(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ヒートポンプシステムを動作させる方法、ヒートポンプシステムおよびHVACシステム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/63 20180101AFI20240927BHJP
F24F 11/86 20180101ALI20240927BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20240927BHJP
F24F 130/20 20180101ALN20240927BHJP
【FI】
F24F11/63
F24F11/86
F25B1/00 399Y
F25B1/00 371Z
F24F130:20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020055275
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2021-11-08
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503163527
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュアン ウー
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/190334(WO,A1)
【文献】特開2008-298296(JP,A)
【文献】特開昭54-024449(JP,A)
【文献】特開2017-190075(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0180483(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプシステムを動作させる方法であって、
建物へ入射する日射量を測定することと、
前記測定された日射量に基づいて、前記ヒートポンプシステムに含まれるヒートポンプの動作を調整することと、
を備え
前記ヒートポンプの前記動作は、前記日射量が予め設定された閾値よりも大きい場合に調整されるものであり、
前記閾値は、窓の数とそれらのサイズを含む建物の特性及び前記建物の熱質量に基づいて設定されており、
前記ヒートポンプの前記動作が、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御を使用して調整され、
前記方法が、
前記測定された日射量φを閾値日射量と比較することと、
前記測定された日射量φが前記閾値日射量以上である場合、
日射開口率αを用いてQ
solar=αφとして日射獲得熱量を決定することと、
前記ヒートポンプシステムの熱伝達媒体の質量流量mと、
前記ヒートポンプシステムの前記熱伝達媒体の比熱容量C
pとを用いて、
ΔT=Q
solar/(mC
p)として流れ温度低減を決定することと、
前記ヒートポンプの目標流れ温度T
flow,supplyをΔTだけ下げることによって、前記ヒートポンプの前記動作を調整することと、
をさらに含む、方法。
【請求項2】
前記ヒートポンプの前記動作が、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御を使用して調整され、
前記方法が、
前記測定された日射量を使用して、温度補正量によって前記フィードフォワード制御および/または前記フィードバック制御に入る次の量:前記ヒートポンプの目標流れ温度、流れ温度設定点、および/または、室内気温の気温設定点、のうちの少なくとも1つを調整させること、をさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、
前記測定された日射量を使用して、温度補正量によって前記フィードフォワード制御および/または前記フィードバック制御に入る次の量:前記ヒートポンプの目標流れ温度、流れ温度設定点、および/または、室内気温の気温設定点、のうちの少なくとも1つを減少させる、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒートポンプの前記動作の前記調整において、前記温度補正量が、日射熱取得率、SHGC、方法、全日射開口率法、および/または標準評価手順、SAP、を使用して、前記測定された日射量から決定される、
請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒートポンプに含まれる圧縮機の動作周波数は、前記ヒートポンプの前記動作を調整するために調整される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒートポンプの前記動作が、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御を使用して調整され、
前記方法が、
前記測定された日射量φを閾値日射量と比較することと、
前記測定された日射量φが前記閾値日射量以上である場合、
日射開口率αを用いてQ
solar=αφとして日射獲得熱量を決定することと、
前記建物の熱容量Mを用いてΔT=Q
solar/Mとして室温低下量を決定することと、
室内温度設定点T
indoor spをΔTだけ下げることによって、前記ヒートポンプの前記動作を調整することと、
をさらに含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記日射量は、前記建物の外側に位置するセンサによって測定される、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記日射量は、前記建物の最も高い地点、または、終日太陽を遮るものの無い前記建物のスポットに位置するセンサによって測定される、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法の各ステップは、少なくとも1時間に1回実行される、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法の各ステップは、少なくとも15分に1回実行される、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法の各ステップは、少なくとも1分に1回実行される、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ヒートポンプシステムであって、
少なくとも1つのヒートポンプと、
建物への日射量を測定するために構成された少なくとも1つのセンサと、
日射量を測定するための前記少なくとも1つのセンサによって測定された日射量の量に基づいて、前記少なくとも1つのヒートポンプの動作を制御するために構成されたコントローラと、
を備え
前記ヒートポンプの前記動作は、前記日射量が予め設定された閾値よりも大きい場合に調整されるものであり、
前記閾値は、窓の数とそれらのサイズを含む建物の特性及び前記建物の熱質量に基づいて設定されており、
前記ヒートポンプの前記動作が、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御を使用して調整され、
前記
ヒートポンプシステムが、
前記測定された日射量φを閾値日射量と比較することと、
前記測定された日射量φが前記閾値日射量以上である場合、
日射開口率αを用いてQ
solar=αφとして日射獲得熱量を決定することと、
前記ヒートポンプシステムの熱伝達媒体の質量流量mと、
前記ヒートポンプシステムの前記熱伝達媒体の比熱容量C
pとを用いて、
ΔT=Q
solar/(mC
p)として流れ温度低減を決定することと、
前記ヒートポンプの目標流れ温度T
flow,supplyをΔTだけ下げることによって、前記ヒートポンプの前記動作を調整することと、
をさらに含む、ヒートポンプシステム。
【請求項13】
前記コントローラは、前記日射量に基づいて前記少なくとも1つのヒートポンプの前記動作として前記少なくとも1つのヒートポンプに含まれる圧縮機の動作周波数を調整するように構成されている、
請求項12に記載のヒートポンプシステム。
【請求項14】
前記センサは、シリコン光電池またはサーモパイル型センサである、
請求項12または13に記載のヒートポンプシステム。
【請求項15】
前記ヒートポンプは、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されている、
請求項12~14のいずれか一項に記載のヒートポンプシステム。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一項に記載のヒートポンプシステムを含む、
HVACシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒートポンプシステムを動作させる方法、ヒートポンプシステムおよび日射量を測定するHVACシステムに関し、ヒートポンプの動作は、日射量に基づいて調整される。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートポンプシステムは、主に効率が高いという理由で、非常に人気がある。したがって、これらはゼロエネルギー住宅の重要な再生可能ソリューションと見なされている。従来のヒートポンプシステムでは、ヒートポンプは、
図1に示すように、通常室内気温の測定に基づいて制御される。設定された室内温度T
setが制御手順に入力され、フィードフォワード制御1ならびにフィードバック制御2が採用されて、ヒートポンプシステムを流れる熱輸送媒体の目標流れ温度を達成する。周囲温度T
ambがフィードフォワード制御に入力される。次いで、目標流れ温度は通常リミッタ3に入力され、結果として得られるパワー制限された目標流れ温度で熱輸送媒体がエミッタ4に流入され、エミッタ4から建物5に放熱された結果、室温T
roomをもたらす。
【0003】
加熱制御は、フィードフォワード制御(FF制御)1ならびにフィードバック制御(FB制御)2の2つの部分を備える。これらは、一般にヒートポンプシステムに実装されている。好ましくは、フィードフォワード制御は、設定された室温Tsetおよび周囲温度Tambを使用して目標流れ温度Twaterを計算する。フィードバック制御は、目標室温Tsetと測定された室温との間の偏差を使用して、目標流れ温度Twaterの調整値を計算する。
【0004】
通常、室温は、例えば無線リモートコントローラによって測定され、無線リモートコントローラの場所は実際のアプリケーションによって異なる。このことは、例えば窓の割り当て(fenestration)に深く関係する日射フラックスによって引き起こされる室内温度の不均一性による遅延の観点から、室温測定の不確実性(精度の低さ)につながる。さらに、従来の暖房システムは、フィードバック制御の限界および家の日射獲得熱量の性質に起因して、部屋を過熱する傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、建物が受ける日射量が大きい場合にヒートポンプの温度制御を改善することが本開示によって解決される問題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この問題は、請求項1に記載のヒートポンプシステム、請求項10に記載のヒートポンプシステム、および請求項14に記載の暖房、換気および空調のHVACを動作させる方法によって解決される。
【0007】
本開示は、ヒートポンプシステムを動作させる方法に関する。本開示による方法は、原則として、あらゆる種類のヒートポンプシステムに適用することができる。そのようなヒートポンプシステムは、例えば、熱輸送媒体を導くヒートポンプならびに熱輸送媒体回路を備える。熱輸送媒体は、ヒートポンプによって加熱または冷却することができる。ヒートポンプは、例えば、凝縮器、膨張弁、蒸発器および圧縮機が冷媒導管によって互いに直列に接続されている冷媒回路を含むことができる。ヒートポンプの構成は、本開示にとって必須ではないことが強調されるべきである。本開示は、部屋を暖房または冷房するためのあらゆる手段に適用することができる。ここで、「ヒートポンプ」という用語は、室内を暖房する装置ならびに室内を冷房する装置を表す。「エアコン」という用語も使用できる。
【0008】
本開示によるヒートポンプシステムを動作させる方法は、建物に入射する日射量を測定することを含む。日射量は、好適なセンサで測定することができる。太陽光は均一な分布で地球に入射するため、日射量の局所的な測定で通常十分である。日射量によって建物に持ち込まれる総エネルギーは、この局所的な測定値と建物の有効なモデルとに基づいて決定することができる。日射量に言及する場合、例えば日射フラックスや日射エネルギー密度などの代替用語を使用することができる。
【0009】
次いで、本開示の方法は、測定された日射量に基づいて、ヒートポンプシステムに含まれるヒートポンプの動作を調整するものであり、ヒートポンプの動作は、日射量が所定の閾値よりも大きい場合に調整される。
【0010】
本開示の好ましい実施形態において、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御を使用してヒートポンプの動作を調整することができる。この場合、温度補正量ΔTが、測定された日射量に基づいて計算されて、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御に入力される量(quantities)を調整することができる。
【0011】
好ましくは温度補正ΔTによって調整することができる1つの量は、ヒートポンプの目標流れ温度である。これは、例えば、ヒートポンプによって加熱される熱伝達媒体の指定温度である。フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御は、目標流れ温度を達成することを目的とする。このため、この値が変更されると、ヒートポンプの動作も変更される。建物が日射によるエネルギーを吸収するとき、日射量の増加は結果として目標流れ温度の低減をもたらす。
【0012】
ヒートポンプの動作を調整するために有利に使用することができるさらなる量は、室内気温の気温設定点である。これは部屋の中で望ましい温度である。それは、例えばサーモスタットで設定される。日射が部屋にエネルギーを導入する場合、ヒートポンプによって提供される熱は少なくなる。フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御を使用してヒートポンプを制御する場合、これは温度補正ΔTによって実際に設定された温度を下げることによって達成することができる。このため、ユーザは特定の温度Tindoor spを設定するが、調整された値Tindoor sp-ΔTがフィードフォワードおよびフィードバック制御に入力される。
【0013】
本開示の有利な実施形態では、ヒートポンプの動作は、ヒートポンプ内に含まれる圧縮機の動作周波数を調整することにより調整することができる。動作周波数が高いほど、ヒートポンプによって提供される熱量が高くなる。したがって、日射量が増加すると、通常、圧縮機の動作周波数が低下する。
【0014】
本開示の有利な実施形態では、ヒートポンプの動作は、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御を使用して調整することができ、測定された日射量ΔTを所定の閾値日射量と比較するステップをさらに含むことができる。このステップにより、日射量が十分に多い場合にのみ調整が行われることを確実にすることができる。
【0015】
日射量閾値φthresholdは、例えば、窓の割り当て(すなわち、窓の数とそれらのサイズ)などの建物の特性および熱質量(例えば、標準評価手順SAP2012などの規格を使用して推定することができる)に応じて設定することができる。
【0016】
この場合、測定された日射量φが閾値日射量以上である場合、日射獲得熱量Qsolarは、Qsolar=αφとして決定することができ、式中、αは日射開口率であり、これは、例えばTAIThermシミュレーション結果から導出することができる。次いで、好ましくは、ΔT=Qsolar/(mCp)として流れ温度低減ΔTを決定することが可能である。ここで、mはヒートポンプシステムの熱伝達流体の質量流量であり、Cpはヒートポンプシステムの熱伝達媒体の比熱容量である。ヒートポンプの動作は、ヒートポンプの目標流れ温度Tflow,supplyをΔTだけ下げることによって調整することができる。
【0017】
本開示のさらに好ましい実施形態において、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御を使用してヒートポンプの動作を調整することができる。この実施形態では、当該方法は、測定された日射量φを閾値日射量と比較することをさらに含むことができる。測定された日射量φが閾値日射量以上である場合、日射獲得熱量Qsolarは、Qsolar=αφとして決定することができ、式中、αは再び日射開口率である。次いで、好ましくは、ΔT=Qsolar/Mとして気温低減を決定することが可能であり、式中Mは建物の熱容量である。ヒートポンプの動作は、その後、室内温度設定点Tindoor spをΔTだけ下げ、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御において低減した室内温度設定点を使用することによって調整することができる。
【0018】
建物の外側上に位置し、好ましくは建物の最も高い地点、または終日太陽が遮られない建物のスポットに位置する日射量センサによって日射量を測定することが好ましい。
【0019】
日射センサは、最大量の日射を受け取るために、太陽光を受けるための遮るもののない視野を有することが好ましい。したがって、日射センサは、他の建物、樹木、または他の物体によって陰になっている場所に設置されるべきではない。建物の頂部(トップ)の上または建物の近くの別の取り付け台の上に、センサを設置することが特に好ましい。センサを外部の壁または外部の窓に設置する必要がある場合、これが最大量の太陽光を受け取る壁または窓であることが好ましい。北半球では、これは、例えば、南向きの壁または窓になる。
【0020】
本開示の方法は、繰り返し実行され、特に好ましくは少なくとも1時間に1回、好ましくは少なくとも15分に1回、特に好ましくは少なくとも1分に1回実行されることが好ましい。
【0021】
本開示はさらに、少なくとも1つのヒートポンプならびに建物への日射量を測定するように構成された少なくとも1つのセンサを備えるヒートポンプシステムに関する。ヒートポンプは、例えば上記のように構成することができる。
【0022】
本開示によるヒートポンプシステムは、少なくとも1つの日射量センサによって測定された日射量の量に基づいて少なくとも1つのヒートポンプの動作を制御するように構成されたコントローラをさらに備える。
【0023】
コントローラが、少なくとも1つのヒートポンプに含まれる圧縮機の動作周波数を調整するように構成されているならば、特に好ましい。圧縮機の動作周波数の制御は、日射量に基づき少なくとも1つのヒートポンプの動作を変更するために行われる。
【0024】
日射量センサは、例えば、シリコン光電池またはサーモパイル型センサであり得る。シリコン光電池は、サーモパイル型センサよりも安価であり、したがって、本開示には好ましい。
【0025】
ヒートポンプが上記の方法を実行するように構成されているならば、特に好ましい。
【0026】
本開示はまた、上記のヒートポンプシステムを含むHVACシステムに関する。
【0027】
以下において、本開示は、図を参照して、いくつかの例として説明される。それらの例の文脈で説明されている特徴は、特定の1つの例から独立して実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】先行技術の自動テューニングフィードフォワード制御およびフィードバック制御の機能図を示す。
【
図3】目標流れ温度が調整されるヒートポンプ動作方法の制御図を示す。
【
図4】
図3の流れ温度設定点調整の制御アルゴリズムを示す。
【
図5】室内温度設定点が調整されるヒートポンプ動作の制御図を示す。
【
図6】
図5の室内温度設定点調整の制御アルゴリズムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
日射獲得熱量の計算は、直接および間接の日射量の推定値に加えて、窓サイズ、方向、シェーディング、および材料特性に関する詳細を伴うプロセスである。日射獲得熱量は、式(1)~(6)によって表すことができる[ASHRAE Research,ASHRAE Handbook-Fundamentals、アトランタ:ASHRAE 2017]。
【0030】
【0031】
一般的には全天日射量が計測され、種々のデータソースとして記録されている場合があるが、全天日射量を直達成分と散乱成分に分離する必要がある。
【0032】
【0033】
有効な一実施形態では、建物に導入される日射獲得熱量は、日射熱取得率、SHGC(solar Heat gain coefficient)の方法を使用して、測定された日射量から決定することができる。
【0034】
窓の製造業者によって実際に提供されるデータには、通常、次のものが含まれる。
・ レイヤの数-シングルペイン、ダブルペイン、トリプルペイン
・ ガラスのタイプの銘柄-着色、低Eコーティングの有無
・ Uファクタ(NFRC2004b)
・ 法線入射角での日射熱取得率(SHGC)
・ 視覚透過率
【0035】
好ましくは、建物外皮の熱負荷が、透過及び吸収された日射獲得熱量とは別に計算される。ガラスの熱容量は通常非常に小さいため、窓面での伝熱は定常状態に達している。従って、建物外皮の熱負荷は次のように計算され得る。
【0036】
【0037】
透過および吸収された日射獲得熱量は、次のように有利に計算される。
1.入射角、表面方位角、入射直接照射および窓上の拡散照射を計算し、
2.外部シェーディングが存在する場合、太陽に照らされたエリアとシェーディングされたエリアとを決定し、
3.シェーディングのない窓に対して、直達成分及び散乱成分ならびに合計日射獲得熱量が与えられる。
【0038】
【0039】
式中、
SHGC(θ)は、表1のように補間された角度依存のSHGCである。
【0040】
【0041】
日射獲得熱量を計算するための別の有利な方法は、例えば、全日射開口率法である。
【0042】
この方法は、例えば、共加熱法(co-heating method)によって実施され、建物の熱負荷パラメータおよび、日射量測定値の回帰分析によって日射開口率(Asol(m2))を求めることを含む。Asolという用語は、P.Baker著、「A retrofit of a Victorian terrace house in New Bolsover:a whole house thermal performance assessment」、Historic England & Glasgow Caledonian University、2015年によって明確に定義されており、これは、「外側表面に入射する日射によって引き起こされ、建物の平面に入射する日射の強度で割った、定常状態条件下での建物の外皮を通して内部環境に伝達される熱流量であり、それは、建物外皮のうち、この部分のみ日射によるエネルギーを取り入れることができる部分である」とみなす、日射開口率を意味する。
【0043】
建物の構造にわたって全熱流量を直接測定することはできないので、共加熱法(co-heating method)では、単純化されたエネルギーバランス式を使用して、屋内に人の居ない条件下において、式(14)に示すように、熱損失を推定する。
【0044】
【0045】
Qactiveは、電気またはヒートポンプのいずれかによって供給される熱である。
【0046】
HLCは、熱損失係数、W/Kである。
【0047】
測定されたパラメータおよびHLCに基づいて、Asolは長期間のテストで取得することができる。
【0048】
Asolの値は、住居のガラス窓だけでなく、熱容量の影響も含まれる。
【0049】
日射獲得熱量を決定するためのさらに有利な方法は、標準評価手順、SAP(standard assessment procedure)である。
【0050】
BRE、The Government’s Standard Assessment Procedure for Energy Rating of Dwellings (SAP 2012)、Garston: BRE、2017年で説明されているように、日射獲得熱量は、付録U(Appendix U)のU3からの日射フラックスと、該当する方向に変換する関連式とを使用して、計算される。
【0051】
【0052】
式中、
Gsolarは、平均日射獲得熱量Wであり、
0.9は、通常の平均透過率と法線入射時の透過率との比を表すファクタであり、
Awは、開口部(窓またはガラス戸)の面積m2であり、
Sは、適用可能な表面の日射フラックスW/m2であり、
g⊥は、法線入射でのガラス窓の全日射エネルギー透過ファクタであり、
FFは、窓およびドア(ガラス張りの開口の部分)のフレームファクタであり、
Zは、日射アクセスファクタである。
【0053】
これらのファクタは、表2、3および4で推定することができる。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
図2は、本開示の効果を示す。
図2(a)は、先行技術のヒートポンプ制御について、上図に一日中の気温と日射量とを示し、下図に一日中の圧縮機周波数とヒートポンプ消費電力とを示す。
図2(b)は、本開示によって制御されるヒートポンプシステムについて、上図に一日中の気温と日射量とを示し、下図に一日中の圧縮機周波数とヒートポンプ消費電力とを示す。
【0058】
図2(a)および
図2(b)の上図では、実線は日射量を示し、短い破線は周囲温度を示し、長い破線は設定点の室内温度を示す。
図2(a)および
図2(b)の下図では、太い実線はヒートポンプ消費電力を示し、細い実線は圧縮機の周波数を示す。
【0059】
日射量は日の出とともに増加し始め、正午に最大に達し、日没時にゼロに達する。
【0060】
先行技術のように、測定された室内温度に基づいてヒートポンプが制御されるため、
図2(a)の圧縮機周波数は、室内温度が上昇し始める時間t
0で低下する。室内温度が特定の値に達すると、時間t
1で圧縮機が完全にシャットダウンする。ヒートポンプ消費電力は、
図2(a)の下図の圧縮機の周波数に従う。
【0061】
本開示の効果を示す
図2(b)では、測定された日射量に基づいてヒートポンプの動作が制御される。時間t
0’で日射量が閾値日射量を超えて増加すると、圧縮機の周波数fが低下し、同時にヒートポンプ消費電力が低下する。時間t
1’で日射量がさらに閾値を超えて増加すると、圧縮機周波数fはゼロに設定され、それに応じてヒートポンプ消費電力はゼロになる。
図2(b)の上図では、実線で表されている室内温度が、
図2(a)の上図に示されている従来の制御よりも、長い破線で示されている設定点温度に近づいていることがわかり得る。さらに、圧縮機の周波数は、従来の制御方法における時間t
0およびt
1よりも早い時間t
0’およびt
1’で減少することがわかり得る。したがって、ヒートポンプ動作のエネルギーは、
図2(b)の下図のハッシュ領域によって示されるように節約される。
【0062】
図3は、本開示によるヒートポンプシステムを動作させる方法の制御図を示す。本方法は、フィードフォワード制御1ならびにフィードバック制御2を使用する。左側では、設定された室温が、最初に任意選択(optional)のローパスフィルタ6に入力され、次にフィードフォワード制御1に入力され、そこで、測定された周囲温度と当該室温とから、目標流れ温度が計算される。ローパスフィルタ6の出力は、フィードバック制御エレメント2にさらに入力され、フィードバック制御エレメント2も、目標流れ温度を生成する。フィードフォワード制御1およびフィードバック制御2によって生成されるそれらの目標流れ温度は、結合されて、結果としての目標流れ温度になる。この実施形態では、当該結果としての目標流れ温度は、適切な日射量センサによって測定された日射量に基づいて、ステップ8で調整される。ステップ8は、調整された目標流れ温度を出力する。この調整された目標流れ温度は、パワーセーブ制御3、室外ユニット4、および家5を通り、結果として、室温をもたらす。室温は、ローパスフィルタ7を介してフィードバック制御の入力にフィードバックされ、それによりローパスフィルタ6によって出力される設定室温とローパスフィルタ7によって出力されるフィードバックされた室温との間の差がフィードバック制御2に入力される。
【0063】
パワーセーブ制御3は、動作をスムーズにし、それにより圧縮機周波数の突然の変化による電力消費を節約するため、圧縮機周波数の変動を低減するための機能である。室外ユニット4は、メイン冷凍サイクルを備えたヒートポンプ室外ユニットのブロックであり、室外環境で動作して、空気や地面などの周囲から低品位エネルギーを吸収する。家5は、特定の温度を維持するためにヒートポンプから供給される熱を必要とする建物を表すブロックである。
【0064】
図4は、
図3の制御図で実行されるアルゴリズムのフロー図を示す。第1のステップS1では、ヒートポンプにより加熱された部屋の室内温度が測定される。さらに、ステップS2において、周囲温度が測定され、これは例えば室外温度である。
図4において、ステップS1およびS2が特定の順序で示されているが、それらは異なる順序で実行でき、また、同時に実行することもできることに留意されたい。
【0065】
ステップS3において、初期温度T
flow,supplyが計算される。この初期温度T
flow,supplyは、
図3で目標流れ温度として示されている前のブロックの入力値から提供される。この値は、最初に
図3のフィードフォワード制御ブロック1およびフィードバック制御ブロック2から計算される。
【0066】
ステップS4において、例えば、センサによって、または他のウェブベースのデータによって、日射フラックスφが取得される。日射フラックスの大きさは、例えばW/m
2である。
図4では、ステップS3の後にステップS4が示されていることに留意されたい。しかしながら、日射フラックスφは、ステップS1、S2、およびS3のシーケンスのうちの任意の他の点で取得することもできる。
【0067】
続くステップS5、S6、S7、S8およびS9は、
図3のブロック8で実行される。
【0068】
ステップS5において、取得された日射フラックスφが閾値日射、例えば、φthreshold=50W/m2より大きいかどうかが判定される。そうでない場合、目標流れ温度Tflow,supplyは、変更されない。一方で、測定された日射フラックスφが閾値フラックスφthresholdより大きい場合、ステップS6が実行され、そこで日射獲得熱量Qsolarが、Qsolar=αφとして推定される。この例では、建物に吸収される日射獲得熱量Qsolar [W]が推定される。ここで、日射開口率α[m2]および係数は、例えば、特定の期間の共加熱テストまたは連続加熱テストにおける回帰法によって導出することができる。
【0069】
次いで、推定された日射獲得熱量QsolarがステップS7で使用され、ΔT=Qsolar/(mCp)として流れ温度低減ΔTを推定する。ステップS8でこの値を使用して、目標流れ温度Tflow,supplyは、流れ温度低減ΔTを差し引くことによって調整される、つまり、Tflow,supply:=Tflow,supply-ΔTである。ステップS9において、目標流れ温度が次いで更新され、ヒートポンプの制御に使用することができる。
【0070】
ステップS7において、温度調整値は、流体の質量流量m[kg/秒]で除算された日射獲得熱量Qsolarと、グリコール水などの流体の比熱容量Cp[J/(kg-K)]とに基づいて計算される。
【0071】
ステップS8において、ヒートポンプによって建物に供給される新しい流れ温度がΔTだけ低減される。
【0072】
図5は、本開示のさらなる実施形態による、ヒートポンプを動作させる方法の制御図を示す。
図5は
図3に対応するが、
図3での目標流れ温度が調整されるブロック8はないが、代わりに取得した日射量に基づいて室内温度設定点が調整される追加のブロック9を有する。ブロック1~7に関しては、
図3を参照されたい。
【0073】
設定温度が制御に入力され、次いでこの設定温度は、ローパスフィルタ6に入力される前にブロック9において調整される。
【0074】
ブロック9において実行されるアルゴリズムを
図6に示す。再び、ステップS1、S2、およびS4において、ヒートポンプによって加熱される部屋内の室内温度が測定され、周囲温度、例えば室外温度、が測定され、日射フラックスφが取得される。ステップS1、S2、S4は、任意の順序で実行することができ、また同時に実行することもできる。重ねて、日射量φ[W/m
2]は、例えば、設置されたセンサによってまたはウェブベースのデータによって取得することができる。
【0075】
ステップS5において、次に、日射量が十分に著しいかどうかを判断するために、取得された日射フラックスφが、閾値φthreshold、例えばφthreshold=50W/m2と比較される。
【0076】
もしそうである場合、ステップ6において日射獲得熱量Qsolarが、Qsolar=αφとして推定される。この実施形態では、また他の実施形態もそうであるように、αは、例えばTAIThermシミュレーション結果から導出することができる。
【0077】
推定された日射獲得熱量Qsolarは、次にステップS10において使用されて、室内温度低減ΔTをΔT=Qsolar/Mとして推定し、ここで、M[W/K]は、例えばSAPまたは他の標準による建物の熱容量である。
【0078】
この温度低減ΔTを使用して、室内温度設定点T
indoor,spは、次いで、T
indoor,sp:=T
indoor,sp-ΔTとして減らされる。ブロック6から開始して、
図5に示すように、ヒートポンプのさらなる制御に使用されるように、次に補正値がステップS9で更新される。
【0079】
ヒートポンプが室内空間を加熱する場合、ならびにヒートポンプまたはエアコンが室内空間を冷却する場合、日射により室内空間に追加の熱が追加されるため、これらの温度の調整は、通常、これらの温度を低減したものになる。
【0080】
先行技術のコントローラにおいては、室内温度のみを測定するために、先行技術によるヒートポンプコントローラが、かなりの量の日射獲得熱量があることを認識するのに長い時間がかかるのに対し、本開示による日射獲得熱量の利用はエネルギーの節約を可能にする。日射獲得熱量は、居住空間に到達するときに、熱容量に主に保存される。
【0081】
本開示は、過熱を回避することができる。過熱は、通常、フィードバック制御の限界および家に対する日射獲得熱量の性質のために、従来の暖房システムで問題となる。本開示は、過熱を最小限に抑えることができる。
【0082】
本開示で使用されるようなヒートポンプは、例えば、空気-水(A2W)ヒートポンプまたは地中熱源ヒートポンプ(GSHP(ground source heat pump))あるいは冷媒回路を組み込んだ任意のヒートポンプであることができる。