なくとも一方において前記集音手段により取得された音波に関する第1統計情報を生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された前記第1統計情報が所定の警告条件を満たす場合にユーザに警告を行う警告手段と、
を備える画像形成システム。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成システムであって、前記生成手段は、前記第1検知手段により前記変化が検知された第1時点に前記集音手段により取得された音波と、前記第1時点の前又は後の少なくとも一方において前記集音手段により取得された音波と、に関する前記第1統計情報を生成する、画像形成システム。
【請求項3】
請求項2に記載の画像形成システムであって、前記生成手段は、前記変化が検知された前記第1時点の前の1つ以上の時間区間で前記集音手段により取得された音波の音波レベル、及び前記第1時点の後の1つ以上の時間区間で前記集音手段により取得された音波の音波レベルに基づいて、前記第1統計情報を生成する、画像形成システム。
【請求項4】
請求項2に記載の画像形成システムであって、前記生成手段は、前記変化が検知された前記第1時点の後の1つ以上の時間区間で前記集音手段により取得された音波の音波レベルに基づいて、前記第1統計情報を生成する、画像形成システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、前記第1統計情報は、複数の時間区間で取得された音波の音波レベルの平均値、最大値及び積算値のうちの1つ以上を含む、画像形成システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、前記第1統計情報は、ユーザによる前記操作の際に前記第1可変機構に加わった力の強さを評価するための指標として利用される、画像形成システム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、前記生成手段は、前記第1可変機構を識別する第1識別情報を前記第1統計情報に関連付ける、画像形成システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、前記画像形成装置は、
前記生成手段と、
前記生成手段により生成された前記第1統計情報を他の装置へ送信する通信手段と、
をさらに備える、画像形成システム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、前記画像形成装置は、前記生成手段により生成された前記第1統計情報を表示する表示手段、をさらに備える、画像形成システム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、前記画像形成装置は、
ユーザにより物理的に操作されて第3状態から第4状態へ又は前記第4状態から前記第3状態へ変化する第2可変機構と、
前記第2可変機構の状態の前記変化を検知する第2検知手段と、
をさらに備え、
前記生成手段は、前記第2検知手段により前記変化が検知された場合に、検知された前記変化の前又は後の少なくとも一方において前記集音手段により取得された音波に関する第2統計情報を生成し、前記第2可変機構を識別する第2識別情報を前記第2統計情報に関連付ける、
画像形成システム。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、
前記第1可変機構は、前記画像形成装置の本体に開閉可能に設けられるカバーを含み、
前記第1状態は、前記カバーが開いている状態であり、
前記第2状態は、前記カバーが閉じている状態である、
画像形成システム。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、
前記第1可変機構は、前記画像形成装置に供給される記録媒体を収容するトレイを含み、
前記第1状態は、前記画像形成装置の本体から前記トレイが引出されている状態であり、
前記第2状態は、前記本体に前記トレイが挿入されている状態である、
画像形成システム。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、
前記第1可変機構は、画像を形成するための記録材を収容するカートリッジを含み、
前記第1状態は、前記画像形成装置の本体から前記カートリッジが取外されている状態であり、
前記第2状態は、前記本体に前記カートリッジが装着されている状態である、
画像形成システム。
【請求項14】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像形成システムであって、
前記第1可変機構は、記録媒体へ画像を定着させるための定着ユニットを含み、
前記第1状態は、前記画像形成装置の本体から前記定着ユニットが取外されている状態であり、
前記第2状態は、前記本体に前記定着ユニットが装着されている状態である、
画像形成システム。
【請求項15】
画像形成装置を含む画像形成システムにおいて実行される方法であって、
前記画像形成装置は、ユーザにより物理的に操作されて第1状態から第2状態へ又は前記第2状態から前記第1状態へ変化する第1可変機構、を備え、
前記方法は、
集音手段により、前記画像形成装置において発生する音波を取得することと、
第1検知手段により、前記第1可変機構の状態の前記変化を検知することと、
生成手段により、検知された前記変化の前又は後の少なくとも一方において前記集音手段により取得された音波に関する第1統計情報を生成することと、
前記生成手段により生成された前記第1統計情報が所定の警告条件を満たす場合に、警告手段によりユーザに警告を行うことと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像形成システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、レーザプリンタに代表される画像形成装置の市場では、業者が保守契約又は例えば印刷枚数に依存する料金が課金される従量型契約をユーザと取交す機会が増加している。こうした契約形態の下では、装置本体又は交換部品の品質が保証される限界(例えば、上限年数又は上限印刷枚数。寿命ともいう)を超えて装置が使用されることが想定される。寿命が経過した装置が使用されると、装置の動作中に異音が発生することがある。異音の発生は、寿命の経過を判定し又は故障のリスクを評価するための指標となり得る。
【0003】
特許文献1は、装置内でマイクロフォンを通じて取得された音の波形を、画像形成動作に関与する部材(例えば、モータ及びブレード)が通常生じさせる既知の波形と比較することにより、どの部材において異音が発生しているかを判断する手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-226482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、画像形成装置における故障及び品質不良といった異常のリスクには、繰返される画像形成動作だけでなく、例えばカバーの開閉、トレイの挿抜又はユニットの着脱といったユーザによる物理的な操作がどのように行われるかも影響する。とりわけ、装置の耐久力を上回る力での操作は、部材の破損、寿命の減損又は印刷画像の品質低下といった異常をもたらしかねない。特許文献1により開示された手法は、ユーザによるこうした操作が引き起こす音を判断の対象としていない。
【0006】
そこで、本開示は、ユーザによる操作が引き起こす音に基づいて画像形成装置の異常のリスクを評価することを可能にする仕組みを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある観点によれば、ユーザにより物理的に操作されて第1状態から第2状態へ又は前記第2状態から前記第1状態へ変化する第1可変機構、前記第1可変機構の状態の前記変化を検知する第1検知手段、及び集音手段、を備える画像形成装置と、前記第1検知手段により前記変化が検知された場合に、検知された前記変化の前又は後の少なくとも一方において前記集音手段により取得された音波に関する第1統計情報を生成する生成手段と、前記生成手段により生成された前記第1統計情報が所定の警告条件を満たす場合にユーザに警告を行う警告手段と、を備える画像形成システムが提供される。対応する方法もまた提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ユーザによる操作が引き起こす音に基づいて画像形成装置の異常のリスクを評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る画像形成装置の構成を概略的に示す模式図。
図2】一実施形態に係る画像形成装置の外観の一例を概略的に示す斜視図。
図3図2の画像形成装置の本体からカセットトレイが引出されている状態を示す斜視図。
図4図2の画像形成装置のカバーが開いている状態を示す斜視図。
図5】一実施形態に係る画像形成装置のコントローラの構成の一例を示すブロック図。
図6】リングバッファの構成の一例について説明するための説明図。
図7】カセットトレイを装置本体に挿入する操作を行った際の操作音の音波レベルを時系列で表したグラフ。
図8】カセットトレイの挿入速度と操作音の平均音波レベルとの間の関係のいくつかの例を示すグラフ。
図9】カバーを閉じる操作を行った際の操作音の音波レベルを時系列で表したグラフ。
図10】カバーを閉じる速度と操作音の平均音波レベルとの間の関係の一例を示すグラフ。
図11】一実施形態に係る画像形成装置により実行される統計生成処理の流れの一例を示すフローチャート。
図12】一実施形態に係る画像形成装置により実行される統計生成処理の流れの他の例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<<1.導入>>
本節では、本開示に係る技術がプリンタに適用される例を主に説明する。但し、本開示に係る技術は、例えばコピー機及び複合機といった他の種類の画像形成装置にも適用可能である。特に説明の無い限り、以下に説明する装置、デバイス、モジュール及びチップといった構成要素の各々は、単一のエンティティで構成されてもよく、又は物理的に異なる複数のエンティティから構成されてもよい。
【0012】
<<2.装置の概略的な構成>>
図1は、一実施形態に係る画像形成装置1の構成を概略的に示す模式図である。ここでは、画像形成装置1は、一例として、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)という4色で電子写真方式を用いて印刷を行うカラーレーザプリンタであるものとする。
【0013】
図1を参照すると、画像形成装置1は、4色のステーションの各々について、一次転写ローラ4Y、4M、4C、4K、感光ドラム5Y、5M、5C、5K、帯電ユニット7Y、7M、7C、7K、及び現像ユニット8Y、8M、8C、8Kを有する。感光ドラム5Y、5M、5C、5K、帯電ユニット7Y、7M、7C、7K、及び現像ユニット8Y、8M、8C、8Kは、カートリッジ20Y、20M、20C、20Kにそれぞれ搭載される。なお、以下の説明において、色を区別する必要が無い場合には、符号の末尾のアルファベットを省略して、例えばカートリッジ20Y、20M、20C、20Kをカートリッジ20と総称する。他の構成要素の符号についても同様である。
【0014】
感光ドラム(像担持体ともいう)5Y、5M、5C、5Kは、アルミシリンダと、アルミシリンダの外周に塗布された有機光導伝層からなり、駆動モータ(図示せず)の駆動力の伝達を受けて、時計周りの方向に回転する。帯電ユニット7Y、7M、7C、7Kはそれぞれ帯電ローラ7YR、7MR、7CR、7KRを有し、帯電ローラ7YR、7MR、7CR、7KRは感光ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面をそれぞれ均一に帯電させる。そして、光学ユニット3が感光ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面に選択的に光を照射し、それにより感光ドラム5Y、5M、5C、5Kに静電潜像が形成される。現像ユニット8Y、8M、8C、8Kはそれぞれ現像ローラ8YR、8MR、8CR、8KRを有し、現像ローラ8YR、8MR、8CR、8KRは感光ドラム5Y、5M、5C、5Kに形成された静電潜像をそれぞれ記録材の一種であるトナーで可視化する。
【0015】
画像形成時に、中間転写ベルト12は、感光ドラム5Y、5M、5C、5Kに当接しながら、図中で反時計周りの方向に回転する。一次転写ローラ4Y、4M、4C、4Kは一次転写バイアスを印加され、一次転写バイアスが感光ドラム5Y、5M、5C、5Kの可視画像を中間転写ベルト12へそれぞれ一次転写する。中間転写ベルト12に転写されたカラー可視画像は、二次転写ローラ9と中間転写ベルト12との間のニップ部(二次転写位置)において、記録媒体(用紙ともいう)2へ二次転写される。一次転写ローラ4Y、4M、4C、4K及び二次転写ローラ9は、中間転写ベルト12の回転に伴って回転する。
【0016】
可視画像の一部は、二次転写位置で記録媒体2へ転写されず中間転写ベルト12上に残存する。この残存可視画像は、クリーニング動作によって除去される。クリーニング動作では、残存可視画像を形成するトナーは、中間転写ベルト12によってクリーニングブレード21まで搬送され、クリーニングブレード21により掻き取られ、廃トナー容器22へ回収される。図示していないものの、各色のカートリッジ20もまた、感光ドラム5の表面に残存するトナーを掻取るクリーニングブレードと、掻取られたトナーを回収する廃トナー容器とをそれぞれ有し得る。
【0017】
カセットトレイ30は、画像形成装置1に供給される複数の記録媒体2を収容する容器である。カセットトレイ30内の記録媒体2は、ピックローラ33によりピックアップされ、給紙ローラ34及び分離ローラ35により1枚ずつ分離されて、搬送路32に沿って搬送ローラ対36へ向けて搬送される。搬送ローラ対36は、搬送されて来る記録媒体2を二次転写位置まで搬送する。
【0018】
定着ユニット40は、記録媒体2を加熱する定着ローラ41と記録媒体2を定着ローラ41に圧接させる加圧ローラ42とを備え、記録媒体2を搬送しながら記録媒体2へ転写されたカラー可視画像を定着させる。定着ローラ41及び加圧ローラ42は中空状に形成され、定着ローラ41の内部にはヒータが内蔵される。カラー可視画像が形成された記録媒体2は、定着ローラ41及び加圧ローラ42により搬送されながら加熱及び加圧され、それにより記録媒体2の表面に可視画像のトナーが定着する。可視画像の定着後の記録媒体2は、排紙ローラ44によって排紙トレイ45へ排出される。
【0019】
画像形成装置1は、内部の様々なユニットを外部空間から遮蔽するためのいくつかのカバー部材を有する。図1に示した右カバー48は、そうしたカバー部材の一例である。後に図2を用いて説明する前カバー50は、そうしたカバー部材の他の例である。これらカバー部材は、画像形成装置1の本体に開閉可能に設けられる。ユーザは、例えば右カバー48を開けることで、搬送路32において発生し得る紙詰まりに対処することができる。
【0020】
コントローラ100は、画像形成装置1の機能の全般を制御する制御手段である。コントローラ100は、図示しない信号線を介して、画像形成装置1の各部と接続される。コントローラ100のより具体的な構成について、後にさらに説明する。
【0021】
図2は、画像形成装置1の外観の一例を概略的に示す斜視図である。画像形成装置1の前面には、カセットトレイ30の把持部30aが位置する。画像形成装置1の前面においてカセットトレイ30の上方には、前カバー50が設けられる。前カバー50の上辺には、前カバー50の把持部50aが位置する。画像形成装置1の前面右上には、画面80が設けられる。図2の例では、画像形成装置1は、本体にカセットトレイ30が完全に挿入されており、且つ前カバー50が閉じている状態にある。
【0022】
図3は、画像形成装置1の本体からカセットトレイ30が引出されている状態を示す斜視図である。ユーザは、カセットトレイ30が引出されている状態で、カセットトレイ30に記録媒体2を供給する。カセットトレイ30は、例えば画像形成装置1の本体に設けられるガイドレール(図示せず)に沿って図中の矢印の方向に移動可能である。ユーザが、把持部30aに手を掛けてカセットトレイ30を前方へ引出すことで、カセットトレイ30は、画像形成装置1の本体に挿入された状態から引出された状態へ変化する。また、ユーザが、カセットトレイ30を逆方向へ押込むことで、カセットトレイ30は、画像形成装置1の本体から引出された状態から挿入された状態へ変化する。図3には、画像形成装置1の本体に設けられたカセットスイッチ31も示されている。カセットスイッチ31は、例えば圧力センサであってよい。カセットトレイ30のスイッチ接触面30bは、カセットトレイ30が本体に完全に挿入された状態で、カセットスイッチ31を押圧する。カセットスイッチ31は、スイッチ接触面30bにより押圧されている状態と、押圧されていない状態とで電圧の異なる状態検知信号をコントローラ100へ出力する。
【0023】
図4は、画像形成装置1の前カバー50が開いている状態を示す斜視図である。前カバー50がこのように開いている状態で、カートリッジ20Y、20M、20C、20Kは、本体の外部に露出する。それにより、ユーザは、各カートリッジ20を本体から取外し及び本体へ装着することができる。前カバー50は、例えば前カバー50の下辺に設けられるヒンジ(図示せず)を介して画像形成装置1の本体へ回動可能に連結される。それにより、前カバー50は、ヒンジを中心軸として図中の矢印の方向へ開閉可能となる。ユーザが、把持部50aに手を掛けて前カバー50を前方へ倒すことで、前カバー50は、閉じている状態から開いている状態へ変化する。また、ユーザが、開いた前カバー50の上辺を持ち上げて逆方向へ起こすことで、前カバー50は、開いている状態から閉じている状態へ変化する。図4には、画像形成装置1の本体に設けられたカバースイッチ51も示されている。カバースイッチ51は、例えば圧力センサであってよい。前カバー50の突起50bは、前カバー50が完全に閉じた状態で、カバースイッチ51を押圧する。カバースイッチ51は、突起50bにより押圧されている状態と、押圧されていない状態とで電圧の異なる状態検知信号をコントローラ100へ出力する。
【0024】
図4には示していないものの、画像形成装置1の本体内部は、ユーザにより移動可能(例えば、開閉可能)なさらなる部材を有してもよい。そうした部材を移動させた状態で、画像形成装置1の他の部品(例えば、定着ユニット40)もまた、ユーザにより取外すこと及び装着することが可能であり得る。それら部材の開閉及び交換可能な部品の着脱といった状態の変化は、上述したようなスイッチ又はセンサによって検知され得る。上では可変機構の状態を検知する手段として圧力センサを例示したが、状態検知手段はかかる例には限定されない。例えば、特定の状態で入射する(他の状態では遮断される)光に反応する光センサが状態検知手段として利用されてもよい。
【0025】
図1図4を用いて説明したように、画像形成装置1は、ユーザにより物理的に操作されて複数の状態の間で変化する1つ以上の可変機構を有する。こうした可変機構に対しユーザによる物理的な操作がどのように行われるかは、画像形成装置1における故障及び品質不良といった異常のリスクに影響する。とりわけ、装置の耐久力を上回る力での操作は、部材の破損、寿命の減損又は印刷画像の品質低下といった異常をもたらしかねない。そこで、以下に詳しく説明する本開示の実施形態において、ユーザによる操作が引き起こす音に基づいて画像形成装置1の異常のリスクを評価することを可能にする仕組みを取入れる。
【0026】
具体的には、図1に示したように、画像形成装置1は、集音手段としてのマイクロフォン70を備える。マイクロフォン70は、画像形成装置1の内部で発生する可聴域の音波を取得して、音波レベルを電圧で示す音波レベル信号をコントローラ100へ出力する。マイクロフォン70は、例えば、音圧で振動する振動膜の変位を電圧の変化へ変換して出力するMEMS(Micro-Electro Mechanical System)マイクロフォンである。MEMSマイクロフォンは、例えば、シリコン基板上に互いに対向して配置されコンデンサを形成する振動膜及び背面電極を有する。この振動膜が音波により振動することで、MEMSマイクロフォンのコンデンサのキャパシタンスが変化する。MEMSマイクロフォンは、こうしたキャパシタンスの変化に反応する電圧を有する電気信号を、増幅回路で増幅して出力する。なお、マイクロフォン70は、MEMSマイクロフォン以外の、例えばコンデンサマイクロフォンといった他の種類のマイクロフォンであってもよい。概して、マイクロフォンは、固有の共振周波数を有する。ここでは、画像形成装置1において取得すべき音波の周波数帯域に含まれない共振周波数を有するマイクロフォンを用いることが好適である。
【0027】
<<3.コントローラの構成例>>
図5は、本実施形態に係る画像形成装置1のコントローラ100の構成の一例を示すブロック図である。図5を参照すると、コントローラ100は、音処理回路110、バッファ130、状態通知部140及びCPU150を含む。音処理回路110は、増幅器111、AD変換器113、DC除去回路115、二乗演算回路117及び区間平均回路119を含む。CPU150は、通信インタフェース160及びディスプレイ165へ接続される。
【0028】
マイクロフォン70は、上述したように、画像形成装置1の可変機構をユーザが物理的に操作した際に発生する音波を含む可聴域の音波を取得し、取得した音波のレベルを示すアナログ信号である音波レベル信号を増幅器111へ出力する。増幅器111は、音波レベル信号を増幅して、増幅後の信号をAD変換器113へ出力する。AD(Analogue-Digital)変換器113は、増幅器111から入力された信号の形式をアナログ形式からデジタル形式へ変換し、デジタル形式の音波レベル信号をDC除去回路115へ出力する。DC(Direct Current)除去回路115は、AD変換器113から入力された音波レベル信号を、DC成分を除去することにより音波レベル(音圧)の変動のみを示す信号へ変換し、変換後の信号を二乗演算回路117へ出力する。除去すべきDC成分の基準値は、後述するCPU150から通知され得る。DC成分の除去された音波レベル信号は、音圧変動を符号付きの数値で示す。二乗演算回路117は、DC除去回路115から入力された音波レベル信号の値を二乗し、二乗後の信号を区間平均回路119へ出力する。二乗後の音波レベル信号は、音圧変動の大きさを正の数値で示す。区間平均回路119は、一定の時間長を有する時間区間ごとに、二乗演算回路117から入力された音波レベル信号の区間平均を計算する。各時間区間の時間長は、例えば2msといった固定的な長さであってよい。代替的に、区間平均回路119は、検知された音の種類に依存して異なる時間長を各時間区間に適用してもよい。音波レベル信号は、上述した二乗及び区間平均を通じて整形され、時間区間ごとの音圧変動の大きさを示す時系列の音波レベルデータとなる。区間平均回路119は、区間平均の結果としての音波レベルデータを、バッファ130へ順次書込む。
【0029】
バッファ130は、マイクロフォン70により取得される音波の時間区間ごとの音波レベルを示す音波レベルデータを記憶する記憶手段である。バッファ130は、例えば、時間区間ごとの音波レベルデータを循環的に記憶するリングバッファであってよい。図6は、リングバッファであるバッファ130の構成の一例について説明するための説明図である。図6の例において、バッファ130は、ゼロからN-1までのインデックス131をそれぞれ付与されたN個の記憶領域132を有する。i番目(i=0,…,N-1)の記憶領域はS(i)として表され、k番目の時間区間における音波レベルデータLが記憶領域S(k mod N)に格納される。例えば、区間平均回路119は、ある時間区間の音波レベルデータをN-1番目の記憶領域S(N-1)に書込んだ後、次の時間区間の音波レベルデータをゼロ番目の記憶領域S(0)に上書きする。このようにして、バッファ130は、常に最新のN個の音波レベルLをデータとして保持する。
【0030】
状態通知部140は、例えばカセットスイッチ31及びカバースイッチ51といった状態検知手段から入力される状態検知信号に基づいて、画像形成装置1の1つ以上の可変機構の状態を監視する。状態通知部140は、ある可変機構の状態が変化したことが状態検知信号の電圧の変化から検知されると、状態の変化をCPU150へ通知する。状態通知部140は、状態の変化した可変機構を識別する情報をもCPU150へ通知してもよい。
【0031】
CPU150は、画像形成装置1の機能の制御に要する演算を実行するプロセッサである。CPU150は、画像形成装置1の可変機構の状態の変化が検知された場合に、マイクロフォン70により取得された音波に関する統計情報を、バッファ130に記憶されている音波レベルデータに基づいて生成する。一例として、CPU150は、状態変化が検知された時点の前にバッファ130に記憶された1つ以上の時間区間の音波レベル及び当該時点の後にバッファ130に記憶される1つ以上の時間区間の音波レベルに基づいて、音波に関する統計情報を生成してもよい。他の例として、CPU150は、状態変化が検知された時点の後の1つ以上の時間区間でマイクロフォン70により取得される音波の音波レベルに基づいて、音波に関する統計情報を生成してもよい。CPU150により生成される音波に関する統計情報は、複数の時間区間で取得された音波の音波レベルの平均値、最大値及び積算値のうちの1つ以上を含み得る。こうした統計情報は、ユーザによる操作の際に可変機構に加わった力の強さを評価するための指標として利用され得る。
【0032】
通信インタフェース160は、画像形成装置1による他の装置との通信のためのインタフェースである。通信インタフェース160は、有線インタフェースであってもよく又は無線インタフェースであってもよい。ディスプレイ165は、CPU150により生成される情報を表示するデバイスである。図2に示した画面80は、ディスプレイ165の一部であり得る。
【0033】
図7は、カセットトレイ30を画像形成装置1の本体に挿入する操作を行った際に実際に取得された音波(即ち、操作音)の音波レベルを時系列で表したグラフである。グラフの横軸は時間(s)を表す。破線のグラフは、カセットスイッチ31により出力された状態検知信号の信号レベル(電圧値)を表す。図示したように、カセットスイッチ31からの状態検知信号の信号レベルは、当初カセットトレイ30が引出されている状態に対応する高レベルを示していたが、時間T=0.5において低レベルに遷移した。これは、時間T=0.5においてカセットトレイ30が本体に完全に挿入されたことを示している。
【0034】
図7の実線のグラフは、相対的に強い力でカセットトレイ30を操作したケースで、マイクロフォン70により取得された音波の信号レベル(dBV)を表す。一点鎖線のグラフは、相対的に弱い力でカセットトレイ30を操作したケースで、マイクロフォン70により取得された音波の信号レベル(dBV)を表す。図示したように、操作強度が強くカセットトレイ30が速い速度で挿入されたケースでは、操作強度が弱くカセットトレイ30が遅い速度で挿入されたケースと比較して、音波レベルが特にT=0.5の前後で高い値を示している。したがって、例えばT=0.5を包含する区間171にわたる音波レベルの平均値、最大値又は積算値といった統計値を分析することで、ユーザによるカセットトレイ30の操作が適切であったか否かを評価することが可能と言える。図7の例では、区間171は、T=0.45からT=0.55までの100ミリ秒にわたる区間である。
【0035】
図8は、カセットトレイ30の挿入速度(m/s)と操作音の平均音波レベル(dBV)との間の関係を、カセットトレイ30に収容した用紙の3通りの量についてそれぞれ示すグラフである。グラフの横軸はカセット挿入速度(m/s)を表し、縦軸は平均音波レベル(dBV)を表す。グラフにプロットされた×印はカセットトレイ30に用紙を全く収容していない状態での実測値、三角印はカセットトレイ30に用紙を中程度収容した状態での実測値、黒丸はカセットトレイ30に用紙を満載した状態での実測値を示す。図8から理解されるように、カセットトレイ30の挿入に伴って発生する平均音波レベルは、カセット挿入速度に比例し、カセットトレイ30に収容されている用紙の量にはほぼ依存しない。したがって、カセットトレイ30が操作された際の操作音に関する統計情報から、その際のカセットトレイ30の速度、加速度又はカセットトレイ30に加わった力といった指標値を推定することが可能である。
【0036】
図9は、前カバー50を閉じる操作を行った際に実際に取得された音波(即ち、操作音)の音波レベルを時系列で表したグラフである。グラフの横軸は時間(s)を表す。破線のグラフは、カバースイッチ51により出力された状態検知信号の信号レベル(電圧値)を表す。図示したように、カバースイッチ51からの状態検知信号の信号レベルは、当初前カバー50が開いている状態に対応する高レベルを示していたが、時間T=0.48において低レベルに遷移した。これは、時間T=0.48において前カバー50が完全に閉じられたことを示している。
【0037】
図9の実線のグラフは、相対的に強い力で前カバー50を操作したケースで、マイクロフォン70により取得された音波の信号レベル(dBV)を表す。線のグラフは、相対的に弱い力で前カバー50を操作したケースで、マイクロフォン70により取得された音波の信号レベル(dBV)を表す。図示したように、操作強度が強く前カバー50が速い速度で閉じられたケースでは、操作強度が弱く前カバー50が遅い速度で閉じられたケースと比較して、音波レベルが特にT=0.48の前後で高い値を示している。したがって、例えばT=0.48を包含する区間172にわたる音波レベルの平均値、最大値又は積算値といった統計値を分析することで、ユーザによる前カバー50の操作が適切であったか否かを評価することが可能と言える。図9の例では、区間172は、T=0.45からT=0.55までの100ミリ秒にわたる区間である。
【0038】
図10は、前カバー50を閉じる速度(m/s)と操作音の平均音波レベル(dBV)との間の関係の一例を示すグラフである。グラフの横軸はカバーを閉じる速度(m/s)を表し、縦軸は平均音波レベル(dBV)を表す。グラフにプロットされた黒丸は平均音波レベルの実測値を示す。図10から理解されるように、前カバー50を閉じる操作に伴って発生する平均音波レベルは、その操作速度にほぼ比例する。したがって、前カバー50が操作された際の操作音に関する統計情報から、その際の前カバー50の速度、加速度又は前カバー50に加わった力といった指標値を推定することが可能である。
【0039】
図7図10を用いて説明したように、画像形成装置1の可変機構が操作された際、とりわけ可変機構の状態の変化が検知された際に取得される音波に関する統計情報は、ユーザによる操作の適切性を評価するために有益である。例えば、ユーザによる操作の際に可変機構に加わった力が強すぎると評価される場合には、ユーザへ警告を発することで、その後の操作においてより小さい力で可変機構を操作するようにユーザに促すことができる。こうした対策によって、画像形成装置1の故障及び品質不良といった異常のリスクが低減される。ここでの品質不良とは、例えば、カセットトレイ30内の記録媒体2の位置ズレに起因する印刷精度の低下を含み得る。また、音波に関する統計情報を画像形成装置1の内部又は外部のストレージに履歴として蓄積しておくことで、異常が発生した際に事後的に異常の原因を特定することも容易となる。
【0040】
CPU150は、状態が変化した可変機構を識別する識別情報を、その変化をきっかけとして生成した音波に関する統計情報に関連付けてもよい。例えば、CPU150は、カセットスイッチ31により検知された状態の変化をきっかけとして生成した第1統計情報に、カセットトレイ30を識別する第1識別情報を関連付ける。また、CPU150は、カバースイッチ51により検知された状態の変化をきっかけとして生成した第2統計情報に、前カバー50を識別する第2識別情報を関連付ける。このように可変機構を識別する識別情報を音波に関する統計情報に関連付けることで、統計情報に基づくユーザ操作の適切性の評価又は異常のリスクの評価を可変機構ごとに別々に行うことが可能となる。統計情報に基づく評価又は統計情報の蓄積は、画像形成装置1において行われてもよく、又は画像形成装置1とは異なる装置において行われてもよい。後者のケースでは、統計情報は、例えば通信インタフェース160を介して他の装置へ送信され得る。統計情報に基づく評価は、ユーザにより人為的に行われてもよい。その場合、CPU150により生成された統計情報が、例えばディスプレイ165の画面80上に表示され得る。
【0041】
上では画像形成装置1の可変機構としてカセットトレイ30及び前カバー50について主として説明した。しかしながら、上述した仕組みは、例えばカートリッジ20の装着状態/取外し状態、定着ユニット40の装着状態/取外し状態、及び本体が具備する他の部材の状態(例えば、右カバー48の開閉)といった他のユーザ操作にも適用可能である。また、上述した仕組みは、説明した例とは逆の操作方向(例えば、カセットトレイ30を引出す操作、及び前カバー50を開ける操作)にも適用可能である。
【0042】
<<4.処理の流れ>>
本節では、上述した実施形態に係る画像形成装置1により実行される処理の流れのいくつかの例を説明する。第1の実施例では、画像形成装置1は、可変機構の状態の変化が検知された時点の前の時間区間及び当該時点の後の時間区間を含むN個の時間区間の音波レベルに基づいて、音波に関する統計情報を生成する。一例として、その統計情報は、N個の区間にわたる音波レベルの平均値であり得る。第2の実施例では、画像形成装置1は、可変機構の状態の変化が検知された時点の後のN個の時間区間の音波レベルに基づいて、音波に関する統計情報を生成する。一例として、その統計情報は、N個の音波レベルのうちの最大値であり得る。
【0043】
(1)第1の実施例
図11は、第1の実施例において画像形成装置1により実行される統計生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。図11に示した統計生成処理は、例えば、コントローラ100に含まれる音処理回路110のようなハードウェアと、CPU150により実行されるソフトウェア(コンピュータプログラム)との組合せにより実現され得る。コンピュータプログラムは、例えば、図5には示していないメモリへロードされてCPU150により実行され得る。なお、以下の説明では、処理ステップをS(ステップ)と略記する。
【0044】
まず、S1101で、CPU150は、バッファ130のN個の記憶領域を初期化する。次いで、S1102で、CPU150は、インデックス変数i及び区間カウンタcを共にゼロへ初期化する。インデックス変数iは、バッファ130の記憶領域を循環的に参照するための変数である。区間カウンタcは、統計情報を生成する際に時間区間をカウントするための変数である。
【0045】
S1103で、音処理回路110は、最新の時間区間においてマイクロフォン70により取得された音波の音波レベルLを、信号の増幅、AD変換、DC成分の除去、二乗演算及び区間平均といった処理を通じて算出する。S1104で、音処理回路110の区間平均回路119は、算出した音波レベルLを、リングバッファであるバッファ130の記憶領域S(i)へ書込む。
【0046】
その後の処理は、S1105で、いずれかの可変機構の状態が変化したことが状態通知部140により検知されたか否かに依存して分岐する。可変機構の状態の変化が検知された場合、処理はS1111へ進む。そうではない場合、処理はS1106へ進む。
【0047】
可変機構の状態の変化が検知されない場合、S1106で、処理はさらにCPU150が音波に関する統計情報を生成中であるか否かに依存して分岐する。例えば、区間カウンタcがゼロに等しい場合、統計情報の生成は始まっていないために、処理はS1107へ進む。一方、cがゼロより大きい場合、CPU150が統計情報を生成中であるため、処理はS1113へ進む。
【0048】
S1107で、CPU150は、インデックス変数iをインクリメントする。次いで、S1108で、CPU150は、バッファ参照用のインデックスが上限に達したか、即ちi=Nとなったかをを判定する。iがNに達した場合には、S1109で、循環的なバッファの参照のために、インデックス変数iはゼロへ初期化される。iがNに達していない場合には、S1109はスキップされる。その後、処理はS1103へ戻る。
【0049】
S1105で可変機構の状態の変化が状態通知部140により検知された場合、CPU150は、S1111で、バッファ130内の音波レベルデータの量が統計情報を生成するために不足しているか否かを判定する。例えば、合計でN個、状態変化の検知の後にCmax個の時間区間の音波レベルデータが統計情報の生成のために必要であるとすると、S1102での初期化の後に区間カウンタcがN-Cmaxに達していない場合には、データが不足していると判定され得る。バッファ内のデータが不足している場合、統計情報の生成は行われず、処理はS1101へ戻る。バッファ内のデータが不足していない場合、処理はS1112へ進む。
【0050】
バッファ内のデータが不足していない場合、S1112で、CPU150は、その時点で統計情報を生成中であるか否かを判定する。例えば、区間カウンタcがゼロに等しい場合、統計情報の生成は始まっていないために、処理はS1113へ進む。一方、cがゼロより大きい場合、前回の状態変化についてCPU150が統計情報を生成中である状況で、新たな状態変化が検知されたものと解釈される。この場合、有意な統計情報を生成することが困難であることから、統計情報の生成はキャンセルされ、処理はS1101へ戻る。
【0051】
S1113で、CPU150は、区間カウンタcをインクリメントする。次いで、CPU150は、S1114で、区間カウンタcが上限に達したか否かを判定する。例えば、c≧Cmaxである場合には、区間カウンタcが上限に達したため、処理はS1115へ進む。一方、c<Cmaxである場合には、区間カウンタcは上限に達していないため、処理はS1107へ進み、最新の時間区間の音波レベルLの算出及びリングバッファへのLの循環的な書込みが進められる。
【0052】
区間カウンタcが上限に達した場合、S1115で、CPU150は、バッファ130のN個の記憶領域へそれぞれ書込まれたN個の音波レベルに基づいて、音波に関する統計情報を生成する。例えば、CPU150は、N個の音波レベルの平均値を統計情報として算出し得る。CPU150は、さらに、状態通知部140から通知される、状態の変化した可変機構を識別する識別情報を、生成した統計情報に関連付けてもよい。そして、CPU150は、生成した統計情報を、ストレージへ出力して記憶させ、通信インタフェース160を介して他の装置へ送信し、又はディスプレイ165へ出力して画面80上に表示させる。例えば、CPU150は、生成した統計情報が所定の警告条件を満たす場合に、その後の操作においてより小さい力で可変機構を操作するようにユーザに促す警告メッセージを、ディスプレイ165へ出力して画面80上に表示させてもよい。警告条件は、例えば、音波レベルの平均値(又は後述する他の指標)が閾値を上回ること、又はその閾値の超過が所定の回数に達したことなどであってよい。ユーザへの警告は、警告メッセージの表示の代わりに、例えば警告音若しくは警告音声の出力、又は発光手段(例えば、LED)の点灯といった他の警告手段で行われてもよい。
【0053】
図11には示していないものの、CPU150は、さらに、予め定義される計算式にS1115で算出した音波レベルの平均値を代入することにより、可変機構に加わった力の強さを評価するための他の指標を推定してもよい。ここでの他の指標とは、例えば、操作の速度、加速度又は力の強さであり得る。計算式は、例えば、図8及び図10を用いて説明したような実測値の分布にフィットする関数として定義され得る。こうした他の指標もまた、出力される統計情報に含められてよい。
【0054】
その後、図11に示した統計生成処理は、S1101へ戻り、音波レベルLの算出及びバッファへの書込み、並びに可変機構の状態変化の監視が継続される。
【0055】
第1の実施例では、可変機構の状態変化が検知された時点の前後双方の時間区間の音波レベルに基づいて統計情報が生成されるため、後述する第2の実施例と比較して、操作音に基づくより正確なユーザ操作の評価が可能である。
【0056】
なお、第1の実施例の特殊ケースとして、Cmaxをゼロに設定した場合、可変機構の状態の変化が検知された時点の前のN個の時間区間の音波レベルに基づいて、音波に関する統計情報が生成され得る。時間区間の個数を制御するN及びCmaxといったパラメータは、予め固定的に定義されてもよく、又は管理者により変更可能であってもよい。
【0057】
(2)第2の実施例
図12は、第2の実施例において画像形成装置1により実行される統計生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。図12に示した統計生成処理は、例えば、コントローラ100に含まれる音処理回路110のようなハードウェアと、CPU150により実行されるソフトウェア(コンピュータプログラム)との組合せにより実現され得る。コンピュータプログラムは、例えば、図5には示していないメモリへロードされてCPU150により実行され得る。
【0058】
まず、S1201で、CPU150は、バッファ130のN個の記憶領域を初期化する。次いで、S1202で、CPU150は、変数i及びLmaxをゼロへ初期化する。変数iは、バッファ130の記憶領域を順次参照するための変数である。変数Lmaxは、音波レベルの最大値を格納するための変数である。
【0059】
S1203で、CPU150は、いずれかの可変機構の状態が変化したことが状態通知部140により検知されるまで待機する。可変機構の状態の変化が検知された場合、処理はS1204へ進む。
【0060】
S1204で、音処理回路110は、最新の時間区間においてマイクロフォン70により取得された音波の音波レベルLを、信号の増幅、AD変換、DC成分の除去、二乗演算及び区間平均といった処理を通じて算出する。音処理回路110の区間平均回路119は、算出した音波レベルLを、バッファ130の記憶領域S(i)へ書込む。
【0061】
次いで、S1205で、CPU150は、S1204で算出された音波レベルLがLmaxを上回るか否かを判定する。LがLmaxを上回る場合、S1206で、CPU150は、LmaxにLを代入することにより、音波レベルの最大値を更新する。次いで、S1207で、CPU150は、変数iをインクリメントする。次いで、S1208で、CPU150は、N個の時間区間に相当する統計期間が終了したか否かを判定する。例えば、iがNに達した場合には、統計期間が終了したため、処理はS1209へ進む。一方、iがNに達していない場合には、統計期間が終了していないため、次の時間区間について上述したS1204~S1207が繰返される。
【0062】
処理がS1209へ進んだ場合、その時点のLmaxの値は、可変機構の状態変化が検知された時点以降の統計期間において算出されたN個の音波レベルのうちの最大値を示す。S1209で、CPU150は、この最大値Lmaxを音波に関する統計情報としてストレージ、通信インタフェース160又はディスプレイ165へ出力する。
【0063】
本実施例においても、CPU150は、さらに、予め定義される計算式に最大値Lmaxを代入することにより、可変機構に加わった力の強さを評価するための他の指標を推定し、推定した他の指標を統計情報に含めてもよい。また、CPU150は、状態の変化した可変機構を識別する識別情報を、出力される統計情報に関連付けてもよい。
【0064】
その後、図12に示した統計生成処理は、S1201へ戻り、可変機構の状態変化の監視が再開される。
【0065】
第2の実施例を第1の実施例と対比すると、第2の実施例では、音波レベルLを常に反復的に算出してバッファへ格納する必要性がないため、画像形成装置1における演算及び記憶のためのリソースの負荷を低減することができる。
【0066】
<<5.画像形成システムとしての実装>>
上では音波レベル信号から時間区間ごとの音波レベルを算出する機能及び音波に関する統計情報を生成する機能の双方が画像形成装置1に実装される例を説明した。しかしながら、これら機能の一部(例えば、デジタル領域での信号処理及び統計演算)は、画像形成装置1へネットワークを介して接続された他の装置に実装されてもよい。即ち、本開示に係る技術は、一般に画像形成システムに適用可能である。ここでの画像形成システムとは、単一の画像形成装置、及び、互いに連携する複数の装置(そのうち少なくとも1つが画像形成装置である)の双方を意味し得る。画像形成装置と連携する他の装置は、例えば、複数の画像形成装置の状態を管理するサービスセンタ内のサーバ装置であってもよい。音波レベルを算出する機能、音波に関する統計情報を生成する機能、統計情報を管理者へ提示する機能、統計情報を元の画像形成装置へ提供する機能、及び統計情報を分析してユーザ操作を評価する機能のうちの1つ以上が、こうした他の装置に実装されてもよい。
【0067】
<<6.まとめ>>
ここまで、図1図12を用いて、本開示の実施形態について詳細に説明した。上述した実施形態では、画像形成装置においてユーザにより物理的に操作される可変機構の状態の変化が検知された場合に、その変化の前又は後の少なくとも一方において集音手段により取得された音波に関する統計情報が生成される。かかる構成によれば、ユーザによる操作が引き起こす音に基づく統計情報を用いて、上記画像形成装置の故障及び品質不良といった異常のリスクを評価することが可能となる。
【0068】
また、上述した実施形態では、上記統計情報は、上記変化が検知された時点に対応する1つ以上の時間区間で取得された音波の音波レベルに基づいて、例えば音波レベルの平均値、最大値又は積算値として生成され得る。こうした統計値は、ユーザによる上記操作の際に上記可変機構に加わった力の強さとの相関を有することから、上記統計情報を分析することで、ユーザ操作が適切であったかを簡易的に評価することが可能である。例えば、ユーザ操作の際に可変機構に加わった力が強すぎると評価される場合には、ユーザへ警告を発することで、その後の操作においてより小さい力で可変機構を操作するようにユーザに促すことができる。こうした対策によって、装置の故障及び品質不良といった異常のリスクが低減される。
【0069】
また、上述した実施形態では、上記統計情報は、状態の変化が検知された上記可変機構を識別する識別情報に関連付けて生成され得る。この場合、上記画像形成装置が有し得る複数の可変機能のうちのどれに対する操作が問題となっているのかを、統計情報を分析する際に曖昧性なく特定することが可能である。
【0070】
また、上述した実施形態では、上記統計情報は、通信インタフェースを介して他の装置へ送信され得る。この場合、上記他の装置(例えば、サービスセンタ内の装置)において上記統計情報を分析して、ユーザ操作が適切であったかを評価することができる。
【0071】
また、上述した実施形態では、上記統計情報は、上記画像形成装置のディスプレイに表示され得る。この場合、上記画像形成装置を操作したユーザ自身(又は管理者などの他のユーザ)に、ユーザ操作が適切であったかを画面上で通知することができる。
【0072】
上述した実施形態では、本開示に係る技術が画像形成装置に適用される例を主に説明した。しかしながら、上述した音波関連の統計情報の出力の仕組みは、例えばスキャナ及びファクシミリといった他の種類の画像処理装置にも適用可能である。
【0073】
<<7.その他の実施形態>>
上記実施形態は、1つ以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理の形式でも実現可能である。また、1つ以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0074】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0075】
1:画像形成装置/システム、20:カートリッジ(可変機構)、30:カセットトレイ(可変機構)、31:カセットセンサ(検知手段)、40:定着ユニット(可変機構)、48:右カバー(可変機構)、50:前カバー(可変機構)、51:カバースイッチ(検知手段)、70:マイクロフォン(集音手段)、150:CPU(生成手段)、160:通信インタフェース(通信手段)、165:ディスプレイ(表示手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12